(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161789
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】デマケーションコム、当該デマケーションコムを有するエスカレータ用踏段、および当該踏段を備えたエスカレータ
(51)【国際特許分類】
B66B 23/12 20060101AFI20241113BHJP
B66B 29/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B66B23/12 D
B66B23/12 G
B66B29/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076812
(22)【出願日】2023-05-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】322001107
【氏名又は名称】有限会社クズハラゴム
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【弁理士】
【氏名又は名称】森 優
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】大脇 裕之
(72)【発明者】
【氏名】能 愛莉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優介
(72)【発明者】
【氏名】大久保 秀美
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA04
3F321CB01
3F321CB06
3F321CB08
3F321CB11
3F321CB13
3F321CB18
3F321GA15
(57)【要約】
【課題】滑落する荷物等が摺接する部分がゴム材料で形成されていながら、くし板に衝突することによる故障を可能な限り防止することができるデマケーションコムを提供する。
【解決手段】桟38を有する踏板28とライザー30とが成す角部に設けられるデマケーションコム34を、桟38の一端部に設けられたリブ120、130を有するベース部材100と、リブ120、130に重ねて設けられた滑り止め部222、232を有し、合成ゴムまたは天然ゴムからなるゴム部材200と、を含み、リブ周面とリブ周面と対向する滑り止め部222、232の対向周面の一方に溝部が、他方に前記溝部と嵌合したほぞ部が設けられていて、複数のリブ120、130およびリブ120、130各々に設けられた滑り止め部222、232、並びに複数条の桟38を含んで、踏段12のクリート36が構成されることとした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータを構成する踏段の本体において、前記踏段の幅方向と平行に設けられた帯状の桟が複数条立設されてなる踏面を有する踏板とライザーとが成す角部に形成された切欠き部に設けられるデマケーションコムであって、
前記桟各々の一端部にそれぞれ設けられた、板状をしたリブを複数有し、前記本体に固定されるベース部材と、
前記リブ各々の上端に重ねて設けられた複数の滑り止め部を有し、合成ゴムまたは天然ゴムからなるゴム部材と、
を含み、
前記リブのリブ周面と前記リブ周面と対向する前記滑り止め部の対向周面の一方に溝部が、他方に前記溝部と嵌合したほぞ部が設けられていて、
前記複数のリブおよび当該リブ各々に設けられた前記滑り止め部、並びに前記複数条の桟を含んで、前記踏段のクリートが構成されることを特徴とするデマケーションコム。
【請求項2】
前記滑り止め部は、前記桟とは反対側の先端部部分が前記桟の向きに屈曲した鉤状部を有し、前記リブは前記鉤状部がかみ合ったかみ合い部を有することを特徴とする請求項1に記載のデマケーションコム。
【請求項3】
前記複数のリブは、
第1のリブ群と第2のリブ群を含み、
前記第1のリブ群を構成する第1リブ各々の前記桟とは反対側の先端は、前記第2のリブ群を構成する第2リブ各々の前記桟とは反対側の先端よりも前記幅方向、前記桟とは反対側に突出しており、
前記第1リブと前記第2リブとは、前記踏段の長さ方向に交互に配されていて、
前記第1リブの各々に設けられた前記滑り止め部の各々の先端が、当該第1リブの先端よりも前記幅方向に前記桟側へ後退していることを特徴とする請求項1に記載のデマケーションコム。
【請求項4】
前記第1リブは下方へ凹んだ凹部を有し、
当該第1リブに設けられた滑り止め部の先端部部分が前記凹部に嵌入していることを特徴とする請求項3に記載のデマケーションコム。
【請求項5】
前記ゴム部材は、前記複数の滑り止め部を連結するゴム部材基部と当該ゴム部材基部から下方へ突出した柱状突起とを有し、
前記ベース部材は、前記複数のリブを連結するベース部材基部を有し、当該ベース部材基部には、孔が開設されていて、
前記柱状突起は、前記孔に挿入された基端部と前記孔から突出し、当該孔の径よりも太い太径部とを含むことを特徴とする請求項1に記載のデマケーションコム。
【請求項6】
略長方形をした踏板とライザーとを含む本体を有する、エスカレータを構成する踏段であって、
前記本体において踏板とライザーとが成す角部に、前記踏板の全長に渡って切欠き部が形成されており、
前記切欠き部に請求項1~5のいずれか1項に記載のデマケーションコムが設けられていることを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項7】
無端状に連結されて循環走行する複数の踏段を有するエスカレータであって、
前記複数の踏段の各々に請求項6に記載のエスカレータ用踏段を用いたことを特徴とするエスカレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デマケーションコム、当該デマケーションコムを有するエスカレータ用踏段、および当該踏段を備えたエスカレータに関し、特に、荷物等の滑落から乗客を保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スーツケース等の荷物を伴ったエスカレータの乗客が、不意に前記荷物を落下させてしまう場合がある。この場合、階段状に連続する踏段上を荷物が滑り落ちて(滑落して)次第に速度を増し、下方にいる乗客に勢いよく衝突してしまうことがある。
【0003】
この事態に対処するため、特許文献1では、踏段において踏板とライザーとが成す角部に設けたデマケーションコム24の表面に踏板の踏面よりも摩擦係数の大きい微細な凹凸31(特許文献1の
図4A、
図4B)を設けている。これによれば、滑落する荷物が凹凸31に摺接し、摩擦抵抗により荷物の滑落速度が抑制される旨記載されている(特許文献1の段落[0033])。凹凸31の具体例としては、樹脂に混ぜられたガラス繊維、または塗料に混ぜられた珪砂が挙げられている(特許文献1の段落[0032])。
【0004】
しかしながら、例えば、珪砂に摺接した荷物には擦り傷が付くおそれがある。そのため、デマケーションコム自体をゴム材料で形成することが考えられる。一般的に、ゴム材料は、他の素材との摩擦係数が比較的大きく、滑落する荷物に摩擦抵抗を与えることができる上、軟質であるため荷物に損傷を与え難いからである。
【0005】
荷物の滑落速度の抑制を目的としたものではないが、特許文献2、特許文献3には、ゴム材料で形成したデマケーションコムが開示されている(特許文献2のデマケーションコム5(
図2、
図3)、特許文献3のデマケーションコム5,6(第1図))。以下、特許文献2、特許文献3に記載されたデマケーションコムを「従来のデマケーションコム」と称する。
【0006】
踏板の踏面には、踏板の幅方向に長い帯状をした桟(以下、「踏板桟」と言う)が、踏板の長さ方向に列設されている。従来のデマケーションコムは、踏板桟各々の一端部にそれぞれ設けられた、踏板桟と同じ高さの桟(以下、「デマケーション桟」と言う)を有していて、複数の前記踏板桟とその各々に対応して設けられた前記デマケーション桟とで、踏段のクリートが構成されている。
【0007】
上記構成を有する従来のデマケーションコムによれば、滑落する荷物はゴム材料で形成されたデマケーション桟に摺接するため、摩擦抵抗により荷物の滑落速度が抑制されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-1854号公報
【特許文献2】特許第5963333号公報
【特許文献3】実開平4-77582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、デマケーションコムは、通常の使用時において、頻繁に乗客に踏まれる。従来のデマケーションコムは、踏まれるとデマケーション桟が、踏段の長さ方向に倒れて、復元しないまま(倒れたまま)降り口側に設けられたくし板に突入し、当該くし板の歯と衝突して故障の原因となるおそれがあることが判明した。
【0010】
本発明は、滑落する荷物等が摺接する部分がゴム材料で形成されていながら、上述した故障を可能な限り防止することができるデマケーションコムを提供することを第1の目的とする。
【0011】
本発明の第2の目的は、そのようなデマケーションコムを有する踏段を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第3の目的は、上記踏段を備えたエスカレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記第1の目的を達成するため、本発明に係るデマケーションコムは、エスカレータを構成する踏段の本体において、前記踏段の幅方向と平行に設けられた帯状の桟が複数条立設されてなる踏面を有する踏板とライザーとが成す角部に形成された切欠き部に設けられるデマケーションコムであって、前記桟各々の一端部にそれぞれ設けられた、板状をしたリブを複数有し、前記本体に固定されるベース部材と、前記リブ各々の上端に重ねて設けられた複数の滑り止め部を有し、合成ゴムまたは天然ゴムからなるゴム部材と、を含み、前記リブのリブ周面と前記リブ周面と対向する前記滑り止め部の対向周面の一方に溝部が、他方に前記溝部と嵌合したほぞ部が設けられていて、前記複数のリブおよび当該リブ各々に設けられた前記滑り止め部、並びに前記複数条の桟を含んで、前記踏段のクリートが構成されることを特徴とする。
【0014】
また、前記滑り止め部は、前記桟とは反対側の先端部部分が前記桟の向きに屈曲した鉤状部を有し、前記リブは前記鉤状部がかみ合ったかみ合い部を有することを特徴とする。
【0015】
あるいは、前記複数のリブは、第1のリブ群と第2のリブ群を含み、前記第1のリブ群を構成する第1リブ各々の前記桟とは反対側の先端は、前記第2のリブ群を構成する第2リブ各々の前記桟とは反対側の先端よりも前記幅方向、前記桟とは反対側に突出しており、前記第1リブと前記第2リブとは、前記踏段の長さ方向に交互に配されていて、前記第1リブの各々に設けられた前記滑り止め部の各々の先端が、当該第1リブの先端よりも前記幅方向に前記桟側へ後退していることを特徴とする。
【0016】
さらに、前記第1リブは下方へ凹んだ凹部を有し、当該第1リブに設けられた滑り止め部の先端部部分が前記凹部に嵌入していることを特徴とする。
【0017】
あるいは、前記ゴム部材は、前記複数の滑り止め部を連結するゴム部材基部と当該ゴム部材基部から下方へ突出した柱状突起とを有し、前記ベース部材は、前記複数のリブを連結するベース部材基部を有し、当該ベース部材基部には、孔が開設されていて、前記柱状突起は、前記孔に挿入された基端部と前記孔から突出し、当該孔の径よりも太い太径部とを含むことを特徴とする。
【0018】
上記第2の目的を達成するため、本発明に係るエスカレータ用踏段は、略長方形をした踏板とライザーとを含む本体を有する、エスカレータを構成する踏段であって、前記本体において踏板とライザーとが成す角部に、前記踏板の全長に渡って切欠き部が形成されており、前記切欠き部に上記デマケーションコムが設けられていることを特徴とする。
【0019】
上記第3の目的を達成するため、無端状に連結されて循環走行する複数の踏段を有するエスカレータであって、前記複数の踏段の各々に上記エスカレータ用踏段を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上記の構成を有する本発明に係るデマケーションコムによれば、上記複数のリブおよび当該リブ各々に設けられた上記滑り止め部、並びに上記踏板の上記複数条の桟を含んで、踏段のクリートが構成される。
【0021】
すなわち、板状をした前記リブと当該リブの上端に重ねて設けられた前記滑り止め部とで、クリートの一部が構成されており、前記リブのリブ周面と前記リブ周面と対向する前記滑り止め部の対向周面の一方に溝部が、他方にほぞ部が設けられていて前記溝部に前記ほぞ部が嵌合しているため、滑り止め部が、乗客に踏まれたとしても、上記デマケーション桟と比較して、踏段の長さ方向に倒れにくく、また、乗客の足が離れると、復元し易い。
【0022】
その結果、運転中のエスカレータにおいて、デマケーションコムの一部(滑り止め部)が、くし板の歯と衝突することによる故障を可能な限り防止することができる。
【0023】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段は、上記踏板と上記ライザーとが成す角部に形成された上記切欠き部に、上記デマケーションコムが設けられているため、上記したデマケーションコムと同様の効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係るエスカレータは、無端状に連結されて循環走行する複数の踏段の各々に上記エスカレータ用踏段が用いられているため、上記エスカレータ用踏段と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係るエスカレータの概略構成を示す斜視図ある。
【
図2】(a)は、上記エスカレータの概略構成を示す側面図であり、(b)は、当該エスカレータを構成する踏段の拡大側面図であり、(c)は、前記踏段の斜視図である。
【
図3】(a)は、踏段本体に取り付けられた状態のデマケーションコムの側面図であり、(b)は、当該デマケーションコムを第1櫛歯部(第1リブ)と第2櫛歯部(第2リブ)の間で切断した側面図である。
【
図4】(a)は、デマケーションコムの斜視図であり、(b)は、ライザーの一部を示す斜視図である。
【
図7】(a)は、ベース部材の側面図であり、(b)は、
図6においてA・A線で切断した断面図である。
【
図9】(a)は、ゴム部材の側面図であり、(b)は、ゴム部材を第1櫛歯部と第2櫛歯部の間の基部部分で切断した側面図である。
【
図10】デマケーションコムを、ベース部材の柱状突起の軸心を含む平面で切断した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施形態に基づき、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係るエスカレータ10の概略構成を示す斜視図である。
図2(a)は、エスカレータ10の概略構成を示す側面図であり、
図2(b)は、エスカレータ10を構成する踏段12の拡大側面図であり、
図2(c)は、踏段12の斜視図である。
図3(a)は、踏段12の本体32に取り付けられた状態のデマケーションコム34の側面図であり、
図3(b)は、デマケーションコム34を後述する第1櫛歯部220(第1リブ120)と第2櫛歯部230(第2リブ130)の間で切断した側面図である。なお、
図3(b)において、第2櫛歯部230、第2リブ130等の背景に現れる部材についての図示は省略している。
【0027】
エスカレータ10は、無端状に連結されて循環走行する複数の踏段12と、複数の踏段12の走行路の両側に当該走行路に沿って立設された一対の欄干14を有する。一対の欄干14各々の下端部側方には、各踏段12と僅かな隙間を保ち、上記走行路に沿って配された、ステンレス鋼板等のパネルからなるスカートガード16が設けられている。
【0028】
複数の踏段12は、上部機械室18に設置されたモータ20を動力源とし、不図示の動力伝達機構を介して駆動される。建築物の階上USと階下DSに掛け渡されたエスカレータ10は、モータ20の回転方向を正転と逆転とに切り換えることで、昇り用としても降り用としても用いられる。すなわち、階下DS側が乗り口となる場合も降り口となる場合もある(以下、両者を合わせて「乗降口」と言う)。
【0029】
エスカレータ10の乗降口には、くし板22およびくし板22に隣接するフロアプレート24が設けられている。エスカレータ10が昇り用の場合、循環走行する複数の踏段12は、くし板22から次々と水平方向に繰り出される。エスカレータ10が下り用の場合、循環走行する複数の踏段12は、くし板22からフロアプレート24下方へ潜入する。
【0030】
踏段12は、
図2(b)、
図2(c)に示すように、主枠となるフレーム26に、長方形をした踏板28とライザー30が取り付けられた本体32を有している。ここで、前記長方形の長辺に沿う方向を踏段12の長さ方向とし、前記長方形の短辺に沿う方向を踏段12の幅方向とする。本体32は、鉄鋼材料やアルミニウム合金などの金属材料で形成されている。
【0031】
踏板12とライザー30が成す角部には、
図2(c)に示すように、複数本(本例では、4本)のデマケーションコム34が前記長さ方向に直列に設けられている。踏段12の本体32において踏板28とライザー30が成す角部には、
図3(a)に示すように、切欠き部32aが形成されており、デマケーションコム34は、切欠き部32aに設けられている。デマケーションコム34は、ベース部材100とゴム部材200を有する。
【0032】
ベース部材100は、ABS樹脂その他の硬質プラスチックで形成されている。一方、ゴム部材200は、ベース部材100よりも軟質であるゴム材料、例えば、クロロプレンゴムその他の合成ゴムで形成されている。
【0033】
図4(a)に、デマケーションコム34の斜視図を示す。なお、
図4(a)において、デマケーションコム34が取り付けられた踏段12の踏板28とライザー30を、一点鎖線の仮想線で示している。
図4(b)は、ライザー30の一部を示す斜視図である。
【0034】
踏板28は、踏段12の幅方向に長く当該幅方向と平行に設けられた帯状の桟38が、踏段12の長さ方向に複数条立設されてなる踏面28aを有する。隣接する桟38の間には、必然的に溝40が形成されている。
【0035】
ライザー30は、上下方向に長い畝44が踏段12の長さ方向に複数条形成されてなり、隣接する畝44間の溝46と複数条の畝44とでクリート42が形成されている。ライザー30の畝44と溝46の凹凸は、ステンレス鋼等の鋼板のプレス加工よって形成される。よって、
図4(b)に示すように、畝44の裏側(踏板28側)も、溝44aに形成されている。
【0036】
図5にベース部材100の斜視図を示す。ベース部材100は横断面が「コ」字状をした長尺の基部110を有する。基部110は、その長手方向に一条の溝111を有する。
【0037】
ベース部材100は、基部110から突出した複数の第1リブ120を有し、複数の第1リブ120で第1のリブ群が構成されている。ベース部材110は、また、基部110から突出した複数の第2リブ130を有し、複数の第2リブ130で第2のリブ群が構成されている。ベース部材110は、さらに、基部110から突出した複数の第3リブ140を有し、複数の第3リブ140で第3のリブ群が構成されている。第1リブ120、第2リブ130、および第3リブ140は、いずれも板状をしている。基部110は、複数の第1リブ120、複数の第2リブ130、および複数の第3リブ140を連結している。
【0038】
第1リブ120と第2リブ130とは、踏段12(
図4(a))の長さ方向に交互に配されていて、各々が桟38(
図4(a))の一端部にそれぞれ設けられている。第1リブ120各々の桟38とは反対側の先端は、第2リブ130各々の桟38とは反対側の先端よりも、踏段12(
図4(a)の幅方向、桟38とは反対側に突出している。換言すれば、第2リブ130各々の前記先端は、第1リブ120各々の前記先端よりも、踏段12(
図4(a))の幅方向、桟38側に後退している。
【0039】
図6にベース部材100の平面図を、
図7(a)にベース部材100の側面図を、
図7(b)に
図6におけるA・A線断面図をそれぞれ示す。
【0040】
第1リブ120の周面には、周方向に溝部121が設けられている。溝部121の一端部側は、溝111の側壁に延伸されている(
図7(a))。また、第2リブ130の周面にも、周方向に溝部131が設けられており、溝部131の一端部側は、溝111の側壁に延伸されている(
図7(b))。さらに、第3リブ140の、第1リブ120または第2リブ130に臨む周面にも溝部141が設けられており、溝部141の一端部側は溝111の側壁に延伸されている(
図7(a)、
図7(b))。
【0041】
第1リブ120は、桟38(
図4(a))とは反対側の先端部部分に、下方へ凹んだ凹部122を有している。また、凹部122の桟38側側壁には、桟38(
図4(a))の向きに凹んだかみ合い部123が設けられている。また、第2リブ130の先端部分の側壁にも、桟38の向きに凹んだかみ合い部132が設けられている。「かみ合い部」の役割については後述する。
【0042】
ベース部材100は、基部110の溝111の底面に開設された第1孔112を有する(
図6)。また、第1孔112に連通し、第1孔112よりも径の大きな第2孔113が開設されている(
図7(b))。第1孔112と第2孔113からなる貫通孔が溝111の長手方向に間隔を空けて(本例では、等間隔)、複数個(本例では、7個)開設されている。
【0043】
ベース部材100の基部110において、隣接する第3リブ140間の内の4か所には、穴グリ付のねじ挿通孔114が開設されている。
【0044】
また、ベース部材100の基部110の、第1リブ120の各々に対応する位置において、桟38(
図4(a))とは反対側の端部から突出した突起部150が設けられている。突起部150の各々には、さらに、下方へ突出した凸部151が設けられている。
【0045】
次に、ゴム部材200について詳細に説明する。
図8にゴム部材200の斜視図を、
図9(a)に同側面図をそれぞれ示す。ゴム部材200は、横断面が四角形をした長尺の基部210を有する。
【0046】
ゴム部材200は、基部210から突出した複数の第1櫛歯部220と複数の第2櫛歯部230を有し、
図8に示すように、全体的に櫛状を呈している。第1櫛歯部220と第2櫛歯部230は、いずれも板状をしている。ゴム部材200は、また、基部210から下方へ突出した柱状突起240を複数本(本例では、7本)有している。柱状突起240の横断面は円形をしている。基部210は、複数の第1櫛歯部220、複数の第2櫛歯部230、および複数の柱状突起240を連結している。
【0047】
第1櫛歯部220と第2櫛歯部230とは、踏段12(
図4(a))の長さ方向に交互に配されている。隣接する櫛歯部220、230の間隔は、ベース部材100において隣接するリブ120、130の間隔と等しく設定されている。
【0048】
第1櫛歯部220各々の桟38(
図4(a))とは反対側の先端は、第2櫛歯部230各々の桟38とは反対側の先端よりも、踏段12(
図4(a))の幅方向、桟38とは反対側に突出している。換言すると、第2櫛歯部230各々の前記先端は、第1櫛歯部220各々の前記先端よりも、踏段12(
図4(a))の幅方向、桟38側に後退している。
【0049】
第1櫛歯部220は、方形板状をした衝立部221と衝立部221から延出された滑り止め部222を有する。滑り止め部222の上端面は、一定の面積を有し、エスカレータ10の勾配と同じ角度に設定されている。滑り止め部222は、桟38(
図4(a))とは反対側の先端部部分が桟38の向きに屈曲した鉤状部223を含む。
【0050】
滑り止め部222の下側周面から衝立部221の側面および基部210の側面にかけて、ほぞ部224が設けられている。ほぞ部224の内、滑り止め部222から衝立部221の側面までの部分は、後述するように、第1リブ120の周面と対向する位置に存する。
【0051】
衝立部221の、ほぞ部224が設けられた側面とは反対側の側面にもほぞ部225が設けられており、ほぞ部225は、基部210の側面まで延伸されている。
【0052】
ゴム部材200を第1櫛歯部220と第2櫛歯部230の間の基部210部分で切断した側面図を
図9(b)に示す。なお、
図9(b)において、第2櫛歯部230の背景に現れる部分の図示は省略している。
【0053】
第2櫛歯部230は、方形板状をした衝立部231と衝立部231から延出された滑り止め部232を有する。第2櫛歯部230は、滑り止め部232が滑り止め部222よりも短い以外は、第1櫛歯部220と同様の構成である。
【0054】
すなわち、滑り止め部232の上端面は、一定の面積を有し、エスカレータ10の勾配と同じ角度に設定されている。また、滑り止め部232は、桟38(
図4(a))とは反対側の先端部部分が桟38の向きに屈曲した鉤状部233を含む。
【0055】
滑り止め部232の下側周面から衝立部231の側面および基部210の側面にかけて、ほぞ部234が設けられている。ほぞ部234の内、滑り止め部232から衝立部231の側面までの部分は、後述するように、第2リブ130の周面と対向する位置に存する。
【0056】
衝立部231の、ほぞ部234が設けられた側面とは反対側の側面にもほぞ部235が設けられており、ほぞ部235は、基部210の側面まで延伸されている。
【0057】
本例では、ほぞ部224の厚みは、第1リブ120の溝部121の幅よりも若干大きく、ほぞ部234の厚みは、第2リブ130の溝部131の幅よりも若干大きく、それぞれ設定されている。なお、ほぞ部224の厚みを、第1リブ120の溝部121の幅と同じか、若干小さく、ほぞ部234の厚みを、第2リブ130の溝部131の幅と同じか若干小さくしても構わない。
【0058】
柱状突起240は、
図9(a)に示すように、基端部241、太径部242、テーパ部243、および案内部244を含む。
【0059】
基端部241の径は、ベース部材100の第1孔112よりも若干小さく、長さは、第1孔よりも若干長く設定されている。太径部242の径は、第1孔112よりも大きく、第2孔113よりも小さく設定されている。
【0060】
テーパ部243は、柱状突起240の先端に向かって先細りとなる形状に形成されていて、テーパ部243に続く案内部244の径は、基端部241の径と同じか、基端部241の径よりも小さく設定されている。
【0061】
次に、デマケーションコム34の組立態様について説明する。先ず、ゴム部材200の柱状突起240の案内部244の各々を、ベース部材100の対応する第1孔112の各々にそれぞれテーパ部243が第1孔112の上縁に当接するまで挿入する。これにより、案内部244の大半がベース部材100の下面から突出する。
【0062】
案内部244の上記突出した部分をつまんで、ベース部材100から離れる向きに引っ張る。そうすると、テーパ部243が径方向に収縮し、これに続いて、太径部242が第1孔112に進入可能なまでに収縮する。さらに引っ張ると、太径部242が第1孔112を通過し、第1孔112から突出して、第2孔113内で復元する。この作業を、すべての柱状突起240に繰り返して行う。デマケーションコム34の組立てが完了した状態において、ベース部材100を柱状突起240の軸心を含む平面で切断した部分断面図を
図10に示す。
【0063】
図10に示すように、柱状突起240の基端部241が第1孔112に挿入されていて、第1孔112から太径部242が突出している。これにより、ゴム部材200がベース部材100に固定される。
【0064】
なお、柱状突起240を第1孔112に挿入する際には、第1櫛歯部220において、衝立部221側面から基部210側面にかけて設けられたほぞ部224部分を第1リブ120の側面および溝111の側壁に設けられた溝部121部分に嵌入し、ほぞ部225を第3リブ140の溝部141に嵌入する。また、第2櫛歯部230において、衝立部231側面から基部210側面にかけて設けられたほぞ部234部分を第2リブ130の側面および溝111の側壁に設けられた溝部131部分に嵌入し、ほぞ部235を第3リブ140の溝部141に嵌入する。
【0065】
続いて、第1櫛歯部220の滑り止め部222各々の上面を、対応する第1リブ120に向かって押圧し、ほぞ部224を溝部121に嵌入すると共に、滑り止め部222の先端部部分を凹部122嵌入する。この際、鉤状部223をかみ合い部123に押し込んで、鉤状部223をかみ合い部123にかみ合わせる。
【0066】
また、第2櫛歯部230の滑り止め部232各々の上面を対応する第2リブ130に向かって押圧し、ほぞ部234を溝部131に嵌入する。この際、鉤状部233をかみ合い部132に押し込んで、鉤状部233をかみ合い部132にかみ合わせる。
【0067】
以上で、デマケーションコム34の組立てが完了する。組み立てられたデマケーションコム34は、ねじ(不図示)で踏段12の本体32に固定される。本体32の切欠き部32aの上面には、ねじ挿通孔114の各々に対応させて、雌ネジ(不図示)が形成されている。
【0068】
ねじ挿通孔114を対応する雌ネジの位置に合わせた上で、ベース部材100の凸部151の各々を対応する、ライザー30の溝44aの上端部に嵌め込んで、溝44aの上端を塞ぐ。
【0069】
そして、ねじ挿通孔114から挿通したねじを前記雌ネジに螺合させて締め付けることにより、ベース部材100、ひいてはデマケーションコム34全体が本体32に固定される。なお、前記ねじの頭部は、ねじ挿通孔114の穴グリ部に埋没して、ねじ挿通孔114の開口部周面からは突出しない。
【0070】
本体32に取り付けられた状態で、第1リブ120の各々、および第2リブ130の各々は、
図4(a)に示すように、桟38各々の一端部に在る。第1リブ120の各々の上端には、ゴム部材200の滑り止め部222が、第2リブ130の各々の上端には、ゴム部材200の滑り止め部232がそれぞれ重ねて設けられている。これにより、複数の第1リブ120、第2リブ130、および第1リブ120、第2リブ130各々に設けられた滑り止め部222、232、並びに複数条の桟38を含んで、踏段12のクリート36が構成される。
【0071】
以上、説明してきた実施形態に係るデマケーションコム34の奏する効果について、以下に述べる。
(1)上述した従来のデマケーションコムでは、踏段のクリートの一部を構成するデマケーション桟は踏板桟と同じ高さであり、当該デマケーション桟の全部がゴム材料で形成されている。これに対し、実施形態に係るデマケーションコム34において、踏段12のクリート36の一部が、第1リブ120、第2リブ130と第1リブ120、第2リブ130の上端にそれぞれ重ねて設けられた滑り止め部222、232を含む。
【0072】
これにより、第1リブ120、第2リブ130で支持される分(第1リブ120、第2リブ130が下方に存する分)、ゴム材料からなる滑り止め部222、223の高さ(上下方向の長さ)を抑えることができる。このため、滑り止め部222、223は、乗客に踏まれたとしても、桟の全高をゴム材料で形成している従来のデマケーション桟と比較して、踏段12の長さ方向に倒れにくい。また、乗客の足が離れると、復元し易い。
【0073】
さらに、第1リブ120、第2リブ130の周面に設けられた溝部121、131に、滑り止め部222、223の前記周面と対向する周面に設けられたほぞ部224、234が嵌合しており、これによっても、滑り止め部222、223が、踏段12の長さ方向に倒れにくくなっている。
【0074】
その結果、運転中のエスカレータ10において、デマケーションコム10の一部(滑り止め部222、223)が、くし板22(
図1)の歯(不図示)と衝突することによる故障を可能な限り防止することができる。
【0075】
(2)第1櫛歯部220、第2櫛歯部230おける滑り止め部222、232の鉤状部223、233が、第1リブ120のかみ合い部123、第2リブ130のかみ合い部132にそれぞれかみ合っている。これにより、滑り止め部222、232の先端部部分の、第1リブ120、第2リブ130からの上向きのずれを防止できる。
【0076】
(3)複数の第1リブ120各々の先端は、複数の第2リブ130各々の先端よりも踏段12の幅方向、踏板28の桟38とは反対側に突出しており、第1リブ120と第2リブ130とが、踏段12の長さ方向に交互に配されている。また、第1リブ120の各々に設けられた滑り止め部222の各々の先端が、第1リブ120の先端から前記幅方向に桟38側へ後退している。
【0077】
これにより、デマケーションコム34の桟28とは反対側が、例えば、乗客に蹴られたとしても、足は、第1リブ120に当接し、第2リブ130、ひいては、第2リブ130に設けられた滑り止め部232への当接は回避されるため、滑り止め部232が第2リブ130から離脱してめくり上がるのを防止できる。また、第1リブ120の各々に設けられた滑り止め部222の各々の先端が上記のように後退しているため、滑り止め部222が蹴られることが可能な限り回避され、その結果、滑り止め部222が第1リブ120から離脱してめくり上がるのを防止できる。
【0078】
(4)第1リブ120の凹部122に滑り止め部222の先端部部分が嵌入しているため、滑り止め部222を安定的に第1リブ120に固定することができるので、上記した滑り止め部222が自然に上向きにずれたり、乗客に蹴られてめくれ上がったりするのを一層効果的に防止できる。
【0079】
(5)複数の滑り止め部222、232を連結する基部210から下方へ突出した柱状突起240の基端部241がベース部材100に開設された第1孔112に挿入され、第1孔112から突出した柱状突起240部分が第1孔112の径よりも太い太径部242に形成されているため、ベース部材100からのゴム部材200の外れ止めが効果的に図られる。
【0080】
(6)一定の面積を有する滑り止め部222、232の上端面がエスカレータ10の勾配と同じ角度に設定されているため、滑落するスーツケース等の荷物との接触面積が確保できるため、上記従来のデマケーションコムと比較して大きな摩擦抵抗を与えることができ、当該荷物の滑落速度を一層抑制することができる。
【0081】
(7)ねじによる本体32への固定性とゴム部材200の支持性が要求されるためある程度の硬度を有し、硬質プラスチックで形成されたベース部材100よりも、ゴム部材200は軟質な材料(ゴム材料)で形成されているため、デマケーションコム全部を硬質材料で形成したものと比較して、転倒した場合等における乗客の踏段12の角部(デマケーション)への衝撃を和らげることができる。
【0082】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記した形態に限られないことは勿論であり、例えば、以下の形態としても構わない。
(1)上記実施形態では、第1リブ120、第2リブ130に溝部121、131を設け、滑り止め部222、232にほぞ部224、234を設けたが、これとは反対に、第1リブ、第2リブにほぞ部を、滑り止め部に溝部を設けることとしても構わない。
【0083】
(2)ベース部材は、ABS樹脂に限らず、その他の硬質プラスチック、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)でも構わない。
【0084】
(3)あるいは、ベース部材は、本体32と同種の金属材料で形成しても構わない。
【0085】
(4)ゴム部材は、クロロプレンゴム(CR)に限らず、その他の合成ゴム、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(ACM)、イソプレンゴム(IR)、シリコンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)でも構わない。また、合成ゴムに限らず天然ゴム(NR)でも構わない。
【0086】
(5)上記実施形態では、踏段12一台当たり、デマケーションコム34を4本設けたが(
図2(c))、踏段一台当たりのデマケーションコムの本数はこれに限らない。1本、2本、3本、あるいは5本以上でも良い。いずれの場合も、本数に応じて、1本当たりのデマケーションコムの長さを設定し、踏段の全長に渡り、デマケーションコムを設けることとする。
【0087】
(6)上記実施形態では、第1櫛歯部220、第2櫛歯部230の上端面の一部を傾斜させて滑り止め部222、滑り止め部232としたが、必ずしも傾斜させる必要はない。すなわち、第1櫛歯部220、第2櫛歯部230の上端面の全部を同一の水平面に構成して、当該水平面を滑り止め部としても構わない。あるいは、第1櫛歯部220、第2櫛歯部230の上端面を一様な平面とした上で、当該平面全体を傾斜させて、滑り止め部としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、踏板とライザーとが成す角部にデマケーションコムを設けたエスカレータに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 エスカレータ
12 踏段
28 踏板
30 ライザー
32 本体
32a 切欠き部
34 デマケーションコム
100 ベース部材
120 第1リブ
121 溝部
130 第2リブ
131 溝部
200 ゴム部材
222 滑り止め部
224 ほぞ部
232 滑り止め部
234 ほぞ部