(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161937
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
C08G59/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077010
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】石井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】山持 晴加
(72)【発明者】
【氏名】筒井 暁
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036AF06
4J036AJ08
4J036FA13
4J036FB12
4J036GA03
(57)【要約】
【課題】 本発明は、基材との密着性を維持しつつ、保存安定性に優れた樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
樹脂組成物の製造方法であって、エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物を加熱する加熱工程を有し、前記スルホニウム塩は、一般式(1)に示す構造を有し、かつ、分子量が500以上であるカチオン部を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の製造方法であって、
エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物を加熱する加熱工程を有し、
前記スルホニウム塩は、一般式(1)に示す構造を有し、かつ、分子量が500以上であるカチオン部を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【化1】
(R
1~R
3は水素原子、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルフィニル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基、アシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、複素環式炭化水素基、置換されていてよいシリル基及びアミノ基を表し、R
1~R
3はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R
1~R
3のうち二つ以上が互いに直接または-O-、-S-、-SO-、SO
2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、アルキレン基もしくはフェニレン基を介して元素Sを含む環構造を形成してもよい。)
【請求項2】
前記加熱工程における加熱温度は、90℃以上300℃以下である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程における加熱温度は、100℃以上250℃以下である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は三官能以上のエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂は二官能のエポキシ樹脂を含む、請求項1または4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂は、脂環式骨格を有するエポキシ樹脂と、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂と、フェノールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂と、クレゾールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂と、ノルボルネン骨格を有するエポキシ樹脂と、テルペン骨格を有するエポキシ樹脂と、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂と、オキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂と、からなる群のうち少なくとも1種以上を含む、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記スルホニウム塩のアニオン部は、SbF6
-と、AsF6
-と、PF6
-と、(Rf)nPF6-n
-(Rfはパーフルオロアルキル基)と、BF4
-と、B(C6F5)4
-と、からなる群のうち少なくとも1種以上を含む、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記スルホニウム塩のアニオン部はSbF6
-である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合物における、前記スルホニウム塩の含有量は、前記エポキシ樹脂の固形分100質量部に対して、0.1~30質量部である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記混合物は、分子中に少なくとも二つ以上の水酸基を有するポリオールを含有する、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記ポリオールの数平均分子量は3000以下である、請求項10に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ポリオールの数平均分子量は200以上である、請求項10または11に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ポリオールは200℃以上の沸点を有する、請求項10に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記混合物はシランカップリング剤を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記混合物は溶剤を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記溶剤はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである、請求項15に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ICチップなどの電子部品を配線基板に実装する際に使用する接着剤の一種として、エポキシ樹脂を主成分として含有する光カチオン重合性接着剤が用いられてきた。このような光カチオン重合性接着剤には、光によりプロトンを発生してカチオン重合を開始させる光カチオン重合開始剤が配合されている。しかし、電子部品を配線基板に実装する際に、光カチオン重合性接着剤による接合部に光照射ができない場合も数多く生ずる。このような場合、光ではなく熱のみでプロトンを発生することのできる熱カチオン重合接着剤が用いられる。このような熱カチオン重合接着剤には、熱によりプロトンを発生してカチオン重合を開始させる熱カチオン重合開始剤が配合されている。
【0003】
特許文献1には、熱カチオン重合開始剤としてスルホニウム塩を用いた接着剤(樹脂組成物)が開示されている。一般に、脂環式エポキシ樹脂等の高感度の重合性樹脂とスルホニウム塩とを一液化させると、常温で反応が進行してしまう。そのため、接着剤の使用可能時間であるポットライフが短くなり、接着剤の取り扱いが困難である。そこで、特許文献1では、接着剤のポットライフの延長を目的として、樹脂組成物に安定化剤を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、樹脂組成物に安定化剤を使用すると、重合性樹脂とスルホニウム塩との反応性が低下し、樹脂組成物の基材との密着性が低下する懸念がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、基材との密着性を維持しつつ、保存安定性に優れた樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために本発明は、樹脂組成物の製造方法であって、エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物を加熱する加熱工程を有し、前記スルホニウム塩は、一般式(1)に示す構造を有し、かつ、分子量が500以上であるカチオン部を有することを特徴とする。
【0008】
【0009】
R1~R3は水素原子、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルフィニル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基、アシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、複素環式炭化水素基、置換されていてよいシリル基及びアミノ基を表し、R1~R3はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R1~R3のうち二つ以上が互いに直接または-O-、-S-、-SO-、SO2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、アルキレン基もしくはフェニレン基を介して元素Sを含む環構造を形成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
基材との密着性を維持しつつ、保存安定性に優れた樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
エポキシ樹脂を主成分として含有する接着剤(樹脂組成物)において、反応性や保存安定性の観点から光カチオン重合開始剤を配合し、光照射により接着する手法が知られている。一方、接合部に光照射が出来ない場合は、熱のみでプロトンを発生させることのできる熱カチオン重合開始剤を用いる手法が知られている。熱カチオン重合開始剤としては、加熱によって重合を開始させるカチオン種を発生し得る化合物が使用され、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩及びスルホニウム塩等が例示される。特に、エポキシ樹脂の熱カチオン重合開始剤としては、スルホニウム塩が選択され、カチオン部に一般式(2)に示すようなベンジルスルホニウムや、一般式(3)に示すようなヘテロ環誘導体を有するものが用いられる。しかし、これらを用いると接着剤(樹脂組成物)のポットライフが短くなってしまうため、樹脂組成物の基材との密着性及び保存安定性を制御することが非常に困難であった。
【0012】
【0013】
R4は置換されていてもよいフェニル基、R5はアルキル基を表す。
【0014】
【0015】
R6は置換されていてもよいアルキル基を表す。
【0016】
本発明者の検討によれば、一般的には、光カチオン重合開始剤として用いられるスルホニウム塩のうち、特定の構造を有する化合物は、熱カチオン重合開始剤として機能する。そして、そのようなスルホニウム塩を用いることで、基材との密着性を維持しつつ保存安定性に優れた接着剤(樹脂組成物)を提供することが可能であることが判明した。具体的には、エポキシ樹脂と特定のスルホニウム塩とを含む混合物を加熱することで、所望の樹脂組成物を製造することができる。以下に、好適な実施の形態を挙げて、樹脂組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0017】
(スルホニウム塩)
本実施形態に係る混合物は、スルホニウム塩を含有する。スルホニウム塩はカチオン部及びアニオン部を有している。初めに、カチオン部について説明する。
【0018】
本実施形態におけるスルホニウム塩は、分子量が500以上であるカチオン部に一般式(1)に示す構造を有する。
【0019】
【0020】
R1~R3は水素原子、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルフィニル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基、アシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、複素環式炭化水素基、置換されていてよいシリル基及びアミノ基を表し、R1~R3はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R1~R3のうち二つ以上が互いに直接または-O-、-S-、-SO-、SO2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、アルキレン基もしくはフェニレン基を介して元素Sを含む環構造を形成してもよい。
【0021】
従来は、トリフェニルスルホニウム塩は、一般的に光カチオン重合開始剤として用いられており、エポキシ樹脂の硬化工程においては、紫外線等の光照射が必要であった。したがって、従来は加熱のみで硬化する系において用いられることが無かった。
【0022】
本発明者の検討によれば、スルホニウム塩のうち、分子量が500以上であるカチオン部に一般式(1)に示す構造を有するスルホニウム塩は、光照射工程を経ずとも、加熱処理のみでエポキシ樹脂の硬化が可能であると判明した。さらに、カチオン部の骨格を一般式(1)に示すトリフェニルスルホン構造とすることで、一般式(2)及び一般式(3)のような構造と比較してS-C結合度が向上する。また、カチオン部の分子量が500以上であることで、スルホニウム塩の熱に対する安定性が改善される。
【0023】
一般式(1)で示される構造のうち、好ましい具体例を下記式に示す。
【0024】
【0025】
次に、アニオン部について説明する。スルホニウム塩のアニオン部としては、SbF6
-と、AsF6
-と、PF6
-と、(Rf)nPF6-n
-(Rfはパーフルオロアルキル基)と、BF4
-と、B(C6F5)4
-と、からなる群のうち少なくとも1種以上を含むことが好ましい。製造される樹脂組成物と基材との密着性の観点からSbF6
-、(Rf)nPF6-n
-及びB(C6F5)4
-が好適に用いられ、特にスルホニウム塩がSbF6
-を含むことが好ましい。尚、スルホニウム塩は1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0026】
また、具体的な例として市販品では、ADEKA製「アデカオプトマーSP-172」(商品名)、サンアプロ製「CPI-310A」(商品名)、「CPI-410S」(商品名)及びBASF製「Irgacure290」(商品名)等が挙げられる。スルホニウム塩と硬化させるエポキシ樹脂との混合物における、スルホニウム塩の含有量は、硬化性及び基材との密着性の観点から、添加するエポキシ樹脂の固形分100質量部に対して、0.1~30質量部であることが好ましい。
【0027】
(エポキシ樹脂)
本実施形態に係る混合物は、エポキシ樹脂を含有する。本実施形態におけるエポキシ樹脂は、樹脂組成物の密着性能、機械的強度及び耐膨潤性を考慮すると、カチオン重合型のエポキシ樹脂であることが好ましい。より具体的には、脂環式骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールA型及びF型のエポキシ樹脂等のビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂等のフェノールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂、クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂等のクレゾールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂、ノルボルネン骨格を有するエポキシ樹脂、テルペン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂及びオキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂等のカチオン重合型のエポキシ樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂としては、これらの1種または2種以上の組合せを用いることができる。
【0028】
樹脂組成物を3次元的に架橋し所望の硬化性を得るために、エポキシ樹脂は二官能以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。特に、エポキシ樹脂は三官能以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。さらに、三官能以上のエポキシ樹脂に、二官能のエポキシ樹脂の少なくとも1種を追加して用いることが好ましい。
【0029】
市販の二官能エポキシ樹脂としては、三菱化学社製「jER1004」(商品名)、「jER1007」(商品名)、「jER1009」(商品名)、「jER1010」(商品名)、「jER1256」(商品名)、大日本インキ化学工業株式会社製「EPICLON 4050」(商品名)、「EPICLON 7050」(商品名)等が好適に用いられる。
【0030】
市販の三官能以上のエポキシ樹脂としては、三菱化学社製「jER157S70」(商品名)、「jER1031S」(商品名)、大日本インキ化学工業社製「エピクロンN-695」(商品名)、「エピクロンN-865」(商品名)、(株)ダイセル製「セロキサイド2021」(商品名)、「GT-300シリーズ」、「GT-400シリーズ」、「EHPE3150」(商品名)、日本化薬(株)製「SU8」(商品名)、(株)プリンテック製「VG3101」(商品名)、「EPOX-MKR1710)(商品名)及びナガセケムテックス(株)製「デナコールシリーズ」等が好適に用いられる。
【0031】
(架橋剤)
本実施形態に係る混合物は、架橋剤としてポリオールを含むことが好ましい。ここで、ポリオールとは、分子中に少なくとも二つ以上の水酸基を有する化合物である。エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物がポリオールを含有することで、エポキシ樹脂のカチオン重合反応の促進及び開環したエポキシ基と水酸基との反応による樹脂組成物の応力低減が可能となる。すなわち、樹脂組成物の基材との密着性の向上に効果的である。
【0032】
また、樹脂や溶剤への溶解性及び反応性の観点から、ポリオールは数平均分子量が3000以下であるものが好ましい。ここで、数平均分子量とは、ポリマー中に含まれる高分子鎖1本の分量の単純平均を表す。さらに、エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物の加熱工程においてポリオールが消失しないためには、ポリオールの数平均分子量は200以上であることが好ましい。尚、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(例えば島津製作所社製)を用いる公知の方法によって、ポリスチレン換算で算出することができる。また、エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物の加熱工程においてポリオールが消失しないためには、ポリオールは200℃以上の沸点を有することが好ましい。
【0033】
ポリオールの具体的な例としては、各社から市販されているポリエチレングルコール(PEG)(200、300、400、600、1000、2000)等が挙げられる。また、ポリエーテルポリオールとしてはADEKA製「アデカポリエーテルPシリーズ」、「BPXシリーズ」、「Gシリーズ」、「SPシリーズ」、「SCシリーズ」、「CMシリーズ」、「AMシリーズ」、「EMシリーズ」、「BMシリーズ」、「PRシリーズ」及び「GRシリーズ」(いずれも商品名)などを挙げることができる。低分子量のポリオールとしては、1,2-または1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,5-ジヒドロキシペンタン-3-オン、6-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシメチル-1及び3-プロパンジオール等を挙げることができる。これらのうち少なくとも1種を用いることができる。また、これらのうち2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0034】
(シランカップリング剤)
本実施形態の混合物は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。市販のシランカップリング剤としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A-187」(商品名)等が挙げられる。
【0035】
(その他の成分)
本実施形態の混合物は、樹脂組成物の特性を損なわない範囲において、その他の成分を含むことができる。その他の成分を含有させることで、樹脂組成物に所望の特性を付与することができる。
【0036】
例えば、硬化性や反応速度の調整に、増感剤、アミン類などの塩基性物質及び弱酸性(pKa=-1.5~3.0)のトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤等を、混合物に添加してもよい。市販のトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤としては、みどり化学社製「TPS-1000」(商品名)や和光純薬工業社製「WPAG-367」(商品名)等が挙げられる。
【0037】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法を説明する。初めに、エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを混合して、これらを含む混合物を調製する工程を有する。尚、混合物には、上述した架橋剤(ポリオール)、シランカップリング剤及びその他の成分を含有させてもよい。次に、この混合物を溶剤に溶解させる溶解工程を有してもよい。溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を用いることが好ましい。次に、エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物を加熱する加熱工程を有する。混合物を加熱することで反応が進行し、樹脂組成物が製造できる。加熱工程における加熱温度としては、90℃以上300℃以下であることが好ましい。ここでいう加熱工程における加熱温度とは、90℃以上300℃以下の温度まで昇温をすれば十分であり、加熱工程の全ての期間で90℃以上300℃以下の温度に維持する必要性はない。また、当該加熱温度における加熱時間は1時間が好ましい。加熱温度が90℃以下であると樹脂組成物の硬化が充分でなくなり、基材との密着性が低下するおそれある。一方、加熱温度が300℃以上であるとエポキシ樹脂が分解してしまうおそれがある。さらに、加熱工程における加熱温度は、100℃以上250℃以下の温度であることがより好ましい。
【0038】
尚、溶解工程を行った場合には、混合物の加熱工程の前に、混合物の溶剤を乾燥させるための乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥処理の温度と時間としては、例えば、90℃で5分間加熱することが挙げられる。
【0039】
以上の工程により、本発明に係る樹脂組成物を製造することができる。
【実施例0040】
以下に本発明の実施例を示す。
【0041】
(実施例1~27)
基材上に表2~6に示される組成を有する混合物をスピンコート法で塗布し、90℃で5分間乾燥処理することで溶剤を乾燥させた。さらに、それぞれの実施例で示す温度で、混合物を加熱する加熱工程を行い、樹脂組成物を得た。
【0042】
(比較例1~4)
混合物として表7に示される組成を用いた以外は、実施例1と同様に基材上に樹脂組成物を硬化させた。
【0043】
実施例及び比較例で使用したスルホニウム塩のカチオン部の構造を下記式に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
混合物に含まれるスルホニウム塩のカチオン部及びアニオン部をまとめた表を表1に示す。
【0047】
【0048】
[評価方法1]
実施例1~27及び比較例1~4の方法にて作製した樹脂組成物について、基材との密着性を評価した。樹脂組成物を20wt%の1,2-ヘキサンジオール水溶液に浸し、70℃で保存した場合の樹脂組成物と基材間の剥がれの有無を光学顕微鏡により観察した。
密着性◎:一か月後も剥がれなし
密着性〇:一週間後~一か月以内に剥がれあり
密着性×:一週間以内に剥がれあり
[評価方法2]
実施例1~27及び比較例1~4で用いた樹脂組成物について、常温で保存した場合の粘度の変化率を確認した。尚、粘度はE型粘度計(東機産業製)を用いて測定した。
保存安定性〇:一か月後の粘度上昇率10%未満
保存安定性×:一か月後の粘度変化率10%以上
表2から表7に実施例及び比較例のそれぞれにおける評価結果を示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
[評価結果]
表2~6に示されるように、本実施例に係る方法では、基材上における密着性、及び保存安定性に樹脂組成物を提供することができた。
【0056】
表2において、分子量が500以上であるカチオン部に一般式(1)に示す構造を有するスルホニウム塩を用いた実施例1~12は、基材との密着性及び保存安定性において良好な結果が得られた。スルホニウム塩のアニオン部にSbF6
-を含有する実施例1、7、8、10、12は特に密着性に優れていた。
【0057】
表3において、混合物における、スルホニウム塩の添加量がエポキシ樹脂100質量部に対し、0.1~30質量部である実施例13及び14は実施例12及び15と比較して良好な密着性を示した。
【0058】
表4において、三官能以上のエポキシ樹脂として、N-695以外のjER157S70及びEHPE3150をそれぞれ使用した実施例17及び実施例18も良好な密着性を示した。また、エポキシ樹脂として三官能以上のエポキシ樹脂と二官能以上のエポキシ樹脂とを併用した実施例19においても基材との密着性が良好であった。
【0059】
表5において、架橋材としてポリオールを含む実施例20~23は、樹脂組成物の基板との密着性が良好であった。尚、それぞれの実施例で用いたポリオールの数平均分子量と沸点は以下の通りである。
・PEG200:数平均分子量190~210、沸点250℃以上
・PEG600:数平均分子量570~630、沸点250℃以上
・PEG1000:数平均分子量950~1050、沸点250℃以上
また、シランカップリング剤を用いた実施例23においても基材との密着性が良好な樹脂組成物が得られた。
【0060】
表6において、混合物の硬化処理温度がそれぞれ100℃及び250℃である実施例25及び26は、混合物の硬化処理温度がそれぞれ90℃及び300℃である実施例24及び27よりも、得られた樹脂組成物の基材との密着性が良好であった。
【0061】
一方、表7において、スルホニウム塩の代わりにヨードニウム塩を用いた比較例1では、保存後一か月後には粘度変化率が10%以上となってしまった。また、スルホニウム塩のカチオン部が一般式(1)に示す構造を持たない比較例2も、保存後一週間後には粘度が10%以上上昇してしまった。さらに、スルホニウム塩のカチオン部が一般式(1)に示す構造を有する場合であっても、その分子量が500未満である比較例3及び4においては、基材との密着性が良好な樹脂組成物が得られなかった。
【0062】
以上より、混合物に含まれるスルホニウム塩が、分子量が500以上であるカチオン部に一般式(1)に示す構造を有することで、基材との密着性を維持しつつ、保存安定性に優れた樹脂組成物を製造することができる。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、インクジェットヘッドの流路を形成する流路形成基板と、液体を吐出する吐出口形成基板と、を接着する接着剤として好適である。また、インクジェットヘッドにおいて、流路を形成する流路形成基板と、液体の振動を抑制するダンパ膜(ポリイミド)と、を接着する接着剤としても本発明における樹脂組成物は好適である。
【0064】
以上、本発明を整理すると、本発明は以下の構成を含むものである。
【0065】
(構成1)
樹脂組成物の製造方法であって、
エポキシ樹脂とスルホニウム塩とを含む混合物を加熱する加熱工程を有し、
前記スルホニウム塩は、一般式(1)に示す構造を有し、かつ、分子量が500以上であるカチオン部を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【0066】
【0067】
R1~R3は水素原子、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルフィニル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基、アシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、複素環式炭化水素基、置換されていてよいシリル基及びアミノ基を表し、R1~R3はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R1~R3のうち二つ以上が互いに直接または-O-、-S-、-SO-、SO2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、アルキレン基もしくはフェニレン基を介して元素Sを含む環構造を形成してもよい。
【0068】
(構成2)
前記加熱工程における加熱温度は、90℃以上300℃以下である、構成1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0069】
(構成3)
前記加熱工程における加熱温度は、100℃以上250℃以下である、構成1または2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0070】
(構成4)
前記エポキシ樹脂は三官能以上のエポキシ樹脂を含む、構成1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0071】
(構成5)
前記エポキシ樹脂は二官能のエポキシ樹脂を含む、構成1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0072】
(構成6)
前記エポキシ樹脂は、脂環式骨格を有するエポキシ樹脂と、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂と、フェノールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂と、クレゾールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂と、ノルボルネン骨格を有するエポキシ樹脂と、テルペン骨格を有するエポキシ樹脂と、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂と、オキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂と、からなる群のうち少なくとも1種以上を含む、構成1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0073】
(構成7)
前記スルホニウム塩のアニオン部は、SbF6
-と、AsF6
-と、PF6
-と、(Rf)nPF6-n
-(Rfはパーフルオロアルキル基)と、BF4
-と、B(C6F5)4
-と、からなる群のうち少なくとも1種以上を含む、構成1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0074】
(構成8)
前記スルホニウム塩のアニオン部はSbF6
-である、構成1乃至7のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0075】
(構成9)
前記混合物における、前記スルホニウム塩の含有量は、前記エポキシ樹脂の固形分100質量部に対して、0.1~30質量部である、構成1乃至8のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0076】
(構成10)
前記混合物は、分子中に少なくとも二つ以上の水酸基を有するポリオールを含有する、構成1乃至9のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0077】
(構成11)
前記ポリオールの数平均分子量は3000以下である、構成10に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0078】
(構成12)
前記ポリオールの数平均分子量は200以上である、構成10または11に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0079】
(構成13)
前記ポリオールは200℃以上の沸点を有する、構成10乃至12のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0080】
(構成14)
前記混合物はシランカップリング剤を含有する、構成1乃至13のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0081】
(構成15)
前記混合物は溶剤を含有する、構成1乃至14のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0082】
(構成16)
前記溶剤はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである、構成15に記載の樹脂組成物の製造方法。