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特開2024-161662被覆活物質粒子、及びリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法
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  • 特開-被覆活物質粒子、及びリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法 図1
  • 特開-被覆活物質粒子、及びリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161662
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】被覆活物質粒子、及びリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20241113BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241113BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241113BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241113BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/36 C
H01M4/139
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/058
H01M4/13
H01M10/0567
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076489
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 修平
(72)【発明者】
【氏名】今▲崎▼ 充康
(72)【発明者】
【氏名】今泉 純一
(72)【発明者】
【氏名】時實 昌史
(72)【発明者】
【氏名】菊池 剛
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ13
5H029CJ22
5H029HJ04
5H050AA12
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050GA13
5H050GA22
5H050HA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電解媒体分解によるガスの発生の抑制ができ、かつ、特性に優れた、LIB用被覆活物質粒子、ならびにLIB用電極積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】活物質粒子30が被膜で被覆35された被覆活物質粒子130であって、その外表面の全面が、緩衝部42が形成される形成領域、及び前記緩衝部が形成されず、かつ、導電性支持材料が配されてなる、非形成領域からなり、前記緩衝部が、前記活物質粒子側から前記外表面に向かい、異なる材料からなる、少なくとも緩衝部B及び緩衝部Cを含む、多層膜で構成されてなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粒子が被膜で被覆された被覆活物質粒子であって、
前記被膜の前記活物質粒子側と反対側の外表面の全面が、
緩衝部が形成される形成領域、及び
前記緩衝部が形成されず、かつ、
導電性支持材料が配されてなる、
非形成領域からなり、
前記緩衝部が、
前記活物質粒子側から前記外表面に向かい、
異なる材料からなる、
少なくとも緩衝部B及び緩衝部Cを含む、
多層膜で構成されてなる、被覆活物質粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の被覆活物質粒子を含む、
活物質層が形成された集電体を、活物質層付き集電体として含む、
電極積層体の製造方法であって、順に、
前記集電体上に、
正極活物質粒子を含む正極活物質層を形成して正極活物質層付き集電体A、及び
負極活物質粒子を含む負極活物質層を形成して負極活物質層付き集電体Aを
形成する活物質層付き集電体A製造工程、
少なくとも1組の前記正極用集電体A、及び前記負極用集電体Aを対向させ、
電極積層体Aを形成する電極積層体A製造工程、
前記電極積層体Aを、電解液B中に浸漬し、条件Bで、
前記緩衝部Bとして、
正極緩衝部Bを含む正極活物質層付き集電体B、及び
負極緩衝部Bを含む負極活物質層付き集電体Bを形成して、
緩衝部Bを含む電極積層体Bを形成する、緩衝部B形成工程、
前記電極積層体Bを、電解液C中に浸漬し、条件Cで、
前記緩衝部Cとして、
正極緩衝部Cを含む正極活物質層付き集電体C、及び
負極緩衝部Cを含む負極活物質層付き集電体Cを形成して、
緩衝部Cを含む電極積層体Cを形成する、緩衝部C形成工程を含み、
前記正極、前記負極の各々の前記緩衝部である、正極緩衝部、負極緩衝部について、
前記正極緩衝部における前記正極緩衝部Bの厚さ:前記負極緩衝部における前記負極緩衝部Bの厚さ、及び
前記正極緩衝部における前記正極緩衝部Cの厚さ:前記負極緩衝部における前記負極緩衝部Cの厚さ、で表される、
前記正極及び前記負極についての前記緩衝部の各々の条件で形成される厚さが、
条件間で、各々、前記正極、前記負極の、一方に厚く、他方に薄く、偏って形成されることで、
10:5未満、又は、5未満:10である、リチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法。
【請求項3】
前記被膜は、前記活物質粒子に接するシェル膜を、さらに、有し、
前記シェル膜は、Fe、Mn、Si、及びAlからなる群から選ばれる1以上の金属を含んだリン酸イオン含有リチウム化合物を含んでおり、
前記活物質層が、断面形状が海島構造であって、島状部と、海状部を有し、
前記島状部は、前記形成領域に至る浸透性細孔ネットワークを含んでおり、
前記海状部は、
前記非形成領域に至り、かつ、
前記活物質粒子、バインダー、及び導電ネットワークを含む、
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法。
【請求項4】
前記電解液B、及び/又は、電解液Cが、珪素含有化合物を含む、
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質粒子が、チタン酸リチウムを含む、
請求項2~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質粒子が、リチウムニッケルマンガン酸化物を含む、
請求項2~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆活物質粒子、及びリチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)は、電気自動車の車載電源としての使用に適すよう高エネルギー密度化が求められ、また、太陽電池や、燃料電池の電力の一時的な蓄電システムとして、複数セルの電気的な直列接続高電圧化及び並列接続高容量化による高容量化に加えて、セル自体の高容量化が求められている。
【0003】
LIBは含まれる電解媒体により、非水電荷液LIB及び全固体LIBに分類され、全固体LIBの電解媒体としては、固体電解質、ポリマー電解質等がある。
【0004】
非水電荷液LIBには、液漏れ及び燃焼の問題があり、対策の為設計が複雑になる短所がある。
【0005】
ポリマーLIBは、電解媒体として、固体ポリマー電解質や、液体電解液含有ゲルポリマーを用いたLIBであり、優れた安定性と柔軟性を有し、小型、薄膜等、多様な形態とすることが可能である。
【0006】
ポリマーLIBの製法としては以下2種類ある。
【0007】
一方は、非水電解液に、重合開始剤と、単量体又はオリゴマーと、を混合し電解質組成物とした後、これを電極積層体が収納された電池に注入後、ゲル化(架橋)する製法であり、注入前の高粘度組成物に起因するセル内濡れ性不良により、ゲル化後の機械的強度確保が容易でないという短所がある。
【0008】
他方は、電解質組成物を電極又はセパレータの片面にコーティングし、熱やUVを用い硬化させゲルポリマー電解質を形成後に巻取又は積層した電極積層体を製造し、これを電池ケースに収納後、既存電解液を再注入する製法で、ゲル化のために加熱やUV照射することが必要で、ゲルがコーティングされたセパレータ等が水分を吸収し電池の性能や安定性が低下したり、セパレータが高熱収縮率の場合に温度変化により電極間で短絡発生したりする、信頼性低下懸念がある。
【0009】
全固体LIBについては、固体電解質が活物質、特に、正極活物質と直接接触した状態での充放電繰り返しで酸化劣化し易い「固体電解質酸化劣化」が知られており、長寿命化(例えば、サイクル特性向上)の観点から、固体電解質の劣化防止のための工夫が必要であり、バルク型と薄膜型とに大別でき、大容量化観点から活物質絶対量を多くできるバルク型が有利である。
【0010】
バルク型全固体LIBの電極材料として、これらのことから、小伝導率第一イオン伝導層(1×10-6 S/cm以上)にて、大伝導率活物質(1×10-4 S/cm以上)の二次粒子を被覆すると共に二次粒子を構成する一次粒子間間隙を充填することで、全一次粒子を充放電に直接寄与せしめ、また、第一イオン伝導層で被覆された二次粒子を、第一イオン伝導層と異なる物質である中伝導率第二イオン伝導層(1×10-5 S/cm以上)で積層被覆することで充放電の繰り返しによる二次粒子の破砕「活物質二次粒子破砕」抑制を図った材料が提案されている。
【0011】
一方で、従来から、LIB正極活物質として、リチウムニッケルマンガン酸化物(以下、LNMOともいう)が知られている(例えば、特許文献1)。
【0012】
LNMOは、作動電位がLi金属の析出電位基準で4.7Vであり、正極活物質材料として使用されている従来のLiインサーション材料(例えば、コバルト酸リチウムは4V)に比べて高く、高エネルギー密度化に向けて期待されている。
【0013】
ところで、LIBでは、Liイオン挿入脱離時に活物質の結晶構造が変化し歪みが発生することで不安定化「構造変化歪み不安定化」する場合があり、その結果、正極活物質では結晶構造の構成遷移金属イオンの溶出「遷移金属溶出」を伴って、
正極近傍では、当該遷移金属との結合が切れた「酸素脱離」が生じて、酸素ガスとして発生したり、電解媒体と反応して二酸化炭素ガスが発生したりする「ガス発生」の問題が、また、
負極近傍でも、電解媒体が還元され水素ガス等が発生する「還元水素ガス発生」の問題があり、
これら「ガス発生の抑制」が求められている。
【0014】
例えば、非水電解液を電解媒体として用い、正極活物質を後述するLNMOとしたLNMO正極非水電解液LIBでは、作動電位が高く正極近傍は酸化雰囲気下で反応が進行するため、「ガス発生」が顕著になるという問題がある。
【0015】
ここで、「酸素脱離」抑制の観点からは、LiFePO(LFP)に代表されるポリアニオン材料で正極活物質を被覆することが考えられ、当該材料構成の遷移金属と酸素との結合を強化する「ポリアニオン遷移金属酸素結合強化」の結果として、「酸素脱離」は抑制されるが、ポリアニオンの低導電性に由来して生じる抵抗の増大「ポリアニオン高抵抗」という問題が新たに発生じてしまう。
【0016】
また、高ニッケル濃度のリチウム遷移金属複合酸化物の正極活物質の使用により、高エネルギー密度LIBとなるが、充放電サイクル等起因の「酸素脱離」により生成する不活性NiOのLiイオン伝導阻害「不活性NiO伝導阻害」起因の出力低下が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
c
【特許文献1】特開2021-051987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
「不活性NiO伝導阻害」起因の出力低下については、活物質表面を表面炭素担持Li系ポリアニオンで被覆した正極材料にて電解液との直接接触面積低減し、不活性NiOの生成抑制した場合、特に、Li系ポリアニオンとしてLMPを用いた場合に、Mn3+POのMn3+でのヤーンテラー効果に基づき生じるポーラロンホールによる「移動電荷トラップ」、及び、MnPO/LMP「界面ミスマッチ」による電荷移動ポテンシャル障壁が上昇「電荷移動ポテンシャル障壁上昇」が発生し、これらによる界面高抵抗化が過電圧印加に繋がり、結果、劣化を早めることとなる不具合が報告されている。対策として、Ni含有Li遷移金属複合酸化物の第1正極活物質表面を、表面炭素担持のオリビン型の第2正極活物質、及びCNTを含む被覆層にて被覆した複合体が報告されているが、カーボンコートしたLi系ポリアニオンは、第1の正極活物質からのLiイオンの電解媒体への流通経路としてはそのイオン伝導度が不十分と考えられる。
【0019】
ところで、ポリアニオン材料は、上述した「ポリアニオン遷移金属酸素結合強化」作用を有するだけでなく、強固な結晶構造にて高温高電圧時にも酸素を放出しにくい正極活物質として、ポリアニオン系正極材料は「強固結晶少酸素放出ポリアニオン」作用を有し、例えば、オリビン型Fe(LFP)や類似結晶構造のオリビン型Mn(LMP)等が検討されているが、LFPは低作動電位にて低エネルギー密度で、LiMnPOは作動電位が4.1V、理論容量が160mAh/gで、現状一般的に使用されているLIB正極のLiCoOよりも高いエネルギー密度が期待されるが、材料自身が高抵抗「LMP高抵抗」に起因し低出力密度であるとの報告がある。
【0020】
このような「ポリアニオン正極活物質高抵抗」の問題解決のため、粒子表面を炭素源である有機化合物で覆った後、その炭化により活物質粒子表面に導電性炭素質被膜を形成した電極材料が提案されているが、炭素質被膜は、過剰に存在し粒子を完全に被覆する場合には、Liイオンの酸化還元反応及び拡散の障壁になり、結果、内部抵抗上昇の問題が生じる。この問題の解決の為に、Liイオン伝導性を有する化合物と炭素質被膜との複合体を被膜として形成し、電子伝導性のみならずLiイオン伝導性も改善することを意図して、LFP活物質粒子と、その表面の酸化物被膜及び炭素質被膜と、を有する活物質粒子表面において、炭素質被膜海の中に、微小な酸化物被膜からなる島が存在し、電解液が負極表面のSEIの安定化剤を実質的に含まないLIBが提案され、粒子表面にイオン伝導性物質を含有する炭素質被膜が形成され、表面の少なくとも一部が炭素質被膜に被覆されず露出し、露出部又は炭素質被膜の薄い部分でのイオン伝導により、Liイオン伝導性も損なわれない電子及びLiイオン伝導性電極材料が提案されているが、薄くとも炭素質被膜を介しては、Liイオン伝導量は激減するものと考えられる。
【0021】
そこで、本発明は、電解媒体分解によるガスの発生の抑制ができ、特性に優れ、これを含む活物質層内における電位の均一化が図られ、高信頼性のリチウムイオン二次電池の部材となる、被覆活物質粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記した課題を解決するための本発明の一つの様相は、
活物質粒子が被膜で被覆された被覆活物質粒子であって、
前記被膜の前記活物質粒子側と反対側の外表面の全面が、
緩衝部が形成される形成領域、及び
前記緩衝部が形成されず、かつ、
導電性支持材料が配されてなる、
非形成領域からなり、
前記緩衝部が、
前記活物質粒子側から前記外表面に向かい、
異なる材料からなる、
少なくとも緩衝部B及び緩衝部Cを含む、
多層膜で構成されてなる、被覆活物質粒子である。
【0023】
本様相によれば、緩衝部が、活物質粒子側から外表面に向かい、異なる材料からなる、少なくとも緩衝部B及び緩衝部Cを含む、多層膜で構成されてので、電解媒体分解によるガスの発生の抑制ができ、かつ、特性に優れた、LIB用被覆活物質粒子となる。
【0024】
上記した課題を解決するための本発明の一つの様相は、
前記被覆活物質粒子を含む、
活物質層が形成された集電体を、活物質層付き集電体として含む、
電極積層体の製造方法であって、順に、
前記集電体上に、
正極活物質粒子を含む正極活物質層を形成して正極活物質層付き集電体A、及び
負極活物質粒子を含む負極活物質層を形成して負極活物質層付き集電体Aを
形成する活物質層付き集電体A製造工程、
少なくとも1組の前記正極用集電体A、及び前記負極用集電体Aを対向させ、
電極積層体Aを形成する電極積層体A製造工程、
前記電極積層体Aを、電解液B中に浸漬し、条件Bで、
前記緩衝部Bとして、
正極緩衝部Bを含む正極活物質層付き集電体B、及び
負極緩衝部Bを含む負極活物質層付き集電体Bを形成して、
緩衝部Bを含む電極積層体Bを形成する、緩衝部B形成工程、
前記電極積層体Bを、電解液C中に浸漬し、条件Cで、
前記緩衝部Cとして、
正極緩衝部Cを含む正極活物質層付き集電体C、及び
負極緩衝部Cを含む負極活物質層付き集電体Cを形成して、
緩衝部Cを含む電極積層体Cを形成する、緩衝部C形成工程を含み、
前記正極、前記負極の各々の前記緩衝部である、正極緩衝部、負極緩衝部について、
前記正極緩衝部における前記正極緩衝部Bの厚さ:前記負極緩衝部における前記負極緩衝部Bの厚さ、及び
前記正極緩衝部における前記正極緩衝部Cの厚さ:前記負極緩衝部における前記負極緩衝部Cの厚さ、で表される、
前記正極及び前記負極についての前記緩衝部の各々の条件で形成される厚さが、
条件間で、各々、前記正極、前記負極の、一方に厚く、他方に薄く、偏って形成されることで、
10:5未満、又は、5未満:10である、リチウムイオン二次電池用電極積層体の製造方法である。
【0025】
本様相によれば、緩衝部を、正極、負極の各々に対して適切な条件で形成でっきるので、活物質粒子へのLiイオンの挿入脱離が十分かつ円滑なものとなり、高容量かつ低内部抵抗のLIB用活物質層付き集電体となる。
【0026】
好ましくは、前記被膜は、前記活物質粒子に接するシェル膜を、さらに、有し、
前記シェル膜は、Fe、Mn、Si、及びAlからなる群から選ばれる1以上の金属を含んだリン酸イオン含有リチウム化合物を含んでおり、
前記活物質層が、断面形状が海島構造であって、島状部と、海状部を有し、
前記島状部は、前記形成領域に至る浸透性細孔ネットワークを含んでおり、
前記海状部は、
前記非形成領域に至り、かつ、
前記活物質粒子、バインダー、及び導電ネットワークを含む。
【0027】
好ましくは、前記電解液B、及び/又は、電解液Cが、珪素含有化合物を含む。
【0028】
好ましくは、前記負極活物質粒子が、チタン酸リチウムを含み、高安全性LIBが製造できる。
【0029】
好ましくは、前記正極活物質粒子が、リチウムニッケルマンガン酸化物を含み、より高出力のLIBが製造できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池用被覆活物質粒子は、その活物質粒子表面の、形成領域に緩衝部が形成されているので、電解媒体分解によるガスの発生の抑制ができ、かつ、特性に優れた、LIB用被覆活物質粒子となり、緩衝部が形成されない非形成領域において、導電ネットワークの露出が確保されつつ、導電性支持材料が配されてなる凸部が構成されているので、これを含む活物質層内における電位の均一化が図られ、高信頼性のLIB用被覆活物質粒子となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態のリチウムイオン二次電池を概念的に示した説明図であり、(a)はリチウムイオン二次電池の斜視図であり、(b)は(a)のA-A断面図であり、(c)は(a)のB-B断面図である。
図2図1の正極部及び負極部の電極部の説明図であり、(a)は電極部の断面図であり、(b)は被覆活物質粒子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
(リチウムイオン二次電池(LIB)1)
本発明の第1実施形態のリチウムイオン二次電池(単にLIBともいう)1は、図1のように、外装体3内に電極積層体5が収容された電池組立体を有し、電池組立体の外装体3内に電解媒体6を満たして封止したものである。
【0034】
リチウムイオン二次電池1は、電解媒体6が非水電解液の非水電解液LIBであってもよいし、電解媒体6が固体電解質の全固体LIBであってもよいし、電解媒体6がポリマー電解質のポリマーLIBであってもよく、非水電解液LIBであることが好ましい。
【0035】
以下の説明では、リチウムイオン二次電池1が非水電解液LIBである場合について説明する。
【0036】
(外装体3)
外装体3は、電解媒体(電解液)6に対し化学的に安定、特に非水電解液6に対し安定かつ十分な水蒸気バリア性のものであれば適宜選択でき、最終的に電極積層体5が電解媒体6を収容した密閉内部空間を形成し得るもので、好ましくは、条件を変えて本発明に係る緩衝部形成工程実施できるよう、複数回非水電解液を注入、排出できるよう複数回開封、封止できるラミネートフィルム外装体3を用いることが好ましい。なお、開封作業の方法としては、穴をあける、予備部分を切断する、2回目以降の注液口をあらかじめ用意しておきその注液口を開封する、などの方法が挙げられる。
【0037】
外装体3に用いる材料、形態としては、アルミニウムや、鉄、ステンレスを、主材とした缶、ラミネート樹脂を含むラミネートフィルム等が挙げられ、ラミネート樹脂を用いた外装体3については、非水電解液二次電池の場合、アルミニウム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることもできるが、汎用性やコスト等の観点から、アルミニウムラミネートフィルムを用いることが好ましく、好ましい外装体3としては、2枚の金属製のラミネートフィルムを接着することで形成されることが好ましい。
【0038】
(電極積層体5)
電極積層体5は、図1のように、正極部10と、負極部11と、セパレータ12と、正極用取出部材13と、負極用取出部材14を有している。
【0039】
(正極部10、負極部11)
正極部10、負極部11は、図1(b)のように、正極用集電体20、負極用集電体120の少なくとも一方の主面上に正極活物質層21、負極活物質層121が積層されたものであり、Liイオンの挿入・脱離が可能なインターカレーション電極である。
【0040】
本実施形態の正極部10、負極部11は、図2(a)のように、正極用集電体20、負極用集電体120の両主面上に正極活物質層21、負極活物質層121が積層されている。
【0041】
(正極用集電体20、負極用集電体120)
正極用集電体20、負極用集電体120は、導電性を有する板状体又はフィルム状体であり、導電性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金が使用できるが、正極反応雰囲気下及び負極反応雰囲気下で安定であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましく、JIS規格1030、1050、1085、1N90、1N99等に代表される高純度アルミニウムであることがより好ましく、金属の表面に正極の電位で反応しない金属を被覆した被覆体が使用できる。
【0042】
(活物質層2(正極活物質層21、負極活物質層121))
活物質層2(正極活物質層21、負極活物質層121)は、Liイオン伝導性活物質の粒子30を含んで構成されており、他に、バインダー70、導電ネットワーク80、及び浸透性細孔ネットワーク81から構成され、集電体20、120上に形成され、好ましくはSEI構造を含み、好ましくは図2(a)の拡大図のように、海島構造を有した海島構成膜であり、断面形状が海状部60と島状部61を備えている、所謂バルクの膜である。
【0043】
正極活物質層21は、重量比率では被覆活物質粒子130が多く占めるが、体積比率ではバインダー70と導電ネットワーク80が電子顕微鏡でも確認できる程度を占める。
【0044】
(被覆活物質粒子130)
被覆活物質粒子130は、図2(b)のように、活物質粒子30を含み、これを被膜35で覆ったものであり、被膜35は、活物質粒子30側から順に、シェル膜41、及び/又は、緩衝部42から構成され、本明細書においては、活物質粒子30をコアとし、シェル膜41をシェルとするコアシェル構造を有する粒子を、コアシェル粒子36を呼称することがあり、当該コアシェル粒子36、及び活物質粒子30を対象粒子として、これらに緩衝部42を形成することをから、緩衝部42が形成されることとなる粒子であるコアシェル粒子36、及び活物質粒子30を「活物質粒子」とまとめて記載すること、すなわち、「活物質粒子」は、コアシェル粒子36、又は活物質粒子30であり、例えば、正極活物質粒子40の外面をシェル膜41が覆っている正極コアシェル粒子36は、正極「活物質粒子」と表現する場合がある。
【0045】
このように、好ましい実施形態の一つである、本実施形態の被覆活物質粒子130は、シェル膜41の外表面の一部又は全部に緩衝部42をさらに備えている。すなわち、本実施形態の被覆活物質粒子130は、正極活物質粒子40の表面に被膜35が覆っており、被膜35は、シェル膜41と緩衝部42の多層膜となっている。
【0046】
そして、より高性能のLIBとする観点から、正極被覆活物質粒子130のシェル膜41に含まれるLiイオンの濃度である正極シェル膜Liイオン濃度は、負極被覆活物質粒子130のシェル膜41に含まれるLiイオンの濃度である負極シェル膜Liイオン濃度と、異なっていることが好ましく、より好ましくは、高速充電が要求されるLIBと、高速放電が要求されるLIBとで、区別して設計製造することであり、これらの濃度は、膜中の平均濃度であり、また、前述のシェル膜41/緩衝部42の多層膜においては、緩衝部42緩衝部42は、Liイオンを含まない酸化物及び/又は有機物を含み、全体としてLiイオンを含んで構成されることから、正極多層膜Liイオン濃度と負極多層膜Liイオン濃度とが異なるLIBとすることで、より高性能とLIBとすることができるため好ましく、より好ましくは、高速充電が要求されるLIBと、高速放電が要求されるLIBとで、区別して設計製造することである。
【0047】
(活物質粒子30)
活物質粒子30は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子であり、リチウムイオンを挿入及び脱離が可能となっている。
【0048】
その粒径は、特に限定されないが、メジアン径d50が5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。
<正極活物質粒子40>
正極活物質粒子40は、Liの脱離及び挿入の平均電位がLi金属の析出電位に対して(vs.Li/Liとも示す)、4.5V以上5.0V以下であることが好ましい。すなわち、正極活物質粒子40は、単体でのLi金属基準での作動電位が4.5V以上5.0V以下であることが好ましい。
【0049】
Liイオン挿入・脱離反応の電位(以下、電圧ともいう)(vs.Li/Li)は、例えば、正極活物質粒子40を用いた動作極、Li金属を対極とした半電池の充放電特性を測定し、プラトー開始時、及び終了時の電圧値を読み取ることによって求めることができる。プラトーが2箇所以上あった場合は、もっとも低い電圧値のプラトーが4.5V(vs.Li/Li)以上であればよく、もっとも高い電圧値のプラトーが5.0V(vs.Li/Li)以下であればよい。
【0050】

正極活物質粒子40は、特に限定されないが、下記式(1)で表されるスピネル型のリチウムマンガン系酸化物が好ましい。
【0051】
Li1+xMn2-x-y・・・(1)
前記式(1)中、x、yはそれぞれ0≦x≦0.2、0<y≦0.8を満たし、MはAl、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、Cu、及びCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、後述する「アセトニトリル溶出金属イオン負極析出SEI損傷還元分解促進影響」にも注意を払うべきである。
【0052】
上記式(1)の中でも、MがNiであるリチウムニッケルマンガン酸化物(LNMO)が好ましいが、上述の「酸素脱離不活性NiO拡散阻害」への対策が必要となる。
<負極活物質粒子140>
負極活物質粒子140は、リチウム析出が起きにくく安全性が向上する観点からチタン酸リチウム(LTO)を使用することが好ましい。
【0053】
負極活物質粒子140は、LTOの中でも、リチウムイオンの挿入・脱離の反応における活物質の膨張収縮が小さい点から、スピネル構造のLTOが特に好ましい。
【0054】
LTOには、例えば、Nbなどのリチウム、チタン以外の元素が微量含まれていてもよい。
【0055】
LTOを負極活物質として含むLIBは、負極の酸化/還元電位が比較的に高く、通常の非水電解質ではSEI形成が困難で、充放電に伴うガスの発生が問題となる。よってこのような「LTO負極LIB」では、そのような高電位でもSEI形成可能な材料で非水電解液、即ち「高電位SEI形成非水電解液」を構成した状態で充電しSEIを含む緩衝部42を形成することが好ましい。
【0056】
このような「高電位SEI形成非水電解液」としては、ホスフェート化合物、スルホネート化合物を添加した非水電解液は比較的高電位で還元され不動態膜を高電位の負極表面に形成し、この不動態膜はSEIであり得る。
【0057】
前記ホスフェート化合物としては、好ましくは、LiジフルオロビスオキサラトホスフェートまたはLiテトラフルオロホスフェートである。
【0058】
(シェル膜41)
シェル膜41は、活物質粒子30の表面形状を緻密に覆った連続した層構造を有する膜であり、元素としてリンを含有したLiイオン伝導性化合物を含んで構成された被膜であり、単独で正極活物質として機能するインターカレーション材料で構成されていることが好ましい。
【0059】
シェル膜41は、リン酸イオンを含み、さらにFe、Mn、Si、及びAlからなる群から選ばれる1種以上の金属を含むリン酸イオン含有Li化合物を有している。
【0060】

このようなリン酸イオン含有Li化合物としては、オリビン型の結晶構造をもつリン酸マンガンリチウム(以下、LMPともいう)やリン酸鉄Li(以下、LFPともいう)、NASICON型の結晶構造をもつリン酸チタンアルミリチウム(以下、LATPともいう)、リン酸リチウム(以下、LPともいう)などのリチウムリン酸化合物であることが好ましく、LMP、LFP、LATPなどのリチウム遷移金属リン酸塩が好ましい。
【0061】
LPとしては、LiPO4-a-b(Xは、N、S、B、及びSiからなる群より選ばれる1種、Yはハロゲン原子の何れかである。)で示されるLi含有化合物であってもよく、LIB内に存在するLiの消費を抑制しつつ、高容量低抵抗LIBとなり、酸素原子の一部がX、Yで置換された構造を有し、X導入によりLi導電性は向上するが電気的絶縁性が低下するので、Yを適量導入することで電気的絶縁性を確保したものであると報告されてる。
【0062】
シェル膜41は、これらの中でも、マンガン(Mn)元素を含むリン酸イオン含有リチウム化合物膜であり、前記「強固結晶少酸素放出ポリアニオン」との特徴具備のLMPであることがより好ましい。
【0063】
そして、シェル膜41は、「LMP高抵抗」「移動電荷トラップ」及び「電荷移動ポテンシャル障壁上昇」「界面ミスマッチ」の悪影響を抑制しつつ「強固結晶少酸素放出ポリアニオン」の効果及び「挿入破壊防止」層としての効果を十分に発揮せしめる観点から、好ましくは、その両面で当該金属の成分及び/又は組成が異なり、活物質粒子30の中心から外側に向かい、LFP/LMP2層構造のシェル膜41とすることが好ましく、より好ましくは、構成遷移金属を、FeからMnに緩やかに変化させたシェル膜41とすることであり、さらに好ましくは、後述する緩衝部42を含め、「Li系ポリアニオン」の金属成分の組成及び/又は比率を変化させることである。
【0064】
シェル膜41の厚みは、リチウムイオン伝導性酸化物の粒径よりも薄く、5nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0065】
この範囲であれば、シェル膜41での抵抗損失を抑制しつつ、ガスの発生量を抑制できる。
【0066】
シェル膜41は、正極活物質粒子40の表面の少なくとも一部を覆っており、95%以上を覆っていることがより好ましく、完全に覆っていることが好ましい。
【0067】
シェル膜41は、後述する緩衝部42のSEI構造に消費された正極活物質粒子40のLiイオンを補充する「消費Li補充」観点から、非晶質であることが好ましい。
【0068】
(緩衝部42)
緩衝部42は、リチウム元素を含み、さらに珪素元素を含む珪素含有化合物膜である。
【0069】
緩衝部42は、コアシェル粒子36と緩衝部形成用電解液との間での電気化学反応で生じる固体電解質界面(以下、SEIともいう)構造を有するものであり、好ましくは、珪素元素を含んだシロキサン改質被覆層である。
【0070】
緩衝部42は、リチウムイオンのみを通過させ電子を通過させない選択的透過膜であり、電解媒体6中でLiイオンとともに移動する分子量の大きい有機溶媒分子等がコアシェル粒子36に、特に活物質粒子30のLiイオン挿入脱離可能部位に、挿入され、その構造が破壊されることを防止する「挿入破壊防止」層である。
【0071】
緩衝部42は、コアシェル粒子36との界面近傍の表面、特に浸透性細孔ネットワーク81との接触部においてSEI構造と一体不可分な改質領域を含んでいることが好ましい。
【0072】
SEI構造は、主に電池に初めて充電する時において電極活物質表面上に形成され、LIB駆動充放電繰り返しで少しずつ損傷劣化してしまうと考えられる。この劣化部分のSEIは電極活物質表面近傍の非水電解液を原料として新たに再生されるが、その際に溶質、電解液、添加剤等が消費され、長期間の使用でLiイオンや電解液の量が減少し電池特性が劣化する。SEI劣化速さはSEIの質で決まると考えられ、SEIは非水電解液由来の成分で構成され、例えば、カーボネート由来成分連結のポリマーを含むといわれている。そこに不純物である難燃剤等の不純物由来の構造が入ると、SEIの構造が乱れ低品質になると考えられ、高品質に初期形成されたSEIは劣化しにくく再生時の不純物取り込みが抑制され、より効果的SEIと考えられる。
【0073】
即ち、SEI品質向上には、添加剤、例えば難燃剤、のない電解液中でSEI形成反応を行うことが有効で、また、SEIは電池の初回充電時に最も多く形成されるので、初回充電時に高品質SEIを形成することが効果的と考えられる。
【0074】
このようなSEIを含む本発明に係る緩衝部42は、リチウム元素と珪素元素に加えて、金属酸化物及び/又は金属リン酸化物を含んでいてもよい。
【0075】
そして、シェル膜41/緩衝部42の多層膜は、好ましくは、その両面で当該金属の成分及び/又は組成が異なると共に、そのリン酸イオンの濃度が異なることが、Li系ポリアニオン被覆による高抵抗化の悪影響を抑制しつつ「強固結晶少酸素放出ポリアニオン」及び「消費Li補充」の効果を十分に発揮せしめる観点から好ましく、活物質粒子30の中心から外側に向かい、リン酸イオンの濃度を低下させ、酸化物の濃度を上昇させることが好ましく、シェル膜41がLMPを含む場合は、「移動電荷トラップ」「電荷移動ポテンシャル障壁上昇」を抑制するために、より好ましく、「界面ミスマッチ」を抑制するためには、徐々にこれら組成及び/又は濃度を変化させることが好ましい。
【0076】
緩衝部42は、コアシェル粒子36の表面の少なくとも一部を覆っており、95%以上を覆っていることがより好ましく、完全に覆っていることが好ましい。
【0077】
緩衝部42について、本明細書では、緩衝部42形成前の「活物質粒子」を、「活物質粒子A」、これを含む活物質層を活物質層A、活物質層Aが配された集電体20、120を活物質層付き集電体A、これを製造する製造工程を活物質層付き集電体A製造工程、正極及び負極の活物質層付き集電体Aを対向させた電極積層体を電極積層体A、これを製造する製造工程を電極積層体A製造工程と呼称することがある。
【0078】
また同様に、緩衝部42について、本発明は、活物質層付き集電体Aの「活物質粒子」に対し、緩衝部42形成を少なくとも1回、好ましくは2回以上実施することを特徴とするが、1回目、又は、複数回の内の先の回の、緩衝部42形成後の「活物質粒子」を、「活物質粒子B」、これを含む活物質層を活物質層B、活物質層Bが配された集電体20、120を活物質層付き集電体B、これを製造する製造工程を活物質層付き集電体B製造工程、正極及び負極の活物質層付き集電体Bが対向されてなる電極積層体を電極積層体B、これを製造する製造工程を電極積層体B製造工程と呼称することがある。
【0079】
そして同様に、緩衝部42について、複数回の内の後の回の、緩衝部42形成後の「活物質粒子」を、「活物質粒子C」、これを含む活物質層を活物質層C、活物質層Cが配された集電体20、120を活物質層付き集電体C、これを製造する製造工程を活物質層付き集電体C製造工程、正極及び負極の活物質層付き集電体Cが対向されてなる電極積層体を電極積層体C、これを製造する製造工程を電極積層体C製造工程と呼称することがある。
【0080】
(バインダー70)
バインダー70は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0081】
バインダー70は、分散剤、増粘剤、バインダー材料に溶解する導電補助剤が含まれていてもよい。
【0082】
バインダー70の量は、コアシェル粒子36を100重量部に対して、1重量部以上30重量部以下であることが好ましく、活物質粒子30や前記コアシェル粒子36を一体の層として支持可能な強度を活物質層2に付与でき、また、安定的に低抵抗導電ネットワーク80を構成でき、さらに、集電体20、120との接着強度を十分なものとすることができる。
【0083】
この範囲であれば、コアシェル粒子36が十分な接着強度で接着された正極活物質層21を形成でき、また、安定的に低抵抗な導電ネットワーク80を構成できる。さらに、集電体20に対しても十分な接着強度を得ることができる。
【0084】
(導電ネットワーク80)
導電ネットワーク80は、導電性材料で構成されるものであり、導電性炭素材料で構成されていることが好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及びファーネスブラックから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0085】
導電ネットワーク80の量は、コアシェル粒子36を100重量部に対して、1重量部以上30重量部以下であることが好ましい。
【0086】
この範囲であれば、正極部10の導電性を確保しつつ、バインダー70との接着性が維持できる。また、集電体20との接着性を十分に得つつ、当該集電体20との導電性を十分なものにできる。
【0087】
導電ネットワーク80は、少なくとも一部がコアシェル粒子36に接触しており、コアシェル粒子36との形成領域から外側に向かって延びている。
【0088】
(海状部60)
海状部60は、導電性支持材料、及び「活物質粒子」を含み、当該導電性支持材料はバインダー70、及び導電ネットワーク80を含み、例えば、図2(a)の拡大図のように、被覆活物質粒子130と、バインダー70と、導電ネットワーク80で構成されている。
【0089】
海状部60は、隣接する被覆活物質粒子130,30同士の導電経路よりも長く、鎖のような導電ネットワーク80が主骨格となっており、この導電ネットワーク80に複数の被覆活物質粒子130が接触している状態を、バインダー70が支持している。
【0090】
活物質層2における電位均一化は、被覆活物質粒子130同士の導電経路よりも、主に導電性材料により構成される長い鎖の如き導電ネットワーク80が担っているものと推察される。
【0091】
このような導電ネットワーク80に複数の被覆活物質粒子130が接触している状態をバインダー70が支持する構造が形成される理由は、後述する製法で作製すると、塗布工程で形成されるスラリーにおいて、導電性材料、バインダー、及び溶媒を含めた疎水性媒体に親水性表面の被覆活物質粒子130が並んでいる状態から、溶媒を乾燥除去することにより、バインダー70が支持した状態になると考えられる。
【0092】
(島状部61)
島状部61は、図2(a)のように、浸透性細孔ネットワーク81で構成されている。
【0093】
浸透性細孔ネットワーク81は、複数の細孔を有しており、これらの細孔が互いに連通することで、電解媒体6が浸透可能となっている。
【0094】
浸透性細孔ネットワーク81は、細孔の一部が「活物質粒子」表面の形成領域に至って接触していることが好ましい。
【0095】
浸透性細孔ネットワーク81は、少なくとも当該形成領域に、SEI構造を有する非液体状のリチウムイオン伝導体が配されている。
【0096】
当該リチウムイオン伝導体は、Mn、Fe、Al、Siから選ばれる1種以上の金属元素を含むことが好ましい。
【0097】
別の観点からみると、浸透性細孔ネットワーク81は、被覆活物質粒子130と、バインダー70と、導電ネットワーク80のそれぞれの輪郭によって構成された空洞であり、正極用集電体20側(内側)から外側に向かって三次元的に連続している。
【0098】
正極活物質粒子40又は「活物質粒子」の表面において、当該表面の面積に対する細孔の面積の合計面積の比率は、0.1%以上30%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0099】
浸透性細孔ネットワーク81は、正極活物質粒子40又は「活物質粒子」に接触しており、なくともLIB1の充放電時には、電解媒体6の一部が浸透しており、そして、浸透性細孔ネットワーク81の当該形成領域にはSEI構造含有非液体Liイオン伝導体が形成されていることが好ましく、このようなSEI構造含有非液体Liイオン伝導体は、Mn、Si、Fe、及びAlからなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含むことが好ましく、より好ましくは、Mn及びSiを含む。
<活物質層付き集電体>
活物質層付き集電体は、集電体20、120上に、被覆活物質粒子130を含む活物質層2が形成されてなり、好ましくは、集電体20、120側とは反対側の表面である、活物質層表面が、「活物質粒子」から構成される凸部、及び、導電性支持材料から構成される凹部からなる凹凸表面である。
<被膜35>
被膜35は、その活物質粒子30側と反対側の外表面の全面が、緩衝部42が形成される形成領域、及び、それ以外の非形成領域からなり、当該非形成領域は、緩衝部42が形成されない領域であって、かつ、バインダー70、及び導電ネットワーク80を含む、導電性支持材料が配されてなる領域である。
【0100】
このような非形成領域は、好ましくは、非形成領域を凸部、前記形成領域を凹部とする凹凸表面であり、その凸部である、非形成領域凸部に、前記導電ネットワークの一部が露出してなる。
<導電性材料>
本発明に係る導電ネットワーク80を構成する導電性材料としては、一般にペースト作製時に導電助剤として用いられるものが使用でき、導電性炭素材料が好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及びファーネスブラックから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0101】
活物質層2に含まれる当該導電性材料の量は、(被覆)活物質粒子30、130、コアシェル粒子36の100重量部に対し1重量部以上30重量部以下であることが好ましく、正極部10、負極部11の導電性を確保しつつ、好ましくは、本発明に係る導電ネットワーク80の導電性を十分に確保し、バインダー70との接着性が維持され、集電体20、120との接着性を十分に得つつ、当該集電体20、120との導電性を十分なものとすることができる。
【0102】
(電解媒体6)
電解媒体6は、電解液又は固体電解質であり、本実施形態では非水電解液である。
【0103】
電解媒体6は、特に限定されないが、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液を高分子に含浸させたゲル電解質などを用いることができる。
【0104】
電解媒体6は、特に限定されないが、非水電解液、ポリマー電解質、又は固体電解質であり、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液を高分子に含浸させたポリマー電解質であることが、本発明の効果を効果的に奏さしめる観点から好ましく、より好ましくは非水電解液である。
【0105】
電解媒体6は、あらかじめ正極部10及び負極部11と、そして、好ましくは電解媒体6中に存在するセパレータ12と、に含ませてもよいし、正極部10側と負極部11側との間にセパレータ12を配置したものを倦回、あるいは積層した後に添加してもよい。
【0106】
非水電解液は、非水溶媒に、Li塩を溶かした液体であり、必要に応じて、後述する各種添加剤が添加され、それ以外にも、充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上等の目的で、その他の添加剤を添加できる。
【0107】
(緩衝部形成用電解液、電池製品出荷時電解液)
このような非水電解液は、本発明に係る緩衝部を形成する際に使用され、その原料を含む電解液である、緩衝部形成用電解液と、電池製品を出荷する直前に注入され、電池駆動時の駆動時電解液として使用される電解液である、電池製品出荷時電解液とを含み、この緩衝部形成用電解液と電池製品出荷時電解液とで、また、緩衝部形成用電解液については工程における各段階において、目的に応じて、成分、及び/又は、組成を異なるものとすることが、本発明の特徴の一つである。
【0108】
例えば、緩衝部形成用電解液は、Liイオン伝導性を有し、緩衝部42を構成する珪素含有化合物を含むものとすることができ、このような珪素化含有合物は電解液に添加剤として含まれ、電池製品出荷時電解液は基本的に、緩衝部42を電気化学的に生成する可能性がある原料を含まぬ、安定的にLiイオン伝導機能を発揮し得るものであることが好ましい。
【0109】
このように緩衝部形成に必要な添加剤を各段階に目的に応じ適切な材料を適切な量用いることにより、高価な添加剤の使用量を低減させることができ、発生するガスの放出が容易で、電解液の段階別の注液によって多様な電解液を選択的に用いることができ、従来のLi塩及び添加剤の使用による限界を克服した高性能のLIBとすることができる。
<ポリマー電解質用高分子>
ポリマー電解質用の高分子としては、PEG、PEO、PAN、PVDF、フッ素系重合体、これに(メタ)アクリル重合体をグラフトした高分子等があげられ、重量平均分子量としては、5000~20000といった値のものが用いられる。
【0110】
例えば、(メタ)アクリル重合体グラフトフッ素系重合体高分子は、フッ素系重合体の低表面エネルギーとの特性に伴う問題である、電解液組成物として注入し難いだけでなく、注入したとしても浸透し難く、活物質表面への均一分布性の問題を改善し、その特性である、高電圧時電気化学的安定性、フッ素基によるラジカル除去可能性の特性を活かそうとするものである。
<固体電解質>
固体電解質としては、高いイオン伝導性を有する限り利用することができ、Liを含むセラミック電解質が好ましく、例えば、Li10GePS1、LiS1、70LiS-30P、La0.1Li0.34TiO2.94、Li1.1Al0.7Ti1.5(PO等が挙げられ、好ましい導電率は、1×10-4S/cm以上であり、より好ましくは、1×10-3S/cm以上であり、好ましい厚みは、5μm以上200μm以下で、5μm未満では固体電解質層の機械的強度が不足し短絡し易くなり、10μm以上100μm以下がより好ましい。
<非水溶媒>
非水溶媒としては、環状の非プロトン性溶媒及び/又は鎖状の非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。
【0111】
環状の非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、環状スルホン及び環状エーテルなどが例示され、高品質SEI形成の観点からは、不飽和結合を含んだり、ハロゲン原子を含んだりする環状カーボネート系化合物を用いてもよい。
【0112】
鎖状の非プロトン性溶媒としては、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、鎖状エーテル、及びアセトニトリルなどの一般的に非水電解質の溶媒として用いられる溶媒を用いてもよく、高品質SEI形成の観点からは、不飽和結合を含んだり、ハロゲン原子を含んだりする鎖状カーボネート系化合物を用いてもよい。
【0113】
ここで、アセトニトリルは、非水溶媒に含まれることで、イオン伝導性が向上し電池内でのLiイオンの拡散性を高めることができ、特に活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた場合でも、高負荷での放電時にLiイオンが到達し難い集電体近傍領域にまで、Liイオンが十分に拡散できることなり、高負荷放電時にも十分な容量を放電可能な負荷特性及び急速充電性を有するLIBとなるので好ましい。しかしながら、これが有するニトリル基が、高い金属配位能を持つため、正極活物質中の遷移金属と錯体を形成し安定化することで金属溶出を促進し、溶出した金属イオンは、負極側で還元析出し、負極のSEIに損傷を与えるため、負極での溶媒の還元分解が促進され、即ち、「アセトニトリル溶出金属イオン負極析出SEI損傷還元分解促進影響」が発生し、不可逆容量が増加すると共に、還元分解された溶媒が負極に堆積し、また、そのLIBを高温環境下で長期保存した場合、正極Al集電体-正極活物質粒子間に物理的なはく離箇所が生じることが報告されており、内部抵抗が増加すること、また、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易く、アセトニトリルを用いる場合、他の溶媒、例えば、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒を用いたり、電極保護剤を添加したりする必要があり注意を要し、また、後述する「環状アニオン含有Li塩とアセトニトリルとの含有による負極SEI劣化抑制効果」にも着目すべきである。
【0114】
より具体的には、非プロトン性溶媒としては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、スルホラン、ジオキソラン、プロピオン酸メチルなどを用いることができる。
【0115】
これら溶媒は、1種類で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよいが、後述の溶質の溶解させやすさ、Liイオンの伝導性の高さから、2種類以上混合した溶媒を用いることが好ましい。
【0116】
非プロトン性溶媒として2種類以上混合する場合、高温時の安定性が高く、且つ低温時のLi伝導性が高いことから、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、及びメチルプロピルカーボネートに例示される鎖状カーボネートのうち1種類以上と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びγ-ブチルラクトンに例示される環状化合物のうち1種類以上との混合が好ましい。
【0117】
ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びジエチルカーボネートに例示される鎖状カーボネートのうち1種類以上と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートに例示される環状カーボネートのうち1種類以上との混合が特に好ましい。
<溶質>
溶質は、特に限定されないが、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCFSO、LiBOB(Lithium Bis (Oxalato) Borate)、LiN(SOCFなどは溶媒に溶解しやすいことから好ましい。
【0118】
環状アニオン含有Li塩は、アセトニトリルを含む非水電解液の溶質として長期的な高温耐久性向上の観点から好ましく、Liイオンと乖離した環状アニオンが、アセトニトリルと電気的に相互作用し、ニトリル基の金属配位能を弱め、高温下でのアセトニトリルの正極活物質中遷移金属との錯体形成起因の金属溶出抑制に伴った金属錯体の負極への移動抑制作用による金属錯体の負極での還元析出により生じる「環状アニオン含有Li塩とアセトニトリルとの含有による負極SEI劣化抑制効果」に基づく長期高温耐久性の向上効果が報告されている。
<非水電解液6の添加剤>
非水電解液6の添加剤としては、電極保護剤、ガス発生抑制剤、SEI形成剤、SEI形成促進剤、SEI特性向上剤、安定剤、金属溶出抑制剤、難燃剤等が挙げられる。
【0119】
電極保護剤は、電極を保護するための添加剤であり、非水溶媒と重複してよく、具体例としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート、不飽和結合含有環状カーボネート、ラクトン、環状硫黄化合物が挙げられ、その非水電解液中の含有量は、非水溶媒の全量当たり、0.1~30体積%であることが好ましく、0.3~15体積%であることがより好ましい。
【0120】
電極保護剤としてのビニレンカーボネートは、負極表面でのアセトニトリルの還元分解反応を抑制可能なので、過剰な被膜形成による低温時性能低下を防止するために併用され界面抵抗を低く抑えることで、低温時のサイクル特性の劣化抑制に寄与する。
【0121】
ガス発生抑制剤は、主に高温貯蔵時におけるガスの発生を抑制する機能を有し、
ホスフェート化合物が挙げられる。
【0122】
SEI形成剤は、充電時に非水電解液の一部として、電気化学的酸化還元反応等により分解して電極表面に形成されるSEIの原料となる材料で、通常、Li塩、及び非水系有機溶媒を含む電解液の電気化学的酸化還元反応によってもSEIが形成され得るが、このようなSEIは厚くて抵抗が大きい場合があり、SEI形成剤を用いることで、形成されるSEIを薄膜化・緻密化可能な場合があり、SEIの低抵抗化に寄与できる場合があり、このようなSEI形成剤としては、スルホネート化合物、スルトン系化合物、アクリレート系化合物、分子内窒素原子を二つ以上含む6員芳香族ヘテロ環化合物等や、環状アニオン含有化合物、各種Li塩、例えば、オキサラト錯体負イオンLi塩、イミド系Li塩(例えば、Liビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI))、フルオロフォスフェート系Li塩、フルオロボレート系Li塩、等が挙げられ、例えば、スルホネート化合物は、低抵抗SEIの形成を通じ内部抵抗を減少させ、環状アニオン含有化合物は、これが負極で還元分解して生成した分解物が負極に堆積しSEIを形成する。
【0123】
SEI特性向上剤は、SEIを強化する機能を有し、酸無水物が挙げられる。
【0124】
SEI形成促進剤は、SEIの形成を促進する機能を有し、電子求引性基が置換されたラクタム系化合物が挙げられ、SEIの原料の酸化/還元電位が高くすることで、負極活物質をLTOとした場合に、SEI形成を促進する。
【0125】
安定剤は、非水溶媒液LIBについて、非水溶電解液そのものやこれと電極部との状態を製品出荷時点の状態に、長期間及び多数の充放電サイクルに亘り維持する機能を有し、本発明に係る珪素含有化合物である、シラン系化合物や、リン酸エステルが挙げられる。
【0126】
シラン系化合物は、非水溶媒液LIBを低内部抵抗の状態に維持し、非水電解液の酸化劣化の原因となる正極活物質の活性点から非水電解液を保護する。
【0127】
リン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用により非水電解液を安定化する。
<珪素含有化合物>
前記珪素含有化合物としては、例えば、一つ以上の不飽和基を含むシロキサン系化合物、シラザン系化合物、シリルアミド系化合物等があるが、好ましい珪素含有化合物としては、2,4,6,8-テトラビニル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン(4VC4S)等のビニル基を有する環状シロキサンを挙げることができる。
【0128】
一つ以上の不飽和基を含むシロキサン系化合物は、―Si―O―Si―結合(シロキサン結合)、及び炭素―炭素二重結合を少なくとも一つ以上含んでおり、シロキサン結合部位はLiイオンを伝導可能と、また、この二重結合は架橋結合によりSEI構造の形成に寄与可能と、考えられる。
【0129】
(セパレータ12)
セパレータ12は、図1のように、正極部10と負極部11との間に設置され、絶縁性かつ電解媒体6を含むことができる構造となっている。
【0130】
セパレータ12は、例えば、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、及びそれらを2種類以上複合したものの織布、不織布、微多孔膜などが挙げられる。
【0131】
セパレータ12には、各種可塑剤、酸化防止剤、難燃剤が含まれてもよいし、金属酸化物等が被覆されていてもよい。
【0132】
(正極用取出部材13、負極用取出部材14)
取出部材13、14は、一又は複数の正極部10、一又は複数の負極部11と接続され、外部負荷に対して接続可能な端子であり、外装体3の内外に亘って設けられるものである。
【0133】
(リチウムイオン二次電池1等の製造方法)
続いて、本発明に係るリチウムイオン二次電池1等の製造方法について説明する。
【0134】
本発明に係るリチウムイオン二次電池1等の製造方法は、被覆活物質粒子や、活物質層、活物質層付き集電体、活物質層の剥離物、電極積層体、電池組立体、電池製品等の製品を生産する製造方法を含み、これら製品は、電池1を完成品とする製造方法の各工程の段階にて生産できる。
【0135】
電池1の製造方法は、順に、1.活物質粒子準備工程、2.活物質層付き集電体製造工程、3.電極積層体製造工程、4.電池組立体製造工程、及び5.電池製品製造工程を含み、場合により好ましくは、2.活物質層付き集電体製造工程と3.電極積層体製造工程との間に、活物質層再生産に係る原料となる、活物質層の剥離物を製造する剥離物製造工程として、集電体から、活物質層の少なくとも一部を、剥離・回収する2.5.剥離物製造工程を含み、これら製造工程は適宜、各種工程を含み、その中でも、本発明に係る緩衝部を形成する工程である緩衝部形成工程は、少なくとも5.電池製品製造工程に含まれ、好ましくは2~4の製造工程の内、1以上の製造工程に含まれる。
【0136】
また、これら工程は、本発明の製造方法において、繰り返し実施されることがある操作として、電解液注入操作、電圧印可操作、及び養生操作を含み、他に好ましくは、粉砕操作、圧延操作、電解液浸漬操作、電解液排出操作、露出拡大操作、及び支持材料縮小操作を含む。
(全固体LIBの製法)
全固体LIBの製法は、3.電極積層体製造工程において、固体電解質スラリーを、2.活物質層付き集電体製造工程にて準備した両極の活物質層付き集電体にドクターブレード法を用いて塗布し、溶媒を揮発させて固体電解質層を形成した後、この固体電解質層を介して両極の集電体を積層した電極積層体5を加熱乾燥(例えば、大気中、150℃)した後、圧延操作により圧縮成形することで、全固体LIBの基本構成を完成する製法となる。
【0137】
(非水電解液LIBの製法)
非水電解液LIBの製法である、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法を中心に、上述した各々の製造工程、工程、操作について、以下、詳細に説明する。
【0138】
(1.活物質粒子準備工程)
活物質粒子準備工程では、活物質粒子40,140を準備し、好ましくは、後述の(シェル膜形成工程)により、本発明に係る被覆活物質粒子130として、コアシェル粒子36を準備する
(シェル膜形成工程)
シェル膜形成工程は、準備した活物質粒子30上に、本発明に係るシェル膜41を形成し、活物質粒子30がコアを構成し、連続するシェル膜41がシェルを構成する、コアシェル構造を有するコアシェル粒子36を準備する工程である。
【0139】
具体的には、シェル膜形成工程は、まずボールミル等の粉砕装置によって、リン酸イオン含有Li化合物を粉砕し、リン酸イオン含有Li化合物粒子を形成する(粉砕操作)。ここで、このリン酸イオン含有Li化合物は、リンを含むLiイオン伝導性酸化物であることが好ましく、また、粉砕工程前のリン酸イオン含有Li化合物は、好ましくは、オリビン型の結晶構造を有したリン酸塩系化合物であり、粉砕後のリン酸イオン含有Li化合物の粒子は、部分的に結晶構造が破壊され、全部又は部分的にアモルファス(非晶質)となっていてもよく、全部が非晶質となっている場合には、リン酸イオン含有Li化合物粒子をX線回折(XRD)法で測定したときに、粉砕前には表れていたリン酸イオン含有Li化合物粒子の固有の結晶ピークがハローパターンによって確認されない状態となっている。
【0140】
このとき、リン酸イオン含有Li化合物粒子は、BET比表面積が20m2/g以上80m/g以下であることが好ましく、リン酸イオン含有Li化合物粒子は、BET比表面積換算径(dBET)が30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、500nm以下であることが好ましく、450nm以下であることがより好ましく、これらの範囲であれば、活物質粒子30の表面を均一に被覆することができ、緻密なシェル膜41を形成できる。
【0141】
なお、BET比表面積換算径(dBET)は、JIS Z8830(2013)に規定された方法に従って、窒素吸着法一点法により、窒素吸着BET比表面積を求め、dBET=6/(密度×BET比表面積)の式により求められる粒径である。
【0142】
続いて、粉砕工程で粉砕し、微粒子化したリン酸イオン含有Li化合物粒子を分散溶媒に分散させ、微粒子流動体を形成する(微粒子流動体形成工程)。
【0143】
このときに使用される分散溶媒は、一又は複数のアルコール溶液であることが好ましく、揮発性や安全性の点からエタノールであることがより好ましい。
【0144】
このときに形成される微粒子流動体は、透明であってゾル状態の透明ゾルであり、流動性を有している。
【0145】
続いて、せん断力、圧縮力、衝突力、及び遠心力の少なくとも1種のエネルギーを正極活物質粒子30及び/又はシェル膜41を構成するリン酸イオン含有Li化合物粒子に付与しつつ、活物質粒子30と微粒子流動体内のリン酸イオン含有Li化合物粒子を機械的に接触させるメカニカルコーティング法によって、正極活物質粒子30の表面にシェル膜41を形成する。
【0146】
本実施形態では、摩砕式ミル等の摩砕装置によって、微粒子流動体を活物質粒子30に摩砕させ、摩砕物を形成する(摩砕物形成工程)。
【0147】
このときの摩砕装置に入れるリン酸イオン含有Li化合物粒子は、0.5wt%以上であることが好ましい。
【0148】
このときの摩砕装置に入れるリン酸イオン含有Li化合物粒子は、2.5wt%以下であることが好ましく、1.6wt%以下であることがより好ましく、1wt%以下であることが特に好ましい。
【0149】
このときの摩砕装置での処理温度は、5℃以上100℃以下であることが好ましく、8以上80℃以下であることがより好ましく、10℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。
【0150】
このときの摩砕装置での処理時間は、5分以上90分以下であることが好ましく、10分以上60分以下であることがより好ましい。
【0151】
このときの摩砕装置での雰囲気は、不活性ガス雰囲気下又は空気雰囲気下であることが好ましい。
【0152】
続いて、摩砕物に対して熱処理を行い、摩砕物から分散溶媒を除去し、シェル膜41を形成する
このときの熱処理温度は、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。
【0153】
熱処理温度が300℃を下回ると、活物質粒子30とシェル膜41の密着性が不十分であるため電池の充放電時にシェル膜41が剥離し、電池の長期信頼性の低下に繋がるおそれがある。
【0154】
一方、熱処理温度が高くなりすぎると、シェル膜41の結晶構造が変化し、Liイオン伝導度が低下して電池の充放電が正常に行われなくなる場合があるため、熱処理温度は850℃以下であることが好ましく、好ましい場合がある一部形成されたシェル膜41の非晶質部分の結晶化を抑制する観点から500℃以下であることがより好ましい。
【0155】
熱処理時間は、30分以上であることが好ましく、45分以上であることがより好ましい。熱処理時間は、180分以下であることが好ましく、150分以下であることがより好ましい。
【0156】
以上が、活物質粒子30の表面にリン酸イオン含有Li化合物膜であるシェル膜41を形成するシェル膜形成工程の説明である。
【0157】
正極活物質粒子40の表面にリン酸イオン含有Li化合物膜であるシェル膜41を形成するシェル膜形成工程と、負極活物質粒子140の表面にリン酸イオン含有Li化合物膜であるシェル膜41を形成するシェル膜形成工程とは、被覆する活物質粒子30が、正極活物質粒子40であるか、負極活物質粒子140であるかの違いであり、基本的に同様である。
【0158】
(2.活物質層付き集電体製造工程)
活物質層付き集電体製造工程は、集電体20、120上に活物質層2を形成して、電極として機能し得る活物質層付き集電体を製造する工程であり、順に、後述する活物質層ペーストを集電体に塗布する塗布工程、及び、塗布した活物質層ペーストを、活物質層として機能し得る状態の層とする活物質層化工程を含み、好ましくは、後述する緩衝部形成工程を含み、さらに、当該活物質層ペーストの活物質粒子含有材料として、本発明に係る後述する剥離物製造工程で製造される剥離物由来の被覆活物質粒子130を用いることで、活物質層を再生産する活物質層付き集電体製造工程ともなる。
(塗布工程)
塗布工程は、活物質粒子、即ち、活物質粒子30や、コアシェル粒子36、場合により被覆活物質粒子130を導電助剤とバインダーとともに混合し、溶媒に分散させてペースト状にして、活物質層ペーストであるスラリーを形成し、集電体20,120にスラリーを塗布することで、ペースト塗布集電体を形成する工程である。
【0159】
この工程に使用される溶媒は、活物質粒子30と導電助剤とバインダーを溶解又は分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、及びテトラヒドロフランなどが使用できる。これらに分散剤、増粘剤を加えてもよい。
(活物質層化工程)
活物質層化工程は、集電体20、120上に塗布した活物質層ペーストを、乾燥等して、例えば、所定の焼成時間、所定の焼成温度でペースト塗布集電体を焼成して、正極活物質粒子40を含む仕掛正極部と負極活物質粒子140を含む仕掛負極部をそれぞれ形成する工程である。
【0160】
焼成温度は、ペースト塗布集電体が焼成してスラリーが固化する温度であれば特に限定されるものではないが、例えば、80℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0161】
このようにして形成した仕掛正極部及び仕掛負極部を各々含む集電体を電極として機能する活物質層付き集電体とすることもできるが、その後に、圧延操作や、後述の緩衝部形成工程を実施して、より高機能な活物質層付き集電体とすることが好ましい。
<圧延操作>
圧延操作は、活物質層が形成された集電体を圧延する工程である
(緩衝部形成工程)
本発明に係る緩衝部形成工程は、「活物質粒子」の外側面の全面に亘り、当該全面について、その形成領域に、本発明に係る緩衝部42を、これが形成されない非形成領域を含み、形成する、後述する(電圧印可操作)を中心とする工程である。
【0162】
このような緩衝部形成工程は、上述した様に、少なくとも5.電池製品製造工程に含まれ、好ましくは2~4の製造工程の内、1以上の製造工程に含まれ、各々の場合について、適宜以下説明する。
【0163】
2.活物質層付き集電体製造工程にける、緩衝部形成工程は、容器中に緩衝部形成用電解液及び活物質層付き集電体を入れ、活物質層を緩衝部形成用電解液に浸漬(電解液浸漬操作)した後、対電極として金属電極を用いて、例えば、Li金属ホイルを用いて、集電体と金属電極との間に電圧を印可する(電圧印可操作)ことで電気化学反応させることで実施する。
<電解液浸漬操作>
電解液浸漬操作は、電解液中に、対向させた両電極を浸漬する操作であり、ここでの電極は、一方極の活物質層付き集電体と、金属電極、例えば金属板とであり、また、一方極の活物質層付き集電体と他方極の活物質層付き集電体とである、電極積層体5の両極である。
<電圧印加操作>
電圧印加操作は、対向させた電極間に電圧を印可する操作であり、例えば仕掛電極積層体の正極用取出部材13と負極用取出部材14の間に電圧を印加する操作であり、ここでの電極は、一方極の活物質層付き集電体と、他方極の活物質層付き集電体又は金属電極、例えば金属板とであり、また、電極積層体5中の両極であり、さらには、外装体3中の電池組立体に含まれる電極積層体5中の両極である。この様な電圧印加操作によって、例えば、緩衝部形成用電解液中の珪素含有化合物が仕掛電極積層体の「活物質粒子」上に積層され、緩衝部42が形成されることで、例えば、正極部10と負極部11を備えた電極積層体5が形成される。
【0164】
このような緩衝部形成工程における、電圧印可操作は、両極間に、所定の定電流(CC)となるよう電圧を印可し、例えば0.05Cの定電流を流し、所定の電圧値になれば、定電圧(CV)の条件で、所定の電流値、例えば0.005Cになるまで電流を流す操作となる。
【0165】
このような電圧印可操作を、後述する4.電池組立体製造工程での緩衝部形成工程において実施する場合には、外装体3の電解液注入口を密封しない状態で実施することが、電気化学反応での発生ガスを排出したり、後述する(電解液排出操作)を実施したり、することが可能となるとの観点から好ましい。
【0166】
また、正極活物質粒子としてLNMO粒子を用い、好ましくはシェル膜41を介し、「活物質粒子」表面に緩衝部42として緩衝部形成用電解液中の珪素含有化合物を析出せしめる場合は、リチウム溶解析出電位に対し4.5V以上5V以下であることが好ましい。
【0167】
3.電極積層体製造工程にける、緩衝部形成工程は、後述する電極積層体製造工程での仕掛電極積層体に(電解液浸漬操作)を実施した後、(電圧印可操作)を実施することで電気化学反応させる。
【0168】
4.電池組立体製造工程にける、緩衝部形成工程は、後述する4.電池組立体製造工程での仕掛電池組立体に(電解液注入操作)を実施した後、(電圧印可操作)を実施することで電気化学反応させる。
<電解液注入操作>
電解液注入操作は、外装体3内に配置した後の、電極積層体又は仕掛電極積層体の対向させた、両電極が浸漬するように、電解液を外装体3内に注液する操作であり、例えば、真空包装機を用いて、内部を0.1気圧以下まで減圧した外装体3内に仕掛電極積層体を入れ、外装体3の注入口等以外を封止した後、仕掛電池組立体の外装体3内に界面用電解液を注入する工程であり、好ましくは、前述の(電圧印可操作)を介して、後述する(電解液排出操作)と組み合わせて、繰り返し複数回実施することができ、また、このような電解液注入操作は、必要に応じて、電解媒体6を電池組立体の外装体3内に注入しつつ、緩衝部形成用電解液を外装体3内から排出する、後述する(電解液排出操作)と同時並行に実施する操作とすることもできる。
<電解液排出操作>
電解液排出操作は、外装体3内に配置した後の、電極積層体又は仕掛電極積層体の対向させた、両電極を浸漬していた、電解液を外装体3外に排出する操作である。
【0169】
5.電池製品製造工程にける、緩衝部形成工程は、後述する5.電池製品製造工程での、(電解液注入操作)にて出荷時の電解液である電池製品出荷時電解液注入後、場合により電解液注入口及びガス排出口を密封したした後に、製品初期充電として(電圧印可操作)を実施して、一般的なSEI構造を電気化学反応にて形成する工程である。
【0170】
(2.5.剥離物製造工程)
本発明に係る剥離物製造工程は、「活物質粒子」の外側面上に形成した緩衝部42を含む被覆活物質粒子130を含む剥離物を製造する工程で、この剥離物は、必要に応じて粉砕操作を経て、本発明に係る被覆活物質粒子130とされ、本発明に係る、緩衝部42を含む被膜35、及び「活物質粒子」と、導電性支持材料とからなる被覆活物質粒子130は、非水電荷液LIBだけでなく、ポリマーLIBを含む全固体LIB用の、種々のタイプのLIBの、正極、負極の活物質層材料として、それぞれの特徴に応じた、活物質粒子30、シェル膜41だけでなく、緩衝部42、導電性支持材料を種々選択して適用できるので、容量等を維持しながら、電気及びLiイオンの伝導性を大きな値にでき、また、ガス発生等を抑制できるので、各特徴に応じ特性に優れたLIBを製造可能な原料となる。
<露出拡大操作>
露出拡大操作は、被膜35の外表面である凹凸表面の凸部である、緩衝部42が形成されておらず、導電性支持材料が配されてなる非形成領域凸部に、好ましく露出している導電ネットワーク80の露出面積を拡大する操作であり、具体的には、導電ネットワーク80を支持し、共に導電性支持材料を構成しているバインダー70材料を、当該支持を維持しつつ、一部除去したり、化学反応により導電材料に変化させたりする操作であり、本発明に係る剥離物を、本発明に係る被覆活物質粒子130として再生産した場合に、その導電性を向上させることができる。
<支持材料縮小操作>
支持材料縮小操作は、活物質層2の集電体20、120側とは反対側の表面である活物質層表面である凹凸表面の「活物質粒子」から構成される凸部である、活物質粒子凸部において、導電性支持材料の存在部分である、支持材料存在部分を縮小する操作であり、導電性支持材料により覆われない「活物質粒子」の表面が、電解媒体6に直接接する面積が大きくなるので、高容量化、低内部抵抗化が図れ、具体的には、導電ネットワーク80を支持し、共に導電性支持材料を構成しているバインダー70材料を、当該支持を維持しつつ、一部除去したり、化学反応により導電材料に変化させたりする操作であり、本発明に係る剥離物を、本発明に係る被覆活物質粒子130として再生産した場合に、その導電性を向上させることができる。
【0171】
(3.電極積層体製造工程)
3.電極積層体製造工程は、仕掛正極部と仕掛負極部を、セパレータ12を挟んで仕掛電極積層体又は電極積層体を形成する工程である。
【0172】
この電極積層体製造工程の仕掛電極積層体に上述の緩衝部形成工程を実施することもできるが、後述する電池組立体製造工程の仕掛電池組立体に実施することが、簡略、低コストに緩衝部を形成する観点からは好ましいが、より高品質の緩衝部形成の観点からは、外装体3内に電極積層体5を配する前に、緩衝部形成工程を実施することが好ましい。
【0173】
(4.電池組立体製造工程)
4.電池組立体製造工程は、仕掛電極積層体を外装体3の内部に入れて仕掛電池組立体又は電池組立体を作製する工程である。
【0174】
(5.電池製品製造工程)
5.電池製品製造工程は、電池製品出荷時電解液につき(電解液注入操作)を実施した後、後述するエージング工程を実施して、電池製品を出荷可能な状態とする製造工程である。
(エージング工程)
エージング工程は、電池製品出荷時電解液を注入後の電池組立体に、製品初期充電として電圧印可操作、と養生操作とを実施する工程であり、この製品初期充電は、上述した緩衝部形成工程おける電圧印可操作や、電池製品の初期劣化等の電気特性確認試験を含むものとでき、養生操作は、外装体3を養生して電極積層体5と電解媒体6を封止する操作であり、外装体3の電解液注入口及びガス排出口は密閉される。
【0175】
(発明実施によりもたらされる効果)
本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、活物質粒子40,140を被覆する被膜41,141が、リン酸イオン含有Li化合物を含み、好ましくは、シェル膜41がFe、Mn、Si、及びAlからなる群から選ばれる1以上の金属を含み、より好ましくは、活物質粒子40,140をシェル膜41が均一に被覆しており、さらに好ましくは、活物質層2を有するので、活物質粒子40,140が、非水電解液5と接する面積が小さくなり、電解媒体6の分解によるガスの発生を抑制できる。
【0176】
好ましくは、正極活物質粒子40は、LiMn系酸化物で構成され、これが、正極活物質としても使用可能なリン酸塩系化合物のシェル膜41で被覆されているので、Liイオンの挿入・脱離反応がスムーズに起こりやすく、より好ましくは、正極活物質粒子40は、ニッケルを含むLiMn系酸化物、例えばスピネル型の結晶構造を有するLiMn系酸化物で構成され、高電圧を発生可能な高容量の二次電池を構成でき、また好ましくは、層状岩塩型、特に好ましくは、Li過剰層状岩塩型構造のLiMn系酸化物で構成され、さらに高容量の二次電池を構成できる。
【0177】
好ましくは、負極活物質粒子140は、Liチタン系酸化物で構成され、安全性、信頼性に優れた二次電池を構成でき、また、これが、正極活物質としても使用可能なリン酸塩系化合物のシェル膜41で被覆されているので、Liイオンの挿入・脱離反応がスムーズに起こりやすく、特性に優れた二次電池を構成できる。
【0178】
好ましくは、シェル膜41と活物質粒子30との界面近傍が非晶質となっているため、充放電の進行に伴う活物質粒子30の体積変化が生じてもシェル膜41の非晶質部分が緩衝体として機能するため、シェル膜41、ひいては被膜41、141の割れ、剥がれが生じにくく、好ましくは、シェル膜41の原料である微粒子を分散溶媒に分散させた微粒子流動体を活物質粒子30に摩砕させ、好ましくは、100℃以上500℃以下の温度で熱処理を加えるので、非晶質を維持した状態で活物質粒子30の表面に良質で薄いシェル膜41を形成できる。
【0179】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、好ましくは、活物質層2に導電ネットワーク80と浸透性細孔ネットワーク81を有するので、電解媒体6と活物質粒子40,140との電荷及びLiイオンの授受が円滑となり、電極反応が起こりやすい。
【0180】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、好ましくは、浸透性細孔ネットワーク81は、活物質粒子40,140又は「活物質粒子」41との形成領域から細孔に向かってLiイオン伝導体が設けられているので、電解媒体6と活物質粒子40,140との電荷及びLiイオンの授受がより円滑となり、より電極反応が起こりやすい。
【0181】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、活物質層2は、珪素元素を含む珪素含有化合物膜を有するので、より活物質層2の結着性が良好となり、クラック等が生じにくい。
【0182】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、シェル膜41がLi元素をもち、シェル膜41のLiが何等かの要因により消費されたLiの補充に使用できるので、性能が低下しにくい。
【0183】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、正極活物質粒子40のMnの電解媒体6への溶出を抑制できるので、性能が低下しにくい。
【0184】
上記した実施形態では、緩衝部形成用電解液注入工程において緩衝部形成用電解液を注入し、電圧印加工程において正極用取出部材13と負極用取出部材14の間に電圧を印加することで活物質層2を形成していたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0185】
例えば、塗布工程においてスラリーに珪素元素を含む珪素含有化合物を添加して活物質層化工程で活物質層2を形成してもよい。
【0186】
また、活物質層化工程の後に仕掛正極部と仕掛負極部に、含珪素含有化合物を含むペーストを塗布し、加熱や紫外線等によって固化することで活物質層2を形成してもよい。
【0187】
電極積層体製造工程の後に、仕掛電極積層体に含珪素含有化合物を含むペーストを塗布し、加熱や紫外線等によって固化することで活物質層2を形成してもよい。
【0188】
上記した実施形態では、緩衝部42を形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、緩衝部42を形成しなくてもよい。
【0189】
本発明によれば、例えば、難燃剤を実質的に含有しない緩衝部形成用電解液で緩衝部42を形成することで難燃剤を実質的に含有しない緩衝部42を形成できるので、充放電サイクルの繰り返しによる電池容量の低下を抑制でき、また、電池製品出荷時電解液を難燃剤を含有するものとすることで電解液の引火点を高くでき、即ち、電池の特性と安全性との両方の向上が可能である。
【0190】
上記した実施形態は、本発明の技術的範囲に含まれる限り、各実施形態間で各構成部材を自由に置換や付加できる。
【符号の説明】
【0191】
1 リチウムイオン二次電池
2 活物質層 21 正極活物質層
3 外装体
5 電極積層体
6 電解媒体(電解液)
10 正極部
11 負極部
12 セパレータ
13 正極用取出部材
14 負極用取出部材
20 正極用集電体
120 負極用集電体
30 活物質粒子
130 被覆活物質粒子(リチウムイオン二次電池用被覆活物質粒子)
35 被膜
36 コアシェル粒子
40 正極活物質粒子
140 負極活物質粒子
41 シェル膜
42 緩衝部
60 海状部
61 島状部
70 バインダー
80 導電ネットワーク
81 浸透性細孔ネットワーク
図1
図2