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特開2024-161655電解液およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161655
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】電解液およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20241113BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241113BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076482
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100181593
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 寿晃
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】浅井 優作
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ07
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H050AA07
5H050AA13
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高電圧であっても安定して用いることができる電解液およびリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】電解液は、特定の化合物、溶媒、および、リチウム塩を含む。前記特定の化合物は、例えば、酸触媒の存在下、アセナフテンキノンと2等モル量のメチル2-アミノチオフェンをアセトニトリルに溶解し、窒素雰囲気下還流下で一晩攪拌を行うことで合成することができ、具体的には、下記BIAN-thiopheneが示される。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物、溶媒、および、リチウム塩を含む、
ことを特徴とする電解液。
【化1】
11、R12、R13、R21、R22、R23、R31、R32、R33、R41、R42およびR43は、それぞれ独立に、置換基を表す。
【請求項2】
前記化合物は、前記電解液に0mg/ml超6.0mg/ml以下含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記置換基としては、ホウ素、硫黄、リン、フッ素、イソシアネート基(N=C=O)、シリルオキシ基(Si-O)、ホスホネート基(P(OR51)2R52)のうち1または複数含み、R51、R52は有機基である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電解液。
【請求項4】
前記溶媒は、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートを含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電解液。
【請求項5】
請求項1または2に記載の電解液を含む、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
正極活物質として、LiNiCoMa1-x-y(式中、Maは、MnおよびAlからなる群より選ばれる1種以上を示し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、x+y≦1である。)を備える、
ことを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイパワーで高容量の二次電池が、電気自動車、携帯電話、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)等の可搬型機器類または予備電源などに多く使用されている。
【0003】
このような二次電池として、特許文献1は、炭酸エステルを含有する非水電解液を含むリチウム二次電池を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-6786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニッケル・マンガン・コバルト三成分混合系金属酸化物材料は、高電圧および高工ネルギー密度を与えるリチウムイオン二次電池用電解質として研究されている。現状の商用のリチウムイオン二次電池の正極材料として用いられているLiCoO系では3.7V程度の電圧を出力するが、この電圧は汎用電解液のエチレンカーボネートの分解開始電圧以下であるので、大きな問題を有していない。しかし、三成分混合系を活用した次世代電池向け高電圧系(4.5V~5.0V)では、何らかの工夫がなければ電解液を安定に用いることはできないと考えられている。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、高電圧であっても安定して用いることができる電解液およびリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る電解液の一様態は、
式(1)で表される化合物、溶媒、および、リチウム塩を含むことを特徴とする。
【化1】
11、R12、R13、R21、R22、R23、R31、R32、R33、R41、R42およびR43は、それぞれ独立に、置換基を表す。
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一様態は、
前記電解液を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高電圧であっても安定して用いることができる電解液およびリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例および比較例に係るカソードハーフセルの長期サイクル試験の結果を示す図である。
図2】(A)は、サイクル試験前のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM(Scanning Electron Microscope)像であり、(B)は、比較例の100サイクル後のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM像であり、(C)は、実施例の100サイクル後のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM像である。
図3】(A)は、実施例および比較例に係るカソードハーフセルのレート試験を示す図であり、(B)は、実施例および比較例に係るカソードハーフセルのサイクル試験を示す図である。
図4】(A)は、実施例および比較例の電解液の還元分解を示す図であり、(B)は、実施例および比較例の電解液の酸化分解を示す図である。
図5】実施例および比較例の充放電試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態に係る電解液およびリチウムイオン二次電池を説明する。
【0012】
実施の形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータと、を含む。
【0013】
(正極)
正極は、集電体と、集電体上に形成される正極活物質層とを含むことが好ましい。集電体としては、例えば、アルミニウム基板が挙げられる。正極活物質層は、正極活物質、および、バインダーを含むことが好ましい。正極活物質層には、導電助剤が含まれていてもよい。正極活物質としては、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能な化合物が好ましい。
【0014】
正極活物質としては、正極活物質の構造安定性の点から、
層状酸化物;LiNiCoMa1-x-y(式中、Maは、MnおよびAlからなる群より選ばれる1種以上を示し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、x+y≦1である。)と、
スピネル型酸化物;LiMn2-xMb(式中、Mbは、遷移金属からなる群より選ばれる1種以上を示し、0.2≦x≦0.7である。)と、
Li過剰層状酸化物;LiMcO(式中、Mcは、それぞれ独立に、遷移金属からなる群より選ばれる1種以上を示す。)で表される酸化物と、LiMdO(式中、Mdは、それぞれ独立に、遷移金属からなる群より選ばれる1種以上を示す。)で表される酸化物との複合酸化物であって、zLiMcO-(1-z)LiMdO(式中、Mcは、それぞれ独立に、遷移金属からなる群より選ばれる1種以上を示し、Mdは、それぞれ独立に、遷移金属からなる群より選ばれる1種以上を示し、0.05≦z≦0.95である。)と、
オリビン型酸化物;LiMe1-xFePO式中、Meは、MnおよびCoからなる群より選ばれる1種以上を示し、0≦x≦1である。)と、
酸化物;LiMfPOF(式中、Mfは、遷移金属からなる群より選ばれる1種以上を示す。)と、
からなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物であることが好ましい。
正極活物質としては、LiNiCoMa1-x-y(式中、Maは、MnおよびAlからなる群より選ばれる1種以上を示し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、x+y≦1である。)を含むことが好ましい。
【0015】
バインダーは、正極活物質を互いに付着させやすくする役割、または正極活物質を集電体に付着させやすくする役割を果たし、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロライド、カルボキシル化されたポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンラバー、アクリレーテッドスチレン-ブタジエンラバー、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、および、ポリイミドアミドが挙げられる。
【0016】
(負極)
負極は、集電体と、集電体上に形成される負極活物質層とを含むことが好ましい。集電体としては、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケル発泡体、銅発泡体、伝導性金属がコーティングされたポリマー基材、および、これらの2種以上の組み合わせが挙げられる。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質、金属リチウム、金属リチウムの合金、リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質、並びに、遷移金属酸化物が挙げられる。
【0017】
リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質としては、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素、および、これらの組み合わせが挙げられる。結晶質炭素としては、例えば、無定形の黒鉛、板状の黒鉛、鱗片状の黒鉛、球状の黒鉛、および、繊維状の黒鉛が挙げられる。非晶質炭素としては、例えば、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチ炭化物、および、焼成されたコークスが挙げられる。金属リチウムの合金としては、例えば、リチウムと、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlまたはSnの金属との合金が使用できる。リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質としては、例えば、Si、SiO(0<x<2)、Si-C複合体、Si-Q合金(Qは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族ないし16族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの組み合わせであり、Siではない)、Sn、SnO2、Sn-C複合体、Sn-R(Rは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族ないし16族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの組み合わせであり、Snではない)が挙げられる。
【0018】
負極活物質層は、バインダーを含んでいてもよい。バインダーとしては、上述した正極活物質層に含まれるバインダーで例示したものが挙げられる。
【0019】
(電解液)
電解液は、化合物と、溶媒と、リチウム塩と、を含む。
【0020】
化合物は、式(1)で表される。R11、R12、R13、R21、R22、R23、R31、R32、R33、R41、R42およびR43は、それぞれ独立に、置換基を表す。
【0021】
【化2】
【0022】
置換基の種類は特に制限されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、芳香族基(例えば、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、複素環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよび複素環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、並びに、これらの組み合わせた基が挙げられる。
【0023】
上述の置換基のうち、置換基としては、LiPFの分解によって発生するHFを捕捉するイソシアネート基(N=C=O)、シリルオキシ基(Si-O)、ホスホネート基(P(OR51)2R52)が好ましい。なお、R51、R52は有機基である。また、HFによる電極の腐食を保護する被膜の形成にはホウ素、硫黄、リン、フッ素を含む置換基が好ましい。また、電解液中における化合物の含有量は特に制限されないが、電解液に対する化合物の含有率は、好ましくは0mg/ml超であり、より好ましくは0.5mg/ml以上である。これにより、化合物の効果を得ることができる。また、電解液に対する化合物の含有率は、好ましくは6.0mg/ml以下であり、より好ましくは3.0mg/ml以下であり、さらに好ましくは1.5mg/ml以下である。これにより、充放電容量の低下を抑制できる。
【0024】
化合物の合成方法は、特に制限されず、例えば、酸触媒の存在下、アセナフテンキノンと2等モル量のメチル2-アミノチオフェンをアセトニトリルに溶解し、窒素雰囲気下還流下で一晩攪拌を行うことで合成することができる。
【0025】
溶媒の種類は特に制限されず、非水系溶媒が挙げられ、例えば、カーボネート系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、および、非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0026】
カーボネート系溶媒としては、環状カーボネート系溶媒および鎖状カーボネート系溶媒が挙げられ、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、および、ブチレンカーボネートが挙げられる。
【0027】
エステル系溶媒としては、例えば、メチルアセテート、エチルアセテート、n-プロピルアセテート、1,1-ジメチルエチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、および、カプロラクトンが挙げられる。
【0028】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラグリム、トリグリム、ジ
グリム、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、および、テトラヒドロフラ
ンが挙げられる。
【0029】
ケトン系溶媒としては、例えば、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0030】
アルコール系溶媒としては、例えば、エチルアルコール、および、イソプロピルアルコールが挙げられる。
【0031】
非プロトン性溶媒としては、ニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,
3-ジオキソランなどのジオキソラン類、および、スルホラン類が挙げられる。
【0032】
溶媒としては、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートを含むことが好ましい。また、電解液中における溶媒の含有量は特に制限されないが、効果がより優れる点で、電解液全質量に対して、50~99質量%が好ましく、85~98質量%がより好ましい。
【0033】
リチウム塩の種類は特に制限されず、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiC(CFSO、LiSiF、LiOSOF2k+1〔kは1~8の整数〕、LiN(SO2k+1〔kは1~8の整数〕、LiPF(C2k+16-n[nは1~5の整数、kは1~8の整数〕、LiPF(C)、および、LiPF(Cが挙げられる。
【0034】
電解液中におけるリチウム塩の含有量は特に制限されないが、効果がより優れる点で、0.2~3.0モル/Lが好ましく、0.4~2.0モル/Lがより好ましい。
【0035】
電解液は、上述した化合物、溶媒、および、リチウム塩以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0036】
電解液の調製方法は特に制限されず、上述した化合物、溶媒、および、リチウム塩、並びに、必要に応じて添加する任意成分を混合し、各成分を均一に溶解または分散できる方法であればよい。
【0037】
上述の電解液を含むリチウムイオン2次電池の構成は特に制限されず、公知のリチウムイオン2次電池の構成と同様の構成が挙げられる。通常、上述の電解液を含むリチウムイオン2次電池は、負極および正極を含み、必要に応じて、セパレータまたは外装体を含む。リチウムイオン2次電池の形状は特に制限されず、例えば、円筒型、角形、ラミネート型、および、コイン型が挙げられる。
【0038】
(セパレータ)
セパレータとしては、従来のリチウムイオン2次電池において通常使用されるものであればすべて使用可能である。セパレータを構成する材料としては、例えば、ガラス繊維、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および、ポリイミドが挙げられる。
【0039】
以上のように、本実施の形態の電解液およびリチウムイオン二次電池によれば、高電圧であっても安定して用いることができる。具体的には、後述する実施例に記載するように、本実施の形態の電解液を用いることで、長期サイクル試験において、放電容量の減少を抑えることができる。また、本実施の形態の電解液を用いると、電極の変性と電解質の分解を抑制できる。これに対して、上述の化合物を含まない電解液では、三成分混合系金属酸化物材料を用いた高電圧下において、カーボネート系電解液の酸化分解の問題や構造的安定性を保つことが難しいなどの問題がある。カーボネート系電解液自身の電気化学的安定性の問題にとどまらず、三成分系電極に含まれる種々の遷移金属が触媒的に作用し、エチレンカーボネート溶液に含まれるリチウム塩(LiPF)の分解(LiPF→LiF+PF)を促進する問題がある。その上で系に微量の水分が存在するとPFが加水分解され、PF+HO→PFO+2HFのようにフッ酸を生成し、このフッ酸がさらに電極上の被膜を破壊し、かつ電極を腐食させる虞がある。また、正極と負極とを同時に安定化可能な添加剤は殆ど知られておらず、本実施の形態の電解液はフルセルの安定化にとって有効と考えられる。なお、製造方法および効果等は、後述する実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例0040】
以下、電解液およびリチウムイオン二次電池の効果を実施例により実証した。この実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0041】
まず、電解液に含まれる化合物であるチオフェン構造を有するビスイミノアセナフテンキノン(BIAN-thiophene)を以下のように合成した。下記反応式に示すように、アセナフテンキノンと2等モル量のメチル2-アミノチオフェン-3-カルボキシレートをアセトニトリルに溶解し、窒素雰囲気下還流下で一晩攪拌を行うことでBIAN-thiopheneを合成した。このBIAN-thiopheneは、カルボニル基を備える。
【0042】
【化3】
【0043】
つぎに、表1に示す成分を混合して実施例1および比較例1の電解液を調整した。リチウム塩として1.0M LiPF、溶媒として、EC(Ethylene Carbonate):DEC(Diethyl Carbonate)=1:1を用いた。実施例1の電解液は、上記のように合成したBIAN-thiopheneを1.0mg/ml含む。比較例1の電解液は、BIAN-thiopheneを含まない以外は実施例1の電解液と同じである。
【0044】
【表1】
【0045】
つぎに、実施例1の電解液と、試験極としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極と、対極にLi金属と、を使用して、カソードハーフセルである実施例1の2025型コインセルを作成した。同様に、比較例1の電解液と、試験極としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極と、対極にLi金属と、を使用して、カソードハーフセルである比較例1の2025型コインセルを作成した。
【0046】
つぎに、実施例1と比較例1の2025型コインセルの長期サイクル試験を実施した。長期サイクル試験の結果を図1に示す。80サイクルにおいて比較例1では、初期放電容量から約65%まで減少したのに対し、実施例1では、初期放電容量の約80%を維持した。実施例1および比較例1のクーロン効率は、ほぼ同様であった。
【0047】
つぎに、LiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM(Scanning Electron Microscope)像を観察した。図2(A)にサイクル試験前のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM像、図2(B)に比較例1の100サイクル後のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM像、図2(C)に実施例1の100サイクル後のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM像を示す。比較例1の電解液の電極表面はビーズ状の形態からなるマイクロメートルサイズの球状粒子が分解され、堆積物が見られる。一方、実施例1の電解液の電極表面は球状粒子の形態を概ね維持していた。したがって、BIAN-thiophenが存在することで、LiNi1/3Mn1/3Co1/3電極の変性と電解質の分解を抑制できたと考えられる。
【0048】
つぎに、実施例1と比較例1の電解液を用いて、アノードハーフセルを作成し、レート試験およびサイクル試験を実施した。図3(A)に示すように、充放電レートの低い範囲において実施例1は比較例に対して高い放電容量を示した。一方、1C以上でのレート試験において実施例1は比較例1に対して優位性を持たなかったため、サイクル試験は0.1Cのレートで行った。サイクル試験は、図3(B)に示すように、実施例1では、100サイクル後において電池性能の劣化を抑制した。実施例1および比較例1のクーロン効率は、ほぼ同様であった。
【0049】
つぎに、作用極にステンレス板、対極にLi金属を用い、実施例1と比較例1の電解液の対比を、掃引速度1mVs-1、0V~6.0Vの走査範囲と2.5V~0.01Vの走査範囲とでLSV(Linear Sweep Voltammetry)測定を行った。実施例1の電解液では、図4(A)に示すように、還元ピークが高電位側に観測され、図4(B)に示すように、酸化ピークが低電位側に観測され、化合物であるBIAN-thiophenが溶媒より先に分解することが示唆された。実施例1の電解液で還元ピークが高電位側に観測されたのは、化合物がBIANを含むためと考えられる。また、実施例1の電解液で酸化ピークが低電位側に観測されたのは、化合物がthiophenを含むためであると考えられる。これにより、電解液が化合物であるBIAN-thiophenを含むことで、電解液を安定して用いることができることがわかった。
【0050】
つぎに、表2に示す含有率で成分を混合して実施例1~7および比較例1の電解液を調整した。リチウム塩として1.0M LiPF6、溶媒として、EC(Ethylene Carbonate):DEC(Diethyl Carbonate)=1:1を用いた。実施例1~7の電解液は、上記のように合成したBIAN-thiopheneを表2に示す濃度で含む。比較例1の電解液は、BIAN-thiopheneを含まない以外は実施例1~7の電解液と同じである。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例1~7および比較例1の電解液を用いた電池の充放電試験を実施した。この結果を図5に示す。化合物を僅かに添加することで、BIAN-thiopheneの効果を得ることができることがわかった。また、電解液に対する化合物の含有率は、好ましくは0mg/ml超であり、より好ましくは0.5mg/ml以上であることがわかった。また、6.0mg/ml以上添加すると化合物を加えない系の放電容量を下回るため、過度な量の添加は避けた方がよいことがわかった。詳細には、電解液に対する化合物の含有率は、好ましくは6.0mg/ml以下であり、より好ましくは3.0mg/mlであり、さらに好ましくは1.5mg/ml以下であることがわかった。
【0053】
上述したように、実施例1の電解液を用いることで、長期サイクル試験における80サイクルにおいて、比較例1では、初期放電容量から約65%まで減少したのに対し、初期放電容量の約80%を維持できた。これにより、実施例1の電解液を用いることで、放電容量の減少を抑えることができることがわかった。また、100サイクル後のLiNi1/3Mn1/3Co1/3電極のSEM像を観察したところ、実施例1の電解液の電極表面は球状粒子の形態を概ね維持していた。これにより、したがって、BIAN-thiophenが存在することで、LiNi1/3Mn1/3Co1/3電極の変性と電解質の分解を抑制できたと考えられる。これにより、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を含むニッケル・マンガン・コバルト三成分混合系金属酸化物材料は、高電圧および高工ネルギー密度を与えるリチウムイオン二次電池用電解質であり、実施例1の電解液を用いることで、高電圧であっても安定して用いることができることがわかった。従って、三成分混合系を活用した次世代電池向け高電圧系(4.5V~5.0V)であっても、実施例1の電解液を用いることで、安定して用いることができることがわかった。実施例1に含まれる化合物は、BIAN-thiophenがカルボニル基を備えたが、カルボニル基を備えなくてもよく、カルボニル基以外の置換基を備えても同様の効果が得られると考えられる。また、カルボニル基に加えて、またはカルボニル基の代わりに、置換基として、ホウ素、硫黄、リン、フッ素、イソシアネート基(N=C=O)、シリルオキシ基(Si-O)、ホスホネート基(P(OR51)2R52)のうち1または複数含んでもよい。なお、R51、R52は有機基である。置換基として、ホウ素、硫黄、リン、フッ素を含む場合、HFによる電極の腐食を保護する被膜の形成に効果が得られると考えられる。また、置換基として、イソシアネート基(N=C=O)、シリルオキシ基(Si-O)、ホスホネート基(P(OR51)2R52)を含む場合、LiPFの分解によって発生するHFを捕捉する効果が得られると考えられる。
【0054】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5