(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161669
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】PIO装置およびPIO装置の寿命判定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20241113BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241113BHJP
G05B 19/042 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
G05B19/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076519
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村嶋 千帆里
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
5H220
【Fターム(参考)】
2G024AD21
2G024BA12
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064DD02
5H220AA02
5H220BB09
5H220CC06
5H220CX05
5H220HH01
5H220JJ12
5H220JJ28
(57)【要約】
【課題】コストの増加を防ぎながらPIO装置の寿命判定を実現する。
【解決手段】PIO装置100は、プロセス入出力処理を行う入出力部110と、PIO装置100の寿命判定を行う寿命判定部120を備える。寿命判定部120は、プロセス入出力処理に伴って入出力部110が発する動作音Xを収音するマイク121と、動作音Xのアナログ波形XAをデジタル波形XDに変換するA/D変換器122と、プロセス入出力処理の制御の演算を行うとともに、正常時における動作音Xの波形である正常時波形と判定時における動作音Xの波形である判定時波形との乖離度を演算するマイコン123とを備え、乖離度の大きさに基づいてPIO装置の寿命を判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位コントローラと現場機器との間に接続され、プロセス入出力処理を行う入出力部と、PIO装置の寿命判定を行う寿命判定部とを備えるPIO装置であって、
前記入出力部は、前記プロセス入出力処理において、前記現場機器からの信号をプロセス信号に変換して前記上位コントローラに送信するとともに前記上位コントローラからの前記プロセス信号を前記現場機器に対応する形式の信号に変換して前記現場機器に送信し、
前記寿命判定部は、
前記入出力部が発する動作音を収音する収音部と、
アナログ波形である前記動作音の波形をデジタル波形に変換するアナログデジタル変換部と、
前記プロセス入出力処理の制御演算を行うとともに、正常時における前記動作音の波形である正常時波形と判定時における前記動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算する演算部とを備え、
前記乖離度の大きさに基づいて前記PIO装置の寿命を判定することを特徴とするPIO装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、各周波数成分における前記正常時波形と前記判定時波形の差の大きさの合計を前記乖離度として演算する請求項1に記載のPIO装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、前記正常時波形のピーク位置と前記判定時波形のピーク位置との距離を前記乖離度として演算する請求項1に記載のPIO装置。
【請求項4】
前記入出力部は、それぞれオンオフを切り替え可能な複数点の入出力チャンネルを有し、
前記寿命判定部は、前記入出力部の正常時において、前記入出力チャンネルが全点オフの状態から全点オンの状態までの各状態の前記動作音の波形を周波数波形に変換する処理を複数回繰り返して複数の周波数波形を取得し、前記複数の周波数波形の平均を演算することにより、前記正常時波形を取得する請求項1から3のいずれか1項に記載のPIO装置。
【請求項5】
前記寿命判定部による判定の結果を前記上位コントローラに送信し、前記判定の結果を外部の監視用表示装置に表示させる請求項1から3のいずれか1項に記載のPIO装置。
【請求項6】
前記寿命判定部は、寿命判定用の閾値と前記乖離度との大小関係に基づいて前記PIO装置の寿命を判定する請求項1から3のいずれか1項に記載のPIO装置。
【請求項7】
前記寿命判定部は、前記寿命判定用の閾値よりも大きい異常検出用の閾値と前記乖離度を比較し、前記乖離度が前記異常検出用の閾値以上である場合に、前記入出力部に異常が発生していると判定する請求項6に記載のPIO装置。
【請求項8】
警報を発報させる発報部をさらに備え、
前記寿命判定部は、前記異常が発生していると判定された場合に、前記発報部に発報させる請求項7に記載のPIO装置。
【請求項9】
上位コントローラと現場機器との間に接続され、前記現場機器からの信号をプロセス信号に変換して前記上位コントローラに送信するとともに、前記上位コントローラからの前記プロセス信号を前記現場機器に対応する形式の信号に変換して前記現場機器に送信するプロセス入出力処理を行うPIO装置の寿命を判定するPIO装置の寿命判定方法であって、
前記プロセス入出力処理に伴って発せられる動作音を収音するステップと、
アナログ波形である前記動作音の波形をデジタル波形に変換するステップと、
前記プロセス入出力処理の制御演算を行う演算部によって、正常時における前記動作音の波形である正常時波形と判定時における前記動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算するステップと、
前記乖離度の大きさに基づいて前記PIO装置の寿命を判定するステップとを備えたことを特徴とするPIO装置の寿命判定方法。
【請求項10】
前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、各周波数成分における前記正常時波形と前記判定時波形の差の大きさの合計を前記乖離度として演算する請求項9に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【請求項11】
前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、前記正常時波形のピーク位置と前記判定時波形のピーク位置との距離を前記乖離度として演算する請求項9に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【請求項12】
前記PIO装置の正常時において、前記PIO装置の入出力チャンネルが全点オフの状態から全点オンの状態までの各状態の前記動作音の波形を周波数波形に変換する処理を複数回繰り返して複数の周波数波形を取得し、前記複数の周波数波形の平均を演算することにより、前記正常時波形を取得する請求項9から11のいずれか1項に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【請求項13】
前記PIO装置の寿命判定の結果を前記上位コントローラに送信し、前記寿命判定の結果を外部の監視用表示装置に表示させる請求項9から11のいずれか1項に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【請求項14】
前記PIO装置の寿命を判定するステップにおいて、寿命判定用の閾値と前記乖離度との大小関係に基づいて前記PIO装置の寿命を判定する請求項9から11のいずれか1項に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【請求項15】
前記寿命判定用の閾値よりも大きい異常検出用の閾値と前記乖離度を比較し、前記乖離度が前記異常検出用の閾値以上である場合に、前記PIO装置に異常が発生していると判定する請求項14に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【請求項16】
前記異常が発生していると判定した場合に、警報を発報する請求項15に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、PIO装置およびPIO装置の寿命判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば発電プラントなどのプラントでは、現場機器が出力する信号をデジタルデータに変換して上位のコントローラに送信するとともに、上位のコントローラが発するプロセス信号を現場機器の信号形式に変換して現場機器に入力するPIO装置(Process Input Output装置)が用いられている。このようなPIO装置は、高い信頼性が求められるとともに、適切な時期に交換し、不具合による停止期間を短くする必要がある。このため、PIO装置の異常を早期に検出する必要がある。また、異常が検出されなかった場合でも、PIO装置の寿命がどの程度であるかを予測し、異常が発生する前に適時にPIO装置の交換を行う必要がある。
【0003】
従来、電子機器またはその機構部品の異常あるいは異常の兆候を判定するものとして、機構部品から発せられる動作音を周波数分析するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、主にサーバの筐体内の機構部品を対象とした、異常などの判定を実現している。しかしながら、これをPIO装置に適用する場合、高い演算能力を持つCPU(Central Processing Unit)の追加が必要となり、判定装置をPIO装置の外部に設ける必要があるため、大型化を招きコストが増加する虞があるという問題点がある。
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、コストの増加を防ぎながらPIO装置の寿命判定を実現するPIO装置およびPIO装置の寿命判定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示されるPIO装置は、上位コントローラと現場機器との間に接続され、プロセス入出力処理を行う入出力部と、PIO装置の寿命判定を行う寿命判定部とを備えるPIO装置であって、入出力部は、プロセス入出力処理において、現場機器からの信号をプロセス信号に変換して上位コントローラに送信するとともに上位コントローラからのプロセス信号を現場機器に対応する形式の信号に変換して現場機器に送信し、寿命判定部は、入出力部が発する動作音を収音する収音部と、アナログ波形である動作音の波形をデジタル波形に変換するアナログデジタル変換部と、プロセス入出力処理の制御演算を行うとともに、正常時における動作音の波形である正常時波形と判定時における動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算する演算部とを備え、乖離度の大きさに基づいてPIO装置の寿命を判定するものである。
【0007】
また、本願に開示されるPIO装置の寿命判定方法は、上位コントローラと現場機器との間に接続され、現場機器からの信号をプロセス信号に変換して上位コントローラに送信するとともに、上位コントローラからのプロセス信号を現場機器に対応する形式の信号に変換して現場機器に送信するプロセス入出力処理を行うPIO装置の寿命を判定するPIO装置の寿命判定方法であって、プロセス入出力処理に伴って発せられる動作音を収音するステップと、アナログ波形である動作音の波形をデジタル波形に変換するステップと、プロセス入出力処理の制御演算を行う演算部によって、正常時における動作音の波形である正常時波形と判定時における動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算するステップと、乖離度の大きさに基づいてPIO装置の寿命を判定するステップとを備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示されるPIO装置またはPIO装置の寿命判定方法によれば、コストの増加を防ぎながらPIO装置の寿命判定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1におけるPIO装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1に係る寿命判定部の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1における正常時波形と判定時波形との乖離度について説明する図である。
【
図4】実施の形態1におけるPIO装置による正常時波形の取得処理を示すフロー図である。
【
図5】実施の形態1におけるPIO装置の寿命判定時の動作を示すフロー図である。
【
図6】実施の形態1におけるPIO装置の寿命判定処理を示すフロー図である。
【
図7】実施の形態2における正常時波形と判定時波形との乖離度について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1を
図1から
図6に基づいて説明する。
図1は、実施の形態1におけるPIO装置の構成を示すブロック図である。PIO装置100は、例えば発電プラントなどのプラントの監視制御システムを構成するものであり、センサ、バルブ、各種測定器、およびアクチュエータなどを含む現場機器901と、監視制御システムの上位コントローラ902との間に接続されて、現場機器901からの信号S1をプロセス信号S1Dに変換して上位コントローラ902に送信するとともに、上位コントローラ902からのプロセス信号S2Dを信号S2に変換して現場機器901に送信する。
【0011】
PIO装置100は、入出力部110と寿命判定部120を備える。入出力部110は、PIO装置100としての本来の機能であるプロセス入出力処理を行うものであり、後述する入出力制御信号Yに従ってプロセス入出力処理を行う。
【0012】
入出力部110は、プロセス入出力処理において、現場機器901から主にアナログの信号S1が入力されると、入力された信号S1をデジタルのプロセス信号S1Dに変換し、通信回路130を介して上位コントローラ902に送信する。また、デジタル信号であるプロセス信号S2Dを、通信回路130を介して上位コントローラ902から受信し、受信したプロセス信号S2Dを現場機器901に対応する形式(主にアナログ)の信号S2に変換して現場機器901に出力する。
【0013】
入出力部110は、複数点(例えば32点)の入出力チャンネル(図示無し)を有し、それぞれの入出力チャンネルにはそれぞれ対応する現場機器901が接続されている。また、それぞれのチャンネルはリレーによりオンオフの切り替えが可能になっている。入出力部110には、上記の入出力チャンネルおよびリレーに加え、リレーを操作するためのスイッチング電源、およびファンが設けられている。なお、リレー、スイッチング電源、およびファンも図示を省略している。
【0014】
寿命判定部120は、プロセス入出力処理の実行に伴って入出力部110が発する動作音X、すなわち、リレー、スイッチング電源およびファンが発する動作音Xに基づき、入出力部110の寿命を判定するとともに、既に入出力部110に異常が発生していないかを判定するものである。入出力部110は、PIO装置100の本来の機能を担うものであるので、入出力部110の寿命の判定および異常の検出をすることは、PIO装置100の寿命の判定および異常の検出をすることを意味する。このため以降では、寿命判定部120はPIO装置100の寿命判定および異常検出をするものとして説明する。
【0015】
寿命判定部120は、入出力部110の入出力制御も担っており、通信回路130を介して上位コントローラ902から受信する制御信号S3に応じて、入出力部110に対する入出力制御信号Yを生成する。入出力部110は、寿命判定部120から受信する入出力制御信号Yに従って上述したプロセス入出力処理を実行する。
【0016】
寿命判定部120は、通信回路130を介してPIO装置100の寿命判定の判定結果Zを上位コントローラ902に送信し、判定結果Zを監視用表示装置903に表示させる。
【0017】
PIO装置100は、警報手段としてのLED904と接続されており、寿命判定部120がPIO装置100の異常を検出した場合に、警報としてLEDを点灯させる発報部140を備えている。寿命判定部120は、動作音XからPIO装置100(入出力部110)の異常を検出した場合、発報部140に対して発報指令W1を送信する。発報指令W1を受信した発報部140は、点灯信号W2をLED904に送信し、LED904を点灯させる。なお、実施の形態1ではLED904を警報手段として用いているが、警報手段はこれに限定されない。例えば、監視用表示装置903などの表示装置を警報手段として、警報情報を表示させてもよい。また、スピーカーなどの音声出力装置を警報手段として、異常検出時に警告音を発する構成にしてもよい。
【0018】
寿命判定部120の詳細について説明する。
図2は、実施の形態1に係る寿命判定部の構成を示すブロック図である。寿命判定部120は、入出力部110が発する動作音Xを収音するマイク121、すなわち収音部と、マイク121により収音された動作音Xの波形をアナログからデジタルに変換するA/D変換器(アナログデジタル変換器)122、すなわちアナログデジタル変換部と、A/D変換器122により生成されたデジタル波形XDを解析することにより、PIO装置100の寿命を判定するとともに、入出力部110のプロセス入出力処理の制御をするマイクロコンピュータ(以下、マイコン)123、すなわち演算部と、マイコン123による演算に必要なデータを保持するメモリ124、すなわち記憶部とを備える。
【0019】
マイク121は、入出力部110の動作音Xを収音できるものであれば特に制限されない。マイク121により収音された動作音Xのアナログ波形XAはA/D変換器122に出力される。A/D変換器122は、アナログ波形XAをデジタル波形XDに変換し、マイコン123に出力する。
【0020】
マイコン123は、PIO装置100の寿命判定に加えて、入出力部110のプロセス入出力処理の制御演算も行う。マイコン123は、上位コントローラ902からの制御信号S3に応じた入出力制御信号Yを演算し、入出力制御信号Yを入出力部110に送信する。マイコン123は、PIO装置100に内蔵可能、もしくは設置可能であり、デジタル波形XDを時間波形から周波数波形に変換し、正常時の波形である正常時波形と判定時の波形である判定時波形の乖離度の大きさを算出できる程度の演算能力があればよく、上記の条件を満たすのであれば、マイコン以外の演算装置または演算回路を用いてもよい。なお、寿命判定における演算の詳細は後述する。
【0021】
マイコン123は、通信回路130を介して制御信号S3を上位コントローラ902(
図2では図示を省略)から受信するとともに、通信回路130を介して寿命判定の判定結果Zを上位コントローラ902に送信する。またマイコン123は、PIO装置100に既に異常が発生していると判定した場合、発報指令W1を発報部140に送信し、発報部140にLED904を点灯させる。
【0022】
メモリ124は、動作音Xの正常時波形を判定時まで記憶可能なメモリであり、例えばフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含む。また、演算時の一時的なデータの保存のため、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)等の揮発性または不揮発性メモリを含んでもよい。マイコン123は、演算により得られたデータD1を必要に応じてメモリ124に記憶させ、また、メモリ124に記憶されているデータD2を必要に応じて読み出す。データD1には、例えば正常時波形を演算するために用いるデジタル波形XDのデータまたはデジタル波形XDから変換された周波数波形のデータなどが含まれる。データD2には、正常時波形のデータ、寿命判定用の各閾値のデータなどが含まれる。
【0023】
マイコン123による入出力部110の寿命判定について説明する。マイコン123は、動作音Xの正常時波形と動作音Xの判定時波形とを比較し、両者のずれを示す「乖離度」を演算して、上記乖離度の大きさに応じてPIO装置100の寿命を判定する。
図3は、実施の形態1における正常時波形と判定時波形との乖離度について説明する図である。動作音Xのデジタル波形XDを時系列波形から周波数波形に変形すると、
図3に示すように特定の周波数でピークを持つ波形が得られる。また、PIO装置100の使用を継続した場合、経年劣化などにより動作音Xに変化が生じることから、正常時波形(
図3では実線)と判定時波形(
図3では破線)は一致しない。実施の形態1では、正常時波形と判定時波形との各周波数成分における差Eの大きさを全周波数で合計したものを「乖離度」とする。なお、全周波数で合計するのではなく、一定の周波数範囲のみについて合計したものを「乖離度」としてもよい。
【0024】
マイコン123は、上記のようにして得た正常時波形と判定時波形との乖離度を閾値と比較することにより入出力部110の寿命を判定するともに、入出力部110の異常を検出する。すなわち、閾値として異常検出用の第1の閾値と、寿命判定用の第2の閾値(第1の閾値よりも小さい)とを設け、乖離度が第1の閾値以上である場合、正常時からの乖離が非常に大きく、既に異常が発生していると判定し、異常を検出したとして警報を発報させる(LED904を点灯させる)とともに、異常を検出した事を監視用表示装置903に表示させる。
【0025】
乖離度が第1の閾値未満であるが第2の閾値以上である場合、正常時からの乖離は中程度として、寿命は短期間(例えば1週間)と判定し、判定結果(1週間後交換必要)を監視用表示装置903に表示させる。乖離度が第2の閾値未満である場合、正常時からの乖離は小さいとして、判定結果(交換が必要になるのは1週間後以降)を監視用表示装置903に表示させる。第2の閾値よりも小さい第3の閾値をさらに設け、乖離度との比較により寿命が1ヶ月後か否かを判定してもよい。
【0026】
それぞれの閾値は、PIO装置100が故障した時の前後のデータを収集し、全体としての傾向をつかむことで設定する。それぞれの閾値は、メモリ124に予め記憶される。
【0027】
なお、正常時波形は以下のようにして取得する。すなわち、正常時において、動作音Xの収音と動作音Xの波形のA/D変換(デジタル波形XDの取得)を、入出力部110の全てのオンオフの状態、すなわち、32点ある入出力チャンネルの全点オンから全点オフまでの各状態について実施し、得られた波形を変換することで1つの周波数波形を得る。上記の処理を繰り返して得られる複数の周波数波形のアンサンブル平均を演算することにより、正常時波形とする。
【0028】
判定時波形は、判定時において、上述の正常時波形の場合と同様にして周波数波形を得る。ただし、正常時波形と比較するための周波数波形が少なくとも1つあればよいので、演算する周波数波形は1つであってもよいし、複数の周波数波形を演算して平均をとってもよい。
【0029】
次に、動作について説明する。まず、事前準備となる正常時波形の取得の流れを説明する。
図4は、実施の形態1におけるPIO装置による正常時波形の取得処理を示すフロー図である。上述したように、正常時波形は、動作音Xの波形から複数の周波数波形を演算し、演算した複数の周波数波形のアンサンブル平均をとることにより取得する。
図4では、1つの周波数波形を演算するの処理の繰り返しをループL1とし、入出力チャンネルのオンオフの状態を変化させながらデジタル波形XDのデータを蓄積していく処理をループL2としている。ここでは一例として、全点オフの状態から、任意の入出力チャンネルのリレーを1つずつオンに切り替えていき、全点オンまでの各状態の動作音Xの収音およびよびA/D変換を行うとする。
【0030】
まず、正常時において、入出力部110の入出力チャンネル32点を全てオフにしておき、全点オフの状態で動作音Xをマイク121により収音する(ステップST001)。次に、収音した動作音Xのアナログ波形XAをA/D変換器122によりA/D変換し、デジタル波形XDを得る(ステップST002)。マイコン123は、デジタル波形XDをメモリ124に記憶させる。
【0031】
次に、入出力部110の入出力チャンネルのうちの1つをオンに切り替え(ステップST003)、1点オン、31点オフの状態にする。その後、ステップST001に戻る。このように、入出力チャンネルを1点ずつオンに切り替えながら、全点オフから全点オンまでの全ての状態について動作音Xのデジタル波形XDを得る。ループL2が終了した段階で、全点オフから全点オンまでの全ての状態のデジタル波形XDのデータがメモリ124に記憶されることとなる。なお、全ての状態についてのデジタル波形XDが取得できればよいので、その順序は
図4に示すものに限定されない。例えば、全点オンから初めて全点オフまでのデジタル波形XDを取得するようにしてもよい。この場合、
図4のステップST003は「入出力チャンネル1つをオフに切替」になる。
【0032】
ループL2の処理を全て完了したら、マイコン123により、全点オフから全点オンまでの全てのデジタル波形XDを重ね合わせたものを周波数波形に変換する(ステップST004)。マイコン123は、上記のようにして演算した周波数波形をメモリ124に記憶させる。その後、ステップST001に戻り、ループL1の処理を複数回繰り返す。ループL1の処理を繰り返す回数は予め設定しておく。
【0033】
ステップL1の処理を設定された回数繰り返した後、マイコン123は、演算した全ての周波数波形のアンサンブル平均を演算し(ステップST005)、その結果を正常時波形としてメモリ124に記憶させる。
【0034】
次に、寿命判定時の動作について説明する。
図5は、実施の形態1におけるPIO装置の寿命判定時の動作を示すフロー図である。なお、正常時波形は既に取得し、メモリ124に記憶されているものとする。まず、動作音Xをマイク121により収音し(ステップST101)、収音した動作音Xのアナログ波形XAをA/D変換器122によりA/D変換し、動作音Xのデジタル波形XDを得る(ステップST102)。
【0035】
次に、マイコン123により、デジタル波形XDを周波数波形に変換する(ステップST103)。マイコン123は、周波数波形のデータをメモリ124に記憶させる。
【0036】
次に、寿命判定処理を実施し(ステップST104)、判定結果Zを得る。寿命判定処理の詳細は後述する。
【0037】
次に、判定結果Zを上位コントローラ902に送信し、監視用表示装置903に表示させる(ステップST105)。また、寿命判定処理においてPIO装置100の異常が検出された場合は警報としてのLED904を点灯させる
【0038】
寿命判定処理の詳細を説明する。
図6は、実施の形態1におけるPIO装置の寿命判定処理を示すフロー図である。まず、いずれも周波数波形である正常時波形と判定時波形とを比較し、判定時波形の乖離度を演算する(ステップST1041)。上述したとおり、実施の形態1における「乖離度」は、正常時波形と判定時波形との各周波数成分における差の大きさを全周波数で合計したものである。
【0039】
次に、ステップST1041で演算した乖離度と第1の閾値とを比較し、乖離度が第1の閾値以上であればステップST1043に進み、乖離度が第1の閾値未満であればステップST1044に進む(ステップST1042)。上述したように、第1の閾値は異常検出用の閾値である。
【0040】
乖離度が第1の閾値以上である場合、PIO装置100には既に異常があると判定し(ステップST1043)、判定結果を「異常検出(今すぐ交換が必要)」として処理を終了する。
【0041】
乖離度が第1の閾値未満である場合、乖離度と第2の閾値とを比較し、乖離度が第2の閾値以上であればステップST1045に進み、乖離度が第2の閾値未満であればステップST1046に進む(ステップST1044)。上述したように、第2の閾値は寿命判定用の閾値であり、第1の閾値よりも小さい。
【0042】
乖離度が第2の閾値以上である場合、PIO装置100の寿命を1週間と判定し(ステップST1045)、判定結果を「1週間後交換が必要」として処理を終了する。
【0043】
乖離度が第2の閾値未満である場合、PIO装置100の寿命は1週間超と判定し(ステップST1045)、判定結果を「交換が必要になるのは1週間後以降(1週間は交換不要)」として処理を終了する。
【0044】
なお、上述したとおり、乖離度が第2の閾値未満である場合、第2の閾値よりもさらに小さい第3の閾値と乖離度とを比較し、例えば1か月後の交換の要否について判定してもよい。
【0045】
以上説明したようにPIO装置100の寿命判定を行うことにより、PIO装置の適切な交換時期を事前に把握し、PIO装置100が故障する前に交換を行うことができる。また、不要な交換を防ぎ、PIO装置100の停止時間を短縮することができるとともに、予備品を削減することができる。
【0046】
実施の形態1によれば、コストの増加を防ぎながらPIO装置の寿命判定を実現することができる。より具体的には、PIO装置は、プロセス入出力処理を行う入出力部と、PIO装置の寿命判定を行う寿命判定部とを備え、寿命判定部は、プロセス入出力処理に伴って入出力部が発する動作音を収音するマイクと、アナログ波形である動作音の波形をデジタル波形に変換するA/D変換器と、プロセス入出力処理の制御の演算を行うとともに、正常時における動作音の波形である正常時波形と判定時における動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算するマイコンとを備え、乖離度の大きさに基づいてPIO装置の寿命を判定する構成とした。寿命判定のために追加が必要なハードウェアはマイクとA/D変換器のみであり、従来よりも抑えられており大型化を招くこともない。このため、コストの増加を防ぎながらPIO装置の寿命判定を実現することができる。
【0047】
実施の形態2.
次に、実施の形態2を
図7に基づいて説明する。実施の形態2は、正常時波形と判定時波形との乖離度が実施の形態1と異なる。
図7は、実施の形態2における正常時波形と判定時波形との乖離度について説明する図である。動作音Xを周波数波形に変換したときのピーク位置(ピーク高さおよびピーク周波数)は、正常時と寿命判定時とでは異なる。このため、実施の形態2では、正常時波形(
図7では実線)のピーク位置と判定時波形(
図7では破線)のピーク位置との間の距離E*を演算し、距離E*を乖離度とする。なお、ピーク周波数のずれを簡便的に距離E*とすることも考えられる。
その他については実施の形態1と同様である。
【0048】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、正常時波形のピーク位置と判定時波形のピーク位置との間の距離を乖離度として用いるので、乖離度の演算が実施の形態1も簡単である。
【0049】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0050】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
上位コントローラと現場機器との間に接続され、プロセス入出力処理を行う入出力部と、PIO装置の寿命判定を行う寿命判定部とを備えるPIO装置であって、
前記入出力部は、前記プロセス入出力処理において、前記現場機器からの信号をプロセス信号に変換して前記上位コントローラに送信するとともに前記上位コントローラからの前記プロセス信号を前記現場機器に対応する形式の信号に変換して前記現場機器に送信し、
前記寿命判定部は、
前記入出力部が発する動作音を収音する収音部と、
アナログ波形である前記動作音の波形をデジタル波形に変換するアナログデジタル変換部と、
前記プロセス入出力処理の制御演算を行うとともに、正常時における前記動作音の波形である正常時波形と判定時における前記動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算する演算部とを備え、
前記乖離度の大きさに基づいて前記PIO装置の寿命を判定することを特徴とするPIO装置。
(付記2)
前記演算部は、前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、各周波数成分における前記正常時波形と前記判定時波形の差の大きさの合計を前記乖離度として演算する付記1に記載のPIO装置。
(付記3)
前記演算部は、前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、前記正常時波形のピーク位置と前記判定時波形のピーク位置との距離を前記乖離度として演算する付記1に記載のPIO装置。
(付記4)
前記入出力部は、それぞれオンオフを切り替え可能な複数点の入出力チャンネルを有し、
前記寿命判定部は、前記入出力部の正常時において、前記入出力チャンネルが全点オフの状態から全点オンの状態までの各状態の前記動作音の波形を周波数波形に変換する処理を複数回繰り返して複数の周波数波形を取得し、前記複数の周波数波形の平均を演算することにより、前記正常時波形を取得する付記1から3のいずれか1項に記載のPIO装置。
(付記5)
前記寿命判定部による判定の結果を前記上位コントローラに送信し、前記判定の結果を外部の監視用表示装置に表示させる付記1から4のいずれか1項に記載のPIO装置。
(付記6)
前記寿命判定部は、寿命判定用の閾値と前記乖離度との大小関係に基づいて前記PIO装置の寿命を判定する付記1から5のいずれか1項に記載のPIO装置。
(付記7)
前記寿命判定部は、前記寿命判定用の閾値よりも大きい異常検出用の閾値と前記乖離度を比較し、前記乖離度が前記異常検出用の閾値以上である場合に、前記入出力部に異常が発生していると判定する付記6に記載のPIO装置。
(付記8)
警報を発報させる発報部をさらに備え、
前記寿命判定部は、前記異常が発生していると判定された場合に、前記発報部に発報させる付記7に記載のPIO装置。
(付記9)
上位コントローラと現場機器との間に接続され、前記現場機器からの信号をプロセス信号に変換して前記上位コントローラに送信するとともに、前記上位コントローラからの前記プロセス信号を前記現場機器に対応する形式の信号に変換して前記現場機器に送信するプロセス入出力処理を行うPIO装置の寿命を判定するPIO装置の寿命判定方法であって、
前記プロセス入出力処理に伴って発せられる動作音を収音するステップと、
アナログ波形である前記動作音の波形をデジタル波形に変換するステップと、
前記プロセス入出力処理の制御演算を行う演算部によって、正常時における前記動作音の波形である正常時波形と判定時における前記動作音の波形である判定時波形との乖離度を演算するステップと、
前記乖離度の大きさに基づいて前記PIO装置の寿命を判定するステップとを備えたことを特徴とするPIO装置の寿命判定方法。
(付記10)
前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、各周波数成分における前記正常時波形と前記判定時波形の差の大きさの合計を前記乖離度として演算する付記9に記載のPIO装置の寿命判定方法。
(付記11)
前記正常時波形と前記判定時波形をそれぞれ時間波形から周波数波形に変換し、前記正常時波形のピーク位置と前記判定時波形のピーク位置との距離を前記乖離度として演算する付記9に記載のPIO装置の寿命判定方法。
(付記12)
前記PIO装置の正常時において、前記PIO装置の入出力チャンネルが全点オフの状態から全点オンの状態までの各状態の前記動作音の波形を周波数波形に変換する処理を複数回繰り返して複数の周波数波形を取得し、前記複数の周波数波形の平均を演算することにより、前記正常時波形を取得する付記9から11のいずれか1項に記載のPIO装置の寿命判定方法。
(付記13)
前記PIO装置の寿命判定の結果を前記上位コントローラに送信し、前記寿命判定の結果を外部の監視用表示装置に表示させる付記9から12のいずれか1項に記載のPIO装置の寿命判定方法。
(付記14)
前記PIO装置の寿命を判定するステップにおいて、寿命判定用の閾値と前記乖離度との大小関係に基づいて前記PIO装置の寿命を判定する付記9から13のいずれか1項に記載のPIO装置の寿命判定方法。
(付記15)
前記寿命判定用の閾値よりも大きい異常検出用の閾値と前記乖離度を比較し、前記乖離度が前記異常検出用の閾値以上である場合に、前記PIO装置に異常が発生していると判定する付記14に記載のPIO装置の寿命判定方法。
(付記16)
前記異常が発生していると判定した場合に、警報を発報する付記15に記載のPIO装置の寿命判定方法。
【符号の説明】
【0051】
100 PIO装置、110 入出力部、120 寿命判定部、121 マイク、122 A/D変換器、123 マイコン、124 メモリ、140 発報部、901 現場機器、902 上位コントローラ、904 LED、S1、S2 信号、S1D、S2D プロセス信号、W1 発報指令、X 動作音、XA アナログ波形、XD デジタル波形、Y 入出力制御信号、Z 判定結果