(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161793
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】3Dプリンターを用いたコンクリート部材及びPC部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20241113BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20241113BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20241113BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B28B1/30
E04C5/12
E01D1/00 D
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076822
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
【テーマコード(参考)】
2D059
2E164
4G052
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG61
2E164AA31
2E164DA22
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】大スパン構造物を構築するために大きなプレストレスに対抗可能なPC部材を製造できる3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法を提供する。
【解決手段】3Dプリンターを用いてPC部材を製造する3Dプリンターを用いたPC部材1の製造方法において、3Dプリンターのコンクリート用又はモルタル用のノズルからコンクリート又はモルタルを吐出して部材本体部2及び緊張力を付与する緊張材を挿通するための緊張材用空洞30を構築するとともに、前記緊張材用空洞の長手方向の両端部に、セラミック用又は金属用のノズルからセラミック又は金属を吐出して前記緊張材の定着具を受け止める定着部40を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンターを用いてコンクリート部材を製造する3Dプリンターを用いたコンクリート部材の製造方法であって、
前記3Dプリンターの製造方向においてコンクリート用又はモルタル用のノズルとセラミック用又は金属用のノズルを交互に動作して、コンクリートとセラミック又は金属の接合箇所に隙間を作らずにコンクリートを充填すること
を特徴とする3Dプリンターを用いたコンクリート部材の製造方法。
【請求項2】
3Dプリンターを用いてPC部材を製造する3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法であって、
3Dプリンターのコンクリート用又はモルタル用のノズルからコンクリート又はモルタルを吐出して部材本体部及び緊張力を付与する緊張材を挿通するための緊張材用空洞を構築するとともに、
前記緊張材用空洞の長手方向の両端部に、セラミック用又は金属用のノズルからセラミック又は金属を吐出して前記緊張材の定着具を受け止める定着部を形成すること
を特徴とする3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法。
【請求項3】
前記3Dプリンターの製造方向において前記コンクリート用又はモルタル用のノズルと前記セラミック用又は金属用のノズルを交互に動作して、定着部の外周表面に、定着部を構成する同一のセラミック又は金属からなる突起を形成すること
を特徴とする請求項2に記載の3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法。
【請求項4】
前記突起が定着部の外周表面に沿ってスパイラル状に配列されるように形成すること
を特徴とする請求項3に記載の3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法。
【請求項5】
前記緊張材用空洞に外套管を挿通し、前記外套管の周りに充填材を充填すること
を特徴とする請求項2又は3に記載の3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法。
【請求項6】
3Dプリンターを用いてPC部材を製造する3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法であって、
3Dプリンターのコンクリート用又はモルタル用のノズルからコンクリート又はモルタルを吐出して部材本体部及びせん断応力が発生する箇所に抵抗するための金属製の部材を形成すること
を特徴とする3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法。
【請求項7】
前記3Dプリンターの製造方向において前記コンクリート用又はモルタル用のノズルと前記セラミック用又は金属用のノズルを交互に動作して、せん断キーの外周表面に、定着部を構成する同一のセラミック又は金属からなる突起を形成すること
を特徴とする請求項6に記載の3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンターを用いたコンクリート部材及びPC部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、引張力に弱いというコンクリート構造物の弱点を補って大スパン構造物(数10m~100mmを超えるスパンの構造物)を構築可能とするため、荷重によってコンクリートに生ずる引張応力を打ち消す目的で予め圧縮力を付与したPC(プレストレスト コンクリート:Prestressed Concrete)部材が知られている。また、近年、コンクリートや繊維材料を用いて3Dプリンティング装置にて三次元造形物を製造することが行われている。なお、スパンとは、柱芯間距離など、荷重を支持する鉛直構造部材の芯-芯距離を指している。
【0003】
例えば、特許文献1には、3Dプリンティング装置を用いて、セルロースなどの繊維状物質を繊含む三次元造形用組成物の層を形成する層形成工程と、前記層に硬化性を有する結着液を付与する結着液付与工程とを含む一連の工程を繰り返し三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法が記載されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項9、図面の
図1、
図2等参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の三次元造形物の製造方法で製造される三次元造形物は、繊維状物質がセルロース等であり強度が足りず、大規模な構造物とすることはできないという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、型枠内に三次元(立体)繊維構造が成形された繊維製のセル構造体を形成する工程と、該型枠内にコンクリートを充填し、該セル構造体とともに固化させ、繊維製セル構造体をコンクリートの筋繊維構造とした繊維製セル構造コンクリートの製造方法が記載され、繊維製セル構造体にプレストレスを導入した後に、コンクリートを打設すること、及び維製セル構造体を3Dプリンターにより製作することが記載されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、8、11、図面の
図8、
図9等参照)。
【0006】
特許文献2には、3Dプリンターのプログラム制御により、強度を必要とする部位の繊維線材の配置を密にし、その他の部分の繊維線材の配置を粗く配置することが記載されている(特許文献2の明細書の段落[0128]参照)。また、特許文献2には、繊維材がコンクリートを遮断するように密に配置して管状に形成し、プレストレスのための緊張材を通すシース管部を形成し、セメント固化後に、ポストテンションによる機械的プレストレスを導入することも記載されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項9、明細書の段落[0056]参照)。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の繊維製セル構造コンクリートの製造方法では、繊維材を密に吐出するだけで緊張材を挿通する管部を形成できるか不明な上、繊維材を密に配置するだけでは、繊維材同士の接着力や繊維材とコンクリートとの付着力が足りず、大きなプレストレスを掛けることができず、大スパン構造物には適用することができないという問題がある。
【0008】
プレキャスト製ポストテンションPC桁において、ブロック部材をプレストレスにより連結するPC桁などでは、ブロック部材間に発生するせん断力に抵抗する鋼製のせん断キーを設ける。したがって、この鋼製のせん断キーにおいてもコンクリート部材と鋼製のせん断キー部材が確実に一体化されている必要があるが、付着力が足りず、桁高を小さくして対応するしかなく、ブロック部材を連結するPC部材の製造に3Dプリンターを適用するには課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-212060号公報
【特許文献2】特開2017-185798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、大スパン構造物を構築するために大きなプレストレスに対抗可能なPC部材を製造できる3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る3Dプリンターを用いたコンクリート部材の製造方法は、3Dプリンターを用いてコンクリート部材を製造する3Dプリンターを用いたコンクリート部材の製造方法であって、前記3Dプリンターの製造方向においてコンクリート用又はモルタル用のノズルとセラミック用又は金属用のノズルを交互に動作して、コンクリートとセラミック又は金属の接合箇所に隙間を作らずにコンクリートを充填することを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法は、3Dプリンターを用いてPC部材を製造する3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法であって、3Dプリンターのコンクリート用又はモルタル用のノズルからコンクリート又はモルタルを吐出して部材本体部及びプレストレスの緊張力を付与する緊張材を挿通するための緊張材用空洞を構築するとともに、前記緊張材用空洞の長手方向の両端部に、セラミック用又は金属用のノズルからセラミック又は金属を吐出して前記緊張材の定着具を受け止める定着部を形成することを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法は、請求項2に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法において、前記3Dプリンターの製造方向において前記コンクリート用又はモルタル用のノズルと前記セラミック用又は金属用のノズルを交互に動作して、定着部の外周表面に、定着部を構成する同一のセラミック又は金属からなる突起を形成することを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法は、請求項3に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法において、前記突起が定着部の外周表面に沿ってスパイラル状に配列されるように形成することを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法は、請求項2又は3に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法において、前記緊張材用空洞に外套管を挿通し、前記外套管の周りに充填材を充填することを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法は、3Dプリンターを用いてPC部材を製造する3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法であって、3Dプリンターのコンクリート用又はモルタル用のノズルからコンクリート又はモルタルを吐出して部材本体部及びせん断応力が発生する箇所に抵抗するための金属製の部材を形成することを特徴とする。
【0017】
請求項7に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法は、請求項6に係る3Dプリンターの製造方向において、前記コンクリート用又はモルタル用のノズルと前記セラミック用又は金属用のノズルを交互に動作して、せん断キーの外周表面に、定着部を構成する同一のセラミック又は金属からなる突起を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、コンクリート部分と金属等の部分とを交互に構築するので、接合部分のコンクリート側に隙間ができて力の伝達に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0019】
また、請求項2~5に係る発明によれば、大スパン構造物を構築するために大きなプレストレスに対抗可能なPC部材を3Dプリンターにより製造することができる。このため、PC部材の製造が、ほぼ無人で長時間連続して行うことも可能となり、PC部材の製造単価を劇的に低減することができる。
【0020】
特に、請求項3、4に係る発明によれば、定着部に突起を形成するので、定着部と部材本体部との間の付着力が高くなり、より大きなプレストレスを付与することができ、構造物のスパンをさらに大きくすることができる。
【0021】
特に、請求項5に係る発明によれば、緊張材用空洞に外套管を挿通し、外套管の周りに充填材を充填するので、安全に緊張力を付与することができる。
【0022】
特に、請求項6に係る発明によれば、ブロックPC部材をプレストレスにより連結してせん断力に抵抗するためのせん断キーを設置することができる。このため、ブロックPC部材を連結してより大きな橋長にも対応して製造することが可能となり、3Dプリンターにより製造されたPC部材の適用範囲を大きく広げることができる。
【0023】
特に、請求項7に係る発明によれば、せん断キーに突起を形成するので、せん断キーと部材本体部との間の付着力が高くなり、より桁高の大きなPC部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、PC部材の構成を示す側面図である。
【
図2】
図2は、同上のPC部材に緊張材を挿通してプレストレスを付与した状態を示す側面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の部材本体部積層工程を示す工程説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の定着部形成工程を示す工程説明図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の定着部形成工程を拡大して示す工程説明図であり、(a)が部分拡大側面図、(b)が長手方向の端面を示す端面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の外套管設置工程を端面図で示す工程説明図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の外套周り充填材充填工程を端面図で示す工程説明図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の外套管内充填材充填工程を端面図で示す工程説明図である。
【
図9】
図9は、せん断応力が発生する箇所と例示するT桁のせん断キーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法で使用する3Dプリンターは、3DCADなどで作成されたPC部材の3次元データに基づいて複数種類のプリントヘッドノズルから異なる材料を吐出してPC部材の断面形状を積層していくことでPC部材を製造するインクジェット方式の3Dプリンターである。なお、3Dプリンターで積層する方法は、インクジェット法に限られず、熱融解積層法、光造型法、粉末焼結法、シート積層法等他の方法とすることも可能である。
【0027】
本実施形態に係る3Dプリンターは、少なくともプリントヘッドノズルからコンクリートを吐出するコンクリート用のノズルと、プリントヘッドノズルから金属を吐出する金属用のノズルの2種類のプリントヘッドノズルを備えている。但し、コンクリート用のノズルは、プリントヘッドノズルからモルタルを吐出するモルタル用のノズルとしても構わないし、金属用のノズルは、プリントヘッドノズルからセラミックスを吐出するセラミック用のノズルとしても構わない。コンクリートの代わりにモルタルを用いても同等の強度を得ることもできるし、金属の代わりにセラミックスを用いてもコンクリート部分より強度の高い同等の強度を得ることができるからである。
【0028】
また、本発明の実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法で製造するPC部材1は、橋梁の床版やPC建築物の梁や柱などの断面矩形状の直方体のコンクリート部材の長手方向に緊張材を挿通してプレストレスを付与するPC部材を想定している。
【0029】
図1、
図2に示すように、このPC部材1は、主にコンクリートから構成され、断面矩形状の直方体である部材本体部2と、この部材本体部2の長手方向に沿って形成された緊張力を付与する緊張材3を挿通するための複数本の緊張材用空洞30と、これらの緊張材用空洞30の両端部に設けられる緊張材3の定着具4と当接して緊張力を受け止める複数個所の定着部40など、から構成されている。
図1は、PC部材1の構成を示す側面図であり、
図2は、PC部材1に緊張材3を挿通してプレストレスを付与した状態を示す側面図である。
【0030】
(部材本体部積層工程)
本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法では、
図3に示すように、前述の図示しない3Dプリンターのコンクリート用のノズルからコンクリートを吐出して部材本体部2の各層を形成する部材本体部積層工程を行う。
図3は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の部材本体部積層工程を示す工程説明図である。
【0031】
本工程では、セメント、砂などの細骨材、砂利などの粗骨材、水などから構成される所定強度の普通コンクリートや高強度コンクリート(一般に設計強度において35MPa以上の圧縮強度を有するコンクリートを指している)を吐出して部材本体部2の断面を構築していく。
【0032】
但し、コンクリート用のノズルから吐出するコンクリートは、繊維補強コンクリート(FRC:Fiber Reinforced Concrete)とすることが好ましい。鉄筋等を配筋する必要がなくなるからである。ここで、繊維補強コンクリートとは、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどの樹脂繊維やガラス繊維、鋼繊維などの無機繊維を数ミリから数センチに短く切った短繊維をコンクリートに混入した短繊維コンクリートを指している。
【0033】
(定着部形成工程)
前述の部材本体部積層工程を繰り返してコンクリートを吐出して部材本体部2の各層を形成して行き、
図4に示すように、PC部材1の3次元データに基づいて定着部40の位置に達すると、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法では、金属用のノズルから金属を吐出して定着部40を形成する定着部形成工程を行う。
図4は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の定着部形成工程を示す工程説明図である。
【0034】
また、本工程では、
図5に示すように、3Dプリンターの製造方向においてコンクリート用のノズルと金属用のノズルを交互に動作して、定着部40の外周表面に、定着部40を構成する同一の金属からなる突起41を形成することが好ましい。定着部40と部材本体部2との間の付着力が高くなり、より大きなプレストレスを付与することができ、PC部材1を接合することで構築される構造物のスパンをさらに大きくすることができるからである。
図5は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の定着部形成工程を拡大して示す工程説明図であり、(a)が部分拡大側面図、(b)が長手方向の端面を示す端面図である。
【0035】
さらに、本工程では、突起41が定着部40の外周表面に沿ってスパイラル状に配列されるように突起41を形成することが好ましい。緊張材3が捩じれて回転力が作用した場合にも対抗でき、定着部40と部材本体部2との付着が均等に発生するため、プレストレストにより発生する応力が均一に分散できるからである。
【0036】
なお、本工程では、3Dプリンターの製造方向においてコンクリート用のノズルと金属用のノズルを交互に動作して、せん断応力が発生する箇所に抵抗するための金属製の部材を形成することも好ましい。ブロックPC部材をプレストレスにより連結してせん断力に抵抗するためのせん断キーを設置することができるからである。このようにすることにより、ブロックPC部材を連結してより大きな橋長にも対応して製造することが可能となり、3Dプリンターにより製造されたPC部材の適用範囲を大きく広げることができる。
【0037】
せん断応力が発生する箇所としては、例えば、
図9に示すようなプレキャスト製のコンクリート部材であるT桁7同士の接続に使用する金属製のせん断キー8などが挙げられる。コンクリート構造物の中でも比較的大きな力が作用し、コンクリート部材では、耐力が確保できない箇所であるからである。
図9は、せん断応力が発生する箇所と例示するT桁のせん断キーを示す図である。
【0038】
また、前述のように、3Dプリンターの製造方向においてコンクリート用のノズル金属用のノズルを交互に動作して、せん断キーの外周表面に、定着部を構成する同一の金属からなる突起を形成することがさらに好ましい。せん断キー8とT桁7の部材本体部70との間の付着力が高くなり、より桁高の大きなPC部材を製造することができるからである。
【0039】
(部材本体部積層工程)
その後、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法では、再度、3Dプリンターのコンクリート用のノズルからコンクリートを吐出して部材本体部2の各層を形成する部材本体部積層工程を行い、PC部材1を完成させる。
【0040】
(外套管設置工程)
次に、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法では、
図6に示すように、PC部材1に形成された緊張材用空洞30に外套管5を挿通して設置する外套管設置工程を行う。
図6は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の外套管設置工程を端面図で示す工程説明図である。
【0041】
(外套管周り充填材充填工程)
次に、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法では、
図7に示すように、前工程で設置した外套管5の周りの空洞(緊張材用空洞30)に充填材6を充填する外套管周り充填材充填工程を行う。
図7は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の外套管周り充填材充填工程を端面図で示す工程説明図である。
【0042】
(緊張工程)
その後、充填材充填工程で充填した充填材6が硬化し、部材本体部2に所定の強度が発現した後、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法では、外套管5に緊張材3を挿通し、緊張材3の両端に定着具4を設置して緊張材3を緊張してPC部材1にポストテンション方式でプレストレスを付与する緊張工程を行う(
図2参照)。
【0043】
(外套管内充填材充填工程)
その後、
図8に示すように、前工程で設置した外套管5の内部の空洞に充填材6を充填する外套管内充填材充填工程を行う。なお、本工程で充填する充填材6は、外套管5の周りに充填する前述の充填材6と同じであるが、膨張型グラウト材やカルシウムアルミネートなどの防錆効果を有する材料等を添加した他の種類の充填材としても構わない。
図8は、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法の外套管内充填材充填工程を端面図で示す工程説明図である。
【0044】
本工程が完了することにより、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法が完了し、3DプリンターによりPC部材1を製造することができる。
【0045】
以上説明した本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法によれば、大スパン構造物を構築するために大きなプレストレスに対抗可能なPC部材1を3Dプリンターにより製造することができる。また、3DプリンターによりPC部材1を製造可能なため、PC部材1の製造がほぼ無人で長時間連続して行うことも可能となり、PC部材1の製造単価を劇的に低減することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法によれば、定着部40に突起41を形成するので、定着部40と部材本体部2との間の付着力が高くなり、より大きなプレストレスを付与することができ、構造物のスパンをさらに大きくすることができる。
【0047】
その上、本実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法によれば、突起41が定着部40の外周表面に沿ってスパイラル状に配列されるように突起41を形成するので、緊張材3が捩じれて回転力が作用した場合にも対抗することができ、定着部40と部材本体部2との付着が均等に発生するため、プレストレストにより発生する応力が均一に分散でき安全に高いプレストレスを付与することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態に係る3Dプリンターを用いたPC部材の製造方法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0049】
特に、本発明に係るPC部材とは、予めプレストレスが導入される部材を指し、工場等の構造物を構築する現場以外で予め製造するPCaPC部材に限られず、構造物を構築する現場に3Dプリンターを設置して現場打ちRCのPC部材を含んでいる。また、緊張材用空洞は、図示した水平方向に配置される場合に限られず、柱部材のように上下に形成されていたり、緊張材の配置が上下左右に蛇行していたり、床版の鉛直断面の側端から下面に亘って斜めに配置されたりする場合を含んでいる。要するに、定着部は、緊張材の定着具を受け止める位置、即ち、大きな緊張力が作用する緊張端に形成されていればよい。
【0050】
また、3Dプリンターで製造する対象としてPC部材を例示して説明したが、プレストレスが導入されるコンクリート部材に限られず、大きな力が作用するコンクリートと金属やセラミックなどのの複合材の接合部には本発明を適用することができる。従来の3Dプリンターで製造方法だと、コンクリート側だけ先にもしくは金属の定着部だけ先に構築してしまうと、大きな力が作用する接合部分のコンクリートが密に配置されないおそれがあるが、本発明だと、コンクリート部分と金属等の部分とを交互に構築するので、接合部分に隙間ができて力の伝達に悪影響を及ぼすことを防ぐことができるからである。
【符号の説明】
【0051】
1:PC部材
2:部材本体部
3:緊張材
30:緊張材用空洞
4:定着具
40:定着部
41:突起
5:外套管
6:充填材
7:T桁
70:部材本体部
8:せん断キー