(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161778
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】パーライト可鍛鋳鉄及びパーライト可鍛鋳鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 37/00 20060101AFI20241113BHJP
C21D 5/00 20060101ALI20241113BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20241113BHJP
C21C 1/08 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C22C37/00 P
C21D5/00 Z
C21D9/00 A
C21C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076800
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】724014121
【氏名又は名称】桑名金属工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮
【テーマコード(参考)】
4K014
4K042
【Fターム(参考)】
4K014BA10
4K014BB01
4K014BB03
4K014BC01
4K014BC02
4K014BD08
4K042BA01
4K042BA03
4K042BA05
4K042CA17
4K042DA02
4K042DA03
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD05
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】 酸性キュポラによって黒心可鍛鋳鉄の鋳造のために製造された溶湯を用いて、製造コストをあまりかけずにパーライト可鍛鋳鉄を製造すること。
【解決手段】 パーライト可鍛鋳鉄の組成を、いずれも質量百分率で炭素を2.80%以上、3.25%以下、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、マンガンを0.55%以上、0.70%以下、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下、残部が鉄及び不可避的不純物とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも質量百分率で
炭素を2.80%以上、3.25%以下、
ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、
マンガンを0.55%以上、0.70%以下、
窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、
ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有し、
残部が鉄及び不可避的不純物である
パーライト可鍛鋳鉄。
【請求項2】
質量百分率でボロンを0.0030%以上、0.0060%以下含有する
請求項1に記載のパーライト可鍛鋳鉄。
【請求項3】
質量百分率で表されるマンガンの含有率をMn、硫黄の含有率をSとしたときに、次式で表されるマンガン硫黄バランスMSの値が0.30%以上、0.60%以下である
請求項1に記載のパーライト可鍛鋳鉄。
【数1】
【請求項4】
原料を溶解して溶湯を製造する工程と、
前記溶湯に窒化マンガンとビスマスを添加する工程と、
前記窒化マンガンとビスマスが添加された溶湯を鋳型に注湯して鋳物を鋳造する工程と、
前記鋳物を熱処理する工程とを含み、
最終製品がいずれも質量百分率で
炭素を2.80%以上、3.25%以下、
ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、
マンガンを0.55%以上、0.70%以下、
窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、
ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有し、
残部が鉄及び不可避的不純物であるパーライト可鍛鋳鉄の製造方法。
【請求項5】
最終製品が質量百分率でボロンを0.0030%以上、0.0060%以下含有する
請求項4に記載のパーライト可鍛鋳鉄の製造方法。
【請求項6】
最終製品において質量百分率で表されるマンガンの含有率をMn、硫黄の含有率をSとしたときに、次式で表されるマンガン硫黄バランスMSの値が0.30%以上、0.60%以下である
請求項1に記載のパーライト可鍛鋳鉄の製造方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パーライト可鍛鋳鉄及びパーライト可鍛鋳鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄とは、鋳物の鋳造に適した鉄-炭素系合金の総称である。鋳鉄は、黒鉛の存在形態によって片状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄及び球状黒鉛鋳鉄などに分類することができる。可鍛鋳鉄はさらに、白心可鍛鋳鉄、黒心可鍛鋳鉄及びパーライト可鍛鋳鉄に分類することができる。鋳鉄における炭素の含有量は、鉄-炭素二元平衡状態図におけるオーステナイトの炭素飽和固溶限である約2.0質量%を超え、共晶点の約4.3質量%を大きく超えない。鋳鉄の凝固の過程では、最初は共晶反応により、その後はオーステナイトの共析反応により、黒鉛及び/又はセメンタイトが晶出又は析出する。
【0003】
可鍛鋳鉄のうち白心可鍛鋳鉄及び黒心可鍛鋳鉄において合金の体積の大部分を占める構成相、すなわちマトリクス、は基本的にフェライトで構成される。これらに対し、パーライト可鍛鋳鉄のマトリクスは、フェライトとセメンタイトが交互に層状に並んだパーライト又はフェライト中に粒状のセメンタイトが分散したパーライトで構成される。これにより、パーライト可鍛鋳鉄の引張強さや耐摩耗性は、他の可鍛鋳鉄に比べて向上する。
【0004】
パーライト可鍛鋳鉄においてパーライトで構成されたマトリクスを生成させる方法のひとつは、白銑を熱処理して黒鉛を析出させた後、さらに熱処理と急冷を行う方法である。例えば、特許文献1に記載された方法では、まず、白銑を900℃以上に加熱して一次焼鈍して黒鉛を析出させた後、300℃で二次焼鈍し、黒心可鍛鋳鉄を得る。次に、得られた黒心可鍛鋳鉄をA1変態点以上のオーステナイト領域まで加熱してマトリクスのオーステナイトに炭素を固溶させ、続いて加熱炉から取り出して強制空冷することによりマトリクスのオーステナイトをパーライトに変態させている。この方法においては、靭性を高めるために強制空冷の後にさらに焼き戻しを行う場合がある。
【0005】
パーライト可鍛鋳鉄を製造する他の方法は、鋳造後に行われる焼鈍におけるグラファイトの析出、すなわち黒鉛化、を阻害する元素を添加する方法である。例えば、非特許文献1に記載された方法では、キュポラで溶解した黒心可鍛鋳鉄用の白銑溶湯をエルー式電気炉に移し、溶湯を加熱しながらフェロマンガンを添加して、黒鉛化を阻害する作用を有するマンガンの含有量を1.0%に調整した後、黒心可鍛鋳鉄と同一の熱処理条件で熱処理することによって、パーライト可鍛鋳鉄を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鈴木松夫、平松安土、堤 信久、「マンガン・パーライト可鍛鋳鉄の熔解条件について」、鋳物、社団法人日本鋳物協会、昭和35年9月25日、第32巻、第9号、p.625-635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された熱処理による方法では、パーライト可鍛鋳鉄を製造するために全部で2回ないし3回の熱処理が必要になり、製造コストがかかるという課題がある。非特許文献1に記載された黒鉛化を阻害する元素の添加による方法では、比較的大量の添加元素を溶湯に添加しなければならない。このため、キュポラのような連続溶解において取鍋に分注された溶湯に添加元素を加えようとする場合、必要な量を一度に添加することができない。このような場合には、成分を調整するための加熱炉に溶湯を一旦移して、そこで時間をかけて添加元素を添加する必要があるので、やはり製造コストがかかる。
【0009】
また、黒鉛化を阻害する元素を大量に含む溶湯を使って鋳造された鋳物のスプルーやランナーなどの端材にもその元素が大量に含まれている。これらの端材をキュポラや電気炉などに戻して溶解すると、溶湯の成分が管理限界を超えてしまうおそれがある。そうすると、同一の溶湯を使って黒心可鍛鋳鉄とパーライト可鍛鋳鉄とを作り分けることができないので、溶解炉の操業効率が低下するという課題がある。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、酸性キュポラによって黒心可鍛鋳鉄の鋳造のために製造された溶湯を用いて、製造コストをあまりかけずにパーライト可鍛鋳鉄の製造を可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の実施形態において、本発明は、いずれも質量百分率で炭素を2.80%以上、3.25%以下、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、マンガンを0.55%以上、0.70%以下、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下、残部が鉄及び不可避的不純物であるパーライト可鍛鋳鉄の発明である。
【0012】
本発明に係るパーライト可鍛鋳鉄は、黒鉛化を阻害する元素のうちマンガン、窒素及びビスマスを同時に添加することによって、従来技術よりも少ない添加量でセメンタイトが安定化し、パーライトを生成させることができる。その結果、スプルー、ランナーの再溶解を行っても同一の溶湯を使って黒心可鍛鋳鉄用とパーライト可鍛鋳鉄の作り分けができるので、原料の歩留りが向上する。
【0013】
第2の実施形態において、本発明は、原料を溶解して溶湯を製造する工程と、溶湯に窒化マンガンとビスマスを添加する工程と、窒化マンガンとビスマスが添加された溶湯を鋳型に注湯して鋳物を鋳造する工程と、前記鋳物を熱処理する工程とを含み、最終製品がいずれも質量百分率で炭素を2.80%以上、3.80%以下、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、マンガンを0.55%以上、0.70%以下、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であるパーライト可鍛鋳鉄の製造方法の発明である。熱処理温度を適宜調整することによって、パーライト可鍛鋳鉄の引張強さを調整することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストのかかる工程を追加することなく、同一の溶湯を用いて黒心可鍛鋳鉄又はパーライト可鍛鋳鉄のいずれかを選択的に鋳造することができるので、鋳物工場において製造される溶湯を、需要の変動に応じて無駄なく使いきることができる。また、本発明によれば、異なる材質の鋳物について組成の異なる溶湯を個別に準備する必要がないので、トータルの製造コストの低減及びエネルギー資源の節約に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るパーライト可鍛鋳鉄の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係るパーライト可鍛鋳鉄の金属組織の例を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、以下実施形態ごとに区分して説明する。なお、ここに示される本発明の実施形態及び実施例は本発明を実施するに際しての具体的な形態を例示的に示したものに過ぎず、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本明細書において、金属又は合金の組成を表すときは、特に断らない限り質量百分率で表す。記号「%(パーセント)」は、この記号が付された数値が質量百分率で表された組成であることを意味する。
【0017】
<第1の実施形態>
第1の実施形態において、本発明は、いずれも質量百分率で炭素を2.80%以上、3.25%以下、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、マンガンを0.55%以上、0.70%以下、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であるパーライト可鍛鋳鉄の発明である。
【0018】
第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、炭素を2.80%以上、3.25%以下含有する。炭素の含有量が2.80%以上のときは、鋳造に使用する溶湯の融点がおよそ1300℃以下となるので、溶湯を製造するために原料を高温まで加熱する必要がなく、大規模な溶解設備が不要となる傾向がある。それと同時に溶湯の粘度も低くなるので、溶湯が流れやすくなり、鋳造用鋳型に溶湯を容易に注湯できる傾向がある。炭素の含有量が3.25%以下のときは、鋳造後の凝固過程においてモットルを生成しにくい傾向がある。よって、炭素の含有量は2.80%以上、3.25%以下とすることが好ましい。より好ましい炭素の含有量は2.85%以上、3.20%以下である。
【0019】
第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下含有する。ケイ素の含有量が1.35%以上のときは、ケイ素による黒鉛化の促進の効果が得られ、第1段焼鈍において短時間で黒鉛化が完了する傾向がある。ケイ素の含有量が1.60%以下のときは、ケイ素による黒鉛化の促進の効果が過剰にならず、鋳造後の凝固過程においてモットルを生成しにくい傾向及び熱処理時にパーライトが分解されずに安定化する傾向がある。よって、ケイ素の含有量は1.35%以上、1.60%以下とすることが好ましい。より好ましいケイ素の含有量は1.40%以上、1.50%以下である。なお、第1段焼鈍を含む熱処理については、後述する本発明の第2の実施形態の説明において詳しく述べる。
【0020】
第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、マンガンを0.55%以上、0.70%以下含有する。マンガンの含有量が0.55%以上のときは、鋳物の温度をA1変態点以上の温度に保持して行う第2段焼鈍の後の冷却過程において、マンガンの作用により黒鉛化が阻害され、フェライトとセメンタイトでなるパーライト組織が形成されやすくなる。マンガンの含有量が0.70%以下のときは、マンガンによる黒鉛化の阻害作用が過剰でないため、第1段焼鈍における塊状黒鉛の形成が妨げられない。よって、マンガンの含有量は0.55%以上、0.70%以下とすることが好ましい。より好ましいマンガンの含有量は0.60%以上、0.70%以下である。
【0021】
第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下含有する。窒素の含有量が0.0160%以上のときは、第2段焼鈍の後の冷却過程において、窒素の作用により黒鉛化が阻害され、フェライトとセメンタイトでなるパーライト組織が形成されやすくなる。窒素の含有量が0.0250%以下のときは、窒素による黒鉛化の阻害作用が過剰でないため、第1段焼鈍における塊状黒鉛の形成が妨げられない。よって、窒素の含有量は0.0160%以上、0.0250%以下とすることが好ましい。より好ましい窒素の含有量は0.0180%以上、0.0220%以下である。
【0022】
第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有する。ビスマスの含有量が0.008%以上のときは、第2段焼鈍の後の冷却過程において、ビスマスの作用により黒鉛化が阻害され、フェライトとセメンタイトでなるパーライト組織が形成されやすくなる。ビスマスの含有量が0.020%以下のときは、ビスマスによる黒鉛化の阻害作用が過剰でないため、第1段焼鈍における塊状黒鉛の形成が妨げられない。よって、ビスマスの含有量は0.008%以上、0.020%以下とすることが好ましい。より好ましいビスマスの含有量は0.010%以上、0.015%以下である。
【0023】
第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、上記の各元素のほかに、残部として鉄及び不可避的不純物を含有する。鉄は、パーライト可鍛鋳鉄の主要元素である。本発明において「不可避的不純物」とは、おおむね、所望する鋳鉄としての最終製品を得るまでの製造過程において、意図して導入するまでもなく鋳鉄に存在することが自明であり、しかも、その存在は不要なものであるが、微量であり、鋳鉄の特性に必ずしも悪影響を及ぼさないため、存在するままにされている不純物をいう。具体的には、例えば、もともと原料に含まれていた微量な酸素、クロム、硫黄、チタンなどの元素、製造工程において溶湯と接する炉壁から混入する酸化物などの化合物及び溶湯と雰囲気ガスとの反応によって生成される酸化物などの化合物が、本発明における不可避的不純物に該当する。これらの不可避的不純物のうち、硫黄は、キュポラを用いて溶湯を準備する場合に熱源として使用するコークスに多く含まれる。これらの不可避的不純物は、パーライト可鍛鋳鉄に合計で1.0%以下含有されていても、その性質を大きく変えることはない。好ましい不可避的不純物の合計の含有量は0.5%以下である。
【0024】
後述する実施例で示されるように、本発明に係るパーライト可鍛鋳鉄に含まれる各元素の含有量及びその数値範囲は、発光分光分析(Optical Emission Spectrometry)によって測定された測定値に基づいている。発光分光分析とは、金属試料に電気的エネルギーを与えてスパーク放電を起こさせ、その際に発生する光に含まれる各元素に固有のスペクトルの強度を解析することによって、金属試料に含まれる各元素の含有量を定量分析する方法である。本発明において、発光分光分析は、パーライト可鍛鋳鉄の製造過程で得られる溶湯の分析にも適用される。
【0025】
好ましい実施の形態において、第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、質量百分率でボロンを0.0030%以上、0.0060%以下含有する。窒素と同時に0.0030%以上のボロンを含有することにより、第1段焼鈍においてオーステナイトでなるマトリクスの結晶粒界に晶出する黒鉛の粒数が増加するとともに、塊状黒鉛のサイズが微細化する傾向がある。黒鉛の粒数が増加すると、黒鉛の晶出に要する炭素原子の拡散距離が短くなるので、第1段焼鈍における黒鉛化に要する時間を短縮することができる。ボロンの含有量が0.0060%以下のときは、第2段焼鈍の後の冷却過程において黒鉛化を阻害する窒素の作用が妨げられない。よって、ボロンの含有量は0.0030%以上、0.0060%以下とすることが好ましい。より好ましいボロンの含有量は0.0040%以上、0.0050%以下である。
【0026】
上記の好ましい実施の形態において、ボロン及び窒素を同時に含有することにより、黒鉛の粒数が増加する理由として、以下のメカニズムが考えられる。鋳鉄が800℃から900℃の温度に加熱されると、鋳鉄に固溶しているボロン及び窒素が結合して窒化ボロンを形成する。ここで形成される窒化ボロンは、常圧で安定な六方晶系の窒化ボロン(h-BN)であると考えられる。六方晶系の窒化ボロンは、黒鉛と類似する結晶構造を有する。このため、黒鉛化の際にこの窒化ボロンが核となって多数の黒鉛が微細に析出する傾向があると考えられる。なお、上記のメカニズムは、得られた実験結果をもとに本発明者が推測したものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0027】
上記のボロンと窒素による効果を十分に発揮させる観点から、ボロンよりも窒素と結合しやすいアルミニウム及び/又はチタンの含有量を極力抑制することが好ましい。例えば好ましくは、アルミニウムの含有量を0.10%以下とするか、あるいはチタンの含有量を0.020%以下とするかの少なくともいずれかの条件を満たすことが好ましい。
【0028】
好ましい実施の形態において、第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄は、質量百分率で表されるマンガンの含有率をMn、硫黄の含有率をSとしたときに、次式で表されるマンガン硫黄バランスMSの値が0.30%以上、0.60%以下である。
【0029】
【0030】
本発明に係るパーライト可鍛鋳鉄に含まれるマンガンは、第2段焼鈍の後の冷却過程において黒鉛化を阻害する作用を有し、その結果としてフェライトとセメンタイトでなるパーライト組織が形成されやすくなる。また、硫黄も黒鉛化を阻害する元素である。上述のとおり、キュポラを用いて溶湯を準備する場合、溶湯には熱源として使用するコークスに由来する硫黄が含まれる。その場合の溶湯中の硫黄の含有量は概ね0.1%程度である。しかし、マンガンが硫黄と結合して硫化マンガンが形成された場合には、それによって消費されたマンガン及び硫黄は黒鉛化の阻害に寄与しない。
【0031】
そこで、上記の好ましい実施の形態においては、硫化マンガンの形成によって消費されるマンガンの量を差し引いた残りのマンガンの含有量に相当するマンガン硫黄バランスMSの値を0.30%以上、0.60%以下とする。上記の数式1において硫黄の含有量Sに係る係数1.7は、硫黄の原子量に対するマンガンの原子量の比に相当する。マンガン硫黄バランスMSの値が0.30%以上のときは、鋳物の温度をA1変態点以上の温度に保持して行う第2段焼鈍の後の冷却過程において、マンガンの作用により黒鉛化が阻害され、フェライトとセメンタイトでなるパーライト組織が形成されやすくなる。MSの値が0.60%以下のときは、マンガンによる黒鉛化の阻害作用が過剰でないため、第1段焼鈍における塊状黒鉛の形成が妨げられない。マンガンの含有量を0.55%以上、0.70%以下に調整すると共に、MSの値を上記の範囲に調整することによって、マンガンが黒鉛化を阻害する作用を確実に発揮させて、パーライトをより確実に生成させることができる。
【0032】
<第2の実施形態>
第2の実施形態において、本発明は、原料を溶解して溶湯を製造する工程と、溶湯に窒化マンガンとビスマスを添加する工程と、窒化マンガンとビスマスが添加された溶湯を鋳型に注湯して鋳物を鋳造する工程と、鋳物を熱処理する工程とを含み、最終製品がいずれも質量百分率で炭素を2.80%以上、3.25%以下、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、マンガンを0.55%以上、0.70%以下、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であるパーライト可鍛鋳鉄の製造方法の発明である。
【0033】
図1は、第2の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の製造方法を示すフローチャートである。最初の工程は、原料を溶解して溶湯を製造する工程(S1)である。溶解に用いる原料は、高炉などで製造された銑鉄のほか、鋳物工場内で発生するスクラップや、市場から回収されたくず鉄などの公知の原料を混合して用いることができる。原料の溶解には、キュポラで代表される連続式の溶解炉や、電気炉で代表されるバッチ式の溶解炉などの公知の手段を用いることができる。一般に連続式の溶解炉では、バッチ式の溶解炉に比べて溶湯の組成を変更することが難しい。本発明によれば、同一の溶湯から黒心可鍛鋳鉄及びパーライト可鍛鋳鉄を作り分けることができるので、本発明の効果は、バッチ式の溶解炉よりも連続式の溶解炉においてより有効に発揮させることができる。しかし、本発明における原料を溶解する手段は連続式の溶解炉に限定されない。
【0034】
次の工程は、溶湯に窒化マンガンとビスマスを添加する工程(S2)である。上述のとおり、本発明においては第2段焼鈍の後の冷却過程において黒鉛の析出を阻害してフェライト及びセメンタイトでなるパーライトを形成させる目的で、黒鉛化を阻害するマンガン、窒素及びビスマスをそれぞれ所定量だけ含有させる。これらの元素のうちマンガンの添加について、従来技術においてはフェロマンガンがよく利用される。しかし、黒鉛化を阻害する元素としてマンガンのみを添加する場合には、非常に多くの量のフェロマンガンを溶湯に添加しなければならない。そうすると、添加されたフェロマンガンが溶湯中に均一に分散するのに時間がかかるので、その間に溶湯の温度が低下するおそれがある。そこで、溶湯を一旦電気炉などに出湯して、溶湯の温度が低下しないように加熱を続けながらマンガンを添加しなければならず、製造コストがかさむ。
【0035】
第2の実施形態において、溶湯に窒化マンガンとビスマスを添加する。窒化マンガンは、マンガンの窒化物を含む化合物である。窒化マンガンは溶湯中で加熱されることによりマンガンと窒素に分解される。窒素及びビスマスはいずれも黒鉛化を阻害する作用が強いので、マンガンを単独で添加する場合に比べて添加量が少なくて済む。このため、取鍋に出湯した溶湯に添加するだけで所望の組成の鋳造用の溶湯を調製することができる。
【0036】
溶湯に窒素を添加する他の方法として、溶湯に挿入したガス注入用の管などを介して溶湯の内部に窒素ガスを吹き込む方法がある。この方法は窒素を単独で添加するのには適した方法であるが、冷たいガスを吹き込むことによって溶湯の温度が下がるという欠点がある。この点、固体の窒化マンガンを添加する第2の実施形態に係る方法によれば、溶湯の温度を下げることなく黒鉛化を阻害する元素であるマンガンと窒素を同時に添加することができる。第2の実施形態において使用する窒化マンガンは、窒素の含有量ができるだけ多いものを使用することが好ましい。
【0037】
第2の実施形態において、黒鉛化を阻害する元素として添加するビスマスは、例えばビスマスの単体を用いて溶湯に添加することができる。窒化マンガンとビスマスは溶湯に同時に添加してもよいし、個別に時間を空けて添加してもよい。窒化マンガンとビスマスを溶湯に添加する順序はどちらが先でも構わない。
【0038】
次の工程は、窒化マンガンとビスマスが添加された溶湯を鋳型に注湯して鋳物を鋳造する工程(S3)である。本発明において「鋳物」とは、鋳型を用いて鋳造したまま(as cast)の鋳鉄の塊であって、まだ熱処理を施していないものをいう。鋳造には砂型その他の公知の鋳型を使用することができる。
【0039】
次の最後の工程は、鋳物を熱処理する工程(S4)である。第2の実施形態における熱処理の工程は、主として鋳物に含まれる遊離セメンタイトを分解してオーステナイトと黒鉛を生成する第1段焼鈍と、第1段焼鈍の後に続けて行われ、パーライトセメンタイトを分解したり、オーステナイト中の過飽和炭素を黒鉛として晶出させたりする第2段焼鈍とを含む。
【0040】
第1段焼鈍を行う温度は950℃以上、1100℃以下が好ましい。より好ましい温度範囲は980℃以上、1030℃以下である。上述のとおり、好ましい実施の形態において、第2の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の製造方法における第1段焼鈍を行う時間は、窒素及びボロンの作用により従来技術に比べて大幅に短縮することができる。具体的には、長くても3時間、典型的には1時間以下で足りる。
【0041】
第2段焼鈍を行う温度はA1変態点の付近の温度が好ましく、例えば、760℃から720℃まで時間をかけてゆっくりと温度を低下させて行うことができる。第2段焼鈍の好ましい開始温度は740℃以上、780℃以下である。完了温度は680℃以上、720℃以下が好ましい。また、後述する実施例で示すように、第2段焼鈍の後の冷却速度を高める目的で760℃以上、780℃以下の一定の温度で保持してもよい。第1段焼鈍を行う時間と同様に、第2段焼鈍を行う時間も、窒素及びボロンの作用により従来技術に比べて大幅に短縮することができる。具体的には、長くても3時間、典型的には1時間以下で足りる。
【0042】
第2の実施形態においては、第2段焼鈍の後に鋳物を急冷して、オーステナイトからパーライトを形成させる。この工程を経た後の鋳物の最終の形態は、第1段焼鈍及び第2段焼鈍で形成された塊状黒鉛と、パーライトでなるマトリクスとで構成される。また、塊状黒鉛の周囲には炭素をほとんど含まないフェライトが形成される場合がある。第2段焼鈍の後の鋳物の冷却速度は、例えば外気を強制的に送風して行ういわゆる空冷で行うことができる。これは、黒鉛化を阻害する元素を含有しているために、それほど急冷しなくても黒鉛ではなくセメンタイトが優先的に晶出するためである。
【0043】
第2の実施形態において、第2段焼鈍及びその後の冷却の後に、必要に応じて材質改善のための熱処理をさらに追加してもよい。具体的には、例えば靭性を高めるための焼き戻しを行うことができる。
【0044】
第2の実施形態において、最終製品がいずれも質量百分率で炭素を2.80%以上、3.25%以下、ケイ素を1.35%以上、1.60%以下、マンガンを0.55%以上、0.70%以下、窒素を0.0160%以上、0.0250%以下、ビスマスを0.008%以上、0.020%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である。本発明において「最終製品」とは、製造工程がすべて完了し、製品が実際の用に供される段階における製品をいう。製造工程には、上記のS1からS4までのすべての工程が含まれるが、これら以外の工程が製造工程に含まれていてもよい。
【0045】
最終製品に含まれる各元素の含有量は、原則として、最終製品から採取した試料の化学成分を分析することによって知ることができる。ただし、溶湯から採取した試料又は熱処理前の鋳物から採取した試料の化学成分が最終製品の化学成分と実質的に変わらない場合には、これらの試料の化学成分の分析値をもって最終製品の分析値に代えることができる。最終製品が各元素を含有することによる効果及び含有量の上限値及び下限値を規定した理由については、上述した第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の成分の説明と同じなので、ここでは説明を省略する。
【0046】
好ましい実施の形態において、第2の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の製造方法は、最終製品が質量百分率でボロンを0.0030%以上、0.0060%以下含有する。この好ましい実施の形態において、鋳物に含まれるボロンの含有量は、例えば溶湯にフェロボロンを添加することによって調整することができる。ボロンを含有することによる効果及び含有量の上限値及び下限値を規定した理由については、上述した第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の好ましい成分の説明と同じなので、ここでは説明を省略する。
【0047】
好ましい実施の形態において、第2の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の製造方法は、最終製品において質量百分率で表される鋳物に含まれるマンガンの含有率をMn、硫黄の含有率をSとしたときに、次式で表されるマンガン硫黄バランスMSの値が0.30%以上、0.60%以下である。
【0048】
【0049】
この好ましい実施の形態において、鋳物に含まれるマンガンの含有量は、例えば溶湯に含まれる硫黄の含有量に応じて数式1に基づいて溶湯に窒化マンガンなどを添加することによって調整することができる。マンガン硫黄バランスMSの値の上限値及び下限値を規定した理由については、上述した第1の実施形態に係るパーライト可鍛鋳鉄の好ましい成分の説明と同じなので、ここでは説明を省略する。
【実施例0050】
<第1の実施例>
炉材に酸性耐火物を使用した酸性キュポラの上方から炉内に原材料とコークスとを交互に投入して積み重ね、炉内に熱風を送風してコークスを燃焼させて原材料を連続的に溶解した。溶解で得られた溶湯は、一定の時間間隔をあけて取鍋に出湯した。一度の出湯で取鍋に出湯された溶湯の重量はおよそ700kgであった。出湯時の溶湯の温度はおよそ1500℃であった。取鍋内の溶湯の組成を分析した結果を表1に示す。溶湯には、鉄の原料に由来するマンガンが0.4%含まれていた。
【0051】
【0052】
次に、取鍋の中の溶湯700キログラムに、表2に示すように、窒化マンガンを2.2キログラム、ビスマスを200グラムそれぞれ投入し、溶湯を撹拌した後、試験片用の鋳型に注湯して複数の試験片を鋳造した。窒化マンガンに含まれる窒素の含有量は28%であった。この窒化マンガンの投入量は、取鍋の中の溶湯に添加することが可能な重量である。鋳造された試験片の全部を980℃に加熱しておよそ2時間半保持し、第1段焼鈍を行ったのち、温度を760℃まで降下させ、そこからおよそ2時間半かけて700℃までゆっくりと冷却しながら第2段焼鈍を行い、その後空冷して、実施例1の試験片を得た。
【0053】
次に、表2に示すように、取鍋に投入するビスマスの重量を310グラムに変更したほかは実施例1と同じ条件で試験片の作製を行い、実施例2の試験片を得た。
【0054】
【0055】
得られた試験片の一部から成分分析用の試料を採取し分析した。化学成分の分析は、あらかじめ表面を研磨した試料を用いて、発光分析装置(島津製作所製、型式番号:PDA-7000)により行った。分析値には2回の測定の平均値を採用した。成分分析の結果を表3の実施例1及び実施例2の欄に示す。
【0056】
【0057】
次に、得られた試験片の一部から金属組織観察用の試料を作製し、光学顕微鏡画像を撮影して、マトリクスに占めるパーライトの比率を目視で観察した。また、マトリクスに占めるパーライトの比率の目安として、同じ試料の表面を用いてロックウェル硬さを測定した。パーライトの比率が多ければ多いほど、ロックウェル硬さの数値は高くなる。ロックウェル硬さの測定は、球圧子を用いるBスケールで行った。さらに、残りの試験片から引張試験用の試料を作製し、引張強さ、2%耐力及び伸びを測定した。これらの結果を、表4の実施例1及び実施例2の欄に示す。
【0058】
【0059】
次に、比較例として、表2に示すように、取鍋に添加するビスマスの代わりにフェロボロンを160グラム添加するほかは、実施例1と同量の窒化マンガンを添加し、実施例1と同じ条件で鋳造及び熱処理を行い、比較例1の試験片を得た。得られた試験片について実施例1と同じ条件で評価を行った結果を表3及び表4の比較例1の欄に示す。フェロボロンに含まれるボロンの含有量は18%であった。また、同じく表2に示すように、ビスマス200グラムとフェロボロン160グラムを両方添加するほかは、実施例1と同量の窒化マンガンを添加し、実施例1と同じ条件で鋳造及び熱処理とを行い、比較例2の試験片を得た。得られた試験片について実施例1と同じ条件で評価を行った結果を表3及び表4の比較例2の欄に示す。
【0060】
以上の結果から、窒化マンガンとビスマスを添加する本発明によれば、従来技術のフェロマンガンを添加する方法に比べてマンガンの添加量が少なくてもパーライト化が進むので、取鍋の溶湯に容易に添加できることが分かる。これは、マンガンと窒素が共にセメンタイトを安定化してパーライト率を向上させる作用があるためと考えられる。これにより、マンガンの含有量が抑えられるので、端材を再溶解して使用することが可能となる。
【0061】
また、窒化マンガンと同時にビスマスを添加した実施例1及び実施例2の場合にパーライト率が最も高くなり、500ニュートン毎平方ミリメートルを超える引張強さが得られることが分かる。これは、ビスマスが鋳造時の黒鉛の析出を阻害するだけでなく、凝固完了以降のセメンタイトの安定化にも寄与しているためと考えられる。
【0062】
一方、窒化マンガンと同時にフェロボロンを添加した比較例1及び比較例2では、実施例1に比べてロックウェル硬さから推測されるパーライト率が低下し、引張強さも低下することが分かる。これは、凝固完了以降にボロンと窒素が結合した窒化ボロンが形成され、これが核となって黒鉛の析出を促進する役割を果たすとともに、マトリクス中に固溶して黒鉛化を阻害する窒素の固溶量が低下して、パーライト率が低下したためであると考えられる。
【0063】
<第2の実施例>
第1の実施例の表2の実施例1の配合と同じ配合で成分を調整した溶湯を用いて鋳造した試験片を980℃に加熱しておよそ2時間保持し、第1段焼鈍を行ったのち、温度を760℃まで降下させ、そこからおよそ2時間かけて720℃までゆっくりと冷却しながら第2段焼鈍を行い、その後空冷して、実施例3の試験片を得た。また、第2段焼鈍を760℃及び780℃でおよそ2時間保持して行うほかは実施例3と同じ条件で焼鈍を行い、実施例4及び実施例5の試験片をそれぞれ得た。これらの試験片について第1の実施例と同じ条件でロックウェル硬さの評価と引張強さ、2%耐力及び伸びをそれぞれ測定した結果を表5に示す。
【0064】
【0065】
図2は、実施例5の試料の光学顕微鏡画像である。黒い塊状の析出相は第1段焼鈍及び第2段焼鈍の過程で形成された遊離黒鉛である。塊状の黒鉛相はほぼ同じ大きさを有しており、マトリクス中に均一に分散している。マトリクスのうち灰色の部分は、第2段焼鈍後の急冷によってオーステナイトからの共析反応で形成されたパーライトである。パーライトにおけるラメラ層の間隔は、この画像の倍率では確認できない程度に細かくなっている。マトリクスのうち白色の部分はフェライトである。フェライト相は黒鉛相の周囲に多く存在する。
【0066】
次に、比較例として、第2段焼鈍における保持温度を800℃に変更したほかは実施例3と同じ条件で焼鈍を行い、比較例3の試験片を得た。この試験片について第1の実施例と同じ条件でロックウェル硬さの評価と引張強さ、2%耐力及び伸びをそれぞれ測定した結果を表5の比較例3の欄に示す。
【0067】
以上の結果から、窒化マンガンとビスマスを添加する本発明において第2段焼鈍の温度を上昇させることで、600ニュートン毎平方ミリメートルを超える引張強さが得られることが分かる。これは、第2段焼鈍の温度が高いほど、その後の空冷時の冷却速度が速くなり、パーライトのラメラ層の間隔が狭くなったためと考えられる。一方、第2段焼鈍の温度を800℃とした比較例3では、実施例3と比べて引張強さの向上はほとんど見られず、伸びが低下して靭性が下がることが分かった。これは、A1変態点を大きく超える高温からの急冷によって残留応力が発生したためであると考えられる。したがって、第2段焼鈍を行う温度範囲は760℃以上、780℃以下が好ましいことが分かる。