(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161736
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】熱電制御システム、及び熱電制御シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/46 20060101AFI20241113BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20241113BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20241113BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20241113BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/00 170
H02J3/38 120
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076715
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 喜治
(72)【発明者】
【氏名】堀 嘉成
(72)【発明者】
【氏名】野村 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】原口 正士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝幸
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066HA15
5G066HB01
5G066HB06
5G066HB07
5G066HB09
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】制御特性の異なる複数種類の熱電設備に対して、負荷追従を行うための設備全体の制御ロジックを自動で構築できるシステムを提供する。
【解決手段】本発明による熱電制御システムは、複数の熱電設備31~33を制御する複数の制御モジュール121~123を備える制御部1と、設備31~33の負荷追従優先度を格納する負荷追従優先度設定部6とを備える。制御モジュール122は、設備32の計画負荷の値を入力するとともに、上位優先度の設備31の制御モジュール121から負荷補正値を入力し、負荷補正値を用いて計画負荷の値を補正して調整後の負荷を求め、調整後の負荷を設備32の負荷レンジに合わせるレンジリミッタ処理を実行し、レンジリミッタ処理後の調整後の負荷を、設備32の負荷要求値として出力するとともに、調整後の負荷が負荷レンジを超える値を負荷補正値として、下位優先度の設備33の制御モジュール123に出力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備と熱供給設備の少なくとも一方を含む複数の設備を制御する制御部と、
前記設備のそれぞれについての、負荷追従に対する優先度を格納する負荷追従優先度設定部と、
を備え、
前記制御部は、前記設備のそれぞれを制御する複数の制御モジュールを備え、
前記制御モジュールは、
前記設備の計画された負荷である計画負荷の値を入力するとともに、前記優先度が上位の前記設備を制御する前記制御モジュールから、前記負荷を補正するための値である負荷補正値を入力し、
前記負荷補正値を用いて前記計画負荷の値を補正することで、調整後の負荷を求め、
前記調整後の負荷を、前記制御モジュールが制御する前記設備の負荷レンジに合わせるレンジリミッタ処理を実行し、
前記レンジリミッタ処理をした後の前記調整後の負荷を、前記設備の負荷要求値として出力するとともに、前記調整後の負荷が前記負荷レンジを超える値を、前記負荷補正値として、前記優先度が下位の前記設備を制御する前記制御モジュールに出力する、
ことを特徴とする熱電制御システム。
【請求項2】
前記負荷追従優先度設定部は、
前記負荷の需要の実際値と前記計画負荷の値との差分と、
前記設備が再生可能エネルギー設備である場合の前記設備の発電量と前記負荷の需要の実際値との差分と、
前記設備が蓄電池である場合の前記設備の蓄電量と、
前記設備が運転する時間帯と、
前記設備が発電設備である場合の前記設備の発電効率と、
前記設備の前記負荷追従の運転を行った累積時間と、
の情報のうち少なくとも1つに応じて、前記優先度を変える、
請求項1に記載の熱電制御システム。
【請求項3】
表示装置を備え、
前記表示装置は、前記設備のそれぞれについて、現在の前記優先度を表示する、
請求項1に記載の熱電制御システム。
【請求項4】
表示装置を備え、
前記表示装置は、
前記情報のうち、前記負荷追従優先度設定部が前記優先度を変えるのに用いた値を表示するとともに、
前記情報のうち少なくとも1つから決定された前記設備の運転モードを表示する、
請求項2に記載の熱電制御システム。
【請求項5】
コンピュータに、請求項1に記載の熱電制御システムの、前記制御部の機能と、前記負荷追従優先度設定部の機能と、前記制御モジュールの機能とを実現させるための熱電制御シミュレーションプログラム。
【請求項6】
制御応答モデルが、前記負荷要求値と前記設備の制御信号とに対する前記設備の応答を出力し、
前記制御応答モデルが出力した前記応答を入力値とする、
請求項5に記載の熱電制御シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電力設備や熱供給設備を用いて電力や熱を供給する制御システムと、この制御システムの動作をシミュレーションするためのシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の脱炭素化の流れに伴い、熱電を供給するために使用される設備が多様化している。このような設備の例には、ガスエンジンやボイラなどの従来からある熱電設備の他に、太陽光発電設備や風力発電設備などの再生可能エネルギー設備、再生可能エネルギーの変動を吸収するために併用されることが多い蓄電池、燃料として二酸化炭素を排出しない水素を用いる水素混焼エンジンと水素ボイラと燃料電池、及び水電解装置などの水素の製造設備などが挙げられる。顧客の要求に応じて使用される設備が多様化すると、その設備を制御するためのシステムも複雑化する。以下では、再生可能エネルギーを「再エネ」とも呼ぶ。
【0003】
熱電供給の制御では、リアルタイムで変わる需要に応じて、設備の負荷(例えば、電力供給量や熱供給量)を変えることが必要である。熱の供給の場合、ヘッダーに熱を保有できるため、需給のミスマッチに対する余裕がある。これに対し、電力の供給では、需給にミスマッチが発生すると電源設備が電力を遮断する、すなわち停電になることがある。このため、電力供給での負荷追従(電力の供給が需要に合うように、設備の負荷を需要に追従させて運転すること)は、熱供給での場合と比較すると重要である。
【0004】
負荷の応答特性は、熱電設備によって異なる。例えば、蓄電池は、ガスエンジンに比べて応答が速く、電力需要の周波数の高い変動にも対応できる。しかし、蓄電池は、蓄電量に限界があるため、常時、負荷追従に使うことができない。また、設備によって発電・熱供給の容量が異なるので、負荷追従に対応できる範囲も設備ごとに異なる。このため、負荷配分を決定する制御ロジックは、このような各設備の特性を踏まえた上で構築する必要がある。
【0005】
上述したように、近年では設備が多様化し、顧客によって設備構成が大きく変わることから、熱電設備の制御ロジックは、設備を構成する都度、構築されることが多い。これによって、エンジニアリングの増大に伴う高コスト化と納期の長期化がもたらされている。
【0006】
このような課題に対し、各設備の特性を踏まえた上で、負荷追従に対する制御方法を一般化しておき、自動で制御ロジックを構築できるような技術が望まれている。
【0007】
複数種類の発電設備を利用して電力を供給する従来の制御方法の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された制御方法では、補償するべき負荷変動を周波数解析して複数の周波数帯域に分割し、各周波数帯域の負荷変動をそれぞれ分散型電源(例えば、ガスエンジン、マイクロガスタービン、及び二次電池)のいずれかに分担させて補償する。この方法により、負荷変動に対する追従性能が異なる複数種類の発電設備を統合的に制御することによって、負荷変動を補償することができる。
【0008】
また、従来の技術には、複数の発電設備に対する負荷配分を最適化によって求める運用方法がある。これは、電力需要と再エネ設備の発電量との予測値を条件として、コストやCO2の排出量が最小となる負荷を最適化によって求め、この負荷(計画負荷)に基づいて発電設備を運用する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された制御方法などの従来技術では、補償するべき負荷変動は、負荷変動の周波数に応じて各発電設備に分担させることができるが、負荷変動の大きさまでも補償するものではない。例えば、太陽光発電設備や風力発電設備などの再エネ設備は、天候の状況によって発電量が大きく変動するので、他の発電設備は、この変動を補償するように発電量を調整する必要がある。しかし、従来の技術では、このような負荷変動の大きさの補償は、考慮されていない。
【0011】
また、複数の発電設備に対する負荷配分を最適化によって求める運用方法には、電力需要と再エネ設備の発電量との予測値を条件に設定するため、これらの予測値が実際値から大きく逸脱する変動が発生すると、計画負荷を再調整する必要が生じるという課題がある。
【0012】
以上のように、複数の発電設備を用いた制御では、負荷変動に含まれる周波数に対してだけではなく、負荷変動(電力需要の変動と再エネ設備の発電量の変動)の大きさに対しても補償できる制御方式を採用しなければならない。さらに、前述したように、このような負荷追従の技術には、制御方法が一般化されており、多様な設備構成に対応できて制御ロジックを自動で構築できることが求められている。
【0013】
本発明の目的は、制御特性の異なる複数種類の熱電設備に対して、負荷追従を行うための設備全体の制御ロジックを自動で構築できるシステムと、このシステムのためのシミュレーションプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による熱電制御システムは、発電設備と熱供給設備の少なくとも一方を含む複数の設備を制御する制御部と、前記設備のそれぞれについての、負荷追従に対する優先度を格納する負荷追従優先度設定部とを備える。前記制御部は、前記設備のそれぞれを制御する複数の制御モジュールを備える。前記制御モジュールは、前記設備の計画された負荷である計画負荷の値を入力するとともに、前記優先度が上位の前記設備を制御する前記制御モジュールから、前記負荷を補正するための値である負荷補正値を入力し、前記負荷補正値を用いて前記計画負荷の値を補正することで、調整後の負荷を求め、前記調整後の負荷を、前記制御モジュールが制御する前記設備の負荷レンジに合わせるレンジリミッタ処理を実行し、前記レンジリミッタ処理をした後の前記調整後の負荷を、前記設備の負荷要求値として出力するとともに、前記調整後の負荷が前記負荷レンジを超える値を、前記負荷補正値として、前記優先度が下位の前記設備を制御する前記制御モジュールに出力する。
【0015】
本発明による熱電制御シミュレーションプログラムは、コンピュータに、本発明による熱電制御システムの、前記制御部の機能と、前記負荷追従優先度設定部の機能と、前記制御モジュールの機能とを実現させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、制御特性の異なる複数種類の熱電設備に対して、負荷追従を行うための設備全体の制御ロジックを自動で構築できるシステムと、このシステムのためのシミュレーションプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1による熱電制御システムの構成を示す図。
【
図2】発電設備制御部の内部の構成と、発電設備制御部と直接データを授受する装置との関係を示す図。
【
図3】データ取得部が取得する計画負荷のデータの構成例を示す図。
【
図4】負荷追従優先度設定部が格納する負荷追従優先度のデータの構成例を示す図。
【
図5】発電設備の制御モジュールの内部構成を示す図。
【
図6】区分化処理部が実行する、負荷補正値の区分化処理を説明する図。
【
図7】負荷配分の制御による、発電設備の動作例を模式的に示す図。
【
図8】熱電制御システムが表示装置に表示する画面の例を示す図。
【
図9】本発明の実施例2による熱電制御システムの構成を示す図。
【
図10】負荷追従優先度設定部が負荷追従優先度を決定する処理の例を説明するための図。
【
図11】負荷追従優先度設定部が、蓄電池の蓄電量に応じて負荷追従優先度を変える処理の例を説明するための図。
【
図12】実施例2による熱電制御システムが表示装置に表示する画面の例を示す図。
【
図13】負荷追従優先度設定部が、負荷追従優先度を決定する処理の別の例を説明するための図。
【
図14】実施例2による熱電制御システムが表示装置に表示する画面の例を示す図。
【
図15】負荷追従優先度設定部が、発電設備の負荷追従の運転を行った累積時間に応じて負荷追従優先度を決定する処理の例を説明するための図。
【
図16】実施例2による熱電制御システムが表示装置に表示する画面の例を示す図。
【
図17】本発明の実施例3による熱電制御シミュレーションプログラムが実現させる構成を示す図。
【
図18】実施例3による熱電制御シミュレーションプログラムが表示装置に表示する画面の例を示す図。
【
図19】本発明の実施例4による熱電制御システムの構成を示す図。
【
図20】熱電計画部が出力する計画負荷のデータの構成例を示す図。
【
図21】負荷追従優先度設定部が発電設備制御部と熱供給設備制御部に出力する、負荷追従優先度のデータの構成例を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明による熱電制御システムは、電力と熱の少なくとも一方を供給する複数の熱電設備(例えば、発電設備、熱供給設備、及び熱電併給設備など)を制御するシステムであり、制御特性の異なる複数種類の熱電設備に対して、負荷追従を行うための設備全体の制御ロジックを自動で構築できるとともに、負荷変動の大きさを補償することができる。
【0019】
本発明による熱電制御システムは、熱電設備のそれぞれについて、負荷追従に対する優先度を設定する負荷追従優先度設定部と、熱電設備のそれぞれを制御する制御モジュールを備える。制御モジュールは、設備の計画負荷と、優先度が上位の設備を制御する制御モジュールからの負荷補正値とを入力し、計画負荷を補正して調整後の負荷を求め、調整後の負荷を設備の負荷レンジに合わせるレンジリミッタ処理を実行し、レンジリミッタ処理をした後の調整後の負荷を負荷要求値として出力するとともに、調整後の負荷が設備の負荷レンジを超える値を負荷補正値として、優先度が下位の設備を制御する制御モジュールに出力する。
【0020】
本発明による熱電制御シミュレーションプログラムは、本発明による熱電制御システムの動作をシミュレーションするためのコンピュータプログラムであり、本発明による熱電制御システムが行う制御処理を、コンピュータに実行させることができる。
【0021】
以下、本発明の実施例による、熱電制御システムと熱電制御シミュレーションプログラムについて、図面を参照して説明する。以下の実施例では、再生可能エネルギーを「再エネ」とも呼ぶ。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0022】
本発明の実施例1による熱電制御システムを説明する。
【0023】
図1は、本実施例による熱電制御システムの構成を示す図である。本実施例による熱電制御システムは、発電設備制御部1と、負荷追従優先度設定部6と、表示装置7を備え、発電計画部2、ローカル制御装置41~43、ローカル制御装置44、及び電力計測設備5に接続可能であり、複数の発電設備31~33と再エネ設備34を制御する。
【0024】
発電設備31~33は、例えば、ガスエンジンや蓄電池などである。再エネ設備34は、例えば太陽光発電設備や風力発電設備などの、再生可能エネルギー設備である。
図1には、一例として、3つの発電設備(A)31、発電設備(B)32、及び発電設備(C)33を示している。なお、再エネ設備34は、発電設備に含めることができるが、
図1(及び
図2)では発電設備31~33と分けて描いている。
【0025】
発電設備制御部1は、熱電制御システムの主要構成部であり、複数の発電設備31~33と再エネ設備34を制御する。発電設備制御部1は、負荷追従優先度設定部6、表示装置7、発電計画部2、ローカル制御装置41~43、ローカル制御装置44、及び電力計測設備5に接続されている。
【0026】
負荷追従優先度設定部6は、発電設備31~33のそれぞれに対してあらかじめ設定された、負荷追従に対する優先度(負荷追従優先度)のデータを格納しており、このデータを発電設備制御部1に出力する。負荷追従優先度とは、負荷追従の運転をさせる優先度であり、負荷追従優先度が高い発電設備に対して優先的に負荷追従の運転をさせる。
【0027】
表示装置7は、発電設備制御部1によって制御される発電設備31~33と再エネ設備34の運転状態と、発電設備制御部1による制御に関する情報を表示する。例えば、表示装置7は、発電設備31~33のそれぞれについて、現在の負荷追従優先度を表示することができる。
【0028】
発電計画部2は、運転コストやCO2の排出量が最小となる発電設備31~33の負荷を最適化によって求め、求めた負荷(計画負荷)を発電設備制御部1に出力する。計画負荷は、発電設備31~33の運転が最適となるように計画された負荷であり、発電設備31~33のそれぞれに対して求められる。
【0029】
ローカル制御装置41~44は、それぞれ発電設備31~33と再エネ設備34に対する制御を行う。
図1には、一例として、4つのローカル制御装置41~44を示している。ローカル制御装置41~44は、自らに接続された発電設備のみを制御する。
図1に示す例では、ローカル制御装置41は、発電設備(A)31を制御し、ローカル制御装置42は、発電設備(B)32を制御し、ローカル制御装置43は、発電設備(C)33を制御し、ローカル制御装置44は、再エネ設備34を制御する。ローカル制御装置44は、再エネ設備34の発電量の計測値を発電設備制御部1に出力する。
【0030】
電力計測設備5は、電力需要である電力消費量を計測する。
【0031】
発電設備制御部1は、ローカル制御装置41~43とローカル制御装置44の上位に位置し、発電設備31~33と再エネ設備34を統括した負荷配分などの制御を行う。発電設備制御部1は、発電設備31~33と再エネ設備34の発電量の合計が、電力計測設備5から入力した電力消費量に追従するように、設備31~34のそれぞれを制御する。
【0032】
図2は、発電設備制御部1の内部の構成と、発電設備制御部1と直接データを授受する装置との関係を示す図である。
【0033】
発電設備制御部1は、データ取得部11、制御ロジック部12、及び制御モジュール優先度設定部13を備える。
【0034】
データ取得部11は、発電計画部2から発電設備31~33と再エネ設備34の計画負荷のデータを取得するとともに、電力計測設備5から設備31~34の電力消費量のデータを取得する。
【0035】
ここで、データ取得部11の処理について、
図3を用いて説明する。
【0036】
図3は、データ取得部11が発電計画部2から取得する計画負荷のデータの構成例を示す図である。
図3には、一例として、発電設備31~33についての計画負荷データを示している。なお、本実施例では、発電設備31~33を、それぞれ発電設備A、発電設備B、発電設備Cとも記載する。
【0037】
図3に示すように、計画負荷データでは、発電設備A~Cの計画負荷が時系列で示される。
図3に示す計画負荷データの例では、発電設備A~Cの計画負荷が、30分間隔での1日分の時系列データとして示されている。
【0038】
発電計画部2は、最適化によって各発電設備A~Cの負荷を決定し、
図3に示したような計画負荷を発電設備制御部1に出力する。この最適化処理は、既存の方法を用いることができるので詳細な説明は省略するが、一般的な処理を以下に説明する。
【0039】
発電計画部2には、あらかじめ発電設備ごとの運転特性を格納しておく。発電設備の運転特性には、発電効率、使用する燃料の単価、単位燃料当たりのCO2排出量、及び運転可能な負荷レンジ(定格負荷と運転可能な最低負荷)が含まれる。発電効率は、単位負荷1kW当たりの燃料消費量である。たいていの発電設備では、発電効率は、負荷に応じて変化し、定格負荷に近づくほど高くなる。このため、発電効率は、負荷に対する効率カーブとして格納するのが好ましい。また、発電設備が蓄電池の場合には、負荷レンジは、充電量の上限と放電量の上限である。さらに、蓄電池では、蓄電量の上下限も運転特性に含まれる。
【0040】
発電計画部2は、1日分、すなわち30分間隔で48個の電力需要の予測値と太陽光発電量の予測値を条件とし、最適化によって1日分の各発電設備の負荷を決定する。最適化処理における目標関数は、運転コストとCO2排出量である(目標関数は、重み係数を用いて両者の和として定義されることが多い)。つまり、発電計画部2は、運転コストとCO2排出量の双方が最小となる運転となるように、計画負荷を決定する。前述したように、発電効率は負荷によって変わるので、なるべく定格負荷に近い状態で運転した方が、運転コストを低減できる。
【0041】
蓄電池の特性を考慮すると、計画負荷を1日分の時系列データで求めるのが好ましい。蓄電池は、電力供給に余裕がある時間帯では充電し、余裕がない時間帯では放電をして発電量を補填するように運用される。このような運用も含めた最適化を行うには、瞬時値のみの計算では困難であり、少なくとも1日を通した最適化を行う必要がある。
【0042】
最適化の入力条件は、前述したように、電力需要と太陽光発電量の1日分の予測値である。最適化の制約条件は、各発電設備の負荷を合計した値が電力需要と一致することである。ただし、各発電設備の負荷は、前述した発電設備の運転特性の1つである負荷レンジの範囲内に収まるように計算される。
【0043】
また、太陽光発電設備のような再エネ設備の場合には、発電量を制御することができない。このため、発電計画部2は、計画負荷を決定する際には、1日の太陽光発電量を入力し、電力需要に足りない分を他の発電設備で補うように運転を計画する。このとき、太陽光の発電量が電力需要を超える場合には、余剰の発電電力を蓄電池に充電し、他の時間帯で蓄電池が放電することで、CO2排出量も鑑みながら、運転コストが最小となるような運転を計画する。
【0044】
発電計画部2は、以上に述べた処理を行い、
図3に示すような1日分の計画負荷データを発電計画として決定し、発電設備制御部1のデータ取得部11に出力する。
【0045】
【0046】
発電設備制御部1のデータ取得部11は、電力計測設備5から現在の電力消費量の計測値(電力計測値)を入力する。この電力計測値は、現在の電力需要である。また、データ取得部11は、ローカル制御装置44から、再エネ設備34の発電量の計測値(再エネ設備発電量計測値)を取得する。再エネ設備34も発電設備の1つであるが、発電設備制御部1での処理では、他の発電設備31~33と区別される。なぜなら、太陽光発電設備のような再エネ設備34は、発電量を調整することができないからである。再エネ設備34を制御するローカル制御装置44は、再エネ設備34に対し、緊急時に電力を遮断するなどの限定された処置のみを実行できる。
【0047】
ここで、負荷追従優先度設定部6の処理を説明する。前述したように、負荷追従優先度設定部6は、発電設備31~33のそれぞれに対して設定された負荷追従優先度のデータを格納している。
【0048】
先ず、本実施例において重要である負荷追従に対する優先度の考え方を説明する。負荷追従とは、リアルタイムで変化する電力需要(電力消費量)と一致するように、発電供給量を調整する制御のことである。電力で需給のミスマッチ(需給ギャップ)が生じると、電源設備が電力を遮断して停電となる。電力の需給ギャップの許容時間は1秒未満であり、負荷追従の安定性が制御の点で重要である。
【0049】
複数の発電設備を用いて負荷追従を行う場合、たいていの場合には、1台の発電設備が負荷追従の機能を担う。つまり、電力消費量を監視し、電力消費量に合わせて発電量をリアルタイムで調整するのは、1台の発電設備のみである。これは、複数の発電設備が負荷追従の制御を行うと、発電設備の間で干渉が起きる可能性があるためである。複数の発電設備のうち、1台は負荷追従を実施することで発電量がリアルタイムで変化するのに対し、他の発電設備は長い時間間隔で発電量が変更される。つまり、負荷追従の運転が設定された1台の発電設備が、電力需要の細かな変動について対応し、その他の発電設備が、電力需要の大まかな変化に対応するように、複数の発電設備の役割が分担される。
【0050】
本実施例では、このような負荷追従の制御を行う上で、発電設備31~33に対して負荷追従の運転を行う優先度(負荷追従優先度)をあらかじめ設定しておき、この優先度に基づいて各発電設備31~33の負荷を決定することが特徴である。
【0051】
図4は、負荷追従優先度設定部6が格納している負荷追従優先度のデータの構成例を示す図である。負荷追従優先度設定部6は、負荷追従優先度のデータを発電設備制御部1に出力する。
【0052】
負荷追従優先度のデータでは、各発電設備A~Cに対して、負荷追従優先度(負荷追従の運転を行う順番)があらかじめ設定されている。
図4に示す例では、発電設備A、B、Cに対して、それぞれ負荷追従優先度が1、2、3と設定されている。負荷追従優先度は、1、2、3の順に高いとする。負荷追従優先度が1に設定された発電設備は、負荷追従を行う。負荷追従優先度が2以降の発電設備は、基本的に負荷追従の運転を行わないが、負荷追従優先度が1の発電設備で負荷追従の運転が困難になった場合には、バックアップ的に負荷追従の運転を行う。
【0053】
このようなバックアップ的な負荷追従の運転は、負荷追従優先度の上位から下位への順序で実施される。すなわち、負荷追従の運転は、優先度が1の発電設備が実施し、優先度が1の発電設備が実施困難になった場合には、優先度が2の発電設備が実施し、優先度が2の発電設備が実施困難になった場合には、優先度が3の発電設備が実施する、というように、負荷追従優先度に従う順序で負荷追従の運転が実施される。この処理の詳細は、後述する。
【0054】
【0055】
負荷追従優先度設定部6は、発電設備制御部1の制御モジュール優先度設定部13に、負荷追従優先度のデータ(
図4)を出力する。
【0056】
制御モジュール優先度設定部13は、負荷追従優先度設定部6から負荷追従優先度のデータを取得し、制御ロジック部12に負荷追従優先度の情報を出力する。
【0057】
制御ロジック部12は、発電設備A~Cをそれぞれ制御する制御モジュール121~123を備え、制御モジュール121~123を統括した制御処理を行う。本実施例では、制御ロジック部12は、発電設備A~C(発電設備31~33)にそれぞれ対応した個別の制御モジュール121~123を備え、これらの制御モジュール121~123を組み合わせることで、発電設備全体の制御ロジックを構成する。負荷追従優先度のデータは、制御モジュール121~123を用いた処理で使用される。
【0058】
発電設備の制御モジュール121~123は、それぞれ、ローカル制御装置41~43に制御信号を送信することで発電設備A~Cを制御する。制御モジュール121~123は、互いに同じ構成を備えるが、モジュールの内部に設定するパラメータによって、実行する制御を変えることができる。
【0059】
制御モジュール121~123は、発電設備A~Cのそれぞれを制御する。制御モジュール121は、発電設備(A)31に対応する制御モジュールである。制御モジュール122は、発電設備(B)32に対応する制御モジュールである。制御モジュール123は、発電設備(C)33に対応する制御モジュールである。なお、発電設備Aは、
図4に示すように負荷追従優先度が1であり、負荷追従を行う発電設備である。上述したように、制御モジュール121~123は、互いに同じ構成を備えるが、モジュールの内部に設定する発電設備ごとのパラメータによって、各発電設備の制御に対応することができる。制御モジュール121~123については、後でも説明する。
【0060】
ここで、制御ロジック部12が複数の発電設備A~C(発電設備31~33)に対して行う制御の方式について、概要を説明する。
【0061】
発電設備Aは、負荷追従優先度が1である(
図4)。このため、発電設備Aの制御方式は、他の発電設備B、Cと異なる。
【0062】
制御ロジック部12は、発電設備Aのローカル制御装置41に対して、負荷追従の運転を行わせる制御信号(負荷追従モードがONの制御信号)を出力する。発電設備Aのローカル制御装置41は、この制御信号を入力し、負荷追従運転での制御を行う。発電設備Aは、発電計画部2が求めた計画負荷(発電計画)に従わず、負荷追従の運転を行う。
【0063】
つまり、ローカル制御装置41は、電力計測設備5から現在の電力消費量の計測値(電力計測値)を入力し、発電の供給量が需要である電力計測値と一致するように、発電設備Aの発電量を調整する。電力の需給ギャップは、電力の周波数に現われる。需要に対して供給が不足すると、周波数が所定の値より低下し、供給が過剰になると、周波数がこの所定の値より増加する。発電設備Aのローカル制御装置41は、このような電力の周波数特性を基にして発電設備Aの発電量を調整することで、負荷追従の運転を行う。
【0064】
一方、優先度が2以降の発電設備である発電設備B、Cは、優先度が1の発電設備Aが行うような負荷追従の運転を行わず、発電計画部2が求めた計画負荷(発電計画)に従って運転する。制御ロジック部12は、制御信号として計画負荷の値(負荷要求値)を、発電設備B、Cのローカル制御装置42、43に出力する。ローカル制御装置42、43は、負荷要求値を入力し、負荷要求値と一致するようにそれぞれ発電設備B、Cの発電量を調整する。発電設備B、Cの負荷要求値は、負荷追従運転を行う発電設備Aの負荷の値と異なり、頻繁に変更されるものではない。
【0065】
以上が、制御ロジック部12が、発電設備A~Cのローカル制御装置41~43に対して制御信号を送信し、発電設備A~Cを制御する処理の流れである。
【0066】
次に、制御ロジック部12が制御信号を作成する処理の詳細を説明する。
【0067】
前述したように、優先度が1である発電設備A(負荷追従運転を行う発電設備)と、優先度が2以降の発電設備B、Cとでは、運転方式が異なる。上述したように、発電設備A~Cのそれぞれに対応する制御モジュール121~123は、互いに同じ構成を備え、モジュールの内部に設定する発電設備ごとのパラメータによって、各発電設備の制御に対応することができる。
【0068】
図5は、発電設備の制御モジュール121~123の内部構成を示す図である。制御モジュール121~123のそれぞれは、負荷追従モード設定部21、負荷推定部22、レンジ逸脱量計算部24、負荷補正値加算部23、レンジ設定部26、区分化処理部25、及び起動停止判断部27を備える。
【0069】
負荷追従モード設定部21は、制御モジュール優先度設定部13(
図2)から、制御対象である発電設備の負荷追従優先度の情報を入力する。上述したように、優先度が1の発電設備A(負荷追従運転を行う発電設備)と、優先度が2以降の発電設備B、Cとでは、制御モジュール121~123の処理が異なる。負荷追従モード設定部21は、制御対象である発電設備の優先度が1の場合には、ローカル制御装置41へ負荷追従の運転を行わせる制御信号(負荷追従モードがONの制御信号)を送信するとともに、負荷推定部22を動作させる。一方、負荷追従モード設定部21は、制御対象である発電設備の優先度が2以降の場合には、負荷追従モードがOFFであるとして、負荷補正値加算部23を動作させる。負荷補正値加算部23については、後述する。
【0070】
先ず、優先度が1の発電設備における負荷追従運転での処理を説明する。なお、制御モジュール121~123は、負荷追従運転を行う発電設備に対しては、計画負荷の値(負荷要求値)の制御信号を出力しない。
【0071】
ローカル制御装置41は、電力計測設備5から電力計測値を入力し、発電量が電力計測値と一致するように(すなわち、電力の周波数が一定になるように)発電設備の発電量を調整することで、負荷追従の運転を行う。この制御は、制御モジュール121~123の外部で行われるフィードバック制御である。
【0072】
負荷推定部22は、負荷追従運転を行う発電設備の発電量(負荷)を、以下の式(1)で推定する。
発電設備Aの負荷推定値
=電力計測値-発電設備Aを除く発電設備の計画負荷の合計値
=電力計測値-(全ての計画負荷の合計値-発電設備Aの計画負荷の値) (1)
但し、式(1)では、負荷追従運転を行うのが発電設備Aとあるとしている。
【0073】
式(1)に示すように、発電設備Aの発電量の推定値(負荷推定値)は、実際に使用されている電力値である電力計測値から、発電設備Aを除いた他の発電設備の計画負荷の合計値を引いた値である。つまり、負荷推定部22は、発電設備Aの負荷推定値を、電力計測値、全ての発電設備の計画負荷の合計値、及び発電設備Aの計画負荷の値の3つのデータから計算することができる。負荷推定部22は、これら3つのデータを、
図2に示したように、データ取得部11から入力する。データ取得部11は、電力計測値を電力計測設備5から入力し、各発電設備の計画負荷を発電計画部2から入力する。
【0074】
次に、レンジ逸脱量計算部24は、負荷推定部22から負荷追従運転を行う発電設備(例えば、発電設備A)の負荷推定値を入力する。そして、レンジ逸脱量計算部24は、入力した負荷推定値を、各発電設備(例えば、発電設備A)に運転特性として設定されている負荷レンジ(発電レンジ)と比較し、負荷推定値の負荷レンジからの逸脱量(レンジ逸脱量)を計算する。一般的に、負荷レンジの上限には定格負荷が、下限には運転可能な最低負荷が設定される(発電設備によっては、ゼロ近傍の負荷では運転できないものもあるからである)。
【0075】
レンジ逸脱量は、負荷推定値が負荷レンジの範囲内にある場合にはゼロであり、負荷推定値が負荷レンジの上限を上回る場合には正値であり、負荷推定値が負荷レンジの下限を下回る場合には負値である。これは、以下の式(2)で計算される。
レンジ逸脱量
=MAX(負荷推定値-負荷レンジの上限,0)
+MIN(負荷推定値-負荷レンジの下限,0) (2)
但し、関数MAXは、引数の中の最大値を与え、関数MINは、引数の中の最小値を与える。
【0076】
レンジ逸脱量計算部24が計算したレンジ逸脱量が正値であるということは、負荷追従運転を行うことになっている発電設備では、負荷追従に対応できないことを意味する。つまり、この発電設備では、電力需要(電力計測値)に対して発電量の不足が大きく、発電量を負荷レンジの上限まで上げても電力需要に追い付かない状態、すなわち電力供給が不足していることを意味する。
【0077】
このような事態が発生する原因としては、電力需要の予測値または太陽光発電量の予測値が、これらの実際値から大きくずれた場合に起こる。例えば、前述したように、発電計画部2は、与えられた電力需要の予測値に合うように、各発電設備の負荷を決定する。このため、実際の電力需要が予測値を大きく超えた場合に、電力の供給不足が起こる。発電設備の負荷を決める際には、このような変動に対して余裕(マージン)を考慮した上で負荷を決定する。言い換えれば、この余裕を超えるほど電力需要に変動が発生した場合には、発電設備は、発電計画部2が決定した計画負荷での運転が困難になるということである。このことは、太陽光発電量についても同様である。発電計画部2は、気象情報などを用いて推定した太陽光発電量の予測値を基に発電設備の負荷を決定するが、太陽光発電量の実際値が予測値よりも大きく下回ると、電力の供給不足が発生する。
【0078】
一方、レンジ逸脱量計算部24が計算したレンジ逸脱量が負値である場合は、電力供給が過剰である。このような事態が発生する原因は、電力需要の実際値が予測値よりも少ない、または太陽光発電量の実際値が予測値よりも大きいことである。
【0079】
レンジ逸脱量計算部24は、式(2)を用いてレンジ逸脱量(すなわち、発電設備の負荷の不足量または過剰量)を算出し、レンジ逸脱量を負荷補正値として、負荷追従優先度が下位の発電設備の制御モジュールに出力する。負荷補正値は、発電設備の負荷の不足量または過剰量であり、発電設備の負荷を補正するための値である。
【0080】
以上が、負荷追従運転を行う発電設備(例えば、発電設備A)の制御モジュールが行う処理である。
【0081】
次に、負荷追従運転を行う発電設備以外の発電設備、つまり、負荷追従優先度が2以降の発電設備に対する処理を説明する。これらの発電設備では、
図5に示した負荷補正値加算部23が動作する。
【0082】
負荷補正値加算部23は、データ取得部11から計画負荷の値を入力するとともに、負荷追従優先度が上位の発電設備を制御する制御モジュールから区分化処理部25(詳細は後述する)を通して負荷補正値を入力する。負荷補正値とは、前述したように、レンジ逸脱量、すなわち上位の発電設備の負荷レンジから逸脱した電力供給の不足量または過剰量である。
【0083】
そして、負荷補正値加算部23は、負荷補正値を用いて計画負荷の値を補正することで調整後の負荷を求め、求めた調整後の負荷をレンジ設定部26に出力する。負荷補正値加算部23は、計画負荷の値に負荷補正値を加算して調整後の負荷を求める。
【0084】
負荷補正値がゼロの場合には、負荷補正値加算部23は、入力した計画負荷の値をそのままレンジ設定部26に出力する。このような処理を行う制御モジュールに制御される発電設備は、発電計画部2が決定した計画通りの運転を行う。
【0085】
負荷補正値がゼロ以外の値の場合には、負荷補正値加算部23は、計画外の負荷調整を行う。電力供給が不足の場合には、負荷補正値(レンジ逸脱量)が正値であり、計画負荷の値が負荷補正値だけ増加する。すなわち、制御する発電設備の負荷を計画よりも増加させる。一方、電力供給が過剰の場合には、負荷補正値が負値であり、計画負荷の値が負荷補正値だけ減少する。すなわち、制御する発電設備の負荷を計画よりも減少させる。負荷補正値加算部23は、このような処理をして、計画負荷の値と負荷補正値から調整後の負荷を求める。
【0086】
負荷補正値加算部23のこのような処理によって、発電設備A~Cによる電力供給が不足している運転状態や電力供給が過剰な運転状態を解消することができる。負荷補正値加算部23は、求めた調整後の負荷をレンジ設定部26に出力する。
【0087】
レンジ設定部26は、負荷補正値加算部23が求めた調整後の負荷を入力し、調整後の負荷のレンジを、当該レンジ設定部26を備える制御モジュールが制御する発電設備(当該発電設備)の負荷レンジに合わせるレンジリミッタの処理を実行する。すなわち、レンジ設定部26は、レンジリミッタの処理を実行し、調整後の負荷が当該発電設備の負荷レンジを超えないように、調整後の負荷の範囲の上限と下限を当該発電設備の負荷レンジの上限と下限に合わせる。レンジ設定部26は、レンジリミッタによる処理をした後の調整後の負荷の値を、負荷要求値としてローカル制御装置に出力する。
【0088】
レンジ設定部26のレンジリミッタの処理において、負荷補正値加算部23が出力した調整後の負荷が、当該発電設備の負荷レンジを超える場合がある。これは、負荷追従優先度が上位の発電設備の制御モジュールから入力した負荷補正値が大き過ぎて、調整後の負荷のレンジを当該発電設備の負荷レンジに合わせることでは、電力供給を調整できないことを意味する。
【0089】
このような場合には、前述の負荷追従運転での処理と同様に、レンジ逸脱量計算部24は、調整後の負荷が当該発電設備の負荷レンジを超える値(レンジ逸脱量)を計算し、このレンジ逸脱量を負荷補正値として、負荷追従優先度が下位の発電設備の制御モジュールに出力する。
【0090】
本実施例では、このような複数の制御モジュール121~123の処理によって、発電設備31~33は、あらかじめ設定された負荷追従優先度に従って、順にバックアップ的に負荷追従の運転を行うことができる。すなわち、負荷追従優先度が1の発電設備が電力供給を調整できない場合(負荷追従が困難になった場合)には、負荷追従優先度が2の発電設備がバックアップして電力供給を調整し、負荷追従優先度が2の発電設備も電力供給を調整できない場合には、負荷追従優先度が3の発電設備がバックアップして電力供給を調整することができる。
【0091】
前述したように、負荷補正値加算部23は、負荷追従優先度が上位の発電設備の制御モジュールから入力した負荷補正値を計画負荷の値に加算して、調整後の負荷を求める。この負荷補正値は、数値の区分化処理が行われた後に、計画負荷の値に加算されるのが好ましい。この区分化処理は、負荷補正値を複数の離散値のいずれかに区分する(変換する)処理であり、
図5に示す区分化処理部25が実行する。
【0092】
以下では、区分化処理部25が実行する区分化処理の詳細と目的を説明する。
【0093】
図6は、区分化処理部25が実行する、負荷補正値の区分化処理を説明する図である。
図6に示す例では、区分化処理部25は、負荷補正値を10単位で区分化する。例えば、負荷補正値が0の場合には、区分化された負荷補正値を0とし、負荷補正値が0より大きく10以下の場合には、区分化された負荷補正値を10とし、負荷補正値が10より大きく20以下の場合には、区分化された負荷補正値を20とする。この区分化処理により、負荷補正値は、例えば、-20、-10、0、+10、+20などの離散化された値を取る。
【0094】
このような区分化処理をする目的は、負荷追従優先度が2以降の発電設備に対して、発電量の調整頻度を低減するためである。前述したように、発電量を電力需要に合わせてリアルタイムで変化させる負荷追従運転を行う発電設備は、1台のみである。区分化処理部25が区分化処理を行うことにより、負荷追従優先度が2以降の発電設備に対しては、発電量の調整頻度を抑えることができる。つまり、負荷追従運転を行う発電設備を、負荷追従優先度が1の発電設備にできるだけ固定することができる。さらに、このような区分化処理の際に、区分化の閾値にヒステリシス機能を持たせ、負荷補正値の値によって閾値を変化させるのが好ましい。区分化の閾値にヒステリシス機能を持たせると、閾値をまたいで負荷補正値が変動するような場合にも、発電設備の発電量の調整頻度を抑えることができる。
【0095】
ここまでは、発電設備の負荷(発電量)を調整するための制御に関する処理を説明した。
【0096】
発電計画部2が求めて発電設備制御部1に出力した計画負荷によっては、発電設備を起動または停止する制御を行うのが好ましいことがある。この、発電設備を起動または停止する制御は、
図5に示す起動停止判断部27が実行する。
【0097】
起動停止判断部27は、計画負荷の時系列データ(
図3)を参照し、計画負荷の値が0から正値に変化する場合には、この変化が起きる時刻に合わせて、発電設備を起動させる起動信号をローカル制御装置に出力する。また、起動停止判断部27は、計画負荷の値が正値から0に変化する場合には、この変化が起きる時刻に合わせて、発電設備を停止させる停止信号をローカル制御装置に出力する。
【0098】
以上が、本実施例における、複数の発電設備に対する負荷配分の制御である。以上説明したように、本実施例による熱電制御システムは、負荷追従を行うための制御ロジックを自動で構築できる。
【0099】
図7は、本実施例における負荷配分の制御による、発電設備の動作例を模式的に示す図である。
図7には、一例として、3つの発電設備A~Cの動作例を示している。発電設備Aは、負荷追従優先度が1であり、負荷追従運転を行っている。
【0100】
例えば、時刻t1で、発電設備Aの負荷(発電量)が負荷レンジの上限に到達すると、負荷追従優先度が2である発電設備Bの負荷が、計画負荷から補正されて増加する。このときの補正量である負荷補正値は、区分化処理部25の区分化処理により、矩形波のような形状に変更されている。負荷追従優先度が1である発電設備Aは、常に負荷追従運転を行っている。なお、発電設備Cの負荷は、常に計画負荷に従っている。
【0101】
図8は、本実施例による熱電制御システムが表示装置7に表示する画面の例を示す図である。
図8に示す例では、画面の最上部に、電力需要の実際値(計測値)と計画値(計画負荷の値)のトレンド(時間変化)を互いに比較して示している。この電力需要のトレンドの下に、電力需要の実際値と一致するように複数の発電設備に対して負荷配分の制御を実施したときの、各発電設備の発電量の実際値のトレンドを示している。
【0102】
図8では、一例として、負荷追従優先度が1である発電設備が、ガスエンジンAであり、負荷追従優先度が2である発電設備が、蓄電池であり、負荷追従優先度が3である発電設備が、ガスエンジンBである。なお、太陽光発電設備のような再エネ設備34は、発電量の調整ができないため、負荷追従優先度が設定されない。
【0103】
電力需要のトレンドにおいて、電力需要の実際値が計画値を大きく上回る時間帯がある。この時間帯において、負荷追従優先度が1であるガスエンジンAの発電量が上限に到達したので、負荷追従優先度が2である蓄電池は、計画負荷が補正され、発電量(放電量)が計画負荷(計画放電量)から増加して電力を供給している。
図8では、蓄電池の発電量(充放電量)のトレンドにおいて、計画負荷の補正(負荷補正値の加算)による計画外の発電量の変化(放電量の増加)を網掛けで示している。
【0104】
以上のように、本実施例による熱電制御システムは、互いに同じ構成を備えて共通の処理を実行可能な制御モジュール121~123を備え、制御モジュール121~123が制御する発電設備31~33の負荷レンジと、発電設備31~33に設定された負荷追従優先度を用いることで、制御特性の異なる複数種類の発電設備31~33に対して、負荷追従を行うための設備全体の制御ロジックを自動で構築できる。これにより、多様な発電設備を組合せた発電システムに対しても、発電設備の制御ロジックを容易に構築できるため、エンジニアリング工数を削減でき、開発の低コスト化と納期の短縮を実現できる。
【0105】
また、本実施例による熱電制御システムでは、複数の発電設備が負荷追従優先度に従って負荷追従の運転を行うことができ、バックアップ的に負荷追従の運転を行って電力供給を調整できるので、負荷変動の大きさに対しても補償することができる。
本発明の実施例2による熱電制御システムを説明する。本実施例による熱電制御システムは、実施例1による熱電制御システムと、負荷追従優先度設定部6の処理が異なる。以下では、本実施例について、実施例1と異なる点を主に説明する。
実施例1では、負荷追従優先度設定部6は、発電設備31~33のそれぞれに対してあらかじめ設定された負荷追従優先度のデータを格納している。すなわち、実施例1では、負荷追従優先度が固定されている。
運転モード(1)は、通常モード、すなわち発電設備が通常の運転をしている場合のモードである。運転モード(1)では、負荷追従優先度設定部6は、小型のガスエンジンAの負荷追従優先度を1にし、蓄電池の負荷追従優先度を2にし、大型のガスエンジンBの負荷追従優先度を3にする。
運転モード(2)は、電力供給不足モード、すなわち電力供給が不足している場合のモードである。運転モード(2)では、負荷追従優先度設定部6は、ガスエンジンA(小型)とガスエンジンB(大型)の負荷追従優先度を入れ替え、ガスエンジンBの負荷追従優先度を1にし、ガスエンジンAの負荷追従優先度を3にする。負荷追従優先度設定部6は、電力計測値(電力需要の実際値)から各発電設備の計画負荷の合計値(電力需要の計画値)を引いた差分が、あらかじめ定めた閾値を超えた場合に、運転モード(2)である(すなわち、電力供給が不足している)と判定する。
運転モード(2)での負荷追従優先度の設定は、例えば、次のような考えに基づく。負荷追従運転を行うガスエンジンは、部品の摩耗が早いため、通常は安価なガスエンジン(小型のガスエンジンA)が用いられる。しかし、電力供給の不足量が所定の閾値より大きくなった場合には、発電量がより大きい大型のガスエンジンBが負荷追従運転を行えるように、負荷追従優先度を変える。
運転モード(3)は、太陽光発電量過剰モード、すなわち太陽光発電量が過剰である場合のモードである。運転モード(3)では、負荷追従優先度設定部6は、蓄電池の負荷追従優先度を1にする。負荷追従優先度設定部6は、太陽光発電量から電力計測値(電力需要の実際値)を引いた差分が、あらかじめ定めた閾値を超えた場合に、運転モード(3)である(すなわち、太陽光発電量が過剰である)と判定する。
運転モード(3)での負荷追従優先度の設定には、太陽光発電量が実際の電力需要を超えた場合に、過剰な発電量を蓄電池に優先的に充電させる運転を行うという目的がある。電源設備は、電力供給が過剰な場合にも電力を遮断する。このため、太陽光発電量が過剰な場合に太陽光発電を電力線から外して強制的に発電を止めるよりも、太陽光発電量を蓄電池に充電した方が、運転コストを低減できる。
運転モード(4)は、電力供給不足モードかつ蓄電量低モード、すなわち電力供給が不足しているとともに蓄電池の蓄電量が少ない場合の運転モードである。運転モード(4)では、負荷追従優先度設定部6は、蓄電池の計画外の放電量の増加を抑制して蓄電量を確保するため、蓄電池の負荷追従優先度を最下位にする。負荷追従優先度設定部6は、電力供給が不足しているか否かを、運転モード(2)と同様にして判定する。また、負荷追従優先度設定部6は、蓄電池の蓄電量があらかじめ定めた閾値を下回る場合に、蓄電池の蓄電量が少ないと判定する。
運転モード(5)は、電力供給過剰モードかつ蓄電量高モード、すなわち電力供給が過剰であるとともに蓄電池の蓄電量が多い場合の運転モードである。運転モード(5)では、負荷追従優先度設定部6は、蓄電池の計画外の充電量の増加を抑制して過充電を防止するため、蓄電池の負荷追従優先度を最下位にする。負荷追従優先度設定部6は、電力計測値(電力需要の実際値)から各発電設備の計画負荷の合計値(電力需要の計画値)を引いた差分が、あらかじめ定めた閾値を下回る場合に、電力供給が過剰であると判定する。また、負荷追従優先度設定部6は、蓄電池の蓄電量があらかじめ定めた閾値を上回る場合に、蓄電池の蓄電量が多いと判定する。
運転モード(6)は、夜間モード、すなわち発電設備が夜間の時間帯に運転する場合のモードである。負荷追従優先度は、発電設備が運転する時間帯に応じて変えることもできる。運転モード(6)では、負荷追従優先度設定部6は、蓄電池の負荷追従優先度を最下位にする。これは、太陽光発電量の変動を吸収するために蓄電池を運用する場合に、太陽光による発電が停止する夜間の時間帯には、蓄電池に対する計画外の充放電操作を抑制させることが目的である。なお、夜間の時間帯は、あらかじめ任意に定めておくことができる。
電力供給不足モードでは、負荷追従優先度が2以降の発電設備に対して計画負荷に補正が加わる場合(すなわち、負荷補正値が0以外である場合)には、上記の差分が必ず正値になるので、発電量を増加する。このため、負荷追従優先度設定部6は、高効率のガスエンジンBの負荷追従優先度を、低効率のガスエンジンCの負荷追従優先度よりも上位に設定する。これは、高効率のガスエンジンBの発電量を増加する方が、運転コストの増加幅を低く抑えることができるためである。
電力供給過剰モードでは、電力供給不足モードと逆の動作を実施させる。すなわち、負荷追従優先度設定部6は、低効率のガスエンジンCの負荷追従優先度を、高効率のガスエンジンBの負荷追従優先度よりも上位に設定する。これは、低効率のガスエンジンCを優先的に用いて発電量を低下させることで、運転コストの低下幅をより大きくするためである。
次に、負荷追従優先度を決定する処理について、今までに説明したのと異なる処理の例を説明する。負荷追従優先度設定部6は、各発電設備が負荷追従の運転を行った累積時間を運転状態とし、この累積時間に応じて動的に負荷追従優先度を変えることができる。
負荷追従の運転では、負荷が頻繁に変わるので、例えばガスエンジンのような燃焼機関では、熱応力が働くことで部品が早く消耗する。このため、同じ型式の発電設備が複数台ある場合には、1台の設備のみに負荷追従運転をさせるのではなく、複数の設備に対して均等に負荷追従運転をさせることで、複数の設備の部品を同程度に消耗させる。負荷追従優先度設定部6は、各発電設備の負荷追従の運転を行った累積時間に応じて負荷追従優先度を変えて、複数の設備に均等に負荷追従運転をさせることで、発電設備全体の寿命を延ばすことができる。
本実施例では、表示装置7は、負荷追従優先度設定部6が発電設備の負荷追従優先度を変えるのに用いた値や情報(発電設備の運転状態)を表示することができる。また、表示装置7は、発電設備のそれぞれについて、現在の負荷追従優先度を表示することができる。さらに、表示装置7は、発電設備の運転モードを表示することができる。発電設備の運転モードは、発電設備の運転状態、すなわち負荷追従優先度設定部6が発電設備の負荷追従優先度を変えるのに用いた値や情報から決定することができる。
以上説明したように、本実施例による熱電制御システムでは、負荷追従優先度設定部6は、発電設備の運転状態に応じて、発電設備の負荷追従優先度を動的かつ適切に設定することができる。これにより、本実施例による熱電制御システムでは、電力供給が計画に対して不足になったり過剰になったりしても、発電設備の運転状態に応じて適切に負荷配分を行うことができるため、運転の信頼性を向上できる。