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特開2024-161929ダンパ制御装置およびダンパ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161929
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ダンパ制御装置およびダンパ制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20241114BHJP
   B60G 17/018 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/018
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076988
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】柿田 翔太
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA05
3D301CA01
3D301DA08
3D301DA33
3D301DA38
3D301EA04
3D301EA10
3D301EA14
3D301EA15
3D301EA20
3D301EA21
3D301EA22
3D301EA27
3D301EA43
3D301EB13
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC17
3D301EC22
3D301EC61
3D301EC65
(57)【要約】
【課題】 走行シーンに応じて適切な減衰特性を得ることにより良好な乗り心地を確保できるようにする。
【解決手段】 ダンパ制御装置(ダンパ制御ECU30)は、ダンパのストローク速度を算出するストローク速度算出部312と、ダンパに入力されるばね下加速度を算出するばね下加速度算出部314と、ストローク速度を入力値として算出されるストロークに由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出部321と、ばね下加速度を入力値として算出されるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出部322と、ばね下加速度が所定値以上の場合、第2の制御指令値を参照してダンパを制御し、ばね下加速度が所定値未満の場合、第1の制御指令値を参照してダンパを制御するダンパ制御部33と、を有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装備されるダンパの減衰力を制御指令値によって制御するダンパ制御装置であって、
前記ダンパに入力されるストローク速度を算出するストローク速度算出部と、
前記ダンパに入力されるばね下加速度を算出するばね下加速度算出部と、
前記ストローク速度を入力値として算出される前記制御指令値の一つであるストローク速度に由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出部と、
前記ばね下加速度を入力値として算出される前記制御指令値の一つであるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出部と、
前記ばね下加速度が所定値以上の場合、前記第2の制御指令値を参照して前記ダンパを制御し、前記ばね下加速度が所定値未満の場合、前記第1の制御指令値を参照して前記ダンパを制御するダンパ制御部と、
を有することを特徴とするダンパ制御装置。
【請求項2】
前記車両が備える車輪の車輪速変動を入力値として前記車両に入力される周波数を算出する周波数算出部をさらに有し、
前記ストローク速度算出部は、
前記周波数を入力値とする前記車両の数理モデルにより前記ストローク速度を算出し、
前記ばね下加速度算出部は、
前記ストローク速度を入力値として前記ダンパのストローク量を算出し、算出したストローク量と前記周波数との相関から前記ばね下加速度を算出することを特徴とする請求項1に記載のダンパ制御装置。
【請求項3】
前記第2の制御指令値算出部は、
あるストローク量を基準とした場合に、前記第1の制御指令値よりも前記第2の制御指令値が小さくなるように前記第2の制御指令値を算出することを特徴とする請求項1に記載のダンパ制御装置。
【請求項4】
車両に装備されるダンパの減衰力を制御指令値によって制御するダンパ制御方法であって、
前記ダンパのストローク速度を算出するストローク速度算出ステップと、
前記車両が走行する路面から前記ダンパに入力されるばね下加速度を算出するばね下加速度算出ステップと、
前記ストローク速度を入力値として算出される前記制御指令値の一つであるストローク速度に由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出ステップと、
前記ばね下加速度を入力値として算出される前記制御指令値の一つであるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出ステップと、
前記ばね下加速度が所定値以上の場合、前記第2の制御指令値を参照して前記ダンパを制御し、前記ばね下加速度が所定値未満の場合、前記第1の制御指令値を参照して前記ダンパを制御するダンパ制御ステップと、
を有することを特徴とするダンパ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されるダンパの減衰力を制御指令値によって制御する、ダンパ制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションには、ばね下振動(車輪の上下振動)によるばね上振動の振幅(車体の上下振動)を小さくするために、ダンパの減衰力を調整する減衰力可変ダンパを備えたショックアブソーバ(緩衝器)が備えられている。
【0003】
このようなサスペンションを装着した車両は、路面状況や車両の挙動に合わせてダンパの減衰力を可変にすることで、高周波振動(サスペンションストローク小)、低周波振動(サスペンションストローク大)のいずれにも対応することができ、操縦安定性、及び乗り心地の向上を図ることができる。
【0004】
また、上述した車両には、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑制して乗り心地を高めるためにスカイフック理論に基づくスカイフック制御を実現するコントローラも搭載されている。このコントローラは、ばね上加速度に基づき、ばね上-減衰力マップを参照することにより減衰力ベースを設定し、設定した減衰力ベースにスカイフックゲインを乗じて目標減衰力を算出する。そして、目標減衰力とダンパのストローク速度とに基づいて電流マップを参照してスカイフック目標制御量を決定する(例えば、特許文献1の段落[0095]、図12図13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5886956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両が比較的平坦な路面を走行している場合、コントローラは、ショックアブソーバの減衰力特性をソフト(軟特性)に制御することにより、路面の小さな凹凸による車輪への振動入力を車体に伝達しないように制御している。
【0007】
しかしながら、減衰力がソフトなままでは車両が上述した凹凸よりも大きな振動入力を伴う突起や段差等に乗り上げる場合には衝撃が車体(ばね上)に伝達され、また、乗り越した後もしばらくの間車輪(ばね下)の振動が残ってしまうことがある。したがって、この間の振動を収束させるためにショックアブソーバの減衰力特性をハード(硬特性)に制御するように調整する必要がある。
【0008】
車両が突起や段差等に乗り上げる場合、ばね下への入力は、上下方向に連続的なうねりを伴う三角波形状あるいはサイン波形状となる場合が多い。この場合、初速が速く、高い加速度が発生する。ここで、ばね下へ入力されるストローク速度が同じであっても入力される加速度が高い場合、ばね上への入力を低減する観点から減衰力が低い方が好ましい。しかしながら、入力される加速度に依存することなく、入力されるストローク速度に応じて過剰な減衰力が発生し、その結果、車両に、乗り上げた突起や段差等の起伏を吸収するだけのサスペンションストロークを実現することができず、これらに起因する振動が伝達されて乗り心地が悪化する課題があった。
【0009】
本発明の1つの目的は、走行シーンに応じて適切な減衰特性を得ることにより良好な乗り心地を確保できる、ダンパ制御装置およびダンパ制御方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0012】
本発明の態様において、車両に装備されるダンパの減衰力を制御指令値によって制御するダンパ制御装置は、前記ダンパに入力されるストローク速度を算出するストローク速度算出部と、前記ダンパに入力されるばね下加速度を算出するばね下加速度算出部と、前記ストローク速度を入力値として算出される前記制御指令値の一つであるストローク速度に由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出部と、前記ばね下加速度を入力値として算出される前記制御指令値の一つであるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出部と、前記ばね下加速度が所定値以上の場合、前記第2の制御指令値を参照して前記ダンパを制御し、前記ばね下加速度が所定値未満の場合、前記第1の制御指令値を参照して前記ダンパを制御するダンパ制御部と、を有する。
【0013】
本発明の態様によれば、ダンパ制御装置は、ストローク速度を入力値としてストローク速度に由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出部の他に、ばね下加速度を入力値として算出されるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出部を設け、ダンパ制御部が、入力されるばね下加速度が所定値以上の場合に、ばね下加速度に由来する第2の制御指令値を参照してダンパを制御する。
【0014】
言い換えれば、第1の制御指令値算出部は、ストローク速度が速いほど減衰力が大きくなり逆にストローク速度が遅いほど減衰力が小さくなる特性を有する、ストローク速度に由来する第1の制御指令値を算出してダンパ制御部へ出力する。一方、第2の制御指令値算出部は、加速度が高いほど減衰力が低くなり逆に加速度が低いほど減衰力が高くなる特性を有する、加速度に由来する第2の指令値を算出してダンパ制御部へ出力する。
【0015】
そして、ダンパ制御部が、入力されるばね下加速度値を基準とし、加速度が所定値未満の加速度域では、ストローク速度に由来して減衰力が発生する第1の制御指令値を用いてダンパを制御することによりストローク感を高め、また、入力されるばね下加速度が所定値以上となる加速度域では、加速度に由来して減衰力が発生する第2の制御指令値を用いてダンパを制御することにより、ばね上に伝達される振動を抑制する構成とした。
【0016】
なお、「所定値」とは、車両の走行シーン(操縦安定性又は乗り心地)に応じて決まる調整可能な閾値であって、発明者らの実験データもしくはシミュレーションにより任意に設定される値である。
【0017】
本発明の態様によれば、入力されるばね下加速度が所定値以上の場合、入力されるばね下加速度に依存した減衰力を発生させることができるため、入力初速が早く加速度が高い三角波形状やサイン波形状のバネ下入力に対して、ばね上入力を低減した適切な減衰特性を発生させることができ、このため乗り心地の向上がはかれる。また、ダンパに供給される制御指令値(第1の制御指令値又は第2の制御指令値)により、ストローク速度に由来する減衰特性、又はばね下加速度に由来する減衰特性が得られるように選択できるため、走行シーンに応じた適切な減衰特性を得ることができ、良好な乗り心地を確保するダンパ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施の形態であるダンパ制御装置およびダンパ制御方法が適用される車両の構成の一例を模式的に示した図である。
図2図2は、本発明の実施の形態であるダンパ制御装置が適用されるダンパ制御システムの構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施の形態であるダンパ制御装置の基本動作を示すフローチャートである。
図4図4は、図3の「車両の状態量算出処理」の詳細動作を示すフローチャートである。
図5図5は、図3の「制御指令値算出、ダンパ制御処理」の詳細動作を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施の形態であるダンパ制御装置の減衰力特性を示す図であり、図6(a)は、「速度-減衰力マップ」の一例、図6(b)は、「加速度-減衰力マップ」の一例のそれぞれを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施の形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0020】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態という)について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態のダンパ制御装置およびダンパ制御方法が適用される車両の構成の一例を模式的に示した図である。
【0022】
(車両1の構成)
図1において、車両1のボディを構成する車体の下側には、たとえば、左右の前輪3と左右の後輪4(一方のみ図示)との合計4個の車輪3,4が設けられている。左右の前輪3と車体との間には、それぞれ前輪側の懸架装置5,5(前輪サスペンション5という)が介装して設けられている。前輪サスペンション5は、懸架ばね6(以下、ばね6という)、および、ばね6と並列に設けられた減衰力調整式緩衝器(ダンパ7)を備えている。
【0023】
左右の後輪4と車体との間には、それぞれ後輪側の懸架装置8,8(以下、後輪サスペンション8という)が介装して設けられている。後輪サスペンション8は、懸架ばね9(以下、ばね9という)、および、ばね9と並列に設けられた減衰力調整式緩衝器(ダンパ10)を備えている。ダンパ7,10は、例えば、減衰力の調整が可能な油圧式のシリンダ装置(減衰力可変式ショックアブソーバ)となるセミアクティブダンパにより構成されている。即ち、車両1は、減衰力可変式ショックアブソーバを用いたセミアクティブサスペンションシステムが搭載されている。
【0024】
ここで、ダンパ7,10は、車両1の車体と車輪3,4との間に設けられた減衰力可変型の減衰力発生装置(減衰力可変型緩衝器)である。ダンパ7,10は、本実施形態のダンパ制御装置としての一例であるECU(典型的には、ダンパ制御ECU30)によって発生減衰力の特性(減衰力特性)が可変に制御される。このために、ダンパ7,10には、減衰力特性をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的、あるいは多段階に調整するため、減衰力調整バルブおよびソレノイド等からなるアクチュエータ(後述する図2の40)が付設されている。ダンパ7,10は、ダンパ制御ECU30からアクチュエータ40(図2)へ供給される制御指令値(電流)に応じて減衰力特性が可変に調整される。
【0025】
なお、減衰力調整バルブとして、減衰力発生バルブのパイロット圧を制御する圧力制御方式や通路面積を制御する流量制御方式等、従来から知られている構造を用いることができる。また、ダンパ7,10は、減衰力を連続的(ないし多段階)に調整できればよく、たとえば、空圧ダンパや電磁ダンパ、電気粘性流体ダンパ、磁性流体ダンパであってもよい。また、ダンパ7,10は、エアばね(空気ばね)を用いたエアダンパ(エアサス)、前後左右の油圧シリンダを配管で接続した油圧ダンパ(車高調整装置)、左右の車輪の動きに対して力を与えるスタビライザー等であってもよい。
【0026】
また、ダンパ7,10は、推力を発生できる液圧式アクチュエータ、電動式アクチュエータまたは気圧式アクチュエータにより構成されるフルアクティブダンパでもよい。即ち、車両1にフルアクティブダンパを用いたフルアクティブサスペンションシステムを搭載してもよい。
【0027】
次に、車両1の状態を検出する各種のセンサS11,S12,S13,S14,S15、S16ついて説明する。
【0028】
図1に示すように、車両1には、車速センサS11、車輪速センサS12、前後加速度センサS13、横加速度センサS14、舵角センサS15、および変位センサS16が設けられている。これらの各センサS11,S12,S13,S14,S15,S16は、図2に示す挙動センサ10として、車両1に一例として搭載されているセンサである。より具体的には、車両1の制動、駆動、操舵の制御に主として用いられるセンサである。なお、これらセンサはその一部または全部が物理的なものでなくともよく、数理モデル等によって同等の性質の値を推定する構成としてもよい。そのような構成も、本願の権利範囲に含まれうる。例えば、変位センサS16は、特許文献1に記載の技術の一部を用いることで、数理モデルに置き換えることができる。
【0029】
車速センサS11は、例えば、車両1に搭載された変速装置の出力軸(図示せず)に設けられている。車速センサS11は、車両1(車体)の速度である車体速度を検出する。車速センサS11の検出情報(車体速度に対応する信号)は、たとえば車内LAN(Local Area Network)通信であるCAN50(Control Area Network)を介して車両1(車体)に搭載された車両制御ECU(ダンパ制御ECU30以外の他の車両制御ECU(アクセルECU、ブレーキECU、ステアリングECU等))に出力される。なお、車両制御ECUは図示省略してある。
【0030】
車輪速センサS12は、例えば、車輪3,4を支持する車輪支持用ハブユニット(図示せず)に設けられている。車輪速センサS12は、それぞれの車輪3,4に対応して設けられている。車輪速センサS12は、車輪3,4の回転速度を検出する。車輪速センサS12の情報(車輪速)は、CAN50を介して、車両制御ECU(アクセルECU、ブレーキECU、ステアリングECU)およびダンパ制御ECU30に出力される。
【0031】
なお、車速センサS11を省略すると共に、車輪速センサS12の車輪速から車体速度を取得する構成としてもよい。
【0032】
前後加速度センサS13および横加速度センサS14は、例えば、車両1のばね上となる車体に設けられている。前後加速度センサS13は、車両1(車体)の前後方向の加速度を検出し、横加速度センサS14は、車両1(車体)の左右方向の加速度(横加速度)を検出する。前後加速度センサS13の検出データ(前後加速度に対応する信号)および横加速度センサS14の検出データ(左右加速度に対応する信号)は、CAN50を介して車両制御ECU(アクセルECU、ブレーキECU、ステアリングECU)、およびダンパ制御ECU30に出力される。
【0033】
舵角センサS15は、例えば、車両1のハンドル(図示せず)に設けられている。舵角センサS15は、車両1を運転するドライバ(運転者)のステアリング操作によって生じる操舵角(回転角)または車輪(前輪3)の舵角を検出する。舵角センサS15の検出データ(操舵角に対応する信号)は、CAN50を介して車両制御ECU(ステアリングECU)に出力される。
【0034】
変位センサS16は、例えば、ばね上に対するばね下の相対変位量(ストローク)を検出するためにばね上に取り付けられており、ここから延びたアームの先端が、ばね下、あるいはばね下と共に上下動する部位に取り付けられている。変位センサS16の検出データは、ダンパ制御ECU30に出力される。変位センサS16は、本体に対するアームの傾きをポテンショメータ等で検出することにより、バネ上に対するばね下の相対変位量を検出している。なお、変位センサS16の検出結果から車高を算出することもできる。また、変位センサは上述した形態ではなく、ショックアブソーバ自体の伸縮量を直接計測する形態であってもよい。
【0035】
なお、変位センサS16を除くこれら挙動センサ(S11~S15)は、典型的には、サスペンション5,8専用のセンサである必要はない。即ち、ダンパ7,10を制御する以外の目的で車両に搭載されたセンサであり、言い換えれば、ダンパ7,10以外の車載装置を主として制御するために車両に標準的に搭載されたセンサである。具体的に、車両1を駆動および/または制動するエンジン、走行用駆動モータ、油圧ブレーキ、電動ブレーキ等の車両制駆動装置(アクセル、ブレーキ)、車両1を操舵する電動パワーステアリング装置等の操舵装置を主として制御するためのセンサとして車両1に搭載されている。
【0036】
(ダンパ制御システムの構成)
図2は、本実施形態のダンパ制御装置が適用されるダンパ制御システムの構成を示すブロック図である。
【0037】
図2に示すように、ダンパ制御システム100は、車両が備えるダンパの減衰力を制御する。ダンパ制御システム100は、車両の挙動を検出する1以上の挙動センサ10と、本実施形態のダンパ制御装置としてのダンパ制御ECU30と、アクチュエータ40が付設されたダンパ7,10と、により構成される。
【0038】
挙動センサ20は、上述した車速センサS11、車輪速センサS12、前後加速度センサS13、横加速度センサS14、舵角センサS15、および変位センサS16等を含む。なお、前述の通り、物理的なセンサでなくともよい。
【0039】
ダンパ制御ECU30は、本実施形態のダンパ制御装置であって、挙動センサ10の少なくとも1つ(例えば、車輪速センサS12)から車両1の状態量を取得し、取得した状態量から少なくともダンパ7,10のストローク速度とダンパ7,10に入力されるばね下加速度とを算出し、ストローク速度を入力値として算出されるストロークに由来する第1の制御指令値(第1の減衰力ベース)、及びばね下加速度を入力値として算出されるばね下加速度に由来する第2の制御指令値(第2の減衰力ベース)を算出し、ばね下加速度が所定値以上の場合、第2の制御指令値を参照してダンパ7,10を制御し、ばね下加速度が所定値未満の場合、第1の制御指令値を参照してダンパ7,10を制御する。
【0040】
なお、ダンパ7,10には、ダンパ制御ECU30から出力される第1の制御指令値又は第2の制御指令値に応じてダンパ7,10の減衰力特性を可変に調整するアクチュエータ40が付設されている。
【0041】
(ダンパ制御装置の構成)
次に、ダンパ7,10を制御する本実施形態のダンパ制御装置としてのダンパ制御ECU30の機能ブロックのそれぞれについて説明する。
【0042】
ダンパ制御ECU30は、油圧ダンパの減衰力を制御する本実施形態のダンパ制御装置であり、図2に機能ブロック図で示すように、状態量算出部31と、制御指令値算出部32と、ダンパ制御部33と、を含む。
【0043】
状態量算出部31は、挙動センサ20からCAN50を介して車両情報を取得し、少なくとも、車両1のばね下への入力周波数、油圧ダンパのストローク速度、ストローク量、およびばね下加速度を算出する機能を有する。
【0044】
状態量算出部31は、例えば、車輪速センサS12から、車両1の車輪3,4の回転速度である車輪速を取得し、少なくともこの車輪速を入力とする関数を用いて、入力周波数、ストローク速度、ストローク量、およびばね下加速度等を算出する。ここで、入力周波数とは、車両1の鉛直方向に荷重変化の周波数や、車両の前後左右方向に作用する荷重変化の周波数である。
【0045】
なお、車輪速センサS12は、油圧ダンパの状態量算出のために専用に設けられたものではなく、車両1の走行制御のために通常使用されるセンサであり、この車輪速センサS12から得られる情報に基づき、入力周波数、ストローク速度、ストローク量、ばね下加速度等が算出されるため、好適である。
【0046】
状態量算出部31は、周波数算出部311と、ストローク速度算出部312と、ストローク量算出部313と、ばね下加速度算出部314、とを含む。
【0047】
周波数算出部311は、車両1が備える車輪3,4の車輪速変動を入力値として車両1に入力される周波数を算出する機能を有する。周波数算出部311は、例えば、車輪速センサS12から車両1の車輪3,4の回転速度である車輪速を取得し、この車輪速の変動を入力とする関数を用いて周波数を算出してもよい。すなわち、周波数算出部311は、車輪3,4の回転速度信号である車輪速信号に含まれる振動成分から車両のばね下共振周波数(ピーク周波数値)を算出し、このばね下共振周波数から荷重変動を算出し、この荷重変動を解析することにより周波数を求めることができる。
【0048】
なお、振動成分からピーク周波数である共振周波数を抽出する方法は、例えば、特許第2836652号公報等に開示されているFFT(Fast Fourier Transform)法、特許第3152151号公報に開示されているLPC(Linear Predictive Coding)法、あるいは、特開2001-91390号公報に開示されているゼロクロスカウント法などのデジタル信号処理により行うことができる。
【0049】
ストローク速度算出部312は、ダンパ7,10のストローク速度を算出する機能を有する。ストローク速度算出部312は、周波数算出部311で算出された周波数を入力値とする車両の数理モデルによりストローク速度を算出してもよい。このとき、ダンパ7,10のストローク速度(Vp)は、等速円運動1回転に要する時間周期をT、全振幅(ダンパ7,10の伸び縮みによって最も縮んだ状態(フルバンプ)から最も伸びきった状態(フルリバウンド)までの車輪3,4が動く長さ(ストローク量)をD、周波数fをf=1/T、車輪3,4が動いた距離の1周の長さをπDとした場合に、以下に示す車両1の数理モデル(周波数とストロークの関係式(1))を用いて算出することができる。
【0050】
【数1】
【0051】
なお、周波数(f)は、以下の式(2)で算出することもできる。
【0052】
【数2】
【0053】
また、ストローク量算出部313は、ダンパ7,10のストローク量(D)を算出する機能を有する。ダンパ7,10のストローク量(D)は、ストローク量算出部313が、ストローク速度算出部312で算出されたストローク速度(Vp)を入力値とした数理モデル(例えば、D=Vp/f×c)を用いて算出(cは定数)してもよい。
【0054】
また、ばね下加速度算出部314は、ばね下加速度(G)を算出する機能を有する。ばね下加速度(G)は、ばね下加速度算出部314が、ストローク量算出部313で算出したストローク量(D)と周波数(f)との相関(G-(f,D)相関マップ)からばね下加速度を算出してもよい。ここで、「G-(f,D)相関マップ」は、ばね下加速度(G)と、ストローク量(D)と周波数(f)の組み合わせとの関係(特性)に対応するマップとして、発明者らによって予め実験され、あるいはシミュレーション等により作成されたものであり、ばね下加速度算出部314に設定(ばね下加速度算出部314が内蔵するRAM等に記憶)されている。
【0055】
なお、ばね下加速度算出部314は、上述した「G-(f,D)マップ」に依存することなく、以下に示す、周波数、ストローク、加速度の関係式(3)を用いて算出することもできる。
【0056】
【数3】
【0057】
なお、ばね下に入力される周波数(f)、ダンパ7,10のストローク速度(Vp)、ダンパ7,10のストローク量(D)のそれぞれの算出の仕方は上述した通りであるが、ストローク量(D)については、例えば、ばね下に設けられた変位センサS16により検出される車体に接続されたばね上に対するばね下の相対変位値(ダンパ変位)とし、また、ストローク速度(Vp)については、例えば、変位センサS16により検出されたダンパ変位を時間微分して得られる値としてもよい。また、車両1へのばね下へ入力される周波数(f)は、例えば、ばね上に設けられた前後加速度センサS13によって検出されるばね上下加速度信号によって検出される車輪速の振幅から算出される構成としてもよい。
【0058】
なお、状態量算出部31(周波数算出部311、ストローク速度算出部312、ストローク量算出部313、ばね下加速度算出部314)によって算出されたダンパ7,10のばね下へ入力される、周波数(f)、ストローク速度(Vp)、およびストローク量(D)、ばね下加速度(G)のそれぞれは、車両1の状態量として制御指令値算出部32へ供給される。
【0059】
制御指令値算出部32は、ストローク速度(Vp)を入力値として算出されるストローク速度に由来(依存)する第1の制御指令値(ストローク由来の制御指令値)、およびばね下加速度を入力値として算出されるばね下加速度に由来(依存)する第2の制御指令値(ばね下加速度由来の制御指令値)を算出する機能を有する。
【0060】
このため、制御指令値算出部32は、ストローク由来の制御指令値算出部321(第1の制御指令値算出部)と、ばね下加速度由来の制御指令値算出部322(第2の制御指令値算出部)と、を含む。
【0061】
ストローク速度由来の制御指令値算出部321は、状態量算出部31(ストローク速度算出部312)で算出されるストローク速度(Vp)を入力値として算出される、ストローク速度に由来する第1の制御指令値を算出する機能を有する。ストローク由来の制御指令値算出部321により算出される第1の制御指令値により、例えば、図6(a)に示す減衰力特性を有する減衰力(DF)を減衰力ベースとして発生させることができる。
【0062】
ばね下加速度由来の制御指令値算出部322は、状態量算出部31(ばね下加速度算出部314)で算出されるばね下加速度(G)を入力値として算出される、ばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する機能を有する。ばね下加速度由来の制御指令値算出部322により算出される第2の制御指令値により、例えば、図6(b)に示す減衰力特性を有する減衰力(DF)を減衰力ベースとして発生させることができる。
【0063】
図6は、本実施形態のダンパ制御装置の減衰力特性を示す図であり、図6(a)に、ストローク速度Vp[m/s]に依存して減衰力DF[N]が発生する「速度-減衰力マップ(Vp-DFマップ)」の一例が示されている。図6(a)に示す「Vp-DFマップ」によれば、ストローク速度(Vp)が速いほど減衰力(DF)は大きくなり、逆にストローク速度が遅いほど減衰力が小さくなる特性を有している。
【0064】
ところで、ストローク速度(Vp)の中速域(例えば、ポイントP)は、ばね上入力を低減する(過剰な振動を抑制する)観点から、減衰力をDFrで示すレベル近傍まで低下させることが好ましい。減衰力をDFr以下に設定することで、ダンパ7,10がストロークしやすくなり、車両(ばね上)に、乗り上げた突起や段差等を吸収することにより、これらに起因する、乗り心地に悪影響を与えるような振動を抑制できるはずである。
【0065】
図6(b)に、加速度G[m/s]に依存して減衰力DF[N]が発生する「ばね下加速度-減衰力マップ(G-DFマップ)」の一例が示されている。図6(b)に示す「G-DFマップ」によれば、ばね下加速度(G)が高いほど減衰力が低くなり逆にばね下加速度が低いほど減衰力が高くなる特性を有している。
【0066】
本実施形態のダンパ制御装置は、ダンパ制御部33が、入力されるばね下加速度値を基準とし、加速度が所定値(閾値GTH)未満の加速度域では、ストローク速度(Vp)に依存して減衰力が発生する第1の制御指令値を用いてダンパ7,10を制御することによりストローク感を高め、また、入力されるばね下加速度(G)が所定値(GTH)以上となる加速度域では、加速度に依存して減衰力が発生する第2の制御指令値を用いてダンパを制御することにより、ばね上に伝達される振動を抑制する構成とした。
【0067】
具体的に、ダンパ制御部33は、ストローク速度(Vp)の中速域から高速域に向け、言い換えれば、ばね下加速度(G)が所定値(閾値GTH)以上となった時点で、図6(a)に一例を示す「Vp-DFマップ」から図6(b)に一例を示す「ばね下加速度-減衰力マップ(G-DFマップ)」に使用を切り替え、ばね上入力を低減するために、ばね下に入力される加速度に依存した減衰力を設定することで、ポイントP´で発生する減衰力がDFr以下になる。したがって、車両1が突起や段差を乗り上げたときの突き上げに基づき発生する衝撃(ばね上に伝達される振動)を低減することができ、結果、乗り心地の向上をはかることができる。
【0068】
ここで、ばね下加速度の閾値GTHは、車両の走行シーン(操縦安定性又は乗り心地)に応じて決まる調整可能な閾値であって、デフォルトで設定された値、あるいは状態量算出部31(ばね下加速度算出部314)によって動的に設定される値であり、発明者らの実験データもしくはシミュレーションにより任意に設定される値である。
【0069】
なお、ばね下加速度由来の制御指令値算出部322は、あるストローク量(D)を基準とした場合に、第1の制御指令値(ストローク由来の制御指令値)よりも第2の制御指令値(ばね下加速度由来の制御指令値)が小さくなるように第2の制御指令値(ばね下加速度由来の制御指令値)を算出することができる。言い換えれば、ストローク量が同じ場合、このときのストローク速度(Vp)およびばね下加速度(G)を用いて算出されるそれぞれの制御指令値(第1の減衰力ベース、第2の減衰力ベース)は、常にばね下加速度に由来する制御指令値(第2の制御指令値)が小さくなるように設定されている。
【0070】
ダンパ制御部33は、ばね下加速度が所定値(図6(b)に示す閾値G)以上の場合、ばね下加速度由来の制御指令値(第2の制御指令値)を参照してダンパ7,10のそれぞれら付設されたアクチュエータ40を制御し、ばね下加速度が所定値未満の場合、ストローク由来の制御指令値(第1の制御指令値)を参照してダンパ7,10に付設されたアクチュエータ40を制御する。
【0071】
ダンパ制御部33は、ストローク由来の制御指令値算出部321から出力される第1の制御指令値(ストローク由来の制御指令値)と、ばね下加速度由来の制御指令値算出部322から出力される第2の制御指令値(ばね下加速度に由来する制御指令値)とを入力として得、予め設定されるか動的に設定される調整可能なばね下加速度を閾値(GTH)とし、ばね下加速度が所定値(閾値)以上の場合は第2の制御指令値を、ばね下加速度が閾値未満の場合は第1の制御指令値を選択する。そして、制御指令値算出部33から出力される、第1の制御指令値(第1の減衰力ベース)又は第2の制御指令値(第2の減衰力ベース)に基づき、ダンパ制御部33が内蔵する「電流値マップ」を参照してダンパ7,10にそれぞれ付設されたアクチュエータ40に供給すべき電流値を設定する。
【0072】
「電流値マップ」は、減衰力ベースと車両1の状態量(ストローク速度Vp又はばね下加速度G)とからアクチュエータ40に供給する制御電流を検索するマップである。
【0073】
例えば、ストローク速度(Vp)が一定の場合は、減衰力ベースが増加するほど制御電流の電流値が増加し、また、減衰力ベースが一定の場合は、ストローク速度(Vp)が増加するほど制御電流の電流値が減少するように、ストローク速度(Vp)に対してPID(Proportional Integral Differential)制御におけるゲイン(スカイフックゲイン)を乗算してアクチュエータ40へ供給すべき制御電流を生成できるように適宜調整している。なお、PID制御におけるゲインは、例えば、試験等の適切な方法で求めることが可能である。
【0074】
また、例えば、ばね下加速度(G)が一定の場合は、減衰力ベースが増加するほど制御電流の電流値が増加し、また、減衰力ベースが一定の場合は、ばね下加速度(G)が増加するほど制御電流の電流値が減少するように、ばね下加速度(G)に対してPID制御におけるゲイン(スカイフックゲイン)を乗算してアクチュエータ40へ供給すべき制御電流を生成できるように適宜調整している。なお、ばね下加速度(G)が増加する場合には、そのばね下加速度(G)に合わせて(早く)応答するように電流値を設定する一方で、ばね下加速度(G)が減少する場合には、増大する場合に比べて遅く応答するように電流値を設定してもよい。これにより、ばね下振動がより効果的かつ安定的に減衰する。
【0075】
アクチュエータ40は、ダンパ制御ECU30から供給される制御指令値にしたがい電磁コイルに電流を流し、ダンパ7,10の減衰力制御を行う。つまり、ダンパ7,10のストローク量、ストローク速度等によって減衰力を制御することができる。ダンパ7,10は、ダンパ制御ECU30によって発生減衰力の特性(減衰力特性)が可変に制御される。このために、ダンパ7,10には、比較的大きい指令値、つまり高電流に対応する減衰力特性をハードな特性(硬特性)から比較的小さい指令値、つまり低電流に対応するソフトな特性(軟特性)に連続的(ないし多段階)に調整するため、減衰力調整バルブおよびソレノイド等からなるアクチュエータ40が付設されている。
【0076】
ここで、「ハードな特性(硬特性)」とは、例えば、ある相対速度(ストローク速度Vp)で伸び縮みするダンパ(ショックアブソーバ)の発生する減衰力が同じ速度で伸び縮みする「ソフトな特性(軟特性)」の減衰力と比較して大きいことをいう。
【0077】
(実施形態の動作)
以下、図3図6を参照しながら、図2に示す本実施形態のダンパ制御装置の動作について詳細に説明する。
【0078】
図3は、本実施形態のダンパ制御装置の基本動作を示すフローチャートであり、図4は、図3の基本動作の「状態量算出処理」の詳細動作、図5は、図3の基本動作の「制御指令値算出処理」と「ダンパ制御処理」の詳細動作を示すフローチャートである。また、図6は、本実施形態のダンパ制御装置の減衰力特性を示す図であり、図6(a)は、「速度-減衰力マップ」、図6(b)は、「ばね下加速度-減衰力マップ」のそれぞれを示す。
【0079】
本実施形態のダンパ制御装置としてのダンパ制御ECU30は、図3に示す基本動作フローチャートにしたがい、車両の状態量を算出し(ステップS10)、続いて、制御指令値(ベース減衰力)を算出し、そして、ダンパ制御を行う(ステップS20)。
【0080】
ステップS10において、車両の状態量は、状態量算出部31が、挙動センサ20の少なくとも一つによって検出される車両の挙動に基づき算出することができる。また、ステップS20において、制御指令値は、制御指令値算出部32が、ストローク由来の制御指令値(第1の制御指令値)と、ばね下加速度由来の制御指令値(第2の制御指令値)を算出することによって取得し、ダンパ制御部33が、ばね下加速度が所定値(図6(b)の閾値GTH)以上の場合、第2の制御指令値(第2の減衰力ベース)を参照してダンパ7,10を制御し、ばね下加速度が所定値未満の場合、第1の制御指令値(第1の減衰力ベース)を参照してダンパ7,10を制御する。
【0081】
図4に、ステップS10の「状態量算出処理」の詳細動作が示されている。図5によれば、状態量算出部31は、まず、周波数算出部311が、挙動センサ20(車輪速センサS12)から車両1の車輪3,4の回転速度である車輪速(Vw)を取得する(ステップS11)。そして、取得した車輪速の変動(ΔVw)を入力とする関数を用いて周波数を算出する(ステップS12)。すなわち、ばね下に入力される周波数は、周波数算出部311が、車輪3,4の回転速度信号である車輪速信号に含まれる振動成分から車両のばね下共振周波数(ピーク周波数値)を算出し、このばね下共振周波数から荷重変動を算出し、この荷重変動を解析することにより求めることができる。
【0082】
なお、振動成分からピーク周波数である共振周波数を抽出する方法は、特許第2836652号公報等に開示されているFFT(Fast Fourier Transform)法、特許第3152151号公報に開示されているLPC(Linear Predictive Coding)法、あるいは、特開2001-91390号公報に開示されているゼロクロスカウント法などのデジタル信号処理により行うことができる。
【0083】
続いて、ストローク速度算出部312が、周波数算出部311で算出された周波数(f)を入力値とする車両の数理モデル(上述した周波数とストロークの関係式(1))からストローク速度Vpを算出する(ステップS13)。また、ストローク量算出部313が、ストローク速度算出部312で算出されたストローク速度(Vp)を入力値とした数理モデル(例えば、D=Vp/f×c)を用いてストローク量を算出する(ステップS14)。なお、cは定数である。
【0084】
そして、ばね下加速度算出部314が、ストローク量算出部313で算出されたストローク量(D)と周波数(f)との相関(G-(f,D)相関マップ)からばね下加速度(G)を算出する(ステップS15)。ここで、G-(f,D)相関マップは、ばね下加速度Gと、ストローク量Dと周波数fの組み合わせとの関係(特性)に対応するマップとして、発明者らによって予め実験され、あるいはシミュレーション等により作成されたものであり、ばね下加速度算出部314に設定(内蔵するRAMに記憶)されている。
【0085】
なお、ばね下加速度算出部314は、上述したG-(f,D)マップに依存することなく、上述した周波数、ストローク、加速度の関係式(3)を用いて算出することも可能である。
【0086】
状態量算出部31(周波数算出部311、ストローク速度算出部312、ストローク量算出部313、ばね下加速度算出部314)によって算出されたダンパ7,10のばね下へ入力される周波数(f)、ストローク速度(Vp)、ストローク量(D)、およびばね下加速度(G)のそれぞれは、車両1の状態量として制御指令値算出部32へ出力される(ステップS16)。
【0087】
図5に、ステップS20の「制御指令値算出処理」の詳細動作が示されている。図5によれば、制御指令値算出部32は、まず、ストローク由来の制御指令値算出部321が、状態量算出部31(ストローク速度算出部312)で算出されたストローク速度(Vp)を入力値として算出される、ストローク速度(Vp)に由来する第1の制御指令値を算出する(ステップS21)。ストローク由来の制御指令値算出部321により算出される第1の制御指令値により、例えば、図6(a)に示す減衰力特性(Vp-DFマップ)を有する減衰力DFを発生させることができる。すなわち、発生する減衰力は、ストローク速度(Vp)が速いほど大きく逆にストローク速度(Vp)が遅いほど小さくなる。
【0088】
そして、ばね下加速度由来の制御指令値算出部322が、状態量算出部31(ばね下加速度算出部314)で算出されたばね下加速度(G)を入力値として算出される、ばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する(ステップS22)。ばね下加速度由来の制御指令値算出部322により算出される第2の制御指令値により、図6(b)に示す減衰力特性(G-DFマップ)を有する減衰力DFを発生させることができる。すなわち、発生する減衰力は、ばね下加速度が高いほど低く逆にばね下加速度が低いほど高くなる。
【0089】
そして、ダンパ制御部33が、ストローク由来の制御指令値算出部321から出力される第1の制御指令値(ストローク由来の制御指令値)と、ばね下加速度由来の制御指令値算出部322から出力される第2の制御指令値(ばね下加速度に由来する制御指令値)とを入力として取得する。続いてダンパ制御部33は、予め設定されるか、あるいは動的に設定される調整可能なばね下加速度(G)を閾値(GTH)とし、入力されるばね下加速度(G)が所定値(閾値GTH)以上の場合は(ステップS23“YES”)、ばね下加速度に由来(依存)する第2の制御指令値を選択し(ステップS24)、ばね下加速度が閾値未満の場合は(ステップS23“NO”)、ストローク速度に由来(依存)する第1の制御指令値を選択する(ステップS25)。
【0090】
続いて、ダンパ制御部33は、制御指令値算出部321から出力される第1の制御指令値(ストローク速度Vpに由来する)、又は制御指令値算出部322から出力される第2の制御指令値(ばね下加速度Gに由来する)に基づき、内蔵する電流値マップを参照してアクチュエータ40に供給すべき制御指令値(電流値)を設定する(ステップS26)。
【0091】
なお、ここで使用される電流値マップは、ベース減衰力DFと車両1の状態量(ストローク速度Vp又はばね下加速度G)とからアクチュエータ40に供給する制御電流を検索するマップである。
【0092】
例えば、ストローク速度Vpが一定の場合は、ベース減衰力DFが増加するほど制御電流の電流値が増加し、また、ベース減衰力DFが一定の場合は、ストローク速度Vpが増加するほど制御電流の電流値が減少するように、ストローク速度Vpに対してPID制御におけるゲイン(スカイフックゲイン)を乗算してアクチュエータ40へ供給すべき制御電流を生成できるように適宜調整している。なお、PID制御におけるゲインは、例えば、試験等の適切な方法で求めることが可能である。
【0093】
また、ばね下加速度(G)が一定の場合は、減衰力ベースが増加するほど制御電流の電流値が増加し、また、減衰力ベースが一定の場合は、ばね下加速度(G)が増加するほど制御電流の電流値が減少するように、ばね下加速度(G)に対してPID制御におけるゲイン(スカイフックゲイン)を乗算してアクチュエータ40へ供給すべき制御電流を生成できるように適宜調整している。なお、ばね下加速度(G)が増加する場合には、そのばね下加速度(G)に合わせて(早く)応答するように電流値を設定する一方で、ばね下加速度(G)が減少する場合には、増大する場合に比べて遅く応答するように電流値を設定してもよい。これにより、ばね下振動がより効果的かつ安定的に減衰する。
【0094】
アクチュエータ40は、ダンパ制御ECU30から供給される制御電流にしたがい電磁コイルに電流を流し、ダンパ7,10の減衰力制御を行う。つまり、ダンパ7,10のストローク量(D)、ストローク速度(Vp)、ばね下加速度(G)等によって減衰力を制御することができる。ダンパ7,10は、ダンパ制御ECU30によって発生される減衰力の特性(減衰力特性)が可変に制御される。
【0095】
(実施形態の効果)
以上説明のように本実施形態のダンパ制御装置(ダンパ制御ECU30)によれば、ストローク速度を入力値としてストロークに由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出部の他に、ばね下加速度を入力値として算出されるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出部を設け、ダンパ制御部33が、入力されるばね下加速度が所定値(ばね下加速度閾値GTH)以上の場合に、ばね下加速度に由来する第2の制御指令値を参照してダンパを制御する。
【0096】
このため、入力されるばね下加速度が所定値以上の場合、入力されるばね下加速度に依存した減衰力を発生させることができる。したがって、入力初速が早く加速度が高い三角波形状やサイン波形状の入力に対して、ばね上入力を低減した適切な減衰特性を発生させることができ、乗り心地の向上がはかれる。また、ダンパ7,10に供給される制御指令値(第1の制御指令値又は第2の制御指令値)により、ストローク速度に依存した減衰特性、又はばね下加速度に依存した減衰特性が得られるように選択できるため、走行シーンに応じた適切な減衰特性を得ることができ、良好な乗り心地を確保するダンパ制御装置を提供することができる。
【0097】
また、本実施形態のダンパ制御装置(ダンパ制御ECU30)によれば、ストローク速度算出部312は、周波数を入力値とする車両の数理モデルによりストローク速度を算出し、ばね下加速度算出部314は、ストローク速度算出部312で算出したストローク速度を入力値としてダンパ7,10のストローク量を算出し、算出したストローク量と周波数との相関からばね下加速度を算出することができる。このように、入力周波数を算出し、算出した入力周波数に基づき、ストローク速度、ストローク量、およびバネ下加速度等、ダンパ7,10の減衰力制御のため入力量を算出することができる。
【0098】
したがって、車輪速センサS12を除いて従来必要とされたストロークセンサや加速度センサ等を省略でき、コスト低減、さらにはセンサノイズの影響を回避した高精度な入力量の算出ができる。
【0099】
さらに、本実施形態のダンパ制御装置(ダンパ制御ECU30)によれば、あるストローク量を基準とした場合に、ストローク速度及びばね下加速度を用いて算出される指令値(第1の制御指令値及び第2の制御指令値)は、常にばね下加速度由来の制御指令値(第2の制御指令値)が小さくなるように算出される。このため、入力される加速度が高い場合に減衰力を低く設定することができ、その結果、ばね上への振動を抑制することができる。このように、ばね下加速度に依存した減衰特性を発生させることができ、したがって、入力初速が早くかつ高い加速度を有する三角波形状やサイン波形状のばね下入力に対して、ばね上入力を低減した適切な減衰特性を発生させることができ、乗り心地の向上がはかれる。
【0100】
なお、本実施形態では、「Vp-DFマップ」、「G-DFマップ」を用いて制御指令値を算出することとしたが、これらマップを用いることなく、関数を使用して算出してもよい。この場合、ストローク速度由来の制御指令値算出部321もばね下加速度由来の制御指令値322の単位は同じであるが、あるストローク量を基準とした場合において、このときのストローク速度、およびばね下加速度を用いてそれぞれ算出される指令値は、常にばね下加速度由来の指令値算出部322により算出される第2の制御指令値が小さくなるようにそれぞれの関数を設定する必要がある。
【0101】
(ダンパ制御方法)
なお、本発明のダンパ制御方法は、例えば、図1の車両1に装備されるダンパ7,10の減衰力を制御指令値によって制御するダンパ制御方法である。そして、その方法は、例えば、図4あるいは図5のフローチャートに示すように、ダンパのストローク速度を算出するストローク速度算出ステップ(図4のステップS11~S13)と、車両1が走行する路面からダンパ7,10に入力されるばね下加速度を算出するばね下加速度算出ステップ(図4のステップS14,S15)と、ストローク速度を入力値として算出される制御指令値の一つであるストロークに由来する第1の制御指令値を算出する第1の制御指令値算出ステップ(図5のステップS21)と、ばね下加速度を入力値として算出される制御指令値の一つであるばね下加速度に由来する第2の制御指令値を算出する第2の制御指令値算出ステップ(図5のステップS22)と、ばね下加速度が所定値以上の場合(図5のステップS23“YES”)、第2の制御指令値を参照してダンパを制御し(図5のステップS24,S26)、ばね下加速度が所定値未満の場合(図5のステップS23“NO”)、第1の制御指令値を参照してダンパ7,10を制御するダンパ制御ステップ(ステップS25,S26)と、を有する。
【0102】
本発明のダンパ制御方法によれば、入力されるばね下加速度が所定値以上の場合、入力されるばね下加速度に依存した減衰力を発生させることができ、入力初速が早く高い加速度が発生する三角波形状やサイン波形状の入力に対して、ばね上入力を低減した適切な減衰特性を発生させることができ、乗り心地の向上がはかれる。また、ストローク速度に依存した減衰特性、又はばね下加速度に依存した減衰特性を選択することができるため、走行シーンに応じた適切な減衰特性を得ることができ、良好な乗り心地を確保することができる。
【0103】
なお、ダンパ制御ECU30の機能は、ECUとしてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、各機能ブロック31~33としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現できる。この場合、ダンパ制御ECU30は、上述したプログラムを実行するためのハードウエアとして、少なくとも一つの制御装置(例えばプロセッサ)と、少なくとも一つの記憶装置(例えば、RAM)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置とにより上述したプログラムを実行することにより、本実施形態で説明した各機能ブロックが持つ制御を実現できる。
【0104】
また、上述したプログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な1以上の記録媒体に記録されてもよい。この記録媒体は、ダンパ制御ECU30が備えてもよく、また、備えなくてもよい。後者の場合、上述したプログラムは、有線又は無線の任意の伝送媒体を介して上述したダンパ制御ECU30に供給されてもよい。
【0105】
また、上述した各制御ブロックが持つ機能の少なくとも一部は論理回路によって実現することも可能である。例えば、上述した各機能ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも例えば量子コンピュータにより各機能ブロッの機能を実現することも可能である。また、本実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは、本実施形態のダンパ制御装置(ダンパ制御ECU30)で動作するものでもよく、また、他の装置(例えば、クラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0106】
本発明は、上述した例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0107】
7,10・・・ダンパ、20・・・挙動センサ(S12・・・車輪速センサ)、30・・・ダンパ制御ECU、31・・・状態量算出部、32・・・制御指令値算出部、33・・・ダンパ制御部、40・・・アクチュエータ、50・・・CAN、100・・・ダンパ制御システム、311・・・周波数算出部、312・・・ストローク速度算出部、313・・・ストローク量算出部、314・・・ばね下加速度算出部、321・・・ストローク由来の制御指令値算出部、322・・・ばね下加速度由来の制御指令値算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6