(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161718
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の負極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241113BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20241113BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076674
(22)【出願日】2023-05-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「戦略的イノベーション創造プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
(72)【発明者】
【氏名】パトナイク コッティサ スマラ
(72)【発明者】
【氏名】ショウ ケンチュウ
(72)【発明者】
【氏名】マントリプラガダ バラト シュリミトラ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB29
5H050DA03
5H050FA14
5H050FA17
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末およびその製造方法、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有するリチウムイオン二次電池の負極活物質、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極、および前記負極を有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】焼成体粉末がベンズイミダゾール単位およびアミド単位を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成体粉末であり、前記ベンズイミダゾール単位と前記アミド単位とのモル比(ベンズイミダゾール単位/アミド単位)が75/25~95/5であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられる焼成体粉末であって、前記焼成体粉末がベンズイミダゾール単位およびアミド単位を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成体粉末であり、前記ベンズイミダゾール単位と前記アミド単位とのモル比(ベンズイミダゾール単位/アミド単位)が75/25~95/5であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を製造する方法であって、ベンズイミダゾール-アミド共重合体を750~1500℃の温度で焼成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有してなるリチウムイオン二次電池の負極活物質。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有してなる負極。
【請求項5】
正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有してなる負極であるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の負極活物質に関する。さらに詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池の負極活物質、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質に好適に用いることができるリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末およびその製造方法、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極、および前記負極を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素ドープカーボンは、酸化還元反応、酸素発生反応などの反応における電気化学触媒、スーパーキャパシタ用材料などとして用いられている。一般に、窒素ドープカーボンにおける窒素の含有率が高くなるにしたがって当該窒素ドープカーボンの酸化還元活性が高くなると考えられている(例えば、特許文献1の段落[0002]参照)。
【0003】
窒素含有カーボンの製造方法として、石英からなる焼成容器を用い、二酸化炭素ガスを含有する雰囲気中でカーボンを焼成する工程と、前記焼成容器の内部温度を100℃以下に下げる工程と、前記焼成容器の内部雰囲気をアンモニア含有ガス雰囲気に置換し、前記カーボンを焼成する工程とを備える窒素含有カーボンの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1の請求項1参照)。
【0004】
しかし、前記窒素含有カーボンの製造方法によって得られた窒素含有カーボンにおける窒素の含有率は1.5重量%程度であることから(例えば、特許文献1の段落[0013]および
図2参照)、当該窒素含有カーボンの酸化還元活性がそれほど高いとはいえず、放電容量の改善が望まれる。
【0005】
放電容量が大きく、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れている窒素ドープカーボンとして、窒素原子の含有率が15質量%以上である窒素ドープカーボン粒子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-67487号公報
【特許文献2】特開2022-40599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記窒素ドープカーボン粒子が用いられているリチウムイオン二次電池の負極は、放電容量が大きく、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れているが、近年、初期の放電容量が大きく、充放電を500サイクル行なった後においても放電容量が大きいリチウムイオン二次電池の負極活物質の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末およびその製造方法、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有するリチウムイオン二次電池の負極活物質、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極、および前記負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1) リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられる焼成体粉末であって、前記焼成体粉末がベンズイミダゾール単位およびアミド単位を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成体粉末であり、前記ベンズイミダゾール単位と前記アミド単位とのモル比(ベンズイミダゾール単位/アミド単位)が75/25~95/5であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末、
(2) 前記(1)に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を製造する方法であって、ベンズイミダゾール-アミド共重合体を750~1500℃の温度で焼成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の製造方法、
(3) 前記(1)に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有してなるリチウムイオン二次電池の負極活物質、
(4) 前記(3)に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有してなる負極、および
(5) 正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が前記(4)に記載のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有してなる負極であるリチウムイオン二次電池
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末およびその製造方法、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有するリチウムイオン二次電池の負極活物質、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極、および前記負極を有するリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~3および比較例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図である。
【
図2】実施例1および比較例1~3で得られた負極活物質用焼成体のラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図3】実施例1で得られた負極活物質用焼成体を用いて作製されたコイン電池の放電容量および充放電効率(クーロン効率)のサイクル特性を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末は、前記したように、ベンズイミダゾール単位およびアミド単位を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成体粉末であり、前記ベンズイミダゾール単位と前記アミド単位とのモル比(ベンズイミダゾール単位/アミド単位)が75/25~95/5であることを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末は、ベンズイミダゾール単位およびアミド単位を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成体粉末であり、前記ベンズイミダゾール単位と前記アミド単位とのモル比(ベンズイミダゾール単位/アミド単位)が75/25~95/5であることから、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに短時間で充電することができる高速充電性にも優れている。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末は、例えば、ベンズイミダゾール単位とアミド単位とのモル比(ベンズイミダゾール単位/アミド単位)が75/25~95/5であるベンズイミダゾール-アミド共重合体を窒素ガスの雰囲気中で750~1500℃の温度で焼成することによって製造することができる。
【0015】
〔ベンズイミダゾール-アミド共重合体〕
ベンズイミダゾール-アミド共重合体のベンズイミダゾール単位を与える原料モノマーとして、3,4-ジアミノ安息香酸化合物および4-アミノ安息香酸化合物を用いることができる。3,4-ジアミノ安息香酸化合物および4-アミノ安息香酸化合物は、いずれも、植物に含まれているセルロースを酵素で加水分解することによって得られるグルコースを原料として用いて調製することができる〔例えば、Ultrahigh Thermoresistant Lightweight Bioplastics Developed from Fermentation Products of Cellulosic Feedstock, Adv. Sus. Sys. 5(1), 2000193 (2021)参照〕。
【0016】
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の原料として用いられるベンズイミダゾール-アミド共重合体は、植物に含まれているセルロースを用いることによって調製することができることから、本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末は、地球環境に優しいという利点を有する。
【0017】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物は、ベンズイミダゾール-アミド共重合体のベンズイミダゾール単位を与える化合物である。3,4-ジアミノ安息香酸化合物としては、例えば、3,4-ジアミノ安息香酸およびその塩などが挙げられる。
【0018】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物が有するベンゼン環には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、1個または2個の置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。好適な3,4-ジアミノ安息香酸化合物としては、3,4-ジアミノ安息香酸および3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩が挙げられる。3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩は、例えば、3,4-ジアミノ安息香酸と塩酸とを反応させることにより、容易に調製することができる。
【0019】
4-アミノ安息香酸化合物は、ベンズイミダゾール-アミド共重合体のアミド単位を与える化合物である。4-アミノ安息香酸化合物としては、例えば、4-アミノ安息香酸およびその塩などが挙げられる。
【0020】
4-アミノ安息香酸化合物が有するベンゼン環には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、1個または2個の置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。好適な4-アミノ安息香酸化合物としては、4-アミノ安息香酸および4-アミノ安息香酸塩酸塩が挙げられる。4-アミノ安息香酸塩酸塩は、例えば、4-アミノ安息香酸と塩酸とを反応させることにより、容易に調製することができる。
【0021】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とのモル比〔3,4-ジアミノ安息香酸化合物/4-アミノ安息香酸化合物〕は、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに短時間で充電することができる高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池の負極活物質を得る観点から、75/25~95/5、好ましくは80/20~90/10である。
【0022】
ベンズイミダゾール-アミド共重合体は、例えば、3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とをポリリン酸の存在下で80~150℃程度の温度でベンズイミダゾール-アミド共重合体が十分に生成するまで共重合させることにより、容易に調製することができる。
【0023】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、不純物量が少ないベンズイミダゾール-アミド共重合体を効率よく調製する観点から、塊状重合法および溶液重合法が好ましく、3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを重合させる際の操作性に優れていることから、溶液重合法が好ましい。
【0024】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを溶液重合法によって共重合させる際には、有機溶媒が用いられる。前記有機溶媒は、3,4-ジアミノ安息香酸化合物および4-アミノ安息香酸化合物を重合反応温度で溶解させることができ、生成するベンズイミダゾール-アミド共重合体に対して難溶性ないし不溶性を呈する有機溶媒であることが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1~3の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、フェノール、クレゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記有機溶媒の量は、3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを効率よく重合反応させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、3,4-ジアミノ安息香酸化合物および4-アミノ安息香酸化合物の合計量(質量)の3~20倍程度の量(質量)であることが好ましく、5~15倍程度の量(質量)であることがより好ましい。
【0025】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを重合させる際には、熱安定剤を適量で用いることができる。熱安定剤としては、フェニルホスホン酸(PPA)、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、ジフェニルホスホン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物との重合反応温度は、特に限定されないが、反応効率を高める観点から120~220℃程度であることが好ましい。重合反応温度は、一定であってもよく、段階的に昇温させてもよい。
【0027】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物との重合反応時間は、重合反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、10~40時間程度である。3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを重合反応させる際の雰囲気は、大気中に含まれている酸素による影響を受けないようにする観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0028】
以上のようにして3,4-ジアミノ安息香酸化合物と4-アミノ安息香酸化合物とを共重合させることにより、ベンズイミダゾール-アミド共重合体を得ることができる。3,4-ジアミノ安息香酸化合物の原料として植物に含まれているセルロースを用いて当該3,4-ジアミノ安息香酸化合物を調製した場合、当該ベンズイミダゾール-アミド共重合体は、地球環境に優しいバイオベースポリマーである。
【0029】
生成したベンズイミダゾール-アミド共重合体は、必要により、洗浄し、乾燥し、所望の粒子径を有するように粉砕してもよい。
【0030】
好適なベンズイミダゾール-アミド共重合体としては、式(I):
【0031】
【0032】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされるベンズイミダゾール単位および式(II):
【0033】
【0034】
(式中、R3およびR4は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされるアミド単位を有し、前記ベンズイミダゾール単位と前記アミド単位とのモル比(アミド単位/ベンズイミダゾール単位)が75/25~95/5であるベンズイミダゾール-アミド共重合体が挙げられる。
【0035】
式(I)で表わされるベンズイミダゾール単位において、R1およびR2は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子である。また、式(II)で表わされるアミド単位において、R3およびR4は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子である。
【0036】
前記アルキル基のなかでは、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。前記アルコキシ基のなかでは、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などの炭素数1~4のアルコキシ基がより好ましい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が好ましく、フッ素原子および塩素原子がより好ましい。
【0037】
R1~R4は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0038】
ベンズイミダゾール-アミド共重合体の数平均分子量は、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに短時間で充電することができる高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池の負極活物質を得る観点から、架橋構造を有しない場合には、好ましくは2000~100000、より好ましくは3000~100000であり、架橋構造を有する場合には、好ましくは2000~1000000、より好ましくは3000~1000000である。
【0039】
なお、ベンズイミダゾール-アミド共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にて以下の測定条件で測定したときの値である。ただし、ベンズイミダゾール-アミド共重合体が架橋構造を有する場合、当該架橋構造を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体は、溶媒に溶解しがたいことから、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で当該架橋構造を有するベンズイミダゾール-アミド共重合体の数平均分子量を測定することが困難である場合がある。
【0040】
〔測定条件〕
・装置:昭和電工(株)製、商品名:Shodex-101
・注入時の濃度:0.01質量%
・注入量:100μL
・流速:1mL/min
・溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド
・カラム:昭和電工(株)製、商品名:Shodex KD-803および商品名:Shodex KD-804
・カラムの温度:40℃
・標準:ポリメチルメタクリレート
【0041】
ベンズイミダゾール-アミド共重合体には、本発明の目的が阻害されない範囲内で前記ベンズイミダゾール単位および前記アミド単位以外の他の繰返し単位が含まれていてもよい。
【0042】
〔リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末〕
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末は、前記ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成することによって得ることができる。
【0043】
なお、前記ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成する際には、当該ベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成効率を高めるとともに、当該ベンズイミダゾール-アミド共重合体を負極活物質として使用することを考慮して、あらかじめ粉砕しておくことが好ましい。前記ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉砕物の粒子径は、特に限定されないが、当該ベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成効率を高める観点から、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。
【0044】
ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成する際には、例えば、電気炉などを用いることができる。ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成する際の雰囲気は、特に限定されないが、空気中に含まれている酸素による影響を回避する観点から、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0045】
ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成する際の昇温速度には特に限定がない。ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成する際の昇温速度は、段階的に変化させてもよく、一定となるように維持してもよい。ベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成温度は、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに短時間で充電することができる高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池の負極活物質を得る観点およびエネルギー効率を高める観点から、700~1200℃であることが好ましく、750~1100℃であることがより好ましく、750~1000℃であることがさらに好ましい。なお、ベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成温度は、熱電対を用いて測定することができる。
【0046】
ベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成時間は、ベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、1~6時間程度である。ベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成した後は、焼成されたベンズイミダゾール-アミド共重合体を好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは室温まで放冷すればよい。
【0047】
以上のようにしてベンズイミダゾール-アミド共重合体を焼成することにより、リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を得ることができる。得られたリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末が凝集している場合には、必要により、当該リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末をピンミル、ハンマーミルなどを用いて解砕してもよい。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の結晶面の間隔は、粉末X線回折によって調べることができる。本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の結晶面の間隔は、例えば、ベンズイミダゾール単位とアミド単位とのモル比が85/15であるとき、グラファイトが有する結晶面の間隔(d-spacing)(3.3Å)よりも広く、3.8Åであることが、以下の実施例で確認されている。
【0049】
また、透過型電子顕微鏡で観察したときのリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の平均粒子径は、通常、50nm~10μmの範囲内にある。なお、リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で撮影された画像から任意に100個のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を選択し、各リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末の最大長さと最小長さとの平均値を求め、100個のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末について当該平均値を合計し、その合計値を100で除した値を意味する。
【0050】
〔リチウムイオン二次電池の負極活物質〕
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質は、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有する。本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質は、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有しているので、当該負極活物質を用いることにより、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに高速充電性にも優れているリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0051】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質は、前記リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で、他の負極活物質が含まれていてもよい。他の負極活物質としては、例えば、黒鉛、グラファイト、コークスなどの炭素物質の粉末などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
〔リチウムイオン二次電池〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有し、前記負極として本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極が用いられている。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極として本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極が用いられているので、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに高速充電性にも優れている。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池の基本的な構造は、一般に用いられているリチウム二次イオン電池と同様である。
【0055】
本発明のリチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有する。リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、円筒型、積層型などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池が、例えば、CR2025リチウムイオン二次電池である場合、負極、セパレータおよび非水電解質は、ケース内に収容されている。以下においては、リチウムイオン二次電池がCR2025リチウムイオン二次電池である場合の実施態様について説明するが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0057】
CR2025リチウムイオン二次電池に使用されるケースは、その内部が中空であり、開口部を有し、正極容器を兼ねている。ケースの開口部には、蓋部が設けられており、蓋部は、負極蓋を兼ねている。ケースと蓋部との間には、ケースと蓋部との絶縁状態および密封状態を維持するために、ガスケットが設けられている。ケースと蓋部との間の空間には、電極および非水電解質が収容されている。
【0058】
(1)電極
電極は、正極、セパレータおよび負極を有し、この順序で配列されている。正極は、ケースの内面に接触し、負極は、蓋部の内面と接触している。
【0059】
正極は、一般に用いられているリチウム二次イオン電池に用いられている正極と同様であればよく、本発明は、当該正極の組成および構造によって限定されるものではない。
【0060】
正極は、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を所定の比率で混合し、得られた混合物に溶媒、必要により活性炭、粘度調整用添加剤などを適量で添加し、得られた混合物を混練し、正極合材ペーストを調製した後、集電体の表面に塗布し、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0061】
正極活物質の代表例としては、リチウム、リチウム-マンガン系複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。導電材としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0062】
負極には、本発明の負極活物質が用いられる。負極は、例えば、本発明の負極活物質と結着剤とを混合し、得られた混合物に溶媒を添加することにより、ペースト状の負極合材を調製し、当該負極合材を銅箔などの金属箔の集電体の表面に塗布し、乾燥させ、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0063】
負極活物質には、本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質が用いられるが、前述したように、黒鉛、カーボンブラックなどの粉末を必要に応じて含有させてもよい。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0064】
セパレータは、正極と負極との間に用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するとともに、正極と負極と間のリチウムイオンの移動経路を形成する。セパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂の箔膜を用いることができ、当該薄膜には多数の微細孔が形成されている。
【0065】
(2)非水電解質
非水電解質としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチレンカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート:ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの非水電解質は、それぞれ単独で用いてもよく、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)との併用などのように、その2種類以上を併用してもよい。
【0066】
以上説明したように、本発明のリチウムイオン二次電池は、負極活物質として本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極が用いられているので、初期の放電容量が大きく、充放電に対する耐久性(サイクル特性)に優れており、さらに短時間で充電することができる高速充電性にも優れている。
【実施例0067】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
なお、以下の実施例で測定された物性は、以下の方法に基づいて測定した。
〔粉末X線回折〕
粉末・薄膜X線回折装置〔(株)リガク製、商品名:SmartLab〕を用い、波長(λ)が0.154nmであるCuKα線で測定範囲(2θ)10~80°にて粉末X線回折を行なった。
【0069】
〔ラマン分光分析〕
ラマン分光分析計〔レニショー(株)製、顕微レーザーラマン分光器、光源:HeNe〕を用いてラマン分光分析を行なった。
【0070】
〔X線光電子分光分析(XPS)〕
X線光電子分光分析装置(フィソン・インストルメント社製、製品名:S-PROBE TM 2803)を用いてX線光電子分光分析を行なった。
【0071】
〔サイクル特性〕
コイン電池のサイクル特性は、充放電装置として自動電池評価装置〔(株)エレクトロフィールド製、品番:ABE1024-05RI〕およびバッテリーサイクラー(バイオロジック社製、品番:BCS)を用い、電位の範囲を0.1~2.1V(対Li/Li+)に調整し、1Cの定電流で調べた。
【0072】
調製例1〔3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩の調製〕
3,4-ジアミノ安息香酸3.0g(19.72mmol)を室温下で100mL容のビーカー内に入れ、メタノール30mLをビーカーに添加した後、ビーカーの内容物を約1時間攪拌することにより、懸濁液を得た。前記で得られた懸濁液に含まれている3,4-ジアミノ安息香酸が完全に溶解するまで攪拌下で12N塩酸を当該懸濁液に滴下し、当該懸濁液の色が桃色から暗赤色に変化した後、さらに室温下で当該懸濁液を4時間攪拌することにより、反応溶液を得た。
【0073】
前記で得られた反応溶液をブフナー漏斗で濾過することにより、未反応の沈殿物を除去し、濾液を回収した。
【0074】
前記で得られた濾液から溶媒(メタノール)をロータリーエバポレーターで除去することにより、固形分を回収した。当該固形分を5~6時間減圧乾燥させることにより、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩5.4gを得た(収率:94%)。
【0075】
調製例2〔4-アミノ安息香酸塩酸塩の調製〕
室温下で4-アミノ安息香酸3.0g(21.88mmol)をビーカー内に入れ、メタノール30mLをビーカーに添加した後、ビーカーの内容物を約1時間攪拌することにより、懸濁液を得た。前記で得られた懸濁液に含まれている4-アミノ安息香酸が完全に溶解するまで攪拌下で12N塩酸を当該懸濁液に滴下し、当該懸濁液の色が桃色から暗赤色に変化した後、室温下で4時間攪拌することにより、反応溶液を得た。
【0076】
前記で得られた反応溶液をブフナー漏斗で濾過することにより、未反応の沈殿物を除去し、濾液を回収した。
【0077】
前記で得られた濾液から溶媒(メタノール)をロータリーエバポレーターで除去することにより、固形分を回収した。当該固形分を5~6時間減圧乾燥させることにより、4-アミノ安息香酸塩酸塩3.2gを得た(収率:94%)。
【0078】
実施例1
(1)ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末の調製
100mL容の3つ口丸底フラスコ内に窒素ガスを導入しながら攪拌下でポリリン酸30gを添加し、当該ポリリン酸を120℃で1時間加熱することにより、当該ポリリン酸から水分を除去した。
【0079】
次に、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら前記で得られた3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩1.887g(8.5mmol)および4-アミノ安息香塩酸塩0.237g(1.5mmol)をフラスコ内に添加し〔3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩と4-アミノ安息香塩酸塩とのモル比:85/15〕、120℃の温度で1時間攪拌した後、フラスコの内容物の温度を160℃に昇温させて4時間加熱し、次いで220℃で16時間加熱することにより、ベンズイミダゾール-アミド共重合体を得た。
【0080】
前記で得られたベンズイミダゾール-アミド共重合体をビーカー内の蒸留水200mLに室温下で添加し、約24時間放置し、残存している未反応の3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩を水中に溶解させることにより、ベンズイミダゾール-アミド共重合体を精製した。前記で得られたベンズイミダゾール-アミド共重合体の数平均分子量は34000であった。
【0081】
次に、前記ベンズイミダゾール-アミド共重合体をビーカーから取り出し、乾燥機に入れ、減圧下で100℃の温度で4時間程度乾燥させた。乾燥させたベンズイミダゾール-アミド共重合体を粉砕機〔日本分析工業(株)製、品番:JF-300〕で回転速度1430rpmにて20分間粉砕させることにより、ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末を得た。
【0082】
前記で得られたベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末を10%水酸化カリウム水溶液に室温で添加し、約12時間攪拌した後、脱イオン水で当該ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末を十分に洗浄した。その後、前記ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末を孔径が0.1μmのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)濾過膜で濾過し、得られた残渣を乾燥機に入れ、100℃の温度で約12時間乾燥させることにより、精製されたベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末を得た。
【0083】
(2)負極活物質用焼成体粉末の調製
前記で得られたベンズイミダゾール-アミド共重合体約100mgをシリカ-アルミナ製ボートに入れ、不活性ガス置換ユニットを備えたセラミック製の炉芯管を有する管状電気炉の炉芯管内に当該ボートを入れた。当該炉心管内に窒素ガスを流量100mL/minで20分間導入することにより、炉心管内を窒素ガス雰囲気とした。
【0084】
前記ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末を窒素ガス雰囲気中にて室温から200℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、200℃で20分間維持することにより、当該ベンズイミダゾール-アミド共重合体の粉末に含まれている水分等を除去した。引き続いて、窒素ガスを前記炉心管内に流しながら、ベンズイミダゾール-アミド共重合体を10℃/minの昇温速度で200℃から800℃まで加熱し、800℃で60分間加熱した後、得られたベンズイミダゾール-アミド共重合体の焼成体を室温まで放冷することにより、負極活物質用焼成体を得た(収率:95%)。前記で得られた負極活物質用焼成体を1M塩酸で室温にて約30分間洗浄した後、純水で洗浄した後、乾燥させた。
【0085】
前記で得られた負極活物質用焼成体が凝集していたことから、当該負極活物質用焼成体をメノウ乳鉢および乳棒を用いて粉砕することにより、負極活物質用焼成体粉末を得た。
【0086】
実施例2
実施例1において、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩と4-アミノ安息香塩酸塩とのモル比を90/10に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてベンズイミダゾール-アミド共重合体(数平均分子量:35000)を調製し、負極活物質用焼成体粉末を得た。
【0087】
実施例3
実施例1において、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩と4-アミノ安息香塩酸塩とのモル比を80/20に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてベンズイミダゾール-アミド共重合体(数平均分子量:33000)を調製し、負極活物質用焼成体粉末を得た。
【0088】
比較例1
実施例1において、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩と4-アミノ安息香塩酸塩とのモル比を50/50に変更したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質用焼成体粉末を得た。
【0089】
比較例2
実施例1において、4-アミノ安息香塩酸塩を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質用焼成体粉末を得た。
【0090】
比較例3
実施例1において、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩と4-アミノ安息香塩酸塩とのモル比を70/30に変更したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質用焼成体粉末を得た。
【0091】
比較例4
従来の負極活物質として、グラファイト粉末を用いた。
【0092】
〔粉末X線回折〕
実施例1~3および比較例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末の粉末X線回折図を
図1に示す。
図1において、(a)は比較例2で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図、(b)は実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図、(c)は比較例3で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図、(d)は比較例1で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図、(e)は実施例2で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図、(f)は実施例3で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線回折図である。
【0093】
図1に示された結果から、各実施例で得られた負極活物質用焼成体粉末のミラー指数は(002)であり、ピークがブロードであることからアモルファスカーボンが生成されていることがわかる。また、ブラッグの式:
nλ=2dsinθ
(式中、nは正の整数、λはX線の波長、dは結晶面の間隔、θは結晶面とX線とがなす角度を示す)
に基づいて求められる負極活物質用焼成体粉末の結晶面の間隔(d-spacing)は、実施例1では3.80Å、実施例2では3.74Åであり、実施例3では3.63Åであり、比較例1および比較例3では3.74Åであり、比較例2では3.60Åであり、比較例4では3.30Åであった。
【0094】
以上の結果から、実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末の結晶面の間隔は、各比較例で得られた負極活物質用焼成体粉末および比較例4のグラファイト粉末と対比して大きいことから、実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末は、各比較例で得られた負極活物質用焼成体粉末および比較例4のグラファイト粉末と対比してリチウムイオンの吸蔵の活性部位が多いので、リチウムイオンの拡散性および吸蔵性に優れていると考えられる。
【0095】
〔ラマン分光分析〕
実施例1および比較例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末のラマン分光分析を行なった。その結果を
図2に示す。
図2において、(a)~(d)は、それぞれ順に、比較例2、実施例1、比較例3および比較例1で得られた負極活物質用焼成体粉末のラマンスペクトルを示すグラフである。
【0096】
図2(b)に示されるように、実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末では、波数が約1350cm
-1の領域にDバンドが存在し、波数が約1570cm
-1の領域でGバンドが存在していることがわかる。
【0097】
また、実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末のI
D/I
G比(
図2中のId/Igに該当)は、1.06であり、各比較例で得られた負極活物質用焼成体粉末のI
D/I
G比よりも大きいことから、実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末の構造欠陥の導入率が各比較例で得られた負極活物質用焼成体粉末と対比して高いので、実施例1で得られた負極活物質用焼成体粉末は、リチウムイオンの拡散性に優れていると考えられる。
【0098】
なお、比較例4のグラファイト粉末のID/IG比が0.18であったことから、グラファイト粉末は、構造欠陥が極度に少ないと考えられる。
【0099】
〔X線光電子分光分析(XPS)〕
実施例1および比較例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線光電子分光分析(XPS)を行なった。その結果、負極活物質用焼成体粉末における窒素原子の含有率は、実施例1では11.2atom%であり、実施例2では10.5atom%であり、実施例3では10.6atom%であり、比較例1では8.0atom%であり、比較例2では14.8atom%であり、比較例3では9.9atom%であった。
【0100】
負極活物質用焼成体粉末のX線光電子分光分析の結果から、負極活物質用焼成体粉末における窒素原子の含有率は、当該負極活物質用焼成体粉末の原料として使用されているベンズイミダゾール-アミド共重合体におけるアミド単位の含有率に比例して高くなることがわかる。
【0101】
また、実施例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末のX線光電子分光分析(XPS)の結果から、各実施例で得られた負極活物質用焼成体粉末における窒素原子の含有率は、10~12atom%の範囲内にあることが確認された。
【0102】
〔サイクル特性〕
実施例1~3および比較例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末のいずれかの粉末80g、アセチレンブラック10g、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10gおよびN-メチル-2-ピロリドン400gを均一な組成となるように混合し、得られたスラリーをドクターブレードで銅箔(縦:20mm、横:100mm、厚さ:20μm)に塗布し、減圧下で80℃の温度で約12時間乾燥させ、ロールで押圧することにより、乾燥後の塗膜の厚さが0.06mmである電極を作製した。
【0103】
前記で得られた電極をCR2025リチウムイオン二次電池に組み込むために、直径15mmの円盤となるように打ち抜き、負極として前記で得られた円盤を用い、対極としてリチウム箔を用い、セパレータとしてポリプロピレンセパレータ〔旭化成(株)製、商品名:セルガード2500、厚さ:25μm〕を用い、電解質としてエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを1:1の質量比で混合した溶媒に濃度が1MとなるようにLiPF6を溶解させた電解質を用い、アルゴンガス雰囲気中で負極半電池を組み立てた。得られた負極半電池は、安定化のため室温中で12時間放置した。
【0104】
前記で得られた負極半電池を用い、充電時の電流密度を3.7A/gに調節して充放電を繰り返して行ない、二次電池充放電試験装置〔北斗電工(株)製、品番:HJ-SD8〕を用いて室温下で当該負極半電池の放電容量および容量維持率を調べた。その結果を表1に示す。
【0105】
なお、容量維持率は、式:
[容量維持率(%)]
=([所定サイクル後の放電容量]÷[初期の放電容量])×100
に基づいて求められた値である。また、初期の放電容量は、充放電を開始し、放電容量が安定し始めたときの放電容量である。
【0106】
【0107】
表1に示された結果から、各実施例で得られた負極活物質用焼成体粉末を用いた場合の初期放電容量は、いずれも100mAh/g以上であり、各比較例で得られた負極活物質用焼成体粉末を用いた場合の初期放電容量(52~93mAh/g)と対比して格段にと高いことがわかる。また、各実施例で得られた負極活物質用焼成体粉末は、1000サイクル後の容量維持率が80%以上であることから長期サイクル特性にも優れていることがわかる。
【0108】
〔全電池(フルセル)の性能〕
前記「サイクル特性」の欄に記載の方法と同様にして負極を作製した。正極として、バイオトレック(株)製の正極(活物質:リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物)を用い、CR2025リチウムイオン二次電池に組み込むために、直径15mmの円盤となるように打ち抜いたものを用いた。前記負極および正極をそれぞれ0.065mA/cm2の電流密度で10サイクル充放電させた後に全電池に使用した。
【0109】
前記負極、前記正極、電解液として1MのLiPF6の非水電解質(エチレンカーボネート:ジエチレンカーボネートの容量比=1:1)溶液およびセパレータとして厚さが25μmのポリプロピレンセパレータを用い、アルゴンガスが充填されているグローボックス内でコイン電池(全電池)を組み立てた。得られたコイン電池は、安定化のため室温中で12時間放置した。
【0110】
前記で得られたコイン電池を用いて2.6~4.2Vで充電した後、放電する操作を1サイクルとして充放電を58サイクル行ない、放電容量および充放電効率(クーロン効率)を調べた。その結果を
図3(a)に示す。また、前記で得られたコイン電池を用いて4.2Vの電位で定電流・定電圧充電(CCCV)方式にて充電した後、放電する操作を1サイクルとして充放電を120サイクル行ない、放電容量および充放電効率(クーロン効率)を調べた。その結果を
図3(b)に示す。
【0111】
図3において、(a)は、全電池の充放電サイクルにおいてCレートを変化させたときの充放電のサイクル数と放電容量および充放電効率(クーロン効率)との関係を示すグラフ、(b)は、0.1Cの一定レートで充放電のサイクル数と放電容量および充放電効率(クーロン効率)との関係を示すグラフである。
図3中、符号Aは放電容量を示すグラフであり、符号Bは充放電効率(クーロン効率)を示すグラフである。
【0112】
図3(a)に示された結果から、実施例2で得られた負極活物質用焼成体粉末が用いられている全電池は、非常に良好なレート特性を示し、全電池のレートを高くしても放電容量があまり低下しないことがわかる。
【0113】
また、
図3(b)に示された結果から、実施例2で得られた負極活物質用焼成体粉末が用いられている全電池は、4.2Vの電位で定電流・定電圧充電(CCCV)方式にて充放電を110サイクル行なっても全電池の容量維持率が約94%であり、約0.8mAhの容量が維持されていることから、電池性能に優れていることがわかる。
【0114】
〔高速充電性〕
負極活物質用焼成体粉末として実施例1~3で得られた負極活物質用焼成体粉末のうちのいずれかを用いて前記と同様にして負極半電池を作製し、当該電池の充電時の電流密度を4000mA/gに調整して充放電を1000回行なった後、放電容量、充放電効率(クーロン効率)および充電に要する時間(充電時間)を調べた。その結果を表2に示す。
【0115】
【0116】
表2に示された結果から、各実施例で得られた負極活物質用焼成体粉末が用いられている負極半電池は、充放電を繰り返しても放電容量が60~120mAh/gと高く、充放電効率(クーロン効率)が約100%でほぼ一定していることから品質的に安定しており、電解質にカーボンが用いられている従来の負極を用いたときの充放電に対する耐久性(サイクル特性)が高くても500サイクルであることと対比して耐久性に格段に優れていることがわかる。
【0117】
また、各実施例で得られた負極活物質用焼成体粉末が用いられている負極半電池では、約2分間以下という非常に短い時間で充電することができるので、高速充電性に格段に優れていることがわかる。
【0118】
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は、放電容量が大きく、充放電に対する耐久性および高速充電性に優れているので、例えば、高速道路のサービスエリアなどでEV車を短時間でしかも高速に充電することに貢献するものと考えられる。
本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末、当該リチウムイオン二次電池の負極活物質用焼成体粉末を含有するリチウムイオン二次電池の負極活物質、当該リチウムイオン二次電池の負極活物質を含有する負極を有するリチウムイオン二次電池は、放電容量が大きく、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れていることから、例えば、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータ、ハイブリッド自動車、電気自動車などに使用することが期待される。