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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161809
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】液圧発生装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/138 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
B60T13/138 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076865
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森 勇人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 晴生
【テーマコード(参考)】
3D048
【Fターム(参考)】
3D048BB02
3D048BB45
3D048BB59
3D048CC41
3D048CC54
3D048DD01
3D048HH15
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH50
3D048HH66
3D048LL07
3D048NN07
3D048QQ07
3D048RR01
3D048RR06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液圧発生装置において、逆作動時の構成部材の保護を、簡素な構成で達成すること。
【解決手段】液圧発生装置は、第1回転動力Tmを発生する電気モータと、第1回転動力Tmを減速して第2回転動力Tnを出力する減速機と、回転運動をする回転部材と直線運動をする直動部材とで構成され、第2回転動力Tnを直動部材の直線動力Fnに変換する変換機構と、シリンダ内に挿入され、直線動力Fnによりシリンダの液圧Pcを調整するピストンと、電気モータが第1回転動力Tmを発生できない場合に、液圧Pcにより回転部材の回転軸線Jkに沿った方向に動かされる被移動部材の運動エネルギを吸収する緩衝部材と、を備える。緩衝部材は、回転軸線Jkの方向において、被移動部材に対してシリンダとは反対側に配置され、被移動部材と衝突することにより運動エネルギを吸収する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転動力を発生する電気モータと、
前記第1回転動力を減速して第2回転動力を出力する減速機と、
回転運動をする回転部材と直線運動をする直動部材とで構成され、前記第2回転動力を前記直動部材の直線動力に変換する変換機構と、
シリンダ内に挿入され、前記直線動力により前記シリンダの液圧を調整するピストンと、
前記電気モータが前記第1回転動力を発生できない場合に、前記液圧により前記回転部材の回転軸線に沿った方向に動かされる被移動部材の運動エネルギを吸収する緩衝部材と、
を備える液圧発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載される液圧発生装置において、
前記緩衝部材は、前記回転軸線の方向において、前記被移動部材に対して前記シリンダとは反対側に配置され、前記被移動部材と衝突することにより前記運動エネルギを吸収する、液圧発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載される液圧発生装置において、
前記被移動部材は、前記緩衝部材に近い側の端部にフランジ部を有する、液圧発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載される液圧発生装置において、
前記直動部材は内周面にねじ溝を有するとともに、前記回転部材は外周面にねじ溝を有する、液圧発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車のためのブレーキシステム10を動作させる方法であって、第1のブレーキ回路Iはポンプ50によって選択的に供給され、第2のブレーキ回路IIはリニアアクチュエータ40によって選択的に作動されることが記載されている。
【0003】
例えば、上記のリニアアクチュエータ(液圧発生装置)として、特許文献2に記載されるような装置が利用される。該装置では、電気モータの回転動力が遊星歯車機構により減速され、更に、ボールねじ機構により直線動力に変換されることで、液圧が発生される。このような装置では、液圧発生中に、電力失陥等により電気モータが動力を喪失すると、ピストンが押し戻され、他の構成部材に衝突することがある。液圧によってピストンが押し戻される作動が「逆作動」と称呼される。
【0004】
逆作動時の衝突から構成部品を保護するため、特許文献3の装置には、クラッチ機構が備えられている。該装置では、ピストンが所定の位置を超えて押し戻されたときに、クラッチ機構により、電気モータと直動変換機構との間の動力伝達経路が切断される。しかしながら、上記のクラッチ機構を設けると、その設置スペースが必要となる。このため、特許文献3の装置では、装置の大型化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-550912号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2022/0234560号明細書
【特許文献3】国際公開第2019/149411号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を鑑み、本発明の目的は、液圧発生装置において、逆作動時の構成部材の保護が、簡素な構成にて達成され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液圧発生装置(PS)は、第1回転動力(Tm)を発生する電気モータ(MT)と、前記第1回転動力(Tm)を減速して第2回転動力(Tn)を出力する減速機(GS)と、回転運動をする回転部材(BK)と直線運動をする直動部材(BD)とで構成され、前記第2回転動力(Tn)を前記直動部材(BD)の直線動力(Fn)に変換する変換機構(GH)と、シリンダ(CC)内に挿入され、前記直線動力(Fn)により前記シリンダ(CC)の液圧(Pc)を調整するピストン(NC)と、前記電気モータ(MT)が前記第1回転動力(Tm)を発生できない場合に、前記液圧(Pc)により前記回転部材(BK)の回転軸線(Jk)に沿った方向に動かされる被移動部材(BH、BD、NC)の運動エネルギを吸収する緩衝部材(KS)と、を備える。
【0008】
本発明に係る液圧発生装置(PS)では、前記緩衝部材(KS)は、前記回転軸線(Jk)の方向(Hj)において、前記被移動部材(BH、BD、NC)に対して前記シリンダ(CC)とは反対側に配置され、前記被移動部材(BH、BD、NC)と衝突することにより前記運動エネルギを吸収する。上記構成によれば、緩衝部材KSを利用した簡素な構成によって、構成部材が保護される。
【0009】
本発明に係る液圧発生装置(PS)では、前記被移動部材(BH、BD、NC)は、前記緩衝部材(KS)に近い側の端部にフランジ部(Fd、Fe)を有する。更に、前記直動部材(BD)は内周面(Mid)にねじ溝(Mzd)を有するとともに、前記回転部材(BK)は外周面(Mok)にねじ溝(Mzk)を有する。上記構成によれば、緩衝部材KSと被移動部材BHとが衝突する面の面積が十分に確保される。衝突時の面圧が低減できるので、運動エネルギの吸収が好適に行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】制動制御装置SCの全体構成を説明するための概略図である。
図2】液圧発生ユニットPSの第1の実施形態を説明するための部分断面図である。
図3】液圧発生ユニットPSの第2の実施形態を説明するための部分断面図である。
図4】液圧発生ユニットPSの第3の実施形態を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。例えば、各車輪に設けられたホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf、後輪ホイールシリンダCWr」と表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号はその総称を表す。例えば、「CW」は、車両の前後車輪に設けられたホイールシリンダの総称である。また、総称としての「CW」は、「CW(=CWf、CWr)」とも表記される。
【0012】
第1制動ユニットSAの第1アクチュエータYA、第2制動ユニットSBの第2アクチュエータYB、及び、ホイールシリンダCWは、流体路(連絡路HS)にて接続される。更に、第1、第2アクチュエータYA、YBでは、各種の構成要素(PS等)が流体路にて接続される。ここで、「流体路」は、制動液BF(作動流体)を移動するための経路であり、配管、アクチュエータ内の流路、ホース等が該当する。以下の説明で、連絡路HS、リザーバ路HR、入力路HN、サーボ路HU、補給路HH等は流体路である。
【0013】
<車両の制動制御装置SC>
図1の概略図を参照して、液圧発生ユニットPSを含む制動制御装置SCの全体構成について説明する。例えば、制動制御装置SCは、走行用の電気モータを備えたハイブリッド車両、又は、電気自動車に適用される。
【0014】
車両には、回生装置KGが備えられる。回生装置KGは、エネルギ回生用のジェネレータGN(「電気モータ/ジェネレータ」、或いは、「回生ジェネレータ」ともいう)、回生装置KG用の制御ユニットEG(「回生コントローラ」ともいう)、及び、回生用蓄電池(非図示)にて構成される。回生ジェネレータGNは、走行用の電気モータでもある。回生制動では、電気モータ/ジェネレータGNが発電機として作動し、発電された電力が、回生コントローラEGを介して、回生用蓄電池に蓄えられる。このとき、車輪には回生制動力Fgが作用する。即ち、回生装置KGは、回生制動力Fgを発生することができる。例えば、回生装置KGは前輪WHfに備えられ、前輪WHfに回生制動力Fgが発生される。
【0015】
車両の前後車輪WHf、WHrには、制動装置SX(=SXf、SXr)が備えられる。制動装置SXは、ブレーキキャリパ、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)、及び、回転部材KT(例えば、ブレーキディスク)にて構成される。ブレーキキャリパ(非図示)には、ホイールシリンダCW(=CWf、CWr)が設けられる。ホイールシリンダCW内の液圧Pw(「ホイール圧」という)によって、摩擦部材(非図示)が、各車輪WHに固定された回転部材KT(=KTf、KTr)に押し付けられることにより、車輪WHには制動トルクTbが付与される。その結果、車輪WHでは液圧制動力Fpが発生される。
【0016】
車両には、制動操作部材BP、及び、各種センサ(SP等)が備えられる。制動操作部材BP(例えば、ブレーキペダル)は、運転者が車両を減速するための操作部材である。車両には、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが設けられる。操作変位Spは、制動操作部材BPの操作量を表示する状態量(状態変数)の1つであり、ブレーキバイワイヤ型の制動制御装置SCにおいては、運転者の制動意志を表す信号(即ち、制動指示)である。操作変位センサSPの他に、制動操作量を表す他の状態量として、入力室Rn(後述)の液圧Pn(「入力圧」という)が採用される。入力圧Pnは、入力圧センサPNによって検出される。操作変位Sp、入力圧Pn等が総称して、「制動操作量Ba」と称呼される。また、操作変位センサSP、入力圧センサPN等の制動操作量Baを検出するセンサが、「制動操作量センサBA」と称呼される。
【0017】
車両には、アンチロックブレーキ制御、横滑り防止制御等の各車輪WHのホイール圧Pwを個別に制御する制動制御のために、各種センサが備えられる。具体的には、各車輪WHには、その回転速度Vw(「車輪速度」という)を検出する車輪速度センサVWが備えられる。また、操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)の操舵量Sa(例えば、操作角)を検出する操舵量センサ、車両のヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサ、車両の前後加速度Gx(「減速度」ともいう)を検出する前後加速度センサ、及び、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサが備えられる(以上、非図示)。
【0018】
車両には、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用される。制動制御装置SCによって、各ホイールシリンダCWの実際のホイール圧Pwが調整される。
【0019】
制動制御装置SCは、2つの制動ユニットSA、SBにて構成される。第1制動ユニットSAは、第1アクチュエータYA、及び、第1コントローラEAにて構成される。第1アクチュエータYAは、第1コントローラEAによって制御される。第2制動ユニットSBは、第2アクチュエータYB、及び、第2コントローラEBにて構成される。第2アクチュエータYBは、第2コントローラEBによって制御される。ここで、第1、第2アクチュエータYA、YBは、「第1、第2流体ユニット」とも称呼され、第1、第2コントローラEA、EBは、「第1、第2制御ユニット」とも称呼される。
【0020】
第1制動ユニットSA(特に、第1コントローラEA)、及び、第2制動ユニットSB(特に、第2コントローラEB)は、通信バスBSに接続される。また、通信バスBSには、回生装置KG(特に、回生コントローラEG)が接続される。通信バスBSによって、複数のコントローラ(EA、EB、EG等)の間で信号伝達が行われる。つまり、複数のコントローラは、通信バスBSに信号(検出値、演算値、制御フラグ等)を送信することができるとともに、通信バスBSから該信号を受信することができる。
【0021】
<第1制動ユニットSA>
制動制御装置SCの第1制動ユニットSAについて説明する。第1制動ユニットSAは、制動操作部材BP(ブレーキペダル)の操作に応じて、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの液圧Pwf、Pwr(前輪、後輪ホイール圧)を調整する。第1制動ユニットSAは、第1アクチュエータYA、及び、第1コントローラEAにて構成される。
【0022】
≪第1アクチュエータYA≫
第1アクチュエータYAは、アプライユニットAP、液圧発生ユニットPS、及び、入力ユニットNRにて構成される。
【0023】
[アプライユニットAP]
制動操作部材BPの操作に応じて、アプライユニットAPから供給圧Pmが出力される。アプライユニットAPは、シングル型のマスタシリンダCM、及び、マスタピストンNMにて構成される。
【0024】
シングル型マスタシリンダCMには、マスタピストンNMが挿入される。マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンNMによって、3つの液圧室Rm、Ru、Rsに区画される。マスタ室Rmは、マスタシリンダCMの一方側底部、及び、マスタピストンNMによって区画される。更に、マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンNMのつば部Tuによって、サーボ室Ruと反力室Rsとに仕切られる。つまり、マスタ室Rmとサーボ室Ruとは、つば部Tuを挟んで、相対するように配置される。ここで、マスタ室Rmの受圧面積rmとサーボ室Ruの受圧面積ruとは等しく設定される。
【0025】
非制動時には、マスタピストンNMは、最も後退した位置(即ち、マスタ室Rmの体積が最大になる位置)にある。該状態では、マスタシリンダCMのマスタ室Rmは、マスタリザーバRVに連通している。マスタリザーバRV(「大気圧リザーバ」ともいう)の内部に制動液BFが貯蔵される。制動操作部材BPが操作されると、マスタピストンNMが前進方向Da(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に移動される。該移動により、マスタ室RmとマスタリザーバRVとの連通は遮断される。そして、マスタピストンNMが、更に、前進方向Daに移動されると、供給圧Pm(マスタ室Rmの内圧であり、「マスタ圧」ともいう)が「0(大気圧)」から増加される。これにより、マスタシリンダCMのマスタ室Rmから、供給圧Pmに加圧された制動液BFが出力(圧送)される。
【0026】
[液圧発生ユニットPS]
液圧発生ユニットPS(「液圧発生装置」ともいう)は、電気モータMTを動力源にして、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrを発生する。具体的には、液圧発生ユニットPSの吐出部AuとアプライユニットAPのサーボ室Ruとは、サーボ路HU(流体路)を介して接続される。また、液圧発生ユニットPSの吐出部Auと後輪ホイールシリンダCWrとは、後輪連絡路HSr(流体路)を介して接続される。更に、制動液BFが不足する場合に、制動液BFが補給されるよう、液圧発生ユニットPSは、補給路HH(流体路)を介して、マスタリザーバRVに接続される。
【0027】
液圧発生ユニットPSの作動時(即ち、制動時)には、補給路HHが遮断される。これにより、液圧発生ユニットPSとマスタリザーバRVとは非連通状態にされる。前輪制動系統では、サーボ圧Pcがサーボ室Ruに供給されることにより、供給圧Pm(マスタ圧)が発生される。そして、供給圧Pmにより、前輪ホイールシリンダCWfの液圧Pwf(前輪ホイール圧)が発生される。一方、後輪制動系統では、サーボ圧Pcが、直接後輪ホイールシリンダCWrに供給されることにより、後輪ホイールシリンダCWrの液圧Pwr(後輪ホイール圧)が発生される。液圧発生ユニットPSには、サーボ圧Pcを検出するようサーボ圧センサPCが設けられる。液圧発生ユニットPSの詳細については後述する。
【0028】
[入力ユニットNR]
入力ユニットNRによって、回生協調制御が実現される。「回生協調制御」は、制動時に、車両が有する運動エネルギが効率良く電気エネルギに回収されるよう、液圧制動力Fp(ホイール圧Pwによる制動力)と回生制動力Fg(回生ジェネレータGNによる制動力)とを協働させるものである。回生協調制御では、制動操作部材BPは操作されるが、ホイール圧Pwが発生しない状態が生み出される。入力ユニットNRは、入力シリンダCN、入力ピストンNN、第1制御弁VA、第2制御弁VB、ストロークシミュレータSS、及び、入力圧センサPNにて構成される。
【0029】
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定される。入力シリンダCNには、入力ピストンNNが挿入される。入力ピストンNNは、制動操作部材BP(ブレーキペダル)の動きに連動するよう、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続される。入力ピストンNNの端面とマスタピストンNMの端面とは隙間Ks(「離間変位」ともいう)を有している。離間距離Ksがサーボ圧Pcによって調節されることで、回生協調制御が実現される。
【0030】
入力ユニットNRの入力室Rnは、入力路HN(流体路)を介して、アプライユニットAPの反力室Rsに接続される。入力路HNには、常閉型の第1制御弁VAが設けられる。入力路HNは、第1制御弁VAと反力室Rsとの間にて、リザーバ路HR(流体路)を介して、マスタリザーバRVに接続される。リザーバ路HRには、常開型の第2制御弁VBが設けられる。第1、第2制御弁VA、VBには、オン・オフ型の電磁弁が採用される。第1制御弁VAと反力室Rsとの間で、入力路HNにストロークシミュレータSS(単に、「シミュレータ」ともいう)が接続される。
【0031】
第1、第2制御弁VA、VBに電力供給(給電)が行われない場合には、第1制御弁VAは閉弁され、第2制御弁VBは開弁される。第1制御弁VAの閉弁により、入力室Rnは封止され、流体ロックされる。これにより、マスタピストンNMは、制動操作部材BPと一体で変位する。また、第2制御弁VBの開弁により、シミュレータSS、及び、反力室Rsは、マスタリザーバRVに連通される。
【0032】
第1、第2制御弁VA、VBに電力供給(給電)が行われる場合には、第1制御弁VAは開弁され、第2制御弁VBは閉弁される。これにより、マスタピストンNMは、制動操作部材BPとは別体で変位することが可能になる。このとき、入力室RnはストロークシミュレータSSに接続されるので、制動操作部材BPの操作力はシミュレータSSによって発生される。入力圧Pn(シミュレータSS内の液圧でもある)を検出するよう、入力路HNには、入力室Rnと第1制御弁VAとの間に、入力圧センサPNが設けられる。
【0033】
≪第1コントローラEA≫
第1コントローラEAによって、第1アクチュエータYAが制御される。第1コントローラEAは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRにて構成される。第1コントローラEAは、各種コントローラ(EB、EG等)との間で信号(検出値、演算値、制御フラグ等)を共有できるよう、通信バスBSに接続される。
【0034】
第1コントローラEAには、操作変位Sp(操作変位センサSPの検出値)、入力圧Pn(入力圧センサPNの検出値)、サーボ圧Pc(サーボ圧センサPCの検出値)、モータ回転角Ka(回転角センサKAの検出値)等の各種信号が直接入力される。更に、第1コントローラEAには、供給圧Pm、限界回生制動力Fx等の各種信号が、通信バスBSから入力される。また、第1コントローラEAからは、目標回生制動力Fh(回生制動力Fgの目標値)が、通信バスBSに出力される。なお、回生コントローラEGでは、通信バスBSから取得される目標回生制動力Fh(目標値)に基づいて、回生制動力Fg(実際値)が制御される。
【0035】
第1コントローラEA(特に、マイクロプロセッサMP)には、調圧制御のアルゴリズムがプログラムされている。「調圧制御」は、ホイール圧Pw(=Pwf、Pwr)を調節するための制御であり、回生協調制御を含んでいる。調圧制御は、上記の各種信号(Sp、Pc等)に基づいて実行される。
【0036】
調圧制御のアルゴリズムに基づいて、駆動回路DRによって、電気モータMT、及び、各種電磁弁(VA等)が駆動される。駆動回路DRには、電気モータMTを駆動するよう、スイッチング素子(例えば、MOS-FET)にてHブリッジ回路(「インバータ回路」ともいう)が構成される。また、駆動回路DRには、各種電磁弁を駆動するよう、スイッチング素子が備えられる。加えて、駆動回路DRには、電気モータMTへの供給電流Im(「モータ電流」ともいう)を検出するモータ電流センサ(非図示)が含まれる。電気モータMTには、モータシャフトSMの位置Ka(回転角)を検出するよう、回転角センサKAが設けられる。
【0037】
第1コントローラEAでは、第1、第2制御弁VA、VBの駆動信号Va、Vb、及び、電気モータMTの駆動信号Mtが演算される。そして、各種の駆動信号(Mt等)に応じて、上記スイッチング素子が駆動される。具体的には、電磁弁の制御では、第1、第2制御弁VA、VBに給電されるように、駆動信号Va、Vbが決定される。これにより、第1制御弁VAが開弁され、第2制御弁VBが閉弁される。電気モータMTの制御では、操作変位Sp等に基づいて、目標圧Ptが演算される。「目標圧Pt」は、サーボ圧Pc(実際値)に対応する目標値である。そして、第1コントローラEAでは、目標圧Pt、及び、サーボ圧Pcに基づいて算出される駆動信号Mtに応じて、サーボ圧Pc(実際値)が目標圧Pt(目標値)に近付き、一致するように、電気モータMTが制御される。
【0038】
<第2制動ユニットSB>
第1制動ユニットSAとホイールシリンダCWとの間に、第2制動ユニットSBが設けられる。第2制動ユニットSBによって、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、横滑り防止制御等が実行される。
【0039】
前輪WHfに係る制動系統(即ち、前輪連絡路HSf)では、供給圧Pmが、マスタシリンダCMから第2制動ユニットSBに供給される。一方、後輪WHrに係る制動系統(即ち、後輪連絡路HSr)では、サーボ圧Pcが、液圧発生ユニットPSから第2制動ユニットSBに直接供給される。第2制動ユニットSBにて、供給圧Pm、及び、サーボ圧Pcが調整(増減)され、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの液圧Pwf、Pwr(前輪、後輪ホイール圧)として出力される。第2制動ユニットSBは、第2アクチュエータYB、及び、第2コントローラEBにて構成される。
【0040】
第2アクチュエータYBは、連絡路HSにおいて、第1アクチュエータYAとホイールシリンダCWとの間に配置される。第2アクチュエータYBには、電気モータ、流体ポンプ、電磁弁、及び、供給圧センサが含まれる。供給圧センサ(非図示)によって、供給圧Pmが検出される。供給圧Pmは、第2コントローラEBに入力される。第2アクチュエータYBの構成は公知であるため、その説明は省略する。
【0041】
第2コントローラEBによって、第2アクチュエータYBが制御される。第2コントローラEBは、通信バスBSに接続される。従って、第1コントローラEAと第2コントローラEBとは、通信バスBSを介して信号を共有することができる。
【0042】
第2コントローラEBには、車輪速度Vw、操舵角Sa、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、及び、横加速度Gyの各種信号が入力される。第2コントローラEBにて、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。第2コントローラEBでは、各種信号(Vw、Yr等)に基づいて、車輪ロックを抑制するアンチロックブレーキ制御、駆動車輪の空転を抑制するトラクション制御、及び、アンダステア・オーバステアを抑制して車両の方向安定性を向上する横滑り防止制御(所謂、ESC)等が実行される。これらの制御が実行されていることは、制御フラグ等により、通信バスBSを介して、第2制動ユニットSB(特に、第2コントローラEB)から第1制動ユニットSA(特に、第1コントローラEA)に伝達される。
【0043】
通常、回生協調制御が実行される場合には、第2アクチュエータYB(電気モータ、流体ポンプ、電磁弁等)の作動は停止されている。従って、第2制動ユニットSBからは、供給圧Pmが前輪ホイール圧Pwfとして、サーボ圧Pcが後輪ホイール圧Pwrとして、夫々出力される。
【0044】
<液圧発生ユニットPSの第1の実施形態>
図2の部分断面図を参照して、液圧発生ユニットPSの第1の実施形態について説明する。液圧発生ユニットPS(液圧発生装置)では、電気モータMTを加圧源(「動力源」ともいう)にして、サーボ圧Pcが発生される。そして、サーボ圧Pcにより、ホイール圧Pw(=Pwf、Pwr)が調整される。
【0045】
≪構成部材の形状、運動に係る方向≫
先ず、液圧発生ユニットPSを構成する要素について、形状、運動等に係る方向について規定する。液圧発生ユニットPSでは、電気モータMT(特に、モータシャフトSM)の回転軸線Jm、回転部材BKの回転軸線Jk、制御ピストンNCの中心軸線Jn、及び、制御シリンダCCの中心軸線Jcは、一直線上に並んでいる。軸線Jm、Jk、Jn、Jcに沿った方向(即ち、平行な方向)が「軸方向Hj」と称呼される。これに対して、軸線Jm、Jk、Jn、Jcに垂直な方向が「径方向Hk」と称呼される。
【0046】
軸方向Hjに沿って運動可能な部材(NC、BD等)において、制御シリンダCCの底面Mbcに近付く方向が「前進方向Ha」と称呼される。これとは逆に、制御シリンダCCの底面Mbcから遠ざかる方向が「後退方向Hb」と称呼される。従って、制御ピストンNCが前進方向Haに移動されると制御室Rcの体積は減少され、その内圧Pc(サーボ圧)は増加される。これに対して、制御ピストンNCが後退方向Hbに移動されると制御室Rcの体積は増加され、サーボ圧Pcは減少される。
【0047】
電気モータMTの回転運動と直動部材BD(結果、制御ピストンNC)の直線運動との関係では、電気モータMTの正転方向Hsが、直動部材BDの前進方向Haに対応する。従って、電気モータMTの逆転方向Hgの回転運動は、直動部材BDの後退方向Hbの直線運動に対応する。つまり、電気モータMTが正転方向Hsに回転すると、直動部材BDは前進方向Haに移動される。これにより、制御室Rcの体積が減少され、サーボ圧Pcは増加される。これとは逆に、電気モータMTが逆転方向Hgに回転すると、直動部材BDは後退方向Hbに移動される。これにより、制御室Rcの体積が増加され、サーボ圧Pcは減少される。
【0048】
電気モータMTを正転方向Hsに回転させようとする電流Ims(「正転電流」ともいう)が供給されている場合の電気モータMTの回転方向は、電気モータMTから出力されるトルク(「正作動トルクQmt」ともいう)と、サーボ圧Pcにより電気モータMTに入力されるトルク(「逆作動トルクQpc」ともいう)との大小関係によって定まる。具体的には、正作動トルクQmtが逆作動トルクQpcよりも大きい場合には、電気モータMTは正転方向Hsに回転し、サーボ圧Pcは増加される。正作動トルクQmtと逆作動トルクQpcとが等しい場合には、電気モータMTは回転せず、サーボ圧Pcは維持される。逆作動トルクQpcが正作動トルクQmtよりも大きい場合には、電気モータMTは逆転方向Hgに回転し、サーボ圧Pcは減少される。なお、電気モータMTを逆転方向Hgに回転させようとする電流Img(「逆転電流」と称呼し、正転電流Imsとは逆向きの電流)が供給される場合には、電気モータMTは逆転方向Hgに回転するように駆動される。
【0049】
以上、液圧発生ユニットPSに係る構成部材の形状、及び、運動に係る方向について説明した。なお、該規定は、液圧発生ユニットPSの第1の実施形態だけでなく、後述の第2、第3の実施形態等にも適用される。
【0050】
≪液圧発生ユニットPSの構成≫
液圧発生ユニットPSは、ハウジングHG、電気モータMT、回転角センサKA、減速機GS、変換機構GH、制御ピストンNC、及び、緩衝部材KSにて構成される。
【0051】
ハウジングHGにて、液圧発生ユニットPSを構成する各部材(MT、GS等)が保持される。ハウジングHGは、構成部材が組み付けられるよう、複数に分割されている。例えば、ハウジングHGは、シリンダハウジングHGc、モータハウジングHGm、及び、取付ハウジングHGkに分割される。モータハウジングHGm、及び、取付ハウジングHGkが、シリンダハウジングHGcに取り付けられ、ハウジングHGとして一体化される。つまり、ハウジングHGは、シリンダハウジングHGc、モータハウジングHGm、及び、取付ハウジングHGkの総称である。換言すれば、シリンダハウジングHGc、モータハウジングHGm、及び、取付ハウジングHGkは、ハウジングHGの一部である。
【0052】
更に、ハウジングHGは、第1コントローラEAと一体化されていてもよい。具体的には、第1コントローラEAは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRが実装される制御基板と、それを収納するコントローラハウジング(非図示)とで構成される。そして、コントローラハウジングが、ハウジングHGに組付けられて一体化される。
【0053】
ハウジングHG(特に、シリンダハウジングHGc)には、制御シリンダCC(「シリンダ」に相当)が形成される。制御シリンダCCには、制御ピストンNC(「ピストン」に相当)が挿入される。そして、制御シリンダCCと制御ピストンNCとによって、制御室Rc(液圧室)が形成される。制御シリンダCC(特に、制御室Rc)には、吐出部Auが設けられる。吐出部Auには、サーボ路HU、及び、後輪連絡路HSrが接続される。即ち、制御室Rcは、サーボ室Ru、及び、後輪ホイールシリンダCWrに接続される。
【0054】
ハウジングHG(特に、シリンダハウジングHGc)により、減速機GS、及び、変換機構GHが保持される。また、ハウジングHG(特に、モータハウジングHGm)により、電気モータMTが保持される。更に、ハウジングHG(特に、シリンダハウジングHGc、及び、取付ハウジングHGk)により、緩衝部材KS(後述)が保持される。
【0055】
電気モータMTは、サーボ圧Pc(制御シリンダCC内の液圧)を発生するための動力源(加圧源)である。ここで、「動力」は、液圧発生ユニットPSにおける可動部材(BK、BD等)を動かすために必要なエネルギのことである。例えば、動力は、物理量として、単位時間当りのエネルギ(「仕事率」ともいう)として規定される。電気モータMTから、回転動力Tm(「第1回転動力」ともいう)が出力される。電気モータMTの回転動力Tmは、電気モータMTの軸トルクに、電気モータMT(特に、モータシャフトSM)の回転速度を乗じたものである。なお、直動部材BD(後述)の直線動力Fnは、直動部材BDの推力(軸方向Hjに作用する力)に直動部材BDの直線速度(軸方向Hjの速度)を乗じたものである。
【0056】
電気モータMTとして、3相ブラシレスモータが採用される。電気モータMTは、モータハウジングHGm内に取り付けられる。電気モータMTには、モータコイルCL、モータシャフトSM、及び、回転角センサKAが含まれる。モータコイルCL(単に、「コイル(巻線)」ともいう)は、モータハウジングHGm内に固定される。モータコイルCLは「固定子」とも称呼される。モータコイルCLには、モータ線Lmが接続される。モータコイルCLには、モータ線Lmを介して、第1コントローラEA(特に、駆動回路DR)から電力が供給される。
【0057】
モータシャフトSM(単に、「シャフト」ともいう)は、モータハウジングHGm内に固定されたベアリングBBにより、モータハウジングHGm(つまり、モータコイルCL)に対して回転可能に支持される。電気モータMTのシャフトSMの外周には、モータ磁石Mm(永久磁石)が固定されている。例えば、モータ磁石Mmは、接着等によってモータシャフトSMに貼り付けられている。モータシャフトSMは「回転子」とも称呼される。
【0058】
3相ブラシレスモータMTでは、回転子SMの磁極位置(即ち、固定子CLに対する回転角)が検出されて、モータコイルCLに流される電流Im(モータ電流)が切り替えられる。ここで、モータ電流Imは、U相、V相、W相に流される電流の総称である。U相、V相、W相に係る3相のモータ電流Imは、モータシャフトSMの回転位置Ka(「回転角」ともいう)に基づいて切り替えられる。第1コントローラEAでは、回転角Kaに応じて、駆動回路DRのスイッチング素子が駆動される。これにより、モータコイルCLに流されるモータ電流Imが切り替えられ、電気モータMTが回転駆動される。そして、回転動力Tmが、電気モータMTから減速機GSに出力される。
【0059】
3相の電流切替のために回転角Kaを検出するよう、電気モータMT(ブラシレスモータ)には回転角センサKAが設けられる。例えば、回転角センサKAとして、磁界(磁気力の及ぶ空間であり、「磁場」ともいう)の大きさ・方向の計測に基づく磁気式のセンサが採用される。具体的には、ホール効果を利用したホールセンサ、磁気抵抗効果を利用したMRセンサ等が用いられる。
【0060】
回転角センサKAは、センサディスクDs、センサ磁石Ms、センサ基板Kb、及び、センサ線Lsにて構成される。センサディスクDsは、モータシャフトSMと一体となって回転するよう、モータシャフトSMに固定される。センサディスクDsには、センサ磁石Msが設けられる。例えば、センサ磁石Msは、接着等によってセンサディスクDsに貼り付けられている。
【0061】
センサ基板Kbは、モータハウジングHGmに固定される。センサ基板Kbには、モータシャフトSMが貫通するように孔があけられている。孔の周辺部には、モータシャフトSM(即ち、センサ磁石Ms)が回転する際に生じる磁界の変化を検出するよう、磁界検出素子を用いた検出部が設けられる。磁界検出素子により検出された信号が、センサ線Lsによって第1コントローラEA(特に、マイクロプロセッサMP)に伝達される。
【0062】
減速機GSにより、電気モータMTから出力された第1回転動力Tmが減速され、第2回転動力Tnが出力される。具体的には、減速機GSの入力軸とモータシャフトSMとが固定される。また、減速機GSの出力軸と変換機構GHの回転部材BKとが固定される。減速機GSでは、電気モータMTから入力される速度が減少されるとともに、電気モータMTから入力されるトルクが増加される。そして、第2回転動力Tnが、減速機GSから変換機構GHに出力される(以上、吹き出し部XGSを参照)。
【0063】
例えば、減速機GSとして、遊星歯車機構が採用される。「遊星歯車機構」では、太陽歯車を中心として、複数の遊星歯車が自転しながら公転する歯車機構である。減速機GSは、太陽歯車、遊星歯車、内歯車、及び、遊星キャリヤにて構成される。遊星歯車機構では、遊星キャリヤにより、遊星歯車が支持され、公転運動が取り出される。例えば、減速機GSでは、内歯車(「インナギヤ」ともいう)がシリンダハウジングHGcに固定される。太陽歯車(「サンギヤ」ともいう)がモータシャフトSMに固定され、太陽歯車に電気モータMTからの第1回転動力Tmが入力される。そして、減速機GSの遊星キャリヤが回転部材BKに固定され、遊星キャリヤから変換機構GHに第2回転動力Tnが出力される。
【0064】
変換機構GHは、回転運動をする回転部材BK、及び、直線運動をする直動部材BDにて構成される。変換機構GHでは、減速機GSから出力される第2回転動力Tnが、回転部材BKに入力される。そして、回転部材BKに入力された第2回転動力Tnが、直動部材BDの直線動力Fnに変換される。変換機構GHは、「回転・直動変換機構」とも称呼される。
【0065】
変換機構GHでは、回転運動から直線運動への変換と、直線運動から回転運動への変換との両方が可能である。変換機構GHの作動において、前者が「正作動」と称呼され、後者が「逆作動」と称呼される。即ち、正作動では、回転部材BKの回転動力が、直動部材BDの直線動力に変換される。つまり、正作動では、動力は、回転部材BKから直動部材BDに伝達される。これに対して、逆作動では、直動部材BDの直線動力が、回転部材BKの回転動力に変換される。つまり、逆作動では、動力は、直動部材BDから回転部材BKに伝達される。なお、正作動における効率(入力である回転動力に対する出力である直線動力の比率)が「正効率」と称呼され、逆作動における効率(入力である直線動力に対する出力である回転動力の比率)が「逆効率」と称呼される。双方向に動力伝達が可能な変換機構GHは、正効率だけでなく、逆効率を有している。
【0066】
例えば、変換機構GHとして、「ボールねじ」が採用される。具体的には、変換機構GHでは、シャフト部材である回転部材BKが、減速機GSの出力軸に固定される。回転部材BKは、円筒形状を有する直動部材BDに挿入される。回転部材BKの外周面Mokにはボールねじ溝Mzkが形成される。同様に、直動部材BDの内周面Midにもボールねじ溝Mzdが形成される。ボールねじ溝Mzk、Mzdには、複数のボールBL(鋼球)がはめ込まれている(以上、吹出し部XGHを参照)。
【0067】
変換機構GHでは、外周面にねじ溝を有する部材が「内側部材」と称呼される。また、内周面にねじ溝を有する部材が「外側部材」と称呼される。そして、外側部材が内側部材を覆うように配置され、内側部材のねじ溝と外側部材のねじ溝とがかみ合わされる。詳細には、ボールねじ機構では、複数のボールBLを介して、2つのねじ溝がかみ合わされる。
【0068】
変換機構GHとして採用されるボールねじ機構では、ボールねじシャフト(内側部材であり、「シャフト部材」ともいう)が回転部材BKにされ、ボールねじナット(外側部材であり、「ナット部材」ともいう)が直動部材BDにされる。該構成では、回転部材BK(内側部材)の外周面Mokにねじ溝Mzkが形成され、直動部材BD(外側部材)の内周面Midにねじ溝Mzdが形成される。そして、ボールBLを介して、外周溝Mzkと内周溝Mzdとがかみ合わされる。
【0069】
直動部材BDには、制御シリンダCC(特に、制御室Rc)から離れた側の端部に、フランジ部Fdが設けられる。フランジ部Fdは、円筒形状の直動部材BDの端部が、つば形状に、径方向Hkに延ばされている。フランジ部Fdには切り欠きが形成されている。
【0070】
シリンダハウジングHGcには、回り止め部材MDが固定されている。例えば、回り止め部材MDには、細長い棒形状の部材(例えば、ピン部材)が用いられる。回り止め部材MDは、直動部材BDのフランジ部Fdの切り欠きにかみ合わされる。直動部材BDでは、回り止め部材MDにより、回転軸線Jkまわりの回転運動が阻止される。このため、回転部材BKが回転駆動されると、直動部材BDは、軸方向Hjに沿って移動する。
【0071】
制御ピストンNCが、直動部材BDに固定される。制御ピストンNCは、シリンダハウジングHGcに形成された制御シリンダCCに挿入される。詳細には、制御ピストンNCは、底部Btnを持つ円筒形状を有し、制御ピストンNCの外周面Monが、制御シリンダCCの内周面Micに対して挿入される。制御シリンダCCの内部には、制御ピストンNC(特に、底部Btn)によって、制御室Rc(液圧室)が形成される。制御ピストンNCは直動部材BDに固定されているので、直動部材BDと制御ピストンNCとは一体となって、軸方向Hj(前進方向Ha、又は、後退方向Hb)に移動する。
【0072】
制御ピストンNCの外周面Monと制御シリンダCCの内周面Micとは、2つのシール部材SLにて封止される。2つのシール部材SLは、制御シリンダCCの内周面Micに形成されたシール溝にはめ込まれる。2つのシール溝の間にて、シリンダハウジングHGcには、制御シリンダCCに貫通する孔Av(「ハウジング孔」ともいう)が設けられる。ハウジング孔Avは、補給路HHを介して、マスタリザーバRVに接続される。制御ピストンNCには、ハウジング孔Avと制御室Rcとを接続するよう、外周面Monから底部Btnに貫通する孔An(「ピストン孔」ともいう)が設けられる。
【0073】
制御ピストンNC、及び、直動部材BDは、電気モータMTによる正作動トルクQmt、及び、サーボ圧Pcによる逆作動トルクQpcの大小関係に基づいて動かされる。正作動トルクQmt、及び、逆作動トルクQpcに応じて、軸方向Hj(即ち、回転軸線Jkに沿った方向)に移動される部材が「被移動部材BH」と称呼される。即ち、被移動部材BHは、制御ピストンNC、及び、直動部材BDの総称である。
【0074】
緩衝部材KSが、サーボ圧Pcにより、被移動部材BHが後退方向Hbに動かされる場合に、その運動エネルギを吸収するために設けられる。つまり、変換機構GHの逆作動において、被移動部材BHの運動エネルギが、緩衝部材KSにより吸収される。例えば、緩衝部材KSには、ゴム、ばね等の弾性体が用いられる。また、緩衝部材KSには、ウレタン、発泡樹脂等が採用されてもよい。
【0075】
緩衝部材KSは、軸方向Hj(回転軸線Jkの方向)において、直動部材BD(被移動部材BHの1つ)に対して、制御シリンダCC(特に、制御室Rc)とは反対側に配置される。サーボ圧Pcによる逆作動で直動部材BDが衝突する際の衝撃が、緩衝部材KSにより緩和される。これにより、緩衝部材KSに対して直動部材BDとは反対側に位置する部材(図2では取付ハウジングHGk)が衝突から保護される。
【0076】
緩衝部材KSは、取付ハウジングHGkによって、シリンダハウジングHGcに保持される。緩衝部材KSがハウジングHG(シリンダハウジングHGc、及び、取付ハウジングHGkのうちの少なくとも1つ)に取り付けられる部分Tks(「取付部」ともいう)には隙間が設けられる。詳細には、該隙間は、軸方向Hj、及び、径方向Hkのうちの少なくとも1つの方向に形成される。取付部Tksに隙間がなく、緩衝部材KSとハウジングHGとが密着されていると、緩衝部材KSの変形は、ハウジングHGに拘束される。取付部Tksに隙間が設けられることで、緩衝部材KSは自由に変形することができるため、運動エネルギが効果的に吸収される。
【0077】
≪サーボ圧Pcの調整≫
制動制御装置SCでは、液圧発生ユニットPSの出力であるサーボ圧Pcにより、ホイール圧Pwが調整される。液圧発生ユニットPSでは、電気モータMTの回転動力Tm(即ち、軸トルク)が、変換機構GHにより、直動部材BD(結果、制御ピストンNC)の直線動力Fn(即ち、推力)に変換される。これにより、制御ピストンNCが前進方向Haに移動することで、サーボ圧Pcが発生され、調整される。具体的には、制御ピストンNCが前進方向Haに移動されることで、サーボ圧Pcが増加され、制御ピストンNCが後退方向Hbに移動されることで、サーボ圧Pcが減少される。以下、サーボ圧Pcの調整(増減)について説明する。なお、液圧発生ユニットPSには、サーボ圧Pcを検出するために、サーボ圧センサPCが設けられる。
【0078】
≪サーボ圧Pcの増加≫
図2において、回転軸線Jkの上部には、液圧発生ユニットPSがサーボ圧Pcを発生していない状態が図示されている。該状態では、制御室Rcは、ハウジング孔Av、及び、ピストン孔Anを介して、マスタリザーバRVに接続されていて、サーボ圧Pcは「0(大気圧)」である。サーボ圧Pcが「0」であることに対応する被移動部材BH(直動部材BD、及び、制御ピストンNCの総称)の位置が「初期位置so」と称呼される。図2には、被移動部材BHの初期位置soとして、直動部材BDの位置が例示されている。初期位置soに対応する電気モータMTの回転角Kaが「初期角ko」と称呼される。即ち、初期位置soは、被移動部材BH(直動部材BD、又は、制御ピストンNC)に係るゼロ点に相当し、初期角koは、回転角Kaに係るゼロ点に相当する。被移動部材BHが初期位置soに位置する場合には、被移動部材BHは緩衝部材KSに接触(当接)していない。
【0079】
制動要求値(制動力に係る要求を表示する状態量であり、例えば、制動操作部材BPの操作変位Sp)が増加されると、目標圧Ptが「0」から増加される。目標圧Ptは、サーボ圧Pc(実際値)に対応する目標値である。目標圧Ptは、制動要求値の増加に伴って増加される。目標圧Ptの増加に伴い、電気モータMTは、正転方向Hsに駆動され、回転動力Tmを発生する。回転動力Tmは、減速機GSを介して、変換機構GHに伝達され、直動部材BDの直線動力Fnとして出力される。そして、直動部材BDにより、制御ピストンNCが前進方向Ha(制御室Rcの体積が減少する方向)に移動される。該移動により、制御ピストンNCにあけられたピストン孔Anは制御室Rc内に移動するので、制御室RcとマスタリザーバRVとの連通が遮断される。制御ピストンNCが、更に、前進方向Haに移動されると、サーボ圧Pc(制御室Rcの内圧)が「0(大気圧)」から増加される。これにより、制御シリンダCCの制御室Rcから、サーボ圧Pcに加圧された制動液BFが、サーボ室Ru、及び、後輪ホイールシリンダCWrに出力(圧送)される。サーボ圧Pcが増加される場合には、正作動トルクQmt(正作動で電気モータMTから出力される回転力)が、逆作動トルクQpc(サーボ圧Pcによる逆作動で電気モータMTに入力される回転力)よりも大きい。
【0080】
≪サーボ圧Pcの保持≫
制動要求値が一定になると、目標圧Ptは保持され、サーボ圧Pcは一定にされる。例えば、直動部材BD(被移動部材BH)は、初期位置soから値sxだけ変位した位置で維持される(図2の回転軸線Jkの下部を参照)。サーボ圧Pcが一定で維持される場合には、電気モータMTによる正作動トルクQmtとサーボ圧Pcによる逆作動トルクQpcとは均衡している。
【0081】
≪サーボ圧Pcの減少≫
制動要求値が減少されると、目標圧Ptが減少される。これにより、電気モータMTの回転動力Tmは減少される。サーボ圧Pcによる逆作動トルクQpcが、電気モータMTによる正作動トルクQmtよりも大きくなり、電気モータMTは逆転方向Hgに回転する。被移動部材BHは、後退方向Hbに移動され、制御室Rcの体積は増加される。サーボ室Ru、及び、後輪ホイールシリンダCWrに移動されていた制動液BFは、制御室Rcに向けて戻されるため、サーボ圧Pcは減少される。そして、目標圧Ptが「0」にされると、被移動部材BHは初期位置soまで戻されて、サーボ圧Pcは「0」にされる。以上で説明したように、液圧発生ユニットPSでは、制御ピストンNCが、直線動力Fnによって、回転軸線Jkに沿って移動することで、制御シリンダCCのサーボ圧Pcが調整(増加、保持、減少)される。
【0082】
<液圧発生ユニットPSの第2の実施形態>
図3の部分断面図を参照して、液圧発生ユニットPSの第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、直動部材BDに対して、制御シリンダCC(制御室Rc)とは反対側に、緩衝部材KSが設けられた。また、緩衝部材KSに近い側の直動部材BDの端部にフランジ部Fdが設けられ、該フランジ部Fdが回り止め部材MDにかみ合わされた。第2の実施形態では、制御ピストンNCに対して、制御シリンダCC(制御室Rc)とは反対側に、緩衝部材KSが設けられる。また、緩衝部材KSに近い側の制御ピストンNCの端部にフランジ部Feが設けられ、該フランジ部Feが回り止め部材MDにかみ合わされる。以下、相違点を中心に説明する。
【0083】
第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、変換機構GHには、ボールねじ機構が採用される。変換機構GHでは、外側部材である直動部材BD(ボールねじナット)が、内側部材である回転部材BK(ボールねじシャフト)を覆うように配置され、ボールBLを介して、夫々のねじ溝Mzk、Mzdがかみ合わされる。制御ピストンNCは直動部材BDに固定され、それらは、被移動部材BHとして、一体となって移動することができる。
【0084】
第2の実施形態では、制御シリンダCC(制御室Rc)から離れた側の制御ピストンNCの端部に、フランジ部Feが設けられる。フランジ部Fdと同様に、フランジ部Feでは、円筒形状の制御ピストンNCの端部が、つば形状に、径方向Hkに延ばされる。フランジ部Feには、回り止め部材MDにかみ合うように、切り欠きが形成されている。そして、緩衝部材KSが、軸方向Hjにおいて、制御ピストンNC(被移動部材BHの1つ)に対して、制御シリンダCC(制御室Rc)とは反対側に配置される。第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、緩衝部材KSは、その変形が拘束されないよう、ハウジングHGに対して隙間を持って保持されている(取付部Tksを参照)。
【0085】
<液圧発生ユニットPSの第3の実施形態>
図4の部分断面図を参照して、液圧発生ユニットPSの第3の実施形態について説明する。第1、第2の実施形態では、変換機構GHでは、直動部材BDが外側部材として採用され、回転部材BKが内側部材として採用された。これとは逆に、第3の実施形態では、外側部材(ナット部材)が回転部材BKにされ、内側部材(シャフト部材)が直動部材BDにされる。
【0086】
第3の実施形態でも、第1、第2の実施形態と同様に、変換機構GHには、ボールねじ機構が採用される。第3の実施形態に係る変換機構GHでは、ボールねじシャフトである直動部材BDと、ボールねじナットである回転部材BKとが、ボールBLを介して、かみ合わされる。第3の実施形態でも、制御ピストンNCは直動部材BDに固定され、それらは、被移動部材BHとして、一体となって移動することができる。
【0087】
第3の実施形態でも、第2の実施形態と同様に、制御シリンダCC(制御室Rc)から離れた側の制御ピストンNCの端部に、フランジ部Feが設けられる。フランジ部Feでは、円筒形状の制御ピストンNCの端部が、つば形状に、径方向Hkに延ばされる。フランジ部Feには、回り止め部材MDにかみ合うように、切り欠きが形成される。緩衝部材KSは、軸方向Hjにおいて、制御ピストンNC(被移動部材BHの1つ)に対して、制御シリンダCC(制御室Rc)とは反対側に配置される。第3の実施形態でも、緩衝部材KSは、その変形が拘束されないよう、ハウジングHGに対して隙間を持って保持されている(取付部Tksを参照)。
【0088】
なお、第3の実施形態では、その変形例として、緩衝部材KSは、軸方向Hjにおいて、直動部材BD(被移動部材BHの1つ)に対して、制御シリンダCC(制御室Rc)とは反対側に配置されてもよい。つまり、第3の実施形態の変形例では、緩衝部材KSは、回転軸線Jkの周辺に設けられる。
【0089】
<緩衝部材KSによる衝撃緩和>
上述した3つの液圧発生ユニットPSに係る実施形態について、緩衝部材KSによる運動エネルギの吸収について説明する。緩衝部材KSは、被移動部材BHと衝突することで、被移動部材BHが有する運動エネルギを吸収して、衝突時の衝撃を和らげる。被移動部材BHは総称であり、図2に示す第1の実施形態、及び、非図示の第3の実施形態の変形例では、直動部材BDが被移動部材BHに該当する。また、図3に示す第2の実施形態、及び、図4に示す第3の実施形態では、制御ピストンNCが被移動部材BHに該当する。
【0090】
≪サーボ圧Pcによる逆作動≫
電気モータMTが動力Tmを発生できる場合(正常時)には、サーボ圧Pcによる逆作動トルクQpc(外力であるサーボ圧Pcにより電気モータMTを逆転方向Hgに回転させようとする回転力)に対抗する正作動トルクQmt(電気モータMTへの給電により電気モータMTを正転方向Hsに回転させる回転力)が発生することができる。このため、サーボ圧Pcにより、被移動部材BHが緩衝部材KSに接触することはない。詳細には、電気モータMTが動力Tmを発生できる場合には、被移動部材BHの動きは、サーボ圧Pcを増加するための初期位置soから前進方向Haへの移動、及び、サーボ圧Pcを減少するための初期位置soに向けた後退方向Hbへの移動の何れかに限られる。
【0091】
なお、液圧発生ユニットPCでは、初期位置so(又は、初期角ko)を取得するために、被移動部材BHを意図的に緩衝部材KSに接触させることがある。該作動は「初期位置取得」と称呼される。初期位置取得では、先ず、電気モータMTには、正転方向Hsとは逆方向のモータ電流Img(逆転電流)が供給されて、電気モータMTが逆転方向Hgに駆動される。その後、被移動部材BHが緩衝部材KSに当接した位置が基準とされて、初期位置so(又は、初期角ko)が決定される。そして、電気モータMTに正転電流Imsが供給されて、被移動部材BHは初期位置soに戻される。初期位置取得(特に、後退方向Hbへの作動)では、シール部材SLの摺動抵抗、変換機構GHでのボールBLの転がり抵抗、電気モータMTでのベアリングBBの抵抗等の摩擦抵抗により動力の損失(「摩擦損失」ともいう)が存在するため、これが補償されるように、逆転電流Imgにより、第1回転動力Tmが逆転方向Hgに発生される。
【0092】
電気モータMTが第1回転動力Tmを完全に発生できない場合(動力喪失時)には、被移動部材BHが緩衝部材KSに接触することがある。第1回転動力Tmの喪失は、電気モータMTに電流Im(特に、正転電流Ims)が供給できない場合に発生する。例えば、動力喪失は、電源の失陥、駆動回路DR等での断線によって生じる。ここで、電気モータMTの動力Tmが失われた場合のサーボ圧Pcによる逆作動が「特定逆作動」と称呼される。特定逆作動では、電気モータMTが第1回転動力Tmが瞬時に「0」になるので、サーボ圧Pcのみによって、被移動部材BHが、後退方向Hb(制御シリンダCCの底部Mbcから離れていく方向)に動かされる。
【0093】
詳細には、「Ims=0」の状態になり、回転動力Tmが失われると、サーボ圧Pcにより、直動部材BDが後退方向Hbに押され、回転部材BKが回転する。回転部材BKの回転速度は、減速機GSによって増加される。減速機GSにより、電気モータMTが回転される。電気モータMT等は逆作動で高速回転しているので、電気モータMT等の慣性により、被移動部材BHは、初期位置soを超えて、後退方向Hbに移動することがある。
【0094】
特定逆作動において、被移動部材BHが緩衝部材KSに衝突するか、否かは、回転動力Tmが失われた時点(動力喪失の発生時点)のサーボ圧Pcの大小により定まる。回転動力Tmの喪失時点において、サーボ圧Pcが相対的に小さい場合(サーボ圧Pcが所定圧po未満である場合)には、被移動部材BHは緩衝部材KSに衝突しない。これは、「Pc<po」の場合には、逆作動トルクQpcが、上記の摩擦損失(構成部材の摩擦抵抗による動力の損失)で相殺されるためである。これに対して、電気モータMTが動力Tmを喪失する直前のサーボ圧Pcが相対的に大きい場合(サーボ圧Pcが所定圧po以上である場合)には、被移動部材BHは緩衝部材KSに衝突する。ここで、所定圧poは、上記の摩擦損失で定まる所定値である。
【0095】
被移動部材BHは緩衝部材KSに衝突する場合の典型例は、乾燥した路面(乾燥コンクリート路、乾燥アスファルト路等)にてアンチロックブレーキ制御が実行されている最中に、動力喪失が発生する場合である。該状況では、サーボ圧Pcは、車輪(タイヤ)と走行路面との間の摩擦において最大限に発生し得る車両減速度(例えば、1G、ここで、「G」は重力加速度)に相当する値まで増加されている。
【0096】
≪緩衝部材KSの作用≫
特定逆作動時において、構成部材間の衝突の衝撃を緩和するよう、緩衝部材KSが設けられる。緩衝部材KSは、回転軸線Jkの方向(即ち、軸方向Hj)において、被移動部材BHに対して制御シリンダCCとは反対側に配置される。緩衝部材KSは、被移動部材BHと衝突することにより、被移動部材BHが持つ運動エネルギを吸収する。別の観点で言えば、緩衝部材KSは、被移動部材BHに衝突する場合に、被移動部材BHの動きを阻止する力(「阻止力」ともいう)を発生する。緩衝部材KSによって発生される阻止力は、ばね力(変位に応じた力)、及び、減衰力(速度に応じた力)のうちの少なくとも1つである。何れにしても、被移動部材BHは、緩衝部材KSに衝突することにより、その動きが止められる。液圧発生ユニットPSでは、緩衝部材KSを用いた簡素な構成によって、逆作動における衝突から構成部材が保護される。結果、装置の小型化が図られる。
【0097】
例えば、緩衝部材KSが省略される構成を想定する。該構成では、被移動部材BHは、その後退方向Hbに隣り合う部材(「隣接部材」ともいう)に直接衝突することになる。ここで、「隣接部材」は、被移動部材BHに対して、制御シリンダCC(制御室Rc)とは反対側で隣り合い、且つ、回転部材BKの回転軸線Jkに垂直な平面(即ち、投影面)に対して、回転軸線Jkに沿って平行投影した場合に、被移動部材BHの投影(「投象」ともいう)と重なる投影を有する部材である。従って、「緩衝部材KSは、隣接部材と被移動部材BHとの間に配置されている」ともいえる。被移動部材BHと隣接部材とに挟まれた緩衝部材KSによって、被移動部材BH、及び、隣接部材が、特定逆作動時の衝突から守られる。
【0098】
特徴的な緩衝部材KSの働きについて詳述する。サーボ圧Pcが非常に高い状態(例えば、乾燥した路面でアンチロックブレーキ制御が実行されている状態)で、正転電流Imsが急減し、電気モータMTの動力Tmが急に失われる。動力Tmの喪失により、サーボ圧Pcによって被移動部材BHが、初期位置soを超えて、更に後退方向Hbに動かされる。その後、被移動部材BHが、高速で緩衝部材KSに衝突する。このとき、被移動部材BHの運動エネルギ(「衝突エネルギ」ともいう)が、緩衝部材KSによって吸収される。例えば、被移動部材BHの運動エネルギは、緩衝部材KSの弾性エネルギに変換される。これにより、被移動部材BHの後退方向Hbにおける速度は一旦は「0(運動の停止)」になる。被移動部材BHの停止後、緩衝部材KSにおける変形の回復により、被移動部材BHは前進方向Haに動かされる。被移動部材BHの前進方向Haへの移動により、サーボ圧Pcは増加するので、被移動部材BHの速度は最終的に「0」に収束する。
【0099】
被移動部材BHに衝突されても、緩衝部材KSは、隣接部材(緩衝部材KSの後退方向Hbに位置する部材)には接触しないように構成される。即ち、被移動部材BHの運動エネルギの全てが、緩衝部材KSによって吸収される。或いは、被移動部材BHの運動エネルギが極めて大きい場合(即ち、被移動部材BHの後退方向Hbにおける速度が非常に高い場合)には、緩衝部材KSが隣接部材に当るように構成されてもよい。但し、サーボ圧Pcの最大圧での特定逆作動において、その当接の度合いは、部材の破壊強度に比較して、格段に低く設定される。緩衝部材KSが隣接部材に接触したとしても、緩衝部材KSにより衝突エネルギは十分に吸収されるので、隣接部材に加わる衝突の度合いは小さい。このため、隣接部材は、被移動部材BHの衝突から保護される。
【0100】
なお、サーボ圧Pcの最大圧は、制動装置SXの諸元(ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTにおける制動半径、摩擦部材の摩擦係数等)に応じて予め設定される既知の値である。従って、サーボ圧Pcの最大圧における特定逆作動で発生する緩衝部材KSの荷重(「最大荷重」ともいう)は、制動装置SXの諸元に応じて定まる。
【0101】
≪ハウニングHGへの緩衝部材KSの取付≫
緩衝部材KSによるエネルギ吸収(衝撃吸収)は、緩衝部材KSの変形によって行われる。このため、ハウジングHGにおいて、緩衝部材KSを保持する部位Tks(取付部)には、軸方向Hj、及び、径方向Hkのうちの少なくとも1つの方向に隙間が設けられる。該隙間は、上記の最大荷重(制動装置SXの諸元に応じた最大サーボ圧Pcでの特性逆作動における荷重)での緩衝部材KSの変形量に基づいて設定される。最大荷重は制動装置SXの諸元で決まるので、緩衝部材KSの取付用の隙間は、上記の制動装置SXの諸元に応じて設定される。取付部Tksに隙間が設けられることにより、緩衝部材KSの変形が拘束されることない。これにより、緩衝部材KSでのエネルギ吸収が適切に行われ得る。
【0102】
≪被移動部材BHのフランジ形状≫
直動部材BDが被移動部材BHである構成では、制御室Rcから離れた側(つまり、緩衝部材KSに近い側)における直動部材BDの端部にフランジ部Fdが形成される。また、制御ピストンNCが被移動部材BHである構成では、制御室Rcから離れた側(つまり、緩衝部材KSに近い側)における制御ピストンNCの端部にフランジ部Feが形成される。即ち、液圧発生ユニットPSでは、緩衝部材KSに近い側における被移動部材BHの端部にフランジ部Fd、Feが設けられる。フランジ部Fd、Feにより衝突面の面積が拡大できるので、被移動部材BHが緩衝部材KSに衝突する面(「衝突面」ともいう)の面積を広くできる。これにより、衝突時の面圧が緩和されるので、緩衝部材KSによる運動エネルギ吸収の効果が十分に確保され得る。
【0103】
回り止め部材MDにかみ合うための部位は、軸方向Hjにおいて、被移動部材BHの任意の位置に設けることができる。液圧発生ユニットPSでは、被移動部材BHは、その端部に設けられたフランジ部Fd、Feにて、回り止め部材MDに勘合される。即ち、被移動部材BHのフランジ部Fd、Feは、回り止め機能、及び、衝突緩和機能の2つの機能を兼ね備えている。このため、装置全体を小型化することができる。
【0104】
液圧発生ユニットPSでは、変換機構GHにおいて、ボールねじ機構のシャフト部材(内側部材)が回転部材BKとして採用される。そして、ナット部材(外側部材)である直動部材BDが、回転部材BKの外周を包み込むように設けられる。外側部材の断面積(回転軸線Jkに垂直な平面の面積)は、内側部材の断面積よりも大きくすることができる。液圧発生ユニットPSでは、直動部材BDが外側部材であるため、衝突面の面積を拡大できる。上記同様に、衝突時の面圧が緩和され、緩衝部材KSによる運動エネルギの吸収効果が向上される。
【0105】
≪緩衝部材KSが機能しない場合≫
被移動部材BHと緩衝部材KSとの接触が発生しない場合には、緩衝部材KSは作用しない。モータ電流Imが供給可能であり、電気モータMTが第1回転動力Tmを発生できる場合には、逆作動トルクQpcに対抗する正作動トルクQmtが発生可能である。このため、被移動部材BHは初期位置so(「Pc=0」に対応する位置)よりも後退方向Hbには動かされない。即ち、電気モータMTが第1回転動力Tmを発生できる状態では、被移動部材BHがサーボ圧Pcにより後退方向Hbに押されても、被移動部材BHは、緩衝部材KSに接触しない。従って、電気モータMTが回転動力Tmを発生できない場合には、緩衝部材KSは、被移動部材BHの運動エネルギを吸収するが、電気モータMTが回転動力Tmを発生できる場合には、緩衝部材KSは、被移動部材BHの運動エネルギを吸収しない。
【0106】
サーボ圧Pcが相対的に低い状態(「Pc<po」の状態)の特定逆作動では、構成部材の摩擦抵抗に起因する動力損失(摩擦損失)により、被移動部材BHと緩衝部材KSとの衝突は生じない。従って、サーボ圧Pcが所定圧po以上である場合には、緩衝部材KSは被移動部材BHの運動エネルギを吸収するが、サーボ圧Pcが所定圧po未満である場合には、緩衝部材KSは被移動部材BHの運動エネルギを吸収しない。例えば、通常のサービスブレーキ(例えば、車両減速度が0.2~0.3G程度の制動)では、被移動部材BHと緩衝部材KSとは接触しないので、緩衝部材KSの作用(即ち、衝突によるエネルギ吸収)は働かない。
【0107】
<液圧発生ユニットPSの他の実施形態等>
以下、液圧発生ユニットPSの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、液圧発生ユニットPSは、上記同様の効果(特定逆作動時の衝撃緩和を簡単な構成で達成すること、装置の小型化等)を奏する。
【0108】
上述した液圧発生ユニットPSの実施形態では、変換機構GHとしてボールねじが採用された。これに代えて、変換機構GHには、滑りねじ(例えば、台形ねじ)が採用されてもよい。滑りねじ機構が採用される構成では、内側部材には、ねじ溝として、おねじが形成される。また、外側部材には、ねじ溝として、めねじが形成される。そして、おねじとめねじとが直接かみ合わされる。滑りねじが採用される変換機構GHでも逆作動は生じる。
【0109】
上述した液圧発生ユニットPSの実施形態では、軸線Jmと軸線Jc、Jn、Jkとが一直線上に並ぶ構成が採用された。該構成は、軸線Jmと軸線Jc等とが同軸上に存在するため「同軸構成(或いは、1軸構成)」と称呼される。同軸構成では、減速機GSにおいて、入力軸の回転軸線と出力軸の回転軸線とが同軸上にあるもの(例えば、遊星歯車機構)が用いられる。該構成に代えて、軸線Jmと軸線Jc、Jn、Jkとが別軸上に存在する「別軸構成(或いは、2軸構成)」が採用されてもよい。別軸構成では、減速機GSにおいて、入力軸の回転軸線と出力軸の回転軸線とが異なるもの(例えば、歯車列)が用いられる。別軸構成では、軸線Jmと、軸線Jc、Jn、Jkとは、別軸であるが、平行に配置される。なお、別軸構成でも、軸線Jc、Jn、Jkは一直線上に存在する。
【0110】
液圧発生ユニットPSには、上記の摩擦損失(シール部材SLの抵抗等)を補償するよう、戻しばねが設けられてもよい。戻しばねは、制御シリンダCCの底面Mbcと制御ピストンNCの底部Btn(底部表面)との間に設けられる。戻しばねは、圧縮ばねであり、常時、制御ピストンNCを後退方向Hbに押圧している。該構成では、電気モータMTが動力Tmを発生できない場合(動力喪失時)には、被移動部材BHは、サーボ圧Pc、及び、戻しばねにより、後退方向Hbに動かされる。しかし、戻しばねの力による逆作動トルクQpcは、サーボ圧Pcによる逆作動トルクQpcに比較して極めて小さいため、戻しばねの有無は緩衝部材KSの効果に影響を及ぼさない。なお、戻しばねが省略される構成では、動力喪失時には、被移動部材BHは、サーボ圧Pcのみにより、後退方向Hbに動かされる。
【0111】
上述した制動制御装置SCは、前輪WHfに回生装置KGが備えられ、回生協調制御が実行される車両に適用された。回生協調制御が実行される車両では、回生装置KGは、前輪WHf、及び、後輪WHrのうちの少なくとも1つに備えられていればよい。また、制動制御装置SCは、回生装置KGが省力され、回生協調制御が実行されない車両にも適用され得る。つまり、制動制御装置SCは、回生協調制御の有無とは無関係に、各種車両に適用され得る。
【0112】
上述した制動制御装置SCの構成例では、シングル型のマスタシリンダCMが採用された。制動制御装置SCでは、タンデム型のマスタシリンダCMが採用されてもよい。該構成では、CMの内部に、2つのマスタ室Rmが形成される。そして、液圧発生ユニットPSからサーボ圧Pcがサーボ室Ruに供給され、マスタ室RmからホイールシリンダCWに、ホイール圧Pwが供給される。該構成では、制動制御装置SCには、2系統の制動系統として、前後型だけでなく、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用されてもよい。ダイアゴナル型の制動制御装置SCでは、2つのマスタ室Rmうちの一方が、右前輪ホイールシリンダ、及び、左後輪ホイールシリンダに接続される。また、2つのマスタ室Rmうちの他方が、左前輪ホイールシリンダ、及び、右後輪ホイールシリンダに接続される。
【0113】
上述した制動制御装置SCの構成例では、第1制動ユニットSAにおいて、供給圧PmがマスタシリンダCMを介して出力された。即ち、液圧の伝達経路においてアプライユニットAPと液圧発生ユニットPSとが直列に配置され、液圧発生ユニットPSから供給されたサーボ圧Pcが、マスタピストンNMを介して、供給圧Pmとして伝達された。これに代えて、アプライユニットAPと液圧発生ユニットPSとが並列に配置されてもよい。具体的には、アプライユニットAP(特に、マスタシリンダCM)、及び、液圧発生ユニットPSの夫々は、第2アクチュエータYBに直に接続される。そして、オン・オフ電磁弁(「切替弁」という)によって、「液圧発生ユニットPSと第2アクチュエータYBとの接続」、及び、「アプライユニットAPと第2アクチュエータYBとの接続」のうちの何れか一方が選択される。前者が選択される場合には、液圧発生ユニットPSにて発生されたサーボ圧Pcが、アプライユニットAPを介さずに、供給圧Pmとして直接出力される。このとき、アプライユニットAPはストロークシミュレータSSに接続され、制動操作部材BPの操作力はストロークシミュレータSSによって発生される。一方、後者が選択される場合には、制動操作部材BPの操作によって発生されたマスタ室Rmの液圧が、供給圧Pmとして出力される。このとき、アプライユニットAPはシミュレータSSから切り離される。
【0114】
上述した制動制御装置SCの構成例では、アプライユニットAPにおいて、マスタ室Rmの受圧面積rm(マスタ面積)とサーボ室Ruの受圧面積ru(サーボ面積)とが等しく設定された。マスタ面積rmとサーボ面積ruとは等しくなくてもよい。マスタ面積rmとサーボ面積ruとが異なる構成では、サーボ面積ruとマスタ面積rmとの比率に基づいて、供給圧Pm(マスタ圧)とサーボ圧Pcとの変換演算が可能である(即ち、「Pm・rm=Pc・ru」に基づく換算)。
【0115】
<実施形態のまとめ>
液圧発生ユニットPS(液圧発生装置)の実施形態についてまとめる。液圧発生ユニットPSは、ホイールシリンダCWのホイール圧Pwを調整して、車輪WHの制動力を制御する制動制御装置SCに適用される。
【0116】
液圧発生ユニットPSは、「第1回転動力Tmを発生する電気モータMT(例えば、ブラシレスモータ)」、「第1回転動力Tmを減速して第2回転動力Tnを出力する減速機GS(例えば、遊星歯車機構)」、「回転運動をする回転部材BKと直線運動をする直動部材BDとで構成され、第2回転動力Tnを直動部材BDの直線動力Fnに変換する変換機構GH(例えば、ボールねじ機構)」、及び、「シリンダCC内に挿入され、直線動力Fnによって、シリンダCC内の液圧Pc(液圧室Rcの内圧であり、サーボ圧)を調整するピストンNC」にて構成される。
【0117】
更に、液圧発生ユニットPSには、電気モータMTが第1回転動力Tmを発生できない場合に、液圧Pcにより回転部材BKの回転軸線Jkに沿った方向に動かされる被移動部材BHの運動エネルギを吸収する緩衝部材KSが備えられる。ここで、被移動部材BHには、直動部材BD、及び、制御ピストンNCのうちの何れか一方が該当する。例えば、緩衝部材KSには、ばね、ゴム等の弾性体、或いは、ウレタン、発砲樹脂等が用いられる。
【0118】
電気モータMTが第1回転動力Tmを発生できない場合(即ち、電気モータMTに電力供給ができない場合)には、「Ims=0」であるため、正作動トルクQmtは「0」である。電気モータMTは、逆作動トルクQpcに対抗する正作動トルクQmtを発生できないので、被移動部材BHは、サーボ圧Pcによる逆作動トルクQpcで、初期位置soを超えて、後退方向Hbに動かされることがある。特に、サーボ圧Pcが相対的に高い状態(「Pc≧po」の状態)で、電気モータMTの動力喪失が発生する場合には、特定逆作動(回転動力Tmが瞬時且つ完全に失われた際の逆作動)により、被移動部材BHは急激に戻される。これにより、被移動部材BHと他の構成部材との衝突が発生する。
【0119】
被移動部材BHとの衝突により、構成部材(被移動部材BHを含む)の破損が生じないように、液圧発生ユニットPSには緩衝部材KSが設けられる。緩衝部材KSは、軸方向Hj(回転軸線Jkの方向)において、被移動部材BHに対してシリンダCCとは反対側に配置される。緩衝部材KSは、特定逆作動時に被移動部材BHと衝突することで、被移動部材BHの運動エネルギを吸収する。液圧発生ユニットPSでは、緩衝部材KSを利用した簡単な構成によって、構成部材(BH、HG、GS等)が特定逆作動時の衝突から保護される。結果、液圧発生ユニットPSでは、装置全体の簡素化、小型化が達成される。
【0120】
なお、電気モータMTが第1回転動力Tmを発生できる場合(即ち、電気モータMTに電力供給ができる場合)には、電気モータMTは、逆作動トルクQpcに対抗する正作動トルクQmtを発生できる。このため、被移動部材BHは初期位置so(「Pc=0」に対応する位置)よりも後退方向Hbには動かされない。即ち、電気モータMTが第1回転動力Tmを発生できる状態では、被移動部材BHがサーボ圧Pcにより後退方向Hbに押されても、被移動部材BHは、緩衝部材KSに接触しない。従って、緩衝部材KSは、電気モータMTが回転動力Tmを発生できない場合には被移動部材BHの運動エネルギを吸収するが、電気モータMTが回転動力Tmを発生できる場合には被移動部材BHの運動エネルギを吸収しない。
【0121】
また、サーボ圧Pcが相対的に低い状態(「Pc<po」の状態)の特定逆作動では、構成部材の摩擦抵抗に起因する動力損失により、被移動部材BHは、緩衝部材KSに衝突しない。従って、緩衝部材KSは、サーボ圧Pcが所定圧po以上である場合には被移動部材BHの運動エネルギを吸収するが、サーボ圧Pcが所定圧po未満である場合には被移動部材BHの運動エネルギを吸収しない。
【0122】
液圧発生ユニットPSでは、緩衝部材KSが、ハウジングHGに対して隙間を有して取り付けられる。緩衝部材KSは、変形することによって被移動部材BHの運動エネルギを吸収する。このため、緩衝部材KSの変形が妨げられないように、緩衝部材KSの取付部Tksには隙間が設けられる。これにより、運動エネルギ吸収が十分に行われ得る。
【0123】
液圧発生ユニットPSでは、被移動部材BHにおいて、緩衝部材KSに近い側(制御シリンダCCから遠い側)の端部にフランジ部Fd、Feが設けられる。詳細には、被移動部材BH(直動部材BD、又は、制御ピストンNC)において、緩衝部材KSの側の端部が、径方向Hkに(回転軸線Jkから遠ざかるように)延ばされて、つば形状のフランジ部Fd、Feが形成される。フランジ部Fd、Feによって、緩衝部材KSに衝突する面(衝突面)の面積が拡大される。衝突時の面圧緩和により、運動エネルギの吸収が効果的に行われ得る。
【0124】
液圧発生ユニットPSでは、フランジ部Fd、Feにて、回り止め部材MDとのかみ合わせが行われる。被移動部材BHが軸方向Hjに移動するためには、回転部材BKの回転軸線Jkまわりの回転運動が拘束される必要がある。液圧発生ユニットPSでは、フランジ部Fd、Feにより、回り止め、及び、衝突時の面圧低減の2つの機能が発揮される。これにより、装置全体の簡素化、小型化が図られる。
【0125】
変換機構GHは、直動部材BDと回転部材BKとの組み合わせで構成される。液圧発生ユニットPSでは、直動部材BDは内周面Midにねじ溝Mzdを有し、回転部材BKは外周面Mokにねじ溝Mzkを有する。即ち、液圧発生ユニットPSの変換機構GHでは、回転軸線Jkに近い側の内側部材が回転部材BKにされ、その外側(回転軸線Jkから離れた側)の外側部材が直動部材BDにされる。外側部材の断面積(回転軸線Jkに垂直な平面の面積)は、内側部材の断面積よりも広いため、直動部材BDの衝突面の面圧が抑制され得る。これにより、運動エネルギの吸収が十分に行われ得る。
【0126】
なお、変換機構GHとしてボールねじが採用される場合には、内周面Midのねじ溝Mzd、及び、外周面Mokのねじ溝Mzkは、ボールねじ溝であり、それらは、ボールBLを介してかみ合わされる。また、変換機構GHとして台形ねじ(滑りねじ)が採用される場合には、内周面Midのねじ溝Mzdはめねじ溝であり、外周面Mokのねじ溝Mzkはおねじ溝である。これらのねじ溝は直接かみ合わされる。
【符号の説明】
【0127】
SC…制動制御装置、SX…制動装置、BP…制動操作部材(ブレーキペダル)、BF…制動液(作動液)、SA、SB…第1、第2制動ユニット、YA、YB…第1、第2アクチュエータ、EA、EB…第1、第2コントローラ、BS…通信バス、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、AP…アプライユニット、NR…入力ユニット、PS…液圧発生ユニット(液圧発生装置)、MT…電気モータ、VA、VB…第1、第2制御弁、SP…操作変位センサ、Sp…操作変位(SPの検出値)、PC…サーボ圧センサ、Pc…サーボ圧(Rcの内圧であり、PCの検出値)、PN…入力圧センサ、KA…回転角センサ、Ka…回転角(SMの回転位置であり、KAの検出値)、Pm…供給圧(Rmの内圧)、Pwf、Pwr…前輪、後輪ホイール圧、HG…ハウジング(HGm、HGc、HGkの総称)、HGm…モータハウジング(HGの一部)、HGc…シリンダハウジング(HGの一部)、HGk…取付ハウジング(HGの一部)、CL…モータコイル、SM…モータシャフト、GS…減速機、BH…被移動部材、GH…変換機構、BK…回転部材、BD…直動部材(BHの1つ)、BL…ボール(鋼球)、NC…制御ピストン(BHの1つ)、CC…制御シリンダ、KS…緩衝部材、MD…回り止め部材、Mid…BDの内周面、Mzd…BDのねじ溝、Mok…BKの外周面、Mzk…BKのねじ溝、Rc…制御室(CCの液圧室)、Fd…BDのフランジ部、Fe…NCのフランジ部、Tm…第1回転動力(MTからの出力であり、GSへの入力)、Tn…第2回転動力(GSからの出力であり、BKへの入力)、Fn…直線動力(BDの出力)、Qmt…正作動トルク、Qpc…逆作動トルク、Im…モータ電流、Ims…正転電流(MTをHsに駆動するIm)、Img…逆転電流(MTをHgに駆動するIm)。


図1
図2
図3
図4