(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161717
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】熱輸送構造体
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20241113BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20241113BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C22C1/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076672
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 崇
(72)【発明者】
【氏名】西木 直巳
(72)【発明者】
【氏名】桑原 涼
【テーマコード(参考)】
4K020
5F136
【Fターム(参考)】
4K020AA24
4K020AC01
5F136BC03
5F136BC06
5F136FA02
5F136FA23
5F136FA75
5F136FA82
5F136FA88
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グラファイトと金属材料とを複合化して、銅よりも高い熱伝導率と、アルミニウムよりも低い比重とを両立する熱輸送構造体を提供する。
【解決手段】熱輸送構造体1が、グラファイト積層体3と、グラファイト積層体3における一対のベーサル面と一対のエッジ面とを囲むように、グラファイト積層体3を内部空間に収容する金属体2と、を備える。グラファイトプレートは、ベーサル面方向の熱伝導率が1000W/m・K以上1500W/m・K以下である。熱輸送構造体は、長手方向における熱伝導率が400W/m・K以上であり、比重が2.7以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のグラファイトプレートが積層された構造を有し、長手方向において第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部とを有するグラファイト積層体と、
長手方向に延びる内部空間を有し、少なくとも前記第1端部と前記第2端部との間において、前記グラファイト積層体における一対のベーサル面と前記一対のベーサル面を接続する一対のエッジ面とを囲むように、前記グラファイト積層体を前記内部空間に収容する金属体と、を備える熱輸送構造体であって、
前記グラファイトプレートはベーサル面方向の熱伝導率が1000W/m・K以上1500W/m・K以下であり、
前記長手方向における前記熱輸送構造体の熱伝導率が400W/m・K以上であり、前記熱輸送構造体は比重が2.7以下である、熱輸送構造体。
【請求項2】
前記グラファイト積層体は、厚さが0.01mm以上0.5mm以下の前記グラファイトプレートが前記ベーサル面にて複数積層された構造を有する、請求項1に記載の熱輸送構造体。
【請求項3】
前記グラファイト積層体を囲む部分における前記金属体の厚みは1mm以上50mm以下である、請求項1に記載の熱輸送構造体。
【請求項4】
前記グラファイト積層体は、比重が1.0以上2.2以下である、請求項1に記載の熱輸送構造体。
【請求項5】
前記熱輸送構造体における前記グラファイト積層体の体積比率が20%以上である、請求項1に記載の熱輸送構造体。
【請求項6】
前記金属体が前記グラファイト積層体を囲む部分において、前記金属体の内表面と前記グラファイト積層体の前記ベーサル面または前記エッジ面とが、前記金属体と前記グラファイト積層体との間の界面を構成する、請求項1に記載の熱輸送構造体。
【請求項7】
前記金属体は前記内部空間に連通された第1開口および第2開口を有し、前記グラファイト積層体の前記第1端部が前記第1開口より露出し、前記グラファイト積層体の前記第2端部が前記第2開口より露出する、請求項1から6のいずれか1つに記載の熱輸送構造体。
【請求項8】
前記内部空間と連通する開口が前記金属体に設けられ、前記第1端部と前記第2端部との間における前記グラファイト積層体の一部が前記開口から露出する、請求項1から6のいずれか1つに記載の熱輸送構造体。
【請求項9】
前記グラファイト積層体の前記長手方向と直行する平面において、前記熱輸送構造体は多角形または円形の断面形状を有する、請求項1から6のいずれか1つに記載の熱輸送構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体デバイス、車載デバイス、電子機器などから効率よく熱を輸送して、機器の発熱による不具合の発生を抑制し、機器の機能を維持向上させる熱輸送構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の大量かつ高速な通信の需要に伴い、半導体デバイス、車載デバイス、電子機器などは、その高い出力に起因してデバイスの一部や周辺が高温となることにより発生する機能低下あるいは停止を回避することが求められている。従来、銅製のヒートスプレッダやアルミニウム製の放熱フィンなどを用いて、発生した熱をデバイスから基板や筐体に伝搬・放熱させる工夫がなされている。これらの熱伝達および放熱の材料として金属や炭化物などの熱伝導率の高い材料が使用されている。
【0003】
結晶性グラファイトは金属材と比べても高い熱伝導率を有するため、熱輸送材としての活用が期待されている。しかしながら、結晶性グラファイトは面方向(ベーサル面方向)と厚さ方向とに強い異方性があり、熱伝導や強度において面方向と厚さ方向で数十倍以上の特性の差異があるため、結晶性グラファイトを単体で活用することが難しい。このような結晶性グラファイトを熱輸送材として活用するために、結晶性グラファイトの熱伝導性を損なわないような高い熱伝導率を有する金属と結晶性グラファイトとを複合化することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1では、炭素粒子入りスラリーをアルミニウムや銅などの金属箔に塗工して乾燥させ金属箔―炭素粒子積層体を作製し、この積層体をロール状に巻き取り、押出機で押出成形することで、金属―炭素粒子複合体を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の複合体では、熱伝導率の高い炭素材料が粒子状にて用いられており、隣り合う炭素粒子同士が接触するように複合体内部で配置することが困難である。そのため、特許文献1の複合体は意図する方向の熱伝導率を向上させるには至らない。
【0007】
従って、本開示の目的は、上述の課題を解決することにあって、グラファイトと金属材料とを複合化して、銅(熱伝導率:398W/mK、比重:8.9)よりも高い熱伝導率を有し、アルミニウム(熱伝導率:237W/mK、比重:2.7)よりも小さい比重とを両立した熱輸送構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本開示の熱輸送構造体は以下のように構成する。
【0009】
本開示の一の態様にかかる熱輸送構造体は、グラファイト積層体と金属体とを備える。グラファイト積層体は、複数のグラファイトプレートが積層された構造を有し、長手方向において第1端部と第1端部とは反対側の第2端部とを有する。金属体は、長手方向に延びる内部空間を有し、少なくとも第1端部と第2端部との間において、グラファイト積層体における一対のベーサル面とこの一対のベーサル面を接続する一対のエッジ面とを囲むように、グラファイト積層体を内部空間に収容する。グラファイトプレートはベーサル面方向の熱伝導率が1000W/m・K以上1500W/m・K以下であり、長手方向における熱輸送構造体の熱伝導率が400W/m・K以上であり、熱輸送構造体は比重が2.7以下である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、グラファイトと金属材料とを複合化して、銅よりも高い熱伝導率と、アルミニウムよりも小さい比重とを両立する熱輸送構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一の実施の形態にかかる熱輸送構造体の外観図
【
図5】実施の形態の熱輸送構造体の製造工程の模式説明図
【
図6】実施例および比較例の熱輸送構造体の評価結果
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の第1態様の熱輸送構造体は、複数のグラファイトプレートが積層された構造を有し、長手方向において第1端部と第1端部とは反対側の第2端部とを有するグラファイト積層体と、長手方向に延びる内部空間を有し、少なくとも第1端部と第2端部との間において、グラファイト積層体における一対のベーサル面とこの一対のベーサル面を接続する一対のエッジ面とを囲むように、グラファイト積層体を内部空間に収容する金属体と、を備える。グラファイトプレートはベーサル面方向の熱伝導率が1000W/m・K以上1500W/m・K以下であり、長手方向における熱輸送構造体の熱伝導率が400W/m・K以上であり、熱輸送構造体は比重が2.7以下である。
【0013】
本開示の第2態様の熱輸送構造体は、第1態様の熱輸送構造体において、グラファイト積層体は、厚さが0.01mm以上0.5mm以下のグラファイトプレートがベーサル面にて複数積層された構造を有する。
【0014】
本開示の第3態様の熱輸送構造体は、第1態様または第2態様の熱輸送構造体において、グラファイト積層体を囲む部分における金属体の厚みは1mm以上50mm以下である。
【0015】
本開示の第4態様の熱輸送構造体は、第1態様から第3態様のいずれか1つの熱輸送構造体において、グラファイト積層体は、比重が1.0以上2.2以下である。
【0016】
本開示の第5態様の熱輸送構造体は、第1態様から第4態様のいずれか1つの熱輸送構造体において、熱輸送構造体におけるグラファイト積層体の体積比率が20%以上である。
【0017】
本開示の第6態様の熱輸送構造体は、第1態様から第5態様のいずれか1つの熱輸送構造体において、金属体がグラファイト積層体を囲む部分において、金属体の内表面とグラファイト積層体のベーサル面またはエッジ面とが、金属体とグラファイト積層体との間の界面を構成する。
【0018】
本開示の第7態様の熱輸送構造体は、第1態様から第6態様のいずれか1つの熱輸送構造体において、金属体は内部空間に連通された第1開口および第2開口を有し、グラファイト積層体の第1端部が第1開口より露出し、グラファイト積層体の第2端部が第2開口より露出する。
【0019】
本開示の第8態様の熱輸送構造体は、第1態様から第7態様のいずれか1つの熱輸送構造体において、内部空間と連通する開口が金属体に設けられ、第1端部と第2端部との間におけるグラファイト積層体の一部が開口から露出する。
【0020】
本開示の第9態様の熱輸送構造体は、第1態様から第8態様のいずれか1つの熱輸送構造体において、グラファイト積層体の長手方向と直行する平面において、熱輸送構造体は多角形または円形の断面形状を有する。
【0021】
(実施の形態)
以下に本開示の実施の形態について図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0022】
<全体構成>
図1は、本開示の実施の形態における熱輸送構造体1の外観図である。
図2は熱輸送構造体1のX-Z断面図であり、
図3は熱輸送構造体1のY-Z断面図である。
【0023】
図1から
図3に示すように、熱輸送構造体1は、金属体2とグラファイト積層体3とを備え、グラファイト積層体3は金属体2により内包されている。
図1において、金属体2およびグラファイト積層体3における長手方向がY方向であり、X方向はY方向に直交する方向であり、Z方向はX方向およびY方向に直交する方向である。
【0024】
グラファイト積層体3は、長手方向において第1端部31と、第1端部31とは反対側の第2端部32とを有する。グラファイト積層体3は、複数のグラファイトプレート4が積層された構造を有する。グラファイトプレート4はベンゼン環が縮合した平面が層状に重なった構造を有しており、ベンゼン環縮合平面がベーサル面5となり、ベーサル面5に直交する面がエッジ面(ノンベーサル面)6となっている。
【0025】
グラファイト積層体3は、それぞれのグラファイトプレート4のベーサル面5同士が向かい合うように複数枚積層したものである。グラファイト積層体3は、ベーサル面5に沿う方向への熱伝導性がベーサル面5に直交する方向への熱伝導性よりも大幅に高いという特性を有している。また、グラファイト積層体3の第1端部31および第2端部32はエッジ面6となっている。
図1から
図3に示す例では、グラファイト積層体3は、長手方向(Y方向)に直交する断面形状が四角形である四角柱形状を有している。
【0026】
グラファイトプレート4は、高分子フィルムを1枚または複数枚、印加圧力を制御しながら焼成することで高配向にグラファイト化させたプレート状の部材である。グラファイトプレート4としては、例えば、厚さが0.01mm以上0.5mm以下のものを用いてもよく、例えば、比重が1.0以上2.2以下のものを用いてもよい。グラファイトプレート4は、ベーサル面方向の熱伝導率が1000W/m・K以上1500W/m・K以下のものを用いてもよい。グラファイトプレート4の厚さが0.01mm以上であれば必要な剛性を確保することができ取扱い性も良く、厚さが0.5mm以下であれば経済性が劣ることを抑制できる。グラファイトプレート4の比重が1.0以上であれば結晶性が高くなり熱伝導率も高くなり、比重が2.2以下であれば製造コストの上昇も抑制できる。グラファイトプレート4のベーサル面方向の熱伝導率が1000W/m・K未満であれば熱輸送構造体としての熱伝導率が低くなり、熱伝導率が1500W/m・Kを超えれば製造コストが上昇する場合がある。
【0027】
高分子フィルムは、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリピロメリットイミド、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンベンゾイミタゾール、ポリフェニレンベンゾビスイミタゾール、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンからなるグループの少なくとも1種であればよい。
【0028】
グラファイトプレート4が黒鉛粉の圧縮により作製されたものである場合には、面方向に緻密なグラファイト構造が形成されていない。すなわち炭素原子からなる六員環が千切れてバラバラになったものが押し固められているため、強度が脆く、熱輸送性能も低くなる。そのため、本来の目的であるより高い熱輸送性を得ることができない。これに対して、上述した高分子フィルムを用いて形成されたグラファイトプレート4では、炭素原子からなる六員環が平面方向に均一に並んでいる結晶性の高い状態となっているため、熱輸送性も向上する。
【0029】
図1から
図3に示すように、金属体2は長手方向(Y方向)に延びる内部空間20を有する。金属体2は、少なくともグラファイト積層体3の第1端部31と第2端部32との間のグラファイト積層体3を囲むように、グラファイト積層体3を内部空間20に収容する。具体的には、金属体2は、第1端部31と第2端部32との間において、グラファイト積層体3における一対のベーサル面5とこの一対のベーサル面5を互いに接続する一対のエッジ面6とを囲んでいる。ここで、グラファイト積層体3における一対のベーサル面5とは、グラファイト積層体3において積層方向(Z方向)最上部に位置するグラファイトプレート4の一方のベーサル面5と、最下部に位置するグラファイトプレート4の一方のベーサル面5とのことである。グラファイト積層体3における一対のエッジ面6とは、積層されたそれぞれのグラファイトプレート4のエッジ面6が連なって構成される面のことである。本実施の形態の熱輸送構造体1では、グラファイト積層体3の第1端部31から第2端部32までに至る一対のベーサル面5と一対のエッジ面6との全体を金属体2が覆うような構造が採用されている。
【0030】
金属体2は、内部空間20により互いに連通された第1開口21と第2開口22とを有する。グラファイト積層体3の第1端部31が第1開口21より露出し、グラファイト積層体3の第2端部32が第2開口22より露出している。なお、金属体2において、第1開口21および第2開口22の両方が設けられず、グラファイト積層体3が金属体2の内部に完全に内包されているような場合であってもよい。また、第1開口21または第2開口22のいずれか一方の開口のみが設けられ、この開口からグラファイト積層体3の一方の端部のみが露出しているような場合であってもよい。
図1から
図3に示す例では、金属体2の内部空間20は、グラファイト積層体3と外形と同様に四角柱形状を有している。
【0031】
金属体2は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金である。グラファイト積層体3を囲む部分における金属体2の厚み(金属体2の内部空間20を画定する内表面から外表面までの距離)は1mm以上50mm以下としてよい。金属体2の材質がアルミニウムあるいはアルミニウム合金であれば、金属の中で比較的軽量であること、熱伝導率が高いこと、構造材として一般的に普及し比較的安価であるという利点がある。金属体2として銅などの金属を用いた場合でも熱輸送構造体1と同様の構成は実現できるが、銅はアルミニウムと比べて比重が大幅に大きいため、軽量性の観点で適切な熱輸送構造体を実現できない。また、金属体2の厚みが1mm未満では製造が困難となる場合があり、熱輸送構造体1としての剛性が不足する場合がある。厚みが50mmを超えると、熱輸送構造体1の重量が増大し、生産性および経済性に劣ることが考えられ、複数の構造体を組み立てる際の作業効率を下げることになる。ただし、金属体2の厚みは、上述の好適な範囲に限られず、熱輸送構造体1の用途や使用環境などに応じて様々な仕様に設定することができる。
【0032】
金属体2がグラファイト積層体3を囲む部分において、金属体2の内部空間20を画定する内表面23と、グラファイト積層体3のベーサル面5またはエッジ面6とが、金属体2とグラファイト積層体3との間の界面を構成している。すなわち、金属体2の内表面23とグラファイト積層体3のベーサル面5またはエッジ面6との間には他の層を介在させることなく、内表面23とベーサル面5またはエッジ面6とが直接的に接した状態となっている。他の層を介在させない、直接的に接するとは、熱伝導を妨げる空隙を介在させないことである。任意の断面観察で、金属体とグラファイト積層体の接触部の空隙が接触長の10%以下であることが好ましい。このように、グラファイト積層体3を金属体2で包み込むように接触させることで、素材間の熱伝導ロスを抑え、熱輸送構造体1の熱伝導率を高めることができる。なお、このような界面を具体的に形成する方法については後述する。
【0033】
<熱輸送構造体の特徴>
次に、このようにグラファイト積層体3とそれを内包する金属体2とを備える熱輸送構造体1の特徴について説明する。熱輸送構造体1は比重が2.7以下で、ベーサル面方向の熱伝導率が400W/m・K以上である。金属体2の材質がアルミニウムあるいはアルミニウム合金であれば熱輸送構造体1の比重は2.7以下になる。また、アルミニウムあるいはアルミニウム合金と結晶性の高いグラファイトとの複合化における体積比率を8:2以上とグラファイト比率を高くする、好ましくは7:3以上にすることで、ベーサル面方向における熱輸送構造体1の熱伝導率は400W/m・K以上となる。一方、体積比率が8:2よりもグラファイト比率が低くなると、熱輸送構造体1の熱伝導率が400W/m・Kを超えることができない。したがって、熱輸送構造体1におけるグラファイト積層体3の体積比率が20%以上であることが好ましい。
【0034】
<熱輸送構造体の製造方法>
本実施の形態の熱輸送構造体1の製造方法について、製造フロー(工程a~f)を
図4に示し、製造フローに沿って熱輸送構造体1の製造方法を説明する。また、それぞれの製造工程にて用いられる金型などを含めた模式説明図を
図5に示す。
【0035】
(工程a.グラファイト積層体セット)
厚さが0.01mm以上0.5mm以下のグラファイトプレート4を、その用途に応じ一枚または複数枚重ねて金型11にセットする。グラファイトプレート4の一方または複数方向を割型などの構造をした把持具12で把持することで、金型11内におけるグラファイトプレート4の位置を固定する。
図5に示す例では、複数枚のグラファイトプレート4を積層したグラファイト積層体3の長手方向の一端と他端とを把持具12にて把持して金型11内にグラファイト積層体3を固定する。
【0036】
(工程b.加熱)
次に、把持具12により把持されたグラファイト積層体3の少なくとも1つの端面に加熱源として例えばヒータ13を設け、ヒータ13によりグラファイト積層体3を加熱する。ヒータ13をグラファイト積層体3の端面に直接接触させて加熱してもよく、把持具12を介してグラファイト積層体3をヒータ13により加熱してもよい。グラファイト積層体3の端面と把持具12との両者にヒータ13を接触させ、両者を加熱することがより好ましい。複合化に用いる金属体2にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いる場合、加熱温度は340℃以上がよく、より好ましくは360℃以上がよい。加熱温度が340℃を下回ると熱輸送構造体1の内部に未充填部が形成される場合があり、加熱温度が360℃を下回ると熱輸送構造体1の内部に細かな気泡が残る場合がある。これは、グラファイトプレート4に用いる高結晶性グラファイトの熱伝導率が高いため、上述の温度帯以上でグラファイトプレート4を加熱し続けない場合、グラファイトプレート4の熱が把持具12や金型11を通じて放熱されるためである。
図5に示す例では、グラファイト積層体3の長手方向の両端面、すなわちエッジ面にそれぞれヒータ13を接触させるとともに、それぞれの把持具12にもヒータ13を接触させている。
【0037】
(工程c.金属溶湯注入)
次に、金属体2の原料となる金属材料、具体的にはアルミニウムあるいはアルミニウム合金を700℃以上に加熱し、金属溶湯として金型11内に注入する。金属溶湯は金型11内の湯口およびゲートを通り、熱輸送構造体1の製品部となるキャビティ14内に流れ込む。予め金属溶湯の充填末端部にオーバーフロー形状を設けることで、金属溶湯の充填不良を防ぐことができる。また、湯口部分に網目状の整流板を設けることで、キャビティ14内への気泡の流入を抑えることができる。さらに、金属溶湯の注入後に湯口に押圧を掛けるか、キャビティ14に対して十分に大きな湯口体積にすることで、キャビティ14内への圧力を高めて充填不良を抑えることができる。この金属溶湯注入の際に、工程bの加熱(すなわち、ヒータ13によるグラファイト積層体3の加熱)を継続することが好ましい。
【0038】
(工程d.キュア)
工程cで注入した金属溶湯が完全に固化するまで、工程bの加熱を継続する。金属溶湯が完全に固化するまでに加熱を止めた場合、熱輸送構造体1の芯部(グラファイト積層体3の近傍)の温度がグラファイトプレート4を通して把持具12や金型11へ放熱され、グラファイト積層体3と金属体2の密着性が悪化する場合がある。
【0039】
(工程e.取出し)
工程dで金属溶湯が完全に固化し金属体2となった後、ヒータ13の電源をオフとして、金型11を開けて熱輸送構造体1を取り出す。この際、熱輸送構造体1には湯口、ゲート、オーバーフロー部がついているため、熱輸送構造体1を残して、湯口、ゲート、オーバーフロー部を切り離す。
【0040】
(工程f.外形加工)
工程eで切り離した熱輸送構造体1の外周面を必要に応じ機械加工などを用いて表面を平滑にしてもよい。熱輸送構造体1を他部品と締結するための穴加工などを施してもよい。また、予め金属体2のみで他部品と連結するための構造を金型11に施しておいてもよい。
【0041】
<グラファイトプレートと金属体の界面メカニズム>
次に、グラファイトプレート4と金属体2との間の界面について説明する。グラファイトとアルミニウムは合金を形成しないため、これら2種材料を複合化するためには溶融金属をグラファイトの全周から均一に固化収縮させることが好ましい。しかしながら、本実施の形態の様にグラファイトの一部を把持して複合化させる場合、物理的に全周均一に固化させることは難しい。溶湯金属は固化しながら流動するため、溶湯温度を高く保ちながら充填完了させる必要がある。通常の鋳造プロセスで採用されているインサート物の予熱は、型外で炉を用いることが一般的であるが、本実施の形態で用いたグラファイトは高結晶性であるため、金型内で直接グラファイトをヒータで加熱しながらアルミニウム溶湯を注液・キュアすることで固化収縮制御を行っている。ヒータによるグラファイトの加熱なしでは、グラファイトとアルミニウムの界面に大きな未充填が発生する場合がある。金型内加熱温度が低い場合にも前述同様に未充填や溶湯の固化タイミングのズレによりグラファイトとアルミニウムの界面に隙間が発生する場合がある。未充填や隙間が多く発生すると、熱輸送構造体としての特性が悪化するため、未充填や隙間が発生しないように熱輸送構造体を製造することが望ましい。
【0042】
上述の実施の形態では、金属体2の両端部に第1開口21と第2開口22とが設けられ、グラファイト積層体3の第1端部31が第1開口より露出し、第2端部32が第2開口22より露出するような構成について説明したが、このような構成のみに限られない。例えば、金属体2の長手方向の両端部の間に1つまたは複数の開口が設けられ、この開口からグラファイト積層体3が露出するような構成を採用してもよい。このような開口を用いてグラファイト積層体3への熱の入出力を行うようにしてもよい。また、金属体2の軽量化のためにこのような開口を設けてもよい。金属体2の長手方向の途中に複数の開口を設けた場合であっても、熱輸送構造体1への熱伝導率への影響は大きくはないと考えられる。また、グラファイト積層体3への熱の入出力を考えると、グラファイト積層体3のエッジ面6をこのような開口から露出させることが好ましい。
【0043】
上述の実施の形態では、グラファイト積層体3の第1端部31から第2端部32までに至る一対のベーサル面5と一対のエッジ面6との全体を金属体2が覆うような構造が採用された熱輸送構造体1について説明したが、このような構成のみに限られない。金属体2は、少なくとも第1端部31と第2端部32との間の任意の位置において、グラファイト積層体3における一対のベーサル面5と一対のベーサル面5を接続する一対のエッジ面6とを囲んでいればよい。すなわち、金属体2は、一対のベーサル面5と一対のエッジ面6とを4方向から囲んでいる部分があればよい。
【0044】
上述の実施の形態では、熱輸送構造体1の長手方向と直交する平面の断面形状が、四角形である場合について説明したが、このような構成のみに限られない。熱輸送構造体1は多角形または円形の断面形状を有するような場合であってもよい。熱輸送構造体1の連結のしやすさや使用される環境などを考慮して様々な断面形状を採用してもよい。
【0045】
<実施例>
次に、本実施の形態の実施例について説明する。本実施の形態に基づき、熱輸送構造体のY方向(本実施の形態の長手方向)とグラファイトプレートのベーサル面が平行になるようにグラファイトプレート4を配置し、熱輸送構造体1を作製した。用いるグラファイトプレートは長さ130mm、幅5mm、厚み0.2mmとし、所望のグラファイトプレート体積比率になるように複数枚重ねて、Y方向の両端10mmずつを把持具で把持した。共通の作製条件として、金属体の材質をアルミニウム合金A5052、溶湯温度を700℃、キュア時間を5分とした。なお、熱伝導率を正確に評価するために工程fの外形加工で熱輸送構造体の外周面を算術平均粗さRa6.3に機械加工(グラファイトプレートの両端10mmずつは除去)した。その結果得られた熱輸送構造体の外形は、長さ(Y)110mm×幅(X)10mm×高さ(Z)10mmであった。
【0046】
評価項目は、作製した熱輸送構造体の比重と熱伝導率とした。比重は、電子天秤(SHIMADZU社製AUX220)を用いて重量測定後、重量を体積で除して算出した。熱伝導率は、本開示の熱輸送構造体のような複合材の測定方法が存在しないが、測定検体が熱の平衡状態になれば理論的に一次元の定常熱伝導方程式で算出可能である。測定検体のY方向の両端をそれぞれ熱板と冷却板に接触させて温度差を付け、その他の測定検体の外周面を断熱材で覆い、測定検体のY方向における二点間の温度差を測定することで、一次元の定常熱伝導方程式より熱伝導率を算出した。判定は、比重が2.7以下であり、かつ、Y方向の熱伝導率が400W/m・K以上を合格(〇)とし、それ以外を不合格(×)とした。
図6に実施例および比較例の評価結果の表を示す。
【0047】
(実施例1)
比重1.5のグラファイトを用いて、熱輸送構造体でのグラファイト積層体の体積比率を36%で作製した。結果は、比重が2.27、熱伝導率が442W/m・Kとなり、合格であった。
【0048】
(実施例2)
比重1.8のグラファイトを用いて、熱輸送構造体でのグラファイト積層体の体積比率を30%で作製した。結果は、比重が2.43、熱伝導率が454W/m・Kとなり、合格であった。
【0049】
(実施例3)
比重2.2のグラファイトを用いて、熱輸送構造体でのグラファイト積層体の体積比率を24%で作製した。結果は、比重が2.58、熱伝導率が459W/m・Kで、合格であった。
【0050】
(比較例1)
比重1.2のグラファイトを用いて、熱輸送構造体でのグラファイト積層体の体積比率を36%で作製した。結果は、比重が2.16であったが、熱伝導率が379W/m・Kとなり、不合格であった。
【0051】
(比較例2)
比重2.2のグラファイトを用いて、熱輸送構造体でのグラファイト積層体の体積比率を18%で作製した。結果は、比重が2.61であったが、熱伝導率が395W/m・Kで、不合格であった。
【0052】
(比較例3)
熱輸送構造体でのグラファイトの体積比率を0%にするため、アルミニウム合金A5052の比較評価を行った。結果は、比重が2.7、熱伝導率が201W/m・Kで、不合格であった。
【0053】
<効果>
本実施の形態の実施例における構成では、バルク状の高結晶性グラファイトプレートをアルミニウム合金で包埋することで、銅よりも高い熱伝導率と、アルミニウムよりも低い比重を両立する熱輸送構造体を提供することが可能である。
【0054】
なお、上記様々な実施の形態のうちの任意の実施の形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示の熱輸送構造体は、ベーサル面方向の熱伝導率が銅よりも高く、比重がアルミニウムよりも小さい比重を両立することから、局所的な発熱源を持つ半導体デバイス、車載デバイス、電子機器などの分野における熱輸送構造体に適用でき、産業上有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 熱輸送構造体
2 金属体
20 内部空間
21 第1開口
22 第2開口
23 内表面
3 グラファイト積層体
31 第1端部
32 第2端部
4 グラファイトプレート
5 ベーサル面
6 エッジ面
11 金型
12 把持具
13 ヒータ
14 キャビティ