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特開2024-161852電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法及び絶縁材の製造方法
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  • 特開-電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法及び絶縁材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161852
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法及び絶縁材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/04 20060101AFI20241113BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20241113BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241113BHJP
【FI】
C09D179/04
C09D5/44
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076954
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】521166319
【氏名又は名称】株式会社リグノマテリア
(71)【出願人】
【識別番号】518314464
【氏名又は名称】合同会社Hide Technology
(71)【出願人】
【識別番号】501218566
【氏名又は名称】学校法人片柳学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見正 大祐
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 英行
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DJ021
4J038DJ031
4J038GA06
4J038GA09
4J038HA166
4J038HA446
4J038JA17
4J038JA25
4J038JA30
4J038KA06
4J038KA20
4J038LA05
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA14
4J038NA21
4J038NA24
4J038NA25
4J038PA04
4J038PB06
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】溶媒への溶解性に優れ、且つ耐熱性に優れた絶縁材が得られる電着塗装用塗料の提供。
【解決手段】溶剤と、分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、を含有する電着塗装用塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤と、
分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、
を含有する電着塗装用塗料。
【請求項2】
前記ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物が、下記一般式(F1)で表されるテトラカルボン酸二無水物、及び下記一般式(F2)で表されるジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体である、請求項1に記載の電着塗装用塗料。
【化1】

(一般式(F1)中、R及びRは、それぞれ独立に、カルボン酸無水物基を含む有機基を表す。一般式(F2)中、R及びRは、それぞれ独立に、アミノ基を含む有機基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(F1)におけるR及びRが、それぞれ独立に、下記式F1-1で表される基又は下記式F1-2で表される基である、請求項2に記載の電着塗装用塗料。
【化2】

(式F1-1中、R51は、単結合又は2価の有機基を表す。式F1-2中、R52は、単結合又は2価の有機基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(F2)におけるR及びRが、それぞれ独立に、下記式F2-1で表される基である、請求項2に記載の電着塗装用塗料。
【化3】

(式F2-1中、Rは、単結合又は2価の有機基を、R11、R12、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、アミノ基、水素原子、フッ素原子、又は水酸基を表す。ただし、R11、R12、R13、R14、及びR15のうち少なくとも1つはアミノ基である。)
【請求項5】
前記ポリイミド系前駆体化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対する、主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含む繰り返し単位の数の割合、並びに前記ポリイミド系化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対する、主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含む繰り返し単位の数の割合が、20%以下である、請求項1に記載の電着塗装用塗料。
【請求項6】
無機粒子を含有する、請求項1に記載の電着塗装用塗料。
【請求項7】
前記無機粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子である、請求項6に記載の電着塗装用塗料。
【請求項8】
分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、溶剤Aと、を混合して樹脂混合液を得る工程と、
前記樹脂混合液と、溶剤Bと、を混合する工程と、を含む電着塗装用塗料の製造方法。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を焼成する工程と、を有する絶縁材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法及び絶縁材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどの電気機器に用いられる電線としては、絶縁皮膜を有する絶縁電線が用いられている。電気自動車及びハイブリット車の駆動モータのように、高効率、高出力、及び小型化が求められるモータ用の電線には、コイルに占める導体占有率の高い平角エナメル線が用いられている。そして、平角エナメル線の製造には、電着塗装法が用いられることがある(例えば、特許文献1~5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第1127047号公報
【特許文献2】特公昭54-41617号公報
【特許文献3】特許第2098020号公報
【特許文献4】特許第475189号公報
【特許文献5】特許第1311182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の少なくとも一種を含む電着塗装用塗料では、溶剤への溶解性を高めることが求められる。そのため、従来においては、例えば脂肪族鎖や脂肪族の官能基(メチル基、エチル基など)を含む化合物を用いる方法などが採用されていたが、こうしたポリイミド系前駆体化合物やポリイミド系化合物では熱分解が生じやすく、耐熱性の向上が求められていた。
【0005】
そこで本開示の課題は、溶媒への溶解性に優れ、且つ耐熱性に優れた絶縁材が得られる電着塗装用塗料、当該電着塗装用塗料の製造方法、及び当該電着塗装用塗料を用いる絶縁材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1>
溶剤と、
分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、
を含有する電着塗装用塗料。
<2>
前記ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物が、下記一般式(F1)で表されるテトラカルボン酸二無水物、及び下記一般式(F2)で表されるジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体である、<1>に記載の電着塗装用塗料。
【0007】
【化1】
【0008】
(一般式(F1)中、R及びRは、それぞれ独立に、カルボン酸無水物基を含む有機基を表す。一般式(F2)中、R及びRは、それぞれ独立に、アミノ基を含む有機基を表す。)
<3>
前記一般式(F1)におけるR及びRが、それぞれ独立に、下記式F1-1で表される基又は下記式F1-2で表される基である、<2>に記載の電着塗装用塗料。
【0009】
【化2】
【0010】
(式F1-1中、R51は、単結合又は2価の有機基を表す。式F1-2中、R52は、単結合又は2価の有機基を表す。)
<4>
前記一般式(F2)におけるR及びRが、それぞれ独立に、下記式F2-1で表される基である、<2>に記載の電着塗装用塗料。
【0011】
【化3】
【0012】
(式F2-1中、Rは、単結合又は2価の有機基を、R11、R12、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、アミノ基、水素原子、フッ素原子、又は水酸基を表す。ただし、R11、R12、R13、R14、及びR15のうち少なくとも1つはアミノ基である。)
<5>
前記ポリイミド系前駆体化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対する、主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含む繰り返し単位の数の割合、並びに前記ポリイミド系化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対する、主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含む繰り返し単位の数の割合が、20%以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料。
<6>
無機粒子を含有する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料。
<7>
前記無機粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子である、<6>に記載の電着塗装用塗料。
<8>
分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、溶剤Aと、を混合して樹脂混合液を得る工程と、
前記樹脂混合液と、溶剤Bと、を混合する工程と、を含む電着塗装用塗料の製造方法。
<9>
<1>~<7>のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を焼成する工程と、を有する絶縁材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、溶媒への溶解性に優れ、且つ耐熱性に優れた絶縁材が得られる電着塗装用塗料、当該電着塗装用塗料の製造方法、及び当該電着塗装用塗料を用いる絶縁材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例及び比較例に使用した電着装置例を示す模式的図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
<電着塗装用塗料>
本開示に係る電着塗装用塗料(以下、「本開示塗料」ともいう)は、溶剤と、分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を含むポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、を含有する。
【0018】
本開示塗料は、上記構成により、溶媒への溶解性に優れ、且つ耐熱性に優れた絶縁材が得られる電着塗装用塗料となる。
この効果が奏されるのは、分子構造中に含まれるフルオレン骨格によって溶剤との相溶性が高められ、また絶縁材を形成した際にもフルオレン骨格が導入されていることで熱分解の発生が抑制されるため、と推察される。
【0019】
(溶剤)
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、非プロトン系極性溶剤、水等が挙げられる。
【0020】
エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ溶剤である。
エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0021】
ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ溶剤である。
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0022】
アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ溶剤である。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0023】
非プロトン性極性溶剤は、極性が高く酸性水素をもたない溶媒のことである。
非プロトン性極性溶剤として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0024】
溶剤としては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
溶剤の含有量は、電着塗装用塗料全体に対して、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。
【0026】
溶剤は、2種以上を混合した混合溶液であることが好ましい。
溶剤は、後述する、溶剤A及び溶剤Bを含むことが好ましい。
溶剤Aに対する溶剤Bの比(溶剤B/溶剤A)は、質量基準で、0.1以上4.0以下であることが好ましく、0.5以上3.0以下であることがより好ましく、0.8以上2.5以下であることが更に好ましい。
【0027】
(ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物)
本開示塗料は、分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂を含む。フルオレン骨格とは、以下に示す構造を有する骨格を指す。
【0028】
【化4】
【0029】
ここで、ポリイミド系前駆体化合物とは、-CO-NH-結合及び-COOH基を有する構成単位を含み、熱イミド化又は化学イミド化することにより、-CO-NH-結合及び-COOH基を閉環してポリイミドとすることができる重合体をいう。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。
また、ポリイミド系化合物とは、構成単位にイミド結合を有する重合体をいう。
【0030】
ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物に含まれる全ての繰り返し単位が、繰り返し単位の構造中にフルオレン骨格を有している必要はない。ただし、溶媒への溶解性を高め且つ絶縁材の耐熱性を向上させる観点から、ポリイミド系前駆体化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対して構造中にフルオレン骨格を含む繰り返し単位の数の割合、及びポリイミド系化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対して構造中にフルオレン骨格を含む繰り返し単位の数の割合は、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物においては、絶縁材の耐熱性を向上させる観点から、分子構造において主鎖に含まれる直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基(2価の脂肪族基)並びにスルホニル基(-S(=O)-)の数が少ない方が良い。具体的には、絶縁材の耐熱性を向上させる観点から、ポリイミド系前駆体化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対して主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含む繰り返し単位の数の割合、並びにポリイミド系化合物に含まれる全繰り返し単位の数に対して主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含む繰り返し単位の数の割合は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、0%であってもよい。なお、主鎖に含まないことが好ましい脂肪族基は上記の通り「直鎖状及び分岐鎖状」の脂肪族基であり、環状の脂肪族基は主鎖に含まないことが好ましい基に該当しない。
【0032】
ポリイミド系前駆体化合物における「繰り返し単位」とは、重合体であるポリイミド系前駆体化合物の重合鎖上において、2個のアミド結合(-CO-NH-)毎に繰り返される構造の単位を意味する。例えば、ポリイミド系前駆体化合物がテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である場合には、2個のアミド結合、1個のテトラカルボン酸二無水物の残基、及び1個のジアミン化合物の残基により、1個の繰り返し単位が構成される。
ポリイミド系化合物における「繰り返し単位」とは、重合体であるポリイミド系化合物の重合鎖上において、2個のイミド結合(*-CO-N(-*)-CO-*:*部に結合手を有する3価の結合)毎に繰り返される構造の単位を意味する。例えば、ポリイミド系化合物がテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である場合には、2個のイミド結合、1個のテトラカルボン酸二無水物の残基、及び1個のジアミン化合物の残基により、1個の繰り返し単位が構成される。
【0033】
ポリイミド系前駆体化合物は、例えば下記一般式(P1)に示す繰り返し単位を含む構造を有する。また、前記ポリイミド系化合物は、例えば下記一般式(P2)に示す繰り返し単位を含む構造を有する。
【0034】
【化5】
【0035】
(一般式(P1)中、Rは水素原子又は有機基を、Ar11はフルオレン骨格を含んでもよい有機基を、Ar12はフルオレン骨格を含んでもよい有機基を表す。
一般式(P2)中、Ar21はフルオレン骨格を含んでもよい有機基を、Ar22はフルオレン骨格を含んでもよい有機基を表す。)
【0036】
有機基とは、脂肪族基及び芳香族基の少なくとも一方を含む基を意味し、さらに基の構造中に炭素(C)及び水素(H)以外の元素(例えばO、F、N、S等)を含んでいてもよい。
【0037】
ポリイミド系前駆体化合物の分子構造における「主鎖」とは、ポリイミド系前駆体化合物に含まれるアミド結合(-CO-NH-)、及びアミド結合同士を直接繋ぐ鎖を意味する。例えば、前記一般式(P1)に示す繰り返し単位を含む構造を有するポリイミド系前駆体化合物であれば、アミド結合(-CO-NH-)、並びにAr11で表される有機基及びAr12で表される有機基において前記アミド結合同士を直接繋ぐ鎖を指す。
ポリイミド系化合物の分子構造における「主鎖」とは、ポリイミド系化合物に含まれるイミド結合(*-CO-N(-*)-CO-*:*部に結合手を有する3価の結合)、及びイミド結合同士を直接繋ぐ鎖を意味する。例えば、前記一般式(P2)に示す繰り返し単位を含む構造を有するポリイミド系化合物であれば、イミド結合、並びにAr21で表される有機基及びAr22で表される有機基において前記イミド結合同士を直接繋ぐ鎖を指す。
【0038】
-ポリイミド系前駆体化合物-
ポリイミド系前駆体化合物は、具体的には、ポリイミド前駆体、ポリエステルイミド前駆体、ポリエーテルイミド前駆体、及びポリアミドイミド前駆体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ここで、ポリイミド前駆体は、ポリイミド前駆体化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にエステル基、エーテル基及びアミド基を含まないものをいう。
ポリエステルイミド前駆体とは、ポリイミド系前駆体化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にエステル基を含むものをいう。
ポリエーテルイミド前駆体とは、ポリイミド系前駆体化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にエーテル基を含むものをいう。
ポリアミドイミド前駆体とは、ポリイミド系前駆体化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にアミド基を含むものをいう。
【0039】
・ポリイミド前駆体
ポリイミド前駆体について説明する。
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。そして、分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド前駆体を得るため、分子構造中にフルオレン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体であるポリイミド前駆体が好ましい。
【0040】
なお、ポリイミド前駆体は下記一般式(F1)で表されるテトラカルボン酸二無水物、及び後述の一般式(F2)で表されるジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体であることが、溶媒への溶解性及び絶縁材の耐熱性の観点で好ましい。
さらに、ポリイミド前駆体は下記一般式(F1)で表されるテトラカルボン酸二無水物、及び後述の一般式(F2)で表されるジアミン化合物の両方を含むモノマーの重合体であることが、溶媒への溶解性及び絶縁材の耐熱性の観点でより好ましい。
【0041】
(フルオレン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物)
分子構造中にフルオレン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物の好ましい例である、下記一般式(F1)で表されるテトラカルボン酸二無水物について説明する。
【0042】
【化6】
【0043】
(一般式(F1)中、R及びRは、それぞれ独立に、カルボン酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-)を含む有機基を表す。)
【0044】
有機基とは、脂肪族基及び芳香族基の少なくとも一方を含む基を意味し、さらに基の構造中に炭素(C)及び水素(H)以外の元素(例えばO、F、N、S等)を含んでいてもよい。
【0045】
例えば、R及びRで表されるカルボン酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-)を含む有機基としては、カルボン酸無水物基以外の構造が、炭素数1以上20以下の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族基、或いは炭素数1以上20以下の芳香族基である有機基が好ましい。なお、基の構造中にさらに炭素(C)及び水素(H)以外の元素(例えばO、F、N、S等)を含んでいてもよい。
【0046】
一般式(F1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、R及びRが、それぞれ独立に、下記式F1-1で表される基又は下記式F1-2で表される基であることが、溶媒への溶解性及び絶縁材の耐熱性の観点で好ましい。
【0047】
【化7】
【0048】
(式F1-1中、R51は、単結合又は2価の有機基を表す。式F1-2中、R52は、単結合又は2価の有機基を表す。)
【0049】
51で表される2価の有機基及びR52で表される2価の有機基としては、脂肪族基及び芳香族基の少なくとも一方を含む2価の基が挙げられる。例えば、R51で表される2価の有機基及びR52で表される2価の有機基としては、炭素数1以上20以下の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族基、及び炭素数1以上20以下の芳香族基が好ましい。なお、基の構造中にさらに炭素(C)及び水素(H)以外の元素(例えばO、F、N、S等)を含んでいてもよい。
【0050】
51で表される2価の有機基及びR52で表される2価の有機基としては、例えば以下に示す基が好ましい。R51及びR52としては、単結合又は以下に示す基が好ましい。
【0051】
【化8】
【0052】
式F1-1で表される基及び式F1-2で表される基としては、例えば以下に示す基が挙げられる。
【0053】
【化9】
【0054】
分子構造中にフルオレン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば以下に示す化合物が挙げられる。
【0055】
【化10】
【0056】
(その他のテトラカルボン酸二無水物)
さらに、分子構造中にフルオレン骨格を有しないテトラカルボン酸二無水物(その他のテトラカルボン酸二無水物)を用いてもよい。
その他のテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(ト
リフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を挙げられる。
【0057】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0058】
その他のテトラカルボン酸二無水物としては、例えば以下に示すテトラカルボン酸二無水物が好ましい。なお、下記に示すTMAはテトラカルボン酸二無水物ではないが、例えばジアミン化合物と2:1の割合で反応させて両末端にカルボキシル基を有する化合物を調製し、さらにジイソシアネートと反応させることで、ポリアミドイミド前駆体を合成することができる化合物である。
【0059】
【化11】
【0060】
ただし、本開示塗料を用いて得られる絶縁材の耐熱性の向上の観点から、テトラカルボン酸二無水物としては、カルボン酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-)を除いた部分の構造において、主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基を含まない化合物が好ましい。この観点から、その他のテトラカルボン酸二無水物としては、上記BTDA、PMDA、BPDA、及びHBPDAがより好ましい。
【0061】
(フルオレン骨格を有するジアミン化合物)
分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物の好ましい例である、下記一般式(F2)で表されるジアミン化合物について説明する。
【0062】
【化12】
【0063】
(一般式(F2)中、R及びRは、それぞれ独立に、アミノ基を含む有機基を表す。)
【0064】
例えば、R及びRで表されるアミノ基(-NH)を含む有機基としては、アミノ基以外の構造が、炭素数1以上20以下の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族基、或いは炭素数1以上20以下の芳香族基である有機基が好ましい。なお、基の構造中にさらに炭素(C)及び水素(H)以外の元素(例えばO、F、N、S等)を含んでいてもよい。
【0065】
一般式(F2)で表されるジアミン化合物は、R及びRが、それぞれ独立に、下記式F2-1で表される基であることが、溶媒への溶解性及び絶縁材の耐熱性の観点で好ましい。
【0066】
【化13】
【0067】
(式F2-1中、Rは、単結合又は2価の有機基を、R11、R12、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、アミノ基(-NH)、水素原子(-H)、フッ素原子(-F)、又は水酸基(-OH)を表す。ただし、R11、R12、R13、R14、及びR15のうち少なくとも1つはアミノ基である。)
【0068】
で表される2価の有機基としては、脂肪族基及び芳香族基の少なくとも一方を含む2価の基が挙げられる。例えば、Rで表される2価の有機基としては、炭素数1以上20以下の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族基、及び炭素数1以上20以下の芳香族基が好ましい。なお、基の構造中にさらに炭素(C)及び水素(H)以外の元素(例えばO、F、N、S等)を含んでいてもよい。
【0069】
で表される2価の有機基としては、例えば以下に示す基が好ましい。Rとしては、単結合又は以下に示す基が好ましい。
【0070】
【化14】
【0071】
11、R12、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、アミノ基、水素原子、フッ素原子、又は水酸基である。
【0072】
式F2-1で表される基としては、例えば以下に示す基が挙げられる。
【0073】
【化15】
【0074】
分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物としては、例えば以下に示す化合物が挙げられる。
【0075】
【化16】
【0076】
さらに、分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物であって、前記一般式(F1)に示す構造を有しないジアミン化合物も、用いることができる。このジアミン化合物としては、例えば2,7-ジアミノフルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、及び2,7-ジアミノフルオレノン等が挙げられる。
【0077】
(その他のジアミン化合物)
さらに、分子構造中にフルオレン骨格を有しないジアミン化合物(その他のジアミン化合物)を用いてもよい。
その他のジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。
【0078】
その他のジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,4-ジアミノトルエン等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0079】
その他のジアミン化合物としては、例えば以下に示すジアミン化合物が好ましい。
【0080】
【化17】

【0081】
ただし、本開示塗料を用いて得られる絶縁材の耐熱性の向上の観点から、ジアミン化合物としては、アミノ基を除いた部分の構造において、主鎖に直鎖状及び分岐鎖状の脂肪族基並びにスルホニル基を含まない化合物が好ましい。この観点から、ジアミン化合物としては、上記ODA、BAPB、PDA、DAT、及びm-Tolidineがより好ましい。
【0082】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0083】
・ポリエステルイミド前駆体
ポリエステルイミド前駆体について説明する。
ポリエステルイミド前駆体は、エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。なお、分子構造中にフルオレン骨格を有し且つエステル基を有するテトラカルボン酸二無水物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物から選択される少なくと1種を含むモノマーの重合体であることが好ましく、分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物を含むモノマーの重合体であることがより好ましい。
【0084】
テトラカルボン酸二無水物が含有するエステル基の数は、特に限定されないが、1つ以上4つ以下であることが好ましく、2つ以上3つ以下であることがより好ましく、2つであることが更に好ましい。
【0085】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物は、トリカルボン酸無水物及びジオールを反応させて得たものであることが好ましい。
具体的には、例えば、下記式(1)で示されるものであることが好ましい。
【0086】
【化18】
【0087】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立に3価の有機基を示し、Yは2価の有機基を示す。)
【0088】
式中、Xはトリカルボン酸無水物よりカルボキシ基、及び1,3-オキソ-2-オキサプロピレン(-CO-O-CO-)基を除いたその残基であり、Yはジオールから2つのヒドロキシル基を除いたその残基である。
【0089】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、トリカルボン酸無水物としては、例えば、ベンゼントリカルボン酸無水物(1,2,3-ベンゼントリカルボン酸無水物、トリメリット酸無水物[1,2,4-ベンゼントリカルボン酸無水物]等)、ナフタレントリカルボン酸無水物(1,2,4-ナフタレントリカルボン酸無水物、1,4,5-ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3,6-ナフタレントリカルボン酸無水物、1,2,8-ナフタレントリカルボン酸無水物等)、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸無水物、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルスルホントリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0090】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなど
の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコール、等の脂環式ジオール;キシリレングリコール等の芳香族ジオール;2価のアルコールにアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)を付加重合させたポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0091】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジアミン化合物の例示は、既述のものと同一である。
【0092】
・ポリアミドイミド前駆体
ポリアミドイミド前駆体について説明する。
ポリアミドイミド前駆体は、アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。なお、分子構造中にフルオレン骨格を有し且つアミド基を有するテトラカルボン酸二無水物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物から選択される少なくと1種を含むモノマーの重合体であることが好ましく、分子構造中にフルオレン骨格を有するジアミン化合物を含むモノマーの重合体であることがより好ましい。
【0093】
テトラカルボン酸二無水物が含有するアミド基の数は、特に限定されないが、1つ以上4つ以下であることが好ましく、2つ以上3つ以下であることがより好ましく、2つであることが更に好ましい。
【0094】
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジアミン化合物としては、既述のものと同一であることが好ましい。
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物は、トリメリット酸無水物クロライド等のトリカルボン酸無水物の酸塩化物とジアミン化合物とを反応させて得たものであることが好ましい。
具体的には、例えば、下記式(2)で示されるものであることが好ましい。
【0095】
【化19】
【0096】
式(2)中、Xはそれぞれ独立に3価の有機基を示し、Yは2価の有機基を示す。
【0097】
式(2)中、Xはトリカルボン酸無水物よりカルボキシ基、及び1,3-オキソ-2-オキサプロピレン(-CO-O-CO-)基を除いたその残基、又はトリカルボン酸無水物の酸塩化物より-COOCl基、及び1,3-オキソ-2-オキサプロピレン(-CO-O-CO-)基を除いたその残基であり、Yはジイソシアネートから2つのイソシアネート基を除いたその残基、又はジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0098】
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、トリカルボン酸無水物としては、例えば、上述のエステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるトリカルボン酸無水物と同様のものが挙げられる。
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、トリカルボン酸としては、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、トリメリット酸(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)、ナフタレントリカルボン酸(1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,4,5-ナフタレントリカルボン酸、2,3,6-ナフタレントリカルボン酸、1,2,8-ナフタレントリカルボン酸等)、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルスルホントリカルボン酸等が挙げられる。
また、トリカルボン酸無水物の酸塩化物としては、例えば、上述のエステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるトリカルボン酸無水物の酸塩化物が挙げられる。
【0099】
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるジアミン化合物としては、例えば、上述のポリイミド前駆体の合成に用いられるジアミン化合物と同一のものが挙げられる。
【0100】
-ポリイミド系化合物-
ポリイミド系化合物は、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド及び可溶性ポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0101】
ポリイミド系化合物としては、上記ポリイミド系前駆体化合物をイミド化させて得られる化合物が挙げられる。
具体的には、ポリエステルイミドは、ポリエステルイミド前駆体をイミド化させて得られる化合物である。
ポリアミドイミドは、ポリアミドイミド前駆体をイミド化させて得られる化合物、又はジイソシアネート及びトリカルボン酸を重合させて得られる化合物が挙げられる。ポリアミドイミドが、ジイソシアネート及びトリカルボン酸を重合させて得られる化合物である場合、ジイソシアネートとしては既述のアミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるジイソシアネートが使用可能であり、トリカルボン酸としては既述のアミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるトリカルボン酸が使用可能である。
ポリイミドは、ポリイミド前駆体をイミド化させて得られる化合物であり、可溶性ポリイミド以外の化合物である。
【0102】
ここで可溶性ポリイミドとは、下記化合物(A)~化合物(C)であり、25℃の溶剤100gに対して5g以上溶解するものである。
・化合物(A):下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、既述のジアミン化合物とを重合及びイミド化して得られる化合物。
・化合物(B):既述のテトラカルボン酸二無水物と、下記式(4)で表されるジアミン化合物とを重合及びイミド化して得られる化合物。
・化合物(C):下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、下記式(4)で表されるジアミン化合物とを重合及びイミド化して得られる化合物。
ここで、既述のジアミン化合物とは、既述の(・ポリイミド前駆体)の項目において記載したジアミン化合物が適用される。
また、既述のテトラカルボン酸二無水物とは、既述の(・ポリイミド前駆体)の項目において記載したテトラカルボン酸二無水物が適用される。
【0103】
【化20】
【0104】
式(3)中、Lは単結合又は式-O-A-O-であり、単結合または-O-A-O-は、2つのベンゼン環の3,3’位置、3,4’位置、4,3’位置、または4,4’位置にあり、Aは下記式(3-1)~(3-3)で示されるもののうちいずれか1つである。
【0105】
【化21】
【0106】
式(3-1)~(3-3)中、R~R16は、水素原子、ハロゲノ基、又は炭素数1以上4以下の直鎖若しくは分枝の炭化水素基であり、Dは単結合、-O-、-S-、-C(O)-、-SO-、-SO-、又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分枝のアルキレン基であり、*は結合を示す。
【0107】
~R16に含まれるハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられる。
~R16に含まれる炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝の炭化水素基としては、炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝のアルキル基、炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝のアルケニル基、炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝のアルキニル基等が挙げられる。
~R16に含まれる炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝の炭化水素基としては、炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝のアルキル基であることが好ましい。
~R16に含まれる炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
塗料に対する溶解性向上の観点から、R~R16は水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0108】
Dに含まれる炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分枝のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基等が挙げられる。
塗料に対する溶解性向上の観点から、Dは、イソプロピレン基であることが好ましい。
【0109】
式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0110】
【化22】
【0111】
【化23】
【0112】
式(4)中、Mは単結合、-SO-又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分枝のアルキレン基であり、R17~R26のうち2つはアミノ基であり、それ以外は水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲノ基、又は炭素数1以上4以下の直鎖若しくは分枝の炭化水素基である。
【0113】
17~R26に含まれるハロゲノ基、及び炭素数1以上4以下の直鎖又は分枝の炭化水素基としては、上記式(3-1)~(3-3)のR~R16に含まれるものと同一の置換基が挙げられる。
Mに含まれる炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分枝のアルキレン基としては、上記式(3-1)~(3-3)のDに含まれるものと同一の置換基が挙げられる。
塗料に対する溶解性向上の観点から、R17~R26は、2つのアミノ基を含み、かつ、アミノ基以外が、水素原子、及びメチル基であることが好ましい。
塗料に対する溶解性向上の観点から、Mは、単結合、-SO-、メチレン基、又はイソプロピレン基であることが好ましい。
【0114】
式(4)で表されるジアミン化合物の具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0115】
【化24】
【0116】
可溶性ポリイミドは、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
可溶性ポリイミドが当該官能基を含むことで、可溶性ポリイミド同士を架橋させることができ、本開示塗料を用いて絶縁材を形成した場合、絶縁材の絶縁皮膜(すなわち、本開示塗料を電着塗装して塗膜を形成した後、前記塗膜を焼成することで得られる皮膜)の耐溶剤性を向上することができる。
【0117】
アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選択される少なくとも1種を含む可溶性ポリイミドは、例えば、ヒドロキシ基を有する可溶性ポリイミドを合成した後、ヒドロキシ基を有する可溶性ポリイミドと、(メタ)アクリル酸化合物と、をエステル化反応することで得られる。
ここで、ヒドロキシ基を有する可溶性ポリイミドは、例えば、化合物(B)又は化合物(C)のうち、式(4)で表されるジアミン化合物として、式(4B)で表されるジアミン化合物を用いた化合物が挙げられる。
また(メタ)アクリル酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物などが挙げられる。
【0118】
-可溶性ポリイミドの溶解度-
可溶性ポリイミドは、25℃のN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶剤100gに対し、5g以上であることが好ましく、10g以上であることがより好ましく、15g以上であることが更に好ましい。
【0119】
-ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の分子量-
ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量は、5000以上100000以下であることがよく、より好ましくは10000以上70000以下、更に好ましくは20000以上50000以下である。
ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量を5000以上とすることで、形成された皮膜の強度が向上しやすい。一方ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量を100000以下とすると塗料の高粘度化が抑制される。上記範囲とすると、柔軟性などの機械的物性が向上し、絶縁電線、絶縁部品の加工がしやすく、塗料化も容易である。
【0120】
ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される値である。
【0121】
ポリイミド系前駆体化合物又はポリイミド系化合物の含有量は、電着塗装用塗料全体に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0122】
(無機粒子)
本開示塗料は、さらに無機粒子を含有してもよい。
無機粒子は、金属、及び金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子であることが好ましい。
【0123】
金属としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、金、銀、白金、パラジウム、亜鉛、鉄、銅、チタン、マグネシウムなどが挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化銀、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅
、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
なお、金属酸化物は水和物形成しうる場合、金属酸化物はその水和物を含むこととする。例えば、酸化アルミニウムは、酸化アルミニウム1水和物(すなわち、ベーマイトアルミナ)を形成しうるため、酸化アルミニウム1水和物は酸化アルミニウムの1種である。
【0124】
塗膜の厚さの均一性の観点から、無機粒子は、金属酸化物を含む粒子であることが好ましく、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、及び酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子であることがより好ましく、酸化アルミニウムを含む粒子であることが更に好ましい。
【0125】
塗膜の厚さの均一性の観点から、無機粒子の粒径は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、2nm以上40nm以下であることがより好ましく、3nm以上30nm以下であることが更に好ましい。
【0126】
無機粒子の粒径は株式会社堀場製作所製、ナノ粒子解析装置nanoPartica SZ-100により測定する。
以下に無機粒子の粒径の測定手順について具体的に説明する。
無機粒子を含む分散液をその溶媒組成と同じ配合の溶媒で0.01%の濃度に希釈した後、ガラスセルに入れ、粒子径測定を実施する。
【0127】
塗膜の厚さの均一性の観点から、無機粒子のゼータ電位の絶対値は5mV以上であることが好ましく、20mV以上であることがより好ましく、30mV以上であることが更に好ましい。
無機粒子のゼータ電位の絶対値の上限値は特に限定されないが、例えば、110mV以下であってもよい。
【0128】
無機粒子のゼータ電位の絶対値は株式会社堀場製作所製、ナノ粒子解析装置nanoPartica SZ-100により測定する。
以下に無機粒子のゼータ電位の絶対値の測定手順について具体的に説明する。
測定対象とする無機粒子を含む分散液をその溶媒組成と同じ配合の溶媒で0.01%の濃度に希釈し、測定溶液を調製する。測定溶液をガラスセルに入れ、ゼータ電位測定を行う。
【0129】
無機粒子の含有量は、樹脂の含有量に対して、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく2質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0130】
(その他の成分)
本実施形態に係る塗料は、本願発明の効果を妨げない範囲で、公知慣用の種々の塗料用添加剤を含有することができる。塗料用添加剤としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等が挙げられる。
【0131】
(ゼータ電位の絶対値)
本開示塗料のゼータ電位の絶対値は、例えば5mV以上であることが好ましく、塗膜の厚さの均一性の観点から、20mV以上であることがより好ましく、30mV以上、40mV以上、又は50mV以上であることがさらに好ましい。
本開示塗料のゼータ電位の絶対値の上限値は特に限定されないが、例えば、110mV以下であってもよく、5mV以上110mV以下であってもよく、20mV以上90mV
以下であってもよく、30mV以上80mV以下であってもよい。
【0132】
本開示塗料のゼータ電位の絶対値は株式会社堀場製作所製、ナノ粒子解析装置nanoPartica SZ-100により測定する。
以下に本開示塗料のゼータ電位の絶対値の測定手順について具体的に説明する。
測定対象の塗料を、測定対象の塗料に含まれる溶剤と同一組成の溶剤で0.01質量%の濃度に希釈し(すなわち、樹脂及び無機粒子の合計の含有量が、測定溶液全体に対し0.01質量%となる様に希釈する。)測定溶液とした後、ガラスセルに入れ、ゼータ電位測定を実施する。
【0133】
<電着塗装用塗料の製造方法>
本開示に係る電着塗装用塗料の製造方法は、
分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、溶剤Aと、を混合して樹脂混合液を得る工程と、
前記樹脂混合液と、溶剤Bと、を混合する工程と、を含む。
【0134】
なお、さらに、樹脂混合液と、無機粒子と、を混合して第2混合液を得る工程を有していてもよい。
すなわち、分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂と、溶剤Aと、を混合して樹脂混合液(第1混合液)を得る工程(第1工程)と、
樹脂混合液と、無機粒子と、を混合して第2混合液を得る工程(第2工程)と、
前記樹脂混合液と、溶剤Bと、を混合する工程(第3工程)と、を含んでもよい。
【0135】
ここで、第1工程の前に、ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂並びに溶剤Aを含有する溶液を調製する工程(以下、原料溶液調製工程とも称する)を含んでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0136】
(原料溶液調製工程)
原料溶液調製工程は、分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系前駆体化合物、及び分子構造中にフルオレン骨格を有するポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフルオレン含有樹脂、並びに溶剤Aを含有する溶液を調製する工程である。
ここで、ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物は、既述のものと同一である。
溶剤Aは、ポリイミド系前駆体化合物を含む樹脂を含有する本開示塗料を製造する場合、ポリイミド系前駆体化合物を溶解する溶媒であることが好ましい。
また、溶剤Aは、ポリイミド系化合物を含有する樹脂を含有する本開示塗料を製造する場合、ポリイミド系化合物を溶解する溶媒であることが好ましい。
そして、溶剤Aは、ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の両方を溶解する溶媒であることがより好ましい。
ここで、本実施形態において、「溶解する」とは、25℃において、ポリイミド系前駆体化合物又はポリイミド系化合物が溶剤Aに対して90質量%以上の範囲内で溶解することをいう。
溶剤Aは、具体的には、例えば、既述の非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
【0137】
原料溶液中における、ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物の含有量は、原料溶液全体に対して、5質量%以上45質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上40質量%以下とすることがより好ましく、15質量%以上35質量%以下とすることが更に好ましい。
【0138】
原料溶液調製工程の具体的な方法としては、例えば、溶剤A中において、ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂を合成する方法が挙げられる。
【0139】
溶媒Aに対して、テトラカルボン酸二無水物誘導体(既述の「フルオレン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物」「その他のテトラカルボン酸二無水物」、「エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物」、「アミド結合を有するテトラカルボン酸二無水物」及び「式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物」を指す)及びジアミン化合物(既述の「フルオレン骨格を有するジアミン化合物」「その他のジアミン化合物」を指す)を加え、撹拌しながら反応させることでポリイミド系前駆体化合物を合成する。ポリイミド系化合物を合成する場合、上記手順で得られたポリイミド系前駆体化合物を撹拌しながらイミド化させることでポリイミド系化合物を合成する。そして、反応後の溶液を原料溶液とする。
【0140】
原料溶液調製工程の具体的な他の方法としては、例えば、ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を溶剤Aに溶解する方法が挙げられる。
【0141】
(第1工程)
第1工程は、ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂と、溶剤Aと、を混合して第1混合液を得る工程である。
第1工程は、ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂と、溶剤Aと、を混合して、上記樹脂を溶剤A中に溶解させることが好ましい。
【0142】
溶剤Aの添加量は、上記樹脂を溶解することができる量であれば特に限定されないが、ポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂全体の質量に対して、1000質量%以上6000質量%であることが好ましい。
【0143】
(第2工程)
第2工程は、第1混合液と、無機粒子と、を混合して第2混合液を得る工程である。
第2工程は、例えば、第1混合液に対して無機粒子を添加して混合する方法が挙げられる。
無機粒子の添加方法は、特に限定されず、無機粒子単体で添加する方法、無機粒子を含む分散液を添加する方法が挙げられるが、分散性の観点から無機粒子を含む分散液を添加する方法であることが好ましい。
【0144】
無機粒子を含む分散液は、無機粒子と、溶剤A又は後述の溶剤Bと、を含むことが好ましい。
無機粒子を含む分散液全体に対する、無機粒子の含有量は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0145】
無機粒子の添加量は特に限定されず、例えば、第1混合液中の樹脂の含有量に対して、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく2質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0146】
(第3工程)
第3工程は、第2混合液と、溶剤Bと、を混合する工程である。
第3工程は、例えば、第2混合液に対して溶剤Bを滴下しながら混合する方法が挙げられる。
【0147】
溶剤Bは、ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物を溶解しない溶剤であることが好ましい。
ここで本明細書において「溶解しない」とは、25℃において、ポリイミド系前駆体化合物及びポリイミド系化合物が溶剤Bに対して3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
溶剤Bとしては、例えば、既述のエーテル系溶剤、既述のケトン系溶剤、既述のアルコール系溶剤、水等が挙げられる。
【0148】
第2混合液と、溶剤Bと、を混合する方法としては、特に限定されず、公知の撹拌装置等を用いて行うことができる。撹拌装置としては、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディゾルバー等を用いることができる。
【0149】
溶剤Bの添加量は、特に限定されないが、例えば、第2混合液に対し、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、55質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。
【0150】
ここで、溶剤A及び溶剤Bの組み合わせについては既述した具体例に特に限定されない。溶剤Aは製造する電着塗装用塗料に含まれるポリイミド系前駆体化合物又はポリイミド系化合物を溶解する溶剤であり、溶剤Bは製造する電着塗装用塗料に含まれるポリイミド系前駆体化合物又はポリイミド系化合物を溶解しない溶剤であることが好ましい。
例えば、溶剤Bの具体例として水を挙げているが、使用するポリイミド系前駆体化合物又はポリイミド系化合物の種類によっては溶剤Aとなり得る。例えば、製造する電着塗装用塗料に含まれるポリイミド系前駆体化合物又はポリイミド系化合物が水に溶解する場合、溶剤Aは水とし、溶剤Bは水以外の溶剤とすることが好ましい。
【0151】
<絶縁材の製造方法>
本開示に係る絶縁材の製造方法は、電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、前記塗膜を焼成する工程(焼成工程)と、を有することが好ましい。
以下に各工程の詳細について説明する。
【0152】
(塗膜形成工程)
塗膜形成工程は、本開示に係る電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する工程である。
電着塗装の方法は、特に限定されず、公知の電着塗装方法を用いることができる。例えば、被塗物を陽極とし、陰極との間に、1V以上400V以下の電圧を印加して行なうことが好ましい。また、例えば、被塗物を陰極とし、陽極との間に、1V以上400V以下の電圧を印加して行なうことが好ましい。電着塗装時の塗料の温度は、例えば、10℃以上45℃であることが好ましい。
【0153】
被塗物については、特に限定されないが、例えば、板状の導体、棒状の導体、コイル状の導体、不定形の導体等が挙げられる。
被塗物の材質については、電気を通じるものであれば特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマス等の金属、前記金属の合金、カーボン、などが挙げられる。
また、被塗物は、導体の表面にニッケル等のめっきを有するものでもよい。
【0154】
塗膜の膜厚は特に限定されるものではなく、用途や被塗装物の種類に応じて5μm以上100μm以下等の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0155】
図1、電着塗装に用いられる電着装置100の一例を示す。
ステンレス製容器10は、塗料11を収容する。
ステンレス製容器10の上部には、ガラス製容器蓋12が備えられている。
ガラス製容器蓋12を介して、ステンレス製容器10内に管16及び管17が通されており、管16から、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)が吹き込まれ、管17からステンレス製容器10の外へ流出する。
直流電源13は、正極である電界発生用電極14及び負極である被覆用基材15に接続され、各電極の間に電圧を印加する。
【0156】
各電極の間に電圧を印加することで、塗料11に含有されるポリイミド系前駆体化合物、及びポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂(以下、樹脂成分とも称する)及び無機粒子が電気泳動し負極である被覆用基材15に向かい、被覆用基材15表面で樹脂成分及び無機粒子の凝集が起こり、塗膜が形成される。なお、樹脂成分及び無機粒子が正極側に電気泳動する材料である場合には、被覆用基材15を直流電源13のプラスに繋ぎ(つまり被覆用基材15を正極とし)、電界発生用電極14を直流電源13のマイナスに繋ぎ(つまり電界発生用電極14を負極とし)、樹脂成分及び無機粒子を電気泳動させて、正極である被覆用基材15表面に樹脂成分及び無機粒子の塗膜を形成することが好ましい。
【0157】
(焼成工程)
焼成工程は、塗膜形成工程を経て得られた塗膜を焼成する工程である。
焼成工程は、段階的に加熱温度を上げることで行ってもよい。
上記塗膜を段階的に加熱するとは、比較的低温の温度(例えば200℃以下)で塗膜を加熱することで塗膜を乾燥し、その後高温(例えば300℃付近)で乾燥後の塗膜を焼成してもよい。
【0158】
塗膜の乾燥は、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させる方法が挙げられ、製造効率化の観点から、加熱乾燥が好ましい。
加熱乾燥の条件は、塗膜の膜厚等に応じて適宜変更することが好ましいが、例えば、70℃以上200℃以下で、20分間以上300分間以下の条件で乾燥させることが好ましく、20分間以上200分間以下の条件で乾燥させることがより好ましい。
【0159】
乾燥後の塗膜の焼成は、150℃以上400℃以下(好ましくは300℃付近)で、20分間以上120分間以下焼成することが挙げられる。
ポリイミド系前駆体化合物を含有する電着塗装用塗料を用いて塗膜を得た場合、当該焼成によりイミド化を進行させることが好ましい。
焼成は、段階的に昇温させて行ってもよい。
焼成における加熱方法は、ヒーター加熱、熱風加熱、誘電加熱などが挙げられる。
【0160】
以上の工程を経て、絶縁材が製造されることが好ましい。
なお、上記工程を経て製造される絶縁材は、フルオレン骨格を含むポリイミド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことにより、耐熱性に優れる。
【0161】
上記製造方法で得られる絶縁材は、例えば、絶縁電線、絶縁部品、移動通信機器(第5世代(5G)を含む)、フィルムなどの用途に適用できる。
【実施例0162】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0163】
<実施例1>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた1Lの3つ口セパラブルフラスコに、表1に記載の種類及び量(mol)のジアミン化合物、及び溶剤AとしてNMP(ポリイミド系前駆体化合物が20.0質量%濃度となる量)を仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、表1に記載の種類及び量(mol)の酸成分(テトラカルボン酸二無水物)を徐々に添加し撹拌、20.0質量%濃度(ポリイミド前駆体を含む溶液全体に対する、ポリイミド系前駆体化合物の含有量が20質量%。以下同様とする)のポリイミド前駆体を含む溶液を得た。
【0164】
(電着塗装用塗料の調製)
ポリイミド前駆体を含む溶液20gに溶剤AとしてNMP80gを入れ希釈した(第1工程)。次いで、激しく撹拌しながら、無機粒子を含む分散液としてベーマイトアルミナA10(酸化アルミニウム1水和物を含む無機粒子及び溶剤AであるNMPを含む。無機粒子の含有量は、分散液全体に対して、10質量%である。)7.06gを滴下し(第2工程)、次いで溶剤Bとしてメタノール180gを滴下し(第3工程)、電着塗装用塗料を得た。
【0165】
<実施例2~14、比較例1、5>
用いるジアミン化合物及び酸成分(テトラカルボン酸二無水物)を、表1~表4に記載の種類及び量(mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を含む溶液を調製し、且つ電着塗装用塗料を得た。
【0166】
<実施例15>
撹拌機と温度計を備えた1Lの3つ口セパラブルフラスコに、表3に記載の種類及び量(mol)のジアミン化合物、及び溶剤AとしてNMP(可溶性ポリイミドが20.0質量%濃度となる量)を仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、表3に記載の種類及び量(mol)の酸成分(テトラカルボン酸二無水物)を徐々に添加し撹拌、十分に撹拌を継続した後、メタクリル酸無水物1.5モル(231g)及びピリジン119gを加え、反応容器に光が入らないよう遮光した後、更に撹拌を継続した。その後、メタノールを用いて2回再沈殿し、沈殿を回収及び乾燥させ、メタクリロイル基を有する可溶性ポリイミドを得た。
【0167】
メタクリロイル基を有する可溶性ポリイミド4g及び溶剤AとしてNMP180gを混合し、メタクリロイル基を有する可溶性ポリイミドを溶解した(第1工程)。次いで、激しく撹拌しながら無機粒子を含む分散液としてベーマイトアルミナA10を7.06g滴下し(第2工程)、次いで溶剤Bとしてメタノール180gを滴下し(第3工程)、電着塗装用塗料を得た。
【0168】
<比較例2~4>
用いるジアミン化合物及び酸成分(テトラカルボン酸二無水物)を、表4に記載の種類及び量(mol)に変更したこと以外は、実施例15と同様にして、メタクリロイル基を有する可溶性ポリイミドを調製し、且つ電着塗装用塗料を得た。
【0169】
<電着塗装>
(電着及び乾燥・焼成)
図1の電着装置を使用し、各例で得られた電着塗装用塗料を用いて、電着塗装を施した。被塗物(陰極電極)には幅10mm、厚さ1mm、角部Rが0.1mmの無酸素銅を用いた。窒素を流入させながらDC250Vを5分印加し、電着膜を形成した。被塗物を恒温槽によって120℃前後で溶媒を乾燥させた後、段階的に昇温させ、最終的に300℃で10分間焼成を行い、絶縁皮膜を施した被塗物(以下、絶縁材)を作製した。
【0170】
<評価>
(電着塗装用塗料の外観)
各例で得られた電着塗装用塗料を目視にて確認し、電着塗装用塗料に含まれる成分が均一に近い状態で分散しているか否かを評価した。
表中、電着塗装用塗料に含まれる成分が均一に近い状態で分散している場合、「分散」と記載する。
一方、電着塗装用塗料中に凝集物が生じている場合は「凝集」と記載する。
【0171】
(電着塗装用塗料の保存性)
各例で得られた電着塗装用塗料を5℃で保管し、一定時間経過毎に電着塗装用塗料を取り出して、上記(電着及び乾燥・焼成)と同一の条件で、絶縁材を作製した。作製した絶縁材を用いて、後述の(絶縁破壊試験)を行い、破壊電圧値が初期値の50%以下になった時点の保管時間を測定した。
【0172】
(絶縁皮膜の外観)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の絶縁皮膜を目視にて確認し、絶縁皮膜の表面平滑性を評価した。
表中、絶縁皮膜の表面が平滑な場合、「良好」と記載する。
一方、絶縁皮膜の表面に凸凹が多数生じている場合は「不良」と記載する。
【0173】
(皮膜厚)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の厚さ方向及び幅方向の外径を任意に3点ずつ測定した。絶縁材の厚さ方向の外径の算術平均値及び絶縁材の幅方向の外径の算術平均値を算出する。そして、絶縁材の厚さ方向の外径の算術平均値から、絶縁材に含まれる被塗物(陽極電極)の厚さ方向の径を減ずることで、厚さ方向の皮膜厚を算出した(表中「厚(mm)」と記載する)。また、絶縁材の幅方向の外径の算術平均値から、絶縁材に含まれる被塗物(陽極電極)の幅方向の径を減ずることで、幅方向の皮膜厚を算出した(表中「幅(mm)」と記載する)。
また、塗膜の膜厚の算術平均を算出する際に測定した絶縁材の絶縁皮膜の膜厚のうち、最も小さい値を最薄部厚さとした(表中「最薄部厚さ」と記載する)。
ここで、塗膜の幅及び膜厚の測定はマイクロメータを用いて行った。
【0174】
(可とう性)
直径5mmの円筒形マンドレルに沿って、各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の90度曲げを行い、拡大鏡にて絶縁皮膜の亀裂の有無を確認した。亀裂が確認されなかった場合を「合格」とし、亀裂が確認された場合「不合格」とする。
【0175】
(耐電圧試験)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の外周に、10mm幅の金属箔を密着させて巻き、絶縁材と金属箔との間にAC2000Vrms,50Hzの電圧を10秒間印加し、漏れ電流が5mA未満で「合格」とし、漏れ電流が5mA以上で「不合格」とした。
【0176】
(絶縁破壊試験)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の外周に、10mm幅の金属箔を密着させて巻き、絶縁材と金属箔との間に正弦波(50Hz)の電圧を印加、約500V/秒で昇圧し、漏れ電流が5mA以上になった時の電圧を破壊電圧とした。
【0177】
(耐熱劣化性試験)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の絶縁皮膜に対し、300℃で500時間の加熱処理を施した。次いで、加熱処理後の絶縁皮膜に、後述の(フィルム伸び試験)を行い、フィルム伸び(%)が初期値に対して50%以上になったものを「合格」とし、50%未満になったものを「不合格」とした。
【0178】
(5%質量減少温度)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の絶縁皮膜を剥離し、島津製作所製DTG-60Hを用いてTG-DTA測定を実施した。絶縁皮膜の質量が5質量%減少する温度が500℃以上である場合を「合格」とし、500℃未満である場合を「不合格」とした。
【0179】
(フィルム伸び試験)
各例で得られた電着塗装用塗料を用いて作製した絶縁材の絶縁皮膜に、鋭利な刃で幅5mmの切込みを入れ、端面からピンセットで引き剥がして、約100mmのフィルム片として切り出した。チャック長50mmでフィルム片の引張試験を実施し、フィルム片が破断するまでのフィルムの伸び率を測定した。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
【0182】
【表3】
【0183】
【表4】
【0184】
以下に表1~表4の記載について説明する。
・樹脂:電着塗装用塗料の作製の際に使用した、ジアミン化合物、ジイソシアネート、及びテトラカルボン酸二無水物の種類並びに添加量(単位はモル)を表す。さらに、電着塗装用塗料の作製の際に使用したメタクリル酸無水物の添加量(単位はモル)を表す。なお、樹脂として市販品のものを使用した場合、製品名を記載する。
・良溶剤:電着塗装用塗料に含まれる溶剤Aの種類を示す。
・貧溶剤:電着塗装用塗料に含まれる溶剤Bの種類を示す。
・樹脂の種類:電着塗装用塗料に含まれる樹脂の種類を示す。
・無機粒子:電着塗装用塗料に含まれる無機粒子の種類を示す。ベーマイトアルミナは酸化アルミニウムを含む粒子であり、シリカは酸化ケイ素を含む粒子である。
【0185】
上記結果から、実施例の電着塗装用塗料は、比較例の電着塗装用塗料と比較して、溶媒への溶解性に優れ、且つ耐熱性に優れた絶縁材が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0186】
10 ステンレス製容器
11 塗料
12 ガラス製容器蓋
13 直流電源
14 電界発生用電極
15 被覆用基材
16、17 管
100 電着装置
図1