(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161966
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20241114BHJP
F16D 3/205 20060101ALI20241114BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20241114BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16D3/84 S
F16D3/205 M
F16J3/04 Z
F16J15/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077066
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】三日月 敦郎
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043CA20
3J043FA20
3J043FB04
3J045AA20
3J045BA02
3J045CB30
3J045EA03
(57)【要約】
【課題】潤滑剤の必要量を削減できる等速ジョイントを提供する。
【解決手段】開口部を有する筒状のアウターレース4の内部に、第1回転軸2との間でトルクを伝達する第2回転軸3の端部が挿入され、アウターレース4の内面と第2回転軸3の端部の外面との少なくともいずれか一方に回転可能に接触して第1回転軸2と第2回転軸3との間でトルクを伝達する転動体5がアウターレース4の内面と第2回転軸3の端部の外面との間に設けられ、開口部側のアウターレース4の端部外周面と第2回転軸3の外周面とに密着嵌合しているブーツ12によって密閉され、さらにアウターレース4の内部に潤滑剤が入っている等速ジョイント1であって、ブーツ12の内周側で第2回転軸3に第2回転軸3の半径方向で外側に延び出ている鍔状の隔壁板14が設けられ、隔壁板14の外周部が、ブーツ12の内面に潤滑剤が通らないように摺接している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸の端部に一体に設けられた一方の端部に開口部を有する筒状のアウターレースの内部に、前記第1回転軸との間でトルクを伝達する第2回転軸の端部が前記開口部から挿入され、前記アウターレースの内面と前記第2回転軸の端部の外面との少なくともいずれか一方に回転可能に接触して前記第1回転軸と前記第2回転軸との間でトルクを伝達する転動体が前記アウターレースの内面と前記第2回転軸の端部の外面との間に設けられ、前記開口部が、前記開口部側の前記アウターレースの端部外周面と前記第2回転軸の外周面とに密着嵌合しているブーツによって密閉され、さらに前記アウターレースの内部に潤滑剤が入っている等速ジョイントであって、
前記ブーツの内周側で前記第2回転軸に前記第2回転軸の半径方向で外側に延び出ている鍔状の隔壁板が設けられ、
前記隔壁板の外周部が、前記ブーツの内面に前記潤滑剤が通らないように摺接している
ことを特徴とする等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転中心軸線が所定の角度で交差する二本の回転軸を連結する等速ジョイントに関し、特に液密状態に封止するブーツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントのブーツに関する発明が特許文献1や特許文献2に記載されている。これら特許文献1および特許文献2に記載されている発明は、いずれも、グリースなどの潤滑剤がブーツの内部に入ってしまうことによる不都合を解消することを目的とするものであり、特許文献1に記載された発明では、アウターレースの内部に差し込まれる小径の軸部にブーツの一方の端部を嵌合させて締結し、その締結部からアウターレース側に向けて次第に大径となっているテーパ状の部分の傾斜角度(テーパ角の半分の角度)を45°以下としている。こうすることにより、ブーツの内部に入っている潤滑剤による遠心力で、上記のテーパ状部分の立ち上がり(膨らみ)を抑制し、当該部分の膨らみおよびその収縮によるポンピング作用およびそれに伴う潤滑剤の漏洩を防止もしくは抑制する、としている。
【0003】
また、特許文献2に記載された発明では、ブーツの内部に、柔軟な弾性のある粒状の発泡弾性樹脂を充填した構成としている。ブーツの内部を発泡弾性樹脂が占有しているので、ブーツの内部にグリースが入り込むことを抑制でき、あるいはブーツの内部に入り込むグリースの量を少なくすることができるので、遠心力によるブーツの膨張や低温時に硬化しているグリースによるブーツの損傷など、グリースがブーツの内部に入り込むことによる不都合を解消もしくは抑制することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-248962号公報
【特許文献2】特開2007-139085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている発明では、ブーツの内部にグリースなどの潤滑剤が入り込むことを許容する構成となっている。そのため、等速ジョイントで必要とする潤滑剤の量は、アウターレースの内部の摺動箇所を浸らせる量に、ブーツの内部に入り込んでしまう量を加えた量になる。そのため、潤滑に必要な量以上の潤滑剤を等速ジョイントの内部に入れておくことになるので、等速ジョイントの全体としての重量が増大してしまい、またコストが高くなるなどの不都合がある。
【0006】
これに対して、特許文献2に記載された発明では、ブーツの内部に入り込む潤滑剤の量を少なくすることができる。しかしながら、ブーツの内部に充填される発泡弾性樹脂は、弾性を有しているとしても固体であるから、流体とは異なって、ブーツの変形に追従した変形が円滑に生じず、その結果、ブーツの過剰な荷重が繰り返し掛かってブーツが損傷したり、あるいは耐久性が低下する可能性がある。さらに、ブーツの内部に充填した発泡弾性樹脂は、固定されているわけではないので、発泡性弾性樹脂あるいはその破砕片がインナーレースの内部に入り込んで、ローラなどの転動体と溝との間などの摺動箇所に挟み込まれて潤滑を阻害するなどの可能性がある。
【0007】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、ブーツの挙動を阻害することなく潤滑剤の使用量を少なくすることのできる等速ジョイントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、第1回転軸の端部に一体に設けられた一方の端部に開口部を有する筒状のアウターレースの内部に、前記第1回転軸との間でトルクを伝達する第2回転軸の端部が前記開口部から挿入され、前記アウターレースの内面と前記第2回転軸の端部の外面との少なくともいずれか一方に回転可能に接触して前記第1回転軸と前記第2回転軸との間でトルクを伝達する転動体が前記アウターレースの内面と前記第2回転軸の端部の外面との間に設けられ、前記開口部が、前記開口部側の前記アウターレースの端部外周面と前記第2回転軸の外周面とに密着嵌合しているブーツによって密閉され、さらに前記アウターレースの内部に潤滑剤が入っている等速ジョイントであって、前記ブーツの内周側で前記第2回転軸に前記第2回転軸の半径方向で外側に延び出ている鍔状の隔壁板が設けられ、前記隔壁板の外周部が、前記ブーツの内面に前記潤滑剤が通らないように摺接していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明において、アウターレースの内部に入れた潤滑剤はアウターレースが回転することにより、アウターレースの内部の形状に応じて遠心力などによって流動する。そのアウターレースは一方の端部がブーツ側に開口しているので、潤滑剤がブーツの内部に流れ込もうとする。しかしながら、第2回転軸に設けた隔壁板の外周部がブーツの内面に摺接していて、潤滑剤が隔壁板を越えて流れないようになっているので、潤滑剤の多くは、アウターレースの内部に留め置かれ、アウターレースの内部の潤滑に十分な厚さもしくは深さの潤滑剤層を形成する。したがって、アウターレースに入れる潤滑剤の量は、ブーツの内部に流れ込んでしまう量を削減した量でよいので、潤滑剤の必要量を少なくして軽量化や低コスト化を図ることができる。また、隔壁板は、ブーツの内面に摺接しているだけであるから、ブーツの挙動が阻害されず、その密閉機能や耐久性が低下することを回避もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0012】
図1に本発明を適用したトリポード型等速ジョイント1を示しており、その基本的な構造は、従来知られている等速ジョイントと同様であり、それぞれの回転中心軸線が所定の角度で交差することの可能な第1回転軸2と第2回転軸3とをトルク伝達可能に連結するように構成されている。その第1回転軸2の端部には、先端側(
図1の右側)に開口した筒状のアウターレース4が一体に設けられている。また、このアウターレース4の中心部に第2回転軸3の先端部が挿入されており、この第2回転軸3の先端部に本発明の転動体に相当するトリポード5が設けられている。トリポード5がアウターレース4に対して回転方向で一体化しかつアウターレース4の回転中心軸線(第1回転中心軸線)O4に沿う方向には相対移動可能に係合することにより、第1回転軸2と第2回転軸3との間に所定の角度が付いている状態であっても回転角速度を変化させることなく、第1回転軸2および第2回転軸3との相互の間でトルクを伝達するようになっている。
【0013】
より具体的に説明すると、アウターレース4の内周面には、その回転中心軸線O4に平行な複数(例えば3本)の溝6が形成されている。その溝6の互いに対向する側壁面はほぼ球面状であり、言い方を変えれば、溝6に垂直な面で切断した場合の断面形状が円弧状となる面である。各溝6の内部には、トリポード5によって保持されたアウターローラ7が、その断面円弧状の側壁面に接触するように配置されている。
【0014】
トリポード5は、第2回転軸3を嵌合させているボス部から半径方向(第2回転軸3の回転中心軸線O3を中心とした半径方向)で外側に向けて突出させた3本のトラニオン8を有している。これらのトラニオン8は、円周方向に等間隔に配置されており、それぞれの先端側の外周面は、球面状をなしている。
【0015】
図1に示す例は、ダブルローラタイプのトリポード型等速ジョイントであり、アウターローラ7の内周側にはインナーローラ9が配置されている。このインナーローラ9は、断面が矩形状をなしかつ全体としてリング状をなすローラであり、その内径は、トラニオン8の外径とほぼ等しく、したがってインナーローラ9はトラニオン8の外周側に嵌合して保持されている。多数のニードルをインナーローラ9の外周面に沿わせて配列したニードルローラ10が配置されており、そのニードルローラ10の外周側に上記のアウターローラ7が嵌合している。すなわち、アウターローラ7は、ニードルローラ10およびインナーローラ9を介してトラニオン8によって回転可能に保持されている。
【0016】
アウターローラ7は、外周面が球面状をなすリング状のローラであり、特には図示しないが、中心軸線方向での一方の開口端(前記溝6の内部に配置した場合にその溝6の底部に対向する端部)が外周側エッジ部となっており、これとは反対側の開口端が内周側エッジ部となっている。各エッジ部に近い箇所の内周側のそれぞれにはスナップリング(止め輪)が嵌め込まれている。これらのスナップリングの内径は、前述したインナーローラ9の外径より小さく、したがって前述したニードルローラ10およびインナーローラ9は、アウターローラ7の内部から抜け落ちないように、スナップリングによって軸線方向(
図1の上下方向)に対して保持もしくは拘束されている。
【0017】
上記のアウターレース4の内部に潤滑剤としてグリースが入れられている。グリースは、第1回転軸2と第2回転軸3との間でトルクを伝達してアウターレース4などが回転している場合には、摺動部分での摩擦などによる熱で温度が上昇し、流動性が増す。また、アウターレース4が回転している場合には遠心力がグリースに作用し、その結果、アウターレース4の内周面に沿って潤滑剤層11を形成する。その潤滑剤層11の厚さ(もしくは深さ)は、アウターレース4の内部に入れるグリースの量によって調整されており、ここで説明している実施形態では、潤滑剤層11の表面(油面)のアウターレース4の回転中心軸線からの半径位置が、アウターローラ7の前述した内周側エッジ部の付近、もしくは内周側エッジ部よりもアウターレース4の半径方向で内周側となる厚さ(もしくは深さ)になっている。
【0018】
そして、アウターレース4の開口部側の端部外周には、蛇腹形状のブーツ12の一端が密着嵌合して固定され、ブーツ12の他端が第2回転軸3に密着嵌合して固定されている。ブーツ12の各端部は、外周側からブーツバンドと称される帯状締結具13で締め付けて、アウターレース4や第2回転軸3に対して固定されている。このようにして、アウターレース4の内部がブーツ12により液密に密閉され、その内部に所定量のグリースが封入されている。
【0019】
ブーツ12は、等速ジョイントに一般的に用いられているものと同様に、アウターレース4側の端部が大径で、第2回転軸3側の端部が小径の全体としてテーパ形状を成し、その軸線方向の中間部が蛇腹状になっている。そして、その形状による柔軟性と併せて、全体として容易に湾曲もしくは変形するように合成ゴムを素材としている。したがって、ブーツ12の周面部もしくは筒状の壁部は、半径方向で外側に突き出た谷部(ブーツ12の内面側から見た場合に外方向に窪んでいる谷部)Vと、半径方向で内側に突き出た山部(ブーツ12の内面側から見た場合に内側に突出している山部)Sとが、軸線方向に交互に並んだ形状になっている。
【0020】
このブーツ12の内側で、第2回転軸3に、隔壁板14が取り付けられている。隔壁板14は、金属製もしくは合成樹脂製の板状の部材であって、平板状もしくは中央部が窪んだ皿状(ダイヤフラム状)をなし、第2回転軸3の外周部に圧入され、もしくは接着などの適宜の手段で固定されている。したがって、隔壁板14は、第2回転軸3からその半径方向で外側に延び出た鍔状(フランジ状)になっており、その外周部は、ブーツ12のいずれかの谷部Vに挿入され、かつその谷部Vの内面に接触している。より具体的には、谷部Vの内面を僅かに弾性変形させるように、隔壁板14の外周部がブーツ12の内面に摺動可能に接触(摺接)し、ブーツ12の内面と隔壁板14との間に、グリースが通る隙間が生じないようになっている。すなわち、隔壁板14は、ブーツ12の内部をアウターレース4側とこれとは反対側とに二分する部材であり、これは、アウターレース4内のグリースがブーツ12側に入る量を少なくするためである。したがって、ブーツ12側に流れるグリースの量を可及的に少なくするために、隔壁板14は、上述した谷部Vのうち最もアウターレース4寄りの谷部Vに対応する位置に配置し、その谷部Vの内面に隔壁板14の外周部を摺接させることが好ましい。
【0021】
上記のトリポード型等速ジョイント1によるトルクの伝達は、従来のものと同様にして行われる。すなわち、第1回転軸2と第2回転軸3との間に所定の作動角がある状態で例えば第1回転軸2からアウターレース4にトルクが伝達されると、その内周側の溝6にアウターローラ7が嵌まり込んでおり、しかもそのアウターローラ7は溝6の長手方向に移動できるとしても溝6に直交する方向(回転方向)には移動できないので、アウターローラ7およびこれを保持しているトリポード5を介して第2回転軸3にトルクが伝達される。その場合、作動角が設定されていることにより、アウターローラ7が溝6の内部をその長手方向に往復動し、またトラニオン8がインナーローラ9に対して首振り運動を行って両者の交差角度が連続的に変化する。このような相対移動を伴ってアウターレース4からトリポード5にトルクが伝達されることにより、等速性が維持される。
【0022】
第1回転軸2から第2回転軸3にトルクを伝達している場合、アウターレース4が第1回転軸2と共に回転するので、その内部のグリースは遠心力によってアウターレース4の内周面に向けて押し付けられる。また、グリースがアウターレース4の内周面に張り付いて潤滑剤層11を形成する。そのアウターレース4に筒状のブーツ12が接続されているが、アウターレース4の内部とブーツ12の内部とは上記の隔壁板14によって区画されているので、ブーツ12の内部の全体にはグリースが流れ込まない。その結果、遠心力によってアウターレース4の内部に形成される潤滑剤層11の軸線方向での長さは、隔壁板14までの長さに制限され、その長さに応じた量のグリースをアウターレース4の内部に封入すれば、アウターローラ7の全体が浸る程度の深さの潤滑剤層11を形成させることができる。すなわち、ブーツ12の全体の内容積を考慮した量のグリースを必要とせずに、上記の隔壁板14までの容積を考慮した量のグリースで必要十分な潤滑を行うことができ、グリースの必要量を少なくして、等速ジョイント1の全体としての重量を削減し、また低コスト化を図ることができる。
【0023】
なお、上述した実施形態は、ダブルローラタイプのトリポード型等速ジョイント1にこの発明を適用した例であるが、この発明はダブルローラタイプのトリポード型等速ジョイントに限らず、シングルローラタイプのトリポード型等速ジョイントやその他の形式の等速ジョイントに適用することができ、要は、アウターレースの開口部を封止するブーツを備えている等速ジョイントであればよい。
【符号の説明】
【0024】
1 トリポード型等速ジョイント
2 第1回転軸
3 第2回転軸
4 アウターレース
5 トリポード
6 溝
7 アウターローラ
8 トラニオン
9 インナーローラ
10 ニードルローラ
11 潤滑剤層
12 ブーツ
13 帯状締結具
14 隔壁板
O3 回転中心軸線
O4 回転中心軸線
S 山部
V 谷部