(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161673
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】回転電機の回転子、回転電機及び回転電機の回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20241113BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076531
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誉
(72)【発明者】
【氏名】吉井 健一郎
【テーマコード(参考)】
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS04
5H615SS05
5H615SS15
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB05
5H622PP09
(57)【要約】
【課題】回転子コアに永久磁石を固定するに際して、永久磁石、および永久磁石の皮膜が損傷することを防止し、回転電機の信頼性を確保する。
【解決手段】回転子コア10に設けられるとともに回転軸33の軸方向に対して貫通して設けられた複数個の磁石挿入孔11と、磁石挿入孔11に設置された永久磁石12を有し、磁石挿入孔11における永久磁石12の径方向内側面121と対向する面には突起16を形成するとともに、突起16が回転軸33に対して垂直方向に突出することにより永久磁石12を磁石挿入孔11の径方向外側面13に押し付け固定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の回転子コアと、前記回転子コアの中央部に固定された回転軸と、前記回転子コアに設けられるとともに前記回転軸の軸方向に対して貫通して設けられた複数個の磁石挿入孔と、前記磁石挿入孔に設置された永久磁石を有する回転電機の回転子において、
前記回転子コアにおいて前記磁石挿入孔における永久磁石の径方向内側面と対向する面には突起が形成されるとともに、前記突起が前記回転軸に対して垂直方向に突出することにより前記永久磁石が前記磁石挿入孔の径方向外側面に押し付け固定される回転電機の回転子。
【請求項2】
前記突起には空洞で構成された変形構造が形成されている請求項1に記載の回転電機の回転子。
【請求項3】
前記永久磁石を前記磁石挿入孔に前記軸方向から挿入する際、前記変形構造は変形する請求項2に記載の回転電機の回転子の製造方法。
【請求項4】
前記突起に前記軸方向において屈曲させる曲げ加工を施し、前記回転子コアを前記軸方向に圧縮することにより、前記突起の屈曲が戻され、前記突起が前記回転軸に対して垂直方向に突出する請求項1又は請求項2に記載の回転電機の回転子の製造方法。
【請求項5】
前記回転子コアの内径において、変形前の内径が変形後の内径よりも小さくなるように形成するとともに、
前記磁石挿入孔に前記永久磁石を挿入した後、前記回転子コアの変形前の内径面が前記回転子コアの変形後の内径面へ拡張されることにより、前記突起が前記永久磁石の前記径方向内側面に突き当たる請求項1又は請求項2に記載の回転電機の回転子の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の回転子と、前記回転子の径方向外側に所定の間隔を隔てて配置される固定子とを備えた回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転電機の回転子、回転電機及び回転電機の回転子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車(HV:HYBRID VEHICLE)および電気自動車(EV:ELECTRIC VEHICLE)の生産台数が増え、高速回転、および高トルクのモータが求められている。IPM(INTERIOR PERMANENT MAGNET)回転電機は、磁石を回転子コア内部に埋め込むことにより、磁石の保持力が高く、高速回転に向いている。
【0003】
また、磁気回路において、ヨークの一部を、吸引および反発するリラクタンストルクとして利用できるため、磁石によるトルクとリラクタンストルクとの合成トルクにより、大きなトルクを生み出すことができる。IPM回転電機の回転子は、回転電機の回転中心となる軸と、磁力を発生する永久磁石と、永久磁石を保持し、磁束線を効率よく径方向外側に出すための回転子コアとから構成される。回転子コアには予め回転中心に対して対称になるように複数のスロットが設けられており、永久磁石をスロットに挿入、固定した後、回転軸を挿入固定する。
【0004】
例えば、従来の回転電機の回転子においては、電磁鋼板のうちの少なくとも一の電磁鋼板である第1電磁鋼板は、磁石挿入孔の側面に、一部が磁石挿入孔に向かって突出し、磁石挿入孔に挿入される永久磁石によって軸方向に屈曲可能に構成される突出部を有し、永久磁石は、屈曲する突出部と磁石挿入孔との間に固定されるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の回転電機の回転子においては、回転子コアへの永久磁石の固定方法を、回転子コアのスロットに形成された突起が永久磁石挿入時に永久磁石の皮膜を擦りながら軸方向に屈曲し、回転子コアのスロット内に機械的に固定されていた。従って永久磁石の皮膜を損傷し、使用環境によっては錆が発生し、回転電機としての性能劣化につながるという問題があった。
また、接着剤又は樹脂を用いて回転子スロットに永久磁石を固定する場合には、接着剤又は樹脂の材料費がかさみ、コスト高になるという問題があった。
【0007】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、回転子コアに永久磁石を固定するに際して、永久磁石、および永久磁石の皮膜が損傷することを防止し、回転電機の信頼性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される回転電機の回転子は、
円筒状の回転子コアと、前記回転子コアの中央部に固定された回転軸と、前記回転子コアに設けられるとともに前記回転軸の軸方向に対して貫通して設けられた複数個の磁石挿入孔と、前記磁石挿入孔に設置された永久磁石を有するものであって、
前記回転子コアにおいて前記磁石挿入孔における永久磁石の径方向内側面と対向する面には突起が形成されるとともに、前記突起が前記回転軸に対して垂直方向に突出することにより前記永久磁石が前記磁石挿入孔の径方向外側面に押し付け固定されるものである。
また、本願に開示される回転電機は、上記の回転電機の回転子と、前記回転子の径方向外側に所定の間隔を隔てて配置される固定子とを備えたものである。
更に本願に開示される回転電機の回転子の製造方法は、突起に空洞で構成された変形構造を形成し、永久磁石を磁石挿入孔に軸方向から挿入する際、前記変形構造は変形するものである。
【発明の効果】
【0009】
本願に開示される回転電機の回転子、回転電機及び回転電機の回転子の製造方法によれば、回転子コアに永久磁石を固定するに際して、永久磁石、および永久磁石の皮膜が損傷することを防止し、回転電機の信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1による回転電機の構成を示す平面断面図である。
【
図2】実施の形態1による回転電機の回転子コアの形状を示す平面断面図である。
【
図4】回転子コアに永久磁石を挿入固定する状態を示した断面図である。
【
図5】回転子コアに永久磁石を挿入固定する状態を示した断面図である。
【
図6】回転子コアに永久磁石を挿入固定した後の状態を示す部分平面図である。
【
図7】実施の形態1による回転子コアを示す平面図である。
【
図9】比較例1による回転子コアを示す平面図である。
【
図11】面内変形により固定した状態を示す断面図である。
【
図12】面外変形により固定した状態を示す断面図である。
【
図13】実施の形態2による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図14】実施の形態3による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図15】実施の形態4による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図16】
図16Aは回転電機の回転子の回転子コアへ永久磁石を挿入固定するための装置を示す平面図である。
図16Bは回転電機の回転子の回転子コアへ永久磁石を挿入固定するための装置を示す断面図である。
【
図17】実施の形態4による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図18】実施の形態4による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図19】実施の形態5による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図20】実施の形態6による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。
【
図21】実施の形態6による回転子コアに永久磁石を挿入固定する状態を示した断面図である。
【
図22】実施の形態6による回転子コアに永久磁石を挿入固定する状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態は、電気自動車、エアコン、冷蔵庫、加工機等に用いられる高速回転用の回転電機の回転子、回転電機、更にはそれらの製造方法に関するものである。
図1は、実施の形態1による回転電機の構成を示す平面断面図である。
図2は、
図1に示した回転電機の回転子の回転子コアの構造を示す平面断面図、
図3は
図2におけるA-A線断面図である。
図4、
図5は、
図2に示した回転子コアに永久磁石を挿入固定する状態を示した断面図である。更に
図6は、
図2に示した回転子コアに永久磁石を挿入固定した後の状態を示す平面図である。
以下の説明において、回転電機における各方向を、それぞれ周方向Z、回転電機の回転子の回転軸における軸方向Y、径方向Xとし、更に径方向Xの外側X1、径方向Xの内側X2として示す。よって、回転子においても、これらの方向は同一方向となり、これらの方向を基準として各方向を示すこととする。
【0012】
図に示すように、回転電機30は、外殻を構成するフレーム31と、フレーム31に回転自在に配置される回転子1と、回転子1の径方向外側に所定の間隔を隔てて配置されるとともにフレーム31に対して図示しない軸受を介して固定される固定子32とを備える。回転子1は円筒状の回転子コア10と、回転子コア10の中央部に固定された回転軸33を有する。又複数個の磁石挿入孔11が、回転子コア10に設けられ、磁石挿入孔11は回転軸33の軸方向Yを貫通して設けられるとともに、周方向Zにおいて間隔を隔てて複数個形成される。そして永久磁石12は磁石挿入孔11に設置して埋め込まれることにより磁力を発生する。
図4に示すように、回転子コア10は、例えば打ち抜き加工により成形した板材を積層して形成される。当該打ち抜き加工の際に、回転子コア10には軸方向Yにおいて貫通する磁石挿入孔11が形成される。
【0013】
図6に示すように、永久磁石12は磁石挿入孔11に挿入され、回転子コア10に固定される。永久磁石12の、径方向Xの外側X1における軸方向Yに沿って伸びる面を永久磁石の径方向外側面120とし、径方向Xの内側X2における軸方向Yに沿って伸びる面を永久磁石の径方向内側面121とする。そして、磁石挿入孔11の永久磁石の径方向内側面121と対向する面には、突起16が形成されている。永久磁石12を磁石挿入孔11に挿入する際、この突起16が永久磁石の径方向内側面121に接触し、突起16に形成された円形の空洞で構成された変形構造17が変形することにより、永久磁石12及び皮膜を損傷することがなくなる。そして少なくとも特許文献1の構造に比べて皮膜の損傷を抑制し、かつ、永久磁石12の径方向Xの厚みのばらつきを吸収しながら、回転子コア10の磁石挿入孔の径方向外側面13に永久磁石12を押し付けて固定することができる。
このように円形の空洞で構成された変形構造17により突起16が回転子コア10の内径側に変形することにより、永久磁石12、又は皮膜の損傷を防止できる。
【0014】
図7は本実施の形態による回転子コア10を示す平面図、
図8は
図7におけるB-B線断面図であり、
図8においてB-B線で示されている面をB-B面と称する。一方
図9は比較例としての回転子コア100を示す平面図、
図10は
図9におけるC-C線断面図であり、
図10においてC-C線で示されている面をC-C面と称する。
図9、
図10に示されている構造においては、面内(C-C面内)で変形させるのでなく、折り曲げることにより変形する構造となる。即ち面外変形となるものであり、
図10の矢印Gで示されるように、C-C面から離れていく方向に変形することになる。この場合、永久磁石、又は皮膜を擦りながら折り曲げられるため、損傷が発生することになる。
【0015】
これに対して、本実施の形態においては、突起16が面内(B-B面内)で突出し、永久磁石12をほぼ擦ることなく永久磁石12が突起16を押すことになる。即ち
図8の矢印Fで示されるように、B-B面内における面内変形が生じることとなり、矢印F方向に変形する面内変形が生じ、円形の空洞が潰れて楕円形状となる。尚
図2に示された変形構造17と、
図6に示された変形構造17とは実際にはわずかに形が異なり、
図6においては円の形が、
図2に比べて横に楕円になっている。
このように本実施の形態では、皮膜の損傷を防止することができる。即ち面内で空洞が変形することによりばね性をもった突起16になるため、永久磁石12が割れたり、損傷することを防止できる。
図11、
図12は永久磁石を固定した後の状態を示す断面図であり、
図11は面内変形により固定した状態を示す断面図、
図12は面外変形により固定した状態を示す断面図である。
【0016】
永久磁石の固定方法として、永久磁石の径方向外側面120と第1拘束面(磁石挿入孔の径方向外側面)13の間を接着固定する方法がある。この場合、永久磁石の径方向外側面120と第1拘束面13の間に接着層が存在するため、磁気回路上における非磁性体層が増加し、磁気抵抗が増加するため、磁気性能の低下が懸念される。また、接着剤の材料費が余分にかかり、又硬化時間による製造リードタイムが長くなったり、更には熱硬化の場合は設備が大型化するという短所がある。本実施の形態においては、このような短所を解消することができる。
【0017】
磁石挿入孔11のうちの永久磁石12が配置されていない箇所をフラックスバリア(空隙)15と呼ぶ。フラックスバリア15は、磁気回路からの磁束の漏れを低減し、磁気性能を向上させるために、軸方向Yにおいて貫通して形成される。回転子コア10を形成するための金属鋼板は、例えば、透磁率の高い電磁鋼板、または強度の高い高張力鋼板などにより形成することが考えられる。特に、高張力鋼板により形成することで、回転子1の高速回転時の遠心力に対して耐久性を確保でき、これによりフラックスバリア15付近を細く形成できる。これによって、磁気回路からの磁束の漏れを低減でき、磁気性能が向上する。また、高速回転時に永久磁石12が径方向Xの外側X1において遠心力を受けるが、永久磁石の径方向外側面120は、金属鋼板で構成される回転子コア10の磁石挿入孔11の第1拘束面13に支えられるため、損傷することはない。
【0018】
次に上記のように構成された回転電機の回転子の製造方法及び回転電機の製造方法について以下説明する。
まず、
図2に示すように、回転子コア10を成形金型で板材に対して打ち抜き加工を施し、同時に突起16を、折り目19において軸方向Yに屈曲させる曲げ加工を施す(
図3)。尚突起16の両側には切り欠き18が設けられている。このようにプレス加工でコアを打ち抜く際に、曲げ加工もプレス金型で同時に加工できる。即ち打ち抜きと曲げ加工のように2段階にする必要はなく、コストアップを抑えることができる。
図4に示すように、突起16を有さない一定の枚数の回転子コア20と、突起16をもつ一定の枚数の回転子コア21を軸方向Yに積層させ、かしめ加工等で仮固定する。仮固定された積層コアを必要数軸方向Yに重ねて設置し、
図4に示すように、回転子コア10に形成された磁石挿入孔11に永久磁石12を、軸方向Yから挿入する。
【0019】
次に、
図5に示すように、軸方向Yに重ねた積層コアを軸方向Y(矢印D)に圧縮することで、突起16の屈曲が戻され、突起16が軸方向Yに垂直であり、かつ回転子コアの径方向外側に突出し、結果として突起16が永久磁石の径方向内側面121に接触することとなる。これにより積層コア23が形成される。
この場合、予め永久磁石を挿入しておいたとしても、積層コアを軸方向に圧縮する際に皮膜を損傷する可能性を完全に排除できるものではない。但し特許文献1のように、突起を折り曲げながら永久磁石を挿入することに比べて損傷が少なく、本実施の形態においては有効である。
また、積層コア全体を一気に圧縮するのではなく、下から1つ1つ圧縮していくことで、損傷はさらに抑制できる。
【0020】
本実施の形態によれば、変形構造17により突起16が回転子コアの径方向内側に変形し、永久磁石12、又は皮膜の損傷を防止し、かつ永久磁石の厚みばらつきを吸収しながら固定力を発揮することができる(
図6)。尚、永久磁石の径方向内側面121と回転子コア10の磁石挿入孔の径方向内側面14の間には、挿入のための一定の隙間(例えば永久磁石12の厚み精度80μm程度以上)を設けており、永久磁石12、又は皮膜の損傷を防止できる。更に可能な限り空気層を薄くすることにより、磁気回路の磁気抵抗を抑制できる。
【0021】
本実施の形態によれば、回転子コア10へ永久磁石12を固定する際、回転子コア10に備えた変形可能な突起16が、回転軸に対して垂直方向に突出するため、製造方法が容易となる。更に永久磁石12、および永久磁石12の皮膜が損傷することを抑制し、これにより錆により性能が劣化することを防止できる。
【0022】
実施の形態2.
図13は、実施の形態2による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。実施の形態1における突起16の変形構造17に対して、変形構造25のように変形させて形成したものである。
図13に示すように、2本の片持ち梁構造としたことにより、回転子コア内径方向への変形シロが拡張され、より厚み精度の低い永久磁石12においても損傷を防止することができる。
即ち永久磁石12の厚みのばらつきにより対応でき、更に永久磁石12への押し圧設計尤度を上げることができる。
【0023】
実施の形態3.
図14は、実施の形態3による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。実施の形態1における突起16の変形構造17に対して、変形構造26のように変形させて形成したものである。
図14に示すように、1本の片持ち梁構造にしたことにより、回転子コア内径方向への変形シロが更に拡張され、より厚み精度の低い永久磁石12においても損傷を防止することができる。
実施の形態1~3については、永久磁石12の厚み精度、磁石挿入孔の径方向外側面13への永久磁石12による必要な押し付け力を勘案して構造を決定することが望ましい。
【0024】
実施の形態4.
図15は、実施の形態4による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。回転子コア10に磁石挿入孔11を形成する際、突起16が、後に挿入される永久磁石12に接触しないようにするために、磁石挿入孔の径方向内側面14を回転子コア内径側に広がる方向に磁石挿入孔11の幅を広く形成する。また、回転子コア内径においては、変形前の内径が変形後の内径よりも小さくなるように形成する。
図15において、27は変形前の周方向Zに沿う内径面であり、28は変形後の周方向Zに沿う内径面である。結果として、回転子コア形成時の内径面27は真円ではない。
【0025】
図16Bは、
図15に示した回転電機の回転子の回転子コアへ永久磁石を挿入固定するための装置を示す断面図、
図16Aは同じく平面図である。装置としてはテーパマンドレル型拡張機構4が備えられている。テーパマンドレル型拡張機構4は、テーパ軸45の周りを取り囲むように拡張部材42が複数配置され、拡張部材42に圧入されたガイドピン43が拡張ガイド44の長孔に挿入されている。テーパ軸45を矢印Hに示す上方向に上昇させ、かつガイドピン43が拡張ガイド44の長孔内を摺動することにより、拡張部材42が矢印Jに示される外径方向に正確に拡張される。
【0026】
回転子コア10へ永久磁石12を挿入固定する工程としては、
図15に示す回転子コア10を一定数積層し、磁石挿入孔11に永久磁石12を挿入する。永久磁石12が未固定の状態で、積層コアハンド41により永久磁石12が挿入されている積層コア23を把持し、そこにテーパマンドレル型拡張機構4を挿入する。その後、テーパマンドレル型拡張機構4に拡張動作をさせる。これにより、
図17の矢印Kに示すように、回転子コア10の変形前の内径面27が変形後の内径面28へと拡張される。これにより突起16が永久磁石の径方向内側面121に突き当たり、永久磁石の径方向外側面120が磁石挿入孔の径方向外側面13に押し付けられることによって、回転子コア10に永久磁石12が固定される。その際、
図18に示すように、突起16に設けられた変形構造17が楕円形に変形し、永久磁石12および皮膜の損傷を防止することができる。実際には、
図18においては円の形が、
図17に比べて横に楕円になっている。
【0027】
実施の形態5.
図19は、実施の形態5による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。実施の形態4における突起16の変形構造に対して、変形構造50のように形成したものである。
図19に示すように、2本の片持ち梁構造としたことにより、回転子コア内径方向への変形シロが拡張され、より厚み精度の低い永久磁石12においても損傷を防止することができる。
【0028】
実施の形態6.
図20は、実施の形態6による回転電機の回転子コアの形状を示す部分平面図である。実施の形態4における突起16の変形構造に対して、変形構造51のように形成したものである。
図20に示すように、1本の片持ち梁構造にしたことにより、回転子コア内径方向への変形シロが更に拡張され、より厚み精度の低い永久磁石12においても損傷を防止することができる。
【0029】
上記実施の形態4~6については、永久磁石12の厚み精度、磁石挿入孔の径方向外側面13への永久磁石12の必要な押し付け力を勘案してそれぞれの構造を決定することが望ましい。
【0030】
尚、上記実施の形態1~6において、回転子コアを形成する際、
図21に示すように、突起を有する回転子コア21だけを積層してもよい。又適宜、
図22に示すように、突起を有さない回転子コア20を混在させてもよい。
図21に示すように、突起を有する回転子コア21だけを積層する場合、永久磁石の脱落、および永久磁石の破片が飛散することを防止するためのエンドプレート29を回転軸方向上下に配置し、積層コアを回転軸方向に圧縮するように構成する。突起を有する回転子コア21を多くすることにより、永久磁石への応力集中を緩和でき、永久磁石および皮膜の損傷を防止できる。一方、突起を有さない回転子コア20を多くすることにより、突起16の変形量を大きくすることができ、永久磁石の厚み誤差を吸収できる。
【0031】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0032】
1 回転子、10 回転子コア、11 磁石挿入孔、12 永久磁石、
13 磁石挿入孔の径方向外側面、14 磁石挿入孔の径方向内側面、
15 フラックスバリア、16 突起、17 変形構造、18 切り欠き、
19 折り目、30 回転電機、31 フレーム、32 固定子、33 回転軸、
120 永久磁石の径方向外側面、121 永久磁石の径方向内側面。