(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161761
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241113BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/18
B41J2/14 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076761
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 岳穂
(72)【発明者】
【氏名】田丸 勇治
(72)【発明者】
【氏名】吉川 晋平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EA28
2C056FA03
2C056FA10
2C056HA05
2C056KB16
2C057AF25
2C057AG14
2C057AG29
2C057AG46
2C057AG68
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA13
(57)【要約】
【課題】印字ムラを抑制できる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、複数の吐出口が第1方向に並んで構成され、第1方向と直交する第2方向で第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と、第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口311aと、第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口312aと、第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口311bと、第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収路312bと、を有する開口形成部と、第1供給開口311a、第1回収開口312a、第2供給開口312a、第2回収開口312bを通じて液体を循環させる循環部と、を備え、第2供給開口311bは、第1供給開口311aに対して第1方向にずれて配置されている。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が吐出される複数の吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、
複数の吐出口が前記第1方向に並んで構成され、液体の吐出方向から見たときに前記第1方向と直交する第2方向で前記第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と、
前記第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口と、前記第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口と、前記第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口と、前記第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収開口と、を有する開口形成部と、
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口を通じて液体を循環させる循環部と、
を備え、
前記第2供給開口は、前記第1供給開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第2供給開口は、前記第2方向で前記第1供給開口と重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第2回収開口は、前記第1回収開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第2供給開口は、前記第2方向で前記第1回収開口と重なる位置に配置され、
前記第2回収開口は、前記第2方向で前記第1供給開口と重なる位置に配置されることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口がそれぞれ前記第1方向に複数並んで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
複数の前記第1供給開口、及び複数の前記第2供給開口は前記第1方向に等間隔で配置され、
前記第1供給開口の前記第1方向の幅をDa、前記第1供給開口の配置間隔をYaとすると、前記第2供給開口の前記第1供給開口に対する前記第1方向のずれ量はDa以上、Ya/2以下であることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
液体が吐出される複数の吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、
複数の吐出口が前記第1方向に並んで構成され、液体の吐出方向から見たときに前記第1方向と直交する第2方向で前記第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と、
前記第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口と、前記第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口と、前記第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口と、前記第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収開口と、を有する開口形成部と、
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口を通じて液体を循環させる循環部と、
を備え、
前記第2回収開口は、前記第1回収開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第2回収開口は、前記第2方向で前記第1回収開口と重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口がそれぞれ前記第1方向に複数並んで配置されていることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
複数の前記第1回収開口、及び複数の前記第2回収開口は前記第1方向に等間隔で配置され、
前記第1回収開口の前記第1方向の幅をDb、前記第1回収開口の配置間隔をYbとすると、前記第2回収開口の前記第1回収開口に対する前記第1方向のずれ量はDb以上、Yb/2以下であることを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第2方向は、液体吐出ヘッドの走査方向であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第1吐出口列と前記第2吐出口列の吐出口は、同一色のインクを吐出するための吐出口であることを特徴とする請求項11に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記第1吐出口列と前記第2吐出口列の吐出口は、同一色のインクを吐出するための吐出口であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
液体を吐出するための熱を発する発熱抵抗素子を更に備えることを特徴とする請求項12に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
液体を吐出するための熱を発する発熱抵抗素子を更に備えることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体に向けてインク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いて記録媒体に記録動作を行う液体吐出装置として、インクタンクを本体に搭載するインクジェット記録装置が知られている。このような装置においては、液体収容部に収容されたインクが吐出ヘッドに供給されることで、吐出ヘッドからインクが吐出される。
【0003】
上述のようなインクジェット記録装置においては、インクを液体吐出ヘッドと液体収容部との間や液体吐出ヘッドの内部で循環させるように構成されることがある。特許文献1には、走査型の液体吐出ヘッドにおいて、液体吐出ヘッド内でインクを循環させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の構成においてはインク吐出の際にインクの温度が変化した場合に、吐出されなかったインクは温度が変化した状態で回収されるため、インクの供給流路と回収流路とで温度に差が生じるおそれがある。液体吐出ヘッドの吐出部付近において、吐出口列方向で温度が変化して温度ムラが生じると、印字の際の印字ムラが生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題を鑑み、印字ムラを抑制できる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明における記録ヘッドは、
液体が吐出される複数の吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、
複数の吐出口が前記第1方向に並んで構成され、液体の吐出方向から見たときに前記第1方向と直交する第2方向で前記第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と、
前記第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口と、前記第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口と、前記第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口と、前記第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収開口と、を有する開口形成部と、
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口を通じて液体を循環させる循環部と、
を備え、
前記第2供給開口は、前記第1供給開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする。
また、上述の目的を達成するために、本発明における記録ヘッドは、
液体が吐出される複数の吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、
複数の吐出口が前記第1方向に並んで構成され、液体の吐出方向から見たときに前記第
1方向と直交する第2方向で前記第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と、
前記第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口と、前記第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口と、前記第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口と、前記第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収開口と、を有する開口形成部と、
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口を通じて液体を循環させる循環部と、
を備え、
前記第2回収開口は、前記第1回収開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印字ムラを抑制できる液体吐出ヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施例の液体吐出装置の概略構成図である。
【
図4】第1実施例の循環ユニットの概略構成を示す模式的斜視図である。
【
図5】第1実施例の記録ヘッドのインク流路の説明図である。
【
図6】第1実施例の記録ヘッドのインク流路のブロック図である。
【
図7】第1実施例の記録ヘッドの圧力調整手段の説明図である。
【
図8】第1実施例の循環ポンプの外観斜視図である。
【
図10】第1実施例の記録ヘッド内のインク流れの説明図である。
【
図11】第1実施例の記録素子ユニットの分解斜視図である。
【
図12】第1実施例の開口プレートの模式的上面図である。
【
図13】第1実施例の記録素子基板の模式的上面図である。
【
図14】第1実施例の開口プレートと記録素子基板の接合状態の説明図である。
【
図15】第1実施例の記録素子ユニットのインク流路の模式的断面図である。
【
図16】吐出モジュールの温度分布の説明図である。
【
図17】第1実施例の供給開口と回収開口の配置構成の説明図である。
【
図18】第1実施例の2つの吐出モジュールの温度分布の説明図である。
【
図19】第2実施例の開口プレートと記録素子基板の接合状態の説明図である。
【
図20】第2実施例の供給開口と回収開口の配置構成の説明図である。
【
図21】第2実施例の2つの吐出モジュールの温度分布の説明図である。
【
図22】第3実施例の供給開口と回収開口の配置構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。また、本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせすべてが本開示の解決手段に必須のものとは限らない。
【0011】
[第1実施例]
<液体吐出装置>
まず、本発明に係る第1実施例の液体吐出装置50の概略構成を、
図1(a)、(b)
を参照して説明する。
図1(a)は、記録ヘッド1を備える液体吐出装置50を模式的に示す斜視図であり、記録ヘッド1及びその周辺で記録媒体Pが搬送される様子を示す。第1実施例の液体吐出装置50は、記録ヘッド1を走査しつつ液体としてのインクを吐出して記録媒体Pへの記録を行うシリアル型のインクジェット記録装置を構成している。
【0012】
記録ヘッド1は、キャリッジ53に搭載されている。キャリッジ53は、ガイド軸51に沿って主走査方向(X方向)に往復移動する。記録媒体Pは、搬送ローラ55、56、57、58によって、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向(Y方向)に搬送される。尚、以下で参照する各図において、Z方向は鉛直方向を示しており、X方向及びY方向によって規定されるX-Y平面と交差(本例の場合は、直交)している。記録ヘッド1は、ユーザによって、キャリッジ53に対し取り外し及び取り付けが可能に構成されている。
【0013】
記録ヘッド1は、インクを記録ヘッド1内で循環させる循環部としての循環ユニット54と、インクを吐出するための吐出ユニット11(
図2参照)とを含み構成されている液体吐出ヘッドである。具体的な構成については後述するが、吐出ユニット11には、複数の吐出口と、各吐出口から液体を吐出するための吐出エネルギーを発するエネルギー発生素子(以下、吐出素子と称す)とが設けられている。記録ヘッド1は、液体を吐出する吐出素子としての電熱変換素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式の液体吐出ヘッドである。
【0014】
また、液体吐出装置50には、インクの供給源であるインクタンク2及び外部ポンプ600が設けられており、インクタンク2に貯留されたインクは、外部ポンプ600の駆動力によってインク供給チューブ59を介して循環ユニット54に供給される。
【0015】
液体吐出装置50は、キャリッジ53に搭載された記録ヘッド1が主走査方向へと移動しつつインクを吐出して記録を行う記録走査と、記録媒体Pを副走査方向へと搬送する搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Pに所定の画像を形成する。尚、第1実施例における記録ヘッド1は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4種類のインクを吐出可能としており、これらのインクによってフルカラー画像を記録することが可能である。但し、記録ヘッド1から吐出可能とするインクは、上記の4種類のインクに限定されない。他の種類のインクを吐出するための液体吐出ヘッドにも本開示は適用可能である。すなわち、記録ヘッド1から吐出するインクの種類及びその数は限定されない。
【0016】
また、液体吐出装置50には記録媒体Pの搬送路からX方向に外れた位置に、記録ヘッド1の吐出口が形成された吐出口面を覆うことが可能なキャップ部材(不図示)が設けられている。キャップ部材は、非記録動作時において記録ヘッド1の吐出口面を覆い、吐出口の乾燥防止や保護、吐出口からのインク吸引動作等に使用される。
【0017】
尚、
図1(a)に示す記録ヘッド1は、4種類のインクに応じた4つの循環ユニット54が記録ヘッド1に備えられている例を示しているが、吐出する液体の種類に応じた循環ユニット54が備えられていればよい。また、同種類の液体に対して複数の循環ユニット54が備えられていてもよい。即ち、記録ヘッド1は、1つ以上の循環ユニットを備える構成とすることができる。4種類のインク全てを循環せず、少なくとも1つのインクのみ循環する構成でもよい。
【0018】
図1(b)は、液体吐出装置50の制御系を示すブロック図である。CPU800は、ROM301に格納された処理手順等のプログラムに基づいて液体吐出装置50の各部の動作を制御する制御手段としての機能を果す。RAM302は、CPU800が処理を実
行する際のワークエリア等として用いられる。CPU800は、液体吐出装置50の外部のホスト装置400からの画像データを受信してヘッドドライバ1Aを制御し、吐出ユニット11に設けられた吐出素子の駆動を制御する。また、CPU800は、液体吐出装置50に設けられた種々のアクチュエータのドライバの制御も行う。例えば、CPU800は、キャリッジ53を移動させるためのキャリッジモータ303のモータドライバ303A、及び、記録媒体Pを搬送させるための搬送モータ304のモータドライバ304A等の制御を行う。更に、CPU800は、後述の循環ポンプ500の駆動を行うポンプドライバ500A、及び、外部ポンプ600のポンプドライバ600A等の制御を行う。尚、
図1(b)では、ホスト装置400からの画像データを受信した処理を行う形態を示しているが、ホスト装置400からのデータに拠らずに液体吐出装置50で処理が行われてもよい。
【0019】
<記録ヘッドの基本構成>
記録ヘッド1の構成についてより詳細に説明する。
図2(a)は記録ヘッド1の分解斜視図であり、
図2(b)は各部品を組付けた状態の記録ヘッド1の斜視図であり、
図2(c)は
図2(b)のA矢視図である。記録ヘッド1は、複数の循環ユニット54と、循環ユニット54が内部に収容される筐体70とを有する。記録ヘッド1は各色のインクにそれぞれ対応した循環ユニット54a~54dを含み、それぞれの循環ユニット54a~54dは筐体70に接続される。循環ユニット54a~54dと筐体70の接続方法は、間にシール部材(不図示)を挟み込んだビス締め方式や、その他溶着による接続であってもよい。シール部材と各循環ユニット54は別体でもよいし、一体成型されたものでもよい。
【0020】
筐体70には記録装置本体からのインクを受け入れるためのジョイント面111が設けられている。ジョイント面111には、循環ユニット54aに連通するジョイント111a、循環ユニット54bに連通するジョイント111b、循環ユニット54cに連通するジョイント111c、循環ユニット54dに連通するジョイント111dが設けられている。尚、ジョイント面111は筐体70と一体に形成された面でも良いし、ジョイント面111のみを形成する別部材が設けられていても良い。記録ヘッド1の記録装置本体装着時に、それぞれのジョイント111a~dに記録装置本体側から各インクに対応した供給チューブ(不図示)が接続する。供給チューブから供給された各インクは、筐体70のジョイント111a~dを経由し、各循環ユニット54a~dに供給される。
【0021】
筐体70の底面113には、記録素子ユニット20が接続されている。記録素子ユニット20は、支持部材21、接続基板22と吐出モジュール300により構成されている。吐出モジュール300を搭載した支持部材21が底面113に接続されることで、インクの吐出口等を有する吐出モジュール300が循環ユニット54a~dに接続される。吐出モジュール300や記録素子ユニット20については、詳細を後述する。循環ユニット54a~dに供給されたインクは筐体70を経由し、記録素子ユニット20に供給される。支持部材21と筐体70の接続方法は、接着剤を用いた接着でも良く、支持部材21と筐体70との間にシール部材を挟み込んだビス締めによる固定でも良い。吐出モジュール300と支持部材21は、接着剤によって接着される。
【0022】
筐体70のジョイント面111と反対側の面はコンタクト面114であり、コンタクト面114には記録装置本体からの電気信号を受け取る電気基板23が接続されている。更に、記録ヘッド1は電気基板23から吐出モジュール300に電気信号を送るための接続基板22を有している。接続基板22は、電気基板23と吐出モジュール300のそれぞれと電気的に接続されている。電気基板23と筐体70の接続は、加締めや接着剤による固定でも良いし、もしくは両面テープによる固定であっても良い。
【0023】
接続基板22は、支持部材21に接着により固定されている。接続基板22は、支持部材21に接続される面と、筐体70のコンタクト面114側に位置する面とを有するように構成されている。接続基板22の支持部材21側は吐出モジュール300と電気的に接続され、接続基板22のコンタクト面114側は電気基板23と電気的に接続される。接続基板22と吐出モジュール300の接続はワイヤボンディングでも良いし、フライングリードボンディングでも良い。接続基板22と電気基板23の接続も同様にワイヤボンディングでも良いし、もしくはACF圧着でも良い。
【0024】
吐出モジュール300は、記録素子基板320(
図11(a)等参照)と、記録素子基板320の片面に設けられ、液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、を備えている。記録素子基板320は、厚さ0.5~1mmのシリコンからなる基板である。第1実施例においては、エネルギー発生素子として複数の発熱抵抗素子が用いられており、各発熱抵抗素子に電力を供給する電気配線が成膜技術により記録素子基板320上に形成されている。
【0025】
記録素子基板320には、発熱抵抗素子に対応する複数のインク流路とインクを吐出する複数の吐出口とがフォトリソグラフィ技術により形成されている。記録素子基板320の裏面には、複数の圧力室12にインクを供給する共通供給流路18と供給口323及び、圧力室12からインクを回収する共通回収流路19と回収口324が形成されている。尚、ここでいうインク供給及び回収という表現は、後述する順方向のインク循環時における供給及び回収のことであり、逆方向のインク循環時には回収口324からインクが供給され、供給口323からインクが回収される。これらの構成については、詳細を後述する。
【0026】
第1実施例の記録ヘッド1は、2つの吐出モジュール300a、300bを搭載している。
図3は、記録ヘッド1をインクの吐出方向の下流側から見たときの下面図である。それぞれの吐出モジュール300a、300bは、複数の吐出口13が一列に並んで構成される吐出口列であって、各色のインクに対応する吐出口列を有する。
【0027】
走査型の記録ヘッド1においては、主走査方向に対し配置された吐出口列の色の並び順で吐出されるため、走査時の往復方向で吐出の順番が異なる。このような構成の記録ヘッド1を用いる場合、往復方向での吐出順違いによる印字ムラを抑えるため、一列の印字に対し往復で印字する等の対応を取ることがある。しかし、このような多パス印字は結果として印字速度の低下を招きうる。そのため、走査型の記録ヘッド1においては、
図3に示すように、同色の吐出口列を双方向に並べて配置している。すなわち、記録ヘッド1は、吐出口列の色順が主走査方向で例えばCMYKKMYCとなるように吐出モジュール300が2つ搭載されている。尚、双方向配置であれば色順はこの限りではない。このような構成とすることで、走査型の記録ヘッド1において、印字時のスキャン回数を低減でき、印字速度を高めることが可能となる。尚、上記のような同色の双方向配置がされていれば、吐出モジュール300は1つであってもよい。
【0028】
<循環ユニットの構成要素>
記録ヘッド1の循環ユニット54の構成についてより詳細に説明する。
図4は、第1実施例に係る循環ユニット54の概略構成を示す模式的斜視図である。
図4には、1種類のインクに対応する1つの循環ユニット54が示されている。循環ユニット54は、循環ポンプ500、フィルタ110、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150を有する。循環ポンプ500、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150は各流路によって接続され、記録ヘッド1内において吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行う循環流路を構成している。
図4は、循環ユニット54の構成要素の一例を示すものであり、構成要素の相対位置を図示の通りに限定するものではない。
【0029】
<記録ヘッド内のインク循環>
記録ヘッド1内でインクを循環させるための構成例について説明する。尚、以下で説明するインクの循環部の構成はあくまで一例であり、本発明の適用にあたってはこのような構成に限定するものではない。
【0030】
図5は、記録ヘッド1内に構成される1種類(1色)のインク流路の説明図であり、記録ヘッド1の断面を模式的に示す。インク流路をより明確に説明するため、
図5における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500等)の相対位置は簡略化した状態で示されている。そのため、各構成の相対位置は別図に示される構成等とは異なる場合がある。
図6は、
図5に示されるインク流路を模式的に示すブロック図である。第1実施例に係る記録ヘッド1のインク流路は、循環ユニット54の内部の流路や吐出モジュール300の内部の流路により構成されている。
【0031】
インク流路は、主に流入流路と循環流路とにより構成される。流入流路とは、記録ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2からインクが流入される流路であり、循環ユニット54の内部に形成されている。循環流路は、インクが循環して流れる流路であり、循環ユニット54の内部から吐出モジュール300の内部にまたがって形成されている。循環流路は、第1圧力調整手段120や第2圧力調整手段150、循環ポンプ500、個別液室である圧力室12等により構成される。
【0032】
第1圧力調整手段120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を備える。第2圧力調整手段150は、第2バルブ室151及び第2圧力制御室152を備える。第1圧力調整手段120は、第2圧力調整手段150よりも相対的に制御圧力が高くなるように構成されている。第1実施例では、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150という2つの圧力調整手段を用いることで、循環流路内において一定の圧力範囲でのインクの循環を実現している。また、循環ユニット54は、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150との圧力差に応じた流量で圧力室12(吐出素子15)をインクが流れるように構成されている。以下、
図5及び
図6を参照しつつ、記録ヘッド1における循環流路及び循環流路内におけるインクの流れを説明する。尚、各図中の矢印はインクの流れる方向を示している。
【0033】
インク流路を構成する記録ヘッド1の各構成要素の接続状態を説明する。記録ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2に収容されたインクを記録ヘッド1へ送る外部ポンプ600は、インク供給チューブ59(
図1参照)を介して循環ユニット54と接続されている。インクは、インクタンク2から外部ポンプ600を介して循環ユニット54のインク流路の流入流路に供給される。流入流路は、インクの循環流路を構成する第1圧力調整手段120に接続されており、内部にフィルタ110が設けられている。流入流路にフィルタ110が設けられていることで、循環流路内に異物等が侵入することを防止できる。
【0034】
フィルタ110に対してインク流入方向の下流側に位置する流入流路のインク供給路は、第1圧力調整手段120の第1バルブ室121に接続されている。第1バルブ室121は、バルブ190Aにより開閉可能な連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通している。
【0035】
第1圧力制御室122は、供給流路130、バイパス流路160、及び循環ポンプ500のポンプ出口流路180に接続されている。供給流路130は、吐出モジュール300に設けられたインク供給口を介して吐出モジュール300内の共通供給流路18に接続されている。
【0036】
バイパス流路160は、第2圧力調整手段150に設けられた第2バルブ室151に接続されている。第2バルブ室151は、バルブ190Bによって開閉する連通口191Bを介して第2圧力制御室152に連通している。言い換えると、バイパス流路160の一端が第1圧力調整手段120の第1圧力制御室122に接続され、且つバイパス流路160の他端は第2圧力調整手段150の第2バルブ室151に接続されている。尚、
図5及び
図6に示されるインクの循環経路は、本発明を適用する構成の一例であり、本発明の適用にあたって必ずしもその通りに構成される必要はない。例えば、バイパス流路160の一端を供給流路130に接続し、バイパス流路160の他端を第2バルブ室151に接続しても良い。
【0037】
第2圧力制御室152は、回収流路140に接続されている。回収流路140は、吐出モジュール300に設けられたインク回収口を介して吐出モジュール300内の共通回収流路19に接続されている。更に、第2圧力制御室152は、ポンプ入口流路170を介して循環ポンプ500に接続されている。
図5には、ポンプ入口流路170の流入口170aが示されている。
【0038】
このように、第1実施例において、記録ヘッド1のインク流路は循環ユニット54や吐出モジュール300により構成される。まとめると、供給流路130は第1圧力制御室122と共通供給流路18を連通し、回収流路140は共通回収流路19と第2圧力制御室152を連通し、バイパス流路160は第1圧力制御室122と第2バルブ室151を連通する。また、ポンプ入口流路170は第2圧力制御室152と循環ポンプ500を連通し、ポンプ出口流路180は循環ポンプ500と第1圧力制御室122を連通する。
【0039】
<循環部のインク流れ>
次に、上述の構成例における循環部のインクの流れについて説明する。インクタンク2に収容されているインクは、液体吐出装置50に設けられた外部ポンプ600によって加圧され、正圧のインク流となって記録ヘッド1の循環ユニット54に供給される。
【0040】
循環ユニット54に供給されたインクは、フィルタ110を通過することにより塵埃などの異物や気泡が除去された後、第1圧力調整手段120に設けられた第1バルブ室121に流入する。フィルタ110を通過する際の圧力損失によってインクの圧力は低下するが、この段階でのインクの圧力は正圧の状態にある。
【0041】
その後、第1バルブ室121に流入したインクは、バルブ190Aが開状態にあるとき、連通口191Aを通過して第1圧力制御室122に流入する。連通口191Aを通過する際の圧力損失によって、第1圧力制御室122に流入したインクは、正圧から負圧へと切り替わる。
【0042】
次に、循環経路内におけるインクの流れを説明する。循環ポンプ500は、液体の循環方向の上流側となるポンプ入口流路170から吸引したインクを、下流側となるポンプ出口流路180へと送り出すように動作する。したがって、循環ポンプ500が駆動されることにより、第1圧力制御室122に供給されたインクは、ポンプ出口流路180から送液されたインクと共に、供給流路130及びバイパス流路160に流入する。
【0043】
尚、第1実施例の循環ポンプ500は、ダイヤフラムに貼り付けた圧電素子を駆動源として送液可能な圧電ダイヤフラムポンプである。圧電ダイヤフラムポンプは、圧電素子に駆動電圧を入力することでポンプ室内の容積を変化させ、圧力変動によって2つの逆止弁が交互に動くことにより送液を行うポンプである。
【0044】
供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300のインク供給口から共通供
給流路18を介して圧力室12に流入し、その一部のインクは吐出素子15の駆動(発熱)によって吐出口13から吐出される。吐出されなかった残りのインクは、圧力室12を流動し、共通回収流路19を通過した後、吐出モジュール300に接続されている回収流路140に流入する。回収流路140に流入したインクは、第2圧力調整手段150の第2圧力制御室152に流入する。
【0045】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151に流入した後、連通口191Bを通過して第2圧力制御室152に流入する。
【0046】
バイパス流路160を経由して第2圧力制御室152に流入したインクと回収流路140から回収されたインクとは、循環ポンプ500の駆動によってポンプ入口流路170を経て循環ポンプ500内に吸引される。そして、循環ポンプ500内に吸引されたインクは、ポンプ出口流路180へと送られ、第1圧力制御室122に再び流入する。
【0047】
以降では、第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300を経て第2圧力制御室152に流入したインクと、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152に流入したインクとが、循環ポンプ500に流入する。そして、循環ポンプ500から第1圧力制御室122に送られる。このようにして循環経路内でのインクの循環が行われることになる。
【0048】
以上のように、本実施形態では、循環ポンプ500によって、記録ヘッド1内に形成された循環経路に沿ってインク等の液体を循環させることが可能になる。このため、吐出モジュール300内でのインクの増粘や色材のインクの沈降成分の堆積を抑制することが可能となり、吐出モジュール300におけるインクの流動性及び吐出口13における吐出特性を良好な状態に保つことが可能になる。
【0049】
また本実施形態における循環経路は、記録ヘッド1内で完結する構成を採るため、記録ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2と記録ヘッド1との間でインクの循環を行う場合に比べ、循環経路長を大幅に短縮することができる。このため、インクの循環を小型なポンプで行うことが可能になる。
【0050】
更に、記録ヘッド1とインクタンク2との接続流路は、インクをインクタンク2から記録ヘッド1供給する流路のみにより構成されている。即ち、記録ヘッド1からインクタンク2へとインクを回収するための流路を不要とする構成が採られている。このため、インクタンク2と記録ヘッド1との接続にはインク供給用のチューブのみを設ければよく、インク回収用のチューブを設ける必要はない。したがって、液体吐出装置50の内部を、チューブの本数が削減された簡潔な構成とすることができ、装置全体の小型化を実現することができる。更にチューブの本数が削減されることにより、記録ヘッド1の主走査に伴うチューブの揺動に起因するインクの圧力変動を軽減することが可能になる。また、記録ヘッド1の主走査時におけるチューブの揺動は、キャリッジ53を駆動するキャリッジモータ303の駆動負荷となる。このため、チューブの本数削減によってキャリッジモータ303の駆動負荷が低減され、キャリッジモータ303等を含む主走査機構の簡略化を図ることが可能になる。更に、液体吐出ヘッドからインクタンク2へのインクの回収が不要となるため、外部ポンプ600の小型化も可能となる。このように、本実施形態によれば、液体吐出装置50の小型化及びコスト低減を実現することができる。
【0051】
<圧力調整手段>
次に、
図7(a)~(c)を参照して、上述の記録ヘッド1に内蔵される圧力調整手段(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150)の構成及び作用を、より詳細に説明する。
図7(a)~(c)は、第1実施例に係る記録ヘッド1の圧力調整手段の構成例
を示す図である。尚、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とは、実質的に同一の構成を有している。このため、以下では、第1圧力調整手段120を例に採り説明し、第2圧力調整手段150については、
図7(a)~(c)において第1圧力調整手段120に対応する部分の符号を併記するにとどめる。第2圧力調整手段150の場合には、以下で説明する第1バルブ室121を第2バルブ室151と読み替え、第1圧力制御室122を第2圧力制御室152と読み替えることとする。
【0052】
第1圧力調整手段120は、円筒状の筐体125内に形成された第1バルブ室121と第1圧力制御室122とを有する。第1バルブ室121と第1圧力制御室122とは、円筒状の筐体125内に設けられた隔壁123によって隔てられている。但し、第1バルブ室121は、隔壁123に形成された連通口191を介して第1圧力制御室122に連通している。第1バルブ室121には、連通口191における第1バルブ室121と第1圧力制御室122との連通及び遮断を切り替えるバルブ190が設けられている。バルブ190は、バルブばね200によって、連通口191に対向する位置に保持されており、バルブばね200の付勢力によって隔壁123と密接可能な構成を有している。バルブ190が隔壁123に密接することにより、連通口191におけるインクの流通は遮断される。尚、隔壁123との密接性を高めるため、バルブ190の隔壁123との接触部分は弾性部材によって形成されることが好ましい。また、バルブ190の中央部には連通口191に挿通されるバルブシャフト190aが突設されている。このバルブシャフト190aをバルブばね200の付勢力に抗して押圧することにより、バルブ190は隔壁123から離間し、連通口191におけるインクの流通が可能になる。以下、バルブ190によって連通口191におけるインクの流通が遮断される状態を「閉状態」、連通口191におけるインクの流通が可能な状態を「開状態」と称す。
【0053】
円筒状の筐体125の開口部は、可撓性部材230と圧力板210とにより閉塞されている。この可撓性部材230と、圧力板210と、筐体125の周壁と、隔壁123とにより、第1圧力制御室122が形成されている。圧力板210は、可撓性部材230の変位に伴って変位可能に構成されている。圧力板210及び可撓性部材230の材質は、特に限定されないが、例えば、圧力板210を樹脂成形部品で構成し、可撓性部材230を樹脂フィルムで構成することが可能である。この場合、圧力板210は可撓性部材230に熱溶着によって固定することができる。
【0054】
圧力板210と隔壁123との間には、圧力調整ばね220(付勢部材)が設けられている。圧力調整ばね220の付勢力によって、圧力板210及び可撓性部材230は、
図7(a)に示すように、第1圧力制御室122の内容積が広がる方向に付勢されている。また、第1圧力制御室122内の圧力が減少すると、圧力板210及び可撓性部材230は、圧力調整ばね220の圧力に抗して、第1圧力制御室122の内容積が減少する方向に変位する。そして、第1圧力制御室122の内容積が一定量まで減少すると、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aに当接する。その後、更に第1圧力制御室122の内容積が減少すると、バルブばね200の付勢力に抗してバルブシャフト190aと共にバルブ190が移動し、隔壁123から離間する。これにより、連通口191が開状態(
図7(b)の状態)となる。
【0055】
本実施形態では、連通口191が開状態となったときの第1バルブ室121の圧力を第1圧力制御室122の圧力よりも高くなるように、循環経路内における接続設定をする。これにより、連通口191が開状態となると、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へとインクが流入する。このインク流入により、第1圧力制御室122の内容積が増加する方向へ可撓性部材230及び圧力板210が変位する。その結果、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aから離間し、バルブ190はバルブばね200の付勢力によって隔壁123に密接し、連通口191は閉状態(
図7(c)の状態)となる
。
【0056】
このように、本実施形態における第1圧力調整手段120では、第1圧力制御室122内の圧力が一定圧力以下まで減少すると(例えば負圧が強くなると)、第1バルブ室121から連通口191を介してインクが流入する。これにより、第1圧力制御室122の圧力がそれ以上減少しないように構成されている。したがって、第1圧力制御室122は一定範囲内の圧力に保たれるよう制御される。
【0057】
次に、第1圧力制御室122の圧力についてより詳細に説明する。
【0058】
上述のように第1圧力制御室122の圧力に応じて可撓性部材230及び圧力板210が変位し、圧力板210がバルブシャフト190aに当接して連通口191が開状態となった状態(
図7(b)の状態)を考える。このとき、圧力板210に働く力の関係は、次の式1によって表される。
P2×S2+F2+(P1-P2)×S1+F1=0・・・式1
更に、式1をP2について整理すると、
P2=-(F1+F2+P1×S1)/(S2-S1)・・・式2
となる。
P1:第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)
P2:第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
F1:バルブばね200のばね力
F2:圧力調整ばね220のばね力
S1:バルブ190の受圧面積
S2:圧力板210の受圧面積
【0059】
ここで、バルブばね200のばね力F1及び圧力調整ばね220のばね力F2は、バルブ190及び圧力板210を押す方向を正(
図7(a)~(c)において左方向)とする。また、第1バルブ室121の圧力P1及び第1圧力制御室122の圧力P2に関し、P1が、P1≧P2の関係となるように構成する。
【0060】
連通口191が開状態となるときの第1圧力制御室122の圧力P2は、式2によって決定され、連通口191が開状態となると、P1≧P2の関係に構成したことにより、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へインクが流入する。その結果、第1圧力制御室122の圧力P2はそれ以上減少せず、P2は一定範囲内の圧力に保たれる。
【0061】
一方、
図7(c)に示すように、圧力板210がバルブシャフト190aと非当接状態となり、連通口191が閉状態となったときの圧力板210に働く力の関係は、式3のようになる。
P3×S3+F3=0・・・式3
ここで、式3をP3について整理すると
P3=-F3/S3・・・式4
となる。
F3:圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態にあるときの圧力調整ばね220のばね力
P3:圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態にあるときの第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
S3:圧力板210とバルブ190が非当接状態にあるときの圧力板210の受圧面積
【0062】
ここで
図7(c)は、圧力板210及び可撓性部材230が変位可能な限界まで図右方向へ変位した状態を表している。圧力板210及び可撓性部材230が
図7(c)の状態
へと変位する間の変位量に応じて、第1圧力制御室122の圧力P3、圧力調整ばね220のばね力F3、圧力板210の受圧面積S3は変化する。具体的には、
図7(c)よりも圧力板210及び可撓性部材230が図において右方向にあるとき、圧力板210の受圧面積S3は小さくなり、圧力調整ばね220のばね力F3は大きくなる。その結果、式4の関係により第1圧力制御室122の圧力P3は小さくなる。したがって、式2及び式4により、
図7(b)の状態から
図7(c)の状態になるまでの間に、第1圧力制御室122の圧力は徐々に上昇していく(つまり、負圧が弱くなり、正圧側に近づく値になる)。即ち、連通口191が開状態となっている状態から、圧力板210及び可撓性部材230が左方向に徐々に変位していき、最終的に第1圧力制御室122の内容積が変位可能な限界に達するまでの間に、第1圧力制御室122の圧力は徐々に上昇していく。つまり、負圧が弱まっていくことになる。
【0063】
<循環ポンプ>
次に、
図8(a)、(b)及び
図9を参照して、上述の記録ヘッド1に内蔵される循環ポンプ500の構成及び作用を詳細に説明する。
【0064】
図8(a)、(b)は、循環ポンプ500の外観斜視図である。
図8(a)は循環ポンプ500の正面側を示す外観斜視図、
図8(b)は循環ポンプ500の背面側を示す外観斜視図である。循環ポンプ500の外殻は、ポンプ筐体505と、ポンプ筐体505に固定されたカバー507とにより構成されている。
【0065】
ポンプ筐体505は、筐体部本体505aと、筐体部本体505aの外面に接着固定された流路接続部材505bとにより構成されている。筐体部本体505aと流路接続部材505bとの各々には、互いに連通する一対の貫通孔が異なる2つの位置に設けられている。一方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ供給孔501を形成し、他方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ排出孔502を形成している。
【0066】
ポンプ供給孔501は、第2圧力制御室152に接続されたポンプ入口流路170に接続され、ポンプ排出孔502は、第1圧力制御室122に接続されたポンプ出口流路180に接続されている。ポンプ供給孔501から供給されたインクは、後述のポンプ室503(
図9参照)を通過してポンプ排出孔502から排出される。
【0067】
図9は、
図8(a)に示した循環ポンプ500のIX-IX線断面図である。ポンプ筐体505の内面にはダイヤフラム506が接合されており、このダイヤフラム506とポンプ筐体505の内面に形成された凹部との間にポンプ室503が形成されている。ポンプ室503は、ポンプ筐体505に形成されたポンプ供給孔501及びポンプ排出孔502に連通している。また、ポンプ供給孔501の中間部分には、逆止弁504aが設けられ、ポンプ排出孔502の中間部分には、逆止弁504bが設けられている。具体的には、逆止弁504aは、その一部がポンプ供給孔501の中間部分に形成されている空間512aにおいて図中の左方へと移動し得るように配置されている。また、逆止弁504bは、その一部がポンプ排出孔502の中間部分に形成されている空間512bにおいて図中の右方へと移動し得るように配置されている。
【0068】
ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が増加することでポンプ室503が減圧されると、逆止弁504aは空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間する(つまり、図中の左方へと移動する)。逆止弁504aが空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間することで、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を可能とする開状態となる。また、ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が減少することでポンプ室503が加圧されると、逆止弁504aはポンプ供給孔501の開口の周囲の壁面に密接する。この結果、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を遮断す
る閉状態となる。
【0069】
一方、逆止弁504bは、ポンプ室503が減圧されると、ポンプ筐体505の開口の周囲の壁面に密接して、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。また、ポンプ室503が加圧されると、逆止弁504bは、ポンプ筐体505の開口から離間して空間512b側に移動し(つまり、図中の右方へと移動し)、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を可能とする。
【0070】
尚、各逆止弁504a、504bの材質は、ポンプ室503内の圧力に応じて変形可能なものであればよく、例えば、EPDMやエラストマ等の弾性部材やポリプロピレン等のフィルムや薄板で形成することが可能である。但し、これらに限定されるものではない。
【0071】
上述のように、ポンプ室503はポンプ筐体505とダイヤフラム506との接合によって形成されている。したがって、ダイヤフラム506が変形することによりポンプ室503の圧力は変化する。例えば、ダイヤフラム506がポンプ筐体505側に変位して(図中、右側に変位して)ポンプ室503の容積が減少すると、ポンプ室503内の圧力は上昇する。これによりポンプ排出孔502に対向して配置した逆止弁504bが開状態となり、ポンプ室503のインクが排出される。このとき、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aは、ポンプ供給孔501の周囲の壁面に密接するためポンプ室503からポンプ供給孔501へのインクの逆流は抑制される。
【0072】
また逆に、ダイヤフラム506がポンプ室503が広がる方向に変位した場合にはポンプ室503の圧力は減少する。これにより、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aが開状態となり、ポンプ室503にインクが供給される。このとき、ポンプ排出孔502に配置された逆止弁504bは、ポンプ筐体505に形成された開口の周囲の壁面に密接して当該開口を閉塞する。このため、ポンプ排出孔502からポンプ室503へのインクの逆流は抑制される。
【0073】
このように循環ポンプ500では、ダイヤフラム506が変形し、ポンプ室503内の圧力を変化させることにより、インクの吸引と排出を行う。この際、ポンプ室503内に泡が混入すると、ダイヤフラム506が変位しても、泡の膨張・収縮によってポンプ室503内の圧力変化が小さくなり送液量が低下する。そこでポンプ室503を重力と平行に配置してポンプ室503に混入した泡をポンプ室503の上方に集まりやすくすると共に、ポンプ排出孔502をポンプ室503の中心よりも上方に配置する。これにより、ポンプ内の泡の排出性を向上させることが可能となり、流量の安定化を図ることができる。
【0074】
<インク循環時のインク流れ>
図10(a)~(e)を参照して、記録ヘッド1内で行われるインクの循環について、より詳細に説明する。
図10(a)~(e)は、記録ヘッド1内のインク流れの説明図である。インク循環経路をより明確に説明するため、
図10における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500等)の相対位置は簡略化した状態で示されている。そのため、各構成の相対位置は別図に示される構成等とは異なる場合がある。
【0075】
図10(a)は吐出口13からインクを吐出して記録を行う記録動作を行っているときのインクの流れを模式的に示したものである。尚、図中の矢印はインクの流れを示している。第1実施例において、記録動作を行う際には外部ポンプ600及び循環ポンプ500の両方が駆動を開始する。尚、記録動作に関わらず、外部ポンプ600及び循環ポンプ500が駆動していてもよい。また、外部ポンプ600と循環ポンプ500との駆動は、連動して行われなくてもよく、別個に独立して駆動されてもよい。
【0076】
記録動作中は循環ポンプ500がONの状態(駆動状態)となっており、第1圧力制御室122から流出したインクは供給流路130及びバイパス流路160に流入する。供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300を通過した後、回収流路140に流入し、その後、第2圧力制御室152に供給される。
【0077】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。このとき、第1バルブ室121による制御圧力は、上述した式2の関係に基づいて、第1圧力制御室122の制御圧力よりも高く設定されている。したがって、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度供給流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、回収流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122に流入する。以上により記録ヘッド1内で完結するインク循環が行われる。
【0078】
以上のインク循環において、吐出モジュール300内のインクの循環量(流量)は第1圧力制御室122及び第2圧力制御室152の制御圧力の差圧によって決定される。そして、この差圧は、吐出モジュール300内の吐出口近傍のインクの増粘を抑制可能な循環量となるように設定される。
【0079】
また、記録によって消費された分のインクは、インクタンク2からフィルタ110、第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。消費されたインクが供給される仕組みを、詳細に説明する。記録によって消費されたインクの分だけ循環経路内からインクが減ることで、第1圧力制御室内の圧力が減少し、結果として第1圧力制御室122内のインクも減少する。第1圧力制御室122内のインクの減少に伴い、第1圧力制御室122の内容積が減少する。この第1圧力制御室122の内容積の減少により、連通口191Aが開状態となり、第1バルブ室121から第1圧力制御室122にインクが供給される。
【0080】
この供給されるインクには、第1バルブ室121から連通口191Aを通過する際に圧力損失が発生し、第1圧力制御室122に流入することで、正圧のインクは、負圧の状態に切り替わる。そして、第1圧力制御室122に第1バルブ室121からインクが流入することで、第1圧力制御室122内の圧力が上昇することで第1圧力制御室122の容積が増加し、連通口191Aが閉状態となる。このように、インクの消費に応じて連通口191Aは、開状態と閉状態とを繰り返すことになる。また、インクが消費されない場合には、連通口191Aは、閉状態に維持される。
【0081】
図10(b)は、記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFの状態(停止状態)となった直後のインクの流れを模式的に示したものである。記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFとなった時点では、第1圧力制御室122の圧力及び第2圧力制御室152の圧力は、いずれも記録動作中の制御圧となっている。このため、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力との差圧に応じて、
図10(b)に示すようなインクの移動が生じる。具体的には第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300に供給され、その後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れが引き続き発生する。また、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れも引き続き発生する。
【0082】
これらのインクの流れによって第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ移動したインク量が、インクタンク2からフィルタ110及び第1バルブ室121を経て第1圧力制御室122に供給される。このため第1圧力制御室122内の内容量は一定に保たれる。上述した式2の関係から、第1圧力制御室122の内容量が一定の時は、バルブばね200のばね力F1、圧力調整ばね220のばね力F2、バルブ190の受圧面積S1、圧力板210の受圧面積S2は一定に保たれる。このため、第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)P1の変化に応じて第1圧力制御室122の圧力が決定される。よって第1バルブ室121の圧力P1の変化がない場合には、第1圧力制御室122の圧力P2は記録動作中の制御圧と同じ圧力に保たれる。
【0083】
一方、第2圧力制御室152の圧力は、第1圧力制御室122からのインクの流入に伴う内容量の変化に応じて経時的に変化する。具体的には、
図10(b)の状態から、
図10(c)に示すように、連通口191が閉状態となって第2バルブ室151と第2圧力制御室152とが非連通状態となるまでの間は、式2にしたがって第2圧力制御室152の圧力は変化する。その後、圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態となって連通口191が閉状態となる。そして、
図10(d)に示すように、回収流路140から第2圧力制御室152へインクが流入する。このインク流入によって圧力板210及び可撓性部材230が変位し、第2圧力制御室152の内容積が最大に達するまでの間は、式4にしたがって第2圧力制御室152の圧力は変化する。即ち上昇する。
【0084】
尚、
図10(c)の状態になると、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れは発生しない。したがって、第1圧力制御室122内のインクが、供給流路130を介して吐出モジュール300に供給された後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至る流れのみが生じる。上述のように、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へのインクの移動は、第1圧力制御室122内の圧力と第2圧力制御室152内の圧力との差圧に応じて生じる。このため、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなるとインクの移動は停止する。
【0085】
また、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなる状態においては、第2圧力制御室152が、
図10(d)に示す状態まで拡張する。
図10(d)に示すように第2圧力制御室152が拡張した場合、第2圧力制御室152には、インクを貯留できる貯留部が形成される。尚、循環ポンプ500の停止から
図10(d)の状態に移行するまでは、流路の形状及びサイズ並びにインクの性質に応じて変わり得るが、概ね1~2分程度の時間で移行する。貯留部にインクを貯留した
図10(d)に示す状態から循環ポンプ500を駆動すると、貯留部のインクは循環ポンプ500によって第1圧力制御室122に供給される。これにより
図10(e)に示すように第1圧力制御室122のインク量は増加し、可撓性部材230及び圧力板210は拡張方向へと変位する。そして、循環ポンプ500の駆動が引き続き行われると、
図10(a)に示すように、循環経路内の状態が変化することになる。
【0086】
尚、上述の説明においては、
図10(a)は記録動作時の例として説明したが、記録動作を伴わずにインクの循環が行われてもよい。この場合であっても、循環ポンプ500の駆動及び停止に応じて、
図10(a)~(e)に示すようなインクの流れが生じることになる。
【0087】
また上述したように、本実施形態では、第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われる場合に開状態になり、インクの循環が停止すると、閉状態になる例を用いるが、これに限られない。第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行わ
れている場合であっても、閉状態であるように制御圧力を設定してもよい。以下、バイパス流路160の役割と併せて具体的に説明する。
【0088】
第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とを接続するバイパス流路160は、例えば循環経路内に生じた負圧が既定値よりも強まる場合に、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにするために設けられている。また、バイパス流路160は、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するためにも設けられている。
【0089】
まず、負圧が既定値よりも強まる場合に、バイパス流路160を設けていることで、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにする例を説明する。例えば、環境温度の変化によりインクの特性(例えば粘度)が変化することがある。インクの粘度が変化すると、循環経路内の圧力損失も変化する。例えば、インクの粘性が下がると、循環経路内の圧力損失分が減少する。この結果、一定の駆動量で駆動している循環ポンプ500の流量が増加し、吐出モジュール300を流れる流量が増えることになる。
【0090】
一方で、吐出モジュール300は、不図示の温度調整機構により一定温度に保たれるため、吐出モジュール300内のインクの粘度は、環境温度が変化しても一定に維持される。吐出モジュール300内のインクの粘度に変化がない一方で吐出モジュール300内を流れるインクの流量が増加する分、流抵抗により、吐出モジュール300における負圧が強まる。このようにして、吐出モジュール300における負圧が既定値よりも強まると、吐出口13のメニスカスが破壊され、外部の空気が循環経路内に引き込まれて、正常な吐出が行えなくなる虞がある。また、メニスカスが破壊されないとしても、圧力室12の負圧が所定よりも強まり、吐出に影響を及ぼす虞がある。
【0091】
このため、本実施形態では、バイパス流路160を循環経路内に形成している。バイパス流路160を設けることで、負圧が既定値よりも強まる場合には、バイパス流路160にもインクが流れるため、吐出モジュール300の圧力を一定に保つことができる。したがって、例えば第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500を駆動中の場合であっても、閉状態を維持するような制御圧力で構成してもよい。そして、既定値よりも負圧が強まる場合に、第2圧力調整手段150における連通口191が開状態となるように、第2圧力調整手段150における制御圧力を設定してもよい。つまり、環境変化などの粘度変化によるポンプの流量変化によってもメニスカスが崩壊しないか、又は、所定の負圧が維持されるのであれば、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態であってもよい。
【0092】
次に、バイパス流路160が、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するために設けられている例を説明する。循環経路内の圧力変動は、吐出素子15による吐出動作によっても生じ得る。吐出動作に伴い、圧力室12にインクを引き込む力が生じるからである。
【0093】
以下、高いデューティの記録を続ける場合に、圧力室12に供給されるインクが、供給流路130側と回収流路140側との両側供給となる点を説明する。尚、デューティは、各種条件によって定義が変わり得るが、ここでは、1200dpi格子に4plのインク滴を1発記録した状態を100%として扱うものとする。高いデューティの記録とは、例えば100%のデューティで記録が行われるものとする。
【0094】
高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152内に流入するインク量が減る。一方で、循環ポンプ500は一定量でインクの流出を行うため、第2圧力制御室152内での流入と流出とのバランスが崩れ、第2圧力
制御室152内のインクが減少し、第2圧力制御室152内の負圧が強くなり、第2圧力制御室152が縮小する。そして、第2圧力制御室152内の負圧が強くなることで、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152へ流入するインクの流入量が増え、流出と流入とがバランスした状態で第2圧力制御室152が安定する。このように、結果的に、デューティに応じて第2圧力制御室152内の負圧は強くなっていく。また、上述したように、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態である構成においては、デューティに応じて連通口191Bが開状態となり、バイパス流路160から第2圧力制御室152にインクが流入することになる。
【0095】
そして、更に高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入する量が減り、代わりに、バイパス流路160を経由して連通口191Bから第2圧力制御室152内に流入する量が増えていく。この状態が更に進むと、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入するインク量が、ゼロになり、循環ポンプ500に流出するインクは全て連通口191Bから流入するインクとなる。この状態が更に進むと、今度は第2圧力制御室152から回収流路140を通じて圧力室12にインクが逆流する。この状態では、第2圧力制御室152から循環ポンプ500に流出するインクと圧力室12に流出するインクとが、バイパス流路160を通じて連通口191Bから第2圧力制御室152に流入することになる。この場合、圧力室12には、供給流路130のインク及び回収流路140のインクが充填されて、吐出されることになる。
【0096】
尚、この記録デューティが高い場合に生じるインクの逆流は、バイパス流路160を設けていることで生じる現象である。また、上述ではインクの逆流に応じて第2圧力調整手段150における連通口191Bが開状態となる例を説明したが、第2圧力調整手段150における連通口191Bが開状態となっている状態においてインクの逆流が生じることもある。また、第2圧力調整手段150を設けない構成においても、バイパス流路160を設けていることで、上述のインクの逆流は発生し得るものである。
【0097】
<記録素子ユニットのインク流路構成>
次に、実施例1に係る記録ヘッド1の記録素子ユニット20(吐出モジュールユニット)におけるインク流路について説明する。
図11(a)は記録素子ユニット20を支持部材21側からみた分解斜視図であり、
図11(b)は記録素子ユニット20を吐出モジュール300側からみた分解斜視図である。簡略化のため、
図11(a)、(b)において接続基板22及び電気基板23の図示は省略されている。以下、インク1色分(図中シアン(C))のインク流路に着目して説明するが、他の色のインク流路も同様に構成されている。
【0098】
記録素子ユニット20内のインク流路は、支持部材21と吐出モジュール300によって構成されている。吐出モジュール300は、開口プレート310と記録素子基板320によって構成されている。
図11(b)に示すように、記録素子基板320は、複数の吐出口13が形成された面を有し、吐出口13が形成された面と反対側の面に開口プレート310が接続される。開口プレート310の記録素子基板320との接続面と反対側の面が支持部材21に接合されることで、吐出モジュール300が支持部材21に固定されている。
【0099】
支持部材21には、インク供給用の支持部材供給口211と、インク回収用の支持部材回収口212とが複数設けられている。支持部材供給口211は供給流路130の一部を構成し、支持部材回収口212は回収流路140の一部を構成する。また、開口プレート310には支持部材21から記録素子基板320にインクを供給するための供給開口311と、記録素子基板320から支持部材21にインクを回収するための回収開口312と
が複数設けられている。言い換えると、開口プレート310は、記録素子基板320と支持部材21にインクを供給及び回収するための開口形成部を構成する。第1実施例においては、開口形成部は2つの開口プレート310により構成される。そして、循環ユニット54によって、インクは支持部材供給口211、支持部材回収口212、供給開口311、回収開口312を通じて記録ヘッド1内で循環させられる。
【0100】
第1実施例において、支持部材供給口211は供給開口311に対応する位置に設けられ、支持部材回収口212は回収開口312に対応する位置に設けられる。すなわち、支持部材供給口211は供給開口311と同数設けられ、支持部材回収口212は回収開口312と同数設けられる。各種図面においては、支持部材供給口211や供給開口311等のインク供給用の流路の構成要素がIN、支持部材回収口212や回収開口312等のインク回収用の流路の構成要素はOUTとして適宜示される。
【0101】
図12は、開口プレート310を支持部材21側から見た模式的上面図である。
図12に示されるように、開口プレート310には、インク各色用の供給開口311と回収開口312が設けられている。同一色用の供給開口311と回収開口312は、Y方向(主走査方向と直交する方向)に交互に配列されている。複数の供給開口311はY方向に等間隔で配置され、複数の回収開口312はY方向に等間隔で配置されている。同一色用の供給開口311と回収開口312は、X方向において互いにずれて配置されている。また、インク各色用の供給開口311と回収開口312はそれぞれX方向(主走査方向)に並んでいる。
【0102】
図13は、記録素子基板320を支持部材21側(開口プレート310側)から見た模式的上面図である。
図13に示されるように、記録素子基板320の開口プレート310側には吐出部にインクを供給するための共通供給流路18と、吐出部からインクを回収する共通回収流路19とが形成されている。共通供給流路18と共通回収流路19はインク種毎に配置され、開口プレート310は4つの共通供給流路18と4つの共通回収流路19を有する。
【0103】
更に、共通供給流路18の吐出部側にはインクを吐出部に供給するための供給口323が配置され、共通回収流路19の吐出部側にはインクを回収するための回収口324が配置されている。供給口323及び回収口324は、各吐出列内の吐出部に対応した数だけ配置される。
【0104】
図14は、開口プレート310と記録素子基板320の接合状態の説明図であり、互いに接合された開口プレート310と記録素子基板320を開口プレート310側から見た図である。
図14には、破線で示される記録素子基板320の共通供給流路18と共通回収流路19と、実線で示される開口プレート310の共通供給流路18及び共通回収流路19との位置関係が示される。
図14に示されるように、共通供給流路18に対応する位置に供給開口311が配置され、共通回収流路19に対応した位置に回収開口312が配置されている。
【0105】
図15(a)~(c)は、記録素子ユニット20内のインク流路を示す模式的断面図であり、Y方向に見たときの様子を示す。
図15(a)は、供給開口311を通る
図14のA-A断面を示す。
図15(b)は、供給開口311と回収開口312を通らない
図14のB-B断面を示す。
図15(a)は、回収開口312を通る
図14のC-C断面を示す。
【0106】
次に、記録素子ユニット20内のインク流路におけるインク流れについて説明する。
図11(a)、(b)、
図15(a)、(b)、(c)には、インクが流れる方向を示す矢
印が示されている。実線で示される矢印は供給側のインク流路を通り記録素子基板320へ供給されるインク流れの方向を示し、破線で示される矢印は回収側のインク流路を通り記録素子基板320から回収されるインク流れの方向を示す。尚、以下では一つの吐出部を例にインク流れについて説明するが、各吐出部におけるインク流れは同様である。
【0107】
まず、
図15(a)に示すように、循環ユニット54から支持部材21の支持部材供給口211にインクが供給され、次に支持部材供給口211から供給開口311を介して記録素子基板320の共通供給流路18にインクが流れる。その後、共通供給流路18から供給口323を介して圧力室12にインクが供給される。
【0108】
図15(b)、(c)に示すような供給開口311が存在しない領域においては、供給開口311から供給されたインクは共通供給流路18を通り、各圧力室12に供給される。このとき、インクは共通供給流路18をY方向(
図15(b)、(c)における紙面垂直方向)に流れる。
【0109】
次にインク回収の流れについて説明する。圧力室12に供給されたインクのうち、吐出口13から吐出されなかったインクは、回収口324を介して共通回収流路19に流れる。その後、回収開口312を経由し支持部材21の支持部材回収口212に流れ、循環ユニット54へ回収される。
【0110】
図15(a)、(b)に示すような回収開口312が存在しない領域においては、各圧力室12から回収されたインクは共通回収流路19を通り、回収開口312を経由して循環ユニット54に回収される。このとき、インクは共通回収流路19をY方向(
図15(a)、(b)における紙面垂直方向)に流れる。尚、吐出モジュール300と支持部材21を接着する場合は、
図15(b)に示すような各開口が存在しない領域が接着領域として使用される。
【0111】
<吐出モジュールの温度分布>
次に、吐出モジュール300内の温度分布について説明する。上述したような循環型の記録ヘッド1において、吐出口13から吐出されずに回収されるインクはヒーターを経由するため温度が高まる。その結果、共通回収流路19には比較的温度が高いインクが流れ込むことになり、共通回収流路19が延在する全域にわたり記録素子基板320の温度を高める効果が発生する。それに対し、共通供給流路18には循環ユニット54を経由したインクが供給されるため、共通回収流路19に比べ温度が低いインクが存在することになる。
【0112】
その中でも特に、
図15(a)に示すような供給開口311と連通している領域は、循環ユニット54を経由し温度が低下したインクが支持部材21側から供給される領域であり、共通供給流路18の中でも最も温度が低くなる。そして、供給開口311から離れるにしたがってインクの冷却効果は低減されていく。
【0113】
これらのことを踏まえると、吐出モジュール300内の温度分布はY方向で変化する。
図16は、吐出モジュール300内の温度分布の説明図である。
図16には、吐出モジュール300の各開口や流路の配置位置と、吐出モジュール300の最外吐出口列(シアン(C)用の吐出口列)における温度分布が示される。
【0114】
図16に示すように、吐出口列方向(Y方向)において、供給開口311と回収開口312は交互に配置されている。供給開口311同士の配置間隔である距離Yaは、回収開口312同士の配置間隔である距離Ybと同等である。また、供給開口311と回収開口312との配置間隔は距離Ycである。また、供給開口311の吐出口列方向の幅Daと
回収開口312の吐出口列方向の幅Dbは同等である。
【0115】
供給開口311がある領域(グラフ中R1、R3、R5、R7、R9)では比較的温度が低いインクが供給されるため、供給開口311付近の領域の温度は他の領域に比べ低くなる。供給開口311から離れるにしたがって、循環ユニット54からのインク供給による温度低減効果が小さくなるため、温度は徐々に上昇し、供給開口311から最も離れた領域(グラフ中R2、R4、R6、R8、R10)で最も温度が高くなる。第1実施例においては、供給開口311から最も離れた領域は、回収開口312がある領域である。以上の作用により、
図16に示すような波形の温度分布が吐出列方向に発生する。
【0116】
このような温度ムラは吐出口13からの吐出量に影響するため、印字ムラを引き起こす原因となる。具体的には、温度が高い程吐出口13からの吐出量が増え印字が濃くなり、温度が低いと吐出量が減り印字が薄くなるといった濃淡ムラが吐出列方向において発生する。濃淡ムラは、ライン型ヘッドと比較して、より印字Dutyの高い走査型ヘッドで特に顕著となりやすい。
【0117】
更に、走査型の記録ヘッド1においては、スキャン回数低減のため
図3に示すように同色を2列、特に双方向になるように配置することが好ましい。しかし、このような温度分布を有する記録素子基板320を単に並べて配置すると、同様の温度分布となる吐出口列が並ぶため、濃淡ムラ(印字ムラ)がより顕著に表れてしまう。そこで、第1実施例においては、2つの吐出モジュール300における供給開口311と回収開口312の配置構成を変化させることで、印字ムラを抑制することとした。
【0118】
<供給開口と回収開口の配置構成>
図17は、第1実施例に係る2つの吐出モジュール300a、300b内の供給開口311と回収開口312の配置構成の説明図である。
図17には、吐出モジュール300a、300bの各開口や流路の配置位置と、各吐出モジュール300a、300bの最外吐出口列(シアン(C)に対応する吐出口列)における温度分布が示される。以下、必要に応じて2つの吐出モジュール300a、300bを、第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bと区別して説明する。また、必要に応じて、第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bの各開口や流路についても添え字を付して区別する。
【0119】
第1実施例においては、記録ヘッド1に第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bが、吐出口列方向と交差する方向に並ぶように搭載されている。そして、吐出口列方向(Y方向、第1方向)において、第1吐出モジュール300aの第1供給開口311a及び第1回収開口312aと、第2吐出モジュール300bの第2供給開口311b及び第2回収開口312bの配置関係は反対になる。具体的には、記録ヘッド1の吐出口列方向において、第1供給開口311aと第2供給開口311bはずれて配置され、第1回収開口312aと第2回収開口312bはずれて配置される。言い換えると、主走査方向(X方向、第2方向)において、第1供給開口311aと第2供給開口311bは互いに重ならず、第1供給開口311aと第2供給開口311bは互いに重ならい。第1実施例では、記録ヘッド1の吐出口列方向において、第1供給開口311aと第2回収開口312bが同一の位置に配置され、第1回収開口312aと第2供給開口311bが同一の位置に配置される。
【0120】
第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bの配置構成が上述の通りとされることで、第1吐出モジュール300aの吐出口列の温度分布波形は、第2吐出モジュール300bの吐出口列の温度分布波形に対して位相が1/4周期ずれた形となる。そして、吐出口列方向において、第1吐出モジュール300aの吐出口列の最も温度が高い
領域は、第2吐出モジュール300bの吐出口列の最も温度が低い領域と重なる。また、吐出口列において、第1吐出モジュール300aの吐出口列の最も温度が低い領域は、第2吐出モジュール300bの吐出口列の最も温度が高い領域と重なる。尚、上述の説明ではシアン(C)用の吐出口列を例に説明したが、他のインク色用の吐出口列でも配置構成や温度分布は同様である。
【0121】
図18は、第1吐出モジュール300aの吐出口列の温度分布と、第2吐出モジュール300bの吐出口列の温度分布の説明図である。
図18には、第1吐出モジュール300aの吐出口列の温度分布と、第2吐出モジュール300bの吐出口列の温度分布と、それらを重ね合わせたものが示される。
図18に示すように、吐出口列方向における温度分布が第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bとの間で1/4周期ずれているため、それぞれの吐出モジュール300で温度が高い領域と低い領域が吐出口列方向でずれる。したがって、吐出口列2列で印字した際に、温度ムラの影響による印字の印字ムラが抑制される。
【0122】
以上より、第1実施例の構成によれば、第1吐出モジュール300aの吐出口列と第2吐出モジュール300bのそれぞれの吐出口列方向の温度分布が異なるように各開口が配置されているため、印字の印字ムラを抑制できる。特に、第1実施例では、第1吐出モジュール300aの吐出口列と第2吐出モジュール300bの吐出口列のそれぞれの吐出口列方向の温度ムラによる影響が互いに打ち消されるようにインク流路が構成されているため、印字の印字ムラを効果的に抑制できる。
【0123】
尚、インク流れにおいて供給開口311からのインク供給により冷却効果があることは上述の通りであるが、回収開口312においても多少の放熱効果は得られる。そのため、回収開口312は、吐出口列方向において2つの供給開口311間の中間の位置に配置することで吐出口列内温度分布を少なからず抑制することが可能となる。すなわち、供給開口311と回収開口312との配置間隔である距離Ycは、供給開口311同士の配置間隔である距離Yaに対して、Yc=Ya/2であることが好ましい。同様に、距離Ycは、回収開口312同士の配置間隔である距離Ybに対して、Yc=Yb/2であることが好ましい。そのため、供給開口311と回収開口312の配置数は、同じか、もしくはどちらかが1つだけ多いことが望ましい。また、そのような配置数の関係にすることで、流路内圧力損失ムラも抑制することが可能となる。
【0124】
[第2実施例]
次に、本発明に係る第2実施例について説明する。第2実施例は、供給開口311と回収開口312の配置構成が第1実施例と異なる。以下、第2実施例の説明において、第1実施例と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、第2実施例の特徴的な構成についてのみ説明する。
【0125】
第1実施例では、一つの吐出モジュール300において各色の供給開口311及び回収開口312が主走査方向に対し全て横並びになっていた。このような構成の場合、支持部材21の支持部材供給口211を形成するために、吐出モジュール300における供給開口311同士の主走査方向の間隔を広げる必要が生じるおそれがある。同様に、支持部材21の支持部材回収口212を形成するために、吐出モジュール300における回収開口312同士の主走査方向の間隔を広げる必要が生じるおそれもある。すると、結果としてそれらに対応した吐出口列同士の間隔も主走査方向に広がるため、吐出モジュール300や記録ヘッド1のサイズ拡大化等につながるおそれがある。そこで、第2実施例では、吐出口列同士の間隔が主走査方向に広くなることを防ぐため、同一の吐出モジュール300内の吐出口列同士で供給開口311や回収開口312の位置をずらすこととした。
【0126】
図19は、第2実施例に係る開口プレート310と記録素子基板320の接合状態の説明図であり、互いに接合された開口プレート310と記録素子基板320を開口プレート310側から見た図である。
図19には、破線で示される記録素子基板320の共通供給流路18と共通回収流路19と、実線で示される開口プレート310の共通供給流路18及び共通回収流路19との位置関係が示される。
【0127】
第2実施例においては、隣接する吐出口列の供給開口311と回収開口312とが吐出口列方向(Y方向)に互いにずれて配置される。例えば、マゼンタ(M)用の吐出口列においては、主走査方向(X方向)で隣接するシアン(C)用の吐出口列とイエロー(Y)用の吐出口列に対して、供給開口311と回収開口312が吐出口列方向にずれて配置される。第2実施例では、シアン(C)用の吐出口列とイエロー(Y)用の吐出口列で供給開口311と回収開口312が同様に配置され、マゼンタ(M)用の吐出口列とブラック(Bk)用の吐出口列で供給開口311と回収開口312が同様に配置される。
【0128】
このような配置構成においても、それぞれの吐出口列では吐出口列方向に温度ムラが発生し得る。そこで、第2実施例においても第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bとで、同一のインク色の吐出口列における吐出口列方向の第1供給開口311aと第2供給開口311bの位置が互いにずれるように記録ヘッド1は構成されている。同様に、同一のインク色の吐出口列における第1回収開口312aと第2回収開口312bの位置は、互いに吐出口列方向にずれている。
【0129】
図20は、第2実施例に係る第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300b内の供給開口311と回収開口312の配置構成の説明図である。
図20には、各吐出モジュール300a、300bの各開口や流路の配置位置と、各吐出モジュール300a、300bの最外吐出口列(シアン(C)用の吐出口列)における温度分布が示される。第2実施例において、第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bの各開口の配置関係は、互いに点対称となる。
【0130】
各開口が上述の通り配置されることで、記録ヘッド1の吐出口列方向(Y方向、第1方向)において、同一色の吐出口列同士で第1供給開口311aと第2供給開口311bはずれて配置され、第1回収開口312aと第2回収開口312bはずれて配置される。第2実施例では、シアン(C)用の吐出口列において、第1供給開口311a、第1回収開口312a、第2供給開口311b及び第2回収開口312bは互いに吐出口列方向で異なる位置に配置される。
【0131】
第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bの配置構成が上述の通りとされることで、第1吐出モジュール300aの吐出口列の温度分布波形は、第2吐出モジュール300bの吐出口列の温度分布波形に対して位相が1/4周期ずれた形となる。したがって、同一色用の吐出口列を比較したときに、吐出口列方向において、第1吐出モジュール300aの吐出口列の最も温度が高い領域と、第2吐出モジュール300bの吐出口列の最も温度が高い領域は異なる位置にある。同様に、吐出口列において、第1吐出モジュール300aの吐出口列の最も温度が低い領域と、第2吐出モジュール300bの吐出口列の最も温度が低い領域は異なる位置にある。尚、上述の説明ではシアン(C)用の吐出口列を例に説明したが、他のインク色用の吐出口列でも配置構成や温度分布は同様である。
【0132】
図21は、第2実施例に係る第1吐出モジュール300aの吐出口列の温度分布と、第2吐出モジュール300bの吐出口列の温度分布の説明図である。
図21には、第1吐出モジュール300aの吐出口列の温度分布と、第2吐出モジュール300bの吐出口列の温度分布と、それらを重ね合わせたものが示される。
図21に示すように、吐出口列方向
における温度分布が第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bとの間で1/4周期ずれているため、それぞれの吐出モジュール300で温度が高い領域と低い領域が吐出口列方向でずれる。したがって、吐出口列2列で印字した際に、温度ムラの影響による印字の印字ムラが抑制される。
【0133】
以上より、第2実施例の構成によれば、第1吐出モジュール300aの吐出口列と第2吐出モジュール300bのそれぞれの吐出口列方向の温度分布が異なるように各開口が配置されているため、印字の印字ムラを抑制できる。更に、第2実施例の構成によれば、各開口の主走査方向の間隔を過度に広くする必要がないため、吐出モジュール300や記録ヘッド1の主走査方向へのサイズ拡大化を抑制できる。
【0134】
尚、第2実施例の構成のように2つの吐出口列において供給開口311同士や回収開口312同士が吐出口列方向に互いにずれて配置されていれば、印字の印字ムラの抑制効果は少なからず得られる。したがって、供給開口311同士のみを吐出口列方向にずらした構成や、回収開口312同士のみを吐出口列方向にずらした構成も本発明の変形例として想定しうる。
【0135】
印字の印字ムラの抑制効果を効果的に得るためには、第1供給開口311aと第2供給開口311bとが主走査方向で全く重ならない位置に配置されることが好ましい。したがって、第1供給開口311aと第2供給開口311bの吐出口列方向のずれ量は、Da以上、Ya/2以下であることが好ましい(Daは供給開口311の吐出口列方向の幅、Yaは供給開口311の吐出口列方向の配置間隔)。また、第1回収開口312aと第2回収開口312bの吐出口列方向のずれ量は、Db以上、Yb/2以下であることが好ましい(Dbは回収開口312の吐出口列方向の幅、Ybは回収開口312の吐出口列方向の配置間隔)。
【0136】
[第3実施例]
次に、本発明に係る第3実施例について説明する。第3実施例は、記録ヘッド1が一つの記録素子基板320を有する単一の吐出モジュール300で構成されている点で第2実施例と異なる。
【0137】
第3実施例においては、第2実施例の第1吐出モジュール300aと第2吐出モジュール300bとが一体の吐出モジュール300として構成されている。すなわち、第3実施例に係る吐出モジュール300の記録素子基板320には、各色2つずつ、計8つの吐出口列が形成されている。また、第3実施例の吐出モジュール300には、第1供給開口311a、第1回収開口312a、第2供給開口311b、第2回収開口312bが全て形成されている。それぞれの吐出口列に対応して設けられる供給開口311と回収開口312の配置位置は、第2実施例と同様である。
【0138】
図22は、第3実施例に係る吐出モジュール300内の供給開口311と回収開口312の配置構成の説明図である。
図22には、吐出モジュール300の各開口や流路の配置位置と、吐出モジュール300の最外吐出口列(シアン(C)用の吐出口列)における温度分布が示される。このような構成においても、記録ヘッド1の吐出口列方向(Y方向、第1方向)において、同一色の吐出口列同士で第1供給開口311aと第2供給開口311bはずれて配置され、第1回収開口312aと第2回収開口312bはずれて配置される。このような構成により、吐出モジュール300の同一色の吐出口列同士で温度が高い領域と低い領域が吐出口列方向でずれるため、吐出口列2列で印字した際に、温度ムラの影響による印字の印字ムラが抑制される。
【0139】
以上より、第3実施例の構成によれば、第1吐出モジュール300aの吐出口列と第2
吐出モジュール300bのそれぞれの吐出口列方向の温度分布が異なるように各開口が配置されているため、印字の印字ムラを抑制できる。更に、第3実施例の構成によれば、単一の記録素子基板320や単一の吐出モジュール300で記録ヘッド1を構成できるため、記録素子基板点数を減らすことができる。
【0140】
尚、上述の実施例では、記録ヘッド1に液体を吐出するエネルギー発生素子として電熱変換素子が設けられていたが、必ずしもこのような構成に限られない。例えば、圧電素子(ピエゾ)を用いて液体を吐出する吐出方式、又はその他の吐出方式が採用された液体吐出ヘッドであっても、インク吐出時にインクの温度が変化する構成であれば本発明は適用しうる。
【0141】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
液体が吐出される複数の吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、
複数の吐出口が前記第1方向に並んで構成され、液体の吐出方向から見たときに前記第1方向と直交する第2方向で前記第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と、
前記第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口と、前記第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口と、前記第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口と、前記第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収開口と、を有する開口形成部と、
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口を通じて液体を循環させる循環部と、
を備え、
前記第2供給開口は、前記第1供給開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
(構成2)
前記第2供給開口は、前記第2方向で前記第1供給開口と重ならない位置に配置されていることを特徴とする構成1に記載の液体吐出ヘッド。
(構成3)
前記第2回収開口は、前記第1回収開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする構成1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
(構成4)
前記第2供給開口は、前記第2方向で前記第1回収開口と重なる位置に配置され、
前記第2回収開口は、前記第2方向で前記第1供給開口と重なる位置に配置されることを特徴とする構成3に記載の液体吐出ヘッド。
(構成5)
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口がそれぞれ前記第1方向に複数並んで配置されていることを特徴とする構成1~4のいずれか一の構成に記載の液体吐出ヘッド。
(構成6)
複数の前記第1供給開口、及び複数の前記第2供給開口は前記第1方向に等間隔で配置され、
前記第1供給開口の前記第1方向の幅をDa、前記第1供給開口の配置間隔をYaとすると、前記第2供給開口の前記第1供給開口に対する前記第1方向のずれ量はDa以上、Ya/2以下であることを特徴とする構成5に記載の液体吐出ヘッド。
(構成7)
液体が吐出される複数の吐出口が第1方向に並んで構成される第1吐出口列と、
複数の吐出口が前記第1方向に並んで構成され、液体の吐出方向から見たときに前記第1方向と直交する第2方向で前記第1吐出口列と重なる位置に配置される第2吐出口列と
、
前記第1吐出口列の吐出口に液体を供給するための第1供給開口と、前記第1吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第1回収開口と、前記第2吐出口列の吐出口に液体を供給するための第2供給開口と、前記第2吐出口列の吐出口から吐出されなかった液体を回収するための第2回収開口と、を有する開口形成部と、
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口を通じて液体を循環させる循環部と、
を備え、
前記第2回収開口は、前記第1回収開口に対して前記第1方向にずれて配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
(構成8)
前記第2回収開口は、前記第2方向で前記第1回収開口と重ならない位置に配置されていることを特徴とする構成7に記載の液体吐出ヘッド。
(構成9)
前記第1供給開口、前記第1回収開口、前記第2供給開口、前記第2回収開口がそれぞれ前記第1方向に複数並んで配置されていることを特徴とする構成7又は8に記載の液体吐出ヘッド。
(構成10)
複数の前記第1回収開口、及び複数の前記第2回収開口は前記第1方向に等間隔で配置され、
前記第1回収開口の前記第1方向の幅をDb、前記第1回収開口の配置間隔をYbとすると、前記第2回収開口の前記第1回収開口に対する前記第1方向のずれ量はDb以上、Yb/2以下であることを特徴とする構成9に記載の液体吐出ヘッド。
(構成11)
前記第2方向は、液体吐出ヘッドの走査方向であることを特徴とする構成1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
(構成12)
前記第1吐出口列と前記第2吐出口列の吐出口は、同一色のインクを吐出するための吐出口であることを特徴とする構成11に記載の液体吐出ヘッド。
(構成13)
前記第1吐出口列と前記第2吐出口列の吐出口は、同一色のインクを吐出するための吐出口であることを特徴とする構成1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
(構成14)
液体を吐出するための熱を発する発熱抵抗素子を更に備えることを特徴とする構成12に記載の液体吐出ヘッド。
(構成15)
液体を吐出するための熱を発する発熱抵抗素子を更に備えることを特徴とする構成1~14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【符号の説明】
【0142】
1…記録ヘッド(液体吐出ヘッド)、54…循環ユニット(循環部)、211…支持部材供給口、212…支持部材回収口、310…開口プレート(開口形成部)、311a…第1供給開口、311b…第2供給開口、312a…第1回収開口、312b…第2回収開口