(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161911
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎の重症度の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6883 20180101AFI20241113BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241113BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20241113BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20241113BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20241113BHJP
A61P 37/08 20060101ALN20241113BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
C07K16/00
A61K45/00
A61P37/08
A61P17/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075513
(22)【出願日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2023076892
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 直人
(72)【発明者】
【氏名】桑野 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】井上 高良
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
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4C084ZA89
4C084ZB13
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】アトピー性皮膚炎の重症度を検出するための遺伝子又はその発現産物の測定方法を提供する。
【解決手段】被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するために、当該被験者から採取された生体試料について、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における遺伝子又はその発現産物の測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するために、当該被験者から採取された生体試料について、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における遺伝子又はその発現産物の測定方法。
【請求項2】
前記遺伝子がC1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23及びKLK5からなる9種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子がLCE1A、CTSV、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74及びKRT25からなる11種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子であり、該遺伝子又はその発現産物の発現レベルが低いほど、前記被験者のアトピー性皮膚炎の重症度が高いと検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
重症度が異なる2群を判別するための参照値をあらかじめ定めておき、アトピー性皮膚炎患者の遺伝子又はその発現産物の発現レベルが該参照値以上であればより重症度が低い群、該参照値以下であれば重症度が高い群であると判別する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子がC1QB、DIAPH1、CTSZ、APRT及びS100Bからなる5種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子であり、該遺伝子又はその発現産物の発現レベルが高いほど、前記被験者のアトピー性皮膚炎の重症度が高いと検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
重症度が異なる2群を判別するための参照値をあらかじめ定めておき、アトピー性皮膚炎患者の遺伝子又はその発現産物の発現レベルが該参照値以下であればより重症度が低い群、該参照値以上であれば重症度が高い群であると判別する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
重症度が症状なし、軽中等度及び重度から選ばれる1以上である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
重症度が異なるアトピー性皮膚炎患者由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベル及び健常人由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を教師サンプルとして構築した判別式に、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を代入し、被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルがmRNAの発現量である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子又はその発現産物が前記被験者の皮膚表上脂質に含まれるRNAである、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、請求項1~6のいずれか1項記の方法に用いられるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するための検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎の重症度マーカーを用いたアトピー性皮膚炎の重症度の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎(以下、「AD」とも称する)は、アトピー素因を有する者に主に発症する湿疹性皮膚疾患である。アトピー性皮膚炎の典型的な症状は、左右対側性に発生する、慢性及び反復性の痒み、皮疹、紅斑等、ならびに角化不全、バリア能低下、乾燥肌などである。アトピー性皮膚炎の多くは乳幼児に発症し、成長と共に軽快傾向を示すが、近年では成人型や難治性のアトピー性皮膚炎も増加している。
【0003】
アトピー性皮膚炎の発症の有無や重症度は、皮膚の目視観察や皮膚表面の画像解析によりある程度の評価ができる。また、最近では、アトピー性皮膚炎の重症度を客観的に判断することができる方法として、血中のTARC(thymus and activation-regulated chemokine)値やSCCA2(Squamous cell carcinoma antigen 2)値を指標とする検査法が用いられている。これらはアトピー性皮膚炎の重症度に依存して血中存在量が増加するため、病勢を鋭敏に反映する指標として用いられ、アトピー性皮膚炎の発症の有無や重症度を評価するだけでなく、患者の教育や治療方針の決定にも用いられる(非特許文献1、2、3参照)。
しかしながら、血中のTARC値やSCCA2値を指標とする検査法は採血を必要とするため、侵襲的な方法である。さらに、結果が出るまでに時間を要するなどの課題がある。
【0004】
一方、生体試料中のDNAやRNA等の核酸の解析によりヒトの生体内の現在さらには将来の生理状態を調べる技術が開発されている。核酸を用いた解析は、網羅的な解析方法が確立されており一度の解析で豊富な情報を得られる、及び一塩基多形やRNA機能等に関する多くの研究報告に基づいて解析結果の機能的な紐付けが容易であるといった利点を有する。生体由来の核酸は、血液等の体液、分泌物、組織等から抽出することができるが、最近、皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)に含まれるRNAを生体の解析用の試料として用いること、SSLから表皮、汗腺、毛包及び皮脂腺のマーカー遺伝子が検出できることが報告されている(特許文献1)。さらにSSLからアトピー性皮膚炎のマーカー遺伝子が検出できることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報第2018/008319号
【特許文献2】特開2020-74769号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sugawara et al., Allergy (2002) 57:180-181.
【非特許文献2】Ohta et al., Ann Clin Biochem.(2012) 49:277-84.
【非特許文献3】佐伯ら、日本皮膚科学会誌(2021)131: 2691-2777.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アトピー性皮膚炎の重症度を検出するための遺伝子又はその発現産物の測定方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、重症度が異なるアトピー性皮膚炎患者と健常人からSSLを採取し、SSL中に含まれるRNAの発現状態をシーケンス情報として網羅的に解析した結果、特定の遺伝子の発現レベルが、重症度が異なる患者間及び軽中等症患者と健常人の間で有意に異なり、これを指標としてアトピー性皮膚炎の重症度が検出できることを見出した。
従来、健常人とアトピー性皮膚炎患者の間で発現が変動する遺伝子が存在することは知られているが、その全ての遺伝子が、血中TARCのように健常人に比べて軽中等症患者で、軽中等症患者に比べて重症患者でというように重症度に依存して発現が変動するか否かは知られていない。また、健常人に比べて軽中等症患者又は重症患者で発現が変化している遺伝子であっても、必ずしも軽中等症患者に比べて重症患者で、すなわち重症度に依存して発現が変動するとは限らない。したがって、本発明に係る特定の遺伝子を指標としてアトピー性皮膚炎の異なる重症度を検出できたことは全く意外なことである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するために、当該被験者から採取された生体試料について、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における遺伝子又はその発現産物の測定方法。
2)前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、1)の方法に用いられるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するための検査用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アトピー性皮膚炎の重症度を精度よく客観的に検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本発明において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」と云う用語は、DNA又はRNAを意味する。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれ、「RNA」には、total RNA、mRNA、rRNA、tRNA、non-coding RNA及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0013】
本発明において「遺伝子」とは、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAの他、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、及びこれらの断片を包含するものであって、DNAを構成する塩基の配列情報の中に、何らかの生物学的情報が含まれているものを意味する。
また、当該「遺伝子」は特定の塩基配列で表される「遺伝子」だけではなく、これらの同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型等の変異体、及び誘導体をコードする核酸が包含される。
【0014】
本発明において、遺伝子の「発現産物」とは、遺伝子の転写産物及び翻訳産物を包含する概念である。「転写産物」とは、遺伝子(DNA)から転写されて生じるRNAであり、「翻訳産物」とは、RNAに基づき翻訳合成される、遺伝子にコードされたタンパク質を意味する。
【0015】
本発明において、「アトピー性皮膚炎」とは、増悪・寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病原とする疾患を指し、その患者の多くは、アトピー素因を持つとされている。アトピー素因としては、i)家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)、又はii)IgE抗体を産生し易い素因が挙げられる。
【0016】
本発明において、「アトピー性皮膚炎の重症度」とは、アトピー性皮膚炎の進行の程度を意味し、皮疹の状態により、例えば症状なし(健常)、軽微、軽症(軽度)、中等症(中等度)、重症(重度)のように分類される。
皮疹の性状としては、紅斑、浮腫/浸潤/丘疹(充実性、漿液性)、滲出液/痂皮、掻破
痕、苔癬化、乾燥、掻痒、痒疹結節、鱗屑(粃糠状、葉状、膜様など)、水疱、膿疱、びらん、潰瘍、などが挙げられ、重症度分類としては、例えば、Eczema Area and Severity Index(「EASI」<Exp Dermatol, 2001; 10: 11-18.>)、Investigator’s Global Assessment(「IGA」<J Am Acad Dermatol, 2016; 74: 288-94.>)の他、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎重症度分類検討委員会によるアトピー性皮膚炎重症度分類(日皮会誌<2001; 111: 2023-2033、日皮会誌,1998; 108: 1491-1496.>)、Severity Scoring of Atopic Dermatitis(「SCORAD」<Dermatology, 1993; 186: 23-31.>等が知られている。
【0017】
例えば、EASIは、頭頚部、体幹、上肢、下肢を評価部位とし、それぞれの評価部位における紅斑、浮腫/浸潤/丘疹、掻破痕、苔癬化の4つの症状別スコアと、評価部位全体に占める上の4つの症状の面積のパーセンテージ(%)に基づいて算出される、0~72の値である。そのうち、頭頚部EASIは、頭頚部における紅斑、浮腫/浸潤/丘疹、掻破痕、苔癬化の4つの症状別スコアと、頭頚部に占める上の4つの症状の面積のパーセンテージ(%)に基づいて算出された値に0.1を乗じたものであり、0~7.2の値である。頭頚部EASIによる重症度評価は、アトピー性皮膚炎治療薬の投与の目安の一つとしても用いられるものである。
本発明では、アトピー性皮膚炎の重症度として、頭頚部EASIに基づく重症度分類を用いるのが好ましい。
【0018】
本発明のアトピー性皮膚炎の重症度の検出においては、「症状なし」、「軽中等度」及び「重度」の検出ができるが、「症状なし」と「軽中等度」、「軽中等度」と「重度」を区別して検出するのが好ましい。
本発明において、「軽中等度」とは、軽度及び中等度の症状(軽中等症)を含むものであり、例えば頭頚部EASIスコアが0より大きく2.4未満であることが該当する。また、「重度」とは、重症を指し、例えば頭頚部EASIスコアが2.4以上7.2以下であることが該当する。また、「症状なし」は、元より健常人であるか、又は寛解若しくはほぼ寛解して症状がなく健常人と同レベルであることを指す。
なお、EASIスコアを用いた「症状なし」、「軽中等度」及び「重度」の評価において、各評価の基準となるスコアの範囲は上の限りでなく、適宜決定することができる。
【0019】
本発明において、アトピー性皮膚炎の重症度の「検出」とは、アトピー性皮膚炎の重症度を明らかにする意味であり、検査、測定、判定又は評価支援という用語で言い換えることもできる。なお、本明細書において「検出」、「検査」、「測定」、「判定」又は「評価」という用語は、医師によるアトピー性皮膚炎の診断を含むものではない。
【0020】
本発明において測定対象となる遺伝子(以下、「標的遺伝子」とも称す)は、下記表1に示す11遺伝子及び表2に示す5遺伝子の計16遺伝子群より選択される少なくとも1種である。なお表1及び表2に示す遺伝子の名称(Gene Symbol)及びGene IDは、NCBI([www.ncbi.nlm.nih.gov/])に記載のあるOfficial S
ymbol及びGene IDに従う。本発明において、当該標的遺伝子又はその発現産物は、アトピー性皮膚炎の重症度を検出するためのマーカーであると云え、表1に示す遺伝子又はその発現産物をまとめて表1のマーカーともいい、表2に示す遺伝子又はその発現産物をまとめて表2のマーカーともいう。本発明のマーカーは、下記表1又は表2に示す遺伝子であっても、又はその発現産物であっても、それらの組み合わせであってもよい。一実施形態において、本発明のマーカーは、該遺伝子のDNA、その転写産物であるRNA等の核酸マーカーである。別の一実施形態において、本発明のマーカーは、該遺伝子の翻訳産物であるタンパク質マーカーである。好ましくは、本発明のマーカーは核酸マーカーであり、より好ましくはRNAマーカーである。
【0021】
【0022】
【0023】
表1及び表2に示される遺伝子は、それ自体又はそれに由来する発現産物がアトピー性皮膚炎の重症度検出のためのマーカーとして機能する限り、NCBIに登録されているヌクレオチド配列からなるものの他、該登録されている配列と実質的に同一の配列からなるものを包含する。ここで、実質的に同一の配列とは、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLASTを用い、期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3の条件にて検索をした場合、当該遺伝子のヌクレオチド配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性がある配列を意味する。
【0024】
後述する実施例に示すように、表1に示される11種の遺伝子は、その発現レベルがアトピー性皮膚炎の重症度に伴って段階的に低下する、ネガティブマーカーである。具体的には、表1の遺伝子は、健常者と比較して軽中等症患者において発現が低下し、且つ軽中等症患者と比較して重症患者において発現が低下する遺伝子から選択された表皮機能に関連する遺伝子であって、アトピー性皮膚炎の重症度を反映することが既に知られているTARCタンパク質をコードする遺伝子であるCCL17(Gene ID:6361)よりも重症度判定において判定精度が優れていた遺伝子である。
一方、表2に示される5種の遺伝子は、その発現レベルがアトピー性皮膚炎の重症度に伴って段階的に上昇する、ポジティブマーカーである。具体的には、表2の遺伝子は、健常者と比較して軽中等症患者において発現が上昇し、且つ軽中等症患者と比較して重症患者において発現が上昇する遺伝子から選択された免疫機能に関連する遺伝子であって、アトピー性皮膚炎の重症度を反映することが既に知られているTARCタンパク質をコードする遺伝子であるCCL17よりも重症度判定において判定精度が優れていた遺伝子である。
よって、斯かる表1及び表2のマーカーによれば、健常と軽中等度アトピー性皮膚炎の判別、及び軽中等度アトピー性皮膚炎と重度アトピー性皮膚炎の判別が可能である。
なお、前者のネガティブマーカーと、後者のポジティブマーカーのいずれか一方を使用してもよく、又は両方を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明の被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するための、当該被験者における遺伝子又はその発現産物の測定方法は、被験者から採取された生体試料について、上記の標的遺伝子より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む。
【0026】
本発明の被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するための当該被験者は、その性別、年齢及び人種等は特に限定されず、乳児から老人までを含み得る。好ましくは、該被験者は、アトピー性皮膚炎の重症度の検出を必要とするか又は希望するヒトである。例えば、該被験者は、アトピー性皮膚炎を発症しているヒト、アトピー性皮膚炎の発症が疑われるヒト又は遺伝的にアトピー性皮膚炎の素因を有するヒトである。
【0027】
本発明において用いられる生体試料としては、アトピー性皮膚炎の重症度に応じて本発明の標的遺伝子が発現変化する細胞、組織及び生体材料であればよい。具体的には臓器、皮膚、血液、尿、唾液、汗、角層、皮膚表上脂質(SSL)、組織浸出液等の体液、血液から調製された血清、血漿、その他、便、毛髪等が挙げられ、好ましくは皮膚または皮膚表上脂質(SSL)、より好ましくは皮膚表上脂質(SSL)が挙げられる。
【0028】
ここで、「皮膚表上脂質(SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。SSLは、皮膚細胞で発現したRNAを含む(前記特許文献1参照)。また本発明において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺及びその他の腺等の組織を含む領域の総称である。
【0029】
被験者の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、SSL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SSL吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSSLを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、等が挙げられる。SSLの吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が阻害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。SSLが採取される皮膚の部位としては、特に限定されず、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚が挙げられ、皮脂の分泌が多い部位、例えば顔の皮膚が好ましい。また、SSLが採取される皮膚の部位は、アトピー性皮膚炎が発症している皮疹部であっても、発症していない無疹部であってもいずれでもよいが、好ましくは、皮疹部又は皮疹部近傍の無疹部が好ましい。ここで皮疹部近傍とは、皮疹部に隣接する10cm以内の範囲を指す。
【0030】
被験者から採取されたRNA含有SSLは一定期間保存されてもよい。採取されたSSLは、含有するRNAの分解を極力抑えるために、採取後できるだけ速やかに低温条件で保存することが好ましい。本発明における該RNA含有SSLの保存の温度条件は、0℃以下であればよく、好ましくは-20℃±20℃~-80℃±20℃、より好ましくは-20℃±10℃~-80℃±10℃、さらに好ましくは-20℃±20℃~-40℃±20℃、さらに好ましくは-20℃±10℃~-40℃±10℃、さらに好ましくは-20℃±10℃、さらに好ましくは-20℃±5℃である。該RNA含有SSLの該低温条件での保存の期間は、特に限定されないが、好ましくは12か月以下、例えば6時間以上12ヶ月以下、より好ましくは6ヶ月以下、例えば1日間以上6ヶ月以下、さらに好ましくは3ヶ月以下、例えば3日間以上3ヶ月以下である。
【0031】
本発明において、標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定対象としては、RNAから人工的に合成されたcDNA、そのRNAをエンコードするDNA、そのRNAにコードされるタンパク質、該タンパク質と相互作用をする分子、そのRNAと相互作用する分子、又はそのDNAと相互作用する分子等が挙げられる。ここで、RNA、DNA又はタンパク質と相互作用する分子としては、DNA、RNA、タンパク質、多糖、オリゴ糖、単糖、脂質、脂肪酸、及びこれらのリン酸化物、アルキル化物、糖付加物等、及び上記いずれかの複合体が挙げられる。また、発現レベルとは、当該遺伝子又は発現産物の発現量や活性を包括的に意味する。
【0032】
本発明の方法においては、好ましい態様として、生体試料としてSSLが用いられるが、この場合にはSSLに含まれるRNAの発現レベルが解析され、具体的にはRNAを逆転写によりcDNAに変換した後、該cDNA又はその増幅産物が測定される。
SSLからのRNAの抽出には、生体試料からのRNAの抽出又は精製に通常使用される方法、例えば、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidin
ium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、又はTRIzol(登録商標)、RNeasy(登録商標)、QIAzol(登録商標)等のカラムを用いた方法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilization磁性体粒子を用いる方法、ISOGEN等の市販のRNA抽出試薬による抽出等を用いることができる。
【0033】
該逆転写には、解析したい特定のRNAを標的としたプライマーを用いてもよいが、より包括的な核酸の保存及び解析のためにはランダムプライマーを用いることが好ましい。該逆転写には、一般的な逆転写酵素又は逆転写試薬キットを使用することができる。好適には、正確性及び効率性の高い逆転写酵素又は逆転写試薬キットが用いられ、その例としては、M-MLV Reverse Transcriptase及びその改変体、あるいは市販の逆転写酵素又は逆転写試薬キット、例えばPrimeScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(タカラバイオ社)、SuperScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(Thermo Scientific社)等が挙げられる。SuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(いずれもThermo Scientific社)等が好ましく用いられる。
該逆転写における伸長反応は、温度を好ましくは42℃±1℃、より好ましくは42℃±0.5℃、さらに好ましくは42℃±0.25℃に調整し、一方、反応時間を好ましくは60分間以上、より好ましくは80~120分間に調整するのが好ましい。
【0034】
発現レベルを測定する方法は、RNA、cDNA又はDNAを対象とする場合、これらにハイブリダイズするDNAをプライマーとしたPCR法、リアルタイムRT-PCR法、マルチプレックスPCR、SmartAmp法、LAMP法等に代表される核酸増幅法、これらにハイブリダイズする核酸をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法(DNAチップ、DNAマイクロアレイ、ドットブロットハイブリダイゼーション、スロットブロットハイブリダイゼーション、ノーザンブロットハイブリダイゼーション等)、塩基配列を決定する方法(シーケンシング)、又はこれらを組み合わせた方法から選ぶことができる。
【0035】
PCRでは、解析したい特定のDNAを標的としたプライマーペアを用いて該特定の1種のDNAのみを増幅してもよいが、複数のプライマーペアを用いて同時に複数の特定のDNAを増幅してもよい。好ましくは、該PCRはマルチプレックスPCRである。マルチプレックスPCRは、PCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。マルチプレックスPCRは、市販のキット(例えば、Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit;ライフテクノロジーズジャパン株式会社等)を用いて実施することができる。
該PCRにおけるアニーリング及び伸長反応の温度は、使用するプライマーに依存するため一概には言えないが、上記のマルチプレックスPCRキットは用いる場合、好ましくは62℃±1℃、より好ましくは62℃±0.5℃、さらに好ましくは62℃±0.25℃である。したがって、該PCRでは、好ましくはアニーリング及び伸長反応が1ステップで行われる。該アニーリング及び伸長反応のステップの時間は、増幅すべきDNAのサイズ等に依存して調整され得るが、好ましくは14~18分間である。該PCRにおける変性反応の条件は、増幅すべきDNAに依存して調整され得るが、好ましくは95~99℃で10~60秒間である。上記のような温度及び時間での逆転写及びPCRは、一般的にPCRに使用されるサーマルサイクラーを用いて実行することができる。
【0036】
当該PCRで得られた反応産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われることが好ましい。サイズ分離により、目的のPCR反応産物を、PCR反応液中に含まれるプライマーやその他の不純物から分離することができる。DNAのサイズ分離は、例えば、サイズ分離カラムや、サイズ分離チップ、サイズ分離に利用可能な磁気ビーズ等によって行うことができる。サイズ分離に利用可能な磁気ビーズの好ましい例としては、Ampure XP等のSolid Phase Reversible Immobilization(SPRI)磁性ビーズが挙げられる。
【0037】
精製したPCR反応産物に対して、その後の定量解析を行うために必要なさらなる処理を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングのために、精製したPCR反応産物を、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプライマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしてもよい。例えば、精製したPCR反応産物をバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対してPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物を、必要に応じて増幅して、定量解析のためのライブラリーを調製することができる。これらの操作は、例えば、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×VILO RT Reaction Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×Ion AmpliSeq HiFi Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Core Panelを用いて、各キット付属のプロトコルに従って行うことができる。
【0038】
ノーザンブロットハイブリダイゼーション法を利用して標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まずプローブDNAを放射性同位元素、蛍光物質等で標識し、次いで、得られた標識DNAを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした生体試料由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識DNAとRNAとの二重鎖を、標識物に由来するシグナルを検出することにより測定する方法が挙げられる。
【0039】
RT-PCR法を用いて標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まず生体試料由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として本発明の標的遺伝子が増幅できるように調製した一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法等を用いることができる。
【0040】
DNAマイクロアレイを用いて標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、支持体に本発明の標的遺伝子由来の核酸(cDNA又はDNA)の少なくとも1種を固定化したアレイを用い、mRNAから調製した標識化cDNA又はcRNAをマイクロアレイ上に結合させ、マイクロアレイ上の標識を検出することによって、mRNAの発現量を測定することができる。
前記アレイに固定化される核酸としては、ストリンジェントな条件下に特異的(すなわち、実質的に目的の核酸のみに)にハイブリダイズする核酸であればよく、例えば、本発明の標的遺伝子の全配列を有する核酸であってもよく、部分配列からなる核酸であってもよい。ここで、「部分配列」とは、少なくとも15~25塩基からなる核酸が挙げられる。ここでストリンジェントな条件は、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の洗浄条件を挙げることができ、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を挙げることができる。ハイブリダイズ条件は、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載されている。
【0041】
シーケンシングによって標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、次世代シーケンサー(例えばIon S5/XLシステム、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)が用いて解析することが挙げられる。シーケンシングで作成されたリードの数(リードカウント)に基づいて、RNA発現を定量することができる。
【0042】
上記の測定に用いられるプローブ又はプライマー、すなわち、本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸を特異的に認識し増幅するためのプライマー、又は該RNA又はそれに由来する核酸を特異的に検出するためのプローブがこれに該当するが、これらは、当該標的遺伝子を構成する塩基配列に基づいて設計することができる。ここで「特異的に認識する」とは、例えばノーザンブロット法において、実質的に本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸のみを検出できること、また例えばRT-PCR法において、実質的に当該核酸のみが増幅される如く、当該検出物又は生成物が当該遺伝子又はそれに由来する核酸であると判断できることを意味する。
具体的には、本発明の標的遺伝子を構成する塩基配列からなるDNA又はその相補鎖に相補的な一定数のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、当該一定数の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の同一性を有すればよい。塩基配列の同一性は、前記BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
斯かるオリゴヌクレオチドは、プライマーとして用いる場合には、特異的なアニーリング及び鎖伸長ができればよく、通常、例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは20塩基以上、かつ例えば100塩基以下、好ましくは50塩基以下、より好ましくは35塩基以下の鎖長を有するものが挙げられる。また、プローブとして用いる場合には、特異的なハイブリダイゼーションができればよく、本発明の標的遺伝子を構成する塩基配列からなるDNA(又はその相補鎖)の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、かつ例えば100塩基以下、好ましくは50塩基以下、より好ましくは25塩基以下の鎖長のものが用いられる。
なお、ここで、「オリゴヌクレオチド」は、DNAあるいはRNAであることができ、合成されたものでも天然のものでもよい。又、ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、通常標識したものが用いられる。
【0043】
また、本発明の標的遺伝子の翻訳産物(タンパク質)、当該タンパク質と相互作用する分子、RNAと相互作用する分子、又はDNAと相互作用する分子を測定する場合は、プロテインチップ解析、免疫測定法(例えば、ELISA等)、質量分析(例えば、LC-MS/MS、MALDI-TOF/MS)、1-ハイブリッド法(PNAS 100, 12271-12276(2003))や2-ハイブリッド法(Biol. Reprod. 58, 302-311 (1998))のような方法を
用いることができ、対象に応じて適宜選択できる。
例えば、測定対象としてタンパク質が用いられる場合は、本発明の発現産物を特異的に認識する抗体、具体的には発現産物であるタンパク質を他のタンパク質から識別することが可能な構造的特徴部位(エピトープ)を認識する抗体を生体試料と接触させ、当該抗体に結合した試料中のポリペプチド又はタンパク質を検出し、そのレベルを測定することによって実施される。例えば、ウェスタンブロット法によれば、一次抗体として上記の抗体を用いた後、二次抗体として放射性同位元素、蛍光物質又は酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて、その一次抗体を標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器等で測定することが行われる。
尚、上記翻訳産物に対する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。これらの抗体は、公知の方法に従って製造することができる。具体的には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質を用いて、あるいは常法に従って当該タンパク質の部分ポリペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。
一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質又は該タンパク質の部分ポリペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる。また、モノクローナル抗体は、ファージディスプレイを用いて作製してもよい(Griffiths, A.D.; Duncan, A.R., Current Opinion in Biotechnology, Volume 9, Number 1, February 1998, pp. 102-108(7))。
【0044】
斯くして、被験者から採取された生体試料中の本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定され、当該発現レベルに基づいてアトピー性皮膚炎の重症度が検出される。検出は、具体的には、測定された本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを対照レベルと比較することによって行ってもよい。
シーケンシングにより複数の標的遺伝子の発現レベルの解析を行う場合は、上記したように、発現量のデータであるリードカウント値、該リードカウント値をサンプル間の総リード数の違いを補正したRPM値、当該RPM値を底2の対数値に変換した値(Log2
RPM値)又は整数1を加算した底2の対数値(Log2(RPM+1)値)、あるいは
DESeq2(Love MI et al. Genome Biol. 2014)を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)又は整数1を加算した底2の対数値(Log2(c
ount+1)値)を指標として用いるのが好ましい。また、RNA-seqの定量値として一般的な、fragments per kilobase of exon per million reads mapped(FPKM)、reads per kilobase of exon per million reads mapped(RPKM)、transcripts per million(TPM)などによって算出される値であってもよい。また、マイクロアレイ法によって得られるシグナル値、及びその補正値であってもよい。また、RT-PCRなどにより特定の標的遺伝子のみの解析を行う場合には、対象遺伝子の発現量をハウスキーピング遺伝子の発現量を基準とする相対的な発現量に変換して解析する方法、又は標的遺伝子の領域を含むプラスミドを用いて絶対的なコピー数を定量(絶対定量)して解析する方法が好ましい。デジタルPCR法によって得られるコピー数であってもよい。
ここで、「対照レベル」とは、例えば、軽中等症患者の検出の際は健常人における、重症患者の検出の際は軽中等症患者における、当該標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが挙げられる。健常人、軽中等症患者及び重症患者の発現レベルは、健常人、軽中等症患者、重症患者の集団から測定した当該遺伝子又はその発現産物の発現レベルの統計値(例えば平均値等)であってもよい。標的遺伝子が複数の場合は、各々の遺伝子又はその発現産物について対照レベルを求めることが好ましい。
【0045】
また、本発明におけるアトピー性皮膚炎の重症度の検出は、本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを、各遺伝子又はその発現産物のカットオフ値(参照値)と比較することにより行うこともできる。カットオフ値は、予め健常者、軽症患者、中等症患者及び重症患者における当該標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを基準データとして取得しておき、それに基づく発現レベルの平均値や標準偏差等の統計的数値に基づき、適宜決定すれば良い。
【0046】
カットオフ値(参照値)の決定方法は特に制限されず、公知の手法に従って決定することができる。例えば、ROC(Receiver Operating Characteristic Curve)曲線より求めることができる。ROC曲線では、縦軸に陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度又は真陽性率)と、横軸に陰性患者において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率)がプロットされる。ROC曲線に示される「真陽性率(感度)」及び「偽陽性率(1-特異度)」に関し、「真陽性率(感度)」-「偽陽性率(1-特異度)」が最大となる点(Youden index)における閾値をカットオフ値(参照値)とすることができる。
【0047】
例えば、表1で示される遺伝子について、重症度が異なる2群を判別するためのカットオフ値(参照値)をあらかじめ定めておき、被験者由来の生体試料における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが、各遺伝子又はその発現産物のカットオフ値(参照値)以上であればより重症度が低い群、発現レベルが参照値以下であればより重症度が高い群であるなどと判別される。
【0048】
また、例えば、表2で示される遺伝子について、重症度が異なる2群を判別するためのカットオフ値(参照値)をあらかじめ定めておき、被験者由来の生体試料における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが、各遺伝子又はその発現産物のカットオフ値(参照値)以下であればより重症度が低い群、発現レベルが参照値以上であればより重症度が高い群であるなどと判別される。
【0049】
後述する表3に示すとおり、本発明の16種の標的遺伝子を用いた、健常と軽中等度アトピー性皮膚炎の2群、軽中等度アトピー性皮膚炎と重度アトピー性皮膚炎の2群の判別において、それぞれの2群の判別のためのROC曲線の曲線下面積(AUC1及びAUC2)の平均値(AUC3)は、何れも、重症度マーカーとして公知のTARCタンパク質をコードするCCL17遺伝子を用いた場合のAUC3よりも高く、その判別精度は高い。
カットオフ値(参照値)は前述のとおり、当該ROC曲線に示される「真陽性率(感度)」及び「偽陽性率(1-特異度)」に関し、「真陽性率(感度)」-「偽陽性率(1-特異度)」が最大となる点(Youden index)における閾値を以て決定することができる。16遺伝子を用いて、健常と軽中等度アトピー性皮膚炎の2群、軽中等度アトピー性皮膚炎と重度アトピー性皮膚炎の2群の判別する場合の各参照値の一例を表3に示すが、この限りではなく適宜決定することができる。
【0050】
また、別の一実施形態においては、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定し、測定した当該発現レベルを、予め設定した基準値と比較することによって、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度を検出することができる。
該基準値は、アトピー性皮膚炎の重症度(アトピー性皮膚炎の重症度に係るスコア値に基づいて分類されたアトピー性皮膚炎の重症度レベル又はアトピー性皮膚炎の重症度に係るスコア値)と標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの関係に基づき、予め決定することができる。例えば、ある集団を、アトピー性皮膚炎の重症度に基づいて異なる重症度の複数の群に分け、それぞれの群における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの統計値(例えば平均値)を参考に、それぞれの群への属否を判別する基準値を決定することができる。標的遺伝子又はその発現産物として複数種のマーカーを用いる場合は、各々のマーカーについて基準値を求めることが好ましい。該集団としては、アトピー性皮膚炎を有する患者群でも、健常者とアトピー性皮膚炎を有する患者群を合わせた群でも、特定の重症度のアトピー性皮膚炎を有する患者群でもいずれでも良い。また、検出の対象となる被験者に応じて、年代ごと、世代ごと、男女ごとあるいは人種ごとに集団を作成してもよい。
基準値の算出に用いられる群の例としては、軽症患者群(軽症群)、中等症患者群(中等症群)、軽症及び中等症患者群(軽中等症群)、重症患者群(重症群)などが挙げられる。対照としての健常群(アトピー性皮膚炎の症状を有さない群)を含めてもよい。
【0051】
該ネガティブマーカーを用いる場合、その発現レベルが低いほど、被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は高いと検出される。一方、該ポジティブマーカーを用いる場合、その発現レベルが高いほど、被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は高いと検出される。
【0052】
基準値の設定、及び該基準値に基づく重症度の分類の具体的手法は、当業者の技術常識に従って適宜実施することができる。
【0053】
さらに別の一実施形態においては、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを異なる時期に測定し、測定した標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを比較することで、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度の変化(例えば増悪又は軽快)を検出することができる。
【0054】
ネガティブマーカーを用いる場合、その発現レベルの経時的増加は、被験者のアトピー性皮膚炎の重症度の低下を表し、一方、発現レベルの経時的低下は、被験者のアトピー性皮膚炎の重症度の上昇を表す。一例においては、過去の測定での同じ被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを基準値とする。被験者から測定したネガティブマーカーの発現レベルが基準値よりも高い場合、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は低下したと検出され、一方、被験者から測定したネガティブマーカーの発現レベルが基準値よりも低い場合、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は上昇したと検出される。必要に応じて、該過去の測定の際に従来の手法で該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度判定を行ってもよい。その場合、被験者から測定したネガティブマーカーの発現レベルが基準値よりも高い又は低いとき、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は該過去の測定でのアトピー性皮膚炎の重症度より低い又は高いと検出され得る。
【0055】
ポジティブマーカーを用いる場合、その発現レベルの経時的増加は、被験者のアトピー性皮膚炎の重症度の上昇を表し、一方、発現レベルの経時的低下は、被験者のアトピー性皮膚炎の重症度の低下を表す。一例においては、過去の測定での同じ被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを基準値とする。被験者から測定したポジティブマーカーの発現レベルが基準値よりも高い場合、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は上昇したと検出され、一方、被験者から測定したポジティブマーカーの発現レベルが基準値よりも低い場合、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は低下したと検出される。必要に応じて、該過去の測定の際に従来の手法で該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度判定を行ってもよい。その場合、被験者から測定したポジティブマーカーの発現レベルが基準値よりも高い又は低いとき、該被験者のアトピー性皮膚炎の重症度は該過去の測定でのアトピー性皮膚炎の重症度より高い又は低いと検出され得る。
【0056】
本発明の方法の一実施形態においては、被験者由来の本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが、基準値に対して好ましくは91%以下、より好ましくは83%以下、さらに好ましくは77%以下であれば、該標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルは基準値より低いと判断され得、本発明の標的遺伝子又はその発現産物発現レベルが、基準値に対して好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは130%以上であれば、該標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルは基準値より高いと判断され得る。あるいは、被験者由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルと基準値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することができる。標的遺伝子又はその発現産物として複数のマーカーを用いる場合には、個々の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを基準値と比較し、一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが基準値と異なるか否かを調べることで、アトピー性皮膚炎の重症度を検出することができる。
【0057】
また、別の一実施形態においては、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定し、該発現レベルをアトピー性皮膚炎の重症度を検出する判別式(予測モデル)に代入し、被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出することができる。
具体的には、重症度が異なるアトピー性皮膚炎患者(例えば、軽症患者、軽中等症患者、中等症患者、重症患者)由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベル及び健常人由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を教師サンプルとして、教師サンプルの各人から取得した少なくとも1つ以上の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを説明変数とし、各人のアトピー性皮膚炎の重症度(例えば、軽度、軽中等度、中等度、重度)又は症状なし(健常)を目的変数とする機械学習により、判別式を構築することができる。そして、被験者における当該標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定し、該発現レベルを当該判別式に代入することで、被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出することができる。
なお、判別式の作成においては、主成分分析(PCA)により次元圧縮を行ない、主要成分を説明変数とすることができる。
【0058】
判別式の構築におけるアルゴリズムとしては、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公知のものを利用することができる。機械学習アルゴリズムの例としては、ランダムフォレスト(Random forest)、線形カーネルのサポートベクターマシン(SVM linear)、rbfカーネルのサポートベクターマシン(SVM rbf)、ニューラルネットワーク(Nerural net)、一般線形モデル(Generalized linear model)、正則化線形判別分析(Regularized linear discriminant analysis)、正則化ロジスティック回帰(Regularized logistic regression)などが挙げられる。構築した予測モデルに検証用のデータを入力して予測値を算出し、該予測値が実測値と最も適合するモデル、例えば正解率(Accuracy)が最も大きいモデルを最適な予測モデルとして選抜することができる。また、予測値と実測値から検出率(Recall)、精度(Precision)、及びそれらの調和平均であるF値を計算し、そのF値が最も大きいモデルを最適な予測モデルとして選抜することができる。
【0059】
本発明のアトピー性皮膚炎の重症度を検出するための検査用キットは、患者から分離した生体試料における本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定するための検査試薬を含有するものである。具体的には、本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的に結合(ハイブリダイズ)するオリゴヌクレオチド(例えば、PCR用のプライマー)を含む、核酸増幅、ハイブリダイゼーションのための試薬、或いは、本発明の標的遺伝子の発現産物(タンパク質)を認識する抗体を含む免疫学的測定のための試薬等が挙げられる。当該キットに包含されるオリゴヌクレオチド、抗体等は、上述したとおり公知の方法により得ることができる。
また、当該検査用キットには、上記抗体や核酸の他、標識試薬、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤や、試験に必要な器具やポジティブコントロールやネガティブコントロールとして使用するコントロール試薬、生体試料を採取するための用具(例えば、SSLを採取するためのあぶら取りフィルムなど)等を含むことができる。
【0060】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するために、当該被験者から採取された生体試料について、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における遺伝子又はその発現産物の測定方法。
<2>被験者から採取された生体試料について、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度の検出方法。
<3>前記遺伝子がC1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23及びKLK5からなる9種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子、好ましくはC1QBである、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>前記遺伝子がLCE1A、CTSV、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74及びKRT25からなる11種の遺伝子群、好ましくはLCE1A、CTSV、KRT72、SPINK5、KRT23及びKLK5からなる6種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子であり、該遺伝子又はその発現産物の発現レベルが低いほど、前記被験者のアトピー性皮膚炎の重症度が高いと検出する、<1>又は<2>の方法。
<5>重症度が異なる2群を判別するための参照値をあらかじめ定めておき、アトピー性皮膚炎患者の遺伝子又はその発現産物の発現レベルが該参照値以上であればより重症度が低い群、該参照値以下であれば重症度が高い群であると判別する、<4>の方法。
<6>前記遺伝子がC1QB、DIAPH1、CTSZ、APRT及びS100Bからなる5種の遺伝子群、好ましくはC1QB、DIAPH1及びCTSZからなる3種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子であり、該遺伝子又はその発現産物の発現レベルが高いほど、前記被験者のアトピー性皮膚炎の重症度が高いと検出する、<1>又は<2>の方法。
<7>重症度が異なる2群を判別するための参照値をあらかじめ定めておき、アトピー性皮膚炎患者の遺伝子又はその発現産物の発現レベルが該参照値以下であればより重症度が低い群、該参照値以上であれば重症度が高い群であると判別する、<6>の方法。
<8>重症度が症状なし(健常)、軽中等度及び重度から選ばれる1以上である、<1>~<7>のいずれかの方法。
<9>重症度が異なる2群が、健常と軽中等度アトピー性皮膚炎の2群、又は軽中等度アトピー性皮膚炎と重度アトピー性皮膚炎の2群である、<5>又は<7>の方法。
<10>重症度が異なるアトピー性皮膚炎患者由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベル及び健常人由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を教師サンプルとして構築した判別式に、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を代入し、被験者におけるアトピー性皮膚炎の重症度を検出する、<1>又は<2>の方法。
<11>重症度が、軽度、軽中等度、中等度及び重度から選ばれる1以上である、<10>の方法。
<12>判別式が、教師サンプルの各人から取得した少なくとも1つ以上の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを説明変数とし、各人のアトピー性皮膚炎の重症度及び症状なし(健常)を目的変数とする機械学習により構築される、<10>又は<11>の方法。
<13>機械学習に用いるアルゴリズムが、ランダムフォレスト(Random forest)、線形カーネルのサポートベクターマシン(SVM linear)、rbfカーネルのサポートベクターマシン(SVM rbf)、ニューラルネットワーク(Nerural net)、一般線形モデル(Generalized linear model)、正則化線形判別分析(Regularized linear discriminant analysis)及び正則化ロジスティック回帰(Regularized logistic regression)から選ばれる、<12>の方法。
<14>前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルがmRNAの発現量である、<1>~<13>のいずれかの方法。
<15>前記遺伝子又はその発現産物が前記被験者の皮膚表上脂質に含まれるRNAである、<1>~<14>のいずれかの方法。
<16>重症度が、頭頚部EASIに基づく重症度分類である、<1>~<15>のいずれかの方法。
<17>前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、<1>~<16>のいずれかの方法に用いられるアトピー性皮膚炎の重症度を検出するための検査用キット。
<18>被験者から採取された生体試料に由来する、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の、アトピー性皮膚炎の重症度マーカーとしての使用。
<19>前記遺伝子又はその発現産物が、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23又はKLK5からなる9種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物、好ましくはC1QB又はその発現産物である、<18>の使用。
<20>前記遺伝子又はその発現産物が、前記被験者から採取された皮膚表上脂質に由来するmRNAである、<18>又は<19>の使用。
<21>重症度が、頭頚部EASIに基づく重症度である、<18>~<20>のいずれかの使用。
【実施例0061】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 SSLから抽出されたRNAを用いたアトピー性皮膚炎の重症度の検出
1)軽中等度アトピー性皮膚炎患者の診断及びSSL採取
健常者(25~57歳、男性)14名、及びアトピー性皮膚を有する成人(AD)(23~56歳、男性)29名を被験者とした。当該アトピー性皮膚炎患者は、皮膚科専門医により重症度が軽度及び中等度のアトピー性皮膚炎の診断を受けている。診断には頭頚部EASIスコア(Hanifin et al. Exp dermatol.10, 2001)を用い、当該患者の頭頚部EASIスコアは0.1~1.8(平均値0.50)の値を示した。各被験者の全顔からあぶら取りフィルム(ポリプロピレン製、5.0cm×8.0cm、3M社)1枚を用いて皮脂を回収後、該あぶら取りフィルムをバイアルに移し、RNA抽出に使用するまで-80℃で、約1ヶ月間保存した。
【0062】
2)重度アトピー性皮膚炎患者の診断及びSSL採取
健常者(24~59歳、男性)30名、及びアトピー性皮膚を有する成人(AD)(21~59歳、男性)30名を被験者とした。当該アトピー性皮膚炎患者は、皮膚科専門医により重症度が重度のアトピー性皮膚炎の診断を受けている。診断には頭頚部EASIスコア(Hanifin et al. Exp dermatol.10, 2001)を用い、当該患者の頭頚部EASIスコアは2.4~6.6(平均値3.0)の値を示した。各被験者の全顔からあぶら取りフィルム(ポリプロピレン製、5.0cm×8.0cm、3M社)1枚を用いて皮脂を回収後、該あぶら取りフィルムをバイアルに移し、RNA抽出に使用するまで-80℃で、約1ヶ月間保存した。
【0063】
3)RNA調製及びシーケンシング
上記1)及び2)で皮脂を回収したあぶら取りフィルムを適当な大きさに切断し、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを水層に移行させた。該水層から、RNA抽出用スピンカラムを用いた市販のRNA抽出キットを用いて、付属のプロトコルに従いRNAを抽出した。抽出されたRNAを、SuperScript VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて42℃、90分間逆転写し、cDNAを合成した。逆転写反応のプライマーには、キットに付属しているランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRにより20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレックスPCRは、Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、[99℃、2分→(99℃、15秒→62℃、16分)×20サイクル→4℃、Hold]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XP(ベックマン・コールター株式会社)で精製した後に、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製、及び増幅を行い、ライブラリーを調製した。調製したライブラリーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。シーケンシングで得られた各リード配列をヒトゲノムのリファレンス配列であるhg19 AmpliSeq Transcriptome ERCC v1を用いて遺伝子マッピングすることで各リード配列の由来する遺伝子を決定した。
【0064】
4)データ解析:頭頚部EASIスコアによる重症度に伴って発現変動する遺伝子
i)使用データ
上記3)で測定した合計44名の健常者、29名の軽中等度AD患者及び30名の重度AD患者のSSL由来RNAの発現量のデータ(リードカウント値)について、DESeq2という手法を用いて補正した。但し、全サンプル被験者の発現量データのうち90%以上のサンプル被験者で欠損値ではない発現量データが得られている7177遺伝子のみ以下の解析に使用した。解析には、DESeq2という手法を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)を用いた。
【0065】
ii)RNA発現解析1
上記i)で測定した健常者、及び軽中等度ADのSSL由来RNA発現量(Normalized count値)を基に、健常者と比較して軽中等度ADにおいて尤度比検定によるp値の補正値(FDR)が0.1未満となるRNA(発現変動遺伝子)を同定した。その結果、1424種のRNAが軽中等度ADにおいて低下(DOWN)、1966種のRNAが軽中等度ADにおいて上昇(UP)した。
【0066】
iii)RNA発現解析2
上記i)で測定した軽中等度AD及び重度ADのSSL由来RNA発現量(Normalized count値)を基に、軽中等度ADと比較して重度ADにおいて尤度比検定によるp値の補正値(FDR)が0.1未満となるRNA(発現変動遺伝子)を同定した。その結果、1436種のRNAが重度ADにおいて低下(DOWN)、1417種のRNAが重度ADにおいて上昇(UP)した。
【0067】
iv)重症度に伴って段階的に発現が低下する遺伝子の抽出
上記ii)で同定した健常者と比較して軽中等度ADにおいて発現が低下した1424遺伝子、及びiii)で同定した軽中等度ADと比較して重度ADにおいて発現が低下した1436遺伝子のいずれにも該当する遺伝子を抽出したところ、74種の遺伝子が該当した。該74種の遺伝子は、ADの重症度に伴って段階的に発現が低下する可能性のある遺伝子、即ちその発現量の高低によってアトピー性皮膚炎の重症度を検出し得る遺伝子である。これら遺伝子のうち、関連するReactome PathwayやGOタームを
構成する遺伝子の他、当業者が知り得る文献で報告のある遺伝子などの情報を基に、表皮の機能に関連する遺伝子として13種の遺伝子を抽出した。そしてこれら13種の遺伝子を候補として、次の5)における評価でより判別精度の高い遺伝子を選抜した。
【0068】
v)重症度に伴って段階的に発現が上昇する遺伝子の抽出
上記ii)で同定した健常者と比較して軽中等度ADにおいて発現が上昇した1966遺伝子、及びiii)で同定した軽中等度ADと比較して重度ADにおいて発現が上昇した1417遺伝子のいずれにも該当する遺伝子を抽出したところ、34種の遺伝子が該当した。該34種の遺伝子は、ADの重症度に伴って段階的に発現が上昇する可能性のある遺伝子、即ちその発現量の高低によってアトピー性皮膚炎の重症度を検出し得る遺伝子である。これら遺伝子のうち、関連するReactome PathwayやGOタームを
構成する遺伝子の他、当業者が知り得る文献で報告のある遺伝子などの情報を基に、免疫の機能に関連する遺伝子として9種の遺伝子を抽出した。それらの中にはADの重症度を反映することが既に知られているTARCタンパク質をコードする遺伝子であるCCL17が含まれていた。そしてこれら9種の遺伝子を候補として、次の5)における評価でより判別精度の高い遺伝子を選抜した。
【0069】
5)より精度の高い重症度判別マーカーの選抜
i)健常と軽中等度ADの判別
上記4)のiv)及びv)で抽出した合計22種の遺伝子について、ROC曲線を用いて、健常と軽中等度ADを判別する精度の評価を行った。ROC曲線は、ある連続値の大小を指標として、あるサンプルが陰性であるか陽性であるかを判別する際に、陰性群と陽性群において、縦軸に陽性群において陽性の結果がでる確率(感度又は真陽性率)と、横軸に陰性群において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率)がプロットされる。ROC曲線の曲線下面積(AUC)が大きいほど、2群の判別精度は高いと判断される。上記iv)の13遺伝子が健常と軽中等度ADを判別する精度の評価においては、軽中等症ADを陰性群、健常を陽性群とした。上記v)の9遺伝子が健常と軽中等症ADを判別する精度の評価においては、健常を陰性群、軽中等症ADを陽性群とした。そして22種の各遺伝子の、Youden indexにおける正答率(正答率1)、その時のAUCの値(AUC1)及びカットオフ値(参照値1)を求めた。
【0070】
ii)軽中等度ADと重度ADの判別
上記4)のiv)及びv)で抽出した22種の遺伝子について、ROC曲線を用いて、軽中等度ADと重度ADを判別する精度の評価を行った。上記iv)の13遺伝子が軽中等度ADと重度ADを判別する精度の評価においては、重度ADを陰性群、軽中等度ADを陽性群とした。上記v)の9遺伝子が軽中等度ADと重度ADを判別する精度の評価においては、軽中等度ADを陰性群、重度ADを陽性群とした。そして22種の各遺伝子の、Youden indexにおける正答率(正答率2)、その時のAUCの値(AUC2)及びカットオフ値(参照値2)を求めた。
【0071】
iii)健常、軽中等度AD及び重度ADの判別に適する、より精度の高い遺伝子の選抜 上記4)で抽出した計22種類の遺伝子のうち、いずれの遺伝子が健常と軽中等度ADの判別及び軽中等度ADと重度ADの判別のいずれをも精度よく行えるかどうかを、AUC1とAUC2の平均値(AUC3)を算出し、これを指標として評価した(表3)。そして、ADの重症度を反映することが既に知られているTARCタンパク質をコードする遺伝子であるCCL17のAUC3=0.693を比較対象とし、これに比べAUC3がより大きい遺伝子を抽出した。その結果、上記4)のiv)で抽出した13種の遺伝子からは、LCE1A、CTSV、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74及びKRT25の11遺伝子が抽出された。また上記4)のv)で抽出した9種の遺伝子からは、C1QB、DIAPH1、CTSZ、APRT及びS100Bの5遺伝子が抽出された。これら抽出された計16種の遺伝子及び比較対象であるCCL17のAUC1、正答率1、参照値1、AUC2、正答率2、参照値2、AUC3を表3に示す。尚、表中の発現変化が「低下」とは重症度の悪化に伴い発現が低下することを、「上昇」とは重症度の悪化に伴い発現が上昇することを示す。
以上の結果から、C1QB、DIAPH1、LCE1A、CTSV、CTSZ、KRT72、SPINK5、KRT23、KLK5、LCE1B、SPRR1A、PKP1、KRT74、APRT、KRT25及びS100Bからなる16種の遺伝子は、AUC3がCCL17のAUC3より高く、即ち高い精度で健常と軽中等度ADの判別及び軽中等度ADと重度ADの判別のいずれをも行うことができる遺伝子であると考えられる。
【0072】