(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161967
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】エレベータの滑車交換方法及び懸架体仮支持装置
(51)【国際特許分類】
B66B 7/00 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B66B7/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077067
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003568
【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本村 晃一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良直
【テーマコード(参考)】
3F305
【Fターム(参考)】
3F305BA02
3F305BC15
3F305BC18
3F305BC19
3F305DA07
3F305DA15
(57)【要約】
【課題】滑車の交換作業の手間を軽減することができるエレベータの滑車交換方法及び懸架体仮支持装置を得ることを目的とする。
【解決手段】滑車交換方法では、釣合おもり返し車梁19に懸架体仮支持装置31が設置される。この後、一対の仮支持ローラ32が懸架体24に接している状態で釣合おもり返し車21に対して一対の仮支持ローラ32を移動させることにより、懸架体24が一対の仮支持ローラ32に掛けられる。そして、釣合おもり返し車21にかかっていた懸架体24からの荷重が、懸架体仮支持装置31によって仮支持される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の仮支持部材と、前記一対の仮支持部材をそれぞれ移動させるジャッキ装置とを有している懸架体仮支持装置を、既設の滑車が取り付けられている滑車取付部材に設置する工程、
前記一対の仮支持部材が前記懸架体に接している状態で前記既設の滑車に対して前記一対の仮支持部材を移動させ、前記懸架体を前記一対の仮支持部材に掛けることにより、前記既設の滑車にかかっていた前記懸架体からの荷重を前記懸架体仮支持装置によって仮支持する工程、及び
前記既設の滑車を前記滑車取付部材から取り外し、新たな滑車を前記滑車取付部材に取り付ける工程
を含むエレベータの滑車交換方法。
【請求項2】
滑車が取り付けられている滑車取付部材に設置されるジャッキ装置、及び
前記ジャッキ装置に取り付けられる一対の仮支持部材
を備え、
前記ジャッキ装置は、前記滑車取付部材に設置された状態で操作されることにより、前記滑車に対して前記一対の仮支持部材を移動させ、前記滑車に掛けられている懸架体を前記一対の仮支持部材に掛けかえて、前記滑車にかかっていた前記懸架体からの荷重を仮支持するエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項3】
各前記仮支持部材の外周面のうち、少なくとも前記懸架体に接する部分は曲面となっている請求項2記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項4】
前記曲面の曲率半径は、前記滑車の曲率半径よりも小さい請求項3記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項5】
前記ジャッキ装置は、一対のジャッキ本体を有しており、
各前記ジャッキ本体は、
第1ガイド保持孔が設けられており、前記滑車取付部材に固定される取付台と、
スリットとねじ孔とが設けられており、前記仮支持部材が取り付けられる移動治具と、
前記第1ガイド保持孔と前記スリットとに通されるストッパ兼ガイドと、
前記ねじ孔にねじ込まれるジャッキボルトと
を有しており、
前記ストッパ兼ガイドが前記第1ガイド保持孔と前記スリットとに通されることによって、前記移動治具が前記ストッパ兼ガイドを介して前記取付台に支持され、
前記ジャッキボルトの先端が前記ストッパ兼ガイドに当たった状態で、前記ジャッキボルトがねじ込まれることにより、前記ストッパ兼ガイドが前記スリット内を相対的に移動するとともに、前記移動治具と前記仮支持部材とが前記取付台に対して移動する請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項6】
前記懸架体からの荷重による前記移動治具の回転は、前記ストッパ兼ガイドにより阻止されている請求項5記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項7】
前記ストッパ兼ガイドには、前記第1ガイド保持孔の縁部が挿入される溝が形成されている請求項5記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項8】
前記取付台には、前記ストッパ兼ガイドが通される第2ガイド保持孔が設けられており、
前記第2ガイド保持孔は、前記取付台が前記滑車取付部材に設置された状態において、前記第1ガイド保持孔よりも前記滑車取付部材から離れた位置に位置している請求項5記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【請求項9】
各前記ジャッキ本体は、補助ストッパをさらに有しており、
前記取付台には、取付台側ストッパ保持孔が設けられており、
前記移動治具には、治具側ストッパ保持孔が設けられており、
前記取付台側ストッパと前記治具側ストッパ保持孔とに前記補助ストッパが通されることにより、前記取付台及び前記移動治具から前記ストッパ兼ガイドが取り外された状態でも、前記補助ストッパを介して、前記移動治具が前記取付台に支持される請求項8記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベータの滑車交換方法及び懸架体仮支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の機械室レスエレベータの改修方法では、上部支持体から釣合おもり返し車が取り外される。この後、上部支持体における釣合おもり返し車が取り付けられていた位置に、新たな巻上機が設置される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の機械室レスエレベータの改修方法では、釣合おもり返し車を新たな巻上機に交換する際、釣合おもり返し車に加わる荷重を小さくするために、釣合おもりが昇降路ピットの緩衝器によって支持される。また、かごの荷重は、チェーンブロックによって支持される。このため、釣合おもりを緩衝器によって支持させる作業と、かごをチェーンブロックによって吊る作業とが必要になり、釣合おもり返し車を新たな巻上機に交換する作業には、かなりの手間がかかる。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、滑車の交換作業の手間を軽減することができるエレベータの滑車交換方法及び懸架体仮支持装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベータの滑車交換方法は、一対の仮支持部材と、一対の仮支持部材をそれぞれ移動させるジャッキ装置とを有している懸架体仮支持装置を、既設の滑車が取り付けられている滑車取付部材に設置する工程、一対の仮支持部材が懸架体に接している状態で既設の滑車に対して一対の仮支持部材を移動させ、懸架体を一対の仮支持部材に掛けることにより、既設の滑車にかかっていた懸架体からの荷重を懸架体仮支持装置によって仮支持する工程、及び既設の滑車を滑車取付部材から取り外し、新たな滑車を滑車取付部材に取り付ける工程を含む。
本開示に係るエレベータの懸架体仮支持装置は、滑車が取り付けられている滑車取付部材に設置されるジャッキ装置、及びジャッキ装置に取り付けられる一対の仮支持部材を備え、ジャッキ装置は、滑車取付部材に設置された状態で操作されることにより、滑車に対して一対の仮支持部材を移動させて、滑車に掛けられている懸架体を一対の仮支持部材に掛けかえ、滑車にかかっていた懸架体からの荷重を仮支持する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、滑車の交換作業の手間を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1によるエレベータを示す斜視図である。
【
図2】
図1の釣合おもり返し車の交換途中の状態を示す正面図である。
【
図8】
図2のストッパ兼ガイドを示す正面図である。
【
図9】
図8のストッパ兼ガイドを示す側面図である。
【
図10】
図9のストッパ兼ガイドを示す平面図である。
【
図11】
図1の釣合おもり返し車梁に一対の取付台を設置した状態を示す正面図である。
【
図13】
図11の各取付台に移動治具が取り付けられた状態を示す正面図である。
【
図15】
図13の各移動治具に仮支持部材が取り付けられた状態を示す正面図である。
【
図17】
図15の各移動治具にジャッキボルトが取り付けられた状態を示す正面図である。
【
図19】
図17の移動治具をジャッキアップした状態を示す正面図である。
【
図20】
図19のストッパ兼ガイドを第2ガイド保持孔に通した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるエレベータを示す斜視図である。実施の形態1のエレベータは、2:1ローピング方式の機械室レスエレベータである。
図1において、昇降路11内には、かご12及び釣合おもり13が設けられている。
図1では、昇降路11、かご12、及び一部の機器を透視して示している。
【0010】
釣合おもり13は、かご12と同じ高さに位置するときにかご12の背面に対向するように、乗場側から見てかご12の後方に配置されている。
【0011】
昇降路11内には、第1かごガイドレール14a、第2かごガイドレール14b、第1釣合おもりガイドレール15a、及び第2釣合おもりガイドレール15bが設置されている。
【0012】
第1かごガイドレール14a及び第2かごガイドレール14bは、かご12の昇降を案内する。第1釣合おもりガイドレール15a及び第2釣合おもりガイドレール15bは、釣合おもり13の昇降を案内する。
【0013】
昇降路11内の下部には、エレベータ巻上機16が設置されている。エレベータ巻上機16は、巻上機本体16aと、駆動綱車16bとを有している。
【0014】
巻上機本体16aは、図示しない巻上機モータと、図示しない巻上機ブレーキとを有している。巻上機モータは、駆動綱車16bを回転させる。巻上機ブレーキは、駆動綱車16bの静止状態を保持する。また、巻上機ブレーキは、駆動綱車16bの回転を制動する。
【0015】
昇降路11の頂部には、L字形の返し車梁17が設置されている。返し車梁17は、第1かごガイドレール14a、第1釣合おもりガイドレール15a及び第2釣合おもりガイドレール15bにより支持されている。
【0016】
また、返し車梁17は、かご返し車梁18と、釣合おもり返し車梁19とを有している。釣合おもり返し車梁19は、かご返し車梁18の一端部に直角に連結されている。
【0017】
かご返し車梁18には、第1かご返し車20a及び第2かご返し車20bが取り付けられている。釣合おもり返し車梁19には、釣合おもり返し車21が取り付けられている。
【0018】
かご12の下部には、第1かご吊り車22a及び第2かご吊り車22bが設けられている。釣合おもり13の上部には、釣合おもり吊り車23が設けられている。
【0019】
実施の形態1のエレベータは、複数の滑車として、駆動綱車16b、第1かご返し車20a、第2かご返し車20b、釣合おもり返し車21、第1かご吊り車22a、第2かご吊り車22b、及び釣合おもり吊り車23を有している。
【0020】
かご12及び釣合おもり13は、懸架体24により昇降路11内に吊り下げられている。懸架体24としては、複数本のロープ、又は複数本のベルトが用いられている。
【0021】
第2かごガイドレール14bの上端部と、第2釣合おもりガイドレール15bの上端部との間には、綱止め梁25が水平に固定されている。綱止め梁25には、図示しないかご側綱止め部が設けられている。釣合おもり返し車梁19には、釣合おもり側綱止め部26が設けられている。
【0022】
懸架体24は、第1端部と第2端部とを有している。第1端部は、かご側綱止め部に接続されている。第2端部は、釣合おもり側綱止め部26に接続されている。
【0023】
また、懸架体24は、第1端部側から順に、第1かご吊り車22a、第2かご吊り車22b、第1かご返し車20a、第2かご返し車20b、駆動綱車16b、釣合おもり返し車21、及び釣合おもり吊り車23に巻き掛けられている。
【0024】
かご12及び釣合おもり13は、駆動綱車16bを回転させることにより、昇降路11内を昇降する。
【0025】
昇降路11内の下部には、エレベータ制御装置27が設置されている。エレベータ制御装置27は、エレベータ巻上機16を制御することにより、かご12の運行を制御する。
【0026】
図2は、
図1の釣合おもり返し車21の交換途中の状態を示す正面図である。実施の形態1における滑車は、釣合おもり返し車21である。また、実施の形態1における滑車取付部材は、釣合おもり返し車梁19である。
【0027】
釣合おもり返し車21の交換時には、釣合おもり返し車梁19に、懸架体仮支持装置31が設置される。懸架体仮支持装置31は、釣合おもり返し車21の交換作業後には、釣合おもり返し車梁19から撤去される。
【0028】
懸架体仮支持装置31は、一対の仮支持部材としての一対の仮支持ローラ32と、ジャッキ装置33とを有している。一対の仮支持ローラ32には、懸架体24が掛けられている。ジャッキ装置33は、作業者により操作されることによって、釣合おもり返し車21に対して一対の仮支持ローラ32をそれぞれ移動させ、懸架体24を釣合おもり返し車21から一対の仮支持ローラ32に掛けかえる。これにより、ジャッキ装置33は、釣合おもり返し車21にかかっていた懸架体24からの荷重を仮支持する。
【0029】
各仮支持ローラ32は、懸架体24に接する部品である。このため、懸架体24を損傷しないように、各仮支持ローラ32の外周面のうち、少なくとも懸架体24に接する部分は曲面となっている。
【0030】
また、懸架体24が各仮支持ローラ32に接するのは、釣合おもり返し車21の交換作業中だけであるため、各仮支持ローラ32の曲面の曲率半径は、エレベータに常時含まれている滑車に要求される曲率半径よりも小さくてもよい。このため、各仮支持ローラ32の曲面の曲率半径は、交換対象となっている滑車の曲率半径、ここでは釣合おもり返し車21の曲率半径よりも小さい。
【0031】
実施の形態1の各仮支持ローラ32の外形は、円筒形である。各仮支持ローラ32の軸心は、釣合おもり返し車21の回転軸に平行、かつ水平である。
【0032】
ジャッキ装置33は、一対のジャッキ本体34を有している。一対のジャッキ本体34は、互いに同じ構成を有している。また、一対のジャッキ本体34は、釣合おもり返し車21を挟んで左右対称に、釣合おもり返し車梁19上に設置されている。
【0033】
各ジャッキ本体34は、取付台41、移動治具42、複数の補助ストッパ43、ストッパ兼ガイド44、及びジャッキボルト45を有している。
【0034】
実施の形態1では、複数の補助ストッパ43として、一対のストッパボルト又は一対のストッパピンが用いられる。但し、
図2は、複数の補助ストッパ43が取付台41に装着されていない状態を示している。複数の補助ストッパ43が取付台41に装着されている状態は、
図20に示されている。
【0035】
取付台41は、図示しない複数の固定具により、釣合おもり返し車梁19上に固定されている。各固定具としては、例えばボルトが用いられている。
【0036】
図3は、
図2の取付台41を示す正面図である。
図4は、
図3の取付台41を示す側面図でる。取付台41は、一対の平板状の固定部41aと、一対の平板状の保持部41bとを有している。
【0037】
各固定部41aは、釣合おもり返し車梁19の上面に固定される。各保持部41bは、固定部41aの端部から固定部41aに対して直角に突出している。
【0038】
一対の保持部41bは、互いに対向している。また、一対の保持部41bは、互いに平行である。一対の保持部41bには、第1ガイド保持孔41c、第2ガイド保持孔41d、第1ストッパ保持孔41e、及び第2ストッパ保持孔41fが設けられている。
【0039】
第1ガイド保持孔41c及び第2ガイド保持孔41dには、ストッパ兼ガイド44が選択的に通される。ストッパ兼ガイド44は、取付台41に対して脱着可能である。第1ガイド保持孔41cの形状、及び第2ガイド保持孔41dの形状は、それぞれ長方形である。第1ガイド保持孔41cの大きさは、第2ガイド保持孔41dの大きさと同じである。
【0040】
また、第2ガイド保持孔41dは、第1ガイド保持孔41cよりも固定部41aから離れている。即ち、第2ガイド保持孔41dは、取付台41が釣合おもり返し車梁19に設置された状態において、第1ガイド保持孔41cよりも釣合おもり返し車梁19から離れた位置に位置している。
【0041】
第1ガイド保持孔41cの中心線と第2ガイド保持孔41dの中心線とは、同一の直線L1に重なっている。固定部41aが水平面に固定されたとき、直線L1は、水平面に対して傾斜している。
【0042】
第1ストッパ保持孔41e及び第2ストッパ保持孔41fには、それぞれ補助ストッパ43が通される。即ち、第1ストッパ保持孔41e及び第2ストッパ保持孔41fは、それぞれ取付台側ストッパ保持孔である。
【0043】
第1ストッパ保持孔41eの形状、及び第2ストッパ保持孔41fの形状は、それぞれ円形である。第2ストッパ保持孔41fの大きさは、第1ストッパ保持孔41eの大きさと同じである。
【0044】
第1ストッパ保持孔41eは、第1ガイド保持孔41cの横に位置している。第2ストッパ保持孔41fは、直線L1に対して第1ストッパ保持孔41eとは反対側において、第2ガイド保持孔41dの横に位置している。
【0045】
図2に戻って、各ジャッキ本体34において、移動治具42は、一対の保持部41bの間に配置されている。また、移動治具42は、ストッパ兼ガイド44を介して、取付台41に支持されている。
【0046】
図5は、
図2の移動治具42を示す正面図である。
図6は、
図5の移動治具42を示す側面図でる。
図7は、
図5の移動治具42を示す平面図である。
【0047】
移動治具42は、平板状の一対のスリット板42aと、連結部材42bとを有している。一対のスリット板42aは、互いに対向している。また、一対のスリット板42aは、互いに平行である。連結部材42bは、一対のスリット板42aの長手方向における一端部において一対のスリット板42aを連結している。
【0048】
一対のスリット板42aには、仮支持部材取付孔42c、スリット42d、第3ストッパ保持孔42e、及び第4ストッパ保持孔42fが設けられている。
【0049】
仮支持部材取付孔42cは、一対のスリット板42aの長手方向における他端部に設けられている。仮支持部材取付孔42cには、仮支持ローラ32が取り付けられる。
【0050】
スリット42dには、ストッパ兼ガイド44が通される。スリット42dの形状は、長方形であ。スリット42dの長辺は、一対のスリット板42aの長手方向に平行である。
【0051】
第3ストッパ保持孔42e及び第4ストッパ保持孔42fには、それぞれ補助ストッパ43が通される。即ち、第3ストッパ保持孔42e及び第4ストッパ保持孔42fは、それぞれ治具側ストッパ保持孔である。
【0052】
第3ストッパ保持孔42eの形状、及び第4ストッパ保持孔42fの形状は、それぞれ円形である。第3ストッパ保持孔42eの大きさ、及び第4ストッパ保持孔42fの大きさは、第1ストッパ保持孔41eの大きさと同じである。
【0053】
第3ストッパ保持孔42eは、第4ストッパ保持孔42fよりも仮支持部材取付孔42cの近くに位置している。第4ストッパ保持孔42fは、第3ストッパ保持孔42eよりも連結部材42bの近くに位置している。また、第4ストッパ保持孔42fは、スリット42dに対して、第3ストッパ保持孔42eとは反対側に位置している。
【0054】
連結部材42bには、ねじ孔42gが設けられている。ねじ孔42gには、ジャッキボルト45がねじ込まれる。
【0055】
図2において、ストッパ兼ガイド44は、第2ガイド保持孔41dと、スリット42dとに通されている。ジャッキボルト45の先端は、ストッパ兼ガイド44に当たっている。
【0056】
図8は、
図2のストッパ兼ガイド44を示す正面図である。
図9は、
図8のストッパ兼ガイド44を示す側面図である。
図10は、
図9のストッパ兼ガイド44を示す平面図である。
【0057】
ストッパ兼ガイド44は、ガイド主部44aと、一対のガイド突起44bとを有している。ガイド主部44aの形状は、直方体である。一対のガイド突起44bは、ガイド主部44aにおける同一の面から同一の方向へ突出している。一対のガイド突起44bの間には、溝44cが形成されている。
【0058】
ストッパ兼ガイド44が取付台41に装置されたとき、一対のガイド突起44bは、取付台41の外側に位置し、第1ガイド保持孔41c又は第2ガイド保持孔41dの縁部に掛けられる。即ち、第1ガイド保持孔41c又は第2ガイド保持孔41dの縁部は、溝44cに挿入される。
【0059】
これにより、ストッパ兼ガイド44が取付台41に装着された状態において、ストッパ兼ガイド44が挿入方向にずれることが防止されている。
【0060】
また、ストッパ兼ガイド44における第1ガイド保持孔41c又は第2ガイド保持孔41dに通されている部分の断面形状は、円形以外の形状、ここでは長方形である。このため、懸架体24からの荷重による移動治具42の回転は、ストッパ兼ガイド44により阻止されている。
【0061】
次に、釣合おもり返し車21の交換方法について説明する。釣合おもり返し車21を交換する場合、釣合おもり返し車梁19上に一対のジャッキ本体34が設置される。一対のジャッキ本体34の設置手順は互いに同じであるため、一方のジャッキ本体34の設置手順について説明する。
【0062】
釣合おもり返し車梁19にジャッキ本体34を設置する場合、まず
図11及び
図12に示すように、釣合おもり返し車梁19に取付台41が固定される。なお、
図12では、釣合おもり返し車21の回転軸と、回転軸を支持する部品とが省略されている。
【0063】
続いて、
図13及び
図14に示すように、一対の保持部41b間に移動治具42が配置され、取付台41及び移動治具42にストッパ兼ガイド44が装着される。
【0064】
このとき、ストッパ兼ガイド44が第1ガイド保持孔41cとスリット42dとに通されていることによって、移動治具42がストッパ兼ガイド44を介して取付台41に支持されている。
【0065】
また、正面から見て、移動治具42は、釣合おもり返し車梁19に対して斜めに交差している。また、正面から見て、移動治具42は、懸架体24に対しても斜めに交差している。
【0066】
この後、
図15及び
図16に示すように、移動治具42の下端に仮支持ローラ32が取り付けられる。仮支持ローラ32は、例えばボルトによって移動治具42に取り付けられる。
【0067】
この状態において、一対の仮支持ローラ32は、釣合おもり返し車21の真下に配置されている。即ち、一対の仮支持ローラ32は、釣合おもり返し車21の外周面のうち、懸架体24が巻き掛けられていない部分に対向している。
【0068】
この後、
図17及び
図18に示すように、ねじ孔42gにジャッキボルト45がねじ込まれ、ジャッキボルト45の先端がストッパ兼ガイド44に押し付けられる。これにより、移動治具42及び仮支持ローラ32が引き上げられ、仮支持ローラ32が懸架体24に接する。この時点では、懸架体24からの荷重は仮支持ローラ32に作用していない。
【0069】
続いて、ジャッキボルト45がさらにねじ込まれると、
図19に示すように、仮支持ローラ32が移動治具42とともにジャッキアップされ、懸架体24が釣合おもり返し車21から引き離されていく。即ち、釣合おもり返し車21に対する懸架体24の接触長さが縮小されていく。
【0070】
このように、ジャッキボルト45の先端がストッパ兼ガイド44に当たった状態で、ジャッキボルト45がねじ込まれることにより、ストッパ兼ガイド44がスリット42d内を相対的に移動する。また、移動治具42と仮支持ローラ32とが、取付台41に対して斜め上方へ移動する。
【0071】
移動治具42は、第3ストッパ保持孔42eが第1ストッパ保持孔41eと重なり、第4ストッパ保持孔42fが第2ストッパ保持孔41fと重なるまで、ジャッキアップされる。
【0072】
ジャッキアップの作業は、一対のジャッキ本体34に対して少しずつ交互に実施されてもよい。また、一方のジャッキ本体34に対するジャッキアップの作業が完了した後に、他方のジャッキ本体34に対するジャッキアップの作業が実施されてもよい。また、ジャッキアップの作業の際、電動工具、例えばインパクトドライバーを用いると、作業時間を短縮することができる。
【0073】
この後、
図20に示すように、第1ストッパ保持孔41e及び第3ストッパ保持孔42eに補助ストッパ43が通される。また、第2ストッパ保持孔41f及び第4ストッパ保持孔42fにも、補助ストッパ43が通される。
【0074】
また、移動治具42からジャッキボルト45が取り外されるとともに、取付台41及び移動治具42からストッパ兼ガイド44が取り外される。そして、第2ガイド保持孔41d及びスリット42dにストッパ兼ガイド44が通される。
【0075】
取付台41及び移動治具42に2つの補助ストッパ43が装着されると、取付台41及び移動治具42からストッパ兼ガイド44が取り外されても、2つの補助ストッパ43を介して、移動治具42が取付台41に支持される。このため、第1ガイド保持孔41cから第2ガイド保持孔41dへのストッパ兼ガイド44の装着位置の変更が可能となる。
【0076】
取付台41及び移動治具42からストッパ兼ガイド44が取り外された状態において、懸架体24からの荷重は、仮支持ローラ32、移動治具42、及び2つの補助ストッパ43を介して取付台41に伝達される。
【0077】
ストッパ兼ガイド44の装着位置が変更された後、2つの補助ストッパ43が取付台41及び移動治具42から取り外される。これにより、移動治具42は、再びストッパ兼ガイド44を介して取付台41に支持される。
【0078】
続いて、ねじ孔42gにジャッキボルト45がねじ込まれ、2回目のジャッキアップが行われる。これにより、懸架体24は、釣合おもり返し車梁19からさらに引き離され、
図2の状態となる。
【0079】
図2の状態では、一対の仮支持ローラ32の上端の高さが、釣合おもり返し車21の上端の高さまで達している。このため、懸架体24からの荷重は、釣合おもり返し車21に殆ど作用しないか、又は全く作用しない。
【0080】
この状態において、釣合おもり返し車21が釣合おもり返し車梁19から取り外され、新たな滑車が釣合おもり返し車梁19に取り付けられる。そして、上記の逆の手順により、懸架体24が新たな滑車に巻き掛けられる。
【0081】
新たな滑車は、例えば新たな釣合おもり返し車である。また、エレベータの改修工事において、釣合おもり返し車21の位置に新たな巻上機が設置される場合、新たな滑車は、新たな巻上機の新たな駆動綱車である。
【0082】
このように、実施の形態1の滑車交換方法は、設置工程、仮支持工程、及び交換工程を含んでいる。設置工程では、釣合おもり返し車梁19に懸架体仮支持装置31が設置される。
【0083】
仮支持工程では、一対の仮支持ローラ32が懸架体24に接している状態で釣合おもり返し車21に対して一対の仮支持ローラ32を移動させることにより、懸架体24が一対の仮支持ローラ32に掛けられる。そして、釣合おもり返し車21にかかっていた懸架体24からの荷重が、懸架体仮支持装置31によって仮支持される。
【0084】
交換工程では、釣合おもり返し車梁19から釣合おもり返し車21が取り外され、新たな滑車が釣合おもり返し車梁19に取り付けられる。
【0085】
このようなエレベータの滑車交換方法及び懸架体仮支持装置31では、釣合おもり返し車21にかかっていた懸架体24からの荷重が、懸架体仮支持装置31によって仮支持される。このため、釣合おもり13を緩衝器によって支持させる作業と、かご12をチェーンブロックによって吊る作業とが不要になり、釣合おもり返し車21の交換作業の手間を軽減することができる。
【0086】
また、各仮支持ローラ32の外周面のうち、少なくとも懸架体24に接する部分は曲面となっている。このため、懸架体24の損傷を抑制することができる。
【0087】
また、各仮支持ローラ32における曲面の曲率半径は、釣合おもり返し車21の曲率半径よりも小さい。このため、懸架体仮支持装置31を小型軽量化することができる。
【0088】
また、各ジャッキ本体34において、ストッパ兼ガイド44が第1ガイド保持孔41cとスリット42dとに通されることによって、移動治具42がストッパ兼ガイド44を介して取付台41に支持される。そして、ジャッキボルト45の先端がストッパ兼ガイド44に当たった状態で、ジャッキボルト45がねじ込まれる。これにより、ストッパ兼ガイド44がスリット42d内を相対的に移動するとともに、移動治具42と仮支持ローラ32とが取付台41に対して移動する。
【0089】
このため、簡単な構成により、懸架体24を釣合おもり返し車21から一対の仮支持ローラ32に容易に掛けかえることができる。
【0090】
また、各ジャッキ本体34において、懸架体24からの荷重による移動治具42の回転は、ストッパ兼ガイド44により阻止されている。このため、懸架体24を釣合おもり返し車21から一対の仮支持ローラ32に安定して掛けかえることができる。
【0091】
また、各ストッパ兼ガイド44には、第1ガイド保持孔41cの縁部が挿入される溝44cが形成されている。このため、ストッパ兼ガイド44が挿入方向にずれることが防止され、簡単な構成により、移動治具42及び仮支持ローラ32を安定して移動させることができる。
【0092】
また、各取付台41には、第2ガイド保持孔41dが設けられている。このため、懸架体24を釣合おもり返し車21から引き離す作業の途中で、ストッパ兼ガイド44を第2ガイド保持孔41dに変えることができる。これにより、懸架体24を釣合おもり返し車21から段階的に引き離すことができ、仮支持ローラ32を移動させる距離に対して、移動治具42の長さを縮小することができる。また、作業の必要スペースを小さくすることができる。
【0093】
また、取付台41及び移動治具42に2つの補助ストッパ43が装着されると、取付台41及び移動治具42からストッパ兼ガイド44が取り外された状態でも、2つの補助ストッパ43を介して、移動治具42が取付台41に支持される。このため、ストッパ兼ガイド44の装着位置を、第1ガイド保持孔41cから第2ガイド保持孔41dに容易に変更することができる。
【0094】
なお、各ジャッキ本体34において、補助ストッパ43の数は、1つ又は3つ以上であってもよい。例えば、補助ストッパ43の断面形状が、楕円形、多角形等の形状であれば、1つの補助ストッパ43により、移動治具42の回転を阻止しつつ、取付台41に移動治具42を支持させることができる。
【0095】
また、各仮支持部材は、仮支持ローラ32に限定されない。即ち、各仮支持部材の形状は、円筒形に限定されず、懸架体24と接する部分のみが曲面となっている形状であってもよい。
【0096】
また、滑車は、例えば、駆動綱車16b、第1かご返し車20a、第2かご返し車20b、第1かご吊り車22a、第2かご吊り車22b、又は釣合おもり吊り車23であってもよい。
【0097】
また、実施の形態1では、釣合おもり返し車21に対して一対の仮支持ローラ32が引き上げられる。しかし、滑車取付部材に対する滑車の位置、滑車取付部材に対する懸架体仮支持装置の位置等によっては、滑車に対して一対の仮支持部材が押し上げられ、引き下げられ、又は押し下げられてもよい。
【0098】
また、実施の形態1では、一対の仮支持ローラ32に対して一対のジャッキ本体34が用いられているが、ジャッキ装置の構成は、1つのジャッキボルトの操作によって一対の仮支持ローラ32が同時に移動する構成であってもよい。
【0099】
また、エレベータのレイアウトは、
図1のレイアウトに限定されない。例えば、エレベータ巻上機16は、昇降路11の頂部に設置されていてもよい。また、釣合おもり13は、乗場から見て、かご12の側方に配置されていてもよい。
【0100】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0101】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0102】
(付記1)
一対の仮支持部材と、前記一対の仮支持部材をそれぞれ移動させるジャッキ装置とを有している懸架体仮支持装置を、既設の滑車が取り付けられている滑車取付部材に設置する工程、
前記一対の仮支持部材が前記懸架体に接している状態で前記既設の滑車に対して前記一対の仮支持部材を移動させ、前記懸架体を前記一対の仮支持部材に掛けることにより、前記既設の滑車にかかっていた前記懸架体からの荷重を前記懸架体仮支持装置によって仮支持する工程、及び
前記既設の滑車を前記滑車取付部材から取り外し、新たな滑車を前記滑車取付部材に取り付ける工程
を含むエレベータの滑車交換方法。
(付記2)
滑車が取り付けられている滑車取付部材に設置されるジャッキ装置、及び
前記ジャッキ装置に取り付けられる一対の仮支持部材
を備え、
前記ジャッキ装置は、前記滑車取付部材に設置された状態で操作されることにより、前記滑車に対して前記一対の仮支持部材を移動させ、前記滑車に掛けられている懸架体を前記一対の仮支持部材に掛けかえて、前記滑車にかかっていた前記懸架体からの荷重を仮支持するエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記3)
各前記仮支持部材の外周面のうち、少なくとも前記懸架体に接する部分は曲面となっている付記2記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記4)
前記曲面の曲率半径は、前記滑車の曲率半径よりも小さい付記3記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記5)
前記ジャッキ装置は、一対のジャッキ本体を有しており、
各前記ジャッキ本体は、
第1ガイド保持孔が設けられており、前記滑車取付部材に固定される取付台と、
スリットとねじ孔とが設けられており、前記仮支持部材が取り付けられる移動治具と、
前記第1ガイド保持孔と前記スリットとに通されるストッパ兼ガイドと、
前記ねじ孔にねじ込まれるジャッキボルトと
を有しており、
前記ストッパ兼ガイドが前記第1ガイド保持孔と前記スリットとに通されることによって、前記移動治具が前記ストッパ兼ガイドを介して前記取付台に支持され、
前記ジャッキボルトの先端が前記ストッパ兼ガイドに当たった状態で、前記ジャッキボルトがねじ込まれることにより、前記ストッパ兼ガイドが前記スリット内を相対的に移動するとともに、前記移動治具と前記仮支持部材とが前記取付台に対して移動する付記2から付記4までのいずれか1項に記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記6)
前記懸架体からの荷重による前記移動治具の回転は、前記ストッパ兼ガイドにより阻止されている付記5記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記7)
前記ストッパ兼ガイドには、前記第1ガイド保持孔の縁部が挿入される溝が形成されている付記5又は付記6に記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記8)
前記取付台には、前記ストッパ兼ガイドが通される第2ガイド保持孔が設けられており、
前記第2ガイド保持孔は、前記取付台が前記滑車取付部材に設置された状態において、前記第1ガイド保持孔よりも前記滑車取付部材から離れた位置に位置している付記5から付記7までのいずれか1項に記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
(付記9)
各前記ジャッキ本体は、補助ストッパをさらに有しており、
前記取付台には、取付台側ストッパ保持孔が設けられており、
前記移動治具には、治具側ストッパ保持孔が設けられており、
前記取付台側ストッパと前記治具側ストッパ保持孔とに前記補助ストッパが通されることにより、前記取付台及び前記移動治具から前記ストッパ兼ガイドが取り外された状態でも、前記補助ストッパを介して、前記移動治具が前記取付台に支持される付記8記載のエレベータの懸架体仮支持装置。
【符号の説明】
【0103】
19 釣合おもり返し車梁(滑車取付部材)、21 釣合おもり返し車(既設の滑車)、24 懸架体、31 懸架体仮支持装置、32 仮支持ローラ(仮支持部材)、33 ジャッキ装置、34 ジャッキ本体、41 取付台、41c 第1ガイド保持孔、41d 第2ガイド保持孔、41e 第1ストッパ保持孔(取付台側ストッパ保持孔)、41f 第2ストッパ保持孔(取付台側ストッパ保持孔)、42 移動治具、42d スリット、42e 第3ストッパ保持孔(治具側ストッパ保持孔)、42f 第4ストッパ保持孔(治具側ストッパ保持孔)、42g ねじ孔、43 補助ストッパ、44 ストッパ兼ガイド、44c 溝、45ジャッキボルト。