(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161908
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】亀裂検知用塗膜層、鋼構造物の亀裂検知方法および亀裂補修方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/20 20060101AFI20241113BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241113BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20241113BHJP
C09D 5/25 20060101ALI20241113BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241113BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241113BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241113BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241113BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20241113BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20241113BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241113BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20241113BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
G01N27/20 A
E04G23/02 D
C09D5/24
C09D5/25
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/62
C09D133/00
C09D163/00
B32B15/18
B32B15/08 E
B32B7/025
H01B5/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075290
(22)【出願日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2023076819
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 智敏
【テーマコード(参考)】
2E176
2G060
4F100
4J038
5G307
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176BB01
2G060AA08
2G060AE04
2G060AF07
2G060AG09
2G060EA03
2G060EA06
4F100AB03A
4F100AB24C
4F100AB24H
4F100AK25C
4F100AK46D
4F100AK53C
4F100BA05
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4F100DG10D
4F100EH46B
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4F100EJ99
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4F100GB07
4F100GB61
4F100JG01C
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4F100JG04E
4J038CG001
4J038DB001
4J038HA066
4J038KA08
4J038KA15
4J038NA20
4J038NA21
4J038PA06
4J038PB05
4J038PC02
5G307GA02
5G307GB02
5G307GC02
(57)【要約】
【課題】施工が容易で維持管理性が高く、精度よく亀裂の発生を検出することができる技術を提供する。
【解決手段】鋼構造物の表面に形成された第1の絶縁塗膜と、前記第1の絶縁塗膜の表面に塗布された亀裂検知用の導電性塗膜と、前記導電性塗膜の保護のために塗布された第2の絶縁塗膜とを、備える亀裂検知用塗膜層であって、前記導電性塗膜と前記第2の絶縁塗膜との間に導電性塗膜を露出可能に剥離するための補修点を設けている亀裂検知用塗膜層である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の表面に形成された第1の絶縁塗膜と、前記第1の絶縁塗膜の表面に塗布された亀裂検知用の導電性塗膜と、前記導電性塗膜の保護のために塗布された第2の絶縁塗膜とを、備える亀裂検知用塗膜層であって、
前記導電性塗膜と前記第2の絶縁塗膜との間に導電性塗膜を露出可能に剥離するための補修点を設けている、亀裂検知用塗膜層。
【請求項2】
前記補修点の材質として、紙、ナイロン、ビニールおよびセロファンから選ばれた少なくとも1種を用いる、請求項1に記載の亀裂検知用塗膜層。
【請求項3】
前記導電性塗膜は、導電性塗料の顔料として銀粉および銀被覆銅粉を含み、
前記導電性塗膜は、樹脂として、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の亀裂検知用塗膜層。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の亀裂検知用塗膜層を鋼構造物の表面に形成し、
前記導電性塗膜の配線回路に電流を流し、前記鋼構造物の亀裂による前記配線回路の断線を検知する、鋼構造物の亀裂検知方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の亀裂検知用塗膜層を鋼構造物の表面に形成し、
前記導電性塗膜の配線回路に電流を流し、前記鋼構造物の亀裂による前記配線回路の断線を検知し、
検知した亀裂周辺の塗膜を剥離後、前記亀裂を溶接補修し、
塗膜を剥離し露出させた鋼構造物の表面に第1の絶縁塗膜を形成し、
前記亀裂に近い補修点を剥離して導電性塗膜を露出させ、
補修した前記亀裂を跨り、露出した補修点間、または、露出した補修点と通電開始点との間に導電性塗膜による配線回路を形成し、
前記導電性塗膜の保護のために第2の絶縁塗膜を塗布する、鋼構造物の亀裂補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物や溶接部などに発生した亀裂を検出する塗膜層に関し、それを用いた鋼構造物の亀裂検知方法および亀裂補修方法に関する。以下の記載において、数値範囲をあらわす「x~y」は、x以上y以下を表し、境界値を含む。
【背景技術】
【0002】
従来の亀裂検知の手法として亀裂検知ゲージなどを亀裂発生部位に貼付け、一定電流を流し電圧変化から断線を検出する仕組みで亀裂検知を行っている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、亀裂の発生の検出に最適な体積抵抗率を有し、現場施工が容易であり、精度よく亀裂の発生を検出することができる導電性塗料、導電性塗膜、亀裂検出用塗料が開示されている。亀裂検出用塗膜はカーボンブラックとエポキシ樹脂とを含む導電性塗料を塗布して形成され、その表面に1対の電極を配置して、電極間の抵抗を200~10000Ωとしている。
【0004】
特許文献2には、監視対象物に発生する亀裂の開口幅の変動による影響を受けずに、この亀裂の発生の検出精度を向上させることができる亀裂監視装置及び亀裂監視方法が開示されている。導電性塗膜に複数の異なる周波数の交流電力を給電し交流インピーダンスから亀裂の発生を検出する方法である。
【0005】
特許文献3には、亀裂の発生の検出に最適な体積抵抗率を有し、現場施工が容易であり、精度よく亀裂の発生を検出することができる導電性塗料、導電性塗膜、亀裂検出用塗料及び亀裂検出用塗膜が開示されている。導電顔料として銀粉及び銀被覆銅粉を含み、有機樹脂としてウレタン樹脂を含む。顔料の配合や形態を調整して体積抵抗率を所定の範囲とする、たとえば、配線用塗膜が形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-179501号公報
【特許文献2】特開2011-174823号公報
【特許文献3】特開2008- 81607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題があった。
広範囲や長距離の検知範囲を検出するには、箔ゲージ式の亀裂検知ゲージを多数貼り付ける必要があった。そのため、維持管理の手間がかかってしまっていた。
【0008】
特許文献1に記載の技術は、亀裂の進展による抵抗変化から亀裂を検知するものである。その方法では広範囲や長距離の検出範囲を対象として、検出する抵抗値を調整するのが難しい問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の技術には、複数の異なる周波数を印加し検知するがゆえに複雑な装置になってしまう問題があった。
【0010】
特許文献3に記載の技術には、配線などに用いて、断線が発生した場合の維持管理が難しい問題があった。
【0011】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、施工が容易で維持管理性が高く、精度よく亀裂の発生を検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる亀裂検知用塗膜層は、鋼構造物の表面に形成された第1の絶縁塗膜と、前記第1の絶縁塗膜の表面に塗布された亀裂検知用の導電性塗膜と、前記導電性塗膜の保護のために塗布された第2の絶縁塗膜とを、備える亀裂検知用塗膜層であって、前記導電性塗膜と前記第2の絶縁塗膜との間に導電性塗膜を露出可能に剥離するための補修点を設けていることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明にかかる亀裂検知用塗膜層は、
(a)前記補修点の材質として、紙、ナイロン、ビニールおよびセロファンから選ばれた少なくとも1種を用いること、
(b)前記導電性塗膜は、導電性塗料の顔料として銀粉および銀被覆銅粉を含み、前記導電性塗膜は、樹脂として、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種を含むこと、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0014】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼構造物の亀裂検知方法は、上記いずれかの亀裂検知用塗膜層を鋼構造物の表面に形成し、前記導電性塗膜の配線回路に電流を流し、前記鋼構造物の亀裂による前記配線回路の断線を検知することを特徴とする。
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼構造物の亀裂補修方法は、上記いずれかの亀裂検知用塗膜層を鋼構造物の表面に形成し、前記導電性塗膜の配線回路に電流を流し、前記鋼構造物の亀裂による前記配線回路の断線を検知し、検知した亀裂周辺の塗膜を剥離後、前記亀裂を溶接補修し、塗膜を剥離し露出させた鋼構造物の表面に第1の絶縁塗膜を形成し、前記亀裂に近い補修点を剥離して導電性塗膜を露出させ、補修した前記亀裂を跨り、露出した補修点間、または、露出した補修点と通電開始点との間に導電性塗膜による配線回路を形成し、前記導電性塗膜の保護のために第2の絶縁塗膜を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる亀裂検知用塗膜層、鋼構造物の亀裂検知方法および亀裂補修方法によれば、鋼構造物の亀裂を導電性塗膜の配線の断線によって検知でき、亀裂部の補修後に再度健全部を再利用して配線できる。したがって、施工が容易で維持管理性が高く、経済的にも有利で、精度よく亀裂の発生を検出することができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる亀裂検知用塗膜層を説明する概略図であり、(a)は溶接部に沿った割れを検知する例を示し、(b)は溶接部に直交する方向の鋼板の割れを検知する例を示す。
【
図2】鋼板上の塗膜層の断面図であって、(a)は既存の上塗り塗装の上に導電性塗膜を形成する例を示し、(b)は新設時に下塗り塗装と上塗り塗装の間に導電性塗膜を形成する例を示し、(c)は従来の塗装を示す。
【
図3】補修点を表す断面図であって、(a)は、既存の上塗り塗装の上に設置した補修点の例を示し、(b)は新設時の補修点の例を示し、(c)はタブ付きの補修点の例を示す。
【
図4】(a)は平板部に亀裂検知用塗膜層を形成した例を示す概念図であり、(b)は亀裂の発生例を示す概念図であり、(c)は亀裂の補修状態を示す概念図である。
【
図5】
図4(c)のA部断面図であって、(a)は亀裂部研削後の状態を示し、(b)は補修点を有さない部分の下塗り塗料を塗布した状態を示し、(c)は補修点を有する部分の下塗り塗料を塗布した状態を示す。
【
図6】補修点で亀裂検知用塗膜を再生する様子を示す断面図であって、(d)は補修点の剥離の様子を示し、(e)は補修点で露出させた亀裂検知用の導電性塗膜を接続する様子を示し、(f)は導電性塗膜を上塗り塗装で保護する様子を示す。
【
図7】上記実施形態にかかる亀裂検知用塗膜層の好適な塗布範囲を示す溶接部近傍の模式断面図であって、(a)は溶接の熱影響部が確認される場合を表し、(b)は、熱影響部が不明の場合を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
図1は一実施形態にかかる亀裂検知用塗膜層の概略図である。鋼構造物1の溶接部2近傍に亀裂検知用塗膜を形成する。
図1(a)に示すように導電性塗膜4Cが溶接部2を跨ぐように配線回路として形成すれば、溶接部2に沿った割れ、つまり、縦割れの検知ができる。一方、
図1(b)に示すように導電性塗膜4Cが溶接ビードに沿うように配線回路として形成すれば、溶接部2に直交する方向の鋼板1の割れ、つまり、横割れを検知できる。導電性塗膜4Cを保護するために絶縁性の上塗り塗装4Dを行う。導電性塗膜4Cによる配線回路はこれに限るものではなく自由に形状を変えて塗布できる。
図7に溶接部2近傍の模式拡大断面図を示す。
図7(a)に示すように溶接の熱影響部2Aが明らかな場合には、その熱影響部2Aの範囲の外側まで広がるように、溶接部2を跨いで折り返し塗布する亀裂検知用塗膜層の塗布範囲4Eとすることが好ましい。また、
図7(b)に示すように溶接の熱影響部2Aが明らかでない場合には溶接ビード端から45度の以内に応力が伝わり亀裂が発生する可能性が高いと考えられる。そこで、その応力負荷範囲2Bの外側まで広がるように、溶接部2を跨いで折り返し塗布する亀裂検知用塗膜層の塗布範囲4Eとすることが好ましい。図示しない通電開始点に電圧を印加し流れる電流の変化を監視することで配線回路の断線からき裂を検知できる。本実施形態では、導電性塗膜4Cによる配線回路の途中に後述する補修点5を設ける。
【0020】
図2(a)は本実施形態にかかる亀裂検知用塗膜層4の一例であって、既存の塗装の表面に形成する例を示す断面図である。既存の塗装は、
図2(c)に示すように鋼板1の表面上に下塗り塗装4Aおよび上塗り塗装4Bが施されている。本実施形態ではこれらは第1の絶縁塗膜を構成する。下塗り塗装4Aと上塗り塗装4Bの間に中塗り塗装を施してもよい。この既存の塗装の上に亀裂検知用の配線回路としての導電性塗膜4Cを形成する。その上に導電性塗膜4Cの保護のために第2の絶縁塗膜としての上塗り塗装4Dが施される。
【0021】
図2(b)は本実施形態にかかる別の亀裂検知用塗膜層4の一例であって、新設の塗装として鋼板1の表面に形成する例を示す断面図である。鋼板1の表面に下塗り塗装4Aを第1の絶縁塗膜として形成する。その上に亀裂検知用の配線回路としての導電性塗膜4Cを形成する。その上に導電性塗膜4Cの保護のために第2の絶縁塗膜としての上塗り塗装4Dが行われる。このように新設の場合には上塗り塗装の回数を削減できるので好ましい。
【0022】
下塗り塗装4Aは鋼板1と亀裂検知用の導電性塗膜4Cとを電気的に絶縁するとともに鋼板の腐食を防止するための塗膜を形成する。下塗り塗装4Aは、たとえば、防錆顔料入りエポキシ樹脂や有機ジンクリッチペイントなどのような鋼構造物用防食塗装系に適用されている下塗り塗料が塗布される。
【0023】
上塗り塗装4B、4Dは下塗り塗装4Aや亀裂検知用の導電性塗膜4Cを自然因子の作用から保護し、絶縁するために塗装し形成される。環境遮断性に優れたエポキシ樹脂系塗料、耐紫外線性および耐薬品性に優れたポチウレタン樹脂やフッ素樹脂を用いることができる。上塗り塗装4Dの前に中塗り塗装を行ってもよい。
【0024】
導電性塗膜4Cは、導電性顔料を含む有機樹脂をスプレー、刷毛、ローラなどによって塗布し形成されている。導電性顔料には、カーボンブラック、グラファイト、ニッケル、銀粉や銀被覆銅粉などを用いることができる。銀粉と銀被覆銅粉とを混合して用いることが体積抵抗率の低減や塗装作業性の観点から好ましい。
【0025】
導電性塗膜4Cに用いる有機樹脂として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキルシリケート樹脂などが好ましい。鋼構造物の表面に塗布されている塗料になじみやすく、導電顔料の分散性などを考慮し、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0026】
図1に示すように、導電性塗膜4Cを用いた亀裂検出用の配線回路は、総延長で10mを超える長さになる。膜厚は10μm~100μmが好ましい。下限未満では現場施工によって連続した塗膜が得られないおそれがある。上限超えでは塗装したときに垂れなどの塗装欠陥が多く発生し、その対策で塗料の粘度を高くすると施工性が犠牲になるおそれがある。より好ましくは30~60μmが好ましい。たとえば、20mm幅で、総延長10mの配線で電気抵抗値100Ω程度となるように導電性塗膜4Cを検討した場合、体積抵抗率は0.5~5.0×10
-3Ω・cm程度を満たすように導電顔料の調整を行うことが好ましい。
【0027】
本実施形態で用いる補修点5は、
図3(a)~(c)のように構成することができる。
図3(a)は既存の上塗り塗装4Bの上に設置した導電性塗膜4Cの補修点5の例を断面図で示す。
図3(b)は新設の場合の導電性塗膜4Cの補修点5の例を断面図で示す。補修点5は、亀裂などで導電性塗膜4Cの配線回路が断線したときに、上塗り塗装4Dを剥離して導電性塗膜4Cを露出させ、新たに配線回路を形成できるようにするために設ける。補修点5は、紙、ナイロン、ビニールおよびセロファンから選ばれた少なくとも1種を用い、導電性塗膜4Cと上塗り塗装4Dの間に配する。たとえば、補修点5用材料をはがれやすい粘着剤などのテープとして、導電性塗膜4Cのうえに貼付し、その上から上塗り塗装4Dを行うことができる。粘着性が高すぎると導電性塗膜4Cも同時に剥離してしまうので適切な粘着性とすることが好ましい。補修点5は
図3(c)のようにタブ5Aを設け、上塗り塗装4D後に補修点5を視認しやすくすることができる。加えて、タブ5Aを用いて容易に補修点5を剥離することができる。補修点5の形状も円形、楕円形や方形とすることができる。補修点5は導電性塗膜4Cの配線幅と同程度の長さ以上の直径や短径、短辺の範囲を被覆することが好ましい。
【0028】
つぎに、本実施形態にかかる亀裂検知用塗膜層を用いた亀裂検知方法および亀裂補修方法について説明する。
本実施形態にかかる亀裂検知方法は、上記亀裂検知用塗膜層によって、
図1のように配線回路を形成し、図示しない通電開始点に電圧を印加することにより、配線回路に流れる電流を監視する。鋼構造物のき裂や外部からの衝撃などにより、塗膜が損傷し配線回路の断線が生じると電流値が低下し、または、電流が流れなくなる。断線箇所の鋼構造物を目視観察して亀裂か否かを判定する。
【0029】
図4(a)は平板部に亀裂検知用塗膜層を形成した例を示す概略図である。この例では、既存の上塗り塗装4Bの上に導電性塗膜4Cの配線回路を形成している。通常、上塗り塗装4Dには、顔料を含むので、亀裂検知用の導電性塗膜4Cがあることは観察できない。上塗り塗装4Dをクリア塗装などの透明または半透明の塗装とすることで亀裂検知用の導電性塗膜4Cの状態を確認することもできる。なお、外観からは亀裂が視認できない場合であっても、補修点5をはがし、露出した導電性塗膜4C間または露出した導電性塗膜4Cと通電開始点との間の導通を確認することで、亀裂発生位置を特定することもできる。
【0030】
図4(b)は亀裂により亀裂検知塗膜が断裂した状態を示す概略図である。
図4(c)に示すように、亀裂部分の周囲を研削し、塗膜をはがして鋼板1表面を露出させる。その表面研削部7で明らかになった鋼板1の亀裂部分に溶接補修を行う。亀裂検知用塗膜層4も上記研削によりA部まで研削される。
【0031】
図5(a)は、
図4(c)のA部を拡大した断面図である。露出している導電性塗膜4Cは、たとえば、第1の絶縁塗膜としての上塗り塗装4Bと第2の絶縁塗膜としての上塗り塗装4Dに挟まれている。導電性塗膜4Cの露出範囲は配線幅×塗膜厚みとなり、塗膜厚みは10~100μm程度であるから、この導電性塗膜4Dを新たな配線として接続するのは困難である。
【0032】
加えて、研削して鋼板1の表面露出した表面研削部7には、防錆保護のための下塗り塗料4Aが塗布される。その様子を示したのが
図5(b)の断面図である。
図5(b)は補修点を持たない断面を表す。こうなると、導電性塗膜4Cは完全に隠されてしまい、接続は不可能である。
【0033】
そこで、
図5(c)に示すように、表面研削部7の近傍に補修点5を配置する。手順としては、補修点5をはがす前に、下塗り塗装4Aを完了させる必要がある。補修点5をはがして露出した導電性塗膜4Cが被覆されてしまうのを防ぐためである。
図6(d)は、下塗り塗装後に補修点5を剥離片5Bとして剥離した状態を示す断面図である。これにより、導電性塗膜4Cが露出して、配線接続が可能となる。
【0034】
図6(e)は、補修点5を剥離して露出した導電性塗膜4Cから下塗り塗装を施した表面研削部7に向かって、導電性塗膜4Cによる配線回路を再生した状態を表す断面図である。再生した配線回路は補修した亀裂部を跨って反対側の補修点5または通電開始点まで配線される。はがした補修点5の位置または新たな配線の途中に補修点5を配置することが好ましい。
【0035】
図6(f)は、さらに導電性塗膜4Cを保護する上塗り塗装5Dを施した状態を示す断面図である。亀裂補修のために研削除去した亀裂検知用塗膜層が再生される。その余の配線回路は健全部の配線回路をそのまま利用するので、簡便に亀裂検知用塗膜層を維持管理できる。補修点5を用いない場合には、再度、全ての配線回路を描き直す必要がある。したがって、本実施形態は大幅な作業短縮に寄与する。
【符号の説明】
【0036】
1 鋼構造物(鋼板)
2 溶接部
2A 熱影響部
2B 応力負荷範囲
4 亀裂検知用塗膜層
4A 下塗り塗装(第1の絶縁塗膜)
4B 上塗り塗装(第1の絶縁塗膜)
4C 導電性塗膜(亀裂検知用の配線回路)
4D 上塗り塗装(第2の絶縁塗膜)
4E (亀裂検知用塗膜層の)塗布範囲
5 補修点(マスキング材)
5A タブ
5B (補修点の)剥離片
6 亀裂
7 表面研削部