(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161709
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】グラフト重合体、及び、グラフト重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 265/00 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
C08F265/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076648
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】青島 貞人
(72)【発明者】
【氏名】金澤 有紘
(72)【発明者】
【氏名】古木 結夢
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA17
4J026AA31
4J026AA45
4J026AA47
4J026AA48
4J026AA50
4J026AA68
4J026AC22
4J026AC33
4J026CA03
4J026DA02
4J026DA20
4J026DB02
4J026DB17
4J026EA05
4J026FA08
4J026GA01
4J026GA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新たな温度応答性ポリマーを提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造単位(A)を有するグラフト重合体であって、該グラフト重合体の主鎖における該構造単位(A)の数が、該グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、1~100%であるグラフト重合体。
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
2は、2価の有機基を表す。R
3は、水素原子又はメチル基を表す。R
4は、1価の有機基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位(A)を有するグラフト重合体であって、
該グラフト重合体の主鎖における該構造単位(A)の数が、該グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、1~100%である
ことを特徴とするグラフト重合体。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
2は、2価の有機基を表す。R
3は、水素原子又はメチル基を表す。R
4は、1価の有機基を表す。*は、グラフト重合体の主鎖を構成する隣接する構造単位との結合位置を表す。aは、グラフト重合体の側鎖の重合鎖を構成する構造単位の数を表し、1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記構造単位(A)以外の他の構造単位(B)を更に有することを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合体。
【請求項3】
数平均分子量が2000~1000000であることを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合体。
【請求項4】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.0~2.0であることを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合体。
【請求項5】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル系化合物を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程(1)、
該工程(1)で得られた重合物に、R5-COOH(R5は、炭素数1~12の炭化水素基を表す。)で表される化合物を反応させる工程(2)、及び、
該工程(2)で得られた反応重合物に、ビニルエーテル基含有化合物を反応させてグラフト重合体を得る工程(3)
を含むことを特徴とするグラフト重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト重合体、及び、グラフト重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性基とイオン重合性基を分子内に併せ持つ異種重合性モノマーとして、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類等が知られている。このような異種重合性モノマーを重合して得られる重合体は、工業的に汎用性が高く有用であり、各種用途において広く使用されている。
【0003】
例えば、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の(メタ)アクリロイル基を重合して得られるビニルエーテル基ペンダントポリマーは、側鎖にビニルエーテル基を有し、これを反応点として利用する例が知られている。ビニルエーテル基は、他の反応点の官能基と比較して、金属腐食性が少ない、保存安定性が高い、刺激性・毒性が少ない等の利点がある。
【0004】
一方、近年、温度変化等の物理的な刺激やpH変化等の化学的な刺激に応答し、その性質や形態を変化させる刺激応答性高分子材料が注目されている。例えば、温度応答性ポリマーは、特定の温度以上(又は以下)で、不溶化したり溶解したりするポリマーである。そのような温度応答性ポリマーとして、ポリビニルエーテルとN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体等のポリアミド系やポリエーテル系のグラフト重合体が知られている(例えば、非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,2013,51,786-792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、用途によっては、従来の温度応答性ポリマーではその用途に必要な他の特性を充分に備えていないものもあり、種々の用途に利用できる新たな温度応答性ポリマーの開発が求められていた。本発明は、上記現状に鑑みて、新たな温度応答性ポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、ビニルエーテル基ペンダントポリマーを利用したグラフト重合体について種々検討したところ、極めて低濃度でも良好な温度応答性を示す新たなグラフト重合体の製造に成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の態様の発明を提供する。
[1]下記一般式(1)で表される構造単位(A)を有するグラフト重合体であって、該グラフト重合体の主鎖における該構造単位(A)の数が、該グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、1~100%であることを特徴とするグラフト重合体。
【0009】
【0010】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2は、2価の有機基を表す。R3は、水素原子又はメチル基を表す。R4は、1価の有機基を表す。*は、グラフト重合体の主鎖を構成する隣接する構造単位との結合位置を表す。aは、グラフト重合体の側鎖の重合鎖を構成する構造単位の数を表し、1以上の整数を表す。)
[2]上記構造単位(A)以外の他の構造単位(B)を更に有することを特徴とする上記[1]に記載のグラフト重合体。
[3]数平均分子量が2000~1000000であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のグラフト重合体。
[4]重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.0~2.0であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれかに記載のグラフト重合体。
[5]ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル系化合物を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程(1)、該工程(1)で得られた重合物に、R5-COOH(R5は、炭素数1~12の炭化水素基を表す。)で表される化合物を反応させる工程(2)、及び、該工程(2)で得られた反応重合物に、ビニルエーテル基含有化合物を反応させてグラフト重合体を得る工程(3)を含むことを特徴とするグラフト重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグラフト重合体は、良好な温度応答性を有する。また、本発明のグラフト重合体の製造方法によれば、極めて低濃度でも良好な温度応答性を有するグラフト重合体を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の重合物(X1)と反応重合物(Y1)の
1H-NMRスペクトルの図である。
【
図2】実施例1で得られたグラフト重合体の
1H-NMRスペクトルの図である。
【
図3】実施例1のグラフト重合体の水溶液(濃度0.1wt%)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図4】実施例1のグラフト重合体の水溶液(濃度0.1wt%、0.01wt%、0.001wt%、0.0001wt%)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。また、数値範囲「(最小値)~(最大値)」は、「(最小値)以上(最大値)以下」を意味し、例えば、「5~10」と記載される場合、「5以上10以下」を意味する。
【0014】
1.グラフト重合体
本発明のグラフト重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位(A)を有し、上記グラフト重合体の主鎖における上記構造単位(A)の数が、上記グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、1~100%であることを特徴とする。
【0015】
本発明のグラフト重合体は、温度応答性に優れる。温度応答性とは、ある温度を境に水に対する溶解性等の物理的特性を変化させる刺激応答型の特性をいう。温度応答性としては、下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature,LCST)型、又は、上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature,UCST)型が挙げられる。LCST型の温度応答性ポリマーは、一定温度以上に加熱すると、ポリマーが凝集して白濁し、逆にその温度以下に冷却すると再度溶解するという可逆的な相分離挙動を示す。一方、UCST型の温度応答性ポリマーは、一定温度以下に冷却すると、ポリマーが凝集して白濁し、逆にその温度以上に加熱すると再度溶解するという可逆的な相分離挙動を示す。
本発明のグラフト重合体がこのような温度応答性を示すのは、上記一般式(1)中のポリビニルエーテル鎖の親水性と疎水性の構造を併せ持った構造を有するためと考えられる。本発明のグラフト重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位と他の構造単位によって、LCST型、又は、UCST型のポリマーとすることができるが、なかでもLCST型が好ましい。
【0016】
<構造単位(A)>
本発明のグラフト重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位(A)を有する。なお、本明細書において、「構造単位」とは、単量体が重合反応することで形成される、単量体の構造に含まれる炭素-炭素二重結合部分が開裂して-C-C-となった構造を意味する。
上記一般式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R1は、メチル基が好ましい。
【0017】
R2は、2価の有機基を表す。上記2価の有機基の炭素数は、好ましくは1~16であり、より好ましくは3~14であり、更に好ましくは5~12である。
【0018】
上記2価の有機基としては、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、-O-、-CO-、-COO-、-NH-、-S-、-SO-、-SO2-、又は、これらの組み合わせからなる基が挙げられる。
【0019】
上記2価の炭化水素基は、鎖状であっても環状であってもよいし、飽和であっても不飽和であってもよい。
上記2価の炭化水素基の炭素数は、1~10であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。
【0020】
上記2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、t-ブチレン基、ペンチレン基等のアルキレン基や、ビニレン基、プロペニレン基等のアルケニレン基等が挙げられる。
【0021】
上記2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン、シクロへキシレン、ビシクロヘキシレン基等のシクロアルキレン等が挙げられる。
【0022】
上記2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、ベンジル基等のアラルキル基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0023】
上記2価の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子、アルコキシ基等が挙げられる。
【0024】
なかでも、上記2価の有機基は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、-O-、-COO-、又は、これらの組み合わせからなる基であることが好ましく、-COO-(R2a-O)n-R2b-(R2a及びR2bは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す。nは0~2の整数である。)、又は、-R2c-(R2cは、置換基を有していてもよい炭素数6~12の2価の芳香族炭化水素基を表す。)であることが更に好ましい。
R2a及びR2bで表される2価の脂肪族炭化水素基は、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~2のアルキレン基であることがより好ましい。
R2cで表される2価の芳香族炭化水素基は、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
【0025】
R3は、水素原子又はメチル基を表す。
【0026】
R4は、1価の有機基を表す。R4で表される1価の有機基の炭素数は、好ましくは2~12であり、より好ましくは2~10であり、更に好ましくは2~8である。
【0027】
R4で表される1価の有機基としては、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、又は、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基と2価の炭化水素基、-O-、-CO-、-COO-、-NH-、-S-、-SO-、もしくは-SO2-との組み合わせからなる基が挙げられる。
【0028】
R4で表される置換基を有していてもよい炭化水素基としては、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基が挙げられる。1価の炭化水素基としては、上述した2価の炭化水素基に水素原子を1つ付加して1価にしたものが挙げられる。
上記組み合わせからなる基としては、-O-、-CO-、-COO-、-NH-、-S-、-SO-、もしくは-SO2-と、1価の炭化水素基、又は、1価の炭化水素基及び2価の炭化水素基との組み合わせからなる基が挙げられる。
【0029】
R4で表される炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子、アルコキシ基、水酸基等が挙げられる。
【0030】
なかでも、R4で表される1価の有機基としては、-R4a、又は、-(R4b-O)p-R4c、-(R4d-O)q-CO-R4e(式中、R4a~R4eは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。p及びqは、同一又は異なって、1~30の整数を表す。)が好ましい。
【0031】
R4a、R4b、R4c、R4d及びR4eで表される炭化水素基は、鎖状であっても、環状であってもよいし、飽和でも不飽和であってもよい。
【0032】
R4a、R4b、R4c、R4d及びR4eで表される炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6である。
【0033】
なかでも、R4a、R4b、R4c、又は、R4dは、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
R4eは、不飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、ビニル基、n-プロペニル基等のアルケニル基であることがより好ましい。
【0034】
p及びqは、好ましくは1~9の整数である。
【0035】
上記一般式(1)で表される構造単位(A)において、-CH2-CR1-はグラフト重合体の主鎖を構成する部分である。
グラフト重合体中における構造単位(A)の数は特に制限されないが、3~1000であることが好ましい。より好ましくは、5~500である。
グラフト重合体は、構造単位(A)が2つ以上連続した繰り返し構造を有していてもよく、グラフト重合体の構造中には、このような一般式(1)の構造が2つ以上連続した繰り返し構造が1つのみ存在していてもよく、複数存在していてもよい。繰り返し構造が複数存在する場合、複数の繰り返し構造の間には、後述する構造単位(A)以外の他の構造単位(B)が存在することになる。
また繰り返し構造が複数存在する場合、それら複数の繰り返し構造における繰り返し数は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0036】
上記グラフト重合体は、構造単位(A)を1種のみ有していてもよいし、2種以上有していてもよい。
【0037】
<構造単位(B)>
上記グラフト重合体は、上記構造単位(A)以外の他の構造単位(B)を更に主鎖に有していてもよい。
上記他の構造単位(B)としては、例えば、上記構造単位(A)以外の構造単位を与えることができる他の重合性単量体由来の構造単位等が挙げられる。
上記他の重合性単量体は製造する重合体の目的、用途に応じて適宜選択することができる。
【0038】
上記他の重合性単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2-(アセトアセトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸アリル、アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ヘプタドデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸N,N’-ジメチルアミノエチル等の窒素原子含有重合性単量体類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能性重合性単量体類;スチレン等の芳香族ビニルモノマー、ブタジエン等のジエン系モノマー等が挙げられる。上記他の重合性単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記グラフト重合体は、構造単位(B)を1種のみ有していてもよいし、2種以上有していてもよい。
【0040】
上記グラフト重合体が、上述した構造単位(A)と構造単位(B)とを主鎖に有する場合、構造単位(A)と構造単位(B)の交互共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
また上記グラフト重合体が、ともに上記一般式(1)で表される異なる構造単位を複数有する場合や、更に構造単位(B)を有する場合も、グラフト重合体は交互共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0041】
上記グラフト重合体において、グラフト重合体の主鎖における構造単位(A)の数は、グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、1~100%である。
上記グラフト重合体の主鎖における構造単位(A)の数は、グラフト重合体の温度応答性がより良好になる点で、グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、好ましくは10~100%であり、より好ましくは20~100%であり、更に好ましくは20~80%である。
【0042】
上記グラフト重合体の主鎖における構造単位(B)の数は、重合体の目的・用途に応じて適宜設計すればよいが、上記グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、0~99%であることが好ましい。上述の範囲であると、グラフト重合体が温度応答性を示すことができる。上記グラフト重合体の主鎖における構造単位(B)の数は、ゲル化が抑制される点で、上記グラフト重合体の主鎖を構成する全構造単位数に対して、より好ましくは0~90%であり、更に好ましくは0~80%であり、より更に好ましくは20~80%である。
【0043】
上記一般式(1)で表される構造単位(A)におけるaは下記式(1-1)で表される、側鎖に結合した重合鎖を構成する構造単位(a)の数を表す。aが2以上である場合、構造単位(A)は構造単位(a)が2つ以上連続した繰り返し構造を有することになる。グラフト重合体の側鎖の重合鎖中には、このような構造単位(a)が2つ以上連続した繰り返し構造が1つのみ存在していてもよく、複数存在していてもよい。繰り返し構造が複数存在する場合、複数の繰り返し構造の間に構造単位(a)以外の他の構造単位が存在することになる。繰り返し構造を2つ以上有する場合、構造単位(a)の繰り返し数は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
【化2】
(式中、R
3及びR
4は、それぞれ式(1)と同じである。)
【0045】
上記グラフト重合体の側鎖の重合鎖が有する、上記式(1-1)で表される側鎖の単位構造(a)の数の合計は、5~1000であることが好ましい。より好ましくは、10~500である。
【0046】
上記グラフト重合体の側鎖の重合鎖における上記式(1-1)で表される構造単位(a)の数は、グラフト重合体の側鎖の重合鎖の全構造単位数に対して、好ましくは10~100%であり、より好ましくは20~100%である。
【0047】
上記式(1-1)で表される構造単位(a)は、なかでも、上述のとおり、式中のR3が、水素原子又はメチル基を表し、R4が、-R4a、又は、-(R4b-O)p-R4c(式中、R4a、R4b、及びR4cは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。pは、1~30の整数を表す。)を表す構造単位(a’)が好ましい。そのような構造単位(a’)の数は、グラフト重合体の側鎖の重合鎖の全構造単位数に対して、好ましくは10~100%であり、より好ましくは20~100%であり、更に好ましくは50~100%である。
【0048】
上記グラフト重合体の側鎖の重合鎖は、構造単位(a)以外の構造単位(b)を更に有していてもよい。
構造単位(b)を与える単量体としては、スチレン等の芳香族ビニルモノマー等の、上述した構造単位(B)を与える重合性単量体が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0049】
上記グラフト重合体の側鎖の重合鎖が構造単位(a)と構造単位(b)を有する場合、構造単位(a)と構造単位(b)の交互共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
また上記グラフト重合体が、ともに上記一般式(1-1)で表される異なる構造単位(a)を複数有する場合や、更に構造単位(b)を有する場合も、グラフト重合体は交互共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0050】
上記グラフト重合体の構造単位(b)を適宜選択することで、LCST型又はUCST型の温度応答性ポリマーとしたり、更に、架橋性のポリマーとしたりすることができる。
【0051】
上記グラフト重合体の側鎖の重合鎖における構造単位(b)の数は、グラフト重合体の側鎖の重合鎖の全構造単位数に対して、好ましくは0~90%であり、より好ましくは0~80%である。
【0052】
上記グラフト重合体の数平均分子量(Mn)は、2000~1000000であることが好ましい。上記重量平均分子量が上述の範囲であると、取り扱いが容易である。
【0053】
上記グラフト重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0~2.0であることが好ましい。上記比(Mw/Mn)が上述の範囲であると、グラフト重合体の分子量分布が小さくなり、シャープな温度応答性を示す重合体になりやすい。上記比(Mw/Mn)は、よりシャープな温度応答性を示す重合体となりうる点で、より好ましくは1.0~1.8であり、更に好ましくは1.0~1.5である。
【0054】
上記グラフト重合体の重量平均分子量(Mw)、及び、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、後述の実施例に記載した方法にて求めることができる。また、上記比(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除することにより求めることができる。
【0055】
上記グラフト重合体は、LCST型又はUCST型の温度応答性を示す。下限臨界溶液温度や上限臨界溶液温度の測定は、グラフト重合体の水溶液を調製し、温度調節器付きの紫外可視分光器を用い、特定の波長で、その水溶液の透過率を測定することにより行うことができる。
【0056】
2.グラフト重合体の製造方法
本発明のグラフト重合体を製造する方法としては、上述した構造単位(A)を有するグラフト重合体が得られる方法であれば特に限定されないが、例えば、ビニルエーテル基含有単量体を含む単量体成分を重合し、得られた重合物のビニルエーテル基にカルボン酸化合物を反応させ、得られた反応物に、ビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分を反応させてグラフト重合体を得る方法や、ビニルエーテル基含有単量体にカルボン酸化合物を反応させた後、得られた反応物を含む単量体成分を重合し、得られた重合物に、ビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分を反応させてグラフト重合体を得る方法等が挙げられる。なかでも、ゲル化が抑制され、副生成物の少ないグラフト重合体が得られやすい点で、ビニルエーテル基含有単量体を含む単量体成分を重合する工程(1)、上記重合工程(1)で得られた重合物に、カルボン酸化合物を反応させる工程(2)、及び、上記反応工程(2)で得られた反応重合物に、ビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分を反応させてグラフト重合体を得る工程を含む製造方法が好ましい。
【0057】
工程(1)
本発明の好ましいグラフト重合体の製造方法は、ビニルエーテル基含有単量体を含む単量体成分を重合する工程を含む。工程(1)では、ビニルエーテル基を反応させずに単量体成分を重合して、ビニルエーテル基を側鎖に有する重合物(X)を得る。
【0058】
上記ビニルエーテル基含有単量体としては、ビニルエーテル基と重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。上記重合性二重結合は、重合性の炭素-炭素二重結合であり、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられる。なかでも、ビニル基、(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0059】
上記ビニルエーテル基含有単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル系化合物;4-ビニルオキシスチレン、(2-ビニロキシエトキシ)スチレン、(2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル)スチレン等のビニルエーテル基含有スチレン系化合物等が挙げられる。
【0060】
上記単量体成分は、更に、上述した構造単位(B)を与える他の単量体を含んでいてもよい。単量体成分に含まれる各単量体の量は、目的とする重合体の構成に応じて、適宜調整すればよいが、単量体成分100質量%中、構造単位(B)を与える他の単量体の割合が0~99質量%であることが好ましい。より好ましくは、0~50質量%であり、更に好ましくは、0~30質量%である。
【0061】
上記単量体成分を重合する方法は、ビニルエーテル基を側鎖に有する重合体が得られるのであれば、特に限定されず、ラジカル重合、配位重合、アニオン重合等の公知のいずれの重合方法で行ってもよいが、なかでも、より効率良く、ビニルエーテル基を反応させず重合性二重結合だけを反応させて、ビニルエーテル基を側鎖に有する重合物を得ることができる点で、グループトランスファー重合が好ましい。
【0062】
グループトランスファー重合は、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物の重合開始剤と触媒の存在下で単量体成分を重合することにより行うことができる。
【0063】
上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物としては、例えば、国際公開第2019/240049号に記載されるようなシリルアセタール化合物、ビニルシラン化合物、アリルシラン化合物等が挙げられる。なかでも、シリルケテンアセタール化合物が好ましい。
【0064】
上記シリルケテンアセタール化合物の具体例としては、例えば、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリエチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリイソプロピルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(tert-ブチルジメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリメチルシリル)ジエチルケテンアセタール、メチル(トリフェニルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(メチルジフェニルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(ジメチルフェニルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリエトキシシリル)ジメチルケテンアセタール、エチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、2-エチルヘキシル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、tert-ブチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、1-[(1-メトキシ-2-メチル-1-プロペニル)オキシ]-1-メチルシラシクロブタン等が挙げられる。なかでも、入手容易である点で、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタールが好ましい。
【0065】
上記重合開始剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記重合開始剤の使用量は、所望の重合物が得られるのであれば特に限定されないが、より効率良く重合物を得られる点で、使用する単量体成分に対して、好ましくは1×10-4~10モル%であり、より好ましくは1×10-3~5モル%であり、更に好ましくは1×10-2~1モル%である。
【0066】
上記触媒としては、例えば、国際公開第2019/240049号に記載されるような触媒が挙げられるが、なかでも、塩基性触媒が好ましく、有機リン化合物、N-ヘテロ環カルベン、フッ素イオン含有化合物、環状アミン化合物、又は、アンモニウム塩化合物がより好ましく、アンモニウム塩化合物が更に好ましい。
【0067】
上記アンモニウム塩化合物としては、例えば、テトラブチルアンモニウムビスアセテート、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムベンゾエート、テトラブチルアンモニウムビスベンゾエート、テトラブチルアンモニウムメタクロロベンゾエート、テトラブチルアンモニウムシアネート、テトラブチルアンモニウムメトキシド、テトラブチルアンモニウムチオレート、テトラブチルアンモニウムビブロマイド、及び、これらのアンモニウム塩化合物のアンモニウムカチオンをテトラメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、N-メチル-N-ブチルピペリジニウム、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムカチオンに変えたものやピリジニウムカチオンに変えたもの等が挙げられる。
【0068】
上記触媒の使用量は、所望の重合物が得られるのであれば特に限定されないが、より効率良く重合物を得られる点で、使用する単量体成分に対して、好ましくは1×10-4~10モル%であり、より好ましくは1×10-3~5モル%であり、更に好ましくは1×10-2~1モル%である。
【0069】
上記重合反応は、溶媒を使用してもしなくてもよいが、使用する方が好ましい。上記溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましい。
【0070】
上記溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル系溶媒;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン等のフッ素系溶媒;DMSO、ニトロメタン等が挙げられる。なかでも、重合反応がより一層良好に進行しやすい点で芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、及びニトリル系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒がより好ましい。上記溶媒は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
上記重合の反応雰囲気下は、大気下でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。
【0072】
上記重合における反応温度は、分子量分布を狭く、すなわち上記比(Mw/Mn)が小さくなる点で、好ましくは-20~100℃であり、より好ましくは-10~50℃であり、更に好ましくは0~40℃であり、特に好ましくは0~30℃である。
【0073】
工程(1)で得られる重合物(重合物(X))の数平均分子量(Mn)は、次の工程を効率よく進行させることができる点で、好ましくは1000~500000であり、より好ましくは2000~200000であり、更に好ましくは2000~100000である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)にて求めることができる。
【0074】
工程(1)で得られる重合物(X)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~2.0である。上記比(Mw/Mn)が上述の範囲であると、分子量分布の小さいグラフト重合体を得ることができ、シャープな温度応答性を示すことができる。上記比(Mw/Mn)は、より好ましくは1.0~1.8であり、更に好ましくは1.0~1.6である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)にて求めることができる。
【0075】
工程(2)
上記グラフト重合体の製造方法は、次いで、上記重合工程(1)で得られた重合物に、カルボン酸化合物を反応させる工程(2)を有する。
工程(2)では、工程(1)で得られた重合物(重合物(X))の側鎖にあるビニルエーテル基に、カルボン酸化合物を反応させてアセタール化を行う。
【0076】
上記カルボン酸化合物としては、重合物(X)の側鎖のビニルエーテル基を良好にアセタール化し、その後のカチオン重合を効率よく進行させることができる点で、R5-COOH(R5は、炭素数1~12の炭化水素基を表す。)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【0077】
R5で表される炭化水素基は、鎖状であっても環状であってもよいし、飽和でも不飽和であってもよい。なかでも、工程(3)のカチオン重合を効率よく進行させることができる点で、鎖状又は環状の飽和炭化水素基が好ましく、鎖状の飽和炭化水素基がより好ましい。
R5で表される炭化水素基の炭素数は、工程(2)の後、未反応のカルボン酸化合物の除去が容易である点で、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4である。
【0078】
上記カルボン酸化合物の具体例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、ヘプチル酸、オクタン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられ、好ましくは脂肪族カルボン酸、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸が挙げられる。
上記カルボン酸化合物は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
上記反応におけるカルボン酸化合物の使用量は、工程(1)で得られた重合物(X)のビニルエーテル基1当量に対して、好ましくは1~1.5当量であり、より好ましくは1~1.2当量である。
【0080】
上記反応は、特に限定されず、各成分を混合して加熱する等の公知の方法で行うことができる。
反応条件としては、特に限定されないが、例えば、反応温度は、ゲル化を抑制しアセタールの脱離を抑制する点で、好ましくは10~120℃であり、より好ましくは10~100℃であり、更に好ましくは10~70℃である。
【0081】
また、上記反応では、反応を加速させる触媒を添加してもよい。
【0082】
工程(3)
上記グラフト重合体の製造方法では、更に、工程(2)で得られた反応重合物(反応重合物(Y))に、ビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分を反応させて本発明のグラフト重合体を得る。工程(3)では、工程(2)の反応において生成するアセタール化部分が、開始点となって重合が進行し、グラフト重合体の側鎖の重合鎖が形成される。
【0083】
工程(3)で使用するビニルエーテル基含有化合物としては、ビニルエーテル基を含有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(2):
CH2=CR3-O-R4 (2)
(式中、R3及びR4は、上記式(1)と同じである。)
で表される化合物が挙げられる。
【0084】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-メトキシエチルビニルエーテル、2-エトキシエチルビニルエーテル、2-(エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、2-ビニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、温度応答性に優れたグラフト重合体が得られやすい点で、2-メトキシエチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルが好ましく挙げられる。これらは1種のみ使用してもよいし、2種以上使用してもよい。使用するビニルエーテル基含有化合物を種々変えることで、LSCT型、又は、UCST型の温度応答性ポリマーとすることができる。また、例えば、2-ビニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等を用いると、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する架橋性のポリマーを得ることができる。
【0085】
上記単量体成分は、更に、上述した構造単位(b)を与える他の単量体を含んでいてもよい。単量体成分に含まれる各単量体の量は、目的とする重合体の構成に応じて、適宜調整すればよいが、単量体成分100質量%中、上記式(2)で表される化合物の割合が10~100質量%であることが好ましい。より好ましくは、30~100質量%であり、更に好ましくは、50~100質量%である。
【0086】
工程(3)の反応は、分子量分布の小さいグラフト重合体が得られやすい点で、リビング重合であることが好ましく、リビングカチオン重合であることがより好ましい。
工程(3)の反応は、触媒の存在下で、反応重合物(Y)にビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分を重合することにより行うことができる。
【0087】
上記触媒としては、ルイス酸触媒が好ましく、例えば、BF3、BBr3、AlF3、AlBr3、TiCl4、TiBr4、FeCl3、FeCl2、SnCl4、WCl6、MoCl5、ZrCl4、SbCl3、SbCl5、TeCl2、GaCl3、又はZnCl2等の金属ハライド;Et2AlCl3、EtAlCl2、Et3Al2Cl3、(i-Bu)2AlCl、(i-Bu)AlCl2、Bu3SnCl等の金属アルキル化合物;トリスペンタフルオロフェニルボラン等が挙げられる。これらは1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、金属ハライドと金属アルキル化合物を組み合わせたものが好ましい。
【0088】
上記触媒の使用量は、工程(3)で使用するビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分1当量に対して、好ましくは0.001~1当量であり、より好ましくは0.01~0.5である。
【0089】
工程(3)の反応ではまた、副反応を抑制するために、テトラヒドロフランや2,6-ジ-tert-ブチルピリジン等を添加するのが好ましい。
上記反応においては、上述したもの以外の他の公知の添加剤を使用してもよい。
【0090】
工程(3)の反応は、溶媒中で行うことができる。上記溶媒としては、上述した工程(1)において使用される溶媒と同様のものが挙げられる。なかでも、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒がより好ましい。溶媒は1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0091】
工程(3)の反応条件としては、所望の反応が進行するのであれば特に限定されないが、例えば、好ましくは-40℃~70℃であり、より好ましくは-20℃~50℃であり、更に好ましくは-20℃~40℃である。
【0092】
上記グラフト重合体の製造方法は、上述のように、工程(1)~(3)を含むことが好ましいが、なかでも、ビニルエーテル基含有単量体として、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル系化合物を用いて重合する場合は、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル系化合物を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程(1)、該工程(1)で得られた重合物に、R5-COOH(R5は、炭素数1~12の炭化水素基を表す。)で表される化合物を反応させる工程(2)、及び、該工程(2)で得られた反応重合物に、ビニルエーテル基含有化合物を含む単量体成分を反応させてグラフト重合体を得る工程(3)を含むことが好ましい。このようなグラフト重合体の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0093】
上記グラフト重合体の製造方法は、上述した工程以外の他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法により行うことができる。
【0094】
3.用途
本発明のグラフト重合体は、温度応答性、特にLCST型の温度応答性に優れる。そのため、本発明のグラフト重合体は、温度応答性が必要とされる用途に好適に使用することができる。そのような用途としては、例えば、ドラックデリバリーシステム(DDS)、水処理剤、細胞培養容器等の用途が挙げられる。
また、側鎖に架橋性の官能基(例えば、(メタ)アクリロイル基等)を有する重合体とすることにより、硬化性に優れた材料とすることができ、塗料、コーティング、接着剤等の用途にも用いることができる。
【実施例0095】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
各実施例における重合体等の分析は以下のようにして行った。
<分子量測定>
(工程1及び工程2)
得られた重合物溶液を、テトラヒドロフランで溶解・希釈し、孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置、及び条件で測定した。
・装置:HLC-8020GPC(東ソー社製)
・溶出溶媒:テトラヒドロフラン
・標準物質:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・分離カラム:TSKgel SuperHM-M、TSKgel SuperH-RC(東ソー社製)
(工程3)
得られたグラフト重合体溶液を、クロロホルムで溶解・希釈し、孔径0.2μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置、及び条件で測定した。
・装置:HLC-8020GPC(東ソー社製)
・溶出溶媒:クロロホルム
・標準物質:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・分離カラム:TSKgel GMHHR-M(東ソー社製)
【0097】
<1H-NMR測定>
(工程1及び工程2)
装置:アジレント・テクノロジー社製核磁気共鳴装置(600MHz)
測定溶媒:重クロロホルム
サンプル調製:工程1又は2で得られた重合物の数mg~数十mgを測定溶媒に溶解した。
(工程3)
装置:JEOL社製核磁気共鳴装置(500MHz)
測定溶媒:重クロロホルム
サンプル調製:工程3で得られたグラフト重合体の数mg~数十mgを測定溶媒に溶解した。
【0098】
(実施例1)
ビニルエーテル基を側鎖に有する重合物(X1)の合成(工程1)
1Lのセパラブルフラスコにシクロペンチルメチルエーテル(CPME)(250g)、2.5mLのシクロペンチルメチルエーテルに溶解させたテトラブチルアンモニウムベンゾエート(45.4mg,0.125mmol)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(2.56mL,12.5mmol)を加えた。反応液を10℃まで冷却し、撹拌しながらアクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(146g,730mmol)とブチルメタクリレート(104g,730mmol)の混合物を30分かけて滴下した。3時間撹拌した後、少量のメタノールでクエンチし、ビニルエーテル基を側鎖に有する重合物(X1)のCPME溶液を得た。得られた重合物(X1)の分子量は、Mn(数平均分子量)=18358、Mw(重量平均分子量)=23876、Mw/Mn=1.301であった。重合物(X1)におけるアクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル由来の構造単位の含有割合は、重合物の全構造単位数に対して50%であり、ブチルメタクリレート由来の構造単位の含有割合は、重合物の全構造単位数に対して50%であった。
また、得られた重合物(X1)の
1H-NMRスペクトルを
図1に示す。
【0099】
反応重合物(Y1)の合成(工程2)
重合物(X1)のシクロペンチルメチルエーテル溶液(1g、固形分50質量%)と酢酸(0.2mL)を試験管に入れ、60℃にて終夜撹拌した。反応溶液に水を加え、トルエンで抽出した。トルエン含有有機層を水で分液洗浄し、シリカゲルショートカラムに通した後、濃縮することで、反応重合物(Y1)を得た。
得られた反応重合物(Y1)の分子量は、Mn=25470、Mw=42590、Mw/Mn=1.672であった。また、得られた反応重合物(Y1)の
1H-NMRスペクトルを
図1に示す。
図1より、重合物(X1)の側鎖のビニルエーテル基がすべてアセタール化されたことを確認した。
【0100】
グラフト重合体の合成(工程3)
重合は、三方活栓付きガラス試験管内で、乾燥窒素雰囲気下で行った。三方活栓付きガラス試験管は、予めヒートガン(熱風温度:約450℃)を用いて乾燥窒素下で10分間ベーキングし、窒素加圧下で冷却した後、常圧に戻して使用した。試薬の注入は全て注射器を用いて行った。ベーキング済み三方活栓付きガラス試験管に、トルエン(1.69mL)、工程2で得られた反応重合物(Y1)(2.2mMトルエン溶液,0.35mL)、THF(2.0Mトルエン溶液,0.35mL)、及び、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン(DTBP)(0.10Mトルエン溶液,0.18mL)を乾燥済みの注射器を用いて注入し、撹拌した後、窒素加圧下で0℃に冷却した。この溶液に0℃に予冷したEt
1.5AlCl
1.5溶液(0.25Mトルエン溶液、0.35mL)を加え、マグネティックスターラーを用いて約20分間撹拌した。その後、窒素加圧下で-20℃に冷却した。この溶液に、-20℃に予冷したSnCl
4溶液(0.15Mヘプタン/トルエン溶液,0.35mL)と2-メトキシエチルビニルエーテル(MOVE)(0.24mL)を加えることで重合を開始した。48時間後、少量のアンモニア水を含むメタノールを大過剰加えることで重合を停止した。
この反応混合物をジクロロメタンで希釈し、その後、希塩酸(約0.6N)で洗浄し、続いて水で洗浄した。さらに、水酸化ナトリウム水溶液(約0.6N)で洗浄し、中性になるまで水で洗浄した。生成ポリマーは、減圧下で揮発性物質を蒸発させることにより有機層から回収し、続いて少なくとも6時間真空乾燥した。得られたグラフト重合体の分子量はMn=111000、Mn=138000、Mw/Mn=1.24であった。
得られたグラフト重合体の
1H-NMRスペクトルを
図2に示す。
図2中、「分取前」とあるのは、工程3で得られたグラフト重合体であり、「分取後」とあるのは、温度応答性評価に供する前に、工程3で得られたグラフト重合体を分取GPCを用いて精製したものである。
【0101】
得られたグラフト重合体の温度応答性評価を下記の方法で行った。
(温度応答性評価)
0.1wt%の濃度のグラフト重合体の水溶液を調製し、温度を変化させながら透過率測定を2回行った。透過率は、温度調節器付きの紫外可視分光器(日本分光株式会社製JASCO-V-550、昇温・降温ともに1℃/1分)を用いて、波長500nmで、温度を可変することにより測定した。グラフト重合体の水溶液の温度に対する透過率の変化を示すグラフを
図3に示す。
図3中、(a)は測定1回目、(b)は測定2回目のグラフをそれぞれ示す。(c)は、1回目と2回目のグラフを重ねた図である。また図中の実線は昇温時、点線は降温度時の結果を示す。
図3より、得られたグラフト重合体は、測定1回目、2回目共に、65℃から70℃の間で急峻な透過率の変化が見られ、シャープな温度応答性を示した。
【0102】
また、高希釈条件下(グラフト重合体濃度0.01wt%、0.001wt%、及び、0.0001wt%)で同様の評価を行った。結果を
図4に示す。
図4より、高希釈条件下でも、ブロードな挙動ではあるが、温度応答性が確認された。