(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161625
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの栽培用培地、培地添加剤及び栄養強化方法
(51)【国際特許分類】
A01G 18/20 20180101AFI20241112BHJP
【FI】
A01G18/20
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151140
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2023570275の分割
【原出願日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2022126254
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】504402485
【氏名又は名称】ながの農業協同組合
(71)【出願人】
【識別番号】518071501
【氏名又は名称】株式会社キュープ
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】老川 典夫
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 清志
(72)【発明者】
【氏名】大熊 啓資
(57)【要約】
【課題】機能性があるアミノ酸の含有量が増加されたシメジ科食用キノコ又はタマバリタケ科食用キノコを提供する。
【解決手段】栄養源としてD-アラニンを含有する、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地に種菌を接種することで栽培されて、機能性アミノ酸の含有量が増加されかつ呈味が向上された栄養強化食用キノコであって、前記食用キノコは、シメジ科又はタマバリタケ科であり、前記機能性アミノ酸は、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-アラニン、L-リシン及びL-メチオニンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする栄養強化食用キノコ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養源としてD-アラニンを含有する、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地に種菌を接種することで栽培されて、機能性アミノ酸の含有量が増加されかつ呈味が向上された栄養強化食用キノコであって、
前記食用キノコは、シメジ科又はタマバリタケ科であり、
前記機能性アミノ酸は、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-アラニン、L-リシン及びL-メチオニンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、栄養強化食用キノコ。
【請求項2】
前記シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地がD-アラニンを10~50mM含有する、請求項1に記載の栄養強化食用キノコ。
【請求項3】
前記シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地がD-アラニンとL-アラニンとを等量含むDL―アラニンを含む、請求項1に記載の栄養強化食用キノコ。
【請求項4】
D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べてL-アルギニン、L-オルニチン、L-グルタミン、L-アラニン、L-リシン、又はL-メチオニンの含有量が1.2倍以上に増加された食用キノコであって、
食用キノコの種類がシメジ科食用キノコである、請求項1に記載の栄養強化食用キノコ。
【請求項5】
D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べてL-オルニチン又はL-リシンの含有量が1.2倍以上に増加された食用キノコであって、
食用キノコの種類がタマバリタケ科食用キノコである、請求項1に記載の栄養強化食用キノコ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの栽培用培地、培地添加剤及び栄養強化方法に関する。また、本発明は、機能性のあるアミノ酸の含有量が増加された栄養強化食用キノコに関する。
【背景技術】
【0002】
ブナシメジ、ホンシメジ等のシメジ科食用キノコ、エノキタケ等のタマバリタケ科食用キノコは、和、洋、中を問わず、様々な幅広い料理に使用できることから、使い勝手がよく、人気の食材である。また、近年の研究から、抗菌、抗ウイルス、コレステロール低下、血糖降下、血圧降下、抗血栓、リンパ球幼若化抑制、抗腫瘍等の様々な生理活性機能があることが報告されており、健康的な食材としての人気も高まっている。
【0003】
前記食用キノコは、水分、タンパク質、繊維質、無機質、ビタミン類等の主要成分、並びにアミノ酸、核酸、有機酸、糖、β-グルカン等の微量成分を含み、これらの成分がキノコの効能、味等に大きな影響を与えている。
【0004】
中でも、アミノ酸は有用な機能性を有することが明らかになっており、多数のアミノ酸を含有する食用キノコは、優れた機能性を有する食材とされている。
【0005】
さらに、機能性成分であるアミノ酸の含有量を増大させた食用キノコを栽培する方法についても報告されている。例えば、酵母細胞(特許文献1)、乾燥麦焼酎粕(特許文献2)を培地に用いることにより食用キノコ中のオルニチン等のアミノ酸成分の含有量を増加させる方法が知られている。
【0006】
ここで、アミノ酸の呈味については、グリシン、L-アラニン、L-トレオニン、L-プロリン、L-セリンは甘味、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-アルギニン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-メチオニン、L-リジンは苦味、L-グルタミンは旨味、L-グルタミン酸とL-アスパラギン酸は旨味と酸味を主に呈することが知られている。
そのため、キノコ中のL-アルギニンやL-オルニチン等の苦味を有するアミノ酸の含有量が増大した場合、そのキノコの呈味に影響が出る可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-008263号公報
【特許文献2】特開2014-100112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、機能性があるアミノ酸の含有量が大きいシメジ科食用キノコ又はタマバリタケ科食用キノコを効率よく栽培するための培地及び前記培地添加剤を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、シメジ科食用キノコ又はタマバリタケ科食用キノコにおいて、機能性があるアミノ酸の含有量を増大させる、食用キノコの栄養強化方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、機能性があるアミノ酸の含有量が増加されたシメジ科食用キノコ又はタマバリタケ科食用キノコを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、機能性と呈味とを共に向上させた有用な食用キノコを開発すべく鋭意検討した結果、D-アラニンを培地に添加することにより、前記培地で栽培したシメジ科食用キノコ中のL-アルギニン、L-オルニチン等の機能性がありかつ苦味を有するアミノ酸の含有量が有意に増大すると共に、甘味を呈するL-グルタミンの含有量が増大することで、食用キノコの呈味が向上すること、また、前記培地で栽培したタマバリタケ科食用キノコ中のL-オルニチン、L-リシン等の機能性があるアミノ酸の含有量が有意に増大することを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は、
[1]栄養源としてD-アラニンを含有する、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地、
[2]さらにL-アラニンを含有する、前記[1]に記載の培地、
[3]D-アラニンを含有する、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地添加剤、
[4]さらにL-アラニンを含有する、前記[3]に記載の培地添加剤、
[5]前記[1]又は[2]に記載の培地に、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの種菌を接種する工程を有する、食用キノコの栽培方法、
[6]前記[3]又は[4]に記載の培地添加剤を、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの菌体又は該菌体が生育している培地に接触させることを特徴とする、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの栽培方法、
[7]D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べてL-アルギニン、L-オルニチン又はL-グルタミンの含有量が1.2倍以上に強化された食用キノコであって、
食用キノコの種類がシメジ科食用キノコである、栄養強化食用キノコ、
[8]D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べてL-オルニチン又はL-リシンの含有量が1.2倍以上に強化された食用キノコであって、
食用キノコの種類がタマバリタケ科食用キノコである、栄養強化食用キノコ
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の培地、培地添加剤又は栽培方法を用いて栽培されるシメジ科又はタマバリタケ科食用キノコは、L-アルギニン、L-オルニチン等の機能性を有するアミノ酸の含有量が有意に増大することで、従来品に比べて、機能性に優れる点で、新規な食用キノコとして有用な食材となる。
さらに、シメジ科食用キノコは、L-グルタミンの含有量も増大することで、呈味が向上したものであるため、従来品に比べて、機能性に優れることに加えて、美味しく食べやすい点で、新規な食用キノコとして有用な食材となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[食用キノコ栽培用培地]
本発明に係る食用キノコ栽培用培地(以下、本発明の培地ともいう)は、栄養源としてD-アラニンを含有する、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコ栽培用の培地である。
【0013】
本発明において、シメジ科食用キノコとしては、ホンシメジ、ブナシメジ、ハタケシメジ等が挙げられる。
本発明において、タマバリタケ科食用キノコとしては、エノキタケ等が挙げられる。
【0014】
本発明の培地としては、菌床栽培等に用いられる人工培地が挙げられ、木質基材、栄養源及び水を含有する。
【0015】
前記木質基材としては、例えば、チップ、チップダスト、オガクズ、コーンコブ、コットンハル、ビート、バーク堆肥等が挙げられる。これらの木質基材は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
前記栄養源とは、食用キノコを生育させるのに必要とされる成分であり、このような栄養源としては、例えば、米糠、フスマ、トウモロコシ糠、オカラ、小麦粉、大豆粕、豆皮、牛糞堆肥、コーヒー滓等の不溶性栄養源、これらの不溶性栄養源の水抽出物、馬鈴薯煎汁・ブドウ糖寒天培地(PDA)、麦芽エキス・ブドウ糖寒天培地(MA)、無機塩類、ミネラル等の可溶性栄養源等が挙げられる。これらの栄養源は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本発明の培地中における前記木質基材及び前記栄養源等の含有量については、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの栽培が可能であればよく、特に限定はない。
【0017】
本発明の培地は、栄養源としてD-アラニンを含有することを特徴とする。
D-アラニンとは、L-アラニンの鏡像異性体として知られるアミノ酸の一種である。シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの菌体を成分分析すると、遊離アミノ酸としてL-アラニンは検出されるのに対して、D-アラニンは検出されない。このことから、D-アラニンは、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコにおける構成成分ではないと考えられる。
これに対して、本発明者らは、前記のように、食用キノコの構成成分ではないD-アラニンを栄養源としてシメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの培地に添加して食用キノコを栽培すると、食用キノコ中において機能性があるアミノ酸(例えば、シメジ科食用キノコであればL-アルギニン、L-オルニチン又はL-グルタミン、タマバリタケ科食用キノコであればL-オルニチン又はL-リシン。以下、機能性アミノ酸ともいう。)等の含有量が増大するという現象を初めて見出した。
【0018】
上記のような現象が生じる理由について、詳細は不明ではあるが、生育中のシメジ科食用キノコがD-アラニンを吸収した場合、前記キノコ内のアミノ酸の合成機構に作用し、D-アラニンを添加しない場合に比べて、L-アルギニン、L-オルニチン又はL-グルタミンの含有量を増大・蓄積させる効果があると考えられる。
例えば、後述の実施例1に記載のように、培地にL-アラニンを単独で添加した場合とD-アラニンとL-アラニンとを同時に添加した場合を比較すると、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-アラニン、L-リシン、L-メチオニンのいずれのアミノ酸についても子実体中の含有量の対象試験区(D-アラニン、L-アラニンを含有せず)に対する増加の比率は、培地にD-アラニンとL-アラニンを同時に添加した場合の方が高く、D-アラニンはL-アラニンにはない添加効果を示し、特に、子実体中のL-オルニチンとL-メチオニンの含有量の増加の割合は、L-アラニンを単独で添加した場合と比較してD-アラニンとL-アラニンを同時に添加した場合は、それぞれ有意に高くなる。
また、後述の実施例3の結果より、タマバリタケ科食用キノコがD-アラニンを吸収した場合、前記キノコ内のアミノ酸の合成機構に作用し、D-アラニンを添加しない場合に比べて、L-オルニチン又はL-リシンの含有量を増大・蓄積させる効果があると考えられる。
【0019】
本発明の培地中におけるD-アラニンの含有量としては、食用キノコ中の機能性アミノ酸の含有量を増大させる効果(以下、本発明の効果ともいう)を奏する観点から、10~50mMが好ましく、12~45mMがより好ましい。
【0020】
前記D-アラニンとしては、化学品、精製品等を用いてもよいし、D-アラニンを含有している天然素材等を用いてもよい。
【0021】
また、本発明の培地では、D-アラニン及びL-アラニンも含有していてもよい。
L-アラニンとしては、化学品、精製品等を用いてもよいし、L-アラニンを含有している天然素材等を用いてもよい。
【0022】
本発明の培地中におけるL-アラニンの含有量としては、本発明の効果を奏する観点から、10~50mMが好ましく、12~45mMがより好ましい。
【0023】
また、DL-アラニンは、D-アラニンとL-アラニンとを等量含有する化学品であり、食品添加物のアミノ酸の一種として使用されており、安全性及び経済性に優れる観点から、好ましい。
本発明に係る培地中におけるDL-アラニンの含有量としては、本発明の効果を奏する観点から、20~100mMが好ましく、24~90mMがより好ましい。
【0024】
本発明の培地は、例えば、前記木質基材、前記栄養源、水、D-アラニン、必要であればL-アラニンをミキサーに投入撹拌して均一な状態にした後、その適当量をビン、袋、箱等の菌床栽培に使用される容器に充填し、殺菌処理した後、放冷させることで調製することができる。
前記木質基材、前記栄養源、水、D-アラニン、L-アラニン等の混合の順番については、特に限定はない。
また、前記可溶性栄養源、D-アラニン、L-アラニンについては、予め水に溶解させたものを用いてもよい。
【0025】
本発明の培地中の水分量については、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの従来の菌床と同様になるように調整すればよく、特に限定はない。
【0026】
本発明の培地は、雑菌の繁殖を抑えるために殺菌処理される。この殺菌処理方法としては、従来の菌床栽培方法で行う蒸気殺菌方法であればよい。
【0027】
殺菌処理後の本発明の培地は、従来の菌床と同じ方法で、接種まで保管しておけばよい。
【0028】
[食用キノコ栽培用の培地添加剤]
本発明に係る食用キノコ栽培用の培地添加剤(以下、本発明の培地添加剤)はD-アラニンを含有することを特徴とする。
【0029】
本発明の培地添加剤は、添加目的の培地が原木である場合は、例えば液状の添加剤に原木を浸漬させる、原木に添加剤を掛ける又は噴霧することにより、添加することができる。また、添加目的の培地が人工培地である場合は、例えば、培地成分を混合する際に添加剤を加える、調製後の培地に添加剤を掛ける又は噴霧することにより、添加することができる。
【0030】
本発明の培地添加剤は、そのまま使用してもよいし、水又は他の培地添加剤と共に、肥料として希釈して用いることもできる。
【0031】
本発明の培地添加剤中の、D-アラニンの含有量は、培地に添加した場合に、D-アラニンの含有量を調整できるものであればよく、特に限定はない。例えば、前記含有量は、100重量%であってもよいし、100重量%未満でもよい。
【0032】
前記D-アラニンとしては、化学品、精製品等を用いてもよいし、D-アラニンを含有している天然素材等を用いてもよい。
【0033】
本発明の培地添加剤では、D-アラニンに加えて、L-アラニンを含有してもよい。
L-アラニンとしては、化学品、精製品等を用いてもよいし、L-アラニンを含有している天然素材等を用いてもよい。
【0034】
本発明の培地添加剤中におけるL-アラニンの含有量(固形分)としては、特に限定はないが、本発明の効果を奏する観点から、例えば、DL-アラニンのように、D-アラニンと等量になるように調整されていてもよい。
【0035】
また、本発明の培地添加剤は、他の栄養源及び水を含有してもよい。
前記栄養源の種類及び含有量については、特に限定はない。
水については、D-アラニン、L-アラニン及び栄養成分の残部であればよく、特に限定はない。
【0036】
[食用キノコの栽培方法]
(1)本発明に係る食用キノコの栽培方法(本発明の第1の栽培方法)としては、前記の本発明の培地にシメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの種菌を接種する工程を有する人工栽培方法が挙げられる。
【0037】
本発明の培地に種菌を接種する方法としては、従来公知の接種方法であればよく、例えば、無菌室で培地表面又は接種孔に対して行う方法、種菌を培地に混ぜ込み塗りつける方法等が挙げられる。
【0038】
前記人工栽培方法としては、本発明の培地の形態に応じて、ビン栽培、袋栽培、箱栽培等の菌床栽培方法が挙げられる。前記菌床栽培方法の条件は、従来の菌床栽培と同様であればよい。例えば、培養温度としては、18~27℃の範囲になるように調整すればよい。
【0039】
前記種菌の接種後は、菌床に菌糸体が蔓延する環境を整える育成を行う。
前記育成では、菌糸体の成長に光は不要であるが、呼吸により発生する二酸化炭素の濃度が高くなると生育不良を起こすので換気を行う。時間の経過と共に菌床中の水分量が減少する場合には、注水、散水、加湿等をしてもよい。
培養日数については、食用キノコの状態を見て決定すればよいが、菌種により30~120日程度で調整すればよい。
【0040】
前記育成後には、子実体の発生条件に適合するように温湿度と光量を変え子実体の発生を促す子実体発生(芽出しともいう)を行う。前記子実体発生では、必要に応じて、菌かき、袋カット、側転、上下反転、注水、覆土等の作業を行えばよい。
【0041】
前記子実体発生後に、収穫を行う。
人工栽培の場合は、一度に全ての子実体を収穫するが、袋や平箱を用いる場合、出荷に適した大きさになった物から順次収穫をすればよい。収穫期間は子実体の発生開始から15~100日程度に行えばよい。
【0042】
(2)本発明の第2の栽培方法としては、本発明に係る培地添加剤を、シメジ科又はタマバリタケ科食用キノコの菌体又は該菌体が生育している培地に接触させることを特徴とする。
【0043】
前記接触方法について、培地が原木である場合は、例えば液状の本発明の培地添加剤に原木を浸漬させる、原木に本発明の培地添加剤を掛ける又は噴霧することにより、接触させることができる。培地が人工培地である場合は、例えば培地成分を混合する際に本発明の培地添加剤を加える、調製後の培地に本発明の培地添加剤を掛ける又は噴霧することにより、接触させることができる。
【0044】
培地に本発明の培地添加剤を接触させる回数は、1回でもよいが、本発明の効果を奏し易い観点から、2回以上が好ましい。
例えば、原木栽培の場合、原木に液状の本発明の培地添加剤を浸漬させた後、食用キノコの種菌を植菌し、その収穫までの間に、前記原木又は生育中の食用キノコに本発明の培地添加剤を1回以上、掛けたり、噴霧したりしてもよい。
また、人工培地の場合、培地に本発明の培地添加剤を含有させた後、食用キノコの種菌を植菌し、その収穫までの間に、前記培地又は生育中の食用キノコに本発明の培地添加剤を1回以上、掛けたり、噴霧したりしてもよい。
【0045】
前記原木栽培又は前記人工培地栽培の方法については、本発明の培地添加剤を用いる以外は、食用キノコの種類に応じた従来公知の方法であればよい。
例えば、原木栽培であれば、食用キノコに適した原木に穴をあけ、種菌を接種し、森林等の自然環境で食用キノコを発生させる工程が挙げられる。
人工培地栽培として、ブナシメジの菌床培養であれば、培地の製造、培養器への充填、殺菌、種菌の接種、培養、熟成、菌掻き、芽出し、生育、収穫等の工程が挙げられる。
【0046】
[栄養強化食用キノコ]
前記の本発明の第1又は第2の培養方法で得られるシメジ科の食用キノコは、D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べて、機能性アミノ酸であるL-アルギニン、L-オルニチン又はL-グルタミンの含有量が1.2倍以上に栄養強化されたシメジ科の食用キノコとなる(以下、本発明の食用キノコ1)。
【0047】
L-アルギニンは、強い苦味を呈するアミノ酸であり、成長ホルモン分泌促進作用、筋肉増強作用、血流改善作用、免疫力向上作用等を有する機能性成分であることが知られている。
L-オルニチンは、弱い苦味を呈するアミノ酸であり、成長ホルモン分泌促進作用、筋肉増強作用、傷ついた腸管の回復促進作用、肝臓でのアンモニア代謝促進作用、免疫力向上作用等を有する機能性成分であることが知られている。
L-グルタミンは、旨味を呈するアミノ酸であり、トレーニング後の筋肉疲労の回復作用、免疫力向上作用、胃腸粘膜の保護作用等を有する機能性成分であることが知られている。
【0048】
また、本発明の食用キノコ1では、L-アラニン、L-リシン、L-メチオニン等のアミノ酸の含有量は、D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べて1.2倍以上に増大する。
【0049】
前記L-アラニンは、甘味と旨味を呈するアミノ酸であり、肝機能の保護作用、アルコール分解作用等を有する機能性成分であることが知られている。
前記L-リシン(リジン)は、苦味を呈するアミノ酸であり、疲労回復作用、集中力を高める作用等を有する機能性成分であることが知られている。
前記L-メチオニンは、苦味を呈するアミノ酸であり、コレステロールを減らす作用、肝機能改善作用、免疫増強作用等を有する機能性成分であることが知られている。
【0050】
また、本発明の食用キノコ1は、D-アラニンを含有しない培地で栽培されている食用キノコに比べて旨味の好ましさ、ブナシメジ特有の苦みが少ない点で優れた呈味を奏していることから、本発明の食用キノコは、例えば、焼く、煮る、炊く等、種々の調理をした場合に美味しく食べやすいものである。
【0051】
また、前記の本発明の第1又は第2の培養方法で得られるタマバリタケ科食用キノコは、D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べて、機能性アミノ酸であるL-オルニチン又はL-リシンの含有量が1.2倍以上に栄養強化されたタマバリタケ科食用キノコとなる(以下、本発明の食用キノコ2)。
【0052】
また、本発明の食用キノコ2では、L-オルニチン又はL-リシン等のアミノ酸の含有量は、D-アラニンを含有しない培地で栽培された食用キノコに比べて1.2倍以上に増大する。
【0053】
また、本発明の食用キノコ2は、通常のエノキタケと同様に、焼く、煮る、炊く等、種々の調理をすることで美味しく食べることができる。
【0054】
本発明の食用キノコ1又は2中のアミノ酸の含有量は、子実体を採取して、すり潰した抽出液をサンプルとして用い、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【実施例0055】
(実施例1:ブナシメジの栽培)
食用キノコとして、ブナシメジを使用した。
培地は、以下のように作成した人工培地を使用した。
栽培ビン(PPビン)約850cc当たり、生重でオガクズ約230g、米糠約50g、フスマ約20g、豆皮約20g、DL-アラニンをミキサーに投入し、20分間、次いで水を添加して20分間混錬した後、ビンに詰め込んだ。培地の水分は65%で、ビンに詰め込んだ培地重量は580~600gであった。
DL-アラニンの含有量は、0mM、50mM(約0.29重量%)、75mM(0.43重量%)となるように調整した。
【0056】
培地を詰めたビンは、殺菌窯に入れて、98℃で7時間以上、蒸気殺菌処理した後、15℃付近まで冷却してから種菌を接種し(ビン1本あたり、種菌40本)、恒温室内で20~21℃、湿度60~70%で80~90日間培養した。なお、炭酸ガス濃度1,500~2,000ppm付近となるように換気した。
次いで、菌掻きを行い、14~15℃で芽出し育成をし、次いで、11~13日程度光照射下でキノコ形状の仕上げを行った。
【0057】
収穫した子実体を高速液体クロマトグラフィーに供して、100g中のアミノ酸含有量を調べた。結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
表1に示す結果より、ブナシメジ中において比較的多量に含有されているL-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチンは、DL-アラニンの含有量が50mM、75mMの培地で栽培することで、DL-アラニンの含有量が0mMの培地で栽培した場合に比べて、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチンの含有量がいずれも1.2倍以上になった。
また、ブナシメジ中のL-アラニン、L-リシン、L-メチオニンの含有量についても、DL-アラニンの含有量が50mM、75mMの培地で栽培することで、DL-アラニンの含有量が0mMの培地で栽培した場合に比べて、1.2倍以上になった。
【0060】
例えば、市販の食用キノコ類100gあたりのL-オルニチンの含有量については、エリンギ30mg、マイタケ17mg、ブナシメジ「ブナビー」100mg、「霜降りひらたけ」50mg、シイタケ「生どんこ」106mg(参考例 シジミ20mg)となっている(ホクト株式会社 きのこ総合研究所)。これに対して、50mM、75mMの培地で栽培されたブナシメジ中の100gあたりのL-オルニチンの含有量は、それぞれ151.2mg、158.3mgであることから、本実施例1でD-アラニンを含有する培地で栽培されたブナシメジは、市販の食用キノコ類に比べて、L-オルニチンの含有量が顕著に増大されたものである。
したがって、本実施例1でD-アラニンを含有する培地で栽培されたブナシメジは、L-アルギニン、L-オルニチン等の機能性を有するアミノ酸の含有量が大きくなっていることから栄養が強化された食用キノコであることがわかる。
【0061】
(実施例2:呈味試験)
実施例1で栽培された3種類のブナシメジを、電子レンジで一分間加熱等の調理をして食べたところ、DL-アラニンの含有量が50mM、75mMの培地で栽培して得られたブナシメジは、旨味の好ましさ、ブナシメジ特有の苦みが少ない点で優れた呈味を奏していることがわかった。
なお、呈味は、ブナシメジに親しみが少ない20~21歳の男女21人のパネラーの総合評価により確認した。
したがって、実施例1でDL-アラニンを含有する培地で栽培されたブナシメジは、D-アラニンを含有しない培地で栽培されたブナシメジと比べて優れた呈味を有する食用キノコであることがわかる。
【0062】
(比較例1:L-アラニンの添加効果)
DL-アラニンのかわりにL-アラニンを用いた以外は実施例1と同様にしてブナシメジを栽培した後、そのブナシメジ中のアミノ酸含有量を測定した。
得られた結果を、実施例1の0mM、50mMのDL-アラニンでの結果とともに、表2に示す。
【0063】
【0064】
表2の結果より、培地に25mMのL-アラニンを単独で添加した場合と25mMのD-アラニンと25mMのL-アラニンを同時に添加した場合を比較すると、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-アラニン、L-リシン、L-メチオニンのいずれのアミノ酸についても子実体中の含有量の対象試験区(0mM)に対する増加の比率は、培地にD-アラニンとL-アラニンを同時に添加した場合の方が高く、D-アラニンはL-アラニンにはない添加効果を示すことがわかる。特に、子実体中のL-オルニチンとL-メチオニンの含有量の増加の割合は、25mMのL-アラニンを単独で添加した場合と比較して25mMのD-アラニンと25mMのL-アラニンを同時に添加した場合は、それぞれ67%、63%高くなる。
【0065】
(実施例3:エノキタケの栽培)
食用キノコとして、エノキタケを使用した。
培地は、コーンコブを主体とする培地(水分:約68%、pH5.8~6.3)を使用した。
前記培地としては、DL-アラニンを添加したものと添加しないものを用意し、添加した培地はDL-アラニンの含有量を85mM(約0.49重量%)となるように調整した。
【0066】
前記培地を詰めたビンは、殺菌窯に入れて、98℃で6時間以上、蒸気殺菌処理した後、15℃付近まで冷却してから種菌を接種し、恒温室内でビン間18℃、湿度70~75%で培養した。なお、炭酸ガス濃度3,000ppm以下となるように換気した。
次いで、菌掻きを行い、15℃前後で芽出し育成をし、次いで、5~9℃、湿度80~90℃の範囲で生育を行い、傘、丈揃いを良くしてエノキタケを栽培した。
【0067】
収穫した子実体を高速液体クロマトグラフィーに供して、100g中のアミノ酸含有量を調べた。結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
表3に示す結果より、エノキタケをDL-アラニンの含有量が85mMの培地で栽培することで、0mMの培地で栽培した場合に比べて、エノキタケ中のL-オルニチン、L-リシンの含有量がいずれも1.2倍以上になった。
また、DL-アラニンの含有量が85mMの培地で栽培したエノキタケ中には、0mMの培地で栽培したエノキタケと同様に、L-アルギニン、L-グルタミン酸、L-アラニン、L-メチオニン等の機能性アミノ酸も含まれていた。
したがって、本実施例3でD-アラニンを含有する培地で栽培されたエノキタケは、L-オルニチン、L-リシン等の機能性を有するアミノ酸の含有量が大きくなっていることから栄養が強化された食用キノコであることがわかる。