(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161831
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】多色光生成装置
(51)【国際特許分類】
G09F 13/04 20060101AFI20241113BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241113BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241113BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20241113BHJP
H10K 59/00 20230101ALI20241113BHJP
【FI】
G09F13/04 N
G02B5/30
H10K50/10
H10K50/86
H10K59/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076901
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】田邉 悠
(72)【発明者】
【氏名】立花 和宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智博
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
5C096
【Fターム(参考)】
2H149AA21
2H149AB21
2H149AB26
2H149BA02
2H149BA12
2H149FA41Z
2H149FD25
3K107AA01
3K107AA05
3K107BB02
3K107CC32
3K107EE26
3K107FF14
5C096AA11
5C096BA01
5C096CB03
5C096CD02
5C096CH11
5C096FA04
5C096FA13
(57)【要約】
【課題】演算装置等によるコンピュータグラフィックスを用いることなく、省スペース化を実現できつつ、かつ多彩な光表現を達成することができ、さらに展示対象物との美的親和性にも優れる、多色光生成装置を提供する。
【解決手段】粘土鉱物の分散体と、当該分散体の前面側に配された偏光板とを有してなり、当該分散体に背面側から偏光を含む光を入射させて用いるための、多色光生成装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物の分散体と、当該分散体の前面側に配された偏光板とを有してなり、当該分散体に背面側から偏光を含む光を入射させて用いるための、多色光生成装置。
【請求項2】
前記分散体の背面側に配された偏光板を有してなる、請求項1に記載の多色光生成装置。
【請求項3】
前記分散体の前面側に配された偏光板の偏光軸の角度と、前記分散体の背面側に配された偏光板の偏光軸の角度が互いに異なる、請求項2に記載の多色光生成装置。
【請求項4】
前記分散体中の粘土鉱物の含有量が0.5~30質量%である、請求項3に記載の多色光生成装置。
【請求項5】
前記粘土鉱物がスメクタイトである、請求項4に記載の多色光生成装置。
【請求項6】
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上である、請求項5に記載の多色光生成装置。
【請求項7】
前記スメクタイトがナトリウム型スメクタイトである、請求項6に記載の多色光生成装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の多色光生成装置を備える、展示物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の多色光生成装置と、光源装置とを備える、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色光生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
模型やジオラマ等の展示物において、特撮、アニメーション、映画、ドラマなどで用いられる極彩色で多色の光の揺らぎを利用した光表現は、例えば、四次元などの異次元空間、ブラックホール、ホワイトホール、次元断層、時空の流れ、ワープ航法、時間の逆行、光速航行、地球外の星の大気表現、強重力場、転生、死後の世界(以下、これらを総称して「亜空間」とも称す。)などを表現する際に広く用いられている。このような特殊な光の揺らぎは、通常コンピュータグラフィックス(CG)等を用いて表現されるため、当該光表現を利用した展示物とする場合には、一般的にコンピュータグラフィックスを表示する液晶ディスプレイ等の前方に模型やジオラマ等が配置された展示物となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように液晶ディスプレイを用い、コンピュータグラフィックスにより上記のような多彩な光からなる光表現を表示する場合、その解像度はディスプレイや演算装置の性能に左右され、高い解像度でもって上記光表現を達成するにはコストがかかる。また、液晶ディスプレイや演算装置のスペースの確保という問題も生じ、特に上記のような高い解像度を達成するためには大掛かりな装置が必要となる。
さらに、例えば模型等を用いて、前記亜空間内に模型等が配されるような展示物の表現とするために上記のような液晶ディスプレイを用いる場合には、当該ディスプレイの前に模型等を設置する方法しか採れず、液晶ディスプレイによって表現される前記亜空間の「背景」と模型との間の空間により、背景と模型とが乖離し、展示物としての一体感が失われるという問題もあった。
【0004】
本発明は、演算装置等によるコンピュータグラフィックスを用いることなく、省スペース化を実現できつつ、かつ多彩な光表現を達成することができ、さらに展示対象物との美的親和性にも優れる、多色光生成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、粘土鉱物の一種であるスメクタイトの分散体を2枚の偏光板(偏光子)の間に配置して一方の偏光板(背面側偏光板)の外側から他方の偏光板(前面側偏光板)に向けて光を照射することにより、前面側偏光板を通過した光が多彩な偏光色(多色光)を示すことを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0006】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
粘土鉱物の分散体と、当該分散体の前面側に配された偏光板とを有してなり、当該分散体に背面側から偏光を含む光を入射させて用いるための、多色光生成装置。
〔2〕
前記分散体の背面側に配された偏光板を有してなる、前記〔1〕に記載の多色光生成装置。
〔3〕
前記分散体の前面側に配された偏光板の偏光軸の角度と、前記分散体の背面側に配された偏光板の偏光軸の角度が互いに異なる、前記〔2〕に記載の多色光生成装置。
〔4〕
前記分散体中の粘土鉱物の含有量が0.5~30質量%である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の多色光生成装置。
〔5〕
前記粘土鉱物がスメクタイトである、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の多色光生成装置。
〔6〕
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上である、前記〔5〕に記載の多色光生成装置。
〔7〕
前記スメクタイトがナトリウム型スメクタイトである、前記〔5〕又は〔6〕に記載の多色光生成装置。
〔8〕
前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の多色光生成装置を備える、展示物。
〔9〕
前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の多色光生成装置と、光源装置とを備える、照明装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多色光生成装置は、演算装置等によるコンピュータグラフィックスを用いることなく、省スペース化を実現しながら、展示対象物との美的親和性に優れる多彩な光からなる多色光を表現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の多色光生成装置の一実施形態の概要を示す概略図である
【
図2】
図2(A)は、実施例1の装置による偏光色の様子を示す図面代用写真である。
図2(B)は、実施例2の装置による偏光色の様子を示す図面代用写真である。
図2(C)は、実施例3の装置による偏光色の様子を示す図面代用写真である。
図2(D)は、比較例6の装置による偏光色の様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0010】
[多色光生成装置]
本発明の多色光生成装置は、粘土鉱物の分散体と、当該分散体の前面側に配された偏光板とを有してなり、当該分散体に背面側から偏光を含む光を入射させて用いるための装置である。なお、本発明ないし本明細書において、「分散体の前面側」とは、分散体に入射した光が出射する面側を意味する。また、「分散体の背面側」とは、光(偏光)が分散体に入射する面側を意味する。
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本発明は、本発明で規定すること以外は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、下記の図面を参照して説明する多色光生成装置等の説明は、下記の図面に示された形態に限らず、本発明の構成ないし発明特定事項の説明として適用されるものである。
【0011】
図1は、本発明の多色光生成装置の一実施形態を示す模式図である。
図1に示す本発明の多色光生成装置1では、背面側偏光板2(分散体の背面側に配される偏光板)と、前面側偏光板3(分散体の前面側に配される偏光板)とを有し、これらの偏光板の間に、粘土鉱物の分散体4が充填された透明容器が配されている。前記粘土鉱物の分散体4と、背面側偏光板2及び前面側偏光板3は、接していてもよく、接していなくてもよい。また、
図1に示す本発明の多色光生成装置1において、当該分散体4の内部には模型5が設置されている。光路6で示されるように、背面側偏光板2を通過した偏光は、次いで粘土鉱物の分散体4が充填された透明容器内を通過し、その後前面側偏光板3を通過することにより、多色光(極彩色光)となって現れる。なお、本発明ないし本明細書において「多色光」とは、異なる波長領域(例えば、赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫等に相当する波長領域)を有する複数の光線が、空間的に非規則的な位置(領域)で現れる光であることを意味する。
なお、
図1に示す模式図では、分散体の背面側に偏光板(背面側偏光板2)を有する実施形態を例として示しているが、本発明の多色光生成装置の背面側から入射する光が所望の偏光を含む場合には、分散体の背面側に偏光板を設けない構成とすることもできる。
【0012】
本発明の多色光生成装置が上記多色光を生成できるメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。
空気やガラスのように分子が無秩序に分布する等方性媒質に光が入射すると、屈折光は分解されないのに対し、方解石や水晶、液晶などの異方性媒質では、入射した光が屈折して常光と異常光とに分かれる複屈折(位相差)が生じることが知られている。本発明の多色光生成装置では、粘土鉱物が分散媒中に微粒子状に分散しつつ部分的に配向して異方性構造体を形成していると考えられ、そこで部分的に、不規則に複屈折を生じた偏光が波長ごとに異なる強度の干渉を示し、さらに偏光板を通過することで分光現象が促され、上記多色光が生成されるものと考えられる。
なお、分散体中の粘土鉱物は、光学的に等方なカードハウス構造ではなく、一種の規則性がある構造(例えば、粘土層が相垂直方向に連結することで形成される異方のファイバー状構造(ネマチック液晶類似))等を形成しているものと推測される。層状鉱物である粘土鉱物は、層面のSi-O-Si構造は疎水性なのに対し、層末端の水酸基(-OH)は親水性であるため両親媒性を有することから、水中で会合体を作りラメラ構造を形成しやすく、この構造(ラメラ液晶)により複屈折が生じるものと推定される。
【0013】
以下、本発明の多色光生成装置の構成要素について詳細を説明する。
【0014】
<粘土鉱物の分散体>
本発明の多色光生成装置において、前記分散体は分散質として粘土鉱物を有することにより、前記分散体に入射した光(偏光)に複屈折が発生すると考えられる。
本発明の多色光生成装置において、前記分散体に背面側から入射(照射)される光は偏光を含む。すなわち、本発明の多色光生成装置は、前記分散体に背面側から偏光を含む光を入射させて用いるための多色光生成装置である。当該偏光は、例えば太陽光、青空等の散乱光、水面からの反射光などの偏光を含む自然界の光や、偏光を生成する光源装置由来の光(偏光)であってもよく、また後述するように前記分散体の背面側に偏光板を設けて、当該偏光板を通過した偏光であってもよい。
【0015】
(粘土鉱物)
前記分散体において、粘土鉱物は分散質を構成する。粘土鉱物の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜に設定することができる。粘土鉱物それ自体は公知であり、市販もされている。高い膨潤性と透明性を示す観点から、前記粘土鉱物はスメクタイトであることが好ましい。前記スメクタイトとして、天然のスメクタイトや合成スメクタイトを用いることもでき、不純物の含有量が少ない観点から合成スメクタイトを用いることが好ましい。
前記スメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。特に、上記各スメクタイトは偏光色の色調、発色の強度、透明性、粘度等において異なる特性を有するため、上記各スメクタイトを併用して用い、その配合比を調整することにより、上記偏光色の色調等を制御することもできる。
【0016】
前記粘土鉱物の層間陽イオン種は特に制限がなく、目的に応じて選択することができる。また、分散体の分散媒が水系溶媒である場合には、分散安定性及び層間陽イオン由来の発色が少ない観点から、層間陽イオン種はナトリウムイオンやリチウムイオンであることが好ましく、ナトリウムイオンであることがより好ましい。
前記粘土鉱物の陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)は、水分散時の膨潤性を向上させる観点から、20meq(ミリ当量)/100g以上が好ましく、25meq/100g以上がより好ましく、30meq/100g以上がさらに好ましい。また通常、本発明に用いる粘土鉱物の陽イオン交換容量は250meq/100g以下である。
【0017】
前記分散体中の前記粘土鉱物の含有量(濃度)は特に制限がなく、本発明の多色光生成装置により発現する偏光色の発色や、分散体の粘性、透明性、粘土鉱物の種類などを考慮して適宜設定することができる。例えば、偏光色の色調や発色、増粘性の観点から、前記分散体中の粘土鉱物の含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。また、透明性の観点から、前記含有量は30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明において「粘土鉱物」と言う場合、微粒子状の粘土鉱物を意味する。より具体的には、前記粘土鉱物は、その粒子径(一次粒子径)が5~500nmであることが好ましく、10~250nmであることがより好ましく、15~200nmであることがさらに好ましく、20~120nmであることが特に好ましい。前記粘土鉱物の粒子径を上記好ましい範囲内とすることにより、光透過性に優れ、かつ部分的に配向状態が形成された分散体とすることができる。
なお、本発明において分散体中の前記粘土鉱物の「粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0019】
(分散媒)
前記分散体を構成する分散媒は、粘土鉱物を均一分散でき、かつ当該分散体を用いてなる本発明の多色光生成装置が多彩な偏光色を発現するものであれば特に制限はない。例えば、水や水溶液等の水系媒体、有機溶媒、硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エマルジョン等を、前記分散体の分散媒として用いることができる。
さらに前記分散媒は、粘土鉱物が均一分散でき、また本発明の効果を損なわない範囲において、適宜他の成分を含有してもよい。例えば、分散剤、界面活性剤、消泡剤、湿潤剤、増粘剤等を含有させることもできる。特に、分散体の粘度や屈折率を制御して前記偏光色の色調等を制御することもでき、また分散媒の沸点を高めて分散媒の揮発性を低減させることもできる。このような他の成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングルコールや各種アミン系の有機溶剤などが挙げられる。前記分散媒が上記他の成分を含有する場合、他の成分の含有量は、分散媒中50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
粘土鉱物を均一に分散でき分散安定性が高く、また取り扱いが容易である観点から、前記分散媒は水系媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。当該水のグレードは特に制限はなく、一般の水道水の他に精製水として蒸留水、イオン交換水等の水中のイオン成分を除去したものも用いることができる。中でも、水中のイオンが除去された水であることが好ましく、具体的には水のイオン伝導度が10μS/m以下(好ましくは5μS/m以下、より好ましくは2μS/m以下)の水であることがより好ましい。
前記水は、透明度の高い水であることが好ましい。例えば、500nmの波長の光が1cmの距離を通過する際の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
また、分散体を撹拌することにより多色光の様相を経時的に変化させることもできる。
【0022】
前記分散体は、分散質である粘土鉱物を、分散媒と混合して撹拌し、分散媒中に分散させることにより得ることができる。粘土鉱物を分散媒に分散させる方法は特に制限されず、目的とする分散体の粘度等を考慮し、公知慣用のバッチ式、連続式分散装置等を適宜用いて分散させることができる。
また前記分散体は、前記撹拌等により生じた気泡や、模型等を設置する際に生じた気泡を、脱泡処理により除去することが好ましい。脱泡処理の方法は、前記分散体中の気泡を除去することができれば特に制限されない。例えば、撹拌しつつ減圧脱泡する方法や、自公転ミキサーを用いた撹拌脱泡、超音波照射などの方法が挙げられる。また、脱泡処理は、粘土鉱物を分散させた後の分散体に対して行うこともでき、粘土鉱物を分散させる前の分散媒を予め減圧処理などにより脱泡し、粘土鉱物分散時の気泡の発生を抑制してもよい。
【0023】
前記分散体の形状は特に限定されず、例えば直方体、立方体の他、円柱状、球状、各種多面体類、不定形などの形状であってもよい。前記分散体を通過する光の距離(分散体への入射から分散体を出射するまでの光路長)は、多彩な偏光色を十分に発現させる観点から、0.5cm以上であることが好ましく、0.7cm以上であることがより好ましく、0.9cm以上であることがさらに好ましく、1.0cm以上であることがさらに好ましい。また、分散体を透過する光の強度を確保する観点から、前記距離は、30cm以下であることが好ましく、25cm以下であることがより好ましく、20cm以下であることがさらに好ましい。
粘土鉱物の分散体が固体(例えば分散媒として樹脂組成物を用い、これを硬化させてなる樹脂)である場合には、当該分散体をそのまま偏光板の間に配することができる。また、前記分散体が液体である場合には、当該分散体を透明容器(セル)に充填し、当該容器を偏光板の間に配することが好ましい。当該透明容器としては、例えば、500nmの波長の光が当該透明容器を構成する材料からなる試験片1cmの距離を通過する際の透過率が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である材料からなる容器であり、例えばガラス製やプラスチック製の容器を用いることができる。当該容器の寸法は、前記分散体における前記好ましい距離を満たすように適宜設定することができる。
【0024】
<偏光板>
本発明の多色光生成装置に用いる偏光版は、特定の振動方向の光を選択的に透過させる偏光特性があれば特に制限なく用いることができる。例えば、ポリビニールアルコールフィルムにヨウ素化合物を吸着して配向させたヨウ素系偏光板や、前記ヨウ素化合物の代わりに二色性染料等を用いた染料系偏光板が挙げられる。
偏光版の単体透過率と偏光度はトレードオフの関係にあり、透過率が高いと偏光度が低くなり、透過率が低いと偏光度が高くなる。一般的に、透過型偏光板では、透過率が35~50%、偏光度が約70~100%程度であり、半透過型偏光板では、透過率が5~25%、偏光度が約70~100%程度であり、いずれも本発明の使用の目的に応じて適宜選択することができる。
前記偏光板の形状は、前記分散体の寸法に応じて適宜設定することができる。
【0025】
(偏光板の偏光軸の角度)
本発明の多色光生成装置は、分散体の前面側に配される偏光板(前面側偏光板)に加えて、当該分散体の背面側に配される偏光板(背面側偏光板)を有することが好ましい。当該好ましい構成において、背面側偏光板を通過した偏光は、分散体の背面側から入射して、当該分散体の前面側から出射し、さらに前面側偏光板を通過して多色光が生成される。これら2枚の偏光板の偏光軸(透過軸)の角度(分散体の背面側に配された偏光板の偏光軸の角度と、分散体の前面側に配された偏光板の偏光軸の角度)は特に制限がなく、2つの偏光板の偏光軸の角度を互いに異なるように配置することができる。すなわち、分散体の背面側に配された偏光板の偏光軸に対する、分散体の前面側に配された偏光板の偏光軸の角度を、0°(平行ニコル)~90°(直交ニコル)とすることができ、より鮮やかな偏光色とする観点から、前記角度は0°越えであることが好ましい。また、前記角度を変化させることにより偏光色の様相が変化するため、例えば一定速度で少なくとも一方の偏光板を移動ないし回転させてもよい。
【0026】
<光源>
本発明の多色光生成装置を通過(透過)する光の種類は特に制限されず、例えば太陽光等の自然界の光や、LED(発光ダイオード)、蛍光灯、白熱電球、電光管、有機EL、無機EL等の光源装置由来の光であってもよい。中でも、光強度が強く偏光色を美しく発現できる観点から、前記光は白色LED由来の光であることが好ましい。なお、当該光が偏光を含む場合には、本発明の多色光生成装置をそのまま用いることができ、また当該光が偏光を含まない場合には、本発明の多色光生成装置において、分散体の背面側に偏光板を設けて用いることができる。また、例えば前記光が光源装置由来の光である場合には、照射される光の強度を均一化する観点から、光源装置と分散体との間に、一定の透過性を有する光散乱用の紙類やプラスチック類からなる白色シートを設置することも好ましい。
【0027】
[展示物]
本発明の多色光生成装置は、例えば、発現する多色光の幻想的な美観を利用した展示物(本発明の展示物)とすることができる。本発明の展示物は、前記多色光生成装置そのものであってもよく、また前記分散体内に所望の展示対象物を配置することもできる。特に、従来の多色光を背景として用いる展示物とは異なり、本発明の展示物では分散体内に直接展示対象物を配置できるため、展示対象物とその周囲の多色光との親和性(美的親和性)が高く、発現する多色光と展示対象物とがより一体感のある展示物とすることができる。
前記展示対象物としては、例えば航空機、ヘリコプター、気球、飛行船、凧、ドローン、水棲生物、潜水艦、ミサイル、ロボット、宇宙戦艦、UFO、鳥、昆虫、雲(綿)、木の葉、月、タイムマシン模型、等の模型又は実物が挙げられる。前記展示対象物を前記分散体内に配置することにより、当該展示対象物が、異次元空間、ブラックホール、ホワイトホール、次元断層、時空の流れ、ワープ航法、時間の逆行、光速航行、地球外の星の大気表現、強重力場、転生、死後の世界内等に置かれたような幻想的な表現とすることができる。
【0028】
本発明の展示物が前記分散体内に展示対象物を配する場合であって、かつ前記分散体における分散媒が水系媒体である場合には、前記展示対象物を分散体内の任意の位置に固定する観点から、前記分散体が一定の粘度を有することが好ましい。例えば、温度25℃条件下において、B型粘度計(例えば、TVB-10型粘度計、東機産業社製)を用い、12rpmで回転させてから60秒後の測定される粘度が200~10000mPa・sであることが好ましく、400~9000mPa・sであることがより好ましく、800~8000mPa・sであることがさらに好ましい。また、前記粘度を上記の好ましい範囲とすることにより、前記分散体の展示ケース(透明容器)への移送が容易であり、かつ混入した気泡も容易に除去することができる。
【0029】
[照明装置]
本発明の照明装置は、本発明の多色光生成装置と、前記光源装置とを備える照明装置である。前記光源装置は、上記にて説明した光源装置と同様とすることができる。前記光源装置は、当該光源装置から照射される光が偏光を含む場合には、当該光が粘土鉱物の分散体、及び当該分散体の前面側に配される偏光板を、この順に通過(透過)できるように配置することができる。また、前記光源装置から照射される光が偏光を含まない場合には、当該光が、前記分散体の背面側に配される偏光板、前記分散体、及び前記分散体の前面側に配される偏光板を、この順に通過(透過)できるように配置される。
【実施例0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
[多色光生成装置用の充填液の調製]
下記調製例1~7の充填液に用いた各種原料の詳細は以下の通りである。
(粘土鉱物)
・スメクトン-SA(製品名、合成サポナイト、クニミネ工業社製、粒子径:100nm)
・スメクトン-SWF(製品名、合成ヘクトライト、クニミネ工業社製、粒子径:80nm)
・スメクトン-SWN(製品名、合成ヘクトライト、クニミネ工業社製、粒子径:70nm)
・LAPONAITE-XLG(製品名、合成ヘクトライト、BYK社製、粒子径:40nm)
なお、上記いずれの粘土鉱物も層間陽イオンはナトリウムイオンである。
(増粘剤)
・グリセロール(特級試薬、関東化学社製)
・カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(品番:1190、ダイセルミライズ社製)
(溶媒、分散媒)
・蒸留水 イオン伝導度0.5μS/cm
【0032】
(調製例1)
スメクトン-SAと蒸留水を、表1に記載の配合比(配合組成)で合計2000gとなるように、5L万能混合機(小平製作所製)に入れた。回転数50rpmで30分間撹拌したあと、前記混合機の上蓋に設置された吸気口に減圧ポンプ(研究用マルチエアーポンプ、型番:LMP-100、アズワン社製)を接続し、10kPaで減圧しつつ更に30分間攪拌脱泡して、粘土鉱物4質量%濃度の略透明ゲル状の分散液を得た。
【0033】
(調製例2、3、5)
粘土鉱物の種類と含有量を表1に記載の通りとした以外は、上記調製例1と同様にして調製例2、3、5の分散液を得た。
【0034】
(調製例4)
分散媒として、蒸留水とグリセロールを表1の記載の配合比率になるように混合した溶液を用い、かつ粘土鉱物の種類と含有量を表1に記載の通りとした以外は、上記調製例1と同様にして調製例4の分散液を得た。
【0035】
(調製例6)
スメクトン-SAの代わりにカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(品番:1190、ダイセルミライズ株式会社製)を用いた以外は、調製例1と同様にして、調製例6の水溶液を得た。
【0036】
(調製例7)
前記蒸留水を、調製例7の液とした。
【0037】
(評価方法1:粘度測定)
調製例1~7の各液を450ccガラス容器(マヨネーズ450、日本山村硝子社製)に400g入れ、Brookfield型(B型)粘度計(TVB-10型粘度計、機種:TVB-10M、東機産業社製、ロータ:22M3)を用い、測定温度25℃条件下、12rpmで回転させた際の、回転開始から60秒後の測定値を各液の粘度とした。結果を下記表1に示す。
【0038】
【0039】
得られた各調製例の液を用いて下記の方法により装置を組み立て、多色光が観察されるかを評価した。
【0040】
(実施例1~3)
[多色光生成装置の作製]
厚さ約1mmの厚紙を支持体として、白色LED照明(ライトアップ400、及びライトアップ300、いずれも水作社製)の横長のLEDライトを、隣接平行となるように固定した。次いで、前記白色LED照明の発光面に接するように、光拡散用の板(0.75mmの白色プラスチック板、株式会社セリア、PPシート不透明)を設置して、光源装置とした。なお、この光拡散用の板は、光を拡散しながら透過させる、光拡散性かつ光透過性の板である。また、前記LED照明から照射される光は、偏光ではなく、様々な方向に振動している光である。
前記光源装置の前方(視面側)に、背面側偏光板(実験用偏光板D20-1883、株式会社ナリカ製、厚み0.2mm、250mm×250mm)を設置した。
次に、透明容器(横幅205mm×奥行47mm×高さ130mmいずれも内径、OGK社製OG649L)を前記背面側偏光板の前方に設置し、調製例1の分散液を当該透明容器に気泡が含まれないようにほぼ満液になるようにゆっくり注いだ。5分間放置後に、容器の底から高さ約75mm(中間位置)に模型(1/700スケール、ガトー級潜水艦、株式会社タミヤ製)をピンセットで沈めた。
最後に、前記透明容器の前方に、背面側偏光板と同一の偏光板(前面側偏光板)を、背面側偏光板のスリットの角度に対して90°(直交ニコル)、45°、0°(平行ニコル)となるように設置し、それぞれ実施例1~3の多色光生成装置(照明装置)とした。
【0041】
(評価方法2:多色光の発現の評価)
背面のLED照明を点灯させ、多色光生成装置を前面から目視で観察し、虹色の多色光(極彩色光)が発生した場合を「〇」評価、多色光が発生しなかった場合を「×」評価とした。結果を下記表2及び
図2(A)~(C)に示す。
【0042】
(実施例4~7)
透明容器に充填する液、及び前面側偏光板のスリットの角度を、表2に記載の通りとした以外は、上記実施例1と同様にして多色光生成装置を組み立て、上記と同様にして多色光の発現を評価した。結果を下記表2に示す。
【0043】
(比較例1~4)
透明容器に充填する液、及び前面側偏光板のスリットの角度を、表2に記載の通りとした以外は、上記実施例1と同様にして多色光生成装置を組み立て、上記と同様にして多色光の発現を評価した。なお、調製例7の液(水)を用いた場合は、セル中に前記模型の設置を行わなかった。結果を下記表2に示す。
【0044】
(比較例5~7)
背面側偏光板、及び前面側偏光板のいずれか、又はいずれとも使用しないこととした以外は、上記実施例1と同様にして装置を組み立て、多色光の発現を評価した。結果を下記表2に示す。また、比較例6の観察結果を、
図2(D)に示す。
【0045】
【0046】
表2に示す通り、粘土鉱物を含有しない液の場合には、多色光は観察されなかった(比較例1~4)。また、分散体に入射する光が偏光ではない(背面側偏光板を有しない)比較例6及び7や、分散体から出射する光が偏光板を通過しない(前面側偏光板を有しない)比較例5及び7では、前記分散体として粘土鉱物を含有した分散液を用いても多色光は観察されなかった(比較例5~7)。
これに対し、粘土鉱物を含有する分散液を任意のスリット角度の偏光板で挟みこみ、視認面とは反対側から光を照射し、視認面側から観察した場合、いずれの場合でも極彩色の多色光が観察された。
【0047】
なお、比較例6の装置と同一の構成、すなわち、粘土鉱物の分散体と、当該分散体の前面側に配された偏光板とからなる構成とし、さらに青空を背景として(当該分散体の背面側を青空に向けて)、分散体に背面側から偏光を含む光を入射させて視認面側から観察した場合には、多色光が観察された。