(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161771
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】バスレフダクト内蔵パッシブラジエーター式スピーカー装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20241113BHJP
H04R 1/22 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H04R1/28 310E
H04R1/22 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076789
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】723002712
【氏名又は名称】安福 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】安福 幹夫
【テーマコード(参考)】
5D018
【Fターム(参考)】
5D018AA08
5D018AD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】1つの筐体にパッシブラジエーターを備えるスピーカー装置において、大入力時における「異音の発生」現象を解決する新たな構造と、それに係る音響性能の向上を提供することを本発明の課題とするものである。
【解決手段】本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、スピーカーユニット6を有するスピーカー装置10の筐体部5にパッシブラジエーターが水平設置され、パッシブラジエーターの振動板2の中心に位相反転型バスレフダクト1が該振動板の垂直中心軸と等しくなるように形成される、ことを解決手段とするものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーユニットとパッシブラジエーターを備える筐体において、前記パッシブラジエーターの構成部品である振動板とエッジが水平状態にあり、前記該振動板の中心に位相反転型バスレフダクトが垂直中心軸を等しく形成されている、ことを特徴とするスピーカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッシブラジエーターを備えるスピーカー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パッシブラジエーター式スピーカー装置を解説するものとして(特許文献1)がある。
【0003】
以下はパッシブラジエーターの部品構成のみ記載する。パッシブラジエーターとは、その外周にあるフレームと、中央にある振動板と、その中間に位置し、フレームの内側と振動板の外側を繋ぐことで振動板を弾性支持するエッジの三つの部品からなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-204539「段落0002~0006」
【特許文献2】特開2011-061352「段落0007~0014」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パッシブラジエーターを備えるスピーカー装置の音響に関する問題点の一つに以下のものがある。それは、動電型スピーカーユニットへの音声信号の入力を大入力で行った際の「異音の発生」という現象である。これは「先行技術文献(特許文献2)段落0008」において、発明が解決しようとする課題に含まれている。そこでは、「同上、段落0007」に記載の内容から、上記課題の解決に係るパッシブラジエーターの特性の制御に関して、振動板とエッジの物性を変える以外の解決策は無いとされている。そのような中、振動板の重量やエッジの硬さを調整して、それを大入力時への対応とすると、逆に小入力時には振動板の振幅が制限されるとのことである。つまり、小入力時においては、振動板が本来あるべき応答性の良い繊細な動きを行わなくなり、エッジはしなやかな弾性支持の役割を果たさなくなるという解釈である。よって、そのような対処法では「異音の発生」問題の真の解決にならないと理解できる。また、決定的な解決には「同上、段落0009~0014」に記載のように、振動板に連結するいくつかの部品の追加と電気的な仕組みを必要とするものが考案されている。しかしながら、上記の解決方法では大入力時にのみ、電気的に振動板の振幅を抑制し、異音が発生しにくくすることを特徴としているだけで、実質的には振動板の振幅をコントロールして抑え込むことに他ならず(音声レベルのピークを叩くだけに過ぎない)、それのみでは音声信号を真に正しく振幅させることにはならないので問題が残る。また、小入力時にあっては、新たに部品同士の接触箇所が増えることで摩擦抵抗から振動板の動きが鈍くなり、ひいては高品位な音響からかけ離れることを想定せざるを得ない欠点がある。以上から、「パッシブラジエーターを備えるスピーカー装置における、大入力時の異音の発生問題を根本的に解決し、それに係る音響性能の向上」を提供することを発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明が解決しようとする課題、段落「0005」の解決のため、「異音の発生」現象が起こる原因を考察する。本来パッシブラジエーターは低音域周波数の増幅装置なので、その振動板は物理法則から、質量を重くすることにより低音域性能は上がる。よって、一般にこれら振動板の質量を、より重くする方向で適宜な重量を持たせて作られている現状がある。そして、パッシブラジエーターはスピーカー装置の平面部分となる、四角い箱型筐体の垂直な前面に配置されているものがほとんどである。そのような状況において、パッシブラジエーターの構成部品であるエッジは、適宜な重さを持つ振動板の上に接合する部位においては重力の影響で下方へ伸びて下がることになる。また、下に接合するエッジの部位は上方からの振動板の重さで圧縮されることから、結果的に振動板の上下でエッジの形状に違いが生じることになる。これらについてはエッジにおける個別の強度及び柔軟性から伸び縮みの程度に違いがあっても、重力の影響下では振動板の中心位置は一様に下方へ変位することになる。更に重力はエッジの上下部分だけでなく、左右部分についても、形を歪ませている。なぜなら、エッジの外側でフレームに接合した左右・両端部位の高さ位置は変わらないまま、エッジの内側で振動板に接合した左右・内側部位の位置は振動板の重さにより、下方へ引っ張られて下がるからである。以上から、振動板はそれと接合する上下・左右部分のエッジの変形(歪み)により、中心位置が下がり、更に垂直であるべき正しい姿勢が保てず、前のめり若しくは後ろへの反り、或いはその両方を起こしていると考えられるのである。尚、これらは無音で、スピーカーユニットへの音声信号入力が無い状況におけるエッジの検証である。しかしながら、信号入力が有る際も、信号が小さい中小入力時では振動板の出音の音響に問題がない現状がある。このことは、パッシブラジエーターの仕組みにおいて、スピーカーユニットへの中小入力時の際はパッシブラジエーターの振動板の動きも小さく、結果として重力下におけるエッジの変形が音響的に問題にならない程度に収まっていると推察できる。そのような中、スピーカーユニットへの信号が大入力になると「異音」が確認されるのであるが、これについては以下のことが考えられる。つまり、大入力になれば、強い音声信号と空気圧によってパッシブラジエーターの振動板が大きな振幅となって激しく動き出すことになる。そして、重力の影響で、すでに起こっているエッジの小さな変形が、三次元的な複雑な変形へ進むことになるのであるが、このような変形は元来エッジには想定されていないものであり、その進み具合に応じて振動板に対する弾性保持機能が徐々に効かなくなる。そして、エッジの変形が限界を超えた際には、それ自体が、もはや振動板の正常な動きを妨げるような存在へと変わる状況に陥り、その時、該振動板は本来の正しい姿勢や直進性を保持出来ないことから振幅に乱れが生じて、結果として不要振動及び異常発振から異音を発生させることになると考えられる。以上により、課題を解決するために、先ず行うべき手段、(A)としては、一般的なパッシブラジエーターを垂直面に取り付ける仕様は、重力の作用により、エッジの変形を引き起こす可能性がある理由で改め、スピーカーの筐体の一部に水平となる適宜な平面部分を設け、その箇所にパッシブラジエーターを水平設置する新たな仕様で、重力の影響を避けることとする。他方、スピーカーユニットが発する音声信号に係る疎密波や空気圧の動きは筐体におけるスピーカーユニットの位置や筐体の内部形状の影響を受けて、常に不規則・不安定であると考えられることから、パッシブラジエーターの振動板の水平保持には、相応の負の影響があると推測できる。よって該振動板を、より水平に保つ観点から行う手段、(B)として、該振動板の中心にバスレフダクトを形成するものとする。この構成によるダクトは、音声信号の入力によって該振動板が動く際、その上下運動から、質量を持つダクト自体の加減速の動作によって電磁質量が発生することが想定でき、それによる「ジャイロ効果」から、ダクトと振動板の垂直中心軸はブレを起こしにくく安定する傾向となる。このことは振動板にとって音響的に好ましいことであり、振動板が大きく動いた際には、なおさら水平保持に効果が見込めることになる。以上から上記記載の(A)(B)をまとめると、「パッシブラジエーターを水平設置の上、該パッシブラジエーターを構成する振動板の中心に孔を開け、バスレフダクトを該振動板と垂直中心軸を合わせて形成すること」が課題を解決するための手段とするものである。尚、上記パッシブラジエーターに接合する位相反転式バスレフ型については、同時に二つの低音域増強方式の音響を両方式の長所を生かす狙いをもとに適宜に融合させるものである。「ジャイロ効果」とは一般的には、物体が自転運動をすると(自転が高速なほど)姿勢を乱されにくくなる現象で、同様に上下運動にも起こるとされる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のバスレフダクト内蔵パッシブラジエーター式スピーカー装置は、スピーカーユニットから出る音波と空気圧のエネルギーがパッシブラジエーターの振動板を常に正しく振幅させることから、大入力時における振動板の不要振動及び異常発振による「異音の発生」を引き起こすことは無くなっている。このことにより、音量を上げて聞きたい聴衆者に満足感を与え、音声のダイナミックレンジが広い音源であっても音量調節に注意を向けることなく気軽に扱えるので、個人の嗜好のまま、安心して楽曲や放送を聴くことが可能となる。また、低音域表現の性能については、より一層向上していることが音圧計測により確認出来ている。加えて、当該パッシブラジエーターの振動板にバスレフダクトの孔があることにより、筐体の一部に「空気抜き」が出来た結果、スピーカーユニットの動きが軽やかとなり、よりスッキリ(ヌケの良い)とした音になっている。以上の内容から、本発明が「異音の発生」の抑制を含む音響性能一般において、明らかな効果が確認出来ている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るスピーカー装置の実施例を示す平面図である。
【
図2】上記スピーカー装置の実施例を示す下面図である。
【
図4】上記スピーカー装置の実施例から計測した音圧特性図である。 以上の図面において、寸法等の記載は省略する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の適宜な実施形態について前記図面の
図1、
図2、
図3を用いて説明する。本発明のスピーカー装置においてのパッシブラジエーターは振動板2、エッジ3、フレーム4の3点の部品で構成するものと規定する。よって、位相反転型バスレフダクト1はパッシブラジエーターの概念に含まれない。尚、
図1、
図2、
図3において、説明が不要な一部の構成品である、スピーカー端子・接着剤・取り付け用ビスや、内部部材である配線ケーブル・吸音材は、図示及び説明を省略する。
【実施例0010】
図1は本発明に係るスピーカー装置の実施例を示す平面図である。スピーカー装置10の筐体にある筐体上面7は丸い皿を伏せた形になっており、図の中央にある平面部分にスピーカーユニット6が設置されている。このスピーカーユニット6の駆動系を構成する振動板は電気的入力信号に応じて動作するものである。尚、一般のスピーカーの筐体には胴体部分が四角い箱型、円筒形、卵型等、さまざまな形があるが、本発明に関わる形状を限定するものではない。また、筐体におけるスピーカーユニットの設置位置を限定するものではなく、本実施例における筐体、バスレフダクト1、振動板2の素材はFRP製であるが、本発明に関わる素材を限定するものではない。尚、上記記載「FRP製」とはガラス繊維強化プラスチックのことである。
【0011】
図2は本発明スピーカー装置の実施例を示す下面図である。フレーム4はパッシブラジエーターを構成するリング状の構成部品で、そこに振動板2が、弾性支持部品となるエッジ3を介して取付けられている。エッジ3はロールエッジで、重力に対して中立になるように断面が上向きの凸状とし、加えて、振動板2とバスレフダクト1の合計質量をも鑑みた強度設計としている。この実施例におけるエッジ3の素材は硬化型シリコンゴムとガラス繊維である。また、フレーム4は鋼鉄製であるが、エッジ3と共に本発明に関わる素材や形状を限定するもではない。筐体下面13に取り付いている半球状の筐体脚5は、ここではスピーカー装置10の内容積の一部となっているが、主な目的は振動板2がスピーカー装置10を設置する床面に直接触れることがないように4本脚として突出させている。そのような目的故、本発明に関わる筐体脚の数や形状及び設置位置を限定するものではない。尚、上記記載「ロールエッジ」とは丸い管をハーフパイプ状に縦の半割として両端に接合部となる外フランジが付いた形状のエッジである。
【0012】
図3は、本実施形態における本発明スピーカー装置10の概略構成を示す図である。この図は
図2におけるA-A線断面図になる。筐体上面7の上に位置するところにスピーカーユニット6が設置され、その下方パッシブラジエーターが水平設置されている。パッシブラジエーターの振動板2の中央に丸パイプ状で適宜なポート設定を施した位相反転型バスレフダクト1が振動板2と垂直な中心軸を共有して取り付けられている。上記、パッシブラジエーターとバスレフダクトの設置状態は「課題を解決するための手段、段落0006」に記載の実施例である。よって、上記実施例において、スピーカーユニット6が発する音波と空気圧は、下方のパッシブラジエーターの振動板2に向かって進むが、この時、エッジ3は水平であることから重力による変形は無く、結果として振動板2は音声信号に対して、忠実且つ、適正に振幅を繰り返すことができる。また、その出音からは解像度の高い音が得られ、信号の大入力時においても異音の発生は無い。さらに、振動板2にバスレフダクト1が形成されていることにより、通常のパッシブラジエーター式における低音域と高音域の性能を上まわる効果が得られると共に、ダクトの上下運動により、そのジャイロ効果から振動板の水平保持に好ましい影響を及ぼす構造となっている。尚、振動板2は片側の中央が少し盛り上がったコーン状になっているが、これにより本発明に係る振動板2の形状を限定するものではない。また、バスレフダクト1の丸パイプ形状が本発明に関わるバスレフダクトの形状を限定するものではない。
【0013】
前記記載パッシブラジエーターと、その振動板2及びバスレフダクト1の配置に関わる水平及び中心軸の精度については現実的な許容範囲に即応した適宜なものとする。また、スピーカー装置10の設置については
図3に表される筐体の上下位置を、常に上下として限定するものではない。尚、「ポート設定」とは、ヘルムホルツ共振周波数の原理を用いてバスレフダクトから出る低域の質や量の在り方を設計して決めることである。
【0014】
図4は本発明スピーカー装置10における2種類の仕様から計測した音圧特性図をそれぞれの比較の為、一つの特性図にまとめたものである。符号11(太線)はスピーカー装置10を、そのままに計測した音圧特性図である。符号12(細線)はスピーカー装置10からバスレフダクト1を排除(ダクトに詰め物をして孔を塞いだ状態)した際の音圧特性図であり、つまり、通常のパッシブラジエーター式同等として計測したものである。上記2種類の特性図の比較から、本発明スピーカー装置10(符号11)においては、通常のパッシブラジエーター式(符号12)に比べて音楽の低音域表現で重要とされる60ヘルツ~100ヘルツの周波数帯域を完全に包み込む50ヘルツ台後半~170ヘルツの帯域で小楕円枠13の図により、量感が著しく向上していると読み取れる。また、高音域部分においても800ヘルツ以上、人の可聴域である20キロヘルツに至るまでの大部分でスピーカー装置10の優位性が大楕円枠14の図によって確認できるものであり、本発明の課題である「異音の発生」の解決手段が低音域から高音域に至る全領域の音圧において何ら悪影響を及ぼすものではなく、とりわけ低音域で高い音圧を有することから表現力豊かで優れた音響性能を得たと認識できる。尚、上記の計測はスピーカー装置10の側面やや下方で、パッシブラジエーターからの距離1mにおいてのものである。よって、あらゆる位置からの計測結果に反映するものではない。
本発明のパッシブラジエーターを備えるスピーカー装置(筐体の容積=7.5リットル)は、一般には小型の部類ながら高水準な音響性能を有し、スピーカーの構成部品も少なく、筐体の製造においてはシンプルな構造であるがゆえ量産化し易いものである。よって、本発明が正しく認知されれば、音響的に高性能なスピーカー装置が人々に安価に提供され、広く行き渡ることが期待できることから、本発明は音響分野で社会貢献できると考えられる。