(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161898
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】スイッチングコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024074300
(22)【出願日】2024-05-01
(31)【優先権主張番号】18/313,785
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィノド・アラビンダクシャン・ラリタンビカ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ジョン・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】アラン・リチャード・ウォリントン
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ラブ
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA10
5H730AS05
5H730BB13
5H730FG03
5H730FG12
(57)【要約】
【課題】 スイッチングコンバータを提供する。
【解決手段】
スイッチングコンバータは、スイッチングノードでローサイドパワースイッチに接続されたハイサイドパワースイッチと、ドライバと、タイミング回路とを有している。ドライバは、オン時間を有し、ハイサイドパワースイッチを駆動するための駆動信号を生成する。タイミング回路は、負荷過渡期間中にオン時間を調整するための制御信号を生成する。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧を供給するスイッチングコンバータであって、
スイッチングノードでローサイドパワースイッチに接続されたハイサイドパワースイッチと、
前記ハイサイドパワースイッチを駆動するための駆動信号を生成するように適合され、前記駆動信号がオン時間を有するドライバと、
負荷過渡期間中に前記オン時間を調整するための制御信号を生成するように構成されたタイミング回路と、を備える、
スイッチングコンバータ。
【請求項2】
前記タイミング回路は、前記負荷過渡期間中に負荷が増加している場合、前記オン時間を増加させるように適合されている、
請求項1に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項3】
定常状態では、前記オン時間は一定のままである、
請求項1に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項4】
前記制御信号は、前記ハイサイドパワースイッチをオンにするための第1の信号と、前記ハイサイドパワースイッチをオフにするための第2の信号とを含む、
請求項1に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項5】
前記タイミング回路は、前記第1の信号を生成するように適合された第1の回路と、前記第2の信号を生成するように適合された第2の回路とを含み、
前記第2の回路は、トリガ信号がアサートされるまで第2信号のアサートを遅延させて前記オン時間を延長するように構成されている、
請求項4に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項6】
前記第1の回路は、第1のコンパレータに接続された補償回路を含み、前記第1のコンパレータは、前記補償回路から第1の動的基準信号を受信するための第1の入力と、調整されたランプ信号を受信するための第2の入力と、前記第1の信号を提供するための第1の出力と、第1のトリガ信号を提供するための第2の出力とを有する、
請求項5に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項7】
前記第1の動的基準信号は、基準信号と前記出力電圧との差に比例する、
請求項6に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項8】
前記第1の回路は第2のコンパレータを含み、前記第2のコンパレータは、前記補償回路から第2の動的基準信号を受信するための第1の入力と、前記調整されたランプ信号を受信するための第2の入力と、第3の信号を提供するための第1の出力と、第2のトリガ信号を提供するための第2の出力とを有する、
請求項6に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項9】
前記第2の動的基準信号は、基準電圧と前記出力電圧との差に比例する、
請求項8に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項10】
過渡負荷期間中に前記第1の動的基準信号と前記第2の動的基準信号とが分岐する、
請求項8に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項11】
前記第2の回路は、コンパレータと、コンデンサ回路と、ANDゲートとを含み、前記コンパレータは、前記コンデンサ回路に接続された第1の入力と、前記出力電圧を受信するための第2の入力とを有し、
前記ANDゲートは、前記コンパレータの出力を受信するための第1の入力と、前記第1の回路からの前記トリガ信号を受信するための第2の入力と、前記第2の信号を提供するための出力とを有する、
請求項5に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項12】
前記調整されたランプ信号を生成するためのランプ発生器をさらに備え、
前記調整されたランプ信号は、ランプ信号と組み合わされたフィードバック信号を含む、
請求項5に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項13】
前記ランプ発生器は、合成ランプ発生器を含む、
請求項12に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項14】
前記第1の信号は、前記第1の動的基準信号が前記調整されたランプ信号よりも大きい限り、ハイである、
請求項5に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項15】
前記第3の信号は、前記第2の動的基準信号が前記調整されたランプ信号よりも大きい限り、ハイである、
請求項8に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項16】
前記補償回路は、タイプIIデュアル補償回路に接続されたトランスコンダクタンス増幅器を含む、
請求項6に記載のスイッチングコンバータ。
【請求項17】
ローサイドパワースイッチに接続されたハイサイドパワースイッチを有するスイッチングコンバータを制御する方法であって、
前記ハイサイドパワースイッチを駆動するための駆動信号を生成するステップであって、前記駆動信号がオン時間を有するステップと、
負荷過渡期間中に前記オン時間を調整するための制御信号を生成するステップと、を備える、
スイッチングコンバータを制御する方法。
【請求項18】
定常状態では、前記オン時間は一定のままであり、
前記負荷過渡期間中に負荷が増加している場合、前記オン時間は前記一定のオン時間を超えて延長される、
請求項17に記載のスイッチングコンバータを制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチングコンバータに関し、特に過渡応答が改善されたコンスタントオンタイム(コンスタントオン時間(Constant On Time(COT)))スイッチングコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
コンスタントオンタイム(COT)スイッチングコンバータは、軽負荷時の高効率、連続導通モード(CCM)から不連続導通モード(DCM)への動作のスムーズな移行など、他のタイプのスイッチングコンバータに比べていくつかの利点を備えている。しかし、従来のCOTコンバータは、過渡負荷期間中に大きなアンダーシュートを示す傾向があり、そのためコンバータの効率が制限されてしまう。本開示の目的は、上記の制限の1つ以上に対処することである。
【発明の概要】
【0003】
本開示の第1の態様によれば、出力電圧を供給するスイッチングコンバータであって、スイッチングノードでローサイドパワースイッチに接続されたハイサイドパワースイッチと、ハイサイドパワースイッチを駆動するための駆動信号を生成するように適合され、駆動信号がオン時間を有するドライバと、負荷過渡期間中にオン時間を調整するための制御信号を生成するように構成されたタイミング回路とを備える、スイッチングコンバータが提供される。
【0004】
たとえば、負荷過渡期間は、軽負荷状態と重負荷状態との間の期間であってもよい。
【0005】
任意に、タイミング回路は、負荷過渡期間中に負荷が増加している場合にオン時間を長くするように適合されている。
【0006】
任意に、定常状態ではオン時間は一定のままである。たとえば、定常状態では、負荷は実質的に一定のままであってもよい。負荷過渡期間中に負荷が増加している場合、オン時間は一定のオン時間を超えて延長されてもよい。
【0007】
任意に、制御信号は、ハイサイドパワースイッチをオンにするための第1の信号と、ハイサイドパワースイッチをオフにするための第2の信号とを含む。
【0008】
任意に、タイミング回路は、第1の信号を生成するように適合された第1の回路と、第2の信号を生成するように適合された第2の回路とを備え、第2の回路は、トリガ信号がアサートされるまで第2の信号のアサートを遅延させてオン時間を延長するように構成される。
【0009】
任意に、第1の回路は、第1のコンパレータに接続された補償回路を備え、第1のコンパレータは、補償回路から第1の動的基準信号を受信するための第1の入力と、調整されたランプ信号を受信するための第2の入力と、第1の信号を提供するための第1の出力と、第1のトリガ信号を提供するための第2の出力とを有する。
【0010】
たとえば、第1のトリガ信号は、反転された第1の信号であってもよい。
【0011】
任意に、第1の動的基準信号は、基準信号と出力電圧との差に比例する。
【0012】
任意に、第1の回路は、第2のコンパレータを備え、第2のコンパレータは、補償回路から第2の動的基準信号を受信するための第1の入力と、調整されたランプ信号を受信するための第2の入力と、第3の信号を提供するための第1の出力と、第2のトリガ信号を提供するための第2の出力とを有する。
【0013】
たとえば、第2のトリガ信号は、反転された第3の信号であってもよい。
【0014】
任意に、第2の動的基準信号は、基準電圧と出力電圧との差に比例する。
【0015】
任意に、過渡負荷期間中、第1の動的基準信号と第2の動的基準信号は分岐する。たとえば、過渡負荷期間中、第2の動的基準信号は、第1の動的基準信号よりも大きい場合がある。
【0016】
任意に、第2の回路は、コンパレータと、コンデンサ回路と、ANDゲートとを備え、コンパレータは、コンデンサ回路に接続された第1の入力と、出力電圧を受信するための第2の入力とを有し、ANDゲートは、コンパレータの出力を受信するための第1の入力と、第1の回路からのトリガ信号を受信するための第2の入力と、第2の信号を提供するための出力とを有する。
【0017】
任意に、スイッチングコンバータは、調整されたランプ信号を生成するためのランプ発生器を備え、調整されたランプ信号は、ランプ信号と組み合わされたフィードバック信号を含む。
【0018】
任意に、ランプ発生器は、合成ランプ発生器を含む。
【0019】
任意に、第1の信号は、第1の動的基準信号が調整されたランプ信号よりも大きい限り、ハイである。
【0020】
任意に、第3の信号は、第2の動的基準信号が調整されたランプ信号よりも大きい限り、ハイである。
【0021】
任意に、補償回路は、タイプIIデュアル補償回路に接続されたトランスコンダクタンス増幅器を備える。例えば、トランスコンダクタンス増幅器は、基準電圧に接続された第1の入力と、フィードバック電圧に接続された第2の入力とを有する。
【0022】
本開示の第2の態様によれば、ローサイドパワースイッチに接続されたハイサイドパワースイッチを有するスイッチングコンバータを制御する方法であって、ハイサイドパワースイッチを駆動するための駆動信号を生成するステップであって、駆動信号がオン時間を有するステップと、負荷過渡期間中にオン時間を調整するための制御信号を生成するステップとを備える、スイッチングコンバータを制御する方法が提供される。
【0023】
任意に、定常状態ではオン時間は一定のままであり、負荷過渡期間中に負荷が増加している場合、オン時間は一定のオン時間を超えて延長される。
【0024】
本開示の第1の態様に関して説明した任意選択可能なものについては、本開示の第2の態様においても共通である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本開示は、添付の図面を参照して、例として以下にさらに詳細に説明される。
【
図1A】従来技術によるコンスタントオンタイムスイッチングコンバータを示す図である。
【
図1B】
図1AのCOTコンバータで使用されるターンオン回路を示す図である。
【
図1C】
図1AのCOTコンバータで使用されるターンオフ回路を示す図である。
【
図1F】異なる回路構成で観察されるリップルを示す図である。
【
図2A】従来技術による別のコンスタントオンタイムスイッチングコンバータを示す図である。
【
図2C】
図2AのCOTコンバータで使用されるターンオン回路を示す図である。
【
図4】本開示によるスイッチングコンバータを制御する方法のフローチャートである。
【
図5A】
図4の方法を実施するためのスイッチングコンバータを示す図である。
【
図5B】
図5AのCOTコンバータで使用されるターンオン回路を示す図である。
【
図5C】
図5AのCOTコンバータで使用されるターンオフ回路を示す図である。
【
図6】
図5AのCOTコンバータの動作を示す状態図である。
【
図7】負荷過渡期間中における
図5Aの回路の動作を示す波形図である。
【
図8A】
図4の方法を実施するための別のスイッチングコンバータを示す図である。
【
図8B】
図8AのCOTコンバータで使用されるターンオン回路を示す図である。
【
図8C】
図8AのCOTコンバータで使用されるターンオフ回路を示す図である。
【
図11A】パルス周波数変調(PFM)モードでのQRSRCOTコンバータの動作を示す波形図である。
【
図11B】パルス幅変調(PWM)モードでのQRSRCOTコンバータの動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1Aは、従来技術によるコンスタントオンタイムスイッチングコンバータ100を示している。コンバータは、ドライバ120およびタイミング回路150にフィードバックループで接続された出力段110を含んでいる。
【0027】
出力段110は、スイッチングノードLXでインダクタL1に接続されたハイサイドパワースイッチM1とローサイドパワースイッチM2とで構成される。センサF1と抵抗R1とによって形成される電流検出回路が、インダクタL1に接続されている。センサF1は、インダクタを流れる電流を検出するために使用され、インダクタ電流に比例した電流を出力する。抵抗R1は、F1からの出力電流をインダクタ電流に比例した電圧に変換する。
【0028】
ドライバ120には、有限状態マシンFSMなどの状態マシン122が含まれ、この状態マシンは、ゼロインダクタ電流を検出するためのゼロ電流検出回路(ZCD)とインダクタ電流を制限する電流制限回路(CL)とに接続されている。ZCD回路は、コンパレータ126で構成される。電流制限回路は、コンパレータ124と電流検出回路(F1およびR1)とで構成される。
【0029】
タイミング回路150は、ドライバ120に制御信号を送信してハイサイドおよびローサイドパワースイッチを制御するように構成されている。タイミング回路150は、ターンオン信号を生成するためのターンオン回路130と称される第1の回路と、ターンオフ信号を生成するためのターンオフ回路140と称される第2の回路とを有している。ターンオン信号とターンオフ信号とが合わさってタイミング制御信号を形成する。タイミング制御信号は、パルス幅変調PWM信号などの波形パルスであってもよい。
【0030】
図1Bは、ターンオン回路を示している。ターンオン回路130は、電圧VREF+VRAMPを受信するための非反転入力と、フィードバック電圧FBを受信するための反転入力と、ドライバ120にターンオン信号を提供するための1つの出力とを有するコンパレータ132を含んでいる。
【0031】
図1Cは、ターンオフ回路140を示している。ターンオフ回路140は、コンデンサ回路144の出力に接続された非反転入力と、コンバータからの出力電圧Voutを受信するための反転入力と、ドライバ120にターンオフ信号を提供するための出力とを有するコンパレータ142を含んでいる。コンデンサ回路144(COTタイマーとも称す)は、コンデンサC1に関連付けられた電圧を供給するように構成されている。スイッチS3が解放されるとすぐに、コンデンサC1は、トランスコンダクタンス増幅器U6によって生成された電流によって直線的に充電される。コンデンサの電圧がVOUT電圧を超えると、コンパレータ142の出力(TOFF)がハイになる。コンデンサを充電する電流は「PVIN」に比例し、このPVINは降圧コンバータへの入力電圧である。スイッチの開放からTOFF出力がハイになるまでの時間遅延は、ハイサイドパワースイッチ「M1」がオンになる期間(TON時間)である。この構成では、オン時間はVOUT/VINに比例し、降圧スイッチング周波数はVINとVOUTとに影響されなくなる。
【0032】
動作中、VFBがVREF+RAMPより低い場合、コンパレータ132は、ターンオン信号(論理ハイ)をアサートしてPWMをハイに初期化し、TONタイマーを開始する。次に、ゲートドライバ120は、固定期間D*Tの間、ハイサイドスイッチM1をオンにし、ローサイドスイッチM2をオフにする。ここで、Dはデューティサイクル、Tはスイッチング期間であり、そのため「コンスタントオンタイムスイッチングコンバータ」という名前が付けられる。コンデンサ回路144によって決定された固定期間が終了すると、コンパレータ142はターンオフ信号(論理ハイ)をアサートし、そのためPWMがローになる。次に、ドライバ120はハイサイドスイッチM1をオフにし、ローサイドスイッチM2をオンにする。出力電圧はD*Vinに調整され、このVinは電源電圧である。
【0033】
図1Dは、
図1Aの回路の動作を示す波形図であり、PWM信号と、フィードバック電圧VFBと、ランプが追加された基準電圧VREF(VREF+RAMP)を含む結合電圧とが示されている。理想的には、PWMが初期状態にアップされると(COT入力により、TONが終了するまでVFBがVREF+RAMPと交差する状態をラッチ)、VREF電圧が急激に低下(ジャンプダウン)し(たとえば約10mv)、その後、サイクル全体でゆっくりと上昇する。TONが終了すると、TOFFが開始され、VFB電圧が下降する。VFBがVREF+RAMPに達すると、次のサイクルが開始される。VFBが下降している間、VREF+RAMPは上昇している。VFBとVREF+RAMPとの交差ポイントを「Vref」とするには、(1)VREFのジャンプダウンを最大で約10mvに制御し、(2)サイクル全体でVREFのランプ(傾斜)を制御することが必要となる。
【0034】
図1Eは、
図1Aのコンバータの修正版の動作を示す波形図である。この例では、ターンオン回路130が変更され、ランプ信号がなくなり、コンパレータ132を使用してVFBとVREFとを直接比較している。
【0035】
動作中、COT_FSM(122)はTOFF(min)タイマーを開始する。TOFF(min)タイマー期間中、FBコンパレータ132はブランクになる。TOFF(min)タイマーが終了すると、コンパレータ132はブロック解除され、VFB<VREFBとなる状況を待つ。VFB<VREFになると、信号SW_TOPがハイになり、上部スイッチM1がオンになる。VFBにノイズがあるため、SW_TOPの立ち上がりエッジにはジッタがある。このジッタは、VFBの立ち下がりスロープによって決まる。
【0036】
図1Fは、異なる回路構成で観察されるリップルを示した図である。出力コンデンサ(110のC2)として小さなESRコンデンサを選択するには、外部RC補償器が必要となる。システムは、出力リップルによる不安定性の影響を受けやすくなる。
【0037】
図2Aは、従来技術による別のコンスタントオンタイムスイッチングコンバータ200を示す。回路200は、
図1の回路100に示されているものと多くの類似した部品を共有している。対応する部品を表すために同じ参照番号が使用されており、簡潔にするためにそれらの説明は繰り返さない。ターンオン回路230とターンオフ回路140とにより、タイミング回路250が構成される。この場合、合成ランプ260はターンオン回路230に接続される。部品260、230、140、および120により、合成ランプ(SR)COT降圧コントローラが構成される。
【0038】
図1Aでは、ハイサイドパワースイッチM1がオンでローサイドパワースイッチM2がオフの場合、インダクタ電流は、(PVIN-VOUT)/L1に比例する割合で増加する。M2がオンでM1がオフの場合、インダクタ電流は、-VOUT/Lに比例する割合で減少する。
【0039】
図2Bは、合成インダクタ電流ランプ回路(単に合成ランプ回路と称す)を示している。回路260は、ランプ発生器262に接続された加算器261を備えている。ランプ発生器262には、ノードMで接続された2つのトランスコンダクタンス増幅器(gm増幅器)263および264が含まれている。gm増幅器263は、スイッチS4を介して電圧ランプVDDに接続されている。gm増幅器264は、スイッチS9を介してグランドに接続されている。ノードMとグランドの間には、コンデンサC4が設けられている。
【0040】
動作中、回路262は、インダクタ電流に比例する電圧ランプ(GM_RAMP)を生成する。信号SW_TOPおよびSW_BOTにより、それぞれスイッチS4およびS9の状態が制御される。その結果、上部スイッチS4および下部スイッチS9は、それぞれハイサイドパワースイッチM1およびローサイドパワースイッチM2を模倣する。上部スイッチS4がオン(SW_TOPがハイ)で下部スイッチS9がオフ(SW_BOTがロー)の場合、GM増幅器263は電流(PVIN-VOUT)*GAINを生成する。これによりコンデンサC7が充電され、(PVIN_VOUT)*GAIN/C7に比例する割合で増加する電圧ランプが生成される。スイッチS9がオン(SW_BOTがハイ)でスイッチS4がオフ(SW_TOPがロー)の場合、GM増幅器264は電流(VOUT)*GAINを生成する。これによりコンデンサC7が放電され、(-VOUT)*GAIN/C7に比例する割合で低下する電圧ランプが生成される。gm増幅器263および264は一緒に、インダクタ電流に比例しインダクタのDC電流情報を保持する合成ランプGM_RAMPを生成する。加算器261は、ランプ発生器262によって生成されたGM_RAMP信号にフィードバックFB信号を加算する。合成ランプ回路260は、等価直列抵抗(ESR)コンデンサが低い場合でも、
図1のCOTと比較してループの安定性を向上させる。
【0041】
図2Cは、ターンオン回路を示している。ターンオン回路230は、補償回路234に接続されたコンパレータ232を含む。補償回路234は、基準電圧(VREF)とFBのフィードバック電圧(VFB)間の誤差を取り除くように設計されている。補償回路は、タイプII補償器である。タイプII補償増幅器U14は、RCブランチを追加してゲインを平坦化し、中周波数範囲での位相応答を改善する。位相の増加は、補償の極とゼロの分離を増やすことによって実現される。コンパレータ232は、補償回路から電圧VREF_PLUS_COMPを受信するための非反転入力と、合成ランプ回路260から電圧FB_PLUS_RAMPを受信するための反転入力と、ドライバ120にターンオン信号を提供するための出力とを有する。電圧FB_PLUS_RAMPは調整ランプ信号と呼ばれることがある。
【0042】
図3は、
図1Aおよび
図2AのCOTコンバータの動作を示す状態図である。3つの状態が示されており、オン状態、オフ状態、および 第3状態(Tri―state)と称される。
【0043】
オン状態では、ハイサイドパワースイッチがオンで、ローサイドパワースイッチがオフである。オフ状態では、ハイサイドパワースイッチがオフで、ローサイドパワースイッチがオンである。第3状態は、スイッチモード電源が不連続電流モード(DCM)で動作し、ハイサイドパワースイッチとローサイドパワースイッチの両方がオフになっているときに発生する。第3状態は、インダクタ電流ILがゼロ値に達し、スイッチモード電源がDCMで動作した後で開始されてもよい。第3状態は、数μsから数ms続くことがある。
【0044】
電流状態が「オフ」で、インダクタ電流ILがゼロ値に達したことをZCD回路が検出すると、スイッチングコンバータは第3状態になる。ターンオン回路がターンオン信号を有効にすると、ハイサイドパワースイッチがオンになる(オン状態)。ターンオフ回路がターンオフ信号を有効にすると、ハイサイドパワースイッチがオフになる(オフ状態)。
【0045】
ターンオン信号は、VREF_PLUS_COMPとFB_PLUS_RAMPとを比較するコンパレータ232の出力によって提供される。TON状態になると、コンスタントオンタイムが終了した時点でTOFF信号がハイになる。ZCD回路は、インダクタ電流がゼロに達したかどうかを判断する。コンパレータ124によって提供されるローサイド電流制限信号(LS_CL)は、インダクタ電流が電流制限値を超えているとハイになる。
【0046】
図4は、本開示によるスイッチングコンバータを制御する方法のフローチャートである。スイッチングコンバータは、スイッチングノードでハイサイドパワースイッチとローサイドパワースイッチとに接続されたインダクタを有している。ステップ410では、ハイサイドパワースイッチを駆動するための駆動信号が生成される。駆動信号はオン時間を有している。ステップ420では、負荷過渡期間中にオン時間を調整するための制御信号が生成される。
【0047】
たとえば、定常状態では、オン時間は一定のままである。負荷過渡期間中に負荷が増加すると、オン時間は一定のオン時間を超えて延長される。
【0048】
この方法により、インダクタを流れるインダクタ電流ILが急速に増加される。これにより、従来のCOTコントローラと比較して、負荷過渡期間中のアンダーシュートが低減され、スイッチングコンバータの効率が向上する。
【0049】
図5Aは、
図4の方法を実施するためのスイッチングコンバータを示す図である。回路500は、
図2の回路200に示されているものと多くの類似した部品を共有している。対応する部品を表すために同じ参照番号が使用されており、簡潔にするためにそれらの説明は繰り返さない。ターンオン回路530とターンオフ回路540とにより、タイミング回路550が構成される。部品260、530、540、および120により、クイックレスポンス合成ランプ(QRSR)COT降圧コントローラが構成される。
【0050】
図5Bは、
図5Aの回路におけるターンオン回路の実装状態を示している。ターンオン回路530は、
図2Cの回路230に類似しているが、この場合、コンパレータ532は、ターンオン信号と、第1のトリガ信号とも称される反転ターンオン信号(nターンオン信号(nTurn_ON))との2つの信号を提供するように適合されている。
【0051】
図5Cは、
図5Aの回路におけるターンオフ回路の実装状態を示している。ターンオフ回路540は、
図1Cの回路140に類似しているが、この場合、追加のANDゲート546が設けられている。ANDゲート546は、ターンオフコンパレータ542の出力を受信するための第1の入力と、回路530からのnターンオン信号を受信するための第2の入力と、TOFF信号を提供するための出力とを有する。
【0052】
ANDゲート546は、オン時間を延長するために使用される。コンパレータ542の出力がハイの場合、ANDゲートの出力におけるTOFFは、nターンオン信号がハイの場合にのみハイになる。ターンオン信号がハイの場合、nターンオン信号はローで、ANDゲートの出力はローであるので、TOFFはローになる。ターンオン信号がローの場合、nターンオン信号はハイで、ANDゲートの出力はハイであるので、TOFFはハイになる。言い換えると、ターンオンコンパレータ532の出力がハイである限り、TOFF信号はゲートオフされる。コンパレータ532によって提供されるターンオン信号は、VREF_PLUS_COMPがFB_PLUS_RAMPを超えている限りハイである。調整されたランプ信号FB_PLUS_RAMPが動的基準信号VREF_PLUS_COMPを下回ると、ハイサイドパワースイッチM1がオンになる。M1は、少なくともコンスタントオン時間の期間中はオンのままである。コンパレータ532の出力がハイの場合、オン時間はコンスタントオン時間の期間を超えて延長される。
【0053】
図6は、
図5AのCOTコンバータの動作を示す状態図である。
図3の状態図と比較すると、オン状態からオフ状態への遷移がターンオン信号によって制限されるようになっている。
【0054】
図7は、負荷過渡時の
図5Aの回路の動作を示す波形図である。
図7は、インダクタ電流710、調整されたランプ信号FB_PLUS_RAMP720、動的基準信号VREF_PLUS_COMP730、および出力電圧VOUT740を示している。インダクタ電流は鋸歯状のプロファイルを有する。インダクタ電流ILの立ち上がり時間は、ハイサイドパワースイッチのオン時間に対応している。時刻t0とt1との間、VREF_PLUS_COMP(730)はFB_PLUS_RAMP(720)より上になり、オン時間はコンスタントオン時間を超えて延長される。この例では、負荷過渡は1nsで50mAの軽負荷から2Aの重負荷まで変化する。出力電圧VOUTは2Vで、アンダーシュートは36mV(1.8%)である。
【0055】
図8Aは、
図4の方法を実施するための別のスイッチングコンバータを示す図である。回路800は、
図5の回路500に示されているものと多くの類似した部品を共有している。対応する部品を表すために同じ参照番号が使用されており、簡潔にするためにそれらの説明は繰り返さない。ターンオン回路830とターンオフ回路840とにより、タイミング回路850が構成される。部品260、830、840、および120により、QRSR_COT降圧コントローラが構成される。
【0056】
図8Bは、
図8Aの回路におけるターンオン回路の実装状態を示している。ターンオン回路830は、
図5Bの回路530に類似しているが、この場合、補償回路834に追加のコンパレータが設けられている。補償回路834には、VREFとVFBとを比較するトランスコンダクタンス増幅器(gm増幅器)835が含まれており、この増幅器は、ノードAに電圧VREF_PLUS_COMP1を、ノードBに電圧VREF_PLUS_COMP2を提供するタイプIIデュアル補償回路(R5、R6およびC4)に接続されている。
【0057】
電圧VREF_PLUS_COMP1は、第1の動的基準信号と称され、電圧VREF_PLUS_COMP2は、第2の動的基準信号と称される場合がある。電圧信号VREF_PLUS_COMP1およびVREF_PLUS_COMP2は、基準電圧Vrefとフィードバック電圧FBとの差に比例し、したがってVrefと出力電圧Voutとの差に比例する。
【0058】
第1のコンパレータ832は、補償回路834から電圧VREF_PLUS_COMP1(第1の動的基準信号)を受信するための非反転入力と、合成ランプ260から電圧FB_PLUS_RAMP(調整されたランプ信号)を受信するための反転入力と、ドライバ120にターンオン信号を提供するための第1の出力と、反転ターンオン信号を提供するための第2の出力とを有する。
【0059】
第2のコンパレータ833は、補償回路834から電圧VREF_PLUS_COMP2(第2の動的基準信号)を受信するための非反転入力と、合成ランプ260から電圧FB_PLUS_RAMP(調整されたランプ信号)を受信するための反転入力と、信号EXT_ONを提供するための第1の出力と、反転信号nEXT_TONをターンオン回路840に提供するための第2の出力とを有する。反転信号nEXT_TONは、第2のトリガ信号とも称される。
【0060】
第2のコンパレータ833の出力は、VREF_PLUS_COMP2がFB_PLUS_RAMPを超えている限りハイである。調整されたランプ信号FB_PLUS_RAMPが第1の動的基準信号VREF_PLUS_COMP1を下回ると、ハイサイドパワースイッチM1がオンになる。M1は、少なくともコンスタントオン時間の期間中はオンのままである。EXT_TON信号がハイの場合、オン時間はCOT時間を超えて延長される。EXT_TONがハイである限り、M1はハイのままである。
【0061】
図8Cは、
図8Aの回路におけるターンオフ回路の実装状態を示している。ターンオフ回路840は、
図1Cの回路140と同じであるが、この場合、ANDゲート546/846は、信号nTurn_ONの代わりに信号nEXT_TONを受信する。
【0062】
図9は、
図8Aの回路の動作を示す波形図である。
図9は、EXT_ON信号910、TURN_ON信号920、出力電圧VOUT930、インダクタ電流940、FB_PLUS_RAMP信号950、VREF_PLUS_COMP1信号960、およびVREF_PLUS_COMP2信号970を示している。
【0063】
VREF_PLUS_COMP2信号970およびVREF_PLUS_COMP1信号960は、負荷過渡時に分岐する。時間t0において、FB-PLUS_RAMP信号950がVREF_PLUS_COMP1信号960を横切り、ハイサイドパワースイッチM1がオンになる。ハイサイドパワースイッチM1は、次の両方の条件が満たされるまでオンのままである。すなわち、i)コンスタントオン時間(COT)が経過することおよびii)FB-PLUS_RAMP信号950がVREF_PLUS_COMP2を横切ることである。この例では、条件(i)と(ii)とは時間t1において満たされる。
【0064】
延長オン時間信号910は、出力電流930が増加するにつれて減少する。時間t2とt3との間の次の反復では、オン時間は依然として延長されるが、延長される量ははるかに少なくなる。
【0065】
図10Aは、
図2A、
図5A、および
図8AのそれぞれのCOTコンバータで負荷過渡時に得られるインダクタ電流ILを示す図である。波形1010は、
図2Aの従来のCOTコンバータで得られたILを示している。波形1020および1030は、
図5Aおよび
図8AのそれぞれのCOTコンバータで得られたILを示している。
【0066】
図10Bは、
図2A、
図5A、および
図8AのそれぞれのCOTコンバータで負荷過渡時に得られる出力電圧Voutを示す図である。波形1012は、
図2Aの従来のCOTコンバータで得られる出力電圧Voutを示している。波形1022および1032は、
図5Aおよび
図8AのそれぞれのCOTコンバータで得られるVoutを示している。
【0067】
図2AのCOTコンバータと比較すると、
図5Aおよび
図8Aのコンバータは負荷過渡時のアンダーシュートが低減されている。
図8Aのデュアルコンパレータコンバータは、
図5Aのシングルコンパレータコンバータと比較すると、アンダーシュートがさらに低減されている。
【0068】
図11Aは、パルス周波数変調(PFM)モードでのQRSRCOTコンバータの動作を示す波形図である。
【0069】
図11Bは、パルス幅変調(PWM)モードでのQRSRCOTコンバータの動作を示す波形図である。定常状態では、SRCOTコンバータとQRSRCOTコンバータとは同じように動作する。
【0070】
要約すると、本開示のスイッチングコンバータは、定常状態(一定負荷)ではコンスタントオン時間を維持する。負荷過渡時には、オン時間は制御された方法で増加する。これにより、純粋なCOTコントローラと比較して、インダクタ電流がはるかに急速に増加する。
【0071】
当業者は、開示された構成の変形が本開示から逸脱することなく可能であることを理解するであろう。したがって、上記の特定の実施形態の説明は、例示のみを目的とするものであり、限定を目的としたものではない。当業者には、説明された動作に大きな変更を加えることなく、軽微な変更を加えることができることは明らかである。
【外国語明細書】