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特開2024-161845伸縮装置、その取付構造及びその構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161845
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】伸縮装置、その取付構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/06 20060101AFI20241113BHJP
   E01C 11/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
E01D19/06
E01C11/02 A
E01C11/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076941
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホアン チョン クエン
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 裕生
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
【Fターム(参考)】
2D051AE04
2D051FA11
2D059GG45
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】工事現場における、橋桁又は橋台への伸縮装置の取り付け作業を容易に行える伸縮装置、伸縮装置の取付構造、及び伸縮装置の取付構造の構築方法を提供する。
【解決手段】伸縮装置1は、1対の伸縮装置部材8を備える。伸縮装置部材8の各々は、固定部6に固定される基部9と、基部9から延出して互い橋幅方向に所定の間隔を置いて配置された複数のフィンガー部10とを含む。1対の伸縮装置部材8のフィンガー部10は、平面視で互いにかみ合うように配置される。伸縮装置部材8の各々は、1つ又は橋幅方向に分割された複数のプレキャストコンクリート部材11を含む。プレキャストコンクリート部材11は、基部9及びフィンガー部10に跨って橋軸方向に延在する複数のプレテンション方式の緊張材13を含む。緊張材13は、繊維強化プラスチックを素材とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁同士の間又は前記橋桁と橋台との間に設けられた遊間に配置され、前記橋桁若しくは前記橋桁の上に設けられた床版又は前記橋台に設けられた固定部に固定されて互いに橋軸方向に対向する1対の伸縮装置部材を備える伸縮装置であって、
前記伸縮装置部材の各々は、前記固定部に固定される基部と、前記橋軸方向における対をなす前記伸縮装置部材の前記基部に向かう向きである前方に向かって、前記基部から延出して互いに橋幅方向に所定の間隔を置いて配置された複数のフィンガー部とを含み、
1対の前記伸縮装置部材の前記フィンガー部は、平面視で互いにかみ合うように配置され、
前記伸縮装置部材の各々は、1つ又は前記橋幅方向に分割された複数のプレキャストコンクリート部材を含み、前記プレキャストコンクリート部材は、前記基部及び前記フィンガー部に跨って前記橋軸方向に延在する複数のプレテンション方式の緊張材を含み、
前記緊張材は、繊維強化プラスチックを素材とする、伸縮装置。
【請求項2】
請求項1に記載の伸縮装置と、前記固定部と、前記伸縮装置の前記基部と前記固定部との間に充填された目地材とを含む、前記伸縮装置の前記固定部への取付構造であって、
前記固定部は、コンクリートによって画成された上方を向いた底面と前記前方を向いた背面と有し、
前記伸縮装置部材の前記基部は、前記目地材を挟んで前記底面に対向する下面と、前記目地材を挟んで前記背面に対向する後面とを有し、
前記固定部は、前記底面に凹設され有底孔を有し、
前記プレキャストコンクリート部材は、前記下面から下方に突出して前記有底孔に受容され、前記有底孔内に充填された充填材に固定されたアンカー部材を含む、取付構造。
【請求項3】
前記アンカー部材は、繊維強化プラスチックを素材とする、請求項2に記載の取付構造。
【請求項4】
前記底面は、第1底面と、前記第1底面よりも前記前方かつ前記上方に位置する第2底面とを有し、前記下面は、前記目地材を挟んで前記第1底面に対向する第1下面と、前記目地材を挟んで前記第2底面に対向し、前記第1下面よりも前記前方かつ前記上方に位置する第2下面とを有する、請求項2に記載の取付構造。
【請求項5】
前記固定部の前記背面は、前記橋幅方向に延在する溝又は突条を有し、
前記伸縮装置部材の前記後面は、前記橋幅方向に延在する溝又は突条を有する、請求項2に記載の取付構造。
【請求項6】
前記伸縮装置部材の各々は、前記橋幅方向に1~2mの長さを有する複数の前記プレキャストコンクリート部材を含み、
前記基部は、前記橋幅方向に互いに隣接する前記プレキャストコンクリート部材の間に充填された前記目地材を含み、
各々の前記プレキャストコンクリート部材の前記基部における他の前記プレキャストコンクリート部材と前記目地材を挟んで対向する側面は、前記橋軸方向に延在する溝又は突条を有する、請求項2に記載の取付構造。
【請求項7】
前記伸縮装置部材の前記下面は、前記橋幅方向に互いに隣り合う前記プレキャストコンクリート部材が組み合わさって形成された、前記橋軸方向に延在する溝を有し、
前記固定部の前記底面は、前記橋軸方向に延在して前記下面の前記溝に受容される突条を有する、請求項6に記載の取付構造。
【請求項8】
前記プレキャストコンクリート部材のコンクリート部は、120~200N/mmの設計基準強度を有する繊維補強コンクリートによって構成される、請求項1に記載の伸縮装置又は請求項2~7の何れか1項に記載の取付構造。
【請求項9】
請求項2に記載の取付構造の構築方法であって、
工場にて、前記緊張材によるプレストレスをプレテンション方式によって導入して、前記プレキャストコンクリート部材を作成するステップと、
工場又は工事現場にて、前記固定部を作成するステップと、
工事現場にて、前記有底孔に前記アンカー部材の下部が受容されるように、前記プレキャストコンクリート部材を、前記固定部に対する所定の位置に配置するステップと、
前記固定部と前記基部との間に前記目地材を注入するステップと
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁における伸縮装置、伸縮装置の取付構造、及び伸縮装置の取付構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伸縮装置は、橋梁の種々の変位を平滑に行うことができるよう、桁端部に設ける装置であり、ジョイントとも呼ばれる。従来、実績のある伸縮装置として、鋼製フィンガージョイントが知られている(例えば、特許文献1及び2)。鋼製フィンガージョイントは、平面視で互いにかみ合うように配置された1対の櫛形のフェイスプレートを備え、フェイスプレートの下方に設けられた部分が、現場打ちコンクリートに埋設されることによってコンクリート橋の橋桁、橋桁上に設けられたコンクリート床版又は橋台に固定される。
【0003】
また、特許文献2には、鋼製のフェイスプレートとコンクリート部材とを含むプレファブ伸縮装置ユニットをあらかじめ製作しておき,現場で間詰めコンクリートを打設して一体化する工法も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-288707号公報
【特許文献2】特開2007-032057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼製フィンガージョイントでは、フィンガージョイントを橋桁、床版又は橋台に固定するために、工事現場で両者の連結部分にずれ止め部材や鉄筋を配置し、コンクリートを打設する必要があり、また、鋼材の腐食のため定期的に交換する必要があった。また、特許文献2に記載のフィンガージョイントでは、プレキャストユニットを使用する場合であっても、現場で場所打ちコンクリートを打設する必要があった。これら作業が、作業員に大きな負担を与えていた。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、工事現場における、橋桁又は橋台への伸縮装置の取り付け作業を容易に行える伸縮装置、伸縮装置の取付構造、及び伸縮装置の取付構造の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、橋桁(4)同士の間又は前記橋桁と橋台(5)との間に設けられた遊間に配置され、前記橋桁若しくは前記橋桁の上に設けられた床版又は前記橋台に設けられた固定部(6)に固定されて互いに橋軸方向に対向する1対の伸縮装置部材(8)を備える伸縮装置(1)であって、前記伸縮装置部材の各々は、前記固定部に固定される基部(9)と、前記橋軸方向における対をなす前記伸縮装置部材の前記基部に向かう向きである前方に向かって、前記基部から延出して互いに橋幅方向に所定の間隔を置いて配置された複数のフィンガー部(10)とを含み、1対の前記伸縮装置部材の前記フィンガー部は、平面視で互いにかみ合うように配置され、前記伸縮装置部材の各々は、1つ又は前記橋幅方向に分割された複数のプレキャストコンクリート部材(11)を含み、前記プレキャストコンクリート部材は、前記基部及び前記フィンガー部に跨って前記橋軸方向に延在する複数のプレテンション方式の緊張材(13)を含み、前記緊張材は、繊維強化プラスチックを素材とする。
【0008】
この態様によれば、プレキャストコンクリート部材を用いることと、緊張材がプレテンション方式であるため、工事現場でのコンクリート打設作業や緊張材の緊張作業が削減され、橋桁又は橋台への伸縮装置の取り付け作業が容易となる。繊維強化プラスチックを素材とする緊張材を含むプレキャストコンクリート部材によって伸縮装置部材が構成されるため、表面及び表面近傍に鋼材を使う必要がなく、鋼材の腐食による耐久性の低下を抑制できる。
【0009】
本発明のある態様は、上記の態様の伸縮装置(1)と、前記固定部(6)と、前記伸縮装置の前記基部(9)と前記固定部(6)との間に充填された目地材(12)とを含む、前記伸縮装置の前記固定部への取付構造(2)であって、前記固定部は、コンクリートによって画成された上方を向いた底面(17)と前記前方を向いた背面(20)と有し、前記伸縮装置部材(8)の前記基部は、前記目地材を挟んで前記底面に対向する下面(16)と、前記目地材を挟んで前記背面に対向する後面(21)とを有し、前記固定部は、前記底面に凹設され有底孔(18)を有し、前記プレキャストコンクリート部材(11)は、前記下面から下方に突出して前記有底孔に受容され、前記有底孔内に充填された充填材(19)に固定されたアンカー部材(14)を含むと良い。
【0010】
この態様によれば、プレキャストコンクリート部材に含まれるアンカー部材によって、伸縮装置部材が固定部に固定されるため、工事現場でアンカー部材を設置することや、アンカー部材を埋設するための場所打ちコンクリートを打設することが不要となり、工事現場における伸縮装置の取り付け作業が容易になる。
【0011】
上記態様において、前記アンカー部材(14)は、繊維強化プラスチックを素材とすると良い。
【0012】
この態様によれば、アンカー部材が錆びないため、アンカー部材の腐食によるコンクリートの損傷が防止され、伸縮装置の取付構造の耐久性が向上する。
【0013】
上記態様において、前記底面(17)は、第1底面(17a)と、前記第1底面よりも前記前方かつ前記上方に位置する第2底面(17b)とを有し、前記下面(16)は、前記目地材(12)を挟んで前記第1底面に対向する第1下面(16a)と、前記目地材を挟んで前記第2底面に対向し、前記第1下面よりも前記前方かつ前記上方に位置する第2下面(16b)とを有すると良い。
【0014】
この態様によれば、第1底面、第2底面、第1下面及び第2下面によって、橋軸方向のせん断力に対するせん断キーが形成されるため、伸縮装置の固定部への接合が強固になる。
【0015】
上記態様において、前記固定部(6)の前記背面(20)は、前記橋幅方向に延在する溝(20a)又は突条を有し、前記伸縮装置部材(8)の前記後面(21)は、前記橋幅方向に延在する溝(21a)又は突条を有するとよい。
【0016】
この態様によれば、背面の溝又は突条、後面の溝又は突条、及び背面と後面との間に注入される目地材によって、上下方向のせん断力に対するせん断キーが形成されるため、伸縮装置の固定部への接合が強固になる。
【0017】
上記態様において、前記伸縮装置部材(8)の各々は、前記橋幅方向に1~2mの長さを有する複数の前記プレキャストコンクリート部材(11)を含み、前記基部(9)は、前記橋幅方向に互いに隣接する前記プレキャストコンクリート部材の間に充填された前記目地材(12)を含み、各々の前記プレキャストコンクリート部材の前記基部における他の前記プレキャストコンクリート部材と前記目地材を挟んで対向する側面(22)は、前記橋軸方向に延在する溝(22a)又は突条を有するとよい。
【0018】
この態様によれば、側面の溝、及び側面間に注入される目地材によって、上下方向のせん断力に対するせん断キーが形成されるため、プレキャストコンクリート部材同士の連結が強固になる。
【0019】
上記態様において、前記伸縮装置部材(8)の前記下面(16)は、前記橋幅方向に互いに隣り合う前記プレキャストコンクリート部材(11)が組み合わさって形成された、前記橋軸方向に延在する溝(16d)を有し、前記固定部(6)の前記底面(17)は、前記橋軸方向に延在して前記下面の前記溝に受容される突条(17d)を有するとよい。
【0020】
この態様によれば、下面の溝、及び底面の突条によって、橋幅方向のせん断力に対するせん断キーが形成されるため、伸縮装置の固定部への接合が強固になる。また、底面と各プレキャストコンクリート部材の間における突条からずれた部分から目地材を注入することにより、目地材が水平方向及び上方に移動しても目地材が注入されるべき箇所の全体に行き渡るため、目地材をムラなく注入することが容易になる。
【0021】
上記態様において、前記プレキャストコンクリート部材(11)のコンクリート部(15)は、120~200N/mmの設計基準強度を有する繊維補強コンクリートによって構成されると良い。
【0022】
この態様によれば、伸縮装置の耐久性が向上する。
【0023】
本発明のある態様は、上記の態様の取付構造(2)の構築方法であって、工場にて、前記緊張材(13)によるプレストレスをプレテンション方式によって導入して、前記プレキャストコンクリート部材(11)を作成するステップと、工場又は工事現場にて、前記固定部(6)を作成するステップと、工事現場にて、前記有底孔(18)に前記アンカー部材(14)の下部が受容されるように、前記プレキャストコンクリート部材を、前記固定部に対する所定の位置に配置するステップと、前記固定部と前記基部との間に前記目地材を注入するステップとを備える。
【0024】
この態様によれば、プレキャストコンクリート部材を用いることと、緊張材がプレテンション方式であるため、工事現場でのコンクリート打設作業や緊張材の緊張作業が削減され、橋桁又は橋台への伸縮装置の取り付け作業が容易となる。また、プレキャストコンクリート部材に含まれるアンカー部材によって、伸縮装置部材が固定部に固定されるため、工事現場でアンカー部材を設置したり、アンカー部材を埋設するための場所打ちコンクリートを打設したりすることが不要となり、工事現場における伸縮装置の取り付け作業が容易になる。
【発明の効果】
【0025】
以上の態様によれば、橋桁又は橋台に伸縮装置を連結させる作業を容易に行える伸縮装置、伸縮装置の取付構造、及び伸縮装置の取付構造の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る伸縮装置の取付構造の断面(図2のI-I断面)図
図2】実施形態に係る伸縮装置の平面図
図3】実施形態に係る伸縮装置の取付構造の一部断面斜視図
図4】実施形態に係る伸縮装置部材の断面(図3のIV-IV断面)図
図5】実施形態に係る伸縮装置部材の基部と固定部との連結構造を示す一部断面(断面の1つは、図3のV-V断面)斜視図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る伸縮装置1と、その取付構造2を示す断面図である。図1に示すように、伸縮装置1は、橋梁3における、橋桁4と橋台5との間に設けられた遊間に配置される。橋桁4の一端部が、支承23を介して橋台5に支持されている。なお、伸縮装置1は、橋桁4同士の間に設けられた遊間に配置されても良い。
【0028】
橋梁3は、コンクリート橋であり、コンクリート造の橋桁4は、橋台5に対向する橋軸方向の端部の上部に、伸縮装置1を固定する固定部6を備える。同様に、コンクリート造の橋台5は、パラペット7における橋桁4に対向する側の上部に、伸縮装置1を固定する固定部6を備える。
【0029】
図2は、伸縮装置1の平面図である。図1及び図2に示すように、伸縮装置1は、フィンガージョイントの一種であり、各々が対応する固定部6に固定される1対の伸縮装置部材8を備える。伸縮装置部材8の各々は、固定部6に固定される基部9と、基部9から延出して互い橋幅方向に所定の間隔を置いて配置された複数のフィンガー部10とを含む。1対の伸縮装置部材8は、平面視で互いのフィンガー部10がかみ合うように配置される。従って、橋軸方向において、着目している伸縮装置部材8の基部9から他方の伸縮装置部材8の基部9に向かう向きを「前方」と記載すると、各々の伸縮装置部材8において、フィンガー部10は、基部9から橋軸方向の前方に延出している。
【0030】
図3は、1つの伸縮装置部材8と固定部6とを示す斜め上方から見た斜視図であって、一部を橋軸方向及び上下方向に平行な断面で示す。図4は、図3におけるIV-IV断面で伸縮装置部材8を示す。図5は、伸縮装置部材8の基部9と固定部6とを斜め上方から見た斜視図であって、その一部を図3におけるV-V断面と橋軸方向及び上下方向に平行な断面とで示す。図3~5に示すように、伸縮装置部材8は、橋幅方向に分割された複数のプレキャストコンクリート部材11(以下、「PCa部材11」と記す)を含み、橋幅方向に互いに隣り合うPCa部材11の間には、無収縮モルタル等の目地材12が注入されている。各々のPCa部材11が、基部9の一部と、複数のフィンガー部10とを含み、1~2mの橋幅方向の長さを有することが好ましい。各々のPCa部材11は、基部9とフィンガー部10とに跨って橋軸方向に延在する複数の緊張材13と、上下方向に延在する複数のアンカー部材14と、各々の緊張材13の略全体及び各々のアンカー部材14の上部を埋設して、基部9及びフィンガー部10の外形を画成するコンクリート部15とを含む。伸縮装置部材8は、コンクリート部15に埋設される鉄筋(図示せず)を含んでも良い。ここで、「鉄筋」という用語は、鋼棒だけでなく、いわゆるFRP鉄筋、すなわち、アラミド繊維、ガラス繊維、又は炭素繊維等の繊維強化プラスチック(FRP)を棒状に成形した物を含む意味で用いている。図示しない鉄筋は、FRP鉄筋であることが好ましい。
【0031】
緊張材13は、アラミド繊維、ガラス繊維、又は炭素繊維等の繊維強化プラスチックを素材とする。緊張材13はプレテンション方式で、伸縮装置部材8にプレストレスを導入する。
【0032】
アンカー部材14は、ガラス繊維、アラミド繊維、又は炭素繊維等の繊維強化プラスチックを素材とすることが好ましいが、鋼棒を素材としても良い。アンカー部材14の下部は、コンクリート部15の下面16から下方に向かって突出している。固定部6は、上方を向いた底面17を有し、底面17には、アンカー部材14の下部を受容する複数の有底孔18が設けられている。有底孔18には、モルタル又は接着剤等の充填材19が充填されており、充填材19によってアンカー部材14の下部が有底孔18内に固定されている。各PCa部材において、アンカー部材14は、互いに橋軸方向にずれた少なくとも2つの位置に、橋幅方向に並ぶ列をなすように配置される。
【0033】
コンクリート部15は、繊維補強コンクリートによって形成されることが好ましい。また、コンクリート部15は、120~200N/mmの設計基準強度を有する高強度コンクリートによって形成されることが好ましい。
【0034】
図3に示すように、1対の固定部6の各々は、上方を向いた底面17と、前方を向いた背面20と有し、底面17及び背面20は、固定部6を構成するコンクリートによって画成される。また、伸縮装置部材8の基部9は、固定部6の底面17に対向する下面16と、固定部6の背面20に対向する後面21とを有する。伸縮装置部材8の下面16及び後面21は、その伸縮装置部材8を構成する個々のPCa部材11の下面16及び後面21の集合体である。底面17と下面16との間、及び、背面20と後面21との間には、無収縮モルタル等の目地材12が注入されている。
【0035】
固定部6の底面17は、背面側に位置する第1底面17aと、第1底面17aよりも前方かつ上方に位置する第2底面17bと、第1底面17a及び第2底面17b間をつなぎ、前方に向けて上方に傾斜する傾斜面17cとを含む。伸縮装置部材8の基部9の下面16は、目地材12を挟んで第1底面17aに対向する第1下面16aと、目地材12を挟んで第2底面17bに対向し、第1下面16aよりも前方かつ上方に位置する第2下面16bと、目地材12を挟んで傾斜面17cに対向し、第1下面16a及び第2下面16b間をつなぎ、前方に向けて上方に傾斜する傾斜面16cとを含む。固定部6の底面17と伸縮装置部材8の基部9の下面16とが、このような段差を有する面を形成していることにより、橋軸方向のせん断力に対するせん断キーを形成している。
【0036】
固定部6の背面20には、橋幅方向に延在する溝20aが凹設されている。伸縮装置部材8の基部9の後面21には、橋幅方向に延在する溝21aが凹設されている。溝20a,21aは、互いに対向していることが好ましい。溝20a,21aが設けられ、背面20と後面21との間に目地材12が注入されていることにより、上下方向のせん断力に対するせん断キーが形成されている。
【0037】
図5に示すように、橋幅方向に互いに隣り合うPCa部材11の側面22には、橋軸方向に延在する溝22aが設けられている。互いに対向する2つ側面22に設けられた溝22aは、互いに対向することが好ましい。溝22aが設けられ、互いに対向する2つ側面22間に目地材12が注入されることにより、上下方向のせん断力に対するせん断キーが形成されている。
【0038】
伸縮装置部材8の基部9の下面16におけるPCa部材11が隣り合う部分には、2つのPCa部材11が組み合わさって橋軸方向に延在する溝16dが凹設されている。固定部6の底面17には、下面16の溝16dに受容されて橋軸方向に延在する突条17dが設けられている。溝16d及び突条17dによって、橋幅方向のせん断力に対するせん断キーが形成されている。
【0039】
図1図5を参照して、伸縮装置1の取付構造2の構築方法について説明する。
【0040】
作業員は、工場にてPCa部材11を作成する。緊張材13は、プレテンション方式でPCa部材11にプレストレスを与える。作成されたPCa部材11は、伸縮装置1が設置されるべき工事現場に運搬される。
【0041】
作業員は、工事現場にて、橋桁4及び橋台5のパラペット7の上部の互いに対向する部分に箱抜きが形成されるように橋桁4及び橋台5を構築し、箱抜きの底面17に有底孔18を削孔することにより固定部6を形成する。
【0042】
作業員は、有底孔18内に充填材19を充填した後、充填材19が硬化する前に、アンカー部材14の下部が有底孔18内に受容されるように、PCa部材11を固定部6に配置する。この時、複数のPCa部材11によって構成される1対の伸縮装置部材8のフィンガー部10が平面視で互いに隙間を空けてかみ合っている。
【0043】
作業員は、目地材12用の型枠を設置し、固定部6の底面17及び背面20と、PCa部材11の基部9の下面16及び後面21との間、並びに幅方向に互いに隣り合うPCa部材11の基部9の側面22間に、目地材12を注入する。目地材12が水平方向及び上方に向かうように、底面17と各PCa部材11との間における突条17dからずれた部分から目地材12を注入することが好ましい。
【0044】
プレテンション方式でプレストレスが導入されたPCa部材11を用いることにより、工事現場における緊張材13の緊張作業が不要になるとともに、伸縮装置部材8を橋桁4又は橋台5に連結するための場所打ちコンクリートが不要となるため、工事現場における作業負担を軽減することができる。
【0045】
大きな荷重を受けやすいフィンガー部10内に緊張材13が配置され、伸縮装置部材8に必要な強度を確保できる。緊張材13が、鋼材ではなく繊維強化プラスチックを素材とするため、鋼材が錆びることによる耐久性の低下が抑制され、維持管理が容易になる。さらに、アンカー部材14として鋼棒ではなく、棒形状に形成された繊維強化プラスチックを用い、鉄筋としてFRP鉄筋を用いることにより、鋼材が錆びることによる耐久性の低下が防止され、維持管理が容易になる。
【0046】
アンカー部材14によってPCa部材11の固定部6への連結が強固になる。アンカー部材14の上部がコンクリート部15に埋設された状態でPCa部材11が作製されるため、工事現場にてアンカー部材14を埋設させる場所打ちコンクリートを打設する必要がない。
【0047】
固定部6の第1底面17a及び第2底面17bと、伸縮装置部材8の第1下面16a及び第2下面16bとによるせん断キーによって、固定部6と伸縮装置部材8との間で橋軸方向のせん断力が伝達される。固定部6の背面20の溝20aと、伸縮装置部材8の後面21の溝21aと、その間に注入された目地材12とによるせん断キーによって、固定部6と伸縮装置部材8との間で上下方向のせん断力が伝達される。固定部6の底面17に設けられた突条17dと、伸縮装置部材8の下面16に設けられた溝16dとによるせん断キーによって、固定部6と伸縮装置部材8との間で橋幅方向のせん断力が伝達される。橋幅方向に互いに隣り合うPCa部材11の側面22に設けられた溝22aと、その間に注入された目地材12とによるせん断キーとによって、互いに隣り合うPCa部材11同士間で上下方向のせん断力が伝達される。このようにせん断キーによってせん断力が伝達されるため、孔あき鋼板ジベル等のずれ止め部材や、ずれ止め部材を埋設するための場所打ちコンクリートがなくとも、伸縮装置1の固定部6への連結とPCa部材11同士の連結が強固になる。
【0048】
固定部6の底面17の突条17dが、互いに隣り合うPCa部材11によって形成された下面16の溝16dに受容されるように配置されている。このため、底面17と各PCa部材11の間における突条17dからずれた位置から目地材12を注入することにより、目地材12が水平方向及び上方に移動しても目地材12が注入されるべき箇所の全体に行き渡るため、目地材12をムラなく注入することが容易になる。
【0049】
伸縮装置部材8が橋幅方向に1~2mの長さを有する複数のPCa部材11によって構成されるため、道路橋において伸縮装置1の取り換えが必要になった時、車線毎に分割して取替工事を行うことにより、交通規制を最小限に抑えることができる。また、伸縮装置1の一部が損傷した場合、損傷した部分を含むPCa部材11のみを取り替えることにより、伸縮装置1を修繕することができる。
【0050】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。橋梁は鋼橋でも良く、この場合、固定部は、鋼製の橋桁の上に設けられたコンクリート床版における橋軸方向の端部によって構成される。固定部の背面の溝及び/又は伸縮装置部材の基部の後面の溝は、橋幅方向に延在する突条に変更しても良い。PCa部材の側面の溝の一部又は全部を、橋軸方向に延在する突条に変更しても良い。プレキャストコンクリートによって橋桁を構築する場合は、固定部が工場にて形成されても良い。本発明は、新設の橋梁だけでなく、他の種類の伸縮装置が使用されていた橋梁での伸縮装置の取替工事に適用されても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 :伸縮装置
2 :取付構造
4 :橋桁
5 :橋台
6 :固定部
8 :伸縮装置部材
9 :基部
10 :フィンガー部
11 :プレキャストコンクリート部材(PCa部材)
12 :目地材
13 :緊張材
14 :アンカー部材
15 :コンクリート部
16 :下面
16a :第1下面
16b :第2下面
16d :溝
17 :底面
17a :第1底面
17b :第2底面
17d :突条
18 :有底孔
19 :充填材
20 :背面
20a :溝
21 :後面
21a :溝
22 :側面
22a :溝
図1
図2
図3
図4
図5