(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161637
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/08 20060101AFI20241113BHJP
B23K 9/09 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B23K9/08 D
B23K9/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076430
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082BA04
4E082EA06
4E082EA11
4E082EB11
4E082EC03
4E082ED01
4E082EF14
4E082HA04
(57)【要約】
【課題】磁気吹きの発生を抑制し、かつ、溶接品質を良好に維持すること。
【解決手段】溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間Tu中はベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間Tp中はピーク電流Ipを通電し、立下り期間Tk中はピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間Tb中はベース電流Ibを通電し、これらの溶接電流Iwの通電を1パルス周期Tfとして繰り返し、溶接電圧Vwの平均値が溶接電圧設定値と等しくなるようにパルス周期Tfをフィードバック制御して溶接を行うパルスアーク溶接制御方法において、ベース期間Tb中の溶接電圧Vwの上昇によって時刻t12に磁気吹きの発生を判別Adしたときは、フィードバック制御によって変化するパルス周期Tfの最大値を制限する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返し、
溶接電圧の平均値が溶接電圧設定値と等しくなるように前記パルス周期をフィードバック制御して溶接を行うパルスアーク溶接制御方法において、
前記ベース期間中の溶接電圧の上昇によって磁気吹きの発生を判別したときは、前記フィードバック制御によって変化する前記パルス周期の最大値を制限する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記制限を、前記パルス周期の開始時点から前記磁気吹きの発生を判別した時点までの時間長さに基づいて行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記パルス周期の最大値を制限したときは前記ピーク電流及び/又は前記ピーク期間を減少させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気吹きによる溶接状態の不安定を抑制することができるパルスアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式パルスアーク溶接は、鉄鋼等の溶接に広く使用されている。このパルスアーク溶接では、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中はピーク電流を通電し、立下り期間中はピーク電流からベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中はベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返して溶接が行われる。また、溶接電圧の平均値が溶接電圧設定値と等しくなるようにパルス周期をフィードバック制御することによってアーク長を適正値に維持している。パルスアーク溶接では、1パルス周期1溶滴移行状態となるので、溶滴移行状態が安定しているために、スパッタの発生が少なく、美しいビード外観を得ることができる。
【0003】
パルスアーク溶接を含む消耗電極式アーク溶接においては、アーク及び母材に通電する溶接電流によってアーク周辺部に磁界が形成されて、この磁界からアークは力を受けて偏向する場合がある。このような状態を、一般的に磁気吹き又はアークブローと呼んでいる。磁気吹きが発生するかは、母材に通電する溶接電流によって形成される磁界の形態によって決まる。溶接している部分が母材の端部から離れているときには、磁界は対称形状に形成されることが多いために、アークは磁界から偏った力を受けることがないので、磁気吹きは発生しにくい。他方、溶接している部分が母材の端部に近いときは、磁界は非対称形状に形成されるために、アークは磁界から偏った力を受けることになり、磁気吹きが発生しやすくなる。したがって、母材の端部の近くとなることが多い溶接開始部分及び溶接終了部分では、磁気吹きが発生しやすい。消耗電極式アークの中でも、短絡移行溶接では磁気吹きは発生しにくく、パルスアーク溶接では発生しやすい。これは、短絡移行溶接では、アーク長がパルスアーク溶接に比べて短いために、磁界からの影響を受けにくいためである。他方、パルスアーク溶接では、大電流値のピーク電流が通電しているときは強い磁界が形成され、小電流値のベース電流が通電しているときは弱い磁界が形成されている。パルスアーク溶接では、この磁界の強さの変化が大きいこと、かつ、ベース電流が小さいので磁界から偏った力を受けると直ぐにアークが偏向すること、が原因となって磁気吹きが発生しやすい。したがって、パルスアーク溶接では、磁気吹きによるアークの偏向は、ベース期間中に発生しやすい。磁気吹きが発生すると、アークが偏向するために溶接品質が悪くなる。さらには、アークの偏向が大きくなると、アーク切れが発生して溶接欠陥となる場合も生じる。したがって、磁気吹き対策は良好な溶接品質を得るためには重要である。
【0004】
従来からパルスアーク溶接において、種々の磁気吹き対策が提案されている。その代表的なものは、磁気吹きを判別すると、ベース電流を増加させてアークの硬直性を強くすることでアークの偏向を抑制する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術の磁気吹き対策では、ベース電流を増加させているために、溶接ワイヤの溶融が促進されて溶滴を形成することになる。この結果、1パルス周期1溶滴移行状態から外れることになり、スパッタの発生、ビード外観等の溶接品質が悪くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、磁気吹きの発生を抑制し、かつ、溶接品質を良好に維持することができるパルスアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返し、
溶接電圧の平均値が溶接電圧設定値と等しくなるように前記パルス周期をフィードバック制御して溶接を行うパルスアーク溶接制御方法において、
前記ベース期間中の溶接電圧の上昇によって磁気吹きの発生を判別したときは、前記フィードバック制御によって変化する前記パルス周期の最大値を制限する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記制限を、前記パルス周期の開始時点から前記磁気吹きの発生を判別した時点までの時間長さに基づいて行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記パルス周期の最大値を制限したときは前記ピーク電流及び/又は前記ピーク期間を減少させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るパルスアーク溶接制御方法によれば、磁気吹きの発生を抑制し、かつ、溶接品質を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。溶接装置は、主に破線で囲まれた溶接電源PS、ロボット制御装置RC、ロボット(図示は省略)等から構成されている。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
溶接電源PSは、以下の各ブロックから構成されている。電源主回路MCは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路MCは、図示は省略するが、交流商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランス、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路を備えている。
【0016】
リアクトルWLは、上記の電源主回路MCの+側出力と溶接トーチ4との間に挿入されており、電源主回路MCの出力を平滑する。
【0017】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcによって回転駆動される。溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給速度Fwで送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。送給モータWM及び溶接トーチ4は、ロボットに搭載されている。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0018】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電圧平均化回路VAVは、この溶接電圧検出信号Vdを平均化(ローパスフィルタを通す)して、溶接電圧平均値信号Vavを出力する。溶接電圧設定回路VRは、予め定めた溶接電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧設定信号Vr(+)と上記の溶接電圧平均値信号Vav(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0019】
V/FコンバータVFは、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び後述するパルス周期制限値信号Tlを入力として、電圧誤差増幅信号Evに応じた周期に変換し、周期がパルス周期制限値信号Tlを超過しているときは制限値に置換し、上記の周期ごとに短時間Highレベルとなるトリガ信号であるパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfが短時間Highレベルになる周期が1パルス周期となる。
【0020】
立上り期間設定回路TURは、予め定めた立上り期間設定信号Turを出力する。ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。立下り期間設定回路TKRは、予め定めた立下り期間設定信号Tkrを出力する。
【0021】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0022】
溶接電流設定回路IRは、上記のパルス周期信号Tf、上記の立上り期間設定信号Tur、後述するピーク期間修正信号Tps、上記の立下り設定信号Tkr、後述するピーク電流修正信号Ips及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに、以下の処理を行ない、溶接電流設定信号Irを出力する。
1)立上り期間設定信号Turによって定まる期間中は、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流修正信号Ipsの値へと上昇する溶接電流設定信号Irを出力する。
2)続けて、ピーク期間修正信号Tpsによって定まる期間中は、ピーク電流修正信号Ipsを溶接電流設定信号Irとして出力する。
3)続けて、立下り期間設定信号Tkrによって定まる期間中は、ピーク電流修正信号Ipsの値からベース電流設定信号Ibrの値へと下降する溶接電流設定信号Irを出力する。
4)続けて、パルス周期信号Tfが再び短時間Highレベルになるまでの期間中は、ベース電流設定信号Ibrを溶接電流設定信号Irとして出力する。
【0023】
磁気吹き判別回路ADは、上記の溶接電流設定信号Ir、上記のベース電流設定信号Ibr及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、溶接電流設定信号Irの値がベース電流設定信号Ibrの値と等しい期間(ベース期間Tb)のときの溶接電圧検出信号Vdの値が予め定めた基準電圧値Vt以上になると磁気吹きが発生したと判別してHighレベルにセットされ、その後に溶接電流設定信号Irの値がベース電流設定信号Ibrの値よりも大きくなり次のパルス周期が開始されるとLowレベルにリセットされる磁気吹き判別信号Adを出力する。磁気吹きの発生を、溶接電圧検出信号Vdの上昇率が基準値以上になったことによって判別しても良い。
【0024】
パルス周期制限値設定回路TLは、上記の磁気吹き判別信号Adを入力として、最初は予め定めた初期値となり、その後に、磁気吹き判別信号AdがHighレベルになるとパルス周期の開始時点からの磁気吹き発生期間を検出し、磁気吹き発生期間の所定回数の平均値を算出し、平均値が算出されると平均値から所定期間だけ短い値となるパルス周期制限値信号Tlを出力する。パルス周期は最大でも20ms以下であるので、初期値は例えば100msに設定する。すなわち、初期値に設定されているときはフィードバック制御されるパルス周期の時間長さは制限されないことになる。例えば、所定回数は1~10回程度であり、所定期間は1ms程度である。
【0025】
パルス条件修正回路PCは、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のピーク期間設定信号Tpr及び上記のパルス周期制限値信号Tlを入力として、以下の処理を行い、ピーク電流修正信号Ips及びピーク期間修正信号Tpsを出力する。
1)パルス周期制限値信号Tlの値が初期値であるときは、パルス周期に制限がかかっていない状態であると判別して、ピーク電流設定信号Ipr及びピーク期間設定信号Tprの値をそのままピーク電流修正信号Ips及びピーク期間修正信号Tpsとして出力する。
2)パルス周期制限値信号Tlが初期値よりも小さな値になると、パルス周期に制限がかかる状態となったと判別して、ピーク電流設定信号Ipr及び/又はピーク期間設定信号Tprの値を減少値だけ減少させてピーク電流修正信号Ips及びピーク期間修正信号Tpsとして出力する。減少値は、パルス周期制限値信号Tlの値が短いほど大きな値となる。例えば、ピーク電流設定信号Iprの減少値は30Aであり、ピーク期間設定信号Tprの減少値は0.2msである。
【0026】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の溶接電流設定信号Ir(+)と上記の溶接電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、この電流誤差増幅信号Ei及び後述するロボット制御装置RCからの起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは電流誤差増幅信号Eiに基いてPWM変調制御を行ない上記の電源主回路MC内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、起動信号OnがLowレベル(溶接停止)のときは駆動信号Dvを出力しない。
【0027】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Fr及び後述するロボット制御装置RCからの起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frの値で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力し、起動信号OnがLowレベルのときは送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0028】
ロボット制御装置RCは、予め教示された作業プログラムに従ってロボット(図示は省略)を移動させると共に、溶接開始又は溶接停止を指令する起動信号Onを出力する。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は磁気吹き判別信号Adの時間変化を示し、同図(D)は溶接ワイヤの送給速度Fwの時間変化を示す。同図は、時刻t1~t2のパルス周期中に磁気吹きが発生している場合である。以下、同図を参照して、磁気吹き対策制御について説明する。
【0030】
同図(D)に示すように、送給速度Fwは溶接中は予め定めた一定の速度で送給されている。時刻t1~t2のパルス周期Tfにおいて、立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する上昇遷移電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加する。続くピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤから溶滴を移行させるために臨界値以上の大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。続く立下り期間Tk中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流Ikが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する下降遷移電圧が印加する。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために臨界値未満の小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したベース電圧Vbが印加する。アーク長は、ピーク期間Tp中は長くなり、ベース期間Tb中は短くなる。
【0031】
本実施の形態においては、
図1の溶接電圧平均値信号Vavの値が予め定めた
図1の溶接電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにパルス周期Tfがフィードバック制御(変調制御)される。このために、
図1の立上り期間設定信号Turによって定まる立上り期間Tu、
図1のピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tp、
図1の立下り期間設定信号Tkrによって定まる立下り期間Tk、
図1のピーク電流設定信号Iprによって定まるピーク電流Ip及び
図1のベース電流設定信号Ibrによって定まるベース電流Ibはそれぞれ所定値に設定され、ベース期間Tb(パルス周期Tf)は溶接電圧Vwの平均値が予め定めた溶接電圧設定値と等しくなるようにフィードバック制御によって定まる。時刻t1~t2のパルス周期Tfにおいては、
図1のパルス周期制限値信号Tlは初期値の状態であるので、パルス周期Tfの時間長さには制限されないので、フィードバック制御によって定まる時間長さとなっている。例えば、Tu=1ms、Tp=1.5ms、Tk=1ms、Ip=450A、Ib=50Aである。Tfは所定値ではないが、4~20ms程度の範囲で変化する。
【0032】
ベース期間Tb中の時刻t11において、磁気吹きが発生してアークが偏向したためにアーク長が長くなり、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが通常値から上昇して大きくなる。そして、時刻t12において、ベース電圧Vbの値が、破線で示す予め定めた基準電圧値Vt以上になる。ベース電圧値Vbが上記の基準電圧値Vt以上になったことを判別すると、同図(C)に示すように、磁気吹き判別信号AdがHighレベルに変化する。この磁気吹き判別信号Adは、時刻t12から次周期の開始時点である時刻t2までHighレベルを維持する。これに応動して、
図1のパルス周期制限値設定回路TLによって以下の処理が行われる。
1)時刻t12に磁気吹き判別信号AdがHighレベルになると、時刻t1のパルス周期の開始時点からの磁気吹き発生期間(時刻t1~t12の期間)を検出する。
2)磁気吹き発生期間の所定回数の平均値を算出する。所定回数は1~10回程度である。
3)平均値が算出されると、平均値から所定期間だけ短い値となるパルス周期制限値信号Tlを出力する。所定期間は1ms程度である。
例えば、所定回数が3である場合には、磁気吹き判別信号Adが3回Highレベルになったときの磁気吹き発生期間の3回の平均値を算出する。例えば、平均値が7msであったとする。そして、時刻t1~t2のパルス周期Tfが3回目の磁気吹き判別信号AdがHighレベルとなった場合であるとすると、算出された平均値7msから所定期間1msだけ短い値6msとなるパルス周期制限値信号Tlを出力する。
【0033】
時刻t2のパルス周期Tfの開始時点において、
図1のパルス条件修正回路PCによって以下の処理が行われる。上述したように前周期において、
図1のパルス周期制限値信号Tlの値が初期値よりも小さな値に設定されたために、パルス周期に制限がかかる状態となり、ピーク電流Ip及び/又はピーク期間Tpの値を減少値だけ減少させる。減少値は、パルス周期制限値信号Tlの値が短いほど大きな値となる。例えば、ピーク電流Ipの減少値が30Aであるとすると、ピーク電流値Ip=450-30=420Aに減少する。同様に、ピーク期間Tpの減少値が0.2msであるとすると、ピーク期間Tp=1.5-0.2=1.3msに減少する。減少したピーク電流Ipは
図1のピーク電流修正信号Ipsによって設定され、減少したピーク期間Tpは
図1のピーク期間修正信号Tpsによって設定される。
【0034】
時刻t2~t3のパルス周期Tfは、
図1の溶接電圧平均値信号Vavの値が予め定めた
図1の溶接電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにフィードバック制御によって決定される。しかし、
図1のパルス周期制限値信号Tlが初期値よりも小さな値となっているために、フィードバック制御によって決定されたパルス周期Tfがパルス周期制限値信号Tlの値以上になっている場合には制限される。ここで、上述したようにTl=6msに設定されているので、パルス周期Tfは最大値が6msに制限されることになる。この結果、ベース期間Tb中の磁気吹きが発生する時点よりも前にパルス周期Tfが終了するようになるために、磁気吹きの発生を防止することができる。このパルス周期Tfの制限は、溶接が終了するまで継続しても良いし、所定のパルス周期の期間のみ継続するようにしても良い。所定のパルス周期は、例えば10周期に設定する。
【0035】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、ベース期間中の溶接電圧の上昇によって磁気吹きの発生を判別したときは、フィードバック制御によって変化するパルス周期の最大値を制限する。磁気吹きはベース期間が長くなるほど発生しやすくなる。そこで、磁気吹きの発生を判別したときは、フィードバック制御によって変化するパルス周期の最大値を制限することによって、ベース期間が短くなるように制御している。この結果、磁気吹きの発生を抑制することができる。さらに、磁気吹きを抑制するために従来技術のようにベース電流を増加させていないので、溶接品質を良好に維持することができる。
【0036】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、制限を、パルス周期の開始時点から磁気吹きの発生を判別した時点までの時間長さに基づいて行う。このようにすると、パルス周期の最大値の制限を、磁気吹きが発生しやすくなる直前の時間長さとして設定することができる。この結果、パルス周期の最大値を過度に制限することがないので、フィードバック制御の過渡応答性を良好に維持することができる。
【0037】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、パルス周期の最大値を制限したときは、ピーク電流及び/又はピーク期間を減少させる。このようにすると、パルス周期が制限されたときに、ピーク電流及び/又はピーク期間が減少するので、パルス周期が短くなっても溶接電流の平均値を略一定に維持することができる。この結果、溶接品質をより良好に維持することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AD 磁気吹き判別回路
Ad 磁気吹き判別信号
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ik 下降遷移電流
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
Ips ピーク電流修正信号
IR 溶接電流設定回路
Ir 溶接電流設定信号
Iu 上昇遷移電流
Iw 溶接電流
MC 電源主回路
On 起動信号
PC パルス条件修正回路
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
Tb ベース期間
Tf パルス周期(信号)
TKR 立下り期間設定回路
Tkr 立下り期間設定信号
TL パルス周期制限値設定回路
Tl パルス周期制限値信号
Tp ピーク期間
TPR ピーク期間設定回路
Tpr ピーク期間設定信号
Tps ピーク期間修正信号
Tu 立上り期間
TUR 立上り期間設定回路
Tur 立上り期間設定信号
VAV 溶接電圧平均化回路
Vav 溶接電圧平均値信号
Vb ベース電圧
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VF V/Fコンバータ
Vp ピーク電圧
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
Vt 基準電圧値
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ