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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161805
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】地盤構造推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20240101AFI20241113BHJP
【FI】
G01V1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076851
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 由訓
(72)【発明者】
【氏名】小島 宏章
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB01
2G105LL03
2G105LL04
2G105LL05
2G105LL06
2G105NN01
(57)【要約】
【課題】複数の観測地点の振動のデータに基づいて地盤構造を推定するための作業を容易にすること。
【解決手段】各々1つ又は複数の振動測定器が設置された複数の建設現場の前記振動測定器の測定データを取得する工程と、前記複数の建設現場でそれぞれ測定された前記測定データに基づいて、当該建設現場と、当該建設現場以外の土地と、の少なくとも一方である対象地の地盤構造を推定する工程と、を有することを特徴とする地盤構造推定方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々1つ又は複数の振動測定器が設置された複数の建設現場の前記振動測定器の測定データを取得する工程と、
前記複数の建設現場でそれぞれ測定された前記測定データに基づいて、当該建設現場と、当該建設現場以外の土地と、の少なくとも一方である対象地の地盤構造を推定する工程と、
を有することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤構造推定方法であって、
前記複数の建設現場のそれぞれで特定時刻に測定された前記測定データを取得し、
取得した前記測定データから各周波数における位相速度を示す分散特性を求め、
前記分散特性に基づいて、前記対象地の地盤の深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の地盤構造推定方法であって、
前記測定データは、水平方向の振動データと、鉛直方向の振動データとを含み、
前記水平方向の振動データから求まる水平方向スペクトルを、前記鉛直方向の振動データから求まる鉛直方向スペクトルで除したH/Vスペクトルを算出し、
前記H/Vスペクトルに基づいて、前記対象地の地盤の深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の地盤構造推定方法であって、
前記測定データは、水平方向の振動データと、鉛直方向の振動データとを含み、
前記水平方向の振動データから求まる水平方向スペクトルを、前記鉛直方向の振動データから求まる鉛直方向スペクトルで除したH/Vスペクトルを算出し、
前記H/Vスペクトルに基づいて、前記対象地の地盤の深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の地盤構造推定方法であって、
前記複数の建設現場それぞれの前記H/Vスペクトルに基づいて、前記対象地の工学的基盤以深における深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項6】
請求項2から4の何れか1項に記載の地盤構造推定方法であって、
前記建設現場以外の土地である前記対象地の工学的基盤以深における深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載の地盤構造推定方法であって、
前記振動測定器は、設置された前記建設現場の振動を継続的に測定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項8】
請求項1~4の何れか1項に記載の地盤構造推定方法であって、
前記建設現場の工事時間外に前記振動測定器が測定した前記測定データに基づいて、前記対象地の地盤構造を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項9】
請求項1~4の何れか1項に記載の地盤構造推定方法であって、
地盤構造の推定に用いられる前記測定データは、前記建設現場以外で発生した振動のデータであることを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項10】
請求項1~4の何れか1項に記載の地盤構造推定方法であって、
前記振動測定器が測定した前記測定データは、クラウドサーバーに保存されることを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項11】
請求項1~4の何れか1項に記載の地盤構造推定方法であって、
前記振動測定器は、前記建設現場の外から振動値を視認可能に表示することに利用される測定器であることを特徴とする地盤振動推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤構造推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木や建築等に際して現場の地盤構造を探査する需要がある。地球表面では地震時でなくとも常に小さく揺れており、微動(微弱な振動)が生じている。この微動を測定することにより、地盤構造を推定する方法が提案されている。
例えば表面波には周波数によって位相速度が変わる分散の性質がある。そこで、特許文献1では、仮想円の中心と仮想円の周上に等間隔に配置された複数の振動観測器材によって観測された微動から表面波を抽出し、表面波の分散曲線を求め、最終的に各地層のS波速度とそれに対応する地層を解析し、観測地点の地下構造(地盤構造)を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-287865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、地盤構造を推定する為に、微動を測定する振動測定器を、例えば道路等の公有地に設置する場合には使用手続きを申請したり、私有地に設置する場合には所有者に使用許可を得たり、使用料を払ったりする必要がある。また、ノイズの少ないデータが得られるように、振動測定器を夜間に設置する等、測定器の設置時間が限定される場合もある。このように振動測定器の設置は大変な作業である。そのため、特許文献1のように複数の観測地点のデータに基づいて地盤構造を推定する場合には、作業の煩雑さが増大する。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の観測地点の振動のデータに基づいて地盤構造を推定するための作業を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、各々1つ又は複数の振動測定器が設置された複数の建設現場の前記振動測定器の測定データを取得する工程と、前記複数の建設現場でそれぞれ測定された前記測定データに基づいて、当該建設現場と、当該建設現場以外の土地と、の少なくとも一方である対象地の地盤構造を推定する工程と、を有することを特徴とする地盤構造推定方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の観測地点の振動のデータに基づいて地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】地盤構造を推定する対象地ptと複数の建設現場pcの一例を示す図である。
図2】建設現場pcに設置される振動測定器10の説明図である。
図3】第1実施形態における地盤構造推定方法のフロー図である。
図4】測定データの収集システムを示すブロック図である。
図5】各方向の揺れ(振動)の測定結果を説明する模式図である。
図6図6A図6Dは、微動アレイ探査法による地盤構造推定方法の説明図である。
図7図7A図7Dは、H/Vスペクトルに基づく地盤構造推定方法の説明図である。
図8】第2実施形態における地盤構造推定方法のフロー図である。
図9】第3実施形態における地盤構造推定方法のフロー図である。
図10】第4実施形態における地盤構造推定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
(態様1)
各々1つ又は複数の振動測定器が設置された複数の建設現場の前記振動測定器の測定データを取得する工程と、前記複数の建設現場でそれぞれ測定された前記測定データに基づいて、当該建設現場と、当該建設現場以外の土地と、の少なくとも一方である対象地の地盤構造を推定する工程と、を有することを特徴とする地盤構造推定方法。
【0011】
態様1によれば、公有地や私有地に振動測定器を設置するための申請手続きなどの作業を省くことができる。また、建設現場であれば振動測定器を設置する時間の自由度が高い。したがって地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。また建設現場は数多く存在するため、測定データを取得する建設現場の選択肢が多く、地盤構造推定のための建設現場を選択しやすい。
【0012】
(態様2)態様1に記載の地盤構造推定方法であって、
前記複数の建設現場のそれぞれで特定時刻に測定された前記測定データを取得し、取得した前記測定データから各周波数における位相速度を示す分散特性を求め、前記分散特性に基づいて、前記対象地の地盤の深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする。
【0013】
態様2によれば、対象地の地盤構造を推定できる。また、複数の観測地点のデータに基づいて地盤構造を推定するが、建設現場に設置された振動測定器の測定データを利用することで、地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。また、建設現場であれば振動測定器を長期間に亘り設置しやすいので、複数の建設現場の特定時刻の測定データを収集しやすい。
【0014】
(態様3)態様項2に記載の地盤構造推定方法であって、
前記測定データは、水平方向の振動データと、鉛直方向の振動データとを含み、前記水平方向の振動データから求まる水平方向スペクトルを、前記鉛直方向の振動データから求まる鉛直方向スペクトルで除したH/Vスペクトルを算出し、前記H/Vスペクトルに基づいて、前記対象地の地盤の深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする。
【0015】
態様3によれば、対象地の地盤構造を推定できる。また、位相速度の分散特性に基づく地盤構造と、H/Vスペクトルに基づく地盤構造が得られるため、精度良く、地盤構造を推定できる。また、H/Vスペクトルからの推定方法は1つの建設現場の測定データから当該建設現場の地盤構造を推定でき、比較的に容易に地盤構造を推定できる。
【0016】
(態様4)態様1に記載の地盤構造推定方法であって、
前記測定データは、水平方向の振動データと、鉛直方向の振動データとを含み、前記水平方向の振動データから求まる水平方向スペクトルを、前記鉛直方向の振動データから求まる鉛直方向スペクトルで除したH/Vスペクトルを算出し、前記H/Vスペクトルに基づいて、前記対象地の地盤の深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする。
【0017】
態様4によれば、対象地の地盤構造を推定できる。また、複数の建設現場の測定データを取得する場合であっても、H/Vスペクトルであれば、複数の建設現場の同時刻の測定データを取得する必要がない。また、例えばSPAC法を用いるときは仮想円上の測定値を選択する必要があるが、H/Vスペクトルであれば、データを取得する建設現場の配置が限定され難く、建設現場を選択しやすい。よって、比較的に容易に対象地の地盤構造を推定できる。
【0018】
(態様5)態様3又は態様4に記載の地盤構造推定方法であって、
前記複数の建設現場それぞれの前記H/Vスペクトルに基づいて、前記対象地の工学的基盤以深における深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする。
【0019】
態様5によれば、H/Vスペクトルに基づき建設現場ごとの地盤構成が推定されるが、工学的基盤以深の地盤構造であれば、複数の建設現場で共通している確率が高い。そのため、複数の建設現場の工学的基盤以深の地盤構造に基づいて対象地の地盤構造を推定できる。その際も、H/Vスペクトルであれば、複数の建設現場の同時刻の測定データを取得する必要がない。また、例えばSPAC法を用いるときは仮想円上の測定値を選択する必要があるが、H/Vスペクトルであれば、データを取得する建設現場の配置が限定され難く、建設現場を選択しやすい。よって、複数の建設現場の工学的基盤以深の地盤構造に基づいて、比較的に容易に対象地の地盤構造を推定できる。
【0020】
(態様6)態様2から態様4の何れかに記載の地盤構造推定方法であって、
前記建設現場以外の土地である前記対象地の工学的基盤以深における深度とせん断波速度の関係を推定することを特徴とする。
【0021】
態様6によれば、建設現場(観測地点)以外の土地を対象地とした場合も、工学的基盤以深の地盤構造であれば、建設現場と対象地で共通している確率が高い。そのため、対象地の工学的基盤以深の地盤構造を推定できる。
【0022】
(態様7)態様1~態様6の何れかに記載の地盤構造推定方法であって、
前記振動測定器は、設置された前記建設現場の振動を継続的に測定することを特徴とする。
【0023】
態様7によれば、地盤構造を推定するために適した測定データ、例えば建設現場の工事による振動(ノイズ)の影響のない測定データを取得できる。また、建設現場で発生する様々な揺れの測定データを取得でき、揺れの種類や大きさによる地盤の揺れ方の違い(卓越振動数)を把握することもできる。よって、精度良く、地盤構造を推定できる。
【0024】
(態様8)態様1~態様7の何れかに記載の地盤構造推定方法であって、
前記建設現場の工事時間外に前記振動測定器が測定した前記測定データに基づいて、前記対象地の地盤構造を推定することを特徴とする。
【0025】
態様8によれば、建設現場の工事による振動(ノイズ)の影響のない測定データを取得できる。よって、精度良く、地盤構造を推定できる。
【0026】
(態様9)態様1~態様8の何れかに記載の地盤構造推定方法であって、
地盤構造の推定に用いられる前記測定データは、前記建設現場以外で発生した振動のデータであることを特徴とする。
【0027】
態様9によれば、建設現場の工事による振動(ノイズ)の影響がなく、遠方にて発生した自然振動や人工振動による微動のデータに基づいて、精度良く、地盤構造を推定できる。
【0028】
(態様10)態様1~態様9の何れかに記載の地盤構造推定方法であって、
前記振動測定器が測定した前記測定データは、クラウドサーバーに保存されることを特徴とする。
【0029】
態様10によれば、複数の建設現場で測定されたデータが一元的に管理されるので、複数の建設現場の測定データを容易に収集できる。したがって地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。
【0030】
(態様11)態様1~態様10の何れかに記載の地盤構造推定方法であって、
前記振動測定器は、前記建設現場の外から振動値を視認可能に表示することに利用される測定器であることを特徴とする地盤振動推定方法。
【0031】
態様11によれば、表示のために建設現場に設置されている振動測定器を利用でき、地盤構造を推定するために振動測定器を設置する作業を省くことができる。したがって地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。
【0032】
===第1実施形態===
図1は、地盤構造を推定する対象地ptと複数の建設現場pcの一例を示す図である。図2は、建設現場pcに設置される振動測定器10の説明図である。図3は、第1実施形態における地盤構造推定方法のフロー図である。図4は、測定データの収集システムを示すブロック図である。図5は、各方向の揺れ(振動)の測定結果を説明する模式図である。
【0033】
建物、橋、道路等の構造物の建設工事にて発生する振動が近隣住民に及ぼす影響は大きく、法や条例により振動についての基準が定められている。そのため、図2に示すように建設現場pcには振動測定器10が設置されることが多く、工事により発生する振動が監視されている。
【0034】
振動を監視する方法としては、具体的には、建設現場pcの仮囲い1等に設置されたモニター2に振動測定器10の測定値である振動値をリアルタイムで表示したり、振動測定器10の測定値が予め設定された閾値を超えたときに警報を発したり、工事関係者がスマートフォン等の端末から振動測定器10の測定値を取得可能にしたりする方法を例示できる。そうすることで、工事により発生する振動が基準値を超えないように工事作業を進めることができる。特に振動値を仮囲い1に表示する等して、建設現場の外から振動値を視認可能に表示することで、近隣住民の不安を軽減したり、近隣住民からの信頼感が得られるようになったりする。なお、モニター2には振動値と共に騒音値が表示されてもよい。
【0035】
一方、構造物の建築等に際して地盤構造を探査することが求められている。地球表面では地震時でなくとも常に小さく揺れており、微動(微弱な振動)が生じている。この微動を測定することにより、地盤構造を推定する方法が種々提案されている。第1実施形態、及び後述の第2~第4実施形態では、複数の観測地点の微動のデータに基づいて、地盤構造を推定する方法を実施する。
【0036】
しかし、地盤構造を推定する為に、微動を測定する振動測定器を、例えば道路等の公有地に設置する場合には使用手続きを申請したり、私有地に設置する場合には所有者に使用許可を得たり、使用料を払ったりする必要がある。また、ノイズの少ないデータが得られるように、振動測定器を夜間に設置する等、測定器の設置時間が限定される場合もある。このように振動測定器の設置は大変な作業である。その上、本実施形態のように複数の観測地点の微動(振動)のデータに基づいて地盤構造を推定する場合には、複数の観測地点に振動測定器を設置しなければならず、作業の煩雑さが増大する。
【0037】
そこで、第1実施形態では、振動測定器10が設置された複数の建設現場pc1~pc4の振動測定器10の測定データを取得する工程(図3のS02)と、複数の建設現場pc1~pc4でそれぞれ測定された測定データ(微動のデータ)に基づいて、当該建設現場pc1~pc4と、当該建設現場pc1~pc4以外の土地と、の少なくとも一方である対象地ptの地盤構造を推定する工程(S03~S13)とを実施する。
【0038】
なお、建設現場pcを対象地ptとする場合、対象地ptは測定データを取得した前記複数の建設現場pc1~pc4の中の1つであっても複数であってよい。また、建設現場pc以外の土地を対象地ptとする場合も、1つの土地を対象地ptとしてもよいし、複数の土地を対象地ptとしてもよい。図1では、測定データを取得した建設現場pc1~pc4以外の1つの土地を対象地ptとする場合を例示している。
【0039】
地盤構造を推定するための振動測定器10を建設現場pcに設置することで、公有地や私有地を使用するための手続きの申請や使用料の支払いが不要となる。よって、振動測定器10の設置作業を容易にでき、その結果、地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。
さらに、建設現場pcであれば、振動測定器10の設置時間の自由度が高まる。例えばノイズの少ない夜間のデータを取得するために振動測定器10を夜間に設置することなく、昼間に設置することができる。また、建設現場pcであれば、長期間に亘り振動測定器10を設置しやすい。よって、適切な時間帯(例えばノイズの少ない夜間や休日)のデータを取得しやすくなる。
また、建設現場pcは数多く存在するため、測定データを取得する建設現場pcの選択肢が多い。そのため、地盤構造推定のために適した建設現場pcを選択できる。例えばSPAC法を用いる場合などには仮想円上に位置する建設現場pcを選択しやすくなる。
【0040】
また、前述したように、建設現場pcには、仮囲い1に振動値を表示する等して建設現場pcの外から振動値を視認可能に表示するために、振動測定器10が設置されていることが多い。そこで、本実施形態では、建設現場の外から振動値を視認可能に表示することに利用される振動測定器10を用いて、地盤構造推定のための微動のデータを取得する。具体的には、建設現場pcの外に設置されたモニター2に振動測定器10の測定データを視認可能に表示するために利用される測定データを用いて、地盤構造を推定する。
【0041】
そうすることで、建設現場pcに元々設置されていた振動測定器10が測定した微動のデータを用いて地盤構造を推定でき、地盤構造を推定するために振動測定器10を設置する作業を省くことができる。よって、地盤構造を推定するための作業をさらに容易にすることができる。換言すると、工事による振動値を表示するために利用していた振動測定器10のデータを有効活用できる。
【0042】
ただし上記に限定されない。例えば振動値を表示すること以外の方法によって工事の振動を監視するために建設現場pcに設置されていた振動測定器10を用いて、地盤構造を推定してもよい。また、工事の振動を監視(表示等)するために設置されていた振動測定器10とは別に、地盤構造を推定するためだけの振動測定器10を建設現場pcに設置してもよい。
【0043】
次に、第1実施形態の地盤構造推定方法について図3のフローを用いて説明する。
先ず振動測定器10が設置されている稼働中の複数の建設現場pcの中から、対象地ptの地盤構造を推定するために測定データを取得する建設現場pc1~pc4を複数選択する(S01)。図1では4つ建設現場pc1~pc4を選択した場合を例示するが、選択する建設現場pcの数は2つ以上であればよい。
【0044】
建設現場pcに設置されている振動測定器10は、地盤構造を推定するための微動のデータを測定できるものであれば、特に制限はなく、周知の振動測定器を使用できる。本実施形態の振動測定器10としては、図4に示すように、水平2成分(x方向、y方向)と鉛直成分(z方向)の3成分のセンサー11と、記憶部12と、通信部13と、制御部14と、を有するものを例示する。振動測定器10は、仮囲い1に取り付けられたモニター2と有線又は無線(例えばBluetooth(登録商標)など)で接続されている。制御部14は、センサー11が測定した振動値をモニター2に送信するように通信部13を制御する。モニター2は振動測定器10から受信した振動値を表示する。
【0045】
また、振動測定器10(センサー11)は、図2に示すように、x方向の正が東(負が西)、y方向の正が北(負が南)、z方向の正が上(負が下)となるように、地面上に設置されている。なお、振動測定器10は、地表面や建物の基礎部など、地盤構造を推定するためのデータを取得可能な場所に適宜設置されていればよい。そして、振動測定器10は、x方向、y方向、z方向の各成分の揺れの大きさ(変位、速度、加速度など)を同時に測定し記憶する。これにより、図5のように各方向の振動(微動)が測定される。例えば、地盤の東西の揺れはx方向の成分として測定される。なお、振動測定器10が揺れを測定する水平2成分は、東西方向及び南北方向に限定されないが、直交(90度に交差)する2方向とする。また、複数の建設現場pcにそれぞれ設置される振動測定器10(センサー11)の水平2成分は同一の方向とすることが好ましい。例えば、図2の建設現場pcとは異なる建設現場pcに設置される振動測定器10についても、x方向を東西方向とし、y方向を南北方向とする。ただし上記に限らず振動測定器10の設置方向が分かれば補正することも可能である。
【0046】
次に、選択した複数の建設現場pc1~pc4のそれぞれで特定時刻に測定された測定データ(微動データ)を取得する(S02)。
【0047】
本実施形態では、図4に示すように、各建設現場pcの振動測定器10は、ネットワークNを介してクラウドサーバー20に接続されている。詳しくは、振動測定器10は、有線又は無線(例えばWi-Fi(登録商標)など)でネットワークNに接続されている。振動測定器10の制御部14は、センサー11が測定した測定データをクラウドサーバー20に送信するように通信部13を制御する。
【0048】
クラウドサーバー20としては、記憶部21と、通信部22と、制御部23とを有するものを例示する。クラウドサーバー20では、各建設現場pcの測定データを通信部22が受信すると、制御部23は、振動データベースを作成して記憶部21に記憶させる。振動データベースとしては、測定データを建設現場pcごとに、建設現場pcの名称や位置や測定時刻などを対応付けたデータ群である。
【0049】
このように複数の建設現場pcとクラウドサーバー20がネットワークNで接続された測定データの収集システムを構成するとよい。そして、各建設現場pcに設置された振動測定器10が測定した測定データは、クラウドサーバー20に保存されることが好ましい。
【0050】
そうすることで、複数の建設現場pcで測定されたデータを、ネットワークNを利用して一元的に管理できる。そのため、地盤構造を推定する作業者はクラウドサーバー20にアクセスするだけで、地盤構造の推定に使用したい複数の土地(選択した建設現場pc1~pc4)の微動のデータを取得できる。ゆえに、建設現場pcを訪れて振動測定器10から測定データを回収する作業などを不要にでき、地盤構造を推定するための作業を容易にすることができる。
【0051】
また、クラウドサーバー20であれば、複数の作業者(例えば別の土地の地盤構造を推定する作業者や建設現場pcの監督者など)がアクセスして測定データを取得しやすく、各建設現場pcのデータを共有しやすくなる。また、複数の建設現場pcで測定された大容量のデータであっても保存しやすかったり、稼働中の建設現場pcの数によってクラウドサーバー20の記憶部21の容量を調整しやすかったりする。
【0052】
しかし、クラウドサーバー20に限らず、測定データを一元管理可能なサーバー(コンピューター)に蓄積するようにしてもよい。又は、地盤構造を推定する作業者が建設現場pcを訪れたり、建設現場pcの作業員と連絡したりすることにより、各建設現場pcの測定データを個別に収集してもよい。
【0053】
また、クラウドサーバー20の記憶部21(振動データベース)に蓄積されている測定データのうち、建設現場pcの工事時間外に振動測定器10が測定した測定データを取得するとよい。そして、建設現場pcの工事時間外に振動測定器10が測定した測定データに基づいて、対象地ptの地盤構造を推定することが好ましい。
【0054】
地盤構造の推定は地盤の微動(小さな振動)に基づき推定される。そのため、観測地点において工事により発生する大きな振動はノイズ成分となる。したがって、上記のように、工事が行われていない夜間や休日などに測定された測定データを利用することで、精度良く、対象地ptの地盤構造を推定できる。
【0055】
また、地盤構造の推定に用いられる測定データは、建設現場pc以外で発生した振動のデータであることが好ましい。つまり、観測地点である建設現場pcで工事により発生する大きな振動ではなく、遠方にて発生した自然振動(例えば波浪による振動)や人工的な振動(例えば交通による振動)が地盤を伝って建設現場pcまで伝播した微動に基づき、地盤構造を推定するとよい。そうすることで、建設現場pcで発生する大きな振動(ノイズ成分)を含まない測定データを利用して、精度良く、対象地ptの地盤構造を推定できる。
【0056】
そのために、振動測定器10は、設置された建設現場pcの振動を継続的に測定することが好ましい。継続的に測定するとは、建設現場pcに振動測定器10が設置されてから工事が終了するまでの少なくともの一部の期間に連続して(1日当たり24時間)測定する。
【0057】
そうすることで、継続的に測定されたデータの中から地盤構造の推定に適した測定データ、すなわち工事による振動などのノイズを含まない測定データを取得できる。また、建設現場pcで発生する様々な揺れの測定データを取得でき、揺れの種類や大きさによる地盤の揺れ方の違い(卓越振動数)を把握することもできる。よって、精度良く、対象地ptの地盤構造を推定できる。また、日中に測定されたデータは、工事による振動を監視(表示など)するために利用できる。また、本実施形態では建設現場pcに振動測定器10を設置する。そのため、交通の妨げなどの問題が生じることなく継続的に振動を測定できる。ただし上記に限らず、例えば地盤構造を推定するために必要な期間だけ測定してもよい。
【0058】
次に、複数の建設現場pc1~pc4から取得した測定データ(微動データ)に基づき、対象地ptの地盤構造を推定する。第1実施形態では、微動アレイ探査法と、H/Vスペクトルに基づく2つの推定方法を実施する。
【0059】
図6A図6Dは、微動アレイ探査法による地盤構造推定方法の説明図である。
「微動アレイ探査法」では、平面的に展開した複数の観測地点にて同時刻に微動を測定し、観測地点の地盤の表面波の周波数成分ごとの位相速度を求める。表面波には、周波数によって位相速度が変わる分散の性質があり、この分散の性質は地盤構造と密接に関係している。そのため分散特性の逆解析により観測地点の地盤構造を推定する方法が提案されている。第1実施形態では周知の微動アレイ探査方法を活用し、地盤構造を推定する。
【0060】
そのために、第1実施形態では、選択した複数の建設現場pc1~pc4のそれぞれで特定時刻(同時刻)に測定された測定データを取得し、取得した測定データから各周波数における位相速度を示す分散特性を求める。その分散特性に基づいて、対象地ptの地盤の深度とせん断波速度の関係を推定する。
【0061】
そうすることで、対象地ptの地盤構造を推定できる。特に本実施形態では、仮囲い1への表示等を行う振動測定器10を利用したり、複数の建設現場pcの測定データが一元管理されたりしている。そのため、微動アレイ探査法のように複数の観測地点で測定された微動のデータに基づき地盤構造を推定する場合であっても、微動のデータを容易に収集できる。また、建設現場pcであれば長期間に亘り振動測定器10を設置しやすく、同時期に稼働している建設現場pcを選択することで、同時刻に測定された微動のデータも容易に収集できる。
【0062】
具体的には、まず、観測された微動データ(図5)から各周波数における位相速度を示す分散特性を求める(S03)。分散特性は、図6Aに示すように、横軸(パラメーター)を周波数とし、縦軸を位相速度とした、分散曲線にて表現される。この測定データに基づく位相速度の分散特性を本明細書では「測定分散特性」とも称す。微動データから位相速度を推定する方法としては、SPAC法やF-K法などの周知の微動アレイ探査法に基づき推定できる。
【0063】
次に、図6Bの左図に示すように、理論上の地盤モデル(地盤の深度(m)とせん断波速度(m/s)の関係)を作成する。理論上の地盤モデルは、例えば観測地点(建設現場pc)の近傍にて過去に調査された地盤構造のデータに基づき作成するとよい。そして、理論上の地盤モデルから、図6Bの右図に示すように、各周波数における位相速度を示す分散特性を求める(S04)。この理論上の分散特性を本明細書では「理論分散特性」とも称す。
【0064】
次に、図6Cに示すように、測定分散特性と理論分散特性の比較を行い、両者が近似しているかを判定する(S05)。理論分散特性が測定分散特性と異なる場合、理論上の地盤モデル(図6Bの左図)を修正する(S06)。そして、再度、理論上の位相速度の分散特性(図6Bの右図)を求め、測定分散特性と理論分散特性の比較を行う。理論分散特性が測定分散特性に近似(一致又は類似)するまで、上記の工程を繰り返す。この解析には、非線形最小2乗法、遺伝的アルゴリズムなど、周知の最適化方法を適用できる。
【0065】
そして、測定分散特性に近似した理論分散特性を作成した時の理論上の地盤モデルを、観測地点(測定データを取得した建設現場pc1~pc4)の地盤構造(図6D)に決定する(S07)。
【0066】
図7A図7Dは、H/Vスペクトルに基づく地盤構造推定方法の説明図である。
「H/Vスペクトル」は、1地点において観測した微動の3成分観測記録のうち、水平動のスペクトル(H)を鉛直動のスペクトル(V)で除算したスペクトルである。H/Vスペクトルは、表面波の特性に支配されているとし、H/Vスペクトルの逆解析による地盤構造の推定方法が提案されている。第1実施形態ではH/Vスペクトルによる周知の推定方法を活用し、地盤構造を推定する。例えば、文献(新井洋、時松孝次「微動H/Vスペクトルの逆解析による地盤のS波速度構造推定」日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)1998年9月)の記載に基づいて、適宜推定できる。
【0067】
そのために、第1実施形態では、振動測定器10が水平方向と鉛直方向の振動を測定可能とし、建設現場pcに設置された振動測定器10から取得する測定データは、水平方向(x方向、y方向)の振動データと、鉛直方向(z方向)の振動データとを含むものとする。そして、水平方向の振動データから求まる水平方向スペクトル(H)を、鉛直方向の振動データから求まる鉛直方向スペクトル(V)で除したH/Vスペクトルを算出し、そのH/Vスペクトルに基づいて、対象地ptの地盤の深度とせん断波速度の関係を推定する。
【0068】
そうすることで、対象地ptの地盤構造を推定できる。また、H/Vスペクトルは1地点において測定される。そのため、測定データを取得した複数の建設現場pc1~pc4のそれぞれについてH/Vスペクトルが求まり、各H/Vスペクトルに基づき地盤構造が推定される。したがって、本実施形態のように複数の建設現場pc1~pc4から測定データを取得する場合、建設現場pc1~pc4ごとに、H/Vスペクトルに基づく地盤構造が推定される。そのため、複数の地盤構造の推定結果に基づいて、測定誤差などによる地盤構造の推定誤差を抑止でき、精度良く推定できる。
【0069】
具体的には、建設現場pc1~pc4の測定データごとに、以下の工程を実施する。まず、ある建設現場pcn(n=1~4)にて観測された各成分(x、y、z)の微動データ(図5)を周波数分析(例えば高速フーリエ変換:FFT分析)し、x方向、y方向、z方向の各スペクトル(Hx、Hy、V)を算出する。図示しないが、微動のスペクトルは、横軸(パラメーター)を周波数(Hz)とし、縦軸が振幅の大きさで表現される。
【0070】
次に、水平動のスペクトル(Hx、Hy)を上下動のスペクトル(Hz)で除算する。これにより、図7Aに示すように各周波数におけるH/Vスペクトルが得られる(S08)。図7Aでは横軸を周波数(Hz)とし、縦軸をH/Vスペクトルとしている。なお、水平動のスペクトルHは、x方向のスペクトルHxとy方向のスペクトルHyの相乗平均や2乗和平方根を用いた値にするとよい。また、水平動のスペクトルHは、x方向のみのHx/Hzであってもよいし、y方向のみのHy/Hzであってもよい。この測定データに基づくH/Vスペクトルを本明細書では「測定H/V」とも称す。
【0071】
その後は、微動アレイ探査法で説明した方法と同様に、図7Bの左図に示すように、理論上の地盤モデル(地盤の深度(m)とせん断波速度(m/s)の関係)を作成する。そして、理論上の地盤モデルから、図7Bの右図に示すように、各周波数におけるH/Vスペクトルを求める(S09)。この理論上のH/Vスペクトルを本明細書では「理論H/V」とも称す。
【0072】
次に、図7Cに示すように、測定H/Vと理論H/Vの比較を行い、両者が近似しているかを判定する(S10)。理論H/Vが測定H/Vと異なる場合、理論上の地盤モデル(図7Bの左図)を修正する(S11)。そして、再度、理論上のH/Vスペクトル(図7Bの右図)を求め、測定H/Vと理論H/Vの比較を行う。理論H/Vが測定H/Vに近似(一致又は類似)するまで、上記の工程を繰り返す。この解析には、非線形最小2乗法、遺伝的アルゴリズムなど、周知の最適化方法を適用できる。
【0073】
そして、測定H/Vに近似した理論H/Vを作成した時の理論上の地盤モデルを、ある建設現場pcn(観測地点)の地盤構造(図7D)に決定する。複数の建設現場pc1~pc4について、それぞれ上記の工程を実行することで、各建設現場pc1~pc4のH/Vスペクトルが求まり、地盤構造が決定する。
【0074】
以上の結果、第1実施形態では、微動アレイ探査法による1つの地盤構造(図6D)と、H/Vスペクトルに基づく複数の(建設現場pc1~pc4ごとの)地盤構造(図7D)が決定する。これら複数の地盤構造を、例えば平均値化して1つの地盤構造を求め、その平均値化した地盤構造を、対象地ptの地盤構造とみなして決定する(S13)。
【0075】
なお、対象地ptが建設現場pc1~pc4であっても建設現場以外の土地であっても、観測地点の地盤構造(前記平均値化した地盤構造)を対象地ptの地盤構造とみなして決定する。そのため、測定データを取得する建設現場pcを決定する際には、対象地ptと近似する地盤構造である建設現場pcを選択するとよい。
【0076】
こうして、対象地ptの地盤を構成する複数の地層について、各地層の厚さと、各地層のせん断波速度(地盤の硬さ)とが求められる。第1実施形態では、異なる2つの推定方法(微動アレイ探査法、H/Vスペクトルによる推定方法)を活用して地盤構造を推定するため、精度よく地盤構造を推定できる。対象地ptの地盤構造(どのような固さの層構成になっているか)を推定することで、例えば、ビル等の構造物の建築前に地盤改良を行ったり、対象地ptの構造物の地震対策を行ったりすることができる。
【0077】
また、上記の地盤構造の推定方法(例えば、建設現場pcを選択したり、測定データを取得したり、位相速度の分散特性などを求めたりする各工程)は、コンピューターを用いて作業員(人)が実行してもよいし、プログラムに従ってコンピューターが自動で実行してもよいし、両者が分担して実行してもよい。
【0078】
<<<変形例>>>
微動アレイ探査法とは異なり、H/Vスペクトルは1地点において測定され、H/Vスペクトルに基づく地盤構造は観測地点ごとに求められる。
そこで、H/Vスペクトルに基づく推定方法では、上記実施形態のように複数の建設現場pc1~pc4の測定データを利用せずに、1つの建設現場pcで測定された測定データに基づいてH/Vスペクトルを求め、その1つのH/Vスペクトルに基づき地盤構造を推定してもよい。例えば、測定データを取得した複数の建設現場pc1~pc4のうち、対象地ptに最も近い1つの建設現場(図1の場合にはpc4)の測定データに基づいて、地盤構造を推定してもよい。このように、H/Vスペクトルからの推定方法は1つの建設現場pcの測定データから当該建設現場の地盤構造を推定でき、比較的に容易に推定できる。
【0079】
また、微動アレイ探査法とH/Vスペクトルに基づく推定方法とでは、測定データを取得する建設現場pcを異ならせてもよい。例えば、微動アレイ探査法において、SPAC法を用いて位相速度を推定する場合には、仮想円の中心と仮想円の周上を測定地点とするため、図1に示す建設現場pc1~pc4を選択することになる。一方、H/Vスペクトルによる推定方法では、対象地ptに最も近い建設現場pcを選択してもよい。
【0080】
また、地盤は、せん断波速度が400m/秒以上である工学的基盤以深(工学的基盤を含む)の深部地盤と、工学的基盤の上にある比較的軟弱な浅部地盤を備える。一般に、浅部地盤に比べて、深く硬い深部地盤では、広範囲に亘り地盤構成が共通しているとみなすことができる。
【0081】
H/Vスペクトルに基づく地盤構造は観測地点(建設現場)ごとに求められるが、深部地盤については複数の建設現場pc1~pc4で共通している確率が高い。そこで、複数の建設現場pc1~pc4それぞれのH/Vスペクトルに基づいて、対象地ptの工学的基盤以深における深度とせん断波速度の関係を推定してもよい。
【0082】
例えば、図7Dに示すように、建設現場pc1~pc4ごとに得られた深度とせん断波速度の関係のうち、工学的基盤以深の深部地盤のデータを活用する。すなわち各建設現場pc1~pc4の深部地盤のデータを平均値化するなどした地盤構成を、対象地ptの深部地盤の地盤構成とみなして決定するとよい。
【0083】
このように複数の建設現場pc1~pc4それぞれで推定される深部地盤の構造を利用することで、測定誤差などによる推定誤差を抑制でき、精度良く地盤構造を推定できる。特にH/Vスペクトルであれば、複数の建設現場pc1~pc4の同時刻の測定データを取得する必要がない。また、例えばSPAC法を用いるときは仮想円上の建設現場pcを選択する必要があるが、H/Vスペクトルであればデータを取得する建設現場pcの配置が限定され難く、建設現場pcを選択しやすい。また、実際に地盤を掘削するボーリング調査などでは深い地盤を調査するために手間やコストがかかる。そのため、建設現場pcの微動の測定データを利用することで、深部地盤の推定を容易に行うことができる。なお、浅部地盤の層構成については、微動アレイ探査法により求めてもよいし、微動データを用いないボーリング調査などで推定してもよい。
【0084】
また、建設現場pc1~pc4以外の土地を対象地ptとしたときに、複数の建設現場pc1~pc4の測定データに基づいて、工学的基盤以深における深度とせん断波速度の関係を推定してもよい。例えば、微動アレイ探査法により得られた観測地点の地盤構造(図6D)のうちの深部地盤のデータと、H/Vスペクトルにより得られた観測地点の地盤構造(図7D)のうちの深部地盤のデータとを、平均値化するなどして活用するとよい。
【0085】
工学的基盤であれば、観測地点(建設現場pc1~pc4)と対象地ptとで地盤構成が共通している確率が高い。そのため、観測地点以外の土地を対象地ptとする場合であっても精度良く地盤構造を推定できる。この場合、浅部地盤についてはボーリング調査などを行って地盤構造を推定してもよい。
【0086】
また、周波数ごとの位相速度の分散特性(図6A)やH/Vスペクトル(図7A)のうち周波数の低い領域のデータに、工学的基盤以深の層構成が反映される。そこで、深部地盤を推定する場合には、位相速度の測定分散特性と理論分散特性を比較したり、測定H/Vと理論H/Vを比較したりする際に、周波数の低い領域のグラフが近似する地盤構成に決定するとよい。そうすることで、より正確に深部地盤の構造を推定できる。
【0087】
===第2実施形態===
図8は、第2実施形態における地盤構造推定方法のフロー図である。
第2実施形態では、H/Vスペクトルに基づく地盤構造の推定は行わずに、複数の建設現場pc1~pc4の特定時刻の測定データに基づいて観測地点の地盤構造を推定し、その推定した地盤構造を対象地ptの地盤構造とみなして決定する。地盤構造の推定方法は第1実施形態と同じである。
【0088】
微動アレイ探査法では複数の観測地点の微動データにより地盤構造を推定する。そのため、第2実施形態でも第1実施形態と同様に、建設現場pcに設置されている振動測定器10を利用したり、複数の建設現場pcの測定データが一元管理されたりしていることで、複数の建設現場pc1~pc4の特定時刻(同時刻)の微動のデータを容易に収集できる。
【0089】
===第3実施形態===
図9は、第3実施形態における地盤構造推定方法のフロー図である。
第3実施形態では、微動アレイ探査法は行わずに、H/Vスペクトルに基づき地盤構造を推定する。地盤構造の推定方法は第1実施形態と同じであり、複数の建設現場pc1~pc4の測定データを取得し、建設現場pc1~pc4ごとに、H/Vスペクトルを求めて地盤構造を推定する。そのため、第3実施形態でも第1実施形態と同様に、建設現場pcに設置されている振動測定器10を利用したり、複数の建設現場pcの測定データが一元管理されたりしていることで、微動のデータを容易に収集できる。なお、複数の建設現場pc1~pc4から取得する測定データは、特定時刻(同時刻)に測定されたデータである必要はない。
【0090】
そして、複数の建設現場pc1~pc4それぞれで推定される地盤構造に基づいて対象地ptの地盤構造を推定することで、測定誤差などによる地盤構造の推定誤差を抑止できる。特にH/Vスペクトルであれば、複数の建設現場pc1~pc4の同時刻の測定データを取得する必要がない。また、例えばSPAC法を用いるときは仮想円上の建設現場pcを選択する必要があるが、H/Vスペクトルであればデータを取得する建設現場pcの配置が限定され難く、建設現場pcを選択しやすい。また、複数の建設現場pc1~pc4それぞれで推定される地盤構造のうち工学的基盤以深のデータを利用し、対象地ptの工学的基盤以深の深部地盤の構造を推定してもよい。
【0091】
===第4実施形態===
図10は、第4実施形態における地盤構造推定方法を示す図である。第1実施形態では、図2に示すように建設現場pcに1つの振動測定器10が設置された場合を例示したが、これに限らない。図10に示すように、建設現場pcに複数の振動測定器10a~10dが設置されていてもよい。つまり、対象地ptの地盤構造を推定するために測定データを取得する複数の建設現場pc1~pc4では、各々、1つの振動測定器10が設置されていてもよいし(図2)、複数の振動測定器10a~10dが設置されていてもよい(図10)。
【0092】
1つの建設現場pcに複数の振動測定器10を設置することで、例えば、微動アレイ探査法において、SPAC法を用いて位相速度を推定する場合には、図10に示すように、仮想円の中心と仮想円の周上に振動測定器10a~10dを設置できる。ただし振動測定器10a~10dの配置は上記に限定されるものではない。
【0093】
また、建設現場pcに設置された複数の振動測定器10a~10dの全ての測定データが、仮囲い1のモニター2の表示に利用されてもよいし、複数の振動測定器10a~10dの一部の測定データが、モニター2の表示に利用されてもよい。また、複数の振動測定器10a~10dの測定データがモニター2の表示に利用されなくてもよい。
【0094】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0095】
例えば、上記実施形態では、地盤構造として、対象地ptの地盤の深度とせん断波速度の関係を推定しているがこれに限らない。建設現場pcに設置された振動測定器10の測定データに基づいて、地盤構造を表す他のパラメーター(例えば、P波速度、密度、減衰、揺れの種類と卓越振動数、揺れの大きさと卓越振動数など)を求めることにより地盤構造を推定してもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 仮囲い、2 モニター、
10 振動測定器、
11 センサー、12 記憶部、
13 通信部、14 制御部、
20 クラウドサーバー、
21 記憶部、22 通信部、23 制御部、
pc 建設現場、pt 対象地、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10