(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161698
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】モータの支持構造
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
H02K5/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076616
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】柴本 亨
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605AA05
5H605CC04
5H605CC05
(57)【要約】
【課題】ロータ軸とケーシングとの間に電気的な閉回路が形成されることを防止すると共に耐久性の優れたモータの支持構造を提供する。
【解決手段】交流が印加されてロータが回転するモータが、金属製のケーシング2の内部に収容され、ロータ軸10が導電性を有するとともに、ロータ軸10の両端部を導電性の軸受11を介してケーシング2によって回転可能に支持したモータの支持構造であって、軸受11に嵌合させた金属部材14と、金属部材14に嵌合させられて軸受11および金属部材14をケーシング2もしくはロータ軸10に対して電気的に絶縁する絶縁部材15とを有し、金属部材14および絶縁部材15は、軸受11とケーシング2との間に圧入されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流が印加されてロータが回転するモータが、金属製のケーシングの内部に収容され、前記ロータと一体のロータ軸が導電性を有するとともに、前記ロータ軸の両端部を導電性の軸受を介して前記ケーシングによって回転可能に支持したモータの支持構造であって、
前記軸受に嵌合させた金属部材と、前記金属部材に嵌合させられて前記軸受および前記金属部材を前記ケーシングもしくは前記ロータ軸に対して電気的に絶縁する絶縁部材とを有し、
前記金属部材および前記絶縁部材は、前記軸受と前記ケーシングもしくは前記ロータ軸との間に圧入されている
ことを特徴とするモータの支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを収容する収容部によって、モータの回転軸を回転自在に支持する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円筒状に形成されるとともに、軸線方向の空間を区画する隔壁部を備えたケースと、ケースの一方の端部に取り付けられたカバーとにより形成された空間にモータを収容し、モータの回転軸の少なくとも一方の端部をカバーに取り付けられた軸受によって回転自在に支持する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の駆動力源として機能するモータとして、同期モータや誘導モータなどの交流モータを採用することが一般的である。したがって、この種の車両では、ステータに取り付けられたコイルに交流電圧を印加するためのインバータが設けられている。そのインバータに設けられたトランジスタのスイッチングは、モータの回転数に応じて高速になる。高速でスイッチングする場合、コイルから漏れ電流が不可避的に発生し、その漏れ電流によって磁束が形成されることがある。そのようにして磁束が形成されると、モータ内部で磁気不平衡となることがあり、回転軸の両端の間に電位差が生じ、軸電圧が発生する可能性がある。
【0005】
従来、駆動力源としてのモータは、剛性が高い金属製のケースと、特許文献1に記載された支持構造のようにケースに設けられた少なくとも二つのボールベアリングなどの軸受とによって支持している。このようなケースと軸受とによる支持構造において、上記のような軸電圧が発生すると、回転軸、軸受、およびケースによる閉回路が形成されて、それに伴う電磁ノイズがケースのような輻射(放射)部から放射される可能性がある。
【0006】
また、上記のような閉回路が形成されることを抑制するために、ボールベアリングを構成するアウターレースやインナーレースを合成樹脂などの絶縁材料によって被覆することが考えられる。しかしながら、アウターレースやインナーレースには、ラジアル方向やスラスト方向さらには回転方向の荷重の変動などによる振動が掛かるので、そのような荷重の変動の繰り返しによって被覆部が劣化して絶縁性を担保することができなくなる可能性がある。または周辺温度に応じて被覆部が変形し、あるいは被覆部が膨張もしくは収縮することにより、回転軸を位置決めする支持構造としての機能が低下し、振動や偏荷重が大きくなるなどのことによって回転軸やそれに連結される部材の耐久性が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、ロータ軸やそれに連結される部材の耐久性が低下することを抑制しつつ、電磁ノイズを要因とした異音あるいは騒音を抑制できるモータの支持構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、交流が印加されてロータが回転するモータが、金属製のケーシングの内部に収容され、前記ロータと一体のロータ軸が導電性を有するとともに、前記ロータ軸の両端部を導電性の軸受を介して前記ケーシングによって回転可能に支持したモータの支持構造であって、前記軸受に嵌合させた金属部材と、前記金属部材に嵌合させられて前記軸受および前記金属部材を前記ケーシングもしくは前記ロータ軸に対して電気的に絶縁する絶縁部材とを有し、前記金属部材および前記絶縁部材は、前記軸受と前記ケーシングもしくは前記ロータ軸との間に圧入されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロータ軸とケーシングとが、ロータ軸を支持している軸受と、ケーシングとの間、もしくはロータ軸との間に圧入した絶縁部材によって電気的に絶縁されているので、ロータ軸とケーシングとの間に電気的な閉回路が形成されない。したがって、モータに交流が印加されても電磁ノイズやそれに起因する異音もしくは騒音を防止もしくは抑制することができる。また、ロータが回転することに伴ってラジアル方向もしくはスラスト方向あるいは回転方向の荷重が繰り返し作用するとしても、軸受と絶縁部材との間に金属部材が介在し、かつこれら絶縁部材および金属部材が軸受とケーシングもしくはロータ軸との間に圧入されているので、絶縁部材の摩耗などの損傷を回避もしくは抑制でき、ひいては支持構造の全体としての耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態におけるモータの支持構造の一例を説明するための断面図である。
【
図2】ロータ軸を支持している一方の軸受の部分を拡大して示す部分図である。
【
図3】絶縁部材をロータ軸と軸受との間に設けた例を説明するための図であって、
図2と同様の部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0012】
本発明におけるモータは、交流が印加されてロータが回転する構成のモータであり、そのモータの一例として、永久磁石式の同期モータ(以下、単にモータと記す。)1を
図1に模式的に示してある。ここに示すモータ1は、インナーロータタイプのモータであり、例えば車両におけるトランスアクスルケーシング(以下、単にケーシングと記す。)2の内部に収容されて、車両の駆動力源の一部を構成している。
【0013】
ケーシング2は、開口部を有するハウジング3とその開口部に取り付けられて開口部を密閉しているカバー4とを備えている。そのハウジング3の内部に設けられた隔壁部(もしくはセンターサポート)5とカバー4との間に収容部6が形成され、その収容部6の内部にモータ1が配置されている。その収容部6の内周部(より具体的にはハウジング3の内周部)に、コイル7を備えたステータ(固定子)8が取り付けられている。ステータ8の内周側でステータ8と同心上に配置されたロータ9は、特には図示しないが、外周部に複数の永久磁石を備えている。また、ロータ9は、軸線方向での両側に突出したロータ軸10を備えており、そのロータ軸10の端部のそれぞれが軸受11,12を介してケーシング2によって支持されている。なお、ロータ軸10は、中心軸線に沿って貫通孔を形成した中空軸であって、
図1の左側の端部から変速機入力軸などの回転軸Sが挿入されてスプライン嵌合している。
【0014】
カバー4は、ハウジング3の開口部を閉じる部材であって軽量化などの要請で薄肉になっている部分を有し、いわゆる膜振動を生じやすい構造になっている。ロータ軸10の一方の端部は、軸受11を介してそのカバー4によって回転可能に支持されている。この軸受11によってロータ軸10の端部を支持している部分を
図2に拡大して示してある。軸受11は、インナーレース11aとアウターレース11bとの間に鋼球(ボール)11cなどの転動体を挟み込んだいわゆる転がり軸受であり、
図2に示す例では、ロータ軸10の端部に嵌合している。また、軸受11は、カバー4の内部に形成されている軸受用の円筒部13の内周側に配置されている。その軸受11におけるアウターレース11bの外周部には、本発明の金属部材に相当する金属製の円筒部材であるスリーブ14が嵌合している。
【0015】
さらに、このスリーブ14の外周側には、絶縁部材15が嵌合している。この絶縁部材15は、合成樹脂などの電気的に絶縁性の素材によって構成され、
図2に示すように、全体として環状をなし、スリーブ14の外周面に密着する円筒部15aと、スリーブ14の側面とアウターレース11bの側面の少なくとも一部を覆うフランジ部15bとを有している。すなわち、絶縁部材15は、その円筒部15aが軸受11あるいはロータ軸10の半径方向において、スリーブ14の外周面とカバー4における円筒部13の内周面との間に介在してカバー4(ケーシング2)とスリーブ14ならびに軸受11およびロータ軸10とを電気的に絶縁し、またフランジ部15bが軸受11あるいはロータ軸10の軸線方向において、スリーブ14の側面および軸受11の側面とカバー4との間に介在してカバー4(ケーシング2)とスリーブ14ならびに軸受11およびロータ軸10とを電気的に絶縁している。そして、ロータ軸10を緩みなく支持するために、スリーブ14および絶縁部材15は、軸受11の外周面とカバー4における円筒部13の内周面との間に圧入されている。
【0016】
ロータ軸10を回転可能に支持している他方の軸受12は、上述した一方の軸受11と同様の転がり軸受であり、ロータ軸10の他方の端部の外周面と前述した隔壁部5を貫通させて形成した円筒部16の内周面との間に挿入されている。この部分の構造は、従来知られている構造と特に変わるところはない。上述した各軸受11,12は金属製であって導電性があり、したがってロータ軸10の
図1の右側の端部でケーシング2に対して電気的に導通しているが、
図1の左側の端部では、上記の絶縁部材15が設けられていることによりケーシング2に対して電気的に絶縁されている。
【0017】
上述したように構成されたモータ1は、ロータ9の回転角に応じて各コイルに印加する電圧を制御することによってトルクを発生するように構成されている。すなわち、各コイルには交流電圧が印加される。それに対して、モータ1に電力を供給し、またモータ1によって発電された電力を充電する蓄電装置(図示せず)は、直流電力を入出力するように構成されている。そのため、蓄電装置とコイルとの間には、交流電力と直流電力とを変換するための図示しないインバータ(図示せず)が設けられている。
【0018】
このインバータは、従来の車両の駆動力源として設けられたモータを制御するためのインバータと同様の構成であってよく、複数のトランジスタを備え、そのトランジスタのスイッチングを制御することによって、コイルに印加する交流電圧の大きさや周波数を制御するように構成されている。
【0019】
上述のように構成されたモータ1の駆動時には、インバータによって交流に変換された電圧がコイルに印加される。その場合、モータの回転数が高回転数であることによりインバータのスイッチングが高速になると、コイルからの漏れ電流が発生し、それに伴って磁束が形成されるため、モータ1の内部で磁気不平衡となり、ロータ軸10の両端の間に電位差が生じ、軸電圧が発生することがある。
【0020】
一方、ロータ軸10の一方の端部は、前述した絶縁部材15によってカバー4もしくはケーシング2に対して電気的に絶縁されているので、たとえ軸電圧が発生したとしても、ロータ軸10とケーシング2との間に電気的な閉回路が形成されることはない。その結果、電磁ノイズによるロータ軸10の振動やその振動の伝搬によりカバー4(特にその薄肉になっている輻射部もしくは放射部)が振動することによる異音や騒音を防止もしくは抑制でき、さらにはカバー4に高周波数の電流が流れるなどのことによってカバー4が輻射部(放射部)となって電磁ノイズによる異音や騒音が発生することを抑制できる。
【0021】
また、上述したモータ1の支持構造では、絶縁部材15と軸受11のアウターレース11bとの間には、絶縁部材15と共に圧入された金属製のスリーブ14が介在している。そのため、軸受11に作用するラジアル方向やスラスト方向あるいは回転方向の荷重に起因する絶縁部材15の摺動やそれに起因する摩耗を抑制することができるとともに、周辺温度などによって円筒部13が膨張あるいは収縮した場合であっても、その温度変化を要因とした変位量を絶縁部材15の圧縮量として吸収することができるため、スリーブ14の位置ずれやそれに伴う軸受12の軸芯のズレなどを抑制することができる。その結果、ロータ軸10を位置決めする支持構造としての機能が低下したり、ロータ軸10やそれに連結される部材(例えば、回転軸S)などの耐久性が低下することを抑制することができる。
【0022】
さらに、合成樹脂などの軟質な材料からなる絶縁部材15は、スリーブ14と共に、軸受11とケーシング2との間に圧入し、軸受11と絶縁部材15とを直接接触させていないので、絶縁部材15の摩耗などを抑制して耐久性を良好にし、長期にわたって電磁ノイズあるいはそれに起因する異音や騒音を防止もしくは抑制することができる。
【0023】
上述したように、本発明は、ケーシング2とロータ軸10との間に電気的な閉回路が形成されることを回避するために、絶縁部材15と金属部材であるスリーブ14とをケーシング2とロータ軸10との間に圧入した構成とした点に特徴がある。したがって、本発明では、絶縁部材15およびスリーブ14を圧入する位置は、
図3に示すように、軸受11とロータ軸10との間であってもよい。
【0024】
図3に示す例では、スリーブ14はインナーレース11aの内周側に嵌合している。また、絶縁部材15は、円筒部15aの一方の端部に、半径方向で外側に延び出ているフランジ部15cを有している。その円筒部15aはスリーブ14の内周側に嵌合して密着することによりスリーブ14の内周面の全体を覆っており、またフランジ部15cはスリーブ14の側面とインナーレース11aの側面の少なくとも一部とを覆う大きさに形成されている。ロータ軸10のカバー4側の端部は、軸受12を取り付けるように段差を付けて外径が小さくなっている。その外径が小さくなっている部分の外周面と軸受11の内周面との間に、スリーブ14と絶縁部材15の円筒部15aとが圧入されている。その状態で、フランジ部15cはスリーブ14およびインナーレース11aの側面と、軸受11を嵌合させるために小径とすることによりロータ軸10の端部に生じている壁面との間に挟み込まれている。こうして、スリーブ14および軸受11は、半径方向および軸線方向のいずれにおいても絶縁部材15を介在させてロータ軸10に対して電気的に絶縁されている。
【0025】
図3に示す構成であっても、ロータ軸10がケーシング2に繋がっている二箇所(各軸受11,12の部分)のうちの一方が電気的に絶縁した構成となっているので、ケーシング2とロータ軸10との間に電気的な閉回路が形成されることを回避して電磁ノイズを防止もしくは抑制でき、ひいてはカバー4のいわゆる膜振動による異音や騒音を防止もしくは抑制することができる。
【0026】
なお、本発明では、絶縁部材15が金属より軟質で緩衝作用をも果たすことが考えられるので、いわゆる膜振動を生じ易いカバー4に対してロータ軸10から振動が伝搬することを可及的に抑制するために、絶縁部材15は、カバー4に近い軸受の部分に設けることが好ましい。これに対して、ロータ軸10とケーシング2との間に閉回路が形成されることを回避するためには、ロータ軸10をケーシング2に対して回転可能に支持しているいずれかの軸受の部分に絶縁部材を設ければよい。例えば、前述した隔壁部5と軸受12との間、もしくはその軸受12とロータ軸10の他方の端部との間に、前述した絶縁部材ならびにスリーブを圧入した構成としてもよい。さらに、上述した各例は、インナーロータタイプのモータ1の例であるが、本発明はこれに限定されないのであって、アウターロータタイプのモータにも適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 モータ
2 ケーシング
3 ハウジング
4 カバー
5 隔壁部
6 収容部
7 コイル
8 ステータ
9 ロータ
10 ロータ軸
11,12 軸受
11a インナーレース
11b アウターレース
11c 鋼球(ボール)
13 円筒部
14 スリーブ(金属部材)
15 絶縁部材
15a 円筒部
15b,15c フランジ部
16 円筒部
S 回転軸