(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161847
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】蛍光X線分析用粉末試料の調製装置及び調製用治具
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2202 20180101AFI20241113BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20241113BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
G01N23/2202
G01N23/223
G01N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076947
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 隆美
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001MA04
2G001RA01
2G001RA20
2G052AD35
2G052AD55
2G052CA03
2G052CA11
2G052FD12
2G052GA19
2G052JA04
(57)【要約】
【課題】簡単に蛍光X線分析用粉末状試料を調製できるようにする。
【解決手段】本発明に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置100は、上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部11とを有し、前記上部開口部の内側の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器10と、前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面211と、該下底面よりも面積の小さい上底面212とを有する錐台様形状の押圧部21と、該押圧部の上底面に設けられた把持部22とを有する押圧部材(調製用治具)20とを備えるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部とを有し、前記上部開口部の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器と、
前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面と、該下底面よりも小さい上底面とを有する錐台様形状の押圧部と、該押圧部の上底面に設けられた把持部とを有する押圧部材と、
を備える、蛍光X線分析用粉末試料の調製装置。
【請求項2】
前記試料容器の外周に把持用段差が設けられている、請求項1に記載の蛍光X線分析用粉末試料の調製装置。
【請求項3】
前記試料容器の底部がすり鉢状である、請求項1に記載の蛍光X線分析用粉末試料の調製装置。
【請求項4】
上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部とを有し、前記上部開口部の内側の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器に用いられる蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具であって、
前記試料容器の前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面と、該下底面よりも小さい上底面とを有する錐台様形状の押圧部と、該押圧部の上底面に設けられた把持部とを有する蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具において、
前記押圧部の下底面が平坦面である、蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析用粉末試料の調製装置及び調製用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、試料にX線を照射し、それによって試料から放出される蛍光X線を測定することにより前記試料に含有される元素の分析を行う装置である。蛍光X線のエネルギーは元素ごとに固有であるため、試料から放出される蛍光X線のエネルギースペクトルから試料の構成元素を同定することができ、エネルギースペクトルの強度から試料中の各元素の濃度を測定することができる。
【0003】
蛍光X線分析装置では、固体、液体、粒状、粉末状等、様々な性状の試料の元素分析が可能であるが、試料の形状、試料台への試料の載せ方、試料容器内の収容状態等によって分析結果が異なる場合がある。特に粉末試料は、試料容器への入れ方によって密度が異なり易く、また、試料容器内において密度が不均一になったり、隙間ができたりする。分析する毎に試料容器内の収容状態が異なると、分析結果の再現性が低下する。また、試料容器内における密度が不均一であったり隙間があったりすると、正しい分析結果を得ることができない。そこで、粉末試料を常に同じ状態で試料容器に収容できるようにした、蛍光X線分析用粉末試料を調製するための装置が提供されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている装置は、粉末試料に振動を付与しつつ試料容器内全体に均等に粉末試料を供給する供給機構と、試料容器内を真空引きする真空ポンプを備えている。この装置では、ろ紙の上に配置された筒状の試料容器内に粉末試料を均等に入れた後、試料容器に蓋をし、ろ紙の下側から前記試料容器内を真空ポンプで真空引きする。これによって、試料容器内に均一な密度で隙間なく粉末試料を充填する。
【0006】
しかしながら、上記装置は、粉末試料の供給機構、真空ポンプ、該真空ポンプと試料容器内とを接続する配管、真空引きを行っている間、試料容器が動いたり蓋が開かないようにしたりするための保持機構等を備えた大掛かりな装置であるため、蛍光X線分析用粉末試料を調製する作業はもちろん、その準備作業にも時間や手間がかかってしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、簡単に蛍光X線分析用粉末状試料を調製できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る、蛍光X線分析用粉末試料の調製装置は、
上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部とを有し、前記上部開口部の内側の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器と、
前記試料容器の前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面と、該下底面よりも小さい上底面とを有する錐台様形状の押圧部と、該押圧部の上底面に設けられた把持部とを有する押圧部材と、
を備えるものである。
【0009】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る、蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具は、上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部とを有し、前記上部開口部の内側の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器に用いられるものであって、
前記試料容器の前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面と、該下底面よりも小さい上底面とを有する錐台様形状の押圧部と、該押圧部の上底面に設けられた把持部とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置又は調製用治具を用いることにより、簡単な作業で、試料容器内に粉末試料が均一な密度で隙間なく充填された蛍光X線分析用粉末試料を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置を示す概略構成図。
【
図2】蛍光X線分析用粉末試料の調製作業の手順を示す図。
【
図3】蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具の別の実施形態を示す側面図。
【
図4】蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具の製造例を示す写真。
【
図5】製造例の調製用治具を使って試料容器内に粉末試料を充填する様子を示す写真。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置を構成する試料容器の概略構成図。
【
図7】試料容器(収容部材)の変形例の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置の具体的な実施形態について説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置(以下「調製装置100」という)の概略的な全体構成を示している。この調製装置100は、試料容器10と、押圧部材20とを備えている。押圧部材20は、本発明の蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具に相当する。試料容器10は、上下の端部が開口している円筒状の収容部材11と、該収容部材11の外周部に嵌め込まれる円環状のスナップリング12とから成る。収容部材11は、その上端から下端まで内側の横断面が同じ円形状である。したがって、本実施形態では、収容部材11の全体が粉末調整部に相当し、収容部材11の上端部は、上部開口部と粉末調整部を兼用する。
図2に示すように、スナップリング12は、収容部材11の下端部側の開口(下部開口13)にフィルム30をピンと張った状態で装着するための部材であり、例えば収容部材11の高さの半分程度の高さを有している。フィルム30はX線が透過可能な材料から形成されており、試料容器10の底面を構成すると共に分析窓として機能する。
【0013】
押圧部材20は、円形状の下底面211及び円形状の上底面212を有する円錐台状の押圧部21と、該押圧部21の上底面212に立設された把持棒(本発明の把持部に相当)22とから成る。この実施形態では、下底面211は平坦面となるように構成されている。また、把持棒22は、上底面212の上に接着剤などで固定された1個または2個の円環状部材221の中心孔に嵌合固定されている。押圧部21の下底面211は収容部材11の内側の横断面よりも僅かに小さい円形状である。
【0014】
具体的には、押圧部21の下底面211の大きさは、収容部材11の中心軸に対して下底面211を略垂直な状態にして該収容部材11内で前記押圧部21を上下動させたときに、試料容器10内に収容されている粉末試料内の空気を逃がすことでき、且つ、粉末試料がほとんど漏れ出ないような大きさに設定される。つまり、粉末試料の各粉末の粒径が小さいほど、押圧部21の下底面211と収納部材11の内周面との間の隙間を小さくすることになる。例えば収容部材11の内側の横断面である円形の直径をD1、粉末の最小粒径(直径)をD2、押圧部21の下底面211の直径をD3とすると、D1およびD2とD3は次の関係を有する。
D1-3×D2≦D3≦D1-D2
【0015】
なお、収容部材11の内側の横断面および押圧部21の下底面211が円形状であるとき、前記下底面211の面積が、収容部材11の内側の横断面の面積の約99.5%以下であれば、収容部材11の内周面に沿って押圧部21を上下動させることができる。
【0016】
上記構成の調製装置100を用いて蛍光X線分析用粉末試料を調製するときは、まず、収容部材11の下端部の開口にフィルム30を宛てがい、該下端部側からスナップリング12を収容部材11の外周に嵌める。このとき、フィルム30が収容部材11の下端部の開口全体にピンと張られた状態となるようにする。なお、収容部材の下部開口に張られたフィルム30がずれ動かないように、スナップリング12の内周面と収容部材11の外周面に互いに嵌め合う凹部と凸部が設けられていてもよい。その後、収容部材11の上部開口111から収容部材11内の全体に粉末試料40を入れる(
図2(a)参照)。
【0017】
続いて、押圧部材20の把持棒22を手指で持ち、収容部材11の中心軸に対して押圧部21の下底面211を垂直な状態にして該押圧部21を収容部材11内に押し込む。これにより粉末試料40が圧縮され、収容部材11内に均一な密度で充填される(
図2(b)参照)。このとき押圧部21の外周面が下底面211から上底面212に向かって内側に傾斜しており、押圧部21と収容部材11の内周面が接触する部分が前記下底面211付近の外周面のみとなる。このため、押圧部21の下底面211が収容部材11の内側の横断面よりも僅かに小さい円形状であっても押圧部21を押し込むときの摩擦抵抗が小さくなり、比較的小さい力で押圧部21を押し込むことができる。また、下底面211が平坦面であるため、収容部材11内に押し込まれた粉末試料40の上面を均一な平坦面にすることができる。
【0018】
なお、
図1に示した押圧部材20の例では、押圧部21の外周面を、下底面211から上底面212に向かって内側に傾斜する傾斜面としたが、例えば
図3に示すような階段状の外周面としてもよい。
図3(a)に示す押圧部材20の例では、押圧部21は3枚の円板状部材251~253を積み重ねた構成であり、最下段の円板状部材251の下面が下底面211、最上段の円板状部材253の上面が上底面212となる。
この場合、
図3(b)に示すように、押圧部21の最下段の円板状部材251の外周面のみを下面側から上面側に向かって内側に傾斜する傾斜面としてもよい。
【0019】
図4は本発明に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具(押圧部材)の製造例、
図5は、
図4に示す調製用治具を使って蛍光X線分析用粉末試料を調製する作業例を示す写真である。この製造例の調製用治具200は、下底面及び上底面がいずれも円形状の押圧部201および円柱状の把持棒202を有している。調製用治具200の形状は、
図1に示した押圧部材20と類似の形状であるため詳細な説明は省略する。調製用治具200の押圧部201および把持棒202はいずれもアクリル樹脂から形成されている。なお、押圧部201はメノウ製、石英製にすることもできる。押圧部201は試料容器300に収容された粉末試料を押圧するときに該粉末試料と接触するため、測定対象元素が含まれていないことが好ましい。
【0020】
また、試料容器300は、円筒状の収容部材及円筒状のスナップリングを有しており、いずれもポリエチレン樹脂から形成されている。収容部材は、内径が24mm、外径が30mm、高さが20mmである。また、調製用治具の押圧部は、厚さが5mm、下底面の外径が20mm、上底面の外径が18mmである。これらの数値は、粉末試料の粒径が10μm~100μmである場合を想定して設定したものである。この例では、調製用治具と収容部材の間の間隙([収容部材の内径-調製用治具の押圧部の下底面の外径]/2)は2mmであるが、前記間隙は0.3mm~3.0mm程度が妥当である。
【0021】
上記サイズの収容部材の下部開口にスナップリングを使ってフィルムを張り、粒径が 10μm~100μmの粉末試料を試料容器300に入れた状態、及び、試料容器300内に収容された粉末試料を調製用治具200で押圧したときの様子を
図5(a)及び(b)に示す。
図5(b)から分かるように、上記構成の調製用治具200と試料容器300を用いることにより、簡単な作業で試料容器300内に収容された非常に微細な粒子からなる粉末試料をほぼ隙間のない状態に均一な密度に圧縮して蛍光X線分析用試料を調製することができる。
【0022】
図6は、本発明の第2実施形態に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置を構成する試料容器40の概略的な全体構成を示している。第2実施形態の調製装置は、試料容器40と、第1実施形態の押圧部材20とを含む。
【0023】
前記試料容器40は、上下の端部が開口している略円筒状の収容部材401と、該収容部材401の外周部に嵌め込まれるスナップリング412とから成る。収容部材401は下端部分が下方に向かって縮径している。つまり、縮径している部分(以下、縮径部402という。)の内側の横断面は円形状であるが、その直径が上から下に向かって徐々に小さくなっている。一方、収容部材401のうち縮径部402よりも上の部分の内側の横断面は上下に亘って同じ直径の円形状である。以下、この部分を粉末調整部403という。粉末調整部403の内側の横断面は、押圧部21の下底面211よりも僅かに大きい円形状である。また、粉末調整部403の上下部の外周面にはそれぞれ円環状の鍔部404、405が形成されている。鍔部404、405は、本発明の把持用段差に相当する。
【0024】
スナップリング412は、第1実施形態の試料容器10と同様、フィルム(図示せず)を収容部材401の下部開口に張設するために使用される部材であり、本実施形態では一対の半円状の部材が一端部でヒンジ連結された開閉自在な構成を有している。スナップリング412の半円状部材の他端部には凹部413及び凸部414が設けられており、これら凹部413と凸部414を嵌め合わせることでスナップリング412は閉じた状態に維持される。
【0025】
フィルムを収容部材401の下部開口に張設するときは、スナップリング412を開き、収容部材40の下端部の開口に宛てがわれたフィルムの周縁部を粉末調整部403の外周面との間に挟むようにしてスナップリング412を閉じる。これにより、収容部材401の粉末調整部403の外周部にスナップリング412が嵌合され、収容部材401の下部開口にフィルムが張られた状態を維持することができる。第1実施形態の試料容器10と同様、フィルムは、試料容器40の底面を構成するとともに分析窓として機能する。収容部材401の下部が縮径部402であるため、本実施形態の試料容器40の底部はすり鉢状となる。
【0026】
本実施形態の調製装置を用いて蛍光X線分析用粉末試料を調製するときは、上述したように、スナップリング412を使って収容部材401の下部開口にフィルムを張り、収容部材401の上部開口部411から粉末試料を入れる。その後、押圧部材20の押圧部21を収容部材401に入れて粉末試料を押し込み、圧縮させる。収容部材401は、粉末調整部403の内側の横断面が上下に亘って同一の円形状であるため、粉末調整部403内では押圧部21を上下させることができる。したがって、本実施形態では、押圧部21で押し込まれて圧縮された後の粉末試料の上面が粉末調整部403内に位置するように、収容部材401内に粉末試料を入れる。
【0027】
このような構成の第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。また、本実施形態では、収容部材401の外周面に鍔部404、405が設けられているため、収容部材401を持つときに該鍔部404、405に指をかけることができる。さらに、鍔部404を設けたことにより、ロボットアームで収容部材401を把持することができ、ロボットアームを使った蛍光X線分析用粉末試料の調製作業の自動化が可能となる。さらにまた収容部材401の下部に縮径部402を設けたため、収容部材401内の粉末試料を圧縮するときに収容部材401の底部周縁まで粉末試料を押し込みやすくなる。
【0028】
なお、試料容器40は一般的には蛍光X線分析用粉末状試料の調製に使用されるものであるが、固体試料を収容して蛍光X線分析に供することも可能である。収容部材401の下部が縮径していると、収容部材401に固体試料を入れたときに該固体試料を底部中央に配置し易くなる。
【0029】
また、第2実施形態では、収容部材401の上端部から縮径部402までの範囲の内側の横断面を同じ円形状にしたが、例えば
図7に示すように、収容部材401の上端から所定範囲の部分を拡開させてもよい。この構成の収容部材401では、拡開させた部分から縮径部402までの部分が粉末調整部となる。
【0030】
さらに、上述した第1、第2実施形態では、試料容器(収容部材)の上下部に開口を設け、下部開口をフィルムで塞いで底面としたが、下部が開口し、下部が閉塞した筒状部材を試料容器としてもよい。
【0031】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0032】
(第1項)本発明の一態様に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置は、
上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部とを有し、前記上部開口部の内側の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器と、
前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面と、該下底面よりも面積の小さい上底面とを有する錐台様形状の押圧部と、該押圧部の上底面に設けられた把持部とを有する押圧部材と、
を備えるものである。
【0033】
(第4項)本発明の別の態様に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具は、
上部開口部と、該上部開口部から底部までの部分であって内側の横断面の形状が上下に亘って同じである粉末調整部とを有し、前記上部開口部の内側の横断面の形状が前記粉末調整部の内側の横断面の形状と同じかそれよりも大きい、筒状の試料容器に用いられるものであって、前記試料容器の前記粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状の下底面と、該下底面よりも面積の小さい上底面とを有する錐台様形状の押圧部と、該押圧部の上底面に設けられた把持部とを有するものである。
【0034】
第1項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置、或いは第4項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具では、試料容器に粉末試料を、その上面が粉末調整部内に位置するように収容した後、押圧部材の把持部、あるいは調製用治具の把持部を持ち、押圧部の下底面が試料容器の中心軸に対して略垂直となるようにして該押圧部を前記試料容器に入れ、粉末調整部の内周面に沿わせるようにして押し込む。これにより、試料容器内の粉末試料が押圧部の下底面に押されて圧縮され、試料容器内に隙間なく均一な密度で充填される。
【0035】
ここで、押圧部の下底面が「僅かに小さい形状」である、とは、試料容器の粉末調整部内に押圧部を押し込んだときに押圧部の外周面と試料容器の粉末調整部の内周面との間から粉末試料内の空気を逃がすが、粉末試料はほとんど漏れ出ない程度の形状、大きさであることをいい、粉末試料の大きさ(粒径)によって決まる。典型的には、押圧部の下底が、試料容器の粉末調整部の内側の横断面と相似形であり、且つ、押圧部の下底の面積が試料容器の内側の横断面の面積の85%~99.5%である。
【0036】
また、「錐台様形状」には、押圧部の下底面及び上底面がいずれも円形、或いはいずれも多角形であって、該押圧部の外周面が下底面から上底面に向かって内側に傾斜する傾斜面である円錐台形状、或いは多角錐台形状、下底面と上底面が円形と多角形の組合せから成り、該押圧部の外周面が下底面から上底面に向かって内側に傾斜する傾斜面である形状、押圧部の下底面及び上底面がいずれも円形、いずれも多角形、或いは円形と多角形の組合せであって、押圧部の外周面が階段状(段差状)である形状が含まれる。押圧部が錐台様形状であることにより、押圧部を試料容器内に入れたときにその粉末調整部の内周面と接触する押圧部の部分が下底面付近の外周面だけとなる。したがって、押圧部の下底面が試料容器の粉末調整部の内側の横断面よりも僅かに小さい形状であっても、試料容器内の粉末調整部の内周面に沿って押圧部を比較的容易に上下動させることができる。
【0037】
(第2項)第2項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置は、第1項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置において、前記試料容器の外周に把持用段差が設けられているものである。
上記構成により、試料容器をロボットアームに把持させたときに該ロボットアームに前記把持用段差を係止することができるため、ロボットアームを使った粉末用試料の調製作業の自動化を実現できる。
【0038】
(第3項)第3項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置は、第1項又は第2項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製装置において、前記試料容器の底部をすり鉢状としたものである。
上記構成により、試料容器内の粉末試料を底部周縁まで押し込みやすくなる。
【0039】
(第5項)第5項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具は、第4項に係る蛍光X線分析用粉末試料の調製用治具において、前記押圧部の下底面が平坦面であるものとすることができる。
上記構成により、押圧部で試料容器内に押し込まれた粉末試料の上面を均一な平坦面にすることができる。
【符号の説明】
【0040】
100…調製装置
10、40…試料容器
11、401…収容部材
12、412…スナップリング
13…下部開口
20…押圧部材
21…押圧部
211…下底面
212…上底面
22…把持棒
221…円環状部材
25…押圧部
251,252,253…円板状部材
30…フィルム
40…粉末試料
200…調製用治具
300…試料容器