(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161754
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】糖化酵素の回収方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/42 20060101AFI20241113BHJP
C13K 1/02 20060101ALI20241113BHJP
C12P 19/14 20060101ALI20241113BHJP
C12P 7/10 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C12N9/42
C13K1/02
C12P19/14 A
C12P7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076742
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 清夏
(72)【発明者】
【氏名】田中 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 嘉樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 葉子
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF02
4B064CA21
4B064CC15
4B064CD19
4B064CE20
4B064DA10
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】回収効率の良い糖化酵素の回収方法を提供する。
【解決手段】セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、前記糖化工程を経た反応物のpHを調整するpH調整工程と、前記pH調整工程を経た前記反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、前記液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、を含む、糖化酵素の回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程を経た前記反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、
前記液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、
を含む、糖化酵素の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記pH調整工程では、3.5以上4.5以下のpHとなるように、前記反応物のpHが、調整される、回収方法。
【請求項3】
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物を第1液相及び第1固相に分離する第1分離工程と、
前記第1固相のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程を経た前記第1固相を第2液相及び第2固相に分離する第2分離工程と、
前記第1液相及び前記第2液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、
を含む、糖化酵素の回収方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記pH調整工程では、3.5以上4.5以下のpHとなるように、前記反応物のpHが、調整される、回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化酵素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを糖化することによりグルコースを得ることが、いわゆるカーボンマイナス、バイオマスの有効利用、バイオエタノールへの応用等の観点から注目されている。例えば、特許文献1には、リグノセルロース系バイオマスを酵素で糖化する糖化工程と、糖化工程終了後に酵素を回収する酵素回収工程を含むリグノセルロース系バイオマスの糖化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に開示されるように、バイオマスを糖化する酵素を回収することは、酵素が高価であるなどの理由で行われる場合がある。しかしながら、酵素の回収効率は不十分となる場合が多く、より回収効率の良い回収方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る糖化酵素の回収方法の一態様は、
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程を経た前記反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、
前記液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、
を含む。
【0006】
本発明に係る糖化酵素の回収方法の一態様は、
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物を第1液相及び第1固相に分離する第1分離工程と、
前記第1固相のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程を経た前記第1固相を第2液相及び第2固相に分離する第2分離工程と、
前記第1液相及び前記第2液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】糖化酵素の凝集のpH依存性の実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0009】
1.第1実施形態
第1実施形態に係る糖化酵素の回収方法は、セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、セルロースと糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、糖化工程を経た反応物のpHを調整するpH調整工程と、pH調整工程を経た反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、液相から、糖化酵素を回収する回収工程と、を含む。
【0010】
1.1.準備工程
準備工程では、セルロース及び糖化酵素を準備する。
【0011】
1.1.1.セルロース
セルロースは、β-1,4-グルコシド結合を有する多糖である。セルロースは、植物に多く含まれている。本実施形態で用いるセルロースは、紙、パルプ等に由来してもよい。原料に紙を用いると、原料をより容易に調達できる。また紙は、印刷済みの古紙を含んでもよい。印刷済みの古紙としては、コピー用紙、新聞、雑誌等が挙げられる。印刷済みの古紙を用いると、環境資源や埋蔵資源の節約等になり、廃棄物を削減できるので好適である。
【0012】
本実施形態では、セルロースは、セルロース以外の成分とともに用いられてもよい。セルロース以外の成分としては、例えば、木材由来の成分として、リグニン、ヘミセルロース、加工された木材の成分として、填料、顔料、樹脂成分、粘土類、バインダー、トナー、油分、水分等が挙げられる。
【0013】
セルロースを紙から得る場合には、セルロースのほかに填料等を含むことになるが、原料をより容易に調達できる。また紙は、印刷済みの古紙を含んでもよい。印刷済みの古紙としては、コピー用紙、新聞、雑誌等が挙げられる。印刷済みの古紙を用いると、環境資源や埋蔵資源の節約等になり、廃棄物を削減できるので好適である。
【0014】
紙、古紙等は、粉砕された状態で用いられてもよい。粉砕は、例えば、シュレッダー等により切断して行われてもよく、乾式解繊機等により粉砕されて行われてもよい。さらに粉砕は、例えば、湿式の離解により行われてもよい。原料が粉砕又は粗砕された状態であると、原料中に含まれるセルロース以外の成分をセルロースから遊離させやすくなり、かつセルロースが糖化槽に導入される液体に接しやすくなるので、糖化工程の効率を向上できる場合がある。また、粉砕された古紙等は、表面積が増大することで各工程の効率を向上できる。
【0015】
セルロースの原料は、滅菌された状態で用いられることがより好ましい。滅菌の手法としては、例えば、加熱、紫外線照射等が挙げられる。このようにすれば、糖化反応により生じるグルコース等が、原料由来の微生物等により消費されにくくなり、糖の収率が高まることがある。
【0016】
1.1.2.糖化酵素
糖化酵素としては、β-1,4-グルコシド結合を切断してセルロースを糖に分解する作用を有するものであれば、用いることができる。セルロース分解酵素の例としては、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及び、セロビアーゼ(β-グルコシダーゼ)等が挙げられる。セルロース分解酵素のより具体的な例としては、セルラーゼSS(ナガセケムテックス株式会社製)、Accellerase Duet(GENENCOR社製)、Cellic Ctec2(Novozymes社製)、Cellic Ctec3(Novozymes社製)、及びメイセラーゼ(Meiji seika ファルマ株式会社製)等が挙げられ、これらの酵素は複数種を併用してもよい。また、セルロース表
面に存在するキシランを同時に分解し、糖化効率を高めるためにキシラナーゼを併用してもよい。
【0017】
糖化酵素は、粉体、溶液又は分散液として、糖化工程で使用する糖化槽に導入されてもよい。また、糖化酵素は、必要に応じて糖化槽に追加的に導入されてもよい。
【0018】
1.2.糖化工程
糖化工程では、糖化槽に、セルロースと、糖化酵素と、を導入し、適宜のpH、温度で撹拌することにより、糖化反応を行い、セルロースが糖化された反応物を得る。
【0019】
1.2.1.糖化槽
糖化槽は、セルロース及び糖化酵素を導入でき、内容物を撹拌できるものであれば特に限定されない。糖化槽の規模についても限定されず、ビーカー、フラスコ等の実験室規模であってもよいし、パイロットプラント規模であってもよく、さらには商業プラント規模であってもよい。
【0020】
糖化槽は、容器と蓋体とを備えてもよい。糖化槽は、セルロースや糖化酵素の導入口、緩衝液や水の導入口、反応物の取り出し口、内部を撹拌するための機構、内部観察用の窓、加熱・冷却用のヒーター、冷媒配管、ジャケット等、その他配管類を適宜に備えてもよい。さらに、糖化槽は、液面計、温度計等を備えてもよく、それらの設置のための開口を有してもよい。
【0021】
撹拌機構としては、例えば、マグネチックスターラー及び撹拌子、撹拌用モーター、シャフト及び撹拌羽根等が挙げられ、規模や内容物の撹拌効率に応じて適宜選択することができる。
【0022】
1.2.2.糖化酵素の導入
糖化酵素は、糖化反応液として、糖化槽に導入されてもよい。糖化反応液は、糖化酵素を含み、水を主成分とする。糖化反応液には、糖化酵素、水の他に、例えば、酵素反応に有用な物質、pH調節剤、界面活性剤等が含有されてもよい。また、糖化反応液に対して本実施形態の回収方法により回収された糖化酵素を添加してもよい。
【0023】
水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、反応液を長期保存する場合、酵素反応中、酵素反応後にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好ましい。
【0024】
糖化反応液は、pH調節剤を含んでもよい。pH調節剤としては、酢酸、クエン酸、リン酸などの有機酸、無機酸、有機アルカリ、無機アルカリ及びそれらのナトリウム塩などの塩から選ばれる1種以上、緩衝液を構成する物質、等を例示できる。
【0025】
糖化反応液は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、酵素反応を阻害しないものであれば、特に制限なく使用できる。糖化反応液に界面活性剤を配合することにより、セルロースに対して糖化反応液が濡れやすくなり、糖化反応の効率を向上できる。
【0026】
また、界面活性剤を用いる場合、消泡効果を有する界面活性剤を含むことがより好ましい。消泡効果を有する界面活性剤は、消泡剤と称する場合がある。消泡剤としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリシロキサン系消泡剤、アセチレングリコール系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤等が挙げられる。
【0027】
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、3次元シロキサン「FOAM BAM(登録商標)MS-575」(製品名、Munzing社製)、KM-71、KM-75(製品名、信越化学工業株式会社製)、BYK-093、BYK-094(製品名、BYK社製)等が挙げられる。
【0028】
ポリシロキサン系消泡剤の市販品としては、KM-73A、KM-73E、KM-71、KM-85、KM-89、KM-98、KM-7752、KS-531、KS-540、KS-530、KS-537、KS-538(製品名、信越化学工業株式会社製)、BYK-020、BYK-021、BYK-022、BYK-023、BYK-024、B
YK-044、BYK-094(製品名、BYK社製)、TSA6406、TSA780、TSA739、TSA775(製品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等が挙げられる。
【0029】
アセチレングリコール系消泡剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、アセチレングリコール系消泡剤の市販品としては、例えば、オルフィン104シリーズ、オルフィンE1010等のEシリーズ(製品名、エアープロダクツ社製)、サーフィノール 465、61、DF110D(製品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0030】
糖化反応液が消泡剤を含むことにより、発泡しにくく、発泡したとしても消泡しやすくなるので、糖化槽からの溢れや、配管の詰まり等をさらに抑制することができる。
【0031】
糖化反応液は、上記の消泡剤で挙げた以外の界面活性剤を含んでもよい。そのような界面活性剤として、以下に限定されないが、例えば、シリコーン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、フッ素系、ノニオン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
1.2.3.糖化反応のpH
糖化工程における糖化反応液のpHは、使用する糖化酵素の至適pHに応じて調整される。例えば用いる酵素がCellic Ctec2(Novozymes社製)である場合には、糖化反応液のpHは、4.5以上6.0以下、好ましくは5.0以上5.7以下である。pHの調節は、上述のpH調整剤を添加することにより行うことができる。また、pHの調節は、糖化酵素を糖化反応液に添加する前に行われることがより好ましい。さらに、糖化反応液にセルロースが混合されると、糖化反応液のpHが高くなることがある。そのような場合には、糖化反応液のpHを上記範囲に適宜調整することが好ましい。
【0033】
pHは、酢酸ナトリウム、酢酸、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム水溶液などを糖化反応液に添加することにより調節できる。また、糖化反応液のpHをモニターできるように構成した場合、糖化工程中にpHを調節してもよい。例えば、糖化槽内を撹拌中にpHが所定のpHよりも高くなった場合には、酢酸、塩酸、硫酸などを添加し、pHが所定のpHよりも低くなった場合には、水酸化ナトリウム水溶液などを添加する。
【0034】
1.2.4.糖化反応の温度
糖化工程における糖化反応液の液体の温度は、用いる酵素の至適温度に調節されることが好ましい。例えば用いる酵素がCellic Ctec2(Novozymes社製)である場合には、糖化反応液の温度は、40℃以上55℃以下、好ましくは48℃以上51℃以下、より好ましくは49℃以上50℃以下である。
【0035】
糖化槽内の液体の温度は、適宜の加熱装置、冷却装置、制御装置などを用いて調節される。
【0036】
1.2.5.撹拌
糖化工程では、糖化槽内にセルロース及び糖化反応液を導入し、これを撹拌することによりセルロース由来の糖を生成させる。糖化工程は、糖化酵素の能力や全体の規模に依存するが、2時間以上1週間以内の時間行われる。糖化工程が行われる時間は、典型的には、10時間以上5日以内、より好ましくは1日以上4日以内、さらに好ましくは1日以上3日以内である。
【0037】
糖化工程における撹拌は、上述した適宜の撹拌機構により行われる。撹拌の際のモーターの回転速度等は、糖化槽の規模や構成、撹拌子又は撹拌羽根の形状糖に応じて適宜設定できる。
【0038】
1.2.6.反応物
糖化工程により生成した反応物は、液相に水、pH調整剤、糖、糖化酵素などを含むが、さらに固相として、未反応のセルロース、セルロースと糖化酵素の複合体、糖化酵素の凝集体、及び、その他の夾雑物を含む。
【0039】
また、反応物は、糖化反応に適した4.5以上6.0以下、好ましくは5.0以上5.7以下のpHとなっている。後述の実験例で示すように、このようなpHであると、糖化酵素の凝集体が生成することが判明している。
【0040】
1.3.pH調整工程
pH調整工程では、反応物のpHを調整する。pH調整工程では、糖化反応で用いた糖化酵素の至適pHにおける糖化効率を100%とした場合に、低pH側において80%の糖化効率となるpHよりも低いpHとなるように、反応物のpHを調整する。
【0041】
このようにpHを調整することにより、反応物中に固相として存在するセルロースと糖化酵素の複合体、及び、糖化酵素の凝集体の複合及び凝集が解かれ、糖化酵素を遊離させ、反応物中の液相に溶解させることができる。pHをこのように調整するための試薬としては、例えば酢酸、塩酸、硫酸などが挙げられ、pHをモニターしながら調整することが好ましい。
【0042】
pH調整工程では、3.5以上4.5以下のpHとなるように、反応物のpHを調整することがより好ましい。このようにすれば、固相の糖化酵素を液相により移行させやすい。また、このようにすれば、上記例示した糖化酵素に対してより顕著な効果が得られる。
【0043】
1.4.分離工程
分離工程は、pH調整工程を経た反応物を、液相及び固相に分離する工程である。分離工程は、例えば、濾過やフィルター処理による固液分離、デカンテーションや遠心分離による上澄み液(液相)及び沈殿物(固相)の分離、及びこれらの組み合わせ等により行うことができる。また、濾紙やフィルターを用いる場合には、タンパク質が結合しにくい性質を有するものを用いることが好ましく、例えば、セルロースアセテート膜、ポリエーテルスルホン膜、ポリカーボネート膜、ガラスフィルター、セラミックフィルター等を用いることがより好ましい。
【0044】
分離工程で得られる液相には、pH調整工程の前に生じていた固相から、pH調整工程において液相へ移行した糖化酵素が含まれている。そのため、分離工程で分離される液相
には、pH調整工程を経ないで分離工程を行った場合の液相よりも多くの糖化酵素が含まれる。これにより、糖化酵素の回収効率を高めることができる。さらに、この分離工程では液体状態で糖化酵素が分離されるため、糖化酵素へのダメージを小さく抑えることができ、リサイクル時の糖化酵素の活性も高く維持できる。
【0045】
1.5.回収工程
回収工程では、分離工程で分離された液相から、糖化酵素を回収する。分離工程を経た液相には、水、pH調整剤、糖、糖化酵素などが含まれる。糖化酵素は、水、pH調整剤、糖に比較して分子量が大きく、適切な分画分子量の限外濾過を用いれば、糖化酵素を回収することができる。
【0046】
他方、回収工程で限外濾過を行うことにより、濾液における糖の濃縮も可能であり、糖化工程において生成された糖も回収することができる。
【0047】
1.6.その他の工程
本実施形態の糖化酵素の回収方法は、その他の工程を含んでもよい。そのような工程としては、例えば、セルロースを滅菌する滅菌工程、回収した糖化酵素をリサイクルするために糖化槽に導入するリサイクル工程、得られた糖を精製する精製工程、及び、得られた糖を濃縮する濃縮工程などが挙げられる。これらの工程は、適宜に組み合わせることができ、適宜のタイミングで行われることができる。
【0048】
またなお、本実施形態の糖化酵素の回収方法は、バッチ式プロセスであっても連続プロセスであっても適用することができる。
【0049】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る糖化酵素の回収方法は、セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、セルロースと糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、糖化工程を経た反応物を第1液相及び第1固相に分離する第1分離工程と、第1液相から、糖化酵素を回収する第1回収工程と、第1固相のpHを調整するpH調整工程と、pH調整工程を経た第1固相を第2液相及び第2固相に分離する第2分離工程と、第2液相から、糖化酵素を回収する回収工程と、を含む。
【0050】
第2実施形態の回収方法は、pH調整工程が、液相及び固相に分離された後で行われる点で、第1実施形態と相違する。このようにすることでpH調整工程で使用する酢酸、塩酸、硫酸などの試薬の使用量を低減でき、プロセス全体のコストを低減できる。
【0051】
第2実施形態の回収方法における、準備工程及び糖化工程は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
2.1.第1分離工程
第1分離工程は、糖化工程により得られた反応物を、第1液相及び第2固相に分離する工程である。第1分離工程は、例えば、濾過やフィルター処理による固液分離、デカンテーションや遠心分離による上澄み液(液相)及び沈殿物(固相)の分離、等により行うことができる。
【0053】
第1分離工程で得られる第1液相には、水、pH調整剤、糖、糖化酵素などが含まれる。また、第1分離工程で得られる第1固相には、未反応のセルロース、セルロースと糖化酵素の複合体、糖化酵素の凝集体、及び、その他の夾雑物が含まれる。
【0054】
2.2.pH調整工程
第2実施形態では、pH調整工程は、第1分離工程で得られる第1固相に対して行われる。pH調整工程では、第1固相のpHを調整する。pH調整工程では、糖化反応で用いた糖化酵素の至適pHにおける糖化効率を100%とした場合に、低pH側において80%の糖化効率となるpHよりも低いpHとなるように、反応物のpHを調整する。
【0055】
このようにpHを調整することにより、第1固相中に存在するセルロースと糖化酵素の複合体、及び、糖化酵素の凝集体の複合及び凝集が解かれ、糖化酵素を遊離させ、媒体に溶解させることができる。pHをこのように調整するための試薬としては、例えば酢酸、塩酸、硫酸などが挙げられ、pHをモニターしながら調整することが好ましい。なお、第1固相には、必要に応じて、水、緩衝液などを加えてもよい。
【0056】
また、pH調整工程では、3.5以上4.5以下のpHとなるように、第1固相のpHを調整することがより好ましい。このようにすれば、第1固相の糖化酵素を媒体により移行させやすい。また、このようにすれば、上記例示した糖化酵素に対してより顕著な効果が得られる。
【0057】
2.3.第2分離工程
第2分離工程は、pH調整工程を経た第1固相を含む液体を、第2液相及び第2固相に分離する工程である。第2分離工程は、例えば、濾過やフィルター処理による固液分離、デカンテーションや遠心分離による上澄み液(液相)及び沈殿物(固相)の分離、等により行うことができる。
【0058】
第2分離工程で得られる液相には、pH調整工程において液相へ移行した糖化酵素が含まれている。そのため、第2分離工程で分離される液相には、第1分離工程で液相に取り込むことができなかった糖化酵素が含まれる。これにより、糖化酵素の回収効率を高めることができる。さらに、この第2分離工程では液体状態で糖化酵素が分離されるため、糖化酵素へのダメージを小さく抑えることができ、リサイクル時の糖化酵素の活性も高く維持できる。
【0059】
2.4.回収工程
回収工程では、第1分離工程で分離された第1液相、及び、第2分離工程で分離された第2液相から、糖化酵素を回収する。第1液相及び第2液相には、水、pH調整剤、糖、糖化酵素などが含まれる。糖化酵素は、水、pH調整剤、糖に比較して分子量が大きく、適切な分画分子量の限外濾過を用いれば、糖化酵素を回収することができる。
【0060】
他方、回収工程で限外濾過を行うことにより、濾液における糖の濃縮も可能であり、糖化工程において生成された糖も回収することができる。
【0061】
2.5.その他の工程
本実施形態の糖化酵素の回収方法は、その他の工程を含んでもよい。そのような工程としては、例えば、セルロースを滅菌する滅菌工程、回収した糖化酵素をリサイクルするために糖化槽に導入するリサイクル工程、得られた糖を精製する精製工程、及び、得られた糖を濃縮する濃縮工程などが挙げられる。これらの工程は、適宜に組み合わせることができ、適宜のタイミングで行われることができる。
【0062】
またなお、本実施形態の糖化酵素の回収方法は、バッチ式プロセスであっても連続プロセスであっても適用することができる。さらに、本実施形態の回収方法においては、回収工程は、第1液相及び第2液相のそれぞれに対して行ってもよい。
【0063】
3.実験例
以下、糖化酵素の凝集の実験例を示すが、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0064】
図1は、糖化酵素の凝集のpH依存性の実験結果を示す図である。糖化酵素としては、Cellic Ctec2(Novozymes社製)を用いた。酢酸ナトリウム緩衝液を用い、糖化酵素を含む緩衝液を複数準備した。酵素濃度は、5%基質に対して7.5%に相当する量とした。それぞれのpHを酢酸や水酸化ナトリウム溶液を用いて、
図1中に示す値となるように調整した。それぞれの糖化酵素緩衝液を、マイクロチューブに作成し、2時間静置後に写真撮影をした。
【0065】
図1にみられるように、pHが4.41以下では、凝集物の沈殿が見られないことが判明した。なお、用いた糖化酵素の至適pHは、5.0以上5.5以下程度であり、至適pHにおける糖化効率を100%とした場合に、低pH側において80%の糖化効率となるpHは、3.6であると別途実験により確認された。
【0066】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0067】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0068】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0069】
糖化酵素の回収方法は、
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程を経た前記反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、
前記液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、
を含む。
【0070】
この回収方法によれば、反応物のpHを調整することにより、未反応のセルロースに付着した糖化酵素を遊離させることができ、固相に付着した糖化酵素を効率よく回収できる。また、この回収方法によれば、糖化酵素の凝集、沈殿を抑制することができるので、糖化酵素を効率的に回収することができる。さらに、これらのことにより、糖化酵素の劣化を抑制することができ、糖化酵素のリサイクルを好適に行うことができる。
【0071】
この回収方法によれば、糖化酵素の種類によらず、より効率的かつより劣化を抑制しながらに糖化酵素を回収できる。
【0072】
上記回収方法において、
前記pH調整工程では、3.5以上4.5以下のpHとなるように、前記反応物のpHが、調整されてもよい。
【0073】
この回収方法によれば、特定の糖化酵素において、より効率的かつより劣化を抑制しながらに糖化酵素を回収できる。
【0074】
糖化酵素の回収方法は、
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物を第1液相及び第1固相に分離する第1分離工程と、
前記第1固相のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程を経た前記第1固相を第2液相及び第2固相に分離する第2分離工程と、
前記第1液相及び前記第2液相から、前記糖化酵素を回収する回収工程と、
を含む。
【0075】
この回収方法によれば、第2固相のpHを調整することにより、未反応のセルロースに付着した糖化酵素を遊離させ、かつ、凝集して沈殿した糖化酵素を第2液相に溶解させることができるので、糖化酵素を効率的に回収することができる。さらに、これにより、pH調整工程で用いる試薬が少なくても、糖化酵素を回収できるので、糖化酵素のリサイクルを好適に行うことができる。
【0076】
この回収方法によれば、糖化酵素の種類によらず、より効率的かつより劣化を抑制しながらに糖化酵素を回収できる。
【0077】
上記回収方法において、
前記pH調整工程では、3.5以上4.5以下のpHとなるように、前記反応物のpHが、調整されてもよい。
【0078】
この回収方法によれば、特定の糖化酵素において、より効率的かつより劣化を抑制しながらに糖化酵素を回収できる。