IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社幹細胞&デバイス研究所の特許一覧

特開2024-161632細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法
<>
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図1
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図2
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図3
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図4
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図5
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図6
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図7
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図8
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図9
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図10
  • 特開-細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161632
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20241113BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241113BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20241113BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150207
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】515135778
【氏名又は名称】株式会社幹細胞&デバイス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】河原 紀之
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG10
4B029FA15
4B029GB06
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065BC50
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】3次元培養した細胞群の運動特性を評価するための新規なシステム、方法、及びプログラム、並びにこれらに用いられる装置を提供すること。
【解決手段】細胞群21を保持するための1対の柱状の細胞支持体と、前記1対の細胞支持体に跨って形成されている細胞群21の運動特性を測定する細胞群測定装置3と、を含み、前記細胞群測定装置3は、前記1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部31と、取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部と、前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部と、を含む、細胞群の運動特性を評価するためのシステム1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞群を保持するための1対の柱状の細胞支持体と、
前記1対の細胞支持体に跨って形成されている細胞群の運動特性を測定する細胞群測定装置と、を含み、
前記細胞群測定装置は、
前記1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部と、
取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部と、
前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部と、を含む、
細胞群の運動特性を評価するためのシステム。
【請求項2】
前記計測部は、前記撮像データにおける前記細胞支持体の変位方向を設定し、前記細胞支持体の前記変位方向の1次元座標を、少なくとも前記初期状態、及び前記初期状態よりも後の第2の状態において取得し、前記初期状態での座標を基準として前記第2の状態での座標の変化量を前記細胞支持体の変位量として出力する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記計測部は、前記細胞支持体の前記変位方向の1次元座標を取得するための矩形状の解析領域であって、設定された前記変位方向に対して平行な辺と垂直な辺とを有する解析領域を、前記細胞支持体の縁部の少なくとも一部を含むように設定し、設定された前記解析領域において前記変位方向とは反対側の一辺から前記細胞支持体の前記縁部までの距離の平均値を算出し、算出された平均値を前記細胞支持体の前記変位方向の1次元座標として出力する、
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記細胞群測定装置は、前記細胞群の運動特性に関する情報を時間の関数として出力する出力部をさらに含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記細胞群の運動特性に関する情報が、前記細胞群の収縮力を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記1対の細胞支持体に跨って形成されている細胞群に電気的刺激を与えるための1対の電極をさらに備える、
請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
1対の柱状の細胞支持体に跨って形成されている細胞群を準備する工程と、
前記1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する工程と、
取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する工程と、
前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する工程と、
を含む、
細胞群の運動特性を評価する方法。
【請求項8】
1対の細胞支持体であって、細胞群がそれらに跨って形成されている1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部と、
取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部と、
前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部と、
を含む、
細胞群の運動特性を測定する細胞群測定装置。
【請求項9】
細胞群測定装置及びこれに備えられたコンピュータを、
1対の細胞支持体であって、細胞群がそれらに跨って形成されている1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部;
取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部;及び、
前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部;
として機能させる、
細胞群の運動特性を測定するためのプログラム。
【請求項10】
被験物質を前記細胞群と共存させて前記撮像データを取得することにより、前記被験物質についての前記細胞群の運動特性に与える影響に関する情報を取得する、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記被験物質についての情報が、前記被験物質の毒性に関する情報である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記細胞群が、筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する筋芽細胞及び筋細胞の少なくとも1種を用いて作製される細胞群であり、
被験物質を共存させて前記細胞群の運動特性を測定することにより、前記疾患に対する被験物質の有効性を評価する、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記疾患が、心筋又は骨格筋が関与する疾患である、請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞群の運動特性を評価するためのシステム、方法、及びプログラム、これらに用いられる装置、並びに薬剤有効性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬及び再生医療のような分野において、細胞群の運動特性を評価又は測定するという要求がある。例えば再生医療の分野においては、培養して作製した細胞群が運動機能を獲得しているかどうかを評価するために運動特性が測定される。また、創薬の分野においては、筋疾患及び心疾患等の筋肉が関与する疾患に有効な医薬を探索するために、細胞群、特に筋組織に医薬を接触させながら当該筋組織の運動特性を評価することが行われる。
細胞群の運動特性を評価又は測定する方法としては、細胞群の膜電位等を測定する方法、及び細胞群の動きを撮影又は観察する方法等が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、心筋細胞の評価方法であって、心筋細胞の撮像画像を構成する複数の部分領域ごとに、前記心筋細胞の動きを検出し、検出された前記心筋細胞の動きの動き量絶対値を算出し、算出された前記動き量絶対値の時間の経過に伴う波形変化を表し、前記心筋細胞の収縮と弛緩に対応した波形情報を表示するよう制御し、前記心筋細胞の収縮または弛緩波形のピークを検出する心筋細胞評価方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、分析対象物を経時的に撮像した分析対象動画像において、分析範囲を指定し、前記分析対象動画像において前記分析範囲の区画毎に動きベクトルを算出し、前記分析対象動画像における分析対象物の設定された軸方向に対する動きの情報として、前記軸方向から所定角度内の前記動きベクトル等から動き量を抽出し、前記分析範囲の区画毎に抽出された動き量を出力する画像処理方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、神経細胞を経時的に撮像した分析対象動画像において、動きの量の周波数特徴量を時間範囲毎に算出し、前記特徴量の時間変化を可視化して前記分析対象動画像に重畳させ、特徴量表示動画像を生成し、前記周波数特徴量は、周波数解析によって得られる平均強度、ピーク周波数又は平均パワー周波数である分析方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、所定の細胞足場上に培養された複数の収縮性細胞からなる収縮性細胞塊であって、個々の収縮性細胞の同期した収縮弛緩運動により一体として収縮弛緩運動する収縮性細胞塊の収縮弛緩運動特性を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6504417号
【特許文献2】特許第6658926号
【特許文献3】特許第6494903号
【特許文献4】国際公開第2021/6286号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1~4では2次元培養した細胞群の運動特性を評価しているが、筋組織等の生体内での状況をよりよく再現するために、3次元培養した細胞群の運動特性を評価又は測定するという要求がある。
【0009】
特許文献1~3に示されるように、2次元培養した細胞群の運動特性の評価では、細胞群自体の動きを検出し、当該検出された動きを画像解析手法により解析し細胞群の運動特性を取得することが主に行われている。
本発明者が鋭意検討した結果、3次元培養した細胞群の運動特性を測定する際に、細胞群自体の動きを検出することで細胞群の運動特性を測定しようとすると、細胞群の局所的な変形がノイズとなり、細胞群の全体的な運動の特性を精度良く得るのが困難であることがわかってきた。
【0010】
そこで、本発明は、3次元培養した細胞群の運動特性を評価するための新規なシステム、方法、及びプログラム、並びにこれらに用いられる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る細胞群の運動特性を評価するためのシステムは、細胞群を保持するための1対の柱状の細胞支持体と、前記1対の細胞支持体に跨って形成されている細胞群の運動特性を測定する細胞群測定装置と、を含み、前記細胞群測定装置は、前記1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部と、取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部と、前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部とを含む。
【0012】
この態様によれば、細胞群の運動特性に関する情報を算出する際に、撮像部が細胞群を直接観測するのではなく、細胞支持体を観測し、計測部が細胞支持体の変位量に基づいて細胞群の運動特性に関する情報を算出するため、細胞群の局所的な変形に影響されず、細胞群全体としての運動の運動特性に関する情報を取得することができる。これにより、1対の細胞支持体に跨って3次元的に形成された細胞群の運動特性を精度よく評価することができる。
【0013】
上記態様において、前記計測部は、前記撮像データにおける前記細胞支持体の変位方向を設定し、前記細胞支持体の前記変位方向の1次元座標を、少なくとも前記初期状態、及び前記初期状態よりも後の第2の状態において取得し、前記初期状態での座標を基準として前記第2の状態での座標の変化量を前記細胞支持体の変位量として出力してもよい。
この態様によれば、あらかじめ細胞支持体の変位方向を設定し、設定された変位方向に基づく変位量を細胞支持体の変位量として出力するため、特に細胞群の1次元的な収縮弛緩運動の評価に好適である。
【0014】
上記態様において、前記計測部は、前記細胞支持体の前記変位方向の1次元座標を取得するための矩形状の解析領域であって、設定された前記変位方向に対して平行な辺と垂直な辺とを有する解析領域を、前記細胞支持体の縁部の少なくとも一部を含むように設定し、設定された前記解析領域において前記変位方向とは反対側の一辺から前記細胞支持体の前記縁部までの距離の平均値を算出し、算出された平均値を前記細胞支持体の前記変位方向の1次元座標として出力してもよい。
この態様によれば、解析領域の一端から細胞支持体の縁部までの距離を測定するだけで細胞支持体の座標の取得をすることができ、細胞支持体の座標を一意に特定するための手段を細胞支持体に設けることなく、細胞支持体の座標を精度よく取得することができる。
【0015】
上記態様のいずれかにおいて、前記細胞群測定装置は、前記細胞群の運動特性に関する情報を時間の関数として出力する出力部をさらに含んでいてもよい。
この態様によれば、細胞群の運動特性を例えばリアルタイムで表示させることができたり、細胞群の運動特性に関する情報を時間の関数として出力しながら被験物質を細胞群と接触させて当該被験物質の細胞群の運動特性に与える影響を評価したりすることが好適にできる。
【0016】
上記態様のいずれかにおいて、前記細胞群の運動特性に関する情報が、前記細胞群の収縮力を含んでいてもよい。
この態様によれば、特に筋細胞を含む細胞群の運動特性の評価に好適である。
【0017】
上記態様のいずれかにおいて、前記1対の細胞支持体に跨って形成されている細胞群に電気的刺激を与えるための1対の電極をさらに備えてもよい。
この態様によれば、細胞群に対して外部からの電気的刺激を与えることで細胞群の運動を強制することができるため、細胞群の自発的な運動のみならず、外発的な刺激に対する運動特性を好適に評価することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る細胞群の運動特性を測定する装置は、1対の細胞支持体であって、細胞群がそれらに跨って形成されている1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部と、取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部と、前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部と、を含む。
【0019】
本発明の一実施形態に係る細胞群の運動特性を測定するためのプログラムは、細胞群測定装置及びこれに備えられたコンピュータを、1対の細胞支持体であって、細胞群がそれらに跨って形成されている1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する撮像部;取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する計測部;及び、前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する運動特性算出部;として機能させる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る細胞群の運動特性を評価する方法は、1対の柱状の細胞支持体に跨って形成されている細胞群を準備する工程と、前記1対の細胞支持体の少なくとも一方の少なくとも一部分を含む撮像データを取得する工程と、取得された前記撮像データを用いて、所定の初期状態からの前記細胞支持体の変位量を計測する工程と、前記細胞支持体の変位量に基づいて前記細胞群の運動特性に関する情報を算出する工程と、を含む。
【0021】
上記態様のいずれかにおいて、被験物質を前記細胞群と共存させて前記撮像データを取得することにより、前記被験物質についての前記細胞群の運動特性に与える影響に関する情報を取得してもよい。
この態様によれば、被験物質が細胞群の運動特性を活性化させるか、又は抑制するか等の情報を取得することができ得る。
【0022】
上記態様において、前記被験物質についての情報は前記被験物質の毒性に関する情報であってもよい。
【0023】
上記態様において、前記細胞群が、筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する筋芽細胞及び筋細胞の少なくとも1種を用いて作製される細胞群であり、被験物質を共存させて前記細胞群の運動特性を測定することにより、前記疾患に対する被験物質の有効性を評価してもよい。
この態様によれば、筋肉が関与する疾患の治療又は予防に有効な薬剤をスクリーニングすることができ、またその薬剤の毒性を評価することができ得る。
【0024】
上記態様において、前記疾患は心筋又は骨格筋が関与する疾患であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、3次元培養した細胞群の運動特性を評価するための新規なシステム、方法、及びプログラム、並びにこれらに用いられる装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態の細胞群運動特性評価システムの構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態の細胞群測定デバイスの構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態の細胞群測定デバイスにおいて、細胞群を形成させた状況の一例を示す図である。
図4】本実施形態の細胞群測定装置の物理的な構成の一例を示すブロック図である。
図5】本実施形態の細胞群測定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図6】本実施形態の細胞群運動特性評価方法の処理の一例を示すフローチャートである。
図7】本実施形態の細胞群運動特性評価方法におけるステップS2の処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本実施形態の細胞群運動特性評価方法におけるステップS23の処理の一例を示すフローチャートである。
図9】本実施形態の細胞群運動特性評価方法におけるステップS23の処理により得られる解析画像の一例を示す図である。
図10】本実施形態の細胞群運動特性評価システムにより出力されるデータの一例を示す図である。
図11】本実施形態の薬剤有効性評価方法により得られ得るデータの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0028】
[本実施形態]
以下、本実施形態の細胞群運動特性評価システム、細胞群運動特性評価方法、細胞群測定装置、及び細胞群運動特性評価プログラム等について、説明する。
【0029】
(細胞群運動特性評価システム及び方法の概要)
図1は、本実施形態の細胞群運動特性評価システムの一例を示す概念図である。図1に示すように、細胞群運動特性評価システム1は、測定対象の細胞群21と、細胞群21の運動特性を測定及び評価するための細胞群測定装置3とを含む。図1に示される細胞群測定デバイス2は、細胞群21を含む。
【0030】
細胞群測定装置3は、撮像部31と記憶部32と撮像データ解析部33とを含む。撮像部31は細胞群測定デバイス2における細胞群21を撮像して撮像データを取得する。撮像データは複数のフレームを含む動画又は複数の画像である。記憶部32は、例えば撮像部31が所得した撮像データを一時的に記憶する。撮像データ解析部33は、記憶部32に記憶された撮像データを解析して、細胞群21の運動特性を算出し、出力する。
【0031】
(細胞群測定デバイス)
図2は、細胞群測定デバイス2の一例を示す図である。図2の(a)、(b)、(c)及び(d)に細胞群測定デバイス2の平面図、正面図、斜視図、及びA-A断面図をそれぞれ示す。
細胞群測定デバイス2は、細胞群を保持するための1対の細胞支持体22と、細胞培養液等を収容するための収容部23とを含む。収容部23には、2つの細胞支持体22の周囲及びそれらを連結する部分において空洞部24が形成されている。空洞部24は、1対の細胞支持体22に細胞群を形成することを補助する役割、及び形成された細胞群を培養液中に浸漬する役割等を有する。
細胞支持体22は、収容部23から延出する柱状部221及び柱状部221に連結されているディスク部222を含む。
【0032】
図3は、細胞群測定デバイス2に細胞群21を形成した状況の一例を示す図である。図3の(a)、(b)及び(c)に細胞群測定デバイス2の平面図、A-A断面図、及び細胞支持体22の拡大平面図をそれぞれ示す。
細胞群21は、1対の細胞支持体22に跨って、柱状部221において形成されている。図3(c)に示すように、細胞群測定デバイス2を上面から観察すると、ディスク部222が透明又は半透明の部材である場合、細胞群21が透過して観察される。
【0033】
細胞群運動特性評価システム1において、1対の細胞支持体22には図3のように細胞群21が形成され、細胞群21の運動(例えば収縮弛緩運動)特性は、細胞支持体22の動きを検出することで測定される。したがって、1対の細胞支持体22の少なくとも一方は、細胞群21の動きに応じて可動なように構成されている。例えば、細胞支持体22の少なくとも一方は、柱状部221が変形可能な材料により構成されていてよい。特に、細胞支持体22の少なくとも一方の柱状部221は弾性体であることが好ましい。
1対の細胞支持体22の両方が細胞群21の動きに応じて可動なように構成されていてよく、いずれか一方が細胞群21の動きに応じて可動なように構成され、他方が固定されていてよい。
【0034】
細胞群21の動きに応じて可動なように構成されている細胞支持体22の機械特性は、形成されている細胞群21の運動特性に応じて調整すればよい。例えば細胞群21の収縮弛緩運動に応じてディスク部222が細胞群21の運動方向(すなわち、柱状部221の長さ方向に対して垂直な方向)に対して0.1μm以上1.0mm以下の範囲で運動するような機械特性であってよい。そのような機械特性としては、細胞群21が形成される部分において柱状部221の長さ方向に対してほぼ垂直に応力を印加した際のバネ定数が挙げられる。当該バネ定数の好適な範囲は、例えば0.30μN/μm以上1.0μN/μm以下である。
【0035】
細胞支持体22及び収容部23は、同一又は互いに異なる材料により構成されていてよい。また、2つの細胞支持体22は、同一又は互いに異なる材料により構成されていてよい。各細胞支持体22において、柱状部221及びディスク部222も同一又は互いに異なる材料により構成されていてよい。
収容部23を構成する材料は特に限定されず、金属、セラミック、ポリマー、ガラス、及びゴム等の種々の材料を含んでいてよい。収容部23は、製造が容易である観点からポリマー又はゴムであると好ましい。
【0036】
細胞群21の動きに応じて可動なように構成されている細胞支持体22は、柱状部221が例えばポリマー及び/又はゴムで構成されていることが好ましい。ここで、好適なポリマーとしてはポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられる。
固定されている細胞支持体22は、柱状部221が例えば金属、セラミック、ポリマー、又はガラスで構成されていることが好ましい。
【0037】
ディスク部222を構成する材料は特に限定されず、金属、セラミック、ポリマー、ガラス、及びゴム等の種々の材料を含んでいてよい。ディスク部222は、製造が容易である観点から柱状部221と同じ材料により構成され、柱状部221と一体化していることが好ましい。
【0038】
細胞群21は自発的に及び/又は外発的に運動する性質を有している限り特に限定されない。細胞群21は、例えば収縮弛緩運動をし得る細胞を含む。細胞群21は、例えば筋細胞及び/又は筋芽細胞を含む。
細胞群21に含まれる筋細胞としては、特に限定されず、例えば骨格筋細胞、心筋細胞、及び平滑筋細胞であってよい。筋細胞は、随意筋細胞であってよく、不随意筋細胞であってよい。筋細胞は、多能性幹細胞又は初代培養細胞に由来する筋細胞であってよく、株化細胞であってよい。
【0039】
初代培養細胞は、生体内において本来有する細胞機能を多く保持しているため、生体内における薬物等の影響を評価する系として好適に用いられる。多能性幹細胞は、特定の対象から所望の細胞を作製することができる点で、ヒトの筋細胞を評価する場合等に好適に用いられる。
初代培養細胞としては、哺乳類(例えばマウス及びラット等のげっ歯類、又はサル及びヒト等の霊長類等)の筋組織由来の細胞が挙げられる。
初代培養細胞を調製及び培養するに際し、動物の解剖方法、組織の採取方法、細胞の分離・単離方法、培養培地、及び培養条件等は、培養する細胞の種類に応じて、公知の方法から選択することができる。
多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、及びiPS細胞が挙げられる。公知の分化誘導方法を用いて、多能性幹細胞を分化誘導することにより、様々なタイプの筋細胞を得ることができる。iPS細胞としては、ヒトiPS細胞が好ましい。
【0040】
細胞支持体22に跨って形成されている細胞群21は、例えば2本の柱状部221の少なくとも一部を囲うように細胞とヒドロゲルとを含む培養培地を配置し、その後当該ヒドロゲルを固化させることで形成すればよい。より具体的には、空洞部24に細胞とヒドロゲルとを含む培養培地を播種した後、例えば37℃程度に加熱することでヒドロゲルを固化させることで形成すればよい。
【0041】
後述する細胞群の運動特性の測定方法のステップS2(図6を参照。)において、撮像データの各フレームから細胞支持体の座標を取得することが容易になる観点から、ディスク部222が透明又は半透明な材料で構成される場合、ディスク部を上面から観察したときに、ディスク部222の縁部(エッジ)の少なくとも一部分が、透過して観察される細胞群21と被っていないことが好ましい。
【0042】
(細胞群測定装置)
細胞群測定装置3は、細胞群測定デバイス2の撮像データを取得し、細胞群21の運動特性に関する情報を出力する。細胞群測定デバイス2の撮像データは、細胞群21の運動に対応する細胞支持体22の動きを検出できる限り、細胞群測定デバイス2の側面からの撮像データ、及び上面からの撮像データのいずれでもあってよい。以下、細胞群測定デバイス2の上面からの撮像データを取得する場合について説明するが、側面からの撮像データを取得する場合の説明も同様である。
【0043】
図4は、細胞群測定装置3の物理的な構成の一例を示すブロック図である。図4に示す細胞群測定装置3は、RAM(ランダムアクセスメモリ)41、ROM(リードオンリーメモリ)42、ストレージ43、CPU(中央処理装置)44、入力部45、及び表示部46、並びにこれらを接続するシステムバス47を有する。
【0044】
RAM41は、データの書き換えが可能なメモリであり、メインメモリとしての役割を果たす。RAM41は、例えば半導体記憶素子で構成され、CPU44が実行するアプリケーション等のプログラム及び各種データを記憶する。
【0045】
ROM42は、データの読み出しのみが可能なメモリであり、例えば半導体記憶素子で構成される。ROM42は、例えばファームウェア等のプログラム及びデータを記憶する。
【0046】
ストレージ43は、データの書き換えが可能なメモリであり、補助メモリとしての役割を果たす。ストレージ43は、例えば半導体記憶素子、光学ディスク、HDD(ハードディスクドライブ)、又は磁気テープで構成され、プログラムや各種データを格納する。
【0047】
CPU44は、RAM41及び/又はROM42に記憶されたプログラムの実行に関する制御、並びにデータの演算及び加工を行う制御部である。細胞群測定装置3は、CPU44の制御の下、各種細胞群の運動特性の測定に関する機能を実現する。CPU44は、入力部45から入力された情報を受け取り、入力情報の演算結果を表示部46に表示したり、RAM41及びストレージ43等の各種記憶装置に格納したりする。
【0048】
入力部45は、細胞群測定装置3に対する入力を受け付ける部分であり、例えばカメラ及びビデオ等の撮像データ取得手段、並びにユーザからの入力を受け付けるためのキーボード、マウス、マイク、及び/又はタッチパネルを含む。撮像データ取得手段としては、例えば顕微鏡及び顕微鏡に取り付けられたカメラであってよい。
【0049】
表示部46は、CPU44による演算結果を視覚的に表示する部分であり、例えば液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイにより構成される。
【0050】
細胞群測定装置3では、CPU44が細胞群運動特性評価プログラムを実行することにより、図5を用いて説明する種々の機能が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、細胞群測定装置3は、CPU44とRAM41、ROM42及び/又はストレージ43が一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0051】
図5は、細胞群測定装置3の機能構成の一例を示すブロック図である。図5に示す細胞群測定装置3は、撮像部31、記憶部32、撮像データ解析部33、及び出力部34を有する。
【0052】
撮像部31は、例えばRAM41、CPU44、入力部45、及びROM42又はストレージ43に記憶されている細胞群運動特性評価プログラムにより実現され得る。撮像部31は、CPU44の制御により例えば顕微鏡を介して細胞群測定デバイス2の撮像データ(拡大動画又は画像)を取得する。撮像部31は取得した撮像データを記憶部32、撮像データ解析部33、及び出力部34に出力する。
【0053】
CPU44は、取得される撮像データに細胞群測定デバイス2の細胞支持体22の少なくとも一部が含まれるように撮像部31を制御する。取得された撮像データには、2以上のフレームを含む動画又は複数の画像が含まれる。以下、動画に含まれる各フレーム、及び一連の複数の画像に含まれる各画像を総称して撮像データの「各フレーム」という。
撮像データ解析部33が撮像データから細胞支持体22の座標を抽出することを容易にするために、撮像部31は固定されていて、細胞群21及び細胞支持体22の動きを追尾しないように設定されていることが好ましい。
【0054】
記憶部32は、例えばRAM41、ROM42、及びストレージ43により実現され得る。記憶部32は、撮像部31から撮像データを取得し、記憶する。また、撮像データ解析部33が解析した細胞群の運動特性に関する情報を記憶する。記憶部32は記憶したデータを撮像データ解析部33及び出力部34に出力する。
【0055】
撮像データ解析部33は、例えばRAM41、CPU44、ROM42、ストレージ43、及び入力部45により実現され得る。撮像データ解析部33は、撮像部31から撮像データを取得し、又は記憶部32に記憶された撮像データを取得し、かかる撮像データを解析する。具体的には、必要に応じて入力部45により入力されたパラメータ等を参照しながら、撮像データから細胞群の運動特性に関する情報を抽出する。
【0056】
図5において、撮像データ解析部33は計測部331及び運動特性算出部332を含む。
計測部331は、取得した撮像データの各フレームにおいて細胞支持体22の座標を取得し、所定の初期状態からの変位量を計測する。初期状態は、ユーザが入力部45から指定してもよいし、細胞群運動特性評価プログラムが自動で指定してもよい。初期状態は、細胞群21が細胞支持体22に応力を印加せず、すなわち、細胞群21が収縮していない状態であってよい。
運動特性算出部332は、計測部331が計測した各フレームにおける細胞支持体22の変位を統合して細胞群21の運動特性に関する情報を算出する。細胞群21の運動特性に関する情報としては、細胞群の寸法変化(すなわち収縮弛緩変位量)、収縮力、収縮弛緩振幅、及び収縮弛緩周期が挙げられる。これらの情報は時間の関数として算出されてもよい。
【0057】
図6~9を用いて、撮像データ解析部33における撮像データ解析手段について説明する。
図6は細胞群測定装置3の処理の一例を示すフローチャートである。
細胞群測定装置3は、はじめに撮像部31により細胞群測定デバイス2の撮像データを取得する(ステップS1)。
【0058】
次に撮像部31は、直接又は記憶部32に一度記憶させてから撮像データ解析部33に撮像データを出力する。撮像データ解析部33は、計測部331において撮像データの各フレームにおける細胞支持体22の座標を取得する(ステップS2)。細胞支持体22の座標を取得する手段としては、例えば細胞支持体22のディスク部222の上面に座標取得用の目印をつけておき、当該目印を計測部331に認識させる手段であってよい。そのような目印としては、例えばディスク部222とは異なる色の部分、又はディスク部222の上面から突出する突起状の部分であってよい。
【0059】
取得される細胞支持体22の座標としては、例えば撮像データにおける細胞支持体22の変位方向の1次元座標であってよい。細胞支持体22の変位方向とは、細胞群21が収縮弛緩運動等の運動をすることによって細胞支持体22が変位する方向であり、典型的には一方の細胞支持体からもう一方の細胞支持体に向かう方向である。細胞支持体22の変位方向の1次元座標とは、細胞支持体22の変位方向を正として当該方向に延伸する軸において定められる座標を意味する。当該軸の原点は特に限定されず、例えばユーザが任意に設定することができる。軸の原点は、設定された初期状態における細胞支持体22の座標であってよい。
【0060】
なお、上記では撮像データの各フレームにおいて細胞支持体22の座標を取得しているが、全てのフレームにおいて座標を取得する必要はなく、少なくとも2つのフレームにおいて座標を取得すればよい。以下、同様に、撮像データの各フレームにおいて処理を行うことを前提として細胞群測定装置3の処理の流れを説明するが、少なくとも2つのフレームにおいて処理を行えばよい。
【0061】
次に、計測部331は、各フレームにおいてステップS2で取得した細胞支持体22の座標を、所定の初期状態からの変化量(すなわち細胞支持体22の変位量)に変換する(ステップS3)。初期状態の設定をユーザがする場合は、ステップS1又はS2の後に初期状態とする1のフレームを選択させればよい。ユーザは入力部45から初期状態とするフレームを決定し、撮像データ解析部33に入力する。
【0062】
細胞支持体22の座標を、所定の初期状態からの変位量に変換する手段としては特に限定されないが、最も単純には初期状態に設定したフレームにおける細胞支持体22の座標を原点として、各フレームにおける細胞支持体22の座標を変換すればよい。例えば、第1のフレームを初期状態とした場合、第1のフレームにおける細胞支持体22の座標がX(単位はピクセルやμm等であってよい。)であり、第2のフレームにおける細胞支持体22の座標がYであるとき、第2のフレームにおける細胞支持体22の変位量はY-Xと算出できる。
【0063】
次に、計測部331は運動特性算出部332に各フレームにおける細胞支持体22の変位量を出力し、運動特性算出部332は当該変位量に基づいて細胞群21の運動特性に関する情報を算出する(ステップS4)。運動特性算出部332は、例えば細胞支持体22の変位量に基づいて各フレームにおける細胞群21の寸法又は収縮弛緩変位量を算出する。例えば、1対の細胞支持体22の初期状態における距離dがユーザにより入力部45から与えられていれば、細胞支持体22の変位量がY-Xであるフレームにおける細胞群21の寸法はd-(Y-X)と算出することができる。なお、ここでは変位方向を細胞群21が収縮する方向とした。同様にして、細胞支持体22の変位量から細胞群21の収縮弛緩変位量を算出することができる。
【0064】
また、細胞支持体22の細胞群21が形成される部分において柱状部221の長さ方向に対してほぼ垂直に応力を印加した際のバネ定数をあらかじめ測定し、入力部45から設定しておくことにより、細胞群21の収縮弛緩変位量から収縮力を算出することができる。さらに、細胞群21の収縮弛緩変位量及び/又は収縮力を各フレームにおいて算出すれば、各フレームに対応した時刻における収縮弛緩変位量及び/又は収縮力を求めることができ、すなわち、収縮弛緩変位量及び/又は収縮力を時間の関数として算出することができる。これにより、例えば収縮弛緩振幅、収縮力の最大値、及び収縮弛緩周期等の情報を取得することができる。
【0065】
細胞群測定装置3は、以上のようにして算出された細胞群21の運動特性に関する情報を直接又は記憶部32に一度記憶させてから出力部34に出力する。出力部34は当該運動特性に関する情報を細胞群測定装置3の外部に出力する(ステップS5)。出力部34は例えば細胞群測定装置3に備え付けられたディスプレイに運動特性に関する情報を出力する。運動特性に関する情報は、各情報の配列として例えばcsvデータとして出力されてもよいし、例えば各運動特性値と時刻とをプロットしたグラフとして出力されてもよい。
【0066】
図7は、計測部331が撮像データの各フレームにおける細胞支持体22の座標を取得する上記のステップS2の別の一態様のフローチャートを示した図である。
この態様において、ステップS2は、図7に示すステップS21~S24を含む。
【0067】
計測部331は、はじめに撮像データにおける細胞支持体22の変位方向を設定する(ステップS21)。計測部331は、出力部34においてユーザに変位方向を設定させるように促す表示をし、ユーザが入力部45を用いて変位方向を設定してもよいし、あるいは機械学習又は深層学習等を用いて撮像データを解析することで変位方向を設定してもよい。
【0068】
次に計測部331は、当該変位方向に対して平行な辺と垂直な辺とを有する矩形を、細胞支持体22の縁部の少なくとも一部を含むように、解析領域として設定する(ステップS22)。ここでは解析領域が変位方向に対して平行な辺と垂直な辺とを有する態様を説明するが、ステップS23及びステップS24により細胞支持体22の座標が取得できる態様であれば、平行四辺形等の任意の多角形、円形、楕円形等であってよい。
【0069】
次に計測部331は、設定された解析領域において、変位方向とは反対側の一辺から細胞支持体22の縁部までの距離の平均値を算出する(ステップS23)。ここで、平均値は、例えば相加平均値であってよい。ステップS23は適当な画像解析手法を用いることにより実現され得る。
ステップS23の処理の一例を図8及び9に示す。この態様において、ステップS23は、図8に示すステップS231~S234を含む。図9は、ステップS22~ステップS234における解析領域の処理の一例を表す。
【0070】
図9に示すように、計測部331は、ステップS21で撮像データの各フレームにおいて変位方向を設定する。図9では、変位方向は左方向である。次に計測部331は、細胞支持体22の縁部の少なくとも一部を含む所定の解析領域を設定する
【0071】
図8に戻って、計測部331は、その後各フレームにおいて、解析領域のスムージング・ノイズ除去を行い(ステップS231)、グレー化を行い(ステップS232)、白黒2値化を行う(ステップS233)。次いで、計測部331は白黒2値化をした解析領域において、変位方向とは反対側の一辺から細胞支持体22の縁部までの距離の平均値を算出する(ステップS234)。図9に各ステップS231~234の処理後の解析領域の一例を示す。なお、上記ステップS231~233の各ステップは適宜省略してもよい。
【0072】
図7に戻って、計測部331は、ステップS23で得られた距離の平均値に基づいて細胞支持体22の座標を取得、出力する。(ステップS24)。計測部331は、ステップS23で得られた距離の平均値をそのまま細胞支持体22の座標として出力してもよいし、何らかの演算処理(例えば加法又は減法により、ステップS23で得られた距離の平均値を原点からの変位に変換する処理等。)をしてから細胞支持体22の座標として出力してもよい。
【0073】
図5に戻って、出力部34は、例えばRAM41、ストレージ43、CPU44、入力部45、表示部46、及びROM42又はストレージ43に記憶されている細胞群運動特性評価プログラムにより実現され得る。出力部34は、撮像部31からの撮像データ、撮像データ解析部33からの細胞群21の運動特性に関する情報、又は記憶部32に一時的に記憶されていた撮像データ若しくは細胞群21の運動特性に関する情報を細胞群測定装置3の外部に出力する。例えば出力部34は、上記の各種情報をユーザに向けて表示部46に表示する。
【0074】
図10に、出力部34が表示する細胞群の運動特性に関する情報の一例を示す。図10は、骨格筋細胞を含む細胞群の収縮弛緩変位量の時間変化のグラフを含む。また出力部34は、収縮力の時間変化のグラフ、収縮弛緩振幅、及び収縮弛緩周期を表示してもよい。
【0075】
[変形例]
以上、本実施形態の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものではない。例えば、各構成及びステップの説明における例示及び/又は好ましい態様等(好ましい、より好ましい、更に好ましい、更により好ましい態様等。)は、特に言及がない限り、それぞれを任意に組み合わせて本実施形態とすることができる。例えば、各構成について、好ましい態様として記載されている構成と、好ましい態様として記載されている構成とを組み合わせてもよいし、好ましい態様等として記載されている構成と、より好ましい態様(あるいは更に好ましい態様等)として記載されている構成とを組み合わせてもよい。また、各構成及びステップは、本実施形態の効果を阻害しない限り、適宜省略することができる。
【0076】
例えば、細胞群測定装置3は、記憶部32を有していなくてもよい。この態様では、撮像部31で取得された撮像データは直接撮像データ解析部33に入力され、撮像データ解析部33で算出された細胞群の運動特性は直接出力部34に出力される。
【0077】
また、細胞群測定デバイス2は、1対の細胞支持体22に跨って形成されている細胞群21に電気的刺激を与えるための1対の電極をさらに備えてもよい。この態様によれば、細胞群に対して外部からの電気的刺激を与えることで細胞群の運動を強制することができるため、細胞群の自発的な運動のみならず、外発的な運動に対する運動特性を好適に評価することができる。
【0078】
[用途]
本実施形態の細胞群運動特性評価システム及び細胞群運動特性評価方法によれば、細胞群、特に収縮弛緩運動をする細胞群及び/又は筋細胞を含む細胞群等の運動特性を評価することができる。また、本実施形態の細胞群運動特性評価システム及び細胞群運動特性評価方法は、細胞群の成熟度を評価するために使用され得る。本実施形態の細胞群運動特性評価システム及び細胞群運動特性評価方法は、筋肉が関与する疾患の病理の解明のために使用され得る。
【0079】
例えば少なくとも1種の遺伝子をノックイン又はノックアウトさせた対象に由来する細胞群の運動特性を評価することにより、筋肉が関与する疾患に関連する遺伝子を同定し得る。
あるいは、筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する細胞を含む細胞群の運動特性を評価することにより、筋肉が関与する疾患に関連する遺伝子を同定し得る。筋肉が関与する疾患を有する対象は、特に限定されず、例えば哺乳類(例えばマウス及びラット等のげっ歯類、又はサル及びヒト等の霊長類等)であってよく、好ましくはマウス、ラット又はヒトであり、より好ましくはヒトである。筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する細胞は、例えば疾患を有する対象に由来する多能性幹細胞から分化させた筋細胞であってよい。
【0080】
また、被験物質を共存させて細胞群の運動特性を測定することにより、被験物質についての細胞群の運動特性に与える影響に関する情報を取得し得る。かかる被験物質についての情報は、被験物質の毒性に関する情報であってよい。
【0081】
(薬剤の有効性等の評価方法)
本実施形態の細胞群運動特性評価システム及び細胞群運動特性評価方法において、被験物質を細胞群と共存させて撮像データを取得することにより、当該被験物質についての細胞群の運動特性に与える影響に関する情報を取得することができる。当該被験物質についての情報としては、例えば被験物質の毒性、及び特定の疾患に対する有効性等が挙げられる。
【0082】
図11に、所定の被験物質を用いて細胞群の運動特性を測定する場合に得られ得る結果の模式図を示す。図11に示すように、本実施形態の細胞群運動特性評価システムは、被験物質を投与しない場合と、段階的に投与の最終濃度を増加させた場合について、細胞群の収縮力の時間変化をグラフとして表示し、比較することができ得る。
【0083】
本実施形態の細胞群運動特性評価システム及び細胞群運動特性評価方法において、細胞群として筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する細胞を含む細胞群を用い、被験物質を細胞群と共存させて撮像データを取得することにより、当該疾患に対して有効となる薬剤をスクリーニングすることができる。
当該疾患としては、例えば心筋又は骨格筋が関与する疾患であり、心疾患又は筋疾患である。また、当該疾患は、遺伝性疾患であってよい。
筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する細胞は、例えば当該疾患を有する対象に由来する多能性幹細胞から分化した細胞であってよく、そのような細胞を含む細胞群は、例えば該疾患を有する対象に由来する多能性幹細胞から作製される筋芽細胞及び/又は筋細胞を培養して得ることができ得る。
【0084】
本実施形態の薬剤の有効性を評価する方法の一態様は、筋肉が関与する疾患を有する対象に由来する多能性幹細胞から筋芽細胞及び筋細胞の少なくとも1種を作製する工程と、筋芽細胞及び筋細胞の少なくとも1種を培養して、1対の細胞支持体に跨って形成されている細胞群を得る工程と、薬剤と細胞群とを接触させる工程と、当該接触の前後において細胞群の運動特性を評価する工程と、を含む。このような態様によれば、対象とする疾患に有効な薬剤をスクリーニングすることができ、また当該薬剤の毒性を評価することができる。
【0085】
薬剤の有効性は、例えば薬剤との接触前後における細胞群の運動特性を統計的手法により解析し、薬剤の効果の有意性を評価することで行ってよい。薬剤の有効性を評価する方法は、複数の薬剤について細胞群の運動特性の改善の程度を評価し、細胞群の運動特性を改善させた薬剤を選択するか、疾患の治療又は予防に有効であると予測される薬剤を選択する工程を含んでいてよい。
【符号の説明】
【0086】
1…細胞群運動特性評価システム、2…細胞群測定デバイス、3…細胞群測定装置、21…細胞群、22…細胞支持体、23…収容部、24…空洞部、31…撮像部、32…記憶部、33…撮像データ解析部、34…出力部、41…RAM、42…ROM、43…ストレージ、44…CPU、45…入力部、46…表示部、47…システムバス、221…柱状部、222…ディスク部、331…計測部、332…運動特性算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11