(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161631
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】電気化学式水素ポンプ
(51)【国際特許分類】
C25B 1/02 20060101AFI20241113BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241113BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241113BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20241113BHJP
H01M 8/04 20160101ALN20241113BHJP
H01M 8/0606 20160101ALN20241113BHJP
【FI】
C25B1/02
C25B9/00 Z
C25B9/23
C25B11/032
H01M8/04 N
H01M8/0606
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145331
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中植 貴之
(72)【発明者】
【氏名】可児 幸宗
(72)【発明者】
【氏名】酒井 修
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K011AA23
4K011AA30
4K011BA07
4K011DA11
4K021AA01
4K021CA13
4K021DB04
4K021DB16
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
5H127BA02
5H127BA57
5H127EE18
(57)【要約】
【課題】アノードおよびカソード間の差圧に起因して生じる問題を従来よりも軽減し得る電気化学式水素ポンプを提供する。
【解決手段】電気化学式水素ポンプは、電解質膜、電解質膜の一方の主面上に設けられたアノードと、電解質膜の他方の主面上に設けられたカソードと、アノード上に設けられたアノードセパレーターと、カソード上に設けられたカソードセパレーターと、アノードとカソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、電圧印加器によって上記電圧を印加することで、アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮水素を生成する装置である。アノードは、アノード触媒層と、アノードガス拡散層を含み、アノードガス拡散層は、アノードセパレーター側の主面の表面粗さが、アノード触媒層側の主面の表面粗さより大きい。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜、
前記電解質膜の一方の主面上に設けられたアノードと、
前記電解質膜の他方の主面上に設けられたカソードと、
前記アノード上に設けられたアノードセパレーターと、
前記カソード上に設けられたカソードセパレーターと、
前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、
前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮水素を生成する電気化学式水素ポンプであって、
前記アノードは、アノード触媒層と、アノードガス拡散層を含み、
前記アノードガス拡散層は、前記アノードセパレーター側の主面の表面粗さが、前記アノード触媒層側の主面の表面粗さより大きい電気化学式水素ポンプ。
【請求項2】
前記アノードガス拡散層は、金属多孔体シートを含む請求項1に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項3】
前記金属多孔体シートは、金属粒子焼結体シートである請求項2に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項4】
前記アノードガス拡散層は、前記アノード触媒層側の主面の表面粗さRaが4.5μm以下、または、前記アノード触媒層側の主面の表面粗さRzが20μm以下である請求項1-3のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項5】
前記アノードガス拡散層は、前記アノードセパレーター側の主面の表面粗さRaが6μm以上、または、前記アノードセパレーター側の主面の表面粗さRzが25μm以上である請求項1-4のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電気化学式水素ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、化石燃料に代わるクリーンな代替エネルギー源として、水素が注目されている。水素は燃焼しても基本的に水しか生成せず、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されずかつ窒素酸化物などもほとんど排出されないので、クリーンエネルギーとして期待されている。また、水素を燃料として高効率に利用する装置として、例えば、燃料電池があり、自動車用電源向け、家庭用自家発電向けに開発および普及が進んでいる。
【0003】
来るべき水素社会では、水素を製造することに加えて、水素を高密度で貯蔵し、小容量かつ低コストで輸送または利用することが可能な技術開発が求められている。特に、分散型のエネルギー源となる燃料電池の普及促進には、水素供給インフラを整備する必要がある。また、水素を安定的に供給するために、高純度の水素を製造、精製、高密度貯蔵する様々な検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アノードガス拡散層が金属多孔体シートで構成された電気化学式水素ポンプが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、多孔質金属フロー構造がチタン粉末焼結体で構成された電気化学セルが記載されている。そして、このチタン粉末焼結体について、研磨加工またはエッチング加工により主面の表面粗さを低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-157190号公報
【特許文献2】特許第6608277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の一態様(aspect)は、一例として、アノードおよびカソード間の差圧に起因して生じる問題を従来よりも軽減し得る電気化学式水素ポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の一態様の電気化学式水素ポンプは、電解質膜、前記電解質膜の一方の主面上に設けられたアノードと、前記電解質膜の他方の主面上に設けられたカソードと、前記アノード上に設けられたアノードセパレーターと、前記カソード上に設けられたカソードセパレーターと、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮水素を生成する電気化学式水素ポンプであって、前記アノードは、アノード触媒層と、アノードガス拡散層を含み、前記アノードガス拡散層は、前記アノードセパレーター側の主面の表面粗さが、前記アノード触媒層側の主面の表面粗さより大きい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様の電気化学式水素ポンプは、アノードおよびカソード間の差圧に起因して生じる問題を従来よりも軽減し得る、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、アノードガス拡散層の主面の表面粗さと撥水性との関係を検証するための実験結果の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電気化学式水素ポンプでは、電気化学式水素ポンプのカソードに存在する水が、カソードおよびアノード間の差圧によって電解質膜を介してアノードに浸透する。すると、このような電気化学式水素ポンプは、アノードでフラッディングが発生することで、水素圧縮動作の効率が低下する可能性がある。
【0012】
また、電気化学式水素ポンプでは、カソードおよびアノード間の差圧によって電解質膜がアノード触媒層を介してアノードガス拡散層に押し付けられたとき、アノードガス拡散層の主面の凹凸による電解質膜の破膜が発生する可能性がある。
【0013】
そこで、本開示者らは、以上の問題に対して鋭意検討を行った結果、アノードガス拡散層の一対の主面の表面粗さを適切に設定することで、電気化学式水素ポンプのカソードおよびアノード間の差圧に起因して生じる問題を軽減し得ることを見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0014】
なお、特許文献2においては、上記のとおり、チタン粉末焼結体の研磨加工またはエッチング加工によって本焼結体の主面の表面粗さを低減することが提案されているが、これは、電気化学セルにおける構成部材間の接触抵抗低減のために行われる加工である。つまり、特許文献2では、アノードガス拡散層の一対の主面の表面粗さの大小関係については検討されていない。
【0015】
すなわち、本開示の第1態様の電気化学式水素ポンプは、電解質膜、電解質膜の一方の主面上に設けられたアノードと、電解質膜の他方の主面上に設けられたカソードと、アノード上に設けられたアノードセパレーターと、カソード上に設けられたカソードセパレーターと、アノードとカソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、電圧印加器が上記電圧を印加することで、アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、電解質膜を介してカソードに移動させ、圧縮水素を生成する電気化学式水素ポンプであって、アノードは、アノード触媒層と、アノードガス拡散層を含み、アノードガス拡散層は、アノードセパレーター側の主面の表面粗さが、アノード触媒層側の主面の表面粗さより大きい。
【0016】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードおよびカソード間の差圧に起因して生じる問題を従来よりも軽減し得る。
【0017】
具体的には、アノードセパレーター側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さをアノード触媒層側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さより大きくすることにより、両主面の表面粗さの大小関係が逆である場合に比べて、アノードセパレーター側のアノードガス拡散層の主面における撥水性が向上する。これにより、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードセパレーター側のアノードガス拡散層の主面の撥水作用によって、アノードに存在する水が、水素含有ガスとともに外部に排水されやすくなる。すると、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードでフラディングが発生することが抑制され、アノードのフラディングで水素含有ガスの拡散性が阻害される可能性を低減することができる。よって、本態様の電気化学式水素ポンプは、水素圧縮動作の効率低下を抑制することができる。
【0018】
また、アノード触媒層側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さをアノードセパレーター側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さより小さくすることにより、両主面の表面粗さの大小関係が逆である場合に比べて、アノード触媒層側のアノードガス拡散層の主面を平滑にすることができる。これにより、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードおよびカソード間の差圧によって電解質膜がアノード触媒層を介してアノードガス拡散層に押し付けられたとき、アノードガス拡散層の主面の凹凸による電解質膜の破膜を抑制することができる。
【0019】
このようにして、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードガス拡散層の両主面の表面粗さの大小関係を適切に設定することで、アノードにおけるフラディングの抑制と電解質膜の破膜の抑制とを適切に両立させることができる。
【0020】
本開示の第2態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様の電気化学式水素ポンプにおいて、アノードガス拡散層は、金属多孔体シートを含む部材であってもよい。
【0021】
本開示の第3態様の電気化学式水素ポンプは、第2態様の電気化学式水素ポンプにおいて、金属多孔体シートは、金属粒子焼結体シートであってもよい。
【0022】
本開示の第4態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様から第3態様のいずれか一つの電気化学式水素ポンプにおいて、アノードガス拡散層は、アノード触媒層側の主面の表面粗さRaが4.5μm以下、または、アノード触媒層側の主面の表面粗さRzが20μm以下であってもよい。
【0023】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプにおいて、アノード触媒層側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さRaが4.5μm以下、または、アノード触媒層側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さRzを20μm以下にすることで、本主面の表面粗さが以上の値を上回る場合に比べて、アノードガス拡散層は、アノード触媒層側の主面の凹凸を適切に小さくすることができる。
【0024】
本開示の第5態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様から第4態様のいずれか一つの電気化学式水素ポンプにおいて、アノードガス拡散層は、アノードセパレーター側の主面の表面粗さRaが6μm以上、または、アノードセパレーター側の主面の表面粗さRzが25μm以上であってもよい。
【0025】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプにおいて、アノードセパレーター側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さRaを6μm以上、または、アノードセパレーター側のアノードガス拡散層の主面の表面粗さRzを25μm以上にすることで、本主面の表面粗さが以上の値を下回る場合に比べて、アノードガス拡散層は、アノードセパレーター側の主面の撥水性を適切に向上させることができる。
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される形状、材料、構成要素、および、構成要素の配置位置および接続形態などは、あくまで一例であり、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、上記の各態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。
【0027】
(実施形態)
[装置構成]
図1Aおよび
図2Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図1Bは、
図1Aの電気化学式水素ポンプのB部の拡大図である。
図2Bは、
図2Aの電気化学式水素ポンプのB部の拡大図である。
【0028】
なお、
図1Aには、平面視において電気化学式水素ポンプ100の中心と、カソードガス導出マニホールド50の中心と、を通過する直線を含む電気化学式水素ポンプ100の垂直断面が示されている。また、
図2Aには、平面視において電気化学式水素ポンプ100の中心と、アノードガス導入マニホールド27の中心と、アノードガス導出マニホールド30の中心と、を通過する直線を含む電気化学式水素ポンプ100の垂直断面が示されている。
【0029】
図1Aおよび
図2Aに示す例では、電気化学式水素ポンプ100は、少なくとも一つの水素ポンプユニット100Aを備える。
【0030】
なお、電気化学式水素ポンプ100には、複数の水素ポンプユニット100Aが積層されている。例えば、
図1Aおよび
図2Aでは、3段の水素ポンプユニット100Aが積層されているが、水素ポンプユニット100Aの個数はこれに限定されない。つまり、水素ポンプユニット100Aの個数は、電気化学式水素ポンプ100が圧縮する水素量などの運転条件をもとに適宜の数に設定することができる。
【0031】
水素ポンプユニット100Aは、電解質膜11と、アノードANと、カソードCAと、カソードセパレーター16と、アノードセパレーター17と、絶縁体21と、を備える。そして、水素ポンプユニット100Aにおいて、電解質膜11、アノード触媒層13、カソード触媒層12、アノードガス拡散層15、カソードガス拡散層14、アノードセパレーター17およびカソードセパレーター16が積層されている。
【0032】
アノードANは、電解質膜11の一方の主面上に設けられている。アノードANは、アノード触媒層13と、アノードガス拡散層15とを含む電極である。なお、平面視において、アノード触媒層13の周囲を囲むように環状のシール部材43が設けられ、アノード触媒層13が、シール部材43で適切にシールされている。
【0033】
カソードCAは、電解質膜11の他方の主面上に設けられている。カソードCAは、カソード触媒層12と、カソードガス拡散層14とを含む電極である。なお、平面視において、カソード触媒層12の周囲を囲むように環状のシール部材42が設けられ、カソード触媒層12が、シール部材42で適切にシールされている。
【0034】
以上により、電解質膜11は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12のそれぞれと接触するようにして、アノードANとカソードCAとによって挟持されている。なお、カソードCA、電解質膜11およびアノードANの積層体を膜-電極接合体(以下、MEA:Membrane Electrode Assembly)という。
【0035】
電解質膜11は、プロトン伝導性を備える。電解質膜11は、プロトン伝導性を備えていれば、どのような構成であってもよい。例えば、電解質膜11として、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を挙げることができるが、電解質膜11はこれらに限定されない。具体的には、例えば、電解質膜11として、Nafion(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)などを用いることができる。電解質膜11は、厚みが薄くするほど、プロトン導電性および水素分子の透過性が向上する。しかし、電解質膜11の厚みが薄くすると、電解質膜11の機械強度は低下する。このため、電解質膜11の厚みは、例えば、7μm以上、100μm以下であってもよい。
【0036】
アノード触媒層13は、電解質膜11の一方の主面上に設けられている。具体的には、アノード触媒層13の主面と電解質膜の主面とが接触している。アノード触媒層13は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0037】
カソード触媒層12は、電解質膜11の他方の主面上に設けられている。具体的には、カソード触媒層12の主面と電解質膜11の主面とが接触している。カソード触媒層12は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0038】
カソード触媒層12およびアノード触媒層13の触媒担体は、例えば、カーボンブラック、黒鉛などのカーボン粒子、導電性の酸化物粒子などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0039】
なお、カソード触媒層12およびアノード触媒層13では、触媒金属の微粒子が、触媒担体に高分散に担持されている。また、これらのカソード触媒層12およびアノード触媒層13中には、電極反応場を大きくするために、プロトン伝導性のイオノマー成分を加えることが一般的である。
【0040】
カソードガス拡散層14は、カソード触媒層12上に設けられている。具体的には、カソードガス拡散層14の主面とカソード触媒層12の主面とが接触している。また、カソードガス拡散層14は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、カソードガス拡散層14は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形に適切に追従するような弾性を備える方が望ましい。
【0041】
カソードガス拡散層14は、カーボン繊維で構成されたカーボン多孔体シートであってもよい。例えば、カーボン多孔体シートは、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの多孔性のカーボン繊維シートでもよいが、これらに限定されない。
【0042】
アノードガス拡散層15は、アノード触媒層13上に設けられている。具体的には、アノードガス拡散層15の主面とアノード触媒層13の主面とが接触している。また、アノードガス拡散層15は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、アノードガス拡散層15は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形を抑制可能な高剛性であることが望ましい。
【0043】
アノードガス拡散層15は、多孔体シート15Sを備える部材である。多孔体シート15Sは、金属多孔体シートであってもよいし、カーボン多孔体シートであってもよい。金属多孔体シートとして、例えば、チタン粒子、ステンレス粒子などで構成される金属粒子焼結体シートを挙げることができる。カーボン多孔体シートとして、例えば、カーボン粒子焼結体シートを挙げることができる。なお、アノードガス拡散層15(多孔体シート15S)の厚みは、例えば、0.1mm以上、1mm以下であってもよい。
【0044】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100においては、アノードガス拡散層15は、アノードセパレーター17側の主面15Aの表面粗さが、アノード触媒層13側の主面15Bの表面粗さより大きい。
【0045】
ここで、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さをアノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さより大きくすることにより、両主面15A、15Bの表面粗さの大小関係が逆である場合に比べて、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aにおける撥水性が向上する。この理由は、以下のとおりである。
【0046】
一般的に、固体表面の撥水性は、固体表面上を静止した液体の表面が固体表面に接するところで液面と固体表面がなす角に相当する接触角の大きさによって定式化されている。固体表面が粗い場合における接触角θAと固体表面が平滑な場合における接触角θBとの関係は、一例として、下記Wenzelの式(1)で表される。
【0047】
cosθA=γ(γSG-γSL)/γLG=γcosθB・・・(1)
式(1)において、γSG、γLGおよびγSLはそれぞれ、固体-気体間、液体-気体間、固体-液体間のそれぞれの界面自由エネルギーを表している。このとき、式(1)のγは、ラフネスファクターといい、表面粗さが付与された固体表面の見かけの面積の割合を示し、「1」以上の値となる。つまり、以上のWenzelの式(1)に従う場合、固体の表面エネルギーが、表面粗さが大きい方の固体表面では見かけ上、γ倍になるとされており、表面粗さが大きい固体表面における固体-液体間の接触面積増大によって、表面粗さが小さい固体表面に比べて撥水性が強調されることがわかる。
【0048】
また、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さをアノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さより小さくすることにより、両主面15A、15Bの表面粗さの大小関係が逆である場合に比べて、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bを平滑にすることができる。
【0049】
なお、以上のアノードガス拡散層15を製造する方法、および、以上のアノードガス拡散層15の主面の表面粗さと撥水性との関係を検証した実験結果については実施例で説明する。
【0050】
さらに、アノードガス拡散層15は、アノード触媒層13およびアノードセパレーター17との間で所望の導電性を確保するために、多孔体シート15Sの少なくとも両主面に導電性コーティングが施されている。
【0051】
例えば、メッキまたはCVDコートなどを用いて、多孔体シート15Sの両主面が、高導電性のシート状のコーティング膜で覆われていてもよいし、多孔体シート15Sを構成する電極粒子の表面が、高導電性のコーティング膜で覆われていてもよい。
【0052】
このようなコーティング膜として、抵抗が小さい白金メッキ膜などを挙げることができるが、これに限定されない。例えば、コーティング膜の素材として、白金の他、金、ルテニウムなどの他の貴金属、ダイヤモンドライクカーボン、金属炭化物、金属窒化物などを用いることもできる。
【0053】
コーティング膜の厚みは、多孔体シート15Sの厚みの1/100以下に設定されていてもよい。このようなコーティング膜の厚みは、例えば、蛍光X線分析などで測定することができる。
【0054】
アノードセパレーター17は、アノードANのアノードガス拡散層15上に設けられている。カソードセパレーター16は、カソードCAのカソードガス拡散層14上に設けられている。そして、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17のそれぞれの中央部には、凹部が設けられている。これらの凹部のそれぞれに、カソードガス拡散層14およびアノードガス拡散層15がそれぞれ収容されている。
【0055】
このようにして、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17で上記のMEAを挟むことにより、水素ポンプユニット100Aが形成されている。
【0056】
図1Aおよび
図2Aに示すように、カソードガス拡散層14と接触するカソードセパレーター16の主面は、カソードガス流路を設けずに平面で構成されている。これにより、カソードセパレーター16の主面にカソードガス流路を設ける場合に比べて、カソードガス拡散層14とカソードセパレーター16との間で接触面積を大きくすることができる。すると、電気化学式水素ポンプ100は、カソードガス拡散層14とカソードセパレーター16との間の接触抵抗を低減することができる。
【0057】
これに対して、アノードガス拡散層15と接触するアノードセパレーター17の主面には、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含むサーペンタイン状のアノードガス流路33が設けられている。そして、アノードガス流路33の直線部分は、
図2Aの紙面に垂直な方向に延伸している。
【0058】
ただし、このようなアノードガス流路33は、例示であって、本例に限定されない。例えば、アノードガス流路は、複数の直線状の流路により構成されていてもよい。また、アノードガス流路は、必ずしも金属シートの表面に設けられた流路溝で構成する必要はない。例えば、アノードガス流路は、金属シートの厚み方向に貫通する複数の細孔によって構成されていてもよい。この金属シートは、アノードガス拡散層15を支持するためのパンチングメタルなどの支持板であってもよい。この場合、例えば、水素含有ガスが金属シートの中央部から金属シートの周囲端に向かって金属シートの面内を流れる間に、水素含有ガスの一部が、上記細孔を介してアノードガス拡散層15に供給される。
【0059】
また、導電性のカソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間には、MEAの周囲を囲むように設けられた環状かつ平板状の絶縁体21が挟み込まれている。これにより、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の短絡が防止されている。
【0060】
ここで、電気化学式水素ポンプ100は、水素ポンプユニット100Aにおける、積層方向の両端上に設けられた第1端板および第2端板と、水素ポンプユニット100A、第1端板および第2端板を積層方向に締結する締結器25と、を備える。
【0061】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aがそれぞれ、上記の第1端板および第2端板のそれぞれに対応する。つまり、アノード端板24Aは、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向において、一方の端に位置するアノードセパレーター17上に設けられた端板である。また、カソード端板24Cは、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向において、他方の端に位置するカソードセパレーター16上に設けられた端板である。
【0062】
締結器25は、水素ポンプユニット100A、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aを積層方向に締結することができれば、どのような構成であってもよい。
【0063】
例えば、締結器25として、ボルトおよび皿ばね付きナットなどを挙げることができる。
【0064】
このとき、締結器25のボルトは、アノード端板24Aおよびカソード端板24Cのみを貫通するように構成してもよいが、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、かかるボルトは、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材、カソード給電板22C、カソード絶縁板23C、アノード給電板22A、アノード絶縁板23A、アノード端板24Aおよびカソード端板24Cを貫通している。そして、上記の積層方向において他方の端に位置するカソードセパレーター16の端面、および、上記の積層方向において一方の端に位置するアノードセパレーター17の端面をそれぞれ、カソード給電板22Cとカソード絶縁板23Cおよびアノード給電板22Aとアノード絶縁板23Aのそれぞれを介して、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aのそれぞれで挟むようにして、締結器25により水素ポンプユニット100Aに所望の締結圧が付与されている。
【0065】
以上により、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、3段の水素ポンプユニット100Aが、上記の積層方向において、締結器25の締結圧により積層状態で適切に保持されるとともに、電気化学式水素ポンプ100の各部材を締結器25のボルトが貫通しているので、これらの各部材の面内方向における移動を適切に抑えることができる。
【0066】
ここで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス拡散層14が連通されている。以下、図面を参照しながら、カソードガス拡散層14のそれぞれが連通する構成について説明する。
【0067】
まず、
図1Aに示す如く、カソードガス導出マニホールド50は、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材およびカソード端板24Cに設けられた貫通孔、および、アノード端板24Aに設けられた非貫通孔の連なりによって構成されている。また、カソード端板24Cには、カソードガス導出経路26が設けられている。カソードガス導出経路26は、カソードCAから排出される水素(H
2)が流通する配管で構成されていてもよい。そして、カソードガス導出経路26は、上記のカソードガス導出マニホールド50と連通している。
【0068】
さらに、カソードガス導出マニホールド50は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス拡散層14の適所と、カソードガス通過経路34のそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス拡散層14およびカソードガス通過経路34を通過した水素が、カソードガス導出マニホールド50で合流される。そして、合流された水素がカソードガス導出経路26に導かれる。
【0069】
このようにして、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス拡散層14は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス通過経路34およびカソードガス導出マニホールド50を介して連通している。
【0070】
カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間、カソードセパレーター16およびカソード給電板22Cの間、アノードセパレーター17およびアノード給電板22Aの間には、平面視において、カソードガス導出マニホールド50を囲むように、Oリングなどの環状のシール部材40が設けられ、カソードガス導出マニホールド50が、このシール部材40で適切にシールされている。
【0071】
図2Aに示す如く、アノード端板24Aには、アノードガス導入経路29が設けられている。アノードガス導入経路29は、アノードANに供給される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。なお、水素含有ガスとして、例えば、メタンガスなどを含有する都市ガス、およびプロパンを主成分とするLPGなどの改質反応により発生する低圧状態の改質ガス、水の電気分解により発生する低圧状態の水素ガスなどを挙げることができる。そして、アノードガス導入経路29は、筒状のアノードガス導入マニホールド27に連通している。なお、アノードガス導入マニホールド27は、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材およびアノード端板24Aに設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0072】
また、アノードガス導入マニホールド27は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33の一方の端部と、第1アノードガス通過経路35のそれぞれを介して連通している。これにより、アノードガス導入経路29からアノードガス導入マニホールド27に供給された水素含有ガスは、水素ポンプユニット100Aのそれぞれの第1アノードガス通過経路35を通じて、水素ポンプユニット100Aのそれぞれに分配される。そして、分配された水素含有ガスがアノードガス流路33を通過する間に、アノードガス拡散層15からアノード触媒層13に水素含有ガスが供給される。
【0073】
また、
図2Aに示す如く、アノード端板24Aには、アノードガス導出経路31が設けられている。アノードガス導出経路31は、アノードANから排出される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導出経路31は、筒状のアノードガス導出マニホールド30に連通している。なお、アノードガス導出マニホールド30は、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材およびアノード端板24Aに設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0074】
また、アノードガス導出マニホールド30が、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33の他方の端部と、第2アノードガス通過経路36のそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33を通過した水素含有ガスが、第2アノードガス通過経路36のそれぞれを通じてアノードガス導出マニホールド30に供給され、ここで合流される。そして、合流された水素含有ガスが、アノードガス導出経路31に導かれる。
【0075】
カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間、カソードセパレーター16およびカソード給電板22Cの間、アノードセパレーター17およびアノード給電板22Aの間には、平面視において、アノードガス導入マニホールド27およびアノードガス導出マニホールド30を囲むようにOリングなどの環状のシール部材40が設けられ、アノードガス導入マニホールド27およびアノードガス導出マニホールド30が、シール部材40で適切にシールされている。
【0076】
図1Aおよび
図2Aに示すように、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器102を備える。
【0077】
電圧印加器102は、アノードANとカソードCAとの間に電圧を印加する装置である。つまり、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器102が上記電圧を印加することで、アノードANに供給された水素含有ガス中の水素を、電解質膜11を介してカソード触媒層12上に移動させ、圧縮水素を生成する装置である。
【0078】
具体的には、電圧印加器102の高電位が、アノードANに印加され、電圧印加器102の低電位が、カソードCAに印加されている。電圧印加器102は、アノードANおよびカソードCA間に電圧を印加できれば、どのような構成であってもよい。例えば、電圧印加器102は、アノードANおよびカソードCA間に印加する電圧を調整する装置であってもよい。このとき、電圧印加器102は、バッテリ、太陽電池、燃料電池などの直流電源と接続されているときは、DC/DCコンバータを備え、商用電源などの交流電源と接続されているときは、AC/DCコンバータを備える。
【0079】
また、電圧印加器102は、例えば、水素ポンプユニット100Aに供給する電力が所定の設定値となるように、アノードANおよびカソードCA間に印加される電圧、アノードANおよびカソードCA間に流れる電流が調整される電力型電源であってもよい。
【0080】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、電圧印加器102の低電位側の端子が、カソード給電板22Cに接続され、電圧印加器102の高電位側の端子が、アノード給電板22Aに接続されている。カソード給電板22Cは、上記の積層方向において他方の端に位置するカソードセパレーター16と電気的に接触しており、アノード給電板22Aは、上記の積層方向において一方の端に位置するアノードセパレーター17と電気的に接触している。
【0081】
図示を省略するが、上記の電気化学式水素ポンプ100を備える水素システムを構築することもできる。この場合、水素システムの水素圧縮動作において必要となる機器は適宜、設けられる。
【0082】
例えば、水素システムには、アノードガス導出経路31を通じてアノードANから排出される高加湿状態の水素含有ガスと、アノードガス導入経路29を通して外部の水素供給源から供給される低加湿状態の水素含有ガスとが混合された混合ガスの露点を調整する露点調整器(例えば、加湿器)が設けられていてもよい。
【0083】
また、水素システムには、例えば、電気化学式水素ポンプ100の温度を検出する温度検出器、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAから排出された水素を一時的に貯蔵する水素貯蔵器、水素貯蔵器内の水素ガス圧を検出する圧力検出器などが設けられていてもよい。
【0084】
なお、上記の電気化学式水素ポンプ100の構成、および、水素システムにおける図示しない様々な機器は例示であって、本例に限定されない。
【0085】
[動作]
以下、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0086】
以下の動作は、例えば、図示しない制御器の演算回路が、制御器の記憶回路から制御プログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器で行うことは、必ずしも必須ではない。操作者が、その一部の動作を行ってもよい。以下の例では、制御器により動作を制御する場合について説明する。
【0087】
まず、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに低圧の水素含有ガスが供給されるとともに、電圧印加器102の電圧が電気化学式水素ポンプ100に給電される。なお、電解質膜11が湿潤された状態で、電解質膜11のプロトンを伝導性が向上するので、水素含有ガスは、図示しない加湿器により加湿されることが多い。
【0088】
すると、アノードANのアノード触媒層13において、水素分子がプロトンと電子とに分離する(式(2))。プロトンは電解質膜11内を伝導してカソード触媒層12に移動する。電子は電圧印加器102を通じてカソード触媒層12に移動する。
【0089】
そして、カソード触媒層12において、水素分子が再び生成される(式(3))。なお、プロトンが電解質膜11中を伝導する際に、所定水量の水が、電気浸透水としてアノードANからカソードCAにプロトンと同伴して移動することが知られている。
【0090】
アノード:H
2(低圧)→2H
++2e
- ・・・(2)
カソード:2H
++2e
-→H
2(高圧) ・・・(3)
このとき、図示しない流量調整器を用いて、適宜の水素導出経路の圧損を増加させることにより、カソードCAで生成された水素(H
2)を圧縮することができる。なお、水素導出経路として、例えば、
図2Aのカソードガス導出経路26を挙げることができる。また、流量調整器として、例えば、カソードガス導出経路26に設けられた背圧弁、調整弁などを挙げることができる。この場合、カソードガス導出経路26の圧損を増加させるとは、カソードガス導出経路26に設けられた背圧弁、調整弁の開度を小さくすることに対応する。
【0091】
このようにして、電気化学式水素ポンプ100では、電圧印加器102が上記電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素がカソードCAにおいて圧縮される。これにより、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作が行われる。なお、このとき、この水素圧縮動作により、アノードANでは、水素含有ガス中の水素量が減少するとともに、水素含有ガス中の水蒸気が結露しやすくなる。また、カソードCAに存在する水が、カソードCAおよびアノードAN間の差圧によって電解質膜11を介してアノードANに浸透する。つまり、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100においては、アノードANの水素含有ガス出口の近傍において、フラディングが発生しやすい。
【0092】
次に、カソードCAで圧縮された水素は、適時に、図示しない水素需要体に供給される。なお、水素需要体として、例えば、水素を一時的に貯蔵する水素貯蔵器、水素インフラの配管、水素を用いて発電する燃料電池などを挙げることができる。例えば、水素需要体の一例である水素貯蔵器で貯蔵された水素は、適時に、水素需要体の一例である燃料電池に供給されてもよい。
【0093】
以上のとおり、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードANおよびカソードCA間の差圧に起因して生じる問題を従来よりも軽減し得る。
【0094】
具体的には、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さをアノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さより大きくすることにより、両主面15A、15Bの表面粗さの大小関係が逆である場合に比べて、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aにおける撥水性が向上する。これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの撥水作用によって、アノードANに存在する水が、水素含有ガスとともに外部に排水されやすくなる。すると、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードANでフラディングが発生することが抑制され、アノードANのフラディングで水素含有ガスの拡散性が阻害される可能性を低減することができる。よって、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、水素圧縮動作の効率低下を抑制することができる。
【0095】
また、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さをアノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さより小さくすることにより、両主面15A、15Bの表面粗さの大小関係が逆である場合に比べて、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bを平滑にすることができる。これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードANおよびカソードCA間の差圧によって電解質膜11がアノード触媒層13を介してアノードガス拡散層15に押し付けられたとき、アノードガス拡散層15の主面15Bの凹凸による電解質膜11の破膜を抑制することができる。
【0096】
このようにして、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードガス拡散層15の両主面15A、15Bの表面粗さの大小関係を適切に設定することで、アノードANにおけるフラディングの抑制と電解質膜11の破膜の抑制とを適切に両立させることができる。
【0097】
(実施例)
<第1実施例>
上記のとおり、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さは、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さより小さい。
【0098】
具体的には、例えば、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さRaが4.5μm以下、または、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さRzが20μm以下であることが適当である。
【0099】
これにより、本実施例の電気化学式水素ポンプ100において、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さRaが4.5μm以下、または、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さRzを20μm以下にすることで、本主面15Bの表面粗さが以上の値を上回る場合に比べて、アノードガス拡散層15は、アノード触媒層13側の主面15Bの凹凸を適切に小さくすることができる。例えば、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの凹凸の大きさを電解質膜11の厚みとの関係に対して適切に設定することで、アノードANおよびカソードCA間の差圧によって電解質膜11がアノード触媒層13を介してアノードガス拡散層15に押し付けられたとき、アノードガス拡散層15の主面15Bの凹凸による電解質膜11の破膜が抑制される。また、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さRaが2μm以上、または、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さRzが10μm以上であることが望ましい。これよりも上記主面15Bの表面粗さを小さくすると、アノードガス拡散層15の穴径を小さくする必要があり、アノードANに供給された水素含有ガスがアノード触媒層13に適切に供給されにくくなるためである。
【0100】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0101】
<第2実施例>
上記のとおり、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さは、アノード触媒層13側のアノードガス拡散層15の主面15Bの表面粗さより大きい。
【0102】
具体的には、例えば、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さRaが6μm以上、または、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さRzが25μm以上であることが適当である。
【0103】
これにより、本実施例の電気化学式水素ポンプ100において、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さRaを6μm以上、または、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さRzを25μm以上にすることで、本主面15Aの表面粗さが以上の値を下回る場合に比べて、アノードガス拡散層15は、アノードセパレーター17側の主面15Aの撥水性を適切に向上させることができる。また、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さRaが20μm以下、または、アノードセパレーター17側のアノードガス拡散層15の主面15Aの表面粗さRzは100μm以下であることが望ましい。これは、上記主面15Aの表面粗さが大きくなるほど、アノードセパレーター17との接触抵抗が悪化し、電気化学式水素ポンプ100の効率が低下するからである。
【0104】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態または第1実施例の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0105】
<アノードガス拡散層の成形法>
次に、以上のアノードガス拡散層15の成形法について説明する。
【0106】
上記のとおり、アノードガス拡散層15は、多孔体シート15Sを含み、多孔体シート15Sの一例が金属粒子焼結体シートである。
【0107】
そこで、このような金属粒子焼結体シートの成形法として、例えば、プレス成形法などを挙げることができる。このとき、金属粒子基材をプレス成形で加工するための上下の金型の表面粗さが異なると、表面粗さが異なる主面を備える金属粒子焼結体シートが得ることができる。金属粒子焼結体シートの成形法は、プレス成形法に限定されない。例えば、金属粒子焼結体シートの成形は、例えば、金属粒子射出成形法などで行われてもよい。
【0108】
なお、以上のプレス成形法または金属粒子射出成形法に用いる金属粒子の材料として、例えば、チタン、ステンレスなどを挙げることができる。金属粒子としてチタン粒子を使用する場合、チタン粒子の製法としては、水素化脱水素法またはガスアトマイズ法などを挙げることができる。
【0109】
<アノードガス拡散層の主面の表面粗さと撥水性との関係を検証した実験>
図3は、アノードガス拡散層の主面の表面粗さと撥水性との関係を検証するための実験結果の一例を示す写真である。
図3の上段には鳥瞰写真が示されており、下段には斜視写真が示されている。
【0110】
本検証実験では、表面粗さが大きい表面Aを備える円盤状のチタン粒子焼結体シートおよび表面粗さが小さい表面Bを備える円盤状のチタン粒子焼結体シートを作製した。
【0111】
なお、表面Aおよび表面Bの表面粗さを表すための「算術平均粗さ」および「最大高さ」が、接触式表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製の「サーフテストSJ―210」)を用いて、JIS B0601:2001に基づいて測定され、これらの測定結果は、以下の通りであった。
【0112】
・表面A
表面粗さ(算術平均高さ)Ra:6.6μm/表面粗さ(最大高さ)Rz:38.4μm
・表面B
表面粗さ(算術平均高さ)Ra:2.7μm/表面粗さ(最大高さ)Rz:16.5μm
次に、底面の外形が、チタン粒子焼結体シートの外形とほぼ同形のシャーレを準備した。そして、チタン粒子焼結体シートのそれぞれを、これらの裏面がシャーレのそれぞれの底面と接触するように、シャーレ内に固定した。その後、シャーレ内のそれぞれに同量の水を入れた。すると、シャーレ内の水は、チタン粒子焼結体シート中を浸透するが、その一部は、チタン粒子焼結体シートのそれぞれの表面Aおよび表面B上を濡らすように溢れた。この状態で、チタン粒子焼結体シートの表面Aおよび表面Bにおける水の濡れ性を観察した。
【0113】
図3に示すように、表面粗さが大きい表面Aでは、チタン粒子焼結体シート上に存在する水の端部、および、水によって濡れていない固体表面が観察され、これにより、表面Aは、表面Bに比べて撥水性が高いことがわかる。
【0114】
これに対して、表面粗さが小さい表面Bでは、チタン粒子焼結体シートのほぼ全域に亘って水が濡れ広がることが観察され、これにより、表面Bは、表面Aに比べて撥水性が低いことがわかる。
【0115】
なお、以上の検証実験の方法および表面粗さを表すためのデータなどは例示であって、本例に限定されない。
【0116】
実施形態および第1実施形態の第1実施例-第2実施例、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0117】
上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本開示の一態様は、アノードおよびカソード間の差圧に起因して生じる問題を従来よりも軽減し得る電気化学式水素ポンプに利用することができる。
【符号の説明】
【0119】
11 :電解質膜
12 :カソード触媒層
13 :アノード触媒層
14 :カソードガス拡散層
15 :アノードガス拡散層
15A :主面
15B :主面
15S :多孔体シート
16 :カソードセパレーター
17 :アノードセパレーター
21 :絶縁体
22A :アノード給電板
22C :カソード給電板
23A :アノード絶縁板
23C :カソード絶縁板
24A :アノード端板
24C :カソード端板
25 :締結器
26 :カソードガス導出経路
27 :アノードガス導入マニホールド
29 :アノードガス導入経路
30 :アノードガス導出マニホールド
31 :アノードガス導出経路
33 :アノードガス流路
34 :カソードガス通過経路
35 :第1アノードガス通過経路
36 :第2アノードガス通過経路
40 :シール部材
42 :シール部材
43 :シール部材
50 :カソードガス導出マニホールド
100 :電気化学式水素ポンプ
100A :水素ポンプユニット
102 :電圧印加器
AN :アノード
CA :カソード