(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161766
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】積層造形用金属粉末材料、三次元造形物の造形方法及び三次元造形物
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241113BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241113BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241113BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20241113BHJP
B22F 10/36 20210101ALI20241113BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241113BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241113BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241113BHJP
【FI】
B22F1/00 S
C22C38/00 304
B22F1/05
B22F10/28
B22F10/36
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
C22C38/00 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076774
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】593209080
【氏名又は名称】中央可鍛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】小池 健裕
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA26
4K018AB04
4K018AB07
4K018AC01
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC12
(57)【要約】
【課題】物性が高められた三次元造形物を造形することができる積層造形用金属粉末材料を提供すること。
【解決手段】積層造形用金属粉末材料11は、C(炭素):2.0~10.0質量%、Si(珪素(シリコン)):1.0~15.0質量%、をそれぞれ含有し、残分がFe(鉄)及び不可避不純物である。積層造形用金属粉末材料11は、エネルギー密度が10~500J/mm
3であるレーザ光又は電子ビーム21によって、熔融・凝固されて融着層12が形成され、融着層12が積層されることによって、引張強度と靭性が高められ、高い物性を有する三次元造形物が造形される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:2.0~10.0質量%、Si:1.0~15.0質量%、をそれぞれ含有し、残分がFe及び不可避不純物であることを特徴とする積層造形用金属粉末材料。
【請求項2】
前記Cの含有量が2.5~7.0質量%であり、前記Siの含有量が2.0~10.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形用金属粉末材料。
【請求項3】
高炭素の鋼の造形用途であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形用金属粉末材料。
【請求項4】
鉄粉末、黒鉛粉末及びフェロシリコン粉末から構成されることを特徴とする請求項1又は3に記載の積層造形用金属粉末材料。
【請求項5】
平均粒子径(累積50体積%粒子径(D50))が100μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の積層造形用金属粉末材料。
【請求項6】
請求項5に記載の積層造形用金属粉末材料を、レーザ光又は電子ビームによって、熔融・凝固させて積層させることを特徴とする三次元造形物の造形方法。
【請求項7】
前記レーザ光又は前記電子ビームのエネルギー密度が10~500J/mm3であることを特徴とする請求項6に記載の三次元造形物の造形方法。
【請求項8】
請求項1又は3に記載の積層造形用金属粉末材料が、熔融・凝固されて積層されたものであることを特徴とする三次元造形物。
【請求項9】
前記三次元造形物の金属組織に、微細な球状黒鉛が晶出したものであることを特徴とする請求項8に記載の三次元造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、三次元造形物の造形に用いられる積層造形用金属粉末材料と、積層造形用金属粉末材料を用いた三次元造形物の造形方法と、積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、三次元造形物の造形に用いられる積層造形用金属粉末材料が知られている。特許文献1には、三次元造形物の造形過程において凝固割れが生じにくい積層造形用金属粉末材料が記載されている。また、特許文献2には、三次元造形された造形物が低熱膨張率を有するものとなる積層造形用金属粉末材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-119913号公報
【特許文献2】特許第6754027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら特許文献に記載の従来の積層造形用金属粉末材料には、積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物の物性を高めたいという要望がある。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、高い物性を有する三次元造形物を造形することができる積層造形用金属粉末材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る積層造形用金属粉末材料は、C:2.0~10.0質量%、Si:1.0~15.0質量%、をそれぞれ含有し、残分がFe及び不可避不純物であることを特徴とする。
【0007】
実施形態に係る積層造形用金属粉末材料によれば、積層造形用金属粉末材料から造形されたFe(鉄)系の三次元造形物は、C(炭素)とSi(珪素(シリコン))の含有割合により、引張強度と靭性が高められ、高い物性を有するものとすることができる。
【0008】
ここで、上記積層造形用金属粉末材料において、前記Cの含有量が2.5~7.0質量%であり、前記Siの含有量が2.0~10.0質量%であるものとすることができる。
【0009】
これによれば、積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物は、より高い物性を有するものとすることができる。
【0010】
また、上記積層造形用金属粉末材料において、高炭素の鋼の造形用途であるものとすることができる。
【0011】
これによれば、高炭素(C:2.0質量%以上含有)の鋼の造形用途である積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物は、引張強度と靭性が高められ、高い物性を有するものとすることができる。
【0012】
また、上記積層造形用金属粉末材料において、鉄粉末、黒鉛粉末及びフェロシリコン粉末から構成されるものとすることができる。
【0013】
これによれば、Fe(鉄)系の積層造形用金属粉末材料に、C(炭素)とSi(珪素)を容易に含有させることができる。
【0014】
また、上記積層造形用金属粉末材料において、平均粒子径(累積50体積%粒子径(D50))が100μm以下であるものとすることができる。
【0015】
これによれば、積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物の強度を高めることができる。
【0016】
ここで、実施形態に係る三次元造形物の造形方法は、上記の積層造形用金属粉末材料を、レーザ光又は電子ビームによって、熔融・凝固させて積層させるものとすることができる。
【0017】
これによれば、積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物は、金属組織が緻密なものとなり、張力と伸び率が高められ、靭性が高められた三次元造形物とすることができる。
【0018】
また、上記の三次元造形物の造形方法において、前記レーザ光又は前記電子ビームのエネルギー密度が10~500J/mm3であるものとすることができる。
【0019】
これによれば、積層造形用金属粉末材料から造形された三次元造形物の物性をより高めることができる。
【0020】
また、実施形態に係る三次元造形物は、上記に記載の積層造形用金属粉末材料が、熔融・凝固されて積層されたものとすることができる。
【0021】
これによれば、C(炭素)とSi(珪素)の含有割合のバランスにより、引張強度と靭性が高められ、物性が高められたFe(鉄)系の三次元造形物とすることができる。
【0022】
また、上記の三次元造形物において、前記三次元造形物の金属組織に、微細な球状黒鉛が晶出したものとすることができる。
【0023】
これによれば、より物性が高められたFe(鉄)系の三次元造形物とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本明細書の実施形態に係る積層造形用金属粉末材料によれば、積層造形用金属粉末材料から造形されたFe(鉄)系の三次元造形物は、C(炭素)とSi(珪素)の含有割合により、引張強度と靭性が高められ、物性が高められたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態の積層造形用金属粉末材料が金属3Dプリンタによって熔融・凝固されて積層される状態を示すイメージ図である。
【
図2】実施形態の積層造形用金属粉末材料が金属3Dプリンタによって熔融・凝固されて積層された三次元造形物の拡大写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本明細書の実施形態に係る積層造形用金属粉末材料11、三次元造形物の造形方法及び三次元造形物を図面に基づいて説明する。しかし、本明細書の技術は、これら実施形態に限定されるものではない。
【0027】
実施形態の積層造形用金属粉末材料11は、C(炭素):2.0~10.0質量%、Si(珪素(シリコン)):1.0~15.0質量%、をそれぞれ含有し、残分がFe(鉄)及び不可避不純物である。積層造形用金属粉末材料11は、エネルギー密度が10~500J/mm3であるレーザ光又は電子ビーム21によって、熔融・凝固されて融着層12が形成され、融着層12が積層され、高強度かつ高靭性の三次元造形物が造形される。
【0028】
C(炭素)は、積層造形用金属粉末材料11に含有されて、積層造形用金属粉末材料11が熔融・凝固されて積層された三次元造形物の中に、鉄と化合した硬い組織(セメンタイト、Fe3C)、球状に存在するかたまり(球状黒鉛)、として存在する成分である。鉄と化合した硬い組織(セメンタイト)は、積層造形用金属粉末材料11が熔融・凝固されて積層された造形物に硬さを付与する半面、造形物に脆さをも付与するものである。球状に存在するかたまり(黒鉛)は、造形物中に細かく分散して存在することにより、造形物に引張強度と靭性(粘り強さ)を付与するものである。
【0029】
積層造形用金属粉末材料11に含有させる炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、黒鉛(グラファイト)などを使用することができる。炭素は、別の実施形態として、不純物の含有割合の低いカーボンブラック又は黒鉛(グラファイト)を使用することができる。
【0030】
積層造形用金属粉末材料11における炭素の含有量は、2.0~10.0質量%とすることができる。積層造形用金属粉末材料11から造形された鉄系の三次元造形物が引張強度と靭性が高められたものとなり、物性が高められたものとすることができるためである。レーザ光又は電子ビーム21によって鉄に溶け込んだ炭素が凝固の過程で微細且つ球状の黒鉛Gとして均一に晶出し、造形物として緻密な金属組織を形成し、引張強度と靭性が高められたものとなる。
【0031】
積層造形用金属粉末材料11における炭素の含有量が2.0質量%未満である場合には、微細且つ球状の黒鉛Gの晶出が十分でなく、造形された三次元造形物に十分な引張強度と硬さを付与することができないおそれがある。一方、炭素の含有量が10.0質量%を超える場合には、造形された三次元造形物は、セメンタイトにより硬さを有しているものの、脆いものとなり、伸びにくくなるおそれがあるとともに、造形時に剥がれや割れが生じるおそれがある。別の実施形態として、積層造形用金属粉末材料11における炭素の含有量は、2.5~7.0質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、3.0~6.0質量%とすることができる。
【0032】
Si(珪素)は、積層造形用金属粉末材料11に含有されて、積層造形用金属粉末材料11が熔融・凝固されて積層された造形物の、炭素による硬くて脆い組織のセメンタイトの形成を抑制し、黒鉛Gの晶出を促進させるものである。また、Si(珪素)は、造形物に耐熱性や耐酸化性を付与するものでもある。
【0033】
積層造形用金属粉末材料11に含有させる珪素として、鉄と珪素の化合物であるFe-Si(フェロシリコン)、単体であるSi(金属シリコン)などを使用することができる。珪素は、別の実施形態として、汎用性を有するフェロシリコンを使用することができる。もちろん、フェロシリコンは、鉄と珪素の成分比率に応じて積層造形用金属粉末材料11に含有させる。
【0034】
積層造形用金属粉末材料11における珪素の含有量は、1.0~15.0質量%とすることができる。積層造形用金属粉末材料11から造形された三次元造形物の、炭素による硬い組織のセメンタイトの生成を抑制することができ、積層造形用金属粉末材料11が熔融・凝固する際の黒鉛Gの晶出を促進させることができるためである。
【0035】
積層造形用金属粉末材料11における珪素の含有量が1.0質量%未満である場合には、造形された三次元造形物のセメンタイトの生成を抑制することができず、三次元造形物を脆く引張強度と硬さが満たされないものにしてしまうおそれがあるとともに、黒鉛Gの晶出を促進させることができないおそれがある。一方、の含有量が15.0質量%を超える場合には、炭化ケイ素(SiC)が形成され、硬く脆くなり、伸びにくくなるおそれがあるとともに、造形時に剥がれや割れが生じるおそれがある。別の実施形態として、積層造形用金属粉末材料11における珪素の含有量は、2.0~10.0質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、3.0~8.0質量%とすることができる。
【0036】
積層造形用金属粉末材料11の残部は、Fe(鉄)と不可避不純物である。不可避不純物とは、意図的に添加したものではない成分を指す。言い換えると、原材料にもともと含まれていた成分や、製造過程や造形過程でやむを得ず混入する成分を指す。不可避不純物としては、例えば、P(リン)、S(硫黄)、N(窒素)、O(酸素)などが挙げられる。これら不可避不純物は、それぞれ0.05質量%まで含有することが許容される。
【0037】
Fe(鉄)は、鉄粒子の集合体であり、積層造形用金属粉末材料11の主体となる成分である。積層造形用金属粉末材料11の主体となる鉄として、鉄粉末を使用することができ、鉄粉末として、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉を使用することができる。
【0038】
還元鉄粉とは、酸化鉄をコークスなどによって還元させた鉄粉であり、還元により鉄粉粒子内に空孔を有しているものである。アトマイズ鉄粉とは、溶鋼を高圧ガスもしくは高圧水で粉化・冷却し、その後水素雰囲気で熱処理させた鉄粉であり、鉄粉粒子内に空孔を有していないものである。電解鉄粉とは、溶鋼から電気分解により不純物を除去した鉄粉であり、鉄粉粒子内に空孔を有していないものである。
【0039】
鉄粉末は、別の実施形態として、鉄粉粒子内に空孔を有していないアトマイズ鉄粉又は電解鉄粉を使用することができ、さらに別の実施形態として、製造コストが抑えられたアトマイズ鉄粉を使用することができる。
【0040】
積層造形用金属粉末材料11には、必要に応じて、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)などを含有させることができる。
【0041】
Cr(クロム)は、積層造形用金属粉末材料11から造形される三次元造形物の表面に酸化被膜を形成させ、酸化被膜によって、三次元造形物の耐食性と耐熱性を向上させることができるものである。
【0042】
Ni(ニッケル)は、Cr(クロム)によって形成される酸化被膜の密着性を向上させるものである。積層造形用金属粉末材料11から造形される三次元造形物は、クロムとニッケルを含有することにより、三次元造形物の耐食性をより向上させることができるものである。
【0043】
Mo(モリブデン)は、積層造形用金属粉末材料11から造形される三次元造形物の高温下での硬度と強度を向上させるものである。
【0044】
Cu(銅)は、クロムとニッケルを含有する積層造形用金属粉末材料11から造形される三次元造形物に含有されることにより、三次元造形物の耐食性をより向上させることができるものである。
【0045】
Al(アルミニウム)は、積層造形用金属粉末材料11から造形される三次元造形物の表面に酸化被膜を形成させ、酸化被膜によって、三次元造形物の耐食性を向上させることができるものである。
【0046】
次に、実施形態に係る積層造形用金属粉末材料11の製造方法について説明する。積層造形用金属粉末材料11は、炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、黒鉛(グラファイト)、珪素として、Fe-Si(フェロシリコン)、Si(金属シリコン)、鉄として、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉、これらを混合することによって製造することができる。
【0047】
積層造形用金属粉末材料11の原材料粉末の平均粒子径(累積50体積%粒子径(D50))は、100μm以下とすることができる。積層造形用金属粉末材料11から造形される三次元造形物の強度や寸法精度を高めることができるためである。原材料粉末の平均粒子径が100μmを超えると、熔融・凝固の際に、未熔解の原材料粉末が残存し、三次元造形物の強度を十分に高めることができないおそれがある。別の実施形態として、積層造形用金属粉末材料11の原材料粉末の平均粒子径は、1~80μmとすることができ、さらに別の実施形態として、5~50μmとすることができる。
【0048】
積層造形用金属粉末材料11の原材料粉末の混合は、スネイクミキサ、スクリューミキサ、パドルミキサ、ナウターミキサ、リボン混合機、円錐スクリュ型混合機、ヘンシェル型混合機などの汎用の混合機を用いることによって行なうことができる。また、積層造形用金属粉末材料11の原材料粉末の混合は、本願の出願人の特許出願である特開2023-8327号公報に記載された回転容器を備える粉体混合機によっても好適に混合することができる。
【0049】
炭素、珪素、鉄を含む原材料粉末は、混合されることによって、積層造形用金属粉末材料11とすることができる。なお、混合された、炭素、珪素、鉄を含む積層造形用金属粉末材料11は、アトマイズ処理によって、高周波誘導炉で熔解させ、熔融したものを滴下させて、不活性ガスを噴射することで液滴に分断するとともに急速凝固させて、造形用の金属粉末材料とすることもできる。
【0050】
次に、積層造形用金属粉末材料11から三次元造形物を造形する方法について説明する。三次元造形物の造形には、汎用の金属3Dプリンタが使用される。
【0051】
金属3Dプリンタの造形方式は、積層造形用金属粉末材料11にレーザ光又は電子ビーム21を照射して、積層造形用金属粉末材料11を熔融・凝固させて積層するパウダーベッド方式(粉末床溶融方式)や指向性エネルギー堆積方式などを用いることができる。これら金属3Dプリンタは、市販品を使用することができる。
【0052】
図1に示すように、パウダーベッド方式の金属3Dプリンタでは、粉末床(パウダーベッド10)に積層造形用金属粉末材料11が敷き詰められ、敷き詰められた積層造形用金属粉末材料11にレーザ光又は電子ビーム21が照射される。照射された部位の積層造形用金属粉末材料11は、熔融して凝固し、積層造形用金属粉末材料11の粒子同士が融着して一体化した融着層12が形成される。
【0053】
形成された先の融着層12としての既存層13の上に、さらに新たな積層造形用金属粉末材料11が敷き詰められ、新たな積層造形用金属粉末材料11にレーザ光又は電子ビーム21が照射される。照射された部位の積層造形用金属粉末材料11は、熔融して凝固し、既存層13と一体に融着した新たな融着層12が形成される。
【0054】
積層造形用金属粉末材料11の熔解と凝固が繰り返されることにより、融着層12が積み重ねられる。各融着層12は、3D-CADデータと金属3Dプリンタで設定した積層厚を基に造形された融着層12の積み重ねにより、三次元造形物が造形される。
【0055】
積層造形用金属粉末材料11を熔融・凝固させる際のレーザ光又は電子ビーム21のエネルギー密度は、10~500J/mm3とすることができる。積層造形用金属粉末材料11が熔融・凝固されて積層されることによって造形される三次元造形物は、金属組織が緻密なものとなり、張力と伸び率が高められ、靭性が高められたものとすることができるためである。積層造形用金属粉末材料11を熔融・凝固させる際のレーザ光又は電子ビーム21のエネルギー密度が10J/mm3未満である場合には、熔融・凝固の際に、未熔解の積層造形用金属粉末材料11が残存し、三次元造形物の強度を十分に高めることができないおそれがある。一方、エネルギー密度が500J/mm3を超える場合には、熔融の際に、積層造形用金属粉末材料11の熔けた湯が突沸に似た現象を起こし(オーバーメルト)、成形体に不活性ガスが巻き込まれてしまうおそれがある。別の実施形態として、積層造形用金属粉末材料11を熔融・凝固させる際のレーザ光又は電子ビーム21のエネルギー密度は、20~400J/mm3とすることができ、さらに別の実施形態として、30~300J/mm3とすることができる。
【0056】
なお、レーザ光又は電子ビーム21のエネルギー密度は、下記数式(1)のAで表される。
【0057】
(数式1)
A=p/(v×i×t)・・・(1)
(A:エネルギー密度(J/mm
3)、p:レーザ光又は電子ビーム21の出力(W)、v:走査速度(mm/s)、i:走査間隔(mm)、t:積層厚さ(mm)、(
図1参照))
造形される三次元造形物の金属組織を緻密なものとし、張力と伸び率が高められ、靭性が高められたものとするための、レーザ光又は電子ビーム21の出力p、走査速度v、走査間隔i及び積層厚さtは、以下のような範囲とすることができる。
【0058】
レーザ光又は電子ビーム21の出力pは、100~300Wとすることができる。造形される三次元造形物の金属組織を緻密なものとしつつ、造形速度を高めることができるためである。レーザ光又は電子ビーム21の出力pが100W未満である場合には、造形速度を高めることができないおそれがある。一方、レーザ光又は電子ビーム21の出力pが300Wを超えると、熔融の際に、積層造形用金属粉末材料11の熔けた湯が突沸に似た現象を起こし(オーバーメルト)、成形体に不活性ガスが巻き込まれれてしまうおそれがある。別の実施形態として、レーザ光又は電子ビーム21の出力pは、150~250Wとすることができる。
【0059】
走査速度vは、100~500mm/sとすることができる。造形される三次元造形物の金属組織を緻密なものとしつつ、造形速度を高めることができるためである。走査速度vが100mm/s未満である場合には、造形速度を高めることができないおそれがある。一方、走査速度vが500mm/sを超えると、積層造形用金属粉末材料11の熔融が不十分となるおそれがある。別の実施形態として、走査速度vは、200~300mm/sとすることができる。
【0060】
走査間隔iは、0.03~0.2mmとすることができる。精度の高い造形が得られるとともに、オーバーメルトによる不活性ガスの巻き込みを防止することができるためである。走査間隔iが0.03mm未満である場合には、オーバーメルトして、不活性ガスの巻き込みが発生するおそれがある。一方、走査間隔iが0.2mmを超えると精度の高い造形が得られないおそれがある。別の実施形態として、走査間隔iは、0.05~0.1mmとすることができる。
【0061】
積層厚さtは、0.03~0.2mmとすることができる。精度の高い造形が得られるとともに、オーバーメルトによる不活性ガスの巻き込みを防止することができるためである。積層厚さtが0.03mm未満である場合には、オーバーメルトして、不活性ガスの巻き込みが発生するおそれがある。一方、積層厚さtが0.2mmを超えると精度の高い造形が得られないおそれがある。別の実施形態として、積層厚さtは、0.05~0.1mmとすることができる。
【0062】
実施形態の積層造形用金属粉末材料11が金属3Dプリンタによって熔融・凝固されて積層された三次元造形物(下記試験例4)の拡大写真を
図2に示す。また、汎用の球状黒鉛鋳鉄(FCD500)の拡大写真を
図3に示す。汎用の球状黒鉛鋳鉄と比較して、実施形態の積層造形用金属粉末材料11から造形された三次元造形物は、レーザ光又は電子ビーム21によって鉄に溶け込んだ炭素が凝固の過程で微細(直径:2~8μm)且つ球状の黒鉛Gとして均一に晶出し、造形物として緻密な金属組織を形成し、引張強度と靭性が高められたものとなった。
【実施例0063】
実施例の積層造形用金属粉末材料11に使用した原材料の詳細を表1に記載する。なお、これら原材料は、全て市販品である。
【0064】
【0065】
実施例では、原材料の配合割合を変えた積層造形用金属粉末材料11を、金属3Dプリンタを用いて造形し、造形物の造形性、引張強さ、伸び、硬さを評価した。金属3Dプリンタの造形条件を以下に記載し、造形性、引張強さ、伸び、硬さの評価方法を以下に記載する。
【0066】
<金属3Dプリンタの造形条件>
方式 レーザ光
出力 200W
走査速度 200mm/s
走査間隔 0.10mm
積層厚さ 0.05mm
エネルギー密度 200J/mm3
なお、これらは平均値であるため、±20%程度変動することがある。
【0067】
<造形性>
造形性の評価は、積層造形用金属粉末材料11を金属3Dプリンタで造形させた造形物の状態を目視で判断した。そして、造形物に、異常がないものを○、造形時には異常がないものの衝撃により割れ又は剥がれが生じるものを△、造形時に割れ又は剥がれが生じているものを×、として評価した。
【0068】
<引張強さ>
引張強さは、JIS G 5502:2001(球状黒鉛鋳鉄品)で準用するJIS Z 2241:2011(金属材料引張試験方法)の引張強さに準拠して測定した。そして、引張強さが、500MPaを超えるものを○、250MPa以上500MPa以下であるものを△、250MPa未満であるものを×、として評価した。
【0069】
<伸び>
伸びは、JIS G 5502:2001(球状黒鉛鋳鉄品)で準用するJIS Z 2241:2011(金属材料引張試験方法)の伸び(%)に準拠して測定した。そして、伸びが、10%を超えるものを○、3%以上10%以下であるものを△、3%未満であるものを×、として評価した。
【0070】
<硬さ>
硬さは、JIS G 5502:2001(球状黒鉛鋳鉄品)で準用するJIS Z 2244:2009(ビッカース硬さ試験-試験方法)のビッカース硬さに準拠して測定した。そして、ビッカース硬さが、250を超えるものを○、150以上250以下であるものを△、150未満であるものを×、として評価した。
【0071】
(試験例)
実施例の積層造形用金属粉末材料11は、炭素と珪素の含有割合を変更した鉄系の積層造形用金属粉末材料11を用いた。試験例の積層造形用金属粉末材料11の組成と金属3Dプリンタによって造形された三次元造形物の機械的性質を表2と表3に、それぞれ記載する。表2に記載した試験例1~8は、珪素含有量を5.29質量%に固定して、炭素含有量を変更したものである。表3に記載した試験例9~15は、炭素含有量を3.96質量%に固定して、珪素含有量を変更したものである。なお、試験例3~7及び試験例10~14が実施例であり、試験例1、2、8、9及び15が比較例である。
【0072】
【0073】
【0074】
(試験例1~8)
試験例1~8は、珪素含有量を5.25質量%に固定して、炭素含有量を変更したものである。炭素含有量が3.96質量%の試験例4と5.94質量%の試験例5は、造形性に異常はなく、引張強さが500MPaを超え、伸びが10%を超え、ビッカース硬さが250を超え、硬さと粘り強さを有し、引張強度と靭性が高められたものとすることができた。炭素含有量が1.98質量%の試験例3は、ビッカース硬さが150以上250以下であり、試験例4、5と比較して、硬さが若干劣るものであった。炭素含有量が0.99質量%の試験例2と炭素含有量が0.50質量%の試験例1は、引張強さが250MPa未満であり、ビッカース硬さが150未満であり、試験例3と比較して、引張強さと硬さが劣るものであった。炭素含有量が7.92質量%の試験例6と炭素含有量が9.90質量%の試験例7は、造形性が造形時には異常がないものの衝撃により割れ又は剥がれが生じ、伸びが3%以上10%以下であり、試験例4、5と比較して、造形性及び伸びが若干劣るものであった。これに加えて試験例7は、引張強さが250MPa以上500MPa以下であり、引張強さも若干劣るものであった。炭素含有量が11.88質量%の試験例8は、造形時に割れ又は剥がれが生じ、伸びが3%未満であり、試験例7と比較して、造形性と伸びが更に劣るものであった。
【0075】
(試験例9~15)
試験例9~15は、炭素含有量を4.95質量%に固定して、珪素含有量を変更したものである。珪素含有量が3.00質量%の試験例11と珪素含有量が6.00質量%の試験例12は、造形性に異常はなく、引張強さが500MPaを超え、伸びが10%を超え、ビッカース硬さが250を超え、硬さと粘り強さを有し、引張強度と靭性が高められたものとすることができた。珪素含有量が1.50質量%の試験例10は、引張強さが250MPa以上500MPa以下であり、ビッカース硬さが150以上250以下であり、試験例11と試験例12と比較して、引張強さと硬さが劣るものであった。珪素含有量が0.75質量%の試験例9は、引張強さが250MPa未満、ビッカース硬さが150未満であり、試験例10と比較して、引張強さと硬さが更に劣るものであった。珪素含有量が9.00質量%の試験例13は、伸びが3%以上10%以下であり、試験例11と試験例12と比較して、伸びが劣るものであった。珪素含有量が12.00質量%の試験例14は、造形性が造形時には異常がないものの衝撃により割れ又は剥がれが生じ、試験例13と比較して、造形性が劣るものであった。珪素含有量が15.00質量%の試験例15は、造形時に割れ又は剥がれが生じ、伸びが3%未満であり、試験例14と比較して、更に造形性と伸びが劣るものであった。