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特開2024-161944水又は水溶液を分散媒とした金属酸化物の分散方法及びその水分散体
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  • 特開-水又は水溶液を分散媒とした金属酸化物の分散方法及びその水分散体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161944
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】水又は水溶液を分散媒とした金属酸化物の分散方法及びその水分散体
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20241114BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20241114BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C09C3/06
C09C1/36
C01G23/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077020
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591270556
【氏名又は名称】名古屋市
(71)【出願人】
【識別番号】510223874
【氏名又は名称】公益財団法人名古屋産業振興公社
(72)【発明者】
【氏名】岡寺 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】波多野 諒
(72)【発明者】
【氏名】高島 成剛
【テーマコード(参考)】
4G047
4J037
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CA10
4G047CB05
4G047CB09
4G047CC01
4G047CD03
4J037AA11
4J037AA15
4J037AA17
4J037AA22
4J037AA25
4J037CA24
4J037DD05
4J037EE03
4J037EE22
4J037EE24
4J037EE28
4J037EE43
4J037EE46
4J037FF23
(57)【要約】
【課題】
本願発明の課題は、化粧料において金属酸化物の良好な水分散体を提供することである。
【解決手段】
水中にシリコンを主成分とする半導体又は合金を電極として設置して、金属酸化物の分散体にプラズマ処理を行う。この処理により、簡易な手法で金属酸化物上にシリカを被覆することができる。また、それによって中性のpH範囲において金属酸化物表面のゼータ電位が特異的に低下し、静電的斥力による分散効果によって、金属酸化物の沈降や浮上の無い均一な水分散体や、沈降していても再分散が容易な水分散体が得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含有する水又は水溶液に対し、水中にシリコンを主成分とする半導体又は合金を電極として設置して対電極間に電圧を印加してプラズマを発生させ、金属酸化物表面をシリカで被覆する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により、pHが6~8である中性付近の水又は水溶液中における金属酸化物のゼータ電位を低下させ、静電的斥力により金属酸化物を水又は水溶液へ分散させる方法。
【請求項3】
対電極として1つ以上の電極を気中に設置し、かつ1つ以上の電極を水中に設置することを特徴とした、請求項1記載の金属酸化物の被覆方法又は請求項2記載の分散方法。
【請求項4】
プラズマ処理する前の金属酸化物を含有する水又は水溶液のpHが6.0~11.0である請求項1記載の金属酸化物の被覆方法又は請求項2記載の分散方法。
【請求項5】
当該金属酸化物が微粒子酸化チタンであり、かつ一次粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物の被覆方法又は請求項2記載の分散方法。
【請求項6】
pHが6~8の中性領域における金属酸化物のゼータ電位が-25mV以下である請求項2記載の金属酸化物の分散方法。
【請求項7】
シリカで表面の少なくとも一部が被覆された微粒子酸化チタンがpH6~8の中性領域において分散していることを特徴とする微粒子酸化チタン水分散体。
【請求項8】
pHが6~8の中性領域における酸化チタンの平均分散粒子径が300nm以下である請求項7記載の微粒子酸化チタン水分散体。
【請求項9】
請求項7又は8記載の微粒子酸化チタン水分散体を含有することを特徴とする化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水又は水溶液を分散媒とした金属酸化物の分散体に対し、気中-水中又は水中-水中対電極間に電圧を印加してプラズマを発生させることで、金属酸化物表面をシリカで被覆し、pHが6~8である中性付近の分散媒中において金属酸化物を良好に分散させる方法、及びこの方法により得られた金属酸化物の水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物は電子材料、化粧料、塗料、セラミックス等の多様な分野において、その電気特性や光学特性、調色性といった機能から、幅広く利用されている。
【0003】
この金属酸化物を水性製剤として利用する場合、水又は水溶液中における金属酸化物の分散安定性は上記機能を発揮するために非常に重要であることが分かっている。
【0004】
例えば、化粧品分野においては酸化セリウム、微粒子酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物をUV防御剤として製剤中に分散させた状態で配合されており、金属酸化物の分散状態が良好である程、肌に塗布した時に透明感があり、UV防御能も大きくなる。
【0005】
金属酸化物を水又は水溶液中に分散させるために効果的な手法の一つとして、金属酸化物粒子の表面電位をコントロールすることによる、粒子同士の静電的斥力を利用した分散方法が挙げられる。
【0006】
水又は水溶液中に分散する金属酸化物の粒子自身はプラス又はマイナスに帯電しているため、粒子表面には電気的中性を保つために逆符号のイオンが吸着する。そしてさらにその周辺に逆符号のイオンが取り巻くように層が形成され、これらを電気二重層と呼ぶ。粒子の拡散や液体の流動に伴い、粒子を取り巻くイオンの一部が移動する限界部分を「滑り面」と言い、その部分の電位はゼータ電位と呼ばれている。
【0007】
ゼータ電位の大きさは金属酸化物の表面状態や分散媒のpH、系中の電解質濃度に依存しており、ゼータ電位が0になるpHは等電点(IEP)と呼ばれ、IEPよりも低いpHの水又は水溶液中では金属酸化物のゼータ電位はプラスに、IEPよりも高いpHの水又は水溶液中ではマイナスになる。金属酸化物の凝集・分散挙動はゼータ電位の絶対値の大きさと関係があり、ゼータ電位の絶対値が大きいほど同符号電荷同士の斥力が大きいため分散しやすい。一方、ゼータ電位の絶対値が小さいと斥力が小さく、金属酸化物粒子間のファンデルワールス力が優勢になり、凝集しやすくなる。一般に、ゼータ電位の絶対値が25mV以上あると、金属酸化物粒子は水溶液中で安定に分散状態を取りやすい。ただし、特に密度の大きい金属酸化物の場合、サブミクロンサイズ以上の粒子径になるとストークスの式で表されるように重力による沈降の影響が無視できず、ゼータ電位の絶対値が大きくても分散は難しくなる。
【0008】
金属酸化物を水又は水溶液中に分散させるための簡便な方法として、pH調整剤や分散剤等を添加することが挙げられる。例えばpH調整剤を添加して系のpHを金属酸化物のIEPから離れた領域に調整すると分散する。しかし、IEPが約5~6の酸化チタンに代表されるように多くの金属酸化物のIEPは5~9程度の間にあり、中性付近はIEPと近いためにゼータ電位の絶対値が小さく、凝集しやすい。特に金属酸化物を化粧料に用いる場合、肌に直接塗布することを考えれば、中性付近で分散させることが求められる。また、金属酸化物を触媒として利用する場合にはその反応系に及ぼす影響を考慮すると適切なpH範囲や分散剤の成分は限られる。さらに、分散剤を乳化系に用いる際には系の乳化安定性に影響することも考慮しなければならない。
【0009】
このように分散媒のpHを調整する、又は分散剤を添加する方法では適用される機会が限定的である場合、金属酸化物の表面を別の化合物で被覆する方法がよく用いられている。
【0010】
特許文献1では、金属酸化物微粒子の表面をシリカで被覆する製造方法が記載されているが、シリカ被覆には多段階のステップと時間、高温での熟成を要する上、シランカップリング剤や有機溶媒等添加剤の除去も必要となる。また、得られたシリカ被覆酸化チタンの平均粒子径は0.4μmであり、化粧品として十分な紫外線防御能を持つ分散状態とはいい難い。また、特許文献2にはそのようなシリカ被覆金属酸化物外側を疎水性ポリマーで被覆したものの水分散体を利用した化粧料の製造方法が記載されているが、分散の維持には増粘性ポリマーによる保護コロイド効果が必須であることが分かる。また、特許文献1、2においてゼータ電位についての言及はなく、シリカを利用したのは単に感触改良のためであると推察される。
【0011】
特許文献3では、撥水性微粒子シリカを被覆することで凝集をほとんど起こすことのない酸化亜鉛粉体を提供する方法が開示されているが、こちらは適用する化粧料の組成がW/Oなどの油性製剤又は溶剤への分散を意図しているものであり、水又は水溶液へ分散させることについては示唆されていない。
【0012】
特許文献4では、親水性及び親油性のショ糖脂肪酸エステルを被覆することにより、金属酸化物の分散安定性が良好な皮膚外用剤について開示されている。しかしながら、こちらも皮膚外用剤組成物中に、保存安定性を向上させるために非イオン性高分子化合物又は天然由来高分子化合物、及びワックスを配合することが必須であり、水又は水溶液へ分散させることについては示唆されておらず、化粧料への適用範囲は限定的となる。
【0013】
特許文献5では、酸化チタン表面に2層のシリカ被覆層を有する水性分散体用の酸化チタンの製造方法が記載されている。しかしながら、こちらも多段階プロセスと時間が必要となるうえ、各段階で細かなpH調整が必要となる。特にpH調整のために酸やアルカリを多く滴下することにより系中の電解質濃度が高くなっていると考えられるが、電解質濃度の増加は分散粒子表面の対イオン雲が圧縮されて電気二重層を薄くするため、ゼータ電位の絶対値を小さくする。よって凝集しやすく、一度ろ過や洗浄の工程を踏まないと良好分散した酸化チタンの水分散体は得られないと考えられる。
【0014】
これらのように、特に化粧料に適用する場合において、既知の手法では金属酸化物を中性の水又は水溶液中で良好に分散維持することは容易でないと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4836232号
【特許文献2】特開2009-161496
【特許文献3】特許第5290544号
【特許文献4】特許第5212609号
【特許文献5】特許第3773220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のことから、本願発明が解決しようとする課題は、分散剤等を添加することなく簡易な方法で化粧料に適用可能な金属酸化物の良好な水分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は、水又は水溶液中にシリコンを主成分とする半導体又は合金を電極として設置し、金属酸化物の水分散体にプラズマ処理を行うことによりIEPが2~3であるシリカを金属酸化物表面に被覆させ、pHが6~8である中性付近の水中において金属酸化物のゼータ電位を特異的に低下させて良好に分散させる方法、及びこの方法により得られた金属酸化物の良好な水分散体である。なお、本願発明での良好な水分散とは、単に水中に金属酸化物が存在していればよいのではなく、金属酸化物が水中で沈降又は浮上せずに安定に均一に存在する状態、沈降していても再分散が容易である状態を指し、これらの状態の分散体を良好水分散体という。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の金属酸化物のシリカ被覆方法は1ポット且つ1段階で処理が可能であり、短時間で金属酸化物の良好水分散体が得られる。従来の有機シランやケイ酸塩をはじめとした薬剤類を用いて処理する手法に比べ、有機物等の薬剤類の除去工程も必要なく、含水シリカから緻密なシリカ層への加熱熟成等も必要ない。また、反応初期のpH調整のほかに電解質を加えないため、反応後に電解質を除去せずともそのまま金属酸化物の良好な水分散体として得ることができる。
【0019】
本願発明で用いられる金属酸化物は具体的には、アルミナ、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄等の金属酸化物が挙げられる。
【0020】
前記の微粒子酸化チタン及び微粒子酸化亜鉛は、一次粒子径が100nm以下のものを指し、酸化チタン及び酸化亜鉛はそれよりも大きな一次粒子径を有したものを指す。
【0021】
本願発明で用いられる金属酸化物のうち、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムが、高い紫外線防御能を有するため好ましく、その中でも、微粒子酸化チタンが汎用的且つ安価であるため特に好ましい。
【0022】
また、酸化チタン又は微粒子酸化チタンを用いる場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルカイト型のいずれでもよく、これら1つ以上から選ばれる混合物でもよいが、表面活性が比較的低いルチル型を用いることが好ましい。
【0023】
本願発明で用いられる金属酸化物の形状、一次粒子径は特に限定されず、形状は球状、略球状、紡錘状、針状、立方体状等が挙げられるが、分散しやすいという点から、球状、略球状、紡錘状が好ましい。
【0024】
本願発明は金属酸化物を水又は水溶液を分散媒とした分散体の液面に対し、プラズマ処理を行う。
【0025】
プラズマ処理を行う分散体の金属酸化物濃度は特に限定されないが、濃度が低い場合には化粧料へ配合する際の汎用性に欠け、濃度が高い場合には金属酸化物の粒子間距離が接近し、ファンデルワールス力が無視できなくなるため凝集を起こしやすくなることから、0.1~15重量%が好ましく、0.1~10重量%がより好ましく、0.1~5重量%がさらに好ましい。
【0026】
金属酸化物濃度が高い場合には、プラズマ処理時間を長くするとシリカ被覆量が増加し、分散しやすくなる。
【0027】
また、処理する分散体に用いられる分散媒は水や水に塩等を溶解させた水溶液であれば特に限定されない。
【0028】
具体的に溶解させる成分は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化銅、塩化銀、塩化金、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸銅、硫酸銀、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸銅、硝酸銀、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、ミョウバン、アンモニア、メタノール、エタノール等が挙げられるが、特にこれらに限定せず、これらの混合物でも構わず、添加量も添加物が溶解している範囲であれば特に限定されない。
【0029】
本願発明において、プラズマ処理を行う前の金属酸化物の分散状態は特に限定されず、分散体中に浸漬している状態であるが、金属酸化物の一部が沈降していてもよい。
【0030】
プラズマ処理を行う前の分散媒のpHは特に限定されないが、シリカを効率よく金属酸化物上に被覆させるには中性~アルカリ性のpH6~14が好ましく、またpHが高すぎると処理後に中和した際に電解質濃度が高く凝集しやすくなるため、pH6~11がより好ましい。
【0031】
本願発明では、金属酸化物の水分散体に対してプラズマを作用させればよく、気中及び分散体中に電極を設置して気中電極―分散体表面間で発生させる液面プラズマ(図1参照)のほか、分散体中の電極間で発生させる液中プラズマも用いることができる。
【0032】
電極の消耗が少ないことや水分散体の導電率をあげるために塩等の添加物を添加しなくても放電が可能であることから、液面プラズマを用いることが好ましい。
【0033】
液面プラズマを用いる場合には、それぞれ1つ以上の電極を気中(分散体表面の上部)と分散体中(水分散体に少なくとも電極の一部分が接した状態)に設置すればよい。
【0034】
本願発明で用いられるプラズマでは、分散体中に設置する少なくとも1つ以上の電極は、シリコンを主成分とする半導体又は合金である。例えば、シリコン半導体のほか、シリコン-ゲルマニウム、シリコンカーバイト等の他の元素と複合化された半導体、フェロシリコン等の合金などが挙げられる。なお、本願発明でのシリコン半導体とは、シリコンの真性半導体のほか、シリコンに他の元素がドープされたP型及びN型半導体を含む。電極中のシリコンの含有率は50%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0035】
各プラズマの発生方法において、分散体中に設置する電極としてシリコン半導体を用いる場合、露出している結晶面が(100)、(110)又は(111)のものがあるが、特に限定されずそのいずれでもよい。また、高抵抗又は低抵抗のものがあるが、電気伝導度を考慮すると低抵抗のシリコン半導体が好ましい。
【0036】
電極の形状も特に限定されず、平板状、棒状、針状等が挙げられるが、表面積が大きいほど反応効率が良いことから平板状のシリコンウエハーが好ましい。
【0037】
気中に設置する電極の素材は銅、タングステン、グラファイト、チタン、ステンレス、モリブテン、アルミ、鉄、白金、銀、金等が具体的に挙げられるが、特に限定されず、それら金属がめっきされたような電極を用いても構わない。電極の赤熱等を考慮すると、白金が好ましい。
【0038】
気中に設置する電極の形状は特に限定されず、板状、棒状、針状、円筒状、球状、コイル状、針状や棒状が複数あるクシ状や剣山状等が考えられ、その中でも、不平等電界が発生することで絶縁破壊電圧が低くなりプラズマをより低電圧で発生させることができることから、棒状、針状、剣山状、クシ状が好ましく、電極の大きさや太さも特に限定しない。
【0039】
プラズマ発生に用いる電極の本数は特に限定されず、プラズマ発生条件によって適宜選択すればよく、大きな印加電圧・電流を用いる場合では複数本の電極を用いた方が1つの電極にかかる負担が減少するため、好ましい。
【0040】
本願発明においてプラズマを発生させるために使用する電源は、直流電源、パルス電源、ナノパルス電源、低周波交流電源、高周波交流電源、様々な方式を用いることができる。
【0041】
大きな印加電圧・電流を用いる場合には、複数の電源を並列、及び直列につなぐことで電流・電圧を上昇させてもよい。
【0042】
また、電極の赤熱を軽減するために、整流回路や電流を分岐させる電流分岐ユニット、出力のONとOFFの割合を調製できるバースト制御ユニット等を用いても構わない。
【0043】
特に液面プラズマにおいて大きな印加電圧・電流を用いる場合、処理効率を低下させることなく電極の赤熱を軽減できることから、気中に設置した電極側をプラス、分散体中に設置した電極側をマイナスとなるように整流回路を用いる方法や、電流分岐ユニットを用いて複数の電極から複数のプラズマを発生させる方法が好ましい。
【0044】
パルス電源を用いる場合にはパルス幅、及び周波数を任意に選択することができ、処理を行う量や効率、電極の形状や本数により、適宜選択することができる。
【0045】
本願発明では、複数の電源を用意し、それぞれの電源からプラズマを発生させ、処理を行ってもよい。
【0046】
液面プラズマにおいて、分散体中に設置するシリコン電極と処理される分散体の接触面積は特に限定されないが、電圧・電流等のプラズマを発生させる条件に応じて、安定にプラズマ処理を行うために適宜調整すればよい。
【0047】
本願発明では閉鎖系においてガスを充満させた状態、減圧状態でもプラズマを発生させることができる。
【0048】
ガスの種類は、具体的には、水素、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、これらの気体を混合しても構わず、特に限定されない。
【0049】
また、開放系でガスを導入する方法としては、プラズマが発生している周辺に対し、ガスを吹き付ける手法等が挙げられ、特に棒状、針状等の形状で、プラズマの発生箇所が限定しやすい電極を用いる場合には効果的である。ガスの導入位置は分散体中(バブリング)、分散体の表面の上部のいずれでもよい。
【0050】
本願発明では、液面プラズマ処理と機械的解砕力や機械的撹拌力を併用すれば、さらにプラズマ処理・分散処理の効率を上昇させることができる。
【0051】
具体的には、マグネチックスターラー、ミキサー、超音波浴、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高速ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、コロイダルミル、スタンプミル、ロッドミル、ボールミル、ビーズミル、ジョークラッシャー、ニーダー、プラネタリー等が挙げられるが、特にこれらに限定されず、2つ以上併用しても構わない。
【0052】
また、撹拌力と解砕力を同時に効率よく付与できるという点から、超音波浴、超音波ホモジナイザー、高速ホモミキサー、ビーズミル、プラネタリーを併用することが好ましい。
【0053】
本願発明では、これら各機械的な撹拌力・解砕力と、設置する電極の位置を任意に選択し組み合わせることができ、その組み合わせは特に限定しない。
【0054】
超音波処理においては、超音波の周波数は、通常洗浄に用いられる程度の15~150kHzであり、撹拌力と設置コストを考慮すると、30~50kHzが好ましい。出力は処理しようとする量や、金属酸化物では分散特性に依存するが、通常市販されている2500W以下のものを用いれば良く、コストを考慮すれば1200W以下のものがよい。
【0055】
本願発明において、処理時間は処理容量や分散体の濃度等の条件によって適宜調整すればよい。
【0056】
本願発明において、得られた分散体は、分散体そのものとしての利用や、得られた分散体に表面処理を行い、乾燥させる等、様々な用途で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は本願発明において、液面プラズマを用いる場合の装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
次に、本願発明の金属酸化物の水又は水溶液中への分散方法、及びシリカ被覆された金属酸化物水分散体について実施例を挙げて詳細に説明するが、本願発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0059】
液面プラズマ(図1)を用いて、金属酸化物の水中への分散処理を行った。
<微粒子酸化チタンの水分散体の調製>
1Lセパラブルビーカー中に一次粒子径35nmの微粒子酸化チタンMT-500B(テイカ株式会社製、形状:略球状)5gを加え、また液面プラズマ処理を開始するpHの調整のため、アンモニア水(28vol%)100μLを添加し、合計1000gとなるようにイオン交換水を加え、微粒子酸化チタンのプラズマ処理前の分散体を調製した(濃度:0.5重量%、処理量:1000g、pH10.0)。
【0060】
プラズマ発生条件・処理条件は以下のように設定した。
<プラズマ発生条件>
・電源
パルス電源(パルス幅:1.6マイクロ秒、周波数:15kHz)
印加電圧:約4kV
電流:約0.3A
整流回路を用いて、気中に設置した電極側をプラス、水分散体中に設置した電極側をマイナスとした。
・電極
水分散体中に設置した電極:シリコンウエハー(径=100mm、厚み=0.5mm、P型半導体、シリコン含有率99%以上)
水分散体中に設置した電極の分散体との接触面積:(50)π×2=5,000[mm
気中に設置した電極:白金、棒状(径=1mm、長さ=30mm)
液面と電極間の距離:5mm
<処理条件>
雰囲気:アルゴンガスを導入しながら2時間まで液面プラズマ処理を行った。
液温:10±5℃
機械的な撹拌力・解砕力:プラズマ照射部は超音波洗浄器(周波数:40kHz、出力80W)
【0061】
得られた分散体は、0.5重量%の微粒子酸化チタンの水分散体であるにもかかわらず、沈降物の少ない極めて良好な水分散体であった。酸化チタン表面に被覆された物質の化学構造を同定するためX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルを測定したところ、1848eVに顕著なピークが生じ、そのピーク形状から表面に非晶質シリカが存在することがわかった。また、SEM-EDX分析から、酸化チタン表面の全体にわたってケイ素が検出され、ガラスビード法による蛍光X線分析から、その存在量は酸化チタン1gに対して3.82mgであった。
【0062】
5gの微粒子酸化チタンMT-500Bに対し、合計1000gとなるようにイオン交換水を加え、その後に2時間超音波処理を行い、上記プラズマ処理をしなかったものを比較例1とした。SEM-EDX分析から、表面からケイ素は検出されなかった。
【0063】
市販のシリカ被覆微粒子酸化チタンTS-04(テイカ株式会社製、形状:略球状)5gに対し、合計1000gとなるようにイオン交換水を加え、その後に2時間超音波処理を行い、上記プラズマ処理をしなかったものを比較例2とした。乾燥物のSEM観察から、実施例1の酸化チタンより大きな凝集塊を形成していた。
(実施例1及び比較例1、2の分散状態評価)
【0064】
実施例1及び比較例1、2の水分散体の中性付近での分散状態を評価するため、ゼータ電位測定システム(ELS-Z1、大塚電子株式会社製)を用いてpH7(±1)におけるゼータ電位を調べた。また、多検体ナノ粒子径測定システム(nanoSAQRA、大塚電子株式会社製)を用いてpH6,pH7、pH8における平均分散粒子径(メジアン径、d50)を動的光散乱法(DLS法)によって測定した。結果を表1にまとめた。実施例1では表面がIEPの低いシリカで被覆されたことによって比較例1よりも20mV以上中性付近におけるゼータ電位が低下し、静電的斥力が働いてpH6~8の中性領域全域にわたって平均分散粒子径が200nm以下となり、良好に分散状態が維持されている。一方、比較例1では中性付近において十分な静電的斥力が得られず、酸化チタンのIEPに近いpH7以下では粒子が凝集沈降した。一方、比較例2はシリカ被覆されているためゼータ電位は低いが、粒子径が大きく、すぐに沈降してしまった。SEM観察において凝集塊が見られたように、従来のシリカ被覆方法では工程中に凝集が生じやすいと考えられ、そうなると重力による影響から良好に分散安定化させることは難しい。
【表1】
【実施例0065】
実施例1における微粒子酸化チタン濃度を0.1重量%としたものを実施例2とした。
【実施例0066】
実施例1における微粒子酸化チタン濃度を0.25重量%としたものを実施例3とした。
【実施例0067】
実施例1における微粒子酸化チタン濃度を5.0重量%としたものを実施例4とした。
【実施例0068】
実施例1における微粒子酸化チタン濃度を10.0重量%としたものを実施例5とした。
【実施例0069】
実施例1におけるシリコンウエハーをN型半導体としたものを実施例6とした。
【実施例0070】
実施例1における反応温度を80±5℃としたものを実施例7とした。
【実施例0071】
実施例1においてアンモニア水の代わりに水酸化ナトリウムを用い、反応初期のpHを12としたものを実施例8とした。
(実施例2~8の分散状態評価)
【0072】
XAFSスペクトル及びSEM-EDX分析により、実施例2~8全てにおいて酸化チタン表面の全体にわたって非晶質シリカが被覆されていることがわかった。実施例2~8の水分散体の中性付近での分散状態は、実施例1及び比較例1、2と同様の方法により評価した。結果を表2にまとめた。実施例1~4から、酸化チタン濃度が0.1~5重量%の範囲では2時間のプラズマ処理でpH6~8にわたって平均分散粒子径が300nm以下となり、良好に分散した。また、実施例5から、プラズマ処理時間を4時間とすれば酸化チタン濃度が10重量%の場合においてもpH6~8にわたって平均分散粒子径が300nm以下となり、良好に分散した。実施例8では中和時のpH調整によって電解質濃度が高くなったため、中性におけるゼータ電位の絶対値が低く、分散しなかった。
【表2】
【0073】
プラズマ処理後の微粒子酸化チタン水分散体は、中性領域におけるゼータ電位がおおむね-25mV以下となり、その平均分散粒子径もおおむね300nm以下となる良好水分散体であった。例えば平均一次粒子径が100nm以下であり、平均分散粒子径が300nm以下であれば、優れた紫外線吸収及び散乱能力、透明感を持つため、化粧料用途として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本願発明により、中性付近のpH範囲で金属酸化物表面のゼータ電位が特異的に低下し、静電的斥力による分散効果によって、良好な水分散体が得られた。本願発明は、従来技術に比べて簡易な手法で金属酸化物上にシリカを被覆することができ、且つ分散剤等を用いなくても優れた分散安定性を示した。この金属酸化物の良好水分散体は、例えば水系化粧料への応用が期待できる。
【符号の説明】
【0075】
1 水分散体を入れる貯留槽
2 金属酸化物水分散体
3 電源
4 水分散体上部の気中に設置した電極
5 水分散体中に設置した電極
6 絶縁管
7 プラズマ
8 アルゴンガス
9 恒温水
10 超音波洗浄器

図1