(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161680
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】フック付き面材
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20241113BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20241113BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 A
B68G7/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076557
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 丈一郎
(72)【発明者】
【氏名】深津 智
(72)【発明者】
【氏名】中野 佑治
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】フックを面材に対して強度確保と面材の歩留まり向上とを図れるように縫着することが可能なフック付き面材を提供すること。
【解決手段】フック付き面材1は、面材となる力布2と、力布2に沿って縫着されるフック3と、を有する。フック3が、力布2に縫着される平板状の脚部3Aと、脚部3Aの先端から鉤状に曲げられる引掛け部3Bと、を有する。フック3を力布2に縫着する縫い線4が、脚部3Aを通って幅方向に直線状に延びる直線部4Aと、直線部4Aの一端及び他端から脚部3Aの基端側に返されるように延びる一対の返し部4Bと、を有する。直線部4A及び一対の返し部4Bが、脚部3Aから外れることなく脚部3Aに沿って延びるように設けられる。一対の返し部4Bが、縫い線4の縫い始めと縫い終わりとを成す。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面材と、該面材に沿って縫着されるフックと、を有するフック付き面材であって、
前記フックが、前記面材に縫着される平板状の脚部と、該脚部の先端から鉤状に曲げられる引掛け部と、を有し、
前記フックを前記面材に縫着する縫い線が、前記脚部を通って幅方向に直線状に延びる直線部と、該直線部の一端及び他端から前記脚部の基端側に返されるように延びる一対の返し部と、を有し、
前記直線部及び一対の前記返し部が、前記脚部から外れることなく前記脚部に沿って延びるように設けられ、一対の前記返し部が、前記縫い線の縫い始めと縫い終わりとを成すフック付き面材。
【請求項2】
請求項1に記載のフック付き面材であって、
一対の前記返し部が、前記直線部の前記一端及び前記他端から前記脚部の基端側に向かって互いに接近する斜め内方向に延びる第1返し部位と、該第1返し部位の延びた先から前記直線部と平行に互いに向かって接近するように延びる第2返し部位と、を有するフック付き面材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフック付き面材であって、
前記面材が、シートエアバッグの展開を補助する力布とされるフック付き面材。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のフック付き面材であって、
一対の前記返し部が、返し縫いされる返し縫い部位をそれぞれ有するフック付き面材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フック付き面材に関する。詳しくは、面材と、面材に沿って縫着されるフックと、を有するフック付き面材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シートカバーをカバー端末に沿って縫着したフックによりシートに固定する構造が開示されている。具体的には、フックは、シートカバーに対し、カバー端末に沿う周方向の一方に越える第1領域から他方に越える第2領域に亘って直線状に縫い線が延びるように縫着されている。
【0003】
上記縫い線は、その第1領域の縫い始めと第2領域の縫い終わりとにおいて、それぞれ返し縫いされている。それにより、フック上で返し縫いがされる構成と比べて、フックに形成される針孔が少なく、フックの強度低下が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の構成では、シートカバーのフックの外側に返し縫いのスペースを確保しなければならず、歩留まりが悪い。そこで、本発明は、フックを面材に対して強度確保と面材の歩留まり向上とを図れるように縫着することが可能なフック付き面材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段として、本発明のフック付き面材は、次の手段をとる。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明は、面材と、該面材に沿って縫着されるフックと、を有するフック付き面材であって、前記フックが、前記面材に縫着される平板状の脚部と、該脚部の先端から鉤状に曲げられる引掛け部と、を有し、前記フックを前記面材に縫着する縫い線が、前記脚部を通って幅方向に直線状に延びる直線部と、該直線部の一端及び他端から前記脚部の基端側に返されるように延びる一対の返し部と、を有し、前記直線部及び一対の前記返し部が、前記脚部から外れることなく前記脚部に沿って延びるように設けられ、一対の前記返し部が、前記縫い線の縫い始めと縫い終わりとを成すフック付き面材である。
【0008】
第1の発明によれば、縫い線の縫い始めと縫い終わりとが、直線部と重ならないように返される。それにより、直線部と一対の返し部との針孔が重ならず、針孔の密集によるフックの強度低下を抑制することができる。詳しくは、縫い線の縫い始めと縫い終わりは、直線部に対して、フックの引掛け部のある先端側ではなく、基端側に返される。そのため、幅方向に直線状に延びる直線部を介して、フックの引掛け部と面材との間で適切に負荷荷重を分散して伝達することができる。また、このような縫い線を、フックの脚部から外れない狭い領域において設定することができ、面材の歩留まり向上を図ることができる。
【0009】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明において、一対の前記返し部が、前記直線部の前記一端及び前記他端から前記脚部の基端側に向かって互いに接近する斜め内方向に延びる第1返し部位と、該第1返し部位の延びた先から前記直線部と平行に互いに向かって接近するように延びる第2返し部位と、を有するフック付き面材である。
【0010】
第2の発明によれば、フックの脚部から外れない狭い領域において、直線部を幅方向に長く確保しつつ、一対の返し部を直線部より基端側の位置においてより長く確保することができる。
【0011】
本発明の第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記面材が、シートエアバッグの展開を補助する力布とされるフック付き面材である。
【0012】
第3の発明によれば、フックと強度確保及び歩留まり向上を図れるように縫着される面材を力布として用いることで、シートエアバッグの展開を適切に補助することができる。
【0013】
本発明の第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、一対の前記返し部が、返し縫いされる返し縫い部位をそれぞれ有するフック付き面材である。
【0014】
第4の発明によれば、直線部の強度に影響を与えることなく、縫い線の縫い始めと縫い終わりとに返し縫いを行うことができる。それにより、縫い糸のほつれを適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係るフック付き面材が適用されるシートの模式図である。
【
図5】他の実施形態に係るフック付き面材の斜視図である。
【
図6】他の実施形態に係るフック付き面材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
《第1の実施形態》
(フック付き面材1の概略構成)
始めに、本発明の第1の実施形態に係るフック付き面材1の構成について、
図1~
図4を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。また、以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に該当する符号がない場合には、
図1~
図4のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0018】
図1~
図2に示すように、本実施形態に係るフック付き面材1は、自動車用シートのシートバック10に適用されている。シートバック10は、その骨格を成すシートバックフレーム11と、シートバックフレーム11を前側から覆うシートバックパッド12と、シートバックパッド12を覆うシートバックカバー13と、を有する。
【0019】
また、シートバック10は、その不図示の乗降ドアに面する左側部に、サイドエアバッグ装置14を備える。サイドエアバッグ装置14は、シートバック10の内部に設けられている。サイドエアバッグ装置14は、車両の衝突が検知された際に、シートエアバッグ14Aをシートバックカバー13を突き破りながらシート前方へと膨出させて着座者の頭部と胸部とを側方衝突から保護する公知の装置とされる。
【0020】
図2に示すように、シートバック10の内部には、上記シートエアバッグ14Aの展開を補助するための補強布となる力布2を備えたフック付き面材1が設けられている。フック付き面材1は、上記力布2に、力布2をシートバックフレーム11に引掛けて固定するための樹脂製のフック3が縫着(縫い線4)された構成とされる。ここで、力布2が、本発明の「面材」に相当する。
【0021】
図3に示すように、力布2は、エステル帆布から成る帯状の部材から成る。フック3は、力布2の端末2Aに沿って縫着されている。フック3は、射出成形された樹脂部材から成る。フック3は、力布2に縫着される平板状の脚部3Aと、脚部3Aの先端から鉤状に曲げられる引掛け部3Bと、を有する。フック3は、幅方向に一定の横断面で延びる形状とされる。
【0022】
図3~
図4に示すように、フック3を力布2に縫着する縫い線4は、フック3の脚部3Aを力布2の端末2Aに沿って縫着するように縫い付けられている。フック3は、その幅方向が力布2の端末2Aに沿う方向に向けられて、脚部3Aが力布2に縫着されている。上記縫い線4は、具体的には、フック3の脚部3Aを通ってフック3の幅方向に直線状に延びる直線部4Aと、直線部4Aの一端及び他端から脚部3Aの基端側に返されるように延びる一対の返し部4Bと、を有する。
【0023】
上記縫い線4は、脚部3Aから外れることなく脚部3Aに沿って延びるように縫い付けられている。直線部4Aは、脚部3Aの幅方向に平行に延びており、脚部3Aの幅方向の両端を残す略全域に亘って縫い付けられている。
【0024】
一対の返し部4Bは、互いに幅方向に対称な形に縫い付けられている。具体的には、一対の返し部4Bは、直線部4Aの一端及び他端から脚部3Aの基端側に向かって互いに接近する斜め内方向に延びる第1返し部位B1と、第1返し部位B1の延びた先から直線部4Aと平行に互いに向かって接近するように延びる第2返し部位B2と、を有する。
【0025】
一対の返し部4Bの第1返し部位B1と第2返し部位B2とは、それぞれ、直線状に延びるように縫い付けられている。一対の返し部4Bは、互いに接することなく、各々の第2返し部位B2の間に幅方向の間隔をあける位置まで延びている。上記縫い線4は、そのどちらか一方の第2返し部位B2が縫い始めとされ、他方の第2返し部位B2が縫い終わりとなるように連続的に縫い付けられている。
【0026】
上記縫い付けにより、縫い線4の縫い始めと縫い終わりとが、直線部4Aと重ならない構成とされている。それにより、直線部4Aと一対の返し部4Bとの針孔が互いに重ならず、針孔の密集によるフック3の強度低下が抑制されている。
【0027】
上記縫い始めとなる一方の第2返し部位B2と、縫い終わりとなる他方の第2返し部位B2とには、それぞれ、返し縫いされる返し縫い部位B3が設けられている。これら返し縫い部位B3は、各第2返し部位B2と互いに同じ針孔を通るように縫い付けられている。これら返し縫い部位B3により、各第2返し部位B2の縫い糸のほつれが抑制されている。
【0028】
上記のようにフック3が力布2に縫着されることで、フック付き面材1は、力布2にフック3から引き離されるような強い引張荷重が掛けられても、これらを繋ぐ縫い線4の直線部4Aにおいて、係る負荷荷重をフック3に広く分散して伝達することができるようになっている。すなわち、縫い線4は、直線部4Aの両端から返される各返し部4Bが、直線部4Aから引掛け部3Bと繋がる先端側ではなく、基端側に返されるように縫い付けられている。
【0029】
そのため、各返し部4Bが、フック3と力布2との間の荷重伝達経路に介在せず、幅方向に直線状に延びる直線部4Aにおいて、これらの間の負荷荷重の伝達が行われるようになっている。詳しくは、上記縫い線4の直線部4Aは、その両端が同じ針孔を通るように縫い返されるのではなく、各返し部4Bによって基端側に返されるように縫い進められることで、両端がほつれにくいように処理されている。
【0030】
したがって、縫い線4の直線部4Aに同じ針孔を通る縫い返しがないことから、脚部3Aの両端を残す幅一杯に縫い付けられる直線部4Aにより、フック3と力布2との間で負荷荷重を適切に分散して伝達することができる。よって、フック付き面材1を引張強度の高い構成とすることができる。
【0031】
また、このような強度低下やほつれの生じにくい縫い線4を、各返し部4Bによりフック3の脚部3Aから外れない狭い領域において設定することができる。したがって、力布2の歩留まり向上を図ることができる。すなわち、力布2のフック3の外側に返し縫いを行うためのスペースを確保する必要がないからである。
【0032】
以上をまとめると、本実施形態に係るフック付き面材1は、次のような構成とされている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0033】
すなわち、フック付き面材(1)は、面材(2)と、面材(2)に沿って縫着されるフック(3)と、を有する。フック(3)が、面材(2)に縫着される平板状の脚部(3A)と、脚部(3A)の先端から鉤状に曲げられる引掛け部(3B)と、を有する。フック(3)を面材(2)に縫着する縫い線(4)が、脚部(3A)を通って幅方向に直線状に延びる直線部(4A)と、直線部(4A)の一端及び他端から脚部(3A)の基端側に返されるように延びる一対の返し部(4B)と、を有する。直線部(4A)及び一対の返し部(4B)が、脚部(3A)から外れることなく脚部(3A)に沿って延びるように設けられる。一対の返し部(4B)が、縫い線(4)の縫い始めと縫い終わりとを成す。
【0034】
上記構成によれば、縫い線(4)の縫い始めと縫い終わりとが、直線部(4A)と重ならないように返される。それにより、直線部(4A)と一対の返し部(4B)との針孔が重ならず、針孔の密集によるフック(3)の強度低下を抑制することができる。詳しくは、縫い線(4)の縫い始めと縫い終わりは、直線部(4A)に対して、フック(3)の引掛け部(3B)のある先端側ではなく、基端側に返される。
【0035】
そのため、幅方向に直線状に延びる直線部(4A)を介して、フック(3)の引掛け部(3B)と面材(2)との間で適切に負荷荷重を分散して伝達することができる。また、このような縫い線(4)を、フック(3)の脚部(3A)から外れない狭い領域において設定することができ、面材(2)の歩留まり向上を図ることができる。
【0036】
また、一対の返し部(4B)が、直線部(4A)の一端及び他端から脚部(3A)の基端側に向かって互いに接近する斜め内方向に延びる第1返し部位(B1)と、第1返し部位(B1)の延びた先から直線部(4A)と平行に互いに向かって接近するように延びる第2返し部位(B2)と、を有する。上記構成によれば、フック(3)の脚部(3A)から外れない狭い領域において、直線部(4A)を幅方向に長く確保しつつ、一対の返し部(4B)を直線部(4A)より基端側の位置においてより長く確保することができる。
【0037】
また、面材(2)が、シートエアバッグ(14A)の展開を補助する力布(2)とされる。上記構成によれば、フック(3)と強度確保及び歩留まり向上を図れるように縫着される面材(2)を力布(2)として用いることで、シートエアバッグ(14A)の展開を適切に補助することができる。
【0038】
また、一対の返し部(4B)が、返し縫いされる返し縫い部位(B3)をそれぞれ有する。上記構成によれば、直線部(4A)の強度に影響を与えることなく、縫い線(4)の縫い始めと縫い終わりとに返し縫いを行うことができる。それにより、縫い糸のほつれを適切に抑制することができる。
【0039】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態の他、各種の形態で実施することができるものである。
【0040】
1.本発明のフック付き面材は、シート表面に張設されるシートカバーにも適用可能なものである。フック付き面材が適用されるシートは、車両用シートの他、航空機や船舶等の車両以外の乗物に搭載されるシートや、乗物以外で使用されるシートであっても良い。
【0041】
2.
図5に示すように、縫い線4の縫い始めと縫い終わりは、返し縫いではなく、縫製後に縫い糸を長く延ばした状態で切る処理としても良い(延長糸4C)。このような処理であっても、縫い線4の縫い始めと縫い終わりの縫い糸のほつれを抑制することができる。
【0042】
3.
図6に示すように、縫い線4の直線部4Aから基端側に返される各返し部4Bは、直線部4Aの一端及び他端から脚部3Aの基端側に向かって互いに接近する斜め内方向にのみ延びる形状とされていても良い。また、各返し部4Bは、直線部4Aの一端及び他端から脚部3Aの基端側に向かって直角に延びる形状とされていても良い。
【0043】
但し、前者の場合には、各返し部4Bの長さを長くとろうとすると直線部4Aとの間の開き角度を大きくとることができず、直線部4Aと各返し部4Bとの針孔が互いに密集しやすくなることに留意が必要である。また、後者の場合には、フック3の脚部3Aが直線部4Aから基端側に大きく延びる形状でないと、各返し部4Bの長さを長くとりにくくなることに留意が必要である。
【符号の説明】
【0044】
1 フック付き面材
2 力布(面材)
2A 端末
3 フック
3A 脚部
3B 引掛け部
4 縫い線
4A 直線部
4B 返し部
B1 第1返し部位
B2 第2返し部位
B3 返し縫い部位
4C 延長糸
10 シートバック
11 シートバックフレーム
12 シートバックパッド
13 シートバックカバー
14 サイドエアバッグ装置
14A シートエアバッグ