(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161712
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】構造物用コーティング剤および赤外線による計測システム
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241113BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241113BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241113BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241113BHJP
C09D 183/07 20060101ALI20241113BHJP
C09D 183/05 20060101ALI20241113BHJP
G01N 25/72 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C09D201/00
E01D22/00 A
E04G23/02
C09D7/61
C09D183/07
C09D183/05
G01N25/72 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076659
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】下井 信浩
(72)【発明者】
【氏名】山内 悠
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘
(72)【発明者】
【氏名】原崎 崇
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
2G040
4J038
【Fターム(参考)】
2D059GG02
2D059GG23
2D059GG39
2E176AA01
2E176BB38
2G040AA06
2G040AB12
2G040BA16
2G040BA25
2G040CA01
2G040DA06
2G040DA12
2G040EA01
2G040HA02
2G040HA06
2G040HA14
4J038DG101
4J038DG261
4J038DL041
4J038DL042
4J038DL111
4J038HA066
4J038KA04
4J038MA14
4J038NA17
4J038NA27
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】本発明は、コンクリート等からなる構造物の内部におけるクラック等の損傷をより簡便かつ高精度に検出することができ、かつ、当該構造物の耐久性を改善し得る構造物用コーティング剤を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂組成物と、外線により検出可能な金属粉末と、含む、構造物用コーティング剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂組成物と、
赤外線により検出可能な金属粉末と、
を含む、構造物用コーティング剤。
【請求項2】
前記金属粉末は、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、クローム、白金、スズおよび鉄からなる群から選択される1種以上の金属粉末を含む、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記金属粉末は、アルミニウム粉末を含む、請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
レーザー回折・散乱法により測定された、前記金属粉末の平均一次粒子径が、5~50μmの範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記コーティング剤は、前記コーティング剤の全量基準で0.1~10質量%の量で前記金属粉末を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
前記硬化性樹脂組成物は、硬化により、ゲル状またはエラストマー状の硬化物を形成する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項7】
前記硬化性樹脂組成物は、硬化により、JIS K 2220に規定される1/4ちょう度が10~150の範囲であるゲル状の硬化物を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項8】
前記硬化性樹脂組成物は、硬化により、JIS A硬度が20~90の範囲であるエラストマー状の硬化物を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項9】
前記硬化性樹脂組成物は、硬化性シリコーン樹脂組成物および硬化性ウレタン樹脂組成物からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項10】
前記硬化性樹脂組成物は、硬化性シリコーン樹脂組成物を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項11】
前記硬化性シリコーン樹脂組成物が、
(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)任意で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)硬化剤
を含む、請求項9または10に記載のコーティング剤。
【請求項12】
前記硬化性シリコーン樹脂組成物は、ヒドロシリル化硬化反応、縮合硬化反応、過酸化物硬化反応、光硬化反応および高エネルギー線硬化反応からなる群から選択される1種類以上の硬化反応により硬化する、請求項9~11のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項13】
構造物の損傷を検出するために用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【請求項14】
赤外線照射により前記検出を行う、請求項13に記載のコーティング剤。
【請求項15】
硬化性樹脂組成物と、
赤外線により検出可能な金属粉末と、
を含む構造物用コーティング剤の塗布により形成された硬化物を含む、構造物。
【請求項16】
硬化性樹脂組成物に分散された、赤外線により検出可能な金属粉末を含む構造物用コーティング剤を構造物の外部表面に塗布すること、および
前記構造物の外部表面を赤外線照射により撮像すること、
を含む、構造物の損傷の検出方法。
【請求項17】
前記撮像することが、固定または移動可能な赤外線カメラを用いて行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記撮像することが、有線もしくは無線で操作されるロボットもしくはドローン、または自動化されたロボットまたはドローンを用いて行われる、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
フーリエ変換により、前記撮像することにより得られた画像を解析することをさらに含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記解析することにより、構造物の損傷の有無、損傷の形状、損傷の大きさ、および損傷の深さからなる群から選択される1種以上の状態の解析を行う、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~14のいずれか一項に記載の構造物用コーティング剤の硬化物によりその外部表面が被覆されている構造物、
当該構造物の外部表面を赤外線照射により撮像する撮像手段、および
前記撮像により得られた画像を解析し、少なくとも構造物の損傷の有無を判定する判定手段、を備える、
構造物の健全性のモニタリングシステム。
【請求項22】
さらに、
画像情報および/または構造物の損傷の有無の判定結果を受信する受信手段、および
画像情報および/または構造物の損傷の有無の判定結果を表示する表示手段、
を備える、
請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記撮像手段が、
撮像した構造物の画像情報および位置情報を送信する有線または無線の通信手段、および
撮像した構造物の画像情報および位置情報を記憶する記憶手段、を備え、
前記判定手段により構造物の損傷が有りと判定された場合、前記表示手段は、損傷が検出された構造物の位置情報および/または損傷が検出された構造物における損傷エリアを表示する、
請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記撮像手段が、赤外線カメラを備えたロボットまたはドローンである、請求項21~23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記判定手段が、以前に同様の手法を用いて得られた撮像データに基づく機械学習により得た学習結果と、前記撮像手段により得られた画像とを自動的に対比することにより、前記構造物の損傷を検出する分析手段により自動化されている、請求項21~24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記判定手段が、フーリエ変換により、前記撮像手段により得られた画像を解析する画像解析手段を備える、請求項21~25のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項27】
前記画像解析手段は、構造物の損傷の有無、損傷の形状、損傷の大きさ、および損傷の深さからなる群から選択される1種以上の状態の解析を行う、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記構造物が、道路、鉄道、橋梁、トンネル、低層または高層建築物、風力タービン、堤防、ダムおよびパイプラインからなる群から選択される1種以上のインフラストラクチャーを含む、請求項15に記載の構造物、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法、または請求項21~28のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物用コーティング剤および赤外線による計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル、橋およびトンネル等の建物、構造物およびインフラストラクチャー(以下、これらを「構造物」と総称する)は、建設から数十年経過しているものが多く存在し、今後、このような構造物の老朽化はさらに進行すると予想されている。そのため、構造物の健全性を確認または評価するモニタリング技術の開発は、社会的に極めて重要な意義を有する。
従来、構造物の健全性評価および補修の必要性を判定する検査方法として、作業者がテストハンマーによる擦過音を聴覚で診断する打診検査や音響試験、目視による検査等により、例えば、壁面タイルの剥離の危険性等を判定する方法が行われてきた。
しかしながら、打診検査や目視検査は、作業者の長年の経験の有無、構造物周辺の騒音等による検査精度のばらつきという問題を抱えていた。また、構造物周辺の環境によっては、作業者の安全性確保という点も問題になり得る。さらに、少子高齢化を含む社会構造の変化に伴い、検査を担う人員、構造物の製造や建設に当たる人員等の十分な確保はますます困難となることが予測される。
【0003】
特許文献1には、蛍光体と、シリコーン系オリゴマー又はシリコーン系オリゴマーとオリゴエステルアクリレートとの混合物と、重合開始剤とを含むことを特徴とする重合性蛍光シール剤が開示されている。
また、特許文献2には、X線造影能力をもつ炭酸セシウム水溶液を混入したことを特徴とするコンクリートのひび割れの補修材が開示されている。
このように、構造物の補修の必要性を評価することを目的として、蛍光体やX線造影剤を用いて構造物のクラックを検出することが知られている。しかし、これらの方法は、無人で、簡便かつ高精度に実施できるものではない。また、多数かつ広範囲に設置された構造物を、無人で、AI等を用いて点検する技術として普及し得るものでもない。これは、道路、鉄道、橋梁、トンネル、低層または高層建築物、風力タービン、堤防、ダムおよびパイプライン等の構造物の保守管理に実装するに当たり、コスト、作業時間および人員不足等の課題を依然として抱えているためである。
【0004】
このような背景から、構造物の健全性の管理において、自動化や省力化は、検査精度の向上という観点のみならず、今後の社会全体における持続可能性という観点でも必須の技術要素になると考えられる。とりわけ、壁面検査用ロボットやドローンを用いた検査に対応可能な技術が、社会実装の観点から求められている。
そして、構造物の健全性のモニタリング技術の開発に加え、構造物自体の長寿命化や耐久性向上も強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-219869号公報
【特許文献2】特開平7-139190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンクリート等からなる構造物の内部におけるクラック等の損傷をより簡便かつ高精度に検出することができる構造物用コーティング剤を提供する。また、本発明は、当該構造物の耐久性を改善し得る構造物用コーティング剤も提供する。
さらに、本発明は、当該構造物用コーティング剤の塗布により形成された硬化物を含む構造物、構造物の損傷の検出方法、および構造物の健全性のモニタリングシステムも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
より具体的には、本発明は、以下の態様を提供する。
[1]硬化性樹脂組成物と、
赤外線により検出可能な金属粉末と、
を含む、構造物用コーティング剤。
[2]前記金属粉末 は、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、クローム、白金、スズおよび鉄からなる群から選択される1種以上の金属粉末を含む、[1]に記載のコーティング剤。
[3]前記金属粉末は、アルミニウム粉末を含む、[1]または[2]に記載のコーティング剤。
[4]レーザー回折・散乱法により測定された、前記金属粉末の平均一次粒子径が、5~50μmの範囲である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[5]前記コーティング剤は、前記コーティング剤の全量基準で0.1~10質量%の量で前記金属粉末を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[6]前記硬化性樹脂組成物は、硬化により、ゲル状またはエラストマー状の硬化物を形成する、[1]~[5]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[7]前記硬化性樹脂組成物は、硬化により、JIS K 2220に規定される1/4ちょう度が10~150の範囲であるゲル状の硬化物を形成する、[1]~[6]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[8]前記硬化性樹脂組成物は、硬化により、JIS A硬度が20~90の範囲であるエラストマー状の硬化物を形成する、[1]~[6]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[9]前記硬化性樹脂組成物は、硬化性シリコーン樹脂組成物および硬化性ウレタン樹脂組成物からなる群から選択される1種以上を含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[10]前記硬化性樹脂組成物は、硬化性シリコーン樹脂組成物を含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[11]前記硬化性シリコーン樹脂組成物が、
(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)任意で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)硬化剤
を含む、[9]または[10]に記載のコーティング剤。
[12]前記硬化性シリコーン樹脂組成物は、ヒドロシリル化硬化反応、縮合硬化反応、過酸化物硬化反応、光硬化反応および高エネルギー線硬化反応からなる群から選択される1種類以上の硬化反応により硬化する、[9]~[11]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[13]構造物の損傷を検出するために用いられる、[1]~[12]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
[14]赤外線照射 により前記検出を行う、[13]に記載のコーティング剤。
[15]硬化性樹脂組成物と、
赤外線により検出可能な金属粉末と、
を含む構造物用コーティング剤の塗布により形成された硬化物を含む、構造物。
[16]硬化性樹脂組成物に分散された、赤外線により検出可能な金属粉末を含む構造物用コーティング剤を構造物の外部表面に塗布すること、および
前記構造物の外部表面を赤外線照射により撮像すること、
を含む、構造物の損傷の検出方法 。
[17]前記撮像することが、固定または移動可能な赤外線カメラを用いて行われる、[16]に記載の方法。
[18]前記撮像すること が、有線もしくは無線で操作されるロボットもしくはドローン、または自動化されたロボットまたはドローンを用いて行われる、[16]または[17]に記載の方法。
[19]フーリエ変換により、前記撮像することにより得られた画像を解析することをさらに含む、[16]~[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20]前記解析することにより、構造物の損傷の有無、損傷の形状、損傷の大きさ、および損傷の深さからなる群から選択される1種以上の状態の解析を行う、[19]に記載の方法。
[21][1]~[14]のいずれか一項に記載の構造物用コーティング剤の硬化物によりその外部表面が被覆されている構造物、
当該構造物の外部表面を赤外線照射により撮像する撮像手段、および
前記撮像により得られた画像を解析し、少なくとも構造物の損傷の有無を判定する判定手段、を備える、
構造物の健全性のモニタリングシステム 。
[22]さらに、
画像情報および/または構造物の損傷の有無の判定結果を受信する受信手段、および
画像情報および/または構造物の損傷の有無の判定結果を表示する表示手段、
を備える、
[21]に記載のシステム。
[23]前記撮像手段が、
撮像した構造物の画像情報および位置情報を送信する有線または無線の通信手段、および
撮像した構造物の画像情報および位置情報を記憶する記憶手段、を備え、
前記判定手段により構造物の損傷が有りと判定された場合、前記表示手段は、損傷が検出された構造物の位置情報および/または損傷が検出された構造物における損傷エリアを表示する、
[22]に記載のシステム。
[24]前記撮像手段が、赤外線カメラを備えたロボットまたはドローンである、[21]~[23]のいずれか一項に記載のシステム。
[25]前記判定手段が、以前に同様の手法を用いて得られた撮像データに基づく機械学習により得た学習結果と、前記撮像手段により得られた画像とを自動的に対比することにより、前記構造物の損傷を検出する分析手段により自動化されている、[21]~[24]のいずれか一項に記載のシステム。
[26]前記判定手段が、フーリエ変換により、前記撮像手段により得られた画像を解析する画像解析手段を備える、[21]~[25]のいずれか一項に記載のシステム。
[27]前記画像解析手段は、構造物の損傷の有無、損傷の形状、損傷の大きさ、および損傷の深さからなる群から選択される1種以上の状態の解析を行う、[26]に記載のシステム。
[28]前記構造物 が、道路、鉄道、橋梁、トンネル、低層または高層建築物、風力タービン、堤防、ダムおよびパイプラインからなる群から選択される1種以上のインフラストラクチャーを含む、[15]に記載の構造物、[16]~[20]のいずれか一項に記載の方法、または[21]~[28]のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、コンクリート等からなる構造物の内部におけるクラック等の損傷をより簡便かつ高精度に検出することができる構造物用コーティング剤を提供できる。また、本発明の一態様によれば、当該構造物の耐久性を改善し得る構造物用コーティング剤も提供できる。さらに、本発明の一態様によれば、当該構造物用コーティング剤の塗布により形成された硬化物を含む構造物、構造物の損傷の検出方法、および構造物の健全性のモニタリングシステムも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例で用いた試験体の構造の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例で用いた試験体A、BおよびCの写真または概略図である。
【
図3】
図3は、実施例で用いた圧力試験機、試験体並びに赤外線カメラおよび可視光カメラの写真である。
【
図4】
図4は、パッシブ計測による熱画像解析の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、破壊試験後の試験体Bを赤外線カメラおよび可視光カメラを用いて撮像した画像である。
【
図6】
図6は、鉄筋の歪と発熱の関係の評価に用いた器具の概略図および試験系の概念図である。
【
図7】
図7は、破壊試験時の試験体内部の歪と鉄筋の発熱の関係並びに圧力と試験体表面の歪および温度の計測結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の一態様の構造物の健全性のモニタリングシステムの概念図である。
【
図9】
図9は、本発明の一態様の構造物の健全性のモニタリングシステムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
【0011】
1.構造物用コーティング剤
本発明は、構造物用コーティング剤(構造物用コーティング組成物)を提供する。本発明の構造物用コーティング剤は、硬化性樹脂組成物と、赤外線により検出可能な金属粉末(以下、「金属粉末」と称することもある)と、を含む。
本発明の一態様の構造物用コーティング剤は、構造物の損傷を検出するために用いられる。また、本発明の一態様の構造物用コーティング剤は、赤外線照射により前記検出を行う。
本明細書において、「構造物」は、道路、鉄道、橋梁、トンネル、低層または高層建築物、風力タービン、堤防、ダムおよびパイプライン等のインフラストラクチャーを含むが、これらに限定されず、接合部を有する任意の構造物であってよい。なお、構造物には、土木構造物および建築構造物が共に含まれ、本発明は、そのいずれにも適用可能である。
本明細書において、「構造物の損傷」は、構造物の内部または外部に生じた裂け、ひび割れ、亀裂等のクラック(crack)、浮き(float)または剥離、剥落、欠損、および腐食等を含むが、これらに限定されず、構造物のいかなる欠陥をも包含する。
【0012】
1.1 硬化性樹脂組成物
本発明で用いる硬化性樹脂組成物は、液状で塗布(コーティング)可能であって、硬化により、その硬化物からなる硬化層を構造物の表面に形成することができるものである。また、当該硬化性樹脂組成物は、後述する金属粉末のバインダーとしての機能を有する。
本発明の一態様の硬化性樹脂組成物は、硬化により、ゲル状またはエラストマー状の硬化物を形成する。このような性質を有する硬化性樹脂組成物を用いることで、構造物表面にその硬化層が形成され、構造物自体の強度や耐久性を効果的に向上させることができる。加えて、構造物の補修性の向上、構造物表面の剥落および落下の予防、等の実益もある。特に、ゲル状の硬化物(例えば、後述する低架橋密度のオルガノポリシロキサン硬化物)は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、および電気絶縁性等に優れ、低弾性率且つ低応力であるため、特に好適である。
なお、本明細書において「ゲル状」とは、JIS K 2220に規定される1/4ちょう度が測定可能であり、かつ、そのモジュラスが103~105Paの範囲にある硬化物の形態である。
また、本明細書において「エラストマー状」とは、JIS A硬度が測定可能であるか、JIS A硬度の測定上限を超える硬さを有する硬化物の形態であり、例えばJIS D硬度を測定可能な硬化物を含む。
さらに、硬化によりゲル状またはエラストマー状を呈する硬化性樹脂組成物を用いることで、構造物にクラック等の損傷が生じた際、ゲル状またはエラストマー状の樹脂あるいは液状の樹脂成分が損傷部に浸透あるいは自重により破損部内に侵入して損傷部の空隙が充填され、塗工後に生じた損傷に対しても雨水等の浸入を防止し得る。これは、構造物の劣化の抑止、構造物内部の鉄筋の腐食(鉄筋の浮きを含む)の防止といった効果をもたらす。
また、硬化によりゲル状またはエラストマー状を呈する硬化性樹脂組成物を用いることで、後述する赤外線カメラを用いた撮像を行う際、撮像する箇所を事前に加熱または温度管理する工程を省略することができる。これは、ゲルまたはエラストマーの保温効果によるものである。すなわち、例えば、本発明の一態様の硬化性樹脂組成物は、太陽光等で暖められた構造物壁面の熱を保温できるため、事前の加熱なしに赤外線カメラを用いた撮像を行うことができる。
このように、本発明の一態様の硬化性樹脂組成物は、構造物の劣化等の予防、赤外線カメラを用いた撮像の効率性等の点で利点を有する。
なお、同硬化性樹脂組成物を用いて得られるコーティング層は、保温効果のみならず、内部の熱を遮蔽する点で保冷効果を有する。例えば、ビルディングの壁面に本硬化性樹脂組成物を塗布した場合、冷暖房の熱の拡散を防止し、省エネ効果を副次的に向上させるものである。
【0013】
本発明の一態様の硬化性樹脂組成物が形成する、ゲル状の硬化物は、好ましくは、JIS K 2220に規定される1/4ちょう度が10~150の範囲である。当該1/4ちょう度は、10~130、20~130、または、20~100の範囲であってもよい。
本発明の一態様の硬化性樹脂組成物が形成する、エラストマー状の硬化物は、好ましくは、JIS A硬度が20~90の範囲である。当該硬度は、20~80、20~60、または、20~40の範囲であってもよい。
【0014】
本発明の一態様の硬化性樹脂組成物は、硬化性シリコーン樹脂組成物および硬化性ウレタン樹脂組成物からなる群から選択される1種以上を含む。
以下、本発明の硬化性樹脂組成物の一態様である、硬化性シリコーン樹脂組成物および硬化性ウレタン樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0015】
1.1.1 硬化性シリコーン樹脂組成物
本発明の一態様の硬化性樹脂組成物は、硬化性シリコーン樹脂組成物を含む。硬化性シリコーン樹脂組成物は、1種単独であってもよく、2種以上を任意の比率で混合したものであってもよい。また、硬化性シリコーン樹脂組成物は、異なる硬化系のものを任意の比率で混合したものであってもよい。異なる硬化系の樹脂を2種以上併用することで、1段階硬化だけでなく、2段階以上の経時的な硬化反応により硬化物(半硬化状態を含む)を提供することができる。
【0016】
また、本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、少なくとも1種の非硬化性シロキサンポリマーを含んでもよく、当該非硬化性シロキサンポリマーは、25℃において、1~1,000,000mPa・sの範囲の粘度または可塑度(粘度にすると1,0,000,000mPa・sを超えるもの)を有するものであってよく、好ましくは10~10,000mPa・sの範囲、より好ましくは100~5,000mPa・sの範囲、さらに好ましくは500~3,000mPa・sの範囲の粘度を有する。当該非硬化性シロキサンポリマーは、例えば、トリメチルシロキシ末端またはシラノール末端を有するジメチルポリシロキサン等であってよい。なお 、本明細書において、粘度(mPa・s)は、室温(25℃)においてJIS K7117-1に準拠した回転粘度計を使用して測定した値を意味する。同様に、可塑度とは、JIS K 6249に規定される方法に準じて測定された値(25℃、4.2gの球状試料に1kgfの荷重を3分間かけたときの厚さを1/100mmまで読み、この数値を100倍したもの)を意味するものであり、本発明においては、可塑度が50~200の範囲にある生ゴム状の非硬化性シロキサンポリマーを用いてもよい。
【0017】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、1液型のパッケージであってもよく、主剤と架橋剤/硬化剤成分等を2以上のパッケージに分けた多成分(多液)型の硬化性シリコーン樹脂組成物であってもよい。例えば、本発明の一態様で用いる硬化性シリコーン樹脂組成物は、ダウ・東レ株式会社から市販されているDOWSILTM CY 52-276 gel(A&B)であってよい。
【0018】
また、本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、その硬さ、強度および耐久性の経時的な劣化防止や環境汚染の予防、周辺で使用される電気的設備の接点障害の防止の見地から、揮発性の低分子量成分(M4Q構造体や揮発性の環状シロキサン等の低分子量のシロキサンオリゴマー)を各構成原料または組成物全体として除去していてもよい。なお、除去の程度は任意であるが、硬化剤を除いた硬化性シリコーン樹脂組成物またはその構成成分を高温(例えば、200℃)で1時間曝露した際の質量減少率が5質量%未満、好適には2質量%未満である場合、揮発性のシロキサンオリゴマーは概ね除去されている。
【0019】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、25℃における粘度が100~20,000mPa・sの範囲であってよく、好ましくは200~4,500mPa・sの範囲であり、より好ましくは300~4,000mPa・sの範囲である。なお、組成物全体の粘度範囲は、各成分の種類の選択ならびにその含有量および/または含有量比等により設計可能である。特に、本発明にかかる構造物用コーティング剤の全体粘度は、上記の硬化性樹脂組成物と金属粉末の含有量等により、設計可能である。
【0020】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、25℃における貯蔵弾性率が103~106Paの範囲であってよく、好ましくは103~105Paの範囲である。
【0021】
上述したように、ゲル状の硬化物(例えば、低架橋密度のオルガノポリシロキサン硬化物)は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性および電気絶縁性等に優れ、低弾性率且つ低応力であるため、特に好適である。一般的に、ゲル状硬化物(以下、「シリコーンゲル」ということがある)は、架橋密度の比較的低いオルガノポリシロキサン架橋物であり、ゲルに求められる柔軟性、低弾性率、低応力および応力緩衝性の見地から、シリコーンゲルの損失係数tanδ(粘弾性測定装置より、周波数 0.1Hzにて測定されるもの)が、23℃~100℃において、0.01~1.00の範囲であってよく、23℃において、0.03~0.95、0.10~0.90等の範囲であってもよい。
【0022】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物の構成は、特に制限されないが、例えば、主剤である硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、硬化系により、任意で架橋剤(例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサン)および硬化剤を含む。すなわち、本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、
(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)任意で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)硬化剤
を含んでなる。
【0023】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化反応機構は、特に限定されるものではないが、例えば、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子によるヒドロシリル化反応硬化型;シラノール基および/またはケイ素原子結合アルコキシ基による脱水縮合反応硬化型、脱アルコール縮合反応硬化型等の縮合反応硬化型;有機過酸化物の使用による過酸化物反応硬化型;紫外線照射による光反応硬化型;およびメルカプト基等に対する高エネルギー線照射による高エネルギー線反応硬化型(ラジカル反応硬化型)等が挙げられる。これらの硬化反応は、加熱、高エネルギー線の照射またはこれらの組み合わせにより進行する。
中でも、比較的速やかに全体が硬化し、反応を容易にコントロールできることから、ヒドロシリル化反応硬化型、過酸化物反応硬化型、高エネルギー線反応硬化型、およびこれらの組み合わせであることが好ましく、少なくともヒドロシリル化反応硬化型であることがより好ましい。
【0024】
硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、上記の硬化反応性基は、少なくともアルケニル基を含み、好ましくは炭素数2~10のアルケニル基を含む。炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基等が挙げられる。炭素数2~10のアルケニル基は、好ましくは、ビニル基である。
【0025】
同様に、硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、硬化性シリコーン樹脂組成物は、架橋剤としてSi-H結合を分子中に2以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むことが好ましい。この場合、オルガノポリシロキサンのアルケニル基がオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子とヒドロシリル化反応して、硬化物を形成することができる。その際、後述するヒドロシリル化反応触媒を用いる必要がある。
【0026】
本発明の一態様において、硬化反応は、例えば100℃以下、好適には80℃以下、より好適には70℃以下の低温加熱硬化反応で行うことが好ましい。当該硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、光活性型白金錯体硬化触媒等を用いた高エネルギー線照射を行ってもよく、低温で当該硬化反応を十分に進行させず、架橋密度の低いゲル状の硬化物を形成させてもよい。
【0027】
硬化反応が脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型である場合、上記の硬化反応性基は、シラノール基(Si-OH)またはケイ素原子結合アルコキシ基を含む。 アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1~10のアルコキシ基が好適に例示される。当該アルコキシ基は、オルガノポリシロキサンの側鎖または末端に結合してもよく、他の官能基を介してケイ素原子に結合したアルキルアルコキシシリル基またはアルコキシシリル基含有基の形態であってもよい。
さらに、当該硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型の官能基以外に、他の硬化機構による硬化反応性基を同一分子内に有していてもよく、例えば、ケイ素原子結合アルコキシ基またはシラノール基に加えて、ヒドロシリル化反応性の官能基または光重合性の官能基を同一分子内に有してもよい。
なお、過酸化物硬化反応においては、硬化反応性の官能基は不要であるので、有機過酸化物を含む脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型の硬化性シリコーン樹脂組成物を用いて、縮合反応によりゲル状の硬化物を形成させてよく、さらに、当該硬化物を加熱等により有機過酸化物等のその他の硬化剤で二次硬化させてもよい。
【0028】
特に、硬化反応性基としてケイ素原子結合アルコキシ基を選択する場合、当該硬化反応性基は、下記一般式で表されるアルコキシシリル基含有基が好ましい。
【化1】
式中、R
1は、それぞれ独立に、同一のまたは異なる、脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基を表し、メチル基またはフェニル基が好ましい。
R
2は、それぞれ独立に、アルキル基を表し、脱アルコール縮合反応性のアルコキシ基を構成するため、メチル基、エチル基またはプロピル基が好ましい。
R
3は、それぞれ独立に、ケイ素原子に結合するアルキレン基を表し、炭素数2~8のアルキレン基が好ましい。
aは、0~2の整数を表し、pは、1~50の整数を表す。脱アルコール縮合反応性の見地から、好適には、aは0であり、トリアルコキシシリル基含有基であることが好ましい。なお、上記のアルコキシシリル基含有基に加えて、ヒドロシリル化反応性の官能基または光重合反応性の官能基を同一分子内に有してもよい。
【0029】
硬化反応が脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型である場合、上記の架橋剤は不要であるが、例えば、多段階で硬化反応を進行させるため、一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含んでいてもよい。
【0030】
脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型である場合、硬化剤として、縮合反応触媒を用いることが好ましい。当該縮合反応触媒は、特に制限されないが、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物;その他、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸性化合物;アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等のアミン系化合物であってよい。
【0031】
硬化反応が過酸化物硬化反応である場合、上記の硬化反応性基は、過酸化物によるラジカル反応性の官能基であればよく、アルキル基、アルケニル基、アクリル基、ヒドロキシル基等の過酸化物硬化反応性官能基を制限なく用いることができる。ただし、過酸化物硬化反応は、一般に、150℃以上の高温で進行するため、高温硬化可能な構造物に適用することが好ましい。
【0032】
硬化反応が高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型である場合、上記の硬化反応性基は、光重合性官能基であり、3-メルカプトプロピル基等のメルカプトアルキル基、ヒドロシリル化硬化反応で述べたものと同様のアルケニル基、またはN-メチルアクリルアミドプロピル等のアクリルアミド基であってよい。ここで、高エネルギー線を照射する条件は特に限定されず、例えば、空気中、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中または真空中で、硬化性シリコーン樹脂組成物を室温(例えば、20~25℃)下、冷却しながら、または50~150℃に加熱しながら照射する方法が挙げられる。中でも、空気中かつ室温下で照射することが好ましい。
また、一部の光重合性官能基は、空気に接触することで硬化不良を起こすことがあるので、高エネルギー線照射の際には、任意で、高エネルギー線を透過する合成樹脂フィルム等を用いて硬化性シリコーン樹脂組成物の表面を被覆してもよい。
ここで、波長280~450nm、好適には波長350~400nmの紫外線を用いて、室温で硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させた場合、硬化物層に、他の加熱を伴う硬化系、特にヒドロシリル化硬化反応または過酸化物硬化反応の硬化反応性基および硬化剤を未反応で残存させてもよい。この場合、二次硬化反応として、加熱硬化反応を選択することで、多段階で本発明の一態様の構造物用コーティング剤を速硬化できる利点がある。
【0033】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物は、
(A)上述した硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)硬化反応に応じて、任意で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、および
(C)硬化剤
を含有する、硬化性シリコーン樹脂組成物から形成される。
ここで、硬化性シリコーン樹脂組成物中の各成分の含有量は、硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、当該組成物中の(A)成分中のアルケニル基の総和を1モルとした場合、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.25モル以上であることが好ましく、0.26モル以上がより好ましい。
【0034】
また、本発明の一態様の上記硬化物を形成する硬化反応にヒドロシリル化硬化反応が含まれる場合、当該硬化性シリコーン樹脂組成物は、
(A-1)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、および
(A-2)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する、樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン
を含むことが好ましい。
【0035】
(A-1)成分は、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンである。(A-1)成分の室温における性状は、オイル状または生ゴム状であってもよく、(A-1)成分の粘度は、25℃において50mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましい。特に、硬化性シリコーン樹脂組成物が溶剤型である場合、(A-1)成分は、25℃において100,000mPa・s以上の粘度を有するか、または、可塑度を有する生ゴム状であることが好ましい。なお、より低粘度の(A-1)成分であっても利用可能である。
【0036】
(A-1)成分は、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、および、分子鎖両末端メチルビニルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等であってよい。
【0037】
(A-2)成分は、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する、樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであるが、特に、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する樹脂状の硬化反応性オルガノポリシロキサン(オルガノポリシロキサンレジン)が好ましい。
(A-2)成分は、例えば、R2SiO2/2単位(D単位)及びRSiO3/2単位(T単位)(式中、Rは、互いに独立して、一価有機基または水酸基)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン;T単位単独からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン;並びにR3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン;であってよい。
特に、R3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するレジン(MQレジンとも呼ばれる)を使用することが好ましい。なお、水酸基または加水分解性基は、レジン中のT単位またはQ単位等のケイ素に直接結合しており、原料となるシラン由来またはシランが加水分解した結果、生じた基である。
【0038】
(A-1)成分および(A-2)成分の硬化反応性官能基は、同一の硬化反応機構に関する官能基であってもよく、異なる硬化反応機構に関する官能基であってもよい。また、(A-1)成分および(A-2)成分の硬化反応性官能基は、同一分子内において異なる2種以上の硬化反応機構に関する官能基であってもよい。例えば、(A-1)成分または(A-2)成分は、光重合性官能基および/またはヒドロシリル化反応性の官能基と、縮合反応性の官能基を同一分子内に有するオルガノポリシロキサンであってよく、その構造は、(A-1)成分においては直鎖状であり、(A-2)成分においては樹脂状または分岐鎖状である。一次硬化反応または二次硬化反応のいずれかにおいてヒドロシリル化反応を用いる場合、(A-2)成分を含むことが好ましく、当該(A-2)成分は、異なる2種以上の硬化反応機構に関する官能基を有する樹脂状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0039】
(A-2)成分は、ヒドロシリル化反応性基、および/または、高エネルギー線照射もしくは有機過酸化物の存在下で加熱した場合にラジカル反応性基を有する樹脂状オルガノポリシロキサンが好ましい。具体的に、(A-2)成分は、例えば、トリオルガノシロキシ単位(M単位)(オルガノ基はメチル基のみ、メチル基とビニル基またはフェニル基である)、ジオルガノシロキシ単位(D単位)(オルガノ基はメチル基のみ、メチル基とビニル基またはフェニル基である)、モノオルガノシロキシ単位(T単位)(オルガノ基はメチル基、ビニル基、またはフェニル基である)及びシロキシ単位(Q単位)の任意の組み合わせからなるMQ樹脂、MDQ樹脂、MTQ樹脂、MDTQ樹脂、TD樹脂、TQ樹脂、およびTDQ樹脂等であってよい。
【0040】
(B)成分は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、任意の架橋成分または分子鎖延長成分である。(B)成分は、硬化反応性官能基がアルケニル基であり、硬化剤がヒドロシリル化反応触媒を含む場合に含有することが好ましい。(B)成分は、Si-H結合を分子中に2以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。なお、(A)成分中の硬化反応性官能基(例えば、アルケニル基)に対する、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の含有量(物質量比)、(C)成分の量、および後述する硬化遅延剤の種類等を最適化することにより、所望の硬さ、ポットライフ(可使時間)を制御することができる。
【0041】
(B)成分は、例えば、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物等を含む。
本発明の一態様において、(B)成分は、25℃における粘度が1~500mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体であってよい。なお、(B)成分として、樹脂状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンレジンを含んでもよい。
【0042】
(C)成分は硬化剤であり、以下のヒドロシリル化反応触媒、有機過酸化物および光重合開始剤から選ばれる1種以上の硬化剤を含む。
【0043】
ヒドロシリル化反応用触媒は、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒を含み、硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。当該白金系触媒は、例えば、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、およびこれらの白金系触媒を、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂で分散またはカプセル化した触媒であってよい。
その中でも、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましい。当該アルケニルシロキサンは、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンであってよい。
特に、当該白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。
なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒が挙げられる。
【0044】
加えて、本発明の一態様で用いる硬化剤は、熱可塑性樹脂で分散またはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒であってよい。このようなカプセル化した硬化剤を用いることにより、従来の取扱作業性および組成物のポットライフの改善という利点に加え、硬化反応性シリコーンゲルの保存安定性の改善およびその硬化反応の温度によるコントロール性という利点が得られる。
【0045】
本発明の一態様において、加熱以外にも、紫外線等の高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する光活性型白金錯体硬化触媒等のヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。当該ヒドロシリル化反応触媒は、β-ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体であってよい。具体的に、当該ヒドロシリル化反応触媒は、例えば、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(2,4-ペンタンジオネ-ト)白金錯体、トリメチル(3,5-ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5-ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ-1,5-ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、及び(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体からなる群から選ばれる白金錯体であってよい。
【0046】
高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する硬化剤を用いた場合、加熱操作を行うことなく、硬化性シリコーン樹脂組成物を原料として、硬化物(硬化層)の形成を進行させることができる。
【0047】
ヒドロシリル化反応用触媒の含有量は、硬化性シリコーン樹脂組成物全体を100質量部としたとき、金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量、0.01~100ppmの範囲内となる量、または、0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0048】
有機過酸化物は、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類、および過酸化カーボネート類であってよい。
【0049】
過酸化アルキル類は、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、tert-ブチルクミル、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、および3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナン等であってよい。
【0050】
過酸化ジアシル類は、例えば、tp-メチルベンゾニルパーオキサイド等のベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、およびデカノイルパーオキサイド等であってよい。
【0051】
過酸化エステル類は、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシル-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、tert-アミルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、およびジ-ブチルパーオキシトリメチルアディペート等であってよい。
【0052】
過酸化カーボネート類は、例えば、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、およびジミリスチルパーオキシジカーボネート等であってよい。
【0053】
当該有機過酸化物は、半減期が10時間である温度が70℃以上であるものが好ましく、当該温度は90℃以上または95℃以上であってもよい。当該有機過酸化物は、例えば、p-メチルベンゾニルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ-(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、および3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナン等であってよい。
【0054】
有機過酸化物の含有量は、特に制限されないが、硬化性シリコーン樹脂組成物全体を100質量部としたとき、0.05~10質量部の範囲内、または0.10~5.0質量部の範囲内であることが好ましい。
【0055】
光重合開始剤は、紫外線や電子線などの高エネルギー線照射によりラジカルを発生する成分であり、例えば、アセトフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノンおよびその誘導体;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル等のベンゾインおよびその誘導体;ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノンおよびその誘導体;p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、アゾイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ジフェニルスルファイド、アントラセン、1-クロロアントラキノン、ジフェニルジスルファイド、ジアセチル、ヘキサクロロブタジエン、ペンタクロロブタジエン、オクタクロロブタジエン、1-クロロメチルナフタリン;ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィナート、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドが挙げられ、好ましくは、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾフェノン、およびこれらの誘導体等であってよい。
【0056】
当該光重合開始剤の配合量は、好ましくは、硬化性シリコーン樹脂組成物全体を100質量部としたとき、0.1~10質量部の範囲内である。
【0057】
なお、本発明の一態様のシリコーンゲルが硬化剤として光重合開始剤を含有する場合、当該シリコーンゲルは、任意の成分として、例えば、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s-ベンジルイソチウロニウム-p-トルエンスルフィネート、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の光増感剤を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、本発明の技術的効果を損なわない範囲において、上記成分以外の成分を含むことができる。そのような任意成分として、具体的に、例えば、硬化遅延剤;接着付与剤;ポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のオルガノポリシロキサン;フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、またはチオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系またはベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、またはアンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;染料;顔料;補強性フィラー;熱伝導性フィラー;誘電性フィラー;電気伝導性フィラー;離型性成分などが挙げられる。また、後述する赤外線増感剤、撥水剤、浸水防止剤等の任意の添加剤を含んでもよい。
【0059】
特に、補強性フィラーは、本発明の構造物用コーティング剤に機械的強度を付与し、チクソ性を改善し得る成分であり、硬化物の機械的強度、保型性および表面離型性等をさらに改善できる場合がある。当該補強性フィラーは、例えば、ヒュームドシリカ微粉末、沈降性シリカ微粉末、焼成シリカ微粉末、ヒュームド二酸化チタン微粉末、石英微粉末、炭酸カルシウム微粉末、ケイ藻土微粉末、酸化アルミニウム微粉末、水酸化アルミニウム微粉末、酸化亜鉛微粉末、炭酸亜鉛微粉末等の無機質充填剤であってよい。
これらの無機質充填剤は、メチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン、トリメチルクロロシラン等のオルガノハロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン、α,ω-シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルフェニルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー等のシロキサンオリゴマー等の処理剤により表面処理された無機質充填剤であってもよい。
【0060】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化遅延剤として、ヒドロシリル化反応抑制剤を配合することが好ましい。当該ヒドロシリル化反応抑制剤は、具体的には、例えば、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のアルケニル基含有低分子量シロキサン;メチル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン、ビニル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン等のアルキニルオキシシランであってよい。
硬化遅延剤の含有量は、硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、質量単位で、10~10000ppmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
本発明の一態様の硬化性シリコーン樹脂組成物は、接着付与剤として、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有する有機ケイ素化合物を配合することが好ましい。当該アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基等であってよく、メトキシ基が好ましい。
また、有機ケイ素化合物中のアルコキシ基以外のケイ素原子に結合する基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基;3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基;3,4-エポキシブチル基、7,8-エポキシオクチル基等のエポキシアルキル基;3-メタクリロキシプロピル基等のアクリル基含有一価有機基;水素原子等であってよい。
当該有機ケイ素化合物は、硬化性シリコーン樹脂組成物中のアルケニル基またはケイ素原子結合水素原子と反応し得る基を有することが好ましく、具体的には、ケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を有することが好ましい。
また、各種の基材に対して良好な接着性を付与できることから、有機ケイ素化合物は、一分子中に少なくとも1個のエポキシ基含有一価有機基を有するものであることが好ましい。このような有機ケイ素化合物は、例えば、オルガノシラン化合物、オルガノシロキサンオリゴマー、アルキルシリケート等であってよい。当該オルガノシロキサンオリゴマーまたはアルキルシリケートの分子構造は、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、または網状であってよく、中でも、直鎖状、分枝鎖状、または網状であることが好ましい。
有機ケイ素化合物は、具体的に、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン化合物;一分子中にケイ素原子結合アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子、およびケイ素原子結合アルコキシ基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物、ケイ素原子結合アルコキシ基を少なくとも1個有するシラン化合物またはシロキサン化合物と一分子中にケイ素原子結合ヒドロキシ基とケイ素原子結合アルケニル基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物との混合物、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート、エポキシ基含有エチルポリシリケート等であってよい。
また、接着付与剤は低粘度液状であることが好ましく、その粘度は、25℃において1~500mPa・sの範囲内であることが好ましい。また、接着付与剤の含有量は、硬化性シリコーン樹脂組成物100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0062】
補強性フィラー、硬化遅延剤および接着付与剤は、混合時の均一分散性の見地から、硬化性シリコーン樹脂組成物の調製時に配合することが好ましい。
【0063】
1.1.2 硬化性ウレタン樹脂組成物
本発明の一態様の硬化性樹脂組成物は、硬化性ウレタン樹脂組成物を含む。硬化性ウレタン樹脂組成物は、1種単独であってもよく、2種以上を任意の比率で混合したものであってもよい。本発明の一態様の硬化性ウレタン樹脂組成物は、活性水素基含有化合物と過剰のポリイソシアネートが大気中の水分存在下で反応して硬化する1液型のパッケージであってもよく、ポリイソシアネートと活性水素基含有化合物とを、使用前に任意の比率で混合することにより硬化させる2液型パッケージであってもよい。本発明の一態様においては、硬化速度の調整が容易である2液型の硬化性ウレタン樹脂組成物が好ましい。
【0064】
ポリイソシアネートは、一分子中に2以上のイソシアネート基を有する。当該ポリイソシアネートは、特に制限されないが、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4'-または4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-トルイジンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;
1,3-または1,4-キシリレンジイソシアネートなどの芳香環含有脂肪族ジイソシアネート;
トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-または、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート;
1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジイソシアネート;および
これらのジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、二量体、三量体など、通常のポリウレタン樹脂の製造に使用されるポリイソシアネートであってよい。また、ポリイソシアネートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
活性水素基含有化合物は、特に制限されないが、例えば、ポリアミン、ポリオールであってよい。なお、一般的に、活性水素基含有化合物としてポリアミンを主に使用し、ウレア結合を主体として活性水素基含有化合物とポリイソシアネートとの結合がなされた硬化性樹脂をウレア樹脂、活性水素基含有化合物としてポリオールを主に使用し、ウレタン結合を主体として活性水素基含有化合物とポリイソシアネートとの結合がなされた硬化性樹脂をウレタン樹脂として呼び分ける場合があるが、本明細書において、両者は特に区別せず硬化性ウレタン樹脂組成物と総称する。
【0066】
ポリアミンは、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリオキシアルキレンポリアミンなどの脂肪族ポリアミン;
イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、水添キシリレンジアミンなどの脂環式ポリアミン;
キシリレンジアミンなどの芳香環含有脂肪族ポリアミン;
3,5-ジエチル-2,4-ジアミノトルエン、3,5-ジエチル-2,6-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、1,1'-ジクロロ-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジクロロ-4.4'-ジアミノジフェニルメタン、1,1',2,2'-テトラクロロ-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、1,3,5-トリエチル-2,6-ジアミノベンゼン、3,3',5,5'-テトラエチル-4,4'-ジアミノジフェニル-メタン、N,N'-ビス(t-ブチル)-4,4'-ジアミノジフェニル-メタン、ジ(メチルチオ)トルエンジアミンなどの芳香族ポリアミンであってよい。
【0067】
ポリオールは、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、アルカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、アルカン-1,2-ジオール、水素化ビスフェノールA、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、2,6-ジメチル-1-オクテン-3,8-ジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、キシレングリコール、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどの低分子ジオール;
グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジヒドロキシ-3-ヒドロキシメチルペンタン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-3-ブタノール、および炭素数8~24の脂肪族トリオールなどの低分子トリオール;
ペンタエリスリトールなどの1分子中に4つ以上の水酸基を有する低分子ポリオール;
ジエチレングリコール、ジペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパンなど、上記低分子ジオール、上記低分子トリオール、および上記1分子中に4つ以上の水酸基を有する低分子ポリオールをそれぞれ分子間で脱水縮合して得られる多価アルコールエーテル;
テトラヒドロフランの開環重合によって得られるポリテトラメチレングリコール;
ひまし油などの天然油脂ポリオール;
ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどのポリオレフィンポリオール、およびこれらの水素添加物などであってよい。
これらの活性水素基含有化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
1.2 金属粉末
本発明で用いる金属粉末は、赤外線により検出可能な性質を有するものであればよい。当該性質を有する金属粉末を含有することで、本発明の構造物用コーティング剤は、赤外線カメラを用いた撮像によって、構造物の損傷を簡便かつ高精度に検出することができる。理論に拘束されるものではないが、硬化性樹脂組成物中に分散された金属粉末が重力によってクラック等の損傷箇所に流れ、当該箇所に蓄積されることで、赤外線カメラによる温度差の検出が可能となる。その結果、肉眼では視認が難しいような微細な損傷も、赤外線カメラを用いた撮像によって高精度に検出することができる。
本発明の一態様の金属粉末は、反射率が高い金属を原料とするものであることが好ましい。反射率の高い金属を用いることで、屋外環境における紫外線の曝露による硬化性樹脂組成物の劣化を予防または低減することができる。
当該金属粉末は、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、クローム、白金、スズおよび鉄からなる群から選択される1種以上であってよい。その中でも、原料の調達が比較的容易である等の観点から、金属粉末は、アルミニウム粉末を含むことが好ましい。また、上記の金属粉末は、一部が金属酸化物の形態であってもよい。
【0069】
本発明の一態様の金属粉末は、レーザー回折・散乱法により測定された平均一次粒子径が、5~50μmの範囲であることが好ましく、5~30μmの範囲であることがより好ましく、10~25μmの範囲であることがさらに好ましい。
当該平均一次粒子径が上記範囲の金属粉末を用いることで、硬化性樹脂組成物への分散性を向上させることができ、構造物用コーティング剤としての機能を良好に維持することができる。
【0070】
本発明の一態様の金属粉末の配合量は特に制限されるものではないが、構造物用コーティング剤の全量に対し、0.1~10質量%の範囲であることが好ましく、0.5~8.0質量%の範囲であることがより好ましく、0.5~5.0質量%の範囲であることがさらに好ましく、1.0~3.0質量%の範囲であることが特に好ましい。
金属粉末の配合量を上記範囲とすることで、硬化性樹脂組成物への分散性を向上させることができ、構造物用コーティング剤としての機能を良好に維持することができる。また、金属粉末の配合量を前記下限以上とすれば、赤外線による検出精度を向上させることができる。
なお、金属粉末の配合量の前記上限は、金属粉末の配合量を10質量%を超える量に設定することを妨げるものではない。金属粉末の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で、10質量%超に設計してもよい。
【0071】
1.3 赤外線増感剤/赤外線イメージング剤
本発明の一態様の構造物用コーティング剤は、公知の赤外線増感剤や赤外線イメージング剤をさらに含んでもよい。赤外線増感剤または赤外線イメージング剤は、例えば、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、ジインモニウム化合物、アゾ化合物等であってよい。その中でも、シリコーンとの相性の観点から、フタロシアニン系およびシアニン系化合物から選択される1種以上が好ましい。
また、本発明の一態様の構造物用コーティング剤は、ヨウ素系添加剤を含んでもよい。これにより、紫外線によるコーティングの劣化防止を図ることができる他、可視光による撮像でも劣化検出が可能になる。
【0072】
1.4 任意成分
本発明の一態様の構造物用コーティング剤は、土木または建築の分野において汎用されている他の成分を任意に含むことができる。当該他の成分は、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、撥水剤、浸水防止剤、AE剤(空気連行剤)、減水剤(好ましくはAE減水剤、特に高性能AE減水剤)、防水剤、耐水剤、消泡剤、養生剤、離型剤、収縮低減剤、表面美観向上剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、セルフレベリング剤、塗料、表面補修材、増粘剤、膨張剤、防錆材、無機繊維、有機繊維、有機高分子、シリカヒューム、フライアッシュ、および高炉スラグ微粉末等であってよい。
【0073】
2.構造物用コーティング剤の製造方法
本発明の構造物用コーティング剤の製造方法は特に制限されず、例えば、上記「1.1硬化性樹脂組成物」および上記「1.2金属粉末」で説明した本発明の一態様の硬化性樹脂組成物、金属粉末、および、必要に応じて、その他の添加剤を、均一に攪拌する工程を有する方法であってよい。攪拌する工程で用いる機器等は特に制限されず、例えば、均一な混合を目的とする機械的な攪拌手段(ミキサー等)を用いることができる。なお、本発明の一態様の構造物用コーティング剤は、一液型の形態であってもよく、複数の分液パッケージからなる多液型の組成物であってもよい。
【0074】
3.構造物
本発明は、本発明の一態様の構造物用コーティング剤の塗布により形成された硬化物を含む、構造物を提供する。当該硬化物は、構造物の外部表面において、当該硬化物からなる硬化層を形成してもよい。なお、当該硬化物に含まれる、硬化性樹脂組成物および金属粉末については、上記「1.1 硬化性樹脂組成物」および上記「1.2 金属粉末」の説明が本態様にも当てはまる。また、構造物の具体例は、上記「1.構造物用コーティング剤」で説明したとおりである。
【0075】
構造物への構造物用コーティング剤の塗布の方法は特に制限されず、刷毛塗り、ローラーブラシ塗装、へら塗り等の手作業であってもよく、ポンプによる噴射式散布、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装等の機器作業であってもよく、静電塗装、電着塗装、粉体塗装等の装置作業であってよい。これらの中でも、接合部への塗布の施工性の観点から、刷毛塗りが好ましいがこれに限定されるものではない。また、予め調製したゲル状またはエラストマー状の硬化物を剥離性積層体の形態で構造物に貼り付けることで、硬化層を形成してもよい。
【0076】
硬化物または硬化層の厚みは、例えば0.1~10mmの範囲であってよく、0.1~8mmの範囲が好ましく、0.5~5mmの範囲がより好ましい。
【0077】
4.構造物の損傷の検出方法
本発明は、構造物の損傷の検出方法を提供する。本発明の方法は、硬化性樹脂組成物に分散された、赤外線により検出可能な金属粉末を含む構造物用コーティング剤を構造物の外部表面に塗布すること、および前記構造物の外部表面を赤外線照射により撮像すること、を含む。
前記硬化性樹脂組成物および前記金属粉末については、上記「1.1 硬化性樹脂組成物」および上記「1.2 金属粉末」の説明が本態様にも当てはまる。また、構造物の具体例は、上記「1.構造物用コーティング剤」で説明したとおりである。また、構造物用コーティング剤を構造物の外部表面に塗布する方法、および、硬化物または硬化層の厚みは、上記「3.構造物」の説明が本態様にも当てはまる。
【0078】
本発明の一態様において、構造物の外部表面に照射する赤外線は、波長1~14μmの赤外線であってよい。また、本発明の一態様で照射する赤外線は、波長1~2.3μmの近赤外線であってもよく、波長3~5μmの中赤外線であってもよく、波長8~14μmの遠赤外線であってもよい。
【0079】
本発明の一態様において、撮像に用いるカメラは固定または移動可能な赤外線カメラが好ましい。本明細書において、赤外線カメラは、物体から放射される赤外線を可視化できるものを指し、その種類は特に制限されず、サーモグラフィカメラ、サーマルカメラ等の既知の赤外線カメラから目的に応じて適宜選択することができる。
また、赤外線カメラを固定または移動可能にする手段も特に制限されず、既知の手段を採用することができる。また、移動の方向も特に制限されず、任意の方向に移動可能な手段を採用してもよい。
【0080】
本発明の一態様において、赤外線カメラを用いた撮像は、有線もしくは無線で操作されるロボットもしくはドローン、または自動化されたロボットまたはドローンに搭載された赤外線カメラを用いて行ってもよい。これにより、多数かつ広範囲に設置された構造物を、効率的に点検することができる。さらに、自動化されたロボットまたはドローンを採用することで、撮像自体を無人で実施することができ、作業人員の不足等の社会問題の解決に寄与し得る。なお、ロボットは、特に限定されないが、例えば、壁面検査用ロボットおよび壁面移動ロボットを含む。
【0081】
本発明の一態様の方法は、フーリエ変換により、前記撮像することにより得られた画像を解析することをさらに含んでもよい。フーリエ変換の手法は、離散フーリエ変換(DFT)、高速フーリエ変換(FFT)等であってよい。また、本発明の一態様の方法は、フーリエ変換処理により得たフーリエ変換画像を解析することにより、構造物の損傷の有無、損傷の形状、損傷の大きさ、および損傷の深さからなる群から選択される1種以上の状態の解析を行うことを含む。
これらの解析は、フーリエ変換処理が可能なコンピュータ等を用いて実施することができる。また、有限要素法解析(FEM)との対比により、損傷の予測を行う処理を組み合わせてもよい。
【0082】
5.構造物の健全性のモニタリングシステム
本発明は、構造物の健全性のモニタリングシステムを提供する。本発明のモニタリングシステムは、本発明の一態様の構造物用コーティング剤の硬化物によりその外部表面が被覆されている構造物、当該構造物の外部表面を赤外線照射により撮像する撮像手段、および前記撮像により得られた画像を解析し、少なくとも構造物の損傷の有無を判定する判定手段、を備える。
本明細書において、「健全性」とは、地震等による力(加速度)や、経年劣化、表面からの水の浸透等の要因により、建築物等の構造物の強度が低下しても、構造物が破損(倒壊)せずに存在し得る状態をいい、例えば、振動、風、太陽光等の外部からの力が作用したとしても、構造物の破損(倒壊)のおそれがない状態をいう。
【0083】
次に、
図8~9を参照して、本発明の一態様のモニタリングシステムをより詳細に説明する。
図8において、構造物1は、本発明の一態様の構造物であり、当該構造物の説明は、上記「3.構造物」の説明が本態様にも当てはまる。また、ドローン2は、赤外線カメラを備えたロボットまたはドローンの一例であり、
図9に示すように、撮像手段21を有する。赤外線カメラ、および、ロボットまたはドローンについては、上記「4.構造物の損傷の検出方法」の説明が本態様にも当てはまる。コンピュータ3は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphical Processing Unit)等の演算装置、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、ディスプレイ、種々の入出力装置等を備えた、PC等の一般的なコンピュータ装置を利用することができる。
【0084】
ドローン2は、撮像した画像情報(GPS等の位置情報を含む。以下同じ)を、判定手段31を備えるコンピュータ3等の機器に送信する有線または無線の通信手段22を備えることが好ましい。また、ドローン2は、撮像した画像情報を一時的に記憶する記憶手段23を備えることが好ましい。
また、図示しないが、ドローン2(またはロボット)自体が判定手段31を備える構成とすることもできる。この場合、ドローン2(またはロボット)は、通信手段22により、構造物の損傷の有無等の判定結果を外部のコンピュータ3等の機器に送信する。また、この場合、ドローン2(またはロボット)は、後述する分析手段32および画像解析手段33も備えることが好ましい。
【0085】
コンピュータ3は、判定手段31を備えている。コンピュータ3は、以前に同様の手法を用いて得られた撮像データに基づく機械学習により得た学習結果と、前記撮像手段により得られた画像とを自動的に対比することにより、前記構造物の損傷を検出する分析手段32により自動化されていることが好ましい。分析手段32は、蓄積した大量の学習データを用いて、深層学習等の機械学習に基づくアルゴリズムによって、構造物の損傷の有無等の判定を行う機能を有する。
【0086】
また、コンピュータ3は、フーリエ変換により、撮像手段21により得られた画像を解析する画像解析手段33を備えることが好ましい。フーリエ変換については、上記「4.構造物の損傷の検出方法」で説明したとおりである。また、画像解析手段33は、構造物の損傷の有無、損傷の形状、損傷の大きさ、および損傷の深さからなる群から選択される1種以上の状態の解析を行うアルゴリズムが設定されていることが好ましい。
これらの構成を備えるコンピュータを用いることで、撮像した構造物の画像情報に基づき、構造物の損傷の有無等をコンピュータ上で自動的に判定することが可能となる。ドローンまたはロボットがこれらの構成を備える場合、外部コンピュータを用いることなく、当該ドローンまたはロボットのみで構造物の損傷の有無等を自動的に判定することが可能となる。
【0087】
また、コンピュータ3は、ドローン2から送信された画像情報および/または構造物の損傷の有無等の判定結果を受信する受信手段34を備えることが好ましい。また、コンピュータ3は、ドローン2が撮像した画像情報および/または構造物の損傷の有無等の判定結果を表示する表示手段35を備えることが好ましい。表示手段35は、さらに、点検を行った構造物の位置情報を表示することが好ましい。ここでいう位置情報は、構造物が位置する場所だけでなく、後述するように、点検を行った点検エリア、損傷が検出された損傷エリアを含む。
【0088】
ここで、上述したように、ドローン2は、撮像した構造物の画像情報として、位置情報を併せて取得することが好ましい。この場合、例えば、コンピュータ3は、ドローン2から送信された当該位置情報を記憶し、当該位置情報に基づいて、健全性の点検を行った構造物の管理を行うように設定してもよい。
また、位置情報を利用した構造物の健全性の管理方法の一例として、図示しないが、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、ある一つの構造物(または複数の構造物からなる構造物群)について、予め領域を区切って領域ごとに番号付け等の方法により識別を行い、当該構造物における点検エリアを複数に分ける(例えば、S1、S2、S3、等)。この際、コンピュータは、各点検エリアの識別番号と位置情報とを紐づけて記憶することが好ましい。そして、コンピュータは、ドローン等に点検を行うべき点検エリアの識別番号および位置情報を送信する。そして、ドローン等は、当該情報を受信した後、当該情報に基づき、点検エリアの構造物の撮像を行う。
これにより、構造物の点検を自動化でき、かつ、点検を行った構造物の管理を効率化することができる。
また、点検を行う構造物が、特定の事業者等により設置された構造物である場合、当該事業者によって付された標識等を予めコンピュータに入力および記憶することで、上記と同様の操作を行うことができ、好ましい。
さらに、構造物の管理上の基準となる識別ポイントには、金属反射板(リフレクター)やバーコード、QRコード(登録商標)、RFIDタグ等の標識を設置することが好ましく、これらを計測情報に追加する/撮像情報に付加することにより、高精度での損傷個所の特定及び管理が可能になる実益がある。
【0089】
本発明の一態様のモニタリングシステムは、これらの構成を備えることで、多数かつ広範囲に設置された構造物を、無人で、かつ自動的に点検することが可能となり、作業人員の不足等の社会問題の解決に寄与し得る。
【実施例0090】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0091】
<試験系の検討>
赤外線サーモグラフィ法の原理に基づき、屋内における赤外線カメラの計測時に大気温度と試験体の温度に大幅な差が生じない場合は、ハロゲンランプ等を用いて試験体の表面加熱を実施した。これにより、試験体の内部と表面に温度差が生じ、クラックや浮きの計測が可能となる。
しかし、野外においては、外気の温度や測定対象物の材質や色彩、分光反射率の影響および測定距離などの影響を受けることが予想される。そのため、本実施例では、これらの影響を考慮した上で、アルミニウム粉末を添加した硬化性シリコーン樹脂組成物(硬化によりゲル状を呈する)を含む構造物用コーティング剤を試験体表面に塗布し、当該硬化性シリコーン樹脂組成物のゲルによる保温効果とコンクリート等の劣化の予防工を兼ねた赤外線熱画像解析技術を検討した。
【0092】
<試験系の構築>
試験体のサイズは300×400×1000 mmであり、
図1に示すように、鉄筋にかぶり厚さ2 cmの普通コンクリートを用いて作製した。試験体の上部と下部に与える強度の影響を計測するために、コンクリート支柱の欠陥を模して試験体には作為的にφ 65 mmの通し穴を開けた。
図2(A)および(B)に、試験体AおよびBの形状をそれぞれ示す。試験体Aにおける通し穴の位置は、試験体の中心から下方235 mmの縦方向中心線より左側(
図2(A))、試験体Bにおける通し穴の位置は、試験体中心から上方235 mmの縦方向中心線より右側(
図2(B))とした。両試験体AおよびBの正面の上部300 mmを除いた表面全体に、構造物用コーティング剤を約0.1 mmの厚さで塗布した。また、試験体Cは、通し穴をあけていない試験体であり、
図2(C)に示す番号の箇所の表面温度の測定を行った。
使用した構造物用コーティング剤は、硬化性樹脂組成物として、硬化によりゲル状を呈する硬化性シリコーン樹脂組成物(CY52-276、ダウ・東レ製)を用い、レーザー回折・散乱法により測定された平均一次粒子径が10~20 μmのアルミニウム粉末を約1 %加えたものである。この樹脂は、紫外線に強く、時間経過による塗膜硬化もなく、ゲル状の性質は保つが保水性がないものである。なお、使用時には、1液および2液を等分混合後、約1時間の硬化時間を要した。
【0093】
<実験および結果>
(1)パッシブ計測による熱画像解析の検討
表面加熱の有無による熱画像への影響を比較するために、試験体Aの背面からカーボンヒータDC-S097(山善)を用いて900Wで約20分間加熱し、さらに約30分経過した後に破壊試験を実施した。コンクリートの熱伝導率は1.6 W/m・Kであり、空気の熱伝導率0.026 W/m・Kと比較すると約61.05倍であることから、大気中の熱伝導を考慮して測定時間を決定した。破壊試験においては、圧力試験機(
図3)を用いて、約20分間、最大圧力220 kNを上部から試験体に与えて実施した。
なお、試験体の表面温度は、熱電対を用いて、(1)正面上端から下方へ50 mmの中心、(2)正面上端から下方へ250 mmの中心、(3)背面上端から50 mmの中心、(4)背面上端から250 mmの中心の4カ所で同時に計測した。
図4(a)に、加熱を実施したパッシブ計測による試験体Aの温度変化、
図4(b)に、加熱なしの常温状態で実施したパッシブ計測による試験体Bの計測結果を示す。試験開始から終了までの熱電対による試験体の裏面と表面における温度変化は、試験体Aでは4.0 ℃,試験体Bでは0.6 ℃であった。
(2)予防工の施工評価
両試験体AおよびBの正面上部300mmを除く下面全体の表面に構造物用コーティング剤を約0.1 mmの厚さで塗布した後、破壊試験を実施し、構造物用コーティング剤を塗布した部位と塗布していない部位の損傷および破片の落下状態等について観察した。
図5(a)に、破壊試験終了後の試験体Bの赤外線カメラによる熱画像を示す。
図5(b)は、可視光のデジタルカメラによる試験体Bの画像であり、赤外線カメラと同時間に同一箇所を記録したものである。なお、
図5(a)および(b)ともに、加圧後の経過時間は同じである。各図中、右方向から斜め下に発生するせん断力と上部から付加された圧力によって「クラック」と「浮き」が生成したことが分かる。特に、コーティングが施された試験体下部では、圧縮破壊によるコンクリート片の飛散や崩れ抑止されていること(
図5(a))、および可視光カメラでは発見困難な「浮き」の状態を赤外線カメラによる計測では計測可能であること(
図5(b)矢印)が確認できた。
なお、赤外線カメラは日本アビオニクス製AVIO R450 seriesを使用し、可視光のデジタルカメラはSONY製HDR-PJ670を使用した。また、試験体Aの写真は省略したが、試験体Bと同様の結果が確認された。
(3)鉄筋の歪と発熱の関係の評価
太平洋セメント社のひずみ計測システムWIMOを用いて、試験体C内の歪と発熱を計測した。試験体Cは、
図2の試験体AおよびBと同形状、同サイズであり、内部の鉄筋鋼支柱φ13 × 900 mmの中央部にRFIDひずみ計測センサWIMO-SSN-1390を固定した後にコンクリートを打ち込んで作製した。また、試験体Cは、試験体AおよびBとは異なり、欠損部(通し穴)はなく健全な状態である。
図6(a)に、試験体C内部に固定したRFIDひずみ計測センサ、
図6(b)に、ひずみ計測システムによる計測方法を示す。本装置は、コンクリート内の温度と歪の計測結果を試験体の表面からリーダライタで受信しPCで解析する。本実験においては圧縮破壊試験時の試験体内の鉄筋支柱の歪と変形による発熱の関係を920MHz帯の電波測定によって記録した。
図7(a)に破壊試験時の試験体内部の歪と鉄筋の発熱、
図7(b)に、圧力と試験体表面の歪および温度の計測結果を示す。試験体内部にある鉄筋の圧力による発熱が試験体表面の放射熱を計測する熱画像カメラにどのような影響を与えるかを計測したが、赤外線カメラによる画像に影響を及ぼすような発熱は得られなかったことが証明された。
本発明の構造物用コーティング剤の塗布により形成された硬化物(硬化層)を備えた構造物は、その補修性、構造物の剥落防止性(耐久性)の改善に加えて、赤外線カメラを用いた撮像による内部クラック等の検出性を備える。赤外線カメラを用いた当該構造物の検査方法は、音響法等より高精度であり、かつ、既存のX線検出法や蛍光体による検出法等より簡易かつ短時間に実施できる。また、赤外線カメラを用いた検査方法は、赤外線カメラによる撮像のみで構造物の劣化の有無を迅速かつ高精度に点検し得るため、多数かつ広範囲な構造物、特に、有人検査が困難な構造物の点検を実現し得る。また、当該検査方法は、社会実装および商業的普及が容易であり、かつ、高層建築物や、洋上風力発電設備に使用される風力タービン等の有人点検が困難なインフラ設備に対しても適用可能である。 また、本発明にかかる構造物用コーティング剤は、予防工としての機能性コーティング/塗装としての効果の他、内部の熱を遮蔽するため、いわゆる建造物の省エネルギー効果にも資するものである。