(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161896
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】膜、防曇膜、ハードコート膜、膜の製造方法、二層膜および二層膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/06 20060101AFI20241113BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20241113BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C09D183/06
C09D171/02
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073883
(22)【出願日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2023076909
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 芳郎
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DF011
4J038DL051
4J038NA06
4J038NA11
4J038PA19
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐水性を向上させ得る膜、防曇膜、ハードコート膜、膜の製造方法、二層膜および二層膜の製造方法を提供する。
【解決手段】膜、防曇膜、ハードコート膜は、カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む。膜の製造方法は、シルセスキオキサンが有するカルボキシル基とオリゴエチレングリコールが有する水酸基とをエステル結合させる反応を行う結合ステップと、結合ステップで得られたポリマーを加熱する加熱ステップと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む、
ことを特徴とする膜。
【請求項2】
前記シルセスキオキサンが多面体オリゴシルセスキオキサンであり、
前記多面体オリゴシルセスキオキサンと前記オリゴエチレングリコールとは、カルボキシル基:水酸基が5:1~1:1で配合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記シルセスキオキサンがジカルボン酸基を有するポリシルセスキオキサンであり、
前記ポリシルセスキオキサンと前記オリゴエチレングリコールとは、カルボキシル基:水酸基が20:1~5:1で配合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記オリゴエチレングリコールのオキシエチレン基の繰り返し単位数が3~6である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の膜。
【請求項5】
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む、
ことを特徴とする防曇膜。
【請求項6】
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む、
ことを特徴とするハードコート膜。
【請求項7】
シルセスキオキサンが有するカルボキシル基とオリゴエチレングリコールが有する水酸基とをエステル結合させる反応を行う結合ステップと、
前記結合ステップで得られたポリマーを加熱する加熱ステップと、を含む、
ことを特徴とする膜の製造方法。
【請求項8】
エポキシ基を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮合したポリマーを含むプライマー膜と、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む膜と、を含む、
ことを特徴とする二層膜。
【請求項9】
エポキシ基を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが重合したポリマー溶液を基材上に塗布し、加熱してプライマー膜を成膜するステップと、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとが重合したポリマー溶液を前記プライマー膜上に塗布し、加熱して膜を成膜するステップと、を含む、
ことを特徴とする二層膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜、防曇膜、ハードコート膜、膜の製造方法、二層膜および二層膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
曇りとは、ガラス及び鏡等の表面に付いた多数の細かい水滴が光を乱反射させ、光の正常な通過又は反射を妨げている状態のことをいう。曇りを防ぐ防曇技術は、自動車等のウインドウガラス、ショーウインドウ、メガネ、ゴーグル、ヘルメット、食品包装及び医療器具等に広く活用されている。防曇技術には、基板表面を疎水性ポリマー等で疎水性又は撥水性にして水滴自体を付きにくくする方法と、基板表面を親水性にして薄い連続した水膜を形成させる方法とが主に用いられる。
【0003】
疎水性ポリマーによる基板表面のコーティングは、ガラス等の無機基板への接着性が十分でない等の不都合がある。このため、防曇膜材料の主流は、親水性ポリマーによる基板表面のコーティングである。しかし、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)等の親水性ポリマーの多くは柔らかく、引っ掻き傷又は摩耗等により、透明性及び防曇性が次第に低下してしまう。
【0004】
親水性ポリマーの欠点を補うべく、多面体オリゴシルセスキオキサン等のシルセスキオキサンを主鎖に含む親水性ポリマーを用いた防曇膜も提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の膜は、優れたハードコート性、防曇性を示す一方、水に浸漬させるともろくなり、対象物からの剥がれやひび割れが生じるなど、膜の耐水性には改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐水性を向上させ得る膜、防曇膜、ハードコート膜、膜の製造方法、二層膜および二層膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る膜は、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む、
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記シルセスキオキサンが多面体オリゴシルセスキオキサンであり、
前記多面体オリゴシルセスキオキサンと前記オリゴエチレングリコールとは、カルボキシル基:水酸基が5:1~1:1で配合されていてもよい。
【0010】
また、前記シルセスキオキサンがジカルボン酸基を有するポリシルセスキオキサンであり、
前記ポリシルセスキオキサンと前記オリゴエチレングリコールとは、カルボキシル基:水酸基が20:1~5:1で配合されていてもよい。
【0011】
また、前記オリゴエチレングリコールのオキシエチレン基の繰り返し単位数が3~6であってもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る防曇膜は、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む、
ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の観点に係るハードコート膜は、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む、
ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の観点に係る膜の製造方法は、
シルセスキオキサンが有するカルボキシル基とオリゴエチレングリコールが有する水酸基とをエステル結合させる反応を行う結合ステップと、
前記結合ステップで得られたポリマーを加熱する加熱ステップと、を含む、
ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の観点に係る二層膜は、
エポキシ基を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮合したポリマーを含むプライマー膜と、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む膜と、を含む、
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第6の観点に係る二層膜の製造方法は、
エポキシ基を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが重合したポリマー溶液を基材上に塗布し、加熱してプライマー膜を成膜するステップと、
カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとが重合したポリマー溶液を前記プライマー膜上に塗布し、加熱して膜を成膜するステップと、を含む、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐水性を向上させ得る膜、防曇膜、ハードコート膜、膜の製造方法、二層膜および二層膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(膜)
本実施の形態に係る膜は、カルボキシル基を有するシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとがエステル結合したポリマーを含む。
【0019】
シルセスキオキサンは、有機トリアルコキシシラン及び有機トリクロロシラン等の3官能性有機シラン化合物の加水分解/縮合反応により得られるRSiO1.5(Rは有機基又はH)を繰り返し構造に持つシロキサン化合物である。シルセスキオキサンの構造として、ランダム型、かご型(多面体)、ラダー状(はしご状)、ロッド状等の様々な構造が知られており、いずれの構造であってもよい。かご型オリゴSQは、シロキサン結合により3次元に閉環した構造を有している。かご型オリゴSQは多面体の骨格構造をしており、頂点にケイ素原子を、辺にシロキサン結合を配した構造をとる。かご型オリゴSQは、多面体オリゴSQとも言われ、POSS(polyhedral oligomeric silsesquioxane)とも略記される。
【0020】
本実施の形態に係るシルセスキオキサンは、側鎖の有機基としてカルボキシル基を備える。カルボキシル基は、アルキレン鎖を介して間接的に結合している等、有機基の一部の置換基として存在する形態であってもよい。また、ジカルボン酸基等、2つ以上のカルボキシル基を有する置換基として存在する形態であってもよい。
【0021】
本実施の形態に係るシルセスキオキサンがPOSSである場合、多面体の骨格構造であれば特に限定されず、多面体の頂点に配置されるケイ素原子の個数が6個のT6構造、7個のT7構造、8個のT8構造、10個のT10構造、及び12個のT12構造であってよく、ケイ素原子の個数がすべて同じであってもよいし、異なってもよい。
【0022】
オリゴエチレングリコールは、膜に水不溶性の特性を付与する。オリゴエチレングリコールのオキシエチレン基の繰り返し単位数に制限はなく、例えば、1~6、2~6、3~6、4~6、3~5、5~6、又は、4~5である。
【0023】
シルセスキオキサンがPOSSである場合、POSSとオリゴエチレングリコールとの配合比に制限はないが、例えば、POSSのカルボキシル基:オリゴエチレングリコールの水酸基が5:1~1:1、又は、2:1~1:1である。
【0024】
また、シルセスキオキサンがジカルボン酸基を有するポリシルセスキオキサンである場合、ポリシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとの配合比に制限はないが、例えば、ポリシルセスキオキサンのカルボキシル基:オリゴエチレングリコールの水酸基が20:1~5:1、又は、20:1~10:1である。
【0025】
(膜の製造方法)
膜の製造方法について説明する。当該膜の製造方法は、結合ステップと、加熱ステップと、を含む。結合ステップでは、シルセスキオキサンが有するカルボキシル基とオリゴエチレングリコールが有する水酸基とを結合させる反応を行う。
【0026】
結合ステップでは、シルセスキオキサンおよびオリゴエチレングリコールを溶解可能な溶媒中にて、シルセスキオキサンおよびオリゴエチレングリコールを混合、溶解させて反応させる。シルセスキオキサンが有するカルボキシル基とオリゴエチレングリコールが有する水酸基とのエステル化反応が生じ、エステル結合によりシルセスキオキサンとオリゴエチレングリコールとが結合する。溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド等の公知の溶媒が挙げられる。
【0027】
結合ステップの反応条件は、適宜設定される。例えば、反応温度は、40~120℃、60~100℃又は70~90℃である。反応時間は、反応速度に応じて調整され、例えば30分~90分である。なお、結合ステップで得られたポリマーは、公知の方法で単離、精製及び濃縮してもよい。例えば、再沈殿、デカンテーション、濾過、洗浄、濃縮等の操作を経て、ポリマーを得てもよい。
【0028】
加熱ステップでは、結合ステップで得られたポリマーを100℃以上に加熱する。加熱温度は、得られたポリマーの特性等に応じて設定される。加熱温度は、例えば、100~200℃である。加熱時間は、例えば、5~60分間、10~50分間又は20~40分間である。
【0029】
好ましくは、加熱ステップでは、膜を形成させる基材上でポリマーが加熱される。この場合、ポリマー溶液が表面に塗布された基材が加熱される。ポリマー溶液の溶媒は、ポリマーが溶解されれば制限されず、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール等のアルコール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド又はこれらの混合物が挙げられる。なお、結合ステップの後、ポリマーを単離しない場合には、結合ステップで得られた溶液をそのままポリマー溶液として用いてもよい。
【0030】
基材は、ポリマーが膜、好ましくは薄膜を形成することができる限り、特に制限されない。基材の材料としては、例えば無機材料及び有機材料が挙げられる。無機材料には非金属無機材料及び金属無機材料が包含される。非金属無機材料としては、例えば、ガラス及びセラミック材料等が挙げられる。金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金及び亜鉛ダイキャスト等が挙げられる。また、金属無機材料は、非金属無機材料又は有機材料の表面に施された金属メッキ皮膜であってもよい。
【0031】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料並びに繊維材料等が挙げられる。
【0032】
ポリマー溶液を基材に塗布するには、公知の方法を用いることができる。具体的には、溶液キャスト法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、印毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法及びインクジェット法等を利用してポリマー溶液を基材上に塗布できる。膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば1nm~1mm、10nm~500μm又は100nm~50μmである。
【0033】
本実施の形態に係る膜は、透明性、防曇性を有する。防曇性は、公知の様々な方法で評価できる。例えば、JIS規格で規定されたように、所定の条件下での曇りの有無を目視で確認する方法がある(JIS K2399、JIS S7027/S7301及びJIS A1514)。EN規格(EN168)のようにレーザー光の透過率に基づいて防曇性を評価できる。また、防曇性の評価には、自然結露法及び加湿噴射法等による市販の防曇性評価装置を用いてもよいし、呼気防曇性試験、蒸気防曇性試験及び低温防曇性試験等の目視による試験並びに画像解析を応用してもよい。
【0034】
本実施の形態に係る膜は、シルセスキオキサンを主鎖とするポリマーを含むので機械的強度に優れる。よって、当該膜は高い硬度を有する。当該膜の硬度は、公知の方法で評価できる。硬度の評価には、押し込み試験法を用いてもよいし、動的試験法を用いてもよい。硬度は、試験法に基づいて、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さ、ブリネル硬さ、ショア硬さ及びヌープ硬さ等で示される。簡便に評価できる硬度として、鉛筆硬度が挙げられる。鉛筆硬度は、鉛筆引っ掻き試験器等の公知の試験器で評価できる。本実施の形態に係る膜の硬度は、鉛筆硬度で、2H以上又は3H以上、好ましくは5H以上又は5Hである。
【0035】
更に、本実施の形態に係る膜は、水不溶性であるので、良好な耐水性を示し、水に浸漬させた場合においても、膜の溶解やひび割れ、基材からの剥離といった不具合が抑えられる。そして、硬度と防曇性も併せて備えているため、傷つきにくく耐久性に優れる防曇膜として利用できる。また、当該膜は、基材を外的要因から保護するハードコート膜としても有用である。
【0036】
(二層膜)
基材の物性によっては成膜されるものの、耐水性を保てずに膜が基材から剥離するおそれがある。このような場合、基材上にプライマー膜を成膜し、プライマー膜上に、上述した膜を成膜した二層膜とすることが好ましい。上記のような基材として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0037】
プライマー膜は、エポキシ基を有するアルコキシシラン(以下、エポキシ基含有アルコキシシラン)とテトラアルコキシシランとが縮重合したポリマーを含む膜である。エポキシ基含有アルコキシシランとして、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。テトラアルコキシシランとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
プライマー膜と膜との結合状態については、プライマー膜のエポキシ基と膜のカルボキシル基とのエステル結合により結合していることが推測される。また、プライマー膜と基材との結合状態については、プライマー膜のエポキシ基が開環して生じる水酸基と基材のカルボニル基とが水素結合していることが推測される。
【0039】
エポキシ基含有アルコキシシランとテトラアルコキシシランとの配合比は、モル比で10:1~1:2が好ましく、9:1~1.5:1であることがより好ましく、9:1~31であることが更に好ましく、3:1であることが最も好ましい。エポキシ基含有アルコキシシランの配合比が高すぎる場合、ポリマーのネットワーク形成が損なわれる。一方、テトラアルコキシシランの配合比が高すぎる場合、得られるプライマー膜にクラックが生じやすくなる。
【0040】
(二層膜の製造方法)
二層膜は、基材上にプライマー膜を成膜するステップと、プライマー膜上に上述した膜を成膜するステップとを含む。
【0041】
プライマー膜を成膜するステップでは、エポキシ基含有アルコキシシランおよびテトラアルコキシシランを溶解可能な溶媒中にて、エポキシ基含有アルコキシシランおよびテトラアルコキシシランを混合、溶解させる。これに、塩酸水溶液等を加えて、ゾル-ゲル反応を生じさせることで、エポキシ基含有アルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮重合したポリマー溶液が得られる。溶媒はN,N-ジメチルホルムアミド等の公知の溶媒が挙げられる。反応温度は常温でよく、反応時間は、反応速度に応じて調整され、例えば30分~90分である。
【0042】
調製したポリマー溶液を基材上に塗布し、加熱処理を行うことで、基材上にプライマー膜を形成することができる。加熱処理は、予備加熱(例えば、30~50℃で5~7時間)した後に、高温加熱処理(例えば、90~110℃で1~3時間)することが好ましい。
【0043】
また、ポリマー溶液の基材上への塗布は、公知の方法を用いることができる。具体的には、溶液キャスト法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、印毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法及びインクジェット法等を利用してポリマー溶液を基材上に塗布できる。膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば1nm~1mm、10nm~500μm又は100nm~50μmである。
【0044】
形成したプライマー膜の上に、上述した膜を成膜することで、二層膜を製造することができる。プライマー膜上への膜の成膜については、上述した膜の製造方法と同様であるため、説明を省略する。なお、プライマー膜に酸素プラズマ照射等による親水化処理をして、膜を成膜することが好ましい。
【0045】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0046】
(実験例1)
<側鎖にカルボキシル基を有するPOSS(POSS-C)の合成>
公知の方法(T.Kozuma and Y.Kaneko,J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.,2019,57,2511)に従って、下記反応式に示すようにPOSS-Cを合成した。
【0047】
【0048】
2-シアノエチルトリエトキシシランに2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え室温で15時間撹拌した後、開放系で設定温度50℃の条件で加熱して溶媒を留去し、設定温度100℃のオーブンで2時間加熱した。1mol/Lの塩酸水溶液で中和し、開放系で加熱して溶媒を蒸発させた。生成物を水で素早く洗浄し、凍結乾燥することで、PolySQ-COOHを得た。
【0049】
合成したPolySQ-COOHにトリフルオロメタンスルホン酸水溶液を加えて撹拌し、開放系で設定温度50℃の条件で加熱して溶媒を留去し、設定温度100℃のオーブンで2時間加熱した。粗生成物をアセトンに溶解させ、アセトン/クロロホルム(1/9)混合溶媒で再沈殿を行い、室温で15時間撹拌させた。吸引ろ過し、アセトニトリルで洗浄後減圧乾燥し、POSS-Cを得た。
【0050】
<POSS-C及びオリゴエチレングリコールを用いた膜(POSS-C/OEG膜)の作製>
POSS-C(0.1mmol unit)とオリゴエチレングリコールをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)0.3mL中で混合し、濃塩酸を7μL添加した。その後、密閉系80℃で1時間加熱攪拌することでポリマー溶液を調製した。親水処理済のガラス板に調製したポリマー溶液を塗布した。開放系、設定温度50℃で1時間加熱し溶媒を留去し、設定温度150℃で30分間加熱することでガラス基板上にPOSS-C/OEG膜を作製した。
【0051】
また、濃塩酸を添加しなかった以外、上記と同様の手法でポリマー溶液を調製し、この濃塩酸未添加のポリマー溶液を用い、上記と同様の手法でPOSS-C/OEG膜を作製した。
【0052】
なお、POSS-Cとオリゴエチレングリコールの配合については、POSS-Cのカルボキシル基:オリゴエチレングリコールの水酸基が5:1、2:1、1:1になるようにし、それぞれ成膜した。
【0053】
また、オリゴエチレングリコールは、オキシエチレン基の繰り返し単位数が1、2、3、4、5、6のもの(それぞれEG、2EG、3EG、4EG、5EG、6EG)を用い、それぞれ成膜した。
【0054】
<POSS-C/OEG膜の評価>
作製したPOSS-C/OEG膜について、防曇性、硬度、耐水性を評価した。
【0055】
防曇性の評価は、約40℃の温水の水面から2cm上に膜を置き、水蒸気を曝露し、曇るまでの時間を測定することで評価した。
【0056】
硬度は、鉛筆引っ掻き試験器(TP技研社製、750g)を使用し、JIS K5600-5-4に準拠して測定した。鉛筆(uni、三菱鉛筆社製)の芯先を平らに削り、キャスト膜に対する鉛筆の角度が45度となるように試験器に鉛筆を取り付けた。鉛筆を0.5~1mm/sの速度で7mm移動させた。傷跡を生じなかった最も固い鉛筆の硬度である鉛筆硬度を硬度として評価した。
【0057】
耐水性の評価は、コーティングしたガラスを室温の水に1時間浸漬し、取り出した後の膜の外観を視認し、透明度、形状が保たれているものについては「OK」とし、溶解やひび割れ、剥離等、欠陥が見られたものについては「NG」とした。
【0058】
濃塩酸未添加のポリマー溶液を用い、カルボキシル基:水酸基=5:1、2:1、1:1で成膜したPOSS-C/OEG膜の結果をそれぞれ表1~3にそれぞれ示す。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
カルボキシル基:水酸基=5:1では、5EG、6EGにおいて耐水性が良好であった。また、カルボキシル基:水酸基=2:1では、4EG~6EGにおいて良好な耐水性を示した。また、カルボキシル基:水酸基=1:1では、4EG~6EGにおいて良好な耐水性を示した。
【0063】
また、濃塩酸添加のポリマー溶液を用い、カルボキシル基:水酸基=5:1、2:1、1:1で成膜したPOSS-C/OEG膜の結果をそれぞれ表4~6にそれぞれ示す。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
カルボキシル基:水酸基=5:1では、6EGのみ耐水性が良好であった。また、カルボキシル基:水酸基=2:1では、6EGのみ良好な耐水性を示した。また、カルボキシル基:水酸基=1:1では、5EGにおいて良好な耐水性を示した。
【0068】
(実験例2)
<側鎖にカルボキシル基を2つ有するポリシルセスキオキサン(PSQ-2C)の合成>
公知の方法(J.Liu and Y.Kaneko,Bull.Chem.Soc.Jpn.,2018,91,1120)に従って、下記反応式に示すようにPSQ-2Cを合成した。
【0069】
【0070】
3-トリエトキシシリルプロピル無水コハク酸(TESPSA)(10mmol,3.2732g)に0.5mol/Lの塩酸水溶液をTESPSAに対して3当量(30mmol,60mL)加え、室温で2時間撹拌した。得られたゾル溶液を開放系で設定温度50℃のホットプレート上で加熱することで溶媒を留去したのち、設定温度100℃のオーブンで2時間加熱した。得られた粗生成物をメタノール(10mL)に加え、設定温度60℃のホットプレートで加熱することで溶解させた。得られた溶液を酢酸エチル300mLに投入することで再沈殿を行い、デカンテーションによって不溶部を回収した。回収した不溶部を酢酸エチルで洗浄し、減圧乾燥することでPSQ-2Cを得た。
【0071】
<PSQ-2C及びオリゴエチレングリコールを用いた膜(PSQ-2C/OEG膜)の作製>
PSQ-2C(0.1mmol unit)とオリゴエチレングリコールをDMF0.3mL中で混合し、濃塩酸を7μL添加した。その後、密閉系80℃で1時間加熱攪拌し、ポリマー溶液を調製した。
【0072】
親水処理をしたガラス板にポリマー溶液を塗布した。開放系、設定温度50℃で2時間加熱し溶媒を留去した後、設定温度150℃で30分間加熱乾燥した。その後、精製水に1時間浸漬し、室温乾燥することでガラス板上にPSQ-2C/OEG膜を作製した。
【0073】
PSQ-2Cとオリゴエチレングリコールの配合については、PSQ-2Cのカルボキシル基:オリゴエチレングリコールの水酸基が20:1、10:1、5:1になるようにし、それぞれ成膜した。
【0074】
また、オリゴエチレングリコールは、オキシエチレン基の繰り返し単位数が1、2、3、4、5、6のもの(それぞれEG、2EG、3EG、4EG、5EG、6EG)を用いた。
【0075】
<PSQ-2C/OEG膜の評価>
作製したPSQ-2C/OEG膜について、上述したPOSS-C/OEG膜と同様の評価手法により、防曇性、硬度、耐水性を評価した。
【0076】
カルボキシル基:水酸基=20:1、10:1、5:1で成膜したPSQ-2C/OEG膜の評価結果を表7~9にそれぞれ示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
カルボキシル基:水酸基=20:1では、3EG~6EGにおいて耐水性が良好であった。また、カルボキシル基:水酸基=10:1では、3EG~6EGにおいて良好な耐水性を示した。また、カルボキシル基:水酸基=5:1では、2EG~4EGにおいて良好な耐水性を示した。
【0081】
(実験例3)
基材としてアクリル樹脂板を用い、アクリル樹脂板上に二層膜を作製し、評価を行った。
【0082】
<GOPTS/TOMSポリマーの合成>
3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GOPTMS、3.75mmol)とテトラメトキシシラン(TMOS、1.25mmol)をDMFに溶解させ、塩酸水溶液(1.0mol/L、0.5mL)を加えた。室温で15分間攪拌し、GOPTS/TOMSポリマー溶液を調製した。
【0083】
<プライマー膜(GOPTS/TOMS膜)の作製>
酸素プラズマ照射により親水化したアクリル樹脂基板上にGOPTS/TOMSポリマー溶液を塗布し、室温で1日間乾燥することで溶媒を留去した。40℃で6時間加熱処理した後、100℃で2時間加熱処理することで、GOPTS/TOMS膜を作製した。
【0084】
<側鎖にカルボキシル基を有するPOSS(POSS-C)の合成>
POSS-C(0.4mmol unit)とOEGをDMF(0.3mL)中で混合し、濃塩酸を7μL添加した。その後、密閉系80℃で1時間加熱攪拌することでPOSS-C/OEGポリマー溶液を調製した。なお、POSS-CとOEGの配合比は、カルボキシル基:水酸基が5:1、OEGはテトラエチレングリコールである。
【0085】
<二層膜の作製>
酸素プラズマ照射による親水化処理を行ったGOPTS/TOMS膜上に、調製したPOSS-C/OEGポリマー溶液を塗布した。開放系、設定温度50℃で2時間加熱し溶媒を留去した。設定温度100℃で2時間加熱し、更に、設定温度150℃で1時間加熱することでGOPTS/TOMS膜上にPOSS-C/OEG膜を作製した。
【0086】
<二層膜の評価>
作製した二層膜について、実験例1と同様の評価手法により、防曇性、硬度、耐水性を評価した。二層膜の評価結果を表10に示す。
【0087】
【0088】
作製した二層膜は、アクリル樹脂板からの剥離はなく、良好な耐水性を示した。そして、硬度および防曇性のいずれについても良好であった。