(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161769
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】加硫方法及び加硫装置
(51)【国際特許分類】
B29C 33/04 20060101AFI20241113BHJP
B29C 35/04 20060101ALI20241113BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
B29C33/04
B29C35/04
B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076783
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】伊田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】福永 紘平
(72)【発明者】
【氏名】茂谷 明宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠一
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AB03
4F202AH20
4F202AP05
4F202AR02
4F202AR06
4F202AR11
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4F202CB01
4F202CY02
4F202CY04
4F202CY12
4F203AA45
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4F203AH20
4F203AP05
4F203AR02
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4F203AR11
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC03
4F203DC04
4F203DK02
4F203DK08
4F203DL12
4F203DM02
(57)【要約】
【課題】生タイヤの加硫時間の短縮を容易に図ることができる加硫方法等を提供する。
【解決手段】生タイヤの加硫方法100は、生タイヤの内腔に、直接的または間接的に生タイヤの内腔面よりも高温の凝縮性ガスを供給する第1供給ステップS1と、不凝縮性ガスを加熱する第1加熱ステップS2と、凝縮性ガスが供給されている内腔に、加熱された不凝縮性ガスを供給し、加圧する第2供給ステップS3とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生タイヤの加硫方法であって、
前記生タイヤの内腔に、直接的または間接的に前記生タイヤの内腔面よりも高温の凝縮性ガスを供給する第1供給ステップと、
不凝縮性ガスを加熱する加熱ステップと、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、加熱された前記不凝縮性ガスを供給し、加圧する第2供給ステップとを含む、
加硫方法。
【請求項2】
前記加熱ステップは、前記内腔に供給されている前記凝縮性ガスの凝縮温度以上に前記不凝縮性ガスを加熱する、請求項1に記載の加硫方法。
【請求項3】
前記加熱ステップは、前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔面の温度以上に前記不凝縮性ガスを加熱する、請求項1に記載の加硫方法。
【請求項4】
前記第1供給ステップで供給された前記凝縮性ガスを前記内腔から排出することなく、前記第2供給ステップで前記不凝縮性ガスを供給する、請求項1に記載の加硫方法。
【請求項5】
前記第2供給ステップは、前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔の圧力P1よりも高い圧力P2で前記不凝縮性ガスを供給する、請求項1に記載の加硫方法。
【請求項6】
前記内腔の圧力P1と前記不凝縮性ガスの圧力P2との比P1/P2は、0.528以下である、請求項5に記載の加硫方法。
【請求項7】
前記内腔から前記凝縮性ガス及び前記不凝縮性ガスを排出する排出ステップと、
前記凝縮性ガス及び前記不凝縮性ガスが排出された前記内腔に、前記内腔面よりも高温の前記凝縮性ガスを供給する第3供給ステップと、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、加熱された前記不凝縮性ガスを供給し、加圧する第4供給ステップとをさらに含む、請求項1に記載の加硫方法。
【請求項8】
生タイヤの加硫装置であって、
前記生タイヤの内腔に、直接的または間接的に前記生タイヤの内腔面よりもよりも高温の凝縮性ガスを供給するための第1供給部と、
不凝縮性ガスを加熱するための加熱部と、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、前記加熱部によって加熱された前記不凝縮性ガスを供給するための第2供給部とを含む、
加硫装置。
【請求項9】
前記第2供給部は、前記不凝縮性ガスの温度を測定するための測温部を有し、
前記不凝縮性ガスの前記温度に基づいて、前記加熱部を制御するための制御部をさらに含む、請求項8に記載の加硫装置。
【請求項10】
前記第2供給部は、前記不凝縮性ガスを前記内腔に噴出するためのノズルを有し、
前記ノズルは、水平方向に対して上向きに向けられている、請求項8に記載の加硫装置。
【請求項11】
前記第2供給部は、前記不凝縮性ガスを前記内腔に噴出するためのノズルを有し、
前記ノズルは、前記内腔の上下方向の中心よりも上側に配されている、請求項8に記載の加硫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫方法及び加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生タイヤの加硫に関し、種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤの製造工程において、生タイヤの加硫工程に要する時間は多くの割合を占めており、加硫時間の短縮は、タイヤの生産性を高めるのに貢献する。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、生タイヤの加硫時間の短縮を容易に図ることができる加硫方法及び加硫装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、生タイヤの加硫方法であって、
前記生タイヤの内腔に、直接的または間接的に前記生タイヤの内腔面よりも高温の凝縮性ガスを供給する第1供給ステップと、
不凝縮性ガスを加熱する加熱ステップと、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、加熱された前記不凝縮性ガスを供給し、加圧する第2供給ステップとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の前記加硫方法は、上記構成を有しているので、前記生タイヤの前記内腔での熱伝達率が高められる。これにより、前記生タイヤの加硫時間の短縮を容易に図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の一形態である生タイヤの加硫方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施の一形態である生タイヤの加硫装置の概略構成を示す断面図である。
【
図3】ガス供給部及びガス排出部の構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図1の加硫方法の変形例の手順を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の効果を検証するための実験装置の概略構成を示す断面図である。
【
図6】
図5の実験装置を用いて
図1の加硫方法で加熱された不凝縮性ガスが供給されたときの熱伝達率の推移を示すグラフである。
【
図7】
図6の時間T1以降の熱伝達率の推移を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の生タイヤの加硫方法の手順を示すフローチャートである。
図2は、生タイヤの加硫装置の構成を示す断面図である。
【0010】
生タイヤの加硫方法(以下、単に加硫方法と記する)100は、凝縮性ガスを供給する第1供給ステップS1と、不凝縮性ガスを加熱する第1加熱ステップS2と、加熱された不凝縮性ガスを供給する第2供給ステップS3とを含む。
【0011】
生タイヤの加硫装置(以下、単に加硫装置と記する)1は、第1供給部2と、加熱部3と第2供給部4とを含んでいる(後述する
図3参照)。上記第1供給ステップS1は第1供給部2によって実行され、上記第1加熱ステップS2は加熱部3によって実行され、第2供給ステップS3は第2供給部4によって実行される。
【0012】
凝縮性ガスの一例としては、水蒸気が挙げられるが、凝縮温度が200℃以下の気体であれば、これに限られない。
【0013】
不凝縮ガスとしては、窒素の他、二酸化炭素、空気等が挙げられるが、これらに限られない。
【0014】
本実施形態の加硫装置1は、上記構成の他、未加硫ゴム等により構成された生タイヤTを加硫するためのキャビティ空間を区画し、タイヤの外表面を形成する金型5と、生タイヤTの内表面と当接し、生タイヤTを金型5に押圧するブラダー6を有している。
【0015】
本実施形態では、タイヤ軸心Taが垂直となる横置き状態の生タイヤTが、加硫成形される。なお、加硫成形時の生タイヤTの姿勢は、横向きに限られない。生タイヤTは、例えば、タイヤ軸心Taが水平となる縦置き状態で加硫成形されてもよい。
【0016】
金型5は、トレッドモールド51及び上側のサイドモールド52、下側のサイドモールド53を含んで構成されている。トレッドモールド51は、タイヤトレッドの外表面を成形するための成形面を有している。サイドモールド52、53は、タイヤのサイドウォールの外表面を成形するための成形面をそれぞれ有している。
【0017】
本加硫装置1には、金型5すなわちトレッドモールド51及びサイドモールド52、53を開閉駆動するための機構(図示せず)が組み込まれている。
【0018】
金型5の閉鎖によってトレッドモールド51及びサイドモールド52、53が嵌め合わされることにより、金型5の内側には、タイヤの外表面を成形するための成形面が形成される。なお、金型5には、例えば、電気ヒーター等の加熱手段(図示省略)が配置され、生タイヤTを外側から加熱する。
【0019】
ブラダー6は、金型5に装填された生タイヤTの内腔内に配置されている。本実施形態のブラダー6は、伸縮可能なゴム状弾性体で構成されている。このブラダー6は、中心機構7によって上下の両端が保持されている。
【0020】
生タイヤTの加硫工程において、ブラダー6の内部には、高温・高圧のガスが供給される。高温・高圧のガスは、第1供給部2及び第2供給部4を介して供給される。これにより、ブラダー6はトロイダル状に膨張して生タイヤTの内表面と当接し、生タイヤTを金型5に押圧する。また、ブラダー6は内部に供給されたガスの熱を生タイヤTに伝達し、生タイヤTを内側から加熱する。
【0021】
金型5によって外側から、ブラダー6によって内側から、それぞれ加熱された生タイヤTは、未加硫ゴムの加硫が進行し、所定の時間が経過後に加硫済みのタイヤとして、金型5から離型される。
【0022】
本加硫方法100では、第1供給ステップS1の実行にあたって、予め生タイヤTが金型5のキャビティ空間内に装填され、生タイヤTの内腔には、伸縮可能なブラダー6が配されている。
【0023】
中心機構7は、軸部71、ヘッダー72、クランプ73を含んで構成されている。また、本実施形態の上記第1供給部2、加熱部3及び第2供給部4は、中心機構7に配されている(
図3参照)。
【0024】
軸部71は、金型5の中央に設けられている。本実施形態の軸部71は、生タイヤTのタイヤ軸心Taに沿って、垂直にのびている。
【0025】
ヘッダー72は、筒状(本実施形態では、円筒状)に形成されている。ヘッダー72は、図示しない駆動手段により、軸部71によって支持され、軸部71に沿って垂直方向にスライド可能に取り付けられている。
【0026】
ヘッダー72には、凝縮性ガス及び不凝縮性ガスをブラダー6の内部に導くための流路72aが形成されている。すなわち、ヘッダー72は、第1供給部2及び第2供給部4の一部を構成する。
【0027】
また、ヘッダー72には、上記凝縮性ガス及び不凝縮性ガスをブラダー6の内部から排出するための流路72bが形成されている。流路72bを介して凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが排出されることにより、ブラダー6には、流路72aを介して新たな凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが供給可能となる。
【0028】
クランプ73は、上側のクランプ73A及び下のクランプ73Bを含んでいる。クランプ73A及びクランプ73Bは、互いに平行かつ水平方向にのびており、ブラダー6の端部を把持している。また、本実施形態のクランプ73A及びクランプ73Bには、軸部71及びヘッダー72をクランプ73A及びクランプ73Bに挟まれた空間に案内可能な、孔部が設けられている。孔部は、軸部71及びヘッダー72との気密性を維持しつつ、軸部71及びヘッダー72を案内する。
【0029】
図3は、ブラダー6に生タイヤTの加硫に用いられるガスを供給するためのガス供給部8及びブラダー6から当該ガスを排出するためのガス排出部9を示している。
【0030】
上記第1供給部2、加熱部3及び第2供給部4は、ガス供給部8に設けられる。
【0031】
第1供給部2は、凝縮性ガスの供給源である第1ガス供給源21と、第1ガス供給源21からブラダー6に凝縮性ガスを導くための第1供給路22とを含んでいる。第1ガス供給源21は、ブラダー6に供給する凝縮性ガスを一時的に貯留する構成であってもよい。本実施形態の第1ガス供給源21には、凝縮性ガスを加熱するための加熱部(図示せず)が設けられている。
【0032】
第2供給部4は、不凝縮性ガスの供給源である第2ガス供給源41と、第2ガス供給源41からブラダー6に不凝縮性ガスを導くための第2供給路42とを含んでいる。第2ガス供給源41は、ブラダー6に供給する不凝縮性ガスを一時的に貯留する構成であってもよい。
【0033】
本実施形態において、第1供給路22と第2供給路42とは、一部の構成である配管303を共有している。すなわち、第1供給路22は、配管301と配管303と含んで構成され、第2供給路42は、配管302と配管303と含んで構成される。
【0034】
配管301は、一端が第1ガス供給源21と接続され、他端が配管303と接続されている。配管302は、一端が第2ガス供給源41と接続され、他端が配管303と接続されている。すなわち、配管301と配管302とは、接続点304で合流し、配管303に至る。配管303は、一端が配管301、302と接続され、他端が流路72aと接続されている。
【0035】
配管301には、開閉弁401が設けられ、配管302には、開閉弁402が設けられる。開閉弁401及び開閉弁402は、制御部10によって制御される。制御部10が開閉弁401及び開閉弁402の開閉動作を適宜制御することにより、凝縮性ガスまたは不凝縮性ガスがブラダー6に供給される。
【0036】
上記開閉弁401及び開閉弁402に替えて、接続点304に三方弁が設けられていてもよい。
【0037】
加熱部3は、第2ガス供給源41に配設されている。加熱部3には、例えば、電気ヒーター等が適用される。加熱部3は、第2供給路42すなわち、配管302及び/または配管303に配設されていてもよい。加熱部3は、制御部10によって制御される。制御部10が加熱部3の出力を適宜制御することにより、所望の温度の不凝縮性ガスがブラダー6に供給される。
【0038】
流路72bには配管305が接続されている。配管305には、開閉弁403が設けられている。開閉弁403は、制御部10によって制御される。ブラダー6に供給された凝縮性ガス及び不凝縮性ガスは、生タイヤTを加熱及び加圧した後、上記開閉弁403が開放されることにより、流路72b及び配管305を介してブラダー6の内部から排出される。
【0039】
制御部10は、上記開閉弁401、402、403及び加熱部3の他、金型5全体の制御を司る。例えば、制御部10は、金型5の開閉動作及び、中心機構7の昇降動作を制御する。
【0040】
図1に示される加硫方法100の第1供給ステップS1では、開閉弁402が閉塞された状態で開閉弁401が開放される。これにより、第1ガス供給源21から第1供給路22を介してブラダー6の内部に、凝縮性ガスが供給される。
【0041】
第1加熱ステップS2では、第2ガス供給源41における不凝縮性ガスが加熱部3によって加熱される。なお、第1供給ステップS1と第1加熱ステップS2とは、同時に進行されてもよい。
【0042】
第2供給ステップS3では、開閉弁401が閉塞された状態で開閉弁402が開放される。これにより、第1加熱ステップS2で加熱された不凝縮性ガスが第2供給路42を介してブラダー6の内部に供給される。なお、第1加熱ステップS2と第2供給ステップS3とは、同時に進行されてもよい。
【0043】
高温の凝縮性ガスが供給されている生タイヤTの内腔に不凝縮性ガスが供給されることにより、内腔に充填されたガスの過度な温度上昇を抑制しつつ、内腔の圧力が高められる。これにより、過加硫を抑折しつつ、加硫の進行に伴い半加硫状態となった生タイヤTの内部で生じたガスが生タイヤTの外部に排出される。
【0044】
第1加熱ステップS2を経ていない不凝縮性ガスが供給される場合、凝縮性ガスの熱エネルギーが不凝縮性ガスに奪われ、ブラダー6の内部で凝縮性ガスの凝縮が生じ、生タイヤTへの熱伝達効率が低下する。このような熱伝達効率の低下により生タイヤTの加熱が遅延し、加硫時間の短縮を図ることが困難となる。
【0045】
これに対して本実施形態の加硫方法100では、第2供給ステップS3で供給される不凝縮性ガスは、第1加熱ステップS2で加熱されているので、凝縮性ガスの熱エネルギーが不凝縮性ガスに奪われることが抑制される。これにより、ブラダー6の内部での凝縮性ガスの凝縮が抑制され、生タイヤTへの熱伝達効率が向上する。従って、生タイヤTの加硫時間の短縮を容易に図ることが可能となる。
【0046】
同様に、本実施形態の加硫装置1では、第2供給ステップS3で供給される不凝縮性ガスは、第1加熱ステップS2で加熱されているので、凝縮性ガスの熱エネルギーが不凝縮性ガスに奪われることが抑制される。これにより、ブラダー6の内部での凝縮性ガスの凝縮が抑制され、生タイヤTへの熱伝達効率が向上する。従って、生タイヤTの加硫時間の短縮を容易に図ることが可能となる。
【0047】
本実施形態の加硫装置1は、生タイヤTの内腔にブラダー6が配される形態、すなわち、生タイヤTの内腔に、間接的に凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが供給され、ブラダー6を介して生タイヤTを加熱及び加圧する形態である。このような加硫装置1では、ブラダー6に替えて金属等により形成された剛性中子が適用されてもよい。
【0048】
加硫装置1は、生タイヤTの内腔からブラダー6が廃される形態であってもよい。このような加硫装置1では、生タイヤTの内腔に、直接的に凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが供給され、当該凝縮性ガス及び不凝縮性ガスによって生タイヤTを直接的に加熱及び加圧する形態である。
【0049】
なお、本実施形態の加硫装置1では、凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが共通の配管303及び流路72aを介して供給される。このような構成上、第1供給ステップS1において高温の凝縮性ガスによって加熱された配管303及び流路72aを、第2供給ステップS3において供給される不凝縮性ガスが通過する際に、不凝縮性ガスは特段の加熱ステップを伴うことなく加熱される。
【0050】
本実施形態の加硫方法100での第1加熱ステップS2は、このように不凝縮性ガスが凝縮性ガスと共通の経路を通過する際に、副次的に生ずる加熱は含まれない主旨である。同様に、本実施形態の加硫装置1での加熱部3には、共通の経路である配管303及び流路72aは含まれない。
【0051】
また、本実施形態の加硫装置1は、凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが別の経路を経て生タイヤTの内腔に供給される形態であっても、両経路が互い断熱されておらず、不凝縮性ガスが加熱される程度の熱交換が発生する形態においても同様である。
【0052】
第1加熱ステップS2では、生タイヤTの内腔に供給されている凝縮性ガスの凝縮温度以上に不凝縮性ガスを加熱する、のが望ましい。このため、本実施形態の加硫装置1は、不凝縮性ガスの温度を測定するための測温部43を有している。
【0053】
本実施形態の測温部43は、第2ガス供給源41に設けられ、第2ガス供給源41の不凝縮性ガスの温度を測定する。測温部43は、第2供給路42に設けられ、第2供給路42を通過する不凝縮性ガスの温度を測定する形態であってもよい。
【0054】
測温部43は、測定した不凝縮性ガスの温度に相当する電気信号を制御部10に出力する。制御部10は、測温部43から入力された電気信号に基づいて、加熱部3の出力をフィードバック制御する。これにより、生タイヤTの内腔に供給される不凝縮性ガスの温度が適正化される。
【0055】
例えば、第1加熱ステップS2において、不凝縮性ガスが凝縮性ガスの凝縮温度以上に加熱されることにより、第2供給ステップS3においてブラダー6の内部での凝縮性ガスの凝縮が抑制され、生タイヤTへの熱伝達効率がより一層向上する。
【0056】
上記凝縮温度は、凝縮性ガスの圧力に依存する。第1供給ステップS1において供給する凝縮性ガスの圧力を制御することにより、制御部10は、ブラダー6の内部での凝縮性ガスの凝縮温度を特定できる。
【0057】
また、第1加熱ステップS2では、凝縮性ガスが供給されているブラダー6の内腔面の温度以上に不凝縮性ガスを加熱してもよい。ブラダー6を用いることなく、生タイヤTの内腔に直接的に凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが供給される形態では、生タイヤTの内腔面の温度以上に不凝縮性ガスが加熱される。上記内腔面の温度以上に不凝縮性ガスが加熱されることにより、第2供給ステップS3においてブラダー6の内部での凝縮性ガスの凝縮が抑制され、生タイヤTへの熱伝達効率がより一層向上する。
【0058】
内腔面の温度は、例えば、生タイヤTに埋設された熱電対線または内腔に設けられた非接触タイプの温度センサーによる実測値の他、実験またはシミュレーションによる推定値が適用される。
【0059】
本実施形態の加硫方法100では、第1供給ステップS1で供給された凝縮性ガスを内腔から排出することなく、第2供給ステップS3で不凝縮性ガスを供給する、のが望ましい。これにより、不凝縮性ガスを供給する際に、生タイヤTの内腔の温度低下が抑制される。
【0060】
本実施形態の加硫方法100では、第2供給ステップS3では、凝縮性ガスが供給されている内腔の圧力P1よりも高い圧力P2で不凝縮性ガスを供給する、のが望ましい。これにより、第2供給ステップS3での内腔の圧力が高く維持され、生タイヤTの内部で生じたガスが外部に排出され易くなる。
【0061】
上記観点から、より望ましい内腔の圧力P1と不凝縮性ガスの圧力P2との比P1/P2は、0.528以下である。
【0062】
図2に示されるように、ヘッダー72は、不凝縮性ガスを内腔に噴出するためのノズル72cを有している。本実施形態のヘッダー72では、第1供給路22及び第2供給路42として流路72aを共用している。ノズル72cは、第2供給路42を構成する流路72aの先端に設けられているので、凝縮性ガス及び不凝縮性ガスのいずれかを内腔に噴出する。
【0063】
第1供給ステップS1において凝縮性ガスが供給されているとき、伝熱面(ブラダー6または生タイヤTの内腔面)では、凝縮により液滴または液膜(以下、液滴等とする)が生じ、凝縮伝熱を行なううえでの熱抵抗(伝熱を阻害する要因)となる。液滴等が、重力によって下方に移動することに伴い、内腔面の上方(
図2においてサイドモールド52の側)での伝熱量は維持されるが、内腔面の下方(
図2においてサイドモールド52の側)での伝熱量は低下する。その結果、内腔面の上下で、温度上昇に偏りが生ずる。従って、生タイヤTの全体での加硫速度を均一化するには、第2供給ステップS3において下方の温度上昇を相対的に早める必要がある。
【0064】
このような観点から、ノズル72cは、水平方向に対して上向きに向けられている、のが望ましい。かかるノズル72cを用いた場合、第2供給ステップS3において不凝縮性ガスが上向きに供給されるため、内腔の上方に存在していた凝縮性ガスは、新たに供給された不凝縮性ガスに押され下方に移動する。
【0065】
その結果、下方での凝縮性ガスの濃度が高くなり、不凝縮性ガスに圧縮されて相対的にエネルギーが高い状態となって内腔面の下方での伝熱量が大きくなり、内腔面の下方の温度上昇が相対的に早くなる。これにより、第1供給ステップS1で不足していた下方の温度上昇が、第2供給ステップS3において補われ、温度上昇に偏りが是正され、生タイヤTの全体での加硫速度を均一化することが可能となる。
【0066】
同様の観点から、ノズル72cは、内腔の上下方向の中心よりも上側に配されている、のが望ましい。
【0067】
本願発明者は、凝縮性ガスと不凝縮性ガスとは、別々に供給されてはいるが、時間の経過に伴い混合され、上述した内腔の下方での高濃度の凝縮性ガスによる伝熱効果は、徐々に低下すると考えた。そこで、本願発明者は、凝縮性ガスの供給時における上方での伝熱効果及び不凝縮性ガスの供給時における下方での伝熱効果を連続的に享受できるよう、以下の加硫方法を創出した。
【0068】
図4は、
図1の加硫方法100の変形例である加硫方法100Aのフローチャートである。加硫方法100Aのうち、以下で説明されてない部分については、上述した加硫方法100の構成が採用されうる。
【0069】
加硫方法100Aは、上記第1供給ステップS1、第1加熱ステップS2及び第2供給ステップS3に加え、内腔から凝縮性ガス及び不凝縮性ガスを排出する排出ステップS4と、高温の凝縮性ガスを供給する第3供給ステップS5と、不凝縮性ガスを加熱する第2加熱ステップS6と、加熱された不凝縮性ガスを供給する第4供給ステップS7とをさらに含む。
【0070】
排出ステップS4は、流路72b、配管305及び開閉弁403によって実行される。また、第3供給ステップS5は第1供給部2によって実行され、第2加熱ステップS6は加熱部3によって実行され、第4供給ステップS7は第2供給部4によって実行される。第4供給ステップS7では、第1加熱ステップS2において加熱された不凝縮性ガスが適用されてもよい。この場合、第2加熱ステップS6は省略される。
【0071】
第1供給ステップS1において供給された凝縮性ガス及び第2供給ステップS3において供給された不凝縮性ガスは、排出ステップS4によって内腔から排出される。
【0072】
そして、第3供給ステップS5では、凝縮性ガス及び不凝縮性ガスが排出された内腔に、内腔面よりも高温の凝縮性ガスが供給される。第3供給ステップS5では、上記第1供給ステップS1と同様に、凝縮性ガスの供給時における上方での伝熱効果が享受される。
【0073】
さらに、第4供給ステップS7では、凝縮性ガスが供給されている内腔に、加熱された不凝縮性ガスが供給され、内腔が加圧される。第4供給ステップS7では、上記第2供給ステップS3と同様に、不凝縮性ガスの供給時における下方での伝熱効果が享受される。
【0074】
従って、加硫方法100Aでは、凝縮性ガスの供給時における上方での伝熱効果及び不凝縮性ガスの供給時における下方での伝熱効果を連続的に享受し、加硫時間の短縮を図ることが可能となる。加硫方法100Aは、例えば、熱容量の大きい重荷重用の生タイヤの加硫に適している。
【0075】
なお、上記排出ステップS4ないし第4供給ステップS7は、一本の生タイヤTを加硫する際に、複数回繰り返されてもよい。
【0076】
以上、本発明のタイヤの加硫方法100及び加硫装置1等が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例0077】
本発明の効果を検証すべく、
図5に示される実験装置200が準備され、金型5及び生タイヤに見立てた容器の内壁の熱伝達率の推移が測定された。
【0078】
実験装置200は、金型5を模した金属製の圧力容器201と、生タイヤTを模したゴム層202と、圧力容器201の外側に配された断熱材203とを含んでいる。圧力容器201は円筒状に形成される。ゴム層202は、圧力容器201の内側に配され、内壁を有する。ゴム層202は、内腔を有している。ゴム層202の内腔は、ブラダー6または生タイヤTの内腔を相当する。断熱材203は、圧力容器201の外側に配されている。
【0079】
圧力容器201、ゴム層202及び断熱材203には、ゴム層202の内腔に凝縮性ガス及び不凝縮性ガスを供給/排出するための流路204a、204bが形成されている。流路流路204a、204bに凝縮性ガス及び不凝縮性ガスを供給/排出する第1供給部2、加熱部3及び第2供給部4等の構成は、
図3に示される構成と同様であるため、その説明は省略される。
【0080】
ゴム層202への熱伝達率は、第1供給ステップS1で温度上昇が不足する傾向が懸念される側壁の下部にて測定された。すなわち、ゴム層202の内側壁の下部には、温度センサー205が設けられ、温度センサー205によって特定された温度から熱伝達率が計算された。熱伝達率が大きいほど、ゴム層202の温度上昇が迅速となり、ひいては生タイヤの加硫時間の短縮が見込まれる。
【0081】
図6は、時間0[秒]から時間T1[秒]にわたって、第1供給ステップS1として凝縮性ガスが供給され、時間T1以降を第2供給ステップS3として不凝縮性ガスが供給されたときの、熱伝達率の推移を示している。
【0082】
同図において、実線は、本発明の実施例として、第1加熱ステップS2を経て第2ガス供給源41内で240℃まで加熱された不凝縮性ガスが供給されたときの熱伝達率の推移を示している。破線は、本発明の比較例として、第1加熱ステップS2を経ることなく第2ガス供給源41内で常温(19℃)の不凝縮性ガスが供給されたときの熱伝達率の推移を示している。
【0083】
図7は、
図6において不凝縮性ガスの供給が開始された時間T1以降の熱伝達率の推移を拡大して示している。
図6と同様に、実線は第1加熱ステップS2を経て加熱された不凝縮性ガスが供給されたときの熱伝達率の推移を、破線は第1加熱ステップS2を経ることなく不凝縮性ガスが供給されたときの熱伝達率の推移をそれぞれ示している。
【0084】
図6、7から明らかなように、比較例に対して、実施例では時間T1以降の熱伝達率が顕著に向上し、加硫時間の短縮を図ることが可能であることが確認できた。特に熱伝達率のピーク値に関し、実施例では比較例の約2倍の値が得られることが確認された。また、不凝縮性ガスの供給により得られる効果の持続時間に関しても、実施例は比較例よりも長くなることが確認された。
【0085】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0086】
[本発明1]
生タイヤの加硫方法であって、
前記生タイヤの内腔に、直接的または間接的に前記生タイヤの内腔面よりも高温の凝縮性ガスを供給する第1供給ステップと、
不凝縮性ガスを加熱する加熱ステップと、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、加熱された前記不凝縮性ガスを供給し、加圧する第2供給ステップとを含む、
加硫方法。
[本発明2]
前記加熱ステップは、前記内腔に供給されている前記凝縮性ガスの凝縮温度以上に前記不凝縮性ガスを加熱する、本発明1に記載の加硫方法
[本発明3]
前記加熱ステップは、前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔面の温度以上に前記不凝縮性ガスを加熱する、本発明1に記載の加硫方法。
[本発明4]
前記第1供給ステップで供給された前記凝縮性ガスを前記内腔から排出することなく、前記第2供給ステップで前記不凝縮性ガスを供給する、本発明1ないし3のいずれかに記載の加硫方法。
[本発明5]
前記第2供給ステップは、前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔の圧力P1よりも高い圧力P2で前記不凝縮性ガスを供給する、本発明1ないし4のいずれかに記載の加硫方法。
[本発明6]
前記内腔の圧力P1と前記不凝縮性ガスの圧力P2との比P1/P2は、0.528以下である、本発明5に記載の加硫方法。
[本発明7]
前記内腔から前記凝縮性ガス及び前記不凝縮性ガスを排出する排出ステップと、
前記凝縮性ガス及び前記不凝縮性ガスが排出された前記内腔に、前記内腔面よりも高温の前記凝縮性ガスを供給する第3供給ステップと、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、加熱された前記不凝縮性ガスを供給し、加圧する第4供給ステップとをさらに含む、本発明1ないし6のいずれかに記載の加硫方法。
[本発明8]
生タイヤの加硫装置であって、
前記生タイヤの内腔に、直接的または間接的に前記生タイヤの内腔面よりもよりも高温の凝縮性ガスを供給するための第1供給部と、
不凝縮性ガスを加熱するための加熱部と、
前記凝縮性ガスが供給されている前記内腔に、前記加熱部によって加熱された前記不凝縮性ガスを供給するための第2供給部とを含む、
加硫装置。
[本発明9]
前記第2供給部は、前記不凝縮性ガスの温度を測定するための測温部を有し、
前記不凝縮性ガスの前記温度に基づいて、前記加熱部を制御するための制御部をさらに含む、本発明8に記載の加硫装置。
[本発明10]
前記第2供給部は、前記不凝縮性ガスを前記内腔に噴出するためのノズルを有し、
前記ノズルは、水平方向に対して上向きに向けられている、本発明8または9に記載の加硫装置。
[本発明11]
前記第2供給部は、前記不凝縮性ガスを前記内腔に噴出するためのノズルを有し、
前記ノズルは、前記内腔の上下方向の中心よりも上側に配されている、本発明8ないし10のいずれかに記載の加硫装置。