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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161658
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 37/06 20060101AFI20241113BHJP
   F24C 7/04 20210101ALI20241113BHJP
   A47J 37/01 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A47J37/06 371
F24C7/04 A
A47J37/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076485
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000176866
【氏名又は名称】三菱電機ホーム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大治
(72)【発明者】
【氏名】森井 彰
(72)【発明者】
【氏名】守岩 和秋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 史朗
(72)【発明者】
【氏名】木皿 倫子
(72)【発明者】
【氏名】落合 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】香内 由美子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】宮下 健一
【テーマコード(参考)】
3L087
4B040
【Fターム(参考)】
3L087AA01
3L087AA02
3L087AC06
3L087BA01
3L087DA26
4B040AA03
4B040AA08
4B040AB02
4B040AC01
4B040AD04
4B040CA17
4B040CB30
(57)【要約】
【課題】焼き上がり時の食感を調節することができる加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱調理器は、被加熱物が焼成される焼成庫と、焼成庫に設けられ、被加熱物の底部を伝導熱で加熱する第1加熱手段と、焼成庫に設けられ、被加熱物の表面を輻射熱で加熱する第2加熱手段と、を備え、第2加熱手段が設けられた位置における焼成庫の内面に、輻射熱の影響を調節する黒体の塗装が施された塗装領域が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物が焼成される焼成庫と、
前記焼成庫に設けられ、前記被加熱物の底部を伝導熱で加熱する第1加熱手段と、
前記焼成庫に設けられ、前記被加熱物の表面を輻射熱で加熱する第2加熱手段と、
を備え、
前記第2加熱手段が設けられた位置における前記焼成庫の内面に、輻射熱の影響を調節する黒体の塗装が施された塗装領域が形成されている
加熱調理器。
【請求項2】
前記第2加熱手段は、前記第1加熱手段とは個別に制御される
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記第2加熱手段は、
前記焼成庫の内面の前記塗装領域の裏に設けられた塗装領域加熱手段と、
前記焼成庫の内面の前記塗装領域が設けられていない非塗装領域の裏に設けられ、前記塗装領域加熱手段と個別に制御される非塗装領域加熱手段と、を含み、
前記塗装領域加熱手段による加熱と、前記非塗装領域加熱手段による加熱と、が切り替えて制御される
請求項1又は2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記塗装領域と、前記非塗装領域とは、熱伝導を抑制する断熱層により区切られている
請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記塗装領域と、前記非塗装領域とは、
前記焼成庫の内面の中央から、前記塗装領域と前記非塗装領域との順に配置されている
請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記塗装領域と、前記非塗装領域とは、
前記焼成庫の内面の中央から、前記塗装領域と前記非塗装領域との順に、交互に繰り返し配置されている
請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記塗装領域は、
前記焼成庫の内面に、均等な面積で複数配置されている
請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記第1加熱手段は、前記第1加熱手段の温度を反映して加熱量が制御され、
前記第2加熱手段は、前記第2加熱手段の温度を反映して加熱量が制御される
請求項1又は2に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記第1加熱手段、及び、前記第2加熱手段は、
前記焼成庫の前記内面から前記被加熱物までの距離に応じて制御される
請求項1又は2に記載の加熱調理器。
【請求項10】
前記距離は、画像分析により測定される
請求項9に記載の加熱調理器。
【請求項11】
前記距離は、前記被加熱物の表面温度より測定する
請求項9に記載の加熱調理器。
【請求項12】
前記距離が3cmのときは、
前記第1加熱手段の温度が、前記第2加熱手段の温度よりも40度高く設定され、
前記距離が3cm増加すると、それに応じて、前記第1加熱手段の温度が、前記第2加熱手段の温度との差が10度ずつ増加するように設定される
請求項9に記載の加熱調理器。
【請求項13】
前記焼成庫は、密閉された構造を有し、
前記焼成庫に水分を供給する水分供給手段と、
前記焼成庫から水分を放出する開放弁と、
を更に備えた、請求項1又は2に記載の加熱調理器。
【請求項14】
前記開放弁が閉状態となり、且つ、前記水分供給手段により前記焼成庫に水分が供給された後、
前記開放弁が開状態となり、且つ、前記水分供給手段による前記焼成庫への水分の供給が停止される
請求項13に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被加熱物を焼成する焼成庫を有する加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加熱調理器として、加熱調理器本体と蓋体と、または、加熱調理器本体と扉体とで形成された空間の内部を被加熱物の加熱調理室とし、内部に設置されたヒータで、被加熱物を載せたプレート又は焼き網等を加熱して調理が行われる加熱調理器が知られている。例えば、特許文献1には、加熱調理器本体の内部にヒータと、蒸気発生装置と、回転する網状載置台とを備えた加熱調理器が開示されている。特許文献1の加熱調理器は、被加熱物を回転させながら加熱することで、被加熱物に均等な焼き色をつけることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-153540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような家庭用コンベクションオーブンは、主に、被加熱物の表面が熱風による対流熱により加熱され、被加熱物の底面が伝導熱により加熱されるため、底面の方が表面よりもよく焼け、上下方向で焼き上がりに偏りがある。熱風による加熱は、被加熱物が乾燥し易いため、水分を含んだしっとりとした食感の実現が難しく、ユーザが自分で焼き色、又は、焼き上がり時の食感を調節することができない。
【0005】
本開示は、焼き上がり時の食感を調節することができる加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る加熱調理器は、被加熱物が焼成される焼成庫と、前記焼成庫に設けられ、前記被加熱物の底部を伝導熱で加熱する第1加熱手段と、前記焼成庫に設けられ、前記被加熱物の表面を輻射熱で加熱する第2加熱手段と、を備え、前記第2加熱手段が設けられた位置における前記焼成庫の内面に、輻射熱の影響を調節する黒体の塗装が施された塗装領域が形成されているものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る加熱調理器によれば、第1加熱手段の伝導熱により被加熱物の底面を加熱して被加熱物を上側に膨張させ、第2加熱手段の輻射熱が塗装領域により調節された状態で被加熱物の表面を加熱し、被加熱物の膨張が抑制される。これにより、焼き上がり時の被加熱物の食感が調節できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施の形態1に係る加熱調理器の構成を示す概略断面図である。
図2】比較例に係る加熱調理器により被加熱物を焼成した場合を説明する模式図である。
図3】比較例に係る加熱調理器により被加熱物を焼成した場合を説明する他の模式図である。
図4】本開示の実施の形態1に係る加熱調理器により被加熱物を焼成した場合を説明する模式図である。
図5】本開示の実施の形態1に係る加熱調理器により被加熱物を焼成した場合を説明する他の模式図である。
図6】本開示の実施の形態1に係る焼成庫の天面部の内面を示す概略図である。
図7】本開示の実施の形態1に係る加熱調理器の塗装領域と、非塗装領域との形態を示す概略図である。
図8】本開示の実施の形態1に係る加熱調理器の塗装領域と、非塗装領域との他の形態を示す概略図である。
図9】本開示の実施の形態1に係る加熱調理器により焼成された被加熱物のピーク荷重と含水率との関係を示すグラフである。
図10】本開示の実施の形態1の変形例1に係る加熱調理器の概略断面図である。
図11】本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器の第1加熱手段及び第2加熱手段が側面部に配置された例を示す概略図である。
図12】本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器の第1加熱手段及び第2加熱手段が天面部、底面部、及び、側面部に配置された例を示す概略図である。
図13】本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器の第1加熱手段及び第2加熱手段が天面部及び側面部に配置された例を示す概略図である。
図14】本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器の第1加熱手段及び第2加熱手段が底面部及び側面部に配置された例を示す概略図である。
図15】本開示の実施の形態2に係る加熱調理器の概略断面図である。
図16】本開示の実施の形態2に係る加熱調理器による焼け具合を示す画像である。
図17】本開示の実施の形態2に係る加熱調理器による被加熱物の裏面の焦げ率と第1加熱手段の温度との関係を示すグラフである。
図18】本開示の実施の形態2に係る加熱調理器による被加熱物の表面の焦げ率と第2加熱手段の温度との関係を示すグラフである。
図19】本開示の実施の形態3に係る加熱調理器の概略断面図である。
図20】本開示の実施の形態3に係る加熱調理器の加湿量に対する含水率を示している。
図21】本開示の実施の形態3に係る加熱調理器の加湿量に対するピーク荷重を示している。
図22】本開示の実施の形態3に係る加熱調理器の加湿量に対する上側焦げ率を示している。
図23】本開示の実施の形態3に係る加熱調理器における蒸気発生部の配置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示に係る加熱調理器を実施するための形態について、添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一、又は、相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に簡略化又は省略する。以下の説明においては、便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。なお、本開示は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態の自由な組み合わせ、各実施の形態の任意の構成要素の変形、または、各実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。また、各図においては、各構成部材の寸法の関係や形状等が実際のものとは異なる場合がある。また、各構成部材同士の位置関係、例えば、上下関係等は、原則として、加熱調理器100を使用可能な状態に設置したときのものである。
【0010】
実施の形態1.
<加熱調理器100の構成>
図1は、本開示の実施の形態1に係る加熱調理器100の構成を示す概略断面図である。図1に示すように、加熱調理器100は、断熱箱体1に形成された焼成庫2と、第1加熱手段4と、第2加熱手段5と、を有する。断熱箱体1は、前面、つまり、正面が、開口しており、内部が焼成庫2になっている。
【0011】
断熱箱体1には、回転部26が設けられている。回転部26は、断熱箱体1の前面を閉塞する図示せぬ扉に接続されている。回転部26を軸に扉が回動することで、扉が開閉する。扉が開放された状態で、焼成庫2の内部に被加熱物3が配置される。扉が閉鎖された状態で、焼成庫2の内部が密閉された状態となる。
【0012】
焼成庫2は、被加熱物3が配置され、焼成される空間である。焼成庫2は、天面部21と、底面部22と、一対の側面部23と、背面部24と、を有する。焼成庫2は、高熱伝導のアルミ素材等により構成されている。
【0013】
焼成庫2の底面部22には、第1加熱手段4が設けられている。第1加熱手段4は、被加熱物3の底面を加熱する。第1加熱手段4は、被加熱物3を伝導熱により加熱する。第1加熱手段4の加熱量は、第1温度計12の計測値に基づき制御される。
【0014】
第1加熱手段4は、例えば、面状ヒータである。面状ヒータとしては、マイカ板に電熱体を巻いた面状ヒータ、又は、電熱体をセラミックで挟んで形成したセラミックヒータなどがある。
【0015】
第1加熱手段4の近傍には、第1温度計12が配置されている。第1温度計12は、第1加熱手段4自身の温度を計測するものである。第1温度計12は、例えば、サーミスタである。
【0016】
焼成庫2の天面部21には、第2加熱手段5が設けられている。第2加熱手段5は、被加熱物3の表面を加熱する。第2加熱手段5は、被加熱物3を塗装領域9による輻射熱で加熱する。第2加熱手段5は、第1加熱手段4とは個別に加熱量が制御される。第2加熱手段5の加熱量は、第2温度計13の計測値に基づき制御される。
【0017】
第2加熱手段5は、例えば、面状ヒータである。面状ヒータとしては、マイカ板に電熱体を巻いた面状ヒータ、又は、電熱体をセラミックで挟んで形成したセラミックヒータなどがある。例えば、棒状のヒータが用いられている場合、温度が調節されても、ヒータに近い個所、又は、被加熱物3の底面が焼けやすく、被加熱物3の焼き色が均一になりづらいため、サイズが一般的に決まってしまっている食パンなどにしか効果が得られない。第2加熱手段5として、面状ヒータを用いることで、ユーザによる焼き色の調節が容易になる。
【0018】
第2加熱手段5の近傍には、第2温度計13が配置されている。第2温度計13は、第2加熱手段5自身の温度を計測するものである。第2温度計13は、例えば、サーミスタである。
【0019】
焼成庫2の天面部21の内面200には、塗装領域9が設けられている。塗装領域9は、黒体の塗装が施された領域である。塗装領域9は、焼成庫2の天面部21の内面200の全面に設けられている。黒体の塗装には、例えば、フッ素系塗料、または、シリコン系塗料を用いることができる。
【0020】
<第1加熱手段4及び第2加熱手段5の制御>
第1加熱手段4及び第2加熱手段5は、例えば、電源がON又はOFFするように制御される。これにより、第1加熱手段4及び第2加熱手段5の加熱量を調整することができる。第1加熱手段4及び第2加熱手段5は、熱源、つまり、第1加熱手段4及び第2加熱手段5自身の温度を参照し、第1加熱手段4及び第2加熱手段5の温度が設定温度になるように制御される。設定温度は、ユーザが自由に設定できる構成でよい。設定温度は、自動で設定される構成であってもよい。設定温度が自動で設定される場合、被加熱物3に応じて最適な設定がなされる。
【0021】
第2加熱手段5の温度が、第1加熱手段4の温度よりも高い、例えば、20℃~40℃高い設定である場合、被加熱物3は、第2加熱手段5及び塗装領域9の影響により上側が輻射熱で焼成され、第1加熱手段4により下側が底面からの伝導熱で焼成される。被加熱物3は、上下で均一に焼き色がつくとともに、膨張が抑制され、内部に水分が溜め込まれた状態で焼成され、外側がサクサクで、内側がしっとりした二層の食感となる。これにより、外側がサクサクで内側がしっとり柔らかめの焼き菓子ができあがる。
【0022】
第2加熱手段5の温度が、第1加熱手段4の温度よりも低く、例えば、0℃~20℃低くなるように設定された場合、第2加熱手段5及び塗装領域9の影響が低減し、被加熱物3が、下側から上側に向けて膨張して、水分が被加熱物3の外部に放出される。このため、被加熱物3がふんわりとした食感に焼き上がり、全体的にふんわり柔らかめの焼き菓子ができあがる。
【0023】
図2は、比較例に係る加熱調理器101により被加熱物3を焼成した場合を説明する模式図である。図3は、比較例に係る加熱調理器101により被加熱物3を焼成した場合を説明する他の模式図である。
【0024】
図2及び3に示すように、比較例に係る加熱調理器101では、空間温度Tを反映して加熱量が制御されている。そのため、被加熱物3の底面は、伝導熱Cにより焼成され、被加熱物3の表面は、対流熱、つまり、熱風HAにより焼成される。被加熱物3が対流熱で焼成されると、熱風HAにより被加熱物3の表面から水分が奪われてしまい、ふんわりとした食感を維持しにくい。
【0025】
図4は、本開示の実施の形態1に係る加熱調理器100により被加熱物3を焼成した場合を説明する模式図である。図5は、本開示の実施の形態1に係る加熱調理器100により被加熱物3を焼成した場合を説明する他の模式図である。図4及び図5に示すように、第1加熱手段4は、第1温度計12で計測された第1加熱手段4の温度を反映した加熱量に制御され、第2加熱手段5は、第2温度計13で計測された第2加熱手段5の温度を反映した加熱量に制御される。
【0026】
第1加熱手段4は、第1温度計12で計測された温度が設定された温度になるように制御され、第2加熱手段5は、第2温度計13で計測された温度が設定された温度になるように制御される。これにより、被加熱物3の底面が、第1加熱手段4により伝導熱Cで焼成され、被加熱物3の表面が、第2加熱手段5により輻射熱Rで焼成される。表面が輻射熱Rで焼成されることで、被加熱物3の表面が高温となって水分が蒸発して放出され、内部には水分が保持されるため、ふんわりとした食感を維持しつつ、カリッとした食感に焼き上げることができる。
【0027】
図6は、本開示の実施の形態1に係る焼成庫2の天面部21の内面200を示す概略図である。図6に示すように、焼成庫2の天面部21の内面200に、塗装領域9と、非塗装領域10と、が設けられていてもよい。非塗装領域10は、黒体の塗装がされていない領域であって、アルミ素材の領域である。塗装領域9と、非塗装領域10とは、例えば、焼成庫2の天面部21の中央から、塗装領域9と非塗装領域10との順に配置されている。
【0028】
黒体の塗装が施された塗装領域9は、放射率が0.9程度である一方、非塗装領域10は、放射率が塗装領域9の1/10の0.09程度である。塗装領域9は、非塗装領域10よりも高放射率であり、黒体の塗装が施されていない非塗装領域10は、塗装領域9と比較すると輻射熱の影響が低下する。
【0029】
塗装領域9と非塗装領域10とは、断熱層11により仕切られている。断熱層11で仕切ることにより、塗装領域9と非塗装領域10との間の熱伝導が抑制される。断熱層11には、例えば、ポリウレタンが用いられている。断熱層11は、例えば、天面部21を構成しているアルミ材から塗装領域9となる部分をくりぬき、くり抜かれた境界の部分に形成すればよい。アルミ材から切り抜いた部分には、塗装領域9となる部分に黒体の塗装が施される。黒体の塗装が施された塗装領域9となる部分が、アルミ材に嵌め込まれることで、アルミ材の非塗装領域10と、塗装領域9とが、断熱層11により仕切られた天面部21となる。
【0030】
塗装領域9からは、放射率が0.9程度で輻射熱が放出されるため、被加熱物3が高温に加熱されて、焼き色がつきやすくなる。非塗装領域10からの輻射熱は、放射率が0.09程度となり、被加熱物3が主に自然対流熱で焼成されるため、被加熱物3に焼き色がつきにくくなり、被加熱物3がじっくり加熱される。焼成庫2の天面部21の中央から、塗装領域9と非塗装領域10との順に配置されていることで、被加熱物3の中心部を他の部分よりもよく焼くことができる。
【0031】
<塗装領域9及び非塗装領域10の形態>
図7は、本開示の実施の形態1に係る加熱調理器100の塗装領域9と、非塗装領域10との形態を示す概略図である。図8は、本開示の実施の形態1に係る加熱調理器100の塗装領域9と、非塗装領域10との他の形態を示す概略図である。
【0032】
図7に示すように、塗装領域9と、非塗装領域10との形態として、塗装領域9と、非塗装領域10とが、天面部21の中央から外側に向かい、塗装領域9と非塗装領域10との順に、均等に配置されていてもよい。これにより、被加熱物3を全体に均等に焼くことができ、被加熱物3が均一な焼け具合になる。また、図8に示すように、塗装領域9は、天面部21に、均等な面積で、複数配置されていてもよい。これにより、被加熱物3を全体に均等に焼くことができ、被加熱物3が均一な焼け具合になる。このように、塗装領域9と、非塗装領域10との形態を変化させることで、被加熱物3に与える輻射熱の影響を調整することができる。
【0033】
なお、塗装領域9は、少なくとも、焼成庫2の内面200のうち、第2加熱手段5が設けられた面に設けられていればよく、第2加熱手段5が設けられていない面に設けられていてもよい。また、塗装領域9と、非塗装領域10との形態は、上述の例に限定されない。
【0034】
図9は、本開示の実施の形態1に係る加熱調理器100により焼成された被加熱物3のピーク荷重と含水率との関係を示すグラフである。図9において、縦軸には、ピーク荷重(kgf)が示されており、横軸には、含水率(%)が示されている。また、黒丸は、塗装領域9による加熱をした場合の被加熱物3のピーク荷重及び含水率の数値を示し、白丸は、非塗装領域10による加熱をした場合の被加熱物3のピーク荷重及び含水率の数値を示している。
【0035】
図9に示すように、黒体の塗装が施されている塗装領域9を用いた加熱による被加熱物3は、黒体の塗装が施されていない非塗装領域10を用いた加熱による被加熱物3と比較すると、含水率に対するピーク荷重の値が小さい。また、含水率が高いほど、ピーク荷重が低下している。
【0036】
ピーク荷重は、測定対象となる被加熱物3の柔らかさを表しており、テクスチャアナライザで測定した数値である。含水率は、測定対象となる被加熱物3の重量を測定した後、105℃の温度に維持された高温槽に1時間置き、その後再度重量を測定して、前後の重量差から水分量を算出して求めた数値である。
【0037】
被加熱物3の食感は、ピーク荷重と含水量とのバランスにより決定される。被加熱物3が輻射熱の影響を受けることで、含水率が低減し、且つ、ピーク荷重の値も低減する。塗装領域9が設けられていると、輻射熱の影響により、被加熱物3の水分が飛びやすいため、被加熱物3が高温になりやすく、更に加熱が進むと、被加熱物3に焦げが生じる。
【0038】
塗装領域9により輻射熱の影響を調整し、被加熱物3のピーク荷重と水分量とのバランスを変化させることで、所望する食感になるように被加熱物3を焼き上げることができる。
【0039】
<変形例1>
図10は、本開示の実施の形態1の変形例1に係る加熱調理器100の概略断面図である。図10に示すように、第2加熱手段5は、塗装領域加熱手段5aと、非塗装領域加熱手段5bと、を含んでいてもよい。
【0040】
塗装領域加熱手段5aは、塗装領域9の裏に設けられている。非塗装領域加熱手段5bは、非塗装領域10の裏に設けられている。塗装領域加熱手段5aと非塗装領域加熱手段5bとは、個別に加熱量が制御される。主に輻射熱で被加熱物3を焼成したい場合には、塗装領域9の裏に設けられている塗装領域加熱手段5aがONになるように制御される。主に対流熱で被加熱物3を焼成したい場合には、非塗装領域10の裏に設けられている非塗装領域加熱手段5bがONになるように制御される。
【0041】
塗装領域加熱手段5aと非塗装領域加熱手段5bとは、例えば、ONとOFFとが交互に切り替わるように制御される。塗装領域加熱手段5aと、非塗装領域加熱手段5bとは、例えば、焼き始めは、非塗装領域加熱手段5bによる加熱を行い、焼き始めから一定時間が経過した後には、塗装領域加熱手段5aによる加熱を行うように、切り替えて制御される。
【0042】
塗装領域加熱手段5aによる加熱が行われると、塗装領域9から放射率が0.9程度で輻射熱が放出され、被加熱物3が高温に加熱されて、焼き色がつきやすくなる。非塗装領域加熱手段5bによる加熱が行われると、非塗装領域10からの輻射熱が、塗装領域9の1/10の放射率である0.09程度となり、被加熱物3が主に自然対流熱で被加熱物3が焼成される。
【0043】
焼き始めには、非塗装領域加熱手段5bがONとなり、塗装領域加熱手段5aがOFFとなるように制御され、被加熱物3が対流熱によりじっくりと焼成される。一定時間が経過した後には、塗装領域加熱手段5aがONとなり、非塗装領域加熱手段5bがOFFとなるように制御され、被加熱物3が輻射熱で焼成されることで、表面に焼き色が付加される。この結果、外側が硬めのサクサクで、中側が柔らかいしっとりした二層の食感の被加熱物3となり、美味しく焼き上げることが可能である。
【0044】
塗装領域加熱手段5aと非塗装領域加熱手段5bとが、個別に、且つ、切り替えて制御されることで、被加熱物3が所望の食感となるように被加熱物3を焼き上げることができる。
【0045】
<変形例2>
図11は、本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器100の第1加熱手段4及び第2加熱手段5が側面部23に配置された例を示す概略図である。図12は、本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器100の第1加熱手段4及び第2加熱手段5が天面部21、底面部22、及び、側面部23に配置された例を示す概略図である。図13は、本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器100の第1加熱手段4及び第2加熱手段5が天面部21及び側面部23に配置された例を示す概略図である。図14は、本開示の実施の形態1の変形例2に係る加熱調理器100の第1加熱手段4及び第2加熱手段5が底面部22及び側面部23に配置された例を示す概略図である。
【0046】
図11図14に示すように、第1加熱手段4及び第2加熱手段5の配置位置は、特に限定されない。第1加熱手段4は、被加熱物3を底面から加熱することができればよい。第2加熱手段5は、天面部21ではなく、例えば、側面部23に設けられていてもよい。第1加熱手段4及び第2加熱手段5の配置の態様は、第1加熱手段4及び第2加熱手段5のうちのいずれかが、焼成庫2の全面、つまり、天面部21、底面部22、一対の側面部23、及び、背面部24に配置された態様であってもよい。
【0047】
なお、塗装領域9は、少なくとも第2加熱手段5が配置されている面に塗装されていることが望ましい。また、第1加熱手段4又は第2加熱手段5の設置の如何を問わず、被加熱物3と接している底面部22は、塗装されていても塗装されていなくても構わない。
【0048】
以上説明した、実施の形態1に係る加熱調理器100によれば、被加熱物3の底部を加熱する第1加熱手段4と、被加熱物3の表面を加熱する第2加熱手段5とを備え、第2加熱手段5が設けられた位置には、黒体の塗装領域9が形成されている。第1加熱手段4が伝導熱により被加熱物3を底面から加熱することで被加熱物3が下側から上側にむけて膨張するとともに、第2加熱手段5と塗装領域9とが輻射熱により被加熱物3を表面から加熱して被加熱物3の膨張が抑制される。第2加熱手段5が第1加熱手段4と個別に制御されることで、被加熱物3を伝導熱で加熱するか輻射熱で加熱するかを選択できるため、被加熱物3がユーザの所望する食感の焼き上がりになる。これにより、食材を美味しく焼き上げることが可能となり、特に、菓子生地の焼き色及び焼き上がり時の食感を自由に、簡単に調節できるようになるという効果が奏される。
【0049】
また、第2加熱手段5は、塗装領域9の裏に設けられた塗装領域加熱手段5aと、非塗装領域10の裏に設けられた非塗装領域加熱手段5bとを含み、塗装領域加熱手段5aと非塗装領域加熱手段5bとが、個別に、且つ、切り替えて制御される。このため、例えば、非塗装領域加熱手段5bによりじっくり焼成した後、塗装領域加熱手段5aにより表面に焼き色がつくように焼成することが可能であり、被加熱物3が所望の食感となるように被加熱物3を焼き上げることができる。
【0050】
また、塗装領域9と、非塗装領域10とが、熱伝導を抑制する断熱層11により区切られており、塗装領域9が加熱された場合に、非塗装領域10に熱伝導すること、及び、非塗装領域10が加熱された場合に、塗装領域9に熱伝導することが抑制される。このため、所望の食感の被加熱物3を焼き上げることができる。
【0051】
また、塗装領域9と、非塗装領域10とが、この順に焼成庫2の内面200の中央から配置されていることで、被加熱物3の中心が他の部分よりも良く焼けるように調整することができる。
【0052】
また、塗装領域9と、非塗装領域10とが、この順に焼成庫2の内面200の中央から、交互に繰り返し配置されていることで、被加熱物3が均一な焼け具合になるように調整することができる。
【0053】
また、塗装領域9は、均等な面積で、複数配置されていることで、被加熱物3が均一な焼け具合となるように調整することができる。
【0054】
また、第1加熱手段4は、第1加熱手段4の温度を反映して加熱量が制御され、第2加熱手段5は、第2加熱手段5の温度を反映して加熱量が制御されるため、熱伝導による加熱と、輻射熱による加熱とのバランスを調節することができる。
【0055】
実施の形態2.
図15は、本開示の実施の形態2に係る加熱調理器100の概略断面図である。実施の形態2は、温度測定手段14を備える点で、実施の形態1と相違する。実施の形態2では、実施の形態1と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0056】
図15に示すように、加熱調理器100には、第2加熱手段5が設けられている焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lを測定する温度測定手段14が設けられている。温度測定手段14により測定された焼成庫2の天面部21と被加熱物3との距離Lに応じて、第1加熱手段4、及び、第2加熱手段5が制御される。第1加熱手段4、及び、第2加熱手段5は、焼成庫2の天面部21と被加熱物3との距離Lが増大した場合、第1加熱手段4、及び、第2加熱手段5の温度差が増大するように制御される。
【0057】
例えば、焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが3cmの場合、第2加熱手段5の設定温度は、第1加熱手段4の設定温度より40℃高く設定され、これにより、被加熱物3を上下で均一な焼け具合に焼成することができる。焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが3cm増加し、6cmになった場合には、第1加熱手段4と、第2加熱手段5との温度差が10℃増加され、第2加熱手段5の設定温度が、第1加熱手段4の設定温度より50℃高く設定される。焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが更に3cm増加し、9cmになった場合には、第1加熱手段4と、第2加熱手段5との温度差が更に10℃増加され、第2加熱手段5の設定温度が、第1加熱手段4の設定温度より60℃高く設定される。つまり、第1加熱手段4、及び、第2加熱手段5は、焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが3cm増加する毎に、温度差が10℃ずつ増加するように制御される。これにより、被加熱物3の上下で均一な焼け具合になるように被加熱物3を焼成することができる。
【0058】
焼成庫2の天面部21と被加熱物3との距離Lが増大すると、被加熱物3が第2加熱手段5から受ける加熱量が減少するが、第1加熱手段4、及び、第2加熱手段5の温度差が増大するように制御することで、上下の焼き上がりを均一にすることができる。
【0059】
距離測定手段15は、例えば、レーザ変位計である。距離測定手段15は、被加熱物3の表面温度から距離Lを判定する構成であってもよい。距離測定手段15は、例えば、断熱箱体1内に配置されたカメラであってもよく、画像認識により距離Lが判定される。距離測定手段15は、焼成庫2内に付けた目盛りであってもよく、目視により距離Lが判定される。
【0060】
図16は、本開示の実施の形態2に係る加熱調理器100による焼け具合を示す画像である。図16において、一律加熱は、第1加熱手段4と、第2加熱手段5との加熱量が同じである場合を示し、上下個別加熱は、第1加熱手段4の加熱量よりも、第2加熱手段5の加熱量を増大させた場合を示している。図16において、焦げ率は、元画像において焦げた部分Bと、焦げていない部分Uとに分け、B/Uの割合から算出したものである。
【0061】
図16に示すように、一律加熱では、表面の焦げ率が8.0%である一方、裏面の焦げ率は79.4%であり、上下の焦げ率が乖離しており、被加熱物3の上下で均一な焼成ができていない。これに対し、上下個別加熱を行った場合には、表面の焦げ率が17.2%であり、裏面の焦げ率が9.2%であるため、上下の焼け具合がより均一になるように焼成することができる。
【0062】
図17は、本開示の実施の形態2に係る加熱調理器100による被加熱物3の裏面の焦げ率と第1加熱手段4の温度との関係を示すグラフである。図18は、本開示の実施の形態2に係る加熱調理器100による被加熱物3の表面の焦げ率と第2加熱手段5の温度との関係を示すグラフである。図17及び図18において、グラフG1は、塗装領域9が設けられており、焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが3.5cmの場合を示している。また、グラフG2は、塗装領域9が設けられており、焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが6.5cmの場合を示している。また、グラフG3は、塗装領域9が設けられておらず、焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが3.5cmの場合を示している。
【0063】
図17に示すように、第1加熱手段4の温度が200℃を上回ると焦げ率が上昇し出し、250℃付近で焦げ率が100%に近くなり、グラフG1~グラフG3で大きな違いは見られない。被加熱物3の裏面を加熱する第1加熱手段4は、伝導熱による加熱を行うため、焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離L、又は、塗装領域9の有無による焦げ率の違いは生じない。
【0064】
図18に示すように、第2加熱手段5の温度に対する焦げ率の変化は、グラフG1では、第2加熱手段5の温度が150℃を上回ると焦げ率が上昇し出し、200℃付近で焦げ率が100%に近くなっている。また、グラフG2では、第2加熱手段5の温度が170℃を上回ると焦げ率が上昇し出し、200℃付近で焦げ率が100%に近くなっている。また、グラフG3では、第2加熱手段5の温度が210℃を上回ると焦げ率が上昇し出し、270℃付近で焦げ率が100%に近くなっている。
【0065】
焼成庫2の天面部21と、被加熱物3との距離Lが増大すると、被加熱物3の温度が上昇し出す第2加熱手段5の温度が上昇する。また、第2加熱手段5による加熱は、塗装領域9が設けられている場合、輻射熱の影響が増大され、塗装領域9が設けられていない場合と比較して、被加熱物3の温度が上昇しやすい。従って、第2加熱手段5の加熱量と、塗装領域9の有無と、により、被加熱物3に与える焼け具合への影響を調節し、所望の焼き上がりの被加熱物3を実現することができる。
【0066】
なお、例えば、焼成庫2の側面部23に第2加熱手段5が設けられている場合、距離測定手段15は、焼成庫2の天面部21と被加熱物3との距離Lを測定する構成ではなく、焼成庫2の側面部23と被加熱物3との距離Lを測定する構成であってもよい。
【0067】
以上説明した、実施の形態2に係る加熱調理器100によれば、焼成庫2の天面部21から被加熱物3までの距離Lに応じて、第1加熱手段4及び第2加熱手段5による加熱量がそれぞれ調節される。このため、被加熱物3の表面及び裏面で均一な焼き具合になるように被加熱物3を焼成することができる。
【0068】
また、焼成庫2の天面部21から被加熱物3までの距離Lは、例えば、画像分析により測定することができる。これにより、正確な距離Lを測定することができる。
【0069】
また、焼成庫2の天面部21から被加熱物3までの距離Lは、例えば、被加熱物3の表面温度で測定することができる。これにより、距離Lの測定のために部品を用意する必要がなくなり、加熱調理器100の小型化に寄与できる。
【0070】
また、例えば、焼成庫2の天面部21から被加熱物3までの距離Lが3cmの場合、第2加熱手段5の温度が、第1加熱手段4の温度より40℃高く設定される。焼成庫2の天面部21から被加熱物3までの距離Lが3cm増加する毎に、第2加熱手段5と、第1加熱手段4との温度差が10℃ずつ増加するように設定される。これにより、所望の焼き上がりの被加熱物3を実現することができる。
【0071】
実施の形態3.
図19は、本開示の実施の形態3に係る加熱調理器100の概略断面図である。実施の形態3は、蒸気発生部7及び開放弁8を備える点で、実施の形態1及び2と相違する。実施の形態3では、実施の形態1及び2と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態1及び2との相違点を中心に説明する。
【0072】
図19に示すように、加熱調理器100の焼成庫2は、密閉された構造であり、蒸気発生部7及び開放弁8を備えている。蒸気発生部7は、水分供給手段の一例である。
【0073】
蒸気発生部7は、供給された水を加熱し、蒸気を発生させて、焼成庫2の内部に水分を供給する。蒸気発生部7は、例えば、第2加熱手段5に接した位置に配置されている。
【0074】
蒸気発生部7の動作により密閉状態の焼成庫2の内部に蒸気が供給されると、焼成庫2の内部の湿度が上昇する。焼成庫2の湿度が上昇した状態では、第1加熱手段4及び第2加熱手段5が100℃以上に設定されていても、蒸気の温度が100℃~120℃に保たれる。このため、焼成庫2の内部の被加熱物3が蒸し焼きの状態となり、被加熱物3がこげにくく、じっくりと焼成される。
【0075】
開放弁8は、焼成庫2の内部の湿度を調節するものであり、開放弁8が開放されることで焼成庫2の内部の湿度が低下する。開放弁8が開放されると、焼成庫2の内部の湿度が低下した状態で第1加熱手段4及び第2加熱手段5が100℃以上に設定されると、被加熱物3の表面の温度が第1加熱手段4及び第2加熱手段5の設定温度に近づく。その結果、被加熱物3は、蒸し焼きの状態にはならず、焼き色がつきやすく、焦げが生じやすくなる。
【0076】
図20は、本開示の実施の形態3に係る加熱調理器100の加湿量に対する含水率を示している。図21は、本開示の実施の形態3に係る加熱調理器100の加湿量に対するピーク荷重を示している。図22は、本開示の実施の形態3に係る加熱調理器100の加湿量に対する上側焦げ率を示している。図20図22において、グラフG4は、塗装領域9が設けられている場合を示し、グラフG5は、塗装領域9が設けられていない場合を示している。
【0077】
図20に示すように、焼成庫2内の加湿量が増加すると被加熱物3の含水率も増大する。また、塗装領域9が設けられていない場合よりも塗装領域9が設けられている場合の方が、加湿量に対する含水率が低い。これは、塗装領域9により輻射熱の影響が増大されることで、被加熱物3の水分が蒸発して放出されやすいためである。
【0078】
また、図21に示すように、焼成庫2内の加湿量が増加するとピーク荷重は低減し、且つ、塗装領域9が設けられていない場合よりも塗装領域9が設けられている場合の方が、加湿量に対するピーク荷重が低い。塗装領域9が設けられている場合、輻射熱の影響が増大されることで水分が蒸発して放出され、乾燥しやすい。同じ加湿量で比較すると、塗装領域9が設けられている方が、塗装領域9が設けられていない場合よりもピーク荷重が低い。
【0079】
また、図21に示すように、加湿量が増加すると上側、つまり、表面の焦げ率は低減する。また、塗装領域9が設けられている場合の方が、塗装領域9が設けられていない場合と比較して、焦げ率が高い。
【0080】
焼成庫2が密閉されていない構造であると、焼成庫2の内部を加湿しても、加湿された状態を維持したまま、被加熱物3を焼成することができないため、蒸らし焼きの効果が得にくい。また、焼き色を付ける調理工程で、焼成庫2の内部を開放して湿度を低下させた状態にすることができないと、焼き色をつけづらい。このような場合、ユーザが自分で焼き色又は焼き上がり時の食感を調節することが困難である。
【0081】
焼成庫2の内部が高湿度の状態に維持できることで、被加熱物3が水分を多く含んだ状態で焼き上がり、被加熱物3がしっとりとした軟らかい食感に焼き上がる。また、焼成庫2の内部が低湿度に維持されることで、被加熱物3は水分が低減されて、焼き色が着き易い状態であるため、サクサクとした乾燥した硬めの食感となる。また、焼成庫2の内部が高湿度の状態で維持され、その後、途中で開放弁8が開放されて低湿度の状態に維持されることで、始めに水分を多く含んだ状態でじっくりと焼成された後、水分が抜けて表面のみが乾燥し、焼き色がついた状態に焼き上がる。このように、塗装領域9の有無と、加湿量の調節とにより、被加熱物3の焼成具合を変化させることで、外はサクサクで、中はしっとりとした二層の食感の被加熱物3とすることができる。
【0082】
図23は、本開示の実施の形態3に係る加熱調理器100における蒸気発生部7の配置を示す概略断面図である。図23に示すように、蒸気発生部7は、焼成庫2の底面全体に配置されていてもよく、その場合、蒸気発生部7の上部に網状のプレートを配置し、プレート上で被加熱物3を焼成する構成としてもよい。また、蒸気発生部7は、焼成庫2の奥側に配置されていてもよい。
【0083】
以上説明した、実施の形態3に係る加熱調理器100によれば、水分を供給する蒸気発生部7と、水分が放出される開放弁8とにより、焼成庫2の湿度を上昇又は低下させることができる。これにより、被加熱物3を蒸し焼きにすること、又は、被加熱物3に焼き色を着けることができるため、被加熱物3を所望の食感に仕上げることができる。
【0084】
また、開放弁8が閉状態となり、且つ、蒸気発生部7により焼成庫2に水分が供給され、被加熱物3が、水分を多く含んだ状態でじっくりと焼かれる。その後、開放弁8が開状態となり、且つ、蒸気発生部7による焼成庫2への水分の供給が停止されることで、水分が抜けて、表面のみ乾燥することで焼き色がついて焼き上がる。これにより、被加熱物3が、外はサクサクで、中はしっとりとした二層の食感になるように焼き上げることができる。
【0085】
なお、実施の形態1~3は、適宜組み合わせることができる。
【0086】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0087】
(付記1)
被加熱物が焼成される焼成庫と、
前記焼成庫に設けられ、前記被加熱物の底部を伝導熱で加熱する第1加熱手段と、
前記焼成庫に設けられ、前記被加熱物の表面を輻射熱で加熱する第2加熱手段と、
を備え、
前記第2加熱手段が設けられた位置における前記焼成庫の内面に、輻射熱の影響を調節する黒体の塗装が施された塗装領域が形成されている、
加熱調理器。
(付記2)
前記第2加熱手段は、前記第1加熱手段とは個別に制御される
付記1に記載の加熱調理器。
(付記3)
前記第2加熱手段は、
前記焼成庫の内面の前記塗装領域の裏に設けられた塗装領域加熱手段と、
前記焼成庫の内面の前記塗装領域が設けられていない非塗装領域の裏に設けられ、前記塗装領域加熱手段と個別に制御される非塗装領域加熱手段と、を含み、
前記塗装領域加熱手段による加熱と、前記非塗装領域加熱手段による加熱と、が切り替えて制御される
付記1又は2に記載の加熱調理器。
(付記4)
前記塗装領域と、前記非塗装領域とは、熱伝導を抑制する断熱層により区切られている
付記3に記載の加熱調理器。
(付記5)
前記塗装領域と、前記非塗装領域とは、
前記焼成庫の内面の中央から、前記塗装領域と前記非塗装領域との順に配置されている
付記3又は4に記載の加熱調理器。
(付記6)
前記塗装領域と、前記非塗装領域とは、
前記焼成庫の内面の中央から、前記塗装領域と前記非塗装領域との順に、交互に繰り返し配置されている
付記3又は4に記載の加熱調理器。
(付記7)
前記塗装領域は、
前記焼成庫の内面に、均等な面積で複数配置されている
付記3又は4に記載の加熱調理器。
(付記8)
前記第1加熱手段は、前記第1加熱手段の温度を反映して加熱量が制御され、
前記第2加熱手段は、前記第2加熱手段の温度を反映して加熱量が制御される
付記1~7のいずれか一つに記載の加熱調理器。
(付記9)
前記第1加熱手段、及び、前記第2加熱手段は、
前記焼成庫の前記内面から前記被加熱物までの距離に応じて制御される
付記1~8のいずれか一つに記載の加熱調理器。
(付記10)
前記距離は、画像分析により測定される
付記9に記載の加熱調理器。
(付記11)
前記距離は、前記被加熱物の表面温度より測定する
付記9に記載の加熱調理器。
(付記12)
前記距離が3cmのときは、
前記第1加熱手段の温度が、前記第2加熱手段の温度よりも40度高く設定され、
前記距離が3cm増加すると、それに応じて、前記第1加熱手段の温度が、前記第2加熱手段の温度との差が10度ずつ増加するように設定される
付記1~11のいずれか一つに記載の加熱調理器。
(付記13)
前記焼成庫は、密閉された構造を有し、
前記焼成庫に水分を供給する水分供給手段と、
前記焼成庫から水分を放出する開放弁と、
を更に備えた、付記1~12のいずれか一つに記載の加熱調理器。
(付記14)
前記開放弁が閉状態となり、且つ、前記水分供給手段により前記焼成庫に水分が供給された後、
前記開放弁が開状態となり、且つ、前記水分供給手段による前記焼成庫への水分の供給が停止される
付記13に記載の加熱調理器。
【符号の説明】
【0088】
1 断熱箱体、2 焼成庫、3 被加熱物、4 第1加熱手段、5 第2加熱手段、5a 塗装領域加熱手段、5b 非塗装領域加熱手段、7 蒸気発生部、8 開放弁、9 塗装領域、10 非塗装領域、11 断熱層、12 第1温度計、13 第2温度計、14 温度測定手段、15 距離測定手段、21 天面部、22 底面部、23 側面部、24 背面部、26 回転部、100 加熱調理器、101 加熱調理器、200 内面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23