(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161838
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/20 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
C22B1/20 T
C22B1/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076928
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 典宏
(72)【発明者】
【氏名】相本 道宏
(72)【発明者】
【氏名】野田 恵吾
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001BA14
4K001BA15
4K001CA33
4K001CA34
4K001CA41
4K001KA01
4K001KA02
4K001KA03
4K001KA06
4K001KA07
(57)【要約】
【課題】焼結原料の化学組成の変動を迅速に検出し、RDIを安定化する焼結鉱の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明における焼結鉱の製造方法は、複数種の鉄鉱石、副原料、及び凝結材を含む配合原料を焼結機に装入し、装入した前記配合原料を焼結して焼結ケーキを製造し、前記焼結ケーキを成品焼結鉱と返鉱とに分級装置で篩分けし、篩分けした前記成品焼結鉱を高炉設備に搬送する焼結鉱の製造方法において、前記高炉設備に搬送中の前記成品焼結鉱の少なくとも一つの成分の濃度を連続測定し、前記測定により得られた成分濃度データに基づいて、前記配合原料を前記焼結機に装入して形成する原料充填層の層厚さの調整を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の鉄鉱石、副原料、及び凝結材を含む配合原料を焼結機に装入し、
装入した前記配合原料を焼結して焼結ケーキを製造し、
前記焼結ケーキを成品焼結鉱と返鉱とに分級装置で篩分けし、
篩分けした前記成品焼結鉱を高炉設備に搬送する焼結鉱の製造方法において、
前記高炉設備に搬送中の前記成品焼結鉱の少なくとも一つの成分の濃度を連続測定し、
前記測定により得られた成分濃度データに基づいて、前記配合原料を前記焼結機に装入して形成する原料充填層の層厚さの調整を行う、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
測定対象となる前記成分は、CaO、SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2のうちの少なくとも一つである、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記層厚さの調整は、前記成品焼結鉱の還元粉化性(RDI)を目的変数とし、前記成分濃度データと前記層厚さを説明変数として含む予測式をもとに、RDIを所定の範囲に制御するように行われる請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記測定において、
前記高炉設備に搬送中の前記成品焼結鉱にレーザ光を照射することで、レーザ誘起ブレークダウン分光法による成分分析を行うことにより、前記成分濃度データを得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用の焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑の主原料は、焼結鉱である。高炉原料となる焼結鉱(成品焼結鉱)は、一般的に、鉄鉱石を含む焼結鉱製造用の原料(焼結原料)を下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機内で焼結した後に、粉砕、篩分け等により所定の粒度に整粒して製造される。成品焼結鉱は、4~7時間ごとにサンプリングされて、蛍光X線分析や化学分析により元素組成が測定される。そして、この測定データに基づいて、焼結鉱の製造工程や高炉操業が管理される。
【0003】
近年、均質かつ質の良い鉄鉱石は枯渇傾向にあり、焼結原料として使用される鉄鉱石の劣質化により脈石などの成分が多く含まれるようになった。その結果、同じロット内でも焼結鉱の成分に変動が生じるようになった。高炉操業の生産効率向上のためには、焼結鉱の成分変動に応じて、焼結鉱の製造工程における焼結原料の配合比率、高炉操業における高炉原料の配合比率や操業条件(炉内温度や圧力など)を、きめ細やかに管理する必要がある。しかしながら、従来の焼結鉱の製造工程や高炉操業の管理は、上述したように、所定の時間間隔で搬送中の成品焼結鉱の中から試料を採取し、その成分分析結果に基づいて実施されていた。成分分析結果がわかるまでに時間を要するため、焼結鉱の成分変動に成分分析が追いつかず、適切な管理を実施することが難しくなっていた。
【0004】
これに対し、特許文献1には、搬送コンベア30上を搬送される焼結原料に含まれる水分およびCaOの成分濃度を連続測定する技術が開示されている。具体的には、特許文献1には、鉄含有原料、前記焼結原料および前記造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記装入層の装入密度が予め定められた装入密度になるように前記装入ゲートの開度および前記シュートの水平面に対する傾斜角度のうち少なくとも1つを調整する調整工程とを有する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焼結鉱の品質管理の指標の一つとして、還元粉化率(RDI:Reduction Degradation Index)が用いられる。RDIが高いと高炉操業における還元反応の過程で焼結鉱が粉化し、高炉内の通気性が悪化する。原料充填層の層厚さを小さく(層高を低く)すると、原料充填層内を通過する大気の流量(通過風量)が増加するため、RDIの低い焼結鉱が得られる。目標とするRDIを有する焼結鉱を得るために制御すべき原料充填層の層厚さは、焼結鉱の化学組成にも依存する。
【0007】
本発明は、焼結原料の化学組成の変動を迅速に検出し、RDIを安定化する焼結鉱の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)複数種の鉄鉱石、副原料、及び凝結材を含む配合原料を焼結機に装入し、
装入した前記配合原料を焼結して焼結ケーキを製造し、
前記焼結ケーキを成品焼結鉱と返鉱とに分級装置で篩分けし、
篩分けした前記成品焼結鉱を高炉設備に搬送する焼結鉱の製造方法において、
前記高炉設備に搬送中の前記成品焼結鉱の少なくとも一つの成分の濃度を連続測定し、
前記測定により得られた成分濃度データに基づいて、前記配合原料を前記焼結機に装入して形成する原料充填層の層厚さの調整を行う、焼結鉱の製造方法。
(2)測定対象となる前記成分は、CaO、SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2のうちの少なくとも一つである、(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)前記層厚さの調整は、前記成品焼結鉱の還元粉化性(RDI)を目的変数とし、前記成分濃度データと層厚さを説明変数として含む予測式をもとに、RDIを所定の範囲に制御するように行われる(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(4)前記測定において、
前記高炉設備に搬送中の前記成品焼結鉱にレーザ光を照射することで、レーザ誘起ブレークダウン分光法による成分分析を行うことにより、前記成分濃度データを得る、(1)~(3)のいずれか1つに記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、搬送中の成品焼結鉱の成分濃度を連続測定して得た測定データに基づいて、原料充填層の層厚さを調整することにより、焼結原料の化学組成の変動を迅速に検出し、RDIを安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態1>
本発明は、複数種の鉄鉱石、副原料、及び凝結材を含む配合原料を焼結機に装入し、装入した配合原料を焼結して焼結ケーキを製造し、焼結ケーキを成品焼結鉱と返鉱とに分級装置で篩分けし、篩分けした成品焼結鉱を高炉設備に搬送する焼結鉱の製造方法において、高炉設備に搬送中の成品焼結鉱の少なくとも一つの成分の濃度を連続測定し、測定により得られた成分濃度データに基づいて、調整を行う。以下、図面を用いて、本発明について説明する。
図1は、本発明の焼結鉱製造工程の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、焼結鉱製造工程は、原料配合工程S1、造粒工程S2、焼結工程S3、冷却・粉砕工程S4、及び分級工程S5を有する。各工程を経た原料や半製品などは、ベルトコンベアなどの搬送装置により次工程に運ばれる。
【0013】
原料配合工程S1は、焼結鉱の原料(焼結原料)の配合を行う工程である。
焼結原料は、複数銘柄の鉄鉱石(粉)等の鉄原料、スケール・製鉄ダスト等の含鉄雑原料、硅石等のSiO2含有副原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、及び焼結(凝結)の燃料となる凝結材(炭材)などである。各焼結原料は原料槽群に設けられた各原料槽内に貯留されており、焼結原料毎に所定量がベルトコンベア上に切り出されて、所定の割合(配合割合)で配合され、造粒工程S2に送られる。
【0014】
造粒工程S2は、原料充填層の通気性確保を目的として、配合された焼結原料(配合原料)の造粒処理(粒度分布の調整)を行う工程である。
ベルトコンベアにより搬送された配合原料は、造粒機に投入される。造粒機内で、所定時間の混合処理後に水分が添加(調湿)され、さらに所定時間の混合による造粒処理が行われ、原料の一次粒子が集合した疑似粒子が作られる。造粒処理後の配合原料(以下、配合原料造粒物ともいう)は、焼結工程S3に送られる。
【0015】
焼結工程S3は、配合原料造粒物を焼成して、焼結ケーキ(シンターケーキ)を製造する工程である。
配合原料造粒物はベルトコンベア上から配合原料サージホッパに貯留され、配合原料サージホッパからドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に装入されて、原料充填層を形成する。原料充填層は点火炉により点火されて、原料充填層中の凝結材の燃焼熱により焼成される。焼結により得られた焼結ケーキは焼結機の排鉱端で排出されて、破砕機(1次破砕)により200mm未満の粒径の焼結鉱に粗破砕され、冷却・粉砕工程S4に送られる。
【0016】
冷却・粉砕工程S4は、粗破砕された塊状の焼結鉱を冷却し、粉砕する工程である。
塊状の焼結鉱は冷却装置によりベルトコンベアでの搬送可能な温度まで冷却される。その後、塊状の焼結鉱は、粉砕機(2次破砕)により粉砕されて、粒度がさらに細かくなった状態で、分級工程S5に送られる。
【0017】
分級工程S5は、粉砕された焼結鉱を高炉用に整粒する工程である。
粉砕された焼結鉱は、複数段階の分級装置による篩分け等により整粒処理される。整粒処理により高炉装入可能な粒度の焼結鉱(成品焼結鉱)が選別される。高炉装入に適した粒度は、例えば、粒径が5mm以上50mm未満の焼結鉱である。ここで、粒径が5mm以上50mm未満とは、篩目5mmで篩った際の篩上、かつ、篩目50mmで篩った際の篩下となる粒度を示す。なお、粒径が50mm以上の焼結鉱は粒径が50mm未満となるように粉砕処理が行われた後に、再度整粒処理が行われる。
【0018】
各分級装置は、例えば、傾斜型のスクリーン(篩目)を有する揺動式分級器であり、偏心駆動機構によって揺動運動が付加される。この駆動機構を回転させるモータの回転数を変化させることによって、分級強度を調整することができる。分級工程S5により選別された成品焼結鉱は高炉搬送ラインL1に、それ以外の焼結鉱は返鉱搬送ラインL2に載せられる。
【0019】
高炉搬送ラインL1は、成品焼結鉱を高炉設備に搬送するラインである。
高炉搬送ラインL1はコンベアなどの搬送装置を備える。粒径が5mm以上50mm未満の粒度の成品焼結鉱を高炉設備に搬送して、高炉製銑の原料とする。なお、成品焼結鉱は、別工程で製造された還元材であるコークス、石灰石、蛇紋岩等とともに、複数のベルトコンベアにより高炉に装入される。
【0020】
返鉱搬送ラインL2は、高炉原料に適さない微粉焼結鉱を原料配合工程S1に戻すラインである。
返鉱搬送ラインL2はコンベアなどの搬送装置を備え、成品焼結鉱よりも粒度の小さい粒径が5mm未満の焼結鉱(以下、粒径が5mm未満の焼結鉱を-5mm焼結鉱ともいう)を、上述した返鉱用の原料槽内に搬送する。粒径が5mm未満とは、篩目5mmで篩った際の篩下となる粒度を示す。搬送された-5mm焼結鉱は、返鉱として焼結原料に配合される。
【0021】
本発明の高炉搬送ラインL1には、オンライン分析が可能な成分分析装置1が備えられている。この成分分析装置1により、成品焼結鉱の成分濃度をオンラインで連続測定する。本発明においては、高炉搬送ラインL1における成品焼結鉱の成分測定により得られた成分濃度データに基づいて、焼結工程S3での原料充填層の層厚さを調整する。なお、本実施形態における「原料充填層の層厚さ」とは、配合原料が床敷を敷いたパレットの床敷層の上に装入されることから、配合原料により形成される原料充填層のみの厚さをいう。
【0022】
焼結鉱の品質管理の指標の一つとして、還元粉化率(RDI:Reduction Degradation Index)が用いられる。RDIが高いと高炉操業における還元反応の過程で焼結鉱が粉化し、高炉内の通気性が悪化する。DL式焼結機においては、下層部では上層からの燃焼排ガスの利用度が上がるために、焼結層の最高温度が高くなるとともに高温での酸化性雰囲気維持時間も長くなる。このため、下層部では、生成鉱物の結晶が粗大化し、特にRDI劣化の原因鉱物である2次ヘマタイトの結晶粒の粗大化が顕著となる。焼結鉱の還元粉化は、2次ヘマタイトが、マグネタイトに還元される際に生じる体積ひずみに起因するとされている。焼結反応における冷却速度の低下は、RDIが悪化する一因となる。また、RDIは、焼結鉱品質の指標の一つである落下強度(SI)と同様に、溶融結合量(焼結反応において生成する融液量)の低下によっても悪化する。RDIを制御する手段の一つとして、焼結鉱化学成分の調整が挙げられるが、銑鉄成分や高炉滓の物理的性質など高炉操業面からの制約があり、調整手段としての自由度が小さい。
【0023】
ここで、原料充填層の層厚さを小さく(層高を低く)すると、原料充填層内を通過する大気の流量(通過風量)が増加するため、下層部の最高温度が過度に高くなることが抑えられ、RDIの低い焼結鉱が得られる。目標とするRDIを有する焼結鉱を得るために制御すべき原料充填層の層厚さは、焼結鉱の化学組成にも依存する。本発明では、成品焼結鉱の化学組成及び原料充填層の層厚さとRDIとの関係を重回帰分析により予め得た関係式に基づいて、オンベルトで測定された成品焼結鉱の化学組成を用いて、原料充填層の層厚さを制御する。これにより、焼結原料の化学組成が変動する場合でも目標とするRDIを安定して保つことができる。次に、成品焼結鉱の成分濃度測定について説明する。
【0024】
(成品焼結鉱の成分濃度測定)
高炉搬送ラインL1での成分濃度測定は、高炉設備に搬送中の成品焼結鉱を分析対象として実施される。成分分析装置1は、例えば、レーザ分析装置、赤外線分析装置、中性子分析装置、マイクロ波分析装置などである。搬送中であるコンベア上(オンベルト)の成品焼結鉱の成分を連続測定し、オンライン分析を実施することで、逐次、成品焼結鉱の成分濃度データを得ることが可能となる。ここに、連続測定とは、電磁波や中性子等を分析対象物に連続的に照射して、連続的に測定値を得る形態を意味する。電磁波がパルスレーザ等の場合、パルス間の時間間隔は、パルス繰り返し数に応じて、マイクロ秒オーダーから秒オーダーの時間間隔であるものでもよい。また、連続的な測定を間歇的に実施してもよい。連続的な測定と次の連続的な測定との間に有限な時間の休止期間があってもよい。このような休止期間は、目的とする制御が可能となるように適宜選択できる。別の観点から、本発明の連続測定は、ベルトコンベアやパレット等の搬送手段によって移動する分析対象をサンプリングすることなく、非接触で測定する形態であってもよい。
【0025】
例えば、LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy:レーザ誘起ブレークダウン分光法)分析装置を用いて、成品焼結鉱の成分濃度の測定及び分析を行うのであれば、高炉設備に搬送中の成品焼結鉱にレーザ光を照射することで、レーザ誘起ブレークダウン分光法分析による成分分析を行うことにより、成品焼結鉱の成分濃度データを得ることができる。ここで、分析用のレーザ光を照射の前に、成品焼結鉱の表面付着物及び/又は水分を除去するための前処理用レーザを照射してもよい。この前処理は、いわゆるレーザアブレーション(Laser Ablation)により成品焼結鉱粒子の表面付着物や水分を除去する処理である。
【0026】
LIBS分析装置は、搬送方向に向かって順に配置された前処理用レーザ光源、及び分析用レーザ光源と、分析用レーザ光に起因する発光がどのような波長の光をどの程度の強さで含んでいるのかを検出する分光器(例えば、Avantes社製AvanSpec-ULS2048CL-EVO等)、演算処理装置、制御装置など測定や分析に必要な構成を備えており、演算処理装置は、分光器から出力された、成品焼結鉱から発生した発光に関する測定データ(各波長の発光強度に関するデータ)を取得し、かかる測定データに基づき、成品焼結鉱の成分組成を、LIBSにより分析する。
【0027】
ここで、分級工程S5を経た成品焼結鉱の表面には、ミクロンオーダーの大きさの、細かな焼結鉱粒子が付着している。この表面付着物である焼結鉱粒子は、塊部である成品焼結鉱粒子とは成分濃度が異なっている。前処理を行わずに成品焼結鉱を分析した場合、分析用のレーザ光の照射対象が表面付着物である焼結鉱粒子に偏ること、また、表面付着物である焼結鉱粒子は塊部である成品焼結鉱粒子に比較して質量割合が極めて少ないことにより、その分析データは塊部である成品焼結鉱粒子の成分濃度を表していない可能性が高い。
【0028】
また、焼結鉱は、貯蔵時や搬送時における粉塵対策の散水や、降雨によって、水分を含むことがある。水分を含有する試料にレーザを照射した場合、照射されるレーザ光から供給される、プラズマ生成に必要なエネルギーの少なくとも一部が、水分蒸発等に使われてしまう。そのため、試料からの発光が大幅に減衰する懸念がある。多変量解析等の手法を更に適用することで、水分の影響を一部補正できる可能性もあるが、発光強度が低下することに伴って分析精度も低下しているため、分析結果の信頼性も低下することが懸念される。
【0029】
そこで、分析用のレーザ光の照射前に上述の前処理を行い、前処理においてレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射して分析を行う。このような構成とすることにより、分析用のレーザ光が塊部である成品焼結鉱粒子に照射され、また、水分を含んでいた場合でも発光の信号強度の低下を抑制でき、成品焼結鉱の成分濃度を精度よく測定することが可能となる。
【0030】
なお、前処理後、分析用のレーザ光の照射前に、分析用のレーザ光を照射する分析部分の位置(例えば、ベルトコンベア等の搬送設備の搬送面からの高さ)を位置測定用のレーザ光を照射することにより測定し、測定した位置情報に基づいて分析部分に分析用のレーザ光を照射することも好ましい。分析対象となる成品焼結鉱の分析位置を特定することが可能となり、分析用のレーザ光を分析対象となる成品焼結鉱粒子の分析部分(表面)に、より確実に集光することが可能となる。その結果、成品焼結鉱の成分濃度を、より一層精度よく測定することが可能となる。
【0031】
(測定対象の成分)
本発明において、成分分析装置1の測定対象となる成分は、CaO、SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2のうちの少なくとも一つである。SiO2、Al2O3、MgOは、脈石に含まれる成分である。塩基度(CaO/SiO2)が高くなると、カルシウムフェライト(CaO・Fe2O3)系融液の生成が促進されることにより、2次ヘマタイトの生成が抑制される。SiO2の成分濃度が高いと融液生成量が増加し、2次ヘマタイトの生成が抑制される。MgOの成分濃度が高いと、MgはCaと比較してFeとのイオン半径差が小さいためカルシウムフェライトよりもマグネシオフェライト(MgO・Fe2O3)が晶出しやすくなり、マグネシオフェライトは高温で結晶化するため、結果的に2次ヘマタイトの生成が抑制される。一方、CaO、SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2のうち、予め濃度変動が少ないことがわかっている成分については測定が不要となる。本発明では、CaO、SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2のうちの少なくとも一つの成分を測定し、測定により得られた成分濃度データに基づいて、配合原料を焼結機に装入して形成する原料充填層の層厚さの調整を行う。以下に、原料充填層の層厚さの調整について説明する。
【0032】
(原料充填層の層厚さの調整)
本発明では、成品焼結鉱の化学組成及び原料充填層の層厚さとRDIとの関係を重回帰分析することより得られた以下の式(1)に基づいて、オンベルトで測定された成品焼結鉱の化学組成を用いて、原料充填層の層厚さを制御する。なお、A1~AnおよびB1は、操業実績に基づいて重回帰分析によって予め得た定数である。
RDI=A1[X1]+A2[X2]+A3[X3]+・・・+An[Xn]+B1(層厚み) ・・・式(1)
[Xk]=Xk濃度
k:1~n
X:CaO、SiO2、Al2O3、MgO又はTiO2
なお、式(1)の定数A1~AnおよびB1は、用いる原料の銘柄や焼結機の個体差によっても異なるので、本発明の適用にあたっては、必要に応じて式(1)を更新すればよい。式(1)は、さらに、塩基度(CaO/SiO2)等の項を含んでもよい。また、重回帰分析の相関係数は0.5超であってもよい。
【実施例0033】
原料充填層の層厚さの調整に関して、発明例と比較例の2つの実験を行った。造粒した焼結原料の疑似粒子は、焼結機上に配置されているサージホッパからドラムフィーダーと切り出しシュートを介して焼結機パレット上に装入される。ドラムフィーダーから原料切り出し後に層厚を調節するゲートが備えられており、ゲートの高さを調節することによって、原料充填層の層厚さを制御する。原料充填層の層厚さは、レーザーレベル計により測定され管理される。本実施例では、2時間毎に高炉搬送ラインL1から成品焼結鉱を所定量サンプリングして、RDIを測定し、後述する式(1´)の定数A1~A4およびB1の値を重回帰分析により得た。なお、RDIは、粒度範囲-20+16mmの焼結鉱を550℃に昇温し、COが30%およびN2が70%の割合で混合されたガスで30分間還元し、冷却後小型タンブラで900回転したのち、3mmの篩で篩分け、3mm以下の割合をもって表される(JIS M 8720(2009))。
【0034】
(発明例)
発明例では、高炉搬送ラインL1のオンベルト上の成品焼結鉱を、LIBS分析装置によりオンラインで連続測定して10分間毎のデータを分析し、式(1´)から計算されるRDIの1時間にわたる平均値を求め、その値が基準値の+1%以上となった場合、式(1´)から計算されるRDIが基準値以下となるようにゲートの高さを調整して、原料充填層の層厚さを調整し、この調整後の成品焼結鉱のRDIの値を調べた。LIBS分析においては、パルスエネルギー:40mJ、波長:1064nm、繰返周波数:100Hz、パルス幅:7nsのレーザ光源を用いた。
RDI=A1[CaO]+A2[SiO2]+A3[Al2O3]+A4[MgO]+B1(層厚み(mm)) ・・・式(1´)
[Xk]=Xk濃度(質量%)
【0035】
(比較例)
比較例では、6時間おきに得られる、高炉搬送ラインL1からサンプリングした成品焼結鉱の化学組成により、式(1)からRDIを計算し、その計算値が基準値の+1%以上となった場合、RDIが基準値以下となるようにゲートの高さを調整して、原料充填層の層厚さを調整し、この調整後の成品焼結鉱のRDIの値を調べた。
【0036】
発明例と比較例のそれぞれにおいて、調整後の成品焼結鉱のRDIの値及び標準偏差は表1の通りとなった。
【0037】
【0038】
表1に示すように、発明例におけるRDIの値は比較例よりも低くなり、RDIのばらつきが比較例の場合よりも小さい。このことから、成品焼結鉱の成分濃度データをほぼリアルタイムに得ることによって原料充填層の層厚さを調整する発明例の方が、RDIが改善し、そのばらつきも抑制できる、焼結原料の化学組成が変動する場合でも目標とするRDIを安定して得ることができるといえる。
【0039】
以上、図面を参照しながら本発明について詳細に説明したが、上述の構成に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。