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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161726
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】剥離試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/04 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
G01N19/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076691
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000162504
【氏名又は名称】協和界面科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】星埜 由典
(57)【要約】
【課題】試験精度を確保しつつ、簡易な構成によって剥離角度を容易に変更可能な剥離試験装置を提供する。
【解決手段】
試験膜Tが貼り付けられる被着面1xを形成する被着体1と、被着体1を支持する基台2と、基台2上で試験膜Tの一端Taを保持する試験膜保持体3と、基台2上に配置されて被着体1を基台2に対して直線的に移動させる直進移動体5と、直進移動体5に対して被着体1を回動可能とする回動支持体6と、直進移動体5および回動支持体6に対して被着体1を被着面1xの面長さ方向D1にスライド移動させるスライド移動機構7と、試験膜Tが被着面1xから剥離する際の荷重を測定する荷重測定器4とを備える。スライド移動機構7は、方向変換部材15と、方向変換部材15に巻き回されて被着体1をスライド移動させる曲げ変形可能な伝達部材16と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面長さ方向に延びる被着面に該面長さ方向に沿って試験膜が貼り付けられた状態で、該被着面から離間した前記試験膜の一端を引っ張って該試験膜を該被着面から剥離させる剥離試験装置であって、
前記被着面を形成する被着体と、
前記被着体を支持する基台と、
前記基台上に配置されて、前記試験膜における前記一端を保持する試験膜保持体と、
前記基台上に配置されて、前記被着体が前記試験膜保持体に近接離間する方向となる縦方向に、該被着体を前記基台に対して直線的に移動させる直進移動体と、
前記直進移動体と前記被着体との間に介在されて、前記直進移動体に対して前記被着体を、前記面長さ方向および前記縦方向に交差するとともに前記被着面に貼り付けられた前記試験膜の膜幅方向となる高さ方向に延びる回動中心軸線回りに回動可能とする回動支持体と、
前記直進移動体および前記回動支持体に対して前記被着体を前記面長さ方向にスライド移動させるスライド移動機構と、
前記試験膜が前記被着面から剥離する際の前記縦方向の荷重を測定する荷重測定器と、
を備え、
前記スライド移動機構は、
前記回動支持体に設けられ、前記高さ方向に延びる方向変換軸線を中心とした方向変換部材と、
前記方向変換部材に巻き回されるとともに自身の一端が前記基台側または試験膜保持体側に支持され、かつ自身の他端が前記被着体側に支持され、前記被着体が前記試験膜保持体から離間する側への直進移動体の移動にともなって自身に作用する張力を前記被着体に伝達して、前記試験膜が前記被着面から剥離する側へ前記被着体をスライド移動させる曲げ変形可能な線状部材、ベルト、またはチェーンである伝達部材と、
を有する剥離試験装置。
【請求項2】
前記方向変換軸線と前記回動中心軸線との間の距離は、5mm以下となっている請求項1に記載の剥離試験装置。
【請求項3】
前記方向変換軸線と前記回動中心軸線とが同軸上に配置されている請求項2に記載の剥離試験装置。
【請求項4】
前記方向変換軸線は、前記高さ方向から見て、前記スライド移動機構によってスライド移動する前記被着体における前記面長さ方向の一端と他端との間に常に位置している請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項5】
前記面長さ方向における前記試験膜が剥離する側への前記スライド移動機構によるスライド移動を正側へのスライド移動と定義する際、該正側とは反対側となる逆側へ、前記被着体を付勢する付勢部材をさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項6】
前記付勢部材における付勢力は、前記縦方向が鉛直方向に一致する場合における前記被着体に作用する重力よりも大きくなっている請求項5に記載の剥離試験装置。
【請求項7】
前記基台側には、前記伝達部材における前記一端を支持する一端側支持部が設けられ、前記被着体側には、前記伝達部材における前記他端を支持する他端側支持部が設けられ、
前記一端側支持部が前記基台に対して前記縦方向に移動可能になっている、および/または前記他端側支持部が前記被着体に対して前記面長さ方向に移動可能になっている請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項8】
前記試験膜が前記被着面から剥離する該被着面上の剥離位置が、前記回動中心軸線の近傍に位置している請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項9】
前記試験膜保持体は、前記基台に対して前記縦方向に移動可能になっている請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項10】
前記試験膜が前記被着面から剥離する該被着面上の剥離位置が、前記回動中心軸線と異なる位置に配置されている請求項9に記載の剥離試験装置。
【請求項11】
前記方向変換部材がプーリーである場合には該プーリーの呼び直径を変換部材径とし、前記方向変換部材がタイミングプーリーまたは歯車である場合にはピッチ円直径を変換部材径としたとき、
前記変換部材径は、30mm以下となっている請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項12】
前記伝達部材は、金属製のワイヤーである請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項13】
前記伝達部材は、タイミングベルトであり、
前記方向変換部材は、タイミングプーリーである請求項1から3のいずれか一項に記載の剥離試験装置。
【請求項14】
前記回動支持体または前記直進移動体に設けられ、前記試験膜が前記被着面から剥離する際に該被着面上の剥離位置において発生する物理量を測定する剥離現象測定センサをさらに備える請求項1に記載の剥離試験装置。
【請求項15】
面長さ方向に延びる被着面に該面長さ方向に沿って試験膜が貼り付けられた状態で、該被着面から離間した前記試験膜の一端を引っ張って該試験膜を該被着面から剥離させる剥離試験装置であって、
前記被着面を形成する被着体と、
前記被着体を支持する基台と、
前記基台上に配置されて、前記試験膜における前記一端を保持する試験膜保持体と、
前記基台上に配置されて、前記被着体が前記試験膜保持体に近接離間する方向となる縦方向に、該被着体を前記基台に対して直線的に移動させる直進移動体と、
前記直進移動体と前記被着体との間に介在されて、前記直進移動体に対して前記被着体を、前記面長さ方向および前記縦方向に交差するとともに前記被着面に貼り付けられた前記試験膜の膜幅方向となる高さ方向に延びる回動中心軸線回りに回動可能とする回動支持体と、
前記直進移動体および前記回動支持体に対して前記被着体を前記面長さ方向にスライド移動させるスライド移動機構と、
前記回動支持体または前記直進移動体に設けられ、前記試験膜が前記被着面から剥離する際に該被着面上の剥離位置において発生する物理量を測定する剥離現象測定センサと、
を備える剥離試験装置。
【請求項16】
前記剥離現象測定センサは前記直進移動体に設けられ、
前記試験膜が前記被着面から剥離する該被着面上の剥離位置が、前記回動中心軸線の近傍に位置している請求項14または15に記載の剥離試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着面から試験膜を引き剥がす際に使用される剥離試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着テープや粘着シートの粘着力や、接着剤等の剥離接着強さを測定するための試験として剥離試験が行われている。剥離試験としては、例えばJIS Z 0237に90度剥離試験および180度剥離試験が規定されている。
【0003】
ここで特許文献1には90度の剥離角度で剥離試験を行う装置が記載されている。この装置では、引き上げ台を介して被試験体と基台を引き上げることで剥離角度を90度に常に保ちつつ被試験体を基台の接着剤から引き剥がすことで試験精度を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-194599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで実際には、剥離角度が90度や180度以外の剥離角度で試験を行ったり、さらには、試験中に剥離角度を複数回変化させたりする試験を行いたいとの要望があるが、特許文献1の装置においては剥離角度を任意に変化させることは難しい。
【0006】
そこで本発明は、試験精度を確保しつつ、簡易な構成によって剥離角度を容易に変更可能な剥離試験装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る剥離試験装置は、面長さ方向に延びる被着面に該面長さ方向に沿って試験膜が貼り付けられた状態で、該被着面から離間した前記試験膜の一端を引っ張って該試験膜を該被着面から剥離させる剥離試験装置であって、前記被着面を形成する被着体と、前記被着体を支持する基台と、前記基台上に配置されて、前記試験膜における前記一端を保持する試験膜保持体と、前記基台上に配置されて、前記被着体が前記試験膜保持体に近接離間する方向となる縦方向に、該被着体を前記基台に対して直線的に移動させる直進移動体と、前記直進移動体と前記被着体との間に介在されて、前記直進移動体に対して前記被着体を、前記面長さ方向および前記縦方向に交差するとともに前記被着面に貼り付けられた前記試験膜の膜幅方向となる高さ方向に延びる回動中心軸線回りに回動可能とする回動支持体と、前記直進移動体および前記回動支持体に対して前記被着体を前記面長さ方向にスライド移動させるスライド移動機構と、前記試験膜が前記被着面から剥離する際の前記縦方向の荷重を測定する荷重測定器と、を備え、前記スライド移動機構は、前記回動支持体に設けられ、前記高さ方向に延びる方向変換軸線を中心とした方向変換部材と、前記方向変換部材に巻き回されるとともに自身の一端が前記基台側または試験膜保持体側に支持され、かつ自身の他端が前記被着体側に支持され、前記被着体が前記試験膜保持体から離間する側への直進移動体の移動にともなって自身に作用する張力を前記被着体に伝達して、前記試験膜が前記被着面から剥離する側へ前記被着体をスライド移動させる曲げ変形可能な線状部材、ベルト、またはチェーンである伝達部材と、を有する。
【0008】
また上記剥離試験装置では、前記方向変換軸線と前記回動中心軸線との間の距離は、5mm以下となっていてもよい。
【0009】
また上記剥離試験装置では、前記方向変換軸線と前記回動中心軸線とが同軸上に配置されていてもよい。
【0010】
また上記剥離試験装置では、前記方向変換軸線は、前記高さ方向から見て、前記スライド移動機構によってスライド移動する前記被着体における前記面長さ方向の一端と他端との間に常に位置していてもよい。
【0011】
また上記剥離試験装置では、前記面長さ方向における前記試験膜が剥離する側への前記スライド移動機構によるスライド移動を正側へのスライド移動と定義する際、該正側とは反対側となる逆側へ、前記被着体を付勢する付勢部材をさらに備えてもよい。
【0012】
また上記剥離試験装置では、前記付勢部材における付勢力は、前記縦方向が鉛直方向に一致する場合における前記被着体に作用する重力よりも大きくなっていてもよい。
【0013】
また上記剥離試験装置では、前記基台側には、前記伝達部材における前記一端を支持する一端側支持部が設けられ、前記被着体側には、前記伝達部材における前記他端を支持する他端側支持部が設けられ、前記一端側支持部が前記基台に対して前記縦方向に移動可能になっている、および/または前記他端側支持部が前記被着体に対して前記面長さ方向に移動可能になっていてもよい。
【0014】
また上記剥離試験装置では、前記試験膜が前記被着面から剥離する該被着面上の剥離位置が、前記回動中心軸線の近傍に位置していてもよい。
【0015】
また上記剥離試験装置では、前記試験膜保持体は、前記基台に対して前記縦方向に移動可能になっていてもよい。
【0016】
また上記剥離試験装置では、前記試験膜が前記被着面から剥離する該被着面上の剥離位置が、前記回動中心軸線と異なる位置に配置されていてもよい。
【0017】
また上記剥離試験装置では、前記方向変換部材がプーリーである場合には該プーリーの呼び直径を変換部材径とし、前記方向変換部材がタイミングプーリーまたは歯車である場合にはピッチ円直径を変換部材径としたとき、前記変換部材径は、30mm以下となっていてもよい。
【0018】
また上記剥離試験装置では、前記伝達部材は、金属製のワイヤーであってもよい。
【0019】
また上記剥離試験装置では、前記伝達部材は、タイミングベルトであり、前記方向変換部材は、タイミングプーリーであってもよい。
【0020】
また上記剥離試験装置は、前記回動支持体または前記直進移動体に設けられ、前記試験膜が前記被着面から剥離する際に該被着面上の剥離位置において発生する物理量を測定する剥離現象測定センサをさらに備えていてもよい。
【0021】
また本発明の他の態様に係る剥離試験装置は、面長さ方向に延びる被着面に該面長さ方向に沿って試験膜が貼り付けられた状態で、該被着面から離間した前記試験膜の一端を引っ張って該試験膜を該被着面から剥離させる剥離試験装置であって、前記被着面を形成する被着体と、前記被着体を支持する基台と、前記基台上に配置されて、前記試験膜における前記一端を保持する試験膜保持体と、前記基台上に配置されて、前記被着体が前記試験膜保持体に近接離間する方向となる縦方向に、該被着体を前記基台に対して直線的に移動させる直進移動体と、前記直進移動体と前記被着体との間に介在されて、前記直進移動体に対して前記被着体を、前記面長さ方向および前記縦方向に交差するとともに前記被着面に貼り付けられた前記試験膜の膜幅方向となる高さ方向に延びる回動中心軸線回りに回動可能とする回動支持体と、前記直進移動体および前記回動支持体に対して前記被着体を前記面長さ方向にスライド移動させるスライド移動機構と、前記回動支持体または前記直進移動体に設けられ、前記試験膜が前記被着面から剥離する際に該被着面上の剥離位置において発生する物理量を測定する剥離現象測定センサと、を備えている。
【0022】
また上記剥離試験装置では、前記剥離現象測定センサは前記直進移動体に設けられ、前記試験膜が前記被着面から剥離する該被着面上の剥離位置が、前記回動中心軸線の近傍に位置していてもよい。
【発明の効果】
【0023】
上記の剥離試験装置によれば、試験精度を確保しつつ、簡易な構成によって剥離角度を容易に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る剥離試験装置の全体上面図である。
図2】上記剥離試験装置の全体上面図であって、図1に示す状態に対して試験膜の剥離を進行させた状態を示す図である。
図3】上記剥離試験装置の全体上面図であって、図1に示す状態に対して剥離角度θを変化させた状態を示す図である。
図4】上記剥離試験装置の全体側面図であって、図1のI矢視図を示す。
図5】上記剥離試験装置の剥離角度を変化させた際のスライド移動機構の動きを示す模式図であって、(a)は剥離角度が図1に示す角度である場合を、(b)は剥離角度θが図3に示す角度である場合を示す。
図6】上記実施形態の変形例1に係る剥離試験装置の全体上面図である。
図7】上記実施形態の変形例2に係る剥離試験装置のスライド移動機構を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(全体構成)
図1および図2に示すように剥離試験装置100は、試験膜Tが被着面1xに貼り付けられた状態で、被着面1xから離間した試験膜Tの一端Taを引っ張って試験膜Tを被着面1xから剥離させる装置である。この剥離試験装置100は、試験膜Tが貼り付けられる被着面1xを形成する被着体1と、被着体1を支持する基台2と、基台2上で試験膜Tを保持する試験膜保持体3と、試験膜Tが被着体1から剥離する際の荷重を測定する荷重測定器4と、被着体1と基台2との間に介在された直進移動体5および回動支持体6と、直進移動体5および回動支持体6に対して被着体1をスライド移動させるスライド移動機構7と、回動支持体6に設けられた剥離現象測定センサ8とを備えている。試験膜Tは例えば粘着テープ等であって、テープ厚さ方向の一方側を向く面が接着面Bとなっている。
【0026】
(被着体)
被着体1は棒状または板状をなし、自身の長手方向に延びる平面状の被着面1xを形成している。被着面1xには試験膜Tの接着面Bが接着可能となっている。以下被着体1の長手方向を被着面1xの面長さ方向D1と定義する。試験膜Tはこの面長さ方向D1に沿って被着面1xに貼り付けられる。
【0027】
(基台)
基台2は被着体1に対して、面長さ方向D1に交差するとともに被着面1xに沿う方向となる高さ方向D2の一方側に配置されている。基台2は詳しく後述する直進移動体5および回動支持体6を介して被着体1を移動および回転可能に支持している。
【0028】
なお本実施形態では、高さ方向D2は例えば鉛直方向に沿う方向であってもよいし、水平方向に沿う方向であってもよく、剥離試験装置100の使用姿勢は特に限定されないが、以下では高さ方向D2は鉛直方向に沿う方向、すなわち基台2が剥離試験装置100の最も下部に位置する場合を想定して説明する。
【0029】
(試験膜保持体)
試験膜保持体3は、面長さ方向D1および高さ方向D2に交差する縦方向D3の一方側、すなわち被着体1の被着面1xに対向する側(図1の紙面に向かって上側)に配置されている。また試験膜保持体3は基台2上で、基台2に対して高さ方向D2の他方側(上側)に配置されており、詳しく後述する荷重測定器4に接続されている。試験膜保持体3には、面長さ方向D1の一方側(図1の紙面に向かって右側)を向く平面状の保持面3aが形成されている。この保持面3aに試験膜Tの一端Taにおける接着面Bが貼り付けられた状態で試験膜保持体3にチャックされることで、試験膜保持体3が試験膜Tの一端Ta(被着体1に貼り付けられていない側の一端)を保持している。
【0030】
また試験膜保持体3は、基台2に対して縦方向D3の両側へ移動可能になっており、自身の基台2上の位置を調整可能になっている。
【0031】
なお試験膜保持体3の構成は特に限定されるものではなく、試験膜Tの一端Taをクランプしたり、チャックやクランプすることなく貼り付けたりすることによって試験膜Tの一端Taを保持するものであってもよい。
【0032】
(荷重測定器)
荷重測定器4は、試験膜保持体3に対して縦方向D3の一方側(図1の紙面に向かって上側)において基台2上に配置され、基台2に支持されている。荷重測定器4は、試験膜保持体3に加わる荷重、すなわち試験膜Tを被着体1から剥離するのに要する縦方向D3の荷重(引張り力)を測定するものである。本実施形態の荷重測定器4は不図示のロードセルを有している。荷重測定器4は基台2内に設けられた制御装置200と電気的に接続されており、荷重測定器4からの出力信号が制御装置200に送信され、荷重測定器4からの出力が剥離に要する荷重の値に変換される。制御装置200では、詳しく後述する付勢部材20の付勢力(被着体1をスライド移動させる際の力)を考慮して荷重測定器4からの出力を試験膜Tの剥離に要する荷重に変換する。
【0033】
なお制御装置200の詳細な図示は省略するが、制御装置200は例えばCPUと、ROM、RAM、およびハードディスク等の記憶手段とを備えている。なお荷重測定器4の構成は特に限定されるものではなく、例えばひずみゲージ式、圧電式、容量式、電磁式、または音叉式等の方式によって荷重を測定するものであってもよい。
【0034】
なお制御装置200によって、試験膜保持体3の位置調整や詳しく後述する伝達部材16を支持する一端側支持部18の位置調整を自動で行ってもよい。
【0035】
(直進移動体)
直進移動体5は、基台2に対して高さ方向D2の他方側(上側)に配置され、被着体1を基台2に対して縦方向D3に直線的に相対移動させる。より具体的には、基台2上に縦方向D3に延びるガイド部材10が設けられ、直進移動体5はガイド部材10に噛み合っている。これにより直進移動体5は試験膜保持体3に対して縦方向D3に近接離間するように移動可能となっている。直進移動体5は、基台2に設けられた不図示の駆動機構(モータやアクチュエータ等)によって移動させられる。この際、上記駆動機構は制御装置200によって制御されることで、直進移動体5が任意の速度で移動可能であり、かつ任意の位置で停止可能となっている。
【0036】
図3に示すように回動支持体6は、直進移動体5と被着体1との間に介在されて、直進移動体5(および基台2)に対して装置高さ方向D2に延びる回動中心軸線O1回りに被着体1が回動可能となるように被着体1を支持している。本実施形態において回動中心軸線O1は、装置高さ方向D2から見て被着体1における被着面1x上に配置されている。
【0037】
回動支持体6は、例えば不図示のストッパにより、任意の角度に回転させた状態で固定することが可能となっている。本実施形態では回動支持体6を回動させることにより、被着体1に対する試験膜Tの剥離角度θを0°<θ≦180°の範囲内における任意の角度に設定可能としている。なおここでいう「剥離角度θ」は、被着面1xに貼り付けられた試験膜Tのうちの一部領域と、被着面1xから離間して試験膜保持体3に保持される試験膜Tのうちの残部領域とがなす角を示す。
【0038】
ここで回動中心軸線O1の近傍(回動中心軸線O1の方向から見た平面視で、回動中心軸線O1から10mm以内の範囲)に、好ましくは回動中心軸線O1上に、試験膜Tが被着面1xから剥離する被着面1x上の剥離位置Pが位置している。なお回動支持体6の動作を制御装置200によって制御し、例えば使用者が設定(入力)した剥離角度θとなるように自動で回動支持体6を動作させてもよい。
【0039】
(スライド移動機構)
スライド移動機構7は、直進移動体5に対して被着体1を面長さ方向D1にスライド移動させる。より具体的にはスライド移動機構7は、回動支持体6に設けられた方向変換部材15と、方向変換部材15に巻き回される伝達部材16と、回動支持体6に設けられて被着体1を上記スライド移動可能に保持するスライダ17とを有している。
【0040】
本実施形態の方向変換部材15はプーリー(平プーリー)であって、高さ方向D2に延びる方向変換軸線O2を中心として配置されている。本実施形態では方向変換軸線O2は回動中心軸線O1と同軸上に配置されており、すなわち高さ方向D2から見て被着体1における被着面1x上に配置されている。また方向変換部材15を高さ方向D2から見たとき、方向変換軸線O2が常に被着体1における面長さ方向D1の一端1aと他端1bとの間に位置し、すなわち、方向変換軸線O2が面長さ方向D1に被着体1から常時はみ出さないような位置に方向変換部材15が設けられる。
【0041】
ここで図4および図5に示すように方向変換部材15の呼び直径(伝達部材16が接触する面の径:変換部材径)となるプーリー径dは30mm以下となっているとよい。
【0042】
伝達部材16は線状部材であって、曲げ変形可能となっている。本実施形態では伝達部材16は一本の金属製のワイヤーであって、伝達部材16の一端16aは基台2の側に支持されている。より具体的には伝達部材16の一端16aは基台2上に設けられた一端側支持部18に支持されている。この一端側支持部18は基台2に対して縦方向D3の両側に移動可能となっており、すなわち伝達部材16の一端16aは縦方向D3に移動可能となっており、伝達部材16の張り具合を調節可能となっている。
【0043】
また伝達部材16の他端16bは被着体1の側に支持されている。より具体的には伝達部材16の他端16bは被着体1に設けられた他端側支持部11に支持されている。他端側支持部11は被着体1において、面長さ方向D1の一端1aの側に寄った位置、すなわち被着面1xに貼り付けられた試験膜Tの他端Tbの側に寄った位置に設けられている。
【0044】
スライダ17は、詳細な図示は省略するが、例えば面長さ方向D1に延びるレールを有しており、このレールに被着体1が?み合って回動支持体6に対して被着体1をスライド移動させるようになっている。
【0045】
そして上述したスライド移動機構7の構成により、直進移動体5が試験膜保持体3から離間する側への被着体1の移動にともなって伝達部材16に作用する張力が被着体1に伝達され、被着体1が面長さ方向D1に引っ張られ、試験膜Tが被着面1xから剥離する側となる面長さ方向D1の他方側(図1の紙面に向かって左側)へ向けて被着体1がスライド移動するようになっている。すなわち図1に示す状態から図2に示す状態となる方向に被着体1がスライド移動する。
以下、試験膜Tが剥離する側へのスライド移動機構7によるスライド移動を正側へのスライド移動と定義する。
【0046】
ここでスライド移動の際、試験膜Tの剥離位置Pは、基台2に対して面長さ方向D1には移動せず一定の位置に配置され、基台2に対して縦方向D3のみに移動する。そして被着体1のスライド移動の際、試験膜Tは、試験膜保持体3と方向変換部材15との間の領域において常に縦方向D3に延びた状態で維持される。
【0047】
ところで伝達部材16が、図5(a)および図5(b)に示すように一端16a(図3参照)と当該一端16aの側で方向変換部材15に接触する位置との間の領域である保持側領域160、他端16b(図3参照)と当該他端16bの側で方向変換部材15に接触する位置との間の領域であるスライド側領域161、および保持側領域160とスライド側領域161との間で方向変換部材15に巻き回された領域である変換部材対向領域162を有している。そして回動支持体6によって被着体1を回動させて剥離角度θをθ1度からθ1度よりも小さいθ2度に減少させた場合、変換部材対向領域162の長さはL1だけ増加する。この変化量L1はL1=πd×(θ1―θ2)/360となる。このため一端側支持部18は少なくともL1を、縦方向D3の他方側(図1の紙面に向かって下側)へ調整可能となっている。なお逆に回動支持体6によって剥離角度θを増大させる場合には、伝達部材16の変換部材対向領域162の長さは減少するため、一端側支持部18の位置を縦方向D3の一方側(図1の紙面に向かって上側)へ調整することになる。
【0048】
(付勢部材)
ここで図1および図2に戻って、回動支持体6と被着体1との間には、試験膜Tが剥離する側(正側)への被着体1のスライド移動に抗するように、被着体1を付勢する付勢部材20が設けられている。すなわち付勢部材20は正側とは逆側へ被着体1を付勢する。本実施形態では付勢部材20は例えば面長さ方向D1に延びるコイルばねであって、付勢部材20の一端20aが、被着体1において他端1bに寄った位置に設けられた一端側付勢支持部12によって支持され、付勢部材20の他端20bが、面長さ方向D1に被着体1の一端1aと他端1bとの間の位置で回動支持体6に設けられた他端側付勢支持部6xによって面長さ方向D1に支持されている。
なお、本実施形態の付勢部材20は、引き伸ばされることで付勢力を発生する「引きばね」となっているが、これに限定されず、例えば押し付けられることで付勢力を発生する「押しばね」であってもよい。付勢部材20が押しばねの場合、付勢部材20の一端20aが、回動支持体6の他端側付勢支持部6xに対して被着体1の一端1aに近い側で被着体1に支持されることになる。
【0049】
そして仮に縦方向D3を鉛直方向に一致させた場合、すなわち鉛直方向に直進移動体5を移動させる場合において被着体1に作用する重力よりも、付勢部材20の付勢力が大きくなっている。
【0050】
(剥離現象測定センサ)
剥離現象測定センサ8は、試験膜Tが被着面1xから剥離する際に当該被着面1x上の剥離位置Pにおいて発生する物理量を、非接触で測定するセンサである。具体的には剥離現象測定センサ8は、例えば剥離時に発生する静電気を測定する静電気センサ、剥離時の発光を測定する光センサ(イメージセンサ等)、剥離時の発熱を測定する温度センサ等となっている。剥離現象測定センサ8は回動支持体6に固定されて、剥離位置Pに対向配置されている。そして剥離現象測定センサ8から剥離位置Pまでの距離(直線距離)dpは、被着体1の位置に関わらず一定に保たれる。
【0051】
(作用効果)
以上説明した剥離試験装置100によれば、スライド移動機構7を線状部材である伝達部材16、およびプーリーである方向変換部材15によって構成したことで、非常に簡易な構成によって被着体1を正側へスライド移動させることで試験膜Tを被着面1xから剥離させることができる。またこのようなスライド移動機構7を採用することで、回動支持体6によって試験膜Tを剥離させる際の剥離角度θを任意に、かつ容易に変更することができるとともに、設定した剥離角度θを一定に保って被着体1を正側へスライド移動させることが可能となり、試験精度を確保できる。
【0052】
また回動支持体6の回動中心軸線O1と、方向変換部材15の方向変換軸線O2とが同軸上に配置されていることで、試験膜Tの剥離角度θを変化させた際の伝達部材16の位置ずれを最小限に抑えることができ、剥離角度θを変化させた際の伝達部材16の張り具合の調整量を最小限に抑えることができ、容易に剥離角度θを変化させつつ剥離試験を行うことができる。
【0053】
また方向変換部材15の方向変換軸線O2は被着体1における面長さ方向D1の一端1aと他端1bとの間に常に位置しているため、仮に方向変換軸線O2が被着体1の他端1bよりも面長さ方向D1の他方側(図1の紙面に向かって左側)に配置されている場合に比べて、被着体1を正側にスライド移動させた際の被着体1の移動量(移動幅)を小さくでき、剥離試験装置100全体における面長さ方向D1のサイズを小さく抑えることができ、剥離試験装置100の省スペースにつながる。
【0054】
回動支持体6と被着体1との間には被着体1を付勢する付勢部材20が設けられているため、正側への被着体1のスライド移動の際に、スライド移動機構7によって被着体1に均一に引っ張り力を作用させることができ、安定して剥離試験を行うことができる。
【0055】
さらには、本実施形態では付勢部材20における付勢力は、仮に縦方向D3が鉛直方向に一致する場合において、被着体1に作用する重力よりも大きくなっている。このため、被着体1が重力によって自由落下によってスライド移動してしまうことを回避できる。よって縦型の引っ張り試験機に本実施形態の剥離試験装置100を使用することも可能となる。
【0056】
また線状部材である伝達部材16における一端16aを支持する一端側支持部18が基台2に対して縦方向D3に移動可能になっているため、回動支持体6を回動させて剥離角度θを変更する際において、伝達部材16の位置ずれ(たわみや張り過ぎ)を容易に調整することができる。
【0057】
また試験膜Tが被着面1xから剥離する被着面1x上の剥離位置Pが、回動中心軸線O1の近傍に、好ましくは回動中心軸線O1上に位置しているため、試験膜Tを被着面1xに貼り付けたまま剥離角度θを変化させた際の試験膜Tの位置ずれ(たわみや張り過ぎ)を小さく抑えることができる。
【0058】
また本実施形態では、試験膜保持体3が基台2に対して縦方向D3に移動可能になっているため、仮に剥離角度θを変化させた際の試験膜Tの位置ずれ(たわみや張り過ぎ)が生じた際であっても、試験膜Tの位置ずれを容易に調整できる。
【0059】
また方向変換部材15のプーリー径dが30mm以下となっていれば、剥離角度θを変化させた際の伝達部材16の位置ずれ(たわみや張り過ぎ)を最小限に抑えることができ、剥離角度θを容易に変更でき、様々な剥離角度θでの剥離試験を容易に実施することができる。
【0060】
またスライド移動機構7では伝達部材16が金属製のワイヤーとなっているため、スライド移動機構7を簡易な構成としつつ、繰り返し被着体1をスライド移動させるとしても十分な耐久性を確保することができる。
【0061】
また剥離現象測定センサ8を回動支持体6に設けたことで、剥離現象測定センサ8から剥離位置Pまでの距離dpを常に一定に保たれ、剥離時に発生する静電気等の物理量を測定する際の測定精度を高めることができる。特に剥離時に発生する静電気を正確に測定できることによって、例えば試験膜Tを電子デバイスに貼り付ける粘着テープとして使用するような場合において、剥離帯電のトラブル等を回避することが可能となる。
【0062】
ここで本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0063】
例えば図6に示すように、試験膜Tが被着面1xから剥離する剥離位置Pが、回動中心軸線O1と異なる位置(離れた位置)に配置されていてもよい。この場合、剥離角度θをθ1からθ2に減少させると、L2だけ試験膜Tが短くなってたわんでしまうが、試験膜保持体3を少なくとも縦方向D3にL2移動可能に構成することで、容易に試験膜Tのたわみを取ることができる。また剥離角度θを増加させる場合には試験膜Tが張り過ぎになってしまうが、同様に試験膜保持体3の移動によって試験膜Tの位置調整が可能となる。
【0064】
また回動支持体6の回動中心軸線O1と方向変換部材15の方向変換軸線O2とは、必ずしも同軸上に配置されていなくともよいが、回動中心軸線O1と方向変換軸線O2との間の距離は5mm以下となっているとよい。この場合、剥離角度θを変化させた際の伝達部材16の位置ずれ(たわみや張り過ぎ)を最小限に抑えることができ、伝達部材16の一端16aを支持する一端側支持部18の位置調整が容易となる。
【0065】
また、伝達部材16の一端16aを支持する一端側支持部18の位置調整に代えて、もしくは一端側支持部18の位置調整とともに伝達部材16の他端16bを支持する他端側支持部11の位置を面長さ方向D1に調整可能としてもよい。
【0066】
伝達部材16には金属製のワイヤーだけでなく、繊維の糸、樹脂の糸(釣り糸)等の線状部材を採用してもよい。また方向変換部材15には平プーリーだけでなく例えばVプーリー等の他の形式のプーリーを採用してもよい。
【0067】
さらには図7に示すように、伝達部材16Aはタイミングベルトであり、かつ方向変換部材15Aはタイミングプーリーであってもよい。この場合、被着体1の位置を精度よく制御することが可能となる。同様に伝達部材16Aはチェーンであり、かつ方向変換部材15Aは歯車であってもよい。そして、プーリーである方向変換部材15と同様に、タイミングプーリーまたは歯車である方向変換部材15Aのピッチ円直径(変換部材径)も30mm以下となっていることが好ましい。
【0068】
また剥離現象測定センサ8は直進移動体5に設けられてもよいが、この場合、剥離現象測定センサ8と剥離位置Pとの距離dpを被着体1の位置に関わらず完全に一定に保つため、剥離位置Pが回動中心軸線O1の近傍に、好ましくは回動中心軸線O1上に位置しているとよい。
なお剥離現象測定センサ8は上記以外の構成のスライド移動機構を有する剥離試験装置にも適用可能であり、また荷重測定器4を使用せず、剥離現象測定センサ8によって測定した物理量から試験膜Tが被着面1xから剥離する際の上記荷重を算出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の剥離試験装置によれば、試験精度を確保しつつ、簡易な構成によって剥離角度を容易に変更可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…被着体
1x…被着面
2…基台
3…試験膜保持体
3a…保持面
4…荷重測定器
5…直進移動体
6…回動支持体
7…スライド移動機構
8…剥離現象測定センサ
11…他端側支持部
15、15A…方向変換部材
16、16A…伝達部材
18…一端側支持部
20…付勢部材
100…剥離試験装置
200…制御装置
D1…面長さ方向
D2…高さ方向
D3…縦方向
O1…回動中心軸線
O2…方向変換軸線
P…剥離位置
T…試験膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7