(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161860
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】単一電極縦型ゲートマルチフレーミング撮像素子
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20241113BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20241113BHJP
H04N 25/70 20230101ALI20241113BHJP
【FI】
H01L27/146 A
H01L31/10 A
H04N25/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076972
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】500206733
【氏名又は名称】武藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】江藤 剛治
(72)【発明者】
【氏名】武藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】シャルボン エドアルド
【テーマコード(参考)】
4M118
5C024
5F149
【Fターム(参考)】
4M118AA10
4M118AB01
4M118BA09
4M118BA19
4M118CA01
4M118CA20
4M118CB01
4M118CB13
4M118FA33
4M118FA38
4M118HA24
4M118HA25
5C024GX02
5F149AB02
5F149AB07
5F149BA03
5F149BA05
5F149BA30
5F149BB03
5F149DA44
5F149EA04
5F149EA18
5F149EA20
5F149LA01
5F149LA02
5F149XB01
5F149XB15
5F149XB18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】画素内という限られた面積の中にできるだけ多くの転送手段と保存手段の組を作り込み、連続撮影枚数を大きくする撮影装置及び個体撮像素子を提供する。
【解決手段】ブランチングイメージセンサは、各画素の画素中心に光電変換手段100を備える。光電変換手段で生起した信号電子を実質的に放射方向に転送する3個以上の転送手段101と、各転送手段に接続する画像信号保存手段102と、を備える。転送手段を順次オンにすることにより、画素内の光電変換手段から隣接する転送手段を信号電子が通過するという極めて短い時間間隔で連続画像を撮影できる。光電変換手段の周囲に、縦型の電極1個を備える転送手段を等間隔で配置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスと、
入射電磁波または入射荷電粒子を前記の半導体デバイスの上に集光する手段と、
前記の半導体デバイスを制御する手段と、
前記の半導体デバイスから出力される信号を処理する手段とを備える撮影装置であって、
ここに、前記の半導体デバイスは、
M行N列(ここにMおよびNは正の整数)の光感受性ユニットを備え、
前記の光感受性ユニットの各々は、
(1) 前記の入射電磁波または前記の入射荷電粒子をJ個(ここにJは整数)の電荷に変換する光電変換デバイスと、
(2) m個(ここにmは3以上)のサブユニットを備え、
前記のサブユニットは前記の電荷を順に選択的に収集して転送する少なくとも1個の転送デバイスと、
収集した電荷を一旦蓄積する保存デバイスと、前記の保存デバイスに蓄積された電荷の数を電圧に換算する電圧変換デバイスとを備え、
前記の入射電磁波または前記の入射荷電粒子の平均的入射方向を垂直方向と呼び、前記の垂直方向に実質的に直交し、かつ前記の光電変換デバイスから遠ざかる方向を放射方向と呼ぶとき、
前記のm個のサブユニットの前記の収集デバイスは、前記の光電変換デバイスから実質的に等距離に位置するとともに、
前記の収集デバイスの各々は、実質的に垂直方向に延在する部分を備える単一の電極を備えることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載の撮影装置であって、前記の電極から前記の電荷を遠ざける手段を備えることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2に記載の撮影装置であって、前記の電極から前記の電荷を遠ざける手段が前記の電極の周辺の酸化膜の周辺の半導体層に注入された3型もしくは5型のイオンである。
【請求項4】
請求項2に記載の撮影装置であって、前記の電極から前記の電荷を遠ざける手段が前記の電極の周辺の酸化膜に隣接する酸化アルミニウム層もしくは酸化ハフニウム層である。
【請求項5】
請求項1に記載の撮影装置であって、前記の光電変換デバイスの中央部に、前記の光電変換デバイスと実質的に相似の平面形状で、前記の光電変換デバイスより小サイズの3型もしくは5型のイオンの注入領域を備える。
【請求項6】
請求項1に記載の単一の電極の垂直方向の長さが、実質的に請求項1に記載の光電変換デバイスの垂直方向の長さに等しい。
【請求項7】
請求項1に記載の単一の電極の垂直方向の長さが、実質的に請求項1に記載の電圧に換算するデバイスの垂直方向の長さに等しい。
【請求項8】
請求項1に記載の光電変換デバイスが実質的にゲルマニウムを主成分とする半導体から成るとともに、保存デバイスが実質的にシリコンを主成分とする半導体から成る。
【請求項9】
請求項1に記載の光電変換デバイスが実質的にInGaAsから成るとともに、保存デバイスが実質的にInPから成る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許は複数枚の画像をナノ秒以下の時間分解能で連続撮影する固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
【ブランチングイメージセンサ】
【0003】
特許文献1、特許文献2、及び非特許文献1には超高速マルチフレーミングイメージセンサが開示されている。
図1はこのセンサの画素の回路拡散層の構造と配線を示す。
この構造では、画素中心に、光電変換手段100と、入射光で生成した信号電荷を収集するとともに放射方向に画像信号を順次転送するという2つの機能を備える8個の転送手段184と、一旦、画素内で8枚の画像信号をその場保存する保存手段102と、撮影後、保存された画像信号を画素外に読み出す読出し手段103とを備えている。
【0004】
図2は、
図1の画素の基本的な機能が明確にわかるように、
図1の画素をモデル化して示したものである。
【0005】
図1の画素に対して、8方向への画像信号の転送に伴う混合(クロスストーク)を低減するために、
図2では画素の中央に電荷収集手段179を置き、電荷の収集機能と、転送手段101による画像信号の転送機能とを分離して示している。
【0006】
図3aは、
図2の画素の断面の概念図を示している。以下、断面図では、光は上方から入射するものとする。回路拡散層178の上に光電変換手段となるフォトダイオード(以下、「PD」と記す)100が乘っている。ただし、PDの下部と回路拡散層の中央部の電荷収集手段179は信号電荷の生成と収集の2つの機能を共有する領域となっている。以後、この構造の画素を備えるイメージセンサモデルを「2階型」と呼ぶことにする。
【0007】
図3bは逆2階型を示している。すなわち、光電変換手段を下部に、回路拡散層を受光面側である上部に配置している。旧来のイメージセンサは逆2階型である。
【0008】
最近のイメージセンサでは、センサチップの下に、高機能化のための接合チップを接合した接合型イメージセンサが使われている。
【0009】
図3には接合チップ部分は示していないが、
図20にその例を示している。この場合は
図3aに示すように、下部に回路拡散層を作り込む方が接合チップとの電気的接合が容易である。
【0010】
接合チップ上には、読出し回路の後段、例えば
図1のソースフォロア回路136や、特許文献3、特許文献4に示す画素レベルのデジタル化回路、追加のアナログメモリ、デジタルメモリ等が置かれる。
【0011】
特に本発明の目的である超高速イメージセンサの場合は、ドライバ回路を各画素に近接して置くことが望まれる。従って、本発明では、基本的にはドライバ回路も載せた接合チップを接合した
図3aの構造のセンサチップを備える接合型イメージセンサを想定している。
【0012】
この場合は、複数の機能をセンサチップと接合チップに分散させて配置する。従って構造図がやや複雑になる。
【0013】
基本的機能を確認するためのテストセンサの試作等では、受光面側からのプロセスで実現でき、接合の必要のない逆2階型を用いる方が良い場合もある。
【0014】
従って、シミュレーションや試作による予備的検討では、適宜、
図3bまたは
図3cで示す逆2階型を用いる。
【0015】
図2の構造により、連続8枚分の画像信号を、光電変換手段から画素内の保存手段に転送するために必要な極めて短い時間間隔で記録することができる。また、読出しは十分低速で行うことができるので、読出しノイズを下げて、超高速撮影による入射光不足に対しても、認識可能な画像を得ることができる。
【0016】
図2では電荷収集手段から画像信号を8方向に分岐して転送している。これを第1段の転送とし、第2段の転送路でさらに2方向に分岐して、16枚連続撮影する構造としても良い。
【0017】
従って、非特許文献2では、このような画素構造を備えるイメージセンサを「ブランチングイメージセンサ」と呼んでいる。
【0018】
非特許文献3には
図4に示す固体撮像素子の1画素の回路拡散層104が開示されている。
【0019】
図5は、
図4の各画素の断面の概念図を示している。以下ではこのブランチングイメージセンサの構造を「平屋型」と呼ぶことにする。
【0020】
平屋型の特徴は、回路拡散層と同一水平面内に、光電変換手段105と光電変換手段から実質的に放射方向に延びる転送手段106を備えていること、および各転送手段106が、断面と並行で画素中心から実質的に放射方向に延在する2個の縦型電極対108を備える縦型ゲートで作られていることである。
【0021】
一対の縦型電極対の間には、信号電荷が水平方向に通過する水平転送路109が置かれている。さらに画像信号を一旦保存する保存手段107から画素外もしくは接合チップ上へ画像信号を転送するための読出し手段110を備える。
【0022】
図5aから
図5cに示すように、画像信号の保存手段と読出し手段を回路拡散層の底部(
図5a)、中央(
図5b)、受光面側(
図5c)のどの深さに置くかは目的によって変わる。
【0023】
保存手段と読出し手段が受光面側にある場合(
図5c)は、受光面側から大部分のプロセスができるので、プロセスが比較的容易である。底部にある場合(
図5a)は読出し手段の後段を接合チップ上に作る場合に好適である。中断にある場合(
図5b)は保存手段やFDから接合チップに画像信号を転送する場合のように、信号電荷が転送手段を通過した後の信号転送を高速化する場合に好適である。
【0024】
一方、
図5dでは保存手段は実質的に回路拡散層の全深さにわたって縦長の柱状に分布している。
【0025】
図5dでは保存手段がフローティングディフュージョン(FD)を兼ねている。また
図5dの場合はFDが回路拡散層の深さにわたって分布していることを特徴とする。FDの容量が大きくなるので少数の電子の検出には不向きであるが撮影速度の向上に寄与する。
【0026】
図3a、
図3b,
図5aから
図5cは典型的な例であり、その中間型、もしくは変形型もある。例えば、
図3cは逆2階型で、縦型の転送手段106を備える。
【0027】
以下では信号電荷を電子とし、ホールは電子と逆方向に転送されて画素外、さらにはセンサ外に連続的に排除されるものとする。逆にホールを信号電荷としても良い。ただしこの場合は半導体構造についての今後の説明で、実質的に、n型とp型を入れ替え、電圧の極性を反転させて解釈するものとする。
【0028】
図1から
図5までの図で説明したブランチングイメージセンサにおいて、転送手段の数をK個(K≧3)とする。そのうちの1個の転送手段の電極(以下、「転送電極」と呼ぶ)には他の電極より高い電圧VHが、他の転送電極には低い電圧VLが加えられる。VHは撮影時間分解能の時間間隔で、順次、他の転送電極に加えられる。
【0029】
図6には、
図4の平面構造で、
図5dに示す平屋型に対するポテンシャル(電位)のシミュレーション例を示している。画素サイズは1μm、縦型電極は受光面から2.5μmの深さまでに配置している。FDも0μmから2.5μmまで縦方向に分布する棒状である。また、VL=0V、VH=3.3Vである。
【0030】
図1から
図3までの2階型において、光電変換手段100に入射した光により、深さ方向にわたって実質的に瞬間的に生じた信号電子は、光電変換手段内を垂直方向に転送された後、回路拡散層178の中央エリアからVHを加えられた転送手段により、隣接する保存手段に転送される。
【0031】
K個の転送路に順次VHを加えることでK枚分の画像信号が保存される。
【0032】
2階型でも平屋型でも、一旦、電極にVHがかけられたk番目の転送手段の外部に転送された電子は、直後にこの電極の電圧がVLになり、他の1個の転送手段の電極電圧がVHに変わるので、k番目の転送手段から光電変換手段に戻ることはできない。
【0033】
従って、
図3の2階型画素を備えるイメージセンサの最小時間分解能は、実質的に、信号電子が光電変換手段の上下端を移動するために必要な時間Δtmvで規定される。
【0034】
図5の平屋型画素では、最小時間分解能は、実質的に、信号電子が光電変換手段の中を水平方向の一端から逆の端まで通過するために必要な時間Δtmhで規定される。
【0035】
ΔtmvもΔtmhも、電子の転送方向の(距離/速度)で規定される。
【0036】
超高速撮影を目的とする場合は、電子の転送方向の速度は可能な範囲で大きい方が良い。
【0037】
図7aに、真性シリコンの電界Eとドリフト速度Vの関係111を示す。
図7aには真性ゲルマニウムに対する電界とドリフト速度の関係112も併記している。図に示すように、飽和ドリフト速度の95%を飽和ドリフト速度Vsと定義する。またVsに対する電界を飽和電界Esと定義する。
【0038】
以下、真性半導体であることが自明の文脈では、「真性」を省略して表記する。
【0039】
図7bにはシリコンとゲルマニウムの電界に対する拡散係数Dを示している。拡散係数は電界が小さいほど大きい。
【0040】
図8にシリコンの入射光の波長に対する吸収係数(平均透過深さの逆数)113を示す。またゲルマニウムの吸収係数114も併記している。
【0041】
最高撮影速度、すなわち最短の時間分解能を実現するには電界を可能な範囲でEsに近づけ、電子の移動距離を最小にすればよい。ある構造で可能な最小距離をLsとすると、最短時間分解能はLs/Vsで代表される値になる。
【0042】
このとき光電変換手段の両端の電位差は実質的にEs×Lsである。
【0043】
2階型では最小距離Lsは基本的には光の垂直方向の平均到達深さLsvで規定される。
【0044】
平屋型では信号電子の転送距離は、信号電子が光電変換手段内を水平運動するに要する時間で代表される。対応する最小距離、すなわち光電変換手段の最小口径は基本的には光の回折限界Lshで規定される。
【0045】
シリコン光電変換手段ではVsは
図7aより0.091μm/psである。
図8より、Lsvは可視光の標準的な波長として採用されることが多い波長550nmの緑色光に対して1.74μmである。
【0046】
従って2階型の場合の最小時間分解能はLsv/Vs=(1.74/0.091)=19.1psのオーダーとなる。
【0047】
ただし、非特許文献4に示す通り、入射光強度が光電変換手段内で深さ方向に指数分布すること、2つの信号電荷の時間分布を加えた分布の頂点の凹部が平坦になって理論的に2つの分布の分離が不可能となる条件を時間分解能の定義に採用すること、等を用いた厳密な解析では、2階型に対する時間分解能は11.1psである。
【0048】
以下の解析ではオーダー的な比較をするので、わかり易い指標であるLsv/Vsを2階型に対する時間分解能の代表値とする。
【0049】
次に平屋型の場合を考える。550nmの可視光の回折限界は0.25μm程度である。この場合は回折限界が代表的な空間サイズLshとなる。従って平屋型の場合の最小時間分解能はLsh/Vs=(0.25/0.091)=2.75psのオーダーとなり、2階型の場合の19.1psの1/7に相当する。
【0050】
以上より、シリコン光電変換手段に対して原理的には平屋型の方が1桁程度速い速度での連続撮影ができる。
【固定電荷層】
【0051】
シリコン結晶と酸化シリコン絶縁層の間にはダングリングボンドを代表とする界面の結晶欠陥層が形成され、信号電子のトラップや暗電流の原因になる。
【0052】
イメージセンサでは一般的に、これを防止するためにまず水素アニーリングによりダングリングボンドの終端化を行う。
【0053】
また界面に負の電荷を付与して負の電荷を持つ電子の反発確率を高める。このための技術として、界面近傍にボロンを注入して拡散させる技術が使われてきた。
【0054】
最近では、絶縁層に並行に酸化アルミニウムや酸化ハフニウム等の固定電荷を備える薄層を形成する技術も使われている。
【ゲルマニウム光電変換手段】
【0055】
ゲルマニウムは近赤外領域の光電変換手段として良く使われる。また
図8に示すように、可視光域での吸収係数はシリコンの数10倍である。従ってゲルマニウムを用いて可視光を撮影する場合には光電変換手段の厚さは100nmで十分である。
【0056】
一方、
図7に示すように、ゲルマニウム中ではシリコンの数分の1の電界でシリコンと同程度のドリフト速度を達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特許6188679号、固体撮像装置、特願2014―502360
【特許文献2】US9503663B2, SOLID-STATE IMAGING APPARATUS, Filed on August 25, 2014, Date of Patent, November 22, 2016.
【特許文献3】特願2016-63530、高感度高速固体撮像素子および装置
【特許文献4】特願2020―155754、高速撮像手段
【非特許文献】
【0058】
【非特許文献1】T. G. Etoh, et al., Toward One Giga Frames per Second-Evolution of in Situ Storage Image sensors, Sensors, vol.13, No.4, Sensors, 4640-4658, 2013.
【非特許文献2】H. N. Nguyan, et al., A Pixel Design of a Branching Ultra-Highspeed Image Sensor, Sensors, vol.21, No.7, 2506, 2021.
【非特許文献3】武藤秀樹, 映像情報メディア学会技術報告, vol.46, No.14, IST2022-14, 17-20, 2022.
【非特許文献4】T. G. Etoh, et al., The Theoretical Highest Frame Rate of Silicon Image Sensors, Sensors, vol.17, No.3, 483, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0059】
ブランチングイメージセンサの最大の課題は、撮影枚数が転送手段もしくは保存手段の数と同じで、連続撮影枚数が少ないことである。
【0060】
ブランチングイメージセンサの最大の効果は非常に短い時間間隔で連続画像を撮影できることである。
【0061】
ブランチングイメージセンサの転送手段を、非特許文献3で提案された縦型ゲートを用いた平屋型にすることにより、特許文献1から4で使われている平面型のゲートを用いる2階型ブランチングイメージセンサに比べて、原理的に、時間分解能をさらに数分の1にすることができる。本発明ではこの効果を活かしつつ、ブランチングイメージセンサの課題である撮影枚数を大きくすることが目的である。
【0062】
さらに新たな技術を導入してさらなる高速化を図ることも課題である。
【0063】
まず撮影枚数の制限要因について説明する。
【0064】
非特許文献3で開示された
図4の2電極から成る転送手段を備えるブランチングイメージセンサ構造であると、中央の光電変換手段105からK(
図4ではK=16)方向に順次信号電子を転送するには、各転送手段106の転送路109の両側に2K個の垂直転送電極108を必要とする。
【0065】
またk番目(ここにk≦K―1)の転送手段の電極電圧がVHのとき、(k+1)番目と(k―1)番目の転送手段の電極電圧はVLである。
【0066】
このとき、k番目の転送手段の2個の電極の1個とそれに隣接する転送手段の電極の間には高い電界と電気容量が生じるので、これらの電極間の絶縁層115については、原理的に、電界とRC遅れの緩和に必要な厚さが必要である。
【0067】
この絶縁層を実際に作るにはプロセス上の大きな課題がある。まず2つの縦型電極を作るためのスリットを作る必要がある。深い平行のスリットを近接して作ることは難しい。このために必要なスリット間隔は電界とRC遅れの緩和に必要な絶縁層厚さよりもはるかに広い。
【0068】
電極数がKの2倍であることと、K個の広い絶縁層が必要であるため、光電変換手段の同一の周長に対して、これらに必要な総スペースを差し引くと、実際に信号電荷を転送する転送路109に割り当て可能なスペースは2/3から1/2になり、同じ光電変換手段のサイズに対して組み込める転送手段数、すなわち連続撮影枚数が大きく制限される。
【0069】
撮影速度が問題にならないならば、接合したチップ上に追加メモリーを作れば良い。ある程度の撮影速度を保ちながら連続して接合チップ上に画像信号を転送するには新たな発明を加える必要である。
【0070】
ブランチングイメージセンサの撮影枚数は実質的に転送手段の数である。このとき時間分解能は、信号電子が転送手段に到達するまでの時間となる。この場合は、信号電子が転送手段を通過した後の保存手段やFDの駆動速度は撮影速度に関係しない。
【0071】
ただし、センサチップから、接合チップ上の追加の画像信号保存手段に画像信号を送る場合は、センサチップ上の画像信号保存手段やFDから、できるだけ短時間で画像信号を送ることで撮影速度の低下を最小限に抑え、撮影枚数を増やすことができる。
【0072】
次に縦型転送手段による高速化に加えてさらなる高速化を行う技術について説明する。電子の移動時間は始点と終点の間の電位形状にも依存する。半導体上の電子のドリフト速度は飽和ドリフト速度に近づくまでは電界に比例する。この場合、異なる電位の2点間を移動する電子の到達時間を最小化するには最小電界を最大化すれば良い。このためには2点間の電界を一定にする。すなわち、電位をできるだけ直線化する。
【0073】
拡散係数は電界が小さいと大きくなる。この効果を入れても直線勾配が厳密に最小時間を与えるかどうかは未検討である。しかし、シミュレーションに基づく経験では、始点と終点の電位が与えられるとき、電界を直線化することで転送時間を短縮するという方針は実質的に正しい。
【0074】
また、光電変換材料等を代えることで光電変換手段や回路拡散層の厚さを薄くすることができれば、縦型転送手段のために必要なスリットの形成が容易になるとともに、転送時間の低減によるさらなる高速化が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0075】
各画素が1個の光電変換手段と、その周りに光電変換手段から実質的に放射方向に配置された3個以上の転送手段を備えるブランチングイメージセンサであって、前記の転送手段の各々が1個の縦型電極を備えることを特徴とする。
【0076】
また前記の縦型電極の周辺に、前記の電荷に対して反発力を生成する手段を備える。
【0077】
また縦型転送電極の数がK(K≧3)個であるとき、その内のK-1個に実質的に同じ電圧を加え、1個に異なる電圧を加えるとき、光電変換手段の信号電子の転送経路に沿う電位を直線に近づける手段を備える。
【0078】
前記の転送経路に沿う電位の直線化の手段が、平面的に見て、実質的に光電変換手段の中央部にあって、前記の光電変換手段の面積より実質的に狭い領域に3型もしくは5型原子を注入して成る層である。
【0079】
また光電変換手段と転送手段が実質的に同一平面内にある。
【0080】
また回路構成上、光電変換手段から見て転送手段より遠い距離に位置する電荷の保存手段、もしくは保存された電荷数を電圧に変換する手段が、実質的に光電変換手段と転送手段と同じ平面内にある
【0081】
光電変換層がゲルマニウムで、保存手段がシリコンである。
【0082】
光電変換手段がInGaAs保存手段がInPである。
【発明の効果】
【0083】
単純化したモデルに対するシミュレーション結果を用いて、上記の諸課題を解決する手段の効果を示す。
【0084】
ブランチングイメージセンサでは連続撮影枚数が少ないことが大きな課題であるが、縦型転送電極を1枚にすることにより、撮影枚数を大きく増やすことができる。ただし、1枚の縦型電極で信号電荷を転送する上で付随する課題がないか確認しておく必要がある。シミュレーションでは、効果の他に、これらの課題の有無についても検討しておく。
【0085】
またその条件下でさらなる高速化が可能であればより大きな効果がある。
【0086】
図9aに本発明の効果を説明するための画素モデルの平面形状を示す。断面形状は
図3cに示した逆2階型である。各転送手段の縦型転送電極が1枚で、信号電荷の転送路がその両側であることが本例の特徴である。
【0087】
図9に示す画素モデルでは、本発明の効果と直接的な関係のない回路要素や構造はできるだけ省略して単純化している。
【0088】
例えば、
図9のモデルではFDは保存手段を兼用している。また、
図1に示す読出し手段の後半であるソースフォロア回路132は接合チップ上に作ることができるので
図9には記載していない。
【0089】
ただし、接合型イメージセンサとする場合は、センサチップの構造は
図3cを上下に反転した構造となる。
【0090】
図9aの各画素は実質的に最も転送手段数の少ないブランチングイメージセンサ形状である正方形の光電変換手段116と4個の縦型転送手段117、123と、各転送手段に接続する4個のFD118、および画素分離のためのp層119を備える。
【0091】
各転送手段は単一の縦型転送電極120、121を備える。また信号電子は、各電極の両サイドの転送路122を経由してFDに至る。
【0092】
図9bは、
図9aから本発明の効果を説明するために必要な回路要素だけを残してさらに単純化したものである。
【0093】
図9bでは、
図9aの4個の縦型転送手段のうちVLがかけられる3個の縦型転送手段123で生じる相対的に低い電位の生成を、画素分離のためのp型注入119による電位の生成で代替している。
図9aと
図9bの構造に対する光電変換手段内のポテンシャル分布に実質的な差はない。
【0094】
図13は、
図9bの簡略化された平面図に対する断面のポテンシャルの例(
図12の平面ポテンシャルに対応)を示している。
図9aに対する断面構造は
図3cであるが、
図9bでは、転送手段117の対角方向にある転送手段123はp-wellで代替されているので、
図13の断面図では、
図3cの両側に記載されている2つの縦型転送ゲートのうちの片側は省略された形となっている。
【0095】
画素サイズは1μmである。縦型電極の深さは0.55μmまでである。
図9bの構造に対して、イオン注入のマスクを変えたシミュレーション例を示す。
【0096】
【0097】
【0098】
図11b、
図12bで、転送ゲート部に横拡散したボロン層124は縦型エッチング後に、エッチングで生じたスリットの側面に熱拡散によりボロンを注入して形成する。その後、スリットをポリシリコンで埋め、電極120とする。マスクは使わないので
図11a、
図12aには側面ボロンは現れていない。
【0099】
図12bの中央のボロン層126は受光面側から
図12aに示す長方形マスク125を使って注入している。端部ではボロンが拡散するので
図12bの濃度分布126は長楕円形になっている。
【0100】
【0101】
図13からわかるように、ボロン層126の深さ方向の分布の中心は、受光面側から約0.4μmである。
【0102】
図11cでは、
図11bにおける電極周辺のボロン注入領域124のため、出口の電位が下がって中央付近で電位等高線127が広がっている。これは転送時間の遅れの原因となる。
【0103】
図12cでは中央部のボロン注入126で、中央部の電位も底上げされ、中央部の電位等高線間隔128が一様化されている。すなわち電位が下流に向かって直線に近い分布となっている。
【0104】
図14は、縦型転送手段を全てVLにして、PD内に置いた電子群が、縦型転送手段の1個をVHにした直後からのPD内の残存電子数の時間的変化を示す。
【0105】
曲線181、182、183は、
図10、
図11、
図12の3ケースに対する経過時間と残存電子数との関係を示す。電位等高線から予想された通り、残存電子数の減少速度は183<181<182の順になっている。曲線183では残存電子数が1/10に下がるのに必要な時間は16psである。
【0106】
時間分解能の定義では、FWHM(Full Width at Half Maximum)値が良く使われる。これは電流値がピーク電流値の半分に達してからそれ以下になるまでの時間間隔を表す。残存電子数曲線に同じデータ処理を当てはめると、FWHM相当値は6psである。
【0107】
本検討例により、本発明は以下の効果を有する。
【0108】
平屋型ブランチングイメージセンサの各画素の光電変換手段の周辺からK個の縦型転送手段で信号電子を転送する場合、各転送手段の電極を1個とし、その側面を転送路とし、これらを実質的に円周上に配置することにより、電極の数を2K個からK個に減らすことが出来る。また、2枚の電極の間を転送路とする場合には、転送路の側面の隣接する電極の間に電界と容量を緩和するために必要な厚さを持つ絶縁層が必要になるが、これも不要になる。これにより、同じ画素サイズに対して、より多くの転送ゲートを配置でき、より多くの連続画像を撮影できる。
【0109】
縦型電極に電子の反発層を付加することにより、ゲート酸化膜への信号電子の衝突確率を下げ、信号電子のトラップや暗電流の生成を抑制できる。
【0110】
光電変換手段の中央部に、光電変換手段内の電位分布を直線に近づける手段を備えることにより、撮影時間分解能をさらに短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【
図1】ブランチングイメージセンサの代表的な1画素の回路拡散層
【
図3】2階型ブランチングイメージセンサの断面の概念図
【
図4】平屋型ブランチングイメージセンサの1画素の回路拡散層
【
図5】平屋型ブランチングイメージセンサの1画素の断面の概念図
【
図6】平屋型に対するポテンシャルシミュレーションの例
【
図7】シリコンとゲルマニウムの電界とドリフト速度及び拡散係数の関係
【
図8】シリコンとゲルマニウムの入射光の波長に対する吸収係数
【
図9】正方形で4個の単一縦型電極転送手段とFDを備えるブランチングゲートイメージセンサ
【
図10a】正方形で1個の単一縦型電極転送手段とFDを備えるブランチングゲートイメージセンサのマスク図
【
図10b】正方形で1個の単一縦型電極転送手段とFDを備えるブランチングゲートイメージセンサの不純物分布
【
図10c】正方形で1個の単一縦型電極転送手段とFDを備えるブランチングゲートイメージセンサの最大電位分布
【
図11a】周辺にボロンイオン注入を行った単一縦型電極を備える正方形画素のマスク図
【
図11b】周辺にボロンイオン注入を行った単一縦型電極を備える正方形画素の不純物分布
【
図11c】周辺にボロンイオン注入を行った単一縦型電極を備える正方形画素の最大電位分布
【
図12a】周辺にボロンイオン注入を行った単一縦型電極と光電変換手段の中央にボロンイオン注入を行った正方形画素のマスク図
【
図12b】周辺にボロンイオン注入を行った単一縦型電極と光電変換手段の中央にボロンイオン注入を行った正方形画素の不純物分布
【
図12c】周辺にボロンイオン注入を行った単一縦型電極と光電変換手段の中央にボロンイオン注入を行った正方形画素の最大電位分布
【
図14】パルス入射光に対するPDの残存電子数の時間波形
【
図15】第1の実施の形態の1画素の平面図のマスク図
【
図16】第1の実施の形態の1画素の平面図の不純物分布
【
図17】第1の実施の形態の1画素の平面図の最大電位分布
【
図18】第1の実施の形態の1画素の断面のポテンシャルと信号電子の経路の例
【
図19】第1の実施の形態の1画素へのパルス入射光に対するPDの残存電子数の時間波形
【
図24】本発明の第1の実施の形態における撮影装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【第1の実施の形態】
【0112】
第1の実施の形態はシリコン半導体から成る。
図15から
図17に第1の実施の形態の1画素の平面構造を、
図18に断面のポテンシャル構造の例を示す。
図15にマスク
図129を示す。
【0113】
円形の光電変換手段130のまわりに16個の転送手段131と、各転送手段に接続するFD133を備えている。本例では、FDは画素内の読出し手段であると同時に、画像信号の保存手段を兼ねている。
【0114】
一般的な読出し手段132は
図1に図示しているように、アウトプットゲート180、FD133、リセットゲート134、リセットドレーン135、ソースフォロアアンプ136からなる。本実施例では読出し手段の後段は接合チップに乗っている。またこの回路は、幅広く用いられている一般的な読出し回路であるので詳細は
図15には図示していない。
【0115】
画素の直径は1μm、縦型転送電極は深さ方向の0μmから2.5μmに配置されている。
【0116】
図16は
図15に対する注入イオンの濃度分布図を、
図17にポテンシャルの平面図、
図18にVHをかけた電極を通る中心線に沿うポテンシャルの断面図を示している。
【0117】
各転送手段はポリシリコンから成る縦型電極137とその周りの2酸化シリコンからなる絶縁層138からなる。また光電変換手段の中央部の円形の領域139にはボロンが注入されている。
【0118】
15個の電極140にはVL=0Vがかけられている。残りの1個の電極141にはVH=3.3Vがかけられている。
【0119】
図18にはこの断面の平面上で見た中心線の最上流位置142で、入射光側で生成した電子の平均経路143、中間深さで生成した電子の平均経路144、底面付近で生成した電子の平均経路145を示している。
【0120】
図19には瞬間的に入射した光でPD内で生起した電子の残存電子数の時間変化146を示している。
【0121】
電流変化のFWHM相当値は約4ps、10%に減衰する時間は約13psである。
【0122】
以上よりわかるように、本発明は約13psという非常に短い時間分解能で、連続16枚という、既存のマルチフレーミングカメラでは到底実現できなかった超高速で多数の連続画像を撮影できるイメージセンサを提供する。
【0123】
図18に示すとおり、実施例では転送電極は縦型で深くまで入っており、その外側に深い棒状のFDを備えているので、信号電子は光電変換手段内で水平に近い運動をしている。
【0124】
このモデルでは信号電荷をFD内で垂直方向に転送する必要が無い。縦長のFDに信号電荷が水平転送された瞬間にFDで電圧低下が生じているので、接合チップ上のソースフォロアアンプで直ちに電圧信号として信号転送ができる。
【0125】
このことは、接合チップ上の追加メモリで連続撮影枚数を増やす場合に、撮影速度を上げることに寄与する。
【第2の実施の形態】
【0126】
【ゲルマニウム光電変換手段とシリコン後段回路を持つ平屋型センサ】
【0127】
第2の実施の形態の平面形状は第1の実施の形態と同じである。ただし
図16の中央の円形のボロン層139はない。
図20に断面
図147を示す。センサチップ148に接合チップ149が接合されている。特徴は、光電変換手段150がゲルマニウムで、転送手段151とFD152はシリコン層で作られていることである。読出し手段153、154はセンサチップと接合チップにまたがり、Cu―Cu接合(図示していない)で電気的に接合されている。接合チップには画素外への読出し手段155が備えられている。
効果は、NIR(近赤外線)やSWIR(短波赤外線)で超高速撮影できることである。
【0128】
ゲルマニウムからは大きな暗電流が発生するが、ブランチングイメージセンサは超高速連続撮影を目的としており、撮影時間間隔は、既存のセンサでは撮影することが難しいpsからnsのオーダーである。
【0129】
この間に得られる画像信号は、上記の時間間隔で後段のシリコン層の保存手段に転送され、撮影完了後に読み出されるまで保存される。撮影完了後の読出し中にゲルマニウム光電変換手段で生成する暗電流は画素外に排出されるので、実質的に保存手段(FD)には迷入しない。
【0130】
撮影後に暗電流を画素外に排出するための最も単純な方法は、16個の転送手段のうちの一つをドレ―ン用に使う方法である。
図1に示す読出し回路にあるアウトプットゲート180とリセットゲート134をVH側にすれば、ドレーンとなる。ただし、撮影枚数は15枚になる。
【0131】
後段のシリコンの保存手段で、読み出されるまでの長い時間の間に生成される暗電流は撮影中に生成する暗電流よりはるかに大きい。しかしシリコン半導体における欠陥制御は高度に進んでいる。比較的大きい場合でも冷却すれば許容レベルに抑えることができる。
【0132】
以上より、ゲルマニウム光電変換手段を用いてNIRやSWIR撮影する場合でも、ブランチングイメージセンサ構造を用いて非常に短い時間間隔で画像信号パケットをシリコン保存手段に転送して保存することにより、効果的に暗電流を抑制できる。
【0133】
科学計測技術用の撮影装置ではイメージセンサの冷却技術に必要な追加費用は、センサの開発費用に比べて小さい。ゲルマニウム光電変換で生じる信号電荷のナノ秒以下の積算と、シリコン後段回路による読み出し時の暗電流の抑制、さらにイメージセンサの十分な冷却の相乗効果により、暗電流を十分抑制したNIRやSWIRブランチング超高速イメージセンサを開発することができる。
【第3の実施の形態】
【0134】
【ゲルマニウム光電変換手段を備える可視光用2階型センサ】
【0135】
光電変換手段も転送手段もシリコンのブランチングイメージセンサの場合、撮影速度と構造の簡便さの点で平屋型が2階型より優れている。
イメージセンサのほとんどは全シリコン半導体でできているが、他の材料で作られる場合は必ずしも平屋型が優れているとは限らない。
【0136】
図21に示す実施例156はゲルマニウムを光電変換手段とする場合であるが、平屋型とするよりも2階型の方が実施が容易な例である。
【0137】
図21にはセンサチップ157とともに、接合チップ158も記載している。センサチップは光電変換手段が薄いので平屋型に見えるが構造上は2階型である。上層の光電変換手段159はゲルマニウムである。センサチップの下層部分の回路拡散層はシリコンである。また接合チップはシリコン層から成る。
【0138】
可視光撮影ではゲルマニウム光電変換手段の厚さは100nmで良い。また回路換算層の厚さは光電変換の必要がないので500nmで良い。
【0139】
通常のシリコン可視光イメージセンサではシリコン層で光電変換を行うので少なくとも2.5μmの厚さが必要である。本実施例ではその5分の1の厚さである。しかもゲルマニウム光電変換手段が薄いので、受光面側からシリコン層に縦型電極を作り込む上での制限要因はほとんどない。
【0140】
光電変換手段の層厚を100nmとすることの根拠を説明する。550nm緑色光のゲルマニウムへの平均透過深さは20nmである(
図5)。赤色光も含めると100nmが望ましい。
【0141】
この構造の効果は、縦型転送手段のブランチングイメージセンサの製造手段が簡易化されることと、撮影速度をさらに上げることが出来ることである。以下で理由を説明する。
【0142】
第1の理由は、光電変換手段の厚さが十分薄いので、光電変換手段が乘っていても光の入射面側から縦型ゲート形成のためのスリットを形成することが出来る。
【0143】
第2の理由は、縦型ゲートの高さが低いので、スリットプロセスが容易になる。
【0144】
第3の理由は、縦型ゲートの高さが短いので、縦型ゲートへの駆動電圧の時間遅れを支配するRC(抵抗×容量)のRもCも小さくなり、撮影速度をより大きくできることである。
【0145】
第4の理由は、この光電変換手段の厚さであれば、FDを回路拡散層の光の入射側、もしくは反対側に作っても、転送手段からの信号電荷の斜め転送が容易になり、時間分解能をより短縮できることである。
【その他の実施の形態】
【0146】
【ゲートの追加】
【0147】
CDS(Correlated Double Sampling)機能を導入して読出しノイズを低減するために、
図1のように、保存手段102及び、保存手段とFDの間のアウトプットゲート180を追加しても良い。また、撮影枚数を増やすには、各転送手段の後段に、第2の転送手段を備えても良い。これらの手段は縦型でも平面型でも良い。
【InGaAs光電変換手段とInP回路拡散層もしくは後段回路】
【0148】
SWIRイメージングでは光電変換手段としてInGaAs、転送手段や保存手段をInPとする組み合わせが良く用いられる。ゲルマニウムとシリコンの組み合わせのかわりに、この組み合わせを用いても良い。
この組み合わせではInGaAsとInPの結晶定数を等しくできるので、ゲルマニウムとシリコンの間の結晶定数の違いで生じる欠陥に基づくトラップや暗電流が無い。
【転送ゲートの固定電荷層】
【0149】
転送電極の周りのボロン層は酸化アルミニウムや酸化ハフニウム等の固定電荷層であっても良い。
【転送電極形状】
【0150】
図22aに示す1枚の縦型電極160の代わりに、T字型または
図22bに示す逆T字型電極161としても良い。これにより、FDや初段読出し手段が受光面側や底面側にあるとき、転送手段内の斜め転送により転送時間の縮小に寄与する。
【0151】
また、縦型転送電極形状は円形やだ円形でも良い。また角型の場合は、電極の先端は円周と平行な直線ではなく、槍の穂先のように角度を持っていても良い。
【0152】
これにより、VHをかけた転送電極と光電変換手段を結んだ直線の近傍で生成し、転送電極の先端に届いた信号電子の左右への振り分けがスムーズになる。
【0153】
また、転送電極の周辺電位を、放射方向に高くする、もしくは低くする手段を用いても良い。
【0154】
また、画素中心から各転送電極の中心位置までが等距離であれば、転送電極の中心軸が画素中心に向いている必要はない。
【正方形光電変換手段と片側転送手段】
【0155】
光電変換手段の形状は円形や六角形以上の形状である必要はない。正方形や長方形でも良い。
【0156】
正方形の場合には、各辺に1個もしくは2個で、合計4個もしくは8個の転送手段を備える。長方形の場合には、対向する2辺上に、2個づつの転送電極を備える。
【0157】
また、正方形や長方形の場合には、各辺の中央付近に、辺と実質的に45°の角を成すハの字の2つの縦型電極を置き、それぞれの電極の片側を転送路としても良い。
【六角形画素】
【0158】
受光面が実質的に円形である場合、
図23aに示すように、正方形の画素アレイ162では角部に広い余裕空間163が生じる。
【0159】
図23bに示す六角形画素アレイ164であると、角部の余裕空間165が正方形の場合に比べて狭くなり、一定の受光面積に対して、画素密度を上げることができる。
【撮影装置】
【0160】
本特許技術における、受光面の画素配置、撮影装置の構成、及び操作の方法は、ブランチングイメージセンサの基本特許である特許文献1及び特許文献2で詳述している。
【0161】
以下では
図24に示す本発明の第1の実施例の撮影装置の構成について簡単に説明する。撮影装置166は光学系167とカメラ本体168で構成されている。
【0162】
カメラ本体は本発明の第1の実施の形態のイメージセンサ169、AFE(アナログフロントエンド回路)170、駆動回路171、画素構成回路172、DSP(デジタル信号処理回路)173、画像表示回路174を備える。
【0163】
イメージセンサは1200×700の画素からなる画素アレイ175、駆動信号受信回路176および撮影信号送付回路177を備える。
【0164】
AFEはTG(タイミングジェネレータ)と初段画像信号記録手段を備える(図には記載していない)。TGで生成した信号に従って駆動回路でイメージセンサの駆動信号が作られる。また撮影した画像信号のイメージセンサからの読出しを行う。
【0165】
画素構成回路で画像信号が並べ替え、DSPでデジタル画像信号に変換した後、画像表示回路で表示速度等を合わせた画像信号として外部のモニターや記録装置(表示されていない)に出力する。
【適用分野】
【0166】
高速ビデオカメラは物体の運動、高速流れ、衝撃波、衝突に伴う変形等の機械工学系の研究や技術開発に使われることが多い。本発明の高速マルチフレーミングカメラは、これまでの高速ビデオカメラより数桁速いので、これまで高速撮影の適用分野としては想像できなかった幅広い適用分野を創造する。
【0167】
1例を上げる。既存技術で本発明のイメージセンサを作ると100psの時間分解能を達成できる。原理的にはごく近い将来10psを達成できる。また100psの時間分解能の撮影であっても、100回以上繰り返すと誤差は1/10以下になり、時間分解能10ps相当の現象解析ができる。
【0168】
10psで光(X線、ガンマ線等を含む)は人体中を約2.3mm進む。TOF PET(Time-of-Flight Positron Emission Tomography)に適用すると、これまでのような、患部から発する多数のガンマ線の交点から位置を特定する方法に加えて、センサから患部までの距離を知ることができるので、ガン検出の確率と精度を各段に向上させることができる。
【符号の説明】
【0169】
100 2階型ブランチングイメージセンサの光電変換手段
101 転送手段
102 保存手段
103 読出し手段
104 平屋型ブランチングイメージセンサの回路拡散層
105 光電変換手段
106 縦型転送手段
107 保存手段
108 2個の縦型電極対
109 水平転送路
110 読出し手段
111 シリコンの電界とドリフト速度の関係
112 ゲルマニウムの電界とドリフト速度の関係
113 シリコンの入射光の波長に対する吸収係数
114 ゲルマニウムの入射光の波長に対する吸収係数
115 絶縁層
116 説明用の正方形平屋型ブランチングイメージセンサの光電変換手段
117 VHを加える縦型転送手段
118 FD
119 画素分離のためのp型注入
120,121 単一電極の転送手段
122 単一電極の両サイドの転送路
123 VLを加える縦型転送手段
124 転送電極周りに横拡散したボロン層
125 光電変換手段の中央部のボロン層注入のための長方形マスク
126 光電変換手段の中央部のボロン層
127 光電変換手段の中央付近の電位等高線(中央にボロン注入がない場合)
128 光電変換手段の中央付近の電位等高線(中央にボロン注入がある場合)
129 第1の実施の形態の1画素のマスク図
130 光電変換手段
131 16個の転送手段
132 読出し手段
133 FD
134 リセットゲート
135 リセットドレーン
136 ソースフォロア読出しアンプ
137 縦型電極
138 2酸化シリコンからなる絶縁層
139 光電変換手段の中央部の円形のボロン注入領域
140 VLがかけられている15個の電極
141 VHがかけられている電極
142 信号電子の平面上の生成位置
143 入射光側で生成した電子の平均経路
144 中間深さ生成した電子の平均経路
145 底面付近生成した電子の平均経路
146 パルス光で生成した電子のPD内の残留電子数の時間波形
147 第2の実施の形態の断面図
148 センサチップ
149 接合チップ
150 ゲルマニウム光電変換手段
151 シリコン転送手段
152 シリコンFD
153、154 読出し手段
155 接合チップ上の画素外への読出し手段
156 第3の実施例の1画素の断面図
157 センサチップ
158 接合チップ
159 薄いゲルマニウム光電変換手段
160 I型縦型電極
161 逆T字型電極
162 正方形の画素アレイ
163 正方形画素アレイの余裕空間
164 六角形画素アレイ
165 六角形画素アレイの余裕空間
166 第1の実施の形態の撮影装置
167 光学系
168 カメラ本体
169 イメージセンサ
170 AFE(アナログフロントエンド回路)
171 駆動回路
172 画素構成回路
173 DSP(デジタル信号処理回路)
174 画像表示回路
175 画素アレイ
176 駆動信号受信回路
177 撮影信号送付回路
178 回路拡散層
179 電荷収集手段
180 アウトプットゲート
181
図10のPD残存電子数の時間波形
182
図11のPD残存電子数の時間波形
183
図12のPD残存電子数の時間波形
184
図1で電荷収集と転送機能を備える転送手段