(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161892
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
F16D7/02 F
F16D7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070869
(22)【出願日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2023076787
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 輝信
(57)【要約】
【課題】内輪と外輪との間に介在して両者を所要抵抗トルクで接続する接続手段としてトレランスリングを採用した場合よりも、製造工程を簡略して製造コストを抑制することができる、トルクリミッタを提供すること。
【解決手段】接続手段8を外輪6の内周面又は内輪4の外周面に形成された凹部12に収容し、内輪4が外輪6の内側に挿通される前の状態にあっては、接続手段8は遊嵌状態であって、接続手段8の一部を凹部から露出させる。そして、内輪4が外輪6の内側に挿入されると、内輪4又は外輪6が接続手段8の上記一部を強制して接続手段8は変形せしめられ、接続手段8の外周面は内輪4の外周面及び外輪6の内周面と密接する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の中心軸を有する内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在して両者を所要抵抗トルクで接続する接続手段とを具備し、前記内輪は前記外輪の内側に挿通され、前記接続手段は前記内輪の外周面と前記外輪の内周面との間に配置されていて、前記内輪と前記外輪との間に前記所要抵抗トルク以上の回転トルクが付加されると、前記内輪と前記外輪とは前記所要抵抗トルクに抗して相対的に回転するトルクリミッタにおいて、
前記内輪が前記外輪の内側に挿入されるよりも先に、前記接続手段は前記外輪の内周面又は前記内輪の外周面に形成された凹部に収容され、
前記内輪が前記外輪の内側に挿通される前の状態にあっては、前記接続手段は遊嵌状態であって、前記接続手段の一部が前記凹部から露出していて、
前記内輪が前記外輪の内側に挿入されると、前記内輪又は前記外輪が前記接続手段の前記一部を強制して前記接続手段は変形せしめられ、前記接続手段の外周面は前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面と密接する、ことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記凹部は断面円弧形状であって軸方向に延在し、前記接続手段は軸方向に延在する中空ピンであり、変形せしめられる前の前記中空ピンは断面円形である、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記凹部は断面非円弧形状であって軸方向に延在し、前記接続手段は軸方向に延在する中空ピンであり、変形せしめられる前の前記中空ピンは断面円形である、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記凹部は径方向よりも径方向に対して垂直な方向に幅広である、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
変形せしめられた後の前記中空ピンは楕円形であって周方向両側にて前記凹部の内面と密接する、請求項4に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記凹部の少なくとも軸方向片側端は開放されていて、前記接続手段は前記凹部の前記軸方向片側端から挿入される、請求項2又は3に記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記外輪の軸方向両端部には前記内輪を回転可能に軸支する軸受けが配設されている、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項8】
前記接続手段は少なくとも1つ配置されている、請求項7に記載のトルクリミッタ。
【請求項9】
前記接続手段は周方向に等角度間隔をおいて複数配置されている、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項10】
前記凹部は前記外輪の内周面に形成されており、前記内輪は軸状であって軸方向端部にはテーパー部が設けられている、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源のモーター等に過負荷が掛かったときに負荷を切り離してモーターを保護する部品、つまり、伝達トルクを制限する部品としてトルクリミッタが存在する。かようなトルクリミッタは、例えばノート型パソコンのディスプレイを本体に枢着する部分にも適用され、ディスプレイを任意の角度に固定すると同時に、手動で余分のトルクを付加したときはディスプレイと本体とが相対的に回転するようにして、いわゆるトルクヒンジとして利用されることもある。従って、トルクリミッタは住宅設備、自動車、事務機器等の多様な機械装置に組み込まれる汎用的な機械部品である。
【0003】
トルクリミッタの一例として、共通の中心軸を有する内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在して両者を所要抵抗トルクで接続する接続手段とを具備し、前記内輪は前記外輪の内側に挿通され、前記接続手段は前記内輪の外周面と前記外輪の内周面との間に配置されていて、前記内輪と前記外輪との間に前記所要抵抗トルク以上の回転トルクが付加されると、前記内輪と前記外輪とは前記所要抵抗トルクに抗して相対的に回転するトルクリミッタが存在する。上記接続手段としては、多様な形式のものが存在し、例えばコイルばね、板ばね、輪ばね、トレランスリングなどが挙げられる。下記特許文献1には、トレランスリングを接続手段として用いた形式のトルクリミッタの一例が示されている。トレランスリングとは、通常は金属製である薄板弾性片をC字形状に丸めたものであり、表面には凸部が周方向に間隔をおいて複数配設されている。そして、凸部と内輪の外周面又は外輪の内周面との摩擦によって上記所要抵抗トルクを発生する。かようなトレランスリングは内輪と外輪とが組み合される前に外輪又は内輪に装着される。トレランスリングが外輪に装着される場合、何らの負荷がかかっていない自然状態でのトレランスリングの外径は外輪の内径よりも大きい。そのため、トレランスリングは負荷をかけて一時的に縮径せしめられた状態で外周面が外輪の内周面と対向するように配置された後、上記負荷を抜くことで拡径して外周面が外輪の内周面と密接し、かくして外輪に装着される。一方、トレランスリングが内輪に装着される場合、自然状態でのトレランスリングの内径は内輪の外径よりも小さい。そのため、トレランスリングは負荷をかけて一時的に拡径せしめられた状態で内周面が内輪の外周面と対向するように配置された後、上記負荷を抜くことで縮径して内周面が内輪の外周面と密接し、かくして内輪に装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、上記特許文献1に示されたような、接続手段としてトレランスリングを用いたトルクリミッタにあっては、以下のとおりの解決すべき課題がある。第一に、薄板弾性片を一定の径に丸める加工難度は比較的高く、製造コストが増大すると共に品質維持が困難である。第二に、内輪と外輪とを組み合わせる前にトレランスリングを外輪又は内輪に装着する際には、トレランスリングを一時的に縮径又は拡径させる必要があり、組み立て工程が煩雑である。第三に、トレランスリングはC字形状であるため凸部を内輪の外周面又は外輪の内周面に周方向に等間隔で当接させることは困難であり、これに起因して内輪と外輪とが相対回転する際に好ましくない振動や異音が発生する虞がある。第四に、トレランスリングの表面に配設される凸部は薄板弾性片を屈曲することにより形成されるつまり凸部の縦断面形状は開曲線であるため、凸部は比較的小さな荷重であっても変形せしめられる。従って、内輪と外輪とを接続する抵抗トルクを充分に大きく設定することができない。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、内輪と外輪との間に介在して両者を所要抵抗トルクで接続する接続手段としてトレランスリングを採用した場合よりも、製造工程を簡略して製造コストを抑制することができる、新規のトルクリミッタを提供することである。
【0007】
本発明の他の技術的課題は、上記主たる技術的課題に加えて更に、好ましくない振動や異音を抑制することができて且つ内輪と外輪とを接続する抵抗トルクを大きく設定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記主たる技術的課題を解決するトルクリミッタとして、共通の中心軸を有する内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在して両者を所要抵抗トルクで接続する接続手段とを具備し、前記内輪は前記外輪の内側に挿通され、前記接続手段は前記内輪の外周面と前記外輪の内周面との間に配置されていて、前記内輪と前記外輪との間に前記所要抵抗トルク以上の回転トルクが付加されると、前記内輪と前記外輪とは前記所要抵抗トルクに抗して相対的に回転するトルクリミッタにおいて、
前記内輪が前記外輪の内側に挿入されるよりも先に、前記接続手段は前記外輪の内周面又は前記内輪の外周面に形成された凹部に収容され、
前記内輪が前記外輪の内側に挿通される前の状態にあっては、前記接続手段は遊嵌状態であって、前記接続手段の一部が前記凹部から露出していて、
前記内輪が前記外輪の内側に挿入されると、前記内輪又は前記外輪が前記接続手段の前記一部を強制して前記接続手段は変形せしめられ、前記接続手段の外周面は前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面と密接する、ことを特徴とするトルクリミッタが提供される。
【0009】
上記他の技術的課題は、上記主たる技術的課題を解決するトルクリミッタにおいて、前記凹部は断面円弧形状又は断面非円弧形状であって軸方向に延在し、前記接続手段は軸方向に延在する中空ピンであり、変形せしめられる前の前記中空ピンを断面円形とすることで解決される。前記凹部が断面非円弧形状である場合には、前記凹部は径方向よりも径方向に対して垂直な方向に幅広であり、変形せしめられた後の前記中空ピンは楕円形であって周方向両側にて前記凹部の内面と密接するのが好ましい。前記凹部の少なくとも軸方向片側端は開放されていて、前記接続手段は前記凹部の前記軸方向片側端から挿入されるのが好ましい。
【0010】
好ましくは、前記外輪の軸方向両端部には前記内輪を回転可能に軸支する軸受けが配設されている。この場合には、前記接続手段は少なくとも1つ配置されているのがよい。前記接続手段は周方向に等角度間隔をおいて複数配置されているのが好ましい。前記凹部は前記外輪の内周面に形成されており、前記内輪は軸状であって軸方向端部にはテーパー部が設けられているのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトルクリミッタにあっては、内輪が外輪の内側に挿通される前に接続手段が外輪の内周面又は内輪の外周面に形成された凹部に遊嵌状態で収容されるため、接続手段は容易に外輪又は内輪と組み合わせられる。それ故に、本発明のトルクリミッタによれば、接続手段としてトレランスリングを採用した場合に生じる複数の組み立て工程のうち、接続手段を外輪又は内輪に装着させる際に接続手段を一時的に縮径又は拡径させる工程が不要となる。つまり、本発明のトルクリミッタによれば、接続手段としてトレランスリングを採用した場合よりも製造工程が簡略化され、これにより製造コストが低減される。
【0012】
また、凹部が断面円弧形状又は断面非円弧形状であって軸方向に延在しており、接続手段が軸方向に延在する中空ピンであり、変形せしめられる前の中空ピンが断面円形である場合、接続手段としてトレランスリングを採用した場合よりも、接続手段それ自身が製造容易となるため、製造コストがより一層低減される。更に、接続手段の表面に凸部は存在しないため接続手段の外周面と内輪の外周面及び外輪の内周面との当接が良好となり、動作時の振動や異音が抑制される。更にまた、接続手段の断面形状は閉曲線であるため、接続手段を変形させる際には比較的大きな荷重が必要、つまり内輪と外輪とを接続する抵抗トルクを大きく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成されたトルクリミッタの好適実施形態を示す図。
【
図2】
図1に示すトルクリミッタを構成する各部材の斜視図。
【
図3】
図1に示すトルクリミッタの外輪を単体で示す図。
【
図4】
図1に示すトルクリミッタにおいて内輪が外輪に挿入される前後の状態を比較するB-B線断面図。
【
図5】本発明に従って構成されたトルクリミッタの他の好適実施形態における、
図4に示す断面図と対応する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明に従って構成されたトルクリミッタの好適実施形態について更に詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2を参照して説明すると、全体を番号2で示すトルクリミッタは、共通の中心軸oを有する内輪4及び外輪6と、内輪4と外輪6との間に介在する接続手段8とを具備している。
【0016】
図示の実施形態においては、内輪4はモーターの如き駆動側の外部機器に接続されていて、比較的高硬度の金属製である。内輪4は断面円形の中実軸状であり、軸方向端部には円錐台形状であるテーパー部10が設けられている。便宜上、外輪6に先立って接続手段8から言及すると、接続手段8は比較的低硬度の金属製であって幾分かのばね性を有する。図示の実施形態においては、接続手段8は軸方向に貫通する円筒形状部材つまり軸方向に延在する断面円形の中空ピンであり、6つ配設されている。所望ならば、接続手段8の軸方向端は閉塞せしめられていてもよい。
【0017】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明すると、外輪6は適宜の金属製であって、全体的に円筒形状である。外輪6の外周面には図示しない接続リブが設けられており、この接続リブを用いて外輪6は従動側の外部機器に固定される。外輪6の内周面には接続手段8を収容する凹部12が形成されている。凹部12の断面形状は接続手段8の断面形状と対応する。図示の実施形態においては、外輪6の内側空間は、軸方向両端部に夫々位置する円柱形状の端部14a及び14bと2つの端部14a及び14bの間に位置する中間部16とに区画される。端部14a及び14bの形状は等しく、端部14a及び14bには夫々内輪4を回転可能に軸支する円環形状の軸受け18が配設される。軸受け18はベアリング等周知のものであって良い。中間部16は2つの端部14a及び14bの径よりも小径であるが内輪4の外径よりも僅かに大径である円柱形状の主部20を備えており、主部20の外周縁に凹部12は接続されている。図示の実施形態においては、凹部12は断面円弧形状であって中心軸oに沿って軸方向に直線状に延在していて、周方向に等角度間隔をおいて6つ配設されている。凹部12の断面形状についてさらに説明すると、凹部12の径は接続手段8の径(後述するとおりに変形せしめられる前の状態の接続手段8の外径)よりも幾分大きく、凹部12の周方向長さは、接続手段8が凹部12から径方向内側に脱落しない程度の長さを有する。中間部16と端部14bとの境界には、外輪6の内周面から径方向内側に延びて全ての凹部12の軸方向端を閉塞する円環板状の底壁22が形成されており、凹部12に収容された接続手段8の軸方向他側端(
図1のA-A断面図中の右側端)は底壁22によって支持される。接続手段8の軸方向片側端(同左側端)は端部14aに配設された軸受け18によって支持される。所望ならば、底壁22を省略して2つの軸受け18が接続手段8の軸方向両端を支持してもよい。
【0018】
続いて、トルクリミッタ2を組み立てる工程について説明する。最初に、内輪4が外輪6の内側に挿入されるよりも先に、接続手段8が外輪6の凹部12に収容される。接続手段8は凹部12の開放された軸方向端から軸方向に挿入される。この際、接続手段8は凹部12において遊嵌つまり隙間ばめとなるため凹部12に容易に挿入される。
図4(a)は、内輪4が外輪6の内側に挿入される前に接続手段8が凹部12に収容された状態の、
図1において切断線B-Bで示す位置での断面図である。この状態にあっては同図に示されるとおり、接続手段8の一部が凹部12から径方向内側に露出する。露出した上記一部を露出部として番号24で示す。
【0019】
全ての接続手段8が凹部12に収容された後に、内輪4が外輪6の内側に挿入される。その際、内輪4が接続手段8の露出部24(つまり凹部12から露出している一部)と当接してこれを強制することで、接続手段8は変形せしめられる。図示の実施形態においては、内輪4の軸方向端部にはテーパー部10が形成されていて、内輪4はテーパー部10が形成されている側から外輪6の内側に挿入される。従って、上記露出部24にはテーパー部10が当接するため、接続手段8は比較的容易に変形せしめられる。また、接続手段8は断面円形の中空ピンであるため変形容易である。
図4(b)は、接続手段8が変形せしめられた状態の、
図1において切断線B-Bで示す位置での断面図である。
【0020】
上記変形について
図4(a)及び(b)を比較参照してさらに説明する。内輪4が外輪6の内側に挿入されると、内輪4は露出部24に当接して接続手段8を径方向外側に変位させる(変位前の接続手段8の中心をp(a)、変位後の接続手段8の中心をp(b)で示す)。かかる変位は外輪6の内周面によって制限されるため、変位が制限されると接続手段8は内輪4から受ける荷重によって変形せしめられる。かかる変形で接続手段8は荷重を受けた方向つまり径方向に対して垂直方向に歪み、上記変位と相まって凹部12での動きが阻止される。これにより、接続手段8は外輪6の内周面及び内輪4の外周面と密接して凹部12での姿勢が保持され、内輪4と外輪6との間に介在して両者を摩擦力に起因した所要抵抗トルクで接続することとなる。なお、軸受け18は、全ての接続手段8が凹部12に収容された後、内輪4が外輪6の内側に挿入される前後の任意のタイミングで外輪6の内側空間の端部14a及び14bに配設される。
【0021】
トルクリミッタ2の作動は従来のトルクリミッタと同一である。従って、内輪4と外輪6との間に上記所要抵抗トルク未満の回転トルクが付加されているときは、内輪4及び外輪6は一体となって回転するが、内輪4と外輪6との間に上記所要抵抗トルク以上の回転トルクが付加されると、内輪4と外輪6とは上記所要抵抗トルクに抗して相対的に回転する。
【0022】
本発明のトルクリミッタにあっては、内輪4が外輪6の内側に挿通される前に接続手段8が外輪6の内周面に形成された凹部12に遊嵌状態で収容されるため、接続手段8は容易に外輪6と組み合わせられる。それ故に、本発明のトルクリミッタによれば、接続手段としてトレランスリングを採用した場合に生じる複数の組み立て工程のうち、接続手段を外輪又は内輪に装着させる際に接続手段を一時的に縮径又は拡径させる工程が不要となる。つまり、本発明のトルクリミッタによれば、接続手段としてトレランスリングを採用した場合よりも製造工程が簡略化され、これにより製造コストが低減される。
【0023】
また、図示の実施形態においては、凹部12は断面円弧形状であって軸方向に延在しており、接続手段8は軸方向に延在する中空ピンであり、変形せしめられる前の中空ピンは断面円形であるため、接続手段としてトレランスリングを採用した場合よりも、接続手段それ自身が製造容易となるため、製造コストがより一層低減される。更に、接続手段の表面に凸部は存在しないため接続手段の外周面と内輪の外周面及び外輪の内周面との当接が良好となり、動作時の振動や異音が抑制される。更にまた、接続手段の断面形状は閉曲線であるため、接続手段を変形させる際には比較的大きな荷重が必要、つまり内輪と外輪とを接続する抵抗トルクを大きく設定することができる。
【0024】
本発明に従って構成されたトルクリミッタについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。以下、本発明に従って構成されるトルクリミッタのうち、上述した添付実施形態からの変形例について述べる。
【0025】
図示の実施形態においては、接続手段8は軸方向に延在する断面円形の中空ピンであった。接続手段の断面形状は円形でなく多角形であってもよいが、円形の方が変形せしめられた際に応力が良好に分散され使用寿命が延びる。また、接続手段は鉛の如き高い展性を有する材質であれば中空でなく中実であってもよい。なお、接続手段は金属製であることに限定されず、使用条件や材質等によっては、合成樹脂であってもよい。また、接続手段の断面形状は必ずしも閉じていなくてよく、従って、接続手段は例えば当業者にとっては周知であるスプリングピンであってもよい。内輪の軸方向端部にテーパー部を設けることに替えて、接続手段の軸方向端部にテーパー部を設けてもよい。また、所望ならば、外輪の外周面に凹部に連通する開口部を設け、この開口部より接続手段を凹部に径方向外側から内側へ挿入せしめ、凹部に接続手段が収容された後に上記開口部を閉じるようにしてもよい。接続手段は円筒形状でなく球形状であってもよい。
【0026】
図示の実施形態においては、接続手段8及び凹部12は周方向に等角度間隔をおいて6つずつ配設されている。接続手段8及び凹部12は、軸受け18が配設されている場合には少なくとも1つずつ配設されていればよいが、軸受け18が配設されていない場合には周方向に等角度間隔をおいて少なくとも3つずつ配設されている必要がある。外輪に対する内輪の倒れを防止するためである。かかる倒れ防止の観点からも、接続手段8及び凹部12は周方向に等角度間隔をおいて複数配設されていることが好ましい。
【0027】
図示の実施形態においては、凹部12は外輪6の内周面に形成されていたが、凹部は内輪の外周面に形成されていてもよい。この場合、外輪の軸方向端部にテーパー部が設けられているのが好ましい。
【0028】
また、接続手段が収容される凹部は断面非円弧形状であってもよい。
図5には、本発明の他の実施形態、即ち、外輪の内周面に凹部が形成されていて、かかる凹部は断面非円弧形状であって軸方向に延在しており、接続手段は軸方向に延在する中空ピンである場合の実施形態に関する断面図が示されている。以下、
図5に示す他の実施形態について説明するが、
図1に示す実施形態と同一の構成については同一の番号に「´」を付して詳細な説明については省略する。
図5は
図4と対応する図であり、従って、
図5(a)は内輪4´が外輪6´に挿入される前の状態を、
図5(b)は内輪4´が外輪6´に挿入された後の状態を夫々示す断面図である。
【0029】
図5に示す他の実施形態においては、凹部12´の断面はコの字形状であって、径方向に対して垂直に延在する底面12a´と底面12a´の両端から底面12a´に対して垂直に延在する一対の側面12b´及び12c´とを備えている。底面12a´の長さは、接続手段8´である断面円形の中空ピンの外径、更に詳しくは内輪4´によって変形せしめられる前の外径よりも長い。一対の側面12b´及び12c´の長さは等しく、底面12a´の長さよりも短い。従って、凹部12´は径方向よりも径方向に対して垂直な方向に幅広である。
図5(a)に示す状態から内輪4´が外輪6´の内側に挿入されると、接続手段8´は断面円形から断面楕円形に変形せしめられ、接続手段8´の外周面は内輪4´の外周面と、外輪6´の内周面における、凹部12´の底面12a´と、一対の側面12b´及び12c´と密接する。本実施形態においては、凹部12´の断面形状と接続手段8´の断面形状とが異なると共に凹部12´は径方向よりも径方向に対して垂直な方向に幅広であることに起因して、接続手段8´(中空ピン)は断面楕円形に変形せしめられる。つまり接続手段8´は過剰に拘束された状態で変形せしめられるのではない。それ故に、接続手段8´は局所的ではなく均一に変形せしめられ、接続手段8´の変形ばらつきに起因した抵抗トルクのばらつき(個体ばらつき)は抑制される。接続手段8´が均一に変形するためには、凹部12´の断面形状と接続手段8´の断面形状とが異なること及び凹部12´が径方向よりも径方向に対して垂直な方向に幅広であることが重要であることから、変形せしめられる前の接続手段8´が断面円形の中空ピンである場合には、凹部12´の断面形状は断面非円弧形状であればよい。従って、凹部12´の断面はコの字形状でなく、3以上の角を有する角形状であってもよく、更に、周方向に曲率が変化する弧状であってもよい。なお、凹部12´は必ずしも径方向に対して垂直な方向に幅広でなくても良いが、この場合には、変形せしめられた後の接続手段8´の断面形状は楕円形ではなく、局所的に変形せしめられた形状となる虞がある。変形せしめられた後の接続手段8´の外周面が凹部12´における一対の側面12b´及び12c´と密接することで、接続手段8´が凹部12´内で外輪6´に対して周方向に移動することが確実に阻止される。
【符号の説明】
【0030】
2:トルクリミッタ
4:内輪
6:外輪
8:接続手段
12:凹部