(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161730
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ポリマー、成形体、モノマー、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/10 20060101AFI20241113BHJP
C08G 77/38 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08G77/10
C08G77/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076706
(22)【出願日】2023-05-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/“ビヨンド・ゼロ”社会実現に向けたCO2循環システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】國武 雅司
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246BA020
4J246BA02X
4J246BB020
4J246BB021
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA010
4J246CA01E
4J246CA01U
4J246CA01X
4J246CA240
4J246CA24M
4J246CA24U
4J246CA24X
4J246CA270
4J246CA27E
4J246CA27M
4J246CA27X
4J246FA222
4J246FA271
4J246FA291
4J246FA371
4J246FA372
4J246FA451
4J246FA452
4J246FB091
4J246FE04
4J246FE27
4J246FE35
4J246GA01
4J246GA11
4J246GB02
4J246GC21
4J246GC60
4J246HA56
4J246HA70
(57)【要約】
【課題】新たなモノマーを用いた成形体とすることができるポリマーや、それらの製造方法等を提供する。
【解決手段】シロキサン系化合物の構造の複数の端部にアントラセン構造を有するモノマーに、前記モノマーを重合させるための光を照射することで、前記モノマー間の前記アントラセン構造を二量体化させる重合工程を有する、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーの製造方法。シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有する原料ポリマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有する、ポリマーの製造方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン系化合物の構造の複数の端部にアントラセン構造を有するモノマーに、前記モノマーを重合させるための光を照射することで、前記モノマー間の前記アントラセン構造を二量体化させる重合工程を有する、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーの製造方法。
【請求項2】
シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有する原料ポリマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有する、ポリマーの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリマーの製造方法で製造されたポリマーを含む成形体の成形工程を有する、成形体の製造方法。
【請求項4】
シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマー。
【請求項5】
シロキサン系化合物の構造と複数のアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーに、加熱および/または光照射をすることで、前記ポリマーの前記アントラセンの二量体構造を解離させることで前記ポリマーを解重合して、前記ポリマーのモノマーを得る解重合工程を有する、モノマーの製造方法。
【請求項6】
反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物とを混合して、前記シロキサン系化合物の前記反応性末端と、前記反応性アントラセン系化合物の反応性基とを反応させる反応工程を有する、
前記シロキサン系化合物由来のシロキサン構造の複数の端部に、前記アントラセン系化合物由来のアントラセン構造を有するモノマーの製造方法。
【請求項7】
前記反応性アントラセン系化合物が、ビニルアントラセンであり、前記シロキサン系化合物が、ポリジメチルシロキサンであり、前記反応工程が、触媒の存在下で行われる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
シロキサン系化合物由来のシロキサン構造の複数の端部にアントラセン系化合物由来のアントラセン構造を有する原料モノマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有するモノマーの製造方法。
【請求項9】
シロキサン系化合物の構造の複数の端部に、アントラセン構造を有するモノマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン系化合物の構造とアントラセン基を有するモノマーに関する。また、本発明は、このモノマーを用いたポリマーに関する。また、本発明は、このポリマーを含む成形体に関する。また、本発明は、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なポリマー等の材料が開発されて実用化されている。ポリマー等もその具体的な構造等によって多様な物性を示し、その製造方法やリサイクル性なども様々である。各種用途での需要や、社会情勢の変化などに伴い日々新たなポリマー等の開発が求められている。
【0003】
本発明者らは、例えば、二官能性カゴ型シルセスキオキサン(POSS)をジメチルシロキサン鎖で交互に繋いだネックレス型ポリマー等を開発してきた。特許文献1は、無機物質及び有機物質から選択される物質と、該物質表面に結合した、所定の式で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位および所定の式で表される鎖状シロキサン繰り返し単位を含むポリシロキサンと、を含む、ポリシロキサン複合体であって、前記ポリシロキサンは所定の式で表される鎖状シロキサンを介して前記物質表面に結合した、ポリシロキサン複合体を開示している。
【0004】
このネックレス型ポリマーともいえるポリシロキサン複合体は、その耐熱性や接着特性を活かした応用開発と実用化も進んでいる。ネックレス型ポリマーは、嵩高い剛直ユニットとソフトなシロキサン鎖を交互に繋いだものである。これにより、機能性ナノユニットの均質な分散を実現したアモルファス構造と、ハードユニット間を繋ぐシロキサン鎖の長さの調節によるポリマー物理特性(ガラス転移温度やフレキシビリティ)の系統的な制御が可能という特徴がある。
【0005】
化合物の反応性や材料の研究として、非特許文献1は、シリコーンポリマーの架橋に用いたアントラセン二量化を用いた研究に関する。これはポリシロキサンの側鎖にアントラセンを導入して、アントラセンの光ダイマー化と熱モノマー化を利用した可逆架橋システムを実現したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Light- and heat-triggered reversible luminescent materials based on polysiloxanes with anthracene groups, D. Han, et. al., RSC Adv.,2017, 7, 56489.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献1等の従来のネックレス型ポリマー等は異なる物性の材料を提供することを検討した。そして、この検討を通して新たなポリマーやモノマー等を発見した。本願は、光重合等により重合することができ、モノマー等として回収することもできて再利用にも適したポリマーや、このポリマーを用いる成形体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0010】
<1> シロキサン系化合物の構造の複数の端部にアントラセン構造を有するモノマーに、前記モノマーを重合させるための光を照射することで、前記モノマー間の前記アントラセン構造を二量体化させる重合工程を有する、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーの製造方法。
<2> シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有する原料ポリマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有する、ポリマーの製造方法。
<3> 前記<1>または<2>に記載のポリマーの製造方法で製造されたポリマーを含む成形体の成形工程を有する、成形体の製造方法。
<4> シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマー。
<5> シロキサン系化合物の構造と複数のアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーに、加熱および/または光照射をすることで、前記ポリマーの前記アントラセンの二量体構造を解離させることで前記ポリマーを解重合して、前記ポリマーのモノマーを得る解重合工程を有する、モノマーの製造方法。
<6> 反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物とを混合して、前記シロキサン系化合物の前記反応性末端と、前記反応性アントラセン系化合物の反応性基とを反応させる反応工程を有する、
前記シロキサン系化合物由来のシロキサン構造の複数の端部に、前記アントラセン系化合物由来のアントラセン構造を有するモノマーの製造方法。
<7> 前記反応性アントラセン系化合物が、ビニルアントラセンであり、前記シロキサン系化合物が、ポリジメチルシロキサンであり、前記反応工程が、触媒の存在下で行われる、前記<6>に記載の製造方法。
<8> シロキサン系化合物由来のシロキサン構造の複数の端部にアントラセン系化合物由来のアントラセン構造を有する原料モノマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有するモノマーの製造方法。
<9> シロキサン系化合物の構造の複数の端部に、アントラセン構造を有するモノマー。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリマーは、光重合等により重合することができ、モノマー等として回収することもできて再利用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明のモノマーを用いて本発明にかかるネックレス型ポリマーを製造する反応の概要図である。
【
図3】本発明にかかる重合・解重合と開環重合によるポリマー鎖長の調整を説明する概要図である。
【
図4】実施例の重合例にかかる反応時間と分子量の評価結果を示すグラフである。
【
図5】実施例で製造したポリマー等の膜状成形体の像である。
【
図6】実施例で製造したモノマーやポリマーの評価結果を示すグラフ等である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0014】
[本発明のモノマー]
本発明のモノマーは、シロキサン系化合物の構造の複数の端部に、アントラセン構造を有するモノマーである。
【0015】
[本発明のモノマーの第一の製造方法]
本発明のモノマーの第一の製造方法は、反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物とを混合して、前記シロキサン系化合物の前記反応性末端と、前記反応性アントラセン系化合物の反応性基とを反応させる反応工程を有する、前記シロキサン系化合物由来のシロキサン構造の複数の端部に、前記アントラセン系化合物由来のアントラセン構造を有するモノマーの製造方法である。
【0016】
[本発明のモノマーの第二の製造方法]
本発明のモノマーの第二の製造方法は、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造の複数の端部にアントラセン系化合物由来のアントラセン構造を有する原料モノマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有するモノマーの製造方法である。
【0017】
本発明のモノマーは、本発明のポリマーの製造に利用することができる。また、本発明のモノマーの第二の製造方法は、本発明のモノマーの第一の製造方法等で製造した本発明のモノマーを原料モノマーとして、シロキサン構造を変えることができ、新たな構造の本発明のモノマーを製造することができる。
【0018】
[本発明のポリマー]
本発明のポリマーは、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーである。
【0019】
[本発明のポリマーの第一の製造方法]
本発明のポリマーの第一の製造方法は、シロキサン系化合物の構造の複数の端部にアントラセン構造を有するモノマーに、前記モノマーを重合させるための光を照射することで、前記モノマー間の前記アントラセン構造を二量体化させる重合工程を有する、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーの製造方法である。
【0020】
[本発明のポリマーの第二の製造方法]
本発明のポリマーの第二の製造方法は、シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有する原料ポリマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有する、ポリマーの製造方法である。
【0021】
[本発明のモノマーの第三の製造方法]
本発明のモノマーの第三の製造方法は、シロキサン系化合物の構造と、複数のアントラセンの二量体構造を有するポリマーに、加熱および/または光照射することで、前記ポリマーの前記アントラセンの二量体を解離させることで前記ポリマーを解重合して、前記ポリマーのモノマーを得る解重合工程を有する、モノマーの製造方法である。
【0022】
本発明のポリマーは、本発明のモノマーを用いて光重合等により重合することができる。また、本発明のポリマーは、解重合することで本発明のモノマー等を回収することもできる。これらの重合と解重合は可逆的なものであり、本発明のポリマーと本発明のモノマーは資源の再利用にも適している。
【0023】
また、本発明のポリマーの第二の製造方法は、ポリシロキサンの平衡化反応工程を利用することで、アントラセン二量体部位間の平均シロキサン鎖長など、ポリマーの構造を改質することができる。本発明のポリマーは、これらの重合と解重合と改質は可逆的なものであり、本発明のポリマーと本発明のモノマーは資源の再利用にも適している。
【0024】
なお、本願において本発明のモノマーの第一の製造方法や、本発明のモノマーの第二の製造方法、本発明のモノマーの第三の製造方法により本発明のモノマーを製造することもでき、本発明のポリマーの第一の製造方法や本発明のポリマーの第二の製造方法により本発明の本発明のポリマーを製造することもできる。また、本発明のモノマーは、本発明のポリマーに利用することができ、本発明の第二のモノマーの製造方法は本発明のポリマーに適用できる。本願において、これらのそれぞれの発明に対応する構成は相互に利用することができる。
【0025】
本発明者らは、新規材料の検討を行い、アントラセン部位を複数有するポリシロキサンをモノマーとして、光重合により、アントラセンダイマー部位とポリシロキサン部位が交互につながれたネックレス型を有するポリマーを開発した。このネックレス型のポリマーは、平衡反応によってシロキサン鎖の平均鎖長を制御してポリマーの硬度などを変え得る。また、光重合と加熱により、ポリマー化とモノマー化を可逆に行うことが可能なことを見出している。本発明はかかる知見に基づくモノマーやポリマー等に関する。
【0026】
図1は、本発明の製造方法にかかるフロー図である。
図1(a)は、化合物を原料としてモノマーを製造するフローである。ステップS11は、原料を混合するステップである。ステップS12は、原料を反応させてモノマーと得る工程である。ステップS13は、モノマーを回収する工程である。
図1(b)は、モノマーを用いてポリマーを製造するフローである。ステップS21は、モノマーを仕込む工程である。ステップS22は、モノマーを重合させてポリマーを得る工程である。ステップS23は、ポリマーを回収する工程である。
図1(c)は、ポリマーを原料としてモノマーを製造するフローである。ステップS31は、ポリマーを仕込む工程である。ステップS32は、ポリマーを解重合してモノマーを得る工程である。ステップS33は、モノマーを回収する工程である。
以下に、それぞれの製造方法の各工程や具体的な原料例などについてより詳しく説明する。
【0027】
[モノマーの製造(第一の製造方法)]
本発明のモノマーの第一の製造方法は、反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物とを用いて行う。下記式(1)は、このモノマー製造の例を示す一般式化した反応の概要例である。
【0028】
反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物とを、所定の比率で混合する。そして、シロキサン系化合物の反応性末端(下記式(1)のY1、Y2)と、反応性アントラセン系化合物の反応性基(下記式(1)のX)とを反応させる。これにより、シロキサン系化合物由来の構造の複数の端部に、アントラセン構造を有するモノマーを得る。
【0029】
【0030】
[反応性アントラセン系化合物]
本発明のモノマー等は、原料として、反応性アントラセン系化合物を用いる。下記式(2)は、反応性アントラセン系化合物の一般式の例である。反応性アントラセン系化合物は、反応性基を有するアントラセンである。なお、ここでの反応性基は、原料の組み合わせにより適宜触媒を用いてモノマーとなるときに反応する構造である。下記式(2)における、Xは反応性基である。反応性基は、例えば、ビニル基、カルボキシ基(カルボン酸)、カルボニルクロリド基、クロロ基、ブロモ基、クロロメチル基、ブロモメチル基、アミノ基、アルキルエステル基、アルキルアミド基、アルキルエーテル基、アルキル基などがあげられる。
【0031】
R10は、アルキル基やアリール基、上記の反応性基などとすることができる。p1は、0~9の整数であり、0~5や0~3などとしてもよい。p1が2以上の場合、それぞれのR10は同一でも異なってもよい。アントラセン系化合物は、複数反応性基を有してよい。例えば、1位、2位、5位、9位および10位からなる群の1以上の位置に反応性基を有するアントラセン系化合物とでき、反応性基の数は好ましくは1または2個である。
【0032】
【0033】
また、下記式(2-1)は、9位に反応性基を有するアントラセン化合物の一般式の例である。なお、この式では、9位の位置を例としているが、アントラセンの他の部分に反応性基を有するものでもよい。
【0034】
【0035】
具体的なアントラセン系化合物としては、例えば、ビニルアントラセンなどを用いることができる。代表的なものとして、下記式(2-2)に示すような9-ビニルアントラセンや、1-ビニルアントラセン、2-ビニルアントラセンなどを用いることができる。また、9,10-ジビニルアントラセン、1,5-(1,1’-)ジビニルアントラセンなどを用いることができる。
【0036】
【0037】
[反応性末端を複数有するシロキサン系化合物]
本発明のモノマー等は、原料として、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物を用いる。下記式(3)は、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物の一般式の例である。
【0038】
下記式(3)において、Y1、Y2は、反応性アントラセン系化合物の反応性基と反応する反応性末端である。この反応性末端は、アントラセン系化合物との組み合わせによる反応性により、適宜、触媒等の存在下で縮合反応等によって反応する。Y1、Y2は、例えば、それぞれ独立に、Hや、OH、CH3等の構造とすることができる。
【0039】
本発明に用いるシロキサン系化合物は、この反応性末端を複数有する。反応性末端の数は、2以上である。この数は、2つでもよいし、3つ以上でもよい。少なくとも2つの反応性末端を有することで、これらの末端が、反応性アントラセン系化合物に由来するアントラセン構造と結合することで、本発明のモノマーとなる。この本発明のモノマーは、複数のアントラセン構造を有するものとなり、アントラセン二量体を形成するように重合等することで本発明のポリマーとすることができる。
【0040】
シロキサン系化合物は、直鎖状のものでもよいし、分岐鎖状のものでもよいが、主鎖の末端が両方とも反応性末端である直鎖状のポリシロキサンが好ましい。下記式(3)は、直鎖状のものを例に説明している。下記式(3)において、R1~R4は、シロキサン系化合物の直鎖の端部で、例えば、メチル基やエチル基などのアルキル基や、フェニル基などのアリール基、Hなどとすることができる。また、R1~R4は、変性シリコーンオイルなどのポリシロキサンの側鎖の導入誘導基として用いられている各種の構造のものとすることもでき、反応性シリコーンや、非反応性シリコーンの構造を適宜用いてもよい。nは、2以上の実数である。R1~R4は、それぞれ同一のものであっても、異なるものであってもよく、nが3以上の場合、R3、R4は、それぞれ同一のものであっても、異なるものであってもよい。
【0041】
【0042】
例えば、反応性シリコーンとしては、モノアミン変性や、ジアミン変性、特殊アミノ変性、エポキシ変性、脂環式エポキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、カルボキシル変性、アミノ・ポリエーテル変性、エポキシ・ポリエーテル変性、エポキシ・アラルキル変性のシリコーンなどがあげられる。
【0043】
また、例えば、非反応性シリコーンとしては、ポリエーテル変性、アラルキル変性、フロロアルキル変性、長鎖アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級脂肪酸アミド変性、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性、長鎖アルキル・アラルキル変性のシリコーンなどがあげられる。
【0044】
直鎖状のシロキサン化合物は、例えば、ポリジアルキルシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、ポリジアリールシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポロメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンがあげられ、中でも、ジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどとそのコポリマーを用いることができる。
【0045】
本発明のモノマーの製造は、反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物とを混合して、シロキサン系化合物の反応性末端と、反応性アントラセン系化合物の反応性基との反応工程を行うものとすることができる。
【0046】
[製造条件]
反応性アントラセン系化合物とシロキサン系化合物とは、アントラセン系化合物の反応性基と、シロキサン系化合物の反応性末端の組み合わせにより、その反応性に応じた条件で反応させたモノマーとする。
【0047】
[混合]
モノマーの原料の反応性アントラセン系化合物と、シロキサン系化合物とを、混合する。混合は、反応条件に合わせた温度等で混合してもよいし、常温程度で混合して、その後、反応させる条件に変更してもよい。
【0048】
反応性アントラセン系化合物と、シロキサン系化合物とは、混合時や反応時に液状となるようなものを用いて、実質的に反応性アントラセン系化合物、シロキサン系化合物および触媒のみを混合してもよい。または、混合性や、合成後の精製等を考慮して、適宜、溶媒等を混合してもよい。
【0049】
反応性アントラセン系化合物と、シロキサン系化合物との混合比は、シロキサン系化合物の反応性末端の数などを考慮して、その反応性末端の数に合わせたモル数等に基づいて設定することができる。
【0050】
例えば、直鎖状のジメチルシロキサンの両末端にアントラセン構造を設けることを目的とする場合、シロキサン系化合物の反応性の両末端は2つのため、シロキサン系化合物1molに対して、反応性アントラセン系化合物2molを目安として、例えば、1.8~5molや、2~3mol、2.1~2.5molなどで混合することができる。なお、未反応の原料は、モノマーとは分離してもよいし、モノマー組成物中に残存してもポリマー重合に寄与しにくいため残存したままとしてもよい。このため、一方の原料を他方の原料よりも過剰な状態で混合してもよい。
【0051】
反応工程は、触媒の存在下で行われるものとしてもよい。触媒は、反応性アントラセン系化合物と、シロキサン系化合物の組み合わせに合わせて合成するものを用いる。主な反応は、ヒドロシリル化反応であり、このような触媒としては、例えば、プラチナ触媒などの金属触媒等を用いることができる。触媒は、反応に用いる原料の組み合わせや反応条件、目的とするモノマー構造、触媒種等に応じて、その要否や、混合量を設定できる。
【0052】
モノマーの合成は、原料の組み合わせ等により適宜設定できる。モノマーを合成するための主な条件の例としては、以下のようなものがあげられる。合成を行う温度は、常温程度で反応させることができるため常温で行ってもよい。また、時間は、数時間~数日程度、適宜撹拌等しながら行うことができる。また、通常、液状やスラリー状で合成され雰囲気の影響を受けにくいが、酸素などの影響で副反応等が生じにくいように、雰囲気を窒素置換等して行ってもよい。また、仕込み量などに基づく原料が用い尽くされることで反応を停止させてもよいが、触媒を除去等することで反応を停止させてもよい。
【0053】
反応後のモノマーは、1H-NMR構造解析によりモノマーが得られていることを確認することができる。また、反応後のモノマーは、適宜、精製や揮発などを行い、未反応物や、溶媒などの媒質等を除去することで回収してもよいし、ポリマーを重合する際に利用できるような媒質等に置換などして溶液や分散液の状態とすることができる。
【0054】
モノマーを合成したあと、溶媒などの媒質や副反応物を除去するために適宜精製等をおこなってもよい。精製は、例えば、ゲルクロマトグラフィーなどで分画した画分から回収することなどができる。
【0055】
[モノマーの製造(第二の製造方法)]
本発明のモノマーは、原料モノマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応することで調製することもできる。これにより、原料モノマーのシロキサン系化合物の構造の少なくとも一部を、改質用のシロキサン系化合物由来の構造と一部置換などして、原料モノマーとシロキサン鎖長や構造が異なるモノマーを得ることができる。
【0056】
原料モノマーは、本発明のモノマーの第一の製造方法などで製造したものなどを用いることができる。改質用のシロキサン系化合物は、環状シロキサンや、本発明のモノマーの第一の製造方法で例示したものなどを用いることができる。
【0057】
本発明のモノマーは、シロキサン系化合物の構造を、平衡化反応により、必要に応じて、鎖長等を調製等することができる。また、原料モノマーをジメチルシリコーンの構造を有するものとして、その一部をメチルフェニルシリコーンにするような改質などを行うことができる。
【0058】
平衡の反応は、触媒の存在下で行われる。触媒は、シリコーンレジンなどの平衡化に用いられている各種の酸触媒や塩基性触媒などを用いることができる。酸触媒としては、例えば、硫酸触媒などを用いることができる。塩基性触媒としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドやアルカリ金属触媒などを用いることができる。
【0059】
平衡の反応は、触媒を除去することで停止することができる。この触媒は、酸触媒やアルカリ触媒のため、これらを水洗等で除去することができ、これにより平衡の反応を停止できる。
【0060】
[モノマー]
本発明のモノマーは、シロキサン系化合物の構造の複数の端部に、アントラセン構造を有するモノマーである。下記式(4)は、本発明のモノマーの一般式の例である。このモノマーは、前述した反応性アントラセン系化合物と、反応性末端を複数有するシロキサン系化合物を用いて製造したものなどを用いることができる。このため、下記式(4)の構造は前述したものに準じる。このモノマーは、下記式(4)の両端に示すようにアントラセン構造を、シロキサン化合物の両端に有する。すなわち、二つの端部にアントラセン構造を有する。また、直鎖状のシロキサン構造を有する。下記式において、X1は、いずれか、または双方のモノマー原料に由来する構造である。例えば、アルキレン基、アミド基、エステル基、エーテル基などとすることができる。特に、アルキレン基などが好ましく、アルキレン基としては、例えば、メチレン基や、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘプチレン基、ヘキシレン基などが好ましい。
【0061】
下記式(4)において、nは、2~2,000や、3~1,000、4~500などとすることができる。nの上限は、200以下や、100以下、50以下、20以下としてもよい。用途によってはnが小さすぎるとフィルムなどの成形品の脆性が問題になる場合があるので、nは、13以上や16以上などとしてもよい。
【0062】
【0063】
下記式(4-1)は、9-アントリル基を有する本発明のモノマーの一般式例である。R1~R4、nは前述の通りであり、X´は前記X1と同様である。
【0064】
【0065】
下記式(4-2)は、本発明のモノマーの典型例である。ジメチルポリシロキサンと、9-ビニルアントラセンを原料として、ジメチルポリシロキサンの両端に、アントラセン構造を結合したモノマーである。
【0066】
【0067】
[ポリマーの製造(ポリマーの第一の製造方法)]
本発明のポリマーの製造は、シロキサン系化合物の構造の複数の端部に、アントラセン構造を有するポリマー原料となるモノマーに、ポリマー原料を重合させるための光を照射することで、複数のポリマー原料のアントラセン構造を二量体化させポリマー原料となるモノマーを重合する工程を行う。
【0068】
下記式(5)は、本発明のモノマーを用いて、本発明のポリマーを製造する典型例を示す反応式である。本発明のモノマーを重合することで、本発明のモノマーのアントラセン構造がアントラセン二量体を形成して、これを繰り返すことで本発明のポリマーを重合することができる。
【0069】
【0070】
[アントラセン二量体(アントラセンダイマー)]
本発明のポリマーは、本発明のモノマーに由来するようなアントラセン構造が、アントラセン二量体(アントラセンダイマー)を形成した構造を有する。一般的には、各種の構造でもダイマー化は起こりにくい。しかし、本発明のモノマーのような構成でのアントラセンは、光重合などで比較的容易に二量体を形成することがわかった。これを利用して、複数のアントラセン構造を有するシロキサン構造を用いることで、重合するようにポリマー化することができる。
【0071】
図2は、本発明のモノマーを用いて本発明にかかるネックレス型ポリマーを製造する反応の概要図である。直鎖状のシロキサン構造の両端にアントラセン構造を有する直鎖型のモノマーを重合することで、アントラセン二量体構造を形成させて、ネックレス型ポリマーとすることなどができる。また、このネックレス型ポリマーは、後述もするように、解重合することで、ポリマー原料となっていた直鎖型モノマーを得ることもできる。なお、
図2のポリマーの末端は、互いに結合して、閉じた環状となることもできることから、ネックレス型ポリマーと説明するが、この末端は、必ずしも閉じたものでなくてもよく、末端は互いに分離したままの直鎖状のものとしてもよい。
【0072】
アントラセンダイマー部位を有するネックレス形状ポリマーは、そのシロキサン構造の鎖長や、モノマーの重合度を変えることで、硬い成形体から、柔軟なフィルム等まで作り分けることができる。
【0073】
またモノマーおよびポリマー、それぞれの状態で、平衡化反応により、ハードユニット間のシロキサン鎖長を変化させ、ポリマーとしての基本物性を調整することもできる。
【0074】
[ポリマー]
本発明のポリマーは、シロキサン系化合物由来のシロキサン構造と、アントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有する。
【0075】
本発明のポリマーは、直鎖状または環状のポリマーであることが好ましく、例えば、以下のポリマーなどとすることができる。
・シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造を交互に有し、シロキサン系化合物の構造が下記式(Z)であり、アントラセンの二量体構造が下記式(A1)~(A4)の1以上である直鎖状または環状のポリマー
・シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造を交互に有し、シロキサン系化合物の構造が下記式(Z)であり、アントラセンの二量体構造が下記式(B1)~(B4)の1以上である直鎖状または環状のポリマー
・シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造を交互に有し、シロキサン系化合物の構造が下記式(Z)であり、アントラセンの二量体構造が下記式(C1)~(C4)の1以上である直鎖状または環状のポリマー
【0076】
【0077】
前述の式(Z)のR23~R24は前述のR3~R4と同様であり、それぞれ独立に、アルキル基またはアリール基が好ましく、nは前述の通りである。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
前述の(A1)~(A4)、(B1)~(B4)、(C1)~(C4)のR11~R20は、それぞれ独立に、H、アルキル基、アリール基などとすることができる。
【0082】
このような本発明のポリマーの一例を示すと、下記の(a1)~(a4)の1以上の構造を含むポリマーとすることができる。このようなポリマーは、9-アントリル基が二量化した構造を有するものである。
【0083】
【0084】
また、本発明のポリマーは、下記の(b1)~(b4)の1以上を含むポリマーとすることができる。このようなポリマーは、1-アントリル基が二量化した構造を有するものである。
【0085】
【0086】
また、本発明のポリマーは、下記の(c1)~(c4)の1以上を含むポリマーとすることができる。このようなポリマーは、2-アントリル基が二量化した構造を有するものである。
【0087】
【0088】
前述の(a1)~(a4)、(b1)~(b4)、(c1)~(c4)のR11~R20は、それぞれ独立に、H、アルキル基、アリール基などとすることができる。Z1は、下記式(6)で表される構造である。下記式(6)のR21~R24は前述のR1~R4と同様であり、それぞれ独立に、アルキル基またはアリール基が好ましい。Wは前述のX1、X´と同様である。nは前述の通りである。m1~m4は0以上であり、m1+m2+m3+m4の合計であるmは、前述のnに準じるものとすることができる。
【0089】
【0090】
下記式(7)は、ポリジメチルシロキサン由来の構造のシロキサン系化合物の構造と、アントラセンダイマーを繰り返し有する構造例である。ここで、nやmは前述の通りである。
【0091】
【0092】
本発明のポリマーの数平均分子量や重量平均分子量は、ポリマーの構造や用途に合わせて適宜設定する。特に、成形体として使用するための常温で固形状を示すような範囲で適宜設定する。ポリマーの数平均分子量は、例えば、1,000~500,000程度や、2,000~400,000程度、3,000~300,000程度を目安とすることができる。また、ポリマーの重量平均分子量は、例えば、3,000~1,000,000程度や、5,000~800,000程度、10,000~500,000程度を目安とすることができる。
【0093】
本発明は、アントラセン部位を有するポリシロキサンモノマーおよびそれを光重合したアントラセンダイマー部位を有するネックレス形状シロキサンポリマーのどちらも、平衡化反応によって、シロキサン鎖長を自由に変化させることができるという知見を利用することができる。これはプラスチックの熱および力学的特性の調整が可能であることを意味している。
【0094】
[光重合]
本発明のポリマーの製造は、例えば、シロキサン鎖の両末端にアントラセン基を有するシロキサンを系統的に合成し、これを紫外線による光重合によりアントラセンダイマー部位を有するポリマーを合成することができる。
【0095】
光重合する波長は、UV-A(315nm~400nm)程度の波長を用いることができる。例えば、波長365nm程度の光(hν(365nm))を本発明のモノマーに照射することで、ポリマーを重合することができる。これは、太陽光程度に含まれる光でも重合に寄与できる照度を得ることができるため、太陽光照射によって、本発明のポリマーは製造することもできる。
【0096】
[溶媒等]
本発明のポリマーの製造にあたっては、本発明のモノマーを、成形体を形成するための容器等に収容して、直接、光照射等する重合条件とすることなどができる。
また、反応性や、ポリマー成形体の取り扱い性を考慮して、適宜、溶媒等を含む条件で重合してもよい。特に、重合に伴い、モノマーの流動性が低下して、二量体を形成しにくくなると考えられるため、収率の観点からは溶媒を含む条件下で重合してポリマーを製造することが好ましいと考えられる。
【0097】
溶媒としては、モノマーを十分に分散し、重合反応を阻害しないものなどを用いることができる。例えば、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンなどを用いることができる。溶媒を用いずに、実質的にモノマー単独で重合したほうが、反応速度が速い傾向がみられる。一方で、モノマーのみのようにモノマー濃度が高い状態は、モノマーの移動が制限されて未利用のモノマーも生じやすい。他方、溶媒に溶解・分散させて重合したほうが、反応速度が遅くなる傾向があるが、モノマーの利用率が向上する。
【0098】
溶媒を用いる場合、モノマーの分子量や、溶媒の種類、反応時間、反応条件などによりその組成も適宜設定できる。溶媒を用いるとき、その溶液の組成は、モノマー濃度を主な指標とすることができ、例えば、10mmol/L~10mol/Lや、50mmol/L~1mol/L、100mmol/L~500mmol/L程度を目安とすることもできる。
【0099】
重合の時間は、条件や、重合度などにより適宜設定できる。本発明のポリマーの製造は、モノマーの移動を伴いながら進行する二量体の形成を利用するため、条件によっては比較的緩やかに反応するものと考えられる。このため、重合時間は、10分以上や、30分以上や、1時間以上などとすることができる。一方、十分に二量体を形成し、直鎖状や、ネックレス状、三次元架橋状などのポリマーとなると、分子の移動も制限されるため、過度の反応時間を設ける必要もない。よって、重合時間の上限は、100時間以内や、50時間以内、30時間以内のような上限を設けてもよい。
【0100】
[ポリマーの製造(ポリマーの第二の製造方法)]
本発明のポリマーの製造方法は、シロキサン系化合物の構造とアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有する原料ポリマーと、改質用のシロキサン系化合物と、触媒とを混合して、平衡化反応をする平衡化反応工程を有するものとすることができる。
【0101】
[原料ポリマー]
原料ポリマーは、本発明のポリマーの第一の製造方法や本発明のポリマーの第三の製造方法などで製造したものなどを用いることができる。改質用のシロキサン系化合物は、環状シロキサンや、本発明のモノマーの第一の製造方法で例示したものなどを用いることができる。
【0102】
本発明のポリマーは、シロキサン系化合物の構造を、平衡化反応により一部の置換などの反応をすることで、必要に応じて、シロキサン系化合物の構造を変更して鎖長の調製等することができる。
【0103】
平衡の反応は、触媒の存在下で行われる。触媒は、環状シリコーンの開環平衡反応に用いられる酸触媒や塩基性触媒などを用いることができる。酸触媒としては、例えば硫酸などを用いることができる。塩基性触媒としては、例えばアルカリ金属触媒などを用いることができる。
【0104】
平衡化反応は、触媒を除去することで停止することができる。この触媒は、酸触媒やアルカリ触媒のため、これらを水洗等で除去することができ、これにより平衡の反応を停止できる。または、アニオン阻害剤などの反応停止剤を混合することで、停止することもできる。このような反応停止剤としては、例えば、キョーワード(登録商標)などを用いることができる。
【0105】
本発明のポリマーは、一般的なプラスチックや、熱可塑性材料の代替品等として使用することもできる。また、太陽光で重合が可能であり、かつモノマーへの熱分解は発熱反応であるため、自然エネルギーを貯蔵する手段としても考えられる。
【0106】
本発明のポリマーは、原料となるモノマーのシロキサン構造の繰り返し回数(n)や、ポリマーにおける重合度(m)の比で物性を調整することもできる。
【0107】
[成形体]
本発明は、本発明のポリマーを含む成形体に関するものとすることができる。本発明のポリマーは、直鎖状のシロキサン系化合物の構造等のものなどとすることで、プラスチックのような物性を有するものとなる。これは、熱可塑性樹脂に相当するような物性のものであり、溶媒と混合された状態や加熱状態で成形加工に適した加工中は流動性を有する一方で、成形加工後は、一定の形状を維持できる固体状や固形状に相当する物性である。本発明の成形体の形状は特に限定されず、フィルム状や、板状、塊状、各種部材状など、各用途に応じた形状とすることができる。本発明のポリマーを含む成形体における本発明のポリマーの含有量は特に制限されず、その形状や用途などに合わせて、適宜、他の材料等と混合して成形できる。
【0108】
本発明の成形体は、本発明の製造方法などで製造された本発明のポリマーを含む成形体の成形工程を有する成形体の製造方法などで製造することができる。成形工程は、成形品の形状に合わせて適した手法を採用できる。例えば、キャスト等して成膜したり、型に充填して固化させたり、変形させたり、切削加工等して成形することができる。
【0109】
[解重合(加熱)(モノマーの第三の製造方法)]
本発明のモノマーの製造方法は、シロキサン系化合物の構造と複数のアントラセンの二量体構造との繰り返し構造を有するポリマーに、加熱および/または光照射をすることで、前記ポリマーの前記アントラセンの二量体構造を解離させることで前記ポリマーを解重合して、前記ポリマーのモノマーを得る解重合工程を有する製造方法とすることができる。この製造方法は、いわゆるポリマーの解重合を利用して、モノマーを回収するものである。
【0110】
下記式(8)は、ポリマーを解重合してモノマーを得るための反応の代表的な一般式の例である。
【0111】
【0112】
本発明のポリマーは、UV-C(100nm~280nm)程度の波長の深紫外線の照射(式中のhν(245nm)の例)や、高温の加熱(式中のΔ)で、解重合してモノマーに戻すことができる。加熱温度は、例えば、140℃以上や、150℃以上程度の温度でモノマーに可逆的に分解できる。加熱温度は、適宜250℃以下や、200℃以下のような上限を設けて行ってよい。この物性からも、ポリマー・モノマーの直接変換が可能な材料である。
【0113】
本発明は、単に新規な成形体材料の提供に加えて、グリーンエコでサスティナブルなプラスチック材料のリサイクルシステムに寄与できる。さらに物性の調整もできる。
図4は、本発明にかかる重合・解重合と開環重合によるポリマー鎖長の調整を説明する概要図である。
【0114】
ポリマーからモノマーへの熱による完全変換ができる。太陽光を利用したポリマー化が可能で、かつモノマーへの分解は発熱反応であるため、極めてエコなシステムに利用できる。また、重合は太陽光の波長で可能であり、太陽光エネルギーの貯蔵に寄与するという側面もある。また。用途に合わせたポリマーの化学構造変換が可能である。
【実施例0115】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
[実施例1]モノマーの製造
[実施例1-1]固定鎖長モノマーの合成(Ant-Si6)
ヒドロシリル化反応により、シロキサン系化合物であるDMHSと、アントラセン系化合物である9-VAnを原料とする固定鎖長モノマーの「Ant-Si6」の合成反応を行った。
【0117】
[モノマー原料等]
・「DMHS」1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11-ドデカメチルヘキサシロキサン、東京化成株式会社
・「OMTS」1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン、東京化成株式会社
・「TDMHS」1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11,13,13-テトラデカメチルヘプタシロキサン、東京化成株式会社
・「9-VAn」9-ビニルアントラセン:9-Vinylanthracene、東京化成株式会社
・「Karstedt´s触媒」Platinum(0)1,3-Divinyltetramethyldisiloxane Complex、東京化成株式会社
・「超脱水トルエン」Toluene,Super Dehydrated、和光純薬株式会社
【0118】
[精製試薬]
・「海砂」Sea sand(30~50mesh)、和光純薬株式会社
・「シリカゲル」Sillca gel60、富士シリシア化学株式会社
・「ヘキサン」Hexane、ナカライテスク株式会社
・「酢酸エチル」Ethyl acetate、和光純薬株式会社
【0119】
このAnt-Si6の合成は窒素雰囲気下で行った。DMHSは直鎖状でありDMHSの末端と、9-VAnのビニル基に基づく、化学量論比では、DMHS:9-VAn=1:2mol/molである。ここでは、DMHS:9-VAn=1:2.5mol/molとして、9-VAnが豊富な状態で仕込みを行って合成した。Ant-Si6は、ヒドロシリル化反応(下記反応式(9)参照)によって合成した。
【0120】
【0121】
[合成]
1)まず、9-VAn 1.2292g(6.02mmol)を入れた褐色サンプル瓶に、超脱水トルエン 22.0mLと、DMHS 1.0860g(2.52mmol)と、Karstedt’s触媒 7.6μL(1.0mol% DMHS比)を加えて、容器中で50時間、常温攪拌した。
2)その後、反応溶液は減圧蒸留によって溶媒を除去し、粗生成物を褐色の粘性液体として得た。
3)粗生成物はヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサン/酢酸エチル=60/1(vol/vol))を移動相として用いたシリカゲルクロマトグラフィーによって精製を行い、モノマー(Ant-Si6)を黄色の粘性液体として得た。なお、このモノマーは、アントラセン(Ant)と、シロキサン(Si)とを用いて、シロキサン原料のSi鎖長が6であることから、「Ant-Si6」と呼ぶ。
【0122】
[分析(1H-NMRとTLC)]
粗生成物は一部サンプリングし1H-NMRとTLCによる分析を行った。1H-NMRサンプルは重水素化クロロホルム溶液、TLCサンプルはAnt-Si6粗生成物のヘキサン溶液を用い、固定相をシリカゲルプレート(Silica gel 60 F254)、移動相をヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサン/酢酸エチル=60/1(vol/vol))とした。
粗生成物の1H-NMRスペクトルはすべてのピークを帰属することができた。粗生成物中には過剰に仕込んだ9-VAnと溶媒のトルエン、さらにシロキサンの片末端のみがアントラセンの修飾を受けた一置換体も1H-NMRチャートから確認できた。
【0123】
[精製]
カラムクロマトグラフィーによる精製ではメタノール洗浄した海砂をガラスフィルター付きのカラムクロマト管に敷き、ヘキサンでスラリー状にしたシリカゲルを詰めた。シリカゲルが詰まったら、上から再度、メタノール洗浄した海砂を敷きカラム内を移動相溶媒で置換した。
【0124】
得られたフラクションを減圧蒸留することでAnt-Si6 1.80g(収率85.1%)を得た。また、精製後の目的物に関しては1H-NMRのみ分析を行った。1H-NMR測定で出たピークはすべて帰属することができた。積分値も理論値とほぼ一致した。
【0125】
展開しない一番上のスポットはアセトンを流すことで回収したが、完全には回収することができなかった。また、アセトンは極性の強い溶媒である為回収したフラクションは単一の化合物でない可能性がある。得られたフラクションも減圧蒸留で展開溶媒を除去し化合物を得た。Ant-Si6が黄色の粘性液体であったのに対して、一番上のスポットの化合物は褐色粘性液体として得られた。
【0126】
1H-NMRとFT-IRによる解析を行った。1H-NMRからは、アントリル基のピークが複雑化したことから何かしらアントリル基の変性が起きたと考えられる。また、Si-Meのピークがブロード化したことから分子間の相互作用が大きくっていることが予想される。しかしながら、アントラセン二量体由来のフェニル基ピーク(6.7~7.0ppm)は観察されなかった。
【0127】
FT-IRからは1700cm-1付近にカルボニル(C=O)由来のピークが観察され、芳香環の酸化(キノン化)が示唆された。褐色への変色もこのキノン化に由来すると思われる。
【0128】
[実施例1-2]Ant-Si7
前述の実施例1-1の製造例に準じて、原料として、DMHSにかえて、「TDMHS」を用いて、モノマーを合成した。なお、このモノマーは、アントラセン(Ant)と、シロキサン(Si)とを用いて、シロキサン原料のSi鎖長が7であることから、「Ant-Si7」と呼ぶ。
【0129】
[実施例1-3]Ant-Si4
前述の実施例1-1の製造例に準じて、原料として、DMHSにかえて、「OMTS」を用いて、モノマーを合成した。なお、このモノマーは、アントラセン(Ant)と、シロキサン(Si)とを用いて、シロキサン原料のSi鎖長が4であることから、「Ant-Si4」と呼ぶ。
【0130】
[実施例2]開環平衡化反応による鎖長延長したモノマーの合成
開環平衡化反応によるモノマーのアントラセン間のシロキサン鎖長の調整を行った。
【0131】
[実施例2-1]環状モノマー(Ant-rSi13.3)の製造
【0132】
・「Ant-Si6」実施例1のサンプル
・「D4」オクタメチルシクロテトラシロキサン、Octamethlcyclotetrasiloxane、東京化成株式会社
・「トルエン」和光純薬株式会社
・「MsOH」Methanesulfonic acid、和光純薬株式会社
・「キョーワード(登録商標)」キョーワード(登録商標)500SN、協和化学工業株式会社
【0133】
開環平衡化反応により、アントラセン間のシロキサン鎖長のランダム化および伸長を行った。末端修飾剤にはAnt-Si6を用い環状モノマーにはD4を用いた。酸触媒はメタンスルホン酸(MsOH)を用いた。開環平衡化反応によるシロキサン鎖伸長の反応式は以下のものである。
【0134】
【0135】
1)Ant-Si6 0.4212g(0.476mmol)と、D4 0.8937g(2.859mmol)と、トルエン1.5mLをサンプル瓶にいれ均一溶液になるまで70℃で36時間攪拌した。その後、MsOH 8.43μLを加えてさらに36時間攪拌した。
2)その後、反応容器にキョーワードを0.1g加え、室温で再度30分間攪拌することで反応停止とした。キョーワードはろ過によって取り除き、反応溶液を減圧蒸留することで目的物を褐色粘性液体として得た。
【0136】
[構造解析]
精製したAnt-rSi13.3は、1H-NMR,SECによって構造解析を行った。1H-NMRの解析からはSi-Meの積分値を用いてアントラセン間の平均Si個数である13.3を算出した。なお、このモノマーは、アントラセン(Ant)と、シクロシロキサン(cSi)とを用いて、平均Si個数が13.3であることから、「Ant-rSi13.3」と呼ぶ。なお、rSiは、平衡化反応によって導入された鎖長分布を有するシロキサン鎖のことで、その後の数値は平均重合度を示す。以下も同じである。
【0137】
また、平衡化反応後は平衡化反応前に比べてSi-Meのピークがブロード化しピークの数も増えた。さらに、低磁場側にシリコーンの内部Si-Meのピーク強度が強くなった。SECの解析ではピークがブロードになり数平均分子量Mnは575、多分散度Mw/Mnは、1.83となった。ピークはブロード化したのみでピークトップはほとんど高分子量側にシフトせず、モノマーとほぼ同じ位置に出た。
【0138】
[実施例2-2]環状モノマー(Ant-rSi11.6)の製造
前述の実施例2-1の製造例に準じて、Ant-Si6、D4、メタンスルホン酸、トルエンの仕込み量を変更して、モノマーを合成した。なお、このモノマーは、平均Si個数が11.6であることから、「Ant-rSi11.6」と呼ぶ。
【0139】
[実施例2-3]環状モノマー(Ant-rSi16)の製造
前述の実施例2-1の製造例に準じて、Ant-Si6を0.357mmol、D4を2.71mmol、メタンスルホン酸を9.46μL、トルエンを3.0mLとして、70℃で17時間反応させて、モノマーを合成した。なお、このモノマーは、平均Si個数が16.4であることから、「Ant-rSi16.4」と呼ぶ。
【0140】
[実施例3]重合
各種条件でモノマーを用いたポリマーの重合実験を行った。
【0141】
[実施例3-1]
Ant-rSi11.6を用いて、無溶媒での光重合を検討した。
【0142】
・「Ant-rSi11.6」実施例2-2のサンプル。数平均分子量1252.4、仕込み量5.2mg
【0143】
カバーガラスにAnt-rSi11.6を5.2mg乗せ、約4cmの距離から紫外光(365nm)を外観の変化を観察しながら照射した。照射後、サンプルをポリマーフィルムとして取り出すことはできなかった。最後に、1H-NMRから反応率を算出した。
【0144】
光照射10秒ほどで体積の収縮がうかがえた。また、30秒の光照射で表面が固化しているように見えた。1分後には明らかに固化しており、非常に速い反応であることがうかがえる。そのまま体積の収縮を続け3分以降の光照射ではほとんど変化はなかった。体積収縮は新しく共有結合が生成したことに由来する。
【0145】
1H-NMRの結果より、反応率は62.6%となった。同様の方法で2時間照射したサンプルにおいても反応率は60%前後であった。
【0146】
反応率は以下の式を用いて算出した。
反応率(%)=積分値(ポリマー由来)/(積分値(モノマー由来)+積分値(ポリマー由来))*100
【0147】
一定時間以上の紫外光(365nm)照射を行っても反応率が60%程度となる理由は、重合が進むにつれサンプルの粘度が上昇し末端アントラセンの移動が制限されることに由来する。なお、本実施例においても、ポリマーが得られているため、これを精製等して、成形することで、ポリマーの成形体を成形することができ、未反応のモノマーは、適宜、そのままモノマーとして残存させたまま利用してもよいし、モノマーのみを回収して利用してもよい。
【0148】
[実施例3-2]THF中での光重合 (poly Ant-Si6の合成)
モノマー原料として、Ant-Si6を用いて、この重合体であるPoly(Ant-Si6)の合成を検討した。紫外線照射(UVライト)を用いた光重合を検討した。
【0149】
・「Ant-Si6」実施例1-1のサンプル
・「THF」テトラヒドロフラン・HPLCグレード、ナカライテスク株式会社
【0150】
サンプル瓶にAnt-Si6 0.239gと、THF 0.95mLを仕込んで、サンプル瓶の下面から紫外光照射を行った。一定の照射時間ごとにサンプリングを行い、吸収スペクトルと分子量測定で反応を評価した。最終的に紫外光照射は、6時間行った。最後に1H-NMR測定を行った。
【0151】
反応溶液の外観の変化を観察したが特に変化は見られなかった。溶液の粘度はわずかに向上した。サンプリングは、反応溶液から1.4μLとって、3mLのTHFに溶解させて吸光度測定およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC測定)を行った。
【0152】
[吸光度測定の条件]測定波長:200~500nm、走査速度:20nm/min、データ間隔:0.2nm、バンド幅:1.0nm
【0153】
[SEC測定の条件]流量:1.0mL/min、カラムオーブン温度:45.0℃、検出器:UV、検出波長:254nm、移動相溶媒:THF(Stabilizer Free)、サンプル量:20μL
【0154】
[評価結果]
保持時間11分過ぎたあたりに出るピークは溶媒ピークであり、10.5分あたりに出るピークはモノマーピークである。光照射することで分子量が大きくなることを確認した。最終的に、Mn:8,000、Mw:10,000ほどのポリマーを得た。
【0155】
Poly(Ant-Si6)が合成されたことを把握できる、1H-NMRスペクトルが得られた。下表に、Poly(Ant-Si6)の1H-NMR解析結果を示す。
【0156】
【0157】
1H-NMR測定ででたシグナルはすべて帰属することができ、積分値もSi-Meのシグナル以外は妥当な値が得られた。Si-Meシグナルはブロード化し理想的な積分値が得られにくい。
【0158】
重合後の1H-NMRチャートに見られた動向としては、アントリルのシグナルの消失、メチレンプロトンの化学シフトの移動、メチン・フェニルのシグナルの発生、Si-Meピークのブロード化があげられる。メチレンプロトンの高磁場側へのシフトは芳香環が遠ざかったことに由来し、Si-Meピークのブロード化はポリマー化したことに由来する。
【0159】
最終的に0.4766gのポリマーを得た(収率199.4%)。なお、収量が大きくなったのはサンプルの乾燥が不完全だったためである。得られたポリマーはテフロン(登録商標)シャーレにキャストすることでポリマーフィルム作製を行った。
【0160】
乾燥後のポリマーは、細かく割れやすい欠片のようになり自己支持性のあるフィルムにはならなかった。低分子量が多いことがフィルムにならなかった原因として考えられたため再沈殿操作を行った。再沈殿操作は良溶媒をクロロホルム、貧溶媒をヘキサンとした。
【0161】
再沈殿後のサンプルでは加熱乾燥させてポリマーフィルムの作製を行った。ポリマーはフィルムとして取り出すことができ、脆く、透明性を持ったものだった。
【0162】
[実施例3-3]poly(Ant-rSi13.3)の合成
Ant-rSi13.3を原料モノマーとして0.3820gと、poly(Ant-rSi13.3)の合成を行った。この合成は、Ant-rSi13.3を0.3820gに対して、THF1mLを用いて、THFを溶媒として混合して、窒素雰囲気下で24時間紫外光照射することで重合を行った。窒素雰囲気下で光重合を行うのはアントリル基のキノン化を防ぐためである。空気が十分にある状態で光重合すると溶解性の悪い結晶が得られることがあった。
【0163】
「Ant-rSi13.3」実施例2-1のサンプル
「THF」テトラヒドロフラン・HPLCグレード、ナカライテスク株式会社
【0164】
窒素雰囲気下で24時間光重合を行ったことで今までよりも強靭なフィルムが得られた。透明性もわずかに得られた。収量は0.4265gで、収率は111.6%であった。
【0165】
このpoly(Ant-rSi13.3)は、SECによる数平均分子量が、4.9kであり、重量平均分子量が18kであった。
【0166】
[実施例3-4]太陽光での光重合
反応条件をN2ガス雰囲気下のものと空気雰囲気のものの二つを用意した。サンプル瓶にAnt-Si7とTHFを加え日光の当たる窓辺に静置した。
【0167】
「Ant-Si7」実施例1-2のサンプル
「THF」テトラヒドロフラン・HPLCグレード、ナカライテスク株式会社
【0168】
太陽光重合中の気象情報(日本熊本県熊本市)に基づくと、天候が悪く、日照時間が確保できなかったため長期間の実験となった。また、正味の太陽光照射時間は17時間程度であると考えられる。
【0169】
窒素中のサンプルは溶液粘度が上がり空気中サンプルは粘度が上がらなかった。二つのサンプルには溶液粘度以外にも溶液の色にも違いが出た。空気中サンプルのみわずかに変色しわずかに褐色になった。
【0170】
この対照実験から空気中では、紫外光と空気中の酸素で光酸化がおこったことが示唆された。以下にポリマーフィルムの作製、1H-NMRチャート、SECチャート、IRチャートの結果を比較しながら説明する。
【0171】
反応溶液の観察で見られた色の変化は生成物の色の変化と関係した。ポリマーの色は未反応のアントラセンに由来するものなので窒素条件ではアントラセン部位が壊れることなく重合が進んだと考えられる。反対に空気条件ではアントラセン部位に変化があったと考えられる。
【0172】
1H-NMRスペクトルからは最終的な反応率を求めることができた。空気条件サンプルは反応率79.5%、窒素条件サンプルでは反応率90.3%となった。空気中の方が反応率は低くなりさらに、芳香環に帰属されるスペクトルがわずかに複雑になったことが観察された。
【0173】
FT-IRチャートからは空気条件のサンプルではカルボニル結合に帰属されるピーク(1680、1700cm-1)が検出された。一方で窒素条件でのサンプルからはそのようなピークは検出されず、その他のピークに違いは見られなかった。
【0174】
SECの測定結果からは、窒素雰囲気での重合したサンプルの方が少量の残存モノマーをピークとして観察することができた。さらにピークの立ち上がりが早くより高分子量のポリマーができていることが確認できた。このように、太陽光の照射によっても、ポリマーを得ることができることが確認された。
【0175】
[実施例3-5]Ant-Si4の光重合(poly Ant-Si4)
上述の実施例の結果等を基に、追加試験等を行った。
図4は、実施例の重合例にかかる反応時間と分子量の評価結果を示すグラフである。
【0176】
実施例3-2に準じる条件で、Ant-Si4(実施例2-3)のサンプルを用いて、THFを溶媒とした状態で、紫外線の照射時間と、数平均分子量の推移を評価した。
図4中の像は、試験状態を示す像である。照射時間1.0時間を超えるあたりから、数平均分子量が大きく上昇し、数平均分子量が約16k以上のポリマーが製造されていることを確認した。
【0177】
[成形体の像]
図5は、実施例で製造したポリマーの膜状成形体の像である。
図5の左側は、実施例3-2で製造したPoly AntSi6により成形したフィルムの像である。
図5の右側は、実施例3-3で製造したpoly Ant-rSi13.3に準じて、Ant-rSi16.4を用いて製造したpoly Ant-rSi16のフィルムの像である。
【0178】
[実施例4]熱解重合
poly Ant-Si6と、poly Ant-rSi13.3の解重合を検討した。
【0179】
・「poly Ant-Si6」実施例3-2のサンプル。
・「poly Ant-rSi13.3」実施例3-3のサンプル。
【0180】
[実施例4-1]poly Ant-Si6の解重合
上述の実施例で重合した固体状のサンプルを用いた。サンプル瓶に、poly Ant-Si6を収容し、サンプル瓶内の雰囲気を窒素(N2)に置換して、160℃のオイルバスで油浴した。30分の油浴処理後、サンプル瓶内のpoly Ant-Si6は、解重合されて、液状となった。この液の組成を確認した結果、平均鎖長6.0のAnt-Si6のモノマーとなっていることが確認された。
【0181】
[実施例4-2]poly Ant-rSi13.3の解重合
実施例4-1のpoly Ant-Si6に代えて、poly Ant-rSi13.3を用いて、加熱による解重合を行った。30分の油浴処理後、サンプル瓶内のpoly Ant-rSi13.3は、解重合されて、液状となった。この液の組成を確認した結果、測定値として平均鎖長12.3であり、ポリマー原料として用いたAnt-rSi13.3に準じるモノマーとなっていることが確認された。
【0182】
以下の反応式(11)は、これらの実施例に準じるものであり、Ant-Sinの重合および解重合を示すものである。
【0183】
【0184】
[評価結果まとめ]
図6は、実施例で製造したモノマーやポリマーの評価結果を示すグラフ等である。
図6の上段は、モノマーである、Ant-Si6の評価結果やその典型的な像である。
図6の中段は、光重合したポリマーである、poly Ant-Si6の評価結果やその典型的な像である。
図6の下段は、熱解重合により得られたリサイクルモノマーであるAnt-Si6の評価結果やその典型的な像である。