(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161939
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】基礎杭の施工支援システム及び施工支援方法
(51)【国際特許分類】
E02D 13/06 20060101AFI20241114BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20241114BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
E02D13/06
G01C15/00 103E
G01B11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077014
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】514018238
【氏名又は名称】株式会社きんそく
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 憲二
(72)【発明者】
【氏名】田中 達
【テーマコード(参考)】
2D050
2F065
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050EE17
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA17
2F065FF11
2F065RR08
2F065SS13
(57)【要約】
【課題】複数本の杭を同時に打設する場合に、各杭の実杭芯と設計杭芯との偏差を許容範囲に抑えながら、複数本の杭の配列誤差を許容範囲に抑えることが可能な基礎杭の施工支援システムを提供する。
【解決手段】基礎杭の施工支援システムは、複数の杭打機の其々に保持され地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測するRiDARと、RiDARで得られる各杭の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯データを求める実杭芯データ算出部と、実杭芯データ算出部で求めた各杭の実杭芯データと設計杭芯データとに基づいて、各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出する補正情報算出部と、補正情報算出部で算出した各杭に対する補正情報を個別に表示する複数の端末機器と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎杭の施工支援システムであって、
複数の杭打機の其々に保持され地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測するRiDARと、
前記RiDARで得られる各杭の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯データを求める実杭芯データ算出部と、
前記実杭芯データ算出部で求めた各杭の実杭芯データと設計杭芯データとに基づいて、各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出する補正情報算出部と、
前記補正情報算出部で算出した各杭に対する補正情報を個別に表示する複数の端末機器と、
を備えている基礎杭の施工支援システム。
【請求項2】
前記3次元点群データは、各杭の杭芯方向に沿って高さが異なる少なくとも2組の3次元点群データが含まれ、前記実杭芯データ算出部は前記2組の点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢を求める請求項1記載の基礎杭の施工支援システム。
【請求項3】
前記端末機器は、前記補正情報算出部で算出した前記補正情報に基づいて、対応する杭本体に対する補正量および補正方向を示す補正案内画像を表示する請求項1または2記載の基礎杭の施工支援システム。
【請求項4】
基礎杭の施工支援方法であって、
RiDARを用いて複数の杭打機の其々に保持され地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測する計測工程と、
前記計測工程で得られる各杭の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯データを求める実杭芯データ算出工程と、
前記実杭芯データ算出工程で求めた各杭の実杭芯データと設計杭芯データとに基づいて、各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出する補正情報算出工程と、
前記補正情報算出工程で算出した各杭に対する補正情報を、複数の端末機器を用いて個別に表示する表示工程と、
を備えている基礎杭の施工支援方法。
【請求項5】
前記3次元点群データは、各杭の杭芯方向に沿って高さが異なる少なくとも2組の3次元点群データが含まれ、前記実杭芯データ算出工程は前記2組の点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢を求める請求項4記載の基礎杭の施工支援方法。
【請求項6】
前記表示工程は、前記補正情報算出部で算出した前記補正情報に基づいて、対応する杭本体に対する補正量および補正方向を示す補正案内画像を各端末機器に表示する請求項4または5記載の基礎杭の施工支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎杭の施工支援システム及び施工支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トータルステーションと比して簡易な計測装置を用いて、リアルタイムで被計測物の輪郭に対して所定の位置関係にある所定点の位置を計測できる位置計測方法が提案されている。
【0003】
当該位置計測方法は、被計測物の輪郭に対して所定の位置関係にある所定点の位置を計測する位置計測方法であって、光走査式測距装置を用いて、測距光を前記被測定物の表面上で走査することにより前記被計測物の表面上における複数の計測点の位置情報を取得する情報取得ステップと、前記情報取得ステップで取得した前記複数の計測点の位置情報に基づいて、前記所定点の位置を推定する推定ステップと、を備えている。
【0004】
被計測物は円柱体であり、前記所定点は、前記円柱体の中心軸上の点であり、前記推定ステップにおいて、最小二乗法又は最尤法を用いて、前記複数の計測点の位置を近似した円の方程式を求め、求めた円の方程式に基づいて、前記中心軸上の点の位置を推定する。当該位置計測方法を用いることにより、例えば、杭の打設位置をリアルタイムで確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した位置計測方法を用いれば、杭打機で打設される杭の杭芯の移動軌跡と目標位置とを確認しながら、杭芯の位置を調整することができるようになる。
【0007】
しかし、施工現場では、複数本の杭を所定方向に沿って配列するように打設する場合が多いのであるが、個々の杭に対して計測高さにおいて推定した実杭芯位置と設計杭芯位置との偏差が所定の許容範囲に入るように杭打機による杭の打設時の姿勢を調整することは可能であるが、杭芯の傾きを計測することができないため、杭芯の傾きが許容範囲に入るように調整することができないという課題や、複数本の杭の配列誤差を調整することができないという点で、さらなる改良の余地があった。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来の課題に鑑み、複数本の杭を同時に打設する場合に、各杭の実杭芯と設計杭芯との偏差を許容範囲に抑えながら、複数本の杭の配列誤差を許容範囲に抑えることが可能な基礎杭の施工支援システム及び施工支援方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明による基礎杭の施工支援システムの第一の特徴構成は、複数の杭打機の其々に保持され地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測するRiDARと、前記RiDARで得られる各杭の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯データを求める実杭芯データ算出部と、前記実杭芯データ算出部で求めた各杭の実杭芯データと設計杭芯データとに基づいて、各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出する補正情報算出部と、前記補正情報算出部で算出した各杭に対する補正情報を個別に表示する複数の端末機器と、を備えている点にある。
【0010】
複数の杭打機の其々に保持されて地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向にRiDARから測定光が走査され、その反射光がRiDARに検知されることにより、各杭の表面形状を示す3次元点群データが得られる。実杭芯データ算出部により各杭の3次元点群データから各杭の杭芯データが求められ、補正情報算出部により各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報が算出され、複数の端末機器に各杭に対する補正情報が個別に表示される。各杭打機の操作者が端末機器に表示された補正情報に基づいて杭打機により打設される杭の杭芯を調節することで、他の杭の情報が無くても、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように配列される。
【0011】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記3次元点群データは、各杭の杭芯方向に沿って高さが異なる少なくとも2組の3次元点群データが含まれ、前記実杭芯データ算出部は前記2組の点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢を求める点にある。
【0012】
各杭の杭芯方向に沿って高さが異なる少なくとも2組の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢つまり傾きが求まり、各杭の杭芯位置および杭芯の姿勢が調節される。
【0013】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記端末機器は、前記補正情報算出部で算出した前記補正情報に基づいて、対応する杭本体に対する補正量および補正方向を示す補正案内画像を表示する点にある。
【0014】
端末機器に表示される補正量および補正方向を示す補正案内画像に基づいて杭打機を操作することにより、容易に各杭の位置及び姿勢さらには各杭の配列が許容範囲に収まるように調節できる。
【0015】
本発明による基礎杭の施工支援方法の特徴構成は、RiDARを用いて複数の杭打機の其々に保持され地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測する計測工程と、前記計測工程で得られる各杭の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢を求める実杭芯データ算出工程と、前記実杭芯データ算出工程で求めた各杭の実杭芯データと設計杭芯データとに基づいて、各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出する補正情報算出工程と、前記補正情報算出工程で算出した各杭に対する補正情報を、複数の端末機器を用いて個別に表示する表示工程と、を備えている点にある。
【0016】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記3次元点群データは、各杭の杭芯方向に沿って高さが異なる少なくとも2組の3次元点群データが含まれ、前記実杭芯データ算出工程は前記2組の点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢を求める点にある。
【0017】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記表示工程は、前記補正情報算出部で算出した前記補正情報に基づいて、対応する杭本体に対する補正量および補正方向を示す補正案内画像を各端末機器に表示する点にある。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した通り、本発明によれば、複数本の杭を同時に打設する場合に、各杭の実杭芯と設計杭芯との偏差を許容範囲に抑えながら、複数本の杭の配列誤差を許容範囲に抑えることが可能な基礎杭の施工支援システム及び施工支援方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】杭打機および基礎杭の施工支援システムの説明図
【
図2】基礎杭の施工支援システムの機能ブロックの説明図
【
図3】(a)は3次元点群データから実杭芯および傾斜角の算出原理の説明図、(b)は単一の杭に対して施工支援する場合の補正案内画像の説明図
【
図4】(a)は複数の基礎杭の設計杭芯位置とその許容範囲の説明図、(b)は杭芯の調節前の設計杭芯位置と実杭芯位置との関係の説明図、(c)は実杭芯位置が許容範囲に収まった状態で、各実杭芯の平面視の配列が許容範囲を逸脱した状態の説明図、(d)は実杭芯位置が許容範囲に収まり、かつ、各実杭芯の平面視の配列が許容範囲に収まった状態の説明図
【
図5】(a)~(c)は各杭打機1の端末機器に表示される補正案内画像の説明図
【
図6】基礎杭の施工支援方法の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、基礎杭の施工支援システム及び施工支援方法の一態様を図面に基づいて説明する。
[杭打現場の構成]
図1に示すように、工事現場に複数台の杭打機1が所定位置に配置され、各杭打機1には地中に打設される基礎杭2(以下では、単に「杭2」とも表記する。)が保持されている。各杭打機1に保持された状態で各杭2の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測するRiDAR10が設置され、RiDAR10と通信可能に接続された基礎杭の施工支援装置20(以下、単に「施工支援装置20」と記す。)がRiDAR10の近傍に設置されている。
【0021】
RiDAR10と施工支援装置20とがブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)などの無線通信インタフェースを介して通信可能に接続され、施工支援装置20と各杭打機1に備えた端末機器30と施工管理サーバ40とがWi-Fiなどの無線通信インタフェースを介してインターネット5に接続されている。施工支援装置20と端末機器30はタブレット式のコンピュータで構成されている。
【0022】
[杭打機の構成]
杭打機1は、クローラ走行装置1aを備えた旋回基台1bと、旋回基台1bに備えた運転席1cの前方に立設支持されたリーダー1dと、リーダー1dの立設姿勢を調整する左右一対のシリンダ機構1eなどを備えている。
【0023】
削孔時のリーダー1dには、削孔用のオーガを回転可能に支持するモータがワイヤーで吊下げ支持され、モータで回転駆動されたオーガが削孔対象となる設計杭芯位置の上方からリーダー1dに沿って下降操作されることにより、杭打ち用の孔が削孔される。
【0024】
削孔が終了すると、リーダー1dに杭保持機構3が取り付けられ、RC杭や遠心力プレストレストコンクリート杭(PC杭)などの杭2が杭保持機構3に保持されつつオーガで掘削された孔部に打ち込まれる。
【0025】
運転席1cで操作者が端末機器30に表示される補正案内表示を目視確認しつつ、複数の操縦桿を操作して左右のシリンダ機構1eを伸縮させることによりリーダー1dの姿勢が調節され、それによって杭打ち時の杭の打設位置および姿勢が設計値に向けて調節される。
【0026】
一例として、杭2の直径は600~800mm、オーガにより削孔された孔の径は杭2の直径より約200mm程度大きな値になるように、オーガの軸の径及びスクリュー刃の径が設定されている。つまり、オーガにより削孔された孔径は、その孔に打ち込まれる杭の径より十分大きな値に設定され、杭2の打込み位置および姿勢の調節が可能になる。
【0027】
[基礎杭の施工支援システム]
図2に示すように、基礎杭の施工支援システムは、RiDAR10と、施工支援装置20と、複数の端末機器30と、施工管理サーバ40などを備えている。
【0028】
施工管理サーバ40には、予め設計杭芯位置などの設計データ40aが格納されたデータベースDBを備えている。当該データベースDBには、施工支援装置20で支援された施工管理データ40bが累積記憶される。施工管理データ40bには、杭打ち支援時に測定される杭姿勢の履歴、つまり杭2の打ち込み深さとその時の杭2の実軸芯の位置の履歴(設計杭芯位置に対するずれ量を含む)や最大杭先端深さ、さらには隣接する複数本の杭2の平面視における杭芯の配列精度などが含まれる。
【0029】
RiDAR10は、回転走査式の測距装置であり、平面状の走査面に沿って近赤外のレーザ光を一方向に走査させつつ、当該走査面を上下に所定角度単位で振ることにより測定空間を2次元走査する。レーザ光の出射時期と対象物からの反射光の受光軸との間の時間差と光の伝播速度に基づいて対象物までの距離が算出される。
【0030】
RiDAR10は、予め基準座標系における位置が既知の基準体に対する計測結果に基づいて、自己の座標が取得されている。従って、RiDAR10により検出される対象物までの距離および方向に基づいて、基準座標系における対象物の距離画像となる3次元点群データが得られる。基準座標系は、絶対座標系または工事現場における相対座標系のいずれでもよい。
【0031】
図1に示したように、複数台の杭打機1により打込まれる複数本の杭2に対して、RiDAR10により上下方向に二本の走査線D1,D2上に走査される測定光により、走査線D1,D2上に位置する各杭2の点群データが得られる。
【0032】
図2に示すように、施工支援装置20は、3次元点群データ取得部20aと、実杭芯データ算出部20bと、設計杭芯データ取得部20cと、補正情報算出部20dと、補正案内画像生成部20eと、補正案内画像送信部20fと、記憶部20gの各機能ブロックを備えている。これらの機能ブロックはタブレットコンピュータに備えたCPUにより記憶部20gに記憶された施工支援プログラムが実行されることにより具現化される。
【0033】
3次元点群データ取得部20aは、RiDAR10を制御して工事現場の様々な対象物からの反射光で得られる3次元点群データから、各杭2に対する3次元点群データを抽出する。
【0034】
実杭芯データ算出部20bは、各杭2に対する3次元点群データから各杭2に対する実杭芯データを算出する。設計杭芯データ取得部20cは、施工管理サーバ40から各杭2の設計杭芯データを取得する。補正情報算出部20dは、各杭2の実杭芯データと設計杭芯データとを比較して、各杭2が設計杭芯データの許容範囲に入るように、各杭2に対する補正情報を算出する。
【0035】
補正案内画像生成部20eは、補正情報算出部20dにより算出された補正情報に基づいて、各杭2に対する補正案内画像を生成し、補正案内画像送信部20fは、補正案内画像を各杭打機1に備えた端末機器30に送信する。端末機器30に備えた補正案内画像表示処理部30aは、表示画面に補正案内画像30Aを表示する。
【0036】
図3(a)には、実杭芯データ算出部20bにより実行され、実杭芯データの一例である実杭芯位置と実杭芯の傾きを算出するアルゴリズムの一例が示されている。
(1)RiDAR10により杭芯Pに沿って上下に走査され杭2の表面を表す点群データが複数の黒点で示されている。杭2の杭芯Pと交差する第1方向の走査線D1に光走査して得られる3次元点群データ(LiDAR10と杭2表面の距離データ)から、距離が最短となる直線L1とそのときの杭表面の点S1を求める。このとき、直線L1上に杭芯Pが存在することになる。
(2)杭の軸心と交差する第2方向の走査線D2(第1方向の走査線D1よりも杭芯Pに沿って下側)に光走査して得られる点群データ(LiDAR10と杭2表面の距離データ)から、距離が最短となる直線L2とそのときの杭2表面の点S2を求める。第2方向の走査線D2は第1方向D1に対して杭2の杭芯P方向に所定角度φ振った方向である。このとき、直線L2上に杭芯Pが存在する。
(3)点S1と点S2とを結ぶ線分L3が杭芯Pと平行な線分として求まる。
(4)直線L1と直線L3とで構成される平面上で、線分L3に直交し、且つ、点S1を通る直線L4を求め、直線L4上で点S1から杭の半径R(既知)に達する座標PO1が第1方向の走査線D1の走査に対応して求まる杭芯P上の点となる。
(5)直線L2と直線L3とで構成される面上で、線分L3に直交し、且つ、点S2を通る直線L5を求め、直線L5上で点S2から杭の半径R(既知)に達する座標PO2が第2方向の走査線D2の走査に対応して求まる杭芯P上の点となる。
(6)PO1,O2を通る線分が杭芯Pと求まり、実杭芯の傾きが求まる。そして、杭2の打込み方向に所定高さにおける杭芯Pの位置が実杭芯位置として求まる。
実杭芯の傾き設計値からのずれ(位置と傾き)が求まる。なお、所定高さとは、特に確定した高さではなく、杭打機1を操作して杭2の打込み位置を設計位置に調節するために設定された基準となる任意の高さをいう。
【0037】
複数の杭打機1に保持される各杭2に対して、LiDAR10により第1方向D1および第2方向D2に走査した際に求まる各3次元点群データに基づいて、各杭2にレーザ光を照射した上下の走査線に対応した上下の実杭芯位置と、それら間を結ぶ実杭芯の傾きとが求まる。
【0038】
図3(a)に示した例では、LiDAR10を基準とする距離データにより3次元点群データが構成されるが、基準座標系におけるLiDAR10の位置は既知であるため、各柱の3次元点群データは基準座標系における(x,y,z)の点列データであってもよい。なお、当該3次元点群データから杭2の杭芯Pを求める手法は、特に限定するものではなく、適宜公知のアルゴリズムを採用すればよい。
【0039】
図3(b)には、補正情報算出部20dにより算出された補正情報に基づいて、補正案内画像生成部20eにより生成され、端末機器30に表示される補正案内画像30Aが例示されている。当該補正案内画像30Aは、対象となる杭2が設計値に対する許容範囲に収まるように、その補正方向および補正量を案内する画像である。操作者が端末機器30に表示された補正案内画像30Aを目視確認して、杭打機1の操縦桿を操作してリーダー1dの姿勢を調節することにより、杭2の姿勢が調節される。
【0040】
補正案内画像30Aのうち右側には、東西南北を示す方位に対して、設計杭芯を中心とする二重の同心円C1,C2が示されている。小径の円C2は設計杭芯に対する実杭芯のずれの許容範囲を示し、大径の円C1は非許容範囲を示す。大径の円C1と小径の円C2との間に二つのハッチングされた小円が示されている。小円の一方は杭の杭芯に沿って上方の実杭芯位置P1を示し、他方は下方の実杭芯位置P2を示している。
【0041】
補正案内画像30Aのうち左側上部には、下方の実杭芯位置P2の座標に基づいて、実杭芯位置P2を設計杭芯まで移動させるのに必要な距離が示されている。例えば北に向けて**mm、西に向けて**mm移動させると、実杭芯位置P2が設計杭芯まで移動することが示され、実杭芯位置P2が小径の円C2に入れば許容範囲に収まることが示されている。
【0042】
さらに、補正案内画像30Aのうち左側下部には、上下の実杭芯位置P1,P2の座標から求まる南北方向の傾斜角と、東西方向の傾斜角が示されている。これらの傾斜角が0°になるように調節すると、実杭芯位置P1,P2が重なり、鉛直姿勢となることが示されている。
【0043】
操作者は端末機器30に表示された補正案内画像30Aを目視して、杭芯が設計杭芯に一致するように測量対象の姿勢調整装置であるシリンダ機構1eを操作する。RiDAR10による計測と補正案内画像30Aの生成が所定周期で繰り返されることにより、操作者は最新の補正案内画像30Aに基づいて適切に杭打ち操作ができるようになる。
【0044】
記憶部20gは履歴管理装置として機能し、操作者により操作され、補正案内画像30Aに反映された杭2の設計杭芯に対する実杭芯の偏差と傾斜姿勢を杭の位置込み深さと関連付けた履歴情報として記憶される。杭の位置込み深さは、リーダー1dに沿って打込まれる杭2の降下量が杭打機1から端末機器30を介して施工支援装置20に送信されることにより管理される。作業終了後に施工支援装置20から施工管理サーバ40に履歴情報をアップロードしておけば、作業履歴及び杭の設置精度が履歴データとして管理できる。
【0045】
以上の説明では、各杭単独の打込み時の施工支援について説明したが、本発明による施工支援システムでは、複数本の杭2が同時に打ち込まれる際に、各杭2の杭芯が設計杭芯に対して許容範囲に入るとともに、各杭2の平面視における直線状の配列誤差が小さくなるように施工支援される。
【0046】
図4(a)には、工事現場において打込まれる予定の3本の杭2d(破線で示す)に対する設計杭芯Pd(破線で示す)と設計杭芯Pdを中心とする円で示す許容範囲Tが示され、さらに、平面視で当該3本の杭2dの各設計杭芯Pdが位置する基準直線Lに対する傾き角度θrの許容傾き範囲±Δθが示されている。許容傾き範囲±Δθは、3本の杭2の実杭芯Prから求まる近似直線Laに対する傾き角度θrの基準直線Lに対する許容範囲でもある。さらに、近似直線Laから各杭2の実杭芯Prまでの距離Drに対する許容距離範囲±ΔD(
図4(c)参照)が定められている。なお、近似直線Laは各実杭芯Prの所定高さにおけるx、y座標を最小二乗法により求められる。所定高さとしてRiDAR10による走査線D2における高さを設定することが好ましい。少なくとも、補正案内画像30Aと整合が取れていればよい。
【0047】
各杭2の実杭芯Prが許容範囲Tに収まるとともに、平面視における各実杭芯Prの近似直線Laが基準直線Lに対して許容傾き範囲Δθに収まるとともに、近似直線Laから各実杭芯Prまでの距離Lrが許容距離範囲ΔDに収まることが要求される。
【0048】
図4(b)には、上述した設計値に対して、杭打機1により打込まれる3本の杭2(実線で示す)と実杭芯Prのある時点の位置が示されている。左端は
図1の左端の杭打機1に対応する杭2が示され、中央は
図1の中央の杭打機1に対応する杭2が示され、右端は
図1の右端の杭打機1に対応する杭2が示されている。
図4(c)には、
図3(b)で既に説明した補正案内画像3Aに基づいて各杭2の位置および姿勢が調節され、各実杭芯Prが其々の許容範囲Tに調節された例が示されている。
【0049】
しかし、
図4(c)では、平面視における各実杭芯Prの近似直線Laと基準直線Lとの成す角度θrが許容傾き範囲Δθから逸脱し、中央の杭2の実杭芯Prと近似直線Laとの距離Lrが許容距離範囲ΔDから逸脱している。
【0050】
そこで、補正情報算出部20dは、
図4(d)に示すように、各杭2の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭2の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出し、補正案内画像生成部20eは、補正情報算出部20dで算出した各杭2に対する補正案内画像を生成するように構成されている。
【0051】
図5(a)には、
図1の左端の杭打機1に備えた端末機器30に表示される補正案内画像30Aが示され、
図5(b)には、
図1の中央の杭打機1に備えた端末機器30に表示される補正案内画像30Aが示され、
図5(c)には、
図1の右端の杭打機1に備えた端末機器30に表示される補正案内画像30Aが示されている。
【0052】
これらの補正案内画像30Aには、実杭芯のずれの許容範囲C2に加えて、各杭2の平面視の配列誤差が所定の許容傾き範囲ΔθおよびΔDに収束するための操作案内円C3が実杭芯のずれの許容範囲C2に重畳して表示されている。
【0053】
補正情報算出部20dは、実杭芯データ算出部20bで算出した各杭2の実杭芯データと設計杭芯データ取得部20cで取得した設計杭芯データとを比較し、各実杭芯が実杭芯のずれの許容範囲C2に収まるように設計杭芯に向けた最短の移動距離を算出する。補正情報算出部20dは、当該移動距離だけ各実杭芯が移動した場合の位置を基準に近似直線を算出し、当該近似曲線の傾きが許容傾き範囲Δθに収まるか否か、各実杭芯と近似直線の距離がΔDに収まるか否かを判断する。
【0054】
当該近似曲線の傾きが許容傾き範囲Δθに収まり、各実杭芯と近似直線の距離がΔDに収まる場合には、補正案内画像生成部20eによって、其々に対する補正案内画像30Aが生成される。
【0055】
当該近似曲線の傾きまたは各実杭芯と近似直線の距離の何れかが許容範囲から逸脱する場合には、其々の実杭芯を設計杭芯に向けて所定のピッチずつ移動距離を長くした場合の実杭芯位置の移動位置を算出し、算出した各杭2の実杭芯位置の移動位置を組合せて、其々に対して近似曲線を求め、近似曲線の傾きが許容傾き範囲Δθに収まり、各実杭芯と近似直線の距離がΔDに収まる組合せを特定する。
【0056】
設計杭芯を中心とする円であって、特定された組合せに含まれる各実杭芯位置の移動位置が含まれる最大の円を,各杭2の平面視の配列誤差が所定の許容傾き範囲ΔθおよびΔDに収束するための操作案内円C3が実杭芯のずれの許容範囲C2に重畳して表示する。
【0057】
各端末機器30に対応する補正案な画像を表示させることにより、各杭2の実杭芯Prが許容範囲Tに収まるとともに、平面視における各実杭芯Prの近似直線Laが基準直線Lに対して許容傾き範囲Δθに収まるとともに、近似直線Laから各実杭芯Prまでの距離Lrが許容距離範囲ΔDに収まるように案内することができる。
【0058】
なお、各杭打機1に設置された端末機器30にはGPSなど、衛星を利用した位置取得機能が備わっており、各端末機器30と施工支援装置20との間の通信により各端末機器30の位置が把握されている。そして、実杭芯データ算出部20bで算出される各杭2の実杭芯と最も近い端末機器30が特定される。そこで、補正案内画像送信部20fは、補正案内画像生成部20eによって生成された補正案内画像を、各杭2に対応した端末機器30に送信するように構成されている。
【0059】
[基礎杭の施工支援方法]
本発明による基礎杭の施工支援方法は、上述した基礎杭の施工支援システムで実行され、その手順が
図6に示されている。
施工支援装置20にインストールされた杭打ち支援アプリが立上ると(SA1)、施工管理サーバ40から施工対象の設計ファイルがダウンロールされる(SA2)。
【0060】
次に、施工支援装置20はRiDAR10を起動して初期設定を行なうとともに(SA3)、端末機器30のIDを設定する(SA4)。複数台の杭打機1により杭打ちが開始されると、RiDAR10を遠隔操作して工事現場を測定し(SA5)、RiDAR10から3次元点群データを取得する(SA6)。
【0061】
施工支援装置20は取得した3次元点群データから各杭に対応した3次元点群データを抽出して(SA6)、3次元点群データから実杭芯データである実杭芯位置および実杭芯傾斜角度を算出する(SA7,SA8)。
【0062】
施工支援装置20は、実杭芯位置および実杭芯傾斜角度と設計軸心とに基づいて各杭の実杭芯に対する補正情報を算出し(SA9)、さらに複数の杭の対する配列状況を評価して、各杭2の実杭芯Prが許容範囲Tに収まるとともに、平面視における各実杭芯Prの近似直線Laが基準直線Lに対して許容傾き範囲Δθに収まるとともに、近似直線Laから各実杭芯Prまでの距離Lrが許容距離範囲ΔDに収まる補正値を算出し(SA10)、当該補正値に基づいて補正案内画像を生成して(SA11)、各端末機器30に補正案内画像を出力する(SA12)。
【0063】
杭打機1の操作者が各端末機器30に表示された補正案内画像を目視して、杭打機1を操作し、各杭2が所定の許容範囲内に収まるまで、ステップSA5からステップSA12の処理が繰り返される(SA13,N)。
【0064】
各杭2が所定の許容範囲内に収まると(SA13,Y)、各杭2に対する補正履歴を記憶部20gに格納し、補正履歴を施工管理サーバ40にアップロードする(SA15)。
【0065】
すなわち、基礎杭の施工支援方法は、RiDARを用いて複数の杭打機の其々に保持され地中に打設される各杭を各杭の杭芯と交差する方向に測定光を走査して距離を計測する計測工程と、前記計測工程で得られる各杭の3次元点群データに基づいて各杭の杭芯データを求める実杭芯データ算出工程と、前記実杭芯データ算出工程で求めた各杭の実杭芯データと設計杭芯データとに基づいて、各杭の実杭芯データが各設計杭芯データの許容範囲に収束するとともに、各杭の平面視の配列誤差が所定の許容範囲に収束するように、各杭に対する補正情報を算出する補正情報算出工程と、前記補正情報算出工程で算出した各杭に対する補正情報を、複数の端末機器を用いて個別に表示する表示工程と、を備えている。
【0066】
また、前記3次元点群データは、各杭の杭芯方向に沿って高さが異なる少なくとも2組の3次元点群データが含まれ、前記実杭芯データ算出工程は前記2組の点群データに基づいて各杭の杭芯位置および杭芯姿勢を求める。
【0067】
さらに、前記表示工程は、前記補正情報算出部で算出した前記補正情報に基づいて、対応する杭本体に対する補正量および補正方向を示す補正案内画像を各端末機器に表示する。
【0068】
上述した実施形態では、3台の杭打機で3本の杭を同時に打ち込む例を説明したが、同時に打ち込む杭の本数は特に限定するものではなく、4本以上の杭を同時に打ち込む場合にも適用可能である。
【0069】
上述した実施形態は何れも本発明の一態様に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、本発明の作用効果を奏する範囲で各部の具体的な構成は適宜変更設計することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1:杭打機
1d:リーダー
2:杭
10:RiDAR
20:施工支援装置
20a:3次元点群データ取得部
20b:実杭芯データ算出部
20c:設計軸心データ取得部
20d:補正情報算出部
20e:補正案内画像生成部
20f:補正案内画像送信装置
20g:記憶部
30:端末機器
30a:案内画像表示処理部
30A:補正案内画像
40:施工管理サーバ