(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161639
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20241113BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076432
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AB01
4E082EA11
4E082EB14
4E082EC03
4E082EC13
4E082EF07
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、種々の溶接条件に応じて、くびれ検出基準値を最適値に設定すること。
【解決手段】溶接ワイヤを送給し、アーク期間と短絡期間とを繰り返し、短絡期間中に溶接ワイヤと母材との間の電圧値Vw又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって溶滴のくびれを検出すると溶接電流Iwを減少させてアークを再発生させるアーク溶接制御方法において、くびれの検出時点t2からアークの再発生時点t3までの時間をくびれ検出時間Tnとし、所定個数のくびれ検出時間Tnを記憶し、くびれ検出時間Tnが予め定めた適正時間範囲内に属している百分率をくびれ検出成功率として定義し、くびれ検出基準値を複数個変化させてくびれ検出成功率を算出し、くびれ検出基準値をくびれ検出成功率が最も高かった値に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、アーク期間と短絡期間とを繰り返し、
前記短絡期間中に前記溶接ワイヤと母材との間の電圧値又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させるアーク溶接制御方法において、
前記くびれの検出時点から前記アークの再発生時点までの時間をくびれ検出時間とし、所定個数の前記くびれ検出時間を記憶し、前記くびれ検出時間が予め定めた適正時間範囲内に属している百分率をくびれ検出成功率として定義し、
前記くびれ検出基準値を複数個変化させて前記くびれ検出成功率を算出し、前記くびれ検出基準値を前記くびれ検出成功率が最も高かった値に設定する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記複数個の前記くびれ検出基準値は、第1くびれ検出基準値、前記第1くびれ検出基準値よりも小さな値の第2くびれ検出基準値及び前記第1くびれ検出基準値よりも大きな値の第3くびれ検出基準値である、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記第2くびれ検出基準値において前記くびれ検出成功率が最も高かったときは、前記第2くびれ検出基準値から順次所定値だけ小さくして前記くびれ検出成功率を算出し、前記くびれ検出基準値を前記くびれ検出成功率が最も高かった値に設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項4】
前記第3くびれ検出基準値において前記くびれ検出成功率が最も高かったときは、前記第3くびれ検出基準値から順次所定値だけ大きくして前記くびれ検出成功率を算出し、前記くびれ検出基準値を前記くびれ検出成功率が最も高かった値に設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出して溶接電流を減少させるアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中に溶接ワイヤと母材との間の電圧値又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法が提案されている。このくびれ検出制御方法によって、アーク再発生時の溶接電流の値が小さくなるために、スパッタ発生量が非常に少なくなり、溶融池の振動が小さくなりビード外観が良好になる。
【0003】
くびれの検出は、短絡期間中の溶接電圧の微小な変化に基づいて行われる。この微小な溶接電圧の変化を検出するために、アーク発生部の近傍に検出線が配線される。溶接ワイヤの送給速度、溶接電源とアーク発生部とを接続する溶接ケーブルの長さ、アーク発生部近傍の溶接電圧の検出位置等の溶接条件によって、くびれ検出基準値の適正値は大きく影響される。
【0004】
特許文献1の発明では、短絡ごとにくびれ検出時点からアーク再発生時点までのくびれ検出時間を検出し、現時点から過去所定個数分のくびれ検出時間を記憶し、記憶された各くびれ検出時間が予め定めた下限時間以下である個数が予め定めた下限個数以上であるときはくびれ検出基準値を予め定めた減少値だけ減少させ、記憶された各くびれ検出時間が予め定めた上限時間以上である個数が予め定めた上限個数以上であるときはくびれ検出基準値を予め定めた増加値だけ増加させることによってくびれ検出基準値を適正化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術によって種々の溶接条件に応じてくびれ検出基準値を適正化しても、その値が最適値に調整されているとは限らないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、種々の溶接条件に応じて、くびれ検出基準値を最適値に設定することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、アーク期間と短絡期間とを繰り返し、
前記短絡期間中に前記溶接ワイヤと母材との間の電圧値又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させるアーク溶接制御方法において、
前記くびれの検出時点から前記アークの再発生時点までの時間をくびれ検出時間とし、所定個数の前記くびれ検出時間を記憶し、前記くびれ検出時間が予め定めた適正時間範囲内に属している百分率をくびれ検出成功率として定義し、
前記くびれ検出基準値を複数個変化させて前記くびれ検出成功率を算出し、前記くびれ検出基準値を前記くびれ検出成功率が最も高かった値に設定する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記複数個の前記くびれ検出基準値は、第1くびれ検出基準値、前記第1くびれ検出基準値よりも小さな値の第2くびれ検出基準値及び前記第1くびれ検出基準値よりも大きな値の第3くびれ検出基準値である、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記第2くびれ検出基準値において前記くびれ検出成功率が最も高かったときは、前記第2くびれ検出基準値から順次所定値だけ小さくして前記くびれ検出成功率を算出し、前記くびれ検出基準値を前記くびれ検出成功率が最も高かった値に設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法である。
【0011】
請求項4の発明は、
前記第3くびれ検出基準値において前記くびれ検出成功率が最も高かったときは、前記第3くびれ検出基準値から順次所定値だけ大きくして前記くびれ検出成功率を算出し、前記くびれ検出基準値を前記くびれ検出成功率が最も高かった値に設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアーク溶接制御方法によれば、種々の溶接条件に応じて、くびれ検出基準値を最適値に設定することができるので、常に高品質の溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0017】
上記の電源主回路PMの出力端子6aと溶接トーチ4とは溶接ケーブル7aで接続されており、もう一方の出力端子6bと母材2とは溶接ケーブル7bで接続されている。
【0018】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと出力端子6aとの間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0019】
溶接ワイヤ1は、送給機FDによって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0020】
溶接電圧検出回路VDは、アーク発生部の溶接電圧Vwを検出線5によって入力し、予め定めたカットオフ周波数のローパスフィルタを通して溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電圧Vwは、給電チップ・母材間電圧である。給電チップの代わりに送給機FD又は溶接トーチ4の導電部から電圧を検出する場合もある。溶接電圧Vwは、くびれ検出の精度を高めるために、できる限りアーク発生部に近い位置での電圧であることが望ましい。検出線5は、溶接電圧Vwを検出するために、配線される。電源主回路PMのインバータ回路による高周波ノイズを除去するための上記のカットオフ周波数は、例えば10kHzに設定される。
【0021】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0022】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0023】
くびれ検出基準値設定回路VTNは、後述するくびれ検出成功率信号Rsを入力として、くびれ検出基準値信号Vtnの値を複数個変化させて出力し、各くびれ検出基準値信号Vtnの値に対応したくびれ検出成功率信号Rsの値を算出し、その後に、くびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値のくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。具体的には以下のように行う。
1)複数個のくびれ検出基準値信号Vtnの値を第1くびれ検出基準値、第1くびれ検出基準値よりも小さな値の第2くびれ検出基準値及び第1くびれ検出基準値よりも大きな値の第3くびれ検出基準値としてくびれ検出成功率信号Rsの値を算出する。その後、くびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値をくびれ検出基準値信号Vtnとして出力する。
2)上記の1)において第2くびれ検出基準値がくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かったときは、第2くびれ検出基準値から順次所定値だけ小さくしてくびれ検出成功率信号Rsの値を算出し、くびれ検出基準値信号Vtnの値をくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値に設定する。
3)上記の1)において第3くびれ検出基準値がくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かったときは、第3くびれ検出基準値から順次所定値だけ大きくしてくびれ検出成功率信号Rsの値を算出し、くびれ検出基準値信号Vtnの値をくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値に設定する。
【0024】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記のくびれ検出基準値信号Vtn、上記の溶接電圧検出信号Vd及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベルとなる短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdの電圧上昇値がくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)になるとLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。くびれの検出時点からアークの再発生時点までの時間がくびれ検出時間Tnであり、くびれ検出信号NdがHighレベルの期間である。溶接電圧検出信号Vdの微分値がこれに対応して設定されたくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdがHighレベルに変化するようにしても良い。さらに、溶接電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がこれに対応して設定されたくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdがHighレベルに変化するようにしても良い。
【0025】
くびれ検出成功率算出回路RSは、上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルとなるくびれ検出時間Tnを所定個数記憶し、記憶した各くびれ検出時間Tnが予め定めた適正時間範囲内に属している個数の百分率を算出し、くびれ検出成功率信号Rs[%]を出力する。例えば、所定個数は10~100程度に設定され、適正時間範囲は下限値が0.1msであり上限値が1msである。
【0026】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0027】
電流比較回路CMは、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0028】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。この結果、溶接電流Iwは、低レベル電流設定信号Ilrの値を維持する。
【0029】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、初期電流設定値から上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)上昇中に、くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し、予め定めた遅延期間Tdが経過すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0030】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、両値の誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0031】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、両値の誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0032】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間及び上記の高電流期間が経過した時点までの期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間Td+高電流期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0033】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給機FDに出力する。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0035】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において溶接ワイヤ1が母材2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。そして、
図1の溶接電圧検出信号Vdの値が短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流値から減少し、時刻t1~t11の初期期間中は予め定めた初期電流値となり、時刻t11~t2の期間中は次第に上昇する。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2~t3のくびれ時間Tn中はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2~t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常のアーク溶接装置と同一の状態となる。例えば、上記の初期期間は0.5ms程度であり、初期電流値は50A程度であり、上記の溶接電流Iwの上昇速度は100A/ms程度であり300A程度まで上昇する。
【0036】
同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが上昇を継続している期間中に次第に上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。この溶接電圧Vwの変化を
図1の溶接電圧検出信号Vdによって検出する。
【0037】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、くびれの形成状態が基準状態に達したことを溶接電圧Vwの電圧上昇値が
図1のくびれ検出基準値信号Vtnの値に達したことによって検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。また、溶接電圧Vwを溶接電流Iwで除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がこれに対応して設定されたくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdがHighレベルに変化するようにしても良い。くびれ検出信号NdがHighレベルに変化したことに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは急減する。そして、時刻t21において、溶接電流Iwが低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21からアークが再発生する時刻t3まで低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれが検出されてから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。例えば、上記の低レベル電流値Ilは40A程度に設定される。
【0038】
(3)時刻t3のアーク再発生から遅延期間Tdが経過して時刻t4の高電流期間が終了するまでの動作
時刻t3においてアーク3が再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは急増し、
図1の溶接電圧検出信号Vdの値は短絡/アーク判別値Vta以上となるので、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって、時刻t3~t31の遅延期間Td中は低レベル電流値Ilを維持し、時刻t31~t4の高電流期間中は上昇して高レベル電流値に達するとその値を維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中はアーク電圧値となり、時刻t31~t4の高電流期間中はそれよりも大の高レベル電圧値となる。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t3にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。例えば、上記の遅延期間Tdは0.1ms程度に設定され、上記の高電流期間は1ms程度に設定され、上記の高電流値は400A程度に設定される。
【0039】
(4)時刻t4の高電流期間終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において高電流期間が終了すると、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、アーク負荷に応じて高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値から次第に減少する。
【0040】
以下、くびれ検出基準値の最適化手法について説明する。
図1のくびれ検出成功率算出回路RSにおいて、各短絡ごとに時刻t2~t3のくびれ検出時間Tnを所定個数記憶し、記憶した各くびれ検出時間Tnが予め定めた適正時間範囲内に属している個数の百分率を算出し、くびれ検出成功率信号Rs[%]を出力する。例えば、所定個数は10~100程度に設定され、適正時間範囲は下限値が0.1msであり上限値が1msである。所定個数が100である場合において、100回の短絡期間におけるくびれ検出時間Tnを記憶する。そして、それらの100個の内で0.1~1msの適正時間範囲に属している個数が91であった場合には、くびれ検出成功率は91%として算出される。くびれ検出時間Tnが適正時間範囲の下限値よりも短い場合には、アーク再発生時点において溶接電流が十分に低い値まで減少していないことになり、スパッタの低減効果が小さくなる。くびれ検出時間Tnが適正時間範囲の上限値よりも長い場合には、溶接電流が低い状態が長く継続しているために、入熱が過少となり、溶接状態が不安定になる。したがって、くびれ検出時間Tnが適正時間範囲内にある場合に、スパッタの低減効果が大きくなり、溶接状態も安定になる。
【0041】
図1のくびれ検出基準値設定回路VTNにおいて、くびれ検出成功率信号Rsを入力として、くびれ検出基準値信号Vtnの値を複数個変化させて出力し、各くびれ検出基準値信号Vtnの値に対応したくびれ検出成功率信号Rsの値を算出し、その後に、くびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値のくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。具体的には以下のように行う。
1)複数個のくびれ検出基準値信号Vtnの値を第1くびれ検出基準値V1、第1くびれ検出基準値V1よりも小さな値の第2くびれ検出基準値V2及び第1くびれ検出基準値V1よりも大きな値の第3くびれ検出基準値V3としてくびれ検出成功率信号Rsの値を算出する。その後、くびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値をくびれ検出基準値信号Vtnとして出力する。
2)上記の1)において第2くびれ検出基準値V2においてくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かったときは、第2くびれ検出基準値から順次所定値だけ小さくしてくびれ検出成功率信号Rsの値を算出し、くびれ検出基準値信号Vtnの値をくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値に設定する。
3)上記の1)において第3くびれ検出基準値V3においてくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かったときは、第3くびれ検出基準値から順次所定値だけ大きくしてくびれ検出成功率信号Rsの値を算出し、くびれ検出基準値信号Vtnの値をくびれ検出成功率信号Rsの値が最も高かった値に設定する。
【0042】
数値例を挙げて、上記のくびれ検出基準値設定回路VTNの動作について説明する。
(1)V1→Rs=97%、V2→Rs=95%、V3→Rs=92%の場合は、V1を最適なくびれ検出基準値として選択する。
(2)V1→Rs=93%、V2→Rs=95%、V3→Rs=90%の場合は、以下の処理を続ける。V2より所定値だけ小さな値のV21→Rs=97%、V21より所定値だけ小さな値のV22→Rs=96%の場合は、V21を最適なくびれ検出基準値として選択する。
(3)V1→Rs=93%、V2→Rs=90%、V3→Rs=95%の場合は、以下の処理を続ける。V3より所定値だけ大きな値のV31→Rs=97%、V31より所定値だけ小さな値のV32→Rs=96%の場合は、V31を最適なくびれ検出基準値として選択する。
【0043】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、くびれの検出時点からアークの再発生時点までの時間をくびれ検出時間とし、所定個数のくびれ検出時間を記憶し、くびれ検出時間が予め定めた適正時間範囲内に属している百分率をくびれ検出成功率として定義し、くびれ検出基準値を複数個変化させてくびれ検出成功率を算出し、くびれ検出基準値をくびれ検出成功率が最も高かった値に設定する。これにより、本実施の形態では、くびれ検出基準値を複数個変化させてくびれ検出成功率が最高となる値に設定することができるので、種々の溶接条件に応じて、くびれ検出基準値を最適値に設定することができる。
【0044】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、複数個のくびれ検出基準値は、第1くびれ検出基準値、第1くびれ検出基準値よりも小さな値の第2くびれ検出基準値及び第1くびれ検出基準値よりも大きな値の第3くびれ検出基準値である。これにより、本実施の形態では、くびれ検出基準値を第1くびれ検出基準値、第2くびれ検出基準値及び第3くびれ検出基準値に変化させてくびれ検出成功率が最も高かった値に設定することができる。
【0045】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、第2くびれ検出基準値においてくびれ検出成功率が最も高かったときは、第2くびれ検出基準値から順次所定値だけ小さくしてくびれ検出成功率を算出し、くびれ検出基準値をくびれ検出成功率が最も高かった値に設定する。これにより、本実施の形態では、くびれ検出成功率が最高となるくびれ検出基準値に設定することができる。
【0046】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、第3くびれ検出基準値においてくびれ検出成功率が最も高かったときは、第3くびれ検出基準値から順次所定値だけ大きくしてくびれ検出成功率を算出し、くびれ検出基準値をくびれ検出成功率が最も高かった値に設定する。これにより、本実施の形態では、くびれ検出成功率が最高となるくびれ検出基準値に設定することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 検出線
6a、6b 出力端子
7a、7b 溶接ケーブル
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FD 送給機
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Il 低レベル電流値
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
RS くびれ検出成功率算出回路
Rs くびれ検出成功率信号
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SW 制御切換回路
Td 遅延期間
TR トランジスタ
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
VTN くびれ検出基準値設定回路
Vtn くびれ検出基準値信号
Vw 溶接電圧