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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161802
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241113BHJP
   H02M 3/28 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M3/28 C
H02M3/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076844
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 仁
(72)【発明者】
【氏名】宮島 雄一
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730BB21
5H730BB82
5H730EE72
5H730FD01
5H730XX04
5H730XX13
5H730XX23
5H730XX33
5H730XX50
5H770BA20
5H770CA02
5H770CA03
5H770CA06
5H770DA01
5H770DA11
5H770DA22
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA03Y
5H770HA03Z
5H770LA03Z
5H770LB10
(57)【要約】
【課題】複数のインバータ回路の異常を1つの検出器で検出することが可能な電源装置を提供する。
【解決手段】溶接電源装置A1(電源装置)は、各々がインバータ回路11を含み、互いに並列に接続された複数の電源回路1と、複数の電源回路1の各々の出力のうち出力電圧の値が最も大きい出力を合成出力として出力する出力端9と、複数の電源回路1のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを検出する検出回路2と、を備える。検出回路2は、複数の電源回路1の各々の出力電圧の平均値である平均電圧値を算出する算出部21と、合成出力の電圧値である合成電圧値を検出する出力検出部22と、平均電圧値と合成電圧値とを比較する比較部23と、平均電圧値と合成電圧値とに差がある場合に異常が発生していると判定する判定部24と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がインバータ回路を含み、互いに並列に接続された複数の電源回路と、
前記複数の電源回路の各々の出力のうち出力電圧の値が最も大きい出力を合成出力として出力する出力端と、
前記複数の電源回路の前記インバータ回路のいずれかに異常が発生しているか否かを検出する検出回路と、
を備え、
前記検出回路は、前記複数の電源回路の各々の出力電圧の平均値である平均電圧値を算出する算出部と、前記合成出力の電圧値である合成電圧値を検出する出力検出部と、前記平均電圧値と前記合成電圧値とを比較する比較部と、前記平均電圧値と前記合成電圧値とに差がある場合に前記異常が発生していると判定する判定部と、を含む、電源装置。
【請求項2】
前記複数の電源回路の各々は、トランスと、第1出力部と、第2出力部と、を含み、
前記複数の電源回路の各々において、前記トランスは、前記インバータ回路が接続される一次巻線と、前記第1出力部が接続される二次巻線と、前記第2出力部が接続される補助巻線と、を含み、前記一次巻線への入力電圧を、前記二次巻線および前記補助巻線の各々に変圧して伝送しており、
前記複数の電源回路の各々において、前記インバータ回路は、前記一次巻線に交流電圧を印加し、前記第1出力部は、前記二次巻線から出力される交流電圧を整流して前記出力端に出力し、前記第2出力部は、前記補助巻線から出力される交流電圧を整流して前記検出回路に出力し、
前記算出部は、前記平均電圧値として、前記複数の電源回路の各々の前記第2出力部から入力される電圧の平均値を算出する、請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記検出回路は、前記出力端に負荷が接続されていない無負荷状態において前記異常の発生有無を検出し、
前記合成出力は、前記無負荷状態での前記出力端から出力される無負荷電圧である、請求項1または請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記検出回路は、前記出力端に負荷が接続され且つ前記負荷に電力を出力している動作状態において前記異常の発生有無を検出し、
前記合成出力は、前記動作状態での前記出力端から出力される電圧である、請求項1または請求項2に記載の電源装置。
【請求項5】
前記異常が発生していない状態での前記複数の電源回路の各々の出力電圧の大きさは、互いに同じである、請求項1または請求項2に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大電力(例えば100kW)を出力可能なインバータ装置では、各々がより小さな電力(例えば数十kW)を出力可能な複数のインバータ回路を並列接続することによって、大容量を実現させることがある。例えば、特許文献1には、このようなインバータ装置の一例が開示されている。複数のインバータ回路を並列動作させた場合、複数のインバータ回路のいずれかが故障すると、電流バランスが偏ることによって、二次的に他のインバータ回路に故障または火災が発生することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-19149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のインバータ装置では、複数のインバータ回路の各々に対して、電流を検出し、異常検出回路は、この検出した電流と平均電流とを比較する。そして、各インバータ回路から出力される電流の平均電流からのずれ量を求めることにより、各インバータ回路から出力される電流がアンバランス状態であるか否かを検出している。特許文献1に記載のインバータ装置では、各インバータ回路の電流アンバランスを検出するために、インバータ回路の数と同数の異常検出回路が必要であり、インバータ装置の大型化およびコスト増を招いていた。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、複数のインバータ回路の異常を1つの検出器で検出することが可能な電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によって提供される電源装置は、各々がインバータ回路を含み、互いに並列に接続された複数の電源回路と、前記複数の電源回路の各々の出力のうち出力電圧の値が最も大きい出力を合成出力として出力する出力端と、前記複数の電源回路の前記インバータ回路のいずれかに異常が発生しているか否かを検出する検出回路と、を備え、前記検出回路は、前記複数の電源回路の各々の出力電圧の平均値である平均電圧値を算出する算出部と、前記合成出力の電圧値である合成電圧値を検出する出力検出部と、前記平均電圧値と前記合成電圧値とを比較する比較部と、前記平均電圧値と前記合成電圧値とに差がある場合に前記異常が発生していると判定する判定部と、を含む。
【0007】
前記電源装置の好ましい実施の形態において、前記複数の電源回路の各々は、トランスと、第1出力部と、第2出力部と、を含み、前記複数の電源回路の各々において、前記トランスは、前記インバータ回路が接続される一次巻線と、前記第1出力部が接続される二次巻線と、前記第2出力部が接続される補助巻線と、を含み、前記一次巻線への入力電圧を、前記二次巻線および前記補助巻線の各々に変圧して伝送しており、前記複数の電源回路の各々において、前記インバータ回路は、前記一次巻線に交流電圧を印加し、前記第1出力部は、前記二次巻線から出力される交流電圧を整流して前記出力端に出力し、前記第2出力部は、前記補助巻線から出力される交流電圧を整流して前記検出回路に出力し、前記算出部は、前記平均電圧値として、前記複数の電源回路の各々の前記第2出力部から入力される電圧の平均値を算出する。
【0008】
前記電源装置の好ましい実施の形態において、前記検出回路は、前記出力端に負荷が接続されていない無負荷状態において前記異常の発生有無を検出し、前記合成出力は、前記無負荷状態での前記出力端から出力される無負荷電圧である。
【0009】
前記電源装置の好ましい実施の形態において、前記検出回路は、前記出力端に負荷が接続され且つ前記負荷に電力を出力している動作状態において前記異常の発生有無を検出し、前記合成出力は、前記動作状態での前記出力端から出力される電圧である。
【0010】
前記電源装置の好ましい実施の形態において、前記異常が発生していない状態での前記複数の電源回路の各々の出力電圧の大きさは、互いに同じである。
【発明の効果】
【0011】
本開示の電源装置によれば、複数の電源回路の各々の出力電圧の平均値である平均電圧値と、前記出力端から出力する合成出力の電圧値である合成電圧値とを比較し、平均電圧値と合成電圧値とに差がある場合に異常が発生していると判定する。なお、合成出力は、前記複数の電源回路の各々の出力のうち出力電圧の値が最も大きい出力である。複数のインバータ回路が並列された構成では、合成電圧値は、複数のインバータ回路のいずれかに故障が発生していてもいなくても、複数の電源回路の出力電圧のうちで一番高い値と一致する。一方で、平均電圧値は、複数のインバータ回路のいずれかに故障が発生していると、故障が発生していない場合と比較して、低下する。したがって、複数のインバータ回路のいずれにも故障が発生していなければ、平均電圧値と合成電圧値とが一致するが、複数のインバータ回路のいずれかに故障が発生していれば、平均電圧値と合成電圧値とにズレが生じる。このことから、本開示の電源装置では、平均電圧値と合成電圧値との比較によって、複数のインバータ回路の異常を1つの検出器で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る電源装置(溶接電源装置)を備える溶接システムの構成例を示す図である。
図2】一実施形態に係る電源装置(溶接電源装置)の構成例を示す図である。
図3】一実施形態に係る電源装置(溶接電源装置)において、複数のインバータ回路のいずれにも故障が発生していない状態と、複数のインバータ回路のいずれかに故障が発生している状態とを示した図である。
図4】変形例に係る電源装置(溶接電源装置)の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の電源装置の好ましい実施の形態として、溶接システムに用いられる溶接電源装置を例に、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。なお、本開示の電源装置は、溶接電源装置に用いられるものに限定されず、切断(溶断)システムに用いられるものであってもよい。また、外部電源から入力された電力を、所定の電力に変換して、負荷に出力するものであってもよい。なお、外部電源とは、系統電源(商用電源)、蓄電器(二次電池およびキャパシタを含む)および発電機(再生可能エネルギーを用いるものおよび燃料を用いるものを含む)などである。
【0014】
図1は、一実施形態に係る溶接電源装置A1を備える溶接システムS1の全体構成例を示している。溶接システムS1は、溶接電源装置A1によって商用電源Pから入力される商用電力を溶接電力に変換する。そして、変換した溶接電力を、ワイヤ送給装置B1を介して、溶接トーチT1に供給する。溶接電源装置A1の溶接電力用の一方の出力端子は、ワイヤ送給装置B1を介して、溶接トーチT1に接続され、溶接電源装置A1の溶接電力用の一方の出力端子は、母材Wに接続される。ワイヤ送給装置B1は、溶接ワイヤを溶接トーチT1に送り出して、溶接ワイヤを溶接トーチT1の先端から突出させる。溶接電源装置A1は、溶接トーチT1の先端から突出する溶接ワイヤの先端と母材Wとの間にアークを発生させ、アークに溶接電力を供給する。溶接システムS1は、当該アークの熱で母材Wの溶接を行う。
【0015】
図2は、一実施形態に係る溶接電源装置A1の全体構成例を示している。溶接電源装置A1は、複数の電源回路1、検出回路2および出力端9を備える。溶接電源装置A1は、先述の通り、商用電源Pから入力される商用電力から溶接電力を生成する。そして、生成した溶接電力を、出力端9から出力する。出力端9は、一対の出力端子を有しており、一方の出力端子には、溶接トーチT1が接続され、他方の出力端子には、母材Wが接続される。
【0016】
複数の電源回路1は、互いに並列に接続されている。各電源回路1は、直流電圧を出力する。複数の電源回路1の各出力電圧は、通常(後述のインバータ回路11が正常な時)、互いに同じ大きさである。図2から理解されるように、複数の電源回路1の各出力は、接続点Kを介して出力端9に出力される。図2に示すように、複数の電源回路1はそれぞれ、インバータ回路11、トランス12、第1出力部13および第2出力部14を含む。以下で説明するインバータ回路11、トランス12、第1出力部13および第2出力部14はそれぞれ、特段の断りがない限り、各電源回路1で共通する。なお、以下で説明する各電源回路1の構成は、一例であって、この構成に限定されない。例えば、各電源回路1は、トランス12を含まずに、直流電圧を出力する構成であってもよい。
【0017】
インバータ回路11は、図示しない直流電源から入力される直流電力を交流電力(例えば高周波電力)に変換して出力する。直流電源は、例えば、蓄電器あるいは発電機などの直流電力を出力するものであってもよいし、商用電源Pから入力される商用交流電流を、整流平滑回路で全波整流した後に平滑化し、直流電力に変換して出力するものであってもよい。インバータ回路11は、例えば単相フルブリッジ型のPWM制御インバータである。インバータ回路11は、複数のスイッチング素子を備えており、図示しない制御回路から入力される駆動信号によって各スイッチング素子をスイッチングさせる。この複数のスイッチング素子の各スイッチングにより、直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路11は、直流電力を交流電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
【0018】
トランス12は、インバータ回路11が出力する交流電圧を変圧する。図2に示すように、トランス12は、一次巻線121、二次巻線122および補助巻線123を含む。トランス12は、一次巻線121への入力電圧を、予め設定された変圧比で変圧して、二次巻線122および補助巻線123の各々に伝送する。一次巻線121から二次巻線122への伝送に対しては、一次巻線121と二次巻線122との巻き数比に応じて変圧され、一次巻線121から補助巻線123への伝送に対しては、一次巻線121と補助巻線123との巻き数比に応じて変圧される。
【0019】
一次巻線121の各端子は、インバータ回路11に接続される。一次巻線121には、インバータ回路11が出力する交流電圧が入力される。複数の電源回路1において、各一次巻線121の巻き数は同じである。
【0020】
二次巻線122の各端子は、第1出力部13に接続される。一次巻線121に印加された電圧(交流電圧)は、一次巻線121と二次巻線122との巻き数比に応じて変圧されて、二次巻線122から出力される。複数の電源回路1において、各二次巻線122の巻き数は同じである。
【0021】
補助巻線123の各端子は、第2出力部14に接続される。一次巻線121に印加された電圧(交流電圧)は、一次巻線121と補助巻線123との巻き数比に応じて変圧されて、補助巻線123から出力される。複数の電源回路1において、各補助巻線123の巻き数は同じである。補助巻線123の巻き数と、二次巻線122の巻き数とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。後に後述される構成から理解されるように、二次巻線122にから出力される電圧は、溶接に用いられ、補助巻線123に伝送される電圧は、異常検出に用いられることから、好ましくは、補助巻線123の巻き数は、二次巻線122の巻き数よりも小さい。
【0022】
第1出力部13は、トランス12の二次巻線122から入力される交流電圧を直流電圧に変換(整流)する。第1出力部13は、直流電圧を、接続点Kを介して出力端9に出力する。第1出力部13は、例えば整流回路である。第1出力部13は、整流回路に追加して平滑回路を含んでいてもよい。複数の電源回路1の各第1出力部13から出力された直流電圧は、その値が最も大きいもののみが合成出力として出力端9に出力される。本実施形態では、第1出力部13から直流電圧が出力されることから、出力端9に出力される合成出力は、複数の電源回路1の各出力のうちの出力電圧の値が最も大きい直流電圧である。
【0023】
第2出力部14は、トランス12の補助巻線123から入力される交流電圧を直流電圧に変換(整流)して、検出回路2に出力する。各第2出力部14から出力される電圧は、複数のインバータ回路11の異常の有無を判定するための電圧であり、以下では、当該電圧を「判定用電圧」という。第2出力部14は、例えば整流回路である。第2出力部14は、整流回路に追加して平滑回路を含んでいてもよい。図2に示すように、複数の電源回路1の各第2出力部14から出力された判定用電圧はそれぞれ、検出回路2に出力される。
【0024】
検出回路2は、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否か(異常の発生有無)を検出する。図2に示すように、検出回路2は、算出部21と、出力検出部22と、比較部23と、判定部24とを含む。
【0025】
算出部21には、各電源回路1の第2出力部14から、判定用電圧が入力される。算出部21は、各第2出力部14から入力される判定用電圧を用いて、各電源回路1の出力電圧の平均値(平均電圧値)を算出する。なお、補助巻線123の巻き数が二次巻線122の巻き数と異なる場合には、巻き数の比率に応じた係数を、各判定用電圧に乗算した値を用いて、平均電圧値を算出する。例えば、二次巻線122の巻き数と補助巻線の巻き数との比率がN122:N123である場合、算出部21は、各判定用電圧に係数N122/N123を乗算した値の平均値を平均電圧値として算出する。算出部21は、算出した平均電圧値を比較部23に出力する。
【0026】
出力検出部22は、出力端9から出力される合成出力(合成電圧)の電圧値(合成電圧値)を検出する。出力検出部22は、各電源回路1の出力側の接続点Kと出力端9との間に接続される。出力検出部22は、検出した合成電圧値を比較部23に出力する。
【0027】
比較部23には、算出部21が算出した平均電圧値と、出力検出部22が検出した合成電圧値とがそれぞれ入力される。比較部23は、平均電圧値と合成電圧値との比較を行う。比較部23は、比較結果として、平均電圧値と合成電圧値との差(合成電圧値-平均電圧値)を算出し、判定部24に出力する。
【0028】
判定部24には、比較部23の出力(平均電圧値と合成電圧値との差)が入力される。判定部24は、平均電圧値と合成電圧値との差に基づいて、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを判定する。例えば、判定部24は、平均電圧値と合成電圧値との差(合成電圧値-平均電圧値)が閾値以上あれば、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生していると判定する。当該閾値は、複数のインバータ回路11のすべてが正常な状態での合成電圧値に基づいて、設定される。例えば、合成電圧値が40Vである例において、閾値は10V程度である。閾値は、先述の例に限定されず、例えば1Vであってもよいし、20Vであってもよい。閾値を大きくすると、異常と判定する頻度を少なくできるが、他のインバータ回路11の故障が生じる可能性が高くなる。一方、閾値を小さくすると、他のインバータ回路11の故障が生じる可能性を低くできるが(つまり他のインバータ回路11の故障をより抑制できるが)、異常と判定する頻度が多くなる。
【0029】
本実施形態では、検出回路2は、出力端9に負荷が接続されていない無負荷状態において、複数のインバータ回路11のいずれかの異常の発生有無を検出する。例えば、溶接電源装置A1では、異常の発生有無の検出を、アーク発生前の、溶接トーチT1と母材Wとに無負荷電圧が出力されている状態(この状態が無負荷状態に相当する)で行われる。つまり、先述の合成出力(合成電圧)は、無負荷状態において、出力端9から出力される無負荷電圧である。なお、無負荷状態では、溶接トーチT1と母材Wとの間に電流は流れていない。
【0030】
図3は、複数のインバータ回路11のいずれにも故障が発生していない状態(複数のインバータ回路11のすべてが正常な状態)での動作例と、故障が発生している状態での動作例とを示した図である。図3(a)は、複数のインバータ回路11のいずれにも故障が発生していない状態を示しており、図3(b)は、複数のインバータ回路11のいずれかに故障が発生している状態をそれぞれ示している。図3に示す例において、複数のインバータ回路11が正常な状態では、複数の電源回路1の各々からは、40Vの電圧が出力されるものとする。
【0031】
図3(a)に示すように、複数のインバータ回路11のすべてが正常である場合は、各電源回路1からの出力電圧は、40Vとなる。この場合、算出部21から出力される平均電圧値は、40Vである。また、出力検出部22から出力される合成電圧値は、複数の電源回路1(複数のインバータ回路11)のうちの一番大きな値と一致するので、40Vである。したがって、複数のインバータ回路11のすべてが正常である場合、平均電圧値と合成電圧値とに差がない。
【0032】
これに対して、図3(b)に示すように、複数のインバータ回路11の1つが故障している場合、故障したインバータ回路11を含む電源回路1からの出力電圧は0Vとなり、他の正常なインバータ回路11を含む各電源回路1からの出力電圧は40Vとなる。この場合、算出部21から出力される平均電圧値は、約26.7(≒(0+40+40)/3)Vである。また、出力検出部22から出力される合成電圧値は、複数の電源回路1(複数のインバータ回路11)のうちの一番大きな値と一致するので、40Vである。したがって、複数のインバータ回路11のいずれかに故障が発生していると、平均電圧値と合成電圧値とに差が生じる。図3(b)に示す例では、この差(合成電圧値-平均電圧値)が13.3Vであるので、上記閾値(例えば10V)以上となるので、判定部24によって、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生していると判定される。
【0033】
図3から理解されるように、検出回路2は、平均電圧値と合成電圧値との比較によって、これらに差がある場合に、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを検出することができる。検出回路2は、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生していることを検出すると、異常が発生している旨を、各電源回路1のインバータ回路11(複数のスイッチング素子)を制御する制御回路に出力する。これにより、制御回路が各インバータ回路11を停止させて、溶接電源装置A1は溶接を停止する。これに変えてあるいはこれに追加して、異常が発生している旨を、図示しない報知部(例えば液晶モニタ、表示灯、スピーカなど)に出力する。これにより、報知部が異常を報知し、溶接電源装置A1は利用者に異常を知らせる。
【0034】
溶接電源装置A1では、検出回路2は、各電源回路1の出力電圧の平均値(平均電圧値)と、各電源回路1の出力(直流電圧)のうち出力電圧の値が最も大きい出力である合成出力の電圧値(合成電圧値)とを比較する。そして、この平均電圧値と合成電圧値とに差がある場合に、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生していると判定する。図3に示す例から理解されるように、複数のインバータ回路11が並列された構成では、複数のインバータ回路11のいずれかに故障が発生していてもいなくても、合成電圧値は、複数の電源回路1の各出力電圧のうちで一番高い値と一致する。一方で、複数のインバータ回路11のいずれかに故障が発生していると、平均電圧値は、故障が発生していない場合と比較して、低下する。したがって、複数のインバータ回路11のいずれにも故障が発生していなければ、平均電圧値と合成電圧値とが一致するが、複数のインバータ回路11のいずれかに故障が発生していれば、平均電圧値と合成電圧値とにズレが生じる。このため、検出回路2は、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを検出することができる。したがって、溶接電源装置A1は、複数のインバータ回路11に対して、1つの検出回路2で、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを検出できる。
【0035】
溶接電源装置A1では、各電源回路1のトランス12は、一次巻線121と二次巻線122と補助巻線123とを含む。この構成によれば、異常を検出するための回路(検出回路2)と、溶接電力を伝送する回路とを、別にすることができる。したがって、例えば溶接作業時において、検出回路2に大きな電力が入力されないので、検出回路2の電気的な耐性を抑制することができる。これにより、溶接電源装置A1は、検出回路2のコストを低減することができる。
【0036】
溶接電源装置A1では、平均電圧値と合成電圧値との比較によって、複数のインバータ回路11のいずれかの異常を検出する。この構成によれば、溶接電源装置A1に電流が流れていない状態でも、異常の発生有無を検出できるので、無負荷状態においても、異常の発生有無を検出することができる。これに対して、特許文献1に記載のインバータ装置においては、一次側に電流が流れないと、並列運転異常を検出することができないため、無負荷状態での検出が困難であった。つまり、溶接電源装置A1は、溶接を行う前に、複数のインバータ回路11のいずれかの異常を検出できるので、複数のインバータ回路11の故障が生じている状態での溶接を抑制できる。
【0037】
上記実施形態では、判定部24は、平均電圧値と合成電圧値との差(合成電圧値-平均電圧値)が閾値以上ある場合に、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生していると判定する例を示した。この例とは異なり、判定部24は、平均電圧値が合成電圧値の判定割合(例えば80%)以下である場合に、異常が発生していると判定してもよい。あるいは、判定部24は、平均電圧値が、合成電圧値(例えば40V)に上記閾値(例えば10V)を減算した値(例えば30V)以下である場合に、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生していると判定してもよい。このように、本開示の電源装置は、平均電圧値と合成電圧値との比較によって、複数のインバータ回路11のいずれかでの異常の発生有無を検出するものであれば、平均電圧値と合成電圧値との比較方法は何ら限定されない。
【0038】
上記実施形態では、トランス12は、補助巻線123を含む例を示した。この例とは異なり、補助巻線123を含んでいなくてもよい。図4は、このような変形例に係る溶接電源装置A11を示している。図4に示すように、溶接電源装置A11では、各第1出力部13の出力側の電力線は、二分岐されており、分岐後の一方を出力端9に、分岐後の他方を検出回路2にそれぞれ接続されている。これにより、各第1出力部13の出力を、接続点Kを介して出力端9に出力されるものと、検出回路2(算出部21)にそれぞれ出力されるものとを分けることができる。
【0039】
上記実施形態では、検出回路2は、アークが発生していない無負荷状態において、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを検出する例を示した。この例とは異なり、検出回路2は、溶接中に、複数のインバータ回路11のいずれかに異常が発生しているか否かを検出してもよい。この例では、複数の電源回路1の合成出力は、アークに溶接電力を出力している動作状態(アークが発生している溶接時)での、出力端9から出力される電圧(溶接電力における溶接電圧)である。このように、本開示の電源装置は、無負荷状態において異常の発生有無を検出するものに限定されず、負荷に電力を出力している動作状態(アークに溶接電力を出力する溶接時)において異常の発生有無を検出するものも含む。
【0040】
本開示に係る電源装置は、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示の電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0041】
A1,A11:溶接電源装置(電源装置)、1:電源回路、11:インバータ回路、12:トランス、121:一次巻線、122:二次巻線、123:補助巻線、13:第1出力部、14:第2出力部、2:検出回路、21:算出部、22:出力検出部、23:比較部、24:判定部、9:出力端
図1
図2
図3
図4