(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161723
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】インバータ装置、モータ定数補正方法
(51)【国際特許分類】
H02P 23/14 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
H02P23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076681
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】米田 雅夫
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505FF01
5H505FF05
5H505HB01
5H505JJ04
5H505KK09
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL46
(57)【要約】
【課題】自動的にモータ定数を補正することができ、適切な制御を行うことができるインバータ装置、モータ定数補正方法を提供する。
【解決手段】実施形態によるインバータ装置1は、インバータ主回路4を介してモータ5を制御するものであって、オートチューニングを実施してモータ定数を設定するモータ定数設定部16と、インバータ主回路4の運転状態を取得する運転状態取得部17と、設定されたモータ定数を、インバータ主回路4の運転状態に基づいて補正するモータ定数補正部18と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ主回路を介してモータを制御するインバータ装置であって、
オートチューニングを実施してモータ定数を設定するモータ定数設定部と、
前記インバータ主回路の運転状態を取得する運転状態取得部と、
設定されたモータ定数を、前記インバータ主回路の運転状態に基づいて補正するモータ定数補正部と、を備えるインバータ装置。
【請求項2】
前記モータ定数設定部は、オートチューニングの実施を指示されたとき、前記モータを始動するとき、および、前記モータを停止するときに、オートチューニングを実施してモータ定数を設定する請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記運転状態取得部は、前記インバータ主回路の運転状態を継続して取得し、
前記モータ定数補正部は、取得した運転状態を積算することで前記モータの温度を推定し、推定した前記モータの温度に基づいてモータ定数を補正する請求項1または2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
インバータ主回路を介してモータを制御する際のモータ定数を補正するモータ定数補正方法であって、
オートチューニングを実施してモータ定数を設定する工程と、
前記インバータ主回路の運転状態を取得する工程と、
取得したモータ定数を、前記インバータ主回路の運転状態に基づいて補正する工程と、を含むモータ定数補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、オートチューニングによりモータ定数を取得するインバータ装置、モータ定数を補正するモータ定数補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータをベクトル制御したりPMモータを制御したりする際には、モータ定数の設定が必要であり、モータ定数の一部は、例えば特許文献1のように所謂オートチューニングにより特定して設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際のモータの運転時には、モータ自体の温度や周囲温度の変化によってオートチューニングにより設定したモータ定数と実際のモータ定数とに差が生じてしまい、制御に異常が生じるおそれがあり、その場合には、手動でパラメータを再調整する必要があった。
【0005】
そこで、自動的にモータ定数を補正することができ、適切な制御を行うことができるインバータ装置、モータ定数補正方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
インバータ装置は、インバータ主回路を介してモータを制御するものであって、オートチューニングを実施してモータ定数を設定するモータ定数設定部と、インバータ主回路の運転状態を取得する運転状態取得部と、設定されたモータ定数を、インバータ主回路の運転状態に基づいて補正するモータ定数補正部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態によるインバータ装置の構成を概略的に示す図
【
図3】巻線抵抗とモータ温度との相関関係を概略的に示す図
【
図5】運転状態とモータ温度の上昇特性とを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態のインバータ装置1は、操作パネル2、CPU3およびインバータ主回路4などを備えている。操作パネル2は、作業者が操作入力を行うためのキーやダイアル、制御パラメータを表示させるディスプレイ等を備えている。
【0009】
インバータ主回路4は、図示は省略するが商用電源を直流に変換するコンバータ回路と、例えばMOSFETやIGBT等のスイッチング素子を3相ブリッジ接続して構成されたインバータ回路とによって構成されており、各相の出力端子がモータ5の各相巻線の一端に接続される。モータ5は、例えば3相の誘導モータや永久磁石モータである。
【0010】
インバータ主回路4を構成するスイッチング素子の各ゲートには、CPU3の波形生成部10において生成された3相PWM信号が入力される。また、インバータ主回路4には、図示は省略するが電流や電圧などを検出するための各種のセンサが設けられており、CPU3の電流検出部11、電圧検出部12、速度検出部13、地絡や短絡あるいは欠相などを検出する保護検出部14などによって、センサ等から入力された信号に基づいてモータ5の各相電流や電圧、回転速度、地絡や短絡あるいは欠相の検出などが行われている。
【0011】
また、CPU3には、操作パネル2の入力制御を行う操作パネル処理部15、オートチューニングを実施してモータ定数を設定するモータ定数設定部16、インバータ主回路4の運転状態を取得する運転状態取得部17、および、インバータ主回路4の運転状態に基づいてモータ定数を補正するモータ定数補正部18が設けられている。
【0012】
モータ定数設定部16は、オートチューニングによりモータ定数を取得して設定する。これらのモータ定数は、メモリ処理部19によって不揮発性メモリ20に書き込まれて記憶される。なお、不揮発性メモリ20は、CPU3に外付けされるものであってもよい。このオートチューニングによって、いわゆる自動トルクブーストの要否や漏れインダクタンスの大きさなどが判断される。
【0013】
運転状態取得部17は、本実施形態では例えば始動回数、運転時間、負荷率などのインバータ主回路4の運転頻度を示すデータを運転状態として取得する。また、運転状態取得部17は、通常運転中には、継続して運転状態を取得する。取得された運転状態は、メモリ処理部19によって不揮発性メモリ20に書き込まれて記憶される。
【0014】
モータ定数補正部18は、詳細は後述するが、モータ定数設定部16で設定されたモータ定数を運転状態に応じて補正する。本実施形態の場合、モータ定数補正部18は、インバータ装置1が通常運電中に継続的に取得および積算された運転状態に基づいてモータ定数を補正する。
【0015】
その他、CPU3は、外部よりアナログ信号が入力されるアナログ入力部21、外部よりリレー等の接点の開閉状態が入力されるデジタル入力部22、図示しない上位の制御装置と通信を行う通信部23などを備えている。なお、外部にアナログ信号を出力するアナログ出力部や、外部に接点の開閉制御信号を出力するデジタル出力部等を備える構成であってもよい。
【0016】
次に、上記した構成の作用および効果について説明する。
オートチューニングを実施した時点と実際の運転時とにおいては、モータ5を駆動したり周囲温度が変化したりすることによってモータ温度が変化することが想定される。そして、モータ温度に差が生じると、オートチューニングにより設定したモータ定数と実際のモータ定数とがずれてしまい、モータ5の制御に支障をきたすおそれがある。
【0017】
例えば、巻線は、周囲温度によって巻線抵抗が違う値となるため、相対的に高い周囲温度でオートチューニングを実施すると、オートチューニングにより得られる巻線抵抗の値が大きくなり、その巻線抵抗値に基づいて相対的に低い周囲温度のときにモータ5を駆動すると、巻線抵抗による電圧降下の補正量が過剰となり、モータ5の始動時に電圧が過大となり過電流が発生する可能性がある。
【0018】
逆に、相対的に低い周囲温度でオートチューニングを実施すると、オートチューニングにより得られる巻線抵抗の値が小さくなり、その巻線抵抗値に基づいて相対的に高い周囲温度のときにモータ5を駆動すると、巻線抵抗による電圧降下の補正量が不足し、モータ5の始動時に電圧が不足してトルク不足となる可能性がある。
【0019】
つまり、モータ定数が不一致になると、始動時の過電流やトルク不足を招くなど、モータ5の制御に支障をきたすおそれがある。また、例えば負荷率が変動してモータ温度が変化した場合には、トルク検出精度に誤差が生じるおそれがある。そのため、従来では、モータ5の制御に異常が生じた場合には、手動でパラメータを再調整していた。
【0020】
そこで、本実施形態のインバータ装置1は、
図2に示す処理を実行することにより、自動的にモータ定数を補正している。なお、
図2に示す各処理は主としてモータ定数設定部16やモータ定数補正部18によって行われるものであるが、説明の簡略化のために以下ではインバータ装置1を主体にして説明する。
【0021】
インバータ装置1は、電源がオンされると通常運転を開始し(S1)、オートチューニングの指示があったか否かを判定する(S2)。具体的には、インバータ装置1は、操作パネル2を介してオートチューニングを実行する旨の指示が入力されたか否かを判定する。インバータ装置1は、オートチューニングの指示がない場合には(S2:NO)、ステップS1に移行して指示を待機する。つまり、インバータ装置1は、電源がオンされたときにはまずオートチューニングを実施する構成とされている。
【0022】
さて、インバータ装置1は、オートチューニングが指示されると(S2:YES)、操作パネル2から入力されたモータ5の定格容量、定格電流、無負荷電流、定格回転数などをパラメータとして設定し(S3)、操作パネル2から入力された周囲温度を設定されると(S4)オートチューニングを実施し(S5)、その結果を不揮発性メモリ20に保存し(S6)、モータ定数を設定し(S7)、電源オン時のモータ定数として不揮発性メモリ20に保存する(S8)。なお、各パラメータは、例えばインバータ装置1の銘版等に記載されている数値が入力され、周囲温度は、例えば室内に設けられている温度計の数値や空調設定温度などが入力される。つまり、インバータ装置1は、モータ温度を直接的に検出するための温度センサを備えていない構成となっている。
【0023】
続いて、インバータ装置1は、操作パネル2を介してオンラインオートチューニングの指示があったか否かを判定する(S8)。このオンラインオートチューニングは、インバータ装置1が通常運転中に適宜行われるオートチューニングを意味しており、処理内容は上記したオートチューニングと同様である。つまり、インバータ装置1は、電源がオンされたタイミング以外の通常運転中にもオートチューニングを実施可能な構成となっている。また、インバータ装置1が通常運転中の状態がいわゆるホット状態に相当する。
【0024】
そして、インバータ装置1は、オンラインオートチューニングの指示が入力されていない場合には(S9:NO)、モータ5の駆動を開始または停止したか否かを判定し(S10)、モータ5の駆動を開始も停止もしていない場合には(S10:NO)、運転状態を取得し(S11)、不揮発性メモリ20に時系列で保存した後(S12)、ステップS8に移行する。つまり、インバータ装置1は、電源がオンされて通常運転を開始した以降では継続的に運転状態を取得する構成となっている。取得された運転状態は不揮発性メモリ20に保存される。
【0025】
一方、インバータ装置1は、オンラインオートチューニングの指示があった場合には(S9:YES)、オンラインオートチューニングを実施し(S13)、その結果を不揮発性メモリ20に保存して(S14)、現時点でのモータ定数として設定する(S15)。なお、電源がオンされた直後に行われるオンラインオートチューニングの結果は、実質的にステップS5のオートチューニングの結果と一致したものとなる。
【0026】
続いて、インバータ装置1は、運転状態を積算し(S16)、モータ定数を補正する(S17)、補正した結果を不揮発性メモリ20に保存する(S18)。
【0027】
ここで、運転状態に基づいてモータ定数を補正する手法について詳細に説明する。まず、モータ5の巻線抵抗と温度上昇との関係は、以下の(1)式で表すことができる。なお、[]内は単位を示す。
【0028】
θ=θ2-θa=(R2/R1-1)×(T+θ1)+(θ1-θa) ・・・(1)
θ:巻線の温度上昇[K]
R2:ホット状態(θ2)における巻線抵抗[Ω](オンラインオートチューニング結果)。
R1:コールド状態(θ1)における巻線抵抗[Ω](オートチューニング結果、およびオンラインオートチューニング結果)。
θ1:コールド状態でR1を測定したときの温度[℃]。本実施形態ではθ1=20℃を設定。
θ2:ホット状態後の巻線温度[℃]
θa:オートチューニング時の周囲温度[℃]。
T:定数。銅に対してはT=235、アルミニュウムに対してはT=225が設定される。なお、他の材料に対しては0℃における抵抗の温度係数の逆数を用いる。
【0029】
また、ホット状態後の巻線抵抗(R2)とコールド状態における巻線抵抗(R1)との関係は以下の(2)式および(3)式で表すことができる。
R2=R1×((T+θ2)/(T+θ1)) ・・・(2)
θ2=((R2/R1)×(T+θ1))-T ・・・(3)
【0030】
さて、ホット状態後の巻線温度(θ2)は、(1)式のように周囲温度(θa)に依存するため、
図3に巻線抵抗-モータ温度相関図として示すように、周囲温度つまりはモータ温度が変化するとオートチューニングにより得られる巻線抵抗も変化する。換言すると、オートチューニングにより得られた巻線抵抗の値は、モータ温度に応じた補正が必要になる。
【0031】
しかし、本実施形態のインバータ装置1の場合には、モータ温度を直接的に検出することができないことから、別の手法でモータ温度を推定する必要がある。そこで、インバータ装置1は、運転状態に基づいてモータ温度を推定している。このとき、インバータ装置1は、モータ温度に関わる運転状態として、
図4に示す始動回数(サイクル数)、運転時間(t)、モータ5電流に基づいて求める負荷率を取得する。
【0032】
図4の場合、インバータ装置1は、1サイクルのモータ5の運転時におけるモータ5の始動時の加速期間(t1)とその加速期間におけるモータ5電流(I1)、加速後の定速期間(t2)とその定速期間におけるモータ5電流(I2)、最初の減速時の減速期間(t3)とその減速期間におけるモータ5電流(I3)、減速後の定速期間(t4)とその定速期間におけるモータ5電流(I4)、停止するための減速期間(t5)とその減速期間におけるモータ5電流(I5)、および、停止後に次の運転が開始されるまでの停止期間(t6)を、運転状態として取得している。
【0033】
また、負荷率は、モータ5の等価実効電流(Irms)から求めることができ、等価実効電流は、等価実効電流計算式から求めることができる。この等価実効電流計算式では、冷却能力-回転速度相関図として示すモータ5の冷却能力も考慮している。モータ5の回転軸にはファンが取り付けられており、そのファンが回転軸と一体で回転することによって空気の流れが形成されてモータ5が冷却される。そのため、ファンの回転速度が速いほど冷却能力も高くなる。そのため、モータ5が100%で回転しているときの回転速度(N0)における冷却能力を100%とすれば、N1やN2といった他の回転速度における冷却能力を相対値で表すことができる。なお、冷却能力-回転速度相関図は試験によって得られるデータである。
【0034】
また、モータ温度の温度上昇は、インバータ装置1は、
図5に温度上昇-時間相関図として示すように、運転時間が長くなるにつれて飽和する。このとき、飽和状態における温度上昇値は、グラフG2で示す負荷率が100「%]の相関、グラフG3で示す負荷率が75「%]の相関、および、グラフG4で示す負荷率が50「%]の相関のように、負荷率によって変化することが試験によって明らかになる。
【0035】
また、インバータ装置1は、温度上昇-周波数相関図として示すように、定トルク運転時には定格の周波数を境にして温度上昇の特性が変化し、可変トルク負荷運転時には周波数が大きくなると温度上昇も大きくなることが試験などによって明らかになる。また、上記した
図4に冷却能力-回転速度相関図として示したように、モータ温度は、運転を継続すると単純に増加するだけでなく、回転速度によって冷却される度合いも変化する。
【0036】
つまり、モータ温度の温度上昇は、運転状態によって変化する。そして、前述のように、オンラインオートチューニングの結果はモータ温度に依存する。そのため、運転状態に基づいてモータ温度を推定し、推定したモータ温度を考慮してモータ定数を補正すれば、より正確なモータ定数、ここでは、巻線抵抗を求めることができ、より正確な制御を行うことができると考えられる。
【0037】
そのため、インバータ装置1は、ステップS16において現時点までの始動回数、運転時間、負荷率、周波数、回転速度、定トルク運転か可変トルク運転かといった運転状態を積算してモータ温度を推定し、ステップS17において上記した(1)から(3)式などに基づいて、オンラインオートチューニングで得られた巻線抵抗を補正し、ステップS18において補正結果を現時点でのモータ定数として不揮発性メモリ20に保存することにより、補正したモータ定数をモータ5の制御に利用可能にする。
【0038】
また、インバータ装置1は、モータ定数を補正するとステップS9に移行し、作業者からオンラインオートチューニングの指示があったタイミング、または、モータ5を始動したタイミング、および、モータ5を停止したタイミングで、オンラインオートチューニングの実施とモータ定数の補正とを実施する。
【0039】
このように、モータ5を繰り返し運転するとき、および、モータ5を連続運転するときなど、モータ5の始動時に毎回行なうオンラインオートチューニングの結果得られたモータ定数を、インバータ主回路4の運転状態の積算データを元にモータ5の温度変化を推定して補正を行なっている。
【0040】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
インバータ装置1は、インバータ主回路4を介してモータ5を制御するものであって、オートチューニングを実施してモータ定数を設定するモータ定数設定部16と、インバータ主回路4の運転状態を取得する運転状態取得部17と、設定されたモータ定数を、インバータ主回路4の運転状態に基づいて補正するモータ定数補正部18と、を備える。
【0041】
これにより、オートチューニング実施した時期や使用頻度によってモータ温度が変化して巻線抵抗値が変わってしまい、モータ定数の不一致から始動時に過電流やトルク不足となることを抑制できる。例えば、繰り返し運転時にモータ温度が上昇した状態で再度始動するときや、連続運転後にしばらく停止してモータ温度が運転時よりも低下した状態で再度始動するときなどにおいて、モータ5の制御を適切に行うことができる。また、周囲環境によりモータ温度が変化した場合であっても、手動でモータ定数の調整をする必要がなくなる。さらに、連続運転中に、負荷率によってモータ温度が変化した場合に生じ得るトルク検出精度の誤差を抑制することができる。
【0042】
したがって、モータ温度を直接的に測定する温度センサを備えていない構成において、自動的にモータ定数を補正することができ、適切な制御を行うことができる。また、オンラインオートチューニングと運転状態を積算したデータを元にモータ5の温度変化を推定してモータ定数の温度補正を行なうことにより、より高精度のベクトル制御が可能になる。
【0043】
また、オートチューニングを実施してモータ定数を設定する工程と、インバータ主回路4の運転状態を取得する工程と、取得したモータ定数を、インバータ主回路4の運転状態に基づいて補正する工程と、を含むモータ定数補正方法によっても同様の効果を得ることができ、モータ温度を直接的に測定する温度センサを備えていない構成において、自動的にモータ定数を補正することができ、適切な制御を行うことができる。
【0044】
また、モータ定数設定部16は、オートチューニングの実施を指示されたとき、モータ5を始動するとき、および、モータ5を停止するときに、オートチューニングを実施してモータ定数を設定する。これにより、自動的にモータ定数を補正することができ、適切な制御を行うことができるとともに、モータ5を停止したタイミングでもオンラインオートチューニングを実施することにより、モータ5の温度上昇によるモータ定数の変化も計測することが可能となり、より正確なモータ定数の変化を把握することができる。すなわち、ホット状態でのモータ定数も補正することが可能になることにより、補正精度の向上を図ることができる。
【0045】
また、運転状態取得部17は、インバータ主回路4の運転状態を継続して取得し、モータ定数補正部18は、取得した運転状態を積算することでモータ5の温度を推定し、推定したモータ5の温度に基づいてモータ定数を補正する。これにより、インバータ主回路4の運転状態、つまりは、モータ温度の上昇や下降に影響を与える条件を継続的に取得することができ、繰り返し運転や連続運転を行った場合であっても精度よくモータ定数を補正することができる。
【0046】
実施形態では巻線抵抗を補正する例を示したが、例えば誘起電圧など他のモータ定数を運転状態に基づいて補正することができる。
実施形態では汎用的なモータ5を想定した例を示したが、昇降用途など起動時にトルクが必要な機械や停止時にトルクが必要な機械を対象とする場合には、ブレーキタイミングをずらす等の対策を行なうことで実施形態の手法を適用することができる。
【0047】
本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
図面中、1はインバータ装置、4はインバータ主回路、5がモータ、16はモータ定数設定部、17は運転状態取得部、18はモータ定数補正部を示す。