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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161935
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】異常検知装置および異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20241114BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077004
(22)【出願日】2023-05-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】笠原 太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 光
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC46
2G064CC52
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】検知対象において異常が発生しているタイミングや周波数を把握することのできる異常検知装置および異常検知方法を提供する。
【解決手段】異常検知装置20は、波形信号データ12に基づいて検知対象の異常を検知する。異常検知装置20は、波形信号データ12を変換した変換マップであって時間と周波数とに対応して強度が規定された変換マップが入力される畳み込みニューラルネットワーク25と、畳み込みニューラルネットワーク25の中間層ごとに異常マップを生成する異常マップ生成部40と、各中間層の異常マップに基づいて異常度合いマップを生成する異常度合いマップ生成部45と、異常度合いマップを可視化データとして出力する出力部50と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波形信号データに基づいて検知対象の異常を検知する異常検知装置であって、
前記波形信号データを変換した変換マップであって時間と周波数とに対応して強度が規定された前記変換マップが入力される畳み込みニューラルネットワークと、
前記畳み込みニューラルネットワークの中間層ごとに異常マップを生成する異常マップ生成部と、
前記各中間層の異常マップに基づいて異常度合いマップを生成する異常度合いマップ生成部と、
前記異常度合いマップを出力する出力部と、を備え、
前記異常マップ生成部は、
前記中間層の畳み込み層が出力する特徴マップをチャンネルごとに取得する処理と、
前記検知対象の正常波形信号データを変換した正常変換マップを前記畳み込みニューラルネットワークに入力したときに前記畳み込み層が出力する正常特徴マップに対する前記特徴マップの類似度を前記チャンネルごとに算出する処理と、
前記特徴マップの各成分を前記類似度で重み付けしたマップを前記チャンネルごとに生成し、前記生成したマップを成分ごとに合計したマップを前記異常マップとして生成する処理と、を実行し、
前記異常度合いマップ生成部は、
前記各中間層の異常マップを前記変換マップと同じサイズにリサイズする処理と、
リサイズ後の異常マップを予め設定された成分ごとに合計したマップを前記異常度合いマップとして生成する処理と、を実行する
異常検知装置。
【請求項2】
前記畳み込みニューラルネットワークは、前記各中間層に、前記特徴マップが入力されるプーリング層を前記チャンネルごとに有し、
前記異常マップ生成部は、前記プーリング層の出力に基づいて前記類似度を算出する
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常マップ生成部は、
前記プーリング層に前記正常特徴マップを入力したときに得られる各成分についての平均値と当該各成分の値に基づく分散共分散行列とを保持し、前記類似度として、前記平均値と前記分散共分散行列とを用いてマハラノビス距離を算出する
請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記異常度合いマップ生成部は、
前記リサイズ後の異常マップを予め設定された一部の成分ごとに合計して前記異常度合いマップを生成する
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記異常度合いマップで表される画像と前記変換マップで表される画像とを重ねて表示する
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記波形信号データを前記変換マップに変換する処理を実行する変換部をさらに備える
請求項1~5のいずれか一項に記載の異常検知装置。
【請求項7】
前記変換マップは、スペクトログラム、あるいは、メルスペクトログラムである
請求項6に記載の異常検知装置。
【請求項8】
前記波形信号データは、時間に対し強度として音圧レベルが規定された音響データ、あるいは、時間に対し強度として振動レベルが規定された振動データである
請求項7に記載の異常検知装置。
【請求項9】
波形信号データに基づいて検知対象の異常を検知する異常検知方法であって、
前記検知対象の異常を検知する異常検知装置が、
前記波形信号データを変換した変換マップであって時間と周波数とに対応して強度が規定された前記変換マップを畳み込みニューラルネットワークに入力する入力処理と、
前記畳み込みニューラルネットワークの中間層ごとに異常マップを生成する異常マップ生成処理と、
前記各中間層の異常マップに基づいて、前記変換マップについて領域ごとの異常度合いを示す異常度合いマップを生成する異常度合いマップ生成処理と、
前記異常度合いマップを出力する出力処理と、を実行し、
前記異常マップ生成処理では、
前記中間層の畳み込み層が出力する特徴マップをチャンネルごとに取得する処理と、
前記検知対象の正常波形信号データを変換した正常変換マップを前記畳み込みニューラルネットワークに入力したときに前記畳み込み層が出力する正常特徴マップに対する前記特徴マップの類似度を前記チャンネルごとに算出する処理と、
前記特徴マップの各成分を前記類似度で重み付けしたマップを前記チャンネルごとに生成し、前記生成したマップを成分ごとに合計したマップを前記異常マップとして生成する処理と、を実行し、
前記異常度合いマップ生成処理では、
前記各中間層の異常マップを前記変換マップと同じサイズにリサイズする処理と、
リサイズ後の異常マップを予め設定された成分ごとに合計したマップを前記異常度合いマップとして生成する処理と、を実行する
異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形信号データに基づいて異常を検知する異常検知装置および異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、検知対象となる装置を駆動したときの音や振動を計測した波形信号データを用いて該検知対象の異常を検知する異常検知装置が知られている。例えば特許文献1には、正常な装置の波形信号データを周波数解析した結果と検知対象の波形信号データを周波数解析した結果とを比較することにより、検知対象の異常を検知する異常検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-134479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、検知対象の異常原因を特定するうえでは、異常が発生しているタイミングや周波数は非常に重要である。この点、特許文献1に記載の異常検知装置は、検知対象が異常であることを検知することが可能であるものの、異常が発生しているタイミングや周波数を把握することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する異常検知装置は、波形信号データに基づいて検知対象の異常を検知する。前記異常検知装置は、前記波形信号データを変換した変換マップであって時間と周波数とに対応して強度が規定された前記変換マップが入力される畳み込みニューラルネットワークと、前記畳み込みニューラルネットワークの中間層ごとに異常マップを生成する異常マップ生成部と、前記各中間層の異常マップに基づいて異常度合いマップを生成する異常度合いマップ生成部と、前記異常度合いマップを出力する出力部と、を備える。前記異常マップ生成部は、前記中間層の畳み込み層が出力する特徴マップをチャンネルごとに取得する処理と、前記検知対象の正常波形信号データを変換した正常変換マップを前記畳み込みニューラルネットワークに入力したときに前記畳み込み層が出力する正常特徴マップに対する前記特徴マップの類似度を前記チャンネルごとに算出する処理と、前記特徴マップの各成分を前記類似度で重み付けしたマップを前記チャンネルごとに生成し、前記生成したマップを成分ごとに合計したマップを前記異常マップとして生成する処理と、を実行する。前記異常度合いマップ生成部は、前記各中間層の異常マップを前記変換マップと同じサイズにリサイズする処理と、リサイズ後の異常マップを予め設定された成分ごとに合計したマップを前記異常度合いマップとして生成する処理と、を実行する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、検知対象において異常が発生しているタイミングや周波数を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】異常検知装置の一実施形態を用いて検知対象の異常を検知する際の概略構成を模式的に示す図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】異常検知装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
図4】畳み込みニューラルネットワークの概略構成の一例を示す図である。
図5】異常検知装置における検知対象の異常検知に関する構成を示す機能ブロック図である。
図6】異常検知装置における異常度合いマップの生成に関する構成を示す機能ブロック図である。
図7】(a)変換マップで表される画像の一例を示す図であり、(b)異常度合いマップで表される画像の一例を示す図であり、(c)重畳画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1図7を参照して、異常検知装置および異常検知方法の一実施形態について説明する。
【0009】
図1に示すように、異常検知装置20は、検知対象10について計測センサ11で計測された波形信号データ12に基づいて、検知対象10の異常検知結果を出力する装置である。波形信号データは、時間に対して強度として音圧レベルが規定された音響データや時間に対して強度として振動レベルが規定された振動データである。また、異常検知装置20は、検知対象10に異常が生じている場合に、異常が発生しているタイミングや周波数を可視化する画像データである可視化データを出力する装置である。異常検知装置20は、情報処理装置を中心に構成されている。
【0010】
(ハードウェア構成)
図2を参照して、異常検知装置20を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0011】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。
【0012】
入力装置H12は、利用者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。タッチパネルディスプレイ等は、入力装置H12、表示装置H13として機能する。
【0013】
記憶装置H14は、異常検知装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0014】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各サービスのための各種プロセスを実行する。
【0015】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行うものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、以下で構成し得る。
【0016】
〔1〕コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、
〔2〕各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは
〔3〕それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)
プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0017】
(異常検知装置)
図3に示すように、異常検知装置20は、プログラムの実行により機能する機能部として、変換部21、畳み込みニューラルネットワーク25(以下、CNN25という。)、異常検知部35、異常マップ生成部40、異常度合いマップ生成部45、および、出力部50を備える。
【0018】
(変換部)
変換部21は、波形信号データ12を変換マップ22(図4等参照)に変換するとともに変換マップ22をCNN25に入力する入力処理を実行する。変換マップ22は、時間と周波数とに対応して強度が規定されたマップデータである。具体的には、変換部21は、波形信号データ12をスペクトログラム、あるいは、メルスペクトログラムを示す画像データに変換する。図7(a)には、一例として、波形信号データ12をメルスペクトログラムに変換した変換マップ22で表される画像55を示している。なお、以下では、マトリクス状に値が並ぶマップデータのことをマップという。
【0019】
(CNN)
CNN25は、PANNs(Large-Scale Pretrained Audio Neural Networks for Audio Pattern Recognition)など、事前学習済みのクラス分類モデルである。PANNsは、AudioSetとよばれる環境音の波形信号データを変換した画像データを用いて環境音のクラス分類について学習されたモデルである。
【0020】
図4に示すように、CNN25は、入力層26、複数の中間層27、および、出力層28を有する。CNN25において、入力層26は、変換マップ22の構成に基づいて、変換マップ22を複数のチャンネルに分けて最上位の中間層27に入力する。例えば、入力層26は、変換マップ22がRGB画像データである場合は、変換マップ22をR、G、Bのチャンネルに分けて中間層27に出力する。出力層28は、最下層の中間層27の出力に基づいて各クラスの分類結果を出力する。
【0021】
図5に示すように、CNN25の各中間層27は、畳み込み層30とGAP層32とを有する。
畳み込み層30は、上層から入力されたマップデータを所定のフィルタを用いた畳み込みをチャンネルごとに行うことにより、各チャンネルの特徴マップx^を生成する。畳み込み層30は、生成した特徴マップx^をGAP層32と下層の中間層27の畳み込み層30とに出力する。また、最下層の中間層27は、生成した特徴マップx^を出力層28に出力する。
【0022】
GAP層32は、グローバルアベレージプーリング(Global Average Pooling)層である。GAP層32は、特徴マップx^の全成分の平均値をチャンネルごとに算出したのち、それらの平均値で構成された特徴ベクトルxを生成する。
【0023】
(異常検知部)
図5に示すように、異常検知部35は、検知対象10の異常の有無を判定する処理を実行する。異常検知部35は、類似度算出部36と判定部39とを有する。
【0024】
類似度算出部36は、中間層27ごとに特徴ベクトルxを取得したのち、正常特徴ベクトルに対する特徴ベクトルxの類似度を算出する処理を実行する。この類似度は、検知対象10の異常を検知する際に用いられる類似度である。なお、図5においては、最上層の中間層27に対応する類似度算出部36と最下層の中間層27に対応する類似度算出部36とを示しており、他の中間層27に対応する類似度算出部36を省略している。
【0025】
具体的には、類似度算出部36は、類似度として、正常特徴ベクトルに対する特徴ベクトルxのマハラノビス距離Mを算出する。正常特徴ベクトルは、正常な検知対象10の正常波形信号データを変換した正常変換マップをCNN25に入力したときに得られる特徴ベクトルである。
【0026】
類似度算出部36は、正常特徴ベクトルに関する情報である正常データ37に基づいてマハラノビス距離Mを算出する。正常データ37は、異常検知部35および異常マップ生成部40が記憶装置H14に保持しているデータである。正常データ37は、中間層27ごとのデータであって、多数の正常変換マップをCNN25に入力したときに得られる多数の正常特徴ベクトルに基づくデータで構成されている。正常データ37は、その多数の正常特徴ベクトルにおける各チャンネルの平均値を構成要素とする平均ベクトルμと、それらの正常特徴ベクトルと平均ベクトルμとに基づく分散共分散行列Σと、で構成されている。類似度算出部36は、下記の式(1)にしたがって、特徴ベクトルxのマハラノビス距離Mを算出する。なお、図5にも示すように、「Level」は、各中間層27の階層を示すものであり、最上層の中間層27をレベル1として下位の中間層27ほど大きくなる値である。
【0027】
【数1】
【0028】
また、平均ベクトルμおよび分散共分散行列Σは、下記の式(2)(3)のように近似されたものであってもよい。式(2)(3)の特徴ベクトルxは正常特徴ベクトルを示している。
【0029】
【数2】
【0030】
判定部39は、各中間層27の類似度に基づいて検知対象が正常であるか否かを判定し、その判定結果を異常検知結果として出力部50に出力する処理を実行する。具体的には、判定部39は、各中間層27のマハラノビス距離Mを合計した判定値が予め定めた閾値以下である場合には、検知対象10が正常であると判定する。判定部39は、判定値が閾値を超えている場合には、検知対象10が異常であると判定する。判定部39は、その判定結果を異常検知結果として出力部50に出力する。
【0031】
(異常マップ生成部)
図6に示すように、異常マップ生成部40は、中間層27ごとに異常マップを生成し、その生成した異常マップを異常度合いマップ生成部45に出力する異常マップ生成処理を実行する。
【0032】
異常マップ生成部40は、類似度算出部41とマップ生成部43とを有する。
類似度算出部41は、各中間層27のチャンネルごとに、正常特徴ベクトルに対する特徴ベクトルxの類似度を算出する。この類似度は、異常マップの生成に用いられる類似度である。
【0033】
具体的には、類似度算出部41は、類似度として、正常特徴ベクトルに対する特徴ベクトルxのマハラノビス距離M*をチャンネルごとに算出する。類似度算出部41は、正常データ37と下記の式(4)とに基づいて、特徴ベクトルxのマハラノビス距離M*をする。なお、式(4)において、「○」は、アダマール積を示す。また、式(4)によって算出されたチャンネルごとのマハラノビス距離M*を合計すると、上記式(1)で算出されるマハラノビス距離Mと同じ値となる。
【0034】
【数3】
【0035】
マップ生成部43は、マハラノビス距離M*と特徴マップx^とに基づいて各中間層27の異常マップを生成する。具体的には、マップ生成部43は、下記の式(5)に示すように、チャンネルCHごとに、特徴マップx^の各成分をマハラノビス距離M*で重み付けしたマップを生成する。そして、マップ生成部43は、その重み付けしたマップを成分ごとに合計したマップを異常マップXとして生成する。異常マップXは、階層の低い中間層27ほどサイズが小さくなる。異常マップ生成部40は、各中間層27の異常マップXを異常度合いマップ生成部45に出力する。
【0036】
【数4】
【0037】
なお、図6においては、最上層の中間層27と最下層の中間層27とに対応する類似度算出部41およびマップ生成部43だけを示しており、他の中間層27に対応する類似度算出部41およびマップ生成部43を省略している。
【0038】
(異常度合いマップ生成部)
図6に示すように、異常度合いマップ生成部45は、異常マップ生成部40が出力した各中間層27の異常マップXを取得し、取得した異常マップXに基づいて生成した異常度合いマップを可視化データとして出力部50に出力する異常度合いマップ生成処理を実行する。
【0039】
異常度合いマップ生成部45は、リサイズ部46とマップ生成部48とを有する。
リサイズ部46は、最近傍補間法のほか、双一次補間法や双三次補間法などの各種補間法を用いて、各中間層27の異常マップXを変換マップ22と同じサイズの異常マップX’にリサイズする。
【0040】
マップ生成部48は、下記の式(6)に示すように、リサイズ後の異常マップX’を予め設定された成分ごとに合計したマップを異常度合いマップZとして生成する。例えば、マップ生成部48は、リサイズ後の異常マップX’を成分ごとに合計することにより異常度合いマップZを生成する。また例えば、マップ生成部48は、リサイズ後の各異常マップX’を複数の領域に分割し、その分割した領域の代表値を領域ごとに合計することにより、異常度合いマップZを生成する。
【0041】
【数5】
【0042】
このようにして生成された異常度合いマップZは、変換マップ22と同じサイズであるとともに、時間と周波数とに対応して異常度合いが規定されたマップデータである。マップ生成部48は、生成した異常度合いマップZを出力部50に出力する。
【0043】
(出力部)
出力部50は、異常検知結果と、可視化データである異常度合いマップZとを出力する出力処理を実行する。出力部50は、異常検知結果と異常度合いマップZとを表示装置H13に出力することにより、異常検知結果と、異常度合いマップZで表される画像を表示装置H13に表示する。また、出力部50は、変換マップ22で表される画像と異常度合いマップZで表される画像とを重ねた重畳画像を表示装置H13に表示してもよい。
【0044】
(作用)
図7(a)には、変換マップ22で表される画像55を示している。図7(b)には、異常度合いマップZで表される画像56を示している。図7(c)には、画像55,56を重ねた重畳画像57を示している。画像55,56,57において、横軸は時間軸、縦軸は周波数軸を示す。また、時間軸および周波数軸は、画像55,56,57において同じスケールである。画像55,56においては、色が薄い部位ほど強度が高い部位である。画像55において矢印55aで指し示される部分が異常箇所である。図7(b)に示すように、画像56においては、異常箇所に該当する部分の強度(異常度合い)が高く、すなわち色が薄く表示されている。
【0045】
本実施形態の作用および効果について説明する。
(1)画像56では、異常箇所に該当する部分の強度が高く表示される。その結果、検知対象10において異常が発生しているタイミングや周波数を可視化することができる。
【0046】
(2)CNN25は、各中間層27に、特徴マップx^が入力されるGAP層32をチャンネルごとに有する。異常マップ生成部40は、GAP層32の出力に基づいて類似度を算出する。この構成によれば、特徴マップx^よりも次元を小さくしたうえで類似度を算出することができる。その結果、類似度を算出する際の負荷を軽減することができる。
【0047】
(3)異常マップ生成部40は、GAP層32に正常特徴マップを入力したときに得られる各成分についての平均ベクトルμと当該各成分の値に基づく分散共分散行列Σとを用いて、マハラノビス距離M*を類似度として算出する。また、それら平均ベクトルμおよび分散共分散行列Σが正常データ37として保持されている。この構成によれば、類似度を算出する際の負荷をさらに軽減することができる。
【0048】
(4)異常度合いマップ生成部45は、リサイズ後の異常マップX’を予め設定された一部の成分ごとに合計して異常度合いマップZを生成する。この構成によれば、全ての成分を成分ごとに合計する場合に比べて、異常度合いマップZを生成する際の負荷を軽減することができる。
【0049】
(5)出力部50は、変換マップ22で表される画像55と異常度合いマップZで表される画像56とを重ねた重畳画像57を表示装置H13に表示する。この構成によれば、変換マップに異常度合いマップが重ねて表示されることにより、変換マップにおける異常度合いの高い領域を容易に把握することができる。
【0050】
(6)異常検知装置20は、波形信号データ12を変換マップ22に変換する処理を実行する変換部21を備える。この構成によれば、異常検知装置20に対して波形信号データ12を入力するだけで、検知対象10の異常を検知することができるとともに、検知対象10に異常が生じている場合に異常発生タイミングや異常周波数を把握することができる。
【0051】
(7)変換マップ22は、スペクトログラム、あるいは、メルスペクトログラムである。このように波形信号データ12は、スペクトログラムあるいはメルスペクトログラムに変換することができる。また、変換マップ22がメルスペクトログラムであることにより、変換マップ22における周波数軸の次元を削減することができるため、CNN25や各種マップの生成時などに取り扱われる情報量を削減することができる。
【0052】
(8)波形信号データ12は、時間に対し強度として音圧レベルが規定された音響データ、あるいは、時間に対し強度として振動レベルが規定された振動データである。この構成によれば、異常度合いマップZで表される画像56により、異常音や異常振動がどのタイミングで発生しているかを把握することができるため、その異常音や異常振動を人間が判別しやすくなる。
【0053】
(9)リサイズ部46は、最近傍補間法を用いて、異常マップXを変換マップ22と同じサイズにリサイズする。この場合、異常度合いの変化の境界が明瞭な異常マップX’および異常度合いマップZを生成することができる。また、リサイズ部46は、双一次補間法や双三次補間法などの補間法を用いて、異常マップXを変換マップ22と同じサイズにリサイズする。この場合、異常度合いの変化が滑らかな異常マップX’および異常度合いマップZを生成することができる。
【0054】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・波形信号データ12は、計測センサ11に計測可能であって時間に対して強度が規定されたデータであればよく、音響データや振動データに限られない。
【0055】
・変換部21は、スペクトログラム、あるいは、メルスペクトログラムを変換マップ22として波形信号データ12を変換する。これに限らず、変換部21は、時間と周波数とに対応して強度が規定されたマップデータに波形信号データ12を変換できればよい。すなわち、変換部21は、スペクトログラム、あるいは、メルスペクトログラムを変換マップ22として波形信号データ12を変換する構成に限られない。
【0056】
・類似度の算出方法は、マハラノビス距離を用いた方法に限らず、ユークリッド距離やクラスタリング等を用いた方法であってもよい。
・異常検知装置20は、変換マップ22に基づいて、異常の検知、および、異常度合いマップの出力ができればよい。そのため、異常検知装置20において、変換部21は、省略されてもよい。この場合、異常検知装置20には、外部装置において波形信号データを変換したマップデータが変換マップ22として入力される。
【0057】
・プーリング層は、GAP層32に限らず、特徴マップx^の次元をチャンネルごとに削減できるものであればよい。そのため、プーリング層は、畳み込み層30の間に各チャンネルに対応するように挿入される通常のプーリング層であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
H10…情報処理装置、H11…通信装置、H12…入力装置、H13…表示装置、H14…記憶装置、H15…プロセッサ、10…検知対象、11…計測センサ、12…波形信号データ、20…異常検知装置、21…変換部、22…変換マップ、25…畳み込みニューラルネットワーク、26…入力層、27…中間層、28…出力層、30…畳み込み層、32…GAP層、35…異常検知部、36…類似度算出部、37…正常データ、39…判定部、40…異常マップ生成部、41…類似度算出部、43…マップ生成部、45…異常度合いマップ生成部、46…リサイズ部、48…マップ生成部、50…出力部、55,56…画像、57…重畳画像。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7