(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161659
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ミトコンドリア活性の向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/185 20160101AFI20241113BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241113BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A23L33/185
A61P21/00
A61K38/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076486
(22)【出願日】2023-05-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼発行者名 日本機能性食品医用学会 刊行物名 第20回日本機能性食品医用学会 総会 プログラム、掲載頁101 発行年月日 2022年10月29日 公開 掲載アドレス http://www.jsmuff.com/soukai2022/ http://www.jsmuff.com/soukai2022/wordpress/wp-content/uploads/2022/10/20%E5%9B%9E%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E8%A9%B3%E7%B4%B0%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0_%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E7%89%88.pdf http://www.jsmuff.com/soukai2022/?p=217 ▲2▼発行者名 インフォノーツ パブリッシング 刊行物名 機能性食品と薬理栄養,第16巻,第3号,第146~147頁 発行年月日 2022年12月1日 公開 ▲3▼集会名、開催場所 第20回日本機能性食品医用学会 総会、ホテルルビノ京都堀川 発表年月日 2022年12月4日 公開 掲載アドレス http://www.jsmuff.com/soukai2022/
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】川中 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 弥生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD07
4B018MD09
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4B018MD19
4B018MD20
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4B018ME14
4B018MF02
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA15
4C084NA14
4C084ZA94
(57)【要約】
【課題】骨格筋のミトコンドリア活性を向上させる新たな方法を提供する。
【解決手段】大豆たんぱくを有効成分として摂取することにより、骨格筋のミトコンドリア活性を向上させることができる。また、大豆たんぱくの摂取と運動負荷を併用することにより、骨格筋のミトコンドリア活性をさらに向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆たんぱくを有効成分として摂取することを特徴とする、骨格筋のミトコンドリア活性の向上方法。
【請求項2】
運動負荷を併用することを特徴とする、請求項1に記載の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆たんぱく摂取による骨格筋のミトコンドリア活性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満とは、日本肥満学会により「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI)が25以上のもの」と定義されている(非特許文献1)。肥満の主な原因はエネルギー出納バランスの破綻に起因するものであり、バランスの不均衡がわずかであっても、10年単位でそれが続くと体重の変化は顕著となるため、その予防・改善には食事療法によるエネルギー摂取量の制限や、運動療法によるエネルギー消費量の増加が重要である。しかしながら、食事療法や運動療法の実施に伴う身体的・精神的負担が大きいことから、これらの持続的な実施は困難な場合もある。
【0003】
たんぱく質の摂取において、乳由来カゼインのうち、特にαs-カゼインの摂取によりエネルギー摂取量の制限を伴わずに抗肥満効果をもたらすことが知られている(特許文献1)。また、たんぱく質摂取による抗肥満効果はたんぱく質の種類によっても異なり、特に大豆たんぱくの摂取が内臓脂肪の減少に寄与することが明らかとなっている(特許文献2および非特許文献2、非特許文献3)。大豆たんぱく摂取による内臓脂肪の減少効果の作用機序の一つとして、肝臓の脂質生合成の低下が示唆されているが、脂肪滴としての蓄積を免れた余剰脂質が消費されるメカニズムの詳細は不明である。
【0004】
骨格筋は、脂肪燃焼に欠かせない脂質酸化を担う重要な組織であり、骨格筋量の減少と肥満度には強い相関があることが知られている。骨格筋は全身の中でも脳と並び、多くのエネルギーを必要とする組織であり、エネルギーを産生するために骨格筋においてはミトコンドリアが細胞質の約40%を占めている。ミトコンドリアは生化学的エネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を生み出す細胞器官であり、ATPの大部分が効率良くこの細胞器官で生産される。ミトコンドリア内膜には呼吸鎖複合体が存在し、この複合体は呼吸鎖複合体I、II、III、IVおよびVから構成され、これらの働きによる酸化還元反応によって非常に効率よくATPが生産される。具体的には、複合体Iではニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、複合体IIではコハク酸をそれぞれ酸化することで、ユビキノンを還元してユビキノールに変換し、複合体 IIIでユビキノールを酸化することによりシトクロムcを還元する。複合体IVで還元型シトクロムcが酸化され、酸素分子に電子を伝達することで水に還元する。ミトコンドリアは2枚の膜で二重に包まれた構造をしており、この過程でミトコンドリア内膜と外膜の間の空間である膜管腔へH+(プロトン)が蓄積される。膜管腔と内膜内側の空間であるマトリックスの間に形成されたプロトン勾配を解消しようと、ATP合成酵素である複合体Vの内側をプロトンが通り抜け、アデノシン二リン酸(ADP)がATPへと変換されることで、ATPが生み出される。
【0005】
ミトコンドリア活性を向上させるものとして、カルノシンやアンセリンが知られている(特許文献3)ほか、コラーゲン加水分解物はミトコンドリア活性を向上させるとともに、脂肪酸の酸化を促進するAMP-活性化プロテインキナーゼ活性を向上することが知られている(特許文献4)。しかしながら、大豆たんぱく摂取により、他のたんぱく質と比べてミトコンドリア活性を向上させることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-256366公報
【特許文献2】特再公表2005-92367公報
【特許文献3】特開2015-97507公報
【特許文献4】特表2019-529365公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】一般社団法人日本肥満学会 肥満症診療ガイドライン2022、2022
【非特許文献2】Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 13(5):247-255、2006
【非特許文献3】大豆たん白質栄養研究会会誌 11:39-42、1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、骨格筋のミトコンドリア活性を向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、大豆たんぱくの摂取により骨格筋のミトコンドリア活性が向上すること、また、運動負荷を併用した場合は、より活性化が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
[1]大豆たんぱくを有効成分として摂取することを特徴とする、骨格筋のミトコンドリア活性の向上方法。
[2]運動負荷を併用することを特徴とする、[1]に記載の向上方法。
[3]前記運動負荷の運動負荷強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行う、[2]に記載の向上方法。
[4]総摂取カロリーあたりの大豆たんぱくカロリー量が39%以上である、[1]~[3]に記載の向上方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、大豆たんぱくを有効成分として、骨格筋のミトコンドリア活性の向上方法を提供することができる。本発明の方法によれば、骨格筋のミトコンドリア呼吸鎖複合体のうち、特に最も上流側の反応である複合体Iの活性を向上することができる。このため、骨格筋のミトコンドリア呼吸鎖複合体において上流側の複合体Iが活性化することで下流側のミトコンドリア呼吸鎖複合体において反応が連鎖的に生じてミトコンドリア呼吸鎖全体が活性化されると考えられる。これにより骨格筋のミトコンドリアにおいて脂質酸化により脂肪燃焼してエネルギー産生を向上させることができ、内臓脂肪を減少させることができる。本発明の方法は、多くの国々で昔から食されてきた大豆を原料とする大豆たんぱくを有効成分とするため、安全性に優れ、かつ、後記の実施例に示すように有効性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コントロール食又は大豆たんぱく食の摂取および運動負荷の有無によるマウスの体重測定結果を示す。
【
図2】コントロール食又は大豆たんぱく食の摂取および運動負荷の有無によるマウスの精巣上体脂肪重量測定結果を示す。
【
図3】コントロール食又は大豆たんぱく食の摂取および運動負荷の有無によるマウスの骨格筋におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性化結果を示す。
【
図4】コントロール食又は大豆たんぱく食の摂取および運動負荷の有無によるマウスの骨格筋におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体IVの活性化結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の骨格筋のミトコンドリア活性の向上方法(以下、単に「本方法」とも称する)は、大豆たんぱくを有効成分とすることを特徴とする。
【0014】
(大豆たんぱく)
本発明において、大豆たんぱくとは、大豆(Glycine max.(L.) Merrill)由来のたんぱく質のことをいう。本発明に用いる大豆たんぱくは特に限定されず、例えば、分離大豆たんぱく、濃縮大豆たんぱくの何れであっても使用でき、またこれらを組み合わせたものが使用できる。分離大豆たんぱくは、脱脂大豆から非たんぱく性化合物が除去され、例えば、たんぱく質が乾物換算で約90重量%以上の含有量まで精製されたものである。分離大豆たんぱくとしては、例えば、市販品、大豆たんぱくを原料に調製したものを用いることができる。濃縮大豆たんぱくは、脱脂大豆から油脂の大部分と水溶性非たんぱく性化合物が除去され、例えば、たんぱく質が乾物換算で約70重量%以上の含有量まで精製されたものである。濃縮大豆蛋白としては、例えば、市販品、大豆たんぱくを原料に調製したものを用いることができる。これら大豆たんぱくの形態としては、例えば、粉末状、粒状、繊維状が挙げられるが、本発明に用いる大豆たんぱくは、いずれの形態を用いることができ、特に限定されない。
【0015】
市販されている大豆たんぱくとして、例えばニューソイミー(登録商標)シリーズやソルピー(登録商標)シリーズ(日清オイリオグループ)、ニューフジプロ(登録商標)シリーズやプロリーナ(登録商標)シリーズ(不二製油)などを用いることができる。
【0016】
また、本発明で用いる大豆たんぱくとは、大豆たんぱくを含む食品であれば何れでも用いることができ、上記のいわゆる精製された大豆たんぱくに限定されるものではなく、大豆そのもの、大豆加工品であってもよく、大豆たんぱくを含む畜肉製品や菓子など何れでも用いることができる。大豆そのものの場合は、例えば大豆の水煮や煎り豆、きなこなどを用いることができる。また、大豆加工品としては、例えば煮豆や豆乳、豆乳ヨーグルト、納豆、豆腐、厚揚げなどを用いることができる。
【0017】
本発明の効果を奏するためには、大豆たんぱくの摂取量は1日あたりの総摂取カロリーに対し、カロリーあたりで15%以上であることが好ましく、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは35%以上、よりさらに好ましくは39%以上である。大豆たんぱく以外の食品については、本方法による効果を阻害しない限り、限定されない。上記の摂取は、1日当たりの摂取量を一度に摂取してもよいし、複数回に分けて摂取してもよく、また、摂取する時間についても、特に限定されない。
【0018】
本発明において、大豆たんぱくの摂取期間は、特に限定されるものではないが、継続的に一定期間(例えば、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも2か月間、さらに好ましくは少なくとも3か月間、よりさらに好ましくは少なくとも6か月間)摂取することが望ましい。
【0019】
(運動負荷)
本方法は、大豆たんぱくを摂取し運動負荷を併用することにより、運動負荷が無い場合と比較して、骨格筋のミトコンドリア活性をより向上させることができる。
【0020】
本発明において、運動負荷とは、特に限定されるものではないが、厚生労働省が推進する運動施策に定める「健康づくりのための身体活動基準2013」に記載される「運動量の基準(スポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方)」を運動負荷の基準とすることができ、当該基準以上の運動負荷を行うことが好ましい。例えば、当該基準に記載される運動負荷「18~64歳の運動の基準:強度が3メッツ(MET)以上の運動を4メッツ・時/週行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。」を行ってもよい。また、運動負荷の方法としては、3メッツ以上の運動(息が弾み汗をかく程度の運動)であればよく、例えば、ボウリング、社交ダンス(3.0 メッツ)、自体重を使った軽い筋力トレーニング(3.5メッツ)、ゴルフ(3.5~4.3メッツ)、ラジオ体操第一(4.0メッツ)、卓球(4.0メッツ)、ウォーキング(4.3メッツ)、野球(5.0メッツ)、ゆっくりとした平泳ぎ5.3メッツ)などの運動負荷を行ってもよい。なお、メッツ(MET:metabolic equivalent)とは、身体活動におけるエネルギー消費量を表す指標であり、身体活動におけるエネルギー消費量を座位安静状態のエネルギー消費量で除したものであり、座位安静状態は1メッツで表される。
・参考文献1: 健康づくりのための運動指針2013(厚生労働省 運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書,平成25年3月),https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf
【0021】
本発明において、運動負荷の期間は、特に限定されるものではないが、継続的に一定期間(例えば、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも2か月間、さらに好ましくは少なくとも3か月間、よりさらに好ましくは少なくとも6か月間)運動を行うことが望ましい。
【0022】
(ミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性化)
本発明においてミトコンドリア活性が向上するとは、大豆たんぱくを摂取または大豆たんぱくの摂取と運動負荷を併用した場合のミトコンドリア活性が、大豆たんぱく以外のたんぱく質(カゼイン)を摂取または大豆たんぱく以外のたんぱく質(カゼイン)の摂取と運動負荷を併用した場合と比べて、ミトコンドリア活性が向上(活性化)していることをいう。また、ミトコンドリア活性の向上とは、ミトコンドリア呼吸鎖複合体における電子伝達速度の向上(活性化)および細胞当たりのミトコンドリアの数の増加のうち、少なくとも一方の作用効果を奏することを含む。ミトコンドリアの活性化は、当該分野で既知の方法によって評価することができる。評価方法としては、例えば、限定するものではないが、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性化は、複合体I~Vにおいて、それぞれの基質となる物質を加えて酵素活性を測定することにより評価することができる。評価方法としては、例えば、ComplexI Assay Kit (Cayman Chemical製)、ComplexIV Assay Kit(Cayman Chemical製)を用いて酵素活性の活性化を測定、評価することができる。複合体Iは、複合体IによりNADHの酸化に続きユビキノールが産生され、この際のNADHの酸化に伴う340nmの吸光度の減少を測定することで複合体Iの活性を測定することができ、複合体IVは、複合体IVにより還元型シトクロムcが酸化され、還元型シトクロムcによる550nmの吸光度の変化を測定することで複合体IVの活性を測定することができる。
【0023】
本方法を用いること、即ち大豆たんぱくを摂取することにより、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性を向上することができる。本発明において、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性向上とは、骨格筋のミトコンドリア呼吸鎖複合体のうち、NADHから電子を渡すことでユビキノンをユビキノールに還元する反応を触媒する複合体I(NADH-補酵素Qオキシドレダクターゼ)を活性化することをいう。ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iは、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の電子伝達において最も上流側に位置しており、複合体Iで電子伝達の反応が活性化することにより、その下流に位置するミトコンドリア呼吸鎖複合体II、III、IVにおいても電子伝達が連鎖的に反応し、ミトコンドリア呼吸鎖全体が活性化されると考えられる。最終的にはミトコンドリア内の酸化的リン酸化反応を行うタンパク質複合体Vにおいて、複合体IからIVの電子伝達過程によって発生した膜管腔とマトリックスの間のプロトン濃度勾配により駆動され、ADPからATPへと変換されることで、ATPが生み出される。
【0024】
また、本方法においては、運動負荷を併用することにより、骨格筋のミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性をさらに高めることができる。大豆たんぱく摂取による内臓脂肪の減少効果の作用機序の一つとして、肝臓の脂質生合成の低下が示唆されているが、脂肪滴としての蓄積を免れた余剰脂質が運動時におけるエネルギーとして利用されることにより、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性を向上するものと考えられる。
【0025】
ミトコンドリアは脂肪を燃焼できる唯一の器官であり、脂肪細胞に含まれる脂質を脂肪酸へと分解してミトコンドリアへ取り込み、ミトコンドリア内で脂肪酸をエネルギーとして利用することにより脂肪燃焼させることが知られている。本方法は、大豆たんぱくの摂取、または大豆たんぱくの摂取と運動負荷を併用することによって、骨格筋のミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性を向上することにより、ミトコンドリアへの脂肪酸の取り込みを活発化させ、ミトコンドリアにおいて脂質酸化により脂肪燃焼してエネルギー産生を向上させることにより、内臓脂肪を減少させることができる。
【0026】
本発明の本方法を実施する対象は、動物であり、例えば、ヒト、およびヒト以外の動物(例えば、家畜、家禽、ペット等)が挙げられる。好ましくは、ヒトである。該対象がヒトである場合、いずれの年齢のヒトでもよいが、例えば、青年期(15歳~24歳)、壮年期(25歳~44歳)、中年期(45歳~64歳)、高齢期(65歳以上)のヒトが挙げられる。例えば、中年期以上の年齢層については、加齢に伴い身体の代謝機能の低下、骨格筋の減少が生じるため、本方法を用いて内臓脂肪を減少または蓄積を抑制する目的において好ましい対象として挙げられる。
【実施例0027】
以下に実験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1:大豆たんぱく摂取、大豆たんぱく摂取と運動負荷の併用によるミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性向上効果
(1)試験方法
11週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本エスエルシー)をCRF-1(オリエンタル酵母製)にて1週間馴化した後、各群の平均体重が均等になるように下記(a)~(d)の4群(各群n=9)に分け、表1および表2に示した組成の飼料、すなわち、コントロール食または大豆たんぱく食のいずれかを14日間与えて飼育を行った。運動負荷群のみケージ内にホイールランニングを設置し、自発運動を行わせた。試験食と水は自由摂取させた。
(a)コントロール食-安静群
(b)大豆たんぱく食-安静群
(c)コントロール食-運動負荷群
(d)大豆たんぱく食-運動負荷群
【0029】
試験食は、コントロール食(カゼイン食)、大豆たんぱく食の2種類について、それぞれの飼料の総カロリーおよび粗たんぱく由来カロリー、粗脂肪由来カロリー、可溶性無窒素物由来カロリーのカロリー比率が等しくなるように設計した(日本クレア製)。なお、カゼインは、たんぱく質含量が84.7g/100gのもの、大豆たんぱくは、たんぱく質含量が81.8g/100gであるニューフジプロ(登録商標)SEH(不二製油製)を用いて、それぞれの試験食に含まれるたんぱく質量が33.9g/100gとなるように設計した。これらのたんぱく質量は燃焼法により測定を行った。各試験食の配合率(%)を表1、カロリー比率(%)を表2に示す。
【0030】
【0031】
【0032】
試験期間(14日間)後における体重変化を測定し、試験期間終了時に白色脂肪組織である精巣上体脂肪、骨格筋である足底筋組織を採取し、精巣上体脂肪重量および足底筋組織のミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性を測定した。また、各試験群のうち、運動負荷群については、ケージ内のホイールランニングに走行計を設置し、試験期間14日間における運動量(総走行距離)を測定した。
【0033】
(骨格筋ミトコンドリア呼吸鎖複合体I、およびIVの活性測定)
足底筋組織をスクロース溶液でホモジナイズした後に遠心分離して上清を回収し、これをミトコンドリア画分として活性測定に用いた。ミトコンドリア呼吸鎖を構成する複合体I、およびIVの活性は、そのミトコンドリア画分に含まれるたんぱく質1mgあたりの活性(反応速度)を測定することにより求めた。ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性測定はNADHを基質、ユビキノンを電子伝達体として用い、340nmの吸光度を測定して活性を測定した。ミトコンドリア呼吸鎖複合体IVの活性測定は還元型シトクロムcを基質として550nmの吸光度を測定して活性を測定した。
【0034】
(2)結果
1.体重測定および運動量(総走行距離)測定
体重測定結果を各群の平均値±標準誤差として
図1に示す。統計解析は二元配置分散分析により、摂食したたんぱく質の種類、運動負荷の主効果と交互作用を検定し、p<0.05を統計的に有意とした。n.s.は有意差なしを示す。
図1に示すように、体重は安静群と比べ、運動負荷群で体重が少ないという有意な主効果が認められた(p<0.0001)。また、たんぱく質の種類による差および交互作用は無かった。また、運動量(総走行距離)は、たんぱく質の種類による群間差は無かった。
【0035】
2.精巣上体脂肪重量測定
精巣上体脂肪重量の測定結果を各群の平均値±標準誤差として
図2に示す。統計解析は二元配置分散分析により、摂食したたんぱく質の種類、運動負荷の主効果と交互作用を検定し、p<0.05を統計的に有意とした。n.s.は有意差なしを示す。
図2に示すように、精巣上体脂肪重量はコントロール食群よりも大豆たんぱく食群の方が、脂肪重量が少ないという有意な主効果が認められた(p<0.001)。さらに、安静群よりも運動負荷群で脂肪重量が少ないという有意な主効果が認められた(p<0.0001)。
【0036】
3.骨格筋ミトコンドリア呼吸鎖複合体I、およびIVの活性測定
骨格筋ミトコンドリア呼吸鎖複合体I、およびIVの活性測定の結果を各群の平均値±標準誤差として
図3、
図4に示す。統計解析は二元配置分散分析により、摂食したたんぱく質の種類、運動負荷の主効果と交互作用を検定し、p<0.05を統計的に有意とした。n.s.は有意差なしを示す。ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性は
図3に示すように、たんぱく質の種類に有意な主効果が認められ、コントロール食群よりも大豆たんぱく食群で複合体Iの活性が高かった(p<0.001)。また安静群に比べ運動負荷群の方が、活性が高かった(p<0.0001)。ミトコンドリア呼吸鎖複合体IVの活性は
図4に示すように、群間において有意差は無かった。